JP5138570B2 - 複合活性炭からなる吸着材とその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ガソリンから発生する蒸発燃料、特にブタン等の低級炭化水素に対する吸脱着特性に優れる複合活性炭からなる吸着材とその製造方法に関する。
自動車の燃料として使用されるガソリンは、その高い揮発性故に燃料タンク中で揮発して蒸発燃料(ベーパ)が発生する。特に、停止時の外気温度により又は走行時に、燃料タンク内が高温となると揮発量も多くなる。自動車においては、燃料タンクの内圧を一定レベルに制御するため、燃料タンク内のガスを大気中へ放出できる機構を有する。しかし、蒸発燃料が大気中へ放出されると大気汚染の原因となる。そこで、従来から燃料タンクと大気口との間にキャニスタが配されている。キャニスタには蒸発燃料を選択的に吸脱着可能な多孔質体が内蔵されており、当該キャニスタに燃料タンク内のガスを透すことで、多孔質体によって蒸発燃料を吸着しながら空気のみを大気中へ放出できるようになっている。キャニスタ内に吸着された蒸発燃料は、エンジン駆動時の吸気管負圧や吸引ポンプを利用してキャニスタ内に空気を導入することで脱離(パージ)される。
一般的に、キャニスタに内蔵される多孔質体として活性炭が使用される。活性炭は各種原料を賦活処理することで多孔質状を呈するが、その内部には種々のサイズの細孔が形成されている。具体的には、細孔直径2nm以下のミクロ孔、細孔直径2〜50nmのメソ孔、細孔直径50nm以上のマクロ孔が混在している。これらの細孔は基本的に各細孔が互いに連続した連続孔となっており、活性炭の内部から表面に向けて細孔直径が大きくなる傾向にある。すなわち活性炭の細孔は模式的に木に例えることができ、木の太い幹に相当するのマクロ孔と、幹から出ている枝に相当するメソ孔と、枝からさらに細かく分かれている多数の小枝に相当するミクロ孔とを有する。吸着現象には大きく分けて物理吸着と化学吸着があるが、活性炭ではファン・デル・ワールズ力により生じる可逆的な物理吸着が主となる。この可逆的な物理吸着により吸着物質をパージできる。このように、活性炭は吸脱着特性を有するため、キャニスタに内蔵する蒸発燃料用の吸着材として好適に使用されている。
ミクロ孔は強力な吸着力を有しており、比較的分子サイズの小さい物質の吸着サイトになる。メソ孔は、分子サイズの大きな高分子物質の吸着や薬剤等の担持(添着)に利用される。また、活性炭表面に吸着した吸着物のミクロ孔への移動に関与するため、動的吸着特性や吸着速度にも影響する。このように、活性炭に対する吸着物の吸着容量は、ミクロ孔及びメソ孔の容積や分布に大きく影響を受ける。一方、マクロ孔は吸着物やイオンが活性炭内部のミクロ孔などに吸着するための通路であり、吸着容量には直接関与しない。しかも、マクロ孔容積が大きいと、活性炭の密度も低くなり、硬さも低下する。そのため、蒸発燃料に対する高い吸脱着特性を確保するには、吸着対象である蒸発燃料の分子サイズに応じた適切な細孔直径の細孔を多く有する活性炭を使用することが求められる。しかし、単に各種原料を賦活処理するだけでは細孔直径の制御は困難であり、均一な細孔直径を有する活性炭を得ることはほぼ不可能である。また、比表面積の増大を中心とする改良が検討されているが、比表面積の増大に伴う吸着材の密度減少が容積基準の吸着性能増大を拒むために高性能化には直結していない。
ここで、ガソリンは主に炭素数4〜10の炭化水素からなる。一方、車両走行中などでは、ガソリンは60℃程度にまで加熱され得る。したがって、当該ガソリンが揮発した蒸発燃料は、その90%以上がブタン、ペンタン、ヘキサンなどの低分子炭化水素であり、35℃基準ではブタンとペンタンだけでも蒸発燃料の80%程度を占める。これら炭化水素の分子径は約4Åであるが、それぞれ分子長さが異なる。一般的に、蒸発燃料の吸脱着に有効な活性炭の細孔径は、吸着分子長さの4〜6倍程度であることが知られている。各炭化水素の物性とそれに対する有効細孔直径との関係を表1に示す。

表1からも明らかなように、蒸発燃料が活性炭に吸着されるとき、各種サイズの細孔のうち、実際にはその殆どが2〜4nm程度、広くても1〜5nm程度の細孔領域に吸着される。したがって、活性炭の細孔のうち、吸着物の内部への移動を鑑みても細孔直径10nm以上の細孔領域は、蒸発燃料の吸着量に関して無駄な領域であり、しかも密度及び硬さ低下の原因となる。一方、ミクロ孔は吸着特性が高いが、細孔直径1nm程度未満の細孔が多過ぎると、脱着特性の面で問題が懸念される。すなわち、細孔直径1nm程度未満の細孔に吸着された蒸発燃料は、その高い吸着力により脱離(パージ)され難くなるおそれがある。したがって、細孔直径1nm程度未満のミクロ孔が多過ぎても、キャニスタに使用する吸着材に求められる吸脱着特性には課題が残る。
そこで、細孔直径の小さい細孔を選択的に閉塞することで細孔径分布を狭くし、蒸発燃料に対する吸脱着特性を向上させた複合活性炭からなるキャニスタ用の吸着材として特許文献1がある。具体的には、ナフタレン等の有機化合物を活性炭の細孔内に添着させることによって、20Å(2nm)未満の開口径を閉塞している。一方、細孔直径の大きな細孔の内面を改良することで、蒸発燃料に対する吸着特性の向上を図った吸着材として特許文献2がある。特許文献2では、10〜200nm程度のメソ孔及びマクロ孔の内部に、蒸発燃料が溶解可能な有機化合物を添着することで、蒸発燃料を吸収除去できるよう改良されている。これにより、n−ブタンの吸着量を、高くて40g/l(0.04g/ml)以上を達成している。特許文献2の吸着材の主体となる多孔質体としては、シリカゲルが挙げられている。また、水を吸着するヒートポンプ用の吸着材であるが、活性炭の細孔内にシリカゲルを添着することで細孔の狭小化を図った吸着材として、特許文献3もある。当該特許文献3では、活性炭をシリカゲル原料溶液に浸漬することで、活性炭の細孔内にシリカゲルを添着している。
また、一般的にキャニスタに内蔵される吸着材は、粒子状の多孔質体とバインダー樹脂とを混練したうえで、ミリオーダーで所定形状(例えばペレット状)に造粒された造粒吸着材とされることが多い。特許文献1〜3の吸着材も、数mmの造粒吸着材としている。しかし、この場合、バインダー樹脂が多孔質体の表面に付着することで、細孔入口がバインダー樹脂によって閉塞される問題が生じる。そこで、粉末活性炭と粉末シリカ等とを混合、成型、焼成した造粒吸着材として、特許文献4がある。これによれば、シリカが活性炭のバインダーとして機能するので、従来使用されていたようなバインダー樹脂は不要となり、かつシリカも多孔質体なので活性炭の細孔が閉塞されることも回避される。
特開2005−35812号公報 特開2007−181778号公報 特開2005−289690号公報 特開平6−129312号公報
