JP4968349B2 - 腹膜機能検査方法および腹膜透析プランニング装置 - Google Patents

腹膜機能検査方法および腹膜透析プランニング装置 Download PDF

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Description

本発明は、腹膜機能検査方法と、コンピュータを用いた腹膜透析プランニング装置に関する。
現在、日本国内で20万人ほどの慢性腎不全患者がいるといわれており、その92−93%の患者が血液透析、残りの7−8%の患者が腹膜透析による維持療法をそれぞれ受けている。
ここで言う透析とは、膜を介して分子量のサイズで篩をかけ、濃度勾配により所定の分子を除去することで、代謝活動によって体内に蓄積された各種溶質(尿毒素としての尿素(U)、クレアチニン(Cr)等)、および電解質(Ca2+、Cl、Na、K)、過剰水分、等を体液中から前記透析液中に溶出させたのち、透析液を排液として廃棄することで、患者の低下した腎機能を補助するものである。血液を体外循環して機械的に血液を浄化する方法、あるいは腹腔内に透析液を入れ、腹膜を介して血液を浄化する方法の違いで、血液透析(HD;Hemo Dialysis)、腹膜透析(PD;Pelitoneal Dialysis)の区別がある。従来、患者へはこのいずれかの方法の透析が適用されてきた。ここで、不足した腎機能を十分補助できない場合は、血液透析を用いた体外での透析療法を行うことが望ましいとされている。
腹膜透析では、患者は主に在宅で透析を行う。これは患者自らが透析液をカテーテルを用いて腹腔内に入れ、数時間貯留したのち、排液するステップを一日数回繰り返す。患者は毎回の排液時における体内からの過剰水分排出量(除水量という)を記録しておき、以後の診察時に医者に提示し、処方を仰ぐようにする。このような腹膜透析の方法をCAPD(Continuous Ambulatory Pelitoneal Dialysis;連続携行式腹膜透析)と呼ぶ。医者は特に患者の除水量に着目し、その量の多少により、患者に適切な処方を選択する。
ところで近年になって、患者の腹膜機能状態をコンピュータでシミュレートする腹膜透析システムが開発されている(特開2000−140100号公報を参照)。この腹膜透析システムでは腹膜平衡試験(PET;Pelitoneal Equilibration Test、1987)を利用して得られた患者の各溶質濃度・除水量等のデータから、腹膜透析の巨視的モデルとして知られるPyle−Popovichの数理モデルを演算することより、溶出除去能・除水能などの腹膜機能を検査できる。当該システムを担う装置としては通常、市販されているパーソナルコンピュータが利用できるものがある。

特開2000−140100号公報
しかしながら上記した腹膜透析システムでは、データ取得時の患者の各溶質濃度・除水量から、そのときの患者の腹膜機能を評価することはできるが、一般に定性的あるいは定量的のいずれかの診断しかできない。したがって、このようなシステムでは、患者の将来的な腹膜機能の変化(いわゆる腹膜透過性亢進機序)を検討することは非常に困難である。
例えば、ある患者について取ったデータにおいて、データの数値から窺える見かけ上の除水量が少なかった場合、その原因として以下の理由が推定される。ところが、実際の原因がこのうちのどれなのかを断定することは不可能であった。
A.腹膜に挿入するカテーテル先端が物理的に閉塞又は位置異常により除水が出来ない(外的要因)。
B.腹膜のリンパ再吸収能が亢進している。
C.腹膜の機能(除水能)が本当に低下している。
このうち、A.の理由ならカテーテルの開放や位置修正、B.の理由ならリンパ抗炎症剤の投与、C.の理由なら腹膜透析から血液透析への移行と、処方がまるで異なってしまう。しかもB.およびC.が理由の場合、患者は腹膜炎又は被嚢性腹膜硬化症を併発している可能性が考えられ、その対応も十分に考慮すべきとなる。従来の腹膜機能検査方法では、このように患者に対する適切な対応を取る上で重大な判断が十分にできないために改善の余地があった。
本発明は以上の課題に鑑みて為されたものであって、その目的は、従来法に基づく各種データを用いながら、腹膜透析患者の腹膜機能(腹膜透過性亢進機序)を正確に分析し、将来的な診断処方に活かすことのできる腹膜機能検査方法および腹膜透析プランニング装置を提供することにある。
上記課題を解決するために、本発明は、尿素窒素の総括物質移動・膜面積係数をMTACun、クレアチニンについての総括物質移動・膜面積係数をMTACcとするとき、当該MTACunおよびMTACcから算出したその比MTACun/MTACcを腹膜機能の検査指標として用いるものとした。
以下、「MTACun/c」とは「MTACun/MTACc」を意味するものとして表記している。説明の流れ上、これらの表記を使い分ける。
また本発明の前記腹膜機能検査方法は、さらに、Three Pore Theoryモデルからセルポア透水係数LpScおよび総括透水係数LpSを算出するとともに、比LpSc/LpS(すなわち、セルポアの透水係数寄与率rLpSc)を獲得し、当該比LpSc/LpSと、除水量とを腹膜機能の検査指標として用いることもできる。
本願発明者らは、実際の腹膜透析患者から得られた多数のデータを用いて鋭意検討した結果、MTACun/cの値が1に近いほど(すなわちMTACunおよびMTACcの両値が互いに近いほど)、患者の腹膜機能透過性の亢進及び除水量が低下していることを見出した。すなわち従来の検査では溶出除去量や除水量しか解析できなかったのに対し、上記のように本発明のMTACun/cを用いると患者の将来的な腹膜機能(腹膜機能亢進機序)を検査することができる。このMTACun/cと患者の将来的な腹膜機能との関係については、実際に腹膜炎を併発している患者や、併発する可能性のある患者から得た経験的なデータによって立証することが可能である。
またMTACun/cは無次元であることから、Pyle−Popovichモデル以外にも利用できるという利点の他に、相互に体格の異なる患者間において、その体格による差分を意識しなくても容易に比較を行えるという利点がある。なお後述するLpSc/LpSも同様に無次元であり、幅広い汎用性を有している。
なお本発明の腹膜機能検査方法では、さらに、前記MTACun/MTACcと、除水量とを腹膜機能の検査指標として用いることもできる。
