図1は、この発明の実施例に係る車両の定速走行制御装置を全体的に示す概略図である。
図1において、符号10はエンジン(内燃機関)を示す。エンジン10は4気筒などの複数の気筒を備える火花点火式の水冷ガソリンエンジンであり、車両(駆動輪Wなどで部分的に示す)14の車体(図示せず)に搭載される。
エンジン10の吸気系に配置されたスロットルバルブ(図示せず)は車両運転席に配置されるアクセルペダル(図示せず)との機械的な接続が絶たれ、電動モータなどのアクチュエータからなるDBW(Drive By Wire)機構16が接続されて駆動される。
スロットルバルブで調量された吸気はインテークマニホルド(図示せず)を通って流れ、各気筒の吸気ポート付近でインジェクタ(燃料噴射弁)20から噴射された燃料と混合して混合気を形成し、吸気バルブ(図示せず)が開弁されたとき、当該気筒の燃焼室(図示せず)に流入する。燃焼室において混合気は点火されて燃焼し、ピストン(図示せず)を駆動してクランクシャフト22を回転させた後、排気となってエンジン10の外部に放出される。
エンジン10のクランクシャフト22の回転は、トルクコンバータ24を介して変速機26に入力される。変速機26はエンジンの出力を変速する。
即ち、クランクシャフト22はトルクコンバータ24のポンプインペラ24aに接続される一方、それに対向配置されて流体(作動油)を収受するタービンランナ24bはメインシャフト(ミッション入力軸)MSに接続される。トルクコンバータ24はロックアップクラッチを備える。
変速機26はCVT(Continuous Variable Transmission)からなり、メインシャフトMSに配置されたドライブプーリ26aと、メインシャフトMSに平行なカウンタシャフトCSに配置されたドリブンプーリ26bと、その間に掛け回される金属製のベルト26cと、可動プーリ半体(後述)のピストン室に作動油を供給する油圧機構26dとからなる。
ドライブプーリ26aは、メインシャフトMSに配置された固定プーリ半体26a1と、固定プーリ半体26a1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26a2からなる。ドリブンプーリ26bは、カウンタシャフトCSに固定された固定プーリ半体26b1と、固定プーリ半体26b1に対して軸方向に相対移動可能な可動プーリ半体26b2からなる。
CVT26は、前後進切換装置30に接続される。前後進切換装置30は、フォワード(前進)クラッチ30aと、後進ブレーキ30bと、その間に配置されるプラネタリギヤ機構30cからなる。
プラネタリギヤ機構30cにおいて、サンギヤ30c1はメインシャフトMSに固定されると共に、リングギヤ30c2はフォワードクラッチ30aを介してドライブプーリ26aの固定プーリ半体26a1に固定される。
サンギヤ30c1とリングギヤ30c2の間には、ピニオン30c3が配置される。ピニオン30c3は、キャリア30c4でサンギヤ30c1に連結される。キャリア30c4は、後進ブレーキ30bが作動させられると、それによって固定(ロック)される。
カウンタシャフトCSの回転は減速ギヤ34,36を介してセカンダリシャフトSSに伝えられると共に、セカンダリシャフトSSの回転はギヤ40とディファレンシャルDを介して左右の駆動輪(タイヤ。右側のみ示す)Wに伝えられる。
駆動輪W(および従動輪)の付近にはディスクブレーキ42が配置されると共に、その付近には作動油を供給されて運転者によるブレーキペダルの動作に独立してブレーキ開度、即ち、ブレーキ42の作動量を調整するブレーキアクチュエータ42aが設けられる。
フォワードクラッチ30aと後進ブレーキ30bの切換は、車両運転席に設けられた、例えばP,R,N,D,S,Lのポジションを備えるシフトレバー44を運転者が操作することによって行われる。即ち、運転者によってシフトレバー44のいずれかのポジションが選択されたとき、その選択動作は油圧機構(図示せず)のマニュアルバルブ(図示せず)に伝えられる。
例えばD,S,Lポジションが選択されると、それに応じてマニュアルバルブのスプールが移動し、後進ブレーキ30bのピストン室から作動油(油圧)が排出される一方、フォワードクラッチ30aのピストン室に油圧が供給されてフォワードクラッチ30aが締結される。フォワードクラッチ30aが締結されると、全ギヤがメインシャフトMSと一体に回転し、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSと同方向(前進方向)に駆動される。
