JP4972740B2 - 合成ペプチド及びその利用 - Google Patents

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Description

本発明は、貝殻様炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)を形成する合成ペプチド及びその利用に関する。
近年、無機成分に有機成分を混在させることによって、新たな機能が発揮できるようにした、いわゆる無機有機ハイブリッド素材の開発が注目されている。無機有機ハイブリッド素材は、ガラスとプラスチックの中間的な特性を有すると予想されており、とくにその特性を活かして、電子材料や医療材料として新規な応用が期待されている。
ところで、貝殻は、炭酸カルシウムの結晶とタンパク質とで構成されていて、軽量でありながら強度が高く、しかも難燃性という優れた特性を備えており、いわば天然の無機有機ハイブリッド素材と言える。
貝殻に関するこの種の先行技術としては、例えば、特許文献1〜3がある。特許文献1および特許文献2は、いずれも真珠層の製造方法に関するものであり、炭酸カルシウムのアラゴナイト結晶で構成された、真珠層様の構造体を得ることができるとしている。特許文献3は、カルシウム塩の結晶化抑制タンパクに関するものであり、そのタンパクをホタテ貝の貝殻から抽出して取得する方法が開示されている。
特開2003−12696号公報 特開2006−1851号公報 特開2006−42628号公報
これまでの無機有機ハイブリッド素材の開発では、シリカなどの無機成分が利用されており、その無機成分に加える有機成分は、ポリアクリル酸や、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸などの化学合成成分に限られているため、そこから創出できる新規な機能にも限界があった。
一方、自然界では、様々な生物によって、優れた無機有機ハイブリッド素材が作り出されている。しかし、生物が無機有機ハイブリッド素材を生み出すメカニズムは、ほとんど解明されておらず、産業的利用が全くなされていないのが実情である。貝殻に関しても、貝殻を構成する成分及びその構造、生成機構等は、貝の種類によっても様々であり、いまだ具体的に特定されるまでには至っていない。先の特許文献1〜3でも、天然成分から特定物質を抽出し、その利用可能性を示唆するに止まる。
このような状況の下、本発明者らもまた貝殻の生成機構について研究を行っていたところ、その研究過程において、炭酸カルシウムの結晶化に関わる特殊なタンパク質を見出し、それによって、貝殻様炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)、換言すれば、天然の無機有機ハイブリッド素材が形成できる新規な合成ペプチドを創作した。
すなわち、本発明は、貝殻様炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)が形成できる新規な合成ペプチド、およびその利用方法を提供することを目的とする。
請求項1記載の本発明は、Gly−Proで表されるアミノ酸配列を含み、グリシン(Gly)と、プロリン(Pro)と、アスパラギン酸(Asp)と、チロシン(Tyr)と、で構成されていることを特徴とする合成ペプチドである。
請求項2記載の本発明は、請求項1記載の合成ペプチドにおいて、4個〜20個のアミノ酸で構成されるアミノ酸配列からなる合成ペプチドである。
請求項3記載の本発明は、請求項2記載の合成ペプチドにおいて、配列表の配列番号1に表される合成ペプチドである。
請求項4記載の本発明は、請求項2記載の合成ペプチドにおいて、配列表の配列番号6に表される合成ペプチドである。
請求項5記載の本発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の合成ペプチドと、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液と、を混合することを特徴とする貝殻様炭酸カルシウム結晶の製造方法である。