このように、MTACun/cと除水量の各値をほぼ同時に確認することで、より詳細な腹膜検査を行うことが可能となる。具体的には、例えばMTACun/cが良好でも除水量が優れない場合、溶質移動以外の腹膜の機能(すなわち主に除水能)が低下していると診断でき、腹膜炎消炎剤の無用な利用を避けた効率の良い透析法の移行(腹膜透析から血液透析への移行)が妥当か否かを検討することが可能である。またMTACun/cも除水量も優れない場合には、腹膜の機能がかなり損傷された悪性不全の状態にあることが把握でき、各種消炎剤の処方とともに速やかな透析法の移行や対策を講じることができる。また、除水量が良好な一方でMTACun/cが優れない場合、腹膜機能が良性不全の状態にあり(つまりアクアポリンは十分に活性を有しているが、可逆性のSmall PoreおよびLarge Poreが疲弊して一時的に失活している状態にあり)、休息が必要であると検討することができる。
また本発明の前記腹膜機能検査方法は、さらに、Three Pore Theoryモデルからセルポア透水係数LpScおよび総括透水係数LpSを算出するとともに、比LpSc/LpSを獲得し、当該比LpSc/LpSと、除水量とを腹膜機能の検査指標として用いることで、さらに詳しい腹膜機能検査を行うことができる。具体的には、Three Pore Theoryモデルより総括透水係数に対するアクアポリンの透水係数比LpSc/LpSを求める。当該LpSc/LpSは、腹膜の毛細血管中に存在する細孔において除水能の約40%を担うとされるアクアポリンの活性能を示す比であり、この比が大きいほど腹膜の除水能が高いことを示す。このLpSc/LpSについてMTACun/cや除水量に対する相関を表すことで、腹膜機能に関する詳細な診断が可能である。
さらに本発明は、Three Pore Theoryモデルを用いた腹膜機能検査方法において、LpScおよびLpSを算出するとともに、比LpSc/LpSを獲得し、当該LpSc/LpSを腹膜機能の検査指標として用いても、除水能について具体的な機能検査を行うことができる。
この場合、さらに前記LpSc/LpSと、除水量とを腹膜機能の検査指標として用いることで、腹膜の除水能について、アクアポリン活性を踏まえた詳細な機能検査を行うことができる。
Pyle−Popovichモデルの説明図である。 Three Pore Theoryのモデルの説明図である。 本発明の一適用例であるPCを用いた腹膜透析プランニング装置の模式図である。 腹膜透析プランニング装置を用いた実施例の流れを示す図である。 腹膜試験のタイムチャート例を示す図である。 腹膜試験のデータ入力項目を示す図である。 腹膜試験のデータ入力項目を示す図である。 本発明の腹膜機能プログラムのフロー図である。 MTACun/cと除水量の相関性(サンプル)を表すグラフである。 MTACun/cとLpSc/LpSの相関性(サンプル)を表すグラフである。 MTACun/cとLpSc/LpSの相関性(サンプル)を表すグラフ(腹膜機能診断エリア表示付き)である。 LpSc/LpSと除水量の相関性(サンプル)を表すグラフである。 データ入力から腹膜機能表示までのプログラムのステップ例を示すフローチャートである。 遺伝アルゴリズムおよびThree Pore Theoryの演算のプロセスを具体的に説明するフローチャートである。 腹膜試験のタイムチャート例を示す図である。 臨床データの比較図である。
(実施の形態1)
ここでは本発明の実施の形態1について説明する。
本発明の腹膜透析プランニング装置では、腹膜透析モデルとして知られている2つの数理モデルを演算し、その計算結果を処理して出力表示する。腹膜透析モデルには、巨視的モデルとしてPyle−Popovichモデル、微視的モデルとしてThree Pore Theoryのモデルが存在する。ここではまずこれらについて簡潔に説明する。
1−1.腹膜透析の数理モデルについて
図1は、Pyle−Popovichモデルを簡潔に示した腹膜断面図である。当図中の矢印の向きが示すように、均一膜としての腹膜を介して、体液側から透析液側への溶質移動は、透析液への溶質分子拡散と、対流(水分移動による物質移動すなわち対流輸送と、腹膜下のリンパ吸収による逆流)の和で示される。この数理モデルは次の数式1の(1−1)〜(1−8)で表すことができる。
Figure 0004968349
このようにPyle−Popovichモデルにおいては、体液中の各溶質の物質収支式と、透析液側の物質収支式が基本となっている。Pyle−Popovichモデルで患者ごとに算出する項は、グルコース、尿素窒素、クレアチニン等の各溶質についての総括物質移動・膜面積係数KA(またはMTAC;overall Mass Transfer−Area Coefficient)、σ(スタベルマンの反撥係数)、および除水パラメータa1、a2、a3である。このうち除水パラメータa1、a2、a3は、患者が除水できる能力(これを除水能という)を評価する上で特に重要であるとされる。
なお、体液量(VB)の算出は、HumeとWeyersによって作成された経験式を用いることができる(Humeら、1971)。この経験式は、患者の性別、身長[HT(cm)]および体重[WT (Kg)]で次のように表される。
男性: VB(0) = −14.249 + 0.19678HT + 0.29571WT
女性: VB(0) = −9.9260 + 0.17003HT + 0.21371WT
一方、Pyle−Popovichモデルとは対称的に、腹膜機能を微視的に見た場合、腹腔の各毛細血管が持つ透過能には部分的にバラツキがあると考えられる。これに基づいた腹膜透析モデルがThree Pore Theoryモデルである。
図2は、Three Pore Theoryのモデルを説明するための前記毛細血管の模式図である。Three Pore Theoryでは、毛細血管が大きさの異なる3種の細孔(Large Pore、Small Pore、Cell Pore)を有していると考える。この場合、各細孔のサイズの違いから、特定のサイズの細孔を透過できる溶質の種類や量に篩が掛けられる。また同様の理由で除水にかかる各サイズの細孔の寄与度も異なる。そこでThree Pore Theoryでは、大中小各細孔について、水の移動速度(濾過速度)を算出し、総計としての透水流量(全体の限外濾過速度)を求めている。この数理モデルは次の数式2の(2−1)〜(2−4)、数式3、数式4、数式5のそれぞれで表すことができる。
Figure 0004968349
Figure 0004968349
Figure 0004968349
Figure 0004968349