他方、Rポジションが選択されると、フォワードクラッチ30aのピストン室から作動油が排出される一方、後進ブレーキ30bのピストン室に油圧が供給されて後進ブレーキ30bが作動する。それによってキャリア30c4が固定されてリングギヤ30c2はサンギヤ30c1とは逆方向に駆動され、ドライブプーリ26aはメインシャフトMSとは逆方向(後進方向)に駆動される。
また、PあるいはNポジションが選択されると、両方のピストン室から作動油が排出されてフォワードクラッチ30aと後進ブレーキ30bが共に開放され、前後進切換装置30を介しての動力伝達が断たれ、エンジン10とCVT26のドライブプーリ26aとの間の動力伝達が遮断される。
CVT26においては油圧機構26dから可動プーリ半体26a2,26b2のピストン室に作動油が供給され、可動プーリ半体26a2,26b2を軸方向に移動させるプーリ側圧(ベルト伝達トルク)が発生させられると、ドライブプーリ26aとドリブンプーリ26bのプーリ幅が変化し、ベルト26cの巻掛け半径が変化する。
このように、プーリ側圧を調整、換言すればベルト伝達トルク指令値を変更することで、エンジン10の出力を駆動輪Wに伝達する変速比を無段階に変化させることができる。
エンジン10のカム軸(図示せず)付近などの適宜位置にはクランク角センサ48が設けられ、ピストンの所定クランク角度位置ごとにエンジン回転数NEを示す信号を出力する。吸気系においてスロットルバルブの下流の適宜位置には絶対圧センサ50が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAに比例した信号を出力する。
DBW機構16のアクチュエータにはスロットル開度センサ52が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THLに比例した信号を出力すると共に、アクセルペダル付近にはアクセル開度センサ54が設けられ、運転者のアクセルペダル操作量(アクセルペダル踏み込み量)に相当するアクセルペダル開度APに比例する信号を出力する。
さらに、エンジン10の冷却水通路(図示せず)の付近には水温センサ56が設けられ、エンジン冷却水温TW、換言すればエンジン10の温度に応じた出力を生じると共に、吸気系には吸気温センサ58が設けられ、エンジン10に吸入される吸気温(外気温)に応じた出力を生じる。
上記したクランク角センサ48などの出力は、エンジンコントローラ60に送られる。エンジンコントローラ60はCPU,ROM,RAMなどを有するマイクロコンピュータを備え、それらセンサ出力に基づいて燃料噴射量を決定してインジェクタ20を駆動すると共に、アクセルペダル開度APに応じてスロットルバルブの開度THLを制御する。
メインシャフトMSにはNTセンサ(回転数センサ)62が設けられ、タービンランナ24bの回転数、具体的にはメインシャフトMSの回転数、より具体的にはフォワードクラッチ30aの入力軸回転数を示すパルス信号を出力する。
CVT26のドライブプーリ26aの付近の適宜位置にはNDRセンサ(回転数センサ)64が設けられてドライブプーリ26aの回転数、換言すればフォワードクラッチ30aの出力軸回転数に応じたパルス信号を出力すると共に、ドリブンプーリ26bの付近の適宜位置にはNDNセンサ(回転数センサ)66が設けられ、ドリブンプーリ26bの回転数を示すパルス信号を出力する。
セカンダリシャフトSSのギヤ36の付近にはVELセンサ(回転数センサ)68が設けられ、ギヤ36の回転数を通じてCVT26の出力回転数あるいは車速VELを示すパルス信号を出力する。前記したシフトレバー44の付近にはシフトレバーポジションセンサ70が設けられ、運転者によって選択されたR,N,Dなどのポジションに応じたPOS信号を出力する。
またブレーキペダル付近にはブレーキ開度センサ72が設けられ、運転者のブレーキペダル操作量(ブレーキペダル踏み込み量)に相当するブレーキペダル開度BRKに比例する信号を出力する。
上記したNTセンサ62などの出力(ならびに前記したアクセル開度センサ54の出力)は、図示しないその他のセンサの出力も含め、シフトコントローラ74に送られる。シフトコントローラ74もCPU,ROM,RAMなどを有するマイクロコンピュータを備えると共に、エンジンコントローラ60と通信自在に構成される。
