JP5205917B2 - 陽イオン性樹脂水溶液 - Google Patents

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本発明は、低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少なく、かつ癌原性の有力な評価方法の一つであるエームス試験(Ames Test)の判定が陰性である陽イオン性樹脂水溶液に関し、かつ該陽イオン性樹脂水溶液を塩基性物質と反応させて得られる熱硬化性樹脂が湿潤紙力剤として有用である陽イオン性樹脂水溶液に関する。
紙の湿潤紙力増強剤として、(1)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)のハロゲン化水素酸塩とエピハロヒドリンを反応させて得られるエポキシ基含有水溶性樹脂、および(2)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)のハロゲン化水素酸塩とエピハロヒドリンを反応させエポキシ基含有水溶性樹脂を生成させ、ついで無機酸を反応させ得られたエポキシ基をハロヒドリン基に転化させて得られる陽イオン性樹脂水溶液(以下ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂と称することがある)を、さらに塩基と反応させた熱硬化性樹脂水溶液が有用であることは公知である(例えば、特許文献1参照)。
近年、エピハロヒドリンから誘導される1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールを主要成分とする発癌性の疑いを持たれている低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少なく、かつ樹脂自身の癌原性の低い陽イオン性樹脂水溶液、特に、湿潤紙力増強剤用の陽イオン性樹脂水溶液に対する高度の要求を満たす樹脂が求められている。
ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の低分子有機塩素化合物を減じる方法として、樹脂生成に使用するエピハロヒドリンを減ずる例が開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、樹脂固形分濃度に対する低分子有機塩素化合物の濃度が高く、低分子有機塩素化合物の削減が十分であるとは言えない。さらに、エームス試験について言及されていない。
また、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の低分子有機塩素化合物を減じる方法として、ハロゲン化水素酸以外のアニオン性物質を塩とするポリ(N−アルキルジアリルアミン)を使用する例が開示されている(例えば、特許文献3参照)。ここでは、ハロゲン化水素酸以外のアニオン性物質の塩として、硫酸塩、重硫酸塩、硝酸塩、過塩素酸塩、トリクロロ酢酸塩およびスルホン酸塩が挙げられている。しかし、樹脂固形分濃度に対する低分子有機塩素化合物の濃度が高く、低分子有機塩素化合物の削減が十分であるとは言えない。
特公昭52−22982号公報 米国特許第6906133号公報 米国特許第4222921号公報
しかし、近年では、環境保護の気運の高まりなどにより、1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールを主要成分とする低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少ないのみならず、樹脂自身の癌原性の低いポリアミン−エピハロヒドリン樹脂水溶液に関する技術が求められている。
本発明の課題は、低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少なく、かつ癌原性の有力な評価方法の一つであるエームス試験(Ames Test)の判定が陰性である陽イオン性樹脂水溶液に関し、かつ該陽イオン性樹脂水溶液を塩基性物質と反応させて得られる熱硬化性樹脂が湿潤紙力剤として有用である陽イオン性樹脂水溶液を提供することである。
本発明者らは、上記公知方法により製造される樹脂について鋭意検討を重ねた結果、(i)1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールを主要成分とするとする低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少なく、(ii)癌原性の有力な評価方法のひとつであるエームス試験の判定が陰性であり、(iii)該陽イオン性樹脂水溶液を塩基性物質と反応させて得られる熱硬化性樹脂が湿潤紙力剤として有用である陽イオン性樹脂水溶液を見出し、本発明を完成するに到った。
すなわち、本発明は、
(1)(i)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩(A)とエピハロヒドリン(B)を反応させてエポキシ基含有水溶性樹脂を生成させ、