ここで数式5の(5−1)および(5−2)に表れるA0/ΔxとLpScは患者個人に特有の未知パラメータである。Three Pore Theoryモデルでこれを近似値解として算出する方法には、修正パウエル法などいくつか提案されている。この算出方法では少なくとも浸透圧の異なる2種の透析液についてデータを採取し、この修正パウエル法を利用して算出を行う方法を取るが、他の方法で算出してもよい。Pyle−Popovichモデルは2点のデータ群でも解析できるが、Three Pore Theoryモデルでは上記修正パウエル法で繰り返し計算を行い、A0/ΔxとLpScを算出する際により多くのデータ群を必要とする。
なおCell Poreはアクアポリン(HOチャネル)と考えられ、全除水量の40%もの寄与度を有する重要な細孔である。このアクアポリンは不可逆性を有し一度壊れると元に戻らないため、患者の除水能に極めて重要な相関関係にある。透析療法では、腹膜機能を維持する上でいかにアクアポリンを失活させず保持するかがポイントとなる。
一群のLpS項(LpSc、LpSs、LpSL)は透水係数、LpSは総括透水係数と呼ばれ、これらの値が大きいと除水能が高いことを示す。特にLpScの値が高いということは、患者の除水能が比較的良好に保たれていることを表すと言える。したがってThree Pore Theoryを用いて患者の腹膜機能を検討する場合、当該透水係数値を吟味することは非常に重要である。
Three Pore Theoryでは、各溶質のその時刻の濃度勾配を更新することで、その時刻の新しい浸透圧が求められ、新たに水の移動速度も算出される。そして、腹膜の総面積値と合わせて患者ごとに計算することにより、溶質の移動と除水量の詳細なモデル構築が可能となっている。
1−2.腹膜透析プランニング装置の構成
次に、本発明の実施の形態1における腹膜透析プランニング装置の構成について説明する。腹膜透析プランニング装置は、腹膜透析検査方法を実行するためのプログラム(腹膜機能検査プログラム)を汎用コンピュータに導入して構成することができる。
図3は本発明の腹膜透析プランニング装置の構成例を示す。ここでは、内部に公知のCPU、HD、メモリを備える本体部11と、当該本体部に接続された入力手段としてのキーボード12、データ出力手段(表示部)としてのディスプレイ10を備えるパーソナルコンピュータ(PC)1を示している。本発明の腹膜機能検査プログラムは、例えば各種可搬型記録媒体20(CD−ROM201、DVD−ROM202、フレキシブルディスク203、メモリーカード204)からPC1側に読み込まれるようにしてもよいし、通信回線を介して別のサーバー、PC等の記憶装置30からPC1側に読み込まれるようにしてもよい。一度読み込んだ腹膜機能検査プログラムは、患者のデータとともにPC1内のHDに格納するのが望ましい。
この腹膜透析プランニング装置では、一般的な試験(例えば腹膜平衡試験;PET)で患者から得た各種データを入力データとして用いる。PC1内のCPUは、腹膜機能についての数理モデル(Pyle−Popovichモデル、あるいは当該Pyle−PopovichモデルとThree Pore Theoryのモデルの両方)を演算し、その演算結果により得られた各溶質濃度、除水量等についてのデータについて実施の形態1に特有の処理を施して、ディスプレイ10に表示する。このディスプレイ10の表示内容により今後の腹膜透析プランニングに対する検討の補助とするものである。これによって、腹膜機能の経時的な状態検査(腹膜機能亢進機序)を的確に行うことが可能であるという特徴を持っている。
なお当該腹膜透析プランニング装置は、その機能を実現する上で別個の特別な装置、計算方法、或いは今まで用いられていなかった新規なデータの類を一切必要とせず、装置・データともに過去の遺産を有効活用できるといった特徴を有する。
1−3.腹膜機能検査プログラムの構成について
PC1に導入される腹膜機能検査プログラムは全体的に以下の流れで実行されるように構成されている。図4は、当該データ入力から腹膜機能表示までのプログラムの流れを示す図である。
当図に示されるように、まずPC1に腹膜機能検査に必要な患者の臨床データを入力する。このデータ入力後にプログラムは実行可能となり、オペレータの指示によりPyle−Popovichモデルについて演算する。その演算結果により得られた溶質濃度、除水量等の各パラメータを利用し、尿素窒素およびクレアチニンのMTAC比(MTACun/c)を獲得し、MTACun/cと除水量との相関についてグラフ表示・ディスプレイ10に表示する。これによりオペレータが腹膜機能の検討を行えるようにする。このMTACun/cおよび、後述のLpSc/LpSを腹膜機能検査の指標として用いることが本発明の主な特徴である。MTACun/cの効力、MTACun/cおよびLpSc/LpSの詳細については動作フロー説明時に詳細に説明する。
MTACun/cと除水量との相関についてグラフ表示・ディスプレイ10に表示した時点でプログラムは一旦作業を終了することもできるが、オペレータの希望があれば、より精密な腹膜機能検査のためのさらなる演算を行うものとする。この場合PC1は前記取得したデータ群が十分な量存在すること(具体的には複数の浸透圧の透析液について3つ以上のデータ群が存在すること)を確認し、続いてThree Pore Theoryのモデルについて演算する。その演算結果により得られた透水係数等の各パラメータを利用し、先に演算した除水量とともにMTACun/cとLpSc/LpSの相関性、およびLpSc/LpSと除水量の相関性についてグラフ表示する。これによりオペレータが腹膜機能の詳細な検討を行えるようになっている。
なお、患者についての入力データは当該プログラムを起動する以前において、Pyle−PopovichモデルおよびThree Pore Theoryのモデルの両方を解くのに十分な量のものをすべて揃え、PC1に入力できるようにしておくと、速やかに演算できるので望ましい。
1−4.実施例
本装置を動作させるためには、最初に患者から取得するデータが必要である。本装置の動作説明に先立ち、このデータ取得方法についてまず説明する。
1−4−1.臨床データの取得と入力