入力されたセンサ出力のうち、NTセンサ62とNDRセンサ64とVELセンサ68の出力はシフトコントローラ74において波形整形回路に入力される。シフトコントローラ74は波形整形回路の出力をカウントして回転数と車速Vを検出する。
シフトコントローラ74はそれら検出値に基づき、油圧機構の電磁ソレノイド(図示せず)を励磁・非励磁してトルクコンバータ24とCVT26の動作を制御すると共に、フォワードクラッチ30aの締結を判断して操作量を決定する。
CVT26の動作の制御については、シフトコントローラ74は、目標変速比(レシオ)を決定し、決定した目標変速比となるように、可動プーリ半体26a2,26b2を駆動し、変速比を制御する。
さらに、車両14の運転席のステアリングホイール(図示せず)の付近には運転者の操作自在に定速走行制御指令用のスイッチ群76が配置される。詳細な図示は省略するが、スイッチ群76は、定速走行制御指令を入力するためのメインスイッチ、指示車速(目標車速)を入力するためのセットスイッチ、ブレーキ操作などで定速走行制御をキャンセルした後に再開させるためのリジュームスイッチ、および定速走行制御のキャンセル指令を入力するためのキャンセルスイッチなどからなる。
以下、シフトコントローラ74およびエンジンコントローラ60の設計について説明する。
シフトコントローラ74を制御理論に基づいたコントローラとして設計するため、まず制御対象の物理モデリングを行い、状態方程式を導出する。
そのため、図2に示すように、変速比、スロットル開度およびブレーキペダル開度を入力とし、車速を出力とした車両システム全体を制御対象としてモデリングする。また、エンジン20とトルクコンバータ24については、フューエルカットOFF(フューエルカット(燃料供給停止)が実行されない)の場合とON(フューエルカットが実行される)の場合で特性が異なるので、それぞれの場合についてモデリングを行う。
そのようにしてモデリングを行った後、車速に応じて変速比、スロットル開度およびブレーキペダル開度を制御するコントローラを設計する。
以下、エンジン10、トルクコンバータ24、変速機26、車体のそれぞれのモデリングについて説明する。
エンジン10のモデリングについて説明する。エンジン10は、フューエルカットがOFFのときとONのときで特性が異なるので、それぞれの場合についてモデリングする。
まず、フューエルカットがOFFのときは、図3に示すように、スロットル開度THLとエンジン回転数ωENGに依存して、エンジントルクTENGを出力するものとしてモデル化する。数1に示すようにフューエルカットがOFFのときのエンジントルクをNormalTrqと示す。
フューエルカットがONのときは、図4に示すようにエンジン回転数に依存してエンジントルクTENGを出力するものとしてモデル化する。数3に示すようにフューエルカットがONのときのエンジントルクをフリクショントルクFrictionTrqと示す。
トルクコンバータ24のモデリングについて説明する。
トルクコンバータ24は、図5に示すように、エンジントルクTENGとトルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCを入力とし、トルクコンバータ24の出力トルクTTCとエンジン回転数ωENG(=トルクコンバータの入力軸回転数)を出力とするモデルとしてモデリングする。
トルクコンバータ24の入力軸回転数であるエンジン回転数ωENGは、次のようにして求める。即ち、トルクコンバータ24のポンプインペラ24aへの入力トルクはエンジントルクであり、出力トルクはポンプトルクTpumpとロックアップクラッチトルクTLCであるので、入出力トルクの差をエンジン10とポンプインペラ24aのイナーシャIENG-pumpで除すことにより、エンジン回転加速度ωENGdotが求まるので、それを積分することでエンジン回転数ωENGを得る。
また、ポンプトルクTPumpとタービントルクTturbineはフューエルカットがOFFのときとONのときとで特性が異なるので、それぞれの場合についてモデル化する。
まずフューエルカットOFFのときは、ポンプトルクTpumpはエンジン回転数ωENGの2乗とトルクコンバータ容量係数τTCの積で与えられる。またタービントルクTturbineは、ポンプトルクTpumpにトルク比KTCを乗じることで得られる。尚、容量係数τTCとトルク比KTCはトルクコンバータ24の速度比eに依存することから、速度比eの関数として表される。
速度比は、次式に示す如く、出力軸回転数ωTCを入力軸回転数ωENGで除した値である。
