次に、図面を参照して、本発明の実施形態に係る通信システムを説明する。具体的には、(1)通信システムの概要、(2)通信システムの詳細構成、(3)チャネル共有方式及びチャネル占有方式、(4)各サービスインスタンスにおけるパケット構成、(5)パケットフロー制御処理、(6)通信システムの詳細動作、(7)作用及び効果、(8)その他の実施形態について説明する。
以下の実施形態における図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
(1)通信システムの概要
まず、図1〜図5を用いて、本実施形態に係る通信システムの概略構成について説明する。
(1.1)通信システムの全体構成
図1は、本実施形態に係る通信システム10の全体概略構成図である。本実施形態では、VoIP(Voice over Internet Protocol)アプリケーションに適用される通信システム10について説明する。
図1に示すように、通信システム10は、無線通信端末100、無線基地局200A〜200C、PDSN(Packet Data Serving Node)300、インターネット400、SIP(Session Initiation Protocol : RFC 3261 IETF)電話機500、及びSIPサーバ600を有する。
無線通信端末100及び無線基地局200A〜200Cは、高速通信可能な無線通信システムであるiBurst(登録商標)に基づく構成を有している(iBurstについては、”High Capacity - Spatial Division Multiple Access (HC-SDMA)”ATIS - PP - 0700−004.2007 (ATIS / ANSI)を参照)。
iBurstシステムでは、TDMA及びSDMA/TDD通信方式が用いられる。また、iBurstシステムでは、伝送速度を高速化することを目的として、信号対干渉・雑音比(SINR)といった無線品質に応じた変調クラスを選択する適応変調(リンク・アダプテーション)が導入されている。適応変調では、例えばBPSK(Binary Phase Shift Keying)や24QAM(Quadrature Amplitude Modulation)などの複数の変調方式から適切な変調方式が選択される。
無線通信端末100は、無線基地局200Aに接続し、無線基地局200Aと無線通信を実行する。無線基地局200B及び200Cは、無線通信端末100の接続先候補の無線基地局である。無線通信端末100は、無線基地局200Aと通信する間も、無線基地局200A〜200Cが報知する報知情報をモニタリングする。これにより、無線通信端末100は、無線基地局200A〜200Cとの同期状態を維持したり、より条件(例えば、受信電界強度)の良い無線基地局を検索したりする。
無線通信端末100は、例えば無線通信端末100の移動中において、より条件の良い無線基地局に接続先を切り替えるハンドオーバを行う。具体的には、無線通信端末100は、無線基地局200A〜200Cが報知する報知信号の受信電界強度を比較し、最も高い受信電界強度が得られる無線基地局に接続先を切り替える。
無線通信端末100、無線基地局200A〜200C、及びPDSN300は、上述したX.S0011−004−Dに従ったQoS制御に対応している。X.S0011−004−Dでは、帯域予約のメカニズムにより、リアルタイムアプリケーションが送受信するパケットフローのQoSを保証する。
X.S0011−004−DにおけるQoS制御では、1つのPPP(Point to Point Protocol)コネクションにおいて複数のサービスインスタンスが構成される。本実施形態において、サービスインスタンスとは、パケットフローを運搬する伝搬路の抽象例であり、X.S0011−004−Dではそれぞれ異なる機能を付与されたサービスオプション(SO)種別で規定される。
このように、複数のサービスインスタンスを設定し、サービスインスタンス毎に異なるQoSを与えることで、きめ細かいQoS制御が実現される。
(1.2)通信システムの概略動作
図2は、通信システム10の概略動作を説明するための概略構成図である。図2において、無線通信端末100は、SIPクライアント部151及びG729Aコーデック152を有している。SIP電話機500は、G729Aコーデック551を有している。
まず、無線通信端末100は、無線基地局200Aに接続を要求する。無線基地局200Aは、無線通信端末100からの接続要求を受け付ける。そして、無線通信端末100と無線基地局200Aとの間に、無線通信チャネルCHが設定される。無線通信チャネルCHは、少なくとも1つの物理チャネルを用いて構成される。本実施形態では、タイムスロットが物理チャネルに相当する。
無線基地局200Aは、無線通信端末100とPDSN300との間で送受信されるパケットフローを中継する機能を有する。また、無線基地局200Aは、A11シグナリングプロトコルを用いて、PDSN300との間にA10コネクションを設定する。
無線通信端末100、無線基地局200A及びPDSN300は、無線通信チャネルCH及びA10コネクションの設定後において、無線通信端末100とPDSN300との間に、メインサービスインスタンス(第2通信セッション)MSIを確立する。
無線通信端末100は、電源投入時などの通信開始時においては、まずメインサービスインスタンスMSIを確立させる。本実施形態では、メインサービスインスタンスMSIは、無線通信端末100とPDSN300とのPPPコネクション確立時に、1つの無線通信チャネルCH上に確立される。
無線通信端末100、無線基地局200A及びPDSN300は、無線通信端末100がサービスインスタンスを確立していない状態においてサービスインスタンスが確立された場合には、確立されたサービスインスタンスをメインサービスインスタンスMSIとして認識する。
メインサービスインスタンスMSIは、1つのPPPコネクションにつき1つのみ存在する。メインサービスインスタンスMSIでは、他のサービスインスタンスを通過しない全てのパケットフローが伝送される。
具体的には、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、メインサービスインスタンスMSIと無線通信チャネルCHとの対応付けを記憶する。無線基地局200A及びPDSN300は、メインサービスインスタンスMSIとA10コネクションとの対応付けを記憶する。
そして、無線通信端末100は、確立されたメインサービスインスタンスMSIを介して、PPP接続要求をPDSN300に送信する。
PDSN300は、PPPサーバとしての機能を有し、無線通信端末100からのPPP接続要求を受け付け、グローバルIPアドレスを無線通信端末100に割り当てる。
無線通信端末100は、PDSN300から割り振られたグローバルIPアドレスを用いて、インターネット400に接続されたネットワーク機器と通信する。本実施形態では、無線通信端末100は、SIP電話機500と音声通話を実行するものとする。音声通話を開始する際、無線通信端末100は、SIPサーバ600とネゴシエーションを行う。
無線通信端末100は、X.S0011−004−Dが規定するRSVP(Resource reSerVation Protocol)に従ってPDSN300とネゴシエーションを行い、補助サービスインスタンス(第1通信セッション)ASIを確立する。
具体的には、無線通信端末100、無線基地局200A及びPDSN300は、既にメインサービスインスタンスMSIを確立している状態から追加のサービスインスタンスを確立した場合は、当該サービスインスタンスが補助サービスインスタンスASIであると認識する。この場合、無線通信端末100は、PDSN300との間でのPPP確立のための情報交換及びグローバルIPアドレスの取得は行わない。