ここでは、本発明の上記腹膜機能検査(臨床試験)のための手続とデータ取得ステップ例を示す。図5はこのときのデータ取得ステップ図である。このデータ取得ステップでは、体積2Lで浸透圧が360、400(mOsm/kg−solvent)の透析液を交互に用い、患者に対して前夜から10.5時間、4時間、3時間、5時間、2時間の間隔で全6回透析液を交換する。このとき定期的に採血を行い、各溶質濃度を行うとともに蓄尿しておく。透析液の浸透圧、および交換数はこれ以外でも良い。なお、ここではPyle−Popovichの式およびThree Pore Theoryの式を解くために必要な2種類の浸透圧の透析液を用いる例を示しているが、Pyle−Popovichの式の演算では1種類の浸透圧の透析液について2つ以上、Three Pore Theoryの式の演算には1種類の浸透圧の透析液について3つ以上の異なる排液データを取得する必要があるのでそのように設定する。
これによって得る臨床データの項目は図6および図7のチャートに示すように、まず患者の身長・体重・性別を調べ、蓄尿量および尿中の各溶質濃度(尿・尿素窒素・尿・クレアチニン、尿・蛋タンパク質、尿・ナトリウム)のデータ群である。当図はそのまま腹膜透析プランニング装置1のディスプレイ10に表示され、各項目を入力手段(キーボード)12により入力できるようになっている。PC1のオペレータは図6および図7の入力項目について入力を行う。
この入力項目には、採血を行うことにより得られる、血中の総タンパク、アルブミン、血清クレアチニン、尿素窒素、グルコース、ナトリウム、クロール等の濃度についても入力する。ここでは3度にわけて採血をしているので、それぞれの採血時に各濃度測定を繰り返し、その各値を入力する。
なお本実施の形態では少なくとも3回以上の上記排液データで得られた数値を用いることでグラフ表示が可能になる。
排液はブドウ糖濃度、薬液全重量、排液開始時刻、排液後重量、注液終了時刻等を記録しておく。
1−4−2.腹膜透析プランニング装置の動作
腹膜透析プランニング装置1に対して上記各データの入力を終えると、腹膜透析プランニング装置のプログラム(腹膜機能検査プログラム)を実行することができる。
図8は、腹膜機能検査プログラムのステップ例を示すフロー図である。
当図によれば、まずPC1上で当該プログラムを起動すると、PC1はPyle−Popovichモデルを演算するために必要なデータが入力されているか否かを判断する(S101)。
入力データが十分揃っていれば、PC1は入力された患者のデータに基づいて、前記数式<数1>に示すPyle−Popovichのモデルについて演算を行う(S102)。この演算により、尿素窒素、クレアチニンの各総括物質移動・膜面積係数MTACun、MTACc、除水量等が決定される。なお、このPyle−Popovichのモデルにおける連立方程式の演算については特開2000−140100号公報に記載されている。ここでPC1は、その特徴として、Pyle−Popovichモデルの演算により求められたMTACun、MTACcの比MTACun/cを計算し、除水量との相関としてグラフ化してディスプレイ10に表示する(図9)(S103)。
ここでMTACun/cは、本願発明者らがPyle−Popovichのモデルで導出される各種溶質の移動速度MTACに着眼し、従来より飛躍的に個々の患者に対する正確な腹膜機能検査および治療指標への有効利用が可能な物質移動パラメータとして初めて見出したものである。
すなわちMTACunおよびMTACcは、それら単体では公知の総括物質移動・膜面積係数を表す定量的な指標であり、各値はデータ取得時点の患者の腹膜機能を断片的に表すだけである。これらの数値単体から、医者は患者の腹膜機能の状態を詳細に知ることはできない。また透析効率を評価する(浄化空間を定量的に評価する)指標には、一般に透析量の過不足を調べるためにクリアランス、Kt/V等が多用されるが、互いに概念が異なるので腹膜機能の状態を総合的に検討しにくい。
しかしながらMTACun/cは、その値が1に近いほど(すなわちMTACunおよびMTACcの両値が互いに近いほど)、患者が腹膜炎を併発しているか、今後併発する可能性が高い、もしくは腹膜機能が劣化していることを示すことができる。この場合、対策としてはどちらも血液透析の導入が考えられる。このような判断は、実際に腹膜炎を併発している患者や、併発する可能性のある患者から得た経験的なデータによって立証することができる(腹膜炎を併発する患者では腹膜の透過性が亢進しているというデータが論文(Advances in Pelitoneal Dialysis,p144−p148,Vol.18,2002)に記載されている)。つまり従来の検査では単に定量的な指標しか解析できなかったが、本発明では、腹膜の経時的な診断を行うことが可能である。またMTACun/cは無次元の比であることから、個々の患者の体格のバラツキによるパラメータ修正が不必要であるほか、Pyle−Popovichモデルを始め他の概念の式でも利用することができ、汎用性が高い。なお後述するLpSc/LpSも同様に無次元であり、幅広い汎用性を有している。
これに加え、図9に示すように、本実施の形態1ではMTACun/cと除水量をそれぞれ座標軸としてグラフ化することで、より詳細な腹膜機能の検査を行うことができる。ここではGlc2.5%濃度の透析液を用い、縦軸に除水量、横軸にMTACun/cを対応させている。このグラフによれば、データ取得時のMTACun/cと除水量の各値をほぼ同時に確認できるので、例えばMTACun/cが良好でも除水量が優れない場合、溶質移動以外の腹膜の機能(すなわち主に除水能)が低下していると診断でき、腹膜炎消炎剤の無用な利用を避けた効率の良い透析法の移行(腹膜透析から血液透析への移行)が妥当か否かを検討することが可能である。またMTACun/cも除水量も優れない場合には、腹膜の機能がかなり損傷された悪性不全の状態にあることが把握でき、各種消炎剤の処方とともに速やかな透析法の移行や対策を講じることができる。また、除水量が良好な一方でMTACun/cが優れない場合、腹膜機能が良性不全の状態にあり(つまりアクアポリンは十分に活性を有しているが、可逆性のSmall PoreおよびLarge Poreが疲弊して一時的に失活している状態にあり)、休息が必要であると検討することができる。
なお図9〜12においては複数の患者について得られた実測値をプロットし、その分布状態を示しており、各グラフ中のラインは当該グラフにおける回帰直線を表すものである。また各グラフ中のy、r、p値はライン特性を示す数値である。このようなラインは、患者の腹膜機能を知る目安となる(例えばラインよりも下の場合、標準値より除水能が優れないという目安となる)。また、複数の患者のデータや、一人の患者の経時的な複数のデータを表示するときに利用すると好都合な場合もある。
