JP5185732B2 - 緑化用基盤材、及び該緑化用基盤材を用いた緑化方法 - Google Patents

緑化用基盤材、及び該緑化用基盤材を用いた緑化方法 Download PDF

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Description

本発明は、下水汚泥を有効活用し、効果的に緑化植物を育成する緑化用基盤材、及び該緑化用基盤材を用いた緑化方法に関する。
従来、有機性廃棄物は埋立てや焼却等の方法で廃棄されてきたが、埋立地の減少や温室効果ガスの発生といった問題が深刻化しており、炭化物として利用することで低炭素社会と循環型社会の実現が進められている。
一方、緑化事業もまた、地球温暖化対策の中心課題の一つであり、効果的且つ持続的な手法が求められている。
例えば、下記文献1には、木本植物種子の主根が、岩盤に侵入して支根を張り巡らせることに着目し、発芽力増強処理を施した後に発芽兆候を示した木本植物種子を植栽ポットへ定植し、前記定植された木本植物種子の主根が前記植栽ポットの底部へ到達する前に該植栽ポットを法面上へ設置若しくは移植することを特徴とする法面における緑化工法が開示されている。
また、例えば、下記文献2には、有機性汚泥などの有機性廃棄物の再資源化方法であって、有機性廃棄物の一部を炭化させるとともに、残りの有機性廃棄物を堆肥化させ、生成した炭化物と堆肥とを混合して土壌改良材となすことを特徴とする有機性廃棄物の再資源化方法が開示されている。
特開平11−181776号公報 特開平9−13033号公報
しかしながら、上記文献1には、有機性廃棄物の利用という視点について記載されてない。また、上記文献1に記載の技術は、発芽兆候を示した種子を選択したり、植栽ポットの設置や移植を行ったりするため、手間がかかることや、基本的には播種工でなく植栽工を用いた手法であり、効果的で持続的な緑地の形成が図られるかどうか、論証されていないといった問題がある。
また、上記文献2に記載の技術では、用いられる有機性廃棄物の炭化物の化学特性において、十分な発芽・生育効果が得られないことが緑化事業の側面から問題となり、炭化物の施用量が制限されて十分な利用ができないことが、有機性廃棄物の利用という側面から問題となる。
このように、炭化物を製造する場合、その利用先として土壌改良材としての用途提案が多くなされているが、炭化物の添加量及びその物性を無視すれば、発芽・生育に障害を起こすという問題がある。
従って、本発明の目的は、有機性廃棄物の1つである下水汚泥を有効活用し、発芽阻害や生育障害を起こさず、効果的に緑化植物を育成し、自然災害や崩落に強い植生群落を形成する緑化用基盤材、及び該緑化用基盤材を用いた緑化方法を提供することにある。
上記目的を達成するため、本発明の緑化用基盤材は、緑化植物の種子を混合して、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けて用いる緑化用基盤材において、基盤土壌と、下水汚泥の炭化物とを含有し、前記下水汚泥の炭化物の含有量が10〜70体積%で、pH5.5〜7.5に調整されていることを特徴とする。
本発明によれば、pH値が上記の特定値に調整された下水汚泥の炭化物を緑化用基盤材に添加することにより、比較的多量に添加しても発芽阻害や生育障害を抑え、緑化植物を効率よく育成させることができる。また、緑化植物を主に播種工によって育成することが可能となるので、根系が発達し、相互に有機的結合をもち、自然災害や崩落に強い植生群落を形成することができる。
本発明の緑化用基盤材は、土壌の三相分布が、固相30〜50体積%、液相30〜70体積%、気相10〜40体積%であることが好ましい。これまでの土壌改良材は、通気性、保水性、透水性、硬度等を個々の改良材で改良するものとなっていた。本発明は、土壌の基本物性を総合的に検討して土壌環境の改善という広い視野から探求したものであり、これによれば、緑化植物の生育に適さないような基盤土壌であっても、下水汚泥の炭化物を上記含有量で添加することにより、その通気性、保水性、透水性を高め、団粒構造を保持し、また、土壌硬度を、植物の根が自由に伸長できる20mm(山中式硬度計で測定)以下に改善し、緑化植物の生育に適した基盤土壌を形成することにより、効果的に緑化を行うことができる。
