以下、図面を参照して本発明を詳細に説明する。
1.基本構成
(1)装置構成
図1は本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成を示す模式的斜視図である。記録時において、記録媒体Pは、搬送経路上に複数具えられたローラの1つである搬送ローラ1とこれに従動するピンチローラ2との間に挟まれ、搬送ローラ1の回転に応じてプラテン3上に案内、支持されながら図中矢印A方向に搬送される。この搬送ローラ1に対しては、ピンチローラ2が不図示のバネ等の押圧手段により弾性的に付勢されている。これらの搬送ローラ1およびピンチローラ2が上流側搬送手段の構成要素をなす。
プラテン3は、インクジェット記録ヘッド形態の記録ヘッド4の吐出口が形成された面(吐出面)と対向する記録位置に設けられ、記録媒体Pの裏面を支持することで、記録媒体Pの表面と吐出面との距離を一定ないし所定の距離に維持する。
プラテン3上に搬送されて記録が行われた記録媒体Pはその後、回転する排出ローラ12とこれに従動する回転体である拍車13との間に挟まれてA方向に搬送され、プラテン3上から排紙トレイ15上に排出される。これらの排出ローラ12および拍車13が下流側搬送手段の構成要素をなす。なお、図1では排出ローラ12および拍車13の対が1つのみ示されているが、後述するように2対設けられていてもよい。
14は記録媒体の一方の側部側に配置され、記録媒体搬送時の搬送基準をなす部材であり、幅方向の寸法によらず、記録媒体は一方の側部がその搬送基準部材14に沿って搬送される。搬送基準部材14は、記録媒体Pが上方すなわち記録ヘッド4の吐出面方向に浮き上がることを規制する目的に兼用されたものでもよい。
記録ヘッド4は、その吐出面をプラテン3ないし記録媒体Pに対向させた姿勢で、キャリッジ7に着脱可能に搭載されている。キャリッジ7は、駆動手段であるモータにより2本のガイドレール5,6に沿って往復移動され、その移動の過程で記録ヘッド4にインク吐出動作を行わせることができる。このキャリッジ移動方向は記録媒体搬送方向(矢印A方向)と直交する方向であり、主走査方向と呼ばれる。これに対し、記録媒体搬送方向は副走査方向と呼ばれている。そして、キャリッジ7ないし記録ヘッド4の主走査(記録走査)と、記録媒体の搬送(副走査)とを交互に繰り返すことにより、記録媒体Pに対する記録が行われる。
ここで、記録ヘッド4としては、インク吐出のために利用されるエネルギとして熱エネルギを発生する手段(例えば発熱抵抗素子)を備え、その熱エネルギによりインクの状態変化(膜沸騰)を生起させる方式を用いたものとすることができる。また、エネルギ発生手段としてピエゾ素子などの機械的エネルギを発生する素子を備え、その機械的エネルギによりインクを吐出させる方式を用いたものとすることもできる。
本実施形態の記録装置は、10色の顔料インクによって画像を形成する。10色とはシアン(C)、ライトシアン(Lc)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(Lm)、イエロー(Y)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)、レッド(R)、グリーン(G)およびグレー(Gray)である。なお、Kのインクとは、上述した第1ブラックK1または第2ブラックK2のインクである。ここで、第1ブラックK1および第2ブラックK2のインクとは、それぞれ、光沢紙に対して光沢感の高い記録を実現するフォトブラックインクおよび光沢感のないマット紙に適したマットブラックインクとすることができる。
図2は、本実施形態で採用した記録ヘッド4をノズル形成面側から見た状態を模式的に示している。本例の記録ヘッド4は上記10色のうち5色ずつのノズル列を形成した2つの記録素子基板H3700および記録素子基板H3701を有している。H2700〜H3600は、それぞれ異なる10色のインクに対応するノズル列である。
一方の記録素子基板H3700には、グレー、ライトシアン、第1ブラック、第2ブラックおよびライトマゼンタのインクが供給されて吐出動作を行う各ノズル列H3200、H3300、H3400、H3500およびH3600が形成されている。他方の記録素子基板H3701には、シアン、レッド、グリーン、マゼンタおよびイエローのインクが供給されて吐出動作を行うノズル列H2700、H2800、H2900、H3000およびH3100が形成されている。各ノズル列は、記録媒体の搬送方向に1200dpi(dot/inch;参考値)の間隔で並ぶ768個のノズルによって構成され、約3ピコリットルのインク滴を吐出させる。各ノズル吐出口における開口面積は、およそ100平方μmに設定されている。
かかるヘッド構成では、記録媒体上の同一の領域に対する記録を1回の主走査によって完成させる、いわゆる1パス記録を実行することが可能である。しかしノズルのばらつきなどを低減し、記録品位を向上するために、記録媒体上の同一の走査領域に対する記録を複数回の主走査によって完成させる、いわゆるマルチパス記録を実行することも可能である。マルチパス記録時のパス数は記録モードその他の条件に応じて適宜定められる。
記録ヘッド4に対しては、使用するインクの色に対応して、複数の独立したインクタンクが着脱可能に装着される。あるいは、装置の固定部位に設けたインクタンクから液体供給チューブを介してインクが供給されるものでもよい。
記録ヘッド4の主走査方向の移動可能範囲内で、かつ、記録媒体Pないしはプラテン3の側端部外の領域である非記録領域には、記録ヘッド4の吐出面と対面可能に回復ユニット11が配置されている。回復ユニット11は、次に示すような公知の構成を備える。すなわち、記録ヘッド4の吐出面をキャッピングするキャップ部、吐出面をキャッピングした状態で記録ヘッド4から強制的にインクを吸引する吸引機構、およびインク吐出面の汚れを払拭するクリーニングブレード等である。
図3は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の制御系の主要部の構成例を示す。ここで、100は本実施形態に係るインクジェット記録装置の各駆動部の制御を行う制御部である。制御部100は、CPU101、ROM102、EEPROM103およびRAM104を備える。CPU101は、後述する処理手順を含め、記録動作等に関わる処理のための種々の演算および判別を行うほか、印刷データなどについての処理を行う。ROM102は、CPU101が実行する処理手順に対応したプログラムや、その他の固定データなどを格納する。EEPROM103は不揮発性メモリであり、所定の情報を記録装置の電源オフ時にも保持しておくために用いられる。RAM104は、外部から供給された印刷データや、これを装置構成にあわせて展開した記録データを一時的に格納するほか、CPU101による演算処理のワークエリアとして機能する。
インターフェース(I/F)105は、外部のホスト装置1000と接続する機能を有し、ホスト装置1000との間で所定のプロトコルに基づいて双方向の通信を行う。なお、ホスト装置1000はコンピュータその他の公知の形態を有し、本実施形態の記録装置に印刷を行わせる印刷データの供給源をなすとともに、その印刷動作を行わせるためのプログラムであるプリンタドライバがインストールされている。すなわちプリンタドライバからは、印刷データや、これを印刷する記録媒体の種別情報といった印刷設定情報、および記録装置の動作制御を行わせる制御コマンドが送られるようになっている。
リニアエンコーダ106は記録ヘッド4の主走査方向上の位置を検出するものである。シートセンサ107は記録媒体搬送経路上の適宜の位置に設けられる。このシートセンサ107を用いて記録媒体の先後端を検出することにより、記録媒体の搬送(副走査)位置を知ることができる。制御部100にはモータドライバ108,112とヘッド駆動回路109とが接続されている。モータドライバ108は、制御部100の制御のもとで、記録媒体の搬送駆動源をなす搬送モータ110の駆動を行う。搬送モータ110の駆動力はギヤ等の伝動機構を介して搬送ローラ1および排出ローラ2に伝達される。モータドライバ112は、キャリッジ7の移動の駆動源をなすキャリッジモータ114の駆動を行う。キャリッジモータ114の駆動力は、タイミングベルト等の伝動機構を介してキャリッジ7に伝達される。ヘッド駆動回路109は、制御部100の制御のもとで、記録ヘッド4の駆動を行い、吐出動作を行わせる。
