本発明を具体的に説明する前に、概要を述べる。本発明の実施例は、複数の無線装置によって形成されるネットワークにて、通信を実行する通信システムに関する。各無線装置は、基地局モードと端末モードのいずれにも対応しており、いずれか一方を選択して使用する。前述のごとく、選択は適切になされる必要があるが、選択される場面は複数種類あり、それぞれに応じた処理がなされるべきである。以下では、1.において、通信システムの全体的な概要を説明した後に、2.から6.において、場面ごとに説明する。なお、通信システムには、前述の無線装置の他に、通常の基地局装置や通常の端末装置が含まれてもよいが、必要ない限り、ここでは、これらを省略して説明する。また、以下では、基地局モードと端末モードのいずれにも対応した無線装置を「無線装置」とよび、基地局装置専用の無線装置を「基地局装置」とよび、端末装置専用の無線装置を「端末装置」とよぶが、基地局装置専用の無線装置や端末装置専用の無線装置を「無線装置」とよぶこともある。
1.動作概要
通信システムは、インフラストラクチャ・モード、アドホック・モード、WDS(AP間通信)に対応する。さらに、通信システムは、基地局モードと端末モードのいずれにも対応した無線装置が、基地局モードと端末モードのいずれかを選択して通信するモード(以下、「切替モード」という)にも対応する。まず、通信システムの構成として、インフラストラクチャ・モード、アドホック・モード、切替モードの構成を簡単に説明する。
図1(a)−(b)は、本発明の実施例に係る通信システム100の構成を示す。通信システム100は、無線装置10と総称される第1無線装置10a、第2無線装置10b、第3無線装置10c、第4無線装置10dを含む。図1(a)は、4つの無線装置10がアドホック・モードで動作している場合を示している。各無線装置10は、端末モードを選択しているか、端末装置そのものである。アドホック・ネットワークにおける通信処理として公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略するが、ひとつの無線装置10は、通信対象となる無線装置10へパケット信号を直接送信する。
図1(b)は、4つの無線装置10がインフラストラクチャ・モードで動作している場合を示している。第1無線装置10aは、基地局モードを選択しているか、基地局装置そのものである。一方、第2無線装置10b、第3無線装置10c、第4無線装置10dは、端末モードを選択しているか、端末装置そのものである。端末モードの無線装置10間の通信において、パケット信号は、基地局モードの無線装置10にて中継される。例えば、第2無線装置10bから第4無線装置10dへパケット信号が送信される場合、第2無線装置10bは、第1無線装置10aへパケット信号をまず送信する。第1無線装置10aは、受信したパケット信号を第4無線装置10dへ送信する。
つまり、基地局モードの無線装置10あるいは基地局装置は、最初の送信元および最終的な宛先が自らでないデータが含まれたパケット信号を通信対象とする。前述の例の場合、データの最初の送信元は、第2無線装置10bであり、データの最終的な宛先は、第4無線装置10dであり、基地局モードの第1無線装置10aは、いずれにも含まれない。一方、端末モードの無線装置10あるいは端末装置は、最初の送信元あるいは最終的な宛先が自らであるデータが含まれたパケット信号を通信対象とする。前述の例の場合、第2無線装置10bから送信されるパケット信号には、第2無線装置10bを最初の送信元したデータが含まれ、第4無線装置10dにて受信されるパケット信号には、第4無線装置10dを最終的な宛先としたデータが含まれる。これは、図1(a)のアドホック・ネットワークにておいても同様である。
図2(a)−(b)は、本発明の実施例に係る通信システム100の別の構成を示す。図2(a)−(b)は、4つの無線装置10が切替モードで動作している場合を示している。図2(a)では、第1無線装置10aが基地局モードで動作し、第2無線装置10b、第3無線装置10c、第4無線装置10dが端末モードで動作する。一方、図2(b)では、第2無線装置10bが基地局モードで動作し、第1無線装置10a、第3無線装置10c、第4無線装置10dが端末モードで動作する。切替モードでは、図2(a)の状態と図2(b)の状態とが適宜切りかえられる。なお、切りかえられる期間およびタイミングは、任意の値でよい。ここで、図2(a)の状態は、図1(b)と同等である。つまり、切替モードでは、所定のタイミングにおいて、インフラストラクチャ・モードと同様の処理がなされており、両者の違いは、基地局装置に相当する無線装置10が変更になるか否かである。
2.起動時のモード設定
まず、概略を説明する。無線装置10が、インフラストラクチャ・モード、アドホック・モード、切替モードを備えている場合、無線装置10は、起動する際に、これらの動作モードのうちのいずれかを選択する必要がある。一般的に、起動する際、ユーザには、使用したい動作モードの希望がある。そのため、ユーザの希望を反映させるような動作モードの選択が好ましい。無線装置10が切替モードで起動した場合、無線装置10は、基地局モードあるいは端末モードを選択する必要がある。既に周囲に基地局モードや端末モードの無線装置10が存在する可能性があるので、これらのモードの選択は、周囲の無線装置10でのモードに応じて決定される方が好ましい。これに対応するために、本実施例に係る無線装置10は、次の動作を実行する。
