JP5059293B2 - 二酸化炭素固定化成型体、該成型体を形成するためのコンクリート組成物、及び、それを用いた二酸化炭素固定化成型体の製造方法 - Google Patents
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Description
一方、CO2 抑制対策の柱の一つに「革新的技術開発の強化」が揚げられており、省エネ、太陽光発電などの技術と並んで、いったん排出されたCO2を貯蔵・固定化する技術の開発が揚げられている。具体的な研究課題として、プランクトンなどの海洋生物や、樹木などの利用技術、電気化学的手法、地中隔離などの技術が提案されているが、CO2をいかに効率よく、低コストで固定するかが将来的な課題として研究途上である。
Ca(OH)2 + CO2 → CaCO3 + H2O
上式の反応により、大気中の二酸化炭素が炭酸カルシウムとしてコンクリート中に固定され、大気中の二酸化炭素がコンクリート成型体への固定化により減少することになる。コンクリート中の炭酸カルシウムは安定な反応物として存在し、極めて分解しにくいため、二酸化炭素はそのままコンクリート中に固定される状態が続く。このような反応は、通常、大気中の二酸化炭素が徐々にコンクリート成型体中に浸透、拡散し、セメント水和物中に含まれる水酸化カルシウムと接触することにより生起、進行する。
一方、コンクリート成型体に透水性、通気性を与えたり、爆裂を防止するなどの目的で、種々の多孔質コンクリートが提案されている。
また、耐爆裂性のコンクリート組成物は、セメントや骨材に加えて熱分解性の有機繊維などを含有するものであるが(例えば、特許文献5参照。)、この組成物は高温に晒されて初めて空気や水蒸気を透過させるための微細な空隙を生じるものであり、通常時には二酸化炭素を浸透、吸着させる機能を有しないものである。
本発明の別の目的は、このような二酸化炭素固定化成型体の形成に有用なコンクリート組成物、さらには、前記二酸化炭素固定化成型体を効率よく得るための製造方法を提供することにある。
即ち、本発明の二酸化炭素固定化成型体は、水、セメント、混和材料、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる平均粒径が10〜500μmの樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる直径5μm〜100μm且つ長さ50μm〜500mmの有機繊維、及び骨材を含有するコンクリート組成物を硬化して得られ、少なくとも、表面からの深さ方向で0〜100mmの表層部に、前記アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる平均粒径が10〜500μmの微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる直径5μm〜100μm且つ長さ50μm〜500mmの有機繊維が分解されて形成された空隙を有し、前記表層部において、大気中の二酸化炭素を固定化することを特徴とする。
ここで、前記成型体の少なくとも表層部に存在する空隙は、大きさが直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔であり、且つ、表層部に0.05容積%〜10容積%設けられていることが好ましい態様である。
また、このような成型体の空隙を有する表層部が、コンクリート成型体の全厚みに対し、少なくとも、表面からの深さ方向で0〜100mm程度に存在することが、強度と二酸化炭素固定化能の両立といった観点から好ましい。
二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物の別の態様としては、前記アルカリ分解性樹脂に代えて、紫外線分解性樹脂を用いる態様が挙げられる。
このようなコンクリート組成物においては、水とセメント(結合材)の重量比が30%以上70%以下であることが好ましい。
また、このような微細な空隙は、コンクリート組成物中にアルカリ分解性樹脂の微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる有機繊維を含有させるか、或いは、紫外線分解性樹脂微粒子或いは紫外線分解性樹脂からなる有機繊維を含有させることにより得ることができる。
また、本発明によれば、前記した二酸化炭素固定化成型体の形成に有用なコンクリート組成物、さらには、前記二酸化炭素固定化成型体を効率よく得るための製造方法を提供することができる。
以下、このような二酸化炭素固定化成型体を、その構成材料及び製造方法とともに、順次説明する。
本発明の効果は、表層部における空隙、空洞孔の存在により達成される。本発明でいう表層部とは、コンクリート成型体の断面において全厚みに対し表面からの深さ方向で0〜100mm程度の範囲を指し、この領域に前記の如き空隙、空洞孔を有することで本発明の効果を達成しうる。空隙は、成型体のさらなる深部まで均一に存在していてもよいが、表層部以外の深部に存在する空隙は炭酸ガスの固定化には関与し難いため、これによる二酸化炭素の固定化向上効果は小さいものとなる。
なかでも、脂肪族ポリエステルは、コンクリート組成物に混入する前は、繊維強度が十分に高く、良好な取扱い性を有しているが、コンクリート組成物に混入させて、硬化させ、セメント系成型体を形成した場合、アルカリ雰囲気に曝されることで、繊維を構成する樹脂が加水分解して低分子化し、ガス化し、成型体中で良好な空隙を形成するという観点から特に好ましい。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
