JP5142983B2 - 芳香族ビニル化合物の重合抑制方法 - Google Patents

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Description

本発明は芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵或いは輸送工程において、芳香族ビニル化合物あるいはこれを含有するプロセス流体の重合を抑制する方法に関するものである。
芳香族ビニル化合物、特にスチレンはポリスチレン、合成ゴム、ABS樹脂などの製造原料として産業上非常に重要な化合物であり、工業的に大量に生産されている。
一般に芳香族ビニル化合物は極めて重合し易く、製造あるいは精製工程において、熱が加わる等の要因により容易に重合し、芳香族ビニル化合物モノマーの収率を低下させ、さらに関連設備の中にファウリング(汚れ)を生じ設備の運転上、支障を来たすなどの問題がある。その対策として、重合抑制剤をプロセス流中に添加する方法が提案され実用に供されている。例えば、フェノール、ニトロソフェノール、ニトロフェノールを使用する方法(例えば、(例えば、特許文献1参照)やピペリジン−1−オキシルを使用する方法(例えば、と巨文献2参照)、ニトロソフェノールとピペリジン−1−オキシルを併用する方法(例えば、特許文献3参照)、アルキルスルホン酸とジアルキルヒドロキシルアミンを組み合わせて使用する方法(例えば、特許文献4参照)、燐酸エステルとアルキルスルホン酸を組み合わせて使用する方法(例えば、特許文献5参照)、オレフィン製造プロセスでの粘度上昇を抑制するためにフェノール系、アミン系、ニトロソ系重合禁止剤とドデシルベンゼンスルホン酸およびその塩を添加する方法(例えば、特許文献6参照)、ビニル化合物を扱う工程でのファウリングを防止するためにキノン系、ハイドロキノン系、ニトロソ系、フェニレンジアミン等のアミン系重合禁止剤とドデシルベンゼンスルホン酸およびその塩を添加する方法(例えば、特許文献7参照)が提案された。中でもニトロフェノールの2,6−ジニトロフェノール(DNP)、2,6−ジニトロ−4−メチルフェノール、2,4−ジニトロ−6−第二ブチルフェノール(DNBP)が、芳香族ビニル化合物の重合抑制剤として多用されている。しかし、これらの薬剤は徐々に重合反応の抑制力が低下する傾向を示すうえに、毒物を該当するため、その取り扱いに厳重な注意を要する。そのためにこれらの薬剤の重合抑制効果を維持し、その使用量を低減できる方法が強く望まれていた。
特開昭63−316745号公報 特開平1−165534号公報 特開平6−166636号公報 米国特許第4,654,450号明細書 米国特許第4,425,223号明細書 特開平7−166152号公報 特開平8−34748号公報
そこで、本発明は芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、初期の重合抑制はもちろんのこと、長時間に亙って効率的に重合を抑制し、且つ、取り扱い性に優れた芳香族ビニル化合物の重合抑制方法を提供すること目的としている。
本発明者らはビニル化合物の重合反応の特性を詳細に検討した結果、特定の含窒素芳香族化合物とスルホン酸化合物とを組み合わせて使用することにより、それぞれ単独で用いた時と比べて重合抑制において優れた相乗効果が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
すなわち、請求の範囲1項に係る発明は、芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、(A)下記一般式(I)で示される含窒素芳香族化合物と、(B)下記一般式(V)で示されるスルホン酸化合物を添加することを特徴とする芳香族ビニル化合物の重合抑制方法である。
Figure 0005142983
(式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1から12の直鎖あるいは分岐のアルキル基、炭素数2から12の直鎖あるいは分岐のアルケニル基、炭素数6から14のアリール基、アミノ基、炭素数1から12の直鎖あるいは分岐のアルキル基を有するモノあるいはジアルキルアミノ基、炭素数6から12のアリール基を有するモノあるいはジアリールアミノ基、ホルミル基、カルボキシル基、カルバモイル基、スルホン酸基を示し、隣接する二つの置換基同士で、脂環式あるいは芳香族構造を有していてもよい。Xは、酸素原子あるいはイオウ原子、Yは酸素原子あるいは窒素原子を示す。