本発明の緑化用基盤材は、前記基盤土壌が、有機性廃棄物の発酵物から調製されたコンポストを含有するものであることが好ましい。これによれば、土壌の物性を緑化植物の育成に好ましいものとし、有機性廃棄物の更なる利用を促進することができる。
本発明の緑化用基盤材は、前記コンポストが、生ゴミ、下水汚泥、家畜糞尿から選ばれた少なくとも1種以上が50〜70質量%、わら、芝草、雑草、枯死花卉から選ばれたセルロース系廃材及び/又は剪定材、間伐材、流木材、根株、古木、建築廃木材、おが屑から選ばれた木質系廃材が60〜30質量%となるように混合して醗酵させて、乾物換算で炭素30質量%以下、窒素3質量%以下、炭素率(C/N)20以下、水溶性フェノール3mM以下、還元糖割合20%以下としたものであることが好ましい。
これによれば、生ゴミ等とセルロース系廃材及び/又は木質系廃材とを混合して、炭素、窒素、炭素率、水溶性フェノール、還元糖割合が上記範囲となるまで醗酵させたコンポストを含有することにより、土壌病原菌の繁殖が少なく、種子の発芽・生育を阻害する虞もなく、また、充分に醗酵した有機質によって、通気性等に優れた、緑化工に好適に用いられる緑化用基盤材を提供することができる。
本発明の緑化用基盤材は、法面緑化のために用いられることが好ましい。これによれば、自然災害や崩落に強い植生群落を形成することができ、その特殊な地形条件から、上記課題の解決がより困難となっている法面においても、効果的に緑化植物を育成することができる。
本発明の緑化方法は、上記いずれか1つに記載の緑化用基盤材に、緑化植物の種子を混合して、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けることを特徴とする。
本発明の緑化方法は、特に法面に好適に用いられる。
また、本発明の緑化方法は、前記緑化植物の種子が、木本植物の種子及び草本植物の種子であることが好ましい。これによれば、木本植物及び草本植物、双方の利点を生かし、より効果的に緑化を行うことができる。木本植物は、その根系の土壌緊縛力が強く、根系が斜面の奥方向や上部方向に伸張するため、頑丈な土壌を形成し、自然災害や崩落により強い植生群落を確保することができる。そして、草本植物は、発芽初期における生長が著しく、緑化土壌に好ましくない他の植生が育成する前に、繁茂し、土壌を覆い、早期緑地の形成を促進する。
本発明によれば、pH値が上記の特定値に調整された下水汚泥を用いることにより、発芽阻害や生育障害を抑え、多量に施用することができ、下水汚泥の有効な利用法を確立することができる。また、緑化植物の生育に適さないような基盤土壌であっても、炭化物がその通気性等を好ましい値とし、植物育成に好適な土壌とすることができる。更に、緑化植物を播種工によって導入することができるため、根系が発達し、相互に有機的結合をもち、自然災害や崩落に強い植生群落を形成することができる。
〈基盤土壌〉
本発明において、基盤土壌は、特に限定されるものでなく、関東ローム等の一般的な土壌が用いられる他、有機質土壌を用いることもできる。
前記有機質土壌としては、有機性廃棄物の発酵物から調製されたコンポストを含有するものであることが好ましい。これによれば、有機性廃棄物の更なる利用を促進することができるからである。
また、前記コンポストが、生ゴミ、下水汚泥、家畜糞尿から選ばれた少なくとも1種以上が50〜70質量%、わら、芝草、雑草、枯死花卉から選ばれたセルロース系廃材及び/又は剪定材、間伐材、流木材、根株、古木、建築廃木材、おが屑から選ばれた木質系廃材が60〜30質量%となるように混合して醗酵させて、乾物換算で炭素30質量%以下、窒素3質量%以下、炭素率(C/N)20以下、水溶性フェノール3mM以下、還元糖割合20%以下としたものであることがより好ましい。これによれば、生ゴミ等とセルロース系廃材及び/又は木質系廃材とを混合して、炭素、窒素、炭素率、水溶性フェノール、還元糖割合が上記範囲となるまで醗酵させたコンポストを含有することにより、緑化用基盤材における、土壌病原菌の繁殖や、種子の発芽・生育阻害を抑え、充分に醗酵した有機質によって、保水性、通気性、保肥性等に優れた性質を付与することができる。
