JP5205651B2 - 機能材料の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、固相材料に対して高重力場処理を施すことにより形成された機能材料を製造する、機能材料の製造方法に関する。
半導体の応用として最もよく用いられる不純物半導体では、不純物元素をドーピングしたn型およびp型の半導体が用いられる。ドーピングの方法としては、固体−固体の熱拡散や、液体−固体の熱拡散、不純物元素雰囲気によるガス−固体の熱拡散、量子ビーム打ち込み、化学反応などが用いられる。ガス−固体の熱拡散によるドーピングでは、蒸着、レーザーアブレーション、スパッタリングなどによって不純物雰囲気が作られる。
半導体材料としては、単体ではSi、Ge、Se、Te、Cなどがある。また、III−V族半導体としてはGaAs、InP、InGaAs、GaInNAs、GaNなどがあり、II−VI族半導体としてはZnO、CdTe、CdSe、ZnSeなどがある。
ここで、上記したZnOは安価で広く応用されている物質であるが、そのままでは欠陥などによりn型になり易い。これは、強いイオン結合に起因して自己補償効果(欠陥を生成してアクセプタを補償する効果)が強いからである。そのため、p型ZnOを作製することが難しく、未だp型ZnOは実用化されていない。具体的には、ZnOでは、N、Pまたはアルカリ金属のドープが試みられているが、Nのドープが基板温度傾斜法によるレーザを用いたコンビナトリアル合成法によって成功しているのみである。
また、ダイヤモンドは、最高の硬度、熱伝達率、高い絶縁耐圧、広い光透過波長帯域、高い化学安定性などすぐれた性質を持つ。これらにより、Si半導体の1万倍、SiC半導体の10倍のパワー素子能力が期待され、また、発光素子としては235nmの紫外光を発することができる。しかし、n型ダイヤモンドの作製は極めて難しく、これまで(111)面上では成功していたが、(001)面上ではこれまでに1例だけ成功しているだけであり、未だ、n型ダイヤモンドは実用化されていない。これが、n型ダイヤモンドを用いたデバイス開発のネックとなっている。ダイヤモンドの(111)面は(001)面に比べて非常に硬い。そのため、(111)面では、研磨が困難であり、平坦な基板が得られにくく、(001)面に比べて基板を大面積化することが難しい。これらが、デバイス作製のパターニング、エッチングなど微細加工に関わり、製品化のコストに大きな影響を及ぼす。これまで、ダイヤモンドでは、Pのドープは(111)面において成功していたが、実用化に必要な(001)面において難しく、マイクロ波プラズマ化学気相合成法によって実現されているだけであり、未だ、(001)面でのPドープは実用化には至っていない。
有機物半導体としては、低分子ではテチラセン、ペンタセンなどのアセン族、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン類、ペリシン誘導体などのジアミン誘導体がある。高分子では、ポリ(3‐アルキルチオフェン)などポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリトリアリルアミンなどが挙げられる。
熱電能物質では、不純物をドープしたり、組成を変化させたりすることにより特性を向上させることができる。熱電能材料としては、全率固溶型ビスマス(Bi)−アンチモン(Sb)合金、カドミウム(Cd)−アンチモン系金属間化合物、ビスマス−テルル(Te)系半導体化合物(BiTe)、または全率固溶型セレン(Se)−テルル系半導体固溶体などが挙げられる。例えば、セレン(Se)の76Se,78Se,80Seおよび82Se、テルル(Te)の125Te、126Te、128Teおよび130Te、シリコン(Si)の28Si、29Siおよび30Siなどが挙げられる。MxCoSb12(M=Ge、SbまたはPb)などのクッテルダイト型化合物も挙げられる。
III−V族元素の合金や、遷移元素化合物、窒化物、または遷移金属酸化物などの半導体では、遷移元素や希土類元素をドーピングすることによって、強磁性体になることが知られている。この強磁性体は、希薄磁性半導体と呼ばれるものであり、この系には、In−As、Ga−As、ZnTe、GaN、ZnO、TiOなどがある。ここで、希薄磁性半導体は、半導体を構成するイオンの一部を磁性元素で置換した物質であり、磁気特性と伝導・光学特性とが強く結びついた性質を示し、産業上有用である。希薄磁性半導体を作製するに際して、結晶状態を乱さないで組成を変えたり、不純物をドープしたりすることが重要である。また、構造や欠陥状態をあまり変えないで、組成を変えたり、不純物をドープしたりすることが重要である。
また、ペロブスカイト構造の強相関化合物や、銅酸化物超伝導体、鉄系酸化物超伝導体(LnOMPn(Ln=ランタン系元素、M=遷移金属、Pn=P、AsまたはSb)系化合物)、スクッテルダイト型化合物などの価数が代わる不定比性化合物では、不純物の添加によってその物性が著しく変化することが知られている。銅酸化物超伝導体には、YBaCu7−xなどのY系、BiSrCaCu10などのBi系、TlBaCan−1CuO2n+4などのTl系、HgBaCan−1CuO2n+4+δなどのHg系がある。また、鉄系酸化物超伝導体には、La(O1−x)FeAs(ランタン、酸素、フッ素、鉄、ヒ素)などがある。これらの物質を作製するに際しても、結晶状態を乱さないで組成を変えたり、不純物をドープしたりすることが重要である。また、構造や欠陥状態をあまり変えないで、組成を変えたり、不純物をドープしたりすることが重要である。
なお、ZnOに関する文献としては、例えば、以下に示した特許文献1、非特許文献1,2などがある。また、ダイヤモンドに関する文献としては、例えば、以下に示した特許文献2、非特許文献3などがある。また、希薄磁性半導体に関する文献としては、例えば、以下に示した非特許文献4などがある。
特開2005−223219号公報 特開2006−240983号公報 ZnO青色発光ダイオード.[応用物理,74(10),(2005),1359-1364、]塚崎敦,大友明,川崎雅司 "Repeated temperature modulation epitaxy for p-type doping and light-emitting diode based on ZnO," A. Tsukazaki, A. Ohtomo, T. Onuma, M. Ohtani, T. Makino, M. Sumiya, K. Ohtani, S. F. Chichibu, S. Fuke, Y. Segawa, H. Ohno, H. Koinuma and M. Kawasaki, Nature Mater. 4, 42-46 (2005). H.Kato, S. Yamazaki, Y. Okushi, Appl. Phys. Lett. 86 222111 (2005). Science 287, 1019 (2000).
