JP5152738B2 - 透水性コラムによる海底地盤の対波浪安定化工法 - Google Patents

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本発明は沖合・沿岸構造物における地盤安定化工法で、これは土木工学、港湾工学、海岸工学分野に関連するものである。
台風などによる荒天時に沿岸・海洋域において防波堤や護岸などの種々の構造物が被害を受けることがある。波浪によって生じる過大な水圧が構造物に作用し、これが構造物の損傷・破壊させる直接的な原因となっている。図1には典型的なコンクリート製のケーソンを本体とする重力式防波堤の典型的な断面を示す。波浪による水圧の変動は防波堤の外洋側に直接作用するため、その合力を主要な変動外力として安定性を評価する段階で適切に考慮する必要がある。一般のこの形式の防波堤では、この波浪による衝撃力を低減するために、防波堤の外洋側にコンクリート製の消波ブロックを積み上げて配置している。
この構造物に直接作用する変動水圧は構造物の不安定化においては最も重要な要素であるが、同時に変動水圧は構造物のみならず海底地盤にも作用する。これにより海底地盤が不安定化し、構造物(防波堤ケーソン)に対する地盤の基礎としての耐力が低下して構造物の機能が著しく損なわれる事例も少なくない(非特許文献1から3)。海岸工学分野では海水の流速に応じて海底の地盤材料が浮遊あるいは移動することに着目した「海底地盤の洗掘現象」として防波堤の被災のメカニズムを検討するのが普通である。しかし、これまでに明らかになっている被災例においては、波浪による海底地盤の不安定化が明らかに海底面下数メートル程度にまで及んでいる例も見られることから、地盤工学的見地から海底地盤を深さを有する三次元連続体として扱い、海底地盤表面における水圧変動のへの地盤の応答を評価する必要があることが非特許文献4から6によって示された。それ以降、地盤工学的な検討が活発に行われて、この分野における研究成果が蓄積されてきている。このことを力学的な面からとらえると、構造物−地盤−波浪が形成する複合的な力学系を固体−多孔質体−流体が形成する複合的なシステムとしてとらえ、力学的性質が本質的に異なる三者間の相互作用を適切に評価する必要があるということを意味している。
構造物−地盤(固体−多孔質体)の相互作用は、陸上においては地下水の影響を考慮した従来の地盤工学分野において検討され、構造物に対する地盤の支持力問題として研究の蓄積がある。これに対して、地盤−波浪(多孔質体−流体)の相互作用は比較的新しい問題であり、この相互作用を考慮したメカニズムによって沿岸・海洋構造物の不安定化現象が明らかにされつつあり、解析手法についても研究が進められている。
海底地盤と波浪の相互作用は力学的には多孔質体と流体の相互作用であり、海底地盤の多孔質体としてのモデル化および定式化が必要である。多孔質体のモデル化と定式化に関わる力学的な研究は非特許文献7より始まった。その後、海底地盤を連続体として固体と流体の二相系材料としてモデル化して波浪との相互作用に適用することで、海底地盤の挙動をある程度計算できることが明らかになってきている(非特許文献8から11)。三浦らは海底地盤と波浪の相互作用の解析における海底地盤の定式化、解析次元、動的・静的解析条件の最適化について検討した(非特許文献12から13)。その結果、波浪のような比較的周期の長い作用に対しては地盤をu−pモデルで定式化し、擬似動的な解析を行えば充分な精度で相互作用を考慮した挙動の解析が可能であることを示した。また、対象とする海底地盤の深度が波長に比べて十分に小さい場合には、一次元解析で十分な精度の応答が得られることを示した。
西田仁志、山口豊、近藤豊次、清水謙吉(1985):孔間弾性波探査法による離岸堤の埋没状況に関する考察、第32回海岸工学講演会論文集、pp.365−369 善功企、梅原靖文(1986):波浪による防波堤基礎地盤の液状化被災、海洋構造物の基礎に関するシンポジウム、第2編シンポジウム論文集、pp.225−232 岡二三生,大槙正紀,鎌田彰,八嶋厚,三浦均也(1994):波浪による防波堤の沈下のケーススタディー―北海道東部,奔幌戸漁港における現地調査結果―,第39回土質工学シンポジウム―海底地盤と海底施工技術―発表論文集,Vol.39,pp.219−226. Yamamoto、T.