特許文献1では細孔直径の小さい細孔を選択的に閉塞することで、主として脱着特性の向上が図られているが、吸着特性(吸着量)の向上については考慮されていない。すなわち、細孔直径2nm未満の細孔を閉塞しているものの、依然、吸着機能の面では無駄な領域となるメソ孔やマクロ孔などの細孔直径の大きな細孔が多く残存している。これに対し特許文献2では、従来吸着機能に関して無駄な領域であった細孔直径の大きな細孔領域を有効利用し、当該領域において蒸発燃料を有機化合物に溶解させることで吸着特性を向上させている。しかし、メソ孔やマクロ孔の狭小化を直接の目的としている訳ではない。有機化合物へ溶解させた蒸発燃料の脱溶解の問題も残る。そのため、蒸発燃料の吸収除去のみに着目しており、脱着特性に関しては特に考慮していない。また、吸着材をシリカゲルによって構成しているが、当該シリカゲルは活性炭に比して有効吸着量が低く、かつ有機化合物へ溶解させることによる吸着量の向上にも限界があり、n−ブタンの吸着量0.04g/mlでは充分とは言えない。つまり、特許文献1や特許文献2では、蒸発燃料の吸脱着に好適な細孔直径に制御している訳ではない。
これに対し、特許文献3では、大きな細孔直径を有する細孔の狭小化と、それ自体も吸脱着機能を有するシリカゲルの添着との相乗効果によって、水に対する吸脱着特性を効果的に向上している。しかし、特許文献3の吸着材はあくまで水を吸脱着するヒートポンプ用であって、蒸発燃料の吸脱着に好適な細孔直径とは範囲が異なることから、キャニスタ用の吸着材としては使えない。
また、特許文献3では、活性炭をシリカゲル原料水溶液に浸漬してシリカゲル原料を活性炭の細孔内に含浸させているが、この場合、シリカゲル原料は拡散により活性炭の細孔内へ浸入していく。当該拡散浸入は、浸入速度が遅く、細孔深く(奥方)にまで浸入させるには長時間を要する問題がある。例えば粒径9mmの活性炭にジシアンジアミドを含浸吸着させる場合、粒子表面近傍の細孔内には比較的短時間でジシアンジアミドを吸着させられるが、20時間活性炭を浸漬しても、粒子中心部には殆どジシアンジアミドが吸着されておらず、48時間後でも粒子中心部には平衡吸着量の18%程度しかジシアンジアミドが吸着されていないという結果が得られている(化学工学論文集、第10巻、第4号、1984、渡辺藤雄ら、P461〜468、図4等参照)。つまり、活性炭の粒径が大きく、粒子表面から粒子中心部までの距離、すなわち細孔距離が長いと、それだけシリカゲル原料の添着時間を長くする必要がある。しかし、特許文献3では、活性炭の形状等については特に規定されておらず、活性炭を24〜48時間かけてシリカゲル原料溶液に浸漬しているが、活性炭の細孔深くにまで的確にシリカゲルを添着できているかが懸念される。
また、活性炭の細孔内にシリカゲルを添着して複合活性炭とした後、さらにバインダー樹脂を混錬して所定形状に造粒する従来の方法では、添着工程と造粒工程の双方が必要になり、製造が煩雑であり長時間を要する。これに対し特許文献4では、シリカゲルをバインダーとして使用することでシリカゲルの添着と造粒とを同時に行い得るが、活性炭の細孔内部にシリカゲルを添着させることはできない。
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、幅広い細孔径分布、特にメソ孔及びマクロ孔を有する活性炭の所定領域に添着物を的確に添着することで、蒸発燃料が主として吸脱着される領域となる細孔直径領域の細孔が多い細孔径分布とし、蒸発燃料の吸脱着特性に優れる吸着材とその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このように細孔直径が制御された吸着材の製造時間を短縮できる、吸着材の製造方法を提供することを目的とする。
本発明は、活性炭の細孔内に添着物が添着された吸着材であって、前記活性炭はメソ孔及びマクロ孔を有し、前記添着物が前記メソ孔及びマクロ孔内に添着されていることで、1〜10nmの範囲の細孔径分布が高められていることを特徴とする。すなわち本発明の吸着材は、複合活性炭ということができる。このとき、前記添着物によって、少なくとも細孔直径10nmを超える細孔領域が狭小化されている。なお、活性炭がミクロ孔も有する場合に、当該ミクロ孔内にも添着物が添着されることを否定するものではない。
前記添着物としてはシリカゲル、中でもB型シリカゲルが好ましい。吸着材は、複数の粒子状活性炭を、シリカゲルをバインダーとして接着した造粒物とすることが好ましい。この場合、前記細孔内に添着されたシリカゲルと、前記バインダーとしてのシリカゲルとが、同じ原料から同時に添着されたものであることが好ましい。
このような吸着材は、自動車に搭載される蒸発燃料処理装置に組み込まれ、燃料タンク内に貯留されているガソリンが揮発することで発生した蒸発燃料を吸脱着するためのキャニスタ用として好適に使用できる。
また、本発明によれば、濃度0.1〜10wt%のケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に、少なくともメソ孔及びマクロ孔を有する比表面積1100〜2500m/gの活性炭を導入し、12時間以上含浸させる含浸工程と、前記含浸工程後の活性炭へpH3〜6の範囲で酸を添加するゾル化工程と、前記ゾル化工程後に固液分離して、前記活性炭を加熱熟成するゲル化工程と、を有し、前記メソ孔及びマクロ孔の内部にシリカゲルを添着させて1〜10nmの範囲の細孔径分布を高める、吸着材の製造方法も提案される。
この場合、前記活性炭は微粉砕された粒子状であることが好ましい。また、前記ゾル化工程は、前記ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液の凝固点より高く常温以下で行うことが好ましい。
前記製造方法は、製造工程が異なる2つの製造方法を採用し得る。第1の製造方法は、前記含浸工程の後、固液分離した活性炭を乾燥してから、前記ゾル化工程を行うことができる。第2の製造方法は、前記含浸工程とゾル化工程とを、前記ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液中で連続して行うことができる。なお、当該2つの製造方法によって得られる複合活性炭のシリカゲル添着量及び添着領域は、製造条件が同一である限り同様である。すなわち、前記2つの製造方法によって得られる複合活性炭は、いずれも前記メソ孔及びマクロ孔の内部にシリカゲルが添着されて、1〜10nmの範囲の細孔径分布が高められている。
