以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
(第1の実施の形態)
本発明の第1の実施の形態に係るエンジンの制御装置を搭載した車両の構成を、図1に基づいて説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態に係るエンジンの制御装置を搭載した車両の概略ブロック構成図である。
図1に示す車両10は、エンジン前置型後輪駆動車(FR:Front engine Rear drive)である。なお、本発明に係るエンジンの制御装置は、エンジン前置型後輪駆動車以外の車両に搭載してもよい。
図1に示すように、本実施の形態に係る車両10は、動力源としてのエンジン11と、エンジン11において発生した動力を伝達する出力軸としてのクランクシャフト12と、エンジン11において発生した動力を伝達するとともに車両10の走行状態に応じた変速段を選択する自動変速機(A/T:Automatic Transmission)20と、A/T20を油圧により制御するための油圧制御装置30と、A/T20によって伝達された動力を伝達するプロペラシャフト21と、プロペラシャフト21によって伝達された動力を伝達するディファレンシャル機構40と、ディファレンシャル機構40によって伝達された動力を伝達する駆動軸としてのドライブシャフト41L、41Rと、ドライブシャフト41L、41Rによって伝達された動力を用いて回転することにより車両10を駆動させる駆動輪42L、42Rと、を備えている。
さらに、車両10は、エンジン11と連結されエンジン11の駆動に伴って発電を行うオルタネータ13および蓄電池としてのバッテリ14により構成される電源装置15と、A/T20における動力の伝達状態および変速段を切り替えるためのシフトレバー17と、車両10全体を制御するための車両用電子制御装置としてのECU100と、を備えている。また、車両10には、図示しない各種センサが設けられている。各種センサは、検出した検出信号を、ECU100に入力するようになっている。
エンジン11は、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料と空気との混合気を、後述するシリンダの燃焼室内で燃焼させることによって動力を出力する公知の動力装置により構成されている。エンジン11は、燃焼室内で混合気の燃焼を断続的に繰り返すことによりシリンダ内のピストンを往復動させ、ピストンと動力伝達可能に連結されたクランクシャフト12を回転させることにより、A/T20に動力を伝達するようになっている。
オルタネータ13は、図示しないベルトにより、エンジン11のクランクシャフトプーリとオルタネータ13が備えるプーリとが連結されるように構成されている。オルタネータ13は、ベルトを介して伝達されたエンジン11の動力によりプーリを回転させることによって、公知の発電機で発電し、エアーコンディショナー等の作動に伴い必要になる電力をバッテリ14に供給するようになっている。したがって、オルタネータ13は、原則としてエンジン11が運転を停止している場合には、発電を行わないようになっている。なお、オルタネータ13は交流電流を発生させるものであるが、車両10において用いられる電流は直流電流であるため、オルタネータ13は発生させた交流電流を直流電流に変換する整流回路を備えている。
バッテリ14は、ECU100、エアーコンディショナー、およびオーディオシステムといった車両10内の電気機器に電力を供給するための電源であって、特に、エンジン始動時に必要となる大電力を供給するものであり、蓄電池が好適に用いられる。バッテリ14は、例えば鉛バッテリ、ニッケルバッテリ、リチウムイオン電池といった種々の蓄電池を用いることができる。また、バッテリ14は、複数設けられていても良いが、本実施の形態に係る車両10においては、バッテリ14は1つ設けられている構成とした。
シフトレバー17は、A/T20における動力伝達状態または変速段の切替時に、運転者によって切替操作されるようになっている。シフトレバー17は、運転者によって、前進位置(Dレンジ)、後進位置(Rレンジ)、駐車位置(Pレンジ)、および中立位置(Nレンジ)のいずれかの切替状態に切り替えられるように構成されている。
なお、シフトレバー17の切替状態が、DレンジまたはRレンジである場合には、A/T20は、エンジン11において発生した動力を伝達させる状態である動力伝達状態であり、PレンジまたはNレンジである場合には、車両10は、上記動力を伝達させない状態である動力非伝達状態であるものとする。
A/T20は、図示しない複数の遊星歯車装置を備えている。これらの遊星歯車装置は、油圧アクチュエータによって係合制御される複数の摩擦要素としてのクラッチおよびブレーキを有している。
また、これらのクラッチおよびブレーキは、油圧制御装置30が有するトランスミッションソレノイドおよびリニアソレノイドの励磁、非励磁や、マニュアルバルブによって切り替えられる油圧回路の状態に応じて、係合状態および解放状態のいずれか一方の状態をとるようになっている。したがって、A/T20は、これらのクラッチおよびブレーキの係合状態および解放状態の組み合わせに応じた変速段をとるようになっている。
このような構成により、A/T20は、エンジン11の動力として入力されるクランクシャフト12の回転を所定の変速比γで減速あるいは増速してプロペラシャフト21に伝達する有段式の変速機であり、シフトレバー17の切替状態のうちのいずれかに対応する動力伝達状態および変速段を成立させ、各変速段に応じた速度変換がなされるようになっている。
A/T20は、走行状態に応じてECU100に制御されることにより、変速段を変更するようになっている。さらに、A/T20は、ECU100がシフトセンサ82によって検出したシフトレバー17の切替状態に応じて、変速段を変更するようになっている。なお、A/T20は、シフトレバー17の切替状態がPレンジである場合には、図示しないパーキングロック機構によって、プロペラシャフト21の回転を機械的に禁止するように構成されている。
油圧制御装置30は、複数のトランスミッションソレノイドS、リニアソレノイドSLT、SLUを有し、ECU100によって制御され、油圧によりA/T20を制御するようになっている。複数のトランスミッションソレノイドSは、A/T20が各変速段を互いに切り替える場合に作動するようになっている。リニアソレノイドSLTは、ライン圧制御および図示しないアキュムレータの背圧制御を行うようになっている。