ロータリエンコーダ116は、搬送ローラ1および排出ローラ2の軸に取り付けられ、それぞれの回転位置や速度を検出することで、搬送モータの制御を行うために供される。
読み取りセンサ120は、記録媒体Pに記録された画像の濃度を検出する検出手段として用いられる。その形態としては、記録ヘッド4とともに、またはこれに代えてキャリッジ7に搭載された読み取りヘッドであってもよいし、図1の記録装置とは別体に構成された画像読取装置であってもよい。
(2)処理の概要
以上のように構成された記録装置において、搬送精度が低下する大きな原因の1つにローラの偏心がある。ローラの偏心とは、ローラの中心軸に対して回転軸がずれ、回転中心軸が幾何学的な中心軸に対して偏心している状態や、ローラの断面形状が真円でない状態を言い、ローラの基準位置からの回転角度に依存する周期的な搬送誤差をもたらす。すなわち、このような偏心があると、ローラを等しい角度ずつ回転させても、その角度に対応した周方向の長さ(弧の長さ)が異なることになるので、記録媒体の搬送量に誤差が生じてしまう。このように搬送量に誤差が生じると、記録媒体搬送方向に沿ってドットが本来意図した位置に形成されなくなり、当該方向のドット形成状態に疎密が発生し、ローラ1回転分の搬送量を周期としたむらが発生してしまう。
また、搬送精度が低下する大きな原因の他のものとしては、ローラ外径の誤差に依存するものが挙げられる。ローラ外径に誤差があると、ある基準外径に対して定めた回転角度だけローラを回転させても、所定の搬送量が得られなくなる。つまり、基準外径より外径の大きいローラが用いられていれば搬送量は大きくなって記録画像に白スジが発生しやすく、逆に基準外径より外径の小さいローラが用いられていれば搬送量は小さくなって記録画像に黒スジが発生しやすくなる。
そこで、本実施形態は基本的に、搬送ローラおよび排出ローラの偏心および外径誤差などによる搬送精度不足に起因したドット形成位置のずれを抑制できる構成を提供することを目的としている。そのために本実施形態は、偏心の影響を低減するための第1補正値(以下、偏心補正値)と外径誤差を低減するための第2補正値(以下、外径補正値)とを取得し、これらを実際の記録時におけるローラの回転すなわち搬送モータの駆動手段およびギア、ベルト、エンコーダの伝達手段の制御に適用する。
図4は偏心補正値および外径補正値を取得するための処理手順の概要を示すフローチャートである。本手順では、まず記録媒体のセットおよび送給を含む記録動作の開始準備を行い(ステップS9)、記録媒体が所定の記録位置へ搬送されると、テストパターンを記録する(ステップS11)。このテストパターンは、偏心および外径誤差による搬送量の誤差(以下、搬送誤差とも言う)を同時に検出できるものであり、これについては後述する。
次に、読み取りセンサ120を用いてテストパターンを読取り、その濃度情報を取得する(ステップS13)。そしてこの濃度情報に基き、偏心補正値の取得(ステップS15)と、外径補正値の取得(ステップS17)とを、この順で実行する。
(3)テストパターン
図5は本実施形態で用いるテストパターンの一例を示す。本実施形態では、記録媒体搬送方向に対応した方向すなわち副走査方向に、搬送ローラ1の搬送誤差を検出するためのテストパターンと排出ローラ12の搬送誤差を検出するためのテストパターンとが並んで形成される。また、各ローラの回転軸方向に対応した方向すなわち主走査方向には、搬送基準に近い位置と、搬送基準から離れた位置とに、その位置での各ローラの搬送誤差を検出するためのテストパターンが並んで形成される。すなわち、図において、FR1は搬送ローラ1の搬送基準に近い位置での搬送誤差を検出するためのテストパターン、ER1は排出ローラ12の搬送基準に近い位置での搬送誤差を検出するためのテストパターンである。また、FR2は搬送ローラ1の搬送基準から遠い位置での搬送誤差を検出するためのテストパターン、ER2は排出ローラ12の搬送基準から遠い位置での搬送誤差を検出するためのテストパターンである。
ここで、搬送ローラ1および排出ローラ12のテストパターンを記録する理由は次のとおりである。
本実施形態の記録装置は、記録ヘッド4によって記録が行われる位置(記録位置)よりも記録媒体搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ搬送手段が設けられている。従って、記録媒体Pは、上流側搬送手段によってのみ支持搬送されている状態、双方の搬送手段によって支持搬送されている状態(図6(a))、および、下流側搬送手段によってのみ支持搬送されている状態(図6(b))、との3つの状態を取り得る。
ここで、搬送ローラ1と排出ローラ12とでは、その主な役割の違いから、搬送精度に若干の差が生じていることが多い。搬送ローラ1については、記録走査毎に、記録媒体を記録ヘッド4に対する適切な位置に位置決めすることが主な役割である。よって、充分に大きいローラ径を有し、比較的高い精度で搬送動作を行うことができる。これに対し、排出ローラ12は、記録後の記録媒体を確実に排出することが主な役割となっている。よって、搬送ローラ1に比べて、記録媒体の搬送精度も劣っていることが多い。
このため、記録媒体の搬送誤差には、搬送ローラ1が搬送動作に関与している状態ではその搬送精度が関わり、排出ローラ12のみが搬送動作に関与している状態ではその搬送精度が関わることになる。
そこで本実施形態では、図7に示すように搬送ローラ1が搬送動作に関与している領域Iと、記録媒体が排出ローラ12のみで搬送されている領域IIとの2つに分けている。そして、それぞれの搬送動作に主に関与しているローラで搬送を行わせながらテストパターンを記録し、それぞれのテストパターンから濃度情報を取得して、各領域での実際の記録時に適用する補正値を取得する。本実施形態の記録装置は、記録媒体の先後端部に余白のない画像、所謂「余白無し記録」を実現可能な記録装置として構成されており、記録媒体が排出ローラ12のみで搬送されている場合の補正値を取得することは、後端部に余白無し記録を行う際に有効である。
なお、実際の記録装置の動作で下流側搬送手段のみでの搬送を伴いながら記録する場合とは、図6(b)の状態である。すると、排出ローラ12の搬送誤差を検出するためのテストパターンER1,ER2を記録する範囲が領域Iに限られてしまうことになる。そこで、その範囲を十分に得るために、図6(c)に示すように、テストパターンFR1,FR2の記録後にピンチローラ2をリリースし、下流側搬送手段のみで記録媒体を搬送する状態となるようにすることができる。このリリースは手動で行われるものでも、装置側の構成および動作として行われるものでもよい。
また、本実施形態では、搬送ローラ1および排出ローラ12の双方で搬送を行う場合でも、搬送ローラ1の搬送精度が搬送誤差に対して支配的であるため、上述のように領域を2つに分けるものとした。しかし搬送ローラ1のみが搬送に関与している場合(記録媒体先端部)と、搬送ローラ1および排出ローラ12の双方が搬送に関与している場合とで搬送誤差が異なってくるのであれば、さらに領域を分けて処理を行うことができる。
すなわち、図8に示すように、領域Iを搬送ローラ1のみを用いて搬送している部分と搬送ローラ1および排出ローラ12の双方を用いて搬送している部分とに分割して、各別にテストパターンを記録し、濃度情報の取得および補正値の取得を行うことができる。この場合、搬送ローラ1のみを用いて搬送している状態に対応したテストパターンを記録する範囲を確保するために、排出ローラ12に対して拍車13をリリースできるようにすればよい。