無線装置10は、起動前にユーザから、インフラストラクチャ・モード、アドホック・モード、切替モードのいずれかの指示を受けつけ、指示に応じて、使用すべき動作モードを選択する。無線装置10は、選択した動作モードとなるような設定を実行する。一方、無線装置10は、切替モードで起動した場合、初期状態において端末モードを実行する。つまり、無線装置10は、端末装置として起動する。その後、無線装置10は、一定期間にわたって、他の無線装置10からの報知信号、つまりビーコン信号を受信する。受信できない場合、周囲に基地局モードの無線装置10が存在しないと推定されるので、無線装置10は、端末モードから基地局モードに切りかわる。
図3は、本発明の実施例に係る無線装置10の構成を示す。無線装置10は、アンテナ20、通信実行部22、バッテリ24を含む。また、通信実行部22は、無線部26、変復調部28、データ処理部30、制御部32、操作部34、IF部36、記憶部38を含む。さらに、データ処理部30は、AP処理部50、STA処理部52を含み、制御部32は、検出部40、固定モード受付部42、切替モード受付部44、切替部46、維持部48を含む。
無線部26は、他の無線装置10との間においてパケット信号を使用しながら、通信を実行する。無線部26は、受信処理として、アンテナ20を介して受信した無線周波数のパケット信号に対して周波数変換を実行し、ベースバンドのパケット信号を生成する。さらに、無線部26は、ベースバンドのパケット信号を変復調部28に出力する。一般的に、ベースバンドのパケット信号は、同相成分と直交成分によって形成されるので、ふたつの信号線が示されるべきであるが、ここでは、図を明瞭にするためにひとつの信号線だけを示すものとする。また、無線部26には、LNA(Low Noise Amplifier)、ミキサ、AGC、A/D変換部も含まれる。
無線部26は、送信処理として、変復調部28から入力したベースバンドのパケット信号に対して周波数変換を実行し、無線周波数のパケット信号を生成する。さらに、無線部26は、無線周波数のパケット信号をアンテナ20から送信する。また、無線部26には、PA(Power Amplifier)、ミキサ、D/A変換部も含まれる。
変復調部28は、受信処理として、無線部26からのベースバンドのパケット信号に対して、復調を実行する。さらに、変復調部28は、復調した結果をデータ処理部30に出力する。また、変復調部28は、送信処理として、データ処理部30からのデータに対して、変調を実行する。さらに、変復調部28は、変調した結果をベースバンドのパケット信号として無線部26に出力する。なお、IEEE802.11a規格のようなOFDM変調方式に無線装置10が対応する場合、変復調部28は、受信処理としてFFT(Fast Fourier Transform)も実行し、送信処理としてIFFT(Inverse Fast Fourier Transform)も実行する。
また、IEEE802.11b規格のようなスペクトル拡散方式に無線装置10が対応する場合、変復調部28は、受信処理として逆拡散も実行し、送信処理として拡散も実行する。さらに、IEEE802.11nのようなMIMO(Multiple Input Multiple Output)方式に無線装置10が対応する場合、変復調部28は、受信処理としてアダプティブアレイ信号処理も実行し、送信処理として複数のストリームへの分散処理も実行する。
AP処理部50は、前述の基地局モードの処理を実行する。基地局モードの処理として、公知の基地局装置の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略するが、少なくとも前述のごとく、図示しない端末モードの無線装置10間の通信を中継する。つまり、AP処理部50は、受信処理として、変復調部28からの復調結果であるデータを受けつける。当該データの最終的な宛先は、自らの無線装置10ではなく、図示しない別の無線装置10である。AP処理部50は、送信処理として、図示しない別の無線装置10を最終的な宛先としながら、受けつけたデータを変復調部28へ出力する。当該データの最初の送信元は、自らの無線装置10でなく、受信処理において受けつけたデータを送信した図示しない無線装置10である。
STA処理部52は、前述の端末モードの処理を実行する。端末モードの処理として、公知の端末装置の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略するが、少なくともネットワークの端部に配置され、中継処理を実行しない。つまり、STA処理部52は、受信処理として、変復調部28からの復調結果であるデータを受けつける。当該データの最終的な宛先は、自らの無線装置10である。STA処理部52は、受けつけたデータに対して所定の処理を実行した後に、その結果を制御部32へ出力する。STA処理部52は、送信処理として、図示しない別の無線装置10を最終的な宛先としながら、制御部32から受けつけたデータを変復調部28へ出力する。当該データの最初の送信元は、自らの無線装置10である。
制御部32は、データ処理部30における基地局モードと端末モードとに関する動作を制御する。つまり、制御部32は、AP処理部50の動作あるいはSTA処理部52の動作を選択する。また、制御部32は、無線装置10の動作モードとして、インフラストラクチャ・モード、アドホック・モード、切替モードを規定し、これらの動作モードのいずれかを選択する。前述のごとく、アドホック・モードとは、AP処理部50あるいはSTA処理部52を固定的に使用する動作モードであり、切替モードとは、AP処理部50およびSTA処理部52を切りかえながら使用する動作モードである。なお、アドホック・モードの場合、STA処理部52だけが使用される。