また、複数のトランスミッションソレノイドSおよびリニアソレノイドSTL、SLUの作動状態に応じて、ライン圧を元圧とする油圧によりA/T20の複数の摩擦要素が選択的に係合あるいは解放されるようになっている。油圧制御装置30は、これらの摩擦要素の係合および解放の組み合わせによって、クランクシャフト12とプロペラシャフト21との回転数の比を変更し、A/T20に所望の変速段を構成させるようになっている。
ディファレンシャル機構40は、カーブ等を走行する場合に、駆動輪42Lと駆動輪42Rとの回転数の差を許容するものである。ディファレンシャル機構40は、プロペラシャフト21の回転により伝達された動力を、ドライブシャフト41L、41Rを回転させることによって駆動輪42L、42Rに伝達するようになっている。
駆動輪42L、42Rは、ドライブシャフト41L、41Rによって伝達された動力により回転し、路面との摩擦作用によって、車両10を駆動させるようになっている。
ECU100は、中央処理装置としてのCPU(Central Processing Unit)、書き換え可能な不揮発性のメモリからなるEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)、一時的にデータを記憶するRAM(Random Access Memory)および入出力インターフェース回路(いずれも図示しない)を有している。
さらに、ECU100は、バッテリ14と、エンジン回転数センサ81と、シフトセンサ82と、駆動軸回転数センサ83とに接続されている。
エンジン回転数センサ81は、ECU100によって制御されることにより、クランクシャフト12の回転数をエンジン回転数Neとして検出して、検出したエンジン回転数Neを表す検出信号をECU100に入力するようになっている。
シフトセンサ82は、ECU100によって制御されることにより、シフトレバー17が、複数の切替状態のうちいずれの切替状態にあるかを検出し、シフトレバー17の切替状態を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。
駆動軸回転数センサ83は、ECU100によって制御されることにより、ドライブシャフト41Lまたは41Rの回転数を検出し、ドライブシャフト41Lまたは41Rの回転数を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。なお、ECU100は、駆動軸回転数センサ83によって入力された上記検出信号に基づいて、車両10の走行速度を算出するようになっている。
次に、エンジン11のシリンダ周辺の詳細な構成について、図2に基づいて説明する。
図2は、本発明の実施の形態に係る車両10におけるエンジン11のシリンダ周辺の構成を表す概略ブロック構成図である。
エンジン11は、複数の気筒からなる燃焼部50と、燃焼部50に燃料を供給する燃料供給部60と、空気等の気体を燃焼部50に供給する吸気部70と、燃焼部50における混合気の燃焼によって生成した排気ガスを車外へ排出する排気部75とを有している。
燃焼部50は、シリンダブロック51と、図2におけるシリンダブロック51の上部に固定されたシリンダヘッド52と、シリンダブロック51とシリンダヘッド52とにより形成された空間に往復動可能に収容されたピストン53とを備えている。また、シリンダブロック51とシリンダヘッド52とピストン53とによって、燃焼室54が形成されている。
シリンダブロック51には、冷却水を内包し、内包した冷却水とシリンダブロック51との温度差を利用してシリンダブロック51を冷却するためのウォータジャケット51wが設けられている。さらに、シリンダブロック51には、燃焼室54におけるノッキングを検出するノッキングセンサ59nと、ウォータジャケット51wを流通する冷却水の温度を検出するための冷却水温度センサ59cとが取り付けられている。
ノッキングセンサ59nは、圧力が加わると電気を発生する公知の圧電素子を有している。ノッキングセンサ59nは、燃焼室54内で発生したノッキングに伴う衝撃波によるシリンダブロック51の振動を圧電素子によって検出し、検出信号をECU100に入力するようになっている。これにより、ECU100は、ノッキングセンサ59nによって入力された検出信号に基づいて、ノッキングが発生しているか否かを判定して、点火時期を遅角側に制御する等の対応を行うこととなる。なお、ノッキングセンサ59nは、ノッキングを効果的に検出できるよう、シリンダブロック51の外壁面に装着されている。
冷却水温度センサ59cは、例えば、優れた温度特性を有するサーミスタを有している。サーミスタは、ECU100に接続されており、エンジン11を冷却する冷却水の温度に応じた抵抗値を検出し、検出信号をECU100に入力するようになっている。なお、冷却水温度センサ59cは、ウォータジャケット51wを流通する冷却水の温度を検知するよう、シリンダブロック51の外壁面に装着されている。
シリンダヘッド52には、空気を燃焼室54へ導入するための吸気弁55と、排気ガスを排気部75へ排出するための排気弁56と、燃焼室54内の混合気に点火するための点火プラグ58と、燃料を燃焼室54内へ噴射するためのインジェクタ57とが設けられている。
ピストン53は、クランクシャフト12に動力伝達可能に連結されており、燃料の燃焼によって往復動し、この往復動をクランクシャフト12に伝達するようになっている。
吸気弁55および排気弁56は、クランクシャフト12とタイミングベルトを介して連結しており、クランクシャフト12の回転に伴い、所望のタイミングで開閉を行うようになっている。
インジェクタ57は、図示しないソレノイドコイルおよびニードルバルブを有しており、ECU100によってソレノイドコイルに所望のタイミングで通電されるとニードルバルブを開くように構成されている。インジェクタ57は、ニードルバルブを開くことによって、燃焼室54内に所望のタイミングで燃料を噴射するようになっている。
点火プラグ58は、プラチナやイリジウム合金の電極を有する公知の点火プラグである。点火プラグ58は、ECU100によって所望のタイミングで上記電極に通電されて放電を発生させることにより、インジェクタ57によって燃焼室54内に噴射された燃料に、所望のタイミングで点火するようになっている。
ここで、ノッキングについて説明する。燃焼室54において混合気が正常に燃焼する場合には、点火プラグ58が混合気に点火することによって発生した火炎が、点火位置から燃焼室54内に広がっていき、燃焼室54内全体に行き渡る。
