JP5041188B2 - 毛髪表面特性センサー - Google Patents

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Description

本発明は、毛髪表面特性センサー、毛髪表面特性評価システム及び毛髪表面特性の評価方法に関する。
毛髪を指や掌で触ったときに人が感じ取るパサツキ、ごわつき、きしみ、さらさら、つるつる、しっとり等の感触は、艶と並び毛髪の状態を判断するための重要な因子である。毛髪化粧料の開発においても、毛髪の感触を改善する技術が重要になっている。
毛髪の感触の測定技術としては、川端エバリュエーションシステム(非特許文献1)がある。このシステムは、もともと繊維や布地の風合い特性を測定するために開発された摩擦測定器で、測定対象物の大きさとしては2cm×5cm(摺動実面積)が必要である。そのため、これで毛髪の表面摩擦特性を評価する場合には、平らな金属板上に毛髪繊維を10本から100本程度平行に並べて固定し、その毛髪の上から一定の押し圧で専用に設計された摺動子を摺動させ、このときの摺動に必要な力を測定することで、毛髪の表面摩擦特性を評価する。
このシステムは、実験室内で毛髪の特性を測定するために有用である。しかしながら、摺動実面積を確保するために毛髪10本から100本程度を所定エリアに平行に並べる作業は、熟練した人間が行っても1時間程度を要する。また、被験者には毛髪を切らねばならないという負担を与えてしまう。さらに、このシステムによる毛髪特性の測定状況は、頭にはえている毛髪を手で触れることによって感じ取るという本来の感触の取得状況と大きく異なるため、このシステムで人が感じる毛髪の感触を測定することには無理があり、加えて、毛髪表面の微妙な特性の違いを検出するためには解析処理に多大な労力と時間が必要となっている。
一方で、有機素材の圧電素子(ポリフッ化ビニリデン)(特許文献1)が開発されており、この優れた加工性を利用し、指の感覚受容器の中で特に微細な感触の違いを認識しているパチニ小体を参考にして開発された毛髪触感センサーがある(非特許文献2)。しかしながら、この毛髪感触センサーでも、川端エバリュエーションシステムと同様に、多数本の毛髪を平行に並べ、その表面を一定荷重で摺動した場合の触圧を圧電素子で検出するため、平行に並べた毛髪繊維を摺動したときの触圧の振幅データを得られるにとどまり、頭にはえている毛髪を人が手で触った場合に人が感じとる感触の評価を測定することは難しい。
また、櫛で頭髪を梳かす動作に似せて、櫛通り等を評価する技術がある(特許文献2、3)。しかしながら、ここで用いられる装置は、基本的に櫛あるいは櫛類似形状物で毛髪を梳かすときの摩擦音を測定し、櫛通り等を解析する装置である。このため、この装置で測定されるデータには人が感じる感触と相関のあるものが含まれるものの、パサツキ、ごわつき、きしみ、さらさら、つるつる、しっとり等の感触を測定することは難しい。
この他、毛髪の表面摩擦測定には、プーリーを用いた方法(非特許文献3)も提案されている。この方法によれば、毛髪1本で摩擦測定が可能であるものの、測定のためには毛髪を切り取る必要があり、統計処理を施すために毛髪多数本のデータを得ようと思うと、被検者に負担を与える。
特開2006−52956号公報 特表2004−527730号公報 特開2006−223853号公報
河野弘美ら、「環境の変化が毛髪の物性におよぼす影響」、J. Cos.Cosmet. Chem.Jpn., 33(4), p377-385 (1999) SGUSEIDO NEWS RELEASE「資生堂と東北大学は共同で毛髪を触ったときの感じ方(感性)を計測できる装置「毛髪触感センサー」を開発」、[online]、平成19年1月11日検索、インターネット<URL http://www.shiseido.co.jp/releimg/1321-j.pdf> 堀内照夫ら、J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn.,14,62-65(1980)