このように本実施の形態1では、MTACun/c−除水量の相関性についてグラフ化することにより、多角的に患者の腹膜機能亢進機序についての情報が得られ、適切な評価を行うことができる。この図9のデータはPyle−Popovichモデルのみから導出できるので、比較的簡便な検査および演算で得ることができるというメリットもある。また、MTACun/cは従来より取得されていた既存のデータMTACunおよびMTACcを利用して得るものであるため、本発明は過去のデータ遺産を無駄にすることなく有効に活用して、より具体的かつ適切な検査用パラメータとすることができる。
なおS102により表示するグラフは、ここではMTACun/c−除水量について表示するように設定しているが、本プログラムの表示設定項目からMTACun/c単体のデータを表示させることも可能である。
比較的簡便な腹膜機能検査では、上記の通り、図9のMTACun/c−除水量の相関性を示すグラフからでもそれなりの検討を行うことができる。そこでPC1は、オペレータにこれ以上の検査を終了するか否かの判断を促す(S104)。このときオペレータがより詳細な腹膜機能検査を望めば、PC1は次のステップに進むようにプログラムを実行する。
次のステップでは、PC1はデータが十分揃っているかを確認する(S105)。これはThree Pore Theoryモデルを解くために必要なデータ量を確認するためである。データが十分揃っていれば(つまり2種以上の浸透圧の透析液についてのデータが揃っていれば)、PC1は入力されている患者のデータに基き、前記数式<数2>〜<数5>に示すThree Pore Theoryモデルを演算する(S106)。ここにおいてPC1は、その特徴として総括透水係数に対するアクアポリンの透水係数の比LpSc/LpSを獲得し、例えばこれと前記求めたMTACun/cとの相関性についてグラフ化し、ディスプレイ10に表示する(図10)(S107)。
なお、このフローでは前記図10に限らず、プログラムの表示設定を調節することで、ユーザが希望する各グラフ{MTACun/c−LpSc/LpS(図10)、腹膜機能状態マーキング表示付きMTACun/c−LpSc/LpS(図11)LpSc/LpS−除水量(12)のいずれか}をディスプレイ10に表示することができる。
このように本実施の形態1では、Three Pore Theoryの演算結果から総括透水係数に対するアクアポリンの動的な透水係数比LpSc/LpSを求めることで、さらに詳しい腹膜機能検査を行うことができる。当該LpSc/LpSは、腹膜の毛細血管中に存在する細孔において除水能の約40%を担うとされるアクアポリンの活性能を示す比であり、この比が大きいほど腹膜の除水能が高いことを示す。このLpSc/LpSについてMTACun/cや除水量に対する相関を表すことで、腹膜機能に関する詳細な診断が可能である。
すなわち、例えばLpSc/LpSの値が優れない場合、その理由はアクアポリンの活性が低下しているものと見ることができる。一般的な除水能検査では、主に患者がCAPDにおいて取得する見かけ上の除水量のデータに基づいて検査されており、このときの除水量が少なかった場合、実際には以下の通り複数の原因である可能性が考えられる。そして、実際の原因がこのうちのどれなのかを断定することは難しい。
A.腹膜に挿入するカテーテル先端が物理的に閉塞又は位置異常により除水ができない(外的要因)。
B.腹膜のリンパ再吸収能が亢進している。
C.腹膜の機能(除水能)が本当に低下している。
このうち、A.の理由ならカテーテルの開放や位置修正、B.の理由ならリンパ抗炎症剤の投与、C.の理由なら腹膜透析から血液透析への移行と、処方がまるで異なってしまう。しかもB.およびC.が理由の場合、患者は腹膜炎または被嚢性腹膜硬化症を併発している可能性が十分考えられ、その対応も十分に考慮すべきとなる。
従来の腹膜機能検査方法では、このような重大な判断が十分にできないため、患者に対する適切な対応を取る上で改善の余地があったが、本発明では上記AやBに左右されないパラメータであるLpSc/LpSを用いており、患者の除水能を飛躍的に正確に把握することができる。ここで、本発明におけるLpSc/LpSは、患者から得られたデータに基づき算出したものであり、個々の患者に特有の動的な比として捕らえている。LpSc/LpSについては従来この比を用いて腹膜機能検査を行うシステムが存在する(例えばGambro社製腹膜機能検査システム)が、従来では固定値(1)とされており、患者の具体的な腹膜機能を示していなかった。動的なLpSc/LpSを検査指標に用いる方法は、本発明で初めてなされたものである。
ここでS107でディスプレイ10に表示される図10は、Pyle−PopovichモデルおよびThree Pore Theoryモデルを演算することにより得られたMTACun/cとLpSc/LpSを両軸にそれぞれ配置して表したグラフである。当図10において、LpSc/LpSはCAPDによって得られる見かけ上の除水量よりも正確な腹膜の除水能を示す。つまり、前述のPyle−Popovichモデルのみから導出できる図9のデータよりもさらに精度を高めたグラフということができる。本発明では、患者の腹膜機能を調べる上で、簡便性と正確性のいずれを優先するかによって、Pyle−Popovichモデルのみか、これとThree Pore Theoryモデルを組み合わせて演算するかを選択できる特徴も併せ持つ。
なお本発明では、表示するグラフの領域を、腹膜機能状態を示す大まかなエリアに分けて表示すると、取得したデータの位置を知る上で目安として有効である。図11は前述の図10のグラフの座標内領域を、腹膜機能状態に合わせて「除水良好」「良性不全・腹膜休息」「要経過観察」「悪性不全」の各エリアに分けた例を示す。ここで横軸方向の「除水良好」と「良性不全・腹膜休息」の境界、および縦軸方向の「悪性不全」と「良性不全・腹膜休息」の境界は、除水量が約500mLのときのMTACun/cとLpSc/LpSの取りうる値としている(一般に、除水量が500mLになったとき、腹膜透析から血液透析に移行することが推奨される)。本発明ではこのようなカテゴリ分類を利用して、取得したデータ位置が示す腹膜機能状態のおおよその検討を付けるようにしてもよい。なお各境界の位置、線の種類、およびカテゴリ分類の文言は当然ながら適宜変更するようにしてもよい。
