以下に添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能を有する構成要素は、原則として同一の符号で表し、これらの構成要素についての重複説明は、適宜省略するものとする。
以下で説明する本発明の各実施形態では、回折干渉光学系を利用したインクレ型のリニアエンコーダを有するリニアモータシステムを例に挙げて説明する。つまり、各実施形態に係るリニアエンコーダは、リニアモータに適用され、リニアモータが発生した動力により直線上を移動する移動体の移動方向(「測定軸方向」ともいう。)における位置xと原点zを検出する。しかしながら、ここで説明する各実施形態に係るリニアエンコーダは、例えば手動や重力などの他の動力源により移動させられる移動体の位置xと原点zを検出することも可能であることは言うまでもない。
なお、本発明の各実施形態について理解が容易になるように以下の順序で説明することとする。
<1.第1実施形態>
(1−1.第1実施形態に係るリニアモータシステム)
(1−2.第1実施形態に係るリニアエンコーダ)
(1−2−1.メインスケール110)
(トラックTA〜TC)
(スリットSの形状)
(領域分割数等)
(1−2−2.光学検出機構)
(1−2−3.傾斜スリットの構成)
(一のトラックT内の傾斜スリット)
(傾斜スリットとインデックス格子側のスリットの位置関係)
(複数のトラック間の関係における傾斜スリット)
(1−2−4.位置データ生成部140)
(1−2−5.位置データ生成部141)
(1−3.第1実施形態に係るリニアモータシステムの動作)
(1−4.第1実施形態に係るリニアエンコーダの製造方法)
(1−5.第1実施形態に係るリニアエンコーダシステムによる効果の例)
<2.第2実施形態>
<3.第3実施形態>
<1.第1実施形態>
(1−1.第1実施形態に係るリニアモータシステム)
まず、図1を参照しつつ、本発明の第1実施形態に係るリニアモータシステムの構成について説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るリニアモータシステムの構成について説明するための説明図である。
図1に示すように、本実施形態に係るリニアモータシステム(以下単に「モータシステム」ともいう。)1は、移動体201に移動のための動力を提供する。その結果、移動体1は、モータシステム1から供給された動力により、任意の形状のガイドレール202に沿った方向に前後動する。この際、モータシステム1では、単に移動体201に動力源を供給するだけでなく、移動体201の位置xを高精度に制御するために、ガイドレール202に沿った方向における移動体201の位置xを測定し、測定した位置xに基づいて、移動体201に動力源を供給する。
本実施形態に係るモータシステム1が移動可能な移動体201は、種類や大きさなどは特に限定されるものではない。一方、移動体201をガイドするガイドレール202は、線状に移動体201をガイドするものであれば、そのガイド方向(つまり移動体の移動方向)は、直線状であってもよく、曲線状であってもよい。更にいえば、このガイド方向は、円状などの環状であってもよい。
ただし、本実施形態では、説明の便宜上、ガイドレール202は、図1に示すように、移動体201を直線上でガイドするものとする。そして、ガイドレール202が移動体201をガイドする直線方向を、その方向の位置xがモータシステム1において測定されるという意味で、ここでは「測定軸X」や「測定軸方向」ともいう。つまり、測定軸Xは、本実施形態の場合、図1に示すように直線上の軸を表すが、仮に上記ガイド方向が曲線や環状であれば、この測定軸Xは曲線状の軸や環状の軸となる。更に、説明の便宜上、この測定軸Xにおいて一側に向かった方向を「前」や「前方」ともいい、それとは逆の方向を「後」や「後方」ともいう。
また、移動体201はガイドレール202に沿って移動することとなるが、この移動範囲を、移動体201の位置が測定される範囲という意味で、「測定範囲」ともいう。そして、この測定範囲の測定軸X方向における長さを、ここでは「測定範囲長R」ということとする。
モータシステム1は、上述のように移動体201を高精度に制御するために、図1に示すように、リニアモータ(以下単に「モータ」ともいう。)10と、制御部20とを有する。また、モータ10は、移動体201の測定範囲内での位置xを測定する構成として、リニアエンコーダ(以下単に「エンコーダ」ともいう。)100を有する。更に、モータ10は、その移動体201を移動させる動力を発生させる構成として、リニアモータ部(以下単に「モータ部」ともいう。)200とを有する。以下、各構成について説明する。
モータ部200は、エンコーダ100を含まない動力発生源の一例である。このモータ部200を単にモータという場合もある。モータ部200は、所定の動力発生機構(図示せず)と所定の動力伝達機構(図示せず)を有する。そして、モータ部200は、動力発生機構により動力を発生させて、動力伝達機構により動力を移動体201に伝達する。
このモータ部200の動力発生機構は、特に限定されるものではないが、ここでは電気を使用した電動式の動力発生機構であるものとする。つまり、本実施形態では、モータ部200が電動式モータ部である場合について説明する。ただし、このモータ部200は、例えば、油圧式モータ部、エア式モータ部、蒸気式モータ部等の他の動力源を使用したモータ部であってもよい。
なお、動力発生源としてモータやモータ部という場合、「ロータリ」と「リニア」に大別されるが、本実施形態では、動力伝達機構が動力を伝達した結果、移動体201がガイドレール202に沿って線上を移動する場合には、動力発生機構がロータリ型であってもリニア型であっても、広義の意味で「リニア」ということとする。つまり、本実施形態に係るリニアモータ部200の動力発生機構は、例えば磁気浮上式モータなどのようないわゆる狭義の「リニアモータ」だけでなく、動力伝達機構として例えばジャッキスクリュなどのような回転力を直線力に変換するものが使用される場合には、回転力を発生させる「ロータリモータ」等であってもよい。ただし、以下では説明の便宜上、リニアモータ部200として磁気浮上式モータが使用される場合について説明する。
エンコーダ100は、大きく分けて、2つの部材を有する。1つの部材は、ガイドレール202に固定され、もう1つの部材は、移動体201に固定される。ガイドレール202に固定される部材は、メインスケール110を含む。移動体201に固定される部材は、インデックススケール120(図2及び図3参照。)を含む。なお、ここでは、移動体201に固定されインデックススケール120を含む部材を「移動部130」ともいう。
ここで説明したように、メインスケール110は、ガイドレール202に固定された部材に含まれ、インデックススケール120は、所定の間隔であるギャップgをあけてインデックススケール120に対向しつつ、移動体201に固定された移動部130に配置される。従って、メインスケール110とインデックススケール120とは、移動体201の移動に伴い相対移動可能に配置されることになる。エンコーダ100は、メインスケール110とインデックススケール120との間の相対的な位置関係を利用して、移動体201の位置xと原点zを検出する。なお、このように相対移動を利用するということは、移動体201を固定して、ガイドレール202を移動させることにより、移動体201に対するガイドレール202の位置xと原点zを検出しているともいえる。
なお、説明の便宜上、本実施形態に係るエンコーダ100は、メインスケール110におけるインデックススケール120(移動部130)の位置を検出することにより、移動体201の位置xを検出するものとする。つまり、メインスケール110に対して、インデックススケール120の位置xは、移動部130の位置xを表し、更には、移動体201の位置xを表すものとする。ここでは、これらの位置を総称して単に「位置x」ともいう。
