<第1の実施の形態>
本発明の第1の実施の形態における通信装置1000について、図に基づいて説明する。
図1は、通信装置1000の構成を示す。この通信装置1000は、例えばプレストーク型通信機のように、断続した信号を送受信する装置であって、通信の相手側の通信装置から送信される信号の立ち上がりを検出することができるものである。
図1に示されるように、通信装置1000は、アンテナ部10と、受信部20と、A/D(Analog Digital:アナログ/デジタル)変換部30と、疑似雑音加算部40と、FM検波処理部50と、ハイパスフィルタ(以下、HPFと称する。)部60と、高域周波数信号レベル算出部70と、スムージング部80と、受信信号検出処理部90とを含んで構成される。また、疑似雑音加算部40と、FM検波処理部50と、HPF部60と、高域周波数信号レベル算出部70と、スムージング部80と、受信信号検出処理部90とが、本発明の受信信号検出装置100を構成する。
アンテナ部10は、受信部20に接続されており、所定の無線信号(例えば、周波数などで特定される。)に対応している。
受信部20は、アンテナ部10を介して無線信号を受信し、この無線信号に所定の受信処理(周波数変換等)をして、受信信号(中間周波数信号とも呼ばれる。)を生成する。そして、受信部20は、受信信号をA/D変換部30へ出力する。
A/D変換部30は、受信信号をアナログデジタル変換して、受信信号のデジタル複素包絡信号を受信信号の複素包絡信号を生成して、これを受信信号検出装置100へ出力する。なお、デジタル複素包絡信号は、本発明の複素包絡信号に対応する。
疑似雑音加算部40は、疑似雑音発生器41と、加算器42とを含んで構成されている。疑似雑音加算部40は、A/D変換部30から入力されるデジタル複素包絡信号に疑似雑音を加算して、疑似雑音付デジタル複素包絡信号を出力する。なお、疑似雑音付デジタル複素包絡信号は、本発明の疑似雑音付複素包絡信号に対応する。
疑似雑音発生器41は、疑似雑音を生成し、これを加算器42へ出力する。加算器42は、A/D変換部30から入力されるデジタル複素包絡信号に疑似雑音を加算する。
疑似雑音を発生させる方法は、例えば、次の通りである。すなわち、コンピュータプログラムの乱数発生関数で一様に分布する乱数を発生させた後に、ボックスミューラー法を用いてガウス雑音を取得する。これにより、ガウス雑音を本発明の疑似雑音として発生させることができる。また、予め一定の時間の疑似雑音信号を生成して、これをメモリ(不図示)などに記憶しておき、メモリに記憶された疑似雑音信号を繰り返し用いてもよい。この方法は、雑音を発生させる処理の際に生じる負荷を無くすことができるので、実用的である。
FM検波処理部50は、疑似雑音加算部40により出力される疑似雑音付デジタル複素包絡信号をFM信号に変換して出力する。
HPF部60は、FM検波処理部50により出力されるFM信号の高域周波数成分(例えば、30〜40kHz)を濾波して高域周波数信号を出力する。なお、30〜40kHzは、FM信号の高域周波数成分の一例であって、これに限定されない。このとき、無信号時と信号到来時で電力差が生じるように、高域周波数成分を選択する必要がある。
高域周波数信号レベル算出部70は、乗算器71を含んで構成されている。この高域周波数信号レベル算出部70は、HPF部60により出力される高域周波数信号の信号レベル(例えば電力信号のレベル)を高域周波数信号レベルとして算出し、この高域周波数信号レベルをスムージング部80へ出力する。なお、高域周波数信号レベルは、高域周波数信号の大きさに関する値である。ここでは、高域周波数信号の電力の2乗した値を、高域周波数信号レベルとする。ただし、高域周波数信号レベルは、高域周波数信号の大きさに関する値であればよく、高域周波数信号の電力の2乗した値に限定されない。例えば、高域周波数信号の電力の2乗した後、当該2乗値に対して平方根処理を行った値を、高域周波数信号レベルとしてもよい。この場合、高域周波数信号レベル算出部70の出力は、電力信号のレベルではなく、包絡線信号のレベルとなる。
スムージング部80は、高域周波数信号レベル算出部70により算出された高域周波数信号レベルを平滑化して、平滑後の高域周波数信号レベルを受信信号検出処理部90へ出力する。
受信信号検出処理部90は、スムージング部80により出力される高域周波数信号レベルと、予め設定された所定の閾値とを比較する。また、受信信号検出処理部90は、この比較結果に基づいて、受信信号の立ち上がりを検出する。
次に、FM検波処理部50でFM検波処理されるFM信号の無信号時および信号到来時の信号特性について、図に基づいて説明する。図2は、FM検波処理部50でFM検波処理されるFM信号の無信号時および信号到来時の信号特性を示す。