Figure 0005142983
(式中、R32はヒドロキシル基、炭素数1〜32の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜32の直鎖もしくは分岐のアルキル基を少なくとも1つ持つアルキル置換フェニル基あるいはアルキル置換ナフチル基を示す。)
請求の範囲2項に係る発明は、前記(A)成分の一般式(I)表示の含窒素芳香族化合物が、メチレンバイオレット、レソルフィン及びフェノチアジン−3−オキサイドから選ばれた少なくとも1種である請求の範囲1項記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法である。
請求の範囲項に係る発明は、前記(B)成分の一般式(V)表示のスルホン酸化合物が、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸及びジノニルナフタレンスルホン酸から選ばれた少なくとも1種である請求の範囲1又は2項に記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法である。
請求の範囲項に係る発明は、(A)成分の含窒素芳香族化合物と(B)成分のスルホン酸化合物を重量比で5:95〜95:5の範囲で組み合わせて添加してなる請求の範囲1ないしのうちのいずれかに記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法である。
本発明により、芳香族ビニル化合物或いはこれを含有するプロセス流体の重合を効率よく抑制し、且つその効果が長く持続することから、関連装置内のファウリング(汚れ)発生量は極小化し、設備の安全運転、生産コスト削減に大きく寄与する等の利点を享受することができる。
本発明において重合抑制の対象となる工程は、芳香族ビニル化合物の製造工程、製造後の芳香族ビニル化合物の精製工程、精製した芳香族ビニル化合物を貯蔵・保管する貯蔵工程であり、芳香族ビニル化合物を含む工程液と接する付随装置類、付帯設備類、さらにこれらを含む循環系や回収系も包含する。具体的には、芳香族ビニル化合物製造工程におけるアルキル芳香族化合物の脱水素反応塔や合成反応塔、反応後の反応物排出ラインや回収循環ライン、精製工程における精製塔への芳香族ビニル化合物のフィード配管や予熱ラインおよび冷却ラインさらに循環ライン、貯蔵工程における保管タンクや貯蔵タンク、移送タンクおよび輸送タンクさらにその移送ラインなどがある。
芳香族ビニル化合物として、スチレン及び炭素数1〜10のアルキル基を持つアルキルスチレン、α位に炭素数1〜10のアルキル基を持つα−アルキルスチレン、β位に炭素数1〜10のアルキル基を持つβ−アルキルスチレンなどの重合性ビニル基を持ったスチレン誘導体である。具体的には、スチレン、メチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、エチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、プロピルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、ブチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、オクチルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、ノニルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、デシルスチレン(オルト体、メタ体、パラ体およびこれらの混合物)、α−メチルスチレン(2−フェニルプロペン)、1−フェニル−1−プロペン(β−メチルスチレン:シス体、トランス体、およびその混合物)、2−フェニル−2−ブテン(シス体、トランス体、およびその混合物)、スチルベン(シス体、トランス体、およびその混合物)、などがある。