そして、エンコーダ100は、このような位置xと原点zを検出し、その位置xを表す位置データと原点zを表す原点信号を出力する。ただし、エンコーダ100は、位置xに加えてか又は代えて、移動体201等の速度v及び加速度aの少なくとも一方を検出してもよい。この場合、速度v及び加速度aは、位置xを時間で1又は2回微分したり後述する周期信号を所定間隔でカウントするなどの処理により検出することが可能である。説明の便宜上、以下ではエンコーダ100が検出する物理量は位置xであるとして説明する。
なお、エンコーダ100のメインスケール110及び移動部130の配置位置は、メインスケール110とインデックススケール120とがギャップgをあけて対向されれば、特に限定されるものではない。
制御部20は、エンコーダ100から出力される位置データと原点信号を取得して、当該位置データと当該原点信号に基づいて、モータ部200の発生動力を制御する。従って、モータ部200として電磁浮上型の電動式モータ部が使用される本実施形態では、制御部20は、位置データと原点信号に基づいて、電磁浮上機構を構成する巻線等に印加する電流又は電圧等を制御することにより、モータ部200の発生動力を制御して、移動体201の移動を制御する。更に、制御部20は、上位制御装置(図示せず)から上位制御信号を取得して、当該上位制御信号に表された位置又は速度等が移動部202で実現されるように、モータ部200を制御することも可能である。なお、モータ部200が、油圧式、エア式、蒸気式などの他の動力源を使用する場合には、制御部20は、それらの動力源の供給を制御することにより、モータ部200の回転を制御することが可能である。
(1−2.第1実施形態に係るリニアエンコーダ)
次に、図2及び図3を参照しつつ、本実施形態に係るエンコーダ100の構成について説明する。図2は、本実施形態に係るリニアエンコーダの構成について説明するための説明図である。図3は、本実施形態に係るリニアエンコーダが有するメインスケールについて説明するための説明図である。なお、図2は、図1に示すエンコーダ100をA−A線で切断した場合の概念的な断面図を示し、図3は、エンコーダ100が有するメインスケール110について移動部130側から移動部130に対向する面を見た図面を示す。
上述の通り、本実施形態に係るエンコーダ100は、メインスケール110と移動部130とを有する。そして、移動部130は、図2に示す通り、検出部131A〜131Cと、位置データ生成部140と、原点信号生成部141とを有する。
(1−2−1.メインスケール110)
メインスケール110は、図1に示すようにガイドレール202に沿って測定軸X方向の測定範囲のほぼ全域に配置される。図1では、メインスケール110がガイドレール202の移動部130に対向する面に配置されている例を示しているが、メインスケール110の配置位置は、移動部130と対向可能な位置であれば特に限定されるものではない。また、メインスケール110は、物理的に測定範囲の全域に配置される必要はなく、移動体201の位置を測定すべき範囲についてその位置を測定可能となる範囲に配置されればよい。
図3に示すように、メインスケール110は、トラックTA〜TCとを有する。
本実施形態に係るエンコーダ100が、インクレ型であるため、メインスケール110は、移動体201の移動に対して原点zを精度よく検出するために3本のトラックTA〜TCを有する。なお、このトラックTの分割数は、3本に限られるものではなく、位置xや原点zに要求される検出精度や信号処理に応じて適宜複数本に設定される。
(トラックTA〜TC)
トラックTA〜TCは、測定軸X方向に帯状に形成される。そのうちトラックTA,TBは測定軸X方向に所定の長さの原点検出領域hA,hB内だけ形成される。本実施形態では、原点検出領域の一例としてトラックTA〜TCの原点検出領域hA〜hCの測定軸X方向長は同一とし、まとめて「原点検出領域h」ともいう。
なお、本実施形態では、トラックTA,TBの原点検出領域hA〜hCが同一の長さである場合を例示しているが、この原点検出領域hA〜hCの長さは、異なっていても良い。
また、この帯上のトラックTA〜TCの短手方向の幅は、後述する回折干渉光学系を形成可能な幅に設定される。そして、トラックTA〜TCは、測定軸X方向と垂直な「垂直軸Z」方向に並べて配置される。各トラックTA〜TCの幅の中心に位置する測定軸(測定軸XA〜XC)を単に測定軸Xともいう。
図3に示すように、各トラックTA〜TCのそれぞれには、光学的なメイン格子LA〜LC(メインスケール110が有する光学回折格子)が形成される。
メイン格子LA〜LCのそれぞれは、光学的な複数のスリットSLA〜SLCを有して、メイン格子LA〜LC毎にそれぞれ独立した個別の回折干渉光学系の一部を構成する。
スリットSLA〜SLCのそれぞれは、光を反射するか(反射スリット)又は光を透過する(透過スリット)ように形成される。反射スリットとして形成される場合、スリットSLA〜SLCは、例えば反射率の高い材質を蒸着するなどの方法により形成されてもよい。一方、メインスケール110におけるスリットSLA〜SLC以外の部位は、例えば、蒸着等の方法により光を吸収する材質を配置したり、メインスケール110自体に光を透過する材質を使用するなどの方法で形成されてもよい。また、メインスケール110自体に光を反射する材質を使用して、スリットSLA〜SLC以外の部位をエッチング等により加工することも可能である。更に、スリットSLA〜SLCもSLA〜SLC以外の部位も反射率の高い材料で形成した上で、スリットSLA〜SLCとSLA〜SLC以外の部位とにギャップ方向の段差を設けて位相回折格子としてスリット形成することも可能である。
一方、透過スリットとして形成される場合、メインスケール110自体を光が透過する材質で形成し、スリットSLA〜SLC以外の部位に、吸収又は反射するなどにより光を遮蔽する物質を配置したり光を遮蔽する加工を施すなどの方法で形成されてもよい。ただし、スリットSLA〜SLCの形成方法は特に限定されるものではない。要するに、反射型スリットの場合、スリットSLA〜SLCは、光を反射し、それ以外の部位は、光を反射せず、透過型スリットの場合、スリットSLA〜SLCは、光を透過し、それ以外の部位は、光を遮蔽することとなる。
以下では、本実施形態では、説明の便宜上、メインスケール110の各トラックTA〜TCのスリットSLA〜SLCが反射スリットである場合について説明する。このようにメインスケール110に反射スリットが使用される場合には、反射型の回折干渉光学系を形成することができるので、メインスケール110に透過スリットが使用される場合に比べて、メインスケール110と後述するインデックススケール120との間のギャップgの変動によるノイズや検出精度への影響を低減することが可能である。
各トラックTA〜TCにおいて測定軸X方向に並べられるスリットSLA〜SLCによる原点検出領域hA〜hCの領域分割数nA〜nCは、相互に異なる数に設定される。なお、領域分割数nA〜nCは、スリットSLA〜SLCの本数を原点検出領域h内において測定軸Xに沿ってカウントした場合のスリット本数に対応する。従って、領域分割数nA〜nC、つまり原点検出領域h内でZ軸に沿って並べられるスリット本数は、相互に異なる数に設定される。各トラックTA〜TCその各原点検出領域hA〜hCれぞれからは、各領域分割数nA〜nCに応じた繰り返し数の周期信号が得られることになる。つまり、本実施形態では3つの周期信号が得られることになる。移動体201が原点検出領域hを移動した場合に発生する上記3つの周期信号それぞれの繰り返し数を、周期数mA〜mCともいう。この周期数mA〜mCそれぞれは、原点検出領域hでの各領域分割数nA〜nCに応じた数となる。従って、トラックTCの原点検出領域hcを含む全体のスリット本数(原点検出領域hCにおける領域分割数nC)は、要求される精度の位置xが検出可能なように、また、トラックTA,TBの領域分割数nA,nBは、要求される精度の原点zが検出可能なように、必要とされる分解能に応じた数に設定されることが望ましい。なお、本実施形態では、図3に示すように、「nA<nB<nC」となるように設定される場合を例に説明する。