請求項6記載の本発明は、請求項5記載の貝殻様炭酸カルシウム結晶の製造方法であって、合成ペプチドの濃度が、100μM以上に設定されている貝殻様炭酸カルシウム結晶の製造方法である。
請求項7記載の本発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の合成ペプチドと、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液と、を混合して、貝殻様炭酸カルシウム結晶を生成させる工程と、貝殻様炭酸カルシウム結晶を取り出して、粒度を整える整粒工程と、を含む研磨剤の製造方法である。
本発明によれば、入手容易な合成ペプチドを用いて、人工的に貝殻様炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)を形成することが可能となるため、軽量でありながら強度が高く、しかも難燃性という、新規な特性を備えた無機有機ハイブリッド素材の開発に利用できる。
人工の合成ペプチドを用いるので、貝殻などの天然素材を原料として複雑な処理を経て初めて入手できていた従来法に比べて、極めて簡単に有機成分が入手でき、品質も安定するため、量産化が容易である。工業的にも量産に移行し易く、産業的利用に好適である。
高分子量のタンパク質とは異なり、低分子量のペプチドであるため、化学的安定性に優れ、それだけ利用価値も高い。
複雑な処理を経る必要がなく、極めて簡単な処理で貝殻様炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)を生成できるため、量産化等への移行も容易に達成でき、短期間での産業的利用が期待できる。
とくに、常温・常圧の条件下で合成でき、特殊な処理条件を必要としないことから、適用範囲が広い。汎用性に富み、製造コストも少なく済むため、建築素材や医療素材、ナノテクノロジーなどの分野に適用でき、様々な用途に利用できる。例えば、研磨剤であれば直にでも実用化可能であり、これまでにない新規な研磨剤を提供することができる。
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。
本発明者らは、マガキ(Crassostrea gigas)の貝殻形成に関与しているタンパク質を同定することを目的として研究を行った。その過程において、特異的なアミノ酸の繰り返し配列を持つ新規なタンパク質を見出し、同定した。そのタンパク質は、クモの粘着糸のアミノ酸配列に高度に類似するという、特徴を備えていた。以下にその詳細を説明する。
マガキなど、二枚貝の貝殻の主たる構成要素は、炭酸カルシウムである。マガキの殻体(貝殻)は、殻体の外側から内側に向かって順に、殻皮層、稜柱層、葉状層、及びチョーク構造と、それぞれ異なる構造が積層されて構成されている。具体的には、殻皮層は、主に有機基質と呼ばれるタンパク質でできており、石灰化はしていない。稜柱層は、殻の内外方向に沿って柱状に伸びる炭酸カルシウムの結晶で構成されている。葉状層は、細長く薄い板状の炭酸カルシウムの結晶と、シート状の有機基質とが交互に積層されて構成されている。チョーク構造は、薄い板状の炭酸カルシウムの結晶が格子状に組み合わさって構成されている。
このように、一枚の貝殻は、内外に異なる炭酸カルシウムの結晶構造が積層されて形成されており、この積層構造の形成には、貝殻中に0.1〜10重量%含まれている有機基質というタンパク質が重要な役割を果たしていると考えられている。そこで、この有機基質の同定を目的として研究を行った。
貝殻形成には、貝殻直下に存在する外套膜という組織が重要な役割を果たしていると推測した。そして、その外套膜の辺縁部において特異的に発現する遺伝子をサブトラクション法によりクローニングした。