(1977):"Wave Induced Instability in Seabed、 Proc. Coastal Sediments、" ASCE、 pp.898−913. Okusa, S. (1985): "Wave−induced Stresses in Unsaturated Submarine Sediments," Geotechnique, Vol.35, No.4, pp.509−517. 善功企 (1990): 波浪による海底地盤の液状化現象:平成2年度港湾空港技術研究所講演会論文集,pp.1−49. Biot、 M. A. (1941): "General Theory of Three−Dimentional Consolidation、" Journal of Applied Physics、 Vol.12、 pp.155−164. Madsen、 O. S. (1978): "Wave Induced Pore Pressures and Effective Stresses in a Porous Bed、" Geotechnique、 Vol.28、 No.4、 pp.377−393. Yamamoto、 T. Koning、 H. S. H. L. K. and Van Hijum、 E. (1978): "Wave Induced Instability in Seabed、" Proc. Coastal Sediments、 ASCE、 pp.898−913. Putnam、 J. A. (1949): "Loss of Wave Energy due to Percolation in a Permeable Sea Bottom、" American Geophysical Union、 Vol.30、 No. 3、 pp.349−356. Mei, C. C. and Foda, M. A. (1981): "Wave Induced Responses in a Fluid Filled Poro−elastic Solid with a Free Surface − a Boundary Layer Theory," Geophysics. J. R. Astr., Vol. 68, pp.597−637. 三浦均也、浅原信吾、大塚夏彦、上野勝利(2004): "波浪に対する海底地盤応答の連成解析のための地盤の定式化、" 第49回地盤工学シンポジウム、pp.233−240 浅原信吾(2006): 豊橋技術科学大学平成17年度修士論文
図2は進行波あるいは孤立波(重複波)が作用する水平海底地盤の解析条件を示している。図中にはそれぞれ変相角の値も示している。表1には解析において複数の地盤材料を線形弾性理論でモデル化する際の典型的な物理・力学定数を示し、また、表2には解析で採用した3種類の波の性質を列挙している。波浪は微小振幅波理論によってモデル化し、海底地盤表面での水圧は波高に比例し、波長と周期の関数として算定している。Wave_2では日本沿岸における荒天時の平均的な波浪を想定し、Wave_3では大水深における日本沿岸では通常は起こりえない程度の荒天時を想定している。
Figure 0005152738
Figure 0005152738
波浪に対する地盤の典型的な応答を比較して示し、それにより海底地盤が波浪により不安定化するメカニズムを説明するために、3種類の地盤材料(緩い砂、正規圧密粘土、礫)からなる海底地盤を設定し、進行波(Wave_3)に対するそれらの地盤の応答を一次元条件で厳密解によって計算した。図3は海底地表面における水圧振幅で正規化した過剰間隙水圧の鉛直分布を、図4は鉛直有効応力の鉛直分布を示していて、分布を8つの変相角に対応してプロットしている。基本的な挙動を説明するために、図5には地表面z = 0mと深さ1mにおける過剰間隙水圧の変相角に対応した変動を示している((a)は緩い砂地盤、(b)は礫地盤)。図4に示す有効応力の挙動から明らかなように、緩い砂地盤と粘土地盤では地表面近くに有効応力が負になる現象が見られる。図3(a)が示すように、緩い砂では過剰間隙水圧の変動には深さ方向で急激な減衰挙動が見られる。図5(a)が示すように、過剰間隙水圧の伝播には位相差も見られ、地表面での水圧が減少している3π/8から11π/8を中心に地表面よりも海底地盤内で過剰間隙水圧が大きくなっている。このことにより地盤内には上向き浸透流が発生して3地盤に重力とは逆向きの物体力が生じ、結果として7π/8付近で鉛直有効応力が負になっている。実際の地盤材料は線形弾性体ではなく負の応力(引張応力)に抵抗できないので、このとき海底地盤は一体性を失い不安定化することになる。よって、砂地盤の場合にはWav_2では約3m、Wave_3では5m以上不安定化し、これが波の通過(海水面の変動)に同調して繰返して不安定化することが分かる。このような地盤の上に構造物が設置されると、構造物は安定を失い、地盤が不安定化する領域内で沈下・傾倒することになる。