各トラックTA〜TCそれぞれにおけるスリットSLA〜SLCの間隔であるピッチpLA〜pLCは、本実施形態では、トラックTA〜TCで全てほぼ同じピッチpLに設定される(pL=pLA=pLB=pLC)。ただし、2以上のトラックTA〜TCのピッチpLA〜pLCがほぼ同じであればよく、異なるピッチのトラックが含まれてもよい。このように複数のトラックTA〜TCの各ピッチpLA〜pLCをほぼ等しく設定することにより、その複数のトラックTA〜TCそれぞれの回折干渉光学系を、同様に形成することが可能となり、設計・開発・製造(製造等ともいう。)を容易にすることが可能である。特に、本実施形態のように全てのトラックTA〜TCのピッチpLA〜pLCをほぼ同一にすることで、製造等を大幅に容易にすることが可能である。なお、本実施形態では「ピッチpLA〜pLC」という場合、スリットSLA〜SLCそれぞれにおいて、相隣接するスリットの配置間隔を意味するものとする。つまり、ピッチpLA〜pLCは、各スリットの中心間距離を意味するものとする。
(スリットSの形状)
ここで、各トラックTA〜TCそれぞれにおけるスリットSLA〜SLCの形状について説明する。
原点検出領域hにおける領域分割数nが最も多いトラックTCでは、複数のスリットSLCは、それぞれ測定軸Z方向に対して垂直な垂直軸Z方向が長手となるように延長形成される。そして、この複数のスリットSLCは、スリットSLC間の間隔であるピッチpLCが同一となるように平行に配置される。このような形状のスリットをここでは「垂直スリット」ともいう。
一方、本実施形態に係るエンコーダ100では、上述のように複数のトラックTA〜TCのピッチpLA〜pLCをピッチpLに揃えることを可能とし、かつ、更に小型化や製造等を大幅に容易にするために、トラックTA,TBのスリットSLA,SLBは、複数のスリットSLA同士、及び、複数のスリットSLB同士がそれぞれ平行に配置される一方、垂直スリットとは異なる「傾斜スリット」で形成される。なお、トラックTCのスリットSLCも傾斜スリットで形成されていればよい。つまり、複数のトラックTA〜TCの少なくともいずれか1以上が傾斜スリットで形成されてもよい。このように傾斜スリットが含まれる場合、上記のようなピッチpLA〜pLCの調整・小型化・製造等の容易化を実現することが可能である。この傾斜スリットについては、詳しく後述する。
(領域分割数等)
トラックTAは、移動体201に連結された移動部130が測定軸X方向の測定範囲の全域を移動する際の大まかな原点zを検出するための「原点L検出機構」の一例の一部を構成する。そのために、このトラックTAの領域分割数nAは、測定範囲全域における測定軸X方向での移動部130の原点zを検出可能な分割数に設定される。一方、本実施形態では、トラックTB,TCの領域分割数nB,nCは、上述の通り、nA<nB<nCに設定される。なお、上述の通り、各トラックTA〜TCから得られる周期信号の周期数mA〜mBは、各トラックTA〜TC毎の原点検出精度を表し、それぞれ領域分割数nA〜nCに対応する。
換言すれば、原点L検出機構は、上述の通り、測定範囲全域における大まかな原点zを検出する。
一方、トラックTBによる検出機構は、原点L検出機構よりも狭い範囲内での原点zを、原点L検出機構よりも高い精度で検出することができる。このトラックTBによる検出機構をここでは「原点H検出機構」ともいう。
更に、トラックTCによる検出機構は、原点H検出機構よりも更に狭い範囲内での原点zを、原点H検出機構よりも高い精度で検出することができる。このトラックTCによる検出機構をここでは「インクレ検出機構」ともいう。また、インクレ検出機構は位置xの検出でも使用される。
つまり、本実施形態に係るインクレ型のエンコーダ100は、インクレ検出機構による出力を処理することにより、位置xを検出することになり、また、原点L、原点H、インクレそれぞれの検出機構による出力を処理することにより、原点zを検出することになる。
なお、原点L検出機構、原点H検出機構及びインクレ検出機構のそれぞれは、領域分割数nA〜nCやスリット形状などに差異はあるものの、機構毎に別個独立した回折干渉光学系を1つずつ有しており、検出原理として光学式の回折干渉光学系を使用する点などで共通する。そこで、以下では、原点L検出機構、原点H検出機構及びインクレ検出機構を総称して「光学検出機構」ともいう。
(1−2−2.光学検出機構)
次に、図2〜図4を参照しつつ、移動部130が有する検出部131A〜131Cについて説明しつつ、これらの光学検出機構についてより具体的に説明する。図4は、本実施形態に係るリニアエンコーダが有する光学検出機構について説明するための説明図である。
検出部131Aは、トラックTAに対向して配置され、トラックTAと共に原点L検出機構を構成する。検出部131Bは、トラックTBに対向して配置され、トラックTBと共に原点H検出機構を構成する。検出部131Cは、トラックTCに対向して配置され、トラックTCと共にインクレ検出機構を構成する。また、上述の通り、トラックTB及びトラックTCは原点検出領域hのみにスリットを有する。そこで、検出部130A〜検出部130Cは、移動部130の移動可能範囲内の一箇所で同時に、原点検出領域hに対向する位置にそれぞれ配置される。なお、図3の場合は、原点検出領域hA〜hCが一直線上に配置されるため、それらに対応した検出部130A〜130Cも対応した一直線上に配置されることになる。
検出部131A〜131Cによる各光学検出機構は、上述の通り、それぞれ独立した回折干渉光学系を有する点などで共通する。従って、ここでは、図4を参照しつつ、一の光学検出機構を例に説明し、各光学検出機構毎に異なる点については、個別に追記することとする。
これに伴い、一の光学検出機構を例に説明する場合、以下では、図4に示すように、その光学検出機構に対応する検出部(検出部131A〜131C)、トラック(トラックTA〜TC)及びメイン格子(メイン格子LA〜LC)を単に「検出部131」、「トラックT」及び「メイン格子L」ともいい、そのメイン格子Lに含まれるスリット(スリットSLA〜SLC)を単に「スリットSL」ともいう。そして、そのスリットSLのピッチ(ピッチpLA〜pLC)を単に「ピッチpL」ともいい、原点検出領域hでの測定軸X上の領域分割数(領域分割数nA〜nC)を単に「領域分割数n」ともいい、この光学検出機構から得られる原点検出領域hでの周期信号の周期数(周期数mA〜mC)を単に「周期数m」ともいう。
図4に示すように、検出部131は、インデックススケール120と、発光部132と、受光部133とを有する。
インデックススケール120は、ギャップgを間にあけてメインスケール110に対向して配置される。また、インデックススケール120は、光を遮蔽する材料で形成される一方、光を透過する複数のスリットSG1,SG2をそれぞれ有する2の光学的なインデックス格子G1,G2(インデックススケール120に形成された回折格子)を有する。つまり、インデックススケール120は、インデックス格子G1,G2のスリットSG1,SG2で光を透過することになり、このインデックス格子G1,G2は、メイン格子Lと共に3格子の回折干渉光学系を構成する。