従来、半導体に不純物をドープする方法に関しては、以下の問題があった。熱拡散を用いる方法では、半導体と不純物元素の組み合わせによって拡散が極めて困難でドーピングが難しい系があることが知られている。特に、ZnOではp型半導体の作成が難しく、ダイヤモンドではn型半導体の作製が難しく、これらは未だに実用化されていない。一方、イオンビームなどの量子ビーム打ち込み法では、母体の半導体が損傷したり、結晶性が劣化したりするので、良好な半導体を得ることが難しかった。また、希薄磁性半導体や、価数が代わる不定比性化合物では、作製に際して、結晶状態を乱さないで組成を変えたり、不純物をドープしたりすることが難しかった。また、構造や欠陥状態をあまり変えないで、組成を変えたり、不純物をドープしたりすることも難しかった。
このように、従来の方法では、不純物をドープしたり、組成を変えたりするなどして、高性能な材料を製造することが容易ではないことがあった。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、従来の方法では製造の困難であった機能材料も製造することの可能な機能材料の製造方法を提供することにある。
本発明の機能材料の製造方法は、薄膜状、板状もしくはバルク状の固相材料からなり、かつ被接触面を有する第一の材料と、所定の元素物質またはそれを含む物質からなる第二の材料とを、被接触面を介して互いに接触させた状態で、第一の材料および第二の材料に対して、第一の材料のうち第二の材料との接触面と交差する方向に高重力をかける高重力場処理を行うことにより、所定の元素物質が被接触面を介して第一の材料内に沈降する重力誘起の拡散を第一の材料内で起こさせるものである。
参考例に係る機能材料は、薄膜状、板状もしくはバルク状の機能材料である。この機能材料は、薄膜状、板状もしくはバルク状の固相材料もしくは液相材料からなる第一の材料と、所定の元素物質またはそれを含む物質からなる第二の材料とを互いに接触させた状態で、第一の材料および第二の材料に対して、第一の材料のうち所定の元素物質またはそれを含む物質との接触面と交差する方向に高重力をかけることにより形成されたものである。
参考例に係る機能材料、および本発明の機能材料の製造方法では、第一の材料および第二の材料に対して高重力場処理が施される。これにより、重力誘起の拡散が生じ、所定の元素物質が第一の材料内に沈降する。ここで、重力誘起の拡散速度は、少なくとも同一温度条件下において熱拡散の速度よりも速い。また、第一の材料に対して所定の元素物質が熱拡散し難い場合であっても、重力誘起の拡散では、第一の材料に対して所定の元素物質を、結晶性を劣化させずに、容易に拡散させることが可能である。
ところで、上記の高重力場処理を行うことにより、重力誘起の拡散に付随して、例えば、重力場下の原子レベルで与えられるボディフォース(体積力)により原子空孔を固相材料もしくは液相材料内に発生させ、固相材料もしくは液相材料内で原子空孔を介在した拡散を起こさせることも可能である。そのようにした場合には、所定の元素物質の、固相材料もしくは液相材料内における拡散速度を著しく大きくすることができる。
また、所定の元素物質の、原子の比重に相当する第一の量(原子量/原子容)が、第一の材料の、原子の比重に相当する第二の量(原子量/原子容)よりも大きい場合には、第一の材料との関係で、第二の材料を重力方向とは反対側に配置することが好ましい。また、上記第一の量が上記第二の量よりも小さい場合には、第一の材料との関係で、第二の材料を重力方向側に配置することが好ましい。そのようにした場合には、所定の元素物質を第一の材料に効率的に拡散させることができる。
また、第一の材料として、Si、Ge、Se、TeもしくはCの単体を用いることが可能である。なお、Cの単体としては、例えば、ダイヤモンド、フラーレン、ナノチューブ、ナノオニオン、ナノホーンまたはグラファイトが含まれる。また、III−V族半導体としてはGaAs、InP、InGaAs、GaInNAs、GaNなどがあり、II−VI族半導体としてはZnO、CdTe、CdSe、ZnSeなどがある。また、第一の材料として、ゼオライト、層間化合物、層状化合物を用いることも可能である。
また、第一の材料としてダイヤモンドを用い、所定の元素物質として、V族、VI族もしくはVII族の元素物質、遷移金属、または希土類元素物質を用いたり、I族、II族、またはIII族の元素物質を用いたりすることが可能である。また、第一の材料としてZnOを用い、所定の元素物質として、I族、II族、III族、IV族もしくはV族の元素物質、遷移金属、または希土類元素物質を用いることも可能である。
また、高重力場処理において、第一の材料の再結晶温度以上であって、かつ第一の材料が固相状態を保つことの可能な温度以下の温度範囲内で、少なくとも1万g(g=9.8m/s)以上の重力加速度を、第一の材料および第二の材料に対して印加することが好ましい。これにより、重力誘起の拡散を生じさせることが可能となる。また、上記重力加速度については、10万g以上であることがより好ましい。これにより、多くの種類の材料において、重力誘起の拡散を生じさせることができる。なお、再結晶温度は、通常、融点(ケルビン)の半分程度の温度である。
また、高重力場処理において、第一の材料および第二の材料を、一の軸を中心として高速回転することの可能なロータ内に設置したのち、ロータを高速回転させ、その高速回転によって発生する遠心力を重力として、第一の材料および第二の材料に対して印加することが可能である。このとき、ロータ内に、回転軸との関係で平行または所定の角度だけ傾いた平面を複数設け、各平面を、第一の材料を設置(固定)する設置面(固定面)として用いることも可能である。これにより、第一の材料に対して、その表面と直交もしくは交差する方向に容易に重力をかけることが可能となる。また、上記ロータ内に多くの第一の材料を設置(固定)することができるので、機能材料を一度に大量に生産することも可能である。
また、上記したようなロータを用いた場合には、高重力場処理において、接触加熱、輻射加熱またはレーザ加熱によって加熱されたロータを介して、第一の材料および第二の材料を加熱することも可能である。また、上記したようなロータを用いるか否かに拘わらず、高重力場処理において、接触加熱、輻射加熱またはレーザ加熱によって、第一の材料および第二の材料を直接、加熱することも可能である。