図2に示されるように、縦軸を高域周波数信号レベル(dB)、横軸を周波数(Hz)とする。図2では、サンプリング周波数80Hzのデジタル複素包絡信号に対して、FM検波処理部50によりFM検波処理を行い、FM信号の高域周波数領域(30〜40kHz)のパワースペクトラムを測定した結果を例示している。なお、図2では、高域周波数信号の電力の2乗した値を、高域周波数信号レベルとして示している。
図2を参照すると、高域周波数信号レベルは、無信号時では高く、信号到来時では低いことがわかる。したがって、このような信号特性を利用して、高域周波数信号レベルが所定の閾値以下になった瞬間を信号の立ち上がりとして検出することができる。なお、図2で示した例では、高域周波数領域(30〜40kHz)の測定結果を用いたが、これに限定されない。すなわち、無信号時と信号到来時で電力差が生じるように、高域周波数成分を選択すればよい。
ここで、A/D変換部30により生成されるデジタル複素包絡信号は、信号成分をS(n)、雑音成分をN(n)とすると、「S(n)+N(n)」と表される。nは、各成分のサンプルポイントを示す。
また、疑似雑音発生器41により生成される疑似雑音をN’(n)とすると、疑似雑音付デジタル複素包絡信号S’(n)は、次の(式1)のように表される。
このとき、疑似雑音N’(n)は、A/D変換部30の最小入力レベルよりも高く設定する。このA/D変換部30の最小入力レベルとは、A/D変換部30が受信信号(アナログ信号)をアナログデジタル変換することができる信号レベルの最小値をいう。このA/D変換部30の最小入力レベルは、アナログデジタル変換を行う前のアナログ信号時における値である。このように、疑似雑音N’(n)は、A/D変換部30の最小入力レベルよりも高く設定することにより、S’(n)=0になることはない。
次に、疑似雑音加算部40による効果について図を用いて説明する。図3〜図6は、疑似雑音加算部40による効果を説明するための図である。図3および図4は、疑似雑音加算部40を設けなかった場合を示す。図5および図6は、疑似雑音加算部40を設けた場合を示す。
まず、図3および図4に基づいて、疑似雑音加算部40を設けなかった場合について説明する。
図3(a)では、A/D変換部30に入力する雑音の信号レベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも大きい状態を示す。図3(b)は、図3(a)に示された関係を条件とした場合に、FM検波処理部50およびHPF部60を経て高域周波数信号レベル算出部70から出力するFM信号の高域周波数信号レベルを示す。
図3(a)および図3(b)に示されるように、A/D変換部30に入力する雑音の信号レベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも大きい場合、高域周波数信号レベルは、無信号時のレベルが信号到来時のレベルよりも高い。このため、無信号時と信号到来時の信号レベルの間に閾値を設定すれば、受信信号の立ち上がりを検出することができる。
図4(a)では、A/D変換部30に入力する雑音の信号レベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも小さい状態を示す。図4(b)は、図4(a)に示された関係を条件とした場合に、FM検波処理部50およびHPF部60を経て高域周波数信号レベル算出部70から出力するFM信号の高域周波数信号レベルを示す。
図4(a)および図4(b)に示されるように、A/D変換部30に入力する雑音のレベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも小さい場合、A/D変換部30は雑音を抽出することができない。このため、A/D変換部30から出力されるデジタル複素包絡信号の信号レベルは0となり、無信号時におけるFMの高域周波数信号レベルは不安定となる。なお、この場合、後述するように、無信号時における高域周波数信号レベルは、一般的に0となるが、0をdBスケールに変換すると−∞(dB)であり、図中に表現できなくなるため、図4(b)では信号レベルを0(dB)として示した。
ここで、A/D変換部30により出力されるデジタル複素包絡信号の信号レベルが0になると、無信号時における高域周波数信号レベルが不定となることについて、式を用いて具体的に説明する。
デジタル複素包絡信号S(n)は、同相成分をI(n)、複素成分Q(n)とすると、(式2)のように表される。
また、S(n)の瞬時移相φ(n)は、Q(n)をI(n)で除算した値の逆正接であるので、(式3)のように表される。