本実施形態においてインデックス格子G1とインデックス格子G2とは、同一のインデックススケール120に形成される。なお、インデックス格子G1とインデックス格子G2とは、別体のインデックススケール120に形成されてもよい。インデックス格子G1とインデックス格子G2とは、別体のインデックススケール120に形成される場合、メインスケール110の同一面側において、インデックス格子G1とメイン格子Lとの間の距離(ギャップg)とメイン格子Lとインデックス格子G2との間の距離(ギャップg)とが等しくなるように配置されることが望ましい。このようなメイン格子Lからの距離が等しい2のインデックス格子G1,G2を使用し、かつ、メイン格子LのスリットSLに反射型スリットを使用すると、メインスケール110と検出部131との位置関係が変動しても、両インデックス格子G1,G2それぞれのギャップgが常に一定になる。よって、ギャップgの変動が回折干渉光学系に与える影響を、低減することができる。
ここで、各光学検出機構の検出部131A〜131Cそれぞれのギャップgの関係について説明する。
本実施形態では、各トラックTA〜TCのスリットSLA〜SLCのピッチpLA〜pLCが相互にほぼ等しくピッチpLに設定されるので、検出部131A〜131Cと、トラックTA〜TCつまりメインスケール110との間のギャップgは、相互にほぼ等しく設定され得る。つまり、本実施形態では、メイン格子LAとそれに対応するインデックス格子G1,G2との間のギャップgと、メイン格子LBとそれに対応するインデックス格子G1,G2との間のギャップgと、メイン格子LCとそれに対応するインデックス格子G1,G2との間のギャップgとは、図2に示すように、全てほぼ等しく設定され得る。
このように設定される場合、検出部131A〜131Cそれぞれに対してギャップgに応じた回折干渉光学系を共通で設計・開発することができ、かつ、製造時のギャップgの調整を各検出部131A〜131Cに対して同時におこなうことができる。よって、製造等を容易にすることが可能である。なお、このように検出部131A〜131Cのギャップgが相等しく設定されるため、図4に示す検出部131A〜131Cそれぞれのインデックススケール120を一体に形成したり、検出部131A〜131Cを一体に構成することにより、更に製造等を容易にすることも可能である。
なお、このような作用効果は、いずれか2つのメイン格子LA〜LC(1のトラック及び他のトラックの一例)とそれに対応するインデックス格子G1,G2との間のギャップgを揃えるだけでも、同様に奏されることは言うまでもない。ただし、ギャップgが揃えられる光学検出機構は、トラックTのピッチpLが相等しく設定された光学検出機構であることが望ましい。
次に、発光部132及び受光部133について説明しつつ、インデックス格子G1,G2それぞれについて説明する。
発光部132は、光源を有して、インデックススケール120のインデックス格子G1に向けて光を照射する。発光部132が照射する光の波長や強度は特に限定されるものではないが、回折干渉光学系の特性や必要な位置分解能等に応じて適宜決定されてもよい。また、この照射光は、本実施形態では、拡散光が使用される。拡散光を使用することで、後述するインデックス格子G1の各スリットSG1を略線光源とみなすことができ、回折干渉効果を高めることができる。なお、このようにスリットSG1を略線光源とみなすことができれば、照射光として、平行光やレーザ光、集束光などを使用することも可能である。発光部132は、平行光・レーザ光・集束光・拡散光など、使用する光の特性等に応じて、拡散レンズなどの所定の光学素子を有してもよいことは言うまでもない。
インデックス格子G1は、発光部132が照射する光が入射する位置に形成される。このインデックス格子G1は、透過型の複数のスリットSG1を有しており、その複数のスリットSG1により入射した光を回折させる。その結果、各スリットSG1は、それぞれメインスケール110に照射される光を、各スリットSG1を略線光源とする光に変換することができる。
インデックス格子G1の複数のスリットSG1間のピッチpG1は、メイン格子Lの複数のスリットSL間のピッチpLに対して「pG1=i×pL(i=1,2,3…)」の関係となるように形成される。ただし、特に「i=1,2」の場合に、得られる周期信号の強度を強められる場合が多く、更にいえば、「i=2」の場合に、周期信号の強度を「i=1」よりも強められる場合が多い。一方、周期信号の周期数mは、領域分割数nだけでなく、このiによっても変化する。具体的には、周期数mは、少なくとも「i=1,2」の場合、「m=2×n/i」となる。以下では、説明の便宜上、「i=2」つまり「pG1=2pL」であり「m=n」である場合について説明する。
なお、インデックス格子G1を透過した光は、インデックス格子G1に入射する際の入射角に応じて、インデックス格子G1の幅方向に広がる。従って、メイン格子LのスリットSLの幅は、この広がり角を考慮して、信号強度を向上させるために、インデックス格子G1のスリットSG1の幅よりも広く設定されることが望ましい。その際、メイン格子LのスリットSLの幅を、更に、インデックス格子G1を透過した光が到達すると予想される幅よりも広く設定するか又は狭く設定することにより、インデックス格子G1とメイン格子Lとの取り付け誤差に対する信号の安定性を、更に向上させることが可能である。
これと同様に、メイン格子Lで反射した光は、メイン格子Lに入射する際の入射角に応じて、メイン格子Lの幅方向に広がる。従って、後述するインデックス格子G2のスリットSG2の幅も、この広がり角を考慮して、信号強度を向上させるために、メイン格子LのスリットSLの幅よりも広く設定されることが望ましい。その際、インデックス格子G2のスリットSLの幅を、更に、メイン格子Lで反射した光が到達すると予想される幅よりも広く設定するか又は狭く設定することにより、インデックス格子G2とメイン格子Lとの取り付け誤差に対する信号の安定性を、更に向上させることが可能であることも同様である。
ただし、インデックス格子G1とインデックス格子G2とメイン格子Lそれぞれのスリットの幅の関係は、十分な信号強度が確保でき、また、取り付け誤差に対する信号の安定性も十分に確保できる場合には、特に限定されるものではないことは言うまでもない。
インデックス格子G1が有する複数のスリットSG1は、他のメイン格子L及びインデックス格子G2と共に形成する回折干渉光学系の回折干渉効果を高めてノイズを低減するために、対向した位置におけるスリットSLと略平行になるように形成されることが望ましい。
つまり、図3に示すように、メイン格子LA,LBのスリットSLA,SLBが傾斜スリットであるため、検出部131A,131Bのインデックス格子G1の複数のスリットSG1,SG2は、対向した傾斜スリットと平行になるように、傾斜スリットで形成されることが望ましい。一方、メイン格子LCのスリットSが垂直スリットであるため、検出部131Cのインデックス格子G1の複数のスリットSG1,SG2は、対向した垂直スリットと平行になるように、垂直スリットで形成されることが望ましい。
ただし、検出部131A,131Bの傾斜スリットは、トラックTA,TBの傾斜スリットと異なり、単に、垂直スリットである検出部131Cと同様の検出部を、メインスケール110の測定面の法線方向の法線軸Y周りに、トラックTA,TBの傾斜スリットに対応させて回転して配置するだけで、形成することが可能である。従って、検出部131A〜131Cとして同一の検出部を使用することが可能となり、製造等を更に容易にすることが可能となるだけでなく、製造コストを低減することも可能である。
図4に示すように、インデックス格子G1で回折された光は、インデックス格子G1に対応するメイン格子Lに照射される。すると、メイン格子Lに照射された光は、メイン格子LのスリットSLで反射される。この際、反射される光は、メイン格子Lで更に回折される。そして、このメイン格子Lで回折された光は、インデックス格子G2に照射される。