(ii)ついで無機酸を反応させて上記(i)において得られたエポキシ基をハロヒドリン基に転化させて得られる、
陽イオン性樹脂水溶液において、固形分20%における1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールの含有量が1%未満であり、かつ
上記樹脂水溶液と塩基を反応させた熱硬化性樹脂水溶液を製紙工程で使用して得られる紙において、下記式(1)で求められる紙の湿潤引張強さ残留率(JIS P−8135に基づく測定)が15%以上となること
を特徴とする陽イオン性樹脂水溶液
式(1):湿潤引張強さ残留率(%)=湿潤引張強さ(kN/m)/乾燥引張強さ(kN/m)×100
(2)(i)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩(A)とエピハロヒドリン(B)を反応させてエポキシ基含有水溶性樹脂を生成させ、
(ii)ついで無機酸を反応させて上記(i)において得られたエポキシ基をハロヒドリン基に転化させた酸安定化樹脂水溶液を生成させて得られる、
陽イオン性樹脂水溶液についてエームス試験(Ames Test)が陰性であり、かつ
上記樹脂水溶液と塩基とを反応させた熱硬化性樹脂水溶液を製紙工程で使用して得られる紙において、下記式(1)で求められる紙の湿潤引張強さ残留率(JIS P−8135に基づく測定)が15%以上となること
を特徴とする陽イオン性樹脂水溶液
式(1):湿潤引張強さ残留率(%)=湿潤引張強さ(kN/m)/乾燥引張強さ(kN/m)×100
(3)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩がスルホン基を含む有機酸塩である前記(1)又は(2)の陽イオン性樹脂水溶液、
(4)(i)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)スルファミン酸塩(A)とエピハロヒドリン(B)を反応させてエポキシ基含有水溶性樹脂を生成させ、
(ii)ついで無機酸を反応させて上記(i)において得られたエポキシ基をハロヒドリン基に転化させた酸安定化樹脂水溶液を生成させて得られる、陽イオン性樹脂水溶液
である。
本発明の陽イオン性樹脂水溶液は、樹脂水溶液に含まれる1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールを主要成分とする低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少ないか又は癌原性の指標であるエームス試験の判定が陰性であるにもかかわらず、公知の方法で製造されたポリアミン−エピハロヒドリン樹脂と同等もしくはそれ以上の優れた湿潤紙力増強効果を付与することができる。
本発明に使用されるポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩としては、ポリ(N−メチルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−エチルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−n−プロピルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−イソプロピルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−n−ブチルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−イソブチルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−t−ブチルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−2−ヒドロキシエチルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−2−ヒドロキシプロピルジアリルアミン)酸付加塩、ポリ(N−3−ヒドロキシプロピルジアリルアミン)酸付加塩などが挙げられるが、工業的にはポリ(N−メチルジアリルアミン)酸付加塩が好ましい。
本発明に使用されるポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩は、種々のN−アルキルジアリルアミン単位と必要に応じて用いる他の共重合性モノマーから得られる構造単位を有するポリ(N−アルキルジアリルアミン)の酸付加塩であり、本発明の効果を害しない範囲でN−アルキルジアリルアミン単位の酸付加塩の構造単位以外を有することができ、具体的には、好ましくは50モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下の範囲で含有し得る。他の共重合性モノマーとしては、ジアリルアミン類、N、N−ジアルキルアミン類、および(メタ)アクリル酸、アルキル(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニルをはじめとするビニルエステル類、ビニルエーテル類、ビニルケトン類、二酸化硫黄が使用でき、これらを1種もしくは2種以上併用して使用することも可能である。ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩としては、N−アルキルジアリルアミン単位のみの酸付加塩であることが好ましい。