また、瞬時移相φ(n)の変化量e
FM(n)は、φ(n)の一回微分値であり、(式4)のように表される。なお、e
FM(n)は、FM検波信号とも呼ばれる。
(式2)において、S(n)=0の場合、I(n)=Q(n)=0となる。したがって、S(n)=0ときの瞬時移相φ(n)は、0/0の逆正接となり、不定となる。この場合、eFM(n)も不定となる。
このように、A/D変換部30により出力されるデジタル複素包絡信号の信号レベルがS(n)=0になると、無信号時における高域周波数信号レベルが不安定となる。なお、S(n)=0の場合、φ(n)=0となることが多く、eFM(n)=0となる。したがって、以降の記載では、S(n)=0の場合、eFM(n)=0を出力するものとして説明する。φ(n)が不定の場合については、詳しくは説明しないが、本発明の受信信号検出装置100が正常に動作しないことは明らかである。
以上のように、FM検波処理部50により出力されるFM信号が0となる場合、当該FM信号の高域周波数信号レベルも0であり、dBスケールに変換すると−∞(dB)であるが、ここでは、図4(b)に示されるように、高域周波数信号レベルが0(dB)となるものとして扱う。図4(b)では、高域周波数信号レベルは、図3(b)と異なり、無信号時の方が信号到来時よりも低くなる。
したがって、疑似雑音加算部40を設けなかった場合、FM検波処理部50により出力されるFM信号が0となった際には、前述の通り、当該FM信号の高域周波数信号レベルも0(dB)と扱うので、受信信号検出処理部90が無信号時を信号到来時と誤って認識してしまい、受信信号の立ち上がりの瞬時を正しく検出できない。
次に、図5および図6に基づいて、疑似雑音加算部40を設けた場合について説明する。
図5(a)では、A/D変換部30に入力する雑音のレベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも大きい状態を示す。図5(b)は、図5(a)に示された関係を条件とした場合に、FM検波処理部50およびHPF部60を経て高域周波数信号レベル算出部70から出力するFM信号の高域周波数信号レベルを示す。
図5(a)および図5(b)に示されるように、A/D変換部30に入力する雑音の信号レベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも大きい場合、高域周波数信号レベルは、無信号時のレベルが信号到来時のレベルよりも高い。すなわち、雑音信号と疑似雑音信号を加算した信号を用いた場合でも、雑音信号のみを用いた場合(図3(a)および図3(b)を参照。)と同様の特性を示す。このため、無信号時と信号到来時の信号レベルの間に閾値を設定すれば、受信信号の立ち上がりを正しく検出することができる。
図6(a)では、A/D変換部30に入力する雑音のレベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも小さい状態を示す。図6(b)は、図6(a)に示された関係を条件とした場合に、FM検波処理部50およびHPF部60を経て高域周波数信号レベル算出部70から出力するFM信号の高域周波数信号レベルを示す。
図6(a)および図6(b)に示されるように、A/D変換部30に入力する雑音の信号レベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも小さい場合、A/D変換部30は、雑音を抽出できない。しかし、少なくともA/D変換部30の最小入力レベルLよりも大きい擬似雑音が加算されるので、FM検波処理部50に入力する信号レベルは、図4(a)および図4(b)を用いて説明した場合と異なり、0(dB)とはならない。したがって、この場合、FM検波処理部50は、少なくとも疑似雑音信号N’に対して、FM検波処理を行うことができる。これにより、図6(b)に示されるように、FM信号の高域周波数信号レベルは、無信号時が信号到来時よりも高くなる。これは、A/D変換部30に入力する雑音のレベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも大きい状態(図5(b)を参照。)と同様の特性となる。
このように、A/D変換部30に入力する雑音のレベルNが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも小さい場合であっても、疑似雑音加算部40を設けて、A/D変換部30により生成されるデジタル複素包絡信号に疑似雑音を加算することにより、FM信号の高域周波数信号レベルは、無信号時のレベルが信号到来時のレベルよりも高くなる。したがって、無信号時と信号到来時の信号レベルの間に閾値を設定すれば、受信信号の立ち上がりを検出することができる。