操作部34は、ボタン等によって構成されており、ユーザからの指示を受けつける。また、パーソナルコンピュータと接続されるように無線装置10が形成されている場合に、操作部34は、パーソナルコンピュータに備えられたキーボード、マウスであってもよい。IF部36は、図示しない機器や構成要素とのインターフェイスである。例えば、無線装置10がパーソナルコンピュータやプリンタと接続される場合、IF部36は、パーソナルコンピュータやプリンタとのインターフェイスである。一方、無線装置10が携帯情報端末装置等に内蔵される場合、IF部36は、携帯情報端末装置の各構成要素、例えば、ディスプレイ、スピーカ、CPUとのインターフェイスである。
ユーザは、操作部34を使用して、動作モードの選択の指示を入力する。つまり、インフラストラクチャ・モード、アドホック・モード、切替モードに対する選択の指示が入力される。また、インフラストラクチャ・モードの場合、基地局モードあるいは端末モードの選択の指示も入力される。操作部34によって入力された指示が、インフラストラクチャ・モードの選択指示あるいはアドホック・モードの選択指示である場合、固定モード受付部42は、それらの指示を受けつける。また、固定モード受付部42は、インフラストラクチャ・モードの選択指示を受けつけた場合、基地局モードあるいは端末モードの選択指示も受けつける。
操作部34によって入力された指示が、切替モードの選択指示である場合、切替モード受付部44は、当該指示を受けつける。制御部32は、本無線装置10を起動する際に、データ処理部30の動作モードとして、インフラストラクチャ・モード、アドホック・モード、切替モードのいずれかを選択し、選択した動作モードを設定する。さらに、制御部32は、動作モードにあわせて、AP処理部50またはSTA処理部52のいずれかを動作させる。具体的に説明すると、固定モード受付部42がインフラストラクチャ・モードの選択指示であり、かつ基地局モードの選択指示を受けつけた場合、制御部32はAP処理部50を動作させる。
一方、固定モード受付部42がインフラストラクチャ・モードの選択指示であり、かつ端末モードの選択指示を受けつけた場合、あるいは固定モード受付部42がアドホック・モードの選択指示を受けつけた場合、制御部32は、STA処理部52を動作させる。切替モード受付部44が切替モードの選択指示を受けつけた場合、制御部32は、STA処理部52を動作させる。つまり、切替モードの場合、制御部32は、STA処理部52を選択しながら、無線装置10を起動させる。無線装置10がインフラストラクチャ・モードあるいはアドホック・モードで動作する場合、制御部32では、基地局モードあるは端末モードがユーザの指示によって特定されている。一方、無線装置10が切替モードで動作する場合、制御部32では、基地局モードあるは端末モードがユーザの指示によって特定されておらず、初期値として、端末モードが自動的に選択される。
記憶部38は、各種のデータおよび設定を記憶する。例えば、記憶部38は、固定モード受付部42や切替モード受付部44において受けつけた設定を記憶する。バッテリ24は、無線装置10を駆動させる電源である。なお、無線装置10は、バッテリ24の代わりにACアダプターによって、駆動されてもよい。
以下では、切替モードとして、無線装置10が起動された場合の処理を説明する。このような場合では、前述のごとく、STA処理部52が起動されている。検出部40は、無線部26、変復調部28、STA処理部52を介して、起動してから一定期間を経過するまでに、図示しない他の無線装置10から送信されたパケット信号であって、かつ報知情報が含まれたパケット信号、つまりビーコン信号を受信するかを検出する。このようなビーコン信号を受信した場合、本無線装置10の近傍に、基地局モードの別の無線装置10あるいは基地局装置が存在するといえる。一定期間の間にビーコン信号を検出しなければ、検出部40は、切替モード受付部44へその旨を通知する。さらに、切替モード受付部44は、その旨を切替部46へ通知する。切替部46は、通知を受けつけると、STA処理部52の動作を停止させて、AP処理部50を動作させる。つまり、切替部46は、端末モードから基地局モードへデータ処理部30の動作を切りかえる。
一方、検出部40は、一定期間の間にビーコン信号を検出すると、ビーコン信号の内容とともにその旨を切替モード受付部44へ出力する。ここで、ビーコン信号には、当該ビーコン信号を送信した装置に関する情報が含まれている。このような情報のひとつは、ビーコン信号の送信元が基地局モードおよび端末モードに対応した別の無線装置10であるか、通常の基地局装置であるかという情報である。切替モード受付部44は、ビーコン信号を検出した旨を受けつけると、ビーコン信号の内容をもとに、送信元の装置の種類を確認する。基地局モードおよび端末モードに対応した別の無線装置10である場合、切替モード受付部44は、受けつけた情報を維持部48へ出力する。一方、通常の基地局装置である場合、切替モード受付部44は、受けつけた情報を切替部46へ出力する。
維持部48は、切替モード受付部44から情報を受けつけると、STA処理部52の動作を維持させる。つまり、維持部48は、端末モードの設定を維持する。切替部46は、切替モード受付部44から情報を受けつけると、STA処理部52の動作を停止させて、AP処理部50を動作させる。
