JP5157748B2 - 溶接変形が小さい鋼板 - Google Patents
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Description
溶接変形が残留する原因は、溶接金属や母材の溶接止端部近傍が塑性変形を受けるためである。塑性変形を受けた部位は、その外側の部分を弾性的に変形させようとするが、剛性が高い、すなわち断面積が大きい場合には、その変形量は小さくなる。したがって、断面積を大きくするように設計変更することが一つの防止策となり得る。しかしながら、断面積を大きくするという設計変更は、使用鋼材のコストアップ、重量アップおよび工期長期化の面でロスが多い。
溶接時に、何らかの工夫をしておくことで溶接変形を防止することが可能である。幾つかの方法があるが、まずは溶接前に予め逆方向に曲げておくことである。溶接後には角変形が発生するが、予め逆方向に曲げておくことにより所望の形状に仕上がる可能性がある。また、溶接時に端部を拘束しておき変形を許容しない方法もある。さらに、後行トーチを設置し、溶接後に適切な位置を再加熱することにより逆に曲げ戻す方法も採られる場合がある。しかしながら、何れも大幅な工数増加を伴うので、コストアップ要因となる。
溶接後に矯正する方法として、機械的矯正と線状加熱矯正がある。しかしながら、これらの方法も大幅な工数増加が必要であるとともに熟練した高度な技能も要求される。
質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.01〜0.7%、Mn:0.3〜2%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cr:1〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.1%、Al:0.003〜0.1%およびN:0.01%以下を含み、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接変形が小さい鋼板。
「質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.01〜0.7%、Mn:0.3〜2%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cr:1〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.1%、Al:0.003〜0.1%およびN:0.01%以下を含み、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有する鋼板の溶接方法であって、溶接前の鋼板における溶接熱影響部となる部位の金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接方法。」
と把握することもできる。
ここで、後述するように、母材となる鋼板全体が上記の要件を満足するように製造した上で溶接してもよいし、母材となる鋼板のうち溶接しようとする部位(溶接熱影響部となる部位)のみを加工してその部位について上記の要件を満足させた上で溶接してもよい。
鋼板の各成分の作用効果および各成分の好ましい含有量は下記のとおりである。なお、含有量に関する「%」は「質量%」を意味する。
Cは強度向上にもっとも有効な元素であり、かつ安価な元素である。ただし、0.02%未満では他の元素の併用による強度保証が必要となり、結果的にコストアップ要因となる。また、0.25%を超えて含有させると溶接性を著しく阻害する。したがって、Cの含有量は0.02〜0.25%とする。
Siは強度向上に寄与する元素である。ただし、0.01%未満では必要とする強度を確保することができない。また、0.7%を超えて添加すると母材靱性と溶接性靱性を著しく劣化させることになる。したがって、Siの含有量は0.01〜0.7%とする。
Mnは強度確保のために必要な元素である。ただし、0.3%未満では必要とする強度を確保することができない。また、2%を超えて添加すると溶接性が劣化する。したがって、Mnの含有量は0.3〜2%とする。
Pは、不純物として鋼中に存在する元素である。Pの含有量が0.05%を超えると、粒界に偏析して靭性を低下させるのみならず、溶接時に高温割れを招くため、Pの含有量を0.05%以下とする。
Sは、不純物として鋼中に存在す元素である。Sの含有量が0.008%を超えると、中心偏析を助長したり、延伸形状のMnSが多量に生成したりするため、母材およびHAZの機械的性質が劣化する。したがって、Sの含有量の上限を0.008%とする。
Crは焼入れ性の向上を通じて強度を高めるのに有効な元素である。この効果を得るには1%以上の添加が必要となる。しかし、2.5%を超えると靱性が劣化する。したがって、Crの含有量は1〜2.5%とする。なお、好ましい含有量は1〜1.8%である。
Moは、コストの著しい増加をもたらすため、添加しない。不純物として混入してくる場合があるが、その場合でもMoの含有量は0.05%以下とする。
Nbは、鋼板の金属組織の再結晶化を遅延させる効果がある。ただし、その含有量が0.005%未満ではその効果が得られない。また、0.1%を超えると前記効果が飽和する一方でHAZの靱性を著しく損なう。したがって、Nbの含有量は0.005〜0.1%とする。なお、好ましい含有量は0.008〜0.020%である。
Alは脱酸のために必須の元素である。脱酸を確実に行うためには、0.003%以上の含有量が必要である。ただし、0.1%を超えると、特にHAZにおいて靱性が劣化しやすくなる。これは、粗大なクラスター状のアルミナ系介在物粒子が形成されやすくなるためと考えられる。したがって、Alの含有量は0.003〜0.1%とする。
Nは、不純物として鋼中に存在する元素である。Nの含有量が0.01%を超えると、母材靱性とHAZ靭性の悪化原因となる。したがって、Nの含有量の上限を0.01%とする。
Ti:0.1%以下
Tiは、主に脱酸元素として作用するので、必要に応じて含有させることができる。ただし、脱酸はAlによっても可能であるため、必ずしも含有させる必要はない。ただし、Ti含有量が多い場合にはTi酸化物またはTi−Al酸化物が形成されるため、特に小入熱溶接部熱影響部における組織を微細化する能力が失われる。このため、必要に応じて含有させる場合のTi含有量は0.1%以下とする。なお、Tiを含有させることによる脱酸効果を確実に得るためには、その含有量を0.01%以上とするのが好ましい。
Cu:2%以下