本発明は、人が手で感じるパサツキ、ごわつき、きしみ、さらさら、つるつる、しっとり等の感触と対応する毛髪の表面特性を、客観的に高感度に再現性よく評価することを目的とする。
本発明者は、上述の目的には、染毛剤、パーマ剤等で表面にダメージを受けた毛髪に起こるスティックスリップを検出し、解析することが有効であり、そのためには、特定の表面張力値を有する摺動部と指先の間で毛髪を擦ることが特に有効であることを見出した。
ここで、スティックスリップとは、染毛剤、パーマ剤等で表面にダメージを受けた毛髪の1本〜数本を指先で擦る場合に繰り返し感じられる連続した微細なひっかかりをいう。即ち、指で毛髪を擦る場合、その擦り初めには、指先と毛髪との最大静止摩擦力以上の力を加えることが必要となり、以降、毛髪の表面状態が一定であれば、静止最大摩擦力より小さい動摩擦力で毛髪を摺動しつづけることが可能になるが、毛髪表面の或る部位で指先と毛髪の間の動摩擦係数が高くなると、それまでの摺動に加えていた力では摺動しなくなる。摺動が止まると、再度、その部位での静止最大摩擦力以上の力が加わるまでは摺動せず、ひっかかった状態となる。しかし、最大静止摩擦力以上の力が加えられると、指先は一気に毛髪上を滑り出し、毛髪に加えられる力も弱まるが、その力が動摩擦力を下回ると、再度、摺動しなくなり、最大静止摩擦力以上の力が加わるまでひっかかった状態となる。こうして、繰り返しひっかかりが生じる現象をスティックスリップという。
スティックスリップが起きる事は、摩擦力等の物性測定上、好ましくないというのが従来の一般的な常識であったが、本発明者は、あえてスティックスリップを起こさせてその振動状態を観察すると、驚くべきことに毛髪の表面特性の微妙な変化を感度良く測定できることを見出し、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、摺動部と、摺動部の振動を検出する圧電素子を備え、摺動部を毛髪に当接し、毛髪表面を摺動することによりスティックスリップを起こさせる毛髪表面特性センサーを提供する。
また、本発明は、毛髪表面を摺動し、スティックスリップを起こさせる摺動部と、摺動部の振動を検出する圧電素子とを備えた毛髪表面特性センサー、及び毛髪表面特性センサーの圧電素子が出力した摺動信号からスティックスリップによる振動を検出する検出手段を備えた毛髪表面特性評価システムを提供する。
さらに、本発明は、毛髪表面を摺動部で摺動してスティックスリップを起こさせ、摺動部の振動を圧電素子で検出し、圧電素子が出力した摺動信号からスティックスリップの振動を検出し、スティックスリップの振動に基づいて毛髪の表面特性を評価する評価方法を提供する。
ここで、毛髪とは、頭髪、体毛のいずれであってもよく、人の毛、動物の毛のいずれであってもよく、トレスの様な生体から切り離した毛、生体に生えている状態の毛のいずれであってもよい。
本発明の毛髪表面特性センサーによれば、頭や体から採取した毛髪だけでなく、頭や体にはえている毛髪も測定の対象とすることができる。しかも表面組成分析のような化学的な手法に頼ることなく、熟練者でなくとも簡単に人が手で毛髪を擦った場合に感じ取られるパサツキ、ごわつき、きしみ、さらさら、つるつる、しっとり等の感触の指標となる摺動信号等を出力することが可能となる。
また、本発明の毛髪表面特性評価システムや評価方法によれば、毛髪表面特性センサーで毛髪を摺動することにより得られる摺動信号から、スティックスリップによる振動を検出し、解析することができる。
さらに、本発明の毛髪表面特性評価システムや評価方法によれば、簡便にパサツキ、ごわつき、きしみ、さらさら、つるつる、しっとり等の感触の指標となる毛髪表面特性を解析することができ、毛髪の表面特性の微妙な違いも解析することが可能となる。