これらの芳香族ビニル化合物を抑制するのに使用される(A)成分の一般式(I)表示の含窒素芳香族化合物は、ヘテロ原子とともに環状構造を有しており、こ一般式(I)表示の多環式イミノ化合物は、(I)式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1から12の直鎖あるいは分岐のアルキル基、炭素数2から12のアルケニル基、炭素数6から14のアリール基、アミノ基、炭素数1から12の直鎖あるいは分岐のアルキル基を有するモノあるいはジアルキルアミノ基、炭素数6から12のアリール基を有するモノあるいはジアリールアミノ基、ホルミル基、カルボキシル基、カルバモイル基、スルホン酸基を示す。また、隣接する二つの置換基同士で、脂環式あるいは芳香族構造を有していてもよい。Xは、酸素原子あるいはイオウ原子、Yは酸素原子あるいは窒素原子を示す。具体的な多環式イミノ化合物例としては、レソルフィン、メチレンバイオレット、フェノチアジン−3−オキサイド等が挙げられる。
これら(A)の成分の一般式(I)表示の含窒素芳香族化合物と組み合わせて用いる(B)成分の前記一般式(V)表示のスルホン酸化合物は、式中、R32はヒドロキシル基、炭素数1〜32の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜32の直鎖もしくは分岐のアルキル基を少なくとも1つ持つアルキル置換フェニル基あるいはアルキル置換ナフチル基であるスルホン酸化合物であり、これらの1種又は2種以上から選ばれる。スルホン酸化合物の具体例としては、硫酸、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸、ジノニルナフタレンスルホン酸等があり、特に芳香族ビニル化合物への溶解性、価格等からペンタデシルスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸がより好ましい。
本発明において(A)成分の含窒素芳香族化合物と(B)成分のスルホン酸化合物の混合比は、目的とする芳香族ビニル化合物の重合抑制の程度に応じて適宜決定されるものであり、一律に決められないが、一般的には対象とする芳香族ビニル化合物に対し(A)成分の含窒素芳香族化合物と(B)成分のスルホン酸化合物を重量比で95:5〜5:95、好ましくは80:20〜20:80、より好ましくは70:30〜30:70の範囲で組み合わせて添加する。
(A)成分の含窒素芳香族化合物と(B)成分のスルホン酸化合物の該工程への添加量は、対象とする工程の条件、重合抑制の必要度などにより異なり、一律に決められるものではないが、一般的には対象とする芳香族ビニル化合物に対し、(A)成分の含窒素芳香族化合物1〜3000ppm、好ましくは10〜2000ppm、さらに好ましくは100〜1000ppm、(B)成分のスルホン酸化合物を1〜3000ppm、好ましくは10〜2000ppm、さらに好ましくは100〜1000ppmである。これらの添加量は、対象とする芳香族ビニル化合物の重合抑止効果を発揮する上で適当な範囲として見出されたものであり、この範囲より小さいと効果が充分でなく、また、この範囲より多くとも効果は充分にあるが、添加量の割に効果は大きくならず、経済的見地から好ましくない場合がある。
本発明において、(A)成分の含窒素芳香族化合物と(B)成分のスルホン酸化合物を該工程に添加する場所は特に限定されるものではないが、通常、芳香族ビニル化合物が重合し、ファウリングとして問題化する箇所より上流のプロセスに添加する。例えば、スチレンは一般にエチルベンゼンの脱水素反応によって製造され、生成したスチレンと未反応エチルベンゼンを連続的に蒸留分離していることから、そのエチルベンゼン脱水素後の蒸留塔群に供給する。
本発明において、(A)成分の含窒素芳香族化合物と(B)成分のスルホン酸化合物の該工程への添加方法は特に限定されるものではないが、通常、ある特定箇所に一括添加するか、あるいはいくつかの箇所に分けて、分散添加するなどの方法が適宜選択される。この際、前記(A)成分と(B)成分をそれぞれ別々に添加することも出来るが、両者を適正な混合比でそのプロセス流体と同じ液体、例えばスチレンの場合にはエチルベンゼンや粗スチレンに溶解して添加するのが実際上、好都合である。
本発明において、前記(A)成分と(B)成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲において公知の他の重合抑制剤を併せて用いることになんら制限を加えるものではない。
実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例になんら限定されるものではない。
〔評価に用いた化合物〕
(A)成分(含窒素芳香族化合物)
A−1:メチレンバイオレット(東京化成工業社製)
A−2:レソルフィン(東京化成工業社製)
A−3:クレシルバイオレット(Aldrich Chemical社製)