このようなアルカリ雰囲気下において加水分解性を有する樹脂として、まず、脂肪族ポリエステル樹脂を例に挙げて説明する。
前記例示の単独重合脂肪族ポリエステル樹脂は、いずれも生分解性樹脂として知られているが、アルカリ雰囲気下で加水分解して容易に低分子量化するため、本発明に好適に用いられる。
これらの樹脂の中で、経済性や、カーボンニュートラル、効果などの点から、特に発酵法による乳酸を原料とするポリ乳酸が好ましい。
本発明においては、樹脂微粒子、有機繊維の素材として、これらの脂肪族ポリエステル樹脂を、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
また、前記の脂肪族ポリエステル樹脂には、成形性、紡糸性や、繊維にした場合のアルカリ加水分解性以外の物性を向上させるなどのために、本発明の目的が損なわれない範囲で、他の熱可塑性樹脂、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニールアルコール、ポリアセタール、芳香族ポリエステル、ポリスチレン、ポリアミドなどを併用してもよく、また、可塑剤等をの公知の添加剤を適宜添加することもできる。
このような素材からなる本発明のセメント系成型体用有機繊維は、アルカリ雰囲気下において加水分解性を有しており、したがって、セメント配合物に混入させて、セメント系成型体を形成した場合、アルカリ雰囲気に曝されることで、該繊維を構成する樹脂が加水分解する。
脂肪族ポリエステル樹脂をコンクリート組成物に配合する場合、効果の観点から、微粒子としては、平均粒径が10〜500μmの範囲のものが好ましく、20〜200μmのものがさらに好ましい。
なお、微粒子の粒径、有機繊維の形状は、電子顕微鏡或いは高倍率の光学顕微鏡による映像を用いて常法により測定することができる。
前記セメント成型体としては、水、セメント、混和材料、骨材、化学混和剤よりなるコンクリート組成物であり、形成されるセメント系成型体の用途に応じて各種材料の、重量比を適宜調整することができる。
前記混和材料としては特に制限はなく形成されるセメント系成型体の用途に応じて、各種セメント、コンクリート用混和材料から適宜種類、使用量を選択できる。混和材料としては、高炉スラグ微粉末、フライアッシュ、シリカフュームなどが一般的に使用できる。
また、骨材の種類や量は特に制限はなく、形成される成型体の用途に応じて、骨材の種類及び配合割合を適宜選択することができる。
前記セメント成型体の水とセメントの重量比は、形成されるセメント系成型体の用途に応じて適宜選択することができるが、大気中の二酸化炭素との炭酸化反応を促進するためには、水と結合材の重量比は30%以上70%以下が好ましく、より好ましくは40%以上65%以下である。
アルカリ雰囲気下に暴露した場合には、アルカリに接触した表面領域から徐々に空隙が形成され、紫外線照射した場合には、紫外線の照射領域において成型体の表面から樹脂が分解し、空隙が形成される。アルカリ雰囲気への接触条件や紫外線照射条件を制御することにより、コンクリート成型体の表層部のみに空隙を形成することができる。また、空隙形成用の分解性樹脂を含まないコンクリート組成物による成型体の表面に空隙形成用の分解性樹脂を含んだコンクリート組成物を打設、硬化して空隙を形成させることにより、表層部のみに空隙を有する成型体を形成することもできる。
このように、空隙は少なくとも二酸化炭素の固定化に関与する表層部に形成されていればよいが、セメント系成型体のさらなる深部まで均一に形成されていてもかまわない。しかしながら、前述のように、深部に存在する空隙は二酸化炭素の固定化の観点からは有用ではない。
本発明のコンクリート組成物は、従来のセメントコンクリート組成物に比較して大気中の二酸化炭素による炭酸化反応が早く進行し、セメント成型体中に炭酸カルシウムとして固定される量が増大する効果を持つとともに、力学特性は従来と同程度の成型体を得ることができる。
(実験例:コンクリート組成物の配合)
普通ポルトランドセメントと水、砂(骨材)を含有するセメント組成物100質量部中に、下記表1に示す量の分解性樹脂からなる有機繊維を配合して、水/セメント組成物比(W/C 比)が50%、セメント組成物と砂の比率が1/3のモルタルを調製してコンクリート組成物を調製した。
また、比較のために、アルカリ分解性有機繊維に代えて、一般の建材に補強材として使用される分解性を有しない有機繊維を配合し、同一混入量にてコンクリート組成物を調製して比較例とした。
セメント:普通ポルトランドセメント(太平洋セメント社製)比重3.15
水:水道水
砂:木更津産山砂、表乾密度2.65g/cm3、吸水率0.46%、実積率60.4%、粗粒率6.70
AE減水剤:チューポールEX20(竹本油脂社製)
消泡剤:AFK−2(竹本油脂社製)
実施例1〜4:ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸した繊維(表中にPLA繊維と記載、以下同様)、繊維径20μm、長さ5.0mm
実施例5〜8:ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸した繊維、繊維径50μm、長さ5、0mm
実施例9:ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸した繊維、繊維径20μm、長さ10.0mm
実施例10:ポリ乳酸樹脂を溶融紡糸した繊維、繊維径50μm、長さ10.0mm