前記生ゴミとしては、一般家庭、外食産業、食品工業等から排出される食品残滓等の有機物であって、微生物の醗酵により分解できるものであれば特に制限なく用いることができる。
前記下水汚泥としては、例えば下水処理場、屎尿処理場等で発生する汚泥を脱水したものが用いられる。
前記家畜糞尿としては、例えば牧場、養豚場、養鶏場等で排出される家畜の排泄物を用いることができる。
前記セルロース系廃材、木質系廃材は、農林業、緑化事業等に伴って発生するものを用いることができる。なお、これらの廃材をコンポスト化する際には、分解・醗酵しやすいように適当な大きさに細断又はチップ化してから用いることが好ましい。
上記コンポストは、例えば特許第3698415号公報、特許第3698416号公報に記載された製造方法によって得ることができる。また、上記コンポストの具体的な製品としては、「NESソイル」(商品名、株式会社計画科学研究所製)が挙げられる。
〈下水汚泥の炭化物〉
本発明において、炭化物の原料としては、有機性廃棄物のうち、下水汚泥を用いる。下水汚泥の炭化物は、その化学特性から、他の原料から製造した炭化物と比較し、緑化用基盤材に適するためである。
下記表1に、各種原料から製造した炭化物の化学性について示す。表中の「pH」は、風乾土壌を2mmunderで篩い、パーソナルpHメーター(MODEL PH81)を用い、ガラス電極法により測定したもの、「EC」は、風乾土壌を2mmunderで篩い、ポータブル電気伝導率計(CM−14P)を用い、1:5水抽出法により測定したもの、「TC」、「TN」、「C/N」は、乾式燃焼法(NCコーダ)を用いて測定したものである。また、「下水汚泥」は、下水処理場等で発生する汚泥を原料とする炭化物を、「廃木材」は廃木材を原料とする炭化物を、「有機性廃棄物」は繊維類の炭化物を、「生ゴミa」はタンパク質系の生ゴミを原料とする炭化物を、「生ゴミb」は炭水化物系の生ゴミを原料とする炭化物を、「家畜糞尿」は鶏糞を原料とする炭化物を、それぞれ表す。
表1に示されるように、各種炭化物の化学性には、原料による差異が見られる。土壌中の各種養分やpHは植物の生育に適する環境を形成する性能を評価するうえで重要な因子であり、例えば、後述の実施例で用いるコマツナの場合、生育土壌のpH値5.5〜6.5が適正とされる。
尚、本発明において、下水汚泥の炭化物は、どのように製造されたものであってもよいが、例えば、内熱式ロータリーキルン(直接加熱)、内熱式ロータリーキルン(間接加熱)、外熱式ロータリーキルン、外熱式スクリュー、内熱式スクリューなどから選ばれた炭化装置を用いて製造することができる。これらの炭化装置を用いることにより、下水汚泥の炭化物を効率的に製造することができる。
また、前記炭化装置としては、燃焼室で囲まれた回転筒を有する外熱式ロータリーキルンを用いることがより好ましい。これによれば、下水汚泥が、回転筒を有する炭化炉内で、乾燥及び加熱を受け、繰返し持上げられ、落下させられるため、破砕装置を用いずに好適な粒度に破砕された炭化物を得ることができる。尚、燃焼室で囲まれた回転筒を有する外熱式ロータリーキルンとしては、例えば特開平11−33599号公報に開示された装置等が挙げられる。
〈緑化用基盤材〉
本発明の緑化用基盤材は、上記基盤土壌、及び下水汚泥の炭化物を混合することによって得ることができる。
この場合、緑化用基盤材における下水汚泥の炭化物の含有量は、10〜70体積%とすることが必要であり、20〜70体積%とすることが好ましく、30〜70体積%とすることがより好ましい。下水汚泥の炭化物の含有量が10体積%未満では、土壌三相の改善、すなわち、通気性、透水性、保水性、土壌硬度及び団粒構造の改善、生育促進などの添加効果が乏しくなり、70体積%を超えると、透水性等が高くなりすぎて、保水性が低下する可能性がある。
こうして得られた本発明の緑化用基盤材は、pH5.5〜7.5になるように調製される。もしこのpH範囲を外れる場合には、別途pH調整材を混合してもよい。pH調製材としては、例えばアルカリ側にしたい場合には炭酸石灰、生石灰、消石灰などが用いられ、酸性側にしたい場合には硫黄華、硫安、腐植酸土などが用いられる。
