本発明は、基体と、この基体の片面または両面に金属層と誘電体層が交互に積層されている光学多層体とを備える吸収型多層膜NDフィルター(Neutral Density Filter)に係り、特に、平坦な透過率分光特性が再現性良く得られ、しかも量産性に優れた吸収型多層膜NDフィルターの改良に関するものである。
NDフィルターとは、光線の可視スペクトル域における各波長をほぼ均等に透過するような非選択性の透過率を有する光学フィルターで、透過光量を減衰させる目的でデジタルカメラ等のレンズに装着して用いられる。例えば、晴天下等の光量が多い条件下において、レンズを絞り込んでも露出過多になってしまうときに、光量を制限してより低速でシャッタを切れるようにする場合や、絞りを開放したいがシャッタ速度を最高にしても露出過多になってしまうときに、光量を制限して絞りを開けられるようにする場合に使用されるのが一般的である。
ところで、安価なNDフィルターには、ガラスに光吸収材料を添加したガラスフィルター等がある。しかし、これ等ガラスフィルターは可視全域にわたって分光特性が均一となっていない等の問題があった。
このような問題を解決するものとして吸収型多層膜のNDフィルターが知られている。例えば、特許文献1には、誘電体膜と金属膜とを含みかつ単独で用いたときでも反射防止効果を有している二つの多層膜を、他の誘電体膜を中心にしかつ対向するようにして上下から合わせた光吸収膜が記載されている。
また、誘電体膜と金属膜の材料の種類に言及した従来技術として、例えば、特許文献2には、TiとCrの金属膜とMgF2の誘電膜とを交互に積層した吸収性薄膜が記載され、また、特許文献3には、Nbの金属膜とSiO2の誘電体膜とを交互に積層した薄膜型NDフィルターが開示されている。
更に、特許文献4には、層数を7層程度とし、TiO、Ti2O3等のチタン酸化物を始めとする光吸収性のある金属酸化物層を用いた多層膜構造の薄膜型NDフィルターが開示されている。
特許文献5には、金属材料を原料として蒸着により成膜されたものであり、酸素を含む混合ガスを成膜時に導入し、真空度を1×10
−3Paないし1×10
−2Paの間で一定に維持した状態で生成した金属材料の酸化物を含有することを特徴とする薄膜型NDフィルタであって、光吸収膜と誘電体膜を透明基板に積層した後、酸素を10%以上含む酸素雰囲気で加熱し、光学特性の変化を飽和させた薄膜型NDフィルタが開示されている。
特開昭57−195207号公報
特公昭55−47361号公報
特開2002−350610号公報
特開平7−63915号公報
特開2003−43211号公報
特開2000−96167号公報
しかし、特許文献1に記載の光吸収膜においては、金属膜を二層しか使用していないため、金属膜として適用する材料の種類如何により、分光透過率の波長依存性を小さくしてかつ反射率を抑制することは非常に難しい問題であり、さらには、該金属膜は数nmと薄く、酸化され易い膜であるため、種々の製造工程における熱酸化によって分光透過率が設計より高くなってしまう問題が存在した。
また、特許文献2や特許文献3に記載された吸収性薄膜や薄膜型NDフィルターの場合、Ti、CrまたはNbで構成される金属膜の可視光域における分光透過率の波長依存性が大きいため波長に対して平坦な透過率減衰を得ることが困難であるという問題が存在し、また、誘電体層として用いたMgF2材料は大気中での腐食や劣化が激しいという問題も存在していた。
更に、特許文献4記載の薄膜型NDフィルターにおいては、チタン酸化物を始めとする光吸収性のある金属酸化物層を真空蒸着法により成膜している。
しかしながら、中間膜としての金属酸化物層(TiO、Ti2O3)を真空蒸着法あるいはスパッタリング法を用いて成膜するには、真空蒸着法、スパッタリング法のいずれの方法においても酸素の流量を微妙に制御する必要があり、膜材質の安定化が難しいといった問題があった。
また、特許文献5記載の薄膜型NDフィルターにおいては、成膜後通常の使用環境下に長時間放置すると、金属膜の酸化が原因となってNDフィルターの透過率増大及び波長に対する透過率平坦性の低下するという問題に対して、上記した条件で加熱を行うことによって抑制できるとしている。しかし、酸化によって透過率平坦性が低下するとされる金属膜の成膜後の初期状態、すなわち結晶膜なのか、非結晶膜であるのかによる酸化挙動の違いについては考慮されておらず、特に結晶膜であった場合の結晶粒径の大きさと酸化挙動の関係について注目して調べられてはいなかった。
本発明は上記の問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、吸収型多層膜NDフィルターの金属膜の酸化が原因となって起こるNDフィルターの透過率増大及び波長に対する透過率平坦性の低下を抑制し、平坦な透過率分光特性が再現性良く得られ、しかも量産性に優れた吸収型多層膜NDフィルターを提供することにある。
このような課題を解決するため、本発明者等は多くの吸収型多層膜NDフィルターの構成材料を検討した結果、NDフィルターの透過率増大及び波長に対する透過率平坦性の低下はNDフィルターを構成する金属膜の酸化が主な原因となっており、金属膜の種類と結晶性を制御し、光学多層体の構造を選択することにより、具体的には、基体の片面または両面にその平均結晶粒径が1nm以上の結晶膜である金属層、好ましくは該結晶膜がニッケルまたはニッケル合金からなる金属層と、誘電体層とを交互に積層させた光学多層体とすることにより、平坦な透過率分光特性が再現性良く得られ、通常の使用環境における酸化による透過率の増大及び波長に対する透過率平坦性の低下が起こりにくく、しかも量産性に優れた吸収型多層膜NDフィルターが得られることを見出し本発明に至った。本発明はこのような技術的発見に基づき完成されている。