また、搬送ローラ1および排出ローラ12のそれぞれについて搬送基準に近い位置と搬送基準から遠い位置とでテストパターンを形成する理由は次のとおりである。
各ローラは、所定の設計公差内に製造されていたとしても、偏心量および偏心の状態などによって発生する搬送誤差が記録装置の搬送基準側と非搬送基準側とで異なるものがある。特に、A3判以上の記録媒体の記録もできる大型のインクジェット記録装置に使用されるローラにはその傾向が顕著に現れる。搬送基準側と非搬送基準側との搬送誤差の相違を最小限にするためには、主走査方向すなわちローラの長手方向の中心位置で単一のテストパターンを記録し、その濃度情報から補正値を取得することもできる。しかし本実施形態では、主走査方向に複数(本実施形態では2つを例示するが、3つ以上でもよい)のテストパターンを記録する。そして、両者を比較して、搬送誤差の影響がより顕著に現れる方に対して、その影響が最も軽減されるような補正値を選択するようにしている(後述)。
(4)テストパターンの詳細
図5に示した各テストパターンは次のように形成される。
図9はテストパターン形成時のノズル使用態様の説明図である。テストパターンの形成には、例えば第2ブラック用ノズル列H3500に含まれる768個のノズルのうち、搬送方向上流側に位置して連続する一部のノズル群NUと、下流側に位置して連続する他の一部のノズル群NDとを使用する。ここで、ノズル群NUおよびNDは、それらの間の距離が、後述するパッチ要素が重なるまでに行なわれる記録走査の回数を、記録走査間で行われる搬送の量に乗じた位置関係にある。本例では、下流側のノズル群NDを基準ノズル群とし、最下流に位置するノズルから数えて65〜193番目の範囲にある128個のノズルを固定的に使用して、複数の基準パッチ要素(第一のパッチ要素)を記録する。一方、上流側のノズル群NUは調整用ノズル群とし、使用するノズル数は下流側ノズル群NDと同じ128個とするが、使用する範囲を主走査中に1ノズルずつずらしながら複数の調整用パッチ要素(第二のパッチ要素)を記録する。
図10(a)〜(e)は上流側ノズル群NUおよび下流側ノズル群NDを用いたテストパターンないしこれを構成するパッチの形成態様の説明図である。ある搬送位置での主走査(1主走査目)において調整用パッチ要素を形成し、次に128ノズル分の媒体搬送を行い、さらに調整用パッチ要素を形成するという動作を繰り返すとする。すると、5主走査目には下流側ノズル群NDの位置に最初に形成した調整用パッチ要素が至ることになる。そこで基準パッチ要素を形成することで、濃度情報を取得するためのパッチが完成する。
図11(a)および(b)は、それぞれ、ある1回の主走査で記録される基準パッチ要素群および調整用パッチ要素群を示している。同図(a)に示すように、基準パッチ要素RPEは主走査方向に整列して記録されるのに対して、同図(b)に示すように、調整用パッチ要素APEは1ノズルピッチ分ずつずれて記録されることになる。調整用パッチ要素APEの群には、最上流に位置するノズルから数えて65〜193番目の範囲にある128個のノズルを使用して記録される調整用基準パッチ要素APErを含んでいる。
この調整用基準パッチ要素APErから搬送基準(図の左側)にある調整用パッチ要素は、搬送基準側に向かうにつれて、1ノズルずつ搬送方向下流側に調整用ノズル群NUの使用範囲をずらして記録されたものとなっている。逆に、調整用基準パッチ要素APErから非搬送基準(図の右側)にある調整用パッチ要素は、搬送基準から遠ざかるに向かうにつれて、1ノズルずつ搬送方向上流側に調整用ノズル群NUの使用範囲をずらして記録されたものとなっている。ずらす範囲は搬送基準側に3ノズル分、非搬送基準側に4ノズル分であり、上流側にずらす場合を正とすると、全体のずらし範囲は−3〜+4である。
ここで、各主走査間で1200dpiのピッチで配列された128ノズル分の範囲に相当する距離(128/1200×25.4=2.709[mm])だけ、記録媒体が誤差なく搬送されるものとする。すると、ある主走査で記録された調整用基準パッチ要素APEr(ずらし量0)に対し、4回の媒体搬送を経た5回目の主走査で記録される基準パッチ要素RPEがちょうど重なることになる。また、正のずらし量はその距離よりも搬送量が大きく、負のずらし量は搬送量が小さくなっていることに対応する。
図12は、パッチ要素を複数有する、すなわち、基準パッチ要素と調整用パッチ要素とで形成されたパッチ群からなるテストパターンを示し、図5に示した4つのテストパターンの1つを拡大したものに相当する。
調整用基準パッチ要素APErに対し、調整用パッチAPEが−3〜+4ノズル分の範囲で1ノズルずつずらして記録されることから、1つのテストパターンについてパッチは主走査方向に8つ形成されることになる。また、本実施形態では、各主走査間の媒体搬送量(理想値)を2.709mmとし、30回の主走査を繰り返すことで、副走査方向(搬送方向)の範囲にわたって30個のパッチが形成されるようにする。このため、1つのテストパターンの副走査方向の長さは2.709×30=81.27mm(理想量)となり、公称37.19mmの外周をもつローラが用いられている場合、その2周分超に相当する。
図12中の符号Aで示すパッチ列は、調整用基準パッチ要素APErを含んだパッチ列である。また、A+1〜A+4で示すパッチ列は、それぞれ、調整用基準パッチ要素APErに対して調整用ノズル群NUの使用範囲を搬送方向上流側に1〜4ノズル分ずらして記録した調整用パッチ要素を含んだパッチ列である。またA−1〜A−3で示すパッチ列は、それぞれ、調整用基準パッチ要素APErに対して調整用ノズル群NUの使用範囲を搬送方向下流側に1〜3ノズル分ずらして記録した調整用パッチ要素を含んだパッチ列である。
(5)パッチの詳細
図13は基準パッチ要素および調整用パッチ要素を拡大して示す図である。また、図14はこれらパッチ要素をさらに拡大して示す図である。パッチ要素は、副走査方向2ドット×主走査方向10ドットの大きさの記録ブロックを基本単位とした階段状のパターンとして形成される。また、使用ノズル群をずらす範囲を勘案して階段状パターン間の副走査方向の距離を確保する。図示の例示では、搬送方向上流側に1〜4ノズル分(+1〜+4)、搬送方向下流側に1〜3ノズル分(−1〜−3)をずらすことに対応して、6ノズル(6ドット)分の間隔を空けている。
本実施形態では、上流側ノズル群NUおよび下流側ノズル群NDとも、この図に示すようなパッチ要素を記録する。このため、搬送誤差の程度に応じて基準パッチ要素と調整用パッチ要素との重なりの状態が変化し、テストパターンには図12に示したように様々な濃度のパッチが形成されることになる。
すなわち、上流側ノズル群NUで記録した調整用パッチ要素と、下流側ノズル群NDで記録した基準パッチ要素とが図15(a)に示すように重なっていれば、濃度(OD値)は低くなる。一方、これらがずれれば、同図(b)に示すように空白部分が埋められ、濃度は高くなる。
搬送誤差を濃度情報から検出できるようにするテストパターンの信頼性を高めるには、記録ヘッド4のノズル状態の影響が各パッチに現れにくいことが望まれる。ノズルには、連続使用や使用環境などにより、吐出方向の偏向(ヨレ)や不吐出などの吐出不良が生じることがある。ノズルの吐出不良によってパッチの濃度情報が変動すると、搬送誤差に対する正確な補正値を算出できないことになる。そこで、そのような吐出不良があったとしても濃度情報の変動を低減できるようなパッチが形成されることが強く望まれる。本実施形態で採用したパッチ要素はその要望に応えるものであるが、単純なモデルを用いてその理由を説明すると次のとおりである。
図16(a)に示すように、パッチ要素を副走査方向に間隔の空いたパターンにすることで、位置ずれ量を濃度情報として計測することが可能となる。しかし特定のノズルに不吐出があると、同図(b)に示すように、その特定のノズルによる記録領域が全て空白となってしまう。
