近年、エネルギー分野における地球温暖化対策や環境保全を目的として太陽光、風力、廃棄物によるリサイクル発電等の再生可能エネルギーの有効利用が推進されている。一方、電力需要の観点からは大規模情報処理設備、半導体製造設備、廃棄物リサイクル処理設備等のような、局所的大電力需要地区に対する安定した大容量の電力供給技術の確立が要望されており、電力消費地の近傍に設置されて特定の電力需要家にのみ電力を供給するIPP(Independent Power Plant)や自家発電システムのような利用形態が進んでいる。
しかし近年、太陽光発電や水素使った燃料電池発電などに代表されるCO2の発生が少ない電源の開発が進み、単機容量も大容量化してコストも低廉化され、遠隔立地にある電力需要家に対してもクリーンな電力の購入義務が地球温暖化防止のために期待されている。こういったクリーン電源からなる分散型電源の多くは直流発電装置であり、高効率な直流電力輸送が重要な課題の一つとして挙げられている。
通常、こういった遠隔地の大型発電所から電力消費地を結ぶ電力系統は、電流の2乗に比例して生じる損失熱による送電線温度上昇が許容値を超えないよう、電圧を昇圧して電流を低減させて送電損失を減少させることが行われているが、高電圧化による設備の大型化により景観を守る事が難しくなり、今後の電力需要増に対する設備増強が困難になってきている。
その対策の1つとして、電力輸送に際して交流を直流電力にして送電ケーブルを超電導化することにより送電ロスを減らすことが提案されている。すなわち、送電に超電導ケーブルを利用することが、大電力を変換器や変圧器を省略化しながら、自然環境を守れる有力な手段とされている。このような超電導ケーブルは、都市部の高密度電力輸送対策として欧米や日本で1990年代から研究、開発が進められてきたが、交流/直流変換器のコストが高いことから、主に交流超電導ケーブルが対象とされてきた。しかしながら、交流超電導送電では交流超電導固有の交流損失が発生し、現用と比較すれば送電損失は低下するものの、送電損失を抜本的に削減、小さくすることが困難になっている。
さらに、再生可能エネルギー発電等による分散型電源が大量に導入されると、電力の安定供給や品質の低下が懸念され、エネルギーの有効利用を考えると、直流電力輸送方式が見直されている。また、巨大なデータサーバ局や地球シミュレータのような超高速コンピュータでは膨大な直流電流を必要としており、超電導を使った直流電力輸送技術の検討が進んでいる。そのため、本願出願人は、特許文献1において、電力を発電する再生可能エネルギーを利用した複数の分散型電源と、これらの分散型電源を連係するエネルギー輸送手段と、液体窒素中に微細粒子状の固体窒素が混合されたスラッシュ窒素を製造するスラッシュ窒素製造装置とを備え、前記エネルギー輸送手段が電力を送電する直流超電導ケーブルと、スラッシュ窒素が供給されて前記直流超電導ケーブルの冷却と同時に冷熱の輸送を行う冷媒流路とを有し、前記分散型電源とは異なる遠隔地域に偏在するエネルギー消費地にエネルギー輸送手段を介し、電力とともに冷熱を供給するようにした高効率エネルギー供給システムを提案した。
このような直流超電導ケーブルを用いたシステムは、直流送電であるから交流超電導に見られた交流損失がなく、遠隔地間での送電にも適していると共に、例えばビル内の配電ケーブルや計算センター内の電力ケーブルとして用いると、超コンパクトで高密度の送電が可能となるため効率的にも有利となる。しかしながらこういったシステムは、直流電力需要家に対しては好適であっても、一般的な機器はそのほとんどが交流動作であり、そのため、直流から交流に変換する変換器(インバータ)が不可欠となる。
ところが、通常の直流を交流に変換するインバータは半導体素子で構成され、常温での動作が前提であるため、極低温の超電導ケーブルと常温動作の半導体式インバータとを接続した場合、遠隔地間での送電の場合はともかく、ビル内の配電ケーブルや計算センター内の電力ケーブルとして用いるときは、多量の寒冷材を用いる直流超電導送電ケーブルの優位性が失われ、経済性が成立しなくなる。こういったことに対処するため特許文献2には、超電導状態において直流を交流に効率良く変換すべく、電磁特性の異方性の高いビスマス系、またはタリウム系からなる大面積の酸化物超電導薄膜の膜面に垂直に磁界を印加し、電気抵抗を制御するようにした超電導スイッチング素子と、この超電導スイッチング素子に、Q値の高いLC共振回路におけるコイルLおよびコンデンサCとを直列に接続すると共に、直流電源と、交流出力を取り出す1対の出力端とを接続した、超電導スイッチング素子および超電導式インバータが開示されている。
この特許文献2に用いられるビスマス系、またはタリウム系等の酸化物超電導体は、一般的に高温超電導体とよばれ、液体窒素温度、すなわち77K(−195.8℃)より高い温度で超電導状態となる超電導体である。図6は、この高温超電導体を含む各種超電導体における、超電導状態を維持するための臨界電流密度(Jc)、臨界磁場(Bc2)、臨界温度(Tc)に対する特性を示した図である。図中、縦軸はそれぞれの超電導体に流すことが可能な臨界電流密度(Jc、単位:A/cm2)、座標原点から図上左方向は臨界温度(Tc、単位:K)、同じく右方向は外部臨界磁場(Tc、単位:テスラ)をそれぞれ示している。