実施例11、12:ポリ乳酸樹脂を粉末状に加工した微粉末、平均粒径20μm、50μm
[コンクリート組成物の配合]
表1にコンクリート組成物の配合を示す。表中で使用した各材料の詳細は上記の通りである。なお、下記表1中、W/Cは、水/結合材比を、S/Cは砂/セメント比を表す。
前記表1に記載のコンクリート組成物について、水、セメント、砂および有機繊維または樹脂微粒子を所定量ミキサ(ホバート社製 SK−30Sミキサ、容量30L)に投入し、3分間練り混ぜた。この際、練りあがったモルタルの空気量が一定の値(5.0容量%)と成るよう、AE減水剤および消泡剤を適量添加し調整した。練り混ぜ後、型枠内に成型し、硬化後して、二酸化炭素固定化成型体を得た。これらの成型体について、以下に示す各試験行った。これらの結果を下記表2に示す。
1.圧縮強度
JIS R 5201に準じて圧縮強度を測定した。
2.中性化深さ
材齢28日まで20℃水中養生を施した後、20℃・相対湿度60%・炭酸ガス濃度5%の環境で4週間静置して促進中性化を行った。促進中性化後、モルタル断面にフェノールフタレイン1%アルコール溶液を塗布して中性化深さを確認した。中性化深さが深いほど多くの二酸化炭素が固定化されたことになり好ましい。
3.炭酸化量
中性化深さ試験と同様に材齢28日まで20℃水中養生を施した後、20℃・相対湿度60%・炭酸ガス濃度5%の環境で4週間静置して促進中性化を行った。促進中性化後、試験体をボールミルで粉砕し、♯200ふるいを通過するものをスクリーニングし、示差熱重量分析計(リガク社製TAS−200)を用いて粉末試料中の炭酸カルシウム(CaCO3)濃度を測定した。濃度が高いほど、多くの二酸化炭素が固定化されたことになり、好ましい。
Claims (10)
- 水、セメント、混和材料、アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる平均粒径が10μm〜500μmの樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる直径5μm〜100μm且つ長さ50μm〜500mmの有機繊維、及び骨材を含有するコンクリート組成物を硬化して得られ、少なくとも、表面からの深さ方向で0〜100mmの表層部に、前記アルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる平均粒径が10μm〜500μmの樹脂微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂又は紫外線分解性樹脂からなる直径5μm〜100μm且つ長さ50μm〜500mmの有機繊維が分解されて形成された空隙を有し、前記表層部において、大気中の二酸化炭素を固定化することを特徴とする二酸化炭素固定化成型体。
- 前記アルカリ分解性樹脂が、ポリ乳酸である請求項1に記載の二酸化炭素固定化成型体。
- 前記骨材が、砂を含む請求項1又は請求項2に記載の二酸化炭素固定化成型体。
- 前記二酸化炭素固定化成型体の少なくとも表層部に存在する空隙が、直径10μm〜200μmの空隙もしくは同径の断面を有する空洞孔であり、且つ、前記表層部に0.05容積%〜10容積%設けられている請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の二酸化炭素固定化成型体。
- 水、セメント、混和材料、骨材、及び、アルカリ分解性樹脂からなる平均粒径が10μm〜500μmの微粒子もしくはアルカリ分解性樹脂からなる直径5μm〜100μm且つ長さ50μm〜500mmの有機繊維を含有する、請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定化成型体の形成に用いられる二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物。
- 水、セメント、混和材料、骨材、及び、紫外線分解性樹脂からなる平均粒径が10μm〜500μmの微粒子もしくは紫外線分解性樹脂からなる直径5μm〜100μm且つ長さ50μm〜500mmの有機繊維を含有する、請求項1、請求項3又は請求項4に記載の二酸化炭素固定化成型体の形成に用いられる二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物。
- 水とセメントの重量比が30%以上70%以下であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物。
- 前記アルカリ分解性樹脂が、脂肪族ポリエステル又はポリエチレンテレフタレートである、請求項5又は請求項7に記載の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物。
- 前記紫外線分解性樹脂が、ポリプロピレン樹脂、アクリル樹脂、又はポリウレタン樹脂である、請求項6又は請求項7に記載の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物。
- 請求項5乃至請求項9のいずれか1項に記載の二酸化炭素固定化成型体形成用コンクリート組成物を混練し、成型、硬化した後、アルカリ或いは紫外線によりコンクリート組成物中に含まれる樹脂微粒子もしくは樹脂からなる有機繊維が分解して、二酸化炭素の固定化に有用な空隙を有する表層部が少なくとも、表面からの深さ方向で0〜100mmの範囲に形成されることを特徴とする二酸化炭素固定化成型体の製造方法。
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