補助サービスインスタンスASIには、RSVPによってネゴシエーションされたパケット種別選択方法及び伝送方法が適用される。パケット種別選択方法としては、例えば、SIP電話機500のIPアドレスや、使用するUDPポート番号、RTPペイロードがG729A(8Kbps)であるといった内容がネゴシエーションされる。伝送方式としては、例えば、ROHC(RObust Header Compression : RFC 3095 IETF)を適用することがネゴシエーションされる。
このようにして、補助サービスインスタンスASIに流れるパケット種別を制限することにより、リアルタイムアプリケーションが送受信するパケットフローに対して、特別なQoSを与えることができる。
無線通信端末100及び無線基地局200Aは、補助サービスインスタンスASIと無線通信チャネルCHとの対応付けを記憶する。無線基地局200A及びPDSN300は、補助サービスインスタンスASIとA10コネクションとの対応付けを記憶する。
補助サービスインスタンスASIが確立されると、SIPサーバ600は、無線通信端末100とSIP電話機500との間に、SIP電話用のRTPセッションを確立する。なお、SIPは、RTP/UDP/IPプロトコルを用いたパケットストリームを任意のインターネットノード間で接続するプロトコルである。そして、RTPセッションが確立されると、無線通信端末100は、SIP電話機500とのSIP電話を実行可能になる。
なお、補助サービスインスタンスASIにおいては、パケットフローごとに種別が予めネゴシエーションされているため、パケットフロー特有のオーバーヘッドを省略することができる。例えば、X.S0011−004−Dにおけるサービスオプション67(SO67)において、補助サービスインスタンスASIは、PPPフローのうちROHCが適用されるパケットのみを透過させるものであり、PPPのオーバーヘッドが省略される。
(1.3)プロトコルスタック
次に、図3及び図4を用いて、通信システム10に適用されるプロトコルスタックについて説明する。
図3は、通信システム10においてメインサービスインスタンスMSIに適用されるプロトコルスタックを示す図である。図4は、通信システム10において補助サービスインスタンスASIに適用されるプロトコルスタックを示す図である。
無線通信端末100及びPDSN300には、ROHCが実装されている。ROHCは、RTP/UDP/IPパケットヘッダの合計40バイトを最小で2バイトまで圧縮する。なお、VoIPによる音声通信では、2つのG729A(8Kbps)コーデックパケットが1つのRTP/UDP/IPパケットに格納される。
無線基地局200AとPDSN300との間のサービスインスタンスは、GRE(Generic Routing Encapsulation : RFC 2784)プロトコルに従ったA10コネクションで実現されている。A10コネクションを1つのPPPコネクションにおいて複数確立させることで、無線基地局200AとPDSN300との間で複数のサービスインスタンスが確立される。
メインサービスインスタンスMSIには、補助サービスインスタンスASIを通過しない全てのパケットフローの伝送に用いられる。メインサービスインスタンスMSIを用いて伝送されるパケットフローには、ROHC圧縮が施されず、PPPよりも上位のレイヤで特別な処理が行われない。
補助サービスインスタンスASIは、音声や動画等のメディアパケットを伝送するため、IP(RFC 791 IETF)を下位レイヤとして、UDP(RFC 768 IETF)、RTP(RFC 1889 IETF)が用いられている。また、無線通信端末100と無線基地局200Aの間では、PPPヘッダのオーバーヘッドが取り除かれる。
(1.4)通信フレームの構成
図5は、無線通信端末100と無線基地局200Aとの無線通信に用いられる通信フレームのフレーム構成図である。
無線基地局200Aは、無線通信端末100からの無線接続要求に応じて、TDMA-TDDに従ったタイムスロット(以下、適宜「物理チャネル」という)を用いた無線通信チャネルCHを無線通信端末100に割り当てる。
図5では、アップリンク(無線通信端末100から無線基地局200Aへ向かう方向)及びダウンリンク(無線基地局200Aから無線通信端末100へ向かう方向)共に3多重されている。
タイムスロットの長さは、アップリンクとダウンリンクで非対称な構成となっている。通常、アップリンクにおける1つのタイムスロットと、ダウンリンクにおける1つのタイムスロットとの組み合わせた無線通信チャネルが無線通信端末100に割り当てられる。例えば、アップリンクスロット#1とダウンリンクスロット#1とが無線通信端末100に割り当てられる。
(2)通信システムの詳細構成
次に、図6〜図8を用いて、通信システム10の詳細構成、具体的には無線通信端末100、無線基地局200A〜200C、及びPDSN300の構成について説明する。ただし、無線基地局200A〜200Cは同様の構成であるため、無線基地局200Aについてのみ説明する。
(2.1)無線通信端末の構成
図6は、無線通信端末100の機能ブロック構成図である。図6に示すように、無線通信端末100は、アンテナ101、無線通信部102、キーパッド103、マイク104、スピーカ105、G729Aコーデック152、及び制御部110を有する。
本実施形態において、無線通信部102は、無線基地局200Aとの間に無線通信チャネルCHを設定する無線通信チャネル設定部として機能する。無線通信部102は、設定した無線通信チャネルCHを介して、無線基地局200Aと通信する。
無線通信部102は、無線基地局200A〜200Cが報知する報知情報をモニタリングする。すなわち、無線通信部102は、接続先の無線基地局を切り替えるハンドオーバを実行するハンドオーバ実行部として機能する。なお、無線通信部102は、受信SINRに基づく適応変調を実行する。
制御部110は、補助サービスインスタンスASI(第1通信セッション)及びメインサービスインスタンスMSI(第2通信セッション)をPDSN300との間に設定する通信セッション設定部として機能する。
また、制御部110は、無線通信端末100の通信状態に応じて、チャネル共有方式(第1セッション設定方式)、又はチャネル占有方式(第2セッション設定方式)のいずれか一方を選択するセッション設定方式選択部として機能する。
ここで、チャネル共有方式とは、補助サービスインスタンスASIとメインサービスインスタンスMSIとを同一の無線通信チャネルCH上に設定する方式である。チャネル占有方式とは、補助サービスインスタンスASIとメインサービスインスタンスMSIとを異なる無線通信チャネルCH1,CH2上に設定する方式である(図9参照)。
さらに、制御部110は、チャネル共有方式が選択される場合において、補助サービスインスタンスASIを用いた伝送であることを識別する識別子を特定種別のパケット(すなわち、RTPパケット)に付加する識別子付加部として機能する。本実施形態においては、当該識別子をサービスインスタンス・フローID(セッション識別子)と呼ぶ。
詳細には、制御部110は、受信データバッファ111、受信フロー制御部112、ROHC展開部、IPプロトコルスタック管理部114、RTP/UDP/IPパケット管理部115、RSVPクライアント部116、PPPクライアント部117、SIPプロトコル管理部119、ROHC圧縮部120、L4パケット構築部121,122、送信フロー制御部123、及び方式切り替え部160を有する。
