JP5197922B2 - 糖鎖マーカー認識プローブ、それを用いた神経突起伸長阻害剤、ニューロン染色剤、腫瘍細胞染色剤、免疫組織染色剤、薬学的組成物および医薬 - Google Patents
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Description
本発明の腫瘍細胞染色剤は、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)の少なくとも一方を認識可能な糖鎖マーカー認識プローブを含む腫瘍細胞染色剤である。
本発明の薬学的組成物の製造方法は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物の製造方法であって、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブにより、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を含む硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を認識し、その硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性成分として薬学的組成物を製造し、前記活性成分が、ウィルス感染阻害活性、ヘルペスウィルス感染阻害活性、デングウィルス感染阻害活性、細胞増殖阻害活性、細胞死誘導活性、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍細胞転移阻害活性、腫瘍細胞遊走阻害活性、および腫瘍細胞死誘導活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有することを特徴とする。
本発明の医薬の製造方法は、硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む医薬の製造方法であって、前記本発明の糖鎖マーカー認識プローブにより、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を含む硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を認識し、その硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性成分として医薬を製造し、前記医薬が、ウィルス感染、ヘルペスウィルス感染、デングウィルス感染、および細胞の増殖からなる群から選択される少なくとも一つに関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬であることを特徴とする。
すなわち、CSは、コンドロイチン硫酸を意味する。
DSは、デルマタン硫酸を意味する。
GAGは、グリコサミノグリカンを意味する。
PGは、プロテオグリカンを意味する。
GlcUAは、D-グルクロン酸を意味する。
GalNAcは、N-アセチルガラクトサミドを意味する。
IdoUAは、L-イズロン酸を意味する。
2Sは、2-O-硫酸を意味する。
4Sは、4-O-硫酸を意味する。
6Sは、6-O-硫酸を意味する。
MKは、ミッドカインを意味する。
C4STは、コンドロイチン-4-O-スルホトランスフェラーゼを意味する。
D4STは、デルマタン-4-O-スルホトランスフェラーゼを意味する。
GalNAc4S-6STは、N-アセチルガラクトサミン-4-硫酸-6-O-スルホトランスフェラーゼを意味する。
P-ORNは、ポリ-DL-オルニチンを意味する。
NFは、ニューロフィラメントを意味する。
MAP2は、微小管結合タンパク質2を意味する。
PAPSは、ホスホアデノシン5'-ホスホ硫酸を意味する。
ELISAは、酵素結合免疫吸着検定法(enzyme-linked immunosorbent assay)を意味する。
BSAは、ウシ血清アルブミンを意味する。
APSは、アミノプロピル-トリエトキシシランを意味する。
MEは、メルカプトエタノールを意味する。
HPLCは、拘束液体クロマトグラフィーを意味する。
DABは、3,3'-ジアミノベンジジンを意味する。