図3から図5に示すように、このような海底地盤の波浪による不安定化はすべての地盤において必ず生じるわけではなく、礫地盤では見られない現象である。図5(b)が示しているように礫地盤は透水性が良いために地表面の水圧変動がほとんど減衰せずに地盤に伝達されている。これによって、緩い砂地盤では顕著であった上向き浸透流が礫地盤では鉛直有効応力を負にするほど大きくなっていない。
第1発明は、海底地盤に透水性のよいコラムを配置することによって海底地盤を波浪に対して安定化させる海底地盤安定化工法である。海底地盤を波浪による不安定化させないための方策としては以下のようなことが考えられる。(1) 海底地盤表面に作用する水圧変動を抑制する。
(2)海底地盤表面の水圧を減衰させずに地盤内に伝達させ、地表面と内部での過剰間隙水圧の差を抑制する。
最初の考え方は一般的に広く受け入れられている考え方であり、種々の消波工法によって波浪の勢いを減少させる試みはこの方策によっている。一方、海底地盤表面の水圧を地盤内に積極的に導く第二の方策は、水圧により地盤の不安定化がより進行するように思われるかもしれない。しかし、図5に示した礫地盤の挙動が示唆しているように、結果的には上向き浸透流が抑制されるので不安定化を防止するのには効果的であると言える。この発明は海底地盤に透水性コラムを配置することによって海底地盤表面に働く圧力を地盤内に誘導し、地盤内を安定化させる工法である。
本発明は、透水性コラムの設置により海底地盤内の上向き浸透流の発生を抑制し、地盤内を安定化させることができる。
また、護岸、混成防波堤、消波ブロック堤、潜堤等の沿岸、沖合い・海洋構造物の基礎を含む海底地盤に適用すれば、沿岸および沖合におけるこれらの構造物の対波浪安定性を向上させることができる。
図6には底地盤表面の水圧を減衰させずに地盤内に伝達させ、地表面と内部での過剰間隙水圧の差を抑制する方策に基づき海底地盤を安定化させる方法を示している。図6(a)は地表面に礫の層(グラベル・マット)を設置する方法である。この方法は、現行の礫材で構造物の基礎(マウンド)を設置するなどの工法において実際に取り入れられている。図6(b)は、本文で提案する地盤内に透水性の高い棒状の材料(透水性コラム)を鉛直に立て込んだ地盤である。さらに、図6(c)はグラベル・マットと透水性コラムを併用した海底地盤を示している。次節では、これらの方法の海底地盤の安定化へ効果を有限要素法により解析して検討する。
グラベル・マットの効果を示すために、地表面に礫層を配し緩い砂地盤の波浪に対する応答を有限要素法により一次元で解析した結果を図7・8に示している(浅原; 2005)。それぞれの図における(a)は図3に示したような過剰間隙水圧の変動範囲を、(b)は図4に示したような鉛直有効応力の変動幅を示している。図示のようにグラベル・マットの厚さDgmを増大させると、地盤は明らかに安定することがわかる。ただし、地盤の不安定化を完全に押さえるには通常の荒天時のWave_2に対してはグラベル・マットを2m程度、極端な荒天時のWave_3に対しては3m程度の厚さが必要であることがわかる。これらの値は、実際の設計に際してはかなり大きな厚さとなっている。
図9には透水性コラムを立て込んだ場合の海底地盤の形状と定義を示している。有限要素法では近接する4本の透水性コラムに囲まれた領域の4分の1を解析対象としてメッシュを作成し、透水性コラムの物性を仮に礫と同じとした。また、以下の解析では、透水性コラムの直径がDpc = 0.2m、間隔がWpc = 1.5mを標準としている。図10〜12Wave_2に対する応答を、図13〜15にWave_3に対する応答を示している。図には領域の中央位置での過剰間隙水圧変動と鉛直有効応力変動および透水コラム位置における過剰間隙水圧変動をその範囲で示している。波浪の性質は表2に示す通りであるが、先に示したものとは異なり構造物の周辺で見られる孤立波とした。
図10・13では透水コラムの長さLpcをパラメータにして挙動を比較している。透水性コラムの効果は明瞭で、負の有効応力は明瞭に減少して不安定化する深度も明らかに縮小している。Wave_2では長さ3m、Wave_3に対しては長さが5m程度で十分な効果がありそうで、不安定化する範囲はそれぞれ深度が3mから1.8mへ、5.3mから4.3mへ縮小している。