また、本発明の緑化用基盤材は、土壌の三相分布が、固相30〜50体積%、液相30〜70体積%、気相10〜40体積%となるように調整されることが好ましく、固相40〜50体積%、液相30〜40体積%、気相20〜30体積%となるように調整されることがより好ましい。三相分布は、緑化用基盤材中の、下水汚泥の炭化物の含有量や、基盤土壌としてのコンポストの含有量などを変えることにより、適宜調整することができる。
また、本発明の緑化用基盤材は、土壌硬度が20mm(山中式硬度計で測定)以下であることが好ましい。これによれば、植物の根が自由に伸長できるためである。
本発明の緑化用基盤材は、特定対象地における法面緑化、森林緑化、公園緑化をはじめ、都市部の屋上緑化、壁面緑化等のあらゆる緑化工の用途に用いることができるが、法面緑化のために用いられることが好ましい。法面は、その特殊な地形条件から、上記課題の解決がより困難となっており、本発明の緑化用基盤材を適用することにより、自然災害や崩落に強い植生群落を形成することができ、効果的に緑化工を施行できるためである。
〈緑化方法〉
本発明の緑化方法は、本発明の緑化用基盤材に、緑化植物の種子を混合して、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けることにより行う。散布により施工する方法としては、例えば手撒き、機械散布が挙げられる。また、吹付けて施工する方法としては、例えば有機質系吹付岩盤緑化工法が挙げられる。本発明は、特に法面に対する緑化に適している。
本発明の緑化方法において、緑化用基盤材に混合する前記緑化植物の種子としては、あらゆる緑化植物が用いられるが、木本植物の種子及び草本植物の種子であることが好ましい。これによれば、木本植物及び草本植物、双方の利点を生かし、効果的に緑化を行うことができる。木本植物は、その根系の土壌緊縛力が強く、根系が斜面の奥方向や上部方向に伸張するため、頑丈な土壌を形成し、自然災害や崩落により強い植生群落を確保することができる。そして、草本植物は、発芽初期における生長が著しく、緑化土壌に好ましくない他の植生が育成する前に、繁茂し、土壌を覆い、早期緑地の形成を促進することができる。
上記草本植物としては、例えばトールフェスク(K31F)、オーチャードグラス、シロクローバー、クリーピングレッドフェスク、ススキなどが挙げられる。また、上記木本植物としては、例えばヤマハギ、ヤシャブシ、メドハギ、ヤブツバキ、サザンカ、ヤマハゼなどが挙げられる。
本発明の緑化方法は、本発明の緑化用基盤材、前記緑化植物の種子の他に、必要に応じて、侵食防止材、接合材等を混合して、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けることができる。前記侵食防止材、接合材は、特に限定されるものでなく、例えば、高分子系樹脂やポルトランドセメント等が用いられる。これによれば、本発明の緑化用基盤材を、より確実に、対象地に接合することができ、効果的に緑化を行うことができるとともに、防塵を防ぐことができる。また、特に、地形条件が厳しい法面の緑化により適する。
本発明の緑化方法は、上記の他に、他の土壌改良材や、一般培土、例えばピートモス、バーク堆肥、珪藻土焼成粒、ゼオライト、赤玉、砂などから選ばれた少なくとも1種を、必要に応じて混合して、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けることができる。
本発明の緑化方法は、更に、有機質、無機質の各種肥料を、必要に応じて混合し、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けることができる。肥料は、天然肥料でも、化学肥料であってもよい。また、即効性肥料、遅効性肥料のいずれも使用することができる。
試験例1(草本植物における播種・生育試験)
各種有機性廃棄物を原料とした炭化物を、緑化用基盤材に用いた場合、草本植物の生育における効果の差を明らかにするため、コマツナの播種・生育試験を行った。尚、供試植物としてコマツナを用いたのは、播種から収穫までの日数が20〜25日と短いこと、外的影響を受けやすいことによる。