なお、図4および図6の説明では、本発明の技術内容を理解しやすいように、受信部20の雑音の信号レベルが常にA/D変換部30の最小入力レベルよりも小さい場合を例示して、受信信号の立ち上がり検出処理を説明した。実際に、雑音の信号レベルが低下して、A/D変換部30の最小入力レベルに近づいていく程に、受信信号の立ち上がり検出処理に異常が発生しやすくなる。すなわち、雑音の信号レベルが低下する程、A/D変換部30の最小入力レベルを下回る時間の割合が増加する。そして、この増加に伴って、高域周波数信号算出部70からFM検波処理部50を介して出力されるFM信号の高域周波数信号レベルが0(dB)となる割合が増加することになる。このため、スムージング部80により平滑化された信号レベル(すなわち、受信信号検出処理部90の入力)は、小さい値となり、信号レベルが信号到来時に近づいてしまう。
次に、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000の動作について、図に基づいて説明する。図7は、通信装置1000の動作フローを示す。
受信部20がアンテナ部10を介して受信する信号を、中間周波数信号に周波数変換する。そして、図7に示されるように、A/D変換部20は、受信部20により入力される中間周波数信号をデジタル複素包絡信号(受信信号の複素包絡信号)に変換して、疑似雑音加算部40へ出力する(S701)。
疑似雑音加算部40では、加算器42が、疑似雑音発生器41により生成された疑似雑音と、A/D変換部20により入力されたデジタル複素包絡信号とを加算する(S702)。これにより、疑似雑音加算部40は、疑似雑音付複素包絡信号を生成し、これをFM検波処理部50へ出力する。
FM検波処理部50は、疑似雑音付複素包絡信号に対してFM検波処理を行い、FM信号を生成する(S703)。そして、FM検波処理部50は、FM信号をHPF部60へ出力する。
HPF部60は、FM検波処理部50により出力されるFM信号のうち、高域周波数成分のみを濾波(FM検波処理)して、これを高域周波数信号として、高域周波数信号レベル算出部70へ出力する(S704)。
高域周波数信号レベル算出部70では、乗算器71が高域周波数信号を2乗演算する(S705)。これにより、高域周波数信号レベル算出部70は、高域周波数信号の大きさを示す高域周波数信号レベルを算出する。そして、高域周波数信号レベル算出部70は、高域周波数信号レベルをスムージング部80へ出力する。なお、高域周波数信号レベルは、高域周波数信号の大きさに関する値であればよく、高域周波数信号の2乗した値に限定されないことは、前述した通りである。
スムージング部80は、高域周波数信号レベル算出部70により入力される高域周波数信号レベルを平滑化(スムージング処理)する(S706)。そして、スムージング部80は、平滑化後の高域周波数信号レベルを受信信号検出処理部90へ出力する。
受信信号検出処理部90は、次に説明するように、S707およびS708にて、受信信号の立ち上がりの検出を行う。
まず、受信信号検出処理部90は、1つ前のサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルと、予め設定された所定の閾値とを比較する(S707)。1つ前のサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルが所定の閾値以上である場合(S707、Yes)、受信信号検出処理部90は、現時点で受け取ったサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルと、所定の閾値とを比較する(S708)。一方、1つ前のサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルが所定の閾値以上でない場合(S707、No)、S701以降の処理を再び行う。
現時点で受け取ったサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルが所定の閾値以下である場合(S708、Yes)、受信信号検出処理部90は、受信信号の立ち上がりの瞬時を検出したことを外部回路(不図示)に通知する(S709)。併せて、受信信号検出装置100は、現時点で受け取ったサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルをメモリ(不図示)に記録する。なお、このときに使用するメモリは、受信信号検出装置100の外部回路であってもよい。一方、現時点で受け取ったサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルが所定の閾値以下でない場合(S708、No)、S701以降の処理を再び行う。