その結果、得られたcDNAおよびこのcDNAにコードされているアミノ酸配列を上下2段に対照状に表示した図を図1に示す。図1の上段が、同定したcDNAの全長配列であり、下段がそのcDNA配列上にコードされているタンパク質(oySLP)のアミノ酸配列である。なお、アミノ酸配列は、同定したcDNA配列に対し、配列情報解析ソフト:DNASIS(登録商標、日立ソフトウェアエンジニアリング株式会社製)で処理して翻訳した。また、図1におけるアミノ酸は、所定の一文字表記で示してある。
(cDNA)TCACATTAGTTAGTAATCCTTGTCTAACGAAACCACGGGGATGTCGTTACTGTGGTTCTGTGTGCTACTCCTAGTAGCGTCGGTTTGCGGCAACCCTCCCGAGGTCATCAACTTGGGGACACGCTTCATCCCCCGCTATCACAATCAATACTCGGATCTCGTGGCCAGAATACTAAGAGCCCGAGGCATCCGAGTGTACTCGGTCCATGACGTCGGGGCCTTAACATCCACAACATTGAGCAGGCGCTTCTACGGTATCGGTGGGGACTCCTCTCTGGGTCTGGACAATACCTTCGTCAGAAGCTCTGTAGCTACTGGGAGGCCATCCATTACTTACGAGGAATTGTACGGCGGTGTGGATACATCCGATTTACCAGATGCAGCCGTTCCCCTTGTAGGCTCTACTTCGTTTCCTGGGCCATATGGGCCTGAAACAGGCGGACCTGGACCCTATGATCTAGGACCTATAGGAGATGGACCCGGACCATATGGACCTGGGCCCTATGGACCAGGAGACGGACCTGGACCCTATGGTCTGGGGCCAGATGGTGGATCCGGACCCTACGGACCAGGAGACGGACCGGGACCCTATGGTATAGGGCCAGATGGTGGCTCCGGACCCTATGGACCAGGAGACGGACCTGGACCCTATGGTCTAGGGCCAGATGGTGGATCCGGACCCTATGGACCTGAATTAGATGGACCGGGGCCATATGATGCTGGGCTAAGTGGATCTGGACTAAGTGGCTTTGGAACCGCTGGAGTCGAAATCGGTGGATCAGGTCTCTCGACTGCTGGACTTGGAGTAGATCGATTATATGATGAAAGCTATATTAATGGACCCCGCGGGACTGGGTTTGGTGATTTCGGTGGTCTAGATGATGGGTTTTCAACTTCATCGGGTTCTCTACTGACAGGAAGTTCTTCTATCTATCCAAGTACCAACTACGGACCCCTTTCAACAGGAGGTAGATCTTCCGTCTTTACGTCCTATCAGTCGACATCTCCCACATACACCGACTTATACAACAGACGATTCTCATCCGCCGAGCTTGGTGCTGGTGCTGGGATAGGATTAGACGGTGCCCTAGGGTCCGGCTTCTCGGCTACCAGTTCCTTTGTCGATACAACACCTTACTCCGGTTTTTCTAGCGCTGGGGCAGGTTATTCCGATGACTATGGTCTTGACGGTGGCCTAGGATATATGAGGCGCTACAGGAGAACTTACACTCTACCCGGGTACTCGTCTGTTCAACGAAGGATTAGGTATCTTCCGCGTCGTCAGTTCACCACCAGGGTAGTCAATTACCCTCCCACAGTGACCACCTACCAATAAGTCTGGTGCACTGGTCGTTAGACAGGAAGACGCAACTATAAATTCACATCTCTCATTTGTAAATAGACGCCCGAGGTTGAATAAATCATACATGCATTACTGGTAGCCAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA、配列番号2。