A−4:チオニン(Aldrich Chemical社製)
A−5:メチレンブルー(東京化成工業社製)
A−6:インジゴ
A−7:インジゴカーミン
A−8:キノキサリン
A−9:1−メチルキノキサリン
A−10:フェナジン
A−11:3−アミノ−7−ヒドロキシ−2−メチルフェナジン
A−12:テトラベンゾ[a、c、h、j]フェナジン
(B)成分(スルホン酸化合物)
B−1:ドデシルベンゼンスルホン酸
B−2:ペンタデシルベンゼンスルホン酸
B−3:キシレンスルホン酸
B−4:クメンスルホン酸
B−5:p−トルエンスルホン酸
B−6:メタンスルホン酸
B−7:硫酸(98%)
(その他)
DNBP:2,4−ジニトロ−6−sec−ブチルフェノール
H−TEMPO:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル
(重合抑制試験−1)
還流冷却器を備えた4つ口セパラブルフラスコにスチレンモノマー100gを入れ、表1の重合抑制剤を所定量加え(各薬剤の配合割合は下に示した)、高純度窒素ガスを30分間吹き込んで溶存酸素を除いた。次いでこれを120℃に保持し、一定時間毎に内容物の一部を取り出してサンプリングし、液中のポリマー生成量(ppm)を測定した。サンプリング液の9倍容量のメタノールを加えてポリマーを液中に懸濁状態で析出させ、濾過してポリマー重量を秤量し、モノマー中のポリマー生成量%として求めた。なお、本実験を始める前に、スチレンモノマーをアルカリ洗浄してモノマー中に含まれる重合禁止剤(t−ブチルカテコール)を除き、水洗、乾燥した。得られた結果を表1に示す。
Figure 0005142983
Figure 0005142983
表1に示した結果から、(A)成分の含窒素芳香族化合物と(B)成分のスルホン酸化合物それぞれ単独ではさしたる重合抑制効果しか示さないが、両者を組み合わせることによって、相乗効果が発揮され、長時間に亙って重合抑制効果が持続することが了解されよう。

Claims (4)

  1. 芳香族ビニル化合物の製造、精製、貯蔵あるいは輸送工程において、(A)下記一般式(I)で示される含窒素芳香族化合物と、(B)下記一般式(V)で示されるスルホン酸化合物を添加することを特徴とする芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。
    Figure 0005142983
    (式中、R〜Rはそれぞれ独立に水素原子、ヒドロキシル基、炭素数1から12の直鎖あるいは分岐のアルキル基、炭素数2から12の直鎖あるいは分岐のアルケニル基、炭素数6から14のアリール基、アミノ基、炭素数1から12の直鎖あるいは分岐のアルキル基を有するモノあるいはジアルキルアミノ基、炭素数6から12のアリール基を有するモノあるいはジアリールアミノ基、ホルミル基、カルボキシル基、カルバモイル基、スルホン酸基を示し、隣接する二つの置換基同士で、脂環式あるいは芳香族構造を有していてもよい。Xは、酸素原子あるいはイオウ原子、Yは酸素原子あるいは窒素原子を示す。)
    Figure 0005142983
    (式中、R32はヒドロキシル基、炭素数1〜32の直鎖もしくは分岐のアルキル基、炭素数1〜32の直鎖もしくは分岐のアルキル基を少なくとも1つ持つアルキル置換フェニル基あるいはアルキル置換ナフチル基を示す。)
  2. 前記(A)成分の一般式(I)表示の含窒素芳香族化合物が、メチレンバイオレット、レソルフィン及びフェノチアジン−3−オキサイドから選ばれた少なくとも1種である請求項1記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。
  3. 前記(B)成分の一般式(V)表示のスルホン酸化合物が、トルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ペンタデシルベンゼンスルホン酸及びジノニルナフタレンスルホン酸から選ばれた少なくとも1種である請求項1又は2に記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。
  4. 前記(A)成分の含窒素芳香族化合物と前記(B)成分のスルホン酸化合物を重量比で5:95〜95:5の範囲で組み合わせて添加する請求項1ないしのうちのいずれかに記載の芳香族ビニル化合物の重合抑制方法。
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