基盤土壌としては関東ロームを用い、この基盤土壌に各種有機性廃棄物を原料とする炭化物をそれぞれ混合し、1/5000aワグネルポットに詰めて栽培用土壌を得た。原料の有機性廃棄物としては、下水汚泥、廃木材、有機性廃棄物(繊維類)、生ゴミ、家畜糞尿を用い、生ゴミのうち、タンパク質系の生ゴミを「生ゴミa」、炭水化物系の生ゴミを「生ゴミb」と表した。また、各炭化物の混合率は体積あたり4段階(5%、10%、15%、20%)に設定した。
供試植物であるコマツナは、1ポット15粒ずつ播種し発芽後は間引きにより3株を残して生育させた。散水は適宜行い、肥料は高度化肥料(N:P:K=14:14:14)を1ポットあたり5g施肥した。各設定区の繰り返しは3で行った。各試験の測定項目とその結果を、下記に示す。
(1−1)コマツナの発芽率試験
表2は、各種原料より製造した炭化物の混合率別に、播種後一週間経過時のコマツナの発芽率を示したものである。
表2から分かるように、廃木材、下水汚泥、有機性廃棄物(繊維類)、生ゴミb、生ゴミa区の順に高い発芽率を示した。炭化物を含有しない場合(0%区)においての発芽率が96%であるのに対し、廃木材、下水汚泥、有機性廃棄物(繊維類)、生ゴミb区では、5%、10%、15%、20%の全ての区で、96%かそれより高い発芽率を示した。一方、生ゴミa区の10%、20%区については、90%を下回り、15%では85%を下回った。
(1−2)コマツナの地上長測定試験
表3は、炭化物の各種原料とその混合率別の、播種後二週間経過時のコマツナの地上長を示したものである。
表3から分かるように、下水汚泥、廃木材、生ゴミb、有機性廃棄物(繊維類)、生ゴミa区の順に高い生育率を示した。特に、下水汚泥区については、5%、10%、15%、20%のどの区においても、対照区(0%)と比較して、約2倍かそれ以上に伸びを示した。
また、廃木材区においては、炭化物の混合率が高くなるにつれて、コマツナの生育が促進されることが明らかとなった。一方の有機性廃棄物(繊維類)区、生ゴミa区においては、緑化用基盤材中の炭化物混合率が上がるにつれて、対照区よりもコマツナの生育が衰えることから、生育障害が認められた。
(1−3)土壌基盤のpH値測定試験
表4は、各種有機性廃棄物の炭化物における、混合率別の緑化用基盤材の酸性度をpH値で示したものである。
表4から分かるように、下水汚泥区の酸性度において、5%、10%、15%、20%のどの区においても、対照区(0%)と比較して、pH値が6.4〜6.6の間でほとんど変化がなかった。一方、有機性廃棄物(繊維類)区、生ゴミa区においては、炭化物の混合率が高くなるにつれて、酸性度の変化も大きくなることが示された。
このことから、下水汚泥区については、土壌の酸性度においても、草本植物であるコマツナの発芽率、成長率においても、濃度障害による発芽阻害、生育障害が起きなかったことが推測され、緑化用基盤材として多量に施用できることが示唆された。
試験例2(各種炭化物の施用限界試験)
(2−1)下水汚泥、生ゴミa、生ゴミb、廃木材を原料とする炭化物の施用限界試験
上記の試験例1の結果を元に、緑化用基盤材としての更なる利用可能性を検討するため、炭化物として、下水汚泥、生ゴミa、生ゴミb、廃木材から得られたものを用い、炭化物の混合量を原料ごとに変えてコマツナの生育試験を行い、その施用限界を明らかにした。
基盤土壌としては関東ロームを用い、この基盤土壌に各種有機性廃棄物を原料とする炭化物をそれぞれ混合し、1/5000aワグネルポットに詰めて栽培用土壌を得た。各炭化物の混合率は体積あたり、下水汚泥(10%、30%、50%、70%)、廃木材(30%、40%、50%、70%)、生ゴミa(2.5%、5%、7.5%、10%)、生ゴミb(10%、30%、50%、70%)の4段階に設定した。
生育はガラス温室で行った。供試植物はコマツナを用い、1ポット15粒ずつ播種し発芽後は間引きにより3株を残し、生育させた。散水は適宜行い、肥料は高度化肥料(N:P:K=14:14:14)を1ポットあたり5g施肥した。各設定区の繰り返しは3で行った。
(2−2)下水汚泥、家畜糞尿、有機性廃棄物(繊維類)を原料とする炭化物の施用限界試験
上記試験と同様に、緑化用基盤材としての更なる利用可能性を検討するため、炭化物として、下水汚泥、家畜糞尿、有機性廃棄物(繊維類)から得られたものを用い、コマツナの生育試験を行い、その施用限界を明らかにした。