(oySLP)MSLLWFCVLLLVASVCGNPPEVINLGTRFIPRYHNQYSDLVARILRARGIRVYSVHDVGALTSTTLSRRFYGIGGDSSLGLDNTFVRSSVATGRPSITYEELYGGVDTSDLPDAAVPLVGSTSFPGPYGPETGGPGPYDLGPIGDGPGPYGPGPYGPGDGPGPYGLGPDGGSGPYGPGDGPGPYGIGPDGGSGPYGPGDGPGPYGLGPDGGSGPYGPELDGPGPYDAGLSGSGLSGFGTAGVEIGGSGLSTAGLGVDRLYDESYINGPRGTGFGDFGGLDDGFSTSSGSLLTGSSSIYPSTNYGPLSTGGRSSVFTSYQSTSPTYTDLYNRRFSSAELGAGAGIGLDGALGSGFSATSSFVDTTPYSGFSSAGAGYSDDYGLDGLGYMRRYRRTYTLPGYSSVQRRIRYLPRRQFTTRVVNYPPTVTTYQ、配列番号3。
oySLPのアミノ酸配列について、データベース(DDBJ:DNA Data Base of Japan)における相同性検索ソフト(FASTA)を用いて相同性の高いタンパク質を調べたところ、意外にも蜘(クモ)が生成するクモ糸のタンパク質と相同性が高いことがわかった(アメリカジョロウグモのflagelliform silk proteinと45%の相同性)。そこで、クモ糸のタンパク質について詳細に調べたところ、クモ糸には「GPGG*(Gly−Pro−Gly−Gly−*)」(*の部分のアミノ酸は複数存在)というアミノ酸配列が存在することがわかったため、oySLPのアミノ酸配列中、どの部分がクモ糸と相同性が高いのか比較した。その結果、図1中、矢印線で示す部分が、とくにクモ糸と高い相同性を示す部分であると認められた(配列番号3の124〜225)。この部分は、とくにG(Gly、グリシン)、P(Pro、プロリン)が多い傾向が認められた(GPrich領域)。
N末端側には、シグナルペプチドと呼ばれる配列が存在することも判明した(図1における最上段の下線部分、配列番号3の1〜18)。このシグナルペプチドは細胞内で合成されたタンパク質が細胞外に分泌される際に必須である。したがってこのことは、今回見出したoySLPは細胞内ではなく、細胞外に分泌されて働くことを示している。
oySLPが貝殻形成に関与しているか否か、ウエスタンブロット法を用いて検証試験を行い、マガキの貝殻抽出液中にoySLPが存在していることを確認している。したがって、oySLPは貝殻形成に関して重要な機能を果たしていることが示唆された。
図2は、図1の中から、oySLPのGPrich領域部分(図1の矢印線で示す部分)を抜き出したものである。上段にそのoySLPのGPrich領域部分を示し、下段に、これに対応するクモ糸のタンパク質を示した。なお、配列中「−」は対応するアミノ酸配列が欠けている部分である。
クモ糸では、先に説明したとおり「GPGG*」という5個のアミノ酸配列が基本単位になっていると考えられるため、それに基づいて対応する部分を区分けした。そうすると、図2の矢印線で示す「GPGDGPGPYG*GPDGGSGPY(*の部分はLまたはI)」の20個のアミノ酸からなる、ほぼ同じアミノ酸配列で構成される3箇所の繰り返し部分が存在することが確認された(配列番号3の156〜215)。
(oySLP2)GPGDGPGPYGLGPDGGSGPY、配列番号4。(oySLP3)GPGDGPGPYGIGPDGGSGPY、配列番号5。
oySLPのGPrich領域において、この繰り返し部分(oySLP2および3)が占める比率は大きく、そのアミノ酸配列が貝殻形成に大きく関与していると考えた。