次に、フューエルカットONのときは、ポンプインペラ24aとタービンランナ24bの関係が逆になる。即ち、タービントルクTturbineは、出力軸回転数ωTCの2乗とトルクコンバータ容量係数τTCと速度比eの積にマイナス1を乗じたもので与えられ、ポンプトルクTpumpはタービントルクTturbineにトルク比KTCと速度比を乗じることで得られる。
また、ロックアップクラッチトルクは、ロックアップクラッチの最大伝達トルクTLCMAXにトルクコンバータ24の入出力軸回転数ωENGとωTCの差を乗じ、係数λLCを掛けることで与えられるものとしてモデル化する。
トルクコンバータ24の出力トルクTTCは、タービントルクTturbineとロックアップクラッチトルクTLCの和により与えられる。
変速機(CVT)26のモデリングについて説明する。
ここでは、フォワードクラッチ30a、プーリ(ドライブプーリ、ドリブンプーリ)26a,26b、セカンダリギヤ(減速ギヤ)34,36、ファイナルギヤ(ギヤ)40によって構成されるものとする。
図6に示すように、変速機26は、トルクコンバータ24の出力トルクとタイヤ回転数ωtireを入力とし、ドライブシャフトトルクTDSとトルクコンバータ回転数ωTCを出力するモデルとしてモデリングする。
トルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCは、以下のようにして求める。まず、タービン回転数はフォワードクラッチ回転数に等しいと仮定する。フォワードクラッチ30aへの入力トルクは、トルクコンバータ24の出力トルクからオイルポンプによるフリクションロストルクTpumploss(=Oilpumploss)を引き去り、フォワードギヤ効率ηFWDRVSを乗じたものである。
尚、オイルポンプによるフリクションロストルクOilpumplossは、トルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCに依存して与えられるものとする。一方、出力トルクは、フォワードクラッチ30aの出力トルクTFWDRVSである。
従って、入出力トルクの差をフォワードクラッチ30aのイナーシャIFWDRVSで除すことによってトルクコンバータ24の出力軸回転加速度ωTCdotが求まるので、それを積分することでトルクコンバータ24の出力軸回転数ωTCを得る。
フォワードクラッチトルクTFWDRVSは、フォワードクラッチ30aの最大伝達トルクTFWDMAXに、フォワードクラッチ30aの入出力軸回転数ωTCとωFWDRVSの差を乗じ、係数λFWDを掛けることで与えられるものとしてモデル化する。
次に、回転数の伝達について説明する。
ドリブンプーリ26bの回転数ωDNは、タイヤ回転数ωtireにファイナルギヤレシオρFとセカンダリギヤレシオρSを掛けることで得られる。ドライブプーリ26aの回転数ωDRは、ドリブンプーリ回転数ωDNにプーリ変速比ρpulleyを乗ずることで得られる。フォワードクラッチ30aの回転数ωFWDRVSは、ドライブプーリ回転数ωDRにフォワードギヤレシオρFWDを乗ずることで求まる。
以上を整理すると、フォワードクラッチ回転数ωFWDRVSは、タイヤ回転数ωtireにフォワードギヤレシオρFWD、プーリ変速比ρpulley、セカンダリギヤレシオρS、ファイナルギヤレシオρFを乗ずることで得られる。
またプーリ変速比ρpulleyは、目標プーリ変速比ρpulleytgtに対して1次遅れで追従するものとする。
次に、トルクの伝達について説明する。
ドライブプーリトルクTDRは、フォワードクラッチトルクTFWDRVSにフォワードギヤレシオρFを掛けることで得られる。ドリブンプーリトルクTDNは、ドライブプーリトルクTDRにプーリレシオρpulleyとCVT効率ηCVTを掛けることで得られる。ドライブシャフトトルクTDSは、ドリブンプーリトルクTDNにセカンダリギヤレシオρSとファイナルギヤレシオρFを乗ずることで得られる。
以上を整理すると、ドライブシャフトトルクTDSは、フォワードクラッチトルクTFWDRVSにセカンダリギヤレシオρS、ファイナルギヤレシオρF、CVT効率ηCVT、プーリ変速比ρpulley、フォワードギヤレシオρFWDを乗ずることで得られる。
車体のモデリングについて説明する。
図7に示すように、ドライブシャフトトルクTDSと制動力FBRKを入力とし、タイヤ回転数ωtireを出力とするモデルとしてモデル化する。尚、ここでは前後方向についてのみ扱う。