ポリ(N−アルキルジアリルアミン)からポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩を形成するために用いる酸としては、塩酸、硫酸、亜硫酸、チオ硫酸、硝酸、蟻酸、酢酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、フタル酸、メチル硫酸、メタンスルホン酸、ドデカンスルホン酸、オクタデカンスルホン酸、イセチオン酸、タウリン、その他のスルホン基を有する有機酸類等およびそれらの混合物が挙げられ、1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールを主要成分とするとする低分子有機ハロゲン化合物の含有量を低減することができ、エームス試験の判定で陰性となる点でスルホン基を有する有機酸類が好ましく、スルファミン酸が特に好ましい。
ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩のアミノ基の量は次式で算出される。
アミノ基の量(モル)=P1×S/(D1+A1)
ここで、P1はポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩水溶液の重量(g)、Sはポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩水溶液の固形分(%)、D1はN−アルキルジアリルアミンモノマー単位の分子量、A1は付加塩に用いた酸の分子量である。
エピハロヒドリンとしては、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリンなどが挙げられるが、工業的にはエピクロロヒドリンが好ましい。ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩中のアミノ基に対するエピクロロヒドリンのモル比は、0.85〜1.25等量、好ましくは、0.95〜1.1等量で使用される(以下、ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩中のアミノ基に対するモル比を単に「等量」と略することがある)。エピクロロヒドリンのモル比が1.25等量より大きいと、最終製品中の1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールを主要成分とするとする低分子有機ハロゲン化合物の含有量が増加し、またエームス試験の判定が陽性となる傾向があり本発明の目的が達成されない場合がある。一方、エピクロロヒドリンのモル比が0.85等量よりも小さいと、得られる陽イオン性樹脂水溶液はエームス試験の判定で陰性となるが、陽イオン性樹脂水溶液と塩基とを反応させた熱硬化性樹脂水溶液の湿潤紙力増強効果が低下し、本発明の目的を達成することはできない場合がある。
ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩とエピハロヒドリンとの反応によりエポキシ基含有水溶性樹脂を得る工程(i)は、ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩濃度を10〜50%に、反応温度として10℃〜60℃、好ましくは20℃〜50℃において、固形分が20%であるときの水溶液粘度が20〜150mPa・sに達するまで温度を適宜コントロールし反応を進めることが好ましい。この反応の速度を制御するため、必要に応じて反応液のpHを水酸化ナトリウム水溶液やアンモニア水溶液を用いて7〜10の範囲で適宜コントロールし反応を進めることが好ましい。
上述の工程(i)で得られたエポキシ基含有水溶性樹脂と無機酸とを反応させてエポキシ基をハロヒドリン基に転化させる工程(ii)は、エポキシ基含有水溶性樹脂に無機酸を一括または連続で添加し、反応温度を工程(i)よりも高い温度かつ40〜80℃に保つことが好ましい。使用される無機酸としては、塩酸、硫酸、硝酸などが使用され得る。必要とされる酸の量は、ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩中のアミノ基に対して、0.3〜1.2等量であることが好ましい。
本発明の陽イオン性樹脂水溶液は塩基と反応させ、陽イオン性樹脂水溶液中のハロヒドリン基をエポキシ基に再転化することで、湿潤紙力増強剤として有用な熱硬化性樹脂水溶液を得ることができる。使用される塩基としては、水酸化ナトリウムをはじめとするアルカリ金属の水酸化物、炭酸塩および重炭酸塩、水酸化カルシウムなどが使用され得る。必要とされる塩基の量は、ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩中のアミノ基に対して、0.5〜2.0等量であることが好ましい。