PTNは、プレイオトロフィン(pleiotrophin)を意味する。
P7は、生後7日を意味する。
E16.5は、胎齢16.5日を意味する。
SS-DSは、サメ皮膚由来DSを意味する。
CS-Aは鯨軟骨に由来し、CS-Bはブタの皮膚に由来し、CS-CおよびCS-Dはサメ軟骨に由来し、CS-Eはイカ軟骨に由来し、HSは、ウシ腸管粘膜に由来し、コンドロイチナーゼABC(EC 4.2.2.4), AC-1(EC 4.2.2.5)およびB(EC 4.2.2)は、いずれも生化学工業株式会社(日本、東京)から購入した商品名である。メクラウナギ脊索由来のCS-Hは、Nobuko Seno教授(お茶の水女子大学、日本、東京)から提供を受け、サメ皮膚由来のDSは、公知の方法(参考文献17)により調製した。生後7日および妊娠中のddyマウスは、日本エスエルシー株式会社(日本、静岡)から購入した。モノクローナル抗VSVグリコプロテインクローンP5D4は、Sigma社(ミズーリ州セントルイス)から得た。アルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIgG+IgMは、StressGen Biotechnol Corp.社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。Surperdex peptide HR 10/30(商品名)カラムは、GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社(旧名:アマシャム バイオサイエンス株式会社、日本、東京)から購入した。EZ-Link(登録商標)ビオチン-LC-ヒドラジドは、Pierce社(イリノイ州ロックフォード)から得た。偶数の飽和オリゴサッカリド(テトラ〜ヘキサデカサッカリド)フラクションは、参考文献38を参照し、ヒツジ精巣ヒアルロニダーゼを用いた部分酵素消化によりイカ軟骨由来の市販CS-Eから調製した。そして、構造決定したCS-Eのオクタおよびデカサッカリドは、ヒツジ精巣ヒアルロニダーゼを用いたCS-Eの酵素消化により調製した。ポリ-DL-オルニチン(P-ORN)および抗ニューロフィラメント抗体(NF)は、Sigma社から購入した。抗微小管結合タンパク質2(anti-microtubule-associated protein2)(MAP2)は、Leico Technologies Inc.社(ミズーリ州セントルイス)から購入した。ベクタステイン(登録商標)ABCキットは、Vector Laboratories Inc.社から購入した。35S-標識3'-ホスホアデノシン5'-ホスホスルファート(PAPS)は、PerkinElmer Life Sciences社(マサチューセッツ州Wellesley)から購入した。なお、ScFv抗体GD3G7は、Gerdy et al.のファージディスプレイ法により選択することができる。また、GD3G7は、CAT(Cambridge antibody technology)社の抗体ファージディスプレイライブラリーから選択可能である。
抗体の基質特異性を評価するために、ストレプトアビジン被覆プレートを用いた。種々のGAGサブタイプに対する抗体の反応性は、参考文献40を参照し、ELISAにより試験した。簡単に述べると、種々のGAGsを個々にビオチン化し、前記プレート上に固定した。ウェルは、1%ウシ結成アルブミン(BSA)でブロックし、10倍希釈の一次抗体GD3G7でインキュベートした。この抗体はVAVタグを含むため、このタグを、結合した前記抗体の検出に用いた。抗VSVタグマウスモノクローナル抗体P5D4のハイブリドーマ上澄みを0.1% BSA/PBSで5,000倍に希釈して用い、続いてアルカリホスファターゼ結合ヤギ抗マウスIg(G+M)で処理した。酵素活性は、p-ニトロフェニルリン酸を用いて検出し、吸光度は415nmで測定した。