このようにして、受信信号検出処理部90は、1つ前のサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルが所定の閾値以上である場合(S707、Yes)とともに、現時点で受け取ったサンプルについて、平滑化後の高域周波数信号レベルが所定の閾値以下である場合(S708、Yes)に、その瞬間を受信信号の立ち上がりであると検出する。
そして、通信装置1000は、以上のS701〜S709の処理を、デジタル複素包絡信号の1サンプルごとに繰り返し実行する。
以上の通り、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000は、疑似雑音加算部40と、FM検波処理部50と、HPF部60と、立ち上がり検出部90とを含んで構成されている。疑似雑音加算部40は、受信信号の複素包絡信号に疑似雑音を加算して、疑似雑音付複素包絡信号を出力する。FM検波処理部50は、疑似雑音加算部40により出力される疑似雑音付複素包絡信号をFM信号に変換して出力する。HPF部60は、FM検波処理部50により出力されるFM信号の高域周波数成分を濾波して高域周波数信号を出力する。受信信号検出処理部90は、HPF60部により出力される高域周波数信号の大きさと、予め設定された所定の閾値とを比較し、この比較結果に基づいて、受信信号の立ち上がりを検出する。
このように、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000では、疑似雑音加算部40を設けることにより、受信信号の複素包絡信号に疑似雑音を加算して得られる疑似雑音付複素包絡信号を、FM検波処理部50に入力している。FM検波処理部50では、例えばフェージングなどの影響により入力信号の信号レベルが小さくなると、当該入力信号を検出できず、場合によって出力信号であるFM信号の信号レベルが不定となったり、0となったりする。このような現象は、特に無信号時の時に顕著となる。一方、本発明のFM検波処理部50は、受信信号の複素包絡信号に疑似雑音を加算して得られる疑似雑音付複素包絡信号を受け取り、この疑似雑音付複素包絡信号に対してFM検波処理を行っている。このため、FM検波処理部50から出力されるFM信号の信号レベルが不定になったり、0になったりすることはない。そして、HPF部60は、FM検波処理部50により生成されるFM信号の高域周波数成分を濾波して、これを高域周波数信号として出力する。このため、立ち上がり検出部90に入力される高域周波数信号の大きさは、受信信号が無信号となった時でも、不定または0(dB)になることはない。したがって、立ち上がり検出部90は、一定の大きさ以上の高域周波数信号を用いて、これと所定の閾値とを比較して、受信信号の立ち上がりを検出することができる。
この結果、第1の効果として、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000によれば、フェージングなど、環境の変化に依存することなく、受信信号の立ち上がりの瞬間を簡単な構成で安定して正確に検出することができる。本発明では、FM検波処理部50にて包絡線情報を使用しないでFM検波処理を行っているので、フェージングによる影響を受けにくい。また、FM検波処理による特徴的な性質として、SN(Signal Noise)比改善効果も作用する。
また、第2の効果として、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000によれば、特許文献1に記載の技術のように、HPFおよびLPFの双方を設ける必要はなく、ハードウェア規模を簡単にすることができる。すなわち、特許文献1に記載の技術と比較して、より簡単な構成で、前記の第1の効果を得ることができる。特に、受信信号の低域周波数領域に対して濾波等の処理を行う部材を必要としないため、ハードウェア規模を低減することができる。また、例えば、濾波等の処理をコンピュータ上のソフトウェアにより行う場合であっても、受信信号の低域周波数領域に対して処理を行う必要はないので、演算量が低減する。これにより、特許文献1に記載の技術を利用した場合と比較して、より簡単な構成を有し安価なコンピュータを用いて、受信信号の立ち上がり検出処理を実現できる。なお、本発明では、特許文献1に記載の技術と比較して、擬似雑音加算部40が追加されている。しかしながら、この擬似雑音加算部40の処理負荷は、特許文献1に記載のLPFの処理負荷と比較して、著しく低い。これは、擬似雑音を加算する処理は、1サンプルの入力信号につき、1回の加算処理を行うだけであるのに対して、LPF等によるフィルタ処理は、1サンプルの入力信号につき、複数回の乗算および加算を行う必要があるためによる。