基盤土壌としては関東ロームを用い、この基盤土壌に各種有機性廃棄物を原料とする炭化物をそれぞれ混合し、1/5000aワグネルポットに詰めて栽培用土壌を得た。各炭化物の混合率は体積あたり、下水汚泥、家畜糞尿、有機性廃棄物(繊維類)炭化物をそれぞれ(2.5%、5%、7.5%、10%、15%、20%)の6段階に設定した。
生育はガラス温室で行った。供試植物はコマツナを用い、1ポット15粒ずつ播種し発芽後は間引きにより3株を残し、生育させた。散水は適宜行い、肥料は高度化肥料(N:P:K=14:14:14)を1ポットあたり5g施肥した。各設定区の繰り返しは3で行った。
上記(2−1)、(2−2)の試験結果を基に、各種有機性廃棄物の炭化物を基盤土壌に含有する際の施用限界を求めた結果を、表2に示す。なお、施用限界は、対照(炭化物含有量0%)のものに比べて、発芽率が低下しない含有量として表した。
表5に示されるように、上記(2−1)、(2−2)の試験の結果から、家畜糞尿、生ゴミaの炭化物は、施用限界が10%にも満たなく、また、有機性廃棄物(繊維類)は20%、生ゴミb、廃木材においては30%程度までしか土壌基盤に混合できないことがわかった。一方、下水汚泥はコマツナの生育面から推定すると70%か、それ以上施用できることが分かった。
試験例3(木本植物における播種・生育試験)
本願発明の下水汚泥炭化物を緑化用基盤材に用いた場合、木本植物の生育における効果の差がどの程度認められるかを明らかにするため、マメ科植物(ヤマハギ)と非マメ科植物(ヤシャブシ)を使用して、播種・生育試験を行った。
基盤としては関東ロームを用い、上記の下水汚泥の炭化物を、下記表6に記載の割合で混合したものを実施例1〜4とし、炭化物を含まない土壌基盤である対照例、家畜糞尿の炭化物を下記表6に記載の割合で混合したもの比較例1〜4とした。
また、土壌硬度を山中式土壌硬度計により植物の生育に適しているとされる8度に設定した。肥料は「くみあい複合燐加安42号;N:P:K=14:14:14」を1ポットあたり3g施肥区と、無施肥区に分け、潅水は適宜行った。
また、下記の表7は、上記の実施例1〜4、対照例、及び比較例1〜4における、ヤマハギの施肥区における18日目の発芽生存率を示し、表8は、ヤマハギの無施肥区における18日目の発芽生存率を示し、表9は、ヤシャブシの施肥区における発芽生存率における18日目の発芽生存率を示し、表10は、ヤシャブシの無施肥区における発芽生存率における18日目の発芽生存率を示す。
表7〜10に示された実施例1〜4の数値から分かるように、下水汚泥炭化物における混合率の違いによる発生生存率には、傾向が認められなかった。すなわち、下水汚泥炭化物における混合率の違いは、発芽生存率に影響を与えないと考えられる。一方、比較例1〜4は、対照例よりも発生生存率が低下することや、炭化物混合率を高めることにより、発生生存率が低下することから、家畜糞尿炭化物は、発芽障害を起こすと考えられる。
また、樹種間でも差が見られ、ヤマハギ区では、施肥区(表7)において、下水汚泥炭化物の混合率が10%である実施例1より、30%の実施例2、50%の実施例3及び70%の実施例4において発芽生存率が高くなることが分かった。更に、施肥区(表7)における実施例1〜4の全ての発芽生存率は、対照例の発芽生存率を大きく上回った。また、無施肥区(表8)においても、実施例1〜4は、対照区と同等あるいはそれ以上の発芽生存率を示した。
一方、ヤシャブシ区では、施肥区(表9)、無施肥区(表10)のいずれにおいても、実施例1〜4は、対照区と同等あるいはそれ以上の発芽生存率を示した。
これに対して、比較例1〜4は、ヤマハギ区の施肥区(表7)、無施肥区(表8)、及びヤシャブシ区の施肥区(表9)、無施肥区(表10)のいずれにおいても、対照区より明らかに発芽生存率が低下した。
試験例4(土壌の三相分布測定試験)
各種炭化物を混合することによる物理特性の変化について知るべく、前記表6に示した実施例1〜4と対照例における混合土壌について、緑化用基盤材の施工から4カ月後に土壌の三相分布測定試験を行った。土壌の三相分布の測定は、日本土壌肥料学会監修「土壌環境分析方法」に示される方法によって行った。下記表11は、上記土壌における三相各相の割合(体積%)を表す。