Y123として示したのは、Y(イットリウム)、Ba(バリウム)、Cu(銅)からなる酸化物で、超電導体の化学組成はY:Ba:Cu=1:2:3(YBa2Cu3O7)となるため、略してY123超電導体と呼ばれる。また、Bi2223として示したのは、Bi(ビスマス)、Sr(ストロンチウム)、Ca(カルシウム)、Cu(銅)からなる酸化物で、超電導体の化学組成はBi:Sr:Ca:Cu=2:2:2:3となるため、略してBi2223超電導体と呼ばれる。これらY123やBi2223の超電導体は、前記した液体窒素温度、すなわち77K(−195.8℃)より高い温度で超電導状態となる高温超電導体であり、例えば非特許文献1にその製造方法の概略が紹介されている。
それに対し、NbTi、MgB2として示したのは、ニオブ・チタン(NbTi)と二ホウ化マグネシウム(MgB2)からなる超電導体で、これらは金属系超電導体と呼ばれ、ニオブ・チタン(NbTi)は臨界温度(Tc)が4.2Kであるが、二ホウ化マグネシウム(MgB2)はこれが39Kと、ニオブ・チタン(NbTi)比べると高い温度で超電導状態となる超電導体である。しかしこの図6のグラフからわかるとおり、酸化物からなる高温超電導体は、従来の金属系超電導体に比較して高い温度で超電導状態となり、かつ、臨界電流密度(Jc)、臨界磁場(Bc2)、臨界温度(Tc)のいずれもが大きくて高いポテンシャルを有していることがわかる。
クライオトロン素子は、用いる超電導体材料における、臨界電流(Ic:臨界電流密度(Jc)×超電導体の電流通過断面積)、臨界磁場(Bc2)、臨界温度(Tc)のうちのいずれかを大きくすることで、超電導体の超電導状態における無抵抗の状態から抵抗を有する常電導状態へ変化させ、また逆に、これら臨界電流(Ic)、臨界磁場(Bc2)、臨界温度(Tc)のうちの大きくしたものを元に戻すことで、抵抗を有する常電導状態から無抵抗の超電導状態へ変化させ、スイッチングを行うスイッチング素子である。
従って、基本的には全ての超電導体を利用できるが、常電導状態に変化した時の抵抗値は大きければ大きいほど良く、そのため、常電導状態における抵抗値が金属系超電導体に比較して大きな酸化物超電導体が好ましい。また、実用性を考えると、液体窒素温度77K(−195.8℃)以上で動作するY123系やBi2223系などの、酸化物高温超電導体を利用することが好ましい。
図7は、この図6に示した超電導体のうち、Bi2223、Y123、NbTi超電導体の夫々で形成した平面に対し、垂直な方向に磁場を掛けた場合における、磁場強度(横軸、単位:テスラ)に対する臨界電流密度(Jc、縦軸、単位:A/cm2)の関係を示したグラフである。この図7のグラフからわかるように、金属系超電導体のニオブ・チタン(NbTi)は、磁場の上昇に伴い徐々に臨界電流密度が低下し、超電導マグネット応用を考えるには優れた超電導体である。
Y123系のYBa2Cu3Ox(YBCO)や、Bi2223系のBi2Sr2Cu3Oxの酸化物超電導体は、銅・鉄マグネットで容易に発生できる磁場強度である1テスラで、YBa2Cu3Oxが30%、Bi2Sr2Cu3Oxが0.1%に臨界電流密度が低下し、ニオブ・チタン(NbTi)に比べ、磁場における特性が悪い。しかしながら、これは逆に言えば、酸化物超電導体は磁場で制御するクライオトロンとして都合が良い特性であり、前記特許文献2で用いられるビスマス系、またはタリウム系の酸化物超電導体は、このような特性を利用したスイッチング素子とインバータである。
特開2006−325328号公報
特開2005−116921号公報
財団法人 国際超電導産業技術研究センター発行「超電導Web21」2006年4月3日発行 http://www.istec.or.jp/Web21/index-J.htmlを参照
しかしながら特許文献1に示された高効率エネルギー供給システムは、分散型電源を連係するエネルギー輸送手段が示されてはいるが、超電導状態を利用した超電導スイッチングや直流を交流に変換するインバータについてはなんら開示されていない。
また、特許文献2に示された超電導スイッチング素子および超電導式インバータは、磁界を用いて超電導体における超電導状態と常電導状態とを切り換え、スイッチングを行わせると共に直流を交流に変換するインバータを構成しているが、この場合、印加する磁界により効率よく超電導状態と常電導状態を切り換えるため、酸化物超電導薄膜の膜面を大面積としているが、単一の短冊状超電導体薄膜を用いて一方向に通電すると、短冊の端部で垂直磁界成分が生じて臨界電流が減少するという問題があるため、短冊状の超電導薄膜を垂直に積み重ね、互い違いに電流を流して端部における垂直磁界成分を打ち消し、磁界をほぼ膜面に平行にするように構成するなどの配慮が必要となって複雑な構成となる。さらに、磁力によって超電導状態と常電導状態とを切り換えて変換しているため、大電流を制御するためにはある程度の大きさの超電導体薄膜とそれに対応した磁石とを必要とし、コストが上昇する。