方式切り替え部160は、チャネル共有方式又はチャネル占有方式のいずれかを選択する。具体的には、方式切り替え部160は、チャネル共有方式からチャネル占有方式への切り替えと、チャネル占有方式からチャネル共有方式への切り替えとを行う。
送信フロー制御部123は、無線基地局200Aとネゴシエーションする機能を有する。送信フロー制御部123は、補助サービスインスタンスASIのパケットコンテキスト、サービスオプション種別、及びフローID等のコンテキストの記憶保持を行う。
アップリンクの通信において、G729Aコーデック152は、マイク104からの音声データをサンプリングすると共に、サンプリングした音声データをコーデックペイロードに変換する。変換された音声データは、RTP/UDP/IPパケット管理部115を経由してROHC圧縮部120によって圧縮される。
ROHC圧縮が施されたRTP/UDP/IPパケットは、L4パケット構築部121及び送信フロー制御部123を経由して送信される。その際、無線通信部102は、補助サービスインスタンスASIに対応する無線通信チャネルCHを用いてパケットを無線基地局200Aに送信する。
音声データ以外のデータを格納するパケットは、IPプロトコルスタック管理部114及びL4パケット構築部122を経由して、メインサービスインスタンスMSIに対応する無線通信チャネルCHを用いて無線通信部102によって無線基地局200Aに送信される。
ダウンリンクの通信においては、無線通信チャネルCHを介して無線通信部102がパケットを無線基地局200Aから受信すると、受信されたパケットは、受信データバッファ111を経由して受信フロー制御部112に入力される。
受信フロー制御部112は、チャネル占有方式時においては、無線通信チャネルCHに対応付けされたサービスインスタンスの種別により、受信したパケットをROHC展開部113に入力するかIPプロトコルスタック管理部114に入力するかを制御する。
具体的には、受信フロー制御部112は、メインサービスインスタンスMSIに対応する無線通信チャネルCH経由で受信したパケットをIPプロトコルスタック管理部114に入力する。一方、受信フロー制御部112は、補助サービスインスタンスASIに対応する無線通信チャネルCH経由で受信したパケットをIPプロトコルスタック管理部114に入力する。
ROHC展開部113に入力されたパケットは、ROHC展開の後、RTP/UDP/IPパケット管理部115を経由してG729Aコーデック152に入力される。G729Aコーデック152は、入力されたパケット中のG729A音声データを音声データに変換し、スピーカ105から音声として出力する。
受信フロー制御部112は、チャネル共有方式時においては、受信したパケットに付加されているサービスインスタンス・フローIDに基づいて、受信したパケットをROHC展開部113に入力するかIPプロトコルスタック管理部114に入力するかを制御する。
(2.2)無線基地局200の構成
図7は、無線基地局200Aの機能ブロック構成図である。図7に示すように、無線基地局200Aは、アンテナ201、無線通信部202、A10/GRE通信部203、及び制御部210を有する。
無線通信部202は、無線通信端末100との間に無線通信チャネルCHを確立し、無線通信端末100とのインターフェースとして機能する。無線通信部202は、無線基地局200Aの制御エリア内に報知情報を報知する。なお、無線通信部102は、受信SINRに基づく適応変調を実行する。一方、A10/GRE通信部203は、PDSN300とのインターフェースとして機能する。
制御部210は、受信パケットバッファ211、受信フロー制御部212、A10/GREパケット構築部213,214、送信バッファ215,216、受信フロー制御部217、L4パケット構築部218,219、及び送信フロー制御部220を有する。
アップリンクの通信において、無線通信部202が無線通信端末100から受信したパケットは、受信パケットバッファ211を経由して受信フロー制御部212に入力される。
受信フロー制御部212は、チャネル占有方式時において、無線通信チャネルCHに対応付けされたサービスインスタンス種別に従い、受信したパケットの振り分けを行う。具体的には、受信フロー制御部212は、メインサービスインスタンスMSIに対応する無線通信チャネルCH経由で受信したパケットをA10/GREパケット構築部213に入力する。一方、受信フロー制御部212は、補助サービスインスタンスASIに対応する無線通信チャネルCH経由で受信したパケットをA10/GREパケット構築部214に入力する。
また、受信フロー制御部212は、チャネル共有方式時において、受信したパケットに付加されているサービスインスタンス・フローIDに基づいて、受信したパケットをA10/GREパケット構築部213,214のいずれに入力するかを制御する。
ダウンリンクの通信において、A10/GRE通信部203がPDSN300から受信したパケットは、受信フロー制御部217に送られる。送信フロー制御部220は、A10コネクションに対応付けされたサービスインスタンス種別に従い、受信パケットを、メインサービスインスタンスMSIに対応するL4パケット構築部218に入力するか、補助サービスインスタンスASIに対応するL4パケット構築部219に入力するかを切り替える。なお、送信フロー制御部220は、無線通信端末100との間でネゴシエーションし、補助サービスインスタンスASIのパケットコンテキストの記憶保持を行う。
(2.3)PDSN300の構成
図8は、PDSN300の機能ブロック構成図である。図8に示すように、PDSN300は、A10/GRE通信部301、LL/PL送受信部302、及び制御部310を有する。
LL/PL送受信部302は、リンクレイヤ(LL)及び物理レイヤ(PL)レベルにおけるインターネット400とのインターフェースを実現する機能ブロックとなる。A10/GRE通信部301は、無線基地局200Aとのインターフェースを実現する機能ブロックとなる。
制御部310は、受信パケットバッファ313、受信フロー制御部314、A10/GREパケット除去部315,316、IPプロトコルスタック管理部317、PPPサーバ部318、RSVPサーバ部319、ROHC展開部321、送信バッファ322、受信パケットバッファ323、パケットフィルタ324、ROHC圧縮部325、A10/GREパケット構築部326,327、及び送信フロー制御部328を有する。
A10/GRE通信部301が無線基地局200Aから受信したパケットのうち、メインサービスインスタンスMSIを経由したパケットには、無線通信端末100からPDSN300へ向けての、例えばPPPやRSVPといったパケットが存在する。受信フロー制御部314は、PDSN300向けのパケットをIPプロトコルスタック管理部317に入力する。
メインサービスインスタンスMSIを経由したPDSN300宛以外のパケットは、A10/GREパケット除去部315,316によってA10/GREヘッダが除去された後、送信バッファ322を介してLL/PL送受信部302に送られる。
受信フロー制御部314は、受信パケットのうち、補助サービスインスタンスASIを経由したパケットを受信した場合、A10/GREを除去した後、当該パケットをROHC展開部321に入力する。ROHC展開部321は、ROHC展開によってIPパケットを復元した後、当該IPパケットを、送信バッファ322を介してLL/PL送受信部302に送る。
LL/PL送受信部302がインターネット400から受信したパケットは、RSVPにより無線通信端末100とネゴシエーションされた基準に従い、パケットフィルタ324により分配される。具体的には、パケットフィルタ324は、補助サービスインスタンスASIに対応付けされたA10/GREパケット構築部326、又はメインサービスインスタンスMSIに対応付けされたA10/GREパケット構築部327のいずれかにパケットを分配する。