原点L検出機構と原点H検出機構で使用するインデックススケール120のインデックス格子G2は、メイン格子Lで回折された光が入射する位置に形成される。このインデックス格子G2のスリットSG2のピッチpG2は、インデックス格子G1のスリットSG1のピッチpG1と同じに設定される。つまり、本実施形態では「pG1=pG2=2×pL」となる。更に、このスリットSG2の形状や、インデックス格子G1のスリットSG1との位置関係等も、上記インデックス格子G1のスリットSG2と同様である。よって、これらの詳しい説明は省略する。
一方、図4に示すように、メイン格子Lで回折された光は、インデックス格子G2に照射される。このインデックス格子G2に照射される光は、メイン格子Lの複数のスリットSLそれぞれで回折された光が干渉した干渉縞状となる。干渉縞の明部の位置は、メインスケール110が回転してインデックス格子G1とメイン格子Lとの間の位置関係の変化に応じて、移動することになる。その結果、スリットSG2を通過する光の強度は、正弦波状に増減する。
受光部133は、インデックス格子G2のスリットSG2を透過した光を受光するように配置される。そして、受光部133は、例えばフォトダイオードのような受光素子を有しており、受光した光の強度を電気信号に変換する。
そして、受光部133が生成する電気信号は、メインスケール110がピッチp等に応じた分だけ移動する度に繰り返される所定の周期の略正弦波状の電気信号(「周期信号」ともいう。)となる。
原点L検出機構、原点H検出機構それぞれで得られる周期信号をまとめて、ここでは「原点L信号」、「原点H信号」ともいう。
なお、インクレ検出機構で使用するインデックススケール121は、原点L検出機構と原点H検出機構で使用するインデックススケール120と構成が異なるのでここで説明しておく。インデックス格子G2は、インデックス格子G1と異なり、2以上の領域(例えば図6に示す領域G2A,G2B)に別れている。そして、各領域のスリットSG2は、その領域内ではピッチpG2が均一に形成されるが、領域間では「pG2/4」づつずらして形成される。
その結果、「pG2/4」づつずらされた各領域G2A,G2BそれぞれのスリットSG2を通過する光の強度は、90°ずれて正弦波状に増減する。この際、受光部133は、各領域G2A,G2B毎に別々の電気信号を生成可能なように、例えば2の受光面を有する。そして、この各領域G2A,G2Bぞれぞれに対応した周期信号は、領域G2A,G2BそれぞれのスリットSG2を通過する光の強度と同様に、位相が90°ずれた2の周期信号となる。この2の周期信号を、それぞれ「A相周期信号」,「B相周期信号」ともいう。そして、インクレ検出機構それぞれで得られる2の周期信号をまとめて、ここでは「インクレ信号」ともいう。すなわち、原点L信号と原点H信号は、それぞれ1の周期信号であり、インクレ信号は、2の周期信号である。
このように光学検出機構では、3格子の回折干渉光学系を構成する。よって、ギャップgの大小に関わらずピッチpL,pG1,pG2等との関係で干渉が生じれば、所望の周期信号を検出することができる。
ところで、幾何光学型エンコーダでは、単にスリットSLを透過した光を受光するため、ギャップgを大きくすればするほど、回折成分や拡散成分の光の影響により、ノイズが増加するため、ギャップgを小さくする必要がある。これに対して、本実施形態に記載のような回折干渉光学系では、固定部材と回転部材との間のギャップgを大きくすることができ、結果として設計・開発の自由度を高めることができると共に、衝撃等により固定部材と移動部材とが干渉する不具合を低減することができる。
なお、本実施形態では、上述の通り、3格子(メイン格子L及びインデックス格子G1,G2)の回折干渉光学系を例に説明しているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、インデックス格子G2の変わりにそのインデックス格子G2のスリットSG2それぞれの位置に受光面を有する帯状の受光素子を使用することで、擬似的に3格子の回折干渉光学系を形成することも可能である。更にいえば、インデックス格子G1の変わりにそのインデックス格子G1のスリットSG1それぞれの位置で発光する帯状又は線状の発光素子等を使用することで、擬似的に3格子の回折干渉光学系を形成することも可能である。その他、同様な回折干渉光学系を構成することができれば、格子の数は特に限定されないことは言うまでもない。
(1−2−3.傾斜スリットの構成)
以上、本発明の第1実施形態に係るリニアエンコーダ100の構成について説明した。次に、図5を参照しつつ、上記メイン格子LA,LBに使用される傾斜スリットについて、詳しく説明する。図5は、本実施形態に係るリニアエンコーダが有する傾斜スリットについて説明するための説明図である。
(一のトラックT内の傾斜スリット)
まず、図5を参照しつつ、どちらか一方の傾斜スリット、つまり、トラックTAのメイン格子LAのスリットSLA、又は、トラックTBのメイン格子LBのスリットSLBを例に挙げて説明する。そして、スリットSLAとスリットSLBとで異なる点については、個別に説明することとする。
本実施形態に係るメイン格子LのスリットSLは、帯状のトラックT又はその一部である原点検出領域hに配置されるが、上述しかつ図5にも示す通り、少なくとも1以上のメイン格子LのスリットSLは、垂直スリットと異なる傾斜スリットとして形成される。
傾斜スリットとして形成されるスリットSL(ここでは単に「スリットSL」という。)は、図5に示すように、測定軸X方向に垂直な垂直軸Z方向から所定の傾斜角度θで傾斜した方向が長手となるように延長形成される。そして、この複数のスリットSLは、スリットSL間の間隔であるピッチpLが同一となるように平行に配置される。なお、ここでは傾斜角度θは、図5に示すような一の傾斜方向に対する角度をプラスとし、当該傾斜方向と測定軸X方向で反対の傾斜方向に対する角度をマイナスとして説明する。換言すれば、図5では、スリットSLは、垂直軸Zを時計回りにプラスの傾斜角度θ回転させた方向が長手となるように形成される。一方、マイナスの傾斜角度θの場合、スリットSLは、垂直軸Zを反時計回りにその傾斜角度θの絶対値分回転された方向が長手となるように形成される。
このような傾斜スリットについては様々な形成例が考えられるが、このスリットSLの一形成例について説明すると以下の通りである。
各スリットSLは、垂直軸Zに対して所定の傾斜角度θ傾いて形成される。この際、このスリットSLA,SLBは、各スリットSL間のピッチpLが一定となるように配置されるが、原点検出領域h内において測定軸X方向に沿って配置されるものとしては、領域分割数nと同じ数だけ配置され、原点検出領域hの全域におけるものとしては、回折干渉が可能な本数分配置される。なお、スリットSLCはメインスケールの全長に亘って測定軸X方向に沿って配置される。
なお、上述のように、「i=1」つまり「pG1=2pL」であり「m=n」である場合、その周期数mの周期信号を得るために、傾斜スリットは以下のように形成される。つまり、まず、m=nから領域分割数nが決定される。一方、本実施形態ではピッチpLは他のトラックTにおけるピッチpLと同じ値に設定されるため、スリットSLに対する傾斜角度θが適切に設定されることにより、ピッチpLを所望の値に調整される。例えば、傾斜角度θは、下記式1を満たすように設定される。
θ=arccos((R/n)/pL) …(式1)
そして、領域分割数nに対応した本数のスリットSLは、この傾斜角度θの方向が長手となり、スリットSLの間隔がピッチpLで一定となるように、測定軸X方向に並べて所定の幅で形成されることになる。なお、この際、測定軸X方向におけるスリット間距離pXは、下記式2で表されることになる。
pX=pL×cos(θ)=R/n …(式2)
ところで、一般に回折干渉光学系において、発光部132が発する光の波長をλとすると、メイン格子Lの複数のスリットSLのピッチpLは、メイン格子Lとインデックス格子G1,G2との間のギャップgに応じて、下記式0などを満たすように設定される。