また、高重力場処理において、拡散係数を大きくするために、第一の材料の温度を当該第一の材料の再結晶温度に近い温度にしてもよいし、当該第一の材料の融点温度に近い温度にしてもよい。また、高重力場処理において、第一の材料に対して加熱または冷却を行うようにしてもよい。また、高重力場処理を行ったのち、第一の材料をアニールすることも可能である。アニールを行うことにより、第一の材料の結晶状態を改善させることができ、高機能材料の特性を向上させることができる。
参考例に係る高重力場発生装置用ロータは、一の軸と直交する面内において前記軸を中心として点対称の形状となっており、かつ軸との関係で平行または所定の角度だけ傾いた平坦面を複数有する側面によって囲まれた内部空間を有している。
参考例に係る高重力場発生装置用ロータでは、ロータ内に、軸(回転軸)との関係で平行または所定の角度だけ傾いた平坦面を複数有する側面によって囲まれた内部空間が設けられている。これにより、平坦面に試料を設置(固定)したのち、ロータを高速回転させ、その高速回転によって発生する遠心力を重力として、試料に対して印加することが可能である。ここで、参考例に係る高重力場発生装置用ロータでは、試料を設置する部位が平坦面となっている。そのため、円筒状の試料カプセルを用いた従来のロータよりも、大きな試料を処理することができ、また、一度に大量の試料を処理することが可能である。
参考例に係る機能材料、および本発明の機能材料の製造方法によれば、第一の材料および第二の材料に対して高重力場処理を行うようにしたので、重力誘起の拡散によって、所定の元素物質を第一の材料内に沈降させることができる。これにより、所定の元素物質が第一の材料に熱拡散し難い場合であっても、所定の元素物質を第一の材料内に拡散させることができるので、所定の機能材料を作成することができる。しかも、熱拡散の速度よりも速い速度で所定の元素物質を拡散させることができるので、所定の機能材料を短時間で作成することができる。
また、参考例に係る機能材料、および本発明の機能材料の製造方法では、拡散現象を用いているので、イオンビームなどの量子ビーム打ち込み法において生じるような損傷を第一の材料に対して生じさせる可能性は小さく、量子ビーム打ち込みなどのような結晶状態の乱れが生じる可能性は無い。また、重力誘起の拡散によって、例えば、希薄磁性半導体や、ペロブスカイト構造の強相関化合物、銅酸化物超伝導体、鉄系酸化物超伝導体、スクッテルダイト型化合物などの価数が代わる不定比性化合物などを製造する際に、結晶状態を乱さないで組成を変えたり、不純物をドープしたりすることが可能である。また、重力誘起の拡散によって、上で例示したものを製造する際に、構造や欠陥状態をあまり変えないで、組成を変えたり、不純物をドープしたりすることも可能である。
以上のことから、参考例に係る機能材料、および本発明の機能材料の製造方法では、従来の方法で製造可能な機能材料だけでなく、従来の方法では製造の困難であった機能材料をも製造することが可能である。
また、参考例に係る高重力場発生装置用ロータによれば、ロータ内に、軸(回転軸)との関係で平行または所定の角度だけ傾いた平坦面を複数有する側面によって囲まれた内部空間を設けたので、従来よりも、大きな試料を処理することができ、また、一度に大量の試料を処理することができる。従って、本発明の高重力場発生装置用ロータでは、生産性が高く、生産コストを大幅に低減することが可能である。
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に実施の形態という)について、図面を参照して詳細に説明する。なお、説明は以下の順序で行う。

1.実施の形態(固相材料−固相材料のケース、ロータ)
2.変形例(固相材料−液相材料のケース)
3.変形例(固相材料−気相材料またはプラズマ状態の材料のケース)
4.変形例(液相材料−液相材料のケース)
5.変形例(液相材料−気相材料またはプラズマ状態の材料のケース)
6.変形例(他のロータ)
7.実施例(固相材料−固相材料のケース)
図1(A)は、本発明の一実施の形態に係る機能材料の製造方法に用いられる高重力場発生装置の断面構成の一例を表したものである。図1(B)は、図1の高重力場発生装置のA−A矢視方向の断面構成の一例を表したものである。
[高重力場発生装置]
まず、高重力場発生装置について説明する。この高重力場発生装置は、板状試料用に好適に適用可能なものであり、一の軸AXを中心として長時間安定的に高速回転することの可能なロータ10と、ロータ10を、軸AXを中心として高速回転させる駆動部(図示せず)とを備えている。ロータ10は、軸AXと直交する面内において軸AXを中心として点対称の形状となっており、例えば、図1(A)に示したような釣鐘状の形状となっている。ロータ10の底面には、ロータ10内に設けられた内部空間10Bとロータ10の外部空間とを連通する開口10Aが設けられている。内部空間10Bは、例えば、図1(A),(B)に示したように、軸AXと平行な平坦面(設置面10C)を複数有する多面体の側面によって囲まれている。この内部空間10Bは、さらに、軸AXと直交するかまたは設置面10Cと鋭角で交差する平坦面を有する底面10Dと、底面10Dおよび開口10Aと所定の間隙を介して対向する上面10Eとによって囲まれており、多角柱状の空間となっている。設置面10Cは、試料20を設置する面であり、ロータ10を回転させた際に試料20に対して印加される遠心力の向きを規定する役割を有している。また、底面10Dは、試料20を設置面10Cに設置した際に、ロータ10の停止時や回転時に、試料20が設置面10Cから脱落したり、滑って外部に飛び出したりするのを防ぐ役割を有している。従って、この高重力場発生装置は、内部空間10Bの所定の位置に試料20を設置(固定)し、ロータ10を、軸AXを中心軸として高速回転させることにより、試料20に対して所定の方向(例えば、軸AXと直交もしくは交差する方向)に遠心力を印加する機能を有している。なお、図1(A)には、底面10Dが軸AXと直交する平坦面を有している場合が例示されているが、底面10Dが設置面10Cと鋭角で交差する平坦面を有していてもよい。また、例えば、底面10Dに、試料20が設置面10Cから脱落したり、滑って飛び出したりするのを積極的に防止する突起などの構造物が設けられていてもよい。