しかし、例えばターボエンジンのように、混合気の圧縮率が高く燃焼室54内が高温高圧になりやすいエンジンにおいては、点火位置から広がる火炎によって燃焼室54の壁面に押し付けられた混合気は、さらに高温高圧状態になり、自己発火する。この自己発火に伴う圧力波と、点火プラグ58によって最初に発生した発火に伴う圧力波が衝突して圧力が急上昇し、燃焼室54内の至る所で自然発火が発生する。この多数の自然発火に伴い発生する衝撃波が、シリンダブロック51等の耐久性を損なう原因となる。さらに、燃焼室54の内壁面に生成されている断熱層が衝撃波によって消滅し、シリンダブロック51等への熱伝達率が急激に増大して、シリンダブロック51等に熱的影響を与える原因にもなる。このような現象をノッキングという。
また、低オクタン価のガソリンは自己発火性が高いため、低オクタン価のガソリンを使用したエンジンの場合にも、広がる火炎により燃焼室54の壁面に押し付けられて高温高圧状態となった混合気が自己発火することにより、ノッキングが発生しやすい。
燃焼部50は、図示しない他の3個の燃焼部50を含めて直列4気筒のエンジン11を構成しているが、エンジン11は、直列4気筒のものに限られず、単気筒または任意に気筒配列された多気筒であってもよく、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンといった公知のエンジンであってもよい。
燃料供給部60は、燃料を貯留するための燃料タンク61と、燃料をインジェクタ57に圧送するための燃料ポンプ62と、圧送される燃料の圧力を調整する圧力レギュレータ63と、圧送される燃料の圧力を測定する燃料圧力センサ64と、燃料タンク61とインジェクタ57とを連結させる燃料圧送用の燃料供給管65とを有している。
燃料タンク61は、ガソリンあるいは軽油等の炭化水素系の燃料を貯留するためのものであり、内部に防錆処理が施された鉄製または樹脂製の公知の燃料タンクである。燃料タンク61は、車外と連通する図示しない燃料供給口を有しており、燃料供給口から燃料の供給を受けるようになっている。なお、燃料タンク61は、燃料に含まれる異物を取り除くための燃料フィルターを内蔵するものであってもよい。
燃料ポンプ62は、ポンプケース内に設けたインペラの回転によって燃料を圧送する公知の電動ポンプである。燃料ポンプ62は、この構成により、インジェクタ57に対して予め定められた圧力で燃料を圧送するように構成されており、ECU100によって制御されるようになっている。なお、燃料ポンプ62は、燃料タンク61の内部に収納されるものであってもよい。
圧力レギュレータ63は、燃料ポンプ62によりインジェクタ57に圧送される燃料の圧力を、所望の圧力に調整するようになっている。これにより、インジェクタ57は、燃料ポンプ62によって所望の燃料の圧力がかけられているので、ECU100に制御されることによって開弁すると、開弁時間に応じた体積の燃料を燃焼室54に噴射することができる。
また、燃料圧力センサ64は、燃料供給管65におけるインジェクタ57と圧力レギュレータ63との間に設けられている。燃料圧力センサ64は、インジェクタ57に圧送される燃料の圧力を測定し、測定した燃料の圧力を表す検出信号をECU100に入力するようになっている。
吸気部70は、図示しないエアクリーナを通過して車外から流入した空気を燃焼室54に導入するための吸気管71と、空気の流量を調整するためのスロットル弁72と、エンジン11の運転状態がアイドル状態である場合における空気の流量を調整するためのISC(Idle Speed Control)用バイパス通路73とを有している。
スロットル弁72は、薄い円板状の弁体の中央にシャフトを備えて構成されており、このシャフトがスロットル弁アクチュエータ72aによって回動させられることによって弁体が回動し、吸気管71における空気の流量を変更するようなっている。また、スロットル弁72の開度は、スロットル弁開度センサ72bによって検出され、スロットル弁72の開度を表す検出信号がスロットル弁開度センサ72bによってECU100に入力されるようになっている。
ISC用バイパス通路73には、ISC用バイパス通路73における空気の流量を調整するISC用バルブ73aが設けられている。ISC用バルブ73aは、ECU100に制御されるISC用バルブアクチュエータ73bによって駆動させられることにより、ISC用バイパス通路73における流量を変更するようになっている。
エンジン11の運転状態がアイドル状態である場合においては、ECU100は、スロットル弁72を全閉とし、ISC用バイパス通路73は開となるように制御する。したがって、アイドル状態である場合に燃焼に必要な空気は、ISC用バイパス通路73を経て燃焼部50に吸気されるようになっている。
排気部75は、排気弁56を介して燃焼室54と連通する排気管76と、排気管76に設けられ、排気ガスを浄化処理するための触媒コンバータ77とを有している。
触媒コンバータ77は、排気ガスに含まれる未燃炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)および窒素酸化物(NOx)といった有害物質を効率的に除去することができる三元触媒を備えたものであり、好ましくはNOx含有率の高い排気ガスからでも、NOxを効率的に除去する機能を有するものが用いられる。
しかし、上記有害物質に対する触媒の排気ガス処理性能は、触媒の温度が約400℃から約500℃にかけての高温領域において最も高くなるが、約25℃前後の常温領域において、触媒の排気ガス処理性能は、高温領域における排気ガス処理性能よりも著しく低いものとなる。
エンジン11の運転を開始した直後等の冷間運転時においては、触媒は暖機されておらず、上述したように常温領域においては触媒の排気ガス処理性能が低いため、上記有害物質を効率的に処理することができない。そのため、冷間運転時においても上記有害物質を効率的に処理するために、触媒が高い排気ガス処理性能を有する高温領域まで触媒の昇温を促進させる、いわゆる触媒暖機制御を行うことが知られている。
ここで、一般的に知られている触媒暖機制御の方法として、エンジンの点火時期を遅角側に制御する(以下、「点火時期遅角制御」という)方法がある。
以下、点火時期遅角制御について、図2から図4に基づいて説明する。
まず、図3に基づいて、通常の点火時期を説明する。図3は、本実施の形態における通常の点火時期および弁の開閉時期を説明するための概要図である。図3(a)は、本発明の実施の形態に係る通常の点火時期と、吸気弁55および排気弁56の開閉時期とを表す概要図であり、図3(b)は、図3(a)に示す通常の点火時期に対応する燃焼部50の概要図である。なお、図3(a)においては、吸気弁55をIv(Intake-valve)と記載し、排気弁56をEv(Exhaust-valve)と記載する。さらに、図3(a)において、TDCは、ピストン53の往復動の最上端である上死点(Top-Dead-Center)を意味し、BDCは、ピストン53の往復動の最下端である下死点(Bottom-Dead-Center)を意味する。
