次に、図面を参照して、本発明の実施形態に係る通信システムを説明する。以下の実施形態における図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。
以下においては、(1)通信システムの概要、(2)通信システムの構成、(3)アグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式、(4)各サービスインスタンスにおけるパケット構成、(5)パケットフロー制御処理、(6)適応変調、(7)通信システムの詳細動作、(8)作用及び効果、(9)その他の実施形態、の順に説明する。
(1)通信システムの概要
まず、図1〜図3を用いて、本実施形態に係る通信システムの概略構成について説明する。具体的には、(1.1)通信システムの全体構成、(1.2)通信フレームの構成、(1.3)通信システムの概略動作、(1.4)プロトコルスタックについて説明する。
(1.1)通信システムの全体構成
図1は、本実施形態に係る通信システム10の全体概略構成図である。本実施形態では、VoIP(Voice over Internet Protocol)アプリケーションに適用される通信システム10について説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る通信システム10は、無線通信端末100、無線基地局200、PDSN(Packet Data Serving Node)300、インターネット400、SIP(Session Initiation Protocol : RFC 3261 IETF)電話機500、及びSIPサーバ600を有する。
無線通信端末100及び無線基地局200は、高速通信可能な無線通信システムであるiBurst(登録商標)システムに基づく構成を有している(iBurstについては、”High Capacity - Spatial Division Multiple Access (HC-SDMA)”ATIS - PP - 0700−004.2007 (ATIS / ANSI)を参照)。なお、iBurstシステムでは、TDMA及びSDMA/TDD通信方式が用いられる。
無線通信端末100、無線基地局200、及びPDSN300は、上述したX.S0011−004−Dに従ったQoS制御に対応している。X.S0011−004−Dでは、帯域予約のメカニズムにより、リアルタイムアプリケーションが送受信するパケットフローのQoSを保証する。
X.S0011−004−DにおけるQoS制御では、1つのPPP(Point to Point Protocol)コネクションにおいて複数のサービスインスタンスが構成される。本実施形態において、サービスインスタンスとは、パケットフローを運搬する伝搬路の抽象例であり、X.S0011−004−Dではそれぞれ異なる機能を付与されたサービスオプション(SO)種別で規定される。
このように、複数のサービスインスタンスを設定し、サービスインスタンス毎に異なるQoSを与えることで、きめ細かいQoS制御が実現される。
(1.2)通信フレームの構成
図2は、無線通信端末100と無線基地局200との無線通信に用いられる通信フレームのフレーム構成図である。
無線基地局200は、無線通信端末100からの無線接続要求に応じて、TDMA-TDDに従ったタイムスロット(以下、適宜「物理チャネル」という)を用いた無線通信チャネルCHを無線通信端末100に割り当てる。
図2では、TDMA方式によりアップリンク(無線通信端末100から無線基地局200へ向かう方向)及びダウンリンク(無線基地局200から無線通信端末100へ向かう方向)共に3多重されている。
タイムスロットは、アップリンクとダウンリンクで非対称な構成となっている。通常、アップリンクにおける1つのタイムスロットと、ダウンリンクにおける1つのタイムスロットとの組み合わせが無線通信端末100に割り当てられる。本実施形態では、当該一対のタイムスロットは、1つの物理チャネルとみなすものとする。
無線通信端末100及び無線基地局200は、複数のアップリンクタイムスロット、又は複数のダウンリンクタイムスロットを複数まとめて1つの無線通信チャネルを構成するチャネル・アグリゲーションに対応している。具体的には、無線通信端末100及び無線基地局200は、最大3つの物理チャネルをまとめて用いることによって、チャネル・アグリゲーションを実行する。
以下においては、複数の物理チャネルを用いて1つの無線通信チャネルを構成する方式をアグリゲートチャネル方式と呼ぶ。また、1つの物理チャネルを用いて1つの無線通信チャネルを構成する方式を単独チャネル方式と呼ぶ。
(1.2)通信システムの概略動作
図3は、通信システム10の概略動作を説明するための機能ブロック構成図である。図3において、無線通信端末100は、SIPクライアント部151及びG729Aコーデック152を有している。SIP電話機500は、G729Aコーデック551を有している。
まず、無線通信端末100は、無線接続を無線基地局200に要求する。無線基地局200は、無線通信端末100からの無線接続要求を受け付ける。
そして、無線通信端末100及び無線基地局200は、無線通信チャネルCHを設定する。無線通信チャネルCHは、少なくとも1つの物理チャネルを用いて構成される。本実施形態では、タイムスロットが物理チャネルに相当する。
無線基地局200は、無線通信端末100とPDSN300との間で送受信されるパケットフローを中継する機能を有する。また、無線基地局200は、A11シグナリングプロトコルを用いて、PDSN300との間にA10コネクションを設定する。
無線通信端末100、無線基地局200、及びPDSN300は、無線通信チャネルCH及びA10コネクションの設定後において、無線通信端末100とPDSN300との間に、メインサービスインスタンス(第2通信セッション)MSIを確立する。
無線通信端末100は、電源投入時などの通信開始時においては、まずメインサービスインスタンスMSIを確立させる。本実施形態では、メインサービスインスタンスMSIは、無線通信端末100とPDSN300とのPPPコネクション確立時に、1つの物理チャネル上に確立される。
無線通信端末100、無線基地局200、及びPDSN300は、無線通信端末100がサービスインスタンスを確立していない状態においてサービスインスタンスが確立された場合、確立されたサービスインスタンスをメインサービスインスタンスMSIとして認識する。
メインサービスインスタンスMSIは、1つのPPPコネクションにつき1つのみ存在する。メインサービスインスタンスMSIは、他のサービスインスタンスを通過しない全てのパケットフローの伝送に用いられる。
具体的には、無線通信端末100及び無線基地局200は、メインサービスインスタンスMSIと無線通信チャネルCHとの対応付けを記憶する。無線基地局200及びPDSN300は、メインサービスインスタンスMSIとA10コネクションとの対応付けを記憶する。
そして、無線通信端末100は、メインサービスインスタンスMSIを介して、PPP接続要求をPDSN300に送信する。
PDSN300は、PPPサーバとしての機能を有し、無線通信端末100からのPPP接続要求を受け付けると共に、グローバルIPアドレスを無線通信端末100に割り当てる。