表11から分かるように、緑化用基盤材における下水汚泥炭化物の混合率を上げると、30%区を除き、気相率が増加し、液相率が減少した。このことから、炭化物の混合率を上げるほど、土壌の物理特性が森林土壌の理想的な三相分布(一般的に、固相40〜50体積%、液相30〜40体積%、気相20〜30体積%)に近づいていくことが分かる。
試験例5 (法面緑化への適用)
下水汚泥の脱水乾燥物を、炭化装置として、外熱式ロータリーキルンを用いて製造した下水汚泥の炭化物と、特許第3698415号公報、特許第3698416号公報に記載された方法により製造されたコンポスト「NESソイル」(商品名、株式会社計画科学研究所製)とを混合して、緑化用基盤材を製造した。尚、コンポスト「NESソイル」の化学特性は、下記表12の通りである。
緑化用基盤材中の炭化物の含有量は50体積%、コンポストの含有量は50体積%とした。この緑化用基盤材のpHは6.0、三相の割合は固相30体積%、液相45体積%、気相25体積%であった。
この緑化用基盤材に、草本植物であるクリーピングレッドフェスク及び木本植物であるメドハギ、ヤマハギの種子と、肥料と、侵食防止材とを含有させて砂質土、勾配1:1.2の法面に、有機質系岩盤緑化吹付機を用いて、厚さ50mmの吹付け施工した。施工後、約2ヶ月経過後に観察したところ、法面は、草本植物であるクリーピングレッドフェスクによって一面に覆われ、木本植物であるメドハギ、ヤマハギも発芽生育し始めていた。更に、14ヶ月経過後に観察したところ、法面は、緑化被覆度100%であり、草本植物であるクリーピングレッドフェスクは、320本/m2、草丈400mm、地下長30mm、木本植物であるメドハギは、96本/m2、樹丈1,500mm、地下長150mm、ヤマハギは、48本/m2、樹丈2,000mm、地下長300mm、となり、法面は全体に緑化がなされて、目視でも良い景観となっていた。これにより、本発明の緑化用基盤材及び該緑化用基盤材を用いた緑化方法によれば、その特殊な地形条件から、より緑化が困難とされる法面においても、順調に樹林化緑化が進捗して長期にわたって樹林化が継続できることが分かった。また、木本類の茎も根長もしっかりとしており、地滑り防止、保水等の治水・保全効果が期待できる。

Claims (8)

  1. 緑化植物の種子を混合して、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けて用いる緑化用基盤材において、基盤土壌と、下水汚泥の炭化物とを含有し、前記下水汚泥の炭化物の含有量が10〜70体積%で、pH5.5〜7.5に調整されていることを特徴とする緑化用基盤材。
  2. 土壌の三相分布が、固相30〜50体積%、液相30〜70体積%、気相10〜40体積%である請求項1記載の緑化用基盤材。
  3. 前記基盤土壌が、有機性廃棄物の発酵物から調製されたコンポストを含有するものである請求項1又は2記載の緑化用基盤材。
  4. 前記コンポストが、生ゴミ、下水汚泥、家畜糞尿から選ばれた少なくとも1種以上が50〜70質量%、わら、芝草、雑草、枯死花卉から選ばれたセルロース系廃材及び/又は剪定材、間伐材、流木材、根株、古木、建築廃木材、おが屑から選ばれた木質系廃材が60〜30質量%となるように混合して醗酵させて、乾物換算で炭素30質量%以下、窒素3質量%以下、炭素率(C/N)20以下、水溶性フェノール3mM以下、還元糖割合20%以下としたものである請求項1〜3のいずれか1つに記載の緑化用基盤材。
  5. 法面緑化のために用いられる、請求項1〜4のいずれか1つに記載の緑化用基盤材。
  6. 請求項1〜5のいずれか1つに記載の緑化用基盤材に、緑化植物の種子を混合して、緑化すべき面に散布及び/又は吹付けることを特徴とする緑化方法。
  7. 前記緑化すべき面が、法面である請求項6記載の緑化方法。
  8. 前記緑化植物の種子が、木本植物の種子及び草本植物の種子である請求項6又は7記載の緑化方法。
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