また、Y123系のYBa2Cu3Ox(YBCO)の臨界磁場(Bc2)は、図6、図7からわかるように77Kにおいて10テスラであり、これを実現するためには強力な磁場が必要である。このような強力な磁場は超電導マグネットを用いれば発生できるが、安価に構成しようとしているクライオトロンに大がかりな超電導マグネットを用いることは、コスト的に問題があって現実的ではない。
そのため本発明においては、電力輸送に際して超電導技術を用い、高効率で送られる電力を超電導環境下で効率よく、安価に交流に変換できるようにするため、従来技術に見られるように、超電導薄膜端部における垂直磁界成分を打ち消す複雑な構成や大きな磁石を必要とせず、コスト的にも有利な高周波電流制御型クライオトロン素子と該クライオトロン素子を用いたインバータを提供することが課題である。
上記課題を解決するため本発明者等は、酸化物高温超電導体に高周波を印加し、高周波電流で超電導体の臨界電流を超させると共に、交流損失による発熱を利用して、超電導状態から常電導状態へ、またその高周波の印加を停止することで、常電導状態から超電導状態へ変化させることができることを利用してスイッチングを行わせることを考えた。
すなわち、例えばY123系の超電導体材料においては、前記したように磁場によるスイッチングはコスト的に問題があり、そのため用いることができる特性は臨界電流(Ic)と臨界温度(Tc)であるが、直流を交流に変換するインバータとして用いる場合、クライストロン素子によって電流を制御するわけであるから利用できるのは臨界電流と臨界温度となる。しかしながら、例えば商用周波数に追随させ、超電導状態と常電導状態との転移をヒータで行うことは熱時定数の大きさから現実的ではない。
そのため本発明者等は、前記したように、酸化物高温超電導体に高周波を印加して高周波電流で超電導体の臨界電流を超させると共に、交流損失により生じる発熱を用い、超電導環境に置かれた超電導体を超電導状態から常電導状態へ、またその高周波の印加を停止することで、常電導状態から超電導状態へ変化させることができることを利用することを考えた。
すなわち超電導体に高周波を印加すると、図8のグラフに示したように損失が発生する。この図8において横軸は超電導体に印加する周波数(単位:Hz)、縦軸は交流損失(単位:mW/m)である。また、超電導体の交流損失Pacは、周波数fと最大電流Imの3乗に比例し、臨界電流Jcに反比例するので、超電導体の厚みをδとすると、下記(1)式で算出することができる。(昭和54年電気学会編「超電導ハンドブック」61頁参照)
Pac=f×(πIm3)/(4δJc) ………(1)
すなわち、超電導環境に置かれた超電導体に高周波を印加することで、交流波電流が超電導体の臨界電流値を超し、さらには、交流損失による発熱で超電導体の温度が上昇するので超電導体を常電導状態にすることができ、また、高周波の印加を停止すれば、今度は速やかに超電導状態に戻すことができる。
そのため本発明になる高周波電流制御型クライオトロン素子は、
超電導環境に置かれた超電導体を超電導状態から常電導状態へ、常電導状態から超電導状態へ変化させてスイッチングを行う高周波電流制御型クライオトロン素子であって、
超電導環境に置かれて両端部に接続された高周波リアクトルを介して電流入力端に接続された超電導体と、
前記超電導体端部に第1のコンデンサを介して接続され、前記超電導体を超電導状態から常電導状態へ変化させる高周波電流供給源とからなることを特徴とする。
このように超電導体を超電導環境に置き、両端部に高周波リアクトルを接続して電流入力端に接続すると共に、端部に第1のコンデンサを介して高周波電流供給源を接続してクライオトロン素子を構成し、高周波リアクトルの抵抗を、電流入力端に入力される直流または交流電流が大きな電圧降下を起こさない値とすることで、直流または交流は超電導状態の超電導体を大きな電圧降下なしに通過できるが、高周波電流供給源側へは第1のコンデンサの存在で流れることができない。一方、高周波は、高周波リアクトルによって電流入力端に流れることなく超電導体を通過し、この超電導体を超電導状態から常電導状態に転移させることができる。
そしてこの高周波をON/OFFさせることで、従来技術のように、超電導薄膜端部における垂直磁界成分を打ち消す複雑な構成や大きな磁石を必要とせずに、超電導体を、超電導状態と常電導状態に容易に切り換えることができると共に、コスト的にも有利な高周波電流制御型クライオトロン素子を提供することができる。
そしてこのクライオトロン素子で大電流を扱う場合は、
超電導環境に置かれた超電導体を超電導状態から常電導状態へ、常電導状態から超電導状態へ変化させてスイッチングを行う高周波電流制御型クライオトロン素子であって、
超電導環境に置かれた複数の超電導体を有し、該複数の超電導体は、互い違いにミアンダ構造となるよう直列に接続されると共に、それぞれの両端部に接続された高周波リアクトルを介して電流入力端に並列に接続され、
