(第1の実施の形態)
本発明の好適な第1の実施の形態を図1〜図5を参照して説明する。図1は、発振波長が1.3μm帯以下の端面発光型半導体レーザの構造及び製造工程を示す縦断面図である。
図1に基づいてこの端面発光型半導体レーザの構造及び製造工程を説明する。第1の工程(同図(a))で、有機金属気相成長法により、n−GaAs(001)基板2上に、n−GaAsバッファ層4、n−GaInP下部クラッド層6、活性層8及びp−GaIn上部クラッド層10を連続的に成長させる。
ここで、活性層8は、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bを、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cで挟むことにより、超格子構造を実現している。より具体的には、井戸層8bは、Inの組成比xが、0<x≦0.25の範囲内の値(以下、第1の組成条件という)に設定され、例えば、厚さ10nmのGa0.75In0.25N0.013As0.987層にて形成する。
障壁層8a,8cは、Pの組成比jとInの組成比iが、i≦(j−0.0968)÷1.1の条件(以下、第2の組成条件という)を満足し、且つ、その格子定数がGaAs基板2の格子定数よりも小さくなる組成(以下、第3の組成条件という)に設定されており、例えば、いずれも厚さ50nmのGa0.9In0.1As0.81P0.19層にて形成する。
次に、第2の工程(同図(b))で、p−GaInPクラッド層10上に、SiN膜から成る幅5μmのストライプパターン12を形成した後、そのストライプパターン12をマスクとしてp−GaInPクラッド層10の上部を選択的にエッチングすることにより、厚さ1.5μmのp−GaInPリッジストライプ部14を形成する。
次に、第3の工程(同図(c))で、p−GaInPのクラッド層10及びリッジストライプ部14をn−AlGaInP層で埋め込み、それを埋め込み層16とする。このn−AlGaInP埋め込み層16を設けることにより、p−GaInPリッジストライプ部14への電流狭窄を実現している。更に、p−GaInPリッジストライプ部14の屈折率がn−AlGaInP埋め込み層16の屈折率よりも高いため、p−GaInPリッジストライプ部14の下部の活性領域において光を閉じ込めるための屈折率導波効果を実現している。
次に、p−GaInPクラッド層10及びn−AlGaInP埋め込み層16上にp−GaAsコンタクト層18を成長する。
第4の工程(同図(d))では、p−GaAsコンタクト層18上にp−電極20を形成し、更に、n−GaAs基板2を裏面側から薄層化しその裏面にn−電極22を形成する。そして、劈開によりレーザの共振器を形成することにより、端面出射型半導体レーザを完成する。
図2は、この半導体レーザにおいて、Ga0.75In0.25N0.013As0.987井戸層8bとGa0.9In0.1As0.81P0.19障壁層8a,8cから成る活性層8のバンド構造を示している。量子井戸における伝導帯側のエネルギー差ΔEcが約440meV、価電子帯側のエネルギー差ΔEvが約60meVとなった。この結果、伝導帯側での電子の閉じ込め効果、及び価電子帯側での正孔の閉じ込め効果が十分に得られ、温度特性(T0)の向上が確認された。更に、格子不整合の比率が実用上許容される0.15%以下に抑えられた。このため、GaAs基板2からの応力歪みが低減され、信頼性の向上が確認された。
尚、図2は、本発明の理解を容易にするための代表例として、井戸層8bをGa0.75In0.25N0.013As0.987、障壁層8a,8cをGa0.9In0.1As0.81P0.19に特定した場合のバンド構造を示している。よって、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bとGa1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cにおける前記第1〜第3の組成条件を満足する全ての活性層8のバンド構造を示してはいない。しかし、活性層8を前記第1〜第3の組成条件で形成すると、図2と同様の傾向のバンド構造が得られると共に、格子不整合の抑制効果が得られる。
以下、前記第1〜第3の組成条件を満足すると、温度特性(T0)の向上と格子不整合の抑制効果が得られることを、図4及び図5を参照して説明する。尚、図4及び図5は、実験によって得られた特性図である。
図4は、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bの特性を示しており、横軸はそのInの組成比x、縦軸はNの組成比yを示している。実線Aは、発振波長が1.3μm帯の発振波長に相当するバンドギャップEgが得られるときの、In とNの組成比x,yの関係を示している。