この構成は、ハードウエア的には、任意のコンピュータのCPU、メモリ、その他のLSIで実現でき、ソフトウエア的にはメモリにロードされた通信機能のあるプログラムなどによって実現されるが、ここではそれらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックがハードウエアのみ、ソフトウエアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは、当業者には理解されるところである。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図4は、無線装置10における設定手順を示すフローチャートである。電源がONにされる(S10)。切替モード受付部44が切替モードでの起動の指示を受けつけていれば(S12のY)、制御部32は、STA処理部52の動作を起動させる。つまり、制御部32は、端末モード(以下、「STAモード」ともいうが、両者を区別せずに使用する)を設定する(S14)。検出部40が一定期間にビーコン信号を受信しなければ(S16のN)、切替部46は、STA処理部52の動作を停止させて、AP処理部50を動作させる。つまり、切替部46は、基地局モード(以下、「APモード」ともいうが、両者を区別せずに使用する)に切りかえる(S20)。
一方、検出部40が一定期間にビーコン信号を受信し(S16のY)、ビーコン信号の送信元が、通常の基地局装置(以下、「AP専用装置」ともいうが、両者を区別せずに使用する)である場合(S18のY)、切替部46は、APモードに切りかえる(S20)。ビーコン信号の送信元が、AP専用装置でない場合(S18のN)、処理は終了される。切替モード受付部44が切替モードでの起動の指示を受けつけておらず(S12のN)、つまり、固定モード受付部42がインフラストラクチャ・モードあるいはアドホック・モードでの起動の指示を受けつけている場合、固定モード受付部42は、APモードかSTAモードかを確認する。APモードである場合(S22のY)、制御部32は、AP処理部50を動作させる。つまり、制御部32は、APモードを設定する(S24)。一方、APモードでない場合(S22のN)、制御部32は、STAモードを設定する(S26)。
本実施例によれば、起動する際にユーザからの指示をもとに動作モードを選択するので、ユーザの希望を反映できる。また、切替モードにて起動する際に、端末モードを選択するので、基地局モードの無線装置が複数存在する状況を回避でき、通信の安定性を維持できる。また、ビーコン信号を受信しなければ、端末モードから基地局モードへ切りかわるので、切替モードによる通信を実行できる。また、受信したビーコン信号が、AP専用装置から送信された場合、端末モードから基地局モードへ切りかわるので、インフラストラクチャ・モードによる通信とは別に、切替モードによる通信を実行できる。
3.接続時のモード設定
まず、概略を説明する。無線LANでの無線装置における簡単接続方法として、WPS(Wi−Fi Protected Setup)が開発されている。WPSの前提として、近年、無線LANが普及するにつれ、無線LANにおけるセキュリティ保護強化が求められている。このため、暗号鍵や初期化ベクトル(IV:Initial Vector)の長さが短く、メッセージの完全性を保証できなかったWEP(Wired Equivalent Privacy)のかわりに、暗号鍵の長さを拡張し、一定期間ごとに暗号鍵を更新可能なTKIP(Temporal Key Integrity Protocol)や、メッセージの改ざんを検出するMIC(Message Integrity Code)を採用するWPA(Wi−Fi Protected Access)が開発され、無線LANのセキュリティ保護強化が図られている。
WPAは、無線LAN装置間での相互認証を実現するために、PSK(Pre−Shared Key)をサポートしている。PSKにより保護された無線LANネットワークを構築するために、利用者は、基地局装置と、この基地局装置と接続する端末装置にPSKを設定しておく必要がある。また、PSK以外にも、無線LANネットワークを識別する情報であるSSID(Service Set Identifier)を設定するなど、無線LANネットワークのセキュリティ保護のために、利用者は数多くの設定を行う必要がある。
WPSは、このような利用者の負担を軽減するため開発された。WPSに対応する無線装置10では、個人暗証番号(PIN:Personal Identification Number)を入力する、もしくは専用ボタンを押す(PBC:Push−Button Configuration)により、SSID、WPAなどの設定を行う。このようなWPS対応の無線装置10を利用することで、利用者は、セキュアな無線LANネットワークを簡単に構築できる
ここでは、このようなWPSを使用してふたつの無線装置10が接続する際に、それらのモードも設定される必要がある。ふたつの無線装置10が既に起動している場合、それらには、基地局モードや端末モードが既に設定されている。これらのモードの設定は、他の無線装置10との関係を反映していることもあるので、接続後も同じ状態である方が好ましい。これに対応するために本実施例に係る無線装置10は、簡単接続を実行する場合に、接続の前後でのモードを維持するように、基地局モードや端末モードを設定する。
無線装置10の構成は、図3と同様のタイプである。ここでは、図3との差異を中心に説明する。本無線装置10と、他の無線装置10とが互いのパケット信号が受信できる距離に配置され、両方のボタンが押し下げられることによって、WPSによる簡単接続が両者の間で実行される。つまり、本無線装置10において、ユーザは、簡単接続を実行する際に、操作部34のボタンを押し下げる。制御部32は、ボタンの押し下げを検出すると、無線部26、変復調部28、データ処理部30を介して、図示しない無線装置10との間でWPSによる簡単接続を実行する。なお、WPSによる簡単接続として公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。