車体加速度Vdotは駆動力から各走行抵抗と制動力FBRKを引き去り、車重mbodyで除すことで得られる。駆動力はドライブシャフトトルクTDSをタイヤ半径Rtireで除すことで得られる。車速Vは車体加速度Vdotを積分することで得られる。
走行抵抗については、ここでは勾配抵抗Fslope、転がり抵抗Froad、空気抵抗Fairを考慮する。勾配抵抗Fslopeは、車重mbodyに重力加速度gを掛け、勾配θslopeの正弦を乗ずることで与えられる。転がり抵抗Froadは、車重mbodyに転がり抵抗係数μroadと重力加速度gを掛け、勾配の余弦を乗ずることで得られる。空気抵抗Fairは、車速Vの2乗値に空気抵抗係数μairを掛けることで得られる。また制動力FBRKについては、簡単のためブレーキペダル開度BRKに係数Fbrakemaxを乗じることでブレーキペダル開度に対して線形で得られるものとする。
タイヤ回転数ωtireは、車速Vをタイヤ半径Rtireで割ることにより求まる。
以上でエンジン、トルクコンバータ、トランスミッション、車体の数式モデルを記述したので、ここではそれらを結合した状態方程式を導出する。
フューエルカットOFFの場合、入力を[THL,ρpulleytgt]、状態を[Vdot,ωENG,ωTC,ρpulley]としてモデルを導出する。
同様に、フューエルカットONの場合、入力を[BRK,ρpulleytgt]、状態を[Vdot,ωENG,ωTC,ρpulley]としてモデル(第2のモデル)を導出する。
このように、この制御対象は、フューエルカットOFF/ONによって切替わるという特徴がある。従って、この制御対象を、フューエルカットOFF/ONによってモデルが切替わるハイブリッドシステムと捉える。
また、目標車速への追従において、変速比を積極的に制御することにより、燃費の向上を図る。そこで、燃費最適作動線から求めるエンジン回転数も目標値として与え、目標エンジン回転数も考慮して変速比、スロットル開度およびブレーキ開度を制御する。
ここでは、定速走行制御系を図8のように構成する。まず目標車速を与え、定速走行コントローラにより、実際の車速が目標車速に一致するように変速比、スロットル開度およびブレーキ開度を制御する。
図1の構成も敷衍して具体的に説明すると、前記したシフトコントローラ74が図8の定速走行コントローラとして機能するが、シフトコントローラ74は、油圧機構26dに指令値を送り、その動作を制御して変速機26に油圧を供給させて決定された変速比を制御すると共に、前記したエンジンコントローラ60を介してDBW16に指令値を送り、その動作を制御してスロットル開度を調整する。
さらに、シフトコントローラ74は、ブレーキアクチュエータ42aに指令値を送り、その動作を制御してブレーキ開度、即ち、ブレーキ42の動作を制御する。
定速走行制御を行う際、例えばスロットル開度を制御するだけでも、目標車速にある程度追従させることは可能である。しかし、エンジン出力が飽和してしまうと、それ以上追従させることができない。
また、エンジン出力が飽和していない状況においても、スロットル開度のみで制御を行なった場合、燃費の悪化が懸念される。良好な燃費効率とするためには、スロットルと変速比を適切に制御することにより、エンジンを図9に示すような燃費最適作動線に沿って運転させれば良いことが知られている。
そのための一つの手法として、現在のエンジントルクに応じて、燃費最適作動線の特性から目標とする燃費最適なエンジン回転数を求め、実エンジン回転数がそれに一致するようにスロットルと変速比を制御することが考えられる。
しかし、常に燃費最適作動線に追従させようとすると、乗り心地に違和感が生じたりする不都合があり、加速要求があっても十分な加速力が得られないなどの別の問題が生じてしまう。
そこで、常に燃費最適作動線に追従させようとするのではなく、燃費最適作動線と実際のエンジンの運転点との差が、ある時間範囲での総和としてなるべく小さくなるように制御する如く構成する。
これにより、例えば加速要求があった場合は一時的に燃費最適作動線から離れた運転点で運転させ、加速が終了次第、速やかに燃費最適作動線近傍に戻すことにより、運転者の要求を満足しつつ燃費も向上させることが可能となる。それを実現するため、次のような評価関数を設定する。
上式は、現時刻からHp-1ステップ未来までの燃費最適作動線と実際のエンジン運転点の差ωENG-refの総和を評価する関数JENGであり、この評価関数を最小化(最適化)するように変速比を制御することにより、先の要求を実現することを可能とする。