実線B1は、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bを仮にGaAs障壁層で挟んだ場合に、実用上許容される格子不整合の最大比率(+0.15%)となるときの組成比x,yの関係を示している。実線B2は、格子不整合の比率が+0.1%となるときの組成比x,yの関係を示している。また、実線B1とB2の位置関係から、Inの組成比xを小さくするほど、格子不整合の比率が小さくなるという傾向が示されている。
図5は、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの特性を示しており、横軸はPの組成比j、縦軸はInの組成比iを示している。実線L1は、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cのInとPの組成比i,jをi=0.1とj=0.19にした場合の点Q1と、i=0とj=0.08にした場合の点Q2とを近似的に結んだ直線である。InとPの組成比i,jがこの実線L1上の値であれば、前記第1の組成条件に設定されたGa1-xInxNyAs1-y井戸層8bの価電子帯エネルギーEvwよりも、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの価電子帯エネルギーEvbの方が約60meV以上低くなることを示している。即ち、実線L1は、価電子帯側のエネルギー差ΔEv(=Evw−Evb)が約 60meV以上になるときの組成比i,jを示している。
また、この実線L1で画成された右側の領域AL1も、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bの価電子帯エネルギーEvwとGa1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの価電子帯エネルギーEvbとのエネルギー差ΔEv(=Evw−Evb)が、約60meV以上となるときの、InとPの組成比i,jの範囲を示している。
実線L2は、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの格子定数がGaAs基板2のそれよりも小さくなるときの、InとPの組成比i,jを示している。また、実線L2で画成される右側の領域AL2も、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの格子定数がGaAs基板2のそれよりも小さくなるときの、InとPの組成比i,jの範囲を示している。
まず、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bのInの組成比xを、0<x≦0.25に設定したことで、この井戸層8bの格子不整合の比率を実用上許容される+0.15%以下にすることが可能となった。即ち、図4において、実線AとB1の交点QでのInの組成比xは0.25であり、x=0.25のときに許容可能な格子不整合の比率が最大(最も悪い比率)になる。したがって、Inの組成比xを0<x≦0.25に設定したことで、格子不整合の比率を常に+0.15%以下にすることが可能となり、GaAs基板からの応力歪みを抑制することが可能になった。
但し、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bの価電子帯エネルギーEvwは、Inの組成比xを小さくするほど低くなり、逆にInの組成比xを大きくするほど高くなるという特性を有している。このため、価電子帯側での正孔の閉じ込め効果を向上させようとする観点からすると、Inの組成比xを単純に0<x≦0.25の範囲に設定しただけでは、格子不整合の抑制が可能になっても、正孔の閉じ込め効果が低下するという問題が生じることになる。
しかし、本発明の半導体レーザでは、障壁層8a,8cをGaAsではなく、Ga1-iIniAs1-jPjで形成したことにより、この問題点を解決している。即ち、Ga1-iIniAs1-jPjは、P(リン)を含むことで価電子帯エネルギーEvbが低くなるという特性を有しているため、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bのInの組成比xを0<x≦0.25の範囲に設定したことでその価電子帯エネルギーEvwが低くなっても、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの価電子帯エネルギーEvbも低くなることから、井戸層8bと障壁層8a,8c間でのエネルギー差ΔEv(=Evw−Evb)が小さくならない。更に、図5中の領域AL1は、i≦(j−0.0968)÷1.1の範囲と一致している。したがって、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの組成を前記第2の組成条件に基づいて設定することにより、正孔の閉じ込め効果が十分に得られる。