ゼブラフィッシュ由来GalNAc4S-6STは、マウスカウンターパートのクエリーシーケンス(GenBank(登録商標)、アクセスNO. AB 187296)を用い、TBLASTNサーチによりin silicoで同定した。第1のNH2-末端81アミノ酸残基を欠く切断型GalNAc4S-6STをエンコードするcDNAをPCR法で増幅した。前記PCR法には、タンパク質のフルコーディングシーケンスを含むpGEM-Tイージーベクターを用い、さらに、インフレームのBamHI部位を含む5'-プライマー(5'-GCGGATCCGGGCTCTTTTTAACACC-3')および、停止コドン(5'GCGGATCCACCAAGCATCGGCC T-3')から77bp下流に位置するBamHI部位を含む3'-プライマーを用いた。前記PCR法は、KOD-プラス-DNAポリメラーゼ(東洋紡エンジニアリング株式会社、東京)により、94℃で30秒、59℃で42秒および68℃で90秒の30サイクルで行った。前記PCR法による望ましいサイズの生成物は、BamHIにより消化し、発現ベクターpEF-BOS/IP(参考文献41)のBamHI部位にクローン化した。結果として生じたベクターは、インスリンリーダーペプチドを含み、そして、プロテインAのIgG-結合ドメインは、GalNAc4S-6STの切断型に続いていた。
発現プラスミドは、FuGENE(登録商標)6(Roche Applied Science社)を製造者の説明書に従って用い、100mmプレート中でCOS-1細胞内にトランスフェクトした。トランスフェクションから2日後、1ml定量の培地を、10μlのGEヘルスケア バイオサイエンス株式会社(旧名:アマシャム バイオサイエンス株式会社、日本、東京)のIgG-セファロースビーズとともに、4℃で1時間インキュベートした。酵素結合ビーズは、下記アッセイ緩衝液により洗浄および再懸濁し、そして、スルホトランスフェラーゼアッセイの酵素源として用いた。
[35S]標識CS-Bは、前述の通りゲル濾過で単離し、乾燥し、そして、コンドロイチナーゼABC、AC-1またはB(参考文献44)による完全消化にかけた。消化物は、アミンを結合したシリカPA03カラムを用いてアニオン交換HPLCで分析するか(参考文献45)、または、Superdex(登録商標)ペプチドカラム(GEヘルスケア バイオサイエンス株式会社)によりゲル濾過し、0.2M NH4HCO3で平衡化した(参考文献46)。
脳は、生後7日(P7)、P14およびP21のddyマウスから素早く取り出し、そして、粉末化したドライアイス中で凍らせた。連続した脳切片は、ライカ マイクロシステムズ株式会社(東京、日本)のクリオスタットで16μmの厚さに切断し、3-アミノプロピルトリエトキシシラン(APS)でプレコートしたスライドガラス上に解凍マウントし、そして、使用時まで-80℃で保存した。
脳は、P7のddyマウスから素早く摘出し、そして、3.7%ホルムアルデヒド溶液により終夜固定した。組織は、続いて、氷冷した70%、90%および無水エタノールのいくつかの変更により、室温で15分間脱水した。続いて、組織を、50%(v/v)のポリエステルワックスを含む無水エタノール中に37℃で終夜入れ、続いて、90%(v/v)のポリエステルワックスを含む無水エタノール中に37℃で終夜入れた。組織は、90%ワックス溶液中に包埋させ、そして、ブロックはクリオスタット(ライカ マイクロシステムズ株式会社(東京、日本))により連続的に5μmにカットし、スライドガラス上に載せた。前記スライドは、4℃で終夜乾燥し、そして、この温度で使用時まで保存した。免疫染色は、参考文献26の方法で行った。簡単に言うと、ポリエステルワックス切片を、100%、90%および70%エタノールにより室温で脱ワックスし、そして蒸留水で再水和した。この切片は、次に、下記溶液で連続的に処理した。
1) 2.5%過酸化水素を含むPBS (10mM, pH 7.4)で30min;
2) 1% BSA, 4%正常ヤギ血清を含むPBSで60min;
3) 1次抗体を含む1% BSA/PBS (10倍希釈),
4)抗-VSVタグマウスモノクローナル抗体P5D4を含む1% BSA/PBS(3,000倍希釈)のハイブリドーマ上澄み
5) ビオチン化抗マウスIgGを含む1% BSA/PBSで60min;
6) ベクタステインABC溶液を含むPBS(200倍希釈)で60min;および
7) 0.06%ジアミノベンジジンdiaminobenzidine, 0.01%過酸化水素を含むトリス緩衝生理食塩水(20mM, pH, 7.6).