すなわち、D(Asp、アスパラギン酸)は、カルシウムイオンを捕捉して、カルシウムとの結合に重要な役割を果たしていると考えられ、P(Pro、プロリン)は、タンパク質を折り曲げ、タンパク質構造に重要な役割を果たしていると考えられる。そして、Y(Tyr、チロシン)は、チロシンが有するOH基が、結晶の安定化に重要な働きをしていると予想される。したがって、G(Gly、グリシン)とP(プロリン)の連続したアミノ酸配列とY(チロシン)とによって安定化したシート状のタンパク質構造が作り出され、D(アスパラギン酸)がカルシウムイオンを捕捉することによって炭酸カルシウムと結合し、従来の結晶とは全く異なる様々な形態の貝殻様炭酸カルシウム結晶が形成されると考えた。すなわち、Gly−Proで表されるアミノ酸配列を含み、グリシン(Gly)と、プロリン(Pro)と、アスパラギン酸(Asp)と、チロシン(Tyr)と、で構成される、少なくともこれら4種のアミノ酸を含むポリペプチドであれば、貝殻様炭酸カルシウムを形成することができると考えた。とくに、工業的利用を考慮すれば、アミノ酸数が20個以下のアミノ酸でアミノ酸配列を構成するのが好ましい。
そこで、Gly−Proで表されるアミノ酸配列からなるペプチドと、アスパラギン酸(Asp)と、プロリン(Pro)と、チロシン(Tyr)とを組み合わせて短鎖の直鎖状のポリペプチドを人工的に合成し、その合成ペプチドを用いて貝殻様の炭酸カルシウム結晶、すなわち天然の無機有機ハイブリッド素材の製造が可能か否かを確認した。使用した合成ペプチドは、16個のアミノ酸からなるポリペプチドである(oySLP1:GPGPYGPGPYGPGDGP、配列番号1)。合成ペプチドは、配列を指定して所定のメーカーに注文をすれば、簡単に入手することができる。ここでは、シグマアルドリッチジャパン株式会社に上記配列を指定して注文することにより、合成ペプチド(oySLP1)を入手した。なお、この合成ペプチドは、図2に示すように、oySLPのGPrich領域部分では、繰り返し部分の先端部分に位置し、oySLPペプチドと一部重複するものである。
{合成ペプチドの貝殻形成への関与の確認}
合成ペプチドの貝殻形成への影響の有無を確認するため、炭酸カルシウムの結晶化への合成ペプチドの影響を調べた。なお、各単位(M)は、モル濃度(mol/l)を示すものであり、合成ペプチドの濃度は、各反応溶液を混合した後の終液に対するものである。
Dimethyl−Sulfoxide(DMSO、和光純薬工業株式会社製)に、それぞれ合成ペプチドを溶解して3種の異なる濃度のペプチド溶液を作製し、これらをテストサンプルとした。
炭酸カルシウムの結晶を生成させる反応溶液には、NaHCO溶液とCaCl溶液とを使用した。具体的には、NaHCO(和光純薬工業株式会社製)を純水に溶解して20mMのNaHCO溶液を作製した。CaCl(ナカライテスク株式会社製)を純水に溶解して20mMのCaCl溶液を作製した。
コントロールサンプルとして、合成ペプチド溶液を添加していないDimethyl−Sulfoxide(DMSO)の溶液を実験に供した。
ペプチドの構成内容に関わらず、合成ペプチドが存在するだけで炭酸カルシウムの結晶形成に影響する可能性があるか否かを確認するために、200μMの合成ペプチドであるポリアラニン(poly−Ala)を対照サンプルとして実験に供した。
テストは、100μlのNaHCO溶液に、各濃度のテストサンプル20μlを加えて混合した。次いで、そこに、100μlのCaCl溶液を添加して、分光光度計(株式会社島津製作所:UV mini 1240)を用いて、添加から5分間、経時的に570nmにおける吸光度(OD570)を測定し、吸光度の経時変化を比較した。その結果を、図3のグラフに示す。なお、テストサンプルは、合成ペプチドの濃度別にそれぞれ200、100、20μMとして示してある。
図3のグラフから明らかなように、100および200μMのペプチド溶液では、添加後5分間では吸光度に大きな変化が認められなかった。ペプチド溶液を添加していないコントロールサンプル、200μMのポリアラニンを添加した対照サンプル、および20μMのペプチド溶液を添加したテストサンプルでは、吸光度に変化が認められた。
以上の結果より、ポリアラニンを添加した対照サンプルでは、コントロールサンプルとほとんど同じ変化を示し、合成ペプチドの存在だけでは炭酸カルシウムの結晶形成に影響しないことがわかった。合成ペプチドを添加したテストサンプルでは、20μMでは、コントロールサンプルとほぼ同じ変化を示し、炭酸カルシウムの結晶化に対する影響は認められなかったが、100および200μMでは明らかにコントロールサンプルとは明らかに違う変化が認められ、炭酸カルシウムの結晶化に影響を与えていることが確認された。