以上、第1の効果と第2の効果をまとめると、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000によれば、例えば、フェージングなど、環境の変化に依存することなく、受信信号の立ち上がりの瞬間を簡単な構成で安定して正確に検出することができる。
また、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000は、A/D変換部30をさらに備えてもよい。すなわち、このA/D変換部30は、受信信号をアナログデジタル変換して、受信信号の複素包絡信号を出力する。この場合には、疑似雑音加算部40は、A/D変換部30により出力された受信信号の複素包絡信号に疑似雑音を加算して、疑似雑音付複素包絡信号を出力する。このとき、疑似雑音は、A/D変換部30の最小入力レベルよりも大きい。なお、このA/D変換部30の最小入力レベルは、前述の通り、A/D変換部30が受信信号(アナログ信号)をアナログデジタル変換することができる信号レベルの最小値をいう。また、A/D変換部30の最小入力レベルは、アナログデジタル変換を行う前のアナログ信号時における値である。
このように、さらにA/D変換部30を設けた場合、疑似雑音加算部40は、A/D変換部30により出力された受信信号の複素包絡信号に疑似雑音を加算して、疑似雑音付複素包絡信号を出力する。このとき、擬似雑音は少なくともA/D変換部30の最小入力レベルよりも大きい値とする。このような擬似雑音を疑似雑音加算部40により受信信号の複素包絡信号に加算すれば、FM検波処理部50に入力する信号のレベルは、0とならず、FM信号が不定または0になることはない。不定または0(dB)とならない。したがって、FM検波処理部50は、仮に雑音がA/D変換部30の最小入力レベルよりも小さくても、少なくとも疑似雑音に対してFM検波処理を行うことができる。これにより、FM信号の高域周波数領域の信号レベルは、無信号時が信号到来時よりも高くなる。
したがって、A/D変換部30に入力する雑音のレベルが、A/D変換部30の最小入力レベルLよりも小さい場合であっても、疑似雑音加算部40を設けて、A/D変換部30により生成されるデジタル複素包絡信号に疑似雑音を加算することにより、FM信号の高域周波数領域の信号レベルは、無信号時のレベルが信号到来時のレベルよりも高くなる。これにより、無信号時と信号到来時の信号レベルの間に閾値を設定すれば、受信信号の立ち上がりを検出することができる。この結果、環境の変化に依存することなく、受信信号の立ち上がりの瞬間を簡単な構成で、より安定してより正確に検出することができる。
また、さらなる効果として、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000によれば、受信部20およびA/D変換部30の間の受信信号の信号レベルを調整するためのコストを削減できる。これは、本発明では、擬似雑音加算部40が、FM検波処理部50に入力する信号に擬似雑音を加算するので、A/D変換部30の最小入力レベルを、受信部20の受信信号中の雑音の信号レベルに合わせて調整する必要がなくなるためである。特に、受信部20により出力される雑音の信号レベルは、経年変化や温度変化などの影響を受け易いため、A/D変換部30の最小入力レベルを、受信部20の受信信号中の雑音の信号レベルに合わせて適切に調整することは、非常に難しい。本発明では、前述のように、擬似雑音加算部40が、FM検波処理部50に入力する信号に擬似雑音を加算するので、このような問題も解決できる。
また、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000によれば、有効なダイナミックレンジを拡大することができる。図8は、通信装置1000の効果を説明するための図である。図8(a)は、擬似雑音加算部40を設けなかった場合のダイナミックレンジを示す図である。一方、図8(b)は、擬似雑音加算部40を設けた場合のダイナミックレンジを示す図である。
図8(a)および図8(b)に示されるように、A/D変換部30には、最小入力レベルLと最大入力レベルHが設定されている。なお、A/D変換部30の最小入力レベルLは、前述の通り、A/D変換部30が受信信号(アナログ信号)をアナログデジタル変換することができる信号レベルの最小値をいう。また、A/D変換部30の最大入力レベルHは、A/D変換部30が受信信号(アナログ信号)をアナログデジタル変換することができる信号レベルの最大値をいう。また、Nは、前述の通り、A/D変換部30により生成されるデジタル複素包絡信号の雑音成分を表す。