また、送信フロー制御部328は、無線通信端末100との間でRSVPプロトコルを用いてネゴシエーションを行い、サービスオプションやフローID等のコンテキストの記憶保持を行う。
(3)チャネル共有方式及びチャネル占有方式
次に、図9〜図11を用いて、チャネル共有方式、チャネル占有方式、及びチャネル共有方式とチャネル占有方式との切り替え処理について詳細に説明する。
本実施形態では、無線通信端末100の制御部110に設けられた方式切り替え部160は、無線品質の変化、又はハンドオーバの実行をトリガとして、チャネル共有方式とチャネル占有方式とを切り替える。
(3.1)チャネル共有方式
図9に示すように、チャネル共有方式では、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、1つの無線通信チャネルCH上に、メインサービスインスタンスMSI及び補助サービスインスタンスASIを設定する。
このようにすると、1つの無線通信チャネルCHを複数のサービスインスタンスが共有することが可能となる。したがって、チャネル共有方式によれば、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、無線通信チャネルCHの通信帯域が広い場合に、当該通信帯域を有効活用することができる。
チャネル共有方式では、サービスインスタンスを識別するための識別子が、補助サービスインスタンスASIを介して伝送されるパケットP1のヘッダにオーバーヘッドとして埋め込まれる。無線通信チャネルCHの通信帯域が広い場合、サービスインスタンス・フローIDによるスループットの減少量は相対的に小さくなる。
なお、チャネル共有方式を適用するためには、無線通信端末100の接続先の無線基地局において、無線通信端末100に割り当て可能な無線通信チャネルが1つのみであってもよい。
このため、本実施形態においては、無線通信端末100と無線基地局200Aとの通信開始時において、チャネル共有方式が選択されるものとする。通信開始時において、チャネル共有方式を選択すると、無線通信チャネルの割り当て不可によって通信が継続不能となることを回避できる。
(3.2)チャネル占有方式
チャネル占有方式では、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、補助サービスインスタンスASI専用の無線通信チャネルCH2を設定する。そして、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、補助サービスインスタンスASI専用の無線通信チャネルCH2上に補助サービスインスタンスASIを設定する。
無線通信端末100が例えばセルエッジに位置する場合、非常に狭い通信帯域しか確保できないことがある。このような場合でも、補助サービスインスタンスASI専用の無線通信チャネルCH2上に補助サービスインスタンスASIを設定することによって、優先順位の高いパケットP1の伝送を継続可能となる。
また、チャネル占有方式では、物理レイヤやL2に密着した木目細かいQoS制御を、サービスインスタンス毎に施すことが可能となる。
さらに、チャネル占有方式では、補助サービスインスタンスASIを介して伝送されるパケットP1に共通するオーバーヘッドが自明となることから、補助サービスインスタンスASIを識別するためのサービスインスタンス・フローIDによるオーバーヘッドを省略することが可能となる。
ただし、チャネル占有方式を適用するためには、無線通信端末100の接続先の無線基地局において、無線通信端末100に割り当て可能な無線通信チャネルが複数存在することが必要である。
(3.3)チャネル共有方式とチャネル占有方式との切り替え処理
次に、チャネル共有方式とチャネル占有方式との切り替え処理について説明する。
(3.3.1)無線品質の変化をトリガとする切り替え処理
方式切り替え部160は、図9に示すように、無線品質を閾値と比較して、比較結果に応じて、チャネル共有方式からチャネル占有方式への切り替えと、チャネル占有方式からチャネル共有方式への切り替えとを行う。通信品質の判断基準の具体例については後述する。
方式切り替え部160は、無線品質が閾値を超えた場合、つまり無線品質が良化した場合には、チャネル占有方式からチャネル共有方式へ切り替える。方式切り替え部160は、無線品質が閾値を下回った場合、つまり無線品質が劣化した場合には、チャネル占有方式を選択する。
無線品質が良く、1つの無線通信チャネルCHにサービスインスタンスを割り当てても余剰な通信帯域が十分ある場合、方式切り替え部160は、チャネル共有方式を選択する。チャネル共有方式では、余剰の通信帯域を優先順位の落ちる用途のパケットに使えるようにする。
チャネル共有方式では、物理レイヤ及びL2においてQoSが共通となってしまうが、通信帯域が十分にあるため、それほど綿密なQoS制御を実行しなくても十分なパケット伝送品質を確保できる。
一方、無線品質が悪く、帯域確保が困難である場合、方式切り替え部160は、チャネル占有方式を選択する。
チャネル占有方式では、QoS制御が必要な優先順位の高い補助サービスインスタンスASIに無線通信チャネルCH2を占有させることにより、物理レイヤ及びL2に密着した綿密なQoS制御を個別に行うことが可能となる。したがって、狭い通信帯域を慎重にケアすることが可能になり、十分な伝送品質を確保できる。
また、チャネル占有方式では、サービスインスタンス・フローIDを省略することによってオーバーヘッドを最少とし、できる限り補助サービスインスタンスASIが使用可能な通信帯域を保証することができる。
(3.3.1)ハンドオーバの実行をトリガとする切り替え処理
方式切り替え部160は、図9に示すように、無線通信部102によってハンドオーバが実行された場合に、チャネル占有方式からチャネル共有方式へ切り替える。
無線通信端末100がハンドオーバの実行後に接続する無線基地局(以下、「ハンドオーバ先の無線基地局」という)においては、無線通信端末100に割り当て可能な無線通信チャネルが1つしかないことがある。したがって、ハンドオーバ実行前においてチャネル占有方式が適用されている場合、ハンドオーバ実行後にはチャネル共有方式に切り替えることによって、通信が継続不可となることが回避される。
あるいは、予めハンドオーバ先の無線基地局から空き無線通信チャネル数を通知されるようにする仕組みも考えられる。しかしながら、複数の空き無線通信チャネルが有る旨通知されたものの、ハンドオーバ後において実際には1つの空き無線通信チャネルしかない場合には、通信が継続不可となる恐れがある。
なお、ハンドオーバ後にチャネル共有方式に切り替えた場合でも、その後に無線品質が劣化すればチャネル占有方式に切り替えることができる。
また、上述したように、ハンドオーバ前よりもハンドオーバ後の方が無線品質は改善されるため、ハンドオーバ後においてチャネル共有方式を使用すれば、広い通信帯域を有効に活用できる可能性が高い。
(3.4)無線品質の判断基準の一例
本実施形態では、無線品質の判断基準として、適応変調に用いられる変調クラスを使用する。図10は、適応変調に用いられる変調クラスを示す図である。
無線通信端末100及び無線基地局200Aは、複数の変調方式とコーディングレートの組で表される変調クラスをサポートする。図10におけるスループットは、物理チャネル1つ当たりのスループットを示している。
各変調クラスには、所要SINRが規定されている。所要SINRが高い変調クラスであるほどスループットが大きくなる。所要SINRが低い変調クラスであるほどスループットが小さくなる。