また、人工貝殻を形成させるうえで、合成ペプチドの濃度は、100μM以上であれば十分であり、少なくとも100μM〜200μMの濃度であれば、安定した効果が得られることが確認できた。
{合成ペプチドによる貝殻様炭酸カルシウム結晶の形成}
次に合成ペプチド(oySLP1)を用いて、貝殻様の炭酸カルシウム結晶を形成することが可能かどうか試験を行った。
具体的には、合成ペプチド(oySLP1)をDimethyl−Sulfoxide(DMSO、和光純薬工業株式会社製)に、3mg/mlの割合で溶解してペプチド溶液を作製し、このペプチド溶液10μlを100μlのNaHCO溶液に加えて混合した。次いで、そこに100μlのCaCl溶液を添加して混合し、常温で3日間放置した(テストサンプル)。比較対照として、ペプチド溶液を添加せずに同様の処理を行った(コントロールサンプル)。3日間放置後、溶液中に形成された各炭酸カルシウム結晶を100%エタノールで軽く洗った後、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所:S−4500)にて結晶構造の観察を行った。両サンプルの電子顕微鏡写真を図4ないし図7に示す。図4および図5は、コントロールサンプルであり、図6および図7はテストサンプルである。図4と図6、図5と図7は、それぞれ同じ倍率である。
図4ないし図7から明らかなように、コントロールサンプルは、きれいな立方体形状であるのに対し、テストサンプルは、花びら様の特殊形状をしており、両者の結晶形態は全く相違していた。合成ペプチド(oySLP1)を添加して得られた炭酸カルシウム結晶について、X線結晶構造解析を行ったところ、得られた炭酸カルシウム結晶は天然の貝殻と同様の三方晶系の構造を有していることを確認している。
炭酸カルシウム結晶は、三方晶のカルサイト(方解石)、斜方晶のアラゴナイト(あられ石)、六方晶のバテライト(ファーテル石)の3種に分類されている。このうち、貝殻の結晶はカルサイトとアラゴナイトである。炭酸カルシウムを自然に結晶化させると形成されるのがカルサイトであることから、カルサイトが最も安定的な結晶構造であると考えられる。結晶構造が安定していることは工業的に好ましく、無機有機ハイブリッド素材にも有利である。
(他の合成ペプチドによる貝殻様炭酸カルシウム結晶の形成)
前記の合成ペプチド(oySLP1)とは別のアミノ酸配列からなる合成ペプチドを用いて、前記ペプチドと同様に、貝殻様の炭酸カルシウム結晶を形成することが可能かどうか試験を行った。用いた合成ペプチドは、Tyr−Gly−Pro−Gly−Aspのアミノ酸配列で構成されたチロシン、グリシン、プロリン、グリシン、アスパラギン酸の5個のアミノ酸からなるポリペプチドである(oySLP4:YGPGD、配列番号6)。本合成ペプチドもまた、シグマアルドリッチジャパン株式会社より入手したものである。この合成ペプチド(oySLP4)を用い、先の合成ペプチド(oySLP1)と同じ方法で、貝殻様の炭酸カルシウム結晶を形成することが可能かどうか試験を行った。その結果、先の合成ペプチド(oySLP1)の場合と同様に、花びら様の特殊形状をした炭酸カルシウム結晶が形成された。
以上の結果より、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液と、所定の合成ペプチド(oySLP1やoySLP4)とを混合し、常温下で放置するだけで、従来はなかった新規な貝殻様炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)を形成させることができた。詳しくは、合成ペプチド(例えば、oySLP1やoySLP4、以下同様。)を、炭酸イオン含有溶液に混合させる工程と、合成ペプチドを混合した炭酸イオン含有溶液に、カルシウムイオン含有溶液を加えて混合する工程とを備える製造方法を用いれば、貝殻様炭酸カルシウム結晶(人工貝殻)、すなわち天然の無機有機ハイブリッド素材を製造することが可能となる。