この高重力場発生装置は、試料20に対し、少なくとも1万g(g=9.8m/s)以上の重力加速度を印加することが可能であり、10万g、100万g程度の重力加速度を印加することも可能である。つまり、この高重力場発生装置は、多くの種類の材料において、後述の重力誘起の拡散や原子空孔を介在した拡散を生じさせることができるようになっている。また、この高重力場発生装置は、図1(B)に示したように、ロータ10の各設置面10Cに試料20を設置(固定)することができるので、機能材料を一度に大量に生産することも可能となっている。
また、この高重力場発生装置は、図示しないが、ロータ10および試料20の少なくとも一方を、回転時および非回転時のいずれの場合においても加熱(例えば、接触加熱、輻射加熱、レーザ加熱など)することの可能なヒータを備えている。ここで、ロータ10自身がヒータによって直接、加熱されるようになっている場合には、ロータ10は、ロータ10の熱を試料20に伝達することの可能な材料(例えば、インコネル(高温に強い材料)などの鉄鋼材料、Ti(チタン)−6Al(アルミニウム)−4V(バナジウム)合金など)によって構成されている。また、試料20そのものがヒータによって直接、加熱されるようになっている場合には、ロータ10は、ヒータから発せられたエネルギーが試料20に直接、伝達されるような機構を備えている。なお、このロータ10は、ヒータの他に、ロータ10および試料20の少なくとも一方を冷却するクーラなどを備えていてもよい。
[試料20]
次に、試料20について説明する。図2(A),(B)は、ロータ10内に置かれた試料20の断面構成の一例を表したものである。なお、図2(A),(B)には、試料20が内部空間10Bの側面(設置面10C)と、底面10Dとに接するように配置(固定)されている場合が例示されている。試料20は、図2(A),(B)示したように、材料の互いに異なる固相材料21,22を互いに接触させたものである。固相材料21と固相材料22との接触面20Aは、ロータ10の軸AXと平行となっており、ロータ10の回転面と直交している。
固相材料21は、固相材料22を利用して組成を変えたり、不純物をドープしたりする被加工対象物であり、薄膜状、板状もしくはバルク状となっている。この固相材料21は、被加工対象物となり得る材料であればどのような材料であってもよく、例えば、半導体、共有結合化合物、イオン化合物、有機物、熱電能物質などによって構成されている。また、この固相材料21は、例えば、単結晶、多結晶、アモルファス、高分子、ゼオライト、層間化合物、層状化合物などによって構成されている。
ここで、半導体としては、例えば、III、IVまたはV族の元素の単体や、III−V族元素の合金、遷移元素化合物、窒化物、または遷移金属酸化物などがある。共有結合化合物やイオン化合物としては、例えば、銅酸化物超伝導体、酸化物巨大磁気抵抗物質などの強相関物質、ペロブスカイト酸化物、最近の鉄系酸化物超伝導体(LnOMPn(Ln=ランタン系元素、M=遷移金属、Pn=P、AsまたはSb)系化合物)、スクッテルダイト型化合物などの価数が代わる不定比性化合物などがある。
半導体としては、例えば、Si、Ge、Se、TeもしくはCの単体が挙げられる。なお、Cの単体には、ダイヤモンドの他、フラーレン、ナノチューブ、ナノオニオン、ナノホーン、グラファイトなどが含まれるが、これらに不純物を入れると、特異な半導体特性や、超伝導特性、光触媒特性、電池などの機能を示すことが知られている。その他の半導体としては、GaAs、InP、InGaAs、GaInNAsもしくはGaNを主に含むIII−V族半導体や、ZnO、CdTe、CdSeもしくはZeSeを主に含むII−VI族半導体が挙げられる。
有機物半導体としては、低分子ではテチラセン、ペンタセンなどのアセン族、オリゴチオフェン誘導体、フタロシアニン類、ペリシン誘導体などのジアミン誘導体がある。高分子では、ポリ(3‐アルキルチオフェン)などポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリトリアリルアミンなどが挙げられる。
熱電能物質では、不純物をドープしたり、組成を変化させたりすることにより特性を向上させることができる。熱電能材料としては、全率固溶型ビスマス(Bi)−アンチモン(Sb)合金、カドミウム(Cd)−アンチモン系金属間化合物、ビスマス−テルル(Te)系半導体化合物(BiTe)、または全率固溶型セレン(Se)−テルル系半導体固溶体などが挙げられる。例えば、セレン(Se)の76Se,78Se,80Seおよび82Se、テルル(Te)の125Te、126Te、128Teおよび130Te、シリコン(Si)の28Si、29Siおよび30Siなどが挙げられる。MxCoSb12(M=Ge、SbまたはPb)などのクッテルダイト型化合物も挙げられる。
希薄磁性半導体としては、例えば、In−As、Ga−As、ZnTe、GaN、ZnO、TiOなどが挙げられる。銅酸化物超伝導体としては、例えば、YBaCu7−xなどのY系、BiSrCaCu10などのBi系、TlBaCan−1CuO2n+4などのTl系、HgBaCan−1CuO2n+4+δなどのHg系が挙げられる。また、鉄系酸化物超伝導体には、La(O1−x)FeAs(ランタン、酸素、フッ素、鉄、ヒ素)などが挙げられる。
また、固相材料21として用いられる層状化合物としては、無機層状化合物、有機層状化合物、または無機有機層状化合物などがある。層状化合物の中には、その二次元構造を保持したままで、内部に原子、分子、イオンなどを取り込むことの可能な化合物が存在する。そのような化合物に、原子、分子、イオンなどを取り込ませることにより、耐熱性や強度をはじめとする材料特性を向上させたり、新機能を発現させたりすることが可能である。また、層状化合物の構造によっては、層状化合物の積層面内方向に重力(遠心力)を印加したときに、内部に原子、分子、イオンなどを拡散させ易くなる場合がある。
固相材料22は、被加工対象物である固相材料21の組成を変えたり、固相材料21に不純物をドープしたりするのに必要な所定の元素物質からなるか、またはその所定の元素物質を含む物質によって構成されている。