図3(a)に示すように、まず、吸気弁55(Iv)は、ピストン53が上死点に達して吸気工程に入る直前に開き、TDCからBDCに向かってピストン53が移動する吸気工程において開いた状態を維持する。これにより燃焼室54内に空気が導入される。なお、吸気弁55(Iv)は、BDCに達した後もしばらく開いているが、これは、吸気の慣性力がピストン53による圧縮力よりも大きい場合は吸気が継続するので、可能な限り多くの空気を燃焼室54に導入するためである。
吸気弁55(Iv)が閉じた後、ピストン53がTDCに向かって上昇していく工程は、吸気弁55(Iv)および排気弁56(Ev)が閉じているため、燃焼室54の容積の減少に伴って混合気が圧縮されていく圧縮工程である。圧縮に伴い、燃焼室54内の圧力および温度は増大していく。
吸気弁55(Iv)が閉じた後、ピストン53がTDCへ達する前に点火が行われる。ピストン53がTDCへ達する前に点火が行われるのは、以下の理由による。すなわち、点火してから混合気の圧力が上昇し始めるまでにわずかな時間差が存在することから、より効果的に出力を得るために、時間差の分だけ点火時期をTDCに対して早めたものである。
点火が行われ、上記タイムラグを超過すると、混合気の急激な酸化反応(爆発)により、燃焼室54内の圧力および温度が急激に上昇することによって、ピストン53は押し下げられ、再びBDCに向かって下降していくが、BDCに達する前に排気弁56(Ev)が開く。ピストン53がBDCに達する前に排気弁56(Ev)が開くのは、以下の理由による。すなわち、ピストン53がBDCに達する前に排気弁56が開くと、燃料の不完全膨張によって仕事量の低下につながるが、排気弁56(Ev)が開く時期を遅らせると、燃焼室54内に残留する排気ガスの量が増加して、次の吸気工程における吸気量が減少してしまう。そのため、排気弁56(Ev)が開く時期は、上述した不完全燃焼による仕事量の低下と、残留する排気ガスによる吸気量の減少とのトレードオフによって決定され、図3(a)に示すような時期となっている。
排気弁56(Ev)は、ピストン53がBDCを通過し、TDCに達した後に閉じる。ピストン53がTDCに達した後に排気弁56(Ev)が閉じるのは、以下の理由による。すなわち、ピストン53がTDCを通過しても、排気の慣性力がピストン53の下降に伴う吸気の力よりも大きい場合は排気が継続するので、できるだけ多くの排気ガスを排気し、次の吸気工程における吸気量を増大させるためである。
次に、図4に基づいて、遅角させた場合における点火時期を説明する。図4は、本実施の形態における遅角させた点火時期および弁の開閉時期を説明するための概要図である。図4(a)は、本発明の実施の形態に係る通常の点火時期と、吸気弁55および排気弁56の開閉時期とを表す概要図であり、図4(b)は、図4(a)に示す遅角させた点火時期に対応する燃焼部50の概要図である。
図4(a)に示すように、点火時期を遅角させた場合においては、点火から排気弁56(Ev)が開く時期までに要する時間が、点火時期を遅角させない図3(a)に示す場合よりも短くなるため、燃焼室内の混合気が完全に燃焼するよりも早く排気弁56(Ev)が開くこととなるので、高温となった未燃の混合気が排気弁56(Ev)から排出される。排気弁56(Ev)から排出された高温の未燃の混合気は、排気管76の内部で燃焼することとなる。
したがって、点火時期を遅角させた場合には、排気管76の内部で未燃の混合気が燃焼することとなるので、排気管76に設けられた触媒コンバータ77(図2参照)には、点火時期を遅角させない場合よりも高温の排気ガスが供給される。その結果、触媒コンバータ77が有する触媒の昇温が促進されることとなる。以上のように、点火時期を遅角させることによって、触媒暖機制御が行われる。
しかしながら、点火時期を遅角させることによって、点火時期がTDC近傍に設定されると、混合気の圧縮率が高くなり、点火プラグ58の近傍に燃料濃度が過剰に増大した領域が生成される場合がある。理想的な空燃比を超えた混合気では火炎が正常に伝播しないため、燃焼状態が不安定となることによってトルクが変動して、エンジン回転数Neが変動することが考えられる。
そのため、本発明は、エンジン回転数Neの変動が予め定められた値よりも大きい場合には、点火時期遅角制御を実行することを禁止することによって、触媒暖機制御による車両の走行状態の乱れを防止するものである。
以下、本実施の形態に係るエンジンの制御装置の特徴的な構成について説明する。
シフトセンサ82は、エンジンにおいて発生した動力の駆動輪42L、42Rへの伝達状態が、動力の伝達状態を可能とする動力伝達状態であるか、前記動力の伝達を不可とする動力非伝達状態であるかを検出するようになっている。すなわち、シフトセンサ82は、本発明における伝達状態検出手段を構成している。
エンジン回転数センサ81は、クランクシャフト12の回転数をエンジン回転数として検出するようになっている。すなわち、エンジン回転数センサ81は、本発明におけるエンジン回転数検出手段を構成している。
ECU100は、エンジンの点火時期を遅角側に制御するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明における遅角制御手段を構成している。
ECU100は、エンジン回転数に基づいてエンジン回転数の変動幅を算出するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明におけるエンジン回転数変動幅算出手段を構成している。
ECU100は、エンジン回転数の変動幅が予め定められた範囲にあるか否かを判定するようになっている。すなわち、ECU100は、本発明におけるエンジン回転数変動幅判定手段を構成している。
また、ECU100は、エンジン回転数の変動幅が予め定められた範囲にないと判定された場合に、点火時期の遅角側への制御を禁止するようになっている。すなわち、ECU100の本発明における遅角禁止手段を構成している。
次に、本発明の第1の実施の形態に係るエンジンの制御装置の動作について、図面を参照して説明する。図5は、本発明の第1の実施の形態に係る触媒暖機制御処理を示すフローチャートである。
なお、図5に示すフローチャートは、ECU100のCPUによって、RAMを作業領域として実行される触媒暖機制御処理のプログラムの実行内容を表す。この触媒暖機制御処理のプログラムはECU100のROMに記憶されている。また、この触媒暖機制御処理は、ECU100のCPUによって予め定められた時間間隔(例えば、100ms毎)で実行される。