前記ミアンダ構造となるよう接続された超電導体に、第1のコンデンサと前記超電導体を超電導状態から常電導状態へ変化させる高周波電流の供給源が接続されていることを特徴とする。
このように、複数の超電導体を互い違いにミアンダ構造となるよう直列に接続すると共に、前記と同様それぞれの両端部に接続された高周波リアクトルを介し、電流入力端に並列に接続することで、電流入力端に入力された直流又は交流は超電導体が並列に配されているから大きな電流を流すことが可能となり、前記した効果を保持したまま、大電流容量のクライストロン素子とすることができる。また、高周波は高周波リアクトルによって電流入力端に流れることなくミアンダ構造とした超電導体を直列に通過するから、電流入力端に入力された直流又は交流に影響を与えることなく超電導体を瞬時に超電導状態から常電導状態に転移させることができる。従って、前記と同様、大電流を扱いながら、超電導薄膜端部における垂直磁界成分を打ち消す複雑な構成や、大きな磁石を必要とせず、超電導体を、超電導状態と常電導状態に容易に切り換えることができると共に、コスト的にも有利な高周波電流制御型クライオトロン素子を提供することができる。
また、このように構成したクライオトロン素子において、高周波電流を流し続けると超電導体を極端に加熟してしまい、常電導状態から超電導状態への復帰を遅らせたり、場合によっては超電導体を変質させたりする問題を生じるためこれを制御する構成が必要である。そのため本発明になる、前記高周波電流制御型クライオトロン素子は、
前記超電導体またはミアンダ構造の超電導体に、前記高周波電流供給源が接続された高周波トランスが前記第1のコンデンサと直列に接続され、
前記第1のコンデンサと高周波トランスにおける超電導体側コイルとは、前記超電導体の超電導状態と常電導状態とにより変化する前記超電導体の抵抗値により、前記超電導体へ流れる高周波電流を制限する第1の共振回路を構成していることを特徴とする。
さらに、前記第1の共振回路を構成する前記第1のコンデンサの容量と高周波トランスにおける超電導体側コイルのインダクタンスとは、前記高周波に共振する値とすることで、まず、並列に接続した超電導体への電流入力端に印加される直流又は交流は、この第1のコンデンサによって高周波回路に流れることが阻止される。また、高周波電流は高周波トランスを通して供給されるが、高周波トランスにおける超電導体側コイルのインダクタンスと第1のコンデンサの容量は、供給する高周波に共振する値となっているから、超電導体が超電導状態の時は第1の共振回路のQ値が無限大となり、超電導体には高周波トランス電源側の電流のQ倍の大電流を流すことができ、低電圧・大電流の高周波電流が超電導体を含む第1の共振回路を流れ、超電導体が常電導となって抵抗が発生して今度はQ値が低下し、高周波電流は流れ難くなって制限される。すなわちこのことは、高周波電流が超電導体を流れすぎてむやみに加熟しないことを示しており、超電導体を極端に加熟して問題を生じることのない、高周波電流制御型クライオトロン素子とすることができる。
そして、このような高周波電流制御型クライオトロン素子を用い、
前記高周波電流制御型クライオトロン素子における前記電流入力端に直列に接続され、第2のコイルと第2のコンデンサとからなる第2の共振回路と、
前記第2の共振回路を構成する任意の素子に接続された第2のトランスとからなり、
前記第2の共振回路における前記第2のコイルのインダクタンスと第2のコンデンサの容量とを、出力または入力する交流の周波数に共振するよう定めてインバータを構成することで、
高周波電流制御型クライオトロン素子における高周波を、インバータから出力(直流/交流変換)または入力する交流(交流/直流(脈流)変換)の周期でON/OFF動作させ、このインバータに、直流/交流変換する場合は直流を、交流/直流変換する場合は交流を入力すると、直流/交流変換の場合は、第2の共振回路の共振周波数(すなわち出力又は入力する交流の周波数)に同期した変動電流がクライオトロン素子に流れて直流が交流に変換され、交流/直流変換する場合は、同じく第2の共振回路の共振周波数で入力された交流が半波整流されて直流(脈流)が出力される。
しかもこの変換は、超電導環境で行われて変換効率も高いから、前記したビル内の配電ケーブルや計算センター内の電力ケーブルを超電導ケーブルとしても、効率的に直流/交流変換、あるいは交流/直流変換を行うことができるインバータとすることができる。
また、前記超電導体は、酸化物高温超電導体であることが好ましく、さらにその中でも、YBa2Cu3OxまたはBi2Sr2Cu3Oxを用いることが本発明の好適な実施形態である。