例えば、固相材料21としてダイヤモンドを用いる場合には、所定の元素物質として、V族(例えばP、As)、VI族もしくはVII族の元素物質、遷移金属、または希土類元素物質を用いたり、I族、II族またはIII族(例えばB)の元素物質を用いたりすることが可能である。
なお、ダイヤモンドは、ホウ素(B)をドープすることによって、超伝導を示す。超伝導の臨界温度はMcMillianの式によるとデバイ温度に比例するが、ダイヤモンドのデバイ温度は非常に高いので、ダイヤモンドは有力な高温超伝導候補物質である。ダイヤモンドにBやAlなどをドープするとアクセプタが導入されp型半導体になる。また、青色ダイヤモンドとなり宝石としての価値も高まる。また、P、N、Sなどをドープするとン型半導体になる。ホウ素をドープしたダイヤモンドは金属化し、超伝導を示すことがわかっている。また、フラーレンやグラファイトも超伝導を示し、不純物で臨界温度も変化する。
また、例えば、固相材料21としてZnOを用いる場合には、所定の元素物質として、I族(例えばNa)、II族(例えばMg、Be)、III族(例えばB)、IV族(例えばC)もしくはV族(例えばN)の元素物質、遷移金属、または希土類元素物質を用いることが可能である。
ここで、所定の元素物質の、原子の比重に相当する第一の量(原子量/原子容)が、固相材料21の、原子の比重に相当する第二の量(原子量/原子容)よりも大きい場合には、例えば、図2(A)に示したように、固相材料21との関係で、固相材料22は遠心力方向とは反対側に配置されることが好ましい。また、上記第一の量が上記第二の量よりも小さい場合には、例えば、図2(B)に示したように、固相材料21との関係で、固相材料22は遠心力方向側に配置されることが好ましい。そのようにした場合には、後述する重力誘起の拡散の原理によって、所定の元素物質を固相材料21に効率的に拡散させることができる。
次に、上述した「重力誘起の拡散」と、「原子空孔を介在した拡散」の2種類の拡散の原理について、試料20の加工手順と併せて説明する。図3(A),(B)は、重力誘起の拡散の原理について説明するための模式図であり、図4は、原子空孔を介在した拡散の原理について説明するための模式図である。なお、以下の説明では、図3(A)に例示したように、固相材料21が、比重相当量(上記の第一の量)の小さな原子(細線の丸)によって構成され、固相材料22が、比重相当量(上記の第二の量)の大きな原子(太線の丸)によって構成されているものとする。
[重力誘起の拡散]
まず、図2(A)に示したように、固相材料21が設置面10C側(遠心力方向側)に、固相材料22が設置面10Cとは反対側(遠心力方向とは反対側)にそれぞれ配置されるように、試料20をロータ10の内部空間10B内に配置(固定)する。
次に、ロータ10を高速に回転駆動し、その高速回転によって発生する遠心力を重力として、試料20に対して印加する。このとき、遠心力の方向は、試料20の接触面20Aと交差(直交)する方向を向いている。また、重力加速度は、少なくとも1万g(g=9.8m/s )以上であることが必要であり、10万g以上であることが好ましい。これにより、高重力場下では、圧力場下において原子の種類に関係なく均等に圧力を受ける場合とは異なり、原子量の大きさの違いによって、原子には選択的かつ直接的に、異なるボディフォース(体積力)が印加される。
例えば、図3(A)に示したように、遠心力Fが印加されている高重力場下において、原子量の大きな原子(太線の丸)には遠心力Fと同一方向にボディフォースF1が印加され、原子量の小さな原子(細線の丸)には遠心力Fと反対方向にボディフォースF2が印加される。なお、図3(A)では、見やすさを優先して、原子量の大きな原子(太線の丸)のうちの1つにだけボディフォースF1に相当する矢印を記載し、原子量の小さな原子(細線の丸)のうちの1つにだけボディフォースF2に相当する矢印を記載した。
更に、長時間、高重力場処理を行った際に、ある原子の重力ポテンシャルと、その周囲の平均化された重力ポテンシャルとの差が大きくなると、例えば、図3(B)の矢印D1で示したように、比重相当量の大きな原子(太線の丸)が重力(遠心力)方向に移動するようになる。このとき、比重相当量の小さな原子(細線の丸)は、例えば、図3(B)の矢印D2で示したように、重力(遠心力)とは反対方向に移動するようになる。そして、重力ポテンシャルと、その周囲の平均化された重力ポテンシャルとの差が、化学ポテンシャルと比較して、同等か、それ以上となると、極めて多数の原子が移動するようになる。つまり、高重力場下では、原子の沈降(重力誘起の拡散)が生じ、それによって、重力(遠心力)方向に沿って方位が揃うように結晶成長すると同時に、組成傾斜構造が形成されたり、不純物元素がドープされたりする。
なお、ボディフォースF1,F2により、原子量の大きな原子(太線の丸)は原子量の小さな原子(細線の丸)よりもより強い重力(遠心力)を受けて、原子量の大きな原子(太線の丸)が一軸方向に変位する。これにより、試料20の結晶は一次元格子歪みを有する特殊な結晶状態となって結晶欠陥が生じることがある。その結果、そこから、ニュークリエーションが起こり、それによって再結晶が多数起こり、微細化が生じることがある。
なお、上述の高重力場処理に伴って、試料20を加熱または冷却することが好ましい。例えば、固相材料21の温度が、当該固相材料21の再結晶温度以上であって、かつ固相材料21が固相状態を保つことの可能な温度以下の温度範囲内となるように、試料20を加熱することが好ましい。また、固相材料21の温度は、固相材料21の再結晶温度に近い温度であってもよいし、固相材料21の融点温度に近い温度であってもよい。試料20の加熱は、ヒータによる直接的な加熱であってもよいし、ヒータによって温められたロータ10を介した間接的な加熱であってもよい。
[原子空孔を介在した拡散]