その結果、無線通信端末100は、PDSN300から割り振られたグローバルIPアドレスを用いて、インターネット400に接続されたネットワーク機器と通信可能になる。本実施形態では、無線通信端末100は、SIP電話機500とSIP電話を実行するものとする。
SIP電話を開始する際、無線通信端末100は、SIPサーバ600とネゴシエーションする。そして、無線通信端末100は、X.S0011−004−Dが規定するRSVP (Resource reSerVation Protocol)に従ってPDSN300とネゴシエーションを行い、補助サービスインスタンス(第1通信セッション)ASIを確立する。
具体的には、無線通信端末100、無線基地局200、及びPDSN300は、既にメインサービスインスタンスMSIを確立している状態から追加のサービスインスタンスを確立した場合は、当該サービスインスタンスを補助サービスインスタンスASIであると認識する。この場合、無線通信端末100は、PDSN300との間でのPPP確立のための情報交換及びグローバルIPアドレスの取得は行わない。
補助サービスインスタンスASIには、RSVPによってネゴシエーションされたパケット種別選択方法及び伝送方法が適用される。パケット種別選択方法としては、例えば、SIP電話機500のIPアドレスや、使用するUDPポート番号、RTPペイロードがG729A(8Kbps)であるといった内容がネゴシエーションされる。伝送方式としては、例えば、ROHC(RObust Header Compression : RFC 3095 IETF)を適用することがネゴシエーションされる。
このようにして、補助サービスインスタンスASIに流れるパケット種別を制限することにより、リアルタイムアプリケーションが送受信するパケットフローに対して、特別なQoSを与えることができる。
無線通信端末100及び無線基地局200は、補助サービスインスタンスASIと無線通信チャネルCHとの対応付けを記憶する。無線基地局200及びPDSN300は、補助サービスインスタンスASIとA10コネクションとの対応付けを記憶する。
補助サービスインスタンスASIが確立されると、SIPサーバ600は、無線通信端末100とSIP電話機500との間に、SIP電話用のRTPセッションを確立する。なお、SIPは、RTP/UDP/IPプロトコルを用いたパケットストリームを任意のインターネットノード間で接続するプロトコルである。そして、RTPセッションが確立されると、無線通信端末100は、SIP電話機500とのSIP電話を実行可能になる。
なお、補助サービスインスタンスASIにおいては、パケットフローごとに種別が予めネゴシエーションされているため、パケットフロー特有のオーバーヘッドを省略することができる。例えば、X.S0011−004−Dにおけるサービスオプション67(SO67)では、補助サービスインスタンスASIは、PPPフローのうちROHCが適用されるパケットのみを透過させる。SO67では、PPPのオーバーヘッドが省略される。
(1.4)プロトコルスタック
次に、図4及び図5を用いて、通信システム10におけるプロトコルスタックについて説明する。
図4は、通信システム10においてメインサービスインスタンスMSIに適用されるプロトコルスタックを示す図である。図5は、通信システム10において補助サービスインスタンスASIに適用されるプロトコルスタックを示す図である。
メインサービスインスタンスMSIには、補助サービスインスタンスASIを通過しない全てのパケットフローの伝送に用いられるため、ROHC圧縮が施されず、PPPよりも上位のレイヤで特別な処理が行われない。
一方、補助サービスインスタンスASIは、音声や動画等のメディアパケットを伝送するため、IP(RFC 791 IETF)を下位レイヤとして、UDP(RFC 768 IETF)、RTP(RFC 1889 IETF)が用いられている。また、無線通信端末100と無線基地局200の間では、PPPヘッダのオーバーヘッドが取り除かれている。
無線通信端末100及びPDSN300には、ROHCが実装されている。ROHCは、RTP/UDP/IPパケットヘッダの合計40バイトを最小で2バイトまで圧縮する。なお、VoIPによる音声通信では、2つのG729A(8Kbps)コーデックパケットが1つのRTP/UDP/IPパケットに格納される。
無線基地局200とPDSN300との間のサービスインスタンスは、GRE(Generic Routing Encapsulation RFC 2784)プロトコルに従ったA10コネクションで実現されている。A10コネクションを1つのPPPコネクションにおいて複数確立させることで、無線基地局200とPDSN300との間で複数のサービスインスタンスが確立される。
(2)通信システムの構成
次に、図6〜図8を用いて、無線通信端末100、無線基地局200、及びPDSN300の構成について説明する。
(2.1)無線通信端末の構成
図6は、無線通信端末100の機能ブロック構成図である。図6に示すように、無線通信端末100は、アンテナ101、無線通信部102、キーパッド103、マイク104、スピーカ105、G729Aコーデック152、及び制御部110を有する。
無線通信部102は、無線通信チャネルCHを無線基地局200との間に設定する無線通信チャネル設定部として機能する。また、無線通信部102は、上述したチャネル・アグリゲーションと、受信SINRに基づく適応変調(リンク・アダプテーション)とを実行する。
本実施形態において、制御部110は、メインサービスインスタンスMSI(第2通信セッション)及び補助サービスインスタンスASI(第1通信セッション)を設定する通信セッション設定部として機能する。また、制御部110は、補助サービスインスタンスASIを識別する識別子をパケットに付加する識別子付加部として機能する。
さらに、制御部110は、受信データバッファ111、受信フロー制御部112、ROHC展開部、IPプロトコルスタック管理部114、RTP/UDP/IPパケット管理部115、RSVPクライアント部116、PPPクライアント部117、DHCPクライアント部118、SIPプロトコル管理部119、ROHC圧縮部120、L4パケット構築部121,122、送信フロー制御部123、無線品質情報取得部163、及び方式選択部164を有する。
送信フロー制御部123は、無線基地局200とネゴシエーションする機能を有する。送信フロー制御部123は、補助サービスインスタンスASIのパケットコンテキスト、サービスオプション種別、及びフローID等のコンテキストの記憶保持を行う。
無線品質情報取得部163は、無線通信部102から、無線基地局200との間の無線品質を示す無線品質情報を取得する。方式選択部164は、無線品質情報に応じて、後述するチャネル共有方式又はチャネル占有方式のいずれかを選択する。
G729Aコーデック152は、マイク104からの音声データをサンプリングすると共に、コーデックペイロードに変換する。
変換された音声データは、RTP/UDP/IPパケット管理部115を経由してROHC圧縮部120によって圧縮される。ROHC圧縮が施されたRTP/UDP/IPパケットは、L4パケット構築部121及び送信フロー制御部123を経由して送信される。