無線通信端末100及び無線基地局200Aは、受信SINRが所要SINRを上回っている場合は、可能な限り高い変調クラスを選択することにより、高いスループットを確保する。
無線通信端末100及び無線基地局200Aは、受信SINRが低い場合は、より低い変調クラスを選択することにより、通信を継続可能とする制御を行う。
補助サービスインスタンスASIがチャネル占有方式である場合、方式切り替え部160は、送信と受信に用いている変調クラスを監視する。変調クラスのどちらかが3未満である場合、無線通信端末100は、物理チャネル当たりの通信帯域が不十分であると判断し、チャネル占有方式を継続する。
送信と受信に用いている変調クラスの両方が3以上である場合、方式切り替え部160は、物理チャネル当たりの通信帯域が十分であると判断し、チャネル占有方式から、チャネル共有方式に変更を行う。
この結果、高いスループットを持つ変調クラスが選択されている状況下では、チャネル共有方式を用いて、補助サービスインスタンスASIに帯域を割り当て好適なVoIPを行うことを可能とする。一方、低いスループットが支配的に選択されている状況下では、チャネル占有方式を用いて、オーバーヘッドを極限まで削減する。
(3.5)ハンドオーバ処理の詳細
上述したように、方式切り替え部160は、無線通信部102によってハンドオーバが実行された場合に、チャネル占有方式からチャネル共有方式へ切り替える。以下では、無線通信部102によって実行されるハンドオーバ処理の詳細について説明する。
図11は、無線通信端末100と無線基地局200A〜200Cとの無線通信に用いられるスーパーフレーム構成及び報知情報フレームフォーマットを示す図である。
図5に示したダウンリンクスロットのスロット#1は、報知情報チャネルとして用いられ、以下のように使用される。図11(a)中の奇数フレームに1つの無線基地局の報知情報チャネルバーストが存在し、全部で8個のグループにわけられる。すなわち、通信システム10では、全部で8台の無線基地局が同じ地域に存在できるものとする。
無線通信部102は、報知情報B0〜B7を受信し、無線品質や内容を収集して比較することにより、接続先基地局を切り替えるべきか、現在接続中の無線基地局200Aとの接続を維持するべきかを判断する。
報知情報のシンボルコーディングフォーマットは、図11(b)に示すようになっており、全体で545シンボルの情報を運搬するものとする。なお、1シンボルは2μ秒とする。
無線通信部102は、B0〜B7を含む十分な期間を当該キャリア上で受信動作を行なう。具体的には、無線通信部102は、アンテナ101からの受信信号をダウンコンバートし、シンボル毎の情報列に復調する。そして、無線通信部102は、シンボル毎の情報列をシンボル毎に逐次監視し、UWと一致する情報列を認識すると、その位置を記憶するとともに以後の一定期間に報知情報要素があるものとしてシンボル情報列を解析する。シンボル情報列の解析により無線基地局が識別されると共に、各無線基地局の送信する報知情報チャネルバーストの電界強度とタイミングを収集する。
報知情報は前後に拡張ガードタイムを持つ事により、ダウンリンクのタイムスロットに比べて小さいものになる。この為、任意の無線基地局の報知情報チャネルに同期しつつも、同じダウンリンクタイムスロットの受信ウインドウの範囲内で、他の(無線通信端末100からの距離の異なる)無線基地局の報知情報チャネルを受信可能になっている。
無線の伝播速度を秒速30万メートルとすると、無線通信端末100からの相対距離が1μ秒に対して300メートルとなる。よって無線通信部102が任意の基地局のガードタイムにダウンリンクタイムスロットの先頭をアジャストしている場合、対象基地局に対して無線通信端末100からの相対距離が、0.3×43=12.9キロメートル離れた無線基地局の送信する報知情報まで、タイミング的には受信可能となる。
以上の仕組みを用いて、無線通信部102は、ある無線基地局に接続中(待ち受け中及び通信中)において、各無線基地局の送信する放置情報の電界強度とタイミングを収集する。
(4)各サービスインスタンスにおけるパケット構成
次に、図12〜図14を用いて、各サービスインスタンスにおけるパケット構成について説明する。
(4.1)メインサービスインスタンスにおけるパケット構成
図12は、メインサービスインスタンスMSIにおけるペイロード及びヘッダのサイズを示す表である。
図12において、PPPヘッダとは、RFC1662: PPP in HDLC-like Framingで規定されるヘッダである。
サービスインスタンス・フローIDは、上述したように、サービスインスタンスを識別するための識別子であり、各サービスインスタンスを確立させる時、無線基地局200Aと無線通信端末100とのネゴシエーションにより決定される。
なお、L3デリミタとは、物理レイヤ及びL2よりも上位レイヤでのオクテットストリームで運搬されるオクテット列から、L3パケットを切り出すためのデリミタタグであり、次のデリミタタグの位置を表示する。
L2でのARQ(自動再送制御)の働きにより、物理レイヤからのオクテットストリームは送信側の意図する順番に並び替えられて、上位レイヤに渡される。
しかしながら、オクテットストリームとして渡されるが故に、L3パケットを切り出すための仕組みが必要となる。L3デリミタは、次のデリミタまでの位置を指定して、L3パケットの区切りを明示するためのオーバーヘッドとなり、受信側はデリミタに基づいてL3パケットの切り出しを実現する。
(4.2)補助サービスインスタンス(チャネル共有方式時)におけるパケット構成
図13は、補助サービスインスタンスASI(チャネル共有方式時)におけるペイロード及びヘッダのサイズを示す表である。
図13において、各オーバーヘッドの意味は、メインサービスインスタンスの場合と同様であるが、補助サービスインスタンスASIとしてサービスオプション67(SO67)が選択されているため、PPPヘッダのオーバーヘッドは省略されている。代わりに、上位に流通するプロトコルはROHCに限定される。
なお、補助サービスインスタンスASIでは、PPPヘッダにおけるオーバーヘッドが省略される。プロトコルフィールド等のコンテキスト情報は、RSVPプロトコルによりPDSN300と無線通信端末100の間でネゴシエーションされることにより、暗黙の送信となる。
また、固定の値を持つフィールドは、暗黙の送信として、受信側で固定値を補完する。FCSフィールドも、暗黙の送信とし、受信側はL3デリミタによりデータレングスを計算した後、FCSを再計算することにより補完する。
(4.3)補助サービスインスタンス(チャネル占有方式時)におけるパケット構成
図14は、補助サービスインスタンスASI(チャネル占有方式時)におけるペイロード及びヘッダのサイズを示す表である。
図14において、各オーバーヘッドの意味は、メインサービスインスタンスの場合と同様である。チャネルを占有しているため、サービスインスタンス・フローIDは自明となり省略される。
(5)パケットフロー制御処理
次に、無線通信端末100及び無線基地局200Aにおいて実行されるパケットフロー制御処理について説明する。
VoIPアプリケーションにおいてUDPプロトコルを用いる場合、上位レイヤでのデータ再送は行われない。遅延によって再生機会を逸したCODECペイロードはアプリケーションにより廃棄される。
従って、VoIPアプリケーションでは、遅延したデータの伝達確実性確保のために、後続するデータの到着遅延を発生させるよりも、許容を超えて遅延するパケットは積極的に廃棄し、後続するデータが実時間で到着する可能性を向上させる方が、主観的音声品質の維持には有効となる場合がある。