すなわち、本発明の第1の発明は、基体と光学多層体とからなる吸収型多層膜NDフィルターであって、ニッケルまたはニッケル合金からなり、Arガスをスッパタリングとして用い、ガス圧0.1〜0.8Paで直流スッパタリングン法によって形成される、平均結晶粒径が1nm以上の結晶膜である金属層と、誘電体層が交互に積層されている光学多層体を、前記基体の片面または両面に備えており、前記金属層の各膜厚が2〜30nmの範囲にそれぞれ設定されていることを特徴とする吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第2の発明は、Si、SiOx(但しx≦2)、SiNx(但しx≦1)、Ti、TiOx(但しx≦2)またはTiNx(但しx≦1)から選ばれる1種により構成された密着層が、上記基体と光学多層体との間に設けられていることを特徴とする第1の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第3の発明は、前記誘電体層が、酸化物からなることを特徴とする第1の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第4の発明は、前記酸化物が、酸化シリコンまたは酸化アルミニウムであることを特徴とする第3の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第5の発明は、前記ニッケル合金が、チタン、アルミニウム、バナジウム、タングステン、タンタル、シリコンから選択された1種類以上の元素を添加したNi系合金材料で構成されていることを特徴とする第1の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第6の発明は、チタン元素の添加割合が5〜15重量%、アルミニウム元素の添加割合が3〜8重量%、バナジウム元素の添加割合が3〜9重量%、タングステン元素の添加割合が18〜32重量%、タンタル元素の添加割合が20〜49重量%、シリコン元素の添加割合が2〜6重量%の範囲にそれぞれ設定されていることを特徴とする第5の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第7の発明は、上記基体が、樹脂板若しくは樹脂フィルムにより構成されていることを特徴とする第1〜6の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第8の発明は、記樹脂板若しくは樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂板若しくは樹脂フィルムの単体で構成されることを特徴とする第7の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第9の発明は、樹脂板若しくは樹脂フィルム単体の少なくとも片面がアクリル系有機膜で覆われた複合体で構成されていることを特徴とする第8の発明に記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第10の発明は、基体側から順に積層された金属層、誘電体層、金属層、誘電体層の4層で上記光学多層体が構成されていることを特徴とする第1〜9の発明のいずれかに記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明の第11の発明は、400〜800nmの可視域全域において反射率が5%以下、かつ、透過率の変動幅が10%以内であることを特徴とする第1〜10の発明のいずれかに記載の吸収型多層膜NDフィルターである。
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターは、基体と、平均結晶粒径が1nm以上の結晶膜である金属層と、誘電体層が前記基体の片面または両面に交互に積層された光学多層体とを備える構造であり、光減衰層としての上記金属層に、可視光域における分光透過率の波長依存性が小さく、かつ酸化による分光透過率の変化が小さいニッケルまたはニッケル合金を用いているため、波長に対して平坦な透過率減衰が得られるNDフィルターを実現することができる。特に、金属層が平均結晶粒径1nm以上の結晶膜であるため、通常の使用環境において、金属膜の酸化が原因となって起こるNDフィルターの透過率増大や波長に対する透過率平坦性の低下の抑制が可能である。
さらに、本発明の吸収型多層膜NDフィルターによれば、光学多層体の層数が4層と少なくて済むため、製造過程においてその膜厚の制御が容易となり、かつ、成膜数が少ないため生産性の向上を図ることができると共に、光学特性の向上も図ることが可能となる。
さらには、Si、SiOx(但しx≦2)、SiNx(但しx≦1)、Ti、TiOx(但しx≦2)またはTiNx(但しx≦1)から選ばれる1種により構成された密着層が基体と光学多層体との間に設けられるので、両者の界面における密着性が向上して光学多層体の脱落や剥離等を防止することができ、また、それゆえに乾式ロールコーティング法を用いた成膜、特にスパッタリングによる光学多層体の形成が可能となり量産性を向上させることができる。
以下、本発明の吸収型多層膜NDフィルターについて図面を用いて詳細に説明する。