そこで、図17(a)に示すように、さらに主走査方向に対しても間隔の空いた複数の記録ブロックでパッチ要素を構成する。そして、記録ブロック間ではノズルパターンが隣接しないようにノズル使用領域を分散させることで、特定のノズルがパターンに与える影響を低減させることができる。すなわち、特定のノズルに吐出不良があっても、同図(b)に示すように、基準パッチ要素と調整用パッチ要素が重ならないで、空白となる領域は図16(b)よりも少なくなる(図示の例では図16(b)の1/2)。これにより、パッチ要素ひいてはパッチの濃度の低下が抑えられる。図17(b)のパターンは図16(b)のパターンとエリアファクタ(パッチエリアに対するパッチパターンの面積比)は等しい。濃度値をパターン中における単位面積の濃度の総和もしくは平均値を、パターン全領域の濃度値とした場合、濃度値はこのようにパターンが異なっていても同一となる。
なお、本実施形態では、基準パッチ要素と調整用パッチ要素とがより重なっているほどエリアファクタが小さくなり、低い濃度のパッチが形成されるようにした。基準パッチ要素と調整用パッチ要素とがより重なっているほどエリアファクタが大きくなり、高い濃度のパッチが形成されるようにするものでもよい。要は、基準パッチ要素と調整用パッチ要素との重なりないしはずれの程度(すなわち搬送誤差)に対し、濃度情報が敏感に変化するものであればよい。
また、本実施形態では各パッチ要素を階段状に配列される記録ブロックで形成するものとしたが、記録ブロックが記録走査の方向に連続せず、吐出不良の影響を有効に低減できるものであれば、その他の配列を用いることも可能である。例えば、記録ブロックが斑状に配列されるものであってもよいし、ランダムに配列されるものでもよい。
また、本実施形態ではテストパターンの形成にマットブラックのインクを用いるものとした。しかし読み取りセンサを用いた濃度情報の取得が良好に行なわれるものであれば、使用されるインクは他の色のものであってもよい。また、基準パッチ要素と調整用パッチ要素とで異なる色のインクが用いられてもよい。
さらに、搬送誤差に対する濃度情報の変化を良好に取得でき、かつノズルの吐出不良の影響を受けにくいものであれば、使用するノズル群の数および使用ノズル位置は上例に限らない。しかしローラの偏心および外径の誤差に起因した搬送誤差を検出する精度を上げるためには、基準パッチ要素および調整用パッチ要素のそれぞれの記録に用いるノズル群間の距離を大きくすることが望ましく、また同じパターンのパッチ要素とすることが好ましい。
(6)搬送誤差補正値
本実施形態では、読み取りセンサ120を用いてテストパターンを構成するパッチの濃度の測定を行う。読み取りセンサ120は、発光部と受光部とを有する光学センサをテストパターン上で走査させることにより、基準パターンと調整用パターンとが干渉しているパッチ(図15(a),(b))の濃度を測定する。つまり、パッチの濃度は、パッチに対して光を照射したときの反射光量(反射光強度)として検出される。この検出動作は被検出領域に対して1回のみ行われるものでもよいが、複数回の検出動作を行うことにより検出誤差の影響を低減させることが可能となる。
パッチ濃度を検出した後、主走査方向に複数記録された各パッチの濃度の比較を行う。そして、最も濃度の薄いパッチと2番目に濃度の薄いパッチの位置および濃度差から搬送量の誤差を算出する。ここで、最も濃度の薄いパッチから得た濃度値をN1、2番目に濃度の薄いパッチから得た濃度値をN2とすると、濃度差N2−N1=Nに対し、3つの閾値T1,T2,T3(T1<T2<T3)と比較する。N<T1であれば、N1とN2との差はほとんどなく、この場合は最も濃度の薄いパッチについてのずらし量と2番目に濃度の薄いパッチについてのずらし量との中間値(最も濃度の薄いパッチについてのずらし量+1/2ノズル分の長さ)を搬送誤差とする。T1<N<T2であれば、N1とN2との差はやや大きく、この場合は、上記中間値からさらに1/4ノズル分、最も濃度の薄いパッチ側に偏倚した値(最も濃度の薄いパッチについてのずらし量+1/4ノズル分の長さ)を搬送誤差とする。T2<N<T3であれば、N1とN2との差はさらに大きく、この場合は、最も濃度の薄いパッチについてのずらし量+1/8ノズル分の長さを搬送誤差とする。また、T3<Nであれば、濃度差Nは歴然としており、この場合は最も濃度の薄いパッチについてのずらし量を搬送誤差とする。
このように、本実施形態では、3つの閾値を設定し、ノズルピッチを8分割した9600dpi(=1200×8)つまり、2.64μm単位で搬送誤差を検出可能とした。この処理を副走査方向に複数形成された30個のパッチ行毎に行う。これにより、各パッチ行から4回の媒体搬送で用いられるローラの周長(2.709mm×4=10.836mm)におけるローラの偏心および外径の誤差に起因した搬送誤差を検出することが可能となる。
図12において、例えばパッチ行B1の基準パッチ要素を記録した後の最初の媒体搬送がローラの基準位置から行われたとする。すると、パッチ行B1はローラの基準位置から4回の媒体搬送に相当するローラの領域(0〜10.836mm)を用いて基準パッチ要素と調整用パッチ要素が記録されることとなる。また、パッチ行B2はローラの基準位置から2.709mm離れた位置から4回の媒体搬送に相当するローラの領域(2.709〜13.545mm)を用いて基準パッチ要素と調整用パッチ要素が記録されることとなる。同様に、パッチ行B3はローラの領域(5.418〜18.963mm)を用いて、パッチ行B4はローラの領域(8.127〜21.672mm)を用いて基準パッチ要素と調整用パッチ要素が記録されることとなる。なお、例えばパッチ行B1とB2を形成する際には、共に同一のローラ領域(2.709〜10.836mm)を用いているように、隣接するパッチ行で一部同じローラの領域を用いて基準パッチ要素と調整用パッチ要素とが記録されている。
ところで、パッチ行B1の基準パッチ要素を記録した後の最初の媒体搬送がローラの基準位置からでない場合には、その位置を記憶しておき、補正値に基づく搬送制御の際に調整すればよい。
図19は、パッチ行Bn(n=1〜30)とパッチ行Bnから検出された搬送誤差Xnとの関係を示した図である。同図において、横軸にはnの値を、縦軸には搬送誤差Xnの値を取り、30個のパッチ行に対応した1から30のnの値に対して、それぞれの搬送誤差Xnの値をプロットしている。
同図において、nの値によって搬送誤差Xnの値に変動が生じているのは、ローラに偏心があるためにローラの基準位置からの回転角度によって搬送量にばらつきが存在するためである。また、この搬送誤差Xnの値の変動はローラの偏心に起因するものであるのでローラ1回転分の周期性を有している。
さらに、ローラ外径が基準外径より大きいか小さいかによって、搬送誤差Xnの値が全体的に上方向または下方向に偏倚する。つまり、ローラ外径が基準外径よりも大きければ、所定の搬送量よりも大きく搬送されるため搬送誤差Xnは全体的に図の上方向へと偏倚する。逆に、ローラ外径が基準外径よりも小さければ全体的に図の下方向へと偏倚する。
かかる搬送誤差Xnに対しその値を軽減するためには、搬送誤差Xnの変動成分である振幅を低減し、さらに変動の中心を0すなわちローラ外径の公称値に近づける必要がある。そこで、本実施形態においては、搬送誤差Xnの振幅を低減するための適切な第1の補正値(偏心補正値)を取得し、その上で変動の中心を0に近づけるための第2の補正値(外径補正値)を取得する。
以下、これらの補正値を取得するための処理を詳述する。なお、以下では搬送ローラ1についての処理を例示するが、排出ローラ12に対しても同様の処理を行うことができるのは勿論である。また、搬送ローラ1はピンチローラ2と協働して記録媒体を搬送するものであり、実際にはこれらの組み合わせによって搬送誤差が定まるものであるが、便宜上搬送ローラ1の搬送誤差として説明を行う。
(7)偏心補正値の取得
まず、本実施形態において、偏心補正値および外径補正値を取得した後の、これら補正値を用いた搬送制御の概略について説明を行う。なお、この搬送制御の詳細については後述するが、偏心補正値および外径補正値を取得する工程の説明のために、その概略だけ先に説明を行う。