図11・14では透水性コラムの直径Dpcをパラメータにした挙動の比較を示している。採用した解析条件ではそれぞれWave_2に対しては20cmで十分な効果が得られそうであるが、Wave_3に対しては透水性コラムの直径をさらに大きくすると効果が増しそうである。
図12・15では透水性コラムの間隔Wpcをパラメータにした挙動の比較を示している。採用した解析条件ではそれぞれWave_2に対しては間隔が1.5mで十分な効果が得られそうであるが、Wave_3に対しては間隔をさらに小さくすると効果が増しそうである。
図16・17は透水性コラムにグラベル・マットを併用した条件で地盤の応答を解析した結果を、グラベル・マットの厚さをパラメータにして示している。図示のように、設定した標準条件においては、Wave_2に対しては透水コラムの長さを3mでグラベル・マットの厚さを1m、Wave_3に対しては透水コラムの長さを5mでグラベル・マットの厚さを3mとすれば、領域の中央(透水性コラムから最も離れた地点)においても海底地盤の不安定化を防ぐことができそうである。
現在では消波ブロックに代表される、構造物や海底地盤地表面に作用する水圧を減少させるための種々の工法が取られている。また、礫材を用いたマウンドの設置や地盤をブロック等で被覆することによって地盤を安定化する工法も取られている。これらに比べると、透水性コラムによる工法は地盤をより深い部分まで安定化することが可能であり、また、礫材を数メートルの厚さで敷設することに比べると、材料の調達や建設コストの面で優位性があると考えられる。図18には、透水性コラムによる海底地盤の安定化工法の可能性のある提供方法を示している。有限要素法による解析によりその効果を定量的に検討しつつ、護岸、混成防波堤、消波ブロック堤、潜堤等に適用すれば、沿岸および沖合におけるこれらの構造物の対波浪安定性を向上させることが可能であると考えられる。
本発明は沖合・沿岸構造物における基礎地盤の安定化に利用可能である。
重力式防波堤 水平海底地盤の解析条件と波浪の定義 一次元解析による水平海底地盤の応答(過剰間隙水圧分布の変化) 一次元解析による水平海底地盤の応答(鉛直有効応力の変化) 海底地盤における間隙水圧と有効応力の位相角に対する変化 海底地盤の対波浪安定化工法の考え方 グラベルマットによる海底地盤の安定化(Wave_2) グラベルマットによる海底地盤の安定化(Wave_3) 透水コラムを設置した水平海底地盤の3次元解析 海底地盤の応答に及ぼす透水コラムの長さの影響(Wave_2) 海底地盤の応答に及ぼす透水コラムの直径の影響 海底地盤の応答に及ぼす透水コラムの間隔の影響 海底地盤の応答に及ぼす透水コラムの長さの影響(Wave_3) 海底地盤の応答に及ぼす透水コラムの直径の影響(Wave_3) 海底地盤の応答に及ぼす透水コラムの間隔の影響(Wave_3) グラベルマットを併用した透水カラムによる海底地盤の安定化(Wave_2) グラベルマットを併用した透水カラムによる海底地盤の安定化(Wave_3) 透水性カラムによる海底地盤安定化工法の適用法
符号の説明
なし



Claims (3)

  1. 海水による水圧が変動して作用する海底地盤を安定化させる工法であって、礫の透水性に相当する透水性係数を有する棒状の材料で構成される複数の透水性コラムを、長手方向を鉛直にして前記海底地盤内に適宜間隔で立て込んで設けて、上向き浸透流による負の鉛直有効応力を低減させることを特徴とする海底地盤の安定化工法。
  2. 海水による水圧が変動して作用する海底地盤を安定化させる工法であって、砂層により形成され、または、該砂層の表面に礫層が設けられた前記海底地盤内に、礫の透水性に相当する透水性係数を有する棒状の材料で構成される複数の透水性コラムを、長手方向を鉛直にして適宜間隔で立て込んで設けて、上向き浸透流による負の鉛直有効応力を低減させることを特徴とする海底地盤の安定化工法。
  3. 海水による水圧が変動して作用する海底地盤を安定化させる工法であって、護岸、混成防波堤、消波ブロック堤または潜堤の基礎の下部を含む前記海底地盤内に、礫の透水性に相当する透水性係数を有する棒状の材料で構成される複数の透水性コラムを、長手方向を鉛直にして適宜間隔で立て込んで設けて、上向き浸透流による負の鉛直有効応力を低減させることを特徴とする海底地盤の安定化工法。
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