まず、本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターは、基体と、平均結晶粒径が1nm以上の結晶膜である金属層と、誘電体層が前記基体の片面または両面に交互に積層された光学多層体とを備えていることを特徴としている。
図1〜図3に本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの具体例を示す。すなわち、この吸収型多層膜NDフィルターは、ハードコート層1aがコーティングされた基体1の上に密着層2を介して光学多層体7が設けられたものである。
図1と図2に示された吸収型多層膜NDフィルターはハードコート層1aが基体の片面に設けられた構造であり、図1はハードコート層1aを設けた面側に密着層2と光学多層体7を設けた構造である。また、図2はハードコート層1aを設けた面の反対側に密着層2と光学多層体7を設けた構造である。また、図3に示された吸収型多層膜NDフィルターは、基体の両面にハードコート層1aが設けられており、その一方の面に密着層2と光学多層体7が設けられた構造である。
上記基体1としてその材質は特に限定されないが、透明であるものが好ましく、量産性を考慮する場合、後述する乾式のロールコーティングが可能となる、可撓性を有する基体であることが好ましい。可撓性のある基体は、従来のガラス基板等に比べて廉価、軽量、変形性に富むといった点においても優れている。特に、基体として、樹脂板若しくは樹脂フィルムが好ましい。
上記基体を構成する具体例として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルスルフォン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリカーボネート(PC)、ポリオレフィン(PO)およびノルボルネンの樹脂材料から選択された樹脂板若しくは樹脂フィルムの単体が挙げられる。
また、上記樹脂材料から選択された樹脂板若しくは樹脂フィルム単体の片面または両面を覆うアクリル系有機膜との複合体が挙げられる。特に、ノルボルネン樹脂材料については、代表的なものとして、日本ゼオン社のゼオノア(登録商標)やJSR社のアートン(登録商標)などが挙げられる。
また、上記ハードコート層1aは基体1にコーティングされて基体の強度を向上させるもので、例えばアクリル樹脂を用い、基体上に例えば5μmの厚さでコーティングして形成される。但し、ハードコート層1aを必ずしも設ける必要はない。
また、図1〜図3に示された吸収型多層膜NDフィルターにおいては、上記基体1と光学多層体7との間に、両者の密着性を向上させかつ光学多層体7に生じる応力を緩和させる密着層2が設けられている。
密着層2は、Si、SiOx(但しx≦2)、SiNx(但しx≦1)、Ti、TiOx(但しx≦2)またはTiNx(但しx≦1)から選ばれる1種により構成されることが好ましい。密着層の厚みは1nm以上10nm以下の範囲内とすることが好ましい。1nm未満では、十分な密着性が得られず、両者の界面に膜はがれやクラックを生じる恐れがある。他方、厚みが10nmを越えると透過率が減少し、可視光領域で平坦な光学的特性が得られなくなる恐れがある。そして、上記密着性や光学的特性等を考慮した場合、密着層2の厚みは2nm程度であることがより好ましい。尚、密着層2は、例えば、DCスパッタリング法により形成することができる。
次に、上記光学多層体7は基体1の上に設けられ、結晶膜である金属層と、誘電体層とが交互に積層されて形成されている。図4は上記光学多層体7の構成を示しており、この光学多層体7は平均結晶粒径1nm以上の結晶膜である金属層3、5と誘電体層4、6とが交互に積層されたものである。これ等層数は任意であるが、図4においては、金属層3、5、誘電体層4、6が共に2層の合計4層からなる光学多層体7を示している。結晶膜である金属層は、平均結晶粒径1nm以上の結晶膜であることが好ましい。平均結晶粒径1nm未満の結晶膜の場合、結晶粒に対する結晶粒界の面積比率が非常に大きくなり、結晶粒界を介して、著しく酸化され易くなるためである。この場合、成膜後通常の使用環境下に長時間放置すると、上記金属層の酸化が原因となってNDフィルターの透過率増大や波長に対する透過率平坦性の低下などの現象が発生してしまう。
上記の平均結晶粒径1nm以上の結晶膜である金属層を得るためには、スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用い、ガス圧0.1〜0.8Paで直流スパッタリング法によって形成されることが望ましい。アルゴンガス圧0.1Pa未満では、結晶膜の平均結晶粒径は1nm未満になってしまうため著しく酸化されて、NDフィルターの透過率増大や透過率平坦性の低下に至ってしまう。一方、アルゴンガス圧0.8Paを超えると、結晶膜の平均結晶粒径は1nm以上ではあるが、膜の緻密さが低下するため、著しく酸化され易くなり、アルゴンガス圧0.1Pa未満の場合と同様、NDフィルターの透過率増大や波長に対する透過率平坦性の低下に至ってしまう。
なお、蒸着法では、上記の直流スパッタリング法で得られる、緻密な結晶膜である金属膜を得ることが難しいため、平均結晶粒径1nm以上になるよう制御しても同様の効果が得られない場合がある。
さらに、上記金属層は、ニッケルまたはニッケル合金からなる結晶膜であることが好ましい。ニッケルまたはニッケル合金は、可視光域における分光透過率の波長依存性が小さく、かつ酸化による分光透過率の変化が小さいため、波長に対して平坦な透過率減衰が得られるNDフィルターを実現することができる。