以上記載のごとく本発明になる高周波電流制御型クライオトロン素子とそれを用いたインバータは、従来技術のように超電導薄膜端部における垂直磁界成分を打ち消す複雑な構成や、大きな磁石を必要とせず、コスト的に有利で大電流を扱え、効率のロスなく直流を交流に、交流を直流に変換できるから、前記したように、例えば遠隔地で発電された電力を直流超電導で送電する場合や、ビル内の送電ケーブルや計算センター内の電力ケーブルを直流超電導ケーブルとして交流動作の機器を動作させる場合も、効率の心配なく、直流超電導技術を使用することができるクライオトロン素子とインバータとすることができる。
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
最初に本発明の概略を簡単に説明すると、本発明における高周波電流制御型クライオトロン素子は、酸化物高温超電導体に高周波を印加することで高周波電流が超電導体の臨界電流を超すと共に、生じる交流損失による発熱を利用し、超電導環境に置かれた超電導体を超電導状態から常電導状態へ、またその高周波の印加を停止することで、常電導状態から超電導状態へ変化させてスイッチングを行うものである。
すなわち超電導体に高周波を印加すると、前記図8で説明したように、周波数fと最大電流Imの3乗に比例し、臨界電流Jcに反比例する(1)式で示した交流損失が発生し、温度上昇が生じて超電導体の臨界電流値を減少させるので、高周波電流は容易に臨界電流値を超す事ができる。しかしながら、このように超電導体に高周波を通電して、超電導環境に置かれた超電導体を超電導状態から常電導状態へ、また常電導状態から超電導状態へ変化させてスイッチングを行う場合、次のような条件が必要である。
それは、
(1).直流または商用周波数程度の低周波交流電流に対しては大電流容量である必要があるが、制御用の高周波電流は小電流であること。
(2).制御用の高周波電流は超電導体に抵抗を与える以外、制御すべき直流もしくは商用の低周波交流電流に対しては干渉をしないこと。
(3).逆に、制御すべき直流もしくは商用の低周波交流電流は制御用の高周波電流回路に干渉しないこと。
(4).高周波電流が流れ続けることで超電導体を極端に加熟しないこと。
などである。
そのため本発明者等は鋭意検討した結果、まず、超電導環境に置かれた超電導体の両端部に、直流電流、または低周波の交流電流に対しては小さなインピーダンスの高周波リアクトルを接続し、その高周波リアクトルを介して直流/交流変換する場合は直流電源に、また交流/直流(脈流)変換する場合は交流電源に超電導体を接続すると共に、その超電導体端部に第1のコンデンサを介して高周波電流供給源を接続して高周波電流制御型クライオトロン素子を構成することとした。なお、大電流を扱う場合は超電導体を複数用意し、互い違いにミアンダ構造となるよう直列に接続すると共に、それぞれの超電導体の両端部に高周波リアクトルを接続し、その高周波リアクトルを介して直流電源、または交流電源に超電導体を並列に接続すると共に、そのミアンダ構造として直列に接続した超電導体端部に、第1のコンデンサを介して高周波電流供給源を接続するようにする。
このようにすると、複数の超電導体を並列に接続することで、例え高周波リアクトルが有ってもそのインピーダンスは直流電流、または低周波の交流電流に対して小さく、大きな電圧降下を起こさずに大電流容量を実現でき、制御用の高周波電流は小電流で超電導体を超電導状態から常電導状態へ、また常電導状態から超電導状態へ変化させるスイッチングを行うことができるから、前記した条件(1)を満足させることができる。また、超電導体は高周波リアクトルを介して直流電源、または交流電源に接続されているから、制御用の高周波電流は高周波リアクトルで制御すべき直流もしくは商用の低周波交流電流に対して遮断され、干渉が排除されて、前記した条件(2)が満足できる。さらに、制御用の高周波電流は第1のコンデンサを介して超電導体またはミアンダ構造の超電導体に接続されていることで、逆に、制御すべき直流もしくは商用の低周波交流電流は制御用の高周波電流回路に干渉することができないから、前記した条件(3)も満足できる。
また、前記条件(4)に対応するため、超電導体またはミアンダ構造の超電導体に前記第1のコンデンサと共に高周波トランスを直列に接続し、高周波電流供給源はこの高周波トランスを介して高周波を供給させると共に、第1のコンデンサと高周波トランスにおける超電導体側のコイルとで、超電導体へ流れる高周波電流に共振する第1の共振回路を構成するようにする。
このようにすると、第1のコンデンサの容量をC、高周波トランスにおける超電導体側のコイルのインダクタンスをL、高周波を流す超電導体の抵抗をRとし、第1のコンデンサと高周波トランスにおける超電導体側のコイル及び高周波を流す超電導体の直列インピーダンスをZ、高周波の周波数をf0、角振動数をωとすると、高周波の周波数f0は下記(2)式で表すことができ、さらにインピーダンスZは下記(3)式であらわすことができる。
そのため、超電導体が超電導状態の時、すなわち高周波を流す超電導体の抵抗Rが0の場合は第1の共振回路のQ値が無限大となって、超電導体には高周波トランス電源側の電流のQ倍の大電流を流すことができ、低電圧・大電流の高周波電流が超電導体を含む共振回路を流れて、超電導体が常電導となって抵抗Rが発生する。そうすると、今度はQ値が低下することで高周波電流は流れ難くなり、制限されて高周波電流が超電導体を流れすぎることがなくなり、むやみに加熟が防止されて前記条件(4)に対応することができる。