毛髪表面特性評価システムの構成図である。 毛髪表面特性センサーの分解図である。 毛髪表面特性センサーの使用方法の説明図である。 摺動部の斜視図である。 摺動部の斜視図である。 摺動部の斜視図である。 圧電素子で検出される押し圧と、押し圧センサーで検出される抵抗値との関係図である。 軽度ダメージ毛におけるスティックスリップ現象の発生試験結果である。 重度ダメージ毛におけるスティックスリップ現象の発生試験結果である。 毛先側がカラー処理部で、根元側が未カラー未処理の毛髪を測定した結果の周波数解析図である。 毛先側がカラー処理部で、根元側が未カラー未処理の毛髪を測定した結果の周波数解析図である。 図8の周波数解析図における特定の周波数領域の信号強度の積算図である。 従来の櫛形の摺動音測定装置の概略図である。 従来の櫛形の摺動音測定装置で測定した毛束のカラー処理部と未カラー処理部の摺動音の測定結果である。
以下、図面を参照しつつ本発明を具体的に説明する。図1は、本発明の一実施例の毛髪表面特性評価システム100の構成図であり、毛髪表面特性センサー1と検出手段30を備えている。図2は毛髪表面特性センサー1の分解図であり、図3はその使用方法の説明図である。
この毛髪表面特性評価システム100が測定対象にすることができる毛髪は、人又は動物の頭髪又は体毛であり、これらはトレスのように生体から切り離された状態でも、生体にはえている状態でもよい。染毛剤、パーマ剤等で毛髪表面が受けたダメージと関連する表面特性を評価する点からは、人の頭髪、特に頭にはえている人の頭髪を測定対象にできることに高い意義を有する。
また、測定精度や作業性の点から、測定対象とする毛髪の長さは、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、さらに好ましくは3cm以上である。
毛髪表面特性センサー1は、図3に示したように、毛髪の表面特性測定時に指先に装着し、他の指と毛髪表面特性センサー1とで毛髪Sを摘み、摘んだまま毛髪Sの根元側から毛先側に摺動させ、摺動時の振動を検出するものであり、図1,2に示すように、摺動部2、圧電素子3、振動吸収材4及び押し圧センサー5からなる。圧電素子3及び押し圧センサー5からは、それぞれリード線6が出て束ねられている。また、この毛髪表面特性センサー1は、それを指先に装着するための装着具20に取り付けられている。
摺動部2は、毛髪の表面特性測定時に直接毛髪に当接する部材となる。摺動部2は、圧電素子3の表面部材自体であってもよいが、圧電素子3の耐久性の観点から、圧電素子3とは別個に設けることが好ましい。
摺動部2の少なくとも摺動面の形成材料は、毛髪との摺動時にスティックスリップが起こることを可能とし、特に、染毛剤、パーマ剤等で表面にダメージを受けた毛髪でスティックスリップが起こりやすくする観点から、摺動部の表面張力の値が25mN/m以上、好ましくは30mN/m以上、更には35mN/m以上のものが好ましい。
ここで表面張力とは固体物質表面の濡れ性の指標として一般に用いられている臨界表面張力γcのことをいう。好ましい摺動部の具体的な材質(括弧内の数値は表面張力の値)としては、ポリプロピレン(25.8mN/m)、ポリエチレン(28.1mN/m)、塩化ビニル樹脂(35〜39mN/m)、アクリル樹脂(39〜40mN/m)、ナイロン(44mN/m)、ポリビニルアルコール(55mN/m)、ガラス(73mN/m)、金(1120mN/m)、鉄(1720mN/m)、アルミニウム(1909mN/m)等の金属等が挙げられる。一般に、摺動部の形成材料として多用されているポリテトラフルオロエチレン(18.3mN/m)やシリコーン(20mN/m)は、表面にダメージを受けている毛髪であってもスティックスリップが起こりにくいので好ましくない。
また、摺動部2は、毛髪表面の摺動時に毛髪を痛めないようにする観点から、摺動部2の摺動面にはR値として30μm以下、好ましくは40μm以下、特に50μm以下の部分が存在しないようにすることが好ましい。使いやすさの観点からは、図4Aに示すように、摺動部2は、(a)円柱状、(b)楕円柱状、(c)円錐状、(d)楕円錐状、(e)四角柱状、(f)台形柱状、(g)三角柱状、(h)蒲鉾型等、その他の多角柱状等とすることができる。また、図4Bの(i)、(j)に示すように、摺動部2を複数の柱状部材を並べて構成してもよい。中でも、測定対象の毛髪を痛めないようにする観点から摺動面に、R値として0.1mm以上の面取りされた角部がライン状に存在する形状が好ましく、その中でも特に円柱状が好ましい。一方、摺動面の面積を広くとることで測定対象の毛髪が測定中に脱落することを防止する観点からは、図4Cに示すように、摺動部2の摺動面2aが平坦面となるようにしてもよい。