g=i×pL 2/4λ …(式0)
ただし、「pG1=i×pL=pG2」で(i=1,2,3…)
一方、回折干渉光学系を使用してインクレ型のエンコーダを形成する場合、周期数mの異なる複数の周期信号が得られるように、領域分割数nの異なる複数のトラックTが必要となる。そして、仮に複数のトラックTの全てを垂直スリットとして形成すれば、各トラックTのピッチpLは、「pL=R/n」となり相互に異なってしまう。その結果、各トラックTに対するギャップgも相互に異なり、各トラックTの回折干渉光学系毎にギャップg等を設計・開発等する必要がある。
これに対しては、本実施形態のような傾斜スリットによれば、複数のスリットSLのピッチpLは、式2から式3のように表される。
pL=(R/n)/cos(θ) …(式3)
従って、領域分割数n(つまり周期信号の周期に対応)を所望の値(周期数mに対応した値)に維持しつつ、傾斜角度θを適宜設定するだけで、回折干渉光学系を構成するような最適な値にピッチpLを設定することが可能となる。その結果、領域分割数nを自由に設定することが可能となり、設計・開発等を容易になる。
なお、ここで説明した傾斜スリット形成例や式等は、あくまで一例であり、このような式が実際に立てられる必要はない。つまり、上記のように垂直軸Z方向から傾斜した傾斜スリットが形成されれば、その形成方法や設計方法等は、特に限定されるものでない。
(傾斜スリットとインデックス格子側のスリットの位置関係)
なお、インデックス格子G1,G2は、上述の通り、傾斜スリットであっても、垂直スリットと同様の構成を法線軸Y周りに傾斜角度θだけ回転させて配置されるだけで、形成可能である。その結果、図5に示すように、インデックス格子G1,G2は、対応するメイン格子LのスリットSLと各スリットSG1,SG2が平行になるように、配置される。
(複数のトラック間の関係における傾斜スリット)
以上、一のトラックT内の傾斜スリットについて説明した。ここで、複数のトラックTA〜TB間の関係における傾斜スリットについて、図2及び図3を参照しつつ説明する。なお、各トラックTA,TBの傾斜角度θをここではそれぞれ「傾斜角度θA,θB」ともいう。
本実施形態では、図2に示すように、全てのトラックTA〜TCのメイン格子LA〜LCとそれに対する検出部131A〜131Cのインデックススケール120とのギャップgは、ほぼ等しく設定される。一方、回折干渉光学系を形成するには、上記式0を満たすように、ギャップgに対応したスリットSLのピッチpLを実現することが重要である。
そこで、本実施形態では、トラックTAのスリットSLAにおける傾斜角度θAは、図3に示すように、そのスリットSLAのピッチpLAが他のトラックTCのスリットSLCのピッチpLCと等しくなるように設定される。更に、トラックTBのスリットSLBにおける傾斜角度θBも、図3に示すように、そのスリットSLBのピッチpLBが他のトラックTCのスリットSLCのピッチpLCと等しくなるように設定される。
一方、トラックTAの原点検出領域hAにおける領域分割数nAは、トラックTBの原点検出領域hBにおける領域分割数nBと異なる(nA<nB)。従って、上記式3からもわかるように、トラックTAにおける傾斜角度θAは、トラックTBにおける傾斜角度θBと異なるように設定される(θA>θB)。その結果、傾斜スリット同士であるトラックTAにおけるピッチpLAと、トラックTBにおけるピッチpLBとをほぼ等しくすることができる。
これらの結果、全てのトラックTA〜TCにおけるスリットSLA〜SLBのピッチpLA〜pLCをほぼ一定にすることが可能となる。よって、検出部131A〜131Cは、回折干渉光学系をそれぞれ形成しつつ、ギャップgを一定にして配置され得る。このように複数の検出部131A〜131Cを一定のギャップgで形成できる場合、検出部131A〜131Cのギャップg方向での調整が容易になるばかりか、これら検出部131A〜131Cを一体に形成することも可能となる。なお、検出部131A〜131Cを一体に形成する場合、それぞれが有するインデックススケール120も一体に1枚のインデックススケールとして形成されてもよい。この場合、設計等の自由度を向上させ、かつ、製造を容易にすることが可能である。
(1−2−4.位置データ生成部140)
次に、図2を参照しつつ、エンコーダ100の構成である位置データ生成部140について説明する。
位置データ生成部140は、上述の検出部131Cから、正弦波状のインクレ信号を取得する。そして、位置データ生成部140は、これらの信号からモータ部200の位置xを特定し、その位置xを表した位置データを出力する。以下、より具体的に位置データ生成部140による位置xの特定処理の一例について説明する。
ここで位置データ生成部140が取得するインクレ信号は、上述の通り、本実施形態では、位相が90°ずれたA相周期信号とB相周期信号との2の周期信号を含む。すなわち、位置データ生成部140は、インクレ信号について、それぞれA相及びB相の2つの正弦波信号を取得する。
そして、位置データ生成部140は、A相及びB相の2つの正弦波信号を逓倍処理等を施すことにより、各周期内で単調に増加する信号(単調に減少する信号でもよい。以下「単調増加信号」ともいう。)を生成する。
このように位置データ生成部140は、インクレ信号に基づいて、モータ部200の位置xを特定する
なお、ここで説明した位置データ生成部140における処理は、制御部20で行われてもよいことは言うまでもない。この場合、位置データ生成部140は、位置データとして、正弦波状の各周期信号を制御部20に出力してもよい。
(1−2−5.原点信号生成部141)
次に、図2及び図7A〜図7Cを参照しつつ、エンコーダ100の残りの構成である位置データ生成部140について説明する。図7A〜図7Cは、本実施形態に係るリニアエンコーダが有する原点信号生成部について説明するための説明図である。
原点信号生成部141は、上述の検出部131A〜131Cから、正弦波状の原点L信号、原点H信号及びインクレ信号を取得する。そして、原点信号生成部141は、これらの信号からモータ部200の原点zを特定し、その原点zを表した位置データを出力する。以下、より具体的に位置データ生成部140による原点zの特定処理の一例について説明する。
ここで原点信号生成部141が取得するインクレ信号は、上述の通り、本実施形態では、位相が90°ずれたA相周期信号とB相周期信号との2の周期信号を含む。すなわち、インクレ信号について、それぞれA相及びB相の2つの正弦波信号を取得する。
そして、原点信号生成部141は、A相及びB相の2つの正弦波信号のどちらか一方を使用し処理をおこなう。例えばA相を使用するとして、ここで以下ではインクレ信号のA相信号を単にインクレA信号ともいう。
図7Aに、原点L信号の例を示し、図7Bに、原点H信号の例を示し、図7Cに、インクレA信号の例を示し、図7Dに、原点信号の例を示す。図7A〜図7Cでは、横軸に位置xを示し、縦軸に各信号Vを示す。なお、原点L信号、原点H信号及びインクレ信号それぞれの出力信号をここではVA,VB,VCともいう。
図7Aでは、原点L信号として、移動体130が原点検出領域hを通過した場合の信号VAの例を示している。
図7Bでは、原点H信号として、移動体130が原点検出領域hを通過した場合の信号VBの例を示している。
図7Cでは、インクレA信号として、移動体130が原点検出領域hを通過した場合の信号VCの例を示している。
図7Dでは、原点信号として、移動体130が原点検出領域hを通過した場合の上記出力信号VA,VB,VCを加算した例を示している。
原点L信号、原点H信号、インクレ信号の領域分割数nはそれぞれ1、3、5と奇数倍に設定されており、それに対応した周期数の正弦波を出力する。