本発明の陽イオン性樹脂水溶液において、固形分20%における1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールの含有量が1%未満というのは、陽イオン性樹脂水溶液をガスクロマトグラフで1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールを測定し、固形分20%に換算した値である。
本発明の陽イオン性樹脂水溶液を塩基と反応させた熱硬化性樹脂水溶液を、湿潤紙力増強剤として使用する場合、その性能の指標にはJIS P−8135に基づく測定により得られる紙の湿潤引張強さ残留率を用いる。Principles of Wet End Chemistry(Tappi)・第9章に説明されているように、一般的には、乾燥引張強度に対する湿潤引張強度の割合(湿潤引張強さ残留率)が15%以上の紙が湿潤紙力紙として定義され、紙の湿潤引張強さ残留率(JIS P−8135に基づく測定)が15%以上であることで湿潤紙力紙として使用に耐えうることができる。
本発明におけるエームス試験(Ames test)には、アミノ酸の一種であるヒスチジンを生合成できないためにヒスチジンがなくては生育できないネズミチフス菌の栄養要求性の菌株(ヒスチジン要求株His−)を用いる。化学物質によって突然変異が誘発されると復帰変異を起こしてヒスチジンを合成できるようになり(ヒスチジン非要求株His+)、ヒスチジンの入っていないグルコースだけの培地で生育して白いコロニーを形成する。エームス試験とは、このようにヒスチジン要求性から非要求性に変わる復帰突然変異を調べる方法である。このエームス試験は、エーメス試験とも称され、医学大辞典第18版第215頁(南山堂発行)に説明されているように、現在一般に世界中で広く用いられている癌原性評価の短期探索法である。
本発明におけるエームス試験においては、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂に対する感受性が高く、エームス試験の判定が陽性を示しやすい菌株であるネズミチフス菌TA1535(以下TA1535と略す)が使用される。
また、多くの癌原性物質が哺乳動物の体内に入って代謝活性化を受けることによって癌原性を示す。しかし、微生物には多くの癌原性物質の代謝活性化酵素系が欠損している為、エームス試験ではラット等の肝臓から得られた代謝活性化酵素に補酵素類を加えた代謝活性化酵素系(S9mix)を添加して実施する代謝活性化試験と、代謝活性化酵素系(S9mix)を添加しないで実施する非代謝活性化試験の二種類の試験が実施される。本発明では、代謝活性化試験の方が、ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂の変異原性が強く現れることから、代謝活性化試験のみを実施する。エームス試験の操作手順については、例えば「抗変異原・抗発がん物質とその検索法」黒田行昭編(講談社)等に詳細に説明されているので、ここでは簡略に説明する。
試験菌株前培養液は、Oxoid社製のニュートリエントブロス2.5gに蒸留水100gを加えて高圧蒸気滅菌した培溶液にTA1535を接種し、次いで37℃で11時間往復振とうして培養することにより得られる。
滅菌した試験管に、被験物質液(ポリアミン−エピハロヒドリン樹脂水溶液)0.1ml、S9mix0.5ml、試験菌株前培養液0.1mlを加え、ミキサーで攪拌する。次いで、37℃で振とうしながら20分間プレインキュベーションする。プレインキュベーション後、試験管に0.05mM・L‐ヒスチジン−0.05mM・D‐ビオチン及び0.6%NaCl、0.6%寒天(Difco社製Bactoagar)を含有した軟寒天2mlを加え、最少グルコース寒天平板培地の上に注ぎ、一様に広げた後、遮光する。37℃で48時間以上培養した後、復帰突然変異により生じたコロニー数を数える。復帰突然変異コロニー数が、被験物質液の代わりに滅菌蒸留水を用いて行った溶媒対照試験でのコロニー数の2倍以上に増加した場合に陽性と判定する。
最少グルコース寒天平板培地の組成:
蒸留水900ml
Vogel−Bonnerの最小培地E原液100ml
グルコース20g
寒天(Difco社製Bactoagar)15g
この最少グルコース寒天平板培地は、高圧蒸気滅菌後、直径90mmの滅菌シャーレに30mlずつ分注され、水平面上に放置して冷却固化される。尚、Vogel−Bonnerの最小培地E原液の組成は、硫酸マグネシウム・7水塩2g、クエン酸・1水塩20g、リン酸2カリウム・無水塩100g、リン酸1アンモニウム19.2g、及び水酸化ナトリウム6.6gを蒸留水に溶解させて1000mlにしてなる溶液である。
以下、本発明を、実施例及び比較例を挙げて、具体的に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。なお、各例中、%は特記しない限りすべて質量%である。