図5は、膜厚6.5nmのニッケル薄膜について波長400〜1000nmにおける透過率を実験で調べた結果を示している。参考比較のため、図5には同じ膜厚のクロム(Cr)薄膜、タンタル(Ta)薄膜およびニオブ(Nb)薄膜の透過率も載せている。
図5のグラフ図から明らかなように、ニッケル薄膜における透過率の波長依存性は、クロム薄膜、タンタル薄膜およびニオブ薄膜と比べて小さいことが確認される。すなわち、波長400〜800nmにおけるクロム薄膜、タンタル薄膜およびニオブ薄膜の透過率の変動幅は、それぞれ、14.7%、13.5%および11.8%であるが、ニッケル薄膜における透過率の変動幅は1.5%と低い。
また、本発明においては、ニッケルからなる金属層の他に、ニッケル合金からなる金属層を用いても、同等の特性を得ることができる。ニッケルの強磁性はスパッタリング法による量産工程においては、問題となる場合があるため、強磁性を打ち消したニッケル合金は好適である。すなわち、ニッケル合金からなる上記金属層は、チタン、アルミニウム、バナジウム、タングステン、タンタル、シリコンから選択された1種類以上の元素が添加されたニッケル系合金材料で構成されることが好ましい。上記の添加元素については、チタン元素の添加割合が5〜15重量%、アルミニウム元素の添加割合が3〜8重量%、バナジウム元素の添加割合が3〜9重量%、タングステン元素の添加割合が18〜32重量%、タンタル元素の添加割合が20〜49重量%、シリコン元素の添加割合が2〜6重量%の範囲であることが好ましい。このような組成範囲に設定した理由は、後述するターゲット組成の場合と同じである。以上から、結晶粒径1nm以上のニッケルまたはニッケル合金の結晶膜である金属層を光吸収層として用いた場合には、可視光域における波長に対して平坦な透過率減衰が得られる点、ならびに酸化による特性劣化が起こりにくいという点で、極めて優れた吸収型NDフィルターを実現することが可能となる。
ところで、吸収型NDフィルターにとっては、光吸収特性だけでなく、表面反射特性も重要である。吸収型NDフィルター表面の反射は迷光となり、デジタルカメラ等の画質に悪影響を及ぼす。このため、吸収型NDフィルター表面にも反射を防ぐ効果を持たせるために、結晶膜である金属層と誘電体層とを交互に積層させた多層膜で構成することが好ましい。
上記の図1〜図3に示された吸収型多層膜NDフィルターの光学多層膜においては、図4に示されるように、結晶膜である金属層3、5の膜厚が良好に制御され、しかも、結晶粒径を1nm以上に制御されることから酸化による分光透過率の変化が小さく、さらにはニッケルまたはニッケル合金からなる金属層であれば薄膜の可視域における透過率の波長依存性が小さく、酸化による分光透過率の変化も小さいことから、金属層と誘電体層とで構成される光学多層体7は、層数を多く重ねることなく、可視光域における分光透過率の波長依存性が小さく、波長に対して平坦な透過率減衰を安定して劣化することなく得ることができる。
一方、図1〜図3に示された吸収型多層膜NDフィルターの光学多層膜を構成する誘電体層4、6は、金属層3、5に対してできるだけ低い屈折率を有する材料で構成されることが好ましい。このような誘電体材料として、特に工業的に取り扱いやすい酸化物が好ましく、中でも酸化シリコン若しくは酸化アルミニウムがより好ましい。ここで、酸化物、特に酸化シリコンまたは酸化アルミニウムは、光学設計など種々の要請から、必要に応じて酸素欠損を形成させる場合がある。例えば、酸化シリコンであればSiOx(但しx≦2)、また酸化アルミニウムであればAl2Oy(但しy≦3)などとして表される。また、光学多層体の反射防止効果を持たせるように誘電体層4、6の膜厚を制御することが好ましい。
そして、結晶膜である金属層3、5と誘電体層4、6の各厚みは、上記光学多層体7が所定の透過率と反射率とを可視波長域(例えば400nm〜800nm程度)で一定に保つように予め設定されており、上記金属層3、5の各厚みは2〜30nmであることが特に好ましい。特に、上記光学多層体7が、ニッケルまたはニッケル合金の結晶膜である金属層3、5を含んで形成された場合には、例えば4層と少ない層数であっても充分に平坦な透過率分光特性を有している。
次に、上記光学多層体7は、例えばスパッタリング法で作製できる。スパッタリング法は、蒸着法など、他の成膜プロセスと比較して、膜と基体または異種膜間の密着性、膜表面の平滑性、膜の緻密性などの面に優れ、本発明のNDフィルターの作製において非常に有利である。
スパッタリング法は、蒸気圧の低い材料を用いて基体上に膜を形成する場合や、精密な膜厚制御が必要とされる際に有効な薄膜形成手法であり、操作が非常に簡便であることから広範に利用されている。一般には、約10Pa以下のアルゴンガス圧のもとで、基体を陽極とし、膜原料となるターゲットを陰極とし、これらの間にグロー放電を起こさせてアルゴンプラズマを発生させ、かつ、プラズマ中のアルゴン陽イオンを陰極のターゲットに衝突させてターゲット成分の粒子をはじき飛ばし、この粒子を基体上に堆積させて成膜する手法である。
上記スパッタリング法はアルゴンプラズマの発生方法で分類され、高周波(RF)プラズマを用いるものは高周波スパッタリング法、直流プラズマを用いるものは直流スパッタリング法という。また、ターゲットの裏側にマグネットを配置して、アルゴンプラズマをターゲット直上に集中させ、低ガス圧でもアルゴンイオンの衝突効率を上げて成膜する方法をマグネトロンスパッタリング法という。