その際、無線通信部102は、補助サービスインスタンスASIに対応する無線通信チャネルCHを用いて無線基地局200に送信する。
補助サービスインスタンスASIに対応する無線通信チャネルCHから無線通信部102がパケットを受信すると、受信されたパケットは、受信データバッファ111を経由して受信フロー制御部112に入力される。なお、各バッファ(データキュー)の詳細動作については後述する。
受信フロー制御部112は、無線通信チャネルCHに対応付けされたサービスインスタンスの種別により、受信したパケットをROHC展開部113に入力するかIPプロトコルスタック管理部114に入力するかを制御する。
G729Aコーデック152は、無線基地局200から受信したG729A(8Kbps)音声データを音声データに変換し、スピーカ105から音声として出力する。
本実施形態において、制御部110は、アグリゲートチャネル方式又は単独チャネル方式のいずれか一方を選択するチャネル構成方式選択部として機能する。
また、制御部110は、パケットを送信する順番を識別する送信順番識別子(以下において、適宜「L3シーケンスタグ」という)をパケットに付加する送信順番識別子付加部として機能する。
制御部110は、L3シーケンスタグが付加されたパケットを、無線通信チャネルを構成する複数の物理チャネルに振り分けるパケット振り分け部として機能する。
(2.2)無線基地局200の構成
図7は、無線基地局200の機能ブロック構成図である。図7に示すように、無線基地局200は、アンテナ201、無線通信部202、A10/GRE通信部203、及び制御部210を有する。
制御部210は、受信パケットバッファ211、受信フロー制御部212、A10/GREパケット構築部213,214、送信バッファ215,216、受信フロー制御部217、L4パケット構築部218,219、及び送信フロー制御部220を有する。
A10/GRE通信部203は、PDSN300とのインターフェースを実現する機能ブロックとなる。A10/GRE通信部203からの受信パケットは、受信フロー制御部217に送られる。
送信フロー制御部220は、A10コネクションに対応付けされたサービスインスタンス種別に従い、受信パケットをメインサービスインスタンスMSIに対応付けされた無線通信チャネルCHへの送信バッファに送信するか、補助サービスインスタンスASIに対応付けされた無線通信チャネルCHへの送信バッファに送信するかを切り替える。
また、送信フロー制御部220は、無線通信端末100との間でネゴシエーションし、補助サービスインスタンスASIのパケットコンテキストの記憶保持を行う。
無線通信部202は、無線通信端末100との間に無線通信チャネルCHを確立し、無線通信端末100とのインターフェースを実現する機能ブロックとなる。無線通信部202は、チャネル・アグリゲーションを実行可能である。
受信フロー制御部212は、無線通信チャネルCHに対応付けされたサービスインスタンス種別に従い、受信パケットをメインサービスインスタンスMSIに対応付けされたA10コネクションチャネルへの送信バッファに送信するか、補助サービスインスタンスASIに対応付けされたA10コネクションチャネルへの送信バッファに送信するかを切り替える。
(2.3)PDSN300の構成
図8は、PDSN300の機能ブロック構成図である。図8に示すように、PDSN300は、A10/GRE通信部301、LL/PL送受信部302、及び制御部310を有する。
LL/PL送受信部302は、リンクレイヤ(LL)及び物理レイヤ(PL)レベルにおけるインターネット400とのインターフェースを実現する機能ブロックとなる。A10/GRE通信部301は、無線基地局200とのインターフェースを実現する機能ブロックとなる。
制御部310は、受信パケットバッファ313、受信フロー制御部314、A10/GREパケット除去部315,316、IPプロトコルスタック管理部317、PPPサーバ部318、RSVPサーバ部319、DHCPサーバ部320、ROHC展開部321、送信バッファ322、受信パケットバッファ323、パケットフィルタ324、ROHC圧縮部325、A10/GREパケット構築部326,327、及び送信フロー制御部328を有する。
LL/PL送受信部302からのパケットは、RSVPにより無線通信端末100とネゴシエーションされた基準に従い、パケットフィルタ324により分配される。具体的には、パケットフィルタ324は、補助サービスインスタンスASIに対応付けされたA10/GREパケット構築部326、又はメインサービスインスタンスMSIに対応付けされたA10/GREパケット構築部327のいずれかにパケットを分配する。
また、送信フロー制御部328は、無線通信端末100との間でPDSN300との間でRSVPプロトコルを用いてネゴシエーションを行い、サービスオプションやフローID等のコンテキストの記憶保持を行う。
A10/GRE通信部301からの受信パケットのうち、メインサービスインスタンスMSIに含まれるパケットには、無線通信端末100からPDSN300へ向けての、例えばPPPやRSVPといったパケットが存在する。受信フロー制御部314は、PDSN300向けのパケットをIPプロトコルスタック管理部317に入力する。
メインサービスインスタンスMSIを経由したPDSN300宛以外のパケットは、A10/GREパケット除去部315,316によってA10/GREヘッダが除去された後LL/PL送受信部302に送られる。
受信フロー制御部314は、受信パケットのうち、補助サービスインスタンスASIを経由したパケットを受信した場合、A10/GREを除去した後、当該パケットをROHC展開部321に入力する。ROHC展開部321は、ROHC展開によってIPパケットを復元した後、当該IPパケットをLL/PL送受信部302に送る。
(3)アグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式
次に、図9を用いて、アグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式、チャネル共有方式及びチャネル占有方式について説明する。チャネル共有方式及びチャネル占有方式は、無線通信端末100と無線基地局200との無線通信においてサービスインスタンスを設定する方式である。
(3.1)アグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式
以下に、アグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式について説明する。
(3.1.1)アグリゲートチャネル方式
図9に示すように、アグリゲートチャネル方式では、複数のタイムスロットを用いて無線通信チャネルCHが構成される。図9の例では、3つのタイムスロット#1〜#3によって1つの無線通信チャネルCHが構成されている。
各タイムスロットにおける伝送遅延が異なることがあるため、無線通信端末100及び無線基地局200は、アグリゲートチャネル方式時において、パケットを送信する順番を識別するL3シーケンスタグをパケットのヘッダに付加する。
3つのタイムスロット#1〜#3によって1つの無線通信チャネルCHを構成する場合、1つのタイムスロットのみを用いる場合と比較して、3倍の帯域幅を得ることができる。
