JP5069158B2 - タンデム型飛行時間型質量分析装置 - Google Patents
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Description
TOFMSは、一定量のエネルギーを与えてイオンを加速・飛行させ、検出器に到達するまでに要する時間からイオンの質量電荷比を求める質量分析装置である。TOFMSでは、イオンを一定のパルス電圧Vaで加速する。このとき、イオンの速度vは、エネルギー保存則から、
mv2/2 = qeVa ………(1)
v = √(2qeV/m) ………(2)
と表わされる(ただしm:イオンの質量、q:イオンの電荷、e:素電荷)。
式(3)により、飛行時間Tがイオンの質量mによって異なることを利用して、質量を分離する装置がTOFMSである。図1に直線型TOFMSの一例を示す。また、イオン源と検出器の間に反射場を置くことにより、エネルギー収束性の向上と飛行距離の延長を可能にする反射型TOFMSも広く利用されている。図2に反射型TOFMSの一例を示す。
TOFMSの質量分解能は、総飛行時間をT、ピーク幅をΔTとすると、
質量分解能 = T/2ΔT ………(4)
で定義される。すなわち、ピーク幅ΔTを一定にして、総飛行時間Tを延ばすことができれば、質量分解能を向上させられる。しかし、従来の直線型、反射型のTOFMSでは、総飛行時間Tを延ばすこと、すなわち総飛行距離を延ばすことは装置の大型化に直結する。装置の大型化を避け、かつ高質量分解能を実現するために開発された装置が、多重周回型TOFMS(非特許文献1)である。この装置は、円筒電場にマツダプレートを組み合わせたトロイダル電場を4個用い、8の字型の周回軌道を多重周回させることにより、総飛行時間Tを延ばすことができる。この装置では、初期位置、初期角度、初期運動エネルギーによる検出面での空間的な広がりと時間的な広がりを1次の項まで収束させることに成功している。
一般的な質量分析では、イオン源で生成したイオンを質量分析計で質量分離した後検出し、マススペクトルを取得する。このとき得られる情報は質量のみである。以下、この測定をMS測定と呼ぶ。これに対し、イオン源で生成した特定のイオン(プリカーサイオン)を自発的または強制的に開裂させ、生成したプロダクトイオンを質量分離した後検出し、プロダクトイオンスペクトルを取得するMS/MS測定がある。この測定ではプリカーサイオンの質量と複数の経路で生成するプロダクトイオンの質量情報が得られるため、プリカーサイオンの構造情報を得ることができる(図3)。
Up = Ui × zi/zp × m/M ………(5)
となる。ただしUpはプロダクトイオンの運動エネルギー、Uiはプリカーサイオンの運動エネルギー、zpはプロダクトイオンの価数、ziはプリカーサイオンの価数、mはプロダクトの質量、Mはプリカーサイオンの質量である。反射場を含む第2TOFMSでは、質量および運動エネルギーにより飛行時間が異なるため、プロダクトイオンを質量分析することができる。
TOF/TOFは、式(5)から分かるように幅広い運動エネルギーをもつプロダクトイオンが分析対象となる。これを可能とする第2TOFMSのイオン光学系にはいくつかのタイプが存在する。いくつかのものには、減速や再加速などを利用して第2TOFMSで解析するプロダクトイオンの運動エネルギーの分布を圧縮する方法が取られている。ここで運動エネルギーの圧縮率Rを次のように定義する。
ただし、Ucは衝突室に入射前のプリカーサイオンの運動エネルギー、Upaは再加速により得る運動エネルギーである。プリカーサイオンが1価イオンの場合、プロダクトイオンの運動エネルギーUproは、Upa<Upro≦Uc+Upaとなる。
1.特許文献5、6は、運動エネルギーの圧縮を行なわない。そのため、幅広い運動エネルギー収束性を実現できる曲線型イオンミラーを利用する。
2.特許文献7は、衝突室の直前でプリカーサイオンを一度減速機構により減速させ、衝突解離させた後、再加速機構で再び加速を行なう。圧縮率は95%程度である。運動エネルギー圧縮率が高いため、反射場の運動エネルギー収束性は低くても良い。
3.特許文献8は、リフト機構と再加速機構を用いる。運動エネルギー圧縮率は60〜70%と比較的高いため、反射場の運動エネルギー収束性はある程度低くても良い。
4.特許文献9のように、再加速機構と中程度の運動エネルギー収束性を持つ反射場(直線+放物線)を用いる場合、イオンミラーの運動エネルギー収束性が高いため、再加速電圧は比較的フレキシブルである。