前記第1、第2の製造方法において、前記含浸工程において前記活性炭の細孔表面を親水性化する薬品を、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に添加しておくことが好ましい。又は、前記含浸工程の前に、予め前記活性炭を蒸留水へ浸漬する蒸留水浸漬工程を経ることが好ましい。また、前記ゾル化工程後、前記加熱熟成する前に、前記活性炭を水熱処理する水熱処理工程を経ることが好ましい。
本発明では、幅広い細孔径分布を有する活性炭において、メソ孔及びマクロ孔内に添着物が添着されていることで、当該メソ孔及びマクロ孔内が添着物によって狭小化される。これにより、従来蒸発燃料の吸着に直接関与しなかった細孔直径の大きな細孔領域をも、蒸発燃料が吸着される領域として有効利用でき、吸着特性を向上させることができる。しかも、最終的な蒸発燃料の吸着量に大きく影響する活性炭自体の本来的な比表面積を大きくしていても、細孔内に添着物が添着されることで、吸着材の密度が低下することが抑制される。換言すれば、添着物によって活性炭の密度が増大する。活性炭の密度が増大することで、熱容量と熱伝導率も向上する。1〜10nmの範囲の細孔径分布が高められていれば、蒸発燃料の吸脱着が良好に行われる細孔直径1〜5nm程度の細孔が確実に増加するので、効率的に吸着特性を向上しながら、良好な脱着特性も担保できる。さらに、1〜5nmより若干大きい細孔領域も確保されているので、蒸発燃料は連続細孔の奥方に進入し易い。それ自体ある程度の吸脱着特性を有するシリカゲルを添着していれば、さらに吸脱着特性を向上できる。B型シリカゲルであれば、その効果がより高い。この様な吸着材をキャニスタに使用すれば、燃料タンクから発生する蒸発燃料の吸脱着特性に優れるキャニスタとすることができる。
吸着材が複数の粒子状活性炭を接着した造粒吸着材となっていれば、これをキャニスタに配したとき、キャニスタの通気性等が向上して吸脱着特性が向上する。このとき、バインダーとしてシリカゲルを使用していれば、各粒子状活性炭の細孔入口が閉塞されることがなく、かつシリカゲル自体の吸脱着機能との相乗効果により、より吸脱着特性が向上する。そのうえで、細孔内に添着されたシリカゲルとバインダーとしてのシリカゲルとが、同じ原料から同時に添着されたものであれば、活性炭細孔の狭小化と造粒とを同時に行えるので、製造方法を簡素化できる。
また、本発明の吸着材の製造方法によれば、活性炭のメソ孔及びマクロ孔の内部にシリカゲルを添着させて、1〜10nmの範囲の細孔径分布を高めることができる。これによる効果は上述の通りである。その際、活性炭が微粉砕された粒子状であれば、活性炭の細孔距離が短くなるので、含浸時間を短縮できる。従来と同程度の含浸時間とすれば、より確実に細孔の奥方へシリカゲルを添着できる。ゾル化工程を、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液の凝固点より高く常温以下で行えば、シリカの分子径が比較的大きくなることで、細孔直径1〜5nm程度の細孔へシリカが浸入に難くなり、本来的に蒸発燃料の吸脱着に有効な細孔直径領域にある細孔が、シリカゲルによって狭小化されることが抑制される。
含浸工程の後、固液分離した活性炭を乾燥してからゾル化工程を行えば、ゾル化工程において酸を添加した際に、低分子状態のケイ酸が活性炭から溶出するのが防がれる。一方、含浸工程とゾル化工程とをケイ酸のアルカリ金属塩水溶液中で連続して行えば、活性炭細孔の狭小化と造粒とを同時に行えるので、製造方法を簡素化できる。
含浸工程においてケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に薬品を添加するか、含浸工程の前に予め活性炭を蒸留水へ浸漬しておけば、活性炭の細孔表面が親水性化するので、シリカゲル原料が活性炭の細孔内へ進入し易くなると共に定着も促進される。また、加熱熟成する前に活性炭を水熱処理しておけば、シリカゲルの細孔が発達するので、最終的な複合活性炭の細孔容積延いては吸着容量を増大できる。
本発明の吸着材は、ガソリンが揮発することで発生した蒸発燃料の吸脱着用として好適に細孔径分布が制御されており、代表的には自動車の蒸発燃料処理装置に設けられるキャニスタ内に内蔵される。具体的には、図1に示されるように、細孔直径2nm未満のミクロ孔10、細孔直径2〜50nmのメソ孔20、及び細孔直径50nmを超えるマクロ孔30からなる幅広い細孔径分布の連続細孔を有する活性炭1に対して、図2に示されるように、主としてメソ孔20及びマクロ孔30内に添着物50が添着された複合活性炭2からなり、1〜10nmの範囲の細孔径分布が高められている。
活性炭は、各種原料を賦活処理して得られた炭化物多孔質体である。活性炭の原料としては特に限定されず、公知の動植物系原料や合成樹脂系原料を使用できる。動植物系の原料としては、例えば松などの木質、竹、椰子殻、胡桃殻などの植物質、石炭質、獣骨や血液など動物質などがある。合成樹脂系の原料としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂のいずれも適用できるが、とくに薬品賦活での活性炭収率が大きいポリエステル、ポリカーボネート、フェノール樹脂、又はポリイミドが好ましい。
賦活処理としては、各種ガスを使用した物理的作用により多孔質化する高温炭化法や、化学薬品を使用する化学法がある。高温炭化法で使用する賦活ガスとしては、水蒸気、二酸化炭素、空気などがある。賦活薬品としては、代表的には水酸化カリウム(KOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、塩化亜鉛(ZnCl)等が挙げられ、その他にもリン酸などのアルカリ金属塩や、アルカリ金属の水酸化物も使用できる。
添着物を添着する前の活性炭本来の比表面積は、できるだけ大きい方が好ましい。本来的な活性炭の絶対吸着量が大きくなるからである。具体的には、少なくとも500m/g以上とし、一般的な活性炭の比表面積レベルである800m/g以上とすることが好ましい。より好ましくは1100m/g以上であり、さらに好ましくは高度に賦活処理した1500m/g以上である。但し、あまりに比表面積が大きすぎると、添着物を多量に添着する必用がある、及び活性炭の密度及び硬さが大きく低下するなどの問題が生じる。そこで、活性炭本来の比表面積の上限は、2500m/g程度とすればよい。このとき、活性炭原料や賦活処理度にもよっても異なるが、活性炭全体の比表面積に対するメソ孔とマクロ孔とを合わせた比表面積の割合は、少なくとも30%を超えている。高度に賦活処理するに伴い、活性炭全体の比表面積に対するメソ孔とマクロ孔とを合わせた比表面積の割合も増大する傾向にある。例えば、活性炭全体の比表面積が1100m/g以上では、活性炭全体の比表面積に対するメソ孔とマクロ孔とを合わせた比表面積の割合は、80%を超えている。