しかし、例えば上位のプロトコルがTCP/IP等である場合、パケットの到着順位が著しく変わると、秒単位のタイマによる再送制御が起動されてしまうため、スループットを低下させる原因となる。
また、複数の物理チャネルのうち1つもしくは一部だけが長期間に渡って不通となると、受信側では、到着したパケットの並べ替えの際に、当該物理チャネルで運搬されるべきパケットが長期間に渡って欠番となる。
このようなパケットを受信側が待つ為に、後続するパケットを上位のレイヤに渡せない状況が発生する。そして、欠落したパケットが到着して欠落が埋まると、大量のパケットが上位のレイヤに同時期に渡される事となり、上位のレイヤの処理能力を超える問題がある。
(3.1.2)単独チャネル方式
単独チャネル方式では、1つタイムスロットを用いて1つの無線通信チャネルCHが構成される。
図9の例では、タイムスロット#1を用いて無線通信チャネルCH1が構成され、タイムスロット#2を用いて無線通信チャネルCH2が構成されている。単独チャネル方式では、上述したL3シーケンスタグを省略可能となる。
(3.2)チャネル共有方式及びチャネル占有方式
以下に、チャネル共有方式及びチャネル占有方式について説明する。
(3.2.1)チャネル共有方式
チャネル共有方式では、無線通信端末100及び無線基地局200は、1つの無線通信チャネルCH上に、メインサービスインスタンスMSI及び補助サービスインスタンスASIを設定する。
このため、チャネル共有方式では、サービスインスタンスを識別するための識別子が、補助サービスインスタンスASIを介して伝送されるパケットP1のヘッダにオーバーヘッドとして埋め込まれる。本実施形態においては、当該識別子をサービスインスタンス・フローID(セッション識別子)と呼ぶ。
このようにすると、オーバーヘッドと引き換えに、1つの無線通信チャネルCHを複数のサービスインスタンスが共有することが可能となる。無線通信チャネルCHの帯域幅が広く、オーバーヘッドが十分に小さい場合、このようなオーバーヘッドに起因する帯域の減少が支配的ではなくなる。
したがって、チャネル共有方式によれば、無線通信端末100及び無線基地局200は、無線通信チャネルCHの帯域幅が広い場合に、帯域を有効活用することができる。なお、本実施形態においては、無線通信端末100と無線基地局200との通信開始時において、チャネル共有方式が選択されるものとする。
さらに、他の優先順位の落ちる用途のパケットP1を、メインサービスインスタンスMSIを用いて透過させることができる。この時、無線通信チャネルCHは1つしか使用していないため、他の無線通信チャネルCHは他の用途に用いることが可能となり、無線通信リソースを有効利用することができる。
一方で、無線通信端末100が例えばセルエッジに位置する場合、非常に狭い帯域幅しか確保できない場合が存在する。よって、サービスインスタンス・フローIDによるオーバーヘッドがもたらす帯域幅減は相対的に無視できないものとなることがある。
また、チャネル共有方式では、無線帯域が著しく低くなった場合に、優先順位の低いパケットの伝達が不能になる。あるいは、当該パケットの伝達をさせると、優先順位の高いパケットP1のスループットを低下させてしまう。
なお、優先順位の低いパケットP2は、ROHC等の圧縮が施されていないので、大きなサイズとなることが多い。FTPやHTTP等のデータパケットの場合、頻度が低くても一時的に使用する帯域が大きくなる傾向が高い。
さらに、チャネル共有方式では、物理レイヤに密着した木目細かいQoS制御をサービスインスタンス毎に施すことが難しくなる。
(3.2.2)チャネル占有方式
チャネル占有方式では、無線通信端末100及び無線基地局200は、補助サービスインスタンスASI専用の無線通信チャネルCH2を設定する。そして、無線通信端末100及び無線基地局200は、補助サービスインスタンスASI専用の無線通信チャネルCH2上に補助サービスインスタンスASIを設定する。
チャネル占有方式によれば、補助サービスインスタンスASIを介して伝送されるパケットP1に共通するオーバーヘッドが自明となることから、補助サービスインスタンスASIを識別するためのサービスインスタンス・フローIDによるオーバーヘッドを省略することが可能となる。
さらに、メインサービスインスタンスMSIにも別の無線通信チャネルCH1が割り当て可能であるため、優先順位の低いパケットP2も、メインサービスインスタンスMSIを用いて伝送することができる。
一方で、無線通信チャネルCH1,CH2の余力となる帯域を使うことが困難になる。つまり無線通信チャネルCH2を占有する代わりにオーバーヘッドの省略のメリットを得ているため、無線通信チャネルCH1,CH2の余剰帯域が犠牲になる。
(3.3)アグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式の切り替え処理
無線通信端末100は、無線品質に応じて、アグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式を切り替える。具体的には、無線通信端末100は、無線品質を閾値と比較して、比較結果に応じてアグリゲートチャネル方式及び単独チャネル方式のいずれかを選択する。
つまり、無線通信端末100は、無線品質が良化した場合にはアグリゲートチャネル方式を選択し、無線品質が劣化した場合には単独チャネル方式を選択する。
(3.4)チャネル共有方式及びチャネル占有方式の切り替え処理
無線通信端末100は、無線基地局200との間の無線品質に応じて、チャネル共有方式及びチャネル占有方式を切り替える。具体的には、無線通信端末100は、無線品質を閾値と比較して、比較結果に応じてチャネル共有方式及びチャネル占有方式のいずれかを選択する。通信品質の判断基準の具体例については後述する。
無線通信端末100は、無線品質が良化した場合にはチャネル共有方式を選択し、無線品質が劣化した場合にはチャネル占有方式を選択する。
無線品質が良く、1つの無線通信チャネルCHにサービスインスタンスを割り当てても余剰な帯域が十分ある場合、無線通信端末100は、チャネル共有方式を選択する。チャネル共有方式では、余剰のスループットを他の優先順位の落ちる用途に使えるようにする。
一方、無線品質が悪く、帯域確保が困難である場合、無線通信端末100は、チャネル占有方式を選択する。チャネル占有方式では、オーバーヘッドを最少とし、できる限り補助サービスインスタンスASIが使用可能な帯域を保証することができる。
チャネル共有方式においては、QoSは共通となってしまう部分が発生するが、帯域が十分にあるため、それほど綿密なQoS制御を与えなくても十分なパケット伝送品質を確保できる。
一方、チャネル占有方式においては、QoS制御が必要な優先順位の高い補助サービスインスタンスASIに無線通信チャネルCH2を占有させることにより、物理レイヤ及びL2(OSI参照モデルの第2層に相当)に密着した綿密なQoS制御を個別に行うことが可能となる。したがって、狭い帯域を慎重にケアすることが可能になり、十分な伝送品質を確保できる。
ただし、リソースは有限であるため、チャネル占有方式では、無線通信端末100に対して無線通信チャネルCH2を必ずしも割り当可能であるとは限らない。