図8(a)に示されるように、擬似雑音加算部40を設けなかった場合、FM検波処理部50に0の信号が入力されないようにするために、雑音Nの信号レベルの最小値に合わせて、A/D変換部30の最小入力レベルLを設定する必要がある。このため、図8(a)に示されるように、有効なダイナミックレンジDL1が制限され、狭くなる。
これに対して、擬似雑音加算部40を設けた場合、仮にA/D変換部30から0の信号が出力されたとしても、擬似雑音加算部40により擬似雑音が加算された信号がFM検波処理部50に入力される。このため、図8(b)に示されるように、雑音Nの信号レベルの最小値によりも小さいレベルに、A/D変換部30の最小入力レベルLを設定することができる。これにより、図8(b)に示されるように、有効なダイナミックレンジDL2が広くすることができる(DL2>DL1)。
以上のように、本発明の第1の実施の形態における通信装置1000によれば、擬似雑音加算部40を設けたことにより、有効なダイナミックレンジを拡大することができる。
本発明の第1の実施の形態における通信装置1000は、高域周波数信号レベル算出部70をさらに備える。この高域周波数信号レベル算出部70は、HPF部60により出力される高域周波数信号の大きさに関する値である高域周波数信号レベルを算出する。そして、立ち上がり検出部90は、高域周波数信号レベル算出部70により算出された高域周波数信号レベルと、予め設定された所定の閾値とを比較し、この比較結果に基づいて、受信信号の立ち上がり検出を行う。
これにより、高域周波数信号レベル算出部70は、高域周波数信号の大きさに関する値として、自然数である高域周波数信号レベルを出力する。したがって、立ち上がり検出部90は、自然数を用いて所定の閾値を簡単に設定することができる。また、予め設定する所定の閾値に合わせて、高域周波数信号レベル算出部70の構成を設定することができるので、設計の自由度を増すことができる。
本発明の第1の実施の形態における通信装置1000は、スムージング部80をさらに備える。このスムージング部80は、高域周波数信号レベル算出部70により算出された高域周波数信号レベルを平滑化する。そして、立ち上がり検出部は、スムージング部80により平滑化された高域周波数信号レベルと、予め設定された所定の閾値とを比較し、この比較結果に基づいて、受信信号の立ち上がり検出を行う。これにより、異質な信号レベルを無くした後に、受信信号の立ち上がり検出を行うことができる。
<第2の実施の形態>
本発明の第2の実施の形態における通信装置1000Aについて、図に基づいて説明する。
図9は、通信装置1000Aの構成を示す。図9に示されるように、通信装置1000Aは、疑似雑音加算部40と、FM検波処理部50と、HPF部60と、受信信号検出処理部90とを含んで構成される。また、疑似雑音加算部40と、FM検波処理部50と、HPF部60と、受信信号検出処理部90とが、本発明の受信信号検出装置100Aを構成する。なお、図9では、図1で示した各構成要素と同等の構成要素には、図1に示した符号と同等の符号を付している。
ここで、図1と図9を対比する。図1では、アンテナ部10と、受信部20と、A/D変換部30と、高域周波数信号レベル算出部70と、スムージング部80とを有しているのに対して、図9では、これらの構成を有さない点で相違する。
疑似雑音加算部40には、デジタル複素包絡信号(受信信号の複素包絡信号)が入力される。疑似雑音加算部40は、デジタル複素包絡信号に疑似雑音を加算して、疑似雑音付デジタル複素包絡信号を出力する。
FM検波処理部50は、疑似雑音加算部40により出力される疑似雑音付デジタル複素包絡信号をFM信号に変換して出力する。
HPF部60は、FM検波処理部50により出力されるFM信号の高域周波数成分を濾波して高域周波数信号を出力する。
受信信号検出処理部90は、HPF60部により出力される高域周波数信号の大きさと、予め設定された所定の閾値とを比較する。受信信号検出処理部90は、この比較結果に基づいて、受信信号の立ち上がり検出を行う。
次に、本発明の第2の実施の形態における通信装置1000Aの動作について、図に基づいて説明する。図10は、通信装置1000Aの動作フローを示す。なお、図10において、S902〜S904、S907〜S909は、図7のS702〜S704、S707〜S709に対応する。