なお、前述のごとく、データ処理部30において、AP処理部50あるいはSTA処理部52が起動されており、記憶部38は、その情報(以下、「モード情報」という)を記憶する。制御部32は、簡単接続を実行する前に、他の無線装置10との間でモード情報を交換する。ここで、モード情報の交換には、ふたつの方法が存在する。ひとつは、制御部32が、データ処理部30、変復調部28、無線部26を介して、他の無線装置10へモード情報を送信し、他の無線装置10においてモードを決定してもらう方法である。
もうひとつは、制御部32が、無線部26、変復調部28、データ処理部30を介して、他の無線装置10からのモード情報を受信して、モードを決定する。つまり、本無線装置10あるいは他の無線装置10が、両方のモード情報を把握して、両方のモードを決定する。決定したモードは、相手方の無線装置10にも通知される。つまり、制御部32は、無線部26、変復調部28、データ処理部30を介して、他の無線装置10との間で行ったモード情報の交換結果をもとに、AP処理部50あるいはSTA処理部52を動作させる。
ここで、モードの決定規則は、例えば、次のように示される。(1)両方が基地局モードとして動作している場合、現在の設定は維持される。つまり、両方の間で基地局間通信(以下、「AP間通信」というが、両者を区別せずに使用する)が実現される。なお、基地局間通信として公知の技術が使用されればよいので、ここでは説明を省略する。(2)一方が既に基地局モードとして動作しているか、基地局モードになると決定した場合、一方が基地局モードに設定され、他方が端末モードに設定される。(3)両方が端末モードで動作しており、かつ両方が基地局モードに変更しない場合、端末モードの設定が維持される。つまり、両方の間でアドホック・モードが実現される。基地局モードに変更しない場合とは、基地局モードとして動作することをユーザが希望しないときや、バッテリの残量が少ないとき、また、受信レベルが下がり他のエリアへ移動することを検出したときに相当する。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図5は、本発明の実施例に係る通信システム100における設定手順を示すシーケンス図である。第1無線装置10aのボタンが押し下げられ(S40)、第2無線装置10bのボタンも押し下げられる(S42)。第1無線装置10aは、第2無線装置10bへ、モード情報を情報信号として送信する(S44)。第2無線装置10bは、モードを決定する(S46)。第2無線装置10bは、第1無線装置10aへ、決定したモードを通知信号として送信する(S48)。第1無線装置10aは、モードを設定し(S50)、第2無線装置10bも、モードを設定する(S52)。第1無線装置10aと第2無線装置10bとは、WPSによる設定処理を実行する(S54)。
図6は、本発明の実施例に係る通信システム100における別の設定手順を示すシーケンス図である。第1無線装置10aのボタンが押し下げられ(S70)、第2無線装置10bのボタンも押し下げられる(S72)。第1無線装置10aは、第2無線装置10bへ、モード情報送信の要求信号を送信する(S74)。第2無線装置10bは、第1無線装置10aへ、モード情報を情報信号として送信する(S76)。第1無線装置10aは、モードを決定する(S78)。第1無線装置10aは、第2無線装置10bへ、決定したモードを通知信号として送信する(S80)。第1無線装置10aは、モードを設定し(S82)、第2無線装置10bも、モードを設定する(S84)。第1無線装置10aと第2無線装置10bとは、WPSによる設定処理を実行する(S86)。
図7は、図5または図6における決定手順を示すフローチャートである。本無線装置10の制御部32、あるいは他の無線装置10の制御部32は、両方がAPモードであれば(S100のY)、AP間通信を実行する(S102)。両方がAPモードでなく(S100のN)、いずれか一方がAPモードであれば(S104のY)、一方がAPモードに決定され、他方がSTAモードに決定される(S106)。いずれか一方がAPモードでなければ(S104のN)、アドホック通信の実行が決定される(S108)。
本実施例によれば、簡単接続を実行する際に、モードを調節するので、接続後の通信状態へスムーズに移行できる。また、それまで使用したモードを可能な限り使用するので、他の無線装置に与える影響を低減できる。
4.APモードからSTAモードへの切替
まず、概要を説明する。基地局モードで動作している無線装置10が、基地局モードから端末モードへの切替を要求する場合がある。例えば、当該無線装置10のバッテリ残量が少なくなったときである。当該無線装置10が基地局モードから端末モードへ切り替えた場合であっても、通信システム100には、それまでと同様に安定した通信が要求される。これに対応するために本発明に係る無線装置10は、周囲の他の無線装置10の状態を取得し、いずれかの他の無線装置10を選択する。また、無線装置10は、選択した他の無線装置10へ基地局モードへの切替を要求する。
図8は、本発明の実施例に係る無線装置10の別の構成を示す。図8の無線装置10は、図3の無線装置10と同様のタイプである。ここでは、差異を中心に説明する。制御部32は、検出部40、選択部60、切替部62を含む。検出部40は、本無線装置10に備えられたバッテリ24の残量を監視する。検出部40は、AP処理部50が動作している場合、つまり基地局モードが設定されている場合に、バッテリ24の残量がしきい値より低くなったことを検出すると、その旨を選択部60へ通知する。