これに対し、チャネル共有方式では、論理的なチャネル分割になるが故に、リソースの制限を遥かに緩くすることができる。このため、無線通信端末100からの要求に従い無線通信チャネルCHを割り当てることができる可能性が高い。
したがって、通信開始時において、チャネル共有方式を選択すると、リソースの割り当て不可によるVoIPセッション確立不能となることを回避できる。
(4)各サービスインスタンスにおけるパケット構成
次に、図10〜図12を用いて、各サービスインスタンスにおけるパケット構成について説明する。
(4.1)メインサービスインスタンスにおけるパケット構成
図10は、メインサービスインスタンスMSIにおけるペイロード及びヘッダのサイズを示す表である。
図10において、PPPヘッダとは、RFC1662: PPP in HDLC-like Framingで規定されるヘッダである。
サービスインスタンス・フローIDは、上述したように、サービスインスタンスを識別するための識別子であり、各サービスインスタンスを確立させる時、無線基地局200と無線通信端末100とのネゴシエーションにより決定される。
L3シーケンスタグは、送信側のパケットの送信順番を表示する為のタグである。受信側は、L3シーケンスタグを目印に、受信したパケットの順番を整列し、欠落の無い部分までを上位レイヤに透過させる。複数の物理チャネルをアグリゲートするサービスインスタンスでは、L3シーケンスタグが含まれる。
なお、L3デリミタとは、物理レイヤ及びL2よりも上位レイヤでのオクテットストリームで運搬されるオクテット列から、L3パケットを切り出すためのデリミタタグであり、次のデリミタタグの位置を表示する。
L2でのARQ(自動再送制御)の働きにより、物理レイヤからのオクテットストリームは送信側の意図する順番に並び替えられて、上位レイヤに渡される。
しかしながら、オクテットストリームとして渡されるが故に、L3パケットを切り出すための仕組みが必要となる。L3デリミタは、次のデリミタまでの位置を指定して、L3パケットの区切りを明示するためのオーバーヘッドとなり、受信側はデリミタに基づいてL3パケットの切り出しを実現する。
(4.2)補助サービスインスタンス(チャネル共有方式時)におけるパケット構成
図11は、補助サービスインスタンスASI(チャネル共有方式時)におけるペイロード及びヘッダのサイズを示す表である。
図11において、各オーバーヘッドの意味は、メインサービスインスタンスの場合と同様であるが、補助サービスインスタンスASIとしてサービスオプション67(SO67)が選択されているため、PPPヘッダのオーバーヘッドは省略されている。代わりに、上位に流通するプロトコルはROHCに限定される。
なお、補助サービスインスタンスASIでは、PPPヘッダにおけるオーバーヘッドが省略される。プロトコルフィールド等のコンテキスト情報は、RSVPプロトコルによりPDSN300と無線通信端末100の間でネゴシエーションされることにより、暗黙の送信となる。
また、固定の値を持つフィールドは、暗黙の送信として、受信側で固定値を補完する。FCSフィールドも、暗黙の送信とし、受信側はL3デリミタによりデータレングスを計算した後、FCSを再計算することにより補完する。
(4.3)補助サービスインスタンス(チャネル占有方式時)におけるパケット構成
図12は、補助サービスインスタンスASI(チャネル占有方式時)におけるペイロード及びヘッダのサイズを示す表である。
図11において、各オーバーヘッドの意味は、メインサービスインスタンスの場合と同様である。チャネルを占有しているため、サービスインスタンス・フローIDは自明となり省略される。同様に、チャネル占有方式ではアグリゲートを行なわないため、L3シーケンスタグも省略される。
(5)パケットフロー制御処理
次に、無線通信端末100及び無線基地局200において実行されるパケットフロー制御処理について説明する。
VoIPアプリケーションにおいてUDPプロトコルを用いる場合、上位レイヤでのデータ再送は行われない。遅延によって再生機会を逸したCODECペイロードはアプリケーションにより廃棄される。
従って、VoIPアプリケーションでは、遅延したデータの伝達確実性確保のために、後続するデータの到着遅延を発生させるよりも、許容を超えて遅延するパケットは積極的に廃棄し、後続するデータが実時間で到着する可能性を向上させる方が、主観的音声品質の維持には有効となる場合がある。
よって、限度を超えて遅延するパケットの再送は抑制すると、VoIPアプリケーションに適した伝送路を提供することができる。
無線通信端末100から無線基地局200に対するデータも、無線基地局200から無線通信端末100へのデータも無線品質の劣化により伝達が滞る場合がある。
このような場合、送信データは送信側の送信バッファに蓄えられ、無線品質が改善し送信可能になるのを待つ。ただし、無線品質が改善されない場合もありえる。その場合は後続データの到着により送信バッファが溢れることになり、より古いデータを廃棄しなければならない。
補助サービスインスタンスASIを介して伝送されるパケットはG729A音声データをRTPペイロードとするRTP/UDP/IPであるので、再送により到着の信頼性を高めるよりパケット廃棄してでも到着の実時間性を確保した方が主観的音声品質は良いといえる。
よって、無線通信端末100及び無線基地局200は、補助サービスインスタンスASIに対して、送信バッファのサイズを小さくし、3秒程度以上過去のパケットが積極的に廃棄されるよう制御を行う。
一方で、メインサービスインスタンスMSIについては、無線通信端末100及び無線基地局200は、SIP電話を維持するための重要なデータが流通することを考慮して、比較的大きな送信バッファを用意する。これにより、パケットの廃棄ができる限り発生しないように制御される。
メインサービスインスタンスMSIと補助サービスインスタンスASIの送信バッファサイズの差により、メインサービスインスタンスMSIにはパケット欠落を回避しデータの到着信頼性を高めるQoSが与えられ、補助サービスインスタンスASIにはデータの実時間到着の確度を高めるQoSが与えられることとなる。
(5.1)チャネル共有方式におけるパケットフロー制御処理
図13は、チャネル共有方式におけるパケットフロー制御処理を説明するための図である。図13に示す各機能ブロックは、図5〜図7に示した各送信フロー制御部、各受信フロー制御部、各バッファに設けられる。
図13(a)に示すように、送信時おいては、全てのサービスインスタンスを流れるパケットは、一旦、それぞれのサービスインスタンスに独立して用意されている送信データキュー801A,801Bに蓄えられるとともに、対応するサービスインスタンス・フローIDが付加される。更に、補助サービスインスタンスASIの場合は、PPPヘッダが除去される。
その後、フロー制御部802は、流量に合わせて、L3へのキュー804に優先順位に応じてパケットを転送する。帯域が十分にある場合は全てのパケットがL3へのキュー804に転送される。
帯域が狭い場合、帯域制御部803は、補助サービスインスタンスASIを優先的にL3へのキュー804に転送する。更に帯域が狭くなってきた場合、帯域制御部803は、補助サービスインスタンスASIのデータキューに留まっているパケットのうち、古いものから順に廃棄する制御を行う。