本実施形態においては、図28に示すようにローラを基準位置から110個の領域(ブロックBLK1〜BLK110)に分割し、各ブロックに偏心補正値を対応付けたテーブルを作成する。図26はそのテーブルの一例を示し、ブロックBLK1〜BLK110に対応して、偏心補正値e1〜e110が割り付けられている。
本実施形態の搬送制御は、基本搬送量に偏心補正値以外の補正値、すなわち外径補正値をまず加算し、搬送ローラが現在のブロックからどのブロックまで回転するかを算出する。そして、この回転によって通過するブロックに対応した偏心補正値を加算する。この値を最終的な搬送量とし、この搬送量が得られるよう搬送モータ110を駆動する。
以上説明したように、本実施形態の搬送制御を行うには、ローラ周長を110分割した各ブロックに対して、すなわち0.338mm(=37.19mm/110)のローラ周長を有する各ブロックに対して、それぞれ偏心補正値を取得する必要がある。
しかしながら、先に説明したように、本実施形態のテストパターンでは各パッチ行から4回の媒体搬送に相当するローラの周長(10.836mm)におけるローラの偏心および外径の誤差に起因した搬送誤差を検出している。さらに、このテストパターンの隣接するパッチ行では、一部同じローラの領域を用いて基準パッチ要素と調整用パッチ要素とを記録している。そこで、以下に説明する手順により、上記テストパターンから、ローラ周長を110分割して成る周長(0.338mm)を有するローラの各ブロックにおける偏心補正値を取得する。
偏心の周期はローラの周長を1周期とする周期関数状に現れることから、本実施形態では、まず周期成分にローラの周長を有し、搬送誤差に対して逆の極性を有する周期関数(以下、補正関数という)を求める。そして、この補正関数にローラの基準位置からの距離を代入することにより、110分割して成る各ブロックにおける偏心補正値を取得する。
本実施形態では、次のsin関数
y= Asin(2π/L*T+θ)
に対し、ローラの偏心による搬送誤差、すなわち図19に示す搬送誤差Xnの振幅成分を最も低減できる振幅Aおよび初期位相θの組み合わせを選択することにより、補正関数を求める。ここで、Lはローラの周長(搬送ローラ1は37.19mm)、Tはローラの基準位置からの距離である。また、振幅Aには、0,0.0001,0.0002,0.0003の4種類の数値を、初期位相θには−5m×2π/110(m=0,1,2,3,…,21)の22種類の数値を設定できるようにしている。つまり本実施形態では、振幅と位相の組み合わせで66通り、さらに振幅0の場合を含めれば67通りの組み合わせが選択可能となっており、この組み合わせの中からローラの偏心を補正するのに最適な振幅Aおよび初期位相θの組み合わせを選択する。
図18は偏心補正値を演算するための処理手順の一例である。
まず、ステップS21では補正関数から偏心補正値を取得する前に、偏心補正値演算の要否を判定する。例えば、偏心による搬送誤差がある閾値より小さい場合は、偏心補正値演算を不要とし、補正関数の振幅を0として本手順を終了する。本実施形態において,偏心補正値演算の要否を判定する手順は、以下の通りである。
まず、図19に示したn=1〜30における搬送誤差Xnの平均値(Xn(ave))を求め、搬送誤差Xnとの差分であるXn’を算出する。図20は、横軸にnの値、縦軸に差分Xn’を取り、nの値に対する差分Xn’の関係を示した図である。そして、この差分Xn’の絶対値|Xn’|の二乗の総和Σ|Xn’2|を算出して、この総和Σ|Xn’2|が閾値より小さければ偏心補正値の取得は不要と判定する。
逆に、上述した差分の二乗の総和Σ|Xn’2|が閾値より大きい場合には、ステップS23にて最適の振幅Aおよび初期位相θを有する補正関数を算出する。この算出は例えば次のような態様で行うことができる。
まず、上述のsin関数における振幅Aおよび初期位相θの全ての組み合わせ(振幅0の場合を除く66通り)に対し、上記sin関数のTに2.709から92.117まで2.709間隔で34個の値を代入したときの値を求める。
例えば、ある振幅Aおよび初期位相θの上記sin関数に対し、Tに2.709を代入した値y1、Tに5.418を代入した値y2、Tに8.128を代入した値y3という具合に、Tに92.117を代入した値y34までを求める。そして、この処理を振幅Aおよび初期位相θの66通りの全組み合わせについて行う。
そして、ある振幅Aおよび初期位相θの組み合わせにおいて、連続する4個のyの値を加算することで30個の積算値yn’求める。つまり、y1’=y1+y2+y3+y4、y2’=y2+y3+y4+y5というように、y1’からy30’までの値を算出する。そして、この処理を振幅Aおよび初期位相θの66通りの全組み合わせついて行う。
なお、ここで、y1はTに2.709を代入した値、y2はTに5.418を代入した値、y3はTに8.128を代入した値、y4はTに10.836を代入した値であり、Tはローラの基準位置からの距離である。すなわち、y1からy4までを加算したy1’は、ある振幅Aおよび初期位相θの組み合わせの上記sin関数において、ローラの基準位置から10.836mmまでの領域に対応した値となる。同様に、y2からy5までを加算したy2’は、ある振幅Aおよび初期位相θの組み合わせの上記sin関数において、ローラの領域(2.709〜13.545mm)に対応した値となっている。
次に、振幅Aおよび初期位相θの各組み合わせ毎に、搬送誤差Xnの平均値からの差分Xn’に積算値(yn’)を加算する。つまり、X1’にy1’、X2’にy2’を加算し、同様な加算処理をX30’にy30’を加算するまで行い、加算値Xn’’を求める。そして、加算値Xn’’の絶対値の二乗の総和Σ|Xn’’2|を算出する。図21には、横軸にnの値、縦軸に|Xn’’2|を取り、nの値に対する加算値Xn’’の絶対値|Xn’’2|関係をグラフ化したものを示している。このグラフで、nの値におけるそれぞれの絶対値|Xn’’|の和を積算することにより、加算値Xn’’の二乗総和Σ|Xn’’2|を算出することが可能である。
以上説明した手順と同様にして、加算値Xn’’の絶対値の二乗総和Σ|Xn’’2|を振幅Aおよび初期位相θの全ての組み合わせ66通りについて行う。そして、66通りの組み合わせの中から、二乗総和Σ|Xn’’2|の値が最小となる振幅Aおよび初期位相θの組み合わせを選択する。これにより、ローラの偏心による搬送誤差、すなわち搬送誤差Xnの振幅成分を最も低減できる補正関数を求めることが可能となる。その上で、この補正関数のTに、ローラを110分割してなる各ブロックの基準位置からの距離を代入することで、各ブロックの偏心補正値を取得することができる。
以上説明してきた偏心補正値の取得方法によれば、本実施形態のテストパターンのように、
・各パッチ行から検出される搬送誤差Xnが複数回の媒体搬送に相当するローラの周長であり、
・さらに、隣接するパッチ行で一部同じローラの領域を用いて基準パッチ要素と調整用パッチ要素とを記録している、
ものであっても、ローラの基準位置からの距離に対応付けられた領域の偏心補正値を取得することが可能となる。
次に、図18のステップS25では、主走査方向に複数のテストパターンがあるか否かを判定する。
主走査方向に単一のテストパターンのみが記録されていた場合には、そのテストパターンから得た濃度情報に基づいて決定した、偏心を補正するのに最適な振幅Aおよび初期位相θの組み合わせを有する補正関数により補正値を演算する(ステップS27)。
これに対し、上述したように、ローラは所定の設計公差内に製造されていたとしても、偏心量および偏心の状態などによって発生する搬送誤差が記録装置の搬送基準側と非搬送基準側とで異なっていることがある。そのために本実施形態では、主走査方向に2つのテストパターンを記録可能なものとなっている。この場合、そのパターンのそれぞれについて、偏心を補正するのに最適な振幅Aおよび初期位相θの組み合わせが得られる。そこで、ステップS29において、両者の組み合わせが一致しているか否かを比較する。ここで一致していれば、その振幅および初期位相を有する補正関数に基づいて補正値を演算する(ステップS31)。