選択部60は、検出部40からの通知を受けつけると、AP処理部50、変復調部28、無線部26を介して他の無線装置10へ、バッテリ残量が低下した旨をリソース情報として報知する。通知後、選択部60は、無線部26、変復調部28、データ処理部30を介して、他の無線装置10からのリソース情報を取得する。例えば、リソース情報には、他の無線装置10におけるバッテリ残量の情報が含まれている。選択部60は、バッテリ残量がしきい値よりも大きい他の無線装置10を選択する。なお、複数の他の無線装置10が該当する場合、選択部60は、バッテリ残量が最大の他の無線装置10を選択する。選択部60は、AP処理部50、変復調部28、無線部26を介して、選択した他の無線装置10へ、端末モードから基地局モードへの変更を指示する。切替部62は、選択部60からの指示の出力後、AP処理部50の動作を停止させ、STA処理部52を動作させる。つまり、切替部62は、基地局モードから端末モードへデータ処理部30を切りかえる。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図9は、無線装置10における設定手順を示すフローチャートである。検出部40は、バッテリ24の電源状況を取得する(S120)。バッテリ24の残量がしきい値よりも低い場合(S122のY)、選択部60は、リソース情報を報知する(S124)とともに、リソース情報を取得する(S126)。AP動作条件のよい無線装置10があれば(S128のY)、選択部60は、当該無線装置10へAPモードへの切替を依頼する(S130)。一方、AP動作条件のよい無線装置10がなければ(S128のN)、選択部60は、APモード継続不能を通知する(S132)。その後、切替部62は、STAモードへの切替を実行する(S134)。バッテリ24の残量がしきい値よりも低くない場合(S122のN)、処理は終了される。
本実施例によれば、バッテリの残量が少なくなった場合に、基地局モードから端末モードへ切りかわるので、バッテリの消費を低減できる。また、切りかわる前に、他の無線装置へ基地局モードへの切替を指示するので、基地局モードで動作する無線装置がネットワーク内に存在しないという状況を回避できる。また、基地局モードで動作する無線装置がネットワーク内に存在しないという状況が回避されるので、安定した通信を維持できる。また、基地局モードで動作する無線装置がネットワーク内に存在しないという状況が回避されるので、切替モードによる通信を維持できる。
5.BSSの統合・分離
まず、概要を説明する。ふたつのBSSが接近した場合、これらがひとつのBSSとして動作することが要求されることもある。例えば、異なったBSSに含まれた無線装置10間での通信を実行したいときである。ふたつのBSSが存在する場合、基地局モードに設定された無線装置10がふたつ存在する。ふたつのBSSをひとつのBSSに統合するために、これらふたつの無線装置10間の調節が必要である。一方、上記の状況とは反対に、ひとつのBSSをふたつに分離することが要求されることもある。例えば、BSS内の無線装置10の台数が多くなったり、BSS内のトラヒックが大きくなったりしたときである。ひとつのBSSが存在する場合、基地局モードに設定された無線装置10がひとつ存在する。ひとつのBSSをふたつに分離する場合、基地局モードに設定された無線装置10がもうひとつ必要になる。
これに対応するために本実施例に係る無線装置10は、次の処理を実行する。基地局モードに設定されたふたつの無線装置10の一方は、他方からのビーコン信号の受信電力がしきい値よりも大きくなったときに、他方の無線装置10の接近を認識する。その後、無線装置10は、BSSに含まれた他の無線装置10へ、他方の無線装置10に関する情報を報知し、基地局モードから端末モードへ切りかえる。その結果、他方の無線装置10が、基地局モードで唯一動作することになり、ふたつのBSSがひとつに統合される。
ひとつのBSSにおいて、基地局モードに設定された無線装置10は、トラヒック量がしきい値よりも大きくなったことを検出する。その後、当該無線装置10は、端末モードに設定された無線装置10のうちのひとつを選択する。また、無線装置10は、選択した無線装置10へ、端末モードから基地局モードへの切替を指示することによって、新たなBSSを形成させる。さらに、無線装置10は、新たなBSSに含まれるべき無線装置10も指示する。
図10(a)−(b)は、本発明の実施例に係る通信システム100の別の構成を示す。図10(a)において、通信システム100は、第1ネットワーク200、第2ネットワーク202を含む。第1ネットワーク200は、AP210と総称される第1AP210a、STA220と総称される第1STA220a、第2STA220b、第MSTA220mを含む。また、第2ネットワーク202は、AP210と総称される第2AP210b、STA220と総称される第M+1STA220m+1、第M+2STA220m+2、第M+NSTA220m+nを含む。また、第1ネットワーク200、第2ネットワーク202が、BSSに相当する。
図10(b)において、通信システム100は、ネットワーク204を含む。ネットワーク204は、AP210と総称される第1AP210a、STA220と総称される第1STA220a、第2STA220b、第MSTA220m、第M+1STA220m+1、第M+2STA220m+2、第M+NSTA220m+n、第M+N+1STA220m+n+1を含む。ここで、AP210とは、基地局モードに設定された無線装置10に相当し、STA220とは、端末モードに設定された無線装置10に相当する。ここでも、ネットワーク204がBSSに相当する。