図4A〜図4Cに示したように、摺動部2を圧電素子3と別部材として設ける場合に、摺動部2は圧電素子3に接着剤等で直接的に固定してもよく、また、別部材を介して間接的に固定してもよい。
一方、圧電素子3は、振動や圧力等の力が加わると電圧を発生させる素子であり、振動板あるいは電極と、セラミックス等の圧電体とからなる。毛髪表面特性センサー1において、圧電素子3は、摺動部2で毛髪Sを摺動したときの振動を摺動信号に変換する機能を担う。
圧電素子3としては、種々の素材や形状のものを使用することができるが、スティックスリップで発生する周波数領域を確実に感知する観点から、最大感度を0dBとしたときに50Hz〜3000Hz、好ましくは40Hz〜5000Hz、更には30Hz〜10000Hzの全領域で、−60dB以上の感度を有する事が好ましい。
圧電素子3の面積は、前述の周波数領域で良好な感度を得やすくする観点と、毛髪表面特性の測定を簡便に行う観点から、好ましくは0.8〜80cm2、更には1〜50cm2、特に1.2〜20cm2である。ここで圧電素子の面積とは、振動板あるいは電極と、圧電体の中で最も大きい面積をいうものとする。
本発明に用いることが出来る好ましい圧電素子としては、例えば、PKS1−4A1、PKS1−4A10、PKS1−4B1、6CC−21−15−700、6CC−10−3R9−1000、7D−25−1600、7D−15−5400等(以上ムラタ製作所製)、M12SA1、M122A2、D131A1、D201B1A、M202B2、M204B4、M204B4A、M253B4A、M272C2、M274C4、M312C2A、M352D2A、FM121A0A、FM202B2、FM202B2A,FM204B4、FM213B2、FM274C4、FM275C5、FM325D5、FM355D5、FM356D6等(以上日本セラテック社製)、EEシリーズ、EFシリーズおよびOSFシリーズ(以上FDK社製)、円板型圧電素子D−4、D−5、D−10、W−40、Dt−10、M−20、M−22等、振動ピックアップ素子であるRPおよびRCシリーズ(以上MKTタイセー社製)、日本セラテック社製であれば圧電レシーバーとして提供されているMR−15−S02等のレシーバー用圧電素子(以上日本セラテック社製)が挙げられる。
振動吸収材4は、指の関節の動きやリード線6の動きから圧電素子3が歪むことにより生じる不要な触圧信号を圧電素子3が発生しないようにするため、必要に応じて圧電素子3の摺動部2とは反対側の面に設けられる。振動吸収材4としては、発泡性ゴム、シリコーンゴム、発泡性プラスチック、高弾性ゴム等を使用することができる。振動吸収材4の厚さは不要な信号を吸収し、測定を行いやすい観点から0.1〜3.0mmであることが好ましい。
押し圧センサー5は、毛髪の表面特性の測定時に、圧電素子3とは別個に、毛髪表面特性センサー1と指で毛髪を摘んだときの押し圧を検出するものである。この押し圧を逐次検出し、モニターすることにより、押し圧が所定の圧力になったときに毛髪の表面特性の測定を開始し、表面特性測定中に押し圧が所定の範囲から外れたら再測定を行う、あるいは、測定結果に補正を加えるなどの対応措置を講じることが可能となる。したがって、押し圧センサー5によって、表面特性の測定をより精度高く行うことが可能となる。
押し圧センサー5としては、毛髪の表面特性の測定中にスティックスリップを起こし、かつその測定により毛髪に切断等のダメージを起こさせない圧力を検出する観点から、20〜200g/cm2、好ましくは30〜150g/cm2の圧力領域を検出できるものが好ましい。