このように高周波電流制御型クライオトロン素子を構成することで、従来技術のように、超電導薄膜端部における垂直磁界成分を打ち消す複雑な構成や、大きな磁石を必要とせず、超電導体を、超電導状態と常電導状態に容易に切り換えることができると共に、コスト的にも有利な高周波電流制御型クライオトロン素子を提供することができる。なお、上記した例では前記条件(4)に対応させるために第1の共振回路を用いたが、例えば超電導体11の抵抗値を感知し、高周波電流を制限するよう構成した回路を付加するようにしても良いことは当業者なら自明である。
そして、このような高周波電流制御型クライオトロン素子を用いたインバータは、この高周波電流制御型クライオトロン素子における電流入力端に、第2のコイルと第2のコンデンサとからなるQ値の高い第2の共振回路を直列に接続し、この第2の共振回路を構成する任意の素子に第2のトランスを接続して、第2の共振回路における第2のコイルのインダクタンスと第2のコンデンサの容量とを、出力または入力する交流の周波数に共振するよう定めて構成した。
このように本発明の高周波電流制御型クライオトロン素子を用いてインバータを構成することで、直流/交流変換する場合の出力される交流の角振動数をω
0、第2のコイルのインダクタンスをL
0、第2のコンデンサの容量をC
0、超電導体の抵抗をR
0とすると、角振動数ω
0は下記(4)式で表され、交流の電圧V(t)は下記(5)式で表せる。
このインバータの動作原理は半導体のGaAsを用いたガン・ダイオードと同じであり、ガン・ダイオードでは電子が通るチャンネルを高移動度と低移動度の2つを近接して設け、デバイスの印加電圧を高くすると電子が高速移動チャンネルに移勤して、負性抵抗を発現させる素子であるが、クライオトロン素子には、ガン・ダイオードのような自立的な負性抵抗特性がないので、外部から強制的に抵抗を発生させ、負性抵抗機能を発現させる。すなわち、R0が交流電流に対して負性抵抗特性になると、(4)、(5)式からわかるように、L0、C0、R0の振動は無限大に発散することになるが、実際には、負性抵抗は交流に対してだけ直流的には損失があるので、両者がバランスする一定の振幅となる。
そのため、このインバータに例えば直流を入力し、高周波電流制御型クライオトロン素子における高周波を、例えば50Hzまたは60Hzの商用周波数の周期でON/OFFさせると、第2の共振回路の共振周波数(すなわち前記商用周波数)に同期した変動電流がクライオトロン素子を流れ、インバータ端部と、この第2の共振回路を構成する任意の素子との間に接続した第2のトランスにこの電流が流れて、交流に変換された出力を得ることができる。また逆に、交流/直流変換する場合は、第2のトランスに交流を入力し、高周波をその交流の周期でON/OFF動作させると第2の共振回路から、半端整流された脈流を得ることができる。
すなわち、第2のコイルのインダクタンスL0、第2のコンデンサの容量C0は、入力する交流に共振するように設定されているので、クライオトロン素子における超電導体の抵抗R0がゼロの時は、交流インピーダンスが無限大になって電流が通らず、一方、R0≠0の時は、共振周波数が入力する交流から外れるので電流が通り、交流半波のみが回路を通過するため整流作用が発生するわけである。
しかもこの直流から交流への変換、又は交流から直流(脈流)への変換は、超電導環境で行われて変換効率も高いから、前記したビル内の配電ケーブルや計算センター内の電力ケーブルを超電導ケーブルとしても、効率的に直流/交流変換を行うインバータとすることができる。
次に、図面に従って本発明を詳細に説明する。図1は、本発明になる高周波電流制御型クライオトロン素子の主要部の構成を示した回路図である。図中10は本発明になる高周波電流制御型クライオトロン素子である。この高周波電流制御型クライオトロン素子10は、例えば図示の例では、YBa2Cu3OxやBi2Sr2Cu3Ox等の酸化物高温超電導体11で形成された、薄膜超電導体、又はテープ111、112、113、……11n−1、11nが並列に配され、この超電導体11をミアンダ接続する接続用超電導体12、高周波電流供給用超電導体端子13、超電導体11の両端部に設けられた高周波リアクトル14、直流を商用周波数程度の低周波交流に変換するときは直流が入力され、商用周波数程度の低周波交流を直流に変換するときは交流が入力される入力端15、直流、又は商用周波数程度の低周波を遮断する高周波用の第1のコンデンサ16、高周波供給源18からの高周波を超電導体11に送り込む高周波トランス17、高周波供給源18を例えば商用周波数に同期してON/OFFするスイッチング素子19等で構成される。