よって、限度を超えて遅延するパケットの再送は抑制すると、VoIPアプリケーションに適した伝送路を提供することができる。
無線通信端末100から無線基地局200Aに対するデータも、無線基地局200Aから無線通信端末100へのデータも無線品質の劣化により伝達が滞る場合がある。
このような場合、送信データは送信側の送信バッファに蓄えられ、無線品質が改善し送信可能になるのを待つ。ただし、無線品質が改善されない場合もありえる。その場合は後続データの到着により送信バッファが溢れることになり、より古いデータを廃棄しなければならない。
補助サービスインスタンスASIを介して伝送されるパケットはG729A音声データをRTPペイロードとするRTP/UDP/IPであるので、再送により到着の信頼性を高めるよりパケット廃棄してでも到着の実時間性を確保した方が主観的音声品質は良いといえる。
よって、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、補助サービスインスタンスASIに対して、送信バッファのサイズを小さくし、3秒程度以上過去のパケットが積極的に廃棄されるよう制御を行う。
一方で、メインサービスインスタンスMSIについては、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、SIP電話を維持するための重要なデータが流通することを考慮して、比較的大きな送信バッファを用意する。これにより、パケットの廃棄ができる限り発生しないように制御される。
メインサービスインスタンスMSIと補助サービスインスタンスASIの送信バッファサイズの差により、メインサービスインスタンスMSIにはパケット欠落を回避しデータの到着信頼性を高めるQoSが与えられ、補助サービスインスタンスASIにはデータの実時間到着の確度を高めるQoSが与えられることとなる。
(5.1)チャネル共有方式におけるパケットフロー制御処理
図15は、チャネル共有方式におけるパケットフロー制御処理を説明するための図である。図15に示す各機能ブロックは、図6〜図8に示した各送信フロー制御部、各受信フロー制御部、各バッファに設けられる。
図15(a)に示すように、送信時おいては、全てのサービスインスタンスを流れるパケットは、一旦、それぞれのサービスインスタンスに独立して用意されている送信データキュー801A,801Bに蓄えられるとともに、対応するサービスインスタンス・フローIDが付加される。更に、補助サービスインスタンスASIの場合は、PPPヘッダが除去される。
その後、フロー制御部802は、流量に合わせて、L3へのキュー804に優先順位に応じてパケットを転送する。帯域が十分にある場合は全てのパケットがL3へのキュー804に転送される。
帯域が狭い場合、帯域制御部803は、補助サービスインスタンスASIを優先的にL3へのキュー804に転送する。更に帯域が狭くなってきた場合、帯域制御部803は、補助サービスインスタンスASIのデータキューに留まっているパケットのうち、古いものから順に廃棄する制御を行う。
図15(b)に示すように、受信時おいては、L4フロー分離部806は、L3からのパケットを、サービスインスタンス・フローIDを目印に各サービスインスタンスに振り分ける。補助サービスインスタンスASIについては、フロー制御部802は、補助サービスインスタンスASI毎のコンテキスト情報から、PPPヘッダを再構築して、上位データパケットを再構築する。
(5.2)チャネル占有方式におけるパケットフロー制御処理
図16は、チャネル占有方式におけるパケットフロー制御処理を説明するための図である。図16に示す各機能ブロックは、図6〜図8に示した各送信フロー制御部、各受信フロー制御部、各バッファに設けられる。
図16(a)に示すように、帯域制御部803は、補助サービスインスタンスASIを流れるパケットのみを破棄の対象としている。その他の点は、図15(a)と同様である。
図16(b)に示すように、補助サービスインスタンスASIについては、無線通信チャネルの識別情報(具体的には、タイムスロット番号)と補助サービスインスタンスASIのフローIDとの関連情報とを用いた振り分けが行われる。その他の点は、図15(b)と同様である。
(6)通信システムの詳細動作
次に、図17〜図20を用いて、通信システム10の詳細動作について説明する。
(6.1)サービスインスタンスの設定シーケンス
図17は、通信システム10におけるサービスインスタンスの設定シーケンスを示すシーケンス図である。
ステップS102において、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、スロット番号0のタイムスロットを用いて無線通信チャネルCHを確立する。
ステップS104において、無線通信端末100は、メインサービスインスタンスの割り当て要求メッセージを無線基地局200Aに送信する。この時、無線通信端末100は、フローのプロファイルを指定する。指定されるプロファイルは、メインサービスインスタンスであるので、フローIDは1とし、サービスオプションをSO59とし、追加属性として新規及び共有を指定する。
ステップS105において、無線基地局200Aは、無線通信端末100から要求されたプロファイルの内容に従って、A11シグナリングプロトコルを用いてメインサービスインスタンスの確立をPDSN300に要求する。
ステップS106において、PDSN300は、ステップS105における要求に対する応答メッセージを無線基地局200Aに送信する。
ステップS107において、無線基地局200Aは、メインサービスインスタンスの割り当て応答メッセージを無線通信端末100に送信する。
ステップS108において、無線通信端末100と無線基地局200AとPDSN300との間に、メインサービスインスタンスMSIが確立する。
ステップS109において、無線通信端末100は、PDSN300との間でPPPコネクションの確立シーケンスを実行する。PPPコネクションの確立シーケンスにおいて、PDSN300は、無線通信端末100にグローバルIPアドレスを割り当てる。
ステップS110において、無線通信端末100と無線基地局200AとPDSN300との間に、PPPコネクションが確立する。
ステップS111〜ステップS117において、無線通信端末100は、ユーザーによるSIP電話の使用を認識し、メインサービスインスタンスMSIを用いて以下を行う。
・SIPサーバ600との間でのSIP通話のためのメッセージ交換
・PDSN300との間でのRSVPによる補助サービスインスタンスASIのコンテキスト交換
・無線基地局200Aとの間の補助サービスインスタンスASI確立のためのメッセージ交換
無線通信端末100と無線基地局200Aとの間の補助サービスインスタンスASIは、この時点では確立していないため、チャネル共有方式により確立を行う。具体的には、スロット番号1の物理チャネルを共有する形で、補助サービスインスタンスASIが割り当てられる。この時、無線通信端末100は、フローのプロファイルを指定する。
ステップS113において、無線通信端末100は、指定するプロファイルが補助サービスインスタンスASIであるので、フローIDは2以上のユニークな番号とし、サービスオプションをSO67とし、追加属性として新規及び共有を指定する。
ステップS114において、無線基地局200Aは無線通信端末100から要求されたプロファイルの内容を用いて、A11シグナリングプロトコルを用いて、PDSN300に対して補助サービスインスタンスASIの確立を要求する。ステップS115及びステップS116において、応答メッセージが無線通信端末100に送信される。