図5に示すように、まず、ECU100のCPUは、シフトセンサ82によって、シフトレバー17の切替状態を検出する(ステップS11)。
次に、ECU100のCPUは、シフトセンサ82によって検出したシフトレバー17の切替状態が、NレンジまたはPレンジであるか否かを判定する(ステップS12)。
ECU100のCPUは、シフトセンサ82によって検出したシフトレバー17の切替状態が、NレンジまたはPレンジであると判定した場合には(ステップS12でYES)、車両10の状態は、車両10の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が小さい非変動状態であると判定して、後述する7つのエンジン状態パラメータを取得する(ステップS13)。
ここで、シフトレバー17の切替状態が、NレンジまたはPレンジであると判定した場合に(ステップS12でYES)、車両10の状態は非変動状態であるとECU200のCPUが判定するのは、以下の理由による。
すなわち、シフトレバー17の切替状態がNレンジまたはPレンジである場合には、エンジン11において発生した動力は、A/T20までは伝達されているものの、A/T20において動力の伝達経路が切り離された状態になるためプロペラシャフト21には伝達されない。Pレンジである場合には、さらに、図示しないパーキングロックによってプロペラシャフト21の回転が禁止されている。したがって、NレンジおよびPレンジのいずれの場合においても、車両10の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が小さい状態であるため、ECU100のCPUは、車両10の状態は非変動状態であると判定する。
ここで、7つのエンジン状態パラメータは、(1)冷却水温度Tc、(2)燃料圧力Pf、(3)エンジン回転数Ne、(4)アイドル継続時間Ti、(5)大気圧補正係数CPa、(6)外部負荷Lx、および(7)電子制御スロットルフェール退避走行の実行中か否かである。
具体的には、ECU100のCPUは、冷却水温度センサ59cによって入力された検出信号に基づいて、冷却水温度Tcを取得する(エンジン状態パラメータ(1))。
また、ECU100のCPUは、燃料圧力センサ64によって入力された検出信号に基づいて、燃料圧力Pfを取得する(エンジン状態パラメータ(2))。
また、ECU100のCPUは、エンジン回転数センサ81によって入力された検出信号に基づいて、エンジン回転数Neを取得する(エンジン状態パラメータ(3))。
さらに、ECU100のCPUは、例えば、駆動軸回転数センサ83によって入力された検出信号に基づいて算出した車両10の走行速度が、予め定められた値(例えば、5km/h)以下であること、およびエンジン回転数センサ81によって入力された検出信号が表すエンジン回転数Neが、アイドル回転数Nei(例えば1,000rpm)付近の予め定められた範囲にあること、のいずれの条件も満たされている状態が継続した時間に基づいて、アイドル継続時間Tiを取得する(エンジン状態パラメータ(4))。
また、ECU100のCPUは、大気圧補正係数CPaを取得する。まず、車両10に設けられた図示しない大気圧センサによって、現時点での大気圧Paを検出する。さらに、標準大気圧、すなわち101.3(kPa)と、現時点での大気圧Paとの比である大気圧補正係数CPaを、以下に示す(1)式により算出する(エンジン状態パラメータ(5))。
CPa = Pa(kPa)/101.3(kPa) (1)
さらに、ECU100のCPUは、例えばエアコン等の車載機器の作動に伴うオルタネータ13の電流を、外部負荷Lxとして検出する(エンジン状態パラメータ(6))。
さらに、ECU100のCPUは、RAM等に記憶された制御記録に基づいて、ECU100のCPUが車両10について、電子制御スロットルフェール退避走行の制御を行っているか否かを検出する(エンジン状態パラメータ(7))。ここで、電子制御スロットルフェール退避走行とは、スロットル弁開度センサ72bが検出したスロットル弁72の開度が、ECU100のCPUが指示したスロットル弁72の開度と大きく異なる等、スロットル弁72に何らかの異常があるとECU100のCPUが判定した場合に、エンジン回転数Neや変速段等を調節して、安全な区域まで車両10を低速で走行させる制御をいう。
次に、ECU100のCPUは、取得した全てのエンジン状態パラメータ(1)〜(7)が、以下に示すように各エンジン状態パラメータ(1)〜(7)に対応する各基準B1〜B7を満たしているか否かを判定する(ステップS14)。
ECU100のCPUは、冷却水温度Tcが予め定められた温度T1以下であるか否かを判定する。ECU100のCPUは、冷却水温度Tcが予め定められた温度T1以下であると判定した場合には、基準B1を満たしていると判定し、冷却水温度Tcが予め定められた温度T1よりも高いと判定した場合には基準B1を満たしていないと判定する。
ここで、冷却水温度Tcが予め定められた温度T1以下であることを基準B1としたのは、以下の理由による。すなわち、冷却水温度Tcが一定の温度よりも高い場合には、すでにエンジン11の温度が一定の温度よりも高い状態であり、触媒の温度も高いと考えられるため、点火時期遅角制御を行う必要はないと考えられるからである。
また、ECU100のCPUは、燃料圧力Pfが予め定められた燃料圧力Pf1以上であるか否かを判定する。ECU100のCPUは、燃料圧力Pfが予め定められた燃料圧力Pf1以上であると判定した場合には、基準B2を満たしていると判定し、燃料圧力Pfが予め定められた燃料圧力Pf1よりも小さいと判定した場合には、基準B2を満たしていないと判定する。
ここで、燃料圧力Pfが予め定められた燃料圧力Pf1以上であることを基準B2としたのは、以下の理由による。すなわち、燃料圧力Pfが一定圧力以上でなければ、点火時期遅角制御の実行中に燃料圧力Pfが不足し、燃料の燃焼状態が不安定となる可能性があることから、点火時期遅角制御を安全かつ確実に実行することができないと考えられるからである。
ECU100のCPUは、エンジン回転数Neが予め定められた範囲内にあるか否かを判定する。ECU100のCPUは、エンジン回転数Neが予め定められた範囲内にあると判定した場合には、基準B3を満たしていると判定し、エンジン回転数Neが予め定められた範囲内にないと判定した場合には、基準B3を満たしていないと判定する。