最後に、切片は、エタノール溶液のシリーズで固定し、キシレンベースのマウント培地とともにマウントした。抗体による染色特異性を確認するために、脳切片はコンドロイチナーゼABCプロテアーゼフリー(5mIU/切片)で前処理してCSおよびDSを除去し、そして、GD3G7に対する最小結合サイズを確認し、各1nmolのCS-Eオクタまたはデカサッカリドフラクションを、前記抗体により37℃で1時間プレインキュベートした後前記切片に加え、そして次に、前述の通り免疫染色した。
海馬細胞は、胎齢(日)16.5(E16.5)のマウス脳を用いて培養した(参考文献16および48)。前記海馬は、顕微解剖により得て短時間のトリプシン処理により解離させた。解離細胞は、N2サプリメントを含むイーグルの修飾基本培地(Eagle’s modified essential medium)中に懸濁させ、P-ORN-被覆カバーガラス上に播種し、そして、5%CO2を含む加湿雰囲気中、37℃で培養した。
E16.5マウス由来海馬ニューロンの神経突起伸長は、参考文献16および48の方法によりアッセイした。簡単に言うと、まず、プラスチック製カバーガラス(10×10mm)を、1.5μg/mlのP-ORNを含む0.1Mホウ酸緩衝液(pH8.2)により室温で2時間処理した。次に、PBS中、4℃で終夜、カバーガラス1枚あたり2μg/cm2の用量のCS-Eでさらに被覆し、PBSで3回洗浄し、そして、抗体GD3G7(10および100μg/ml)で被覆した。室温で2時間インキュベーション後、前記カバーガラスをPBSで3回洗浄し、そして次に、海馬細胞を10,000個細胞/cm2で播種した。陰性対照として、GAGsとの反応性を有しない無関係のscFv抗体MPB49Vを用いた。
種々のGAG製剤に対するGD3G7の反応性は、ELISAを用いて試験した。この場合において、ビオチン化したGAGsは、それぞれ、ストレプトアビジン被覆プレート上に固定した。GD3G7は、CS-E、CS-H(iEを主なジサッカリドユニットとして含むメクラウナギ脊索由来の過硫酸化DS)およびSS-DS(かなりの割合のEおよびiEユニットを含むサメ皮膚由来DS)と特異的に反応し、そして、試験した他のGAG(CS-A, CS-B, CS-C, CS-Dを含む)およびヘパリンとは何ら反応しなかった(図1)。このことは、GD3G7が、E(GlcUA-GalNAc(4S,6S))およびiE(IdoUA-GalNAc(4S,6S))ユニットの両方を認識可能であることを強調する。GD3G7のiEに対する特異性をさらに調べるために、阻害性ELISAを行った。この場合において、硫酸化のためにGalNAc4S-6STで処理したかまたは処理しないCS-Bを、インヒビターとして用いた。
ゼブラフィッシュ由来GalNAc4S-6STは、CS-B中において、IdoUA残基に隣接するGalNAc(4S)残基の6-O-部位に硫酸基を優先的に転位させ、そのようにしてiE(IdoUA-GalNAc(4S,6S))ジサッカリドユニットを生成させた。GD3G7のiEに対する特異性をさらに評価するため、本発明者らは、GalNAc4S-6STで処理したかまたは処理しないCS-Bが、固定化CS-Eに対し、GD3G7の結合を阻害する能力を評価した。図3に示す通り、GalNAc4S-6ST処理したCS-Bのみが、GD3G7のCS-Eに対する結合を有意に阻害した。一方、GalNAc4S-6ST処理しないCS-Bは、GD3G7のCS-Eに対する結合を阻害しなかった。このことは、GD3G7がiEと特異的に反応することを示唆する。阻害活性は、CS-Hも示したが、CS-Dは示さなかった。これらのデータは、GD3G7がEおよびiEの両方のジサッカリドユニットを認識するという結論を示す。
CS/DS鎖は、中枢神経系発達を調節し、そして、神経突起生成分子として種々の役割を果たす。ブタ胎児脳由来CS/DSハイブリッド鎖のIdoUA- 含有構造が、神経突起生成および増殖因子結合活性に必要であることが示されている(参考文献50)。したがって、マウス脳の生後発達中におけるE/iEユニットを含むCS/DSハイブリッド鎖の寄与に対する洞察を得るために、マウスGalNAc4S-6STの発現を、それぞれの35S-標識アンチセンスプローブを用いてインサイツハイブリッド形成法により試験した。