サンプルをイオン化するイオン源と、
生成したイオンをパルス的に加速する加速手段と、
鉛直方向に複数の扇形電場を積層させた4つの扇形電場ブロックを対向配置させて構成させたらせん軌道内に沿って飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させるらせん軌道型の第1の飛行時間型質量分析装置と、
該第1の飛行時間型質量分析装置の出口近傍に置かれ、特定の質量電荷比を持つイオンのみを選択するイオンゲートと、
該イオンゲートの後段に配置され、選択されたイオンを開裂させるためにガスを充填させた衝突室と、
該衝突室の後段に配置され、開裂したイオンを質量電荷比ごとに質量分離させる第2の飛行時間型質量分析装置と、
該第2の飛行時間型質量分析装置を通過したイオンを検出する検出器と
から成るタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
前記第1の飛行時間型質量分析装置を構成する4つの扇形電場ブロックのうち、前記らせん軌道の終点が置かれた隣り合う2つの扇形電場ブロックの間の空間部分に、両飛行時間型質量分析装置のイオン軌道を連結する、反射場を含むイオン偏向手段を設けたことを特徴としている。
生成したイオンをパルス的に加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させる第1の飛行時間型質量分析装置と、
該第1の飛行時間型質量分析装置の出口近傍に置かれ、特定の質量電荷比を持つイオンのみを選択するイオンゲートと、
該イオンゲートの後段に配置され、選択されたイオンを開裂させるためにガスを充填させた衝突室と、
該衝突室の後段に配置され、鉛直方向に複数の扇形電場を積層させた4つの扇形電場ブロックを対向配置させて構成させたらせん軌道に沿って飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させるらせん軌道型の第2の飛行時間型質量分析装置と、
該第2の飛行時間型質量分析装置を通過したイオンを検出する検出器と
から成るタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
前記第2の飛行時間型質量分析装置を構成する4つの扇形電場ブロックのうち、前記らせん軌道の入射点が置かれた隣り合う2つの扇形電場ブロックの間の空間部分に、両飛行時間型質量分析装置のイオン軌道を連結する、反射場を含むイオン偏向手段を設けたことを特徴としている。
サンプルをイオン化するイオン源と、
生成したイオンをパルス的に加速する加速手段と、
鉛直方向に複数の扇形電場を積層させた4つの扇形電場ブロックを対向配置させて構成させたらせん軌道に沿って飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させるらせん軌道型の第1の飛行時間型質量分析装置と、
該第1の飛行時間型質量分析装置の出口近傍に置かれ、特定の質量電荷比を持つイオンのみを選択するイオンゲートと、
該イオンゲートの後段に配置され、選択されたイオンを開裂させるためにガスを充填させた衝突室と、
該衝突室の後段に配置され、開裂したイオンを質量電荷比ごとに質量分離させる第2の飛行時間型質量分析装置と、
該第2の飛行時間型質量分析装置を通過したイオンを検出する検出器と
から成るタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
前記第1の飛行時間型質量分析装置を構成する4つの扇形電場ブロックのうち、前記らせん軌道の終点が置かれた隣り合う2つの扇形電場ブロックの間の空間部分に、両飛行時間型質量分析装置のイオン軌道を連結する、反射場を含むイオン偏向手段を設けたので、
プロダクトイオンの運動エネルギーの圧縮を可能とするタンデム型飛行時間型質量分析装置を提供することが可能になった。
生成したイオンをパルス的に加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させる第1の飛行時間型質量分析装置と、
該第1の飛行時間型質量分析装置の出口近傍に置かれ、特定の質量電荷比を持つイオンのみを選択するイオンゲートと、
該イオンゲートの後段に配置され、選択されたイオンを開裂させるためにガスを充填させた衝突室と、
該衝突室の後段に配置され、鉛直方向に複数の扇形電場を積層させた4つの扇形電場ブロックを対向配置させて構成させたらせん軌道に沿って飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させるらせん軌道型の第2の飛行時間型質量分析装置と、