LpSc/LpSは基本的に腹膜の除水能に比例する性質を有しているので、これらを両軸に取ったグラフを作成すれば、データのLpSc/LpSと除水量の値が比例関係にない場合に、除水がうまく行われていない可能性を評価することもできる。図13はこのようなLpSc/LpSと除水量の相関性を示すグラフである。このようなグラフによれば、例えばLpSc/LpSが優れるのに除水量が優れない場合、リンパ再吸収の亢進や、カテーテルが閉塞または位置異常により除水ができない可能性や、カテーテルが汚れている可能性を考慮することができる。そして前者が原因の場合、リンパ再吸収の亢進を抑える薬を処方したり、後者が原因の場合、適切なCAPDの手順や器具管理を患者にアドバイスすることが可能となる。
これでPC1はフロー処理の全体を終了する。
なお、上記データ表示ステップ(S103、S107)では、グラフ上における患者のデータに対しておおよその腹膜機能状態を示す前述の境界線やカテゴリ分類の文言を合わせて表示するよう選択することも可能である。
PC1は、S107でオペレータが望むグラフを表示すると、プログラムを終了させることができる。
(実施の形態2)
2−1.実施の形態2の主な特徴について
続いて、本発明の実施の形態2について説明する。
本実施の形態2における腹膜透析プランニング装置の構成、および腹膜機能検査プログラムの基本的な動作(画面表示の項目を含む)は実施の形態1と同様であるので、ここではその差異を中心に説明する。
実施の形態2の特徴はPC1にインストールされている腹膜機能検査プログラムにおいて、Pyle−Popovichモデルの演算後に得られるパラメータ数値を予め遺伝アルゴリズム(GA;Genetic Argorithm)によって臨床データの実測値に対する最適解としておき、これをThree Pore Theoryの式に導入することで、さらに精度の高い腹膜機能検査を行えるようにした点にある。
また当該遺伝アルゴリズムの導入により、Pyle−Popovichモデルの演算を簡易化できるとともに、臨床データの必要数が減らされ、臨床データ採取時における患者および解析者の負担を軽減するといった効果も奏されるものである。
なお、遺伝アルゴリズム自体は周知の最適解探索方法としての数理モデルであって、その詳細は例えば「遺伝アルゴリズムと最適化」(システム制御情報学会編 朝倉書店、 1998/4/15出版)、「遺伝的プログラミング入門」(伊庭 斎志著 東京大学出版会、2001/7出版)、「遺伝アルゴリズムとニューラルネット―スケジューリングと組合せ最適化 」(電気学会遺伝アルゴリズム等組合せ最適化手法応用調査専門委員会編 コロナ社、1998/1出版) 等に詳しい。
具体的に実施の形態2では、Pyle−Popovichモデルの演算結果として得られるグルコース、尿素窒素、クレアチニン等の各溶質についての総括物質移動・膜面積係数KA、言い換えればMTACglc(グルコースについてのMTAC)、MTACurea(MTACun)、MTACcrea(MTACc)と、これに加えて透水係数比rLpScを、それぞれ独立に変動する別個のパラメータとして扱う。rLpScは、LpSから前記数式5の(5−1)式を変形することによって、LpSc/LpS(数式6)により直接表されるものである。
Figure 0004968349
各溶質に対する各MTACglc、MTACun、MTACc、およびrLpScは、実際には患者個人の腹膜機能に依存する性質が大きく、それぞれ固有の値を取っている。実施の形態2ではこの性質を考慮して、これら4つのパラメータを積極的に動的変数として扱い、個々の患者の腹膜機能に合わせて、より精密且つ正確な透析プランニングを行えるようにしたものである。
なお、上記新たなパラメータが増えたことで多元方程式を解くことになり、演算の自由度が増してしまうので、実施の形態1のままの腹膜機能検査プログラムではその自由度を追えなくなる。この演算の負担を軽減するため、実施の形態2の腹膜機能検査プログラムではPyle−Popovichモデルの演算結果に対し、前記遺伝アルゴリズムを組み合わせたThree Pore Theoryの式の演算を行い、パラメータの数値を最適解に絞り込み易くする。遺伝アルゴリズムは与えられた初期推定値に基づき一定量の演算を繰り返し、評価関数を用いて演算結果を最適解に収束させる手法なので、これを用いることで演算をある程度迅速に行うことができる。
2−2.腹膜機能検査プログラムの構成と動作について
実施の形態2における腹膜機能検査プログラムは、全体的には以下の流れで実行されるように構成されている。ここでは臨床データ取得を含めた実施例と交えて説明していく。
図13は、データ入力から腹膜機能表示までのプログラムのステップ例を示すフロー図である。「PPM」はPyle−Popovichモデル、「TPT」はThree Pore Theoryをそれぞれ示す。当該フローの主な特徴部分はGA−TPT演算ステップ(S3)にある。
当図13に示すフローによれば、当該プログラムの実行時には、まずオペレータが腹膜透析プランニング装置のPC1に対して、腹膜機能検査に必要な患者の臨床データを入力する。そのデータ項目は図6、7に示すチャートの通りであるが、本実施の形態2では排液中のアルブミンについての測定を省略し、総タンパク量だけを測定することもできる。これは、排液中のアルブミンの濃度が総タンパク質の濃度と比例関係にあるためである。なお、これとは逆に、総タンパク質量からアルブミン量を求めることも可能である。
ここで、必要な臨床データを取得するためのスケジュール(タイムチャート)は図15に示す通り、例えば通院前日の午後1時から患者自身で排液量と蓄尿量についてのデータ取得を開始し、通院日の通院時点(午後1時)で1度採血するだけで終了するといった特徴がある。
具体的には図16に示す比較図のように、臨床データの数は4つ(透析液交換回数)、且つ採血回数が1回に抑えられるなど、実施の形態2では必要な臨床データ量が、患者が一日の通院で調査できる量に低減されている。当該臨床データの取得のための患者の通院は、通常の定期検診と重ねて行うこともできるため、実施の形態1より患者への負担や労力が減らされるとともに、臨床データを採取するスタッフの作業量も減らすことができる。これは、後に示すプログラムへの遺伝アルゴリズムの導入によって、演算に必要な臨床データ数が少なくて済むようになったためである。
上記データ入力が完了すると、腹膜機能検査プログラムは実行可能となる。そして、当該入力データが過不足なく十分量であれば(S1)、その後当該プログラムはオペレータの指示によって、第一演算ステップとして、Pyle−Popovichモデルについて演算を行う(S2)。