ここで、エンジン回転数Neが予め定められた範囲内にあることを基準B3としたのは、以下の理由による。すなわち、エンジン回転数Neが予め定められた範囲になく、高回転であるような場合には、車両10が一定以上の速度で走行していることが考えられ、そのような場合に点火時期遅角制御を行って、エンジン回転数Neを変動させることは、運転安全上好ましくないからである。
また、ECU100のCPUは、アイドル継続時間Tiが予め定められたアイドル継続時間Ti1以下であるか否かを判定する。アイドル継続時間Tiが予め定められたアイドル継続時間Ti1以下であると判定した場合には、基準B4を満たしていると判定し、アイドル継続時間Tiが予め定められたアイドル継続時間Ti1よりも長いと判定した場合には、基準B4を満たしていないと判定する。
ここで、アイドル継続時間Tiが予め定められたアイドル継続時間Ti1以下であることを基準B4としたのは、以下の理由による。すなわち、アイドル状態が一定時間継続している場合には、すでにエンジン11および触媒の温度が高温となっている可能性が高く、触媒の昇温を促進するための点火時期遅角制御を行う必要性が小さいと考えられるからである。
さらに、ECU100のCPUは、大気圧補正係数CPaが予め定められた大気圧補正係数CPa1以上であるか否かを判定する。ECU100のCPUは、大気圧補正係数CPaが予め定められた大気圧補正係数CPa1以上であると判定した場合には、基準B5を満たしていると判定し、大気圧補正係数CPaが予め定められた大気圧補正係数CPa1よりも小さいと判定した場合には、基準B5を満たしていないと判定する。
ここで、大気圧補正係数CPaが予め定められた大気圧補正係数CPa1以上であることを基準B5としたのは、以下の理由による。すなわち、上記(1)式において求められた大気圧補正係数CPaが一定の値よりも小さい場合には、大気圧Paが小さいことを示す。例えば、大気圧補正係数が0.9の場合には、大気圧は91.17(kPa)となり、標準大気圧よりも小さい。
大気圧が91.17(kPa)である場合において、所定の温度における単位体積あたりの酸素濃度は、標準大気圧である101.3(kPa)の場合における同温度の単位体積あたりの酸素濃度の0.9倍となる。よって、大気圧が91.17(kPa)の場合には、標準大気圧の場合と同程度の燃焼状態を得るために、標準大気圧の場合の約1.1倍の体積の空気が必要となる。したがって、大気圧センサによって検出した大気圧が91.17(kPa)である場合には、ECU100のCPUは、標準大気圧の場合の約1.1倍の体積の空気を導入するようにスロットル弁72の開度を調整する。
したがって、大気圧が91.17(kPa)である場合には、燃焼室54内には、標準大気圧である場合の約1.1倍の空気が導入されるため、混合気の温度が低下し、排気ガスの温度も低下するので、触媒の昇温を促進させる触媒暖機制御の効果を妨げる効果が生じることとなる。以上の理由から、大気圧補正係数CPaが予め定められた大気圧補正係数CPa1以上であることを基準B5としている。
さらにまた、ECU100のCPUは、外部負荷Lxが予め定められた値Lx1以下であるか否かを判定する。すなわち、ECU100のCPUは、上記のように、オルタネータ13の電流が予め定められた値以下であるか否かを判定する。ECU100のCPUは、オルタネータ13の電流が予め定められた値以下であると判定した場合、すなわち外部負荷Lxが予め定められた値Lx1以下であると判定した場合には、基準B6を満たしていると判定し、オルタネータ13の電流が予め定められた値より大きいと判定した場合、すなわち外部負荷Lxが予め定められた値Lx1よりも大きいと判定した場合には、基準B6を満たしていないと判定する。
ここで、外部負荷Lxが予め定められた値Lx1以下であることを基準B6としたのは、以下の理由による。すなわち、オルタネータ13が発生する電流Ioが一定以上である場合には、エンジン11の始動時に消費した電力を補うために、オルタネータ13とベルトを介して連結されたエンジン11の回転数Neを上昇させている場合であることが考えられる。したがって、上記のように電力を必要とする場合において、点火時期遅角制御を行うことによってエンジン回転数Neを変動させるのは、好ましくないと考えられるからである。
ECU100のCPUは、車両10について、電子制御スロットルフェール退避走行の制御を行っているか否かを判定する。ECU100のCPUは、電子制御スロットルフェール退避走行の制御を行っていると判定した場合には、基準B7を満たしていると判定し、電子制御スロットルフェール退避走行の制御を行っていないと判定した場合には、基準B7を満たしていないと判定する。
ここで、ECU100のCPUが、車両10について、電子制御スロットルフェール退避走行の制御を行っていないことを基準B7としたのは、以下の理由による。すなわち、電子制御スロットルフェール退避走行の制御においては、スロットル弁72がECU100のCPUによって正確に制御されていないと考えられる。
したがって、スロットル弁72がECU100のCPUによって正確に制御されていない状態では、安全かつ確実に点火時期遅角制御を行うことができない可能性が高いため、ECU100のCPUが、車両10について、電子制御スロットルフェール退避走行の制御を行っていないことを基準B7としている。
ECU100のCPUは、各エンジン状態パラメータ(1)〜(7)のうちのいずれかが各エンジン状態パラメータ(1)〜(7)に対応する各基準B1〜B7を満たしていないと判定した場合には(ステップS14でNO)、エンジン11の点火時期を遅角側に制御することを禁止し(ステップS15)、本触媒暖機制御の処理を終了する。一方、ECU100のCPUは、全てのエンジン状態パラメータ(1)〜(7)が各基準B1〜B7を満たしていると判定した場合には(ステップS14でYES)、エンジン11の点火時期遅角制御を実行することを許可し(ステップS16)、本触媒暖機制御の処理を終了する。
したがって、シフトレバー17の切替位置がNレンジまたはPレンジである場合に(ステップS12でYES)は、各エンジン状態パラメータ(1)〜(7)が、対応する各基準B1〜B7を満たしていれば(ステップS14でYES)、エンジン回転数Neの変動幅FNeが大きくても、点火時期遅角制御が行われるため(ステップS16)、触媒の暖機が促進されることとなる。
一方、ECU100のCPUは、シフトセンサ82によって検出したシフトレバー17の切替状態が、NレンジまたはPレンジではないと判定した場合には(ステップS12でNO)、シフトレバー17の切替状態はDレンジまたはRレンジであるので、車両10の状態は、車両10の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が大きい変動状態であると判定し、7つのエンジン状態パラメータを取得する(ステップS17)。