そして、上記光学多層体7中のニッケルまたはニッケル合金からなる金属層は、例えばアルゴン雰囲気中においてニッケル系金属のターゲットを用いた直流マグネトロンスパッタリング法により形成される。また、誘電体層は、例えばアルゴンおよび酸素雰囲気中でSiターゲットを用いた高周波マグネトロンスパッタリング法、もしくは2つのSiターゲットをデュアルカソードに積載して交流(AC)電源を用いたデュアルマグネトロンスパッタリング法により形成される。上記誘電体層を高周波スパッタリング法で行うことで、反応性スパッタリングにおいて生じる異常放電が防止でき、安定な成膜が可能となる。特に、デュアルマグネトロンスパッタリング法を用いた場合には、高周波スパッタリング法と比較して、熱発生を抑制することができるため、より良質な膜の形成が可能である。
ところで、純ニッケル材料は強磁性体であるため、上記金属層を直流マグネトロンスパッタリング法で成膜する場合、ターゲットと基体間のプラズマに作用させるためのターゲット裏側に配置したマグネットからの磁力が、ニッケルターゲット材料で遮蔽されて表面に漏洩する磁界が弱くなり、プラズマを集中させて効率よく成膜することが難しくなる。これを回避するには、ターゲット裏側に配置するマグネットの磁力を強くしたカソード(強磁場カソード)を用い、ニッケルターゲットを通過する磁界を強めてスパッタリング成膜を行うことが好ましい。
但し、このような方法を採った場合でも、生産時には以下に述べるような別の問題が生ずることがある。すなわち、ニッケルターゲットの連続使用に伴ってターゲットの厚みが減少していくと、上述したようにターゲットの厚みが薄くなった部分ではプラズマ空間の漏洩磁界が強くなっていく。そして、プラズマ空間の漏洩磁界が強くなると、放電特性(放電電圧、放電電流等)が変化して成膜速度が変化する。つまり、生産時に、同一のニッケルターゲットを連続して長時間使用すると、ニッケルターゲットの消耗に伴いニッケル膜の成膜速度が変化する問題が生じ、特性の揃った吸収型多層膜NDフィルターを安定して生産することが難しくなる。この問題を回避するには、上述したようにチタン、アルミニウム、バナジウム、タングステン、タンタル、シリコンから選択された1種類以上の元素が添加されたニッケル系合金材料を用いて金属層を構成すればよい。
そして、本発明においてはチタン元素を5〜15重量%の範囲で含むニッケル系材料を用いることが好ましい。チタン量の下限を5重量%とした理由は、5重量%以上含ませることによって強磁性特性を極端に弱めることができ、磁力の低い通常のマグネットを配置したカソードでも直流マグネトロンスパッタリング成膜を行うことができるからである。
また、ターゲットによる磁界の遮蔽能力が低いため、ターゲット消耗に依存するプラズマ空間の漏洩磁界の変化も小さく、一定の成膜速度を維持でき、安定して成膜することができるからである。また、チタン量の上限を15.0重量%とした理由は、15.0重量%を超えてチタンが含有されると多量の金属化合物相を形成し、透過率における波長依存性が小さい材料ではなくなってしまう恐れがあるからである。
また、アルミニウム元素、バナジウム元素、タングステン元素、タンタル元素、シリコン元素の添加量も同様な理由により決定され、これ等アルミニウム元素、バナジウム元素、タンタル元素、シリコン元素を添加する場合は、アルミニウム元素の添加割合が3〜8重量%、バナジウム元素の添加割合が3〜9重量%、タングステン元素の添加割合が18〜32重量%、タンタル元素の添加割合が20〜49重量%、シリコン元素の添加割合が2〜6重量%の範囲で添加したニッケル系合金材料とすることが好ましい。
ただし、ニッケルに添加する元素が2種類以上の場合、添加量の合計は、多量の金属間化合物を形成しない組成より低くすることが好ましい。他に、ニッケルの強磁性特性を極端に弱めることが可能な添加元素として、銅、クロムなどが挙げられる。しかし、ニッケル−銅膜は、ニッケルにチタン、アルミニウム、バナジウム、タングステン、タンタル、またはシリコンを添加した合金膜などと比較して、酸化物膜との密着性に劣る。
例えば、特許文献5には、環境上問題となるCrを含まない組成で、従来のニッケル−銅系合金よりもセラミックス基板との密着力に優れた電極材料、及び、これを形成するためのスパッタリングターゲット材料として、ニッケル−チタン系合金が記載されている。すなわち、ニッケル−銅膜は、セラミックス基板つまり酸化物との密着性が悪いため、本発明のNDフィルターのように、金属膜と酸化物膜、ならびに基体の三者が密着性良く積層することが必要な用途には適さない。また、クロムは、密着性については良好だが、環境に悪影響を与えるため、好ましくない。
尚、上記ニッケルまたはニッケル合金の結晶膜である金属層と酸化物である誘電体層は、フィルム状の基体1の上に乾式ロールコーティング法を用いて形成することも可能である。
光学多層体7について上述したような構成を採用することにより、400〜800nmの可視域全域において反射率が5%以下、かつ、透過率の変動幅が10%以内である吸収型多層膜NDフィルターを提供することが可能となる。
次に、本発明の実施例について具体的に説明する。
(実施例1)
7.5重量%のチタンを含むニッケル合金からなる金属層と酸化シリコンからなる誘電体層が交互に積層された合計4層からなる光学多層体が、SiOx(x<2)からなる密着層を介し基体上に形成された表1に示す構造の吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