しかし、振幅および初期位相の組み合わせが基準側と非基準側で一致しない場合もある。その場合には、振幅および初期位相の66通りの全組み合わせにおいて、基準側と非基準側のうち上述の二乗総和Σ|Xn’’2|が大きい方の値が最小となる時の振幅および初期位相の組み合わせを採用する。そこで、振幅Aおよび初期位相θの組み合わせが基準側と非基準側で一致していない場合には、次に述べる処理を行う。
まず、振幅条件(0.0001,0.0002,0.0003の3通り)ごとに初期位相θに対する基準側と非基準側の二乗総和Σ|Xn’’2|をプロットして得た2つの曲線を比較し、その二乗総和の値が大きい方の部分を選択していく。この操作を模式的に表したのが図22(a)よび(b)である。
図22(a),(b)は初期位相θに対する二乗総和Σ|Xn’’2|をプロットして得た基準側の曲線と非基準側の曲線とを示すものである。同図(a)では、基準側と非基準側の2つの曲線が交差している場合を示す。この場合、太い実線で示す部分が、両者を比較して二乗総和の値が大きい部分を示している。一方、同図(b)には、基準側と非基準側の2つの曲線が交差しない場合を示す。この場合、二乗総和Σ|Xn’’2|が大きい部分は一方の曲線に一致し、同図に示す太い実線部分となる。
次に、選択した二乗総和の値が大きい方の部分(図中の太い実線部分)の最小値における初期位相の値を、その場合の振幅条件における最適値とする。図22(a)のように、2つの曲線が交差している場合、交点のうち二乗総和の値が小さい方の初期位相の値を、その場合の振幅条件における最適値とする。また、図22(b)の場合、太い実線部分で示す曲線の最小値における初期位相の値を、この振幅条件における最適値とする。
以上の操作を各振幅条件で行い、振幅条件毎に決定された初期位相値に対応する二乗総和Σ|Xn’’2|を比較する。そして、二乗総和Σ|Xn’’2|の値が最小となる場合の振幅および初期位相を最適値として決定する。そして、その振幅および初期位相を有する補正関数に基づいて補正値を演算する(ステップS33)。
以上のように、本実施形態では、1または複数のテストパターンから得た振幅および初期位相の最適値を有する補正関数を決定し、これに基づいて偏心補正値を取得する。
なお、以上の説明では、ローラを110分割してなる各領域(ブロックBLK1〜BLK110)の偏心補正値をローラの基準位置からの距離に対応付けて取得している。ただし、偏心補正値の取得の様態としてはこれに限られるものではなく、例えばローラの基準位置からの回転角度に対応付けて偏心補正値を取得しても良い。
本実施形態では、例えば搬送ローラ1に取り付けられたロータリエンコーダ116は1回転あたり14080パルスを出力するものを用いている。そして、14080パルスを110の領域に合わせて128パルスずつに分割し、ロ−タリエンコ−ダ116の出力パルスに応じて現在のローラの位置を検出出来るようになっている。そして、110個の領域(ブロック)毎に、ローラの基準位置からの回転角度に対応付けて偏心補正値を設定した偏心補正値テーブルを作成する(ステップS35)。この設定値を例えばEEPROM103(図3)に格納しておくことで、装置電源オフ時にもこれを保持しておくことができ、また更新することも可能となる。
(7)外径補正値の取得
搬送誤差を少なくするためには、ローラの偏心による搬送誤差を低減することに加えて、ローラの外径誤差による搬送誤差を低減することが効果的である。後者の処理が外径補正であり、ここではそのための外径補正値の取得態様と、これを偏心補正値の取得後に行う理由とを説明する。
図23は外径補正値を取得するための演算処理手順の一例を示す。
まず、テストパターンの各パッチ行から検出される上記搬送誤差Xnに、偏心補正値テーブルの内容を適用したものをYnとし(ステップS41)、その平均値Yn(ave)を算出する(ステップS43)。なお、既に説明したように、搬送誤差Xnは4回の媒体搬送に相当するローラの周長における搬送誤差であるため、偏心補正値テーブルの偏心補正値もそれに合わせて積算した値を搬送誤差に適用する。
次に、主走査方向に複数のテストパターンがあるか否かを判定する(ステップS45)。主走査方向に単一のテストパターンのみが記録されていた場合には、ターゲット値(ローラが公称どおりの寸法を有し、従って搬送誤差がないとしたときの値)からの平均値Yn(ave)の差分に基づいて、外径補正値を決定する(ステップS47)。
ここで、ターゲット値からの平均値Yn(ave)の差分が正の値であれば、公称どおりの寸法を有するローラよりも1回転分の周長が長く、1回の搬送においても多く搬送されてしまうことを意味する。そこで、この場合には、ステップS47では、平均値Yn(ave)がターゲット値と等しくなるような補正値(外径補正値)を決定する。
一方、主走査方向に複数(本実施形態では2つ)のテストパターンが記録されていた場合、それぞれのテストパターンから得たYn(ave)を加算して平均する(ステップS49)。そして、、その平均値とターゲット値との差分に基づいて、外径補正値を決定する(ステップS51)。この外径補正値についても、EEPROM103(図3)に格納しておくができる。
外径補正値の取得を偏心補正値の取得後に行う理由は次のとおりである。
本実施形態では、テストパターンや記録方法の汎用性を維持しつつ、高精度の搬送誤差補正を実施できるようにすることに重点をおいている。ローラの周長の整数倍に等しい副走査方向長さをもつテストパターンであれば、偏心補正値取得と外径補正値取得との順番を入れ替えても高精度の搬送誤差補正値の取得は可能である。
しかし本実施形態に用いたテストパターンの副走査方向の長さは80mmであり、これは公称37.19mmの外周をもつローラが用いられている場合、その整数倍(2周分)を超える範囲に相当する。すなわち、本実施形態において、搬送誤差は、テストパターンより搬送ローラの2周分の領域とその3周目にやや突入した過剰領域とから検出される。
なお、ローラの周長の整数倍に正確に等しい副走査方向長さをもつテストパターンを形成することは実際困難である。また、搬送ローラの偏心の周期が外径の公差に従ってばらつくことがあり、テストパターンの副走査方向の長さを搬送ローラの公称周長の整数倍より大きくしておくことはむしろ好ましいとも言える。しかし、テストパターンの副走査方向の長さがローラの周長の整数倍でない場合、すなわち過剰領域を含むテストパターンから搬送誤差を検出する場合、以下のような問題が発生する。
図24は、本実施形態のテストパターンから得た搬送誤差(Xn)をプロットしたものである。図中の丸で囲んだ領域が過剰領域に相当する。前述のように、搬送ローラ1周あたりの搬送誤差量を補正するのが外径補正値であり、この外径補正値は、搬送誤差の値を平均化し算出される。ところが、ローラの偏心によって過剰領域の搬送誤差がその平均値から大きく離れていると、正確な外径補正値を得る上で問題となる。
この過剰領域の部分の影響を軽減するために、本実施形態では、偏心補正値を取得し、これを適用した上で外径補正値を演算する。これにより過剰領域における搬送誤差の変動を抑えられるため、過剰領域の搬送誤差とその平均値との差を低減して、偏心による影響が軽減されることになるのである。
図25は、偏心補正値と外径補正値とを処理の順番を入れ替えて取得したものを例示している。なお、ここでは簡略化のため、基準側のテストパターンFR1についての計算結果を比較するものとした。
まず、外径補正値、偏心補正値の順に補正値を算出した場合、図24の状態から平均値Yn(ave)を算出すると、9.31μmとなる。この9.31μmに基づいて取得した外径補正値を反映させた後に、偏心補正を実施すると、振幅は0.0003、初期位相n=13が選択された。一方、本実施形態のように偏心補正値、外径補正値の順に補正値を算出すると、振幅は0.0003、初期位相はn=13が選択される。そして、偏心補正値を適用した状態でYn(ave)を算出すると8.74μm(このYn(ave)=8.74μmに基づいて外径補正値が取得される)となった。両者を比較すると偏心補正値は一致したが、外径補正値にはずれが生じた。