マウス脳内の独特なGD3G7エピトープ発現を研究するために、P7脳切片の免疫組織化学発現を、抗体GD3G7を用いて行った。P7マウス由来の連続的矢状脳切片は、抗体GD3G7でインキュベートし、その結合抗体を、抗-VSV-タグ付P5D4抗体およびペルオキシダーゼタグ付ビオチン化抗マウスIgG抗体で検出し、そして、DAB(ペルオキシダーゼに対する基質)で可視化した。前記P7マウス矢状切片の染色パターンを、図5に示す。GD3G7は、P7小脳、海馬および嗅球を特異的に染色した。前記染色は、小脳でより強く、GD3G7は、白質および外顆粒層を染色した。小脳の新生児期発達においては、顆粒細胞の生成は、外顆粒層の増殖性帯域で起こる(参考文献51)。顆粒細胞は、生後に細胞サイクルを脱し始め、それらの分化プログラムの一部として、内部に遊走し、プルキンエ細胞を通過し、内顆粒層を形成する(参考文献52)。海馬内では、GD3G7は歯状回および放線状層の多形層を染色し、嗅球内では、GD3G7エピトープは、球状層内に発現した。これらの発見は、上記インサイツハイブリッド形成法による研究結果と一致する。脳の染色は、組織部位のコンドロイチナーゼABCによる処理で完全に無効にされ、染色の特異性が確認された。これらの結果は、P7マウス脳において、CS-Eが、小脳内に、そしてさらに海馬および嗅球中にも、高度に発現したことを示す。
CS-Eは、ラットE18海馬ニューロンの神経突起伸長を促進する。前記抗体GD3G7は、CS-E中のエピトープ構造を認識する。CS-E中のGD3G7エピトープが海馬ニューロンの神経突起伸長工程に関係するか否かを調べるために、前記抗体を、2つの異なる濃度(10μg/mlおよび100μg/ml)の培地で2時間培養し、その後、CS-Eで被覆した基層上にニューロン細胞を播種した。前記抗体は、CS-E含有基層上に増殖したニューロンの神経突起伸長を優位に抑制した(図6AおよびB)。この観測は、統計的形態学解析により確認した。それにより、GD3G7が神経突起形成を顕著に阻害し、かつ、100μg/mlで、1細胞あたりの全神経突起長を減少させたことが分かった(図6C)。これらの結果は、CS-Eの神経突起伸長促進モチーフ中にGD3G7のエピトープが存在することを示す。対照のscFv抗体(MPB49V)は、何の中和活性も示さなかった。
CS-E中のGD3G7エピトープが神経突起伸長促進活性に関係するであろうとの観点から、本発明者らは、この抗体による認識に必要なCS-Eの最小構造をキャラクタライズした。イカ軟骨由来CS-Eのヒツジ精巣ヒアルロニダーゼによる部分消化で調製した偶数のCS-Eオリゴサッカリドフラクション(38)を、固定化CS-Eに対するGD3G7結合のインヒビターとして用いた。図7Aは、デカ-およびさらに大きなオリゴサッカリドが阻害活性を示し、そして、活性が分子サイズにつれて大きくなったことを示す。しかしながら、オクタサッカリドフラクションは、ヘキササッカリドフラクションと比較してややGD3G7と反応したように見える。
次に、GD3G7により認識されるCS-Eの最小構造を正確に決定するために、CS-E オクタ-およびデカサッカリドを、GD3G7のCS-Eへの結合に対するインヒビターとして用いた。図7Bは、GD3G7が、CS-E由来のデカサッカリドと優先的に反応したが、オクタサッカリドフラクションとは反応しなかったことを示す。GD3G7のCS-Eデカサッカリドフラクションに対する結合の程度は、用量依存性の増加を示した。一方、オクタサッカリドは、用量を多くしても結合は見られなかった。これらの結果は、CS-E由来デカサッカリドフラクションが、GD3G7による認識に必要な臨界的最小サイズであるという前記の知見と一致する。
本発明者らは、CS-Eオリゴサッカリドをインヒビターとして用い、脳部位中の抗体の免疫反応性を評価することにより、上記ELISAデータを実証した。CS-E由来のオクタ-およびデカサッカリドフラクションを、生後7日マウスの脳切片における免疫組織化学染色のインヒビターとして用いた。GD3G7は、CS-Eオクタ-およびデカサッカリドフラクション各1nmolで、室温において1時間インキュベートし、その後、脳切片とともにインキュベートした。図8に、生後7日マウス脳由来矢状切片の染色パターンを示す。CS-EデカサッカリドによるGD3G7のプレインキュベーションは、前記抗体による脳切片染色を妨げた。一方、CS-Eオクタサッカリドをインヒビターとして用いた場合、小脳、海馬および嗅球における免疫染色はなお視認可能であった。この知見は、CS-EデカサッカリドフラクションがGD3G7の最も効果的なインヒビターであることを示す。すなわち、このことは、CS-E由来デカサッカリドフラクションが、GD3G7結合に必要な最小構造であることを示す。