ここで、シフトレバー17の切替状態が、NレンジまたはPレンジではないと判定した場合に(ステップS12でNO)、車両10の状態は変動状態であるとECU100のCPUが判定するのは、以下の理由による。
シフトレバー17の切替状態がDレンジまたはRレンジの場合には、エンジン11において発生した動力は、A/T20、プロペラシャフト21、ディファレンシャル機構40、ドライブシャフト41L、41Rを介して駆動輪42L、42Rに伝達されている。したがって、DレンジおよびRレンジのいずれの場合においても、車両10の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が大きい状態であるため、ECU100のCPUは、車両10の状態は変動状態であると判定する。
次に、ECU100のCPUは、上記ステップS14と同様に、全てのエンジン状態パラメータ(1)〜(7)が、各基準B1〜B7を満たしているか否かを判定する(ステップS18)。
ECU100のCPUは、エンジン状態パラメータ(1)〜(7)のうちのいずれかが各基準B1〜B7を満たしていないと判定した場合には(ステップS18でNO)、エンジン11の点火時期遅角制御を実行することを禁止し(ステップS21)、本触媒暖機制御の処理を終了する。一方、ECU100のCPUは、全てのエンジン状態パラメータ(1)〜(7)が各基準B1〜B7を満たしていると判定した場合には(ステップS18でYES)、エンジン回転数変Neの変動幅FNeを算出する(ステップS19)。
具体的には、ECU100のCPUは、全てのエンジン状態パラメータ(1)〜(7)が各基準B1〜B7を満たしていると判定した場合には(ステップS18でYES)、以下に示すようにエンジン回転数Neの変動幅FNeを算出する(ステップS19)。すなわち、ECU100のCPUは、予め定められた時間だけエンジン回転数Neを検出し、検出したエンジン回転数Neの最大値と最小値との差を、エンジン回転数Neの変動幅FNeとして算出する(ステップS19)。
次に、ECU100のCPUは、エンジン回転数Neの変動幅FNeを算出した後に(ステップS19)、算出したエンジン回転数Neの変動幅FNeが、予め定められたエンジン回転数Neの変動幅FNe1以下であるか否かを判定する(ステップS20)。
ECU100のCPUは、エンジン回転数Neの変動幅FNeが、予め定められたエンジン回転数Neの変動幅FNe1よりも大きいと判定した場合には(ステップS20でNO)、エンジン11の点火時期遅角制御を実行することを禁止し(ステップS21)、エンジン回転数Neの変動幅FNeが、予め定められたエンジン回転数Neの変動幅FNe1以下であると判定した場合には(ステップS20でYES)、エンジン11の点火時期遅角制御を実行することを許可し(ステップS16)、本触媒暖機制御の処理を終了する。
以上のように、本実施の形態に係るエンジンの制御装置は、シフトレバー17の切替状態がNレンジまたはPレンジでない場合、すなわちDレンジまたはRレンジである場合において、エンジン回転数Neの変動幅FNeが予め定められた変動幅FNe1よりも大きい場合には、点火時期遅角制御を実行することを禁止するようにしたので、自動変速機20を搭載した車両10において、触媒暖機制御による車両10の走行状態の乱れを防止することができる。
また、本実施の形態に係るエンジンの制御装置は、シフトレバー17の切替状態がNレンジまたはPレンジである場合において、7つのエンジン状態パラメータ(1)〜(7)が、各基準B1〜B7を満たしていれば、エンジン回転数Neの変動幅FNeが予め定められた変動幅FNe1よりも大きくても、点火時期遅角制御を許可するので、触媒の暖機を促進することができる。
(第2の実施の形態)
以下、本発明の第2の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、第1の実施の形態における車両10と同一の構成要素については、図1に示した第1の実施の形態における車両10と同一の符号を用いて説明し、特に相違点についてのみ詳述する。
まず、構成について説明する。図6は、本発明の第2の実施の形態に係るエンジンの制御装置を搭載した車両の概略ブロック構成図である。
図6に示すように、本実施の形態に係る車両210(全体は図示していない)は、動力源としてのエンジン11と、エンジン11において発生した動力を伝達するクラッチ機構215および手動変速機(M/T:Manual Transmission)220と、M/T220によって伝達された動力をディファレンシャル機構40に伝達するプロペラシャフト21と、プロペラシャフト21によって伝達された動力をドライブシャフト41L、41Rに伝達するディファレンシャル機構40と、ディファレンシャル機構40によって伝達された動力を駆動輪42L、42Rに伝達する駆動軸としてのドライブシャフト41L、41Rと、ドライブシャフト41L、41Rによって伝達された動力を用いて回転することにより車両210を駆動させる駆動輪42L、42Rと、を備えている。
クラッチ機構215は、係合状態および解放状態のうちいずれかの状態をとる摩擦係合要素を構成する図示しないクラッチディスクを有しており、クラッチディスクと、エンジン11の図示しないフライホイールとが互いに係合することにより、エンジン11において発生した動力をM/T220に伝達するようになっている。なお、クラッチディスクは、クラッチペダル218が踏み込まれない状態でフライホイールと係合し、クラッチペダル218が踏み込まれた状態で解放されるようになっている。
M/T220は、複数の歯車を有する図示しない同期噛み合い式の歯車装置を備えている。M/T220は、運転者によって手動で切り替えられたシフトレバー217の切替状態に応じて、噛合する歯車の組み合わせを変更することによって、所定の変速段をとるようになっている。
シフトレバー217は、M/T220における変速段の切替時に、運転者によって切替操作されるようになっている。シフトレバー217は、運転者によって、1速〜5速の変速段により構成される前進位置、後進位置、および中立位置のいずれかの切替状態に切り替えられるように構成されている。
このような構成により、M/T220は、エンジン11の動力として入力されるクランクシャフト12の回転を所定の変速比γで減速あるいは増速してプロペラシャフト21に伝達する有段式の変速機であり、シフトレバー217の切替状態のうちのいずれかに対応する変速段を成立させ、各変速段に応じた速度変換がなされるようになっている。