なお、ここで、図24から2周分に相当するXnを抽出して算出した外径補正値の理論値は8.54μmであった。すなわち、本実施形態のように偏心補正値の取得を先に実施する方が、理論値からのばらつきを軽減できる、より正確な外径補正値を得ることができることがわかる。
(8)搬送制御
上述のように、本実施形態においては、搬送ローラ1に取り付けられたロータリエンコーダ116として1回転あたり14080パルスを出力するものを用いている。そして本実施形態では、エンコーダの基準位置から128パルスずつに分割した110個の各分周領域に対応させて、偏心補正値演算によって取得した偏心補正値を格納するテーブルが作成される。
図26はそのテーブルの一例を示し、エンコーダの128パルス分の回転角度毎のブロックBLK1〜BLK110に対応して、偏心補正値e1〜e110が割り付けられている。この偏心補正値を搬送制御に次のように反映させる。
図27はその搬送制御手順の一例を示す。また、図28はその手順に対応した動作の説明図である。なお、図27の手順は、記録スキャン間に行われる記録媒体搬送(副走査)の量を定めるために行われるものであり、記録スキャン中またはその終了後に実行することができる。
まず、ステップS61では、基本搬送量を読み込む。この基本搬送量とは、記録スキャン間での理論的な副走査量である。次に、ステップS63にてこの基本搬送量に偏心補正値以外の補正値、すなわち外径補正値を加算し、当該加算値に対応して、ステップS65にて搬送ローラが現在の回転位置からどの位置まで回転するかを算出する。図28の例では、ブロックBLK1内の位置からブロックBLK4内の位置まで回転するものとなっている。
そして、ステップS67では、この回転によって通過するブロックに対応した偏心補正値を加算する。すなわち図28の例では、ブロックBLK2およびBLK3を通過するので、偏心補正値e2およびe3が加算されることになる。この値を最終的な搬送量とし、この搬送量が得られるよう搬送モータ110を駆動する(ステップS69)。
なお、本実施形態では、通過するブロックについての偏心補正値のみが加算されるものとした。回転前の現在のブロック(ブロックBLK1)内の位置と、回転後のブロック(ブロックBLK4)内の位置に応じ、それらのブロックの偏心補正値を適宜変換して用いることも可能である。しかしそのように細かく補正値を再計算するよりも、通過するブロックの補正値を単に利用するほうが処理は簡単となり、処理時間も短縮することができる。
なお、以上では搬送ローラ1についての補正値について述べたが、排出ローラ12についても同様に補正値を得て、これをEEPROMに格納しておくことができる。そして、排出ローラ12によってのみ搬送が行われる状態に切り替わったときに、その補正値を用いるようにすればよい。
(9)補正値取得の態様
偏心補正値および外径補正値の取得は、キャリッジに記録ヘッドとともに搭載された読み取りセンサ120を用いてテストパターンをスキャンすることで濃度情報を得、これに基づいて行われるものでもよい。または、記録ヘッドと交換して搭載された読み取りヘッド形態の読み取りセンサ120を用いてテストパターンをスキャンすることで濃度情報を得、これに基づいて行われるものでもよい。
図29はかかる構成に対応した処理手順の一例を示す。本手順が起動されると、まず記録媒体をセットし(ステップS101)、図5に示したようなテストパターンを記録する(ステップS103)。次にテストパターンを形成した記録媒体を装置に再セットし、テストパターンの読み取り動作を行って、濃度情報を取得する(ステップS105)。そして、この濃度情報に基き、偏心補正値および外径補正値をこの順で取得し(ステップS107,S109)、これらをEEPROM103に格納(更新)する(ステップS111)。
また内部に読み取りセンサを持たない記録装置の場合(スキャナ装置部を一体に有する多機能装置として記録装置が構成されている場合を含む)、テストパターンを形成した記録媒体を外部のスキャナ装置にセットし、読み取りを行わせるようにしてもよい。
図30はかかる構成に対応した処理手順の一例を示す。本手順では、テストパターンを形成した記録媒体を外部のスキャナ装置にセットし、そこで読み取った濃度情報を入力する処理(ステップS125)が設けられている点が上記手順と異なる。
さらに、補正値の演算を記録装置側の処理として行うのではなく、記録装置に接続されたコンピュータ形態のホスト装置1000で稼動するプリンタドライバの処理として行うこともできる。
図31はその場合の処理手順の一例を示す。本手順では、テストパターンを形成した記録媒体を外部のスキャナ装置で読み取り、そこで読み取った濃度情報がホスト装置1000に提供されて補正値が演算される。記録装置では補正値の入力を待ち(ステップS135)、入力があった場合にはこれをEEPROM103に格納(更新)する(ステップS111)。
これらの処理は、ユーザの指示に応じて行うものでも、サービスマンまたはサービスセンターへの持込によって行われるものでもよい。いずれにしても、EEPROMに格納するものとすれば、適宜に補正値を更新可能であり、ローラなどの経時変化に対応できるものとなる。
しかしそれほど経時変化が問題とならず、出荷後の補正値の更新が必要ないのであれば、工場出荷時の検査工程で補正値のデフォルト値を決定し、これを格納したROM102を記録装置に搭載すればよい。この意味で、偏心補正値の演算およびこれを前提とした外形補正値の決定によって特徴づけられる「搬送量誤差補正値取得方法」は、必ずしも記録装置で実現される場合のみならず、記録装置とは別体の装置または検査システムで実現可能なものである。
(10)その他
なお、本発明は、上述した実施形態および随所で述べた変形例に限られるものではない。
例えば、上例では記録媒体搬送方向の上流側および下流側にそれぞれ搬送ローラおよび排出ローラが設けられた構成について説明した。しかし記録媒体は、これが給紙されて記録が終了するまで、様々な搬送手段により搬送される。記録時において上述したローラ以外のものも搬送に関与し、その偏心や外径ばらつきに起因した搬送誤差の影響が懸念されるのであれば、それらのローラに対して個別に、または他のローラとの組み合わせにおいて、搬送誤差の補正値を取得することができる。この場合も、上述と同様にしてテストパターンを記録し、その濃度情報から偏心補正値および外径補正値を取得することができる。つまりテストパターンの記録および補正値の取得は、記録時に搬送に関与する搬送手段の個数および組み合わせに応じて実行可能なものであり、これによって記録媒体全体に対し一様でかつ高画質な記録を実現可能となる。
例えば、記録媒体の搬送に用いるローラが1本である場合は、常にそれのみを用いた搬送となるため、テストパターンの記録および搬送誤差の補正値は1種類となる。搬送に用いるローラが2本ある場合は、上述のように搬送ローラが搬送に関与している場合と、排出ローラのみが搬送に関与している場合とについて処理を行うことができる。さらに、搬送ローラのみが搬送に関与している場合と、排出ローラと協働して搬送に関与している場合とに分けて処理を行うこともできる。ローラが3本である場合は、同様にして最大で5つの場合(領域)に分けて処理を行うことができる。一般化すれば、n個(n≧2)のローラを用いて搬送を実施する場合、最大で3+1/2[n(n−1)]個の領域に分割して処理を行うことができる。
また、上例では排出ローラに対しても偏心補正値と外径補正値とを取得するものとした。しかし排出ローラが例えば環境変化や経時変化の影響を受けやすいゴム製のものであり、偏心補正値を反映させてもその効果が少ないのであれば、排出ローラに対する偏心補正値の演算ないしはその適用を省略するようにしてもよい。