各トラックTA〜TCの測定円Xで繰り返される原点検出領域hでの領域分割数nA〜nCは、本実施形態のようにピッチが「pG1=2×pL=pG2」に設定される場合、このような分解能を実現するために、それぞれ1,3,5分割に設定されることとなる。しかし、これは、あくまで一例であって、各トラックTA〜TCの領域分割数nA〜nCを限定するものではなく、各トラックTA〜TCの領域分割数nA〜nCは、それぞれから得られる周期信号mA〜mCに望まれる所望の信号周期数に応じて適宜設定され得る。
原点信号生成部141は、このような原点L信号、原点H信号及びインクレA信号を生成し、これらの信号に基づいて、モータ部200の原点zを特定する。
より具体的には、図7A〜図7Cに示す例の場合、トラックTA〜TCの各スリットSLA〜SLCは、移動体130の移動範囲内の一箇所のみで複数の周期信号の山が一致するように配置されており、原点信号生成部141は、原点L信号、原点H信号及びインクレA信号の3信号を加算する。この加算された信号は、図7Dに示すように、各周期信号の山が一致する位置でピークを形成する。従って、原点信号生成部141は、加算信号のピーク形成位置から、原点信号VZを生成する。
そして、原点信号生成部141は、原点信号生成方法の一例として、例えばコンパレータ等の比較器を用いて、加算信号のピークのみを抽出可能な所定の閾値により、加算された信号をデジタル変換することで、原点位置を意味する矩形波、すなわち原点zを表す原点パルス信号を、原点信号Vzとして生成する。
その結果、原点信号生成部141は、最外のインクレ検出機構の分解能と同様の分解能において、モータ部200の原点zを特定することが可能となる。そして、原点信号生成部138は、このように特定した原点zを表す原点信号を制御部20に出力する。
なお、ここで説明した原点信号生成部141における処理は、制御部20で行われてもよいことは言うまでもない。この場合、原点信号生成部141は、原点信号として正弦波状の各周期信号を制御部20に出力してもよい。
(1−3.第1実施形態に係るリニアモータシステムの動作)
次に、本実施形態に係るモータシステム1の動作について説明する。なお、各構成における動作や作用等については、各構成の説明で詳しく説明したので適宜省略して説明する。
制御部20は、上位制御装置等から上位制御信号を取得し、更にエンコーダ100から、移動体201の位置xを表す位置データと、原点zを表す原点信号とを取得する。そして、制御部20は、上位制御信号と位置データとに基づいて制御信号を生成してモータ部200に出力する。
その結果、モータ部200は、この制御信号に基づいて動力を発生させて移動体201を移動させる。すると、その移動体201に連結された移動部130が移動して、移動部130が有する複数のインデックススケール120が、メインスケール110に対して相対的に移動する。その結果、一方、各検出部131A〜131Cは、このメインスケール110に対するインデックススケール120の相対的な移動に応じて、それぞれ周期信号を検出し、位置データ生成部140と原点信号生成部141に出力する。そして、位置データ生成部140と原点信号生成部141は、取得したこれらの信号に基づいて位置データと原点信号生成部141とをそれぞれ生成し、制御部20に出力する。
なお、上述の通り、本実施形態に係るエンコーダ100は、移動体201の高精度な位置xと原点zを検出して、位置データ・原点信号として制御部20に供給することができる。従って、このモータシステム1は、その高精度な位置xと原点zに基づいて、移動体201の位置xを高精度に制御することができる。
(1−4.第1実施形態に係るリニアエンコーダの製造方法)
以上、本発明の第1実施形態に係るリニアモータシステムについて説明した。
次に、図8を参照しつつ、本実施形態に係るエンコーダ100の製造方法について説明する。図8は、本実施形態に係るリニアエンコーダの製造方法について説明するための説明図である。
図8に示すように、エンコーダ100の製造方法では、まずステップS101が処理される。このステップS101(スリット数決定ステップの一例)では、メインスケール110の1のトラックTについて、そのトラックTから得たい分解能に応じて、移動体201が原点検出領域hを移動した場合に得るべき所望の周期信号の周期数mが決定される。そして、その周期に応じて、そのトラックTに形成される領域分割数nが設定される。そして、ステップS103に進む。
ステップS103(傾斜角度設定ステップの一例)では、スリットSLのピッチpLが所望の値となるように傾斜角度θが設定される。ただし、例えばトラックTCなどのような垂直スリットの場合には、このステップS105では、傾斜角度θCは0°(傾斜させないことを意味)に設定されることになる。
なお、このステップS103では、これから形成しようとしているトラックT(1のトラックの一例)のスリットSLのピッチpLが、既に形成されたトラックT又は後続して形成されるトラックT(他のトラックTの一例)のスリットSLのピッチpLと等しくなるように、傾斜角度θが設定されることになる。このステップS103の処理後は、ステップS105に進む。
ステップS105(スリット形成ステップの一例)では、ステップS103で設定した傾斜角度θで、所定の幅wの複数のスリットSLが、ピッチpLを一定にしつつトラックT内で平行に並んで形成される。そして、ステップS107に進む。
ステップS107では、所望の複数のトラックT全てにスリットSLが形成されたか否かが確認される。そして、スリットSLが未形成のトラックTがあれば、ステップS101以降の処理が繰り返される。一方、全てのスリットSLが形成されていればステップS109に進む。
ステップS109(インデックススケール配置ステップの一例)では、少なくともピッチpLが等しい2以上のトラックTに対して、メイン格子Lとインデックス格子G1,G2との間のギャップgが等しくなるように、インデックススケール120を含む検出部131が配置される。
なお、これらの処理と同時にか前後して、移動部130内に各検出部131を配置する処理、各検出部131と位置データ生成部140及び原点信号生成部141とを連結する処理、各構成をケースに収納して固定又は移動可能に支持する処理等が行われて、エンコーダ100が完成する。ただし、これらの処理についてのここでの詳しい説明は省略する。
(1−5.第1実施形態に係るリニアエンコーダシステムによる効果の例)
以上、本発明の第1実施形態に係るリニアエンコーダ、リニアモータ、リニアモータシステム、メインスケール及びリニアエンコーダの製造方法について説明した。
本実施形態に係るエンコーダ100等によれば、少なくとも1のトラックTの複数のスリットSLが、垂直軸Z方向から傾斜角度θ傾いた方向を長手とする傾斜スリットとして形成される。この傾斜スリットは、傾斜角度θを調整することにより、トラックTの測定軸Z方向に設定される領域分割数nを変更せずに、ピッチpLを調整することが可能である。従って、設計・開発等の自由度を高めることが可能である。
また、上述のように回折干渉光学系を使用しつつインクレ型エンコーダを形成する場合、得られる周期信号の周期数mの異なる複数のトラックTが必要となる。そして、各トラックT内の領域分割数nは、周期数mに応じた数となる。そこで、相対的に低い周期数mを得るには、領域分割数nを相対的に少ない数にすることとなる。しかし、本実施形態のような傾斜スリットを使用しない場合、このように領域分割数nを比較的少ない数に設定すると、ピッチpLが大きくなり、回折干渉光学系を形成することが難しくなる。仮に回折干渉光学系を形成できたとしても、傾斜スリットを使用しなければ、各トラックTの領域分割数nが異なることにより、各トラックTのピッチpLも異なる。その結果、各トラックTのピッチpLに適したギャップgも、各トラックT毎に異なり、各回折干渉光学系毎に設計・開発・製造等が必要になる。