以下では、BSSの統合処理を説明した後に、BSSの分離処理を説明する。統合処理において、図10(a)は、統合前の状態に相当し、図10(b)は、統合後の状態に相当する。図10(a)において、第1ネットワーク200は、ひとつのAP210と複数のSTA220とを含み、交換モードによる通信を実行する。また、第2ネットワーク202も、ひとつのAP210と複数のSTA220とを含み、交換モードによる通信を実行する。このような状況下、第2AP210bは、第1AP210aの接近を検出した場合に、基地局モードから端末モードへ切りかわる。その結果、第2AP210bは、図10(b)のごとく、第M+N+1STA220m+n+1になる。その結果、第2ネットワーク202が第1ネットワーク200に統合されて、ネットワーク204になる。
次に、分離処理を説明する。分離処理において、図10(b)は、分離前の状態に相当し、図10(a)は、分離後の状態に相当する。図10(b)において、ネットワーク204は、ひとつのAP210と複数のSTA220とを含み、交換モードによる通信を実行する。第1AP210aは、ネットワーク204の規模がしきい値よりも大きくなった場合に、複数のSTA220のうちのひとつを選択する。ここでは、第M+N+1STA220m+n+1が選択されたとする。第1AP210aは、第M+N+1STA220m+n+1へ端末モードから基地局モードへの切替を指示する。その結果、図10(a)のごとく、第M+N+1STA220m+n+1は、第2AP210bになる。また、第1AP210aは、複数のSTA220のうちの一部と、第2AP210bとによって、別のネットワークを形成することを指示する。最終的に、第1ネットワーク200と第2ネットワーク202とが形成される。
図11は、本発明の実施例に係る無線装置10の別の構成を示す。図11の無線装置10は、図3や図8の無線装置10と同様のタイプである。ここでは、差異を中心に説明する。制御部32は、検出部40、決定部70を含む。まず、統合処理を説明する。検出部40は、無線部26、変復調部28、AP処理部50を介して受信した他の無線装置10からのビーコン信号の電力を測定する。ビーコン信号の受信電力がしきい値よりも大きくなったときに、検出部40は、その旨を決定部70へ通知する。決定部70は、検出部40からの通知を受けつけると、基地局モードから端末モードへの切替を決定する。また、決定部70は、同一のBSS内の他の無線装置10に対して、AP処理部50、変復調部28、無線部26を介して、基地局モードにて動作している他の無線装置10に関する情報を通知する。その後、決定部70は、AP処理部50の動作を停止させて、STA処理部52を動作させる。
次に、分離処理を説明する。検出部40は、ネットワーク204の規模を監視する。ネットワーク204の規模は、ネットワーク204内のトラヒック量、ネットワーク204に含まれる無線装置10の数によって特定される。トラヒック量や無線装置10の数がしきい値よりも大きくなったときに、検出部40は、その旨を決定部70へ通知する。決定部70は、検出部40からの通知を受けつけると、前述のごとく、モード情報を収集し、ひとつの他の無線装置10を選択する。決定部70は、AP処理部50、変復調部28、無線部26を介して、選択した無線装置10へ基地局モードへの切替を指示する。また、決定部70は、選択した無線装置10からのパケット信号の受信電力と近い受信電力のパケット信号を送信した他の無線装置10を少なくともひとつ特定する。さらに、決定部70は、特定した他の無線装置10に対して、新たな基地局モードの無線装置10にて形成されるBSSへ移動するように指示する。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図12は、無線装置10における設定手順を示すフローチャートである。無線部26、変復調部28、AP処理部50は、ビーコン信号を受信する(S150)。検出部40において受信電力がしきい値よりも大きくなったことが検出されると(S152のY)、選択部60は、同一のBSSに含まれる他の無線装置10に対して、新たなAPモードの無線装置10を通知する(S154)。決定部70は、APモードからSTAモードへ切りかえる(S156)。一方、検出部40において受信電力がしきい値よりも大きくなったことが検出されないと(S152のN)、処理は終了される。
図13は、無線装置10における別の設定手順を示すフローチャートである。検出部40においてトラヒック量がしきい値よりも大きくなったことが検出されると(S170のY)、決定部70は、新たにAPモードで動作すべき無線装置10を選択する(S172)。決定部70は、AP処理部50、変復調部28、無線部26を介して、選択した無線装置10へAPモードへの切替を指示する(S174)。また、決定部70は、選択した無線装置10の配下となる別の無線装置10を選択する(S176)。決定部70は、AP処理部50、変復調部28、無線部26を介して、別の無線装置10へ新たなネットワークへの移動を指示する(S178)。検出部40においてトラヒック量がしきい値よりも大きくなったことが検出されなければ(S170のN)、処理は終了される。
本実施例によれば、ふたつのBSSが接近すると、ひとつのBSSに統合されるので、通信可能となる無線装置の数を増加できる。また、通信可能となる無線装置の数が増加されるので、ユーザの利便性を向上できる。また、基地局モードで動作する無線装置の接近を検出すると、基地局モードから端末モードへ切りかわるので、BSSの統合を実現できる。また、BSSの規模が大きくなると、BSSをふたつに分離するので、スループットの低下を抑制できる。また、新たに基地局モードで動作すべき無線装置を指定するので、BSSの分離を実現できる。