該第2の飛行時間型質量分析装置を通過したイオンを検出する検出器と
から成るタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
前記第2の飛行時間型質量分析装置を構成する4つの扇形電場ブロックのうち、前記らせん軌道の入射点が置かれた隣り合う2つの扇形電場ブロックの間の空間部分に、両飛行時間型質量分析装置のイオン軌道を連結する、反射場を含むイオン偏向手段を設けたので、
プロダクトイオンの運動エネルギーの圧縮を可能とするタンデム型飛行時間型質量分析装置を提供することが可能になった。
図7〜9は本発明にかかる第1の実施の形態例を示す図である。図7は装置をZ方向に見た図、図8は図7の矢印方向(Y方向)から見た図である。図において、11はイオン源、12〜15はZ方向に多層に積層されて8の字形のらせん軌道を形作る扇形電場、16はプリカーサイオンを選択するイオンゲート、17はらせん軌道TOFMS(以下第1TOFMS)と第2TOFMSの間を接続するインターフェイス(反射場)、18はイオンを開裂させる衝突室、19は衝突室17で開裂したイオンが入射される第2TOFMSである。尚、プリカーサイオンを選択するためのイオンゲートは、第1TOFMS中に配置されているが、衝突室18までの空間であれば、必ずしも第1TOFMSの中である必要はない。
本実施例は、構成は実施例1と同じである。そこで違いのあるインターフェイス部のみ図10に示す。また、図11に各地点でのポテンシャルを図示する。
本実施例は、実施例2を改良したものである。実施例2では、Voutと第2TOFMSの始点電位V2は一致させなければならないので、Voutを変更すると、第2TOFMSのイオン光学系の特性が変化する。イオン光学系の設計への配慮を考えると、Voutによって第2TOFMSのイオン光学系が変化しない方が良い。
本実施例は、実施例3と類似しているが、ポテンシャルリフト20を衝突室18の前段に配置している点が異なっている。この構成の利点として、衝突室18を任意の電位(通常は接地電位)に配置することができる。
本実施例は、実施例1〜4に第1TOFMS単独使用によるMS測定用の検出器を付加するものである。
本実施例は、第2TOFMSにらせん軌道型TOFMSを採用するものである。尚、第1TOFMSはイオン源、イオン加速部、イオンゲートを含むものであれば、どのようなTOFMSであっても良い。
Claims (14)
- サンプルをイオン化するイオン源と、
生成したイオンをパルス的に加速する加速手段と、
鉛直方向に複数の扇形電場を積層させた4つの扇形電場ブロックを対向配置させて構成させたらせん軌道に沿って飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させるらせん軌道型の第1の飛行時間型質量分析装置と、
該第1の飛行時間型質量分析装置の出口近傍に置かれ、特定の質量電荷比を持つイオンのみを選択するイオンゲートと、
該イオンゲートの後段に配置され、選択されたイオンを開裂させるためにガスを充填させた衝突室と、
該衝突室の後段に配置され、開裂したイオンを質量電荷比ごとに質量分離させる第2の飛行時間型質量分析装置と、
該第2の飛行時間型質量分析装置を通過したイオンを検出する検出器と
から成るタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
前記第1の飛行時間型質量分析装置を構成する4つの扇形電場ブロックのうち、前記らせん軌道の終点が置かれた隣り合う2つの扇形電場ブロックの間の空間部分に、両飛行時間型質量分析装置のイオン軌道を連結する、反射場を含むイオン偏向手段を設けたことを特徴とするタンデム型飛行時間型質量分析装置。 - 前記イオン偏向手段の入射点と出射点で電位を異ならせることにより、後段の衝突室に入射する際のイオンの運動エネルギーを制御可能にしたことを特徴とする請求項1記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記衝突室と前記第2の飛行時間型質量分析装置との間に、イオンが入射および出射できるように構成された導電性の箱を設け、イオンがこの箱に入射したときと、イオンがこの箱から出射したときとで、箱の電位を異ならせることにより、前記衝突室と前記第2の飛行時間型質量分析装置の始点との間に生じたポテンシャルの差を補完するようにしたことを特徴とする請求項2記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記イオン偏向手段の出射点と前記衝突室との間に、イオンが入射および出射できるように構成された導電性の箱を設け、イオンがこの箱に入射したときと、イオンがこの箱から出射したときとで、箱の電位を異ならせることにより、前記イオン偏向手段の出射点と前記衝突室との間に生じたポテンシャルの差を補完するようにしたことを特徴とする請求項2記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記衝突室の電位が接地電位であることを特徴とする請求項4記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記イオン偏向手段の前段に、イオン軌道上とイオン軌道外を移動可能に構成された検出器を配置することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記イオン偏向手段をイオンが通過可能とし、その後段に検出器を配置することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記イオン偏向手段による偏向角度が80〜100°の間であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- サンプルをイオン化するイオン源と、
生成したイオンをパルス的に加速する加速手段と、
加速されたイオンを飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させる第1の飛行時間型質量分析装置と、
該第1の飛行時間型質量分析装置の出口近傍に置かれ、特定の質量電荷比を持つイオンのみを選択するイオンゲートと、
該イオンゲートの後段に配置され、選択されたイオンを開裂させるためにガスを充填させた衝突室と、
該衝突室の後段に配置され、鉛直方向に複数の扇形電場を積層させた4つの扇形電場ブロックを対向配置させて構成させたらせん軌道に沿って飛行させて、質量電荷比ごとにイオンを質量分離させるらせん軌道型の第2の飛行時間型質量分析装置と、
該第2の飛行時間型質量分析装置を通過したイオンを検出する検出器と
から成るタンデム型飛行時間型質量分析装置において、
前記第2の飛行時間型質量分析装置を構成する4つの扇形電場ブロックのうち、前記らせん軌道の入射点が置かれた隣り合う2つの扇形電場ブロックの間の空間部分に、両飛行時間型質量分析装置のイオン軌道を連結する、反射場を含むイオン偏向手段を設けたことを特徴とするタンデム型飛行時間型質量分析装置。 - 前記イオン偏向手段の入射点と出射点で電位を異ならせることにより、後段の衝突室に入射する際のイオンの運動エネルギーを制御可能にしたことを特徴とする請求項9記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記衝突室と前記第2の飛行時間型質量分析装置との間に、イオンが入射および出射できるように構成された導電性の箱を設け、イオンがこの箱に入射したときと、イオンがこの箱から出射したときとで、箱の電位を異ならせることにより、前記衝突室と前記第2の飛行時間型質量分析装置の始点との間に生じたポテンシャルの差を補完するようにしたことを特徴とする請求項10記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記イオン偏向手段の出射点と前記衝突室との間に、イオンが入射および出射できるように構成された導電性の箱を設け、イオンがこの箱に入射したときと、イオンがこの箱から出射したときとで、箱の電位を異ならせることにより、前記イオン偏向手段の出射点と前記衝突室との間に生じたポテンシャルの差を補完するようにしたことを特徴とする請求項10記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記衝突室の電位が接地電位であることを特徴とする請求項12記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
- 前記イオン偏向手段による偏向角度が80〜100°の間であることを特徴とする請求項9ないし13のいずれか1項に記載のタンデム型飛行時間型質量分析装置。
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