まず、疑似雑音加算部40は、入力されるデジタル複素包絡信号に疑似雑音を加算して、疑似雑音付デジタル複素包絡信号を出力する(S902)。これにより、疑似雑音加算部40は、疑似雑音付複素包絡信号を生成し、これをFM検波処理部50へ出力する。
FM検波処理部50は、疑似雑音付複素包絡信号に対してFM検波処理を行い、FM信号を生成する(S903)。そして、FM検波処理部50は、FM信号をHPF部60へ出力する。
HPF部60は、FM検波処理部50により出力されるFM信号のうち、高域周波数成分のみを濾波(FM検波処理)して、これを高域周波数信号として、受信信号検出処理部90へ出力する(S909)。
受信信号検出処理部90は、次に説明するように、S907およびS908にて、受信信号の立ち上がりを検出する。
まず、受信信号検出処理部90は、1つ前のサンプルについて、高域周波数信号の大きさと、予め設定された所定の閾値とを比較する(S907)。1つ前のサンプルについて、高域周波数信号の大きさが所定の閾値以上である場合(S907、Yes)、受信信号検出処理部90は、現時点で受け取ったサンプルについて、高域周波数信号の大きさと、所定の閾値とを比較する(S908)。一方、1つ前のサンプルについて、高域周波数信号の大きさが所定の閾値以上でない場合(S907、No)、通信装置1000は、S902以降の処理を再び行う。
現時点で受け取ったサンプルについて、高域周波数信号の大きさが所定の閾値以下である場合(S908、Yes)、受信信号検出処理部90は受信信号の立ち上がりの瞬時を検出したことを外部回路(不図示)に通知する(S909)。併せて、受信信号検出装置100は、現時点で受け取ったサンプルについて、高域周波数信号の大きさをメモリ(不図示)に記録する。なお、このときに使用するメモリは、受信信号検出装置100の外部回路であってもよい。一方、現時点で受け取ったサンプルについて、高域周波数信号の大きさが所定の閾値以下でない場合(S908、No)、通信装置1000はS702以降の処理を再び行う。
このようにして、受信信号検出処理部90は、1つ前のサンプルについて、高域周波数信号の大きさが所定の閾値以上である場合(S907、Yes)とともに、現時点で受け取ったサンプルについて、高域周波数信号の大きさが所定の閾値以下である場合(S908、Yes)に、その瞬間を受信信号の立ち上がりであると検出する。
そして、通信装置1000Aは、以上のS902〜S909の処理を、デジタル複素包絡信号の1サンプルごとに繰り返し実行する。
以上の通り、本発明の第2の実施の形態における通信装置1000Aは、疑似雑音加算部40と、FM検波処理部50と、HPF部60と、受信信号検出処理部90とを含んで構成されている。疑似雑音加算部40は、受信信号の複素包絡信号に疑似雑音を加算して、疑似雑音付複素包絡信号を出力する。FM検波処理部50は、疑似雑音加算部40により出力される疑似雑音付複素包絡信号をFM信号に変換して出力する。HPF部60は、FM検波処理部50により出力されるFM信号の高域周波数成分を濾波して高域周波数信号を出力する。受信信号検出処理部90は、HPF60部により出力される高域周波数信号の大きさと、予め設定された所定の閾値とを比較し、この比較結果に基づいて、受信信号の立ち上がりを検出する。
これにより、前述した本発明の第1の実施の形態における通信装置1000と同様の効果を奏する。
以上、実施の形態をもとに本発明を説明した。実施の形態は例示であり、本発明の主旨から逸脱しない限り、上述各実施の形態に対して、さまざまな変更、増減、組合せを加えてもよい。これらの変更、増減、組合せが加えられた変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
前述の実施の形態の説明(特に、図7および図10の説明)では、デジタル複素包絡信号の1サンプルごとに、各処理を繰り返し実行すると説明した。しかしながら、デジタル複素包絡信号の複数のサンプルごとに、各処理を繰り返し実行してもよい。
また、前述の実施の形態の説明(特に、図7および図10)では、受信信号検出処理部90は、1つ前のサンプルについて、高域周波数信号の大きさ(高域周波数信号レベル)が所定の閾値以上である場合とともに、現時点で受け取ったサンプルについて、高域周波数信号の大きさ(高域周波数信号レベル)が所定の閾値以下である場合に、受信信号の立ち上がりを検出していた。しかしながら、これとは逆に、1つ前のサンプルについて、高域周波数信号の大きさ(高域周波数信号レベル)が所定の閾値以下である場合とともに、現時点で受け取ったサンプルについて、高域周波数信号の大きさ(高域周波数信号レベル)が所定の閾値以上である場合に、受信信号が消滅した瞬時であると検出する検出機能を、受信信号検出処理部90に設けてもよい。