図10は、ルイス肺癌セルライン細胞表面におけるGD3G7エピトープの免疫組織学的検出を示す図である。10%FBSを含む300μl DMEM培地中の、高度および低度の転移能を有するルイス肺癌細胞(5×104)(文献1)(それぞれH11およびP29セルライン)を、チャンバースライド状に播種し、24時間培養し、Diff-Quick試薬A(シスメックス株式会社、日本国、カタログ番号16920)により固定化した。これらを、モノクローナル抗体GD3G7(文献2)で1時間インキュベートし、結合したGD3G7を、抗-VSVグリコプロテイン抗体(Sigma社、米国、カタログ番号V5507)および続いてAlexa複合二次抗体(Molecular Probes社、米国、カタログ番号A21042)で検出し、そして共焦点顕微鏡観察により可視化した。H11細胞(図10A)は、強力に染色された。しかし、P29細胞(図10C)は、微かに染色されたのみであった。対照実験として、H11細胞(図10B)およびP29細胞(図10D)を、プロテアーゼインヒビターカクテル(Roche社、ドイツ、カタログ番号1697498)の存在下、コンドロイチナーゼABCで処理し、続いて、前述の通り免疫染色した。
図11は、肝臓に対する転移能が低度および高度のマウス骨肉腫セルラインLM8(図10A)およびLM8G7(図10B)(参考文献77)の、GD3G7エピトープによる免疫組織化学的検出を示す図である。10% FBSを含む300μL DMEM培地中のLM8(パネルA)およびLM8G7細胞(5×104)を、ナルジェヌンクインターナショナル株式会社製lab-tekチャンバースライド(登録商標)システム1774028ウェルスライドガラス上に播種し、24時間培養し、そして、Diff-Quick試薬A(シスメックス株式会社、日本国、カタログ番号16920)により固定化した。この固定化した細胞を、モノクローナル抗体GD3G7(参考文献76)(1:50)で1時間および続いて二次抗体VSV-タグP5D4(1:1000)で1時間(1:1000)でインキュベートし、さらにAlexa複合二次抗体(Molecular Probes社、米国、カタログ番号A21042)で処理し、そして共焦点顕微鏡(Fluoview)により可視化した。低転移能および高転移能細胞の両方とも染色されたが、低転移能細胞の染色は弱かった(図10AおよびB)。
本実施例では、生後マウス脳におけるCS-E/DS-Eハイブリッド鎖の特徴的空間時間的分布を、ファージディスプレイ法により生産された抗体GD3G7を糖鎖マーカー認識プローブとして用いて詳細に確認した。この抗体は、ELISA評価によれば、特徴的iEユニットを有するCS-EおよびCS-H(参考文献28、29、52a)、および、全ジサッカリドの10%のE(またはiE)を有するSS-DS(参考文献17)と特異的に反応する。このことは、必須の認識ユニットが、付属しているGlcUAまたはIdoUAと無関係なGalNAc(4S, 6S)残基であることを示す。メクラウナギ脊索(参考文献28)および対応する哺乳類組織由来CS-Hは、腹部ニューロンの生成および運動ニューロンの分化(参考文献53)と結び付けられる可溶なソニックヘッジホッグタンパク質を生産する。CS-Hは構造がCS-Eと同様であるが、CS-Eと異なり、主要なウロン酸としてGlcUAに代えてIdoUAを含み、過硫酸化DSとみなせる(参考文献25)。CS-E/DS-Eの生合成に関するGalNAc4S-6STのインサイツハイブリッド形成法は、CS-E/DS-Eハイブリッド鎖が小脳内においてより高濃度であることを示す。このことは、CS-E/DS-Eハイブリッド鎖が脳発達中において重要であるという洞察を提供する。GalNAc4S-6STは、CSおよびDS中において、硫酸基をPAPSからGalNAc(4S)の6位に転位させる。精製GalNAc4S-6STを用い、CS-BからDS-Bのin vitro合成を行ったところ、IdoUAα1-3GalNAc(4S)を優先的に生成した。興味深いことに、生成物は、固定化CS-EへのGD3G7の結合を阻害し、抗体GD3G7がCS-BのiE-エンリッチ領域を認識したことを示した。そのように、抗体GD3G7は、EおよびiEユニットの両方を認識し、そして、E-およびiE-含有CS/DS構造の寄与の研究ツールとして有用である。
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Claims (9)