ここで、Pyle−Popovichモデルの演算は基本的には実施の形態1と同様のプロセスで行われるが、実施の形態2では数1の(1−2)式における演算が簡略化される。
すなわち、ここでは透析中における溶質の血中濃度をほぼ一定であると見ることによって、(1−2)式中のCBを近似的に定数とおく。これにより、(1−2)式は実質的にCDのみが変数となり、簡略化されて線形微分方程式となる。このような(1−2)式の線形微分方程式への簡略化は、Pyle−Popovichモデルの演算結果をThree Pore Theoryの式の演算のための初期推定値として扱うには、その値をこの時点で近似値としておいても最終結果にそれほど影響がないとの判断に基づくものである。
なお、(1−2)式の線形微分方程式への簡略化は本発明に必須ではないが、その場合は臨床データの数が実施の形態1と同様の数だけ必要となる。
こうして得られたPyle−Popovichモデルの演算結果より、実施の形態1と同様に、各パラメータMTACglc、MTACun、MTACc、σ、a1、a2、a3、rLpSc等の値が算出される。このうち、各MTACglc、MTACun、MTACcとrLpScの値は、Three Pore Theoryの演算における未知パラメータセット(初期推定値)として用いられる。
上記各パラメータの値を得た後、次に本実施の形態2の特徴である第二演算ステップとして、遺伝アルゴリズムおよびThree Pore Theoryの演算(GA−TPT演算)を行う(S3)。これによって遺伝アルゴリズムの演算により前記未知パラメータセット(初期推定値)からエリートパラメータセット(最適解)を獲得し、当該エリートパラメータセットに基づきThree Pore Theoryの式を演算する。
図14は、S3における遺伝アルゴリズムおよびThree Pore Theoryの演算(GA−TPT演算)のプロセスを具体的に説明するフローチャートである。
当図に示すように、まずPC1はS3において、前記Pyle−Popovichモデルで得られた4つの未知パラメータからなるパラメータセット(初期推定パラメータセット)を基に、遺伝アルゴリズムに基づくコーディング操作によって数組のパラメータセットを用意する(S301)。ここで、用意される数組のパラメータセットの中に、前記初期推定パラメータセット自身も含むようにしてもよい。
次にPC1は、前記数組のパラメータセットに基づき、それぞれThree Pore Theoryの演算を行う(S302)。Three Pore Theoryにおける演算は、数2〜数5等に基づき実施の形態1と同様に行われる。そしてPC1は、各パラメータセットについての演算結果について、それぞれ誤差評価を行う。当該誤差評価の判断には評価関数として、次の数式7の(7−1)式、(7−2)式をそれぞれ用い、Three Pore Theoryの演算結果から算出された推定排液量VDESTおよび推定排液中溶液濃度CDsESTを各実測値(VDCLN、CDsCLN)に照らす誤差算出方法を利用する。
Figure 0004968349
次にPC1は、S302の誤差評価において最も誤差が小さかったパラメートセットを残すよう選択する(S303)。ここで選択されたパラメータセットは、例えば「準エリートパラメータセット」と呼ばれる。
次にPC1は、前記純エリートパラメータセットの誤差が基準未満であるか否か判断する(S304)。
本実施の形態2では、S304における判断基準の例として、上記数式7による誤差が5%未満であることを評価要件とする。準エリートパラメータセットに基づくVDEST、CDsESTと、実測値VDCLN、CDsCLNとの誤差が基準以上、すなわち当該誤差が5%以上になるほど大きければ、演算は現在の準エリートパラメータセット中の各パラメータの数値を遺伝アルゴリズムに基づき交差させて遺伝的子孫を作成するとともに、コーディング操作を行い、新たな数組のパラメータセットを用意する(S305)。
この交差の操作方法としては、例えは前記準エリートパラメータセット中の各パラメータ数値をそれぞれ10進数から2進数に変化させ、各数値の上位・下位ビットをクロスオーバーさせてシャッフルする方法等を例示することができる。なお、本発明に適用できる前記シャッフルの手法はそれ以外、例えばパラメータの存在確率を示す正規分布から経験的に数値範囲を絞り込んでいく手法を取ってもよい。また、パラメータの数値と誤差の値とをそれぞれ交差軸に取り、ランドスケープ(マップ)を作成して、そのマップが示す窪値(極小点)を中心に数値範囲を絞り込んでいくようにしてもよい。
以下、S304においてThree Pore Theoryの演算値と実測値との誤差が5%未満に収まるまでフィッティングを図るため、S302、S303、S304、S305、の各ステップが同順に繰り返し循環される。
S304において、誤差が5%未満であると判断されれば、当該準エリートパラメータセットはエリートパラメータセット(最適解)として決定され(S306)、当該GA−PTP演算のフローは終了する。
その後、PC1は図13に示すようにS4において、前記エリートパラメータセットに対応するThree Pore Theoryの演算結果と、先のPyle−Popovichモデルに対応する演算結果とから、MTACun/c−除水量、MTACun/c−LpSc/LpSのいずれかの相関図としてPC1のディスプレイ10に出力する(図8〜12と同様)。
このように本実施の形態2では、Pyle−Popovichモデルからの初期推定パラメータセットを患者個人に合わせてフィッティングし、これに基づくThree Pore Theoryの演算結果を画面表示させるので、より一層個々の患者に合わせた正確できめ細やかな透析プランニングを行うことが可能になっている。また、本実施の形態2を実現するために患者および解析者に必要な労力も低減でき、精神的負担を低減して気軽に検査に望めるので、何度も繰り返し透析プランニングを検討でき、その都度患者に最適な透析プランを提供できるといった効果も期待できる。
なお、当然ながら上記プログラムのフローにおけるS304の誤差基準は、5%以外の数値にも設定することができる。当該数値設定の目安としては、患者個人に合わせた日常処方のデータ(排液データ等)を参考にするのが望ましい。
またS303で選ぶ準エリートパラメータセットの数は複数であってもよい。この場合、S304において、複数の準エリートパラメータセットの中から唯一のエリートパラメータセットを選び出すこととなる。また、誤差が基準以上に外れていれば、前記複数の準エリートパラメータセット中で交差を行い、遺伝的子孫の数値を算出するようにもできる。