尚、ニッケル系材料ターゲットには、7.5重量%のチタンを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]を用いた。7.5重量%のチタンを含むこのニッケル合金ターゲットは、非磁性用カソード上に設置しても安定して放電することが可能であった。
具体的には、厚さ5μmのアクリル製ハードコート付PETフィルム[東洋紡社製]上に、スパッタリング装置(ULVAC社製)を用いて表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
成膜条件は、ニッケル合金からなる金属層の場合、スパッタリングガスとしてアルゴンを用い、ガス圧0.3Paとし、投入パワーはDC50W、ターゲット−基体間距離は65mmとした。酸化シリコンからなる誘電体層の場合は、スパッタリングガスとしてアルゴンと酸素の混合ガスを用い、ガス圧0.6Paとし、投入パワーはRF400W、ターゲット−基体間距離は65mmとした。
この吸収型多層膜NDフィルターの透過率と反射率を自記分光光度計装置[日立製作所製、U4100]を用いて測定した。測定結果を図6(A)(B)に示す。
そして、図6(A)(B)のグラフ図に示されたデータから、可視域(波長400〜800nm)での透過率は32〜40%であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を有していることが確認された。また、可視域における反射率は4%以下であり反射防止効果も良好であった。尚、これ等の光学特性は、図2と図3に示す構造のフィルム基板が用いられた吸収型多層膜NDフィルターにおいても同様に得られることも確認された。
更に、7.5重量%のチタンを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル−チタン薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期とターゲットエロージョン(ターゲットがスパッタリングによって減少した領域)深さが5mmになった時とで比較したところ、5%程度と小さかった。
従って、7.5重量%のチタンを含む上記ニッケル合金ターゲットを用いて製造される実施例1に係る吸収型多層膜NDフィルターは、ターゲットを連続して使い切るまで一定の成膜速度を維持して生産されるため量産性にも優れている。
(実施例2、3)
ニッケル合金からなる金属層の成膜条件において、アルゴンガス圧0.1、0.8Paに変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
上記の条件に変更して作製した吸収型多層膜NDフィルターの透過率と反射率を測定したところ、実施例1で示した図6(A)(B)とほとんど同一の測定結果が得られた。
(実施例4)
上記ニッケル系材料ターゲットを7.1重量%のチタンを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
尚、このニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]も非磁性用カソードで安定して放電することが可能であった。
そして、実施例2に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は32〜40%であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率が4%以下であり反射防止効果も良好であった。
また、7.1重量%のチタンを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル系(ニッケル−チタン)薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期と上記ターゲットエロージョン深さが5mmになった時とで比較したところ5%程度と小さかった。
従って、7.1重量%のチタンを含む上記ニッケル合金ターゲットを用いて製造される実施例2に係る吸収型多層膜NDフィルターは、ターゲットを連続して使い切るまで一定の成膜速度を維持して生産されるため量産性にも優れていた。
(実施例5)
上記ニッケル系材料ターゲットを15重量%のチタンを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
尚、このニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]も非磁性用カソードで安定して放電することが可能であった。
そして、実施例3に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は38〜44%であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率が4%以下であり反射防止効果も良好であった。
また、15重量%のチタンを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル系薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期と上記ターゲットエロージョン深さが5mmになった時とで比較したところ5%程度と小さかった。
従って、15重量%のチタンを含む上記ニッケル合金ターゲットを用いて製造される実施例3に係る吸収型多層膜NDフィルターは、ターゲットを連続して使い切るまで一定の成膜速度を維持して生産されるため量産性にも優れていた。