さらに、上例ではノズル列のうち搬送方向上流側にある部分を用いて調整用パッチ要素(第二のパッチ要素)を記録するようにした。しかし例えば図32に示すように、予め調整用パッチ要素RPE’が記録された記録媒体を用い、ノズル列のうち特定のノズル群を固定的に使用し基準パッチ要素APEを記録してテストパターンを作成し、これに基づいて補正値を取得する処理が行われてもよい。また、それらの関係を逆にしてもよい。
加えて、用いるインクの色調(色や濃度など)の数、インクの種類、ノズルの数、使用ノズル範囲や記録媒体の搬送量の設定の態様、および各種数値などは、あくまでも例示であり、適宜のものを採用することができるのは言うまでもない。
さらに加えて、上例では所謂シリアルタイプのインクジェット記録装置に本発明を適用した場合について説明した。しかし本発明は、記録媒体の幅に対応した範囲にわたってノズルを整列させてなるライン型ヘッドを用いる所謂ラインプリンタ形態のインクジェット記録装置にも適用可能である。この場合、そのようなライン型ヘッドを搬送方向の上流側と下流側とに配置したものとすることができる。そして、一方で上述したような基準パッチ要素を記録し、他方で記録タイミングをずらしながら調整用パッチ要素を記録してテストパターンを得ることで、ローラの搬送誤差を知り、その補正値を得ることができる。
2.特徴構成
搬送ローラ1は記録媒体に直接接触してこれを搬送する。しかし搬送ローラ1は駆動源である搬送モータ110の回転軸に、ギア、ベルト、エンコーダ等の伝動機構を介して接続されている。つまり、記録媒体Pの搬送には、搬送ローラ1、搬送モータ110および伝動機構のギアなど様々な回転体が関与している。従って実際には、搬送ローラ1だけでなく、各部回転体の偏心や位相が記録媒体の搬送に影響しており、これらの組み合わせによって記録媒体Pの搬送誤差(偏心による搬送誤差)が定まる。偏心の周期は各回転体の周長を1周期とする周期関数状に現れることから、記録媒体Pの搬送に関与している回転体の個数をnとして記録媒体Pの搬送誤差を補正するための補正関数を一般化すれば、次のようになる。
y=A1sin(2π/L1×T1+θ1)+A2sin(2π/L2×T2+θ2)+
・・・+Ansin(2π/Ln×Tn+θn)
ここで、L1〜Lnは各回転体の周長、T1〜Tnは各回転体の基準位置からの距離、A1〜Anは各回転系の振幅(搬送誤差の変動の振幅に対応する)、θ1〜θnは初期位相である。つまり、補正関数の一般式は、回転体毎の搬送誤差に対して逆の極性を有する周期関数成分(本例ではsin関数の成分)を複数持つ多項式で表される。
搬送ローラ1の偏心による影響が支配的に画像に現われることから、上述した基本構成においては、上記一般式の右辺第2項以下(高次補正成分)を無視し、第1項の補正成分のみで補正関数を定めた。すなわち、L1=L=37.19mmとし、A1=A,T1=T,θ1=θについて種々の数値を代入し、搬送ローラ1の偏心を補正するのに最適な振幅および初期位相の組み合わせをもつ補正関数を選択するようにした。
そして本発明の特徴構成では、多項式の補正関数である上記一般式の第2項以下をも適宜加味することで、搬送ローラ1以外の回転体の偏心の影響をも排除し、濃度むらが一層軽減されるようにする。
上記一般式の第何項までを加味するかは、求められる搬送精度等に応じて決定することができる。回転体の偏心による搬送誤差の影響は記録媒体に近いほど大きく現れると考えられるので、例えば、搬送ローラ1から駆動源である搬送モータ110に向けて遡って行った1または数段の伝動機構の回転体ないしは搬送モータ110を考慮することができる。以下では、搬送ローラ1と、伝動機構の構成上、その前段にあって搬送ローラ1に直接動力を伝達するローラ,ギア等の回転体(以下、前段回転体)とを考慮する場合について例示する。すなわち、上記一般式において、第1項である搬送ローラ1のための補正項と、第2項である前段回転体のための補正項とを含む補正関数
y=A1sin(2π/L1×T1+θ1)+A2sin(2π/L2×T2+θ2)
を例示する。
ここで、搬送ローラ1としては公称37.19mmの周長をもつものが、また前段回転体としてはその1/2のである公称18.59mmの周長を持つものが採用されているものとする。そして、上述と同様、振幅A1およびA2の各々には0,0.0001,0.0002,0.0003の4種類の数値を、初期位相θ1およびθ2の各々には−5m×2π/110(m=0,1,2,3,…,21)の22種類の数値を設定できるようにする。つまり、搬送ローラ1および前段回転体のそれぞれについて振幅と位相の組み合わせで66通り、さらに振幅0の場合を含めれば67通りの組み合わせが選択可能となっている。
搬送ローラ1および前段回転体の振幅および初期位相についてのパラメータを上記補正関数に代入することで、最適な振幅および初期位相の組み合わせを選択することが可能であるが、パラメータの組み合わせによって膨大な量のデータ処理が必要となってしまう。
そこで本実施形態では、まず搬送ローラ1についての偏心補正(以下、一次偏心補正)を実施した上で、前段回転体についての偏心補正(以下、二次偏心補正)を実施する。
すなわち、まず上述と同様にして、テストパターンを読取って得たn=1〜30における搬送誤差Xnの平均値(Xn(ave))を求め、搬送誤差Xnとの差分であるXn’を算出する。
図33は、横軸にnの値、縦軸に差分Xn’を取り、nの値に対する差分Xn’の関係を示した図である。そして、この差分Xn’の絶対値|Xn’|の二乗の総和Σ|Xn’2|を算出して、この総和Σ|Xn’2|が閾値より小さければ偏心補正値の取得は不要と判定する。逆に、上述した差分の二乗の総和が閾値より大きい場合には、搬送ローラ1のsin関数における振幅A1および初期位相θ1の66通りの組み合わせに対し、T1に2.709から92.117まで2.709間隔で34個の値を代入した値を求める。これに基いて、最適の振幅A1および初期位相θ1を有する補正関数を算出する。ここまでが偏心一次補正である。
図34は、nの値に対する差分Xn’の一次偏心補正前後の関係を示した図である。この図に示すように、一次偏心補正を施すことによって、搬送ローラ1の偏心に起因した搬送誤差が軽減されていることがわかる。次に、一次偏心補正後のデータに対し、同様の処理にて前段回転体(公称周長18.59mm)についての二次偏心補正を実施する。
図35は、nの値に対する差分Xn’の一次偏心補正の前後および偏心二次補正後の関係を示した図である。この図に示すように、二次偏心補正を施すことによって、搬送誤差がさらに軽減されていることがわかる。さらに、さらにこれらの補正の効果を数値で表すと、図36のようになる。この図に示すように、二次偏心補正によりさらに高精度な補正が実現でき、偏心の振幅が低減していることがわかる。本実施形態における前段回転体の紙面上における周長は、搬送モータ1:6.7mm、ベルト:53.3mmである。また、搬送ローラ以降の後段回転体の紙面上における周長は、ピンチローラ:15.7mm、排出アイドラギア:19.22mm、排出ローラ:37.29mmである。これらの周長成分をLnに振り分けて、補正を実施すれば、より精度の高い補正が実施可能となる。
なお、一次および二次偏心補正によって得た補正値は、基本構成について説明したとおり、EEPROM103(図3)にテーブルとして格納しておき、実際の記録動作時に適用することができる。
また、その偏心値とテストパターンとを用いて、ローラの外径に依存する搬送誤差を補正するための補正値を取得することができる。しかし本発明は、搬送ローラ1だけでなく、各部回転体の偏心や位相が記録媒体の搬送に影響しており、これらの組み合わせによって記録媒体Pの搬送誤差(偏心による搬送誤差)が定まることに着目したものである。そして、テストパターンを用い、搬送ローラ1を含め、記録媒体の搬送に関与する複数の回転体の偏心に依存する搬送誤差を補正するための補正値を取得することに特徴を有するものであって、外径補正の実施を必須とするものではない。
さらに、以上では搬送ローラ1および前段回転体の偏心までを考慮したものとしたが、必要に応じて他の回転体の偏心を同様に考慮することが可能である。