ステップS117において、無線通信端末100と無線基地局200AとPDSN300との間に、補助サービスインスタンスASIが確立する。
以上のシーケンスにより、無線通信端末100と無線基地局200AとPDSN300との間に、メインサービスインスタンスと補助サービスインスタンスASIが確立される。
サービスインスタンス・フローIDとスロット番号、サービスインスタンスのコンテキストは、無線基地局200Aと無線通信端末100でそれぞれ関連付けされて記憶される。
なお、無線通信端末100と無線基地局200Aとの間の補助サービスインスタンスASIは、チャネル共有方式により実現されている。
なお、補助サービスインスタンスASIの確立後、ステップS118〜ステップS125において、無線通信端末100及びSIPサーバ600は、無線基地局200A及びPDSN300を介してSIPメッセージを送受信する。また、無線通信端末100とPDSN300との間でRSVPによるパケットコンテキストの交換が行われる。ステップS126において、フローコンテキストネゴシエーションが確立される。
(6.2)チャネル共有方式からチャネル占有方式への切り替えシーケンス
図18は、チャネル共有方式からチャネル占有方式への切り替えシーケンスを示すシーケンス図である。
ここで、チャネル共有方式による補助サービスインスタンスASIは、スロット番号1のタイムスロットにより構成される無線通信チャネル上でメインサービスインスタンスと共有するように確立されている。また、サービスインスタンス・フローIDは2以上のユニークな番号が割り当てられている。
ステップS201において、無線通信端末100は、無線基地局200Aとの間にスロット番号2の物理チャネルを確立する。
ステップS202において、無線通信端末100は、補助サービスインスタンスの割り当て要求メッセージを無線基地局200Aに送信する。この時、指定されるプロファイルにおいて、サービスインスタンス・フローIDとサービスオプション番号については、既に補助サービスインスタンスASIに割り当てたものと同じ値とする。無線通信端末100は、タイムスロット番号を2と指定すると共に、追加属性として切り替え及び占有を指定する。
ステップS203において、無線基地局200Aは、フロー割り当て応答メッセージを無線通信端末100に送信する。
ステップS204において、無線通信端末100と無線基地局200AとPDSN300とにおいて、補助サービスインスタンスASIの切り替えが実行される。具体的には、補助サービスインスタンスASIが、タイムスロット番号1の無線通信チャネルから、タイムスロット番号2の無線通信チャネルへ切り出される。
ステップS205及びステップS206においては、切り替え後の補助サービスインスタンスASIを用いて、パケットが伝送される。
以上のシーケンスにより、チャネル共有方式からチャネル占有方式への切り替えが実現される。
(6.3)チャネル占有方式からチャネル共有方式への切り替えシーケンス
図19は、チャネル占有方式からチャネル共有方式への切り替えシーケンスを示すシーケンス図である。
ここで、チャネル占有方式による補助サービスインスタンスASIは必ずスロット番号1以外の無線通信チャネルで確立され、サービスインスタンス・フローIDは2以上のユニークな番号が割り当てられている。
ステップS301において、無線通信端末100は、補助サービスインスタンスの割り当て要求メッセージを無線基地局200Aに送信する。プロファイルでは、タイムスロット番号を1と指定すると共に、追加属性として切り替え及び共有を指定する。
ステップS302において、無線基地局200Aは、補助サービスインスタンスASIの割り当て応答メッセージを無線通信端末100に送信する。その後、補助サービスインスタンスASIの切り替えが完了する(ステップS303)。
そして、補助サービスインスタンスASIの切り替えが完了した後、ステップS304において、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、不要となるスロット番号2の無線通信チャネルの切断を行う。その後、ステップS305及びステップS306において、切り替え後の補助サービスインスタンスASIを用いてパケットが伝送される。なお、PDSN300は、このシーケンスには特に関係しない。
(6.4)ハンドオーバシーケンス
次に、無線通信端末100がハンドオーバを実行する際の動作について説明する。図20は、無線通信端末100が接続先を無線基地局200Aから無線基地局200Bに切り替えるハンドオーバ動作を示すシーケンス図である。ここでは、ハンドオーバ前において、チャネル占有方式が適用されている場合について説明する。
ステップS401において、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、メインサービスインスタンスMSIをスロット2上に確立する。
ステップS402において、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、補助サービスインスタンスASIを、スロット3上にチャネル占有方式で確立する。
ステップS403において、ハンドオーバトリガの発生により、無線通信端末100は、無線基地局200Bへのハンドオーバを開始する(ステップS404)。
ステップS405において、無線通信端末100から無線基地局200Bに対してスロット2の物理チャネルの確立を行う。
スロット2の物理チャネルが確立後、ステップS406において、無線通信端末100は、メッセージを用いてメインサービスインスタンスフローの割り当て要求を行う。この時、無線通信端末100は、フローのプロファイルを指定する。指定されるプロファイルはメインサービスインスタンスMSIであるので、フローIDを1とし、サービスオプションはSO59となり、追加属性としてハンドオーバ及び共有を指定する。
ステップS407において、無線基地局200Bは、無線通信端末100から要求されたプロファイルの内容を用いて、PDSN300に対してメインサービスインスタンスMSIの確立を、A11シグナリングプロトコルを用いて行う。
ステップS408及びS410において、PDSN300は、既に当該サービスインスタンスの存在を認識しているので、ハンドオーバと認識し、関連するサービスインスタンスを同時に無線基地局200Bに通知する。
ステップS409において、無線基地局200Aは、メインサービスインスタンスフローの割り当て応答を無線通信端末100に送信する。この結果、ステップS411において、メインサービスインスタンスMSIの切り替え(ハンドオーバ)が完了する。
ステップS412において、無線通信端末100は、補助サービスインスタンスフローの割り当て要求を無線基地局200Bに送信する。この時、無線通信端末100は、フローのプロファイルを指定する。指定されるプロファイルは補助サービスインスタンスASIであるので、フローIDを2とし、サービスオプションはSO67となり、追加属性としてハンドオーバ及び共有を指定する。
ステップS413において、無線基地局200Bは、補助サービスインスタンスフローの割り当て応答を無線通信端末100に送信する。なお、無線基地局200Bは、既にPDSN300から補助サービスインスタンスASIのハンドオーバを通知されているので、無線通信端末100からの情報との関連付けを行うとともに管理を行う。
ステップS414及びS416において、PDSN300は、無線基地局200Aに対して、サービスインスタンスのアップデートが行われた旨を通知して、無線基地局200Aとの間のサービスインスタンスを解消する。