(実施例6)
上記Ni系材料ターゲットを6.5重量%のチタンを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
尚、このニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]は非磁性用カソードで安定して放電することが難しく強磁性用カソードを用いることによって放電と成膜が可能であった。
しかし、ニッケル合金ターゲットの消耗に応じて、同一投入パワーでの放電電圧と放電電流の変化が実施例1〜3のときと比べて大きく、成膜速度の変化も顕著であった。従って、このようなNiターゲットを用いる場合には、定期的に成膜速度を測定する必要がある。
そして、成膜速度の測定を逐次行う調整方法を取り入れ、表1の膜(2)〜(6)を順に成膜して図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
そして、実施例4に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は32〜40%であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率が4%以下であり反射防止効果も良好であった。
(実施例7)
7.5重量%のチタンを含むニッケル合金からなる金属層と酸化シリコンからなる誘電体層が交互に積層された合計6層からなる光学多層体が、SiOx(x<2)からなる密着層を介し基体上に形成された表2に示す構造の吸収型多層膜NDフィルターを、実施例1と同様に作製した。
作製された吸収型多層膜NDフィルターの透過率と反射率を自記分光光度計装置[日立製作所製、U4100]を用いて測定した。測定結果を図7(A)(B)に示す。
そして、図7(A)(B)のグラフ図に示されたデータから、可視域(波長400〜800nm)での透過率は34〜37%であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を有していることが確認された。また、可視域における反射率は4%以下であり反射防止効果も良好であった。尚、これ等の光学特性は、図2と図3に示す構造のフィルム基板が用いられた吸収型多層膜NDフィルターにおいても同様に得られることも確認された。
(実施例8、9)
ニッケル系材料ターゲットを3重量%または8重量%のアルミニウムを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
これらのニッケル合金ターゲットも非磁性用カソードで安定して放電することが可能であった。そして、実施例8、9に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は実施例1とほぼ同等であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率も実施例とほぼ同等で反射防止効果も良好であることが確認された。
また、これらのアルミニウムを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル系(ニッケル−チタン)薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期と上記ターゲットエロージョン深さが5mmになった時とで比較したところ、実施例1と同等の5%程度と小さかった。
(実施例10、11)
ニッケル系材料ターゲットを3重量%または9重量%のバナジウムを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。これらのニッケル合金ターゲットも非磁性用カソードで安定して放電することが可能であった。そして、実施例10、11に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は実施例1とほぼ同等であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率も実施例とほぼ同等で反射防止効果も良好であることが確認された。
また、これらのバナジウムを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル系(ニッケル−チタン)薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期と上記ターゲットエロージョン深さが5mmになった時とで比較したところ、実施例1と同等の5%程度と小さかった。
(実施例12、13)
ニッケル系材料ターゲットを18重量%または32重量%のタングステンを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。これらのニッケル合金ターゲットも非磁性用カソードで安定して放電することが可能であった。そして、実施例12、13に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は実施例1とほぼ同等であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率も実施例とほぼ同等で反射防止効果も良好であることが確認された。
また、これらのタングステンを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル系(ニッケル−チタン)薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期と上記ターゲットエロージョン深さが5mmになった時とで比較したところ、実施例1と同等の5%程度と小さかった。