これに対して、本実施形態に係るエンコーダ100によれば、各トラックTの傾斜角度θを調整することにより、ピッチpLを調整することが可能である。従って、全てのトラックTのピッチpLを、回折干渉光学系が形成可能な程度に比較的小さく設定することが可能である。この際、傾斜角度θを適切に調整すれば、複数のトラックTのピッチpLを同一の値に設定することが可能であるため、複数のトラックTに適したギャップgを同一の値に設定することが可能となる。よって、その複数のトラックTそれぞれが構成する各回折干渉光学系を、同様に設計・開発・製造等することが可能である。また、複数のトラックTに対するギャップgの調整を同時におこなうことも可能となる。
従って、本実施形態に係るエンコーダ100によれば、回折干渉光を使用して、検出精度を向上させつつ、回折干渉光学系を構成する際の設計・開発時の制限等を低減して、製造が容易なように設計・開発等をおこなうことが可能となる。
<2.第2実施形態>
以上、本発明の第1実施形態に係るリニアモータシステムについて説明した。
次に、図9を参照しつつ、本発明の第2実施形態に係るリニアモータシステムについて説明する。図9は、本発明の第2実施形態に係るリニアエンコーダが有するメインスケールの構成について説明するための説明図である。
上記本発明の第1実施形態では、図3に示すように、傾斜スリットとして形成されるトラックTA,TBのスリットSLA,SLBの傾斜される向き(傾斜方向)が、測定軸Xに対して同一の方向である場合について説明した。つまり、傾斜角度θA及び傾斜角度θBが、共に正である場合について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されるものではなく、相隣接するトラック同士の垂直軸Z方向からの傾斜方向を、逆にすることも可能である。そこで、ここでは、本発明の第2実施形態として、相隣接するトラック同士の傾斜方向が逆に設定された場合の例について説明する。なお、トラックの傾斜方向が逆に設定されること以外、本実施形態に係るエンコーダ等は、上記第1実施形態と同様に構成可能であるため、ここでは、第1実施形態との違いについて中心に説明する。
図9に示すように、本実施形態に係るエンコーダが有するメインスケール310は、トラックTA(少なくとも1のトラックの一例)に、図3に示したメイン格子LAの代わりにメイン格子LDを有する。そして、このメイン格子LDは、複数のスリットSLDを有する。
スリットSLDの傾斜方向は、図3に示したスリットSLAと異なり、隣接するトラックTB(他のトラックの一例)のスリットSLBの傾斜方向と逆の方向に設定されている。つまり、スリットSLBが、垂直軸Z方向を法線軸Yを回転軸として時計回りに回転した方向に形成されるのに対して、このスリットSLDは、これとは逆に、垂直軸Z方向を法線軸Yを回転軸として反時計回りに回転した方向に形成される。つまり、傾斜角度θBはプラスとなるが、傾斜角度θDはマイナスとなる。なお、この際、傾斜角度θDの大きさは、上記第1実施形態と同様に設定され、領域分割数nD=nAであれば、|θD|=|θA|となる。
一方、各スリットSLから生じる回折干渉光は、各スリットSLの長手方向に対して略直角な方向に繰り返す干渉縞を形成する。これに対して、傾斜スリットのスリットSLの長手方向は、傾斜されることにより、メインスケールの幅方向(垂直軸Z方向)から長手方向(測定軸X方向)に近づくこととなる。よって、干渉縞は、隣接するトラックの方向に繰り返すように形成される場合がある。その結果、干渉縞が隣接トラックの回折干渉光学系とクロストークしてしまう恐れがある。また、そのようなクロストークを防ぐために、エンコーダの設計・開発が制約を受ける場合がある。
このような場合、本実施形態のように相隣接するトラックTA,TBの各スリットSLD,SLBの傾斜方向を互いに逆向きに設定することで、干渉縞が形成される向きを変更することが可能となり、クロストークが生じないような設計・開発を容易におこなうことが可能である。
なお、本実施形態においても、上記第1実施形態で奏される他の格別な作用効果等を奏することが可能であることは、言うまでもない。
<3.第3実施形態>
以上、本発明の第2実施形態に係るリニアモータシステムについて説明した。
次に、図10を参照しつつ、本発明の第3実施形態に係るリニアモータシステムについて説明する。図10は、本発明の第2実施形態に係るリニアエンコーダが有するメインスケールの構成について説明するための説明図である。
上記本発明の第1実施形態では、図3に示すように、傾斜スリットとして形成されるトラックTA〜TCは、測定軸X方向と垂直な垂直軸Z方向に並べて配置される場合について説明した。つまり、トラックTA,TBが、垂直軸Zに並べて配置される場合について説明した。しかし、本発明は、かかる例に限定されるものではなく、相隣接するトラック同士の位置関係が測定軸X方向に並べて配置することも可能である。そこで、ここでは、本発明の第3実施形態として、相隣接するトラック同士の位置関係が測定軸X方向に並べて配置された場合の例について説明する。なお、トラック同士の位置関係が測定軸X方向に並べて配置されること以外、本実施形態に係るエンコーダ等は、上記第1実施形態と同様に構成可能であるため、ここでは、第1実施形態との違いについて中心に説明する。
図10に示すように、本実施形態に係るエンコーダが有するメインスケール410は、図3に示したトラックTA(少なくとも1のトラックの一例)の代わりにトラックTEを有し、トラックTEはメイン格子LAを有し、このメイン格子LAは、複数のスリットSLAを有する。
トラックTEの配置位置は、図3に示したトラックTAと異なり、隣接するトラックTBとの位置関係が測定軸X方向に並べて配置されて形成される。なお、この際、傾斜角度θA、領域分割数nA、スリットピッチpA、原点測定範囲hAは、上記第1実施形態と同様に設定される。
一方、全てのトラックが垂直軸Zに並べて配置される場合、トラック数やトラック幅に応じて、メインスケールの垂直Z方向の幅が長くなってしまう。その結果、メインスケールの垂直Z方向の制約があるとき、エンコーダの設計・開発も制約を受ける場合がある。
このような場合、本実施形態のように相隣接するトラック同士の位置関係が測定軸X方向に並べて配置することで、垂直Z方向の幅を短く設定可能で、メインスケールの垂直Z幅を長くせず、設計・開発を容易におこなうことが可能である。
なお、本実施形態においても、上記第1実施形態で奏される他の格別な作用効果等を奏することが可能であることは、言うまでもない。
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明した。しかしながら、本発明はこれらの実施形態の例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、様々な変更や修正をおこなうことに想到できることは明らかである。従って、これらの変更後や修正後の技術も、当然に本発明の技術的範囲に属するものである。
例えば、上記各実施形態では、インクレ型エンコーダを形成するための複数の周期信号を、全て回折干渉光学系を使用して取得する場合について説明した。しかしながら、本発明はかかる例に限定されるものではない。本発明は、少なくとも2以上の周期信号を回折干渉光学系から取得し、それ以外の周期信号を例えば幾何光学系の光学式や磁気式の検出装置等を使用するエンコーダにも適用可能であることは言うまでもない。ただし、この場合も、インクレ信号(周期数mが最も多い信号)は、回折干渉光学系から得ることが望ましい。
なお、本明細書において、フローチャートに記述されたステップは、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的に又は個別的に実行される処理をも含む。また時系列的に処理されるステップでも、場合によっては適宜順序を変更することが可能であることは言うまでもない。