また、車速をフィードバックする構成であることから、目標車速Vrefと実際の車速Vの差を評価する評価関数JVを設定し、追従性の評価を行う。
さらに、急激に変速比、スロットル開度およびブレーキ開度を変化させることは、乗り心地やドライバの安心感の観点から好ましくない。そこで、変速比と、スロットル開度とブレーキ開度からなる運転者操作量に対しても評価関数Jρpulley,JAPBRKを設定する。
以上、燃費(エンジン回転数)および車速、変速比、スロットル開度およびブレーキ開度のそれぞれを評価する評価関数を設定したが、一般に車速追従性を向上させようとすると燃費が悪化するため、評価関数JENGとJVはトレードオフの関係であると考えられる。そこで、個々の評価関数を評価するのではなく、それぞれの評価関数に重み付けをして足し合わせた評価関数を新たに設定する。
このようにして、重みの調整によってどの特性をより重視したいかを考慮しつつ、それぞれの評価関数を同時に最適化することが可能となる。
変速比を変化させると同じ車速に対してエンジン回転数が変化する。例えば車速が非常に高いときに変速比をロー側へ変化させると、エンジン回転数は非常に高くなってしまう。エンジン回転数にはレブリミット回転数が設けられており、この回転数を超える運転はエンジン保護のため避けなければならない。
逆に、車速が非常に低いときに変速比をハイ側へ変化させたとき、実施例の如く、エンジン10からタイヤ(駆動輪)Wまでが直結したままである場合、エンジン回転数は非常に低くなり、エンストの恐れがあるので、これも避けなければならない。
また変速比自体も、変速可能な範囲が限られており、その範囲内で変速させる必要がある。さらに、乗り心地や変速機保護などの観点から、あまり急激に変速比を変化させるのも好ましくない。
以上のことを実現するため、エンジン回転数ωENG、変速比ρpulley、目標変速比ρpulleytgtの変化速度のそれぞれに制約条件を設けることとする。
ここでΔρpulleytgtは目標変速比の変化速度であり、現在の変速比とエンジン回転数に依存して与えるものとする。このようにすることで、上記課題を考慮した変速比制御を可能とする。
この実施例における定速走行制御系の設計上の特徴を整理すると、以下のようになる。
1.未来の操作量および状態を予測できるようにする。
2.操作量や状態の動作範囲などに拘束がある。
3.制御対象はフューエルカットOFF/ONによって切替わるハイブリッドシステムとされる。
1.に対する適当な手段の一つとして、モデル予測制御がある。モデル予測制御は, 図10に示すように逐次未来の状態軌道を予測し、ある評価指標の基で予測軌道をオンラインで最適化しながら操作量を生成する手法であり、拘束条件も陽に考慮することができる。
しかしながら、オンラインで最適制御問題を解く必要があるため、計算時間の問題で適用が困難な場合が多くあり、主に化学プラントの操業などの利用に限定されている。車両への適用としても、上記した特許文献3に見られる車両の車間制御のように、比較的ダイナミクスの遅いシステムが対象である。
近年、これに代わる制御手法として、マルチパラメトリック計画法という最適化手法によって、オフラインで最適制御問題を解く手法が注目されている。この手法では最適解を初期状態に依存した形で陽に得ることができるため、実装の際にはサンプリング時刻おきに状態を得るだけで、ただちに最適値を生成することができる。
従って、この実施例においてはマルチパラメトリック計画法を用いることによって、先に述べた拘束条件や評価関数を考慮した定速走行コントローラを設計する。
また、マルチパラメトリック計画法の枠組みによりハイブリッドシステムを取り扱うことも可能であるため、フューエルカットOFF/ONによるモデルの切替わりも考慮に入れて定速走行コントローラを設計することとする。
マルチパラメトリック計画法によるハイブリッド予測コントローラは、線形離散モデルに対してコントローラを設計する手法である。先に導出した状態方程式は非線形項を含むため、線形化を行う必要がある。線形化は元の非線形方程式の平衡点周りにおいて行うため、まず平衡状態における各変数の対応関係を求める必要がある。
平衡状態においては各入力、状態は変化しないため、非線形方程式の左辺は各状態の微分値であることから0となる。例えば変速比ρpulleyについては、以下の式のようにしてρpulleyとρpulleytgtの対応関係を求める。