押し圧センサー5の種類は特に限定されるものではなく、一般に市販されているものが使用可能であり、静電容量変化を検出するもの、電気抵抗変化を検出するもの、ダイヤフラムの歪みを検出するもの等が適応可能である。例えば、ニッタ株式会社製のタクタイルセンサー、フレキシフォースボタンセンサー等が使用可能である。
押し圧センサー5の具体的構成としては、例えば、図2のように二枚の銅電極7a、7b(一般的なプリント配線板表面に所定の形状の電極を設けたもの)で、導電性プラスチックシート9を挟み込むことで、電気抵抗の変化を検出できるようにしたものを使用することができる。この場合、導電性プラスチックシート9としては、表面電気抵抗値が10kΩ以下のものが好ましく、例えば、ポリエチレンにカーボンブラックを20〜30%練りこみ、シート状に成形したものを使用することができる。導電性プラスチックシート9の市販品としては、例えば、ホーザン株式会社製の導電袋F-15-A等を使用することができる。
この押し圧センサー5において、予め電極7a、7b間の電気抵抗と圧力との関係を求めておけば、電極7a、7b間の電気抵抗を測定することで、押し圧を知ることができる。なお、図2において、符合8aは圧電素子3側の電極7aを支持するフィルム基板であり、例えば、ポリイミド製のプリント配線板の基板部分とすることができる。プリント配線板の具体例としては、例えば、フレキ感光基板をあげることができる。また、符合8bは、もう一方の電極7bを支持するガラスエポキシ基板、ガラスコンポジット、ベークライト等のリジッドな基板であり、この基板8b上の周縁部には、スペースを確保するためにスペーサー10(例えば、厚さ0.3〜0.5mmの非導電性プラスチックシート)が設けられている。
毛髪表面特性センサー1には、それを指先又は手に安定に装着するため、装着具20を設けることが好ましい。図示した装着具20は、基板8bの下面に接着された帯状部材からなり、面ファスナーで任意の太さの指に毛髪表面特性センサー1を装着できるようにしたものである。装着具20としては、これに限らず、測定中に本発明の毛髪表面特性センサーを指先又は手に固定できればよく、例えば、伸縮性材料からなる指サック等を使用してもよい。
毛髪表面特性センサー1の使用方法としては、実際に人が指で感じる感触の指標を測定するために、好ましくは、図3に示したように、指先に装着した毛髪表面特性センサー1の摺動部2と、毛髪表面特性センサー1を装着していない指の腹との間に毛髪Sを挟み、毛髪上を所定の押し圧で摺動させて使用する。この場合、毛髪Sは、頭から採取したものだけでなく、頭にはえている毛髪でもよい。
一度に摘む毛髪の本数は、簡便かつ、個々の毛髪の摺動信号を確実に検出する観点から、1〜10本、好ましくは1〜5本、更には1〜3本、特に1本とすることが好ましい。
毛髪表面特性センサー1の摺動速度は、一定であってもよいが、変化してもよい。摺動速度は、スティックスリップを起こし易くする観点および操作性の観点から、0.5〜10cm/sec、好ましくは0.7〜8cm/sec、更には1〜5cm/secの範囲であることが好ましい。また、毛髪表面特性センサー1を装着していない指先の状態、例えば、発汗状態の影響を防止し、人による測定値のばらつきを抑える観点から指サックや手袋を装着して、測定してもよい。
なお、毛髪表面特性センサー1の使用方法としては、上述の方法も含めて、
1. 摺動部2と指先で毛髪Sを挟んで毛髪表面を摺動させる方法
2. 頭皮にはえている毛髪の先端を一方の手で摘みあげ、他方の手で毛髪表面特性センサー1の摺動部2をその毛髪表面に当てて摺動させる方法
3. 片末端を固定したトレスの表面を摺動させる方法
4. 任意の治具間に張った毛髪を摺動部で摺動させる方法
などが挙げられる。
また、摺動させる際には、キューティクルの向きにより、スティックスリップを起こしやすい観点から、毛髪の根元側から毛先に向かって摺動させることが好ましい。