(実施例1)
温度計、冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた500mL四つ口フラスコに、ポリ(N−メチルジアリルアミンスルファミン酸塩)(日東紡績(株)社製PAS−22SA)208.3g(アミノ基として0.25モル)、水123.0g、及び30%水酸化ナトリウム水溶液6.7gを仕込み、固形分16%、pH9.0の溶液を得た。次いで、30℃でエピクロロヒドリン25.4g(1.1等量)を仕込み、反応液の25℃における粘度が60mPa・sに達するまで、30%水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応液のpHを8以上に調整しつつこの温度で保持し、エポキシ基含有水溶性樹脂を得た。次いで、得られたエポキシ基含有水溶性樹脂に35%塩酸13.0g(0.5等量)を仕込み、80℃に加熱して3時間保持し、冷却後、水20.1gで希釈し30%水酸化ナトリウム水溶液でpHを3に調整した。
(実施例2)
前記実施例1において、エピクロロヒドリン仕込み量を22.0g(0.95等量)とした以外は、実施例1と同様に反応を行った。
(比較例1)
温度計、冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた500mL四つ口フラスコに、ポリ(N−メチルジアリルアミン塩酸塩)(日東紡績(株)社製PAS−M−1)185g(アミノ基として0.25モル)、水47.7g、及び30%水酸化ナトリウム水溶液1.7gを仕込み、固形分16%、pH9.0の溶液を得た。次いで、30℃でエピクロロヒドリン25.4g(1.1等量)を仕込み、反応液の25℃における粘度が60mPa・sに達するまで、30%水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応液のpHを8以上に調整しつつこの温度で保持し、エポキシ基含有水溶性樹脂を得た。次いで、得られたエポキシ基含有水溶性樹脂に35%塩酸13.0g(0.5等量)を仕込み、80℃に加熱して3時間保持し、冷却後、水64.8gで希釈し30%水酸化ナトリウム水溶液でpHを3に調整した。
(比較例2)
前記比較例1において、エピクロロヒドリン仕込み量を11.6g(0.5等量)とし、最終の希釈水を9.6gとした以外は、比較例1と同様に反応を行った。
(合成例1)ポリ(N−メチルジアリルアミン硫酸塩)の調製
ポリ(N−メチルジアリルアミン塩酸塩)(日東紡績(株)社製PAS−M−1)416.6g(アミノ基として0.5モル)を、0.7等量の水酸化ナトリウムにより沈殿させ、洗浄、乾燥した。得られたポリ(N−メチルジアリルアミン)44.5gに、0.5等量の95%硫酸及び水93gを加え、溶解させたものを、再度2等量の水酸化ナトリウムにより沈殿させ、洗浄、乾燥した。溶解、再沈の操作をさらに2回繰り返した後得られたポリ(N−メチルジアリルアミン)44.5gに、0.5等量の95%硫酸及び水280.6gを加え、ポリ(N−メチルジアリルアミン硫酸塩)を得た。
(比較例3)
温度計、冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた500mL四つ口フラスコに、合成例1で得られたポリ(N−メチルジアリルアミン硫酸塩)209.3g(アミノ基として0.25モル)、水123.6g、及び30%水酸化ナトリウム水溶液6.7gを仕込み、固形分16%、pH9.0の溶液を得た。次いで、30℃でエピクロロヒドリン25.4g(1.1等量)を仕込み、反応液の25℃における粘度が60mPa・sに達するまで、30%水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応液のpHを8以上に調整しつつこの温度で保持し、エポキシ基含有水溶性樹脂を得た。次いで、得られたエポキシ基含有水溶性樹脂に35%塩酸13.0g(0.5等量)を仕込み、80℃に加熱して3時間保持し、冷却後、水19.7gで希釈し30%水酸化ナトリウム水溶液でpHを3に調整した。
(比較例4)
前記比較例3において、エピクロロヒドリン仕込み量を17.4g(0.75等量)とし、最終の希釈水を7.0gとした以外は、比較例3と同様に反応を行った。
(比較例5)
温度計、冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた500mL四つ口フラスコに、ポリ(N−メチルジアリルアミン酢酸塩)(日東紡績(株)社製PAS−M−1A)214.06g(アミノ基として0.25モル)、水56.4g、及び30%水酸化ナトリウム水溶液3.3gを仕込み、固形分16%、pH9.0の溶液を得た。次いで、30℃でエピクロロヒドリン34.7g(1.5等量)を仕込み、反応液の25℃における粘度が60mPa・sに達するまで、30%水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応液のpHを8以上に調整しつつこの温度で保持し、エポキシ基含有水溶性樹脂を得た。次いで、得られたエポキシ基含有水溶性樹脂に35%塩酸13.0g(0.5等量)を仕込み、80℃に加熱して3時間保持し、冷却後、水89.6gで希釈し30%水酸化ナトリウム水溶液でpHを3に調整した。