尚、添え字のeは平衡状態における値であることを意味する。他の式についても同様にして対応関係を求めて整理すると、車速と変速比の平衡点を与えれば、他の状態、入力は一意に決定できる。
以上のようにして、車速と変速比の平衡点のみを与えて他の全ての平衡点を一意に決める。車速の平衡点としては、目標車速を与えれば良い。
平衡点周りの線形モデル導出について説明する。
先の変速比を例にとれば、δρpulley=ρpulley−ρpulleyeとして、平衡点ρpulleyeからの変化分δρpulleyについての線形モデルを求める。他の変数についても同様である。
以上より、フューエルカットOFF/ONそれぞれの線形モデルを求める。またフューエルカットOFFのときはエンジン10が回す側であるためωENG≧ωTCであり、フューエルカットONのときはエンジン10が回される側であるためωENG<ωTCであるので、ωENGとωTCの大小関係からフューエルカットOFF/ONの切替わりを判断する。具体的には、以下のような線形モデルを得る。
ここで、a11a〜a44a,b21a,b42a,a11b〜a44b,b11b,b42bは物理パラメータおよび平衡点周りでの線形化による線形化係数によって与えられる。さらに、ハイブリッド予測制御は離散系の設計手法であるので、上記線形モデルを離散化する。
以上の設定に基づき、マルチパラメトリック計画法によりハイブリッド予測コントローラを求める。いま扱っている問題は、時変な目標値に追従させるサーボ系のコントローラを設計することであり、そのままではマルチパラメトリック計画法に適用できないため、問題をマルチパラメトリック計画法に適用可能な形式に変更する。
Δu(k)=u(k)-u(k-1)を新たな入力とし、状態を[δx(k); δu(k − 1); δyref(k)]とする拡大系を構成する。
この拡大系に対し、先に述べた評価関数と拘束条件を設定した上で、マルチパラメトリック計画問題を解くことにより、ホライゾン区間にわたる操作量のベクトルを得る。ハイブリッド予測制御の場合、得られた操作量ベクトルのうち初期ステップの操作量Δu(k)のみをシステムへ加えるが、これは以下のように陽に得ることができる。
ここで、Fi, Giはそれぞれコントローラゲインである。Δu(k)は現在時刻における前ステップからの入力の差分なので、実際にシステムへ加える操作量は以下とする。
フューエルカットOFFのとき、制御対象の入力は[THL,ρpulleytgt]であるため、先の操作量算出式に当てはめると、以下のようになり、目標変速比ρpulleytgtとスロットル開度THLが同時に算出される。
以上により、運転者操作量の低減を考慮した定速走行制御を可能とする。
ここからは、具体的な数値例を用いて説明する。
ここでは、車速と対応する変速比の平衡点を(20, 0.60)と設定する。この平衡点周りの線形モデルを導出し、さらに離散化をおこなった結果、以下のようになる。ここでは0次ホールドを用いて離散化したが、1次ホールドや双1次変換などを用いても良い。
つぎに評価関数に対する重みQ,Rの設定を行う。ここでは、次のように設定する。
R1=10,R2=1000,Q1=1,Q2=300
また、制御ホライゾンHc、予測ホライゾンHpを次のように設定する。
Hc=Hp=3
さらに、拘束条件の設定を以下の通り行う。
以上の設定のもとで、マルチパラメトリック計画法によって求めたハイブリッド予測コントローラを図12に示す。
ハイブリッド予測コントローラは、各状態の組み合わせによって得られる多面体領域に定義される。図12は、状態のうちエンジン回転数、トルクコンバータ出力軸回転数、車速の3状態に関して、領域がどのように分割されているかを表した図である。同図から、状態に応じて領域が細かく分割されていることが分かる。
図13に示す表から明らかなように、コントローラが各領域毎に設定される。フューエルカットのOFF/ONや、他の状態変化に応じてコントローラを適宜切り替えることにより、設定した評価関数や拘束条件を考慮した最適な定速走行制御を行うことを可能とした。
先に述べた数21においてQ1は車速追従性に対する重みとなっている。従って、例えば車速の追従性を向上させたければ、Q1を大きくすれば良い。また、変速比を積極的に変化させて車速追従性を向上したければ、入力に対する重みのうち変速比に対応する重みR2を小さくすれば良い。