検出手段30は、毛髪表面特性センサー1の摺動部2を毛髪上で摺動させることにより圧電素子3が出力した摺動信号からスティックスリップによる振動を検出するもので、例えば、パーソナルコンピュータにフーリエ変換を用いた周波数解析アルゴリズムやウェーブレット解析アルゴリズム等を実装した周波数解析ソフトを搭載することにより構成することができる。なお、検出手段30は、必ずしも、毛髪表面特性センサー1に近接して設ける必要はなく、例えば、毛髪表面特性センサー1から検出手段30へ、インターネット等の通信手段を利用して摺動信号を送信してもよい。
検出手段30における摺動信号の具体的な解析方法としては、例えば、時間に対して摺動電圧をプロットしたチャートにおいて、周期的で強いパルスに対して、フーリエ解析等の周波数解析を行う。周期的で強いパルスが発生する周波数領域は、毛髪の表面状態、摺動速度、摺動部の表面張力、圧力、測定時に用いる指の表面の湿り状態や脂っ気等により変動するが、少なくとも30Hz〜10000Hz、好ましくは40Hz〜5000Hz、特に50〜3000Hzの領域に周期的で強いパルスが発生し、スティックスリップ現象が起きている領域に対応する。スティックスリップは、染毛剤やパーマ剤により毛髪表面が親水化されていると起こりやすいが、毛髪にスタイリング剤、コンディショナー、リンス等を使用し、毛髪表面を適度に疎水化すると起きにくくなる。したがって、健常毛の振動に対し、測定対象とした毛髪に、スティックスリップ現象による周期的なパルスが強く検出されるときしみ、パサツキやごわつき感のようなダメージ感が強いと評価することができ、反対にこのような周期的パルスが存在しないことは、しっとり感、さらさら感があると評価することができる。
また、スティックスリップによる周期的で強いパルスが発生する上述の周波数領域の任意の範囲で周期的なパルスを積算して検出することが好ましい。周期的なパルスを積算することで、髪の表面状態や摺動速度、測定する人にかかわらず、毛髪の健常部位とダメージ部位との境界を明確に特定するなど、毛髪表面特性をブレなく測定することができる。
実施例1
(1)毛髪表面特性センサーの作製
図1の毛髪表面特性センサー1を次のように作製した。即ち、毛髪と触れる摺動部2には、直径3mmのアクリル材(表面張力40mN/m)を長さ6mmに切断したものを用いた。圧電素子3には、村田製作所製の直径17mmのセラミック圧電素子を用いた。振動吸収材4には、製品名ソルボセイン、厚さ3mm、硬度Sのものを15mm×15mmに切断して用いた。押し圧センサー5としては、サンハヤト社製のフレキ感光基板を用い、厚さ50μmのポリイミドフィルム8a上に直径8mm、厚さ35μmの円形の銅電極7aを設けたものと、同じくサンハヤト社製の電気回路用の厚さ1.6mmのガラスエポキシ基板8b上に直径8mmの銅電極7bを設けたものとで、カーボンブラックを20〜30%練りこんだ厚さ0.1mmの導電性プラスチックシート9(表面電気抵抗10kΩ以下のもの)を挟みこんだものを用いた。各部品の接着にはエポキシ系接着剤とシアノアクリレート系の瞬間接着剤を適所に用いた。
(2)毛髪表面特性センサーで表面特性の測定を行う押し圧の決定
(1)で作製した毛髪表面特性センサー1を指に取り付け、図3に示したように毛髪Sを挟み、毛髪Sの根元側から毛先側に摺動し、圧電素子3で押し圧を測定すると共に、押し圧センサー5の2つの電極7a、7b間の抵抗値を測定した。この測定は、パネラーが、毛髪を軽く挟んだ場合から強く挟んだ場合の何通りかについて測定した。
結果を図5に示す。図5から、押し圧が50〜250g/cm2の範囲で、押し圧センサー5の抵抗値が0.1kΩ〜0.4kΩの範囲で変化した。また、人が普通に髪を挟んでいると感じる押し圧の値を電子上皿天秤(メトリックジャパン社 SCS-240)を挟み込んで測定したところ、100g/cm2前後であった。そこで、以降の通常の毛髪の表面特性の測定では、押し圧が100g/cm2前後に対応する抵抗値が押し圧センサー5で検出された場合に、測定を行うこととした。
(3)摺動部の表面張力と測定時の押し圧の関係