- 腫瘍細胞に含まれる糖鎖マーカーを認識するプローブであって、
ファージディスプレイ法により生産可能な抗体を含み、
前記抗体は、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を認識可能であり、
前記プローブは、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を含む糖鎖マーカーの認識に用いられることを特徴とする糖鎖マーカー認識プローブ。 - 前記抗体は、さらに、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を認識可能であり、
前記プローブは、E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)の両方を含む糖鎖マーカーの認識に用いられることを特徴とする請求項1に記載の糖鎖マーカー認識プローブ。 - E[GlcUA-GalNAc(4S,6S)]およびiE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)の少なくとも一方を認識可能な糖鎖マーカー認識プローブを含む腫瘍細胞染色剤。
- 前記糖鎖マーカー認識プローブが、請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブである請求項3記載の腫瘍細胞染色剤。
- 癌細胞を染色する請求項3または4に記載の腫瘍細胞染色剤。
- 硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む薬学的組成物の製造方法であって、
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブにより、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を含む硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を認識し、その硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性成分として薬学的組成物を製造し、
前記活性成分が、ウィルス感染阻害活性、ヘルペスウィルス感染阻害活性、デングウィルス感染阻害活性、細胞増殖阻害活性、細胞死誘導活性、腫瘍細胞増殖阻害活性、腫瘍細胞浸潤阻害活性、腫瘍細胞転移阻害活性、腫瘍細胞遊走阻害活性、および腫瘍細胞死誘導活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有することを特徴とする製造方法。 - 硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を含む医薬の製造方法であって、
請求項1または2に記載の糖鎖マーカー認識プローブにより、iE[IdoUA-GalNAc(4S,6S)]ジサッカリドユニット(二糖単位)を含む硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を認識し、その硫酸化多糖または硫酸化オリゴ糖を活性成分として医薬を製造し、
前記医薬が、ウィルス感染、ヘルペスウィルス感染、デングウィルス感染、および細胞の増殖からなる群から選択される少なくとも一つに関する疾患の治療、診断、症状の軽減および予防からなる群から選択される少なくとも一つの用途に使用される医薬であることを特徴とする製造方法。 - 前記細胞の増殖に関する疾患が、脳腫瘍、頭頚部癌、神経芽細胞腫、副鼻孔癌、咽頭癌、食道癌、肺癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、肝癌、胆道癌、膵癌、前立腺癌、膀胱癌、精巣癌、乳癌、子宮癌、子宮筋腫、子宮頚癌、卵巣癌、急性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、悪性リンパ腫、赤血球増加症、真正多血症、本態性血小板増多症、骨髄腫、骨肉腫、絨毛癌、ホジキン病、非ホジキン病、膠芽種、星状細胞腫、および軟組織肉腫からなる群から選択される少なくとも一つの疾患である請求項7に記載の製造方法。
- 抗腫瘍剤、抗癌剤、制癌剤および抗転移剤からなる群から選択される少なくとも一つの製造の用途に使用される請求項7または8に記載の製造方法。
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