活性炭の吸着は可逆的な物理吸着が主体であるが、表面官能基なども存在することから、化学吸着も補足的に起こり得る。また、活性炭自体は疎水性である。したがって、吸着材としての括りの中における活性炭の位置づけとしては、比表面積が大きく細孔径が比較的小さな、疎水性吸着材といえる。活性炭の形態は特に限定されないが、粉砕された粒子状が好ましい。活性炭を粒子状とする場合は、粒径0.001〜3.0mm程度が好ましい。この範囲であれば、添着物を細孔内に容易に浸入させられると共に、根本的な吸脱着特性も良好になる。平均粒子径としては、0.005〜2.0mm程度である。また、活性炭は微粉砕された粒子状がより好ましい。活性炭の粒径が小さくなるほど、活性炭表面の細孔入口から細孔の奥方までの細孔距離が短くなるので、添着物を細孔内へ導入する時間、すなわち複合活性炭の製造時間を短縮できる。実際には、後述のように添着物原料水溶液に活性炭を導入して添着物を含浸させるが、従来と同程度の含浸時間であれば、より確実に細孔の奥方へ添着物を添着できる。微粉砕の程度としては、粒径0.25mm(250μm)以下が好ましく、0.08mm(80μm)以下がより好ましい。平均粒子径であれば、0.1mm以下が好ましい。さらに好ましくは、粒径0.01mm(10μm)以下である。
活性炭へ添着する添着物としては、活性炭の細孔内に添着されて細孔を狭小化できるものであれば特に限定されず、例えばシリカゲルや各種有機化合物を使用できる。シリカゲルを添着する場合は一般的な液相法が使用されるが、有機化合物であれば気相法でもよい。中でも、それ自体で有意な吸脱着特性を有するシリカゲルが好ましい。さらには、B型シリカゲルが好ましい。シリカゲルにはJIS Z0701に規定されるA型シリカゲルとB型シリカゲルとがある。A型シリカゲルはコロイド粒子が密に凝集しているため、表面積が大きく細孔容積が小さい。したがって、蒸発燃料の濃度が低濃度の場合に吸着力が特に大きい。A型シリカゲルは、一定量の蒸発燃料を吸着すると、それ以上の吸着能力を失う(飽和状態となる)。これに対しB型シリカゲルは、粒子の凝集が粗く且つ粒子径が大きいので、表面積が小さく細孔容積が大きい。したがって、蒸発燃料の濃度が高濃度になるにつれて多量の蒸発燃料を吸着する特性を有する。物理的に吸着された蒸発燃料は濃度が下がるにつれて徐々に脱離されるので、B型シリカゲルは、蒸発燃料の濃度に応じた吸脱着特性が高い。一般的には、活性炭の7割程度の低級炭化水素吸着性能を有する。A型シリカゲルとB型シリカゲルの一般的な各種物性を表2に示す。
添着物としてシリカゲルを使用する場合は、基本的には液相法である公知のシリカゲル添着法により複合活性炭を製造できるが、本発明では大きく分けて2つの製造方法が提案される。以下に、本発明の基本的な製造手順について説明する。
(第1の製造方法)
第1の製造方法では、シリカゲル原料水溶液に活性炭を導入し、活性炭の細孔内へシリカゲル原料を含浸させる含浸工程と、含浸工程後の活性炭へ酸を添加してシリカゲル原料をゾル化するゾル化工程と、ゾル化工程後に固液分離して、活性炭を加熱熟成することでシリカゾルをゲル化するゲル化工程とを有する。本発明における第1の製造方法のシリカゲル添着フローを図3に示す。図3を参照しながらシリカゲル添着手順(複合活性炭の製造工程)について説明する。まず、賦活処理された活性炭を真空脱気する。加熱条件下で真空脱気することで、活性炭に吸着されている水分等が脱離除去されると共に、後工程においてシリカゲル原料が活性炭の細孔内に浸入し易くなる。加熱条件としては、350〜400K程度とすればよい。
(含浸工程)
活性炭から余分な吸着物を脱離できたら、次いで、冷却してから活性炭の細孔内にシリカゲル原料を含浸させる。シリカゲル原料の含浸は、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に活性炭を導入することで行える。ケイ酸のアルカリ金属塩としては、代表的にはケイ酸ナトリウム(NanSiO)が使用される。活性炭をケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に導入することで、シリカゲル原料となるケイ酸のアルカリ金属塩が活性炭の細孔内に浸入していく。このとき、シリカゲル原料の浸入は水中拡散により生じるが、当該拡散速度は遅い。したがって、上述のように、活性炭は粒径0.25mm以下、好ましくは0.08mm以下、より好ましくは粒径0.01mm以下に微粉砕された粒子状のものを使用することが好ましい。これにより、含浸時間の短縮、及び細孔奥方への確実な含浸(添着)が可能となる。
ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液の濃度は、使用する活性炭の細孔容積や比表面積との関係にもよるが、0.01〜10wt%とする。ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液の濃度が低すぎると、最終的にシリカゲルの添着量が少なすぎて、細孔径分布制御を的確に行えなくなる。すなわち、細孔直径の大きい細孔の有意な狭小化が困難となる。一方、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液の濃度が高すぎると、最終的に添着されるシリカゲルの量が多くなりすぎ、細孔直径の大きい細孔が必要以上に狭小化され、逆に吸脱着特性が悪化してしまう。最終的な添着量の基準としては、活性炭の比表面積(m/g)に対する複合活性炭の充填密度(g/l)の割合(充填密度/比表面積)を、0.14〜0.18とすることが好ましい。これを目安として、活性炭の比表面積に応じてケイ酸のアルカリ金属塩水溶液の濃度を適宜調整すればよい。一度の含浸のみでは添着量が少なければ、含浸工程を複数回繰り返せばよい。例えば、比表面積1100〜2000(m/g)程度の活性炭に、ケイ酸ナトリウム水溶液を使用してシリカゲルを添着する場合は、当該ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度を0.1〜5.0wt%程度、好ましくは0.1〜1.0wt%程度とすればよい。
ここで、上述のように、活性炭は疎水性である。したがって、そのままシリカゲル原料を導入しても、細孔内にシリカゲル原料が良好に定着し難い。そこで、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液と共に、活性炭の細孔表面を親水性化する薬品を添加することが好ましい。活性炭の細孔表面を親水性化する薬品としては、例えば硝酸、アンモニア、アルコール、界面活性剤等が挙げられる。これらは1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を混合使用してもよい。活性炭の細孔表面が親水性となることで、シリカゲル原料の浸入及び定着が促進される。