上記の高重力場処理を行っていると、重力誘起の拡散に付随して、重力場下の原子レベルで与えられるボディフォースによる結晶歪みにより、例えば、図4に示したように、原子空孔Hが固相材料21内に多数発生し、固相材料21内で原子空孔Hを介在した拡散が起こる。これにより、固相材料22内の所定の元素物質の、固相材料21内における拡散速度を著しく大きくすることができる。その結果、固相材料21の組成を変えたり、固相材料21に不純物をドープしたりする速度が極めて高速になり、熱拡散などよりも大幅に処理時間を短縮することができる。なお、固相材料21内に原子空孔Hが多数生じると、固相材料21の結晶性が若干悪くなるが、その程度は、イオンビームなどの量子ビーム打ち込み法によって生じる結晶性の劣化や結晶破壊などとは比べものにならないくらい小さなものである。また、重力(遠心力)の大きさを適切に制御することにより、組成の均一な材料や、不純物濃度の均一な材料を作製することも可能である。従って、既存の技術には無い高性能かつ高品質な材料を作製することが可能である。
なお、上述した重力誘起の拡散速度は、高重力場下では、少なくとも同一温度条件下において熱拡散の速度よりも速い。これは、重力の大きさに比例して移動速度(ドリフト速度)が速くなったり、空孔が多数発生することによって拡散係数が大きくなったりするからである。また、高重力場下では、現在まだ解明されていないメカニズムによっても拡散が起こっているものと思われ、その影響によっても重力誘起の拡散速度が速くなっているものと思われる。また、固相材料21に対して固相材料22内の所定の元素物質が熱拡散し難い場合であっても、重力誘起の拡散では、固相材料21に対して固相材料22内の所定の元素物質を容易に拡散させることが可能である。
なお、固相材料21として、厚さ2mm以下の単層もしくは多層構造の薄板材または薄膜材を用いてもよいし、厚さ100μm以下の薄膜材を用いてもよい。固相材料21としてこのようなものを用いた場合には、高重力場処理による原子の沈降が定常状態に達するのに必要な時間を大幅に短縮することができるので、固相材料21全体の結晶成長および組成傾斜を相対的に短い時間で達成することができる。なお、固相材料21として、バルク材(典型的には2mmを超える厚さを有する材料)を用いることももちろん可能である。
ところで、上記の高重力場処理を行ったのち、必要に応じて、試料20(固相材料21)をアニールすることが好ましい。アニールによって、固相材料21の結晶状態を改善させることができ、固相材料21の特性を向上させることができる。
このように、本実施の形態の機能材料の製造方法では、試料20に対して高重力場処理が施される。これにより、重力誘起の拡散が生じるので、固相材料22内の所定の元素物質を固相材料21内に拡散させることができる。これにより、固相材料22内の所定の元素物質が固相材料21に熱拡散し難い場合であっても、固相材料22内の所定の元素物質を固相材料21内に拡散させることができるので、所定の機能材料を作成することができる。しかも、熱拡散の速度よりも速い速度で固相材料22内の所定の元素物質を拡散させることができるので、所定の機能材料を短時間で作成することができる。
また、本実施の形態では、拡散現象を用いているので、イオンビームなどの量子ビーム打ち込み法において生じるような損傷を固相材料21に対して生じさせる可能性はない。また、重力誘起の拡散によって、例えば、希薄磁性半導体や、ペロブスカイト構造の強相関化合物、銅酸化物超伝導体、鉄系酸化物超伝導体、スクッテルダイト型化合物などの価数が代わる不定比性化合物などを製造する際に、結晶状態を乱さないで組成を変えたり、不純物をドープしたりすることが可能である。また、重力誘起の拡散によって、上で例示したものを製造する際に、構造や欠陥状態をあまり変えないで、組成を変えたり、不純物をドープしたりすることも可能である。
以上のことから、本実施の形態では、従来の方法で製造可能な機能材料だけでなく、従来の方法では製造の困難であった機能材料をも製造することが可能である。
また、本実施の形態の製造方法において用いられた高重力場発生装置では、試料20を設置する部位(設置面10C)が平坦面となっている。そのため、円筒状の試料カプセルを用いた従来の装置よりも、大きな試料を処理することができ、また、一度に大量の試料を処理することが可能である。従って、この高重力場発生装置を用いることにより、高い生産性が得られ、また、生産コストを大幅に低減することができる。
[変形例]
上記実施の形態では、被加工対象物である固相材料21の組成を変えたり、固相材料21に不純物をドープしたりするのに必要な所定の元素物質の供給源が、固相材料(固相材料21)によって構成されていたが、液相材料、気相材料またはプラズマ状態によって構成されていてもよい。また、上記した所定の元素物質の供給源が、固相状態、液相状態および気相状態の少なくとも1つの状態となっていればよく、単一の相状態となっている必要はない。なお、上記した所定の元素物質またはそれを含む物質が、液相状態となっている場合には、ロータ10は、液相状態の材料をロータ10内で保持することの可能な構造物を備えていることが好ましい。例えば、図5(A),(B)に示したように、底面10Dの開口10A側の端部に壁10Fを設け、液相状態の材料が開口10Aから漏れ出さないようにすることが可能である。また、上記した所定の元素物質またはそれを含む物質が、気相状態またはプラズマ状態となっている場合には、ロータ10は、気相状態またはプラズマ状態の材料がロータ10内の固相材料21の表面に十分に到達するような機構を備えていることが好ましい。
また、上記実施の形態では、被加工対象物(固相材料21)が固相材料によって構成されていたが、液相材料によって構成されていてもよい。また、被加工対象物(固相材料21)が固相状態および液相状態の少なくとも1つの状態となっていればよく、単一の相状態となっている必要はない。なお、被加工対象物の全体または一部が、液相状態となっている場合には、ロータ10は、その被加工対象物をロータ10内で保持する機構を備えていることが好ましい。また、被加工対象物の全体または一部が、液相状態となっている場合に、上記した所定の元素物質の供給源が、液相材料または気相材料によって構成されていてもよい。
また、上記実施の形態では、ロータ10の設置面10Cが軸AX1(回転軸)と平行な平面となっていたが、軸AX1(回転軸)との関係で所定の角度だけ傾いた傾斜面となっていてもよい。また、上記実施の形態では、試料20に対して高重力場処理を施すために、図1(A)に示したようなロータ10を用いたが、それ以外の装置(例えば、特開2003−103199号公報や、特開平9−290178号公報などに記載されているような、従来から用いられている一般的な装置)を用いてもよい。