このうち、酸化物高温超電導体11で形成された薄膜超電導体、又はテープ111、112、113、……11n−1、11nは、ミアンダ接続する接続用超電導体12によって互い違いにミアンダ構造となるよう接続されている。また、その両端に接続されている高周波リアクトルは、入力端15に入力される直流、または商用周波数程度の低周波電流では大きな電圧降下を起こさないインピーダンスとされているが、高周波供給源18から供給される高周波は通さない値になっている。そして、高周波トランス17における超電導体11側のコイルHL1のインダクタンスと、高周波用の第1のコンデンサ16の容量とは、第1の共振回路を構成して高周波供給源18から供給される高周波に共振するような値とされている。
なお、この図1に示した高周波電流制御型クライオトロン素子10は、超電導体11が複数設けられ、互い違いにミアンダ構造になるよう接続されている場合であるが、単一の超電導体11を用い、両端に設けた高周波リアクトル14を介して直流又は商用周波数程度の交流を接続すると共に、高周波は超電導体11の一端と他端に接続するようにしても良いことは自明である。
そして前記したように、この図1のように高周波電流駆動式のクライオトロン素子を構成した場合4つの注意が必要であるが、まず、複数の超電導体111、112、113、……11n−1、11nを並列に接続したことで、例え高周波リアクトル14が有ってもそのインピーダンスは直流電流、または低周波の交流電流に対して小さく、大きな電圧降下を起こさずに大電流容量を実現できる。また、制御用の高周波電流は小電流で超電導体11を超電導状態から常電導状態へ、また常電導状態から超電導状態へ変化させるスイッチングを行うことができるから前記した条件(1)を満足させることができる。
次に、超電導体11は高周波リアクトル14を介して直流電源、または交流電源に接続されるから、制御用の高周波電流は高周波リアクトル14で制御すべき直流もしくは商用の低周波交流電流に対して遮断され、干渉が排除されて、前記した条件(2)が満足できる。さらに、制御用の高周波電流は第1のコンデンサ16を介して超電導体またはミアンダ構造の超電導体11に接続されていることで、逆に、制御すべき直流もしくは商用の低周波交流電流は制御用の高周波電流回路に干渉することができないから、前記した条件(3)も満足できる。
そして、このように構成した本発明になる高周波電流制御型クライオトロン素子10は、超電導体11を前記したようにYBa2Cu3OxやBi2Sr2Cu3Ox等の酸化物高温超電導体で構成し、液体窒素などで冷却して超電導状態とした上で、電流入力端15に例えば直流を印加し、スイッチング素子19を商用周波数に同期させてON/OFFさせる。すると、スイッチング素子19をONさせた時に高周波供給源18から供給される高周波が、高周波トランス17から131、132で示した高周波電流供給用超電導体を介し、ミアンダ構造とされた超電導体11に流れる。
そのときこの高周波は、前記図8で説明したように、周波数fと最大電流Imの3乗に比例し、臨界電流Jcに反比例する式(1)に示した損失が超電導体線材11に発生する。その状態をグラフに示したのが図3である。
この図3は、本発明になる図1に示した高周波電流制御型クライオトロン素子10を構成する超電導体線材11に、高周波供給源18からの高周波電流を加えた場合の超電導体線材11を流れる電流と、超電導体線材11の抵抗値の変化を示したグラフである。この図3において横軸は時間、左端の縦軸における目盛りは超電導体線材30の抵抗値(Ω)を示しており、31は図1のスイッチング素子19のON/OFF状態を、32はスイッチング素子19をONしたことにより高周波トランス17に送り込まれる高周波電流(単位:A)を、33は超電導体線材11を流れる電流(単位:A)をそれぞれ示している。
この図3のグラフを作成する実験に用いた高周波電流制御型クライオトロン素子10は、一例として、幅1mmで臨界電流を10AとしたYBa2Cu3Ox超電導体テープ線材11を、図1に示したようにミアンダ構造に配して1mHの高周波リアクトル14を両端に設け、1000pFとした高周波用の第1のコンデンサ16を介して高周波トランス17を接続して、1MHz、約3Aの高周波供給源18を接続したものである。なお、高周波トランス17におけるHL1側は、高周波用の第1のコンデンサ16と共に第1の共振回路を構成し、1MHzの高周波に共振するようインダクタンスを2.5μHに設定した。
そして超電導体テープ線材11を液体窒素で超電導状態とすると共に、直流入力端15に直流を印加し、スイッチング素子19を図3における時間0.000075(75μ秒)で、31で示したようにONすると、高周波供給源18から32で示したような電流が超電導体テープ線材11に送りこまれ、現在、超電導体テープ線材11は超電導状態で抵抗が0であるため、第1の共振回路のQ値が極めて大きくなって、超電導体テープ線材11には33で示した高周波電流が流れる。