活性炭へシリカゲル原料を含浸させるとき、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液は撹拌しておくことが好ましい。撹拌することで、シリカゲル原料の細孔浸入効率が向上する。含浸時間は12時間以上、好ましくは24時間以上、より好ましくは36時間以上である。含浸時間が12時間未満では、シリカゲル原料を活性炭の細孔内へ充分に浸入させられず、最終的に細孔の狭小化が不確実となる。含浸時間の上限は特に制限されないが、製造効率を鑑みると48時間以内が好ましい。
(定着工程)
活性炭へシリカゲル原料を充分に含浸させたら、次いで、固液分離した活性炭を乾燥することで、シリカゲル原料を活性炭の細孔内に定着させる。固液分離方法としては、一般的な濾過のほか、フィルタープレスや遠心分離などでもよい。乾燥は、加熱状態で行う。常温では、細孔内の水分除去、及びシリカゲル原料の定着が困難だからである。加熱温度は、加熱時間の長短を気にしなければ特に限定されないが、330K以上が好ましく、より好ましくは350K以上である。加熱温度を高くすれば加熱時間を短縮できる。例えば、350〜400K程度の温度で乾燥する場合、乾燥時間は2〜4時間程度でよい。一方、加熱温度が高すぎると、シリカゲル原料が変性する恐れがあるので、その上限は500K程度とする。
(ゾル化工程)
シリカゲル原料導入後の活性炭を充分に乾燥できたところで、再度真空脱気し、酸性条件下でシリカゲル原料を加水分解させてゾル化する。具体的には、シリカゲル原料を導入した活性炭を硫酸水溶液に導入する。ゾル化の条件としては、pH3〜6において12〜48時間程度とすればよい。シリカゲル原料としてケイ酸ナトリウムを使用した場合、当該ケイ酸ナトリウムと硫酸を反応させると、次式の反応が生じる。
Na2・3.3SiO2+H2SO4+5.6H2O→3.3SiO(OH)4+Na2SO4
ゾル化は常温以上でも可能であるが、できるだけ低い温度で行うことが好ましい。具体的には、常温(室温)以下で行う。上記反応式のように、ケイ酸ナトリウムは水和物の形で存在する。この水和物の数は低温になるほど大きくなる。すなわち、水和物の数が増大するに伴ってケイ酸ナトリウム分子の分子径が大きくなる。これにより、細孔直径1〜5nm程度の細孔へのケイ酸ナトリウムの浸入が抑制され、本来的に蒸発燃料の吸脱着に有効な細孔直径領域にある細孔が、ケイ酸ナトリウム延いてはシリカゲルによって狭小化されることが抑制される。なお、ゾル化の下限は凝固点より上である。水溶液が凝固してしまうと、ゾル化反応が阻害されるからである。つまり、ゾル化温度は、水溶液の凝固点より高く常温以下が好ましい。
また、硫酸水溶液に含浸させる際も撹拌しておくことが好ましい。その理由は、含浸工程と同様である。また、硫酸水溶液のpHによって、シリカゲルの細孔容積や表面積を制御できる。具体的には、pHを比較的高く(例えばpH5〜6程度)すればA型シリカゲルとなり、pHを低く(例えばpH3〜4程度)とすれば、B型シリカゲルとなる。
(ゲル化工程)
ゾル化工程後、再度含浸工程後と同じように固液分離および乾燥する。次いで、ゾル化工程にて生成した硫酸ナトリウムを洗浄除去した後、加熱熟成することで、細孔内にシリカゲル層が形成添着された複合活性炭が得られる。なお、シリカゲルの骨格粒子は1〜10nm程度であるため、活性炭のミクロ孔内にはシリカゲルが添着され難いが、ミクロ孔の一部は、当該ミクロ孔の入口付近に添着したシリカゲルによって閉塞され得る。洗浄の目安としては、複合活性炭を含む水溶液の電気伝導度が420〜600μS/cm程度になるまで繰り返せばよい。また、加熱熟成条件としては、380〜500K程度、12〜48時間程度とすればよい。
このようにして得られた複合活性炭は、そのまま、若しくは必要に応じてバインダー樹脂と混練した周知の造粒方法によってペレット状等の所定形状に造粒してから、キャニスタに充填することで、蒸発燃料の吸着材として好適に使用される。なお、本第1の製造方法では、シリカゲル原料の含浸と酸によるpH調製とを2段階に分けて行い、予めシリカゲル原料を十分に含浸後、一旦濾過・乾燥させ、その後酸を加えている。すなわち、含浸工程とゾル化工程との間に、定着工程を挟んでいる。これにより、ゾル化工程において酸を添加したとき、低分子状態のケイ酸が可溶化し活性炭からケイ酸が溶出するのを防ぐことができる。
(第2の製造方法)
次に、本発明の第2の製造方法について説明する。本発明における第2の製造方法のシリカゲル添着フローを図4に示す。前記第1の製造方法では、含浸工程とゾル化工程との間で定着工程を行ったが、当該定着工程を省いてもよい。すなわち、第2の製造方法でも、前記第1の製造方法と同様にシリカゲル原料水溶液に活性炭を導入し、活性炭の細孔内へシリカゲル原料を含浸させる含浸工程と、含浸工程後の活性炭へ酸を添加してシリカゲル原料をゾル化するゾル化工程と、ゾル化工程後に固液分離して、活性炭を加熱熟成することでシリカゾルをゲル化するゲル化工程とを有するが、当該第2の製造方法では、図4の添着フローにも示されるように、含浸工程とゾル化工程とを、シリカゲル原料水溶液中で連続して行う点に特徴を有する。
第2の製造方法でも、各工程における製造条件は前記第1の製造方法と同様の条件で行えばよい。具体的には、含浸工程の前処理、含浸工程、ゾル化工程、ゾル化工程後の固液分離・洗浄工程、及びゲル化工程は、基本的に第1の製造方法と第2の製造方法とで同一である。但し、第2の製造方法におけるゾル化工程は、含浸工程の後固液分離することなく、シリカゲル原料水溶液にpHが3〜6の範囲で硫酸を添加する。これにより、最終的には第1の製造方法の場合と同様に、シリカゲルがメソ孔及びマクロ孔内に添着されて1〜10nmの範囲の細孔径分布が高められた複合活性炭を得ることができる。
シリカゲル原料水溶液、すなわちケイ酸のアルカリ金属塩水溶液中にて含浸工程に連続してゾル化工程を行うと、活性炭の細孔内へ浸入したシリカゲル原料によって細孔内にシリカゾルが添着される。同時に、水溶液中を浮遊しているシリカゲル原料によって各活性炭の表面にもシリカゾルが添着される。そして、当該活性炭表面に添着されるシリカゾルによって、微粉砕された粒子状の各活性炭同士が接着されて粒状になる。これにより、細孔内へのシリカゲルの添着と同時に、活性炭を造粒することができる。次いで、固液分離及び洗浄してから、ゲル化工程を行うことで、複合活性炭からなる造粒吸着材を得ることができる。当該造粒吸着材の粒径が大きいときは、適宜所定粒度にまで粉砕してからキャニスタへ充填すればよい。
(その他の製造方法)