また、上記実施の形態では、ロータ10の開口10Aが鉛直下側に向いている場合が例示されていたが、開口10Aが鉛直上側に向いていてもかまわないし、横に向いていてもかまわない。ただし、開口10Aが鉛直上側に向いている場合には、上記実施の形態における上面10Eが底面として機能し、開口10Aが横に向いている場合には、上記実施の形態における側面(設置面10C)が底面として機能する。
[実施例]
以下、本発明の具体的な実施例について詳細に説明する。
本実施例では、固相材料21として、GIRMET Ltd, (Russia)社の50.8mmφ×0.45mmTのInSb(100)単結晶ウェハ半導体試料を用いた。
まず、上記単結晶ウェハから3mm角のチップを切り出す。次に、PVD蒸着法を用いて、この試料の鏡面研磨面に、1μm厚のゲルマニウム(Ge)薄膜を固相材料22として作成した。Ge薄膜の成膜条件は、基盤温度100℃、約5.0×10−5Paとした。なお、このGeが、後に固相材料21のドーパント不純物となる。
ここで、固相材料21としてInSbを選択したのは、InSbが、InSbの融点が525℃と半導体の中では比較的低融点な材料であり、重力による効果が見込まれる再結晶温度以上での実験を行うことができるからである。また、固相材料22としてGeを選択したのは、Geが、InSbのドーパントとして一般に用いられており、また、Geの融点がInSbの融点よりも高く、固相拡散による不純物濃度変化を観測することが可能だからである。
次に、固相材料22が遠心力(重力)方向側に配置されるように、ロータ10内に試料20を入れた。Geの比重相当量(原子量/原子容)がIn、Sbの双方の原子の比重相当量(原子量/原子容)よりも小さく、重力誘起の拡散によって、軽いGeが遠心力方向とは逆の方向に沈降していくからである。
(実施例1)
次に、作製した試料20(出発材料)を、出発材料の融点(約525℃)よりも低い400℃±2℃の温度に加熱して固相状態に保ちつつ、重力加速度59.4万g以上58.6万g以下の重力場、約20Paの減圧下で60時間の重力場処理を施した。減圧は遠心回転の安定化を目的としたものである。重力場処理を施した後の材料について、回転軸を有する面から材料を切断し、表面研磨したあと、組織観察およびSIMS(二次イオン質量測定法)による74Geの不純物侵入深さと、74Geの濃度とを測定した。また、出発材料を、約20Pa下で400℃、60時間熱拡散させることにより得られた材料についても、比較のため同様の測定を行った。
図6は、SIMSによる74Ge不純物侵入深さおよび74Ge濃度の測定結果である。図6から、74Geの侵入深さが通常の熱処理の4倍以上の約15μmであることを確認できた。なお、EPMA(電子線プローブ微小分析)でも濃度分布分析を行ったが、非常に少量の原子量であったためGeの観察は不可能であった。
同様に、Mn薄膜またはZn薄膜を有するInSbチップを用い、同じく400℃±2℃、重力加速度59.4万g以上58.6万g以下の重力場、約20Paの減圧下で60時間の重力場処理を施した。不純物Mnは希薄磁性半導体作成を目的とし、Znはより深いn型準位の形成を目的として選んだ。その結果、SIMS測定により深さ方向の各原子濃度を測定した結果、深さ方向に化学反応を伴った拡散による周期的な波型の増減をもつ原子濃度変化が得られた。
また、これらの材料についてEPMAで面分析したところ、化学反応や析出を駆動力として、不純物原子がGeのEPMA観察結果よりも高濃度で侵入し、10μm以上の原子移動を確認できた(図7参照)。また、Mn、Znは遷移金属であり、Sbと積極的な化学反応(高親和性)をするので、Inとは薄膜表面から反発に近い高速拡散を確認できた。化学反応拡散は方向性を持たないので、重力方向に依存性の少ないランダムな縞状の層状組織が形成されているのを確認できた。
なお、図7において、左側の4つの図がMn薄膜の結果を、右側の4つの図がZn薄膜の結果をそれぞれ表している。左側の4つの図のうち左上の図はIn濃度を、右上の図はSb濃度を、左下はMn濃度を、右下の図は電子顕微像をそれぞれ表している。右側の4つの図のうち左上の図はIn濃度を、右上の図はSb濃度を、左下はZn濃度を、右下の図は電子顕微像をそれぞれ表している。色が明るいほど高濃度であることを示している。重力方向は下方向となっている。
(実施例2)
続いて、単結晶InSb出発試料(試料A)と、高遠心処理(約40万G、400度、50時間)した単結晶InSb試料(試料B)について、ホール効果測定によりキャリア移動度とホール密度を測定した。
図8は試料A,Bのキャリア移動度とホール密度の測定結果である。図8から、試料Bにおいて、試料Aと比べて、キャリア移動度が1/2、キャリア濃度が2倍になった。
InSbはノンドープでもSbの欠陥によってn型の半導体特性を示し、その移動度はGaAsに匹敵するほど高い。通常、不純物によるキャリア濃度の増加を行うと、キャリア移動度とキャリア濃度は比例関係にある。しかし、今回は、遠心処理によって結晶性が崩れたため移動度が下がり、高重力場により空孔(欠陥)が導入されため「空孔ドープ」によるキャリア濃度の増加が生じた。
(実施例3)
本実施例では、固相材料21として全率固溶型ビスマス−アンチモン(7Bi−3Sb)合金を用いた。
まず、ビスマス(Bi)とアンチモン(Sb)とを所定の混合比で混合した混合物を真空雰囲気中で溶融法を用いて溶解させたのち、炉冷で凝固させることにより、モル比においてBi:Sb=7:3である7Bi−3Sb合金(以下、これを出発材料と呼ぶ。)を作製した。表面研磨したあと、組織観察および面領域の組成分析を行った。7Bi−3Sb合金は樹枝状結晶になりやすく、今回得られた試料にも図9に示すように、それに伴った組成の偏析が見えた。なお、図9の4つの図のうち左上の図はIn濃度を、右上の図はSb濃度を、左下は電子顕微像を、右下の図は任意横軸領域での濃度グラフをそれぞれ表している。色が明るいほど高濃度であることを示している。大きな濃度偏析を確認できた。