ステップS415及びステップS417において、無線通信端末100及び無線基地局200Aは、スロット番号2及び3の無線通信チャネルの切断を行う。この結果、ステップS418及びS419において、補助サービスインスタンスASIの切り替え(ハンドオーバ)が完了し、その後、ステップS419において、切り替え後の補助サービスインスタンスASIを用いてパケットが伝送される。
(7)作用及び効果
本実施形態によれば、チャネル共有方式において全ての種別のパケットが1つの無線通信チャネルを用いて伝送されるため、無線通信チャネル当たりの通信帯域が広い場合に当該通信帯域を最大限に活用できる。
チャネル占有方式においては、RTPパケットが専用の無線通信チャネルを用いて伝送されるため、無線通信チャネル当たりの通信帯域が狭い場合でも、RTPパケットの伝送遅延を抑制可能となる。
無線通信チャネル当たりの通信帯域や、無線通信端末100に割り当て可能な無線通信チャネル数は、無線通信端末100の通信状態(すなわち、無線品質又はハンドオーバ実行)に応じて変化する。したがって、無線通信端末100の通信状態に応じてチャネル共有方式又はチャネル占有方式のいずれか一方を選択することによって、無線通信端末100の通信状態に適した方式を実現可能となる。
本実施形態によれば、無線通信端末100は、チャネル占有方式により複数個の無線通信チャネルを無線基地局200Aとの間に設定している状態からハンドオーバを実行する場合、チャネル占有方式からチャネル共有方式へ切り替える。
したがって、ハンドオーバ先の無線基地局200Bにおいて無線通信チャネルが少なくとも1つ空いていれば、補助サービスインスタンスASIを必ず継続させる事が可能となる。さらに、ハンドオーバ前よりもハンドオーバ後の方が無線品質は改善されるため、ハンドオーバ後においてチャネル共有方式を選択することにより、広い通信帯域を有効に活用できる可能性が高い。
本実施形態によれば、無線通信端末100は、無線品質情報に基づいて、無線品質が良化したか否かを判定し、無線品質が良化したと判定される場合に、チャネル共有方式を選択する。これにより、無線通信端末100は、無線品質が良好である場合に、広い通信帯域を有効に活用できる。
また、本実施形態によれば、無線通信端末100は、無線品質情報に基づいて、無線品質が劣化したか否かを判定し、無線品質が劣化したと判定される場合に、チャネル占有方式を選択する。これにより、無線通信端末100は、無線品質が劣悪である場合に、物理レイヤ及びL2に密着した綿密なQoS制御を個別に行うことが可能となり、狭い通信帯域を慎重にケアすることで十分な伝送品質を確保できる。
さらに、本実施形態によれば、無線通信端末100は、チャネル占有方式時においてサービスインスタンス・フローIDを省略することによって、オーバーヘッドを最少とし、できる限り補助サービスインスタンスASIが使用可能な帯域を保証することができる。
(8)その他の実施形態
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
(8.1)通信品質情報の変更例
上述した実施形態では、チャネル占有方式とチャネル共有方式との切り替え基準として、選択している変調クラスと切り替える基準となる閾値との比較を行う手法を用いていた。
しかしながら、より木目細かい制御方法として、L2を透過するデータスループットを計測する手段と、このスループットと比較を行う閾値を記憶するテーブルとを設け、この両者の比較により切り替えを行う方法も効果的である。
使用している変調クラスは高いが、FERも多い状況は実際の運用では多発する。このような場合では、実際にスループットがどの程度得られているかを判断基準に入れるとより良い結果が得られる。
(8.2)補助サービスインスタンスの変更例
図21は、補助サービスインスタンスASIの変更例を示す図である。図21に示すように、補助サービスインスタンスASIは複数であっても良い。
テレビ電話のようなアプリケーションの場合、音声パケットフローと画像パケットフローでは、欠落時の影響やデータのサイズ等の条件が大きく異なり、要求されるQoSが異なることが普通である。
このため、個別の補助サービスインスタンスを用いて、それぞれに異なるQoSを施した方が、全体としてより良い品質のテレビ電話を提供することができる。
このようなQoS要求である場合、図21に示すように、音声パケットフローP1と画像パケットフローP3にそれぞれ別の独立した補助サービスインスタンスASI1,ASI2を割り当てる方法が考えられる。例えば、テレビ電話セッション開始直後は、メインサービスインスタンスMSIと補助サービスインスタンスASI1,ASI2をチャネル共有方式で確立させる。
電波状況が劣化して変調クラスが落ち、スループットの確保が難しくなった場合、先ず音声パケットフローP1を運搬している補助サービスインスタンスASI1を、チャネル占有方式に切り替えると、音声の欠落を防ぐことができる。
画像データの場合は欠落しても、テレビ電話アプリケーションの処理により、画像が停止するのみである。これに対して、音声データの欠落は、通常不快感を伴うノイズとなる。このため、音声データを先に保護する制御は有効となる。
無論、画像パケットフローを運搬する補助サービスインスタンスASI2も、必要ならば、チャネル占有方式に切り替えるように制御してもよい。電波状況が改善してきて、変調クラスが上がってきて、十分なスループットになった場合、再度チャネル共有方式に戻せば、チャネル占有方式により使えなかった余剰となる帯域を他の用途に使用可能となる。
(8.3)無線通信端末及び無線基地局の変更例
上述した実施形態において、無線通信端末100が実行すると説明した各種の処理は、無線基地局200Aが適宜実行してもよい。この場合、無線基地局200Aに備えられる方式切り替え部260がチャネル占有方式又はチャネル共有方式のいずれかを選択する。
このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
10…通信システム、100…無線通信端末、101…アンテナ、102…無線通信部、103…キーパッド、104…マイク、105…スピーカ、110…制御部、111…受信データバッファ、112…受信フロー制御部、113…ROHC展開部、114…IPプロトコルスタック管理部、115…RTP/UDP/IPパケット管理部、116…RSVPクライアント部、117…PPPクライアント部、119…SIPプロトコル管理部、120…ROHC圧縮部、121,122…L4パケット構築部、123…送信フロー制御部、151…SIPクライアント部、152…G729Aコーデック、160…方式切り替え部、200A〜200C…無線基地局、201…アンテナ、202…無線通信部、203…A10/GRE通信部、210…制御部、211…受信パケットバッファ、212…受信フロー制御部、213,214…A10/GREパケット構築部、215,216…送信バッファ、217…受信フロー制御部、218,219…L4パケット構築部、220…送信フロー制御部、260…方式切り替え部、300…PDSN、301…A10/GRE通信部、302…LL/PL送受信部、310…制御部、313…受信パケットバッファ、314…受信フロー制御部、315,316…A10/GREパケット除去部、317…IPプロトコルスタック管理部、318…PPPサーバ部、319…RSVPサーバ部、321…ROHC展開部、322…送信バッファ、323…受信パケットバッファ、324…パケットフィルタ、325…ROHC圧縮部、326,327…A10/GREパケット構築部、328…送信フロー制御部、400…インターネット、500…電話機、500…SIP電話機、600…SIPサーバ、801A,801B…送信データキュー、802…フロー制御部、803…帯域制御部、804…L3データキュー、806…フロー分離部