上記第1、第2の製造方法では、活性炭の細孔表面を親水性化してシリカゲル原料の浸入及び定着を促進するために、含浸工程においてケイ酸のアルカリ金属塩水溶液と共に、硝酸や界面活性剤などの薬品を添加することが好ましいとしたが、他にも図5や図6に示すように、浸漬工程の前に、真空脱気した活性炭を予め蒸留水へ浸漬する蒸留水浸漬工程を経てもよい。これにより、活性炭の細孔表面が濡れた状態となり、シリカゲル原料が拡散進入し易くなる。蒸留水への浸漬時間は、1〜3時間とすればよい。蒸留水への浸漬工程後は、固液分離したうえで、上記第1、第2の製造方法と同様に、活性炭をシリカゲル原料水溶液へ浸漬する。
また、上記第1、第2の製造方法、又は図5、6に示すその他の製造方法において、図7、8に示すように、洗浄工程後、加熱熟成する前に、複合活性炭を水熱処理することも好ましい。第1、第2の製造方法のように、シリカゲル原料を導入した活性炭を、洗浄後そのまま加熱熟成すると、シリカゲルの細孔形成が不充分な場合が想定される。また、ケイ酸のアルカリ金属塩濃度(例えば10wt%)によっては、細孔の狭小化に必要以上のシリカゲルが添着されて活性炭の細孔が閉塞されるおそれがある。これでは、複合活性炭の細孔容積が減少し、延いては吸着量が低下するおそれがある。この問題は、シリカゲル原料水溶液中のケイ酸のアルカリ金属塩濃度が高いほど顕著になる。
そこで、加熱熟成の前に水熱処理工程を経ていれば、水熱処理によりシリカゲルの細孔が良好に発達するので、上記のような問題を回避することができる。具体的には、水熱処理によってシリカゲル粒子(骨格粒子)のネットワークが再構成されることで、シリカゲル細孔が良好に発達することになる。シリカゲルの細孔が発達していれば、複合活性炭の細孔容積が増大すると共に、活性炭の細孔がシリカゲルによって閉塞されていても、シリカゲル自体の細孔によって複合活性炭の細孔が確保される。水熱処理は、加熱された水蒸気雰囲気において行う。その温度は、少なくとも100℃以上、好ましくは120℃以上とする。上限は特に限定されないが、250℃程度とすればよい。また、水熱処理は、加圧条件下で行うことが好ましい。なお、水熱処理工程を経る場合は、水熱処理工程を経ない場合と比べて加熱熟成工程における加熱時間は短くてよい。
(実施例)
<活性炭>
活性炭として、ミード・ウェストベーコ社の木質系リン酸賦活活性炭であるBAX1500(活性炭A)と、日本エンバイロケミカルズ社の木質系KOH賦活活性炭である粒状白鷲KL(活性炭B)を使用した。活性炭A及び活性炭Bの細孔分布を図9に示し、活性炭A及び活性炭Bの各種物性を表3に示す。図9から、活性炭A及び活性炭B共に、メソ孔が多く存在していることがわかる。また、表3より、ミクロ孔体積は活性炭Bより活性炭Aの方が大きい。比表面積はN吸着法によって測定し、充填密度は粒子充填法によって測定した。なお、活性炭A及び活性炭B共に、シリカゲルを細孔内に容易に添着できるるよう、それぞれ粒子径0.075〜0.212mmの範囲で平均粒子径を0.1mmとした。
<製造方法>
活性炭A及び活性炭Bの細孔内には次のようにしてシリカゲルを添着した。なお、その際に使用した装置の概略構成図を図10に示す。まず、活性炭10ccをフラスコ内に採取し、マントルヒーターで383Kに加熱しながら真空ポンプによって2時間真空脱気した。次に、冷却後真空状態を利用して、フラスコ内に0.1〜10wt%のケイ酸ナトリウム(Na・3.3SiO)水溶液を150cc導入し、回転数100rpmにてケイ酸ナトリウム水溶液を撹拌しながら、活性炭を48時間浸漬した。その後10分かけて濾過し、固液分離した活性炭を恒温槽にて383Kで24時間乾燥させた。次いで、上記と同じ条件で再度真空脱気し、1.95mol/lの硫酸75ccを導入して、上記と同じ条件で24時間室温にて活性炭を浸漬し、再度同じように固液分離及び乾燥した。次いで、pH3の硫酸水溶液水にて、水溶液の電気伝導度が600μS/cm以下となるまで洗浄を10回繰り返した。なお、最初の電気伝導度は約850μS/cmであった。最後に、423Kにて24時間加熱熟成させて複合活性炭を得た。
<試料>
ここでは、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度を種々変化させた複数の試料を作成した。具体的には、活性炭Aに対してケイ酸ナトリウム水溶液の濃度を0.1wt%とした試料A−1、1.0wt%の試料A−2、2.5wt%の試料A−3、5.0wt%の試料A−4、7.5wt%の試料A−5、及び10wt%の試料A−6、並びに、活性炭Bに対してケイ酸ナトリウム水溶液の濃度を0.1wt%とした試料B−1、1.0wt%の試料B−2、及び10wt%の試料B−3を、それぞれ作成した。これら各種試料について、低級n−ブタンの吸着特性によって定量評価した。
<物性評価>
各活性炭及び試料について、(1)全自動ガス吸着量測定装置(ユアサアイオニクス社製)による比表面積及び細孔径分布の測定、(2)高精度蒸気吸着量測定装置(日本ベル社製、BELSORPmax)によるn−ブタン吸着等温線の測定、(3)SEM(走査型電子顕微鏡)−EDX(エネルギー分散型蛍光X線分析装置)を用いた活性炭の細孔表面の観察を行った。試料A−1、A−2、A−6の各種物性を表4に示すと共に、活性炭A及び試料A−1、A−2、A−6の元素質量割合を表5に示す。また、図11に、試料A−1〜A−6及び試料B−1〜B−3の充填密度を棒グラフで示す。また、図12〜図15に、それぞれ活性炭A、試料A−1、A−3、A−6のSEM写真及びEDX写真を示す。
表4から、ケイ酸ナトリウム水溶液濃度の増大に伴って、複合活性炭の比表面積が減少することと、メソ孔・マクロ孔の比表面積が減少すること、及びミクロ孔の比表面積が増加することがわかる。また、図11から、複合活性炭の充填密度は、ケイ酸ナトリウム水溶液濃度の増加に伴って増加することがわかる。ケイ酸ナトリウム水溶液濃度が10wt%の試料A−6の充填密度は、活性炭Aの約1.4倍であった。また、試料B−3の充填密度は、活性炭Bの約1.3倍であった。また、図12〜15及び表5から、活性炭Aではシリカゲルの存在は確認されず、主に炭素であることがわかる。試料A−1でもシリカゲルの存在はあまり確認されない。これは細孔内へのシリカゲル添着量が少ないことに起因する。一方、試料A−2及び試料A−6には、シリカゲルの存在が確認される。特に試料A−6ではシリカゲルが多く存在していることが確認できる。これにより、シリカゲルを添着することで、活性炭細孔の狭小化によるミクロ孔の増大、及び活性炭粒子密度を増大でき、ケイ酸ナトリウム濃度が高いほど、ケイ酸ナトリウム分子は活性炭細孔内に侵入し易く、活性炭細孔内に多くのシリカゲルを添着できることがわかった。
<吸着量評価>