制御対象は、スロットル、変速比それぞれから車速までの動特性を含んだモデルとなっているので、最適制御問題を解くことにより、上記のように設定した重みを加味した、スロットルと変速比の最適な組合せを求めることができる。
図14は、この実施例のシミュレーション結果を示すデータ図である。
図14(a)は、目標車速がステップ状に変化したときの本発明と従来技術の追従性を示す。減速全般において、より素早くロー側に変速することによって従来技術よりも目標車速への追従性(立下り)が向上しているのが理解できよう。
図14(b)に、この実施例による変速比(実線で表わす)と、変速比とスロットルを独立に制御した場合(従来技術)の変速比(破線で表わす)を示す。この実施例の場合、変速比とスロットルを協調させて制御することが可能なため、変速比をロー側に変更することで効果的に減速できる場合には瞬時にロー側に変速することができ、それにより、変速比とスロットルを独立に制御する場合よりも、速やかに減速させることができる。
以上述べた如く、この実施例にあっては、エンジン10と、前記エンジン10の出力を変速する変速機(CVT)26と、前記エンジンと前記変速機が搭載される車体とを少なくとも備えた車両14の定速走行制御装置(シフトコントローラ74)において、前記車両14(車両システム)を制御対象とし、少なくとも変速比とスロットル開度とを入力、車速を出力とするモデルで記述すると共に、前記車速が目標車速に一致するように、前記変速比と前記スロットル開度を制御する制御系(図8の定速走行コントローラ)と、前記制御系の指令に応じて前記エンジンのスロットルバルブを駆動してスロットル開度を調整するDBW機構16と、前記制御系の指令に応じて前記変速機26に油圧を供給する油圧機構26dとを備える如く構成したので、スロットル開度と変速比を協調させて定速走行制御を行うことが可能となり、定速走行制御における目標車速への追従性を向上できると共に、燃費を向上させることも可能となる。
即ち、スロットル開度と変速比の2つを同時に操作可能なため、例えば登坂の場合でも、スロットルを開けてエンジントルクが飽和してから変速比をダウンシフト側に制御するのではなく、スロットルを開けながら変速比も同時にダウンシフト側に制御することが可能となる。
従って、目標車速への追従性を向上させることができると共に、より燃費の良好な運転点を移動しながら走行することで、燃費を向上させることも可能となる。
また、スロットル開度と変速比は直接的に依存してはおらず、あくまで目標車速に追従するための最適なスロットル開度と変速比がセットで得られるので、状況に応じて柔軟に制御することが可能となる。
さらに、変速比を操作することで、加速が要求されるときであれば変速比を一旦ロー側にすることでより素早い加速を得ると共に、減速が要求されるときであればエンジンブレーキを併用することでスムーズな減速を得ることができる。
また、前記制御系は、少なくとも前記変速比と前記スロットル開度についてそれぞれ設定された評価関数Jρpulley,JAPBRK(数式19,20,21)にそれぞれ重みQ,Rを乗じて得た積の総和Jが最適となるように前記変速比と前記スロットル開度を制御する如く構成したので、上記した効果に加え、評価関数を適宜設定して評価関数に重みを乗じて得た積の総和が最適(あるいは最小)となるようなスロットル開度と変速比の操作量を算出することにより、最適な経路(運転点)で目標車速に追従させることができる。
また、前記制御系は、前記車速が目標車速に一致するように、前記変速比と前記スロットル開度とブレーキペダル開度とを制御する如く構成したので、上記した効果に加え、目標車速への追従性を一層向上させることができる。また、前記制御系は、フューエルカットが実行される場合、前記制御対象(車両14、車両システム)を、前記変速比とブレーキペダル開度とを入力、前記車速を出力とする第2のモデル(数式17)で記述する如く構成した。また、前記変速比ρpulleyとエンジン回転数ωENGと目標変速比ρpulleytgtとに制約条件(数式22)が設けられる如く構成した。
尚、上記において変速機としてCVT26を使用したが、有段変速機であっても良い。
10 エンジン(内燃機関)、14 車両、16 DBW機構、24 トルクコンバータ、26 変速機(CVT)、26d 油圧機構、30 前後進切換装置、30a フォワードクラッチ、42a ブレーキアクチュエータ、60 エンジンコントローラ、74 シフトコントローラ、W 駆動輪(タイヤ)、76 定速走行制御指令用のスイッチ群