6.APモードの無線装置の離脱
まず、概要を説明する。4.において、基地局モードの無線装置10は、端末モードへ切りかわる前に、他の無線装置10へ基地局モードの切替を指示する。つまり、基地局モードの引き継ぎがなされている。しかしながら、このような引き継ぎがなされる前に、基地局モードの無線装置10が端末モードへ切りかわったり、通信システム100から離脱したりすることもある。そのような場合でも、残った無線装置10間において、安定した通信の継続が要求される。これに対応するために、本実施例に係る無線装置10は、次の処理を実行する。
通信システム100に含まれた無線装置10には、優先度が設定されており、優先度の高い無線装置10が、端末モードから基地局モードへ切りかわる。なお、高い優先度の無線装置10が存在しない場合、通信システム100では、アドホック・ネットワークが実行される。
無線装置10の構成は、図3、図8、図11と同様のタイプである。ここでは、差異を中心に説明する。図2(a)−(b)に示したように、通信システム100のうち、ひとつの無線装置10が基地局モードで動作し、残りの無線装置10が端末モードで動作している。さらに、通信システム100に含まれた複数の無線装置10の間で、次に基地局モードにて動作すべき無線装置10の優先度が決められる。優先度を決めるために、複数の無線装置10は、前述のモード情報を互いに交換する。そのため、複数の無線装置10のそれぞれに含まれた制御部32は、複数の無線装置10におけるバッテリ24の残量を互いに把握する。ここで、各制御部32は、残量が多いほど、高くなるような優先度を付与する。そのため、各無線装置10において把握している優先度は共通になる。
このような状態において、基地局モードにて動作している無線装置10が、通信システム100から離脱した場合を想定する。その結果、通信システム100内には、端末モードで動作している無線装置10のみが複数含まれているだけになる。複数の無線装置10のうちのひとつに含まれる制御部32が、基地局モードにて動作している無線装置10の離脱を認識する。例えば、基地局モードにて動作している無線装置10との間の通信が不可能になった場合、基地局モードにて動作している無線装置10からのビーコン信号が受信されなくなった場合、制御部32は、離脱を認識する。制御部32は、STA処理部52、変復調部28、無線部26を介して、他の無線装置10へ、基地局モードにて動作している無線装置10と通信できるか否かを問い合わせる。問い合わせ後、一定期間にわたって、どの無線装置10からも応答がない場合、複数の無線装置10は、基地局モードにて動作している無線装置10が通信システム100内に存在しないことを確定する。制御部32は、優先度の高い無線装置10へ基地局モードへ変更することを指示する。
なお、優先度の高い無線装置10が存在しない場合や、優先度が決定されていない場合もある。その際、複数の無線装置10は、アドホック・ネットワークを形成する。アドホック・ネットワーク形成後、所定の無線装置10が、基地局モードへの切替を通知した場合、制御部32は、当該無線装置10へ基地局モードへの切替を指示する。つまり、複数の無線装置10は、基地局モードで動作していた無線装置10が通信システム100から離脱した後、ひとつの無線装置10を端末モードから基地局モードへ変更させるまでの間、アドホック通信を実行する。なお、複数の無線装置10は、端末モードから基地局モードへ変更させるべきひとつの無線装置10を特定できない場合、アドホック通信を継続する。
以上の構成による通信システム100の動作を説明する。図14は、本発明の実施例に係る通信システム100での設定手順を示すフローチャートである。制御部32は、APモードの無線装置10の離脱を検出する(S190)。優先度の高い無線装置10があれば(S192のY)、制御部32は、当該無線装置10へAPモードへの変更を指示する(S194)。優先度の高い無線装置10がなければ(S192のN)、制御部32は、他の無線装置10との間でアドホック・ネットワークを形成する(S196)。APモードとして動作する無線装置10があれば(S198のY)、制御部32は、当該無線装置10へAPモードへの変更を指示する(S200)。APモードとして動作する無線装置10がなければ(S198のN)、処理は終了される。
本実施例によれば、予め優先度を決定しているので、基地局モードで動作している無線装置が通信システムから離脱した場合であっても、新たな基地局モードで動作すべき無線装置をすぐに決定できる。また、新たな基地局モードで動作すべき無線装置がすぐに決定されるので、切替モードによる通信を維持できる。また、新たな基地局モードで動作すべき無線装置がすぐに決定されない場合、アドホック・ネットワークによる通信を実行するので、通信が中断した状態を回避できる。また、通信が中断した状態が回避されるので、ユーザの利便性の悪化を抑制できる。
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
10 無線装置、 20 アンテナ、 22 通信実行部、 24 バッテリ、 26 無線部、 28 変復調部、 30 データ処理部、 32 制御部、 34 操作部、 36 IF部、 38 記憶部、 40 検出部、 42 固定モード受付部、 44 切替モード受付部、 46 切替部、 48 維持部、 60 選択部、 62 切替部、 70 決定部、 100 通信システム。