表6に、活性炭A、及び試料A−1、A−2、A−6における各相対圧のn−ブタン吸着量を示す。表7に、活性炭B、及び試料B−1、B−2、B−3における各相対圧のn−ブタン吸着量を示す。また、図16に、活性炭A、及び試料A−2、A−3、A−4、A−5における相対圧0.4基準の吸着量を示す。
表6及び表7から、各試料は比較的低い圧力領域でも十分なn−ブタン吸着量を有している。詳しく見ると、試料A−1及び試料A−2は、全相対圧域でn−ブタン吸着量が活性炭Aより増大している。一方、試料A−6は相対圧が0.1未満では活性炭Aより増大することが推認できるが、相対圧が0.1以上では活性炭Aより少なく、相対圧が大きくなるにつれて大幅減となる。また、試料A−2ではn−ブタン吸着量は活性炭Aの1.07倍以上に増加している。試料A−1ではn−ブタン吸着量が活性炭Aの1.04倍以上に増加している。これに対し、試料A−6ではn−ブタン吸着量が活性炭Aに比べて最大17%減少している。また、試料B−1のn−ブタン吸着量は活性炭Bより大幅に増加し、相対圧0.4基準でのn−ブタン吸着量は、活性炭Bの1.53倍であった。試料B−2のn−ブタン吸着量は、活性炭Bの約1.1倍であった。試料B−3は活性炭Bよりn−ブタン吸着量が減少している。以上の結果から、ケイ酸ナトリウム濃度が0.1〜1.0wt%の試料A−1、A−2、B−1、B−2は、活性炭A・Bより吸着量が向上することがわかった。次いで、試料A系と試料B系における細孔分布の相違によるシリカゲル添着の最適条件を、複合活性炭の細孔径分布の観点から評価した。
<細孔系分布特性>
図17に、試料A−1、A−2、A−6の細孔径分布を示し、図18にこれの微分細孔径分布を示す。また、図19に試料B−1、B−2、B−3の細孔径分布を示し、図20にこれの微分細孔径分布を示す。また、図21に、活性炭A及びシリカゲルのn−ブタン吸着量を示す。図17及び18を見ると、試料A−1及び試料A−2では、細孔容積が活性炭Aに比べて全体的に増加している。一方、試料A−6の細孔容積は活性炭Aに比べ全体的に減少している。詳しくは、試料A−1及び試料A−2では、細孔直径1〜4nm程度の細孔容積が活性炭Aより大きい。一方、試料A−6は活性炭Aに比べ細孔直系1.6nm以下の細孔が増加しているが、細孔直径2〜4nmの細孔容積は減少している。これは、n−ブタンが細孔直径約1〜5nm、特に細孔直径約2〜4nmの細孔領域に主として吸着されることを裏付けており、この範囲の細孔の増加がn−ブタン吸着量の増加に大きく繋がると考えられる。また、図18の結果を見ると、細孔直径10nm以上の細孔領域が明らかに大きく減少しており、細孔直径10nmを超える細孔領域のうち、少なくとも6%以上がシリカゲルによって狭小化されていることがわかる。
一方、図19及び20を見ると、試料B−2の細孔容積は活性炭Bより全体的に大きく増加し、試料B−1の細孔容積は活性炭Bより全体的に増加し、試料B−3は活性炭Bの1/2近くになっている。特に、試料B−2は細孔直径0.4〜0.6nm及び細孔直径2.0〜3.5nmの細孔が大きく発達している。これは、活性炭Aの細孔内シリカゲル添着による細孔の発達とほぼ同じ領域にあることを示している。試料A−6や試料B−3は、吸着特性が大幅に減少している。これは、n−ブタン吸着に対する有効細孔が大幅に減少したことに起因すると考えられる。この結果から、n−ブタン吸着に及ぼす最大の要因は細孔径分布であることがわかった。また、図20の結果を見ると、細孔直径10nm以上の細孔領域が明らかに大きく減少しており、細孔直径10nmを超える細孔領域のうち、少なくとも6%以上がシリカゲルによって狭小化されていることがわかる。
以上の結果より、水熱処理工程を経ていない場合、比表面積1100〜2000μS/cm程度の活性炭に含浸させるケイ酸ナトリウム水溶液の濃度は、0.1〜5.0wt%程度が好ましく、0.1〜1.0wt%程度がより好ましいことが分かった。これによる吸着特性向上の理由としては、次の要因が考えられる。
(1)シリカゲル添着により、活性炭細孔が狭小化されると共に、活性炭粒子密度が増大する。
(2)添着したシリカゲル自体の吸脱着特性との相乗効果(図17の結果から、シリカゲルの吸着量は活性炭Aの約60%であることがわかる)。
(3)n―ブタン吸着に対する有効細孔1〜5nmの増加。
上記実施例では、複合活性炭の製造工程において水熱処理を経ていないことで、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度が10wt%に近いと、得られる複合活性炭の細孔容積が減少することから、未処理の活性炭よりもn−ブタンの吸着量が減少していた。そこで、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度を10wt%とした試料A−6及びB−3を水熱処理工程を経て製造し、上記と同様に低級n−ブタンの吸着特性によって定量評価することで、水熱処理による効果を確認した。水熱処理工程を経た試料A−6を試料A−6’とし、水熱処理工程を経た試料B−3を試料B−3’とする。
具体的な製造方法は次の通りである。活性炭10ccをそれぞれフラスコ内に採取し、マントルヒーターで383Kに加熱しながら真空ポンプによって2時間真空脱気した。次に、冷却後真空状態を利用して、フラスコ内に蒸留水を150cc導入し、活性炭を2時間浸漬した。次いで、濾過して得られた活性炭を、濃度10wt%のケイ酸ナトリウム(Na・3.3SiO)水溶液150ccを導入したフラスコ内において、回転数100rpmにてケイ酸ナトリウム水溶液を撹拌しながら48時間浸漬した。その後10分かけて濾過し、固液分離した活性炭を恒温槽にて383Kで24時間乾燥させた。次いで、上記と同じ条件で再度真空脱気し、1.95mol/lの硫酸75ccを導入して、上記と同じ条件で24時間室温にて活性炭を浸漬し、再度同じように固液分離及び乾燥した。次いで、pH3の硫酸水溶液水にて、水溶液の電気伝導度が600μS/cm以下となるまで洗浄を10回繰り返した。なお、最初の電気伝導度は約850μS/cmであった。次いで、オートクレーブによって395K、2気圧の条件下で24時間水熱処理した(A−6’、B−3’)。最後に、恒温槽において385Kで2時間加熱熟成させて複合活性炭を得た。
<細孔系分布特性>