そのため超電導体テープ線材11は前記式(1)に従って発熱を伴いながら、高周波電流が超電導体の臨界電流値を超すため、約2μ秒(高周波電流32の2サイクル分、時間0.000077)が経過すると、超電導体テープ線材11は常電導状態となり、30で示したように約60Ωの抵抗が発生する。すると、第1の共振回路のQ値が極端に低下するため、図1の高周波供給源18から高周波トランス17のHL2を介して流れる高周波電流が、図3の33で示したように殆ど流れなくなる。
しかし、高周波電流が流れなくなることで超電導体テープ線材11の温度が下がり、常電導状態から超電導状態に復帰しようとして抵抗値が小さくなると、また第1の共振回路のQ値が大きくなって高周波電流が流れ、以下、同様なことが繰り返されて超電導体テープ線材11は、スイッチング素子19がONとなっている間常電導状態を維持して、前記した条件(4)も満足される。
図2は、図1に示した本発明になる高周波電流制御型クライオトロン素子10を、共振振動式超電導インバータに用いた場合の構成を示した回路図であり、図4は、この図2に示した、高周波電流制御型クライオトロン素子10を用いた共振振動式超電導インバータに入力した直流が、クライオトロン素子10と第2の共振回路とにより、サインカーブに変化させられた直流電流41と、第2のトランス24で交流として負荷23に流れた電流43を示したグラフで、横軸は時間(秒)、縦軸は電流(単位:A)を示している。また図5は、同様に本発明になるインバータにおける高周波電流制御型クライオトロン素子を、整流器として用いた場合の交流入力電流51、直流出力端に接続した負荷の電圧を示したグラフで、横軸は時間(秒)、縦軸は電流(単位:A)、電圧(単位:V)を示している。
図2において、10は高周波電流制御型クライオトロン素子、21は第2のコンデンサ、22は第2のコイルで、この第2のコンデンサ21と第2のコイル22とは、第2の共振回路としてクライオトロン素子10に直列に接続され、その容量C0とインダクタンスL0とは、出力、または入力する交流の周波数に共振するよう定めてある。23は交流により駆動される負荷、24はクライオトロン素子10によってスイッチングされ、第2の共振回路によって変化が生じた直流電流を、交流として負荷23に供給するための第2のトランス、25、26は直流入力端、または脈流出力端であり、第2のトランス24は、第2の共振回路における任意の素子と直流入力端、または脈流出力端25、26との間に設けられる。
いま、この図2に示したインバータにおける直流入力端、または脈流出力端25、26に、例えば直流を入力して高周波電流制御型クライオトロン素子10における高周波供給源18を、図1に19で示したスイッチング素子により、50Hzまたは60Hzの商用周波数の周期でON/OFFさせると、クライオトロン素子10の超電導体11(図1参照)の抵抗R0が、このON/OFF毎に0抵抗である超電導状態からR0の常電導状態へ、R0の常導電状態から0抵抗の超導電状態へ変化する。
すると前記式(4)、(5)で説明したように、R0が交流電流に対して負性抵抗特性になると、L0、C0、R0の振動は無限大に発散する事になるが、実際には、負性抵抗は交流に対してだけ直流的には損失があるので両者がバランスする一定の振幅となる。そのため、第2の共振回路の共振周波数(すなわち前記商用周波数)に同期した、図4に41で示したようなサインカーブ状の変動電流がクライオトロン素子10を流れ、インバータ端部25、26と、この第2の共振回路を構成する任意の素子との間に接続した、第2のトランス24にこの電流が流れて交流に変換され、図4に42で示したような電流が負荷23を流れることになる。
また、逆に、トランス24のL2側に図5に51で示した交流を入力し、高周波をその交流の周期でON/OFF動作させると、インバータ端部25、26に前記したように図5に52で示したような半端整流された脈流を得ることができる。この直流から交流への変換、又は交流から直流(脈流)への変換は、超電導環境で行われて変換効率も高いから、前記したビル内の配電ケーブルや計算センター内の電力ケーブルを超電導ケーブルとしても、効率的に直流/交流変換を行うインバータとすることができる。
なお、超電導体11は、前記したように通常の線材やテープ状とした線材を用いるが、例えば前記したY123のテープ線材を用いる場合、厚みが1μm、テープ幅が10mmのY123線材は100A程度の電流容量があり、長さ1mのものを用いると常電導時は抵抗が7Ω程度となる。そのため、超電導体11として10m程度のテープ線材を用いてクライオトロン素子10の抵抗を60Ωにすると、好適なものが得られるが、超電導体11が10mでは広大な空間が必要になるので、無誘導巻きのコイル形状などに形成することが好ましい。
このように、本発明になる高周波電流制御型クライオトロン素子とそれを用いたインバータは、非常に簡単な構成で、従来技術のように超電導薄膜端部における垂直磁界成分を打ち消す複雑な構成や大きな磁石を必要とせず、超電導体を、超電導状態と常電導状態に容易に切り換えることができると共に、それによって直流を交流に、また、交流を直流に変換するインバータを構成することができ、コスト的にも有利な高周波電流制御型クライオトロン素子とそれを用いたインバータを提供することができる。