(その他の事項)
本発明では、Three Pore Theoryモデルから得られたデータを用いてLpSc/LpSを導出し、これを腹膜機能検査の指標として用いる例を示しているが、LpSに対する比として、アクアポリンの透水係数LpScの他に、中小分子を透過させる細孔の透水係数LpSL、LpSsを用いても、理論上、同様の比例関係が見い出せるので利用できる。しかしながら実際は、中小分子を透過させる細孔の溶質移動速度にバラツキが見られ、再現性の問題が無視できないので、これらの透水係数LpSL、LpSsを用いることはあまり望ましくない。
さらに上記実施の形態1では、患者から取得したデータを元Pyle−PopovichモデルおよびThree Pore Theoryモデルを演算し、MTACun/cおよびLpSc/LpSを算出する例を示したが、本発明はこれに限定せず、別の装置演算部ですでに求められたMTACun、MTACc、LpSc、LpS等の各値を入力データとして用い、当該入力データよりMTACun/cおよびLpSc/LpSを算出するものであってもよい。
また、MTACun、MTACcは、Pyle−Popovichモデル以外の数理モデルより導出してもよい。
さらに、上記例ではデータ出力手段としてディスプレイ10を用いる例を示したが、本願発明の出力手段はこれに限定するものではなく、例えばスピーカから音声でデータ出力するようにしてもよい。
以上のことから明らかなように、本発明は、尿素窒素の総括物質移動・膜面積係数をMTACun、クレアチニンについての総括物質移動・膜面積係数をMTACcとするとき、当該MTACunおよびMTACcから算出したその比MTACun/cを腹膜機能亢進機序の検査指標として用いるものである。
ここでMTACun/cは、その値が1に近いほど(すなわちMTACunおよびMTACcの両値が互いに近いほど)、患者が腹膜炎を併発しているか、今後併発する可能性が高いことを示すことができる。この判断は、実際に腹膜炎を併発している患者や、併発する可能性のある患者から得た経験的なデータによって立証することができる。すなわち従来の検査では単に定量的な指標しか解析できなかったが、本発明ではMTACun/cを用いることにより、腹膜機能の経時的な変化(腹膜機能亢進機序)についての診断を行うことが可能である。
また本発明の前記腹膜機能検査方法は、さらにThree Pore Theoryモデルからセルポア透水係数LpScおよび総括透水係数LpSを算出するとともに、比LpSc/LpSを獲得し、当該比LpSc/LpSと、除水量とを腹膜機能の検査指標として用いることで、さらに詳しい腹膜機能検査を行うことができる。具体的には、Three Pore Theoryモデルより総括透水係数に対するアクアポリンの透水係数比LpSc/LpSを求める。当該LpSc/LpSは、腹膜の毛細血管中に存在する細孔において除水能の約40%を担うとされるアクアポリンの活性能を示す比であり、この比が大きいほど腹膜の除水能が高いことを示す。このLpSc/LpSについてMTACun/cや除水量に対する相関を表すことで、腹膜機能に関する詳細な診断が可能である。
本発明は、人工透析における腹膜透析のプランニング検討に用いることが可能である。
1 PCを利用した腹膜透析プランニング装置
10 表示手段(モニタ)
11 PC本体
12 入力手段(キーボード)
20 記録媒体
30 通信回線を介した記憶装置

Claims (9)

  1. 演算部と出力部を備え、透析患者から得たデータを元に前記演算部にてThree Pore Theoryモデルを演算し、その演算結果を前記出力部に出力する腹膜透析プランニング装置であって、
    前記演算部は、Three Pore Theoryモデルを演算した結果、セルポア透水係数LpScおよび総括透水係数LpSを算出するとともに、その比LpSc/LpSを獲得し、
    前記出力部は、前記LpSc/LpSを腹膜機能の検査指標として出力することを特徴とする腹膜透析プランニング装置。
  2. 前記腹膜透析プランニング装置は、さらに、
    前記LpSc/LpSと、除水量との相関をグラフ化し、これを出力部に出力することを特徴とする請求項1に記載の腹膜透析プランニング装置。
  3. 前記出力部は、
    前記演算部で得られたLpSc/LpS値を、除水量との2軸座標によって出力することを特徴とする請求項2に記載の腹膜透析プランニング装置。
  4. 前記出力部は、さらに、
    前記演算部で得られたLpSc/LpS値を、除水量の取りうる値の範囲から得られた腹膜機能状態を示す情報ととともに前記座標中に出力することを特徴とする請求項3に記載の腹膜透析プランニング装置。
  5. 前記出力部は表示部であって、
    当該表示部は、複数の患者の実測値についてのプロットの分布状態および回帰直線を表示することにより、前記LpSc/LpSと前記除水量の相関性について出力することを特徴とする請求項4に記載の腹膜透析プランニング装置。
  6. Three Pore Theoryモデルを用いた腹膜機能検査プログラムを記録した記録媒体であって、
    セルポア透水係数LpScおよび総括透水係数LpSを算出する透水係数算出ステップと、その比LpSc/LpSを計算するLpSc/LpS算出ステップを有し、当該LpSc/LpSを腹膜機能の検査指標として用いることを実行させるための腹膜機能検査プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
  7. さらに、
    前記LpSc/LpSと、除水量とを腹膜機能の検査指標として用いることを実行させるための請求項6に記載の腹膜機能検査プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
  8. Three Pore Theoryモデルを用いた腹膜機能検査プログラムを記録した記録媒体であって、
    セルポア透水係数LpScおよび総括透水係数LpSを算出する透水係数算出ステップと、その比LpSc/LpSを計算するLpSc/LpS算出ステップを有し、当該LpSc/LpSを腹膜機能の検査指標として用いることを実行させるための腹膜機能検査プログラム。
  9. さらに、
    前記LpSc/LpSと、除水量とを腹膜機能の検査指標として用いることを実行させるための請求項8に記載の腹膜機能検査プログラム。
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