(1)で作製した毛髪表面特性センサー1の摺動部の素材を、アクリル(表面張力40mN/m)に代えてテフロン(登録商標)(表面張力18mN/m)、ポリエチレン(表面張力28mN/m)、ガラス(表面張力73mN/m)、アルミニウム(表面張力1900mN/m)に変更したものを作製し、それぞれの毛髪表面特性センサー1を用いて図3に示したように毛髪Sを挟み、各種荷重にて毛髪に対して2cm/secの速度で摺動させ、得られた信号をパソコンに取り込み、市販の任意の周波数解析ソフトにより、50〜300Hzの領域に周期的信号が検出されるか否かでスティックスリップの発生の有無を観察した。なお、人による違いの影響を排除するため、一連の測定は全て同一人物により行った。
この場合、測定に用いた毛髪は、次の処理により得た軽度ダメージ毛と重度ダメージ毛の2種とした。
(i)軽度ダメージ毛
カラー処理及びパーマ処理の経験がない22歳日本人女性の毛髪を採取し、花王株式会社製プリティアふんわり泡カラーの1剤/2剤規定割合の混合液1gを用いて室温下20分間の処理を1回行った。次いでプレーンシャンプー(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを15重量%含むpH6.8〜7.2、粘度40〜100mPa・s)で髪を傷めないように気をつけて指でなぞりながら水ですすぎ、自然乾燥させた。これを軽度ダメージ毛とした。
(ii)重度ダメージ毛
一方、上述の軽度ダメージ毛を得る一連の処理を5回繰り返したものを重度ダメージ毛とした。
軽度ダメージ毛の結果を図6Aに、重度ダメージ毛の結果を図6Bに示す。なお、同一測定を3回行い、3回ともスティックスリップの発生が検出された場合を○とし、1回でもスティックスリップの発生が検出されなかった場合を×として図示した。
これにより、カラー処理によってダメージを与えた髪でスティックスリップ現象を安定して発生させるには、軽度ダメージ毛の場合、30g/cm2以上の圧力で、摺動部の表面張力が30mN/m以上であり、重度ダメージの場合25g/cm2以上の圧力で、摺動部の表面張力が25mN/m以上であることがわかった。
(4)健常毛とカラー処理毛の表面特性
カラー処理及びパーマ処理の経験がない22歳日本人女性の毛髪(長さ20cm)1本を採取し、その毛先6cmのみを花王株式会社製プリティアふんわり泡カラーの1剤/2剤規定割合の混合液1gを用いて室温下20分間の処理を1回することでカラー処理した。このカラー処理を1回行った髪に対して、プレーンシャンプー(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムを15重量%含むpH6.8〜7.2、粘度40〜100mPa・s)で髪を傷めないように気をつけて指でなぞりながら水ですすぎ、自然乾燥させる洗浄処理を行った。この洗浄処理サイクルを20回行い、カラー処理部とした。
(1)で作製した毛髪表面特性センサー1を用いて、この毛髪1本の感触を根元側から毛先側に測定した。得られた信号を周波数解析した結果を図7に示す。本実施例では、カラー処理部では、毛髪と毛髪表面特性センサー1の間でスティックスリップが起きており、カラー処理部に対応する部分で100〜300Hzの領域に強い信号が観察された。これにより、カラー処理部と未カラー処理部の判断が非常に簡便に行えることが確認できた。
(5)摺動速度の変化と測定結果
(4)と同様に、毛先のみをカラー処理し、洗浄した毛髪を準備し、(1)で作製した毛髪表面特性センサー1を用いて、この毛髪1本の感触を根元側から毛先側に測定した。
この場合、毛先のカラー処理部で摺動速度を遅くさせた。周波数解析した結果を図8に示す。同図内に矢印で示すように、摺動速度が変化するに従い、強い信号が現れる周波数が低い方へ変化することがわかった。
図9(a)に、図8の結果の50Hzから200Hzの間の信号について積算し、その積算値を縦軸にプロットしたものと同図(b)100Hzの信号を同様にプロットしたものを示す。これらの図から、周波数解析結果に対して、ある幅の周波数領域で強度解析を実施することで、毛髪表面特性センサー1を手で摺動させることにより摺動速度に変化があっても、カラー処理部と未カラー処理部を、容易に且つ正確に識別できることが確認できた。