(比較例6)
温度計、冷却器、撹拌機、滴下ロートを備えた500mL四つ口フラスコに、ポリ(N−メチルジアリルアミン塩酸塩)(日東紡績(株)社製PAS−M−1)90g(アミノ基として0.3モル)、水174.7g、及び4%水酸化ナトリウム水溶液16.9gを仕込み、固形分15.9%、pH8.1の溶液を得た。次いで、30℃でエピクロロヒドリン28.2g(1.0等量)を仕込み、反応液の25℃における粘度がガードナーホルト式粘度計で「D」に達するまで、4%水酸化ナトリウム水溶液を用いて反応液のpHを8.1から8.5の間に調整しつつこの温度で保持し、エポキシ基含有水溶性樹脂を得た。次いで、得られたエポキシ基含有水溶性樹脂に35%塩酸1.97g(0.06等量)および水79.68gを仕込み、35%塩酸を用いて反応液のpHを2.0から2.2の間に調整しつつ80℃に1時間掛けて加熱し、この温度で1時間保持し、冷却後、35%塩酸でpH2.1に調整した。
実施例1、2及び比較例1〜6で得られたそれぞれの陽イオン性樹脂水溶液の性状、ガスクロマトグラフにより測定した陽イオン性樹脂水溶液中の1,3−ジクロロ−2−プロパノール(以下DCPと略記することがある)含有量、及び陽イオン性樹脂水溶液のエームス試験の評価結果を表1に示した。また、陽イオン性樹脂水溶液を、それぞれの樹脂の生成に使用したエピハロヒドリンに対して1.25等量の水酸化ナトリウムと反応せしめて得られる熱硬化性樹脂水溶液をノーブルアンドウッド式手抄き抄紙機を使用した抄紙試験に供し得られた紙の乾燥時および湿潤時の強度をJIS−P−8113およびJIS−P−8135に準拠して測定し、下記式(1)で求められる紙の湿潤引張強さ残留率を算出した結果を表1に示した。
<抄紙条件>
使用パルプ:晒クラフトパルプ(針葉樹/広葉樹=2/8)
叩解度(CSF)410
樹脂添加率:0.3%(対パルプ固形分)
抄紙坪量:65g/m
乾燥条件:100℃×120秒(ドラムドライヤーを使用)
Figure 0005205917
かくして、本発明の方法にしたがって得られた陽イオン性樹脂水溶液は、樹脂水溶液に含まれる1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールをはじめとする低分子有機ハロゲン化合物の含有量が少なく、かつ癌原性の指標であるエームス試験の判定が陰性であるにもかかわらず、公知の方法で製造されたポリアミン−エピハロヒドリン樹脂と同等もしくはそれ以上の優れた湿潤紙力増強効果を付与する。

Claims (2)

  1. (i)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩(A)とエピハロヒドリン(B)を反応させてエポキシ基含有水溶性樹脂を生成させ、
    (ii)ついで無機酸を反応させて上記(i)において得られたエポキシ基をハロヒドリン基に転化させて得られる、
    陽イオン性樹脂水溶液において、ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩がスルホン基を含む有機酸塩であり、かつ
    固形分20%における1,3−ジハロゲノ−2−プロパノールの含有量が1%未満であり、かつ
    上記樹脂水溶液と塩基を反応させた熱硬化性樹脂水溶液を製紙工程で使用して得られる紙において、下記式(1)で求められる紙の湿潤引張強さ残留率(JIS P−8135に基づく測定)が15%以上となること
    を特徴とする陽イオン性樹脂水溶液。
    式(1):湿潤引張強さ残留率(%)=湿潤引張強さ(kN/m)/乾燥引張強さ(kN/m)×100
  2. (i)ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩(A)とエピハロヒドリン(B)を反応させてエポキシ基含有水溶性樹脂を生成させ、
    (ii)ついで無機酸を反応させて上記(i)において得られたエポキシ基をハロヒドリン基に転化させた酸安定化樹脂水溶液を生成させて得られる、
    陽イオン性樹脂水溶液について、ポリ(N−アルキルジアリルアミン)酸付加塩がスルホン基を含む有機酸塩であり、かつ
    エームス試験(Ames Test)が陰性であり、かつ
    上記樹脂水溶液と塩基とを反応させた熱硬化性樹脂水溶液を製紙工程で使用して得られる紙において、下記式(1)で求められる紙の湿潤引張強さ残留率(JIS P−8135に基づく測定)が15%以上となること
    を特徴とする陽イオン性樹脂水溶液。
    式(1):湿潤引張強さ残留率(%)=湿潤引張強さ(kN/m)/乾燥引張強さ(kN/m)×100
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