{実施例}
例えば、先の実験によって得られる貝殻様炭酸カルシウム結晶は、研磨剤として直ぐに利用可能である。炭酸カルシウムの粉末は、研磨剤として多用されている。しかし、その炭酸カルシウム結晶は、先に示したとおり通常は立方体形状をしているため、その外表面に存在する切削部位が少なく、必ずしも研磨剤としては効果的な形状であるとはいえない。それに対して、上記製造方法で得られる本発明の貝殻様炭酸カルシウム結晶は、花びら様の極めて複雑な形態をしており、その外表面に切削部位が極めて多く存在するため、研磨剤として優れている。とくに、結晶レベルの極めて微小な構造であることから、これまでは研磨できなかったような微細な部分の研磨も可能となり、ナノテクノロジーなどの分野への利用が期待できる。
具体的には、合成ペプチドと、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液とを混合して、貝殻様炭酸カルシウム結晶を生成させる。得られた貝殻様炭酸カルシウム結晶を取り出して、粉砕や篩い分けして、取り出した炭酸カルシウム結晶の粒度を必要に応じて整えればよい(整粒工程)。詳しくは、合成ペプチドを、炭酸イオン含有溶液に混合する工程と、合成ペプチドを混合した炭酸イオン含有溶液に、カルシウムイオン含有溶液を加えて混合する工程と、混合した溶液から形成された炭酸カルシウム結晶を取り出す工程と、粉砕や篩い分けして、取り出した炭酸カルシウム結晶の粒度を整える整粒工程とを含む製造方により、これまでにない新規な研磨剤を得ることが可能となる。
もちろん、本発明は、この実施例に限られるものではない。Gly−Proで表されるアミノ酸配列を含む、グリシン(Gly)、プロリン(Pro)、アスパラギン酸(Asp)、チロシン(Tyr)の4種のアミノ酸を用いたうえで、好ましくは4個〜20個のアミノ酸で構成して、アミノ酸配列の組み合わせを変更すれば、炭酸カルシウムの結晶形態を変化させることができると考える。したがって、人工的に設計した合成ペプチドを用いて、天然の有機無機ハイブリッド素材である貝殻様炭酸カルシウム結晶を計画的に製造することが可能となるため、本発明は、新規な有機無機ハイブリッド素材として、電子材料や医療材料、建築素材、ナノテクノロジーなど、広範な技術分野への利用が期待できる。
マガキの有機基質の同定実験で得られたcDNAとこれにコードされているタンパク質(oySLP)を対照状に表示した図である。 oySLPから抜き出したGPrich領域部分をクモ糸のタンパク質と対比して説明するための図である。 合成ペプチド(oySLP1)の貝殻形成への関与の確認実験の結果を示すグラフである。 コントロールサンプルの電子顕微鏡写真である。倍率は500倍である。 コントロールサンプルの電子顕微鏡写真である。倍率は2000倍である。 テストサンプルの電子顕微鏡写真である。倍率は500倍である。 テストサンプルの電子顕微鏡写真である。倍率は2000倍である。

Claims (5)

  1. 配列表の配列番号1に表される合成ペプチド。
  2. 配列表の配列番号6に表される合成ペプチド。
  3. 請求項1または2に記載の合成ペプチドと、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液と、を混合することを特徴とする貝殻様炭酸カルシウム結晶の製造方法。
  4. 請求項記載の貝殻様炭酸カルシウム結晶の製造方法であって、
    合成ペプチドの濃度が、100μM以上に設定されている貝殻様炭酸カルシウム結晶の製造方法。
  5. 請求項1または2に記載の合成ペプチドと、炭酸イオン含有溶液と、カルシウムイオン含有溶液と、を混合して、貝殻様炭酸カルシウム結晶を生成させる工程と、
    貝殻様炭酸カルシウム結晶を取り出して、粒度を整える整粒工程と、
    を含む研磨剤の製造方法。
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