比較例1
図10に示すように、一般に使われているプラスチック製コームを摺動部42とし、そこにマイクロフォン43を装着した従来の摺動音測定装置40を用いて、毛先をカラー処理した毛髪の測定を行った。
ただし、この櫛形の摺動音測定装置40では、毛髪1本での測定が不可能であるため、長さ20cm、幅3cmの毛束を作り、その毛束の下半分の約10cmについて(4)と同様にカラー処理し、洗髪乾燥後、室温23℃、湿度45%の室内において測定を行った。測定は3回連続して行ったが、カラー処理部と未カラー処理部に大きな差は見られなかった。
3回の測定のうちの2回目のデータを周波数解析した。この結果を図11に示す。同図から、未カラー処理部に対してカラー処理部に周期的で強い信号があるとはいえず、スティックスリップの発生は認められなかった。
本発明の毛髪表面特性センサーによれば、毛髪を指や掌で触ったときに人が感じ取る感触を機械的に高感度に再現性よく測定することができるので、毛髪化粧料の開発、毛髪の健康状態のカウンセリング、毛髪化粧料の販売促進ツール等として有用となる。
1 毛髪表面特性センサー
2 摺動部
3 圧電素子
4 振動吸収材
5 押し圧センサー
6 リード線
7a、7b 電極
8a フィルム基板
8b 基板
9 導電性プラスチックシート
10 スペーサー
11 ガイド
20 装着具
30 検出手段
40 従来の摺動音測定装置
42 摺動部
43 マイクロフォン

Claims (12)

  1. 摺動部と、摺動部の振動を検出する圧電素子を備え、摺動部を毛髪に当接させ、25g/cm2以上の圧力で毛髪表面を摺動させることができ、摺動部が毛髪表面を摺動することによりスティックスリップを起こさせる毛髪表面特性センサー。
  2. 摺動部が、表面張力25mN/m以上の摺動面を有する請求項1記載の毛髪表面特性センサー。
  3. 圧電素子が、最大感度の出力を0dBとしたときに50〜3000Hzの全領域で−60dB以上の感度を有する請求項1又は2記載の毛髪表面特性センサー。
  4. 更に20〜200g/cm2の圧力を検出できる押し圧センサーを備える請求項1〜3のいずれかに記載の毛髪表面特性センサー。
  5. 指又は手に装着する装着具を備えた請求項1〜4のいずれかに記載の毛髪表面特性センサー。
  6. 25g/cm2以上の圧力で毛髪表面を摺動させることができ、毛髪表面を摺動することによりスティックスリップを起こさせる摺動部と、摺動部の振動を検出する圧電素子とを備えた毛髪表面特性センサー、及び毛髪表面特性センサーの圧電素子が出力した摺動信号からスティックスリップによる振動を検出する検出手段を備えた毛髪表面特性評価システム。
  7. 毛髪表面特性センサーの摺動部が表面張力25mN/m以上の摺動面を有し、該センサーの圧電素子が、最大感度の出力を0dBとしたときに50〜3000Hzの全領域で−60dB以上の感度を有し、検出手段が、健常毛の振動に対して周期的で強い振動を検出する請求項6記載の毛髪表面特性評価システム。
  8. 検出手段が、30〜10000Hzの任意の範囲で摺動信号の積算強度を算出する請求項6又は7記載の毛髪表面特性評価システム。
  9. 毛髪表面を摺動部で25g/cm2以上の圧力で摺動してスティックスリップを起こさせ、摺動部の振動を圧電素子で検出し、圧電素子が出力した摺動信号からスティックスリップの振動を検出し、スティックスリップの振動に基づいて毛髪の表面特性を評価する評価方法。
  10. 摺動部と指で毛髪を挟みつつ摺動部を毛髪と摺動させる請求項9記載の評価方法。
  11. 摺動速度が0.5〜10cm/secである請求項9又は10に記載の評価方法。
  12. 最大感度の出力を0dBとしたときに50〜3000Hzの全領域で−60dB以上の感度を有する圧電素子で摺動部の振動を検出する請求項9〜11のいずれかに記載の評価方法。
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