図13(b)に示すように、受信時おいては、L4フロー分離部606は、L3からのパケットを、サービスインスタンス・フローIDを目印に各サービスインスタンスに振り分ける。補助サービスインスタンスASIについては、フロー制御部802は、補助サービスインスタンスASI毎のコンテキスト情報から、PPPヘッダを再構築して、上位データパケットを再構築する。
(5.2)チャネル占有方式におけるパケットフロー制御処理
図14は、チャネル占有方式におけるパケットフロー制御処理を説明するための図である。図14に示す各機能ブロックは、上述した各送信フロー制御部、各受信フロー制御部、各バッファに設けられる。
図14(a)に示すように、帯域制御部803は、補助サービスインスタンスASIを流れるパケットのみを破棄の対象としている。その他の点は、図13(a)と同様である。
図14(b)に示すように、補助サービスインスタンスASIについては、無線通信チャネルの識別情報(具体的には、タイムスロット番号)と補助サービスインスタンスASIのフローIDとの関連情報とを用いた振り分けが行われる。その他の点は、図13(b)と同様である。
(6)適応変調
図15は、無線通信端末100及び無線基地局200において実行される適応変調の変調クラスを示す図である。
無線通信端末100及び無線基地局200は、複数の変調方式とコーディングレートの組で表される変調クラスをサポートする。図15におけるスループットは、物理チャネル1つ当たりのスループットを示している。
変調クラスには、所要SINRが規定されている。所要SINRが高い変調クラスであるほどスループットが大きくなる。所要SINRが低い変調クラスであるほどスループットが小さくなる。
無線通信端末100及び無線基地局200は、受信SINRが所要SINRを上回っている場合は、可能な限り高い変調クラスを選択することにより、高いスループットを確保する。
無線通信端末100及び無線基地局200は、受信SINRが低い場合は、より低い変調クラスを選択することにより、通信を継続可能とする制御を行う。
補助サービスインスタンスASIがチャネル占有方式である場合、無線通信端末100は、送信と受信に用いている変調クラスを監視する。変調クラスのどちらかが3未満である場合、無線通信端末100は、当該物理チャネルの送信余力が十分では無いと判断し、チャネル占有方式を継続する。
変調クラスの両方が3以上である場合、無線通信端末100は、当該物理チャネルの送信余力が十分であると判断し、チャネル占有方式から、チャネル共有方式に変更を行う。
この結果、高いスループットを持つ変調クラスが選択されている状況下では、チャネル共有方式を用いて、補助サービスインスタンスASIに帯域を割り当て好適なVoIPを行うことを可能とする。一方、低いスループットが支配的に選択されている状況下では、チャネル占有方式を用いて、オーバーヘッドを極限まで削減する。
さらに、補助サービスインスタンスASIを構成する無線通信チャネルCHがアグリゲートチャネル方式である場合、無線通信端末100は、送信と受信に用いている変調クラスを監視する。
変調クラスが共に3上である場合、無線通信端末100は、無線通信チャネルCHの送信余力が十分にあると判断し、アグリゲートチャネル方式での構成を継続する。
変調クラスのいずれかが3未満である場合、無線通信端末100は、無線通信チャネルCHの送信余力が十分ではないと判断し、補助サービスインスタンスASIを、単独チャネル方式を用いた無線通信チャネルCHに変更する。
(7)通信システムの詳細動作
次に、図16〜図18を用いて、通信システム10の詳細動作について説明する。
(7.1)サービスインスタンスの設定動作
図16は、通信システム10におけるサービスインスタンスの設定動作を示すシーケンス図である。
ステップS101において、無線通信端末100及び無線基地局200は、スロット番号0のタイムスロットを用いて無線通信チャネルCHを確立する。
ステップS102において、無線通信端末100は、スロット番号0のタイムスロットに加え、スロット番号1のタイムスロットの割り当て要求、すなわちアグリゲートチャネル要求を無線基地局200に送信する。
ステップS103において、無線基地局200は、アグリゲートチャネル要求を許可する。この結果、無線通信チャネル番号1の無線通信チャネルは、アグリゲートチャネル方式で確立される。
ステップS104において、無線通信端末100は、メインサービスインスタンスの割り当て要求メッセージを無線基地局200に送信する。この時、無線通信端末100は、フローのプロファイルを指定する。指定されるプロファイルは、メインサービスインスタンスであるので、フローIDは1とし、サービスオプションをSO59とし、追加属性として新規及び共有を指定する。
ステップS105において、無線基地局200は、無線通信端末100から要求されたプロファイルの内容に従って、A11シグナリングプロトコルを用いてメインサービスインスタンスの確立をPDSN300に要求する。
ステップS106において、PDSN300は、ステップS105における要求に対する応答メッセージを無線基地局200に送信する。
ステップS107において、無線基地局200は、メインサービスインスタンスの割り当て応答メッセージを無線通信端末100に送信する。
ステップS108において、無線通信端末100と無線基地局200とPDSN300との間に、メインサービスインスタンスMSIが確立する。
ステップS109において、無線通信端末100は、PDSN300との間でPPPコネクションの確立シーケンスを実行する。PPPコネクションの確立シーケンスにおいて、PDSN300は、無線通信端末100にグローバルIPアドレスを割り当てる。
ステップS110において、無線通信端末100と無線基地局200とPDSN300との間に、PPPコネクションが確立する。
ステップS111〜ステップS117において、無線通信端末100は、ユーザーによるSIP電話の使用を認識し、メインサービスインスタンスMSIを用いて以下を行う。
・SIPサーバ600との間でのSIP通話のためのメッセージ交換
・PDSN300との間でのRSVPによる補助サービスインスタンスASIのコンテキスト交換
・無線基地局200との間の補助サービスインスタンスASI確立のためのメッセージ交換
無線通信端末100と無線基地局200との間の補助サービスインスタンスASIは、この時点では確立していないため、チャネル共有方式により確立を行う。具体的には、スロット番号1の物理チャネルを共有する形で、補助サービスインスタンスASIが割り当てられる。この時、無線通信端末100は、フローのプロファイルを指定する。
ステップS113において、無線通信端末100は、指定するプロファイルが補助サービスインスタンスASIであるので、フローIDは2以上のユニークな番号とし、サービスオプションをSO67とし、追加属性として新規及び共有を指定する。
ステップS114において、無線基地局200は無線通信端末100から要求されたプロファイルの内容を用いて、A11シグナリングプロトコルを用いて、PDSN300に対して補助サービスインスタンスASIの確立を要求する。ステップS115及びステップS116において、応答メッセージが無線通信端末100に送信される。