図22に、試料A−6’の細孔径分布を示し、図23にこれの微分細孔径分布を示す。なお、比較し易いように、当該図22、23にも、それぞれ図17、18と同じ試料A−6の結果を示している。また、図24に試料B−3’の細孔径分布を示し、図25にこれの微分細孔径分布を示す。なお、比較し易いように、当該図24、25にも、それぞれ図19、20と同じ試料B−3の結果を示している。図22の結果から、試料A−6’の細孔容積は試料A−6に比べて全体的に増加しており、試料A−1や試料A−2と同レベルとなっている(図17参照)。また、図23の結果から、試料A−6’では細孔直径2〜4nm程度の細孔容積が試料A−6より大きく、試料A−1や試料A−2と同レベルとなっている(図18参照)。詳しくは、試料A−6における細孔直径2〜4nmの細孔容積は0.0741104cc/ccであったのに対し、試料A−6’における細孔直径2〜4nmの細孔容積は0.136864cc/ccであり、試料A−6’は試料A−6と密度が同じでありながら、n−ブタンの有効細孔直径が84.7%も増加していた。
一方、図24の結果から、試料B−3’の細孔容積は試料B−3に比べて全体的に増加しており、試料B−1と同レベルとなっている(図19参照)。また、図25の結果から、試料B−3’では細孔直径0.4〜0.6nm及び細孔直径2〜4nm程度の細孔容積が試料B−3より大きく、試料B−1より良好な試料B−2に近いレベルとなっている(図20参照)。詳しくは、試料B−3における細孔直径2〜4nmの細孔容積は0.056672cc/ccであったのに対し、試料B−3’における細孔直径2〜4nmの細孔容積は0.12384cc/ccであり、試料B−3’は試料B−3と密度が同じでありながら、n−ブタンの有効細孔直径が118.5%も増加していた。
以上の結果から、ケイ酸ナトリウム水溶液の濃度が10wt%程度と高くても、水熱処理工程を経ることで細孔容積が良好に増大できることがわかった。すなわち、水熱処理工程を経る場合、比表面積1100〜2000μS/cm程度の活性炭に含浸させるケイ酸ナトリウム水溶液の濃度は、0.1〜10wt%程度が好ましいことが分かった。而して、良好な細孔容積を確保しながら密度を向上できるので、吸脱着時の温度変化を抑制でき、吸脱着性能をより向上できる。
活性炭の概略断面図である。 複合活性炭の概略断面図である。 第1の製造方法に係るシリカゲル添着手順のフロー図である。 第2の製造方法に係るシリカゲル添着手順のフロー図である。 第1の製造方法を基本とした他の製造方法のフロー図である。 第2の製造方法を基本とした他の製造方法のフロー図である。 第1の製造方法を基本としたさらに他の製造方法のフロー図である。 第2の製造方法を基本としたさらに他の製造方法のフロー図である。 活性炭A及び活性炭Bの細孔径分布を示すグラフである。 シリカゲル添着に使用する装置の概略構造である。 充填密度を示す棒グラフである。 活性炭AのSEM−EDX写真である。 試料A−1のSEM−EDX写真である。 試料A−2のSEM−EDX写真である。 試料A−6のSEM−EDX写真である。 相対圧0.4基準における吸着量を示す棒グラフである。 試料A、A−1、A−2、A−6の細孔径分布である。 図17の微分細孔径分布である。 試料B、B−1、B−2、B−3の細孔径分布である。 図19の微分細孔径分布ある。 活性炭A及びシリカゲルの相対圧吸着量を示すグラフである。 試料A−6、A−6’の細孔径分布である。 図22の微分細孔径分布である。 試料B−3、B−3’の細孔径分布である。 図24の微分細孔径分布である。
符号の説明
1 活性炭
2 複合活性炭
10 ミクロ孔
20 メソ孔
30 マクロ孔
50 添着物

Claims (13)

  1. 活性炭の細孔内に添着物が添着された吸着材であって、
    濃度0.1〜10wt%のケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に、少なくともメソ孔及びマクロ孔を有する比表面積1100〜2500m 2 /gの活性炭を導入し、12時間以上含浸させる含浸工程と、
    前記含浸工程後の活性炭へpH3〜6の範囲で酸を添加するゾル化工程と、
    前記ゾル化工程後に固液分離して、前記活性炭を加熱熟成するゲル化工程と、を経て製造され、
    リカゲルが前記メソ孔及びマクロ孔内に添着されて細孔直径10nmを超える細孔領域が狭小化されていることで、1〜10nmの範囲の細孔径分布が高められていることを特徴とする吸着材。
  2. 前記シリカゲルがB型シリカゲルである、請求項1に記載の吸着材。
  3. 複数の粒子状活性炭がシリカゲルをバインダーとして接着された造粒物である、請求項1または請求項2に記載の吸着材。
  4. 前記細孔内に添着されたシリカゲルと、前記バインダーとしてのシリカゲルとが、同じ原料から同時に添着されたものである、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の吸着材。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の吸着材を内蔵するキャニスタ。
  6. 濃度0.1〜10wt%のケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に、少なくともメソ孔及びマクロ孔を有する比表面積1100〜2500m2/gの活性炭を導入し、12時間以上含浸させる含浸工程と、
    前記含浸工程後の活性炭へpH3〜6の範囲で酸を添加するゾル化工程と、
    前記ゾル化工程後に固液分離して、前記活性炭を加熱熟成するゲル化工程と、を有し、
    前記メソ孔及びマクロ孔の内部にシリカゲルを添着させて1〜10nmの範囲の細孔径分布を高める、吸着材の製造方法。
  7. 前記活性炭が微粉砕された粒子状である、請求項6に記載の吸着材の製造方法。
  8. 前記ゾル化工程は、前記ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液の凝固点より高く常温以下で行う、請求項6または請求項7に記載の吸着材の製造方法。
  9. 前記含浸工程の後、固液分離した活性炭を乾燥してから、前記ゾル化工程を行う、請求項6ないし請求項8のいずれかに記載の吸着材の製造方法。
  10. 前記含浸工程とゾル化工程とを、前記ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液中で連続して行う、請求項6ないし請求項9のいずれかに記載の吸着材の製造方法。
  11. 前記含浸工程において、前記活性炭の細孔表面を親水性化する薬品を、ケイ酸のアルカリ金属塩水溶液に添加しておく、請求項6ないし請求項10のいずれかに記載の吸着材の製造方法。
  12. 前記含浸工程の前に、予め前記活性炭を蒸留水へ浸漬する蒸留水浸漬工程を有する、請求項6ないし請求項10のいずれかに記載の吸着材の製造方法。
  13. 前記ゾル化工程後、前記加熱熟成する前に、前記活性炭を水熱処理する水熱処理工程を有する、請求項6ないし請求項12のいずれかに記載の吸着材の製造方法。




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