また、クラッチ機構215には、クラッチディスクの位置を検出するために、クラッチセンサ219が設けられている。クラッチセンサ219は、クラッチディスクの位置を検出し、クラッチディスクの位置を表す検出信号を、ECU200に入力するようになっている。なお、クラッチセンサ219は、クラッチディスクの位置に対応するクラッチペダル218の位置を検出するようにしてもよい。
ECU200には、第1の実施形態におけるECU100に接続されているエンジン回転数センサ81、シフトセンサ82、および駆動軸回転数センサ83に加え、クラッチセンサ219が接続されている。ECU200は、クラッチセンサ219によって入力されたクラッチディスクの位置を表す検出信号に基づいて、クラッチディスクとフライホイールとが互いに係合しているか否かを判定するようになっている。
以下、本発明の第2の実施の形態に係るエンジンの制御装置の動作について、図面を参照して説明する。図7は、本発明の第2の実施の形態に係る触媒暖機制御処理を示すフローチャートである。
図7に示すフローチャートは、ECU200のCPUによって、RAMを作業領域として実行される触媒暖機制御のプログラムの実行内容を表す。この触媒暖機制御のプログラムはECU200のROMに記憶されている。また、この触媒暖機制御処理のプログラムは、ECU200のCPUによって予め定められた時間間隔(例えば、100ms毎)で実行される。なお、図7に示すフローチャートについては、主に、図5に示す第1の実施の形態におけるフローチャートと異なる部分のみを説明する。
図7に示すように、まず、ECU200のCPUは、シフトセンサ82によって、シフトレバー17の切替状態を検出する(ステップS31)。
次に、ECU200のCPUは、シフトセンサ82によって検出したシフトレバー217の切替状態が、Nレンジであるか否かを判定する(ステップS32)。
ECU200のCPUは、シフトセンサ82によって検出したシフトレバー217の切替状態が、Nレンジであると判定した場合には(ステップS32でYES)、車両210の状態は、車両210の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が小さい非変動状態であると判定して、前述した7つのエンジン状態パラメータを取得する(ステップS33)。
一方、ECU200のCPUは、シフトセンサ82によって検出したシフトレバー217の切替状態が、Nレンジではないと判定した場合には(ステップS32でNO)、クラッチセンサ219によってクラッチディスクの位置を検出し、クラッチセンサ219によって入力される検出信号が表すクラッチディスクの位置に基づいて、クラッチディスクとフライホイールとが係合しているか否かを判定する(ステップS37)。
ECU200のCPUは、クラッチディスクとフライホイールとが係合しているか否かを判定するに際して(ステップS37)、クラッチセンサ219によって入力される検出信号が表すクラッチディスクの位置が、予め定められた位置よりもフライホイール側である場合には、クラッチディスクとフライホイールとが係合していると判定し(ステップS37でYES)、クラッチディスクが、予め定められた位置よりもフライホイールと反対の位置にある場合には、クラッチディスクとフライホイールとが係合していないと判定する(ステップS37でYES)。
ECU200のCPUは、クラッチディスクとフライホイールとが係合していると判定した場合には(ステップS37でYES)、車両210の状態は、車両210の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が大きい変動状態であると判定して、上述した7つのエンジン状態パラメータを取得する(ステップS38)。
ここで、クラッチディスクとフライホイールとが係合していると判定した場合に(ステップS37でYES)、ECU100にCPUが、車両210の状態は変動状態であると判定するのは、以下の理由による。
すなわち、シフトレバー217の切替状態がNレンジではなく(ステップS32でNO)、クラッチディスクとフライホイールとが係合している場合は(ステップS37でYES)、車両210は走行している状態であると考えられるため、車両10の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が大きいと考えられるからである。
一方、ECU200のCPUは、クラッチディスクとフライホイールとが係合していないと判定した場合には(ステップS37でNO)、車両210の状態は、車両210に対するエンジン回転数Neの変動の影響が小さい非変動状態であると判定し、7つのエンジン状態パラメータを取得する(ステップS38)。
ここで、クラッチディスクとフライホイールとが係合していないと判定した場合に(ステップS37でNO)、車両210の状態は、車両210の走行状態に対するエンジン回転数Neの変動の影響が小さい非変動状態であるとECU200のCPUが判定するのは、以下の理由による。
すなわち、クラッチディスクとフライホイールとが係合していない場合には(ステップS37でNO)、車両210においては、エンジン11の動力がA/T20に伝達されていないと考えられるためである。
ECU200のCPUは、エンジン状態パラメータ(1)〜(7)を取得する処理(ステップS33およびS38)以降は、第1の実施の形態と同様の処理(ステップS13からS21)を行い、本触媒暖機制御の処理を終了する。
以上のように、本実施の形態に係るエンジンの制御装置は、シフトレバー217の切替状態がNレンジでなく、クラッチディスクとフライホイールとが係合している場合において、エンジン回転数Neの変動幅FNeが予め定められた変動幅FNe1よりも大きい場合には、点火時期遅角制御を実行することを禁止するようにしたので、手動変速機220を搭載した車両210において、触媒暖機制御による車両210の走行状態の乱れを防止することができる。
また、本実施の形態に係るエンジンの制御装置は、シフトレバー217の切替状態がNレンジである場合において、7つのエンジン状態パラメータ(1)〜(7)が、各基準B1〜B7を満たしていれば、エンジン回転数Neの変動幅FNeが予め定められた変動幅FNe1よりも大きくても、点火時期遅角制御を許可するので、触媒の暖機を促進することができる。
以上に説明したように、本発明に係るエンジンの制御装置は、エンジンの回転数に基づいて遅角制御を中止させることができ、触媒暖機制御による車両の走行状態の乱れを防止することができるという効果を有し、遅角制御によって触媒暖機制御を行うエンジンの制御装置として有用である。