ステップS117において、無線通信端末100と無線基地局200とPDSN300との間に、補助サービスインスタンスASIが確立する。その後、無線通信端末100は、PDSN300との間でRSVPによるパケットコンテキストの交換を行う。
以上のシーケンスにより、無線通信端末100と無線基地局200とPDSN300との間に、メインサービスインスタンスと補助サービスインスタンスASIが確立される。サービスインスタンス・フローIDとスロット番号、サービスインスタンスのコンテキストは、無線基地局200と無線通信端末100でそれぞれ関連付けされて記憶される。
なお、無線通信端末100と無線基地局200との間の補助サービスインスタンスASIは、アグリゲートチャネル方式、且つチャネル共有方式により実現されている。
その後、図17に示すように、ステップS127〜ステップS144において、無線通信端末100とSIP電話機500との間でVoIPパケットストリームが確立する。ここで、無線通信端末100は、帯域の不足を検出したものとする。
この場合、無線通信端末100は、無線通信チャネルCHに対して、新たに物理チャネルをアグリゲートさせる。
具体的には、ステップS145において、無線通信端末100及び無線基地局200は、スロット番号2の物理チャネルを確立させる。
ステップS146及びステップS147において、無線通信端末100及び無線基地局200スロット番号2の物理チャネルを無線通信チャネルCHにアグリゲートさせる。
ステップS148〜ステップS150では、スロット番号3の物理チャネルが無線通信チャネルCHにさらにアグリゲートされる。
(7.2)チャネル共有方式からチャネル占有方式への切り替え動作
図18は、チャネル共有方式からチャネル占有方式への切り替え動作を示すシーケンス図である。
ここでは、ステップS201に示すように、スロット番号1,2,3の3つの物理チャネルからなる、無線通信チャネル番号1の無線通信チャネルが確立されている。また、サービスインスタンス・フローID1のメインサービスインスタンスMSIとサービスインスタンス・フローID2の補助サービスインスタンスASIの2つがチャネル共有方式で確立されている。
ステップS202において、無線通信端末100は、無線基地局200に対して無線通信チャネル番号2の無線通信チャネルを確立する。
ステップS203及びステップS204において、無線基地局200は、割り当て応答として、各無線通信チャネルの状態を無線通信端末100に通知する。
このケースでは、無線通信チャネル番号1の無線通信チャネルはスロット番号1及び2の物理チャネルにより構成されており、アグリゲーションは許可、つまりアグリケーションチャネル方式となる。
無線通信チャネル番号2の無線通信チャネルは、スロット番号3の物理チャネルのみで構成されており、アグリゲーションは不許可、つまり単独チャネル方式となる。
ステップS205において、無線通信端末100は、無線基地局200に対して、サービスインスタンスの割り当て変更を要求する。割り当て変更内容としては、サービスインスタンス・フローID2のサービスインスタンスを無線通信チャネル番号2の無線通信チャネルに割り当て、追加属性としてチャネル占有を指定する。
ステップS206において、無線基地局200、要求された割り当て内容に従い、コンテキストを変更し、無線通信端末100に対してその結果を通知する。
このようにして、サービスインスタンス・フローID2のサービスインスタンスは、スロット番号3の物理チャネル単独で構成される無線通信チャネル(単独チャネル方式)に、チャネル占有方式として確立される。
以上のシーケンスにより、アグリゲーションチャネル方式である無線通信チャネル(チャネルシェア方式)を用いたサービスインスタンスMSI、ASIから、単独チャネル方式である無線通信チャネル(チャネル占有方式)を用いた補助サービスインスタンスASIを独立させる事ができた。
(7.3)チャネル占有方式からチャネル共有方式への切り替え動作
図19は、チャネル占有方式からチャネル共有方式への切り替え動作を示すシーケンス図である。
図19では、当初、スロット番号1及び2の2つの物理チャネルからなる無線通信チャネル(無線通信チャネル番号1)と、スロット番号3の単独の物理チャネルからなる無線通信チャネル(無線通信チャネル番号2)が確立している。
無線通信チャネル番号1の無線通信チャネルでは、サービスインスタンス・フローID1の一つのサービスインスタンスが確立している。サービスインスタンス・フローID1のサービスインスタンスは、チャネルシェア方式であり、サービスインスタンスはSO59メインサービスインスタンスである。
無線通信チャネル番号2の無線通信チャネルは、サービスインスタンス・フローID2の一つのサービスインスタンスが確立している。サービスインスタンス・フローID2のサービスインスタンスはチャネル占有方式であり、かつメインサービスインスタンスMSIである。
ステップS303において、無線通信端末100は、無線基地局200に対してサービスインスタンス・フローの割り当ての変更要求を行う。割り当て変更内容としては、サービスインスタンス・フローID2のサービスインスタンスを無線通信チャネル番号1の無線通信チャネルに割り当て、追加属性としてチャネル共有を指定する。
ステップS304において、無線基地局200は、要求された割り当て内容に従い、コンテキストを変更し、無線通信端末100に対して結果を通知する。
ステップS305において、無線通信端末100は、無線基地局200に対して、不要となる無線通信チャネル番号2の無線通信チャネルの解除要求を行なう。
ステップS306及びステップS307において、無線基地局200は、割り当て応答として、各無線通信チャネルの状態を無線通信端末100に対して通知する。
このケースでは、無線通信チャネル番号1の無線通信チャネルはスロット番号1及び2及び3の三つの物理チャネルにより構成されており、アグリゲーションは許可、つまりアグリケーションチャネル方式となる。また、無線通信チャネル番号2の無線通信チャネルは解除された旨が通知される。
ステップS308において、サービスインスタンス・フローID1のサービスインスタンスは、スロット番号1,2,3の三つの物理チャネルで構成される無線通信チャネル(アグリゲートチャネル方式)にチャネルシェア方式として確立する。
(8)作用及び効果
本実施形態によれば、無線基地局200に複数のパケットを送信する無線通信端末100は、物理チャネルを用いて構成される無線通信チャネルを無線基地局200との間に設定する。無線通信端末100は、無線品質情報に応じて、アグリゲートチャネル方式又は単独チャネル方式のいずれか一方を選択する。無線通信端末100は、単独チャネル方式が選択された場合、パケットに対するL3シーケンスタグの付加を省略する。
このような特徴によれば、少なくとも1つの物理チャネルを用いて無線通信チャネルが構成される場合において、無線通信品質に応じて無線通信チャネルの構成方式を選択することが可能な送信側無線通信装置を提供することができる。
本実施形態によれば、無線基地局200を介して、RTPパケットを含む複数種別のパケットをPDSN300と送受信する無線通信端末100は、RTPパケットの伝送に用いられる論理通信路である補助サービスインスタンスASIと、RTPパケットと異なる種別のパケットの伝送に用いられる論理通信路であるメインサービスインスタンスMSIとを、PDSN300との間に設定する。