Cuは靱性をあまり劣化させずに強度を向上させることができるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、Cu含有量が2%を超えると熱間圧延時に亀甲状の割れを発生させるので、必要に応じて含有させる場合のCu含有量は2%以下とする。なお、Cuを含有させることによる強度向上効果を確実に得るためには、その含有量を0.05%以上とするのが好ましい。さらに好ましい含有量は、0.2%以上である。
Niは母材靱性を向上させ、かつ焼入性向上により強度向上にも寄与する元素であるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、Niは高価な元素であるからNiを過大に含有させると大きなコストアップ要因となる。このため、必要に応じて含有させる場合のNiの含有量の上限を3.5%以下とする。なお、Niを含有させることによる上記効果を確実に得るためには、その含有量を0.05%以上とするのが好ましい。
Vは強度向上に有効な元素であるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、Vの含有量が0.1%を超えると靱性が大きく劣化するので、必要に応じて含有させる場合のV含有量は0.1%以下とする。なお、Vを含有させることによる強度向上効果を確実に得るためには、その含有量を0.005%以上とするのが好ましい。
Bは焼入性を向上させて強度を高める作用があるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、Bの含有量が0.004%を超えると、強度を高める効果が飽和し、また、母材、HAZともに靱性劣化の傾向が著しくなる。したがって、必要に応じて含有させる場合のBの含有量は0.004%以下とする。なお、Bを含有させることによる焼入れ性と強度を高める効果を確実に得るためには、Bの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
Zrは鋼中で窒化物を微細分散析出し、強度を向上させる効果があるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、0.02%を超えて添加すると粗大析出物を形成し、靭性を劣化させるので、必要に応じて含有させる場合のZrの含有量は0.02%以下とする。なお、Zrを含有させることによる強度向上効果を確実に得るためには、Zrの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
Ca:0.004%以下
Caは鋼中のSと反応して溶鋼中で酸硫化物(オキシサルファイド)を形成する。この酸硫化物はMnSなどの延伸形状の介在物とは異なり、圧延加工で圧延方向に伸びることがなく圧延後も球状であるため、延伸形状の介在物の先端などを割れの起点とする溶接割れや水素誘起割れを抑制する作用があるので、必要に応じて含有させることができる。ただし、その含有量が0.004%を超えると靱性の劣化を招くことがある。したがって、必要に応じて含有させる場合のCaの含有量は0.004%以下とする。なお、溶接割れや水素誘起割れを抑制する効果を確実に得るためには、Caの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
MgはMg含有酸化物を生成し、TiNの発生核となり、TiNを微細分散させる効果を持つので、必要に応じて含有させることができる。ただし、その含有量が0.002%を超えると、酸化物が多くなりすぎて延性低下をもたらす。したがって、必要に応じて含有させる場合のMgの含有量の上限を0.002%とする。なお、TiNを微細分散させる効果を確実に得るためには、Mgの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。
REMは、溶接熱影響部の組織の微細化や、Sの固定に寄与するので、必要に応じて含有させることができる。ただし、その含有量が0.002%を超えると、REMは母材の靱性に悪影響を与える介在物となるので、必要に応じて含有させる場合のREMの含有量0.002%以下とする。なお、組織の微細化やSの固定効果を確実に得るためには、REMの含有量は0.0003%以上とすることが好ましい。なお、REMとは、ランタニドの15元素にYおよびScを合わせた17元素の総称であり、これらの元素のうちの1種又は2種以上を含有させることができる。また、REMの含有量はこれらの元素の合計含有量を意味する。
金属組織のフェライト分率は、10〜60%とする。溶接変形防止の観点から、降伏しやすい組織であるフェライトは少ない方が良いが、汎用強度鋼の強度レンジに適合させるため、フェライト分率の上下限を、それぞれ60%および10%とした。また、フェライト組織の平均粒径は破壊靭性の観点から小さい方が良い。そして、フェライト組織の平均粒径が30μmを超えると十分な破壊靭性を得ることができないため、その上限値を30μmとした。
Claims (4)
- 質量%で、C:0.10〜0.25%、Si:0.01〜0.7%、Mn:0.3〜2%、P:0.05%以下、S:0.008%以下、Cr:1〜2.5%、Mo:0.05%以下、Nb:0.005〜0.1%、Al:0.003〜0.1%およびN:0.01%以下を含み、残部Feおよび不純物からなる化学組成を有し、金属組織がフェライト組織10〜60%およびベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織40〜90%からなり、かつ、当該フェライト組織の平均粒径が30μm以下であって、ベイナイト組織および/又はマルテンサイト組織の硬度とフェライト組織の硬度との比が1.5以上であることを特徴とする溶接変形が小さい鋼板。
- 質量%で、さらに、Ti:0.1%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の溶接変形が小さい鋼板。
- 質量%で、さらに、Cu:2%以下、Ni:3.5%以下、V:0.1%以下、B:0.004%以下およびZr:0.02%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の溶接変形が小さい鋼板。
- 質量%で、さらに、Ca:0.004%以下、Mg:0.002%以下およびREM:0.002%以下のうちの1種又は2種以上を含有することを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載の溶接変形が小さい鋼板。
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