次に、作製した出発材料を、以下に実験条件1,2として示したように、出発材料(7Bi−3Sb合金)の融点(約300℃)よりも低い温度に加熱して固相状態に保ちつつ、重力場処理を施した。また、アニール(200度、24時間のアニール)のみ行った材料についても、回転軸を有する面から材料を切断し、表面研磨したあと、組織観察および面領域の組成分析を行った。
<実験条件1>240℃、重力加速度18万gの重力場で10時間
<実験条件2>250℃、重力加速度85万gの重力場で5時間
図10は熱処理のみの材料の結果であり、図11は<実験条件1>の材料の結果であり、図12は<実験条件2>の材料の結果である。図10、図11、図12から、24時間程度のアニールでは組成の均一化は確認できなかったが、遠心処理では比較的早い時間で高いアニールの効果が見られ、5時間、10時間と時間が延びるにつれて組成の均一性が増し、重力加速度も10万G以上と比較的小さな値で十分効果が見られた。図11からは、5時間という短時間でも偏析が改善されている様子が分かる。
なお、図10、図11のそれぞれにおける4つの図のうち左上の図はIn濃度を、右上の図はSb濃度を、左下は電子顕微像を、右下の図は任意横軸領域での濃度グラフをそれぞれ表している。図12の4つの図のうち左上の図はIn濃度を、右上の図はSb濃度を、左下は任意横軸領域での濃度グラフを、右下の図は電子顕微像をそれぞれ表している。
本発明の一実施の形態に係る製造方法に用いられるロータの一構成例を表した断面図である。 図1の試料の一構成例を表した断面図である。 重力誘起拡散について説明するための模式図である。 原子空孔を介在した拡散について説明するための模式図である。 図1のロータの他の構成例を表した断面図である。 実施例1および比較例におけるGe拡散深さのSIMS計測値を示した図である。 実施例1でのMn薄膜またはZn薄膜を有するInSbチップにおける面領域組成のEPMA計測値を示した図である。 実施例2での試料A,Bにおけるホール濃度およびキャリア移動度の計測値を示した図である。 実施例3でのBiSb出発材料の面領域組成のEPMA計測値を示した図である。 実施例3でのアニールのみ行った材料の面領域組成のEPMA計測値を示した図である。 実施例3での実験条件1の材料の面領域組成のEPMA計測値を示した図である。 実施例3での実験条件2の材料の面領域組成のEPMA計測値を示した図である。
符号の説明
10…ロータ、10A…開口、10B…内部空間、10C…設置面、10D…底面、10E…上面、20…試料、20A…接触面、21,22…固体材料、AX…軸、F…遠心力、F1,F2…ボディフォース、H…原子空孔。

Claims (10)

  1. 薄膜状、板状もしくはバルク状の固相材料からなり、かつ被接触面を有する第一の材料と、所定の元素物質またはそれを含む物質からなる第二の材料とを、前記被接触面を介して互いに接触させた状態で、前記第一の材料および前記第二の材料に対して、前記被接触面と交差する方向に高重力をかける高重力場処理を行うことにより、前記所定の元素物質が前記被接触面を介して前記第一の材料内に沈降する重力誘起の拡散を前記第一の材料内で起こさせる
    ことを特徴とする機能材料の製造方法。
  2. 前記第二の材料は、固相状態、液相状態、気相状態およびプラズマ状態の少なくとも1つの状態となっている
    ことを特徴とする請求項1に記載の機能材料の製造方法。
  3. 前記高重力場処理を行うことにより、前記重力誘起の拡散に付随して、重力場下の原子レベルで与えられるボディフォースにより原子空孔を前記第一の材料内に発生させ、前記第一の材料内で前記原子空孔を介在した拡散を起こさせる
    ことを特徴とする請求項1に記載の機能材料の製造方法。
  4. 前記所定の元素物質の、原子の比重に相当する第一の量(原子量/原子容)が、前記第一の材料の、原子の比重に相当する第二の量(原子量/原子容)よりも大きい場合には、前記第一の材料との関係で、前記第二の材料が重力方向とは反対側に配置され、前記第一の量が前記第二の量よりも小さい場合には、前記第一の材料との関係で、前記第二の材料が重力方向側に配置される
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の機能材料の製造方法。
  5. 前記第一の材料は、Si、Ge、Se、TeもしくはCの単体であるか、GaAs、InP、InGaAs、GaInNAsもしくはGaNを主に含むIII−V族半導体であるか、またはZnO、CdTe、CdSeもしくはZeSeを主に含むII−VI族半導体である
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機能材料の製造方法。
  6. 前記Cの単体は、ダイヤモンド、フラーレン、ナノチューブ、ナノオニオン、ナノホーンまたはグラファイトである
    ことを特徴とする請求項5に記載の機能材料の製造方法。
  7. 前記第一の材料は、ゼオライト、層間化合物、層状化合物である
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機能材料の製造方法。
  8. 前記第一の材料は、ダイヤモンドであり、
    前記第二の材料は、I族、II族、III族、V族、VI族もしくはVII族の元素物質、遷移金属、または希土類元素物質を含む
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機能材料の製造方法。
  9. 前記第一の材料は、ZnOであり、
    前記第二の材料は、I族、II族、III族、IV族もしくはV族の元素物質、遷移金属、または希土類元素物質を含む
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機能材料の製造方法。
  10. 前記高重力場処理において、前記第一の材料の再結晶温度以上であって、かつ前記第一の材料が固相状態を保つことの可能な温度以下の温度範囲内で、1万g(g=9.8m/s2)以上の重力加速度を、前記第一の材料および前記第二の材料に対して印加する
    ことを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項に記載の機能材料の製造方法。
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