無線通信端末100は、無線基地局200との間の無線品質に対応する変調クラスを識別する変調クラス識別情報を通信品質情報として取得する。
そして、無線通信端末100は、通信品質情報に応じて、補助サービスインスタンスASIを用いた伝送であることを識別するサービスインスタンス・フローIDをRTPパケットに付加するチャネル共有方式、又はRTPパケットに対するサービスインスタンス・フローIDの付加を省略するチャネル占有方式のいずれか一方を選択する。
無線通信端末100は、チャネル共有方式が選択された場合、サービスインスタンス・フローIDをRTPパケットに付加する。一方で、無線通信端末100は、チャネル占有方式が選択された場合、RTPパケットに対するサービスインスタンス・フローIDの付加を省略する。
したがって、複数のサービスインスタンスが設定される場合において、無線通信品質に応じたパケット伝送方式を選択することが可能な無線通信端末100を提供することができる。
本実施形態によれば、無線通信端末100は、無線品質情報に基づいて、無線品質が良化したか否かを判定し、無線品質が良化したと判定される場合に、チャネル共有方式を選択する。チャネル共有方式では、無線通信端末100は、同一の無線通信チャネルCH上に補助サービスインスタンスASI及びメインサービスインスタンスMSIを設定する。
また、本実施形態によれば、無線通信端末100は、無線品質情報に基づいて、無線品質が劣化したか否かを判定し、無線品質が劣化したと判定される場合に、チャネル占有方式を選択する。チャネル占有方式では、無線通信端末100は、補助サービスインスタンスASI専用の無線通信チャネルCH上に補助サービスインスタンスASIを設定する。
したがって、無線品質が良い場合での余剰帯域の有効利用性と、無線品質が悪い場合でのオーバーヘッドの削減や物理レイヤに密着した木目細かいQoS制御とを両立することができる。
(9)その他の実施形態
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなる。
(9.1)通信品質情報の変更例
上述した実施形態では、チャネル占有方式とチャネル共有方式との切り替え基準、及びアグリゲートチャネル方式と単独チャネル方式との切り替え基準として、選択している変調クラスと切り替える規準となる閾値との比較を行う手法を用いていた。
しかしながら、より木目細かい制御方法として、L2を透過するデータースループットを計測する手段と、このスループットと比較を行う閾値を記憶するテーブルとを設け、この両者の比較により切り替えを行う方法も効果的である。
使用している変調クラスは高いが、FERも多い状況は実際の運用では多発する。このような場合では、実際にスループットがどの程度得られているかを判断基準に入れるとより良い結果が得られる。
(9.2)補助サービスインスタンスの変更例
図20は、補助サービスインスタンスの変更例を示す図である。図20に示すように、補助サービスインスタンスASIは複数であっても良い。
テレビ電話のようなアプリケーションの場合、音声パケットフローと画像パケットフローでは、欠落時の影響やデータのサイズ等の条件が大きく異なり、要求されるQoSが異なることが普通である。
このため、個別の補助サービスインスタンスを用いて、それぞれに異なるQoSを施した方が、全体としてより良い品質のテレビ電話を提供することができる。
このようなQoS要求である場合、図20に示すように、音声パケットフローP1と画像パケットフローP3にそれぞれ別の独立した補助サービスインスタンスASI1,ASI2を割り当てる方法が考えられる。例えば、テレビ電話セッション開始直後は、メインサービスインスタンスMSIと補助サービスインスタンスASI1,ASI2をアグリゲートチャネル方式で確立させる。
電波状況が劣化して変調クラスが落ち、スループットの確保が難しくなった場合、先ず音声パケットフローP1を運搬している補助サービスインスタンスASI1を、単独チャネル方式に切り替えると、音声の欠落を防ぐことができる。
画像データの欠落は欠落しても、テレビ電話アプリケーションの処理により、画像が停止するのみである。これに対して、音声データの欠落は、通常不快感を伴うノイズとなる。このため、音声データを先に保護する制御は有効となる。
無論、画像パケットフローを運搬する補助サービスインスタンスASI2も、必要ならば、単独チャネル方式に切り替えるように制御してもよい。電波状況が改善してきて、変調クラスが上がってきて、十分なスループットになった場合、再度アグリゲートチャネル方式に戻せば、チャネル占有方式により使えなかった余剰となる帯域を他の用途に使用可能となる。
(9.3)無線通信端末及び無線基地局の変更例
上述した実施形態において、無線通信端末100が実行すると説明した各種の処理は、無線基地局200が適宜実行してもよい。この場合、図7に示した方式選択部264は、無線品質情報取得部263を用いてアグリゲートチャネル方式又は単独チャネル方式のいずれかを選択する。
このように本発明は、ここでは記載していない様々な実施形態等を包含するということを理解すべきである。したがって、本発明はこの開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ限定されるものである。
100…無線通信端末、101…アンテナ、102…無線通信部、103…キーパッド、104…マイク、105…スピーカ、110…制御部、111…受信データバッファ、112…受信フロー制御部、113…ROHC展開部、114…IPプロトコルスタック管理部、115…パケット管理部、116…RSVPクライアント部、117…PPPクライアント部、118…DHCPクライアント部、119…SIPプロトコル管理部、120…ROHC圧縮部、121,122…L4パケット構築部、123…送信フロー制御部、151…SIPクライアント部、152…G729Aコーデック、162…サービスインスタンス設定部、163…無線品質情報取得部、164…方式選択部、200…無線基地局、202…無線通信部、203…A10/GRE通信部、201…アンテナ、210…制御部、211…受信パケットバッファ、212…受信フロー制御部、213,214…A10/GREパケット構築部、215,216…送信バッファ、217…受信フロー制御部、218,219…L4パケット構築部、220…送信フロー制御部、263…無線品質情報取得部、264…方式選択部、300…PDSN、301…通信部、302…LL/PL送受信部、310…制御部、313…受信パケットバッファ、314…受信フロー制御部、315,316…A10/GREパケット除去部、317…IPプロトコルスタック管理部、318…PPPサーバ部、319…RSVPサーバ部、320…DHCPサーバ部、321…ROHC展開部、322…送信バッファ、323…受信パケットバッファ、324…パケットフィルタ、325…ROHC圧縮部、326,327…A10/GREパケット構築部、328…送信フロー制御部、400…インターネット、500…SIP電話機、551…G729Aコーデック、600…SIPサーバ