(実施例14、15)
ニッケル系材料ターゲットを20重量%または49重量%のタンタルを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。
これらのニッケル合金ターゲットも非磁性用カソードで安定して放電することが可能であった。そして、実施例14、15に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は実施例1とほぼ同等であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率も実施例とほぼ同等で反射防止効果も良好であることが確認された。
また、これらのタンタルを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル系(ニッケル−チタン)薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期と上記ターゲットエロージョン深さが5mmになった時とで比較したところ、実施例1と同等の5%程度と小さかった。
(実施例16、17)
ニッケル系材料ターゲットを2重量%または6重量%のシリコンを含むニッケル合金ターゲット[住友金属鉱山(株)社製]に変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。これらのニッケル合金ターゲットも非磁性用カソードで安定して放電することが可能であった。 そして、実施例16、17に係る吸収型多層膜NDフィルターの可視域(波長400〜800nm)での透過率は実施例1とほぼ同等であり、波長に対して平坦性に優れた透過率特性を示していることが確認され、また、可視域における反射率も実施例とほぼ同等で反射防止効果も良好であることが確認された。
また、これらのシリコンを含む上記ニッケル合金ターゲットからのニッケル系(ニッケル−チタン)薄膜の成膜速度の変化について、ターゲット使用初期と上記ターゲットエロージョン深さが5mmになった時とで比較したところ、実施例1と同等の5%程度と小さかった。
(比較例1、2)
ニッケル合金からなる金属層の成膜条件において、アルゴンガス圧0.05、1.0Paに変更した以外は実施例1と同一の条件で表1の膜(2)〜(6)を順に成膜し、図1に示す吸収型多層膜NDフィルターを作製した。上記の条件に変更して作製した吸収型多層膜NDフィルターの透過率と反射率を測定したところ、実施例1で示した図6(A)(B)とほとんど同一の測定結果が得られた。
(評価)
実施例1〜3および比較例1,2で作製したNDフィルターのニッケル合金からなる金属層の結晶粒径を測定した。透過電子顕微鏡(TEM、日立ハイテクノロジーズ社製HF−2200)を用いて金属層の観察を行い、7,000,000〜15,000,000倍のTEM像から平均結晶粒径を見積もった。
次に、上記のNDフィルターの環境試験を実施した。試験条件は、温度80℃、湿度90%、72時間とした。環境試験前後に波長400〜800nmの可視域におけるNDフィルターの透過率を測定し、平均透過率の変化を求め、0.5%以下を合格とした。表3に、結晶粒径測定結果と、環境試験前後の透過率および反射率の変化を示す。
表3から、実施例1〜3の成膜条件、すなわちアルゴンガス圧0.1〜0.8Paの場合、ニッケル合金からなる金属層は、結晶膜であってその平均結晶粒径は1nm以上であることがわかる。これらの金属層を用いたNDフィルターの環境試験前後の平均透過率の変化は、0.5%以下の許容範囲内であり、実用上、何ら問題のないことが示された。
一方、比較例1、すなわちアルゴンガス圧0.05Paの場合、平均結晶粒径は1nm未満であった。この金属層を用いたNDフィルターの環境試験後の透過率は試験前と比較して高くなり、環境試験前後の平均透過率の変化は3.5%と大きくなることが明らかとなった。すなわち、実用上、問題となることが示された。また、比較例2、すなわちアルゴンガス圧1.0Paの場合、平均結晶粒径は1nm以上であったが、環境試験前後の平均透過率の変化が3.2%と大きくなることが示された。膜の緻密さが低いため、より酸化され易くなったことが原因であると考えられた。
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの構成説明図。
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの構成説明図。
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの構成説明図。
本発明に係る吸収型多層膜NDフィルターの光学多層体の構成説明図。
Ni薄膜、Cr薄膜、Nb薄膜およびTa薄膜における透過率と波長との関係を示すグラフ図。
図6(A)は本発明の実施例1に係る吸収型多層膜NDフィルターの透過率と波長との関係を示すグラフ図、図6(B)は本発明の実施例1に係る吸収型多層膜NDフィルターの反射率と波長との関係を示すグラフ図。
図7(A)は本発明の実施例7に係る吸収型多層膜NDフィルターの透過率と波長との関係を示すグラフ図、図7(B)は本発明の実施例7に係る吸収型多層膜NDフィルターの反射率と波長との関係を示すグラフ図。
符号の説明
1 基体
1a ハードコート層
2 密着層
3、5 結晶膜である金属層
4、6 誘電体層
7 光学多層体