更に、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cは、Inの組成比iを過度に大きくすると、GaAs基板2の格子定数より大きくなるため、応力歪みが発生し信頼性が低下することとなる。しかし、InとPの組成比i,jを前記第3の組成条件に基づいて設定したため、これらの組成比i,jは図5中の領域AL1と領域AL2の重複範囲AL1・AL2となる。この結果、GaAs基板2とGa1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cとの格子不整合が抑制されると同時に、価電子帯側の十分なエネルギー差ΔEvが確保されている。
以上に説明したように、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bとGa1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cの組成を前記第1〜第3の組成条件に基づいて設定したことにより、キャリア閉じ込めの効果及び温度特性(T0)に優れ、且つ格子不整合が抑制されて信頼性の高い構造を有する端面出射型半導体レーザを実現することができる。
尚、以上の説明では、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層8bとGa1-iIniAs1-jPj障壁層8a,8cとによる超格子構造の活性層8について説明したが、障壁層8a,8cを、Ga1-iIniAs1-jPjの代わりに、GaAs基板2より格子定数の小さなGaAs1-jPjで形成してもよい。
図3は、好適な態様として、厚さ10nmのGa0.75In0.25N0.013As0.987井戸層8bを 厚さ50nmのGaAs0.92P0.08障壁層8a,8cで挟んだ活性層8のバンド構造を示している。量子井戸における伝導帯側のエネルギー差ΔEcが約450meV、価電子帯側のエネルギー差ΔEvが約60meVとなった。この結果、伝導帯側での電子の閉じ込め効果、及び価電子帯側での正孔の閉じ込め効果が十分に得られ、温度特性(T0)の向上が確認された。更に、GaAs1-jPj障壁層8a,8cは、図5中の点Q2における組成に相当するため、格子不整合の比率が実用上許容される0.15%以下に抑えられる。このため、GaAs基板2からの応力歪みが低減され、信頼性の向上が可能となる。
(第2の実施の形態)
本発明の好適な第2の実施の形態を図6を参照して説明する。尚、図6は、発振波長が1.3μm帯以下の面発光型半導体レーザの構造及び製造工程を示す縦断面図である。
図6に基づいて、この面発光型半導体レーザの構造及び製造工程を説明する。第1の工程(同図(a))で、有機金属気相成長法により、n−GaAs(001)基板24上に、n−GaAsから成る厚さ200nmのバッファ層26、DBRミラー層28、n−Al0.4Ga0.6Asから成る厚さ0.2μmの下部クラッド層30、活性層32、p−Al0.4Ga0.6Asから成る厚さ0.2μmの上部クラッド層34及び、ミラー層36を成長する。
ここで、DBRミラー層28は、レーザ波長の1/4に相当する厚さのn−AlAs/GaAs層を20.5ペア積層することにより形成している。
活性層8は、Ga1-xInxNyAs1-yから成る井戸層を5層、これらを挟む障壁層をGa1-iIniAs1-jPjで成長することにより、多重井戸構造としている。より具体的には、前記の各井戸層は、Inの組成比xが、0<x≦0.25の範囲内の値(第1の組成条件)に設定され、例えば、厚さ10nmのGa0.75In0.25N0.013As0.987層にて形成する。前記の各障壁層は、Pの組成比jとInの組成比iが、i≦(j−0.0968)÷1.1の条件(第2の組成条件)を満足し、且つ、その格子定数がGaAs基板2の格子定数よりも小さくなる組成(第3の組成条件)に設定されており、例えば、いずれも厚さ50nmのGa0.9In0.1As0.81P0.19層にて形成する。
更に、ミラー層36は、レーザ波長の1/4に相当する厚さのp−AlAs/GaAs層を25ペア積層することにより形成する。
次に、第2の工程(同図(b))で、ミラー層36の10μmφの領域を残して、p−AlGaAsクラッド層34までプロトンを注入することにより、ミラー層36の下部に10μmφの電流狭窄部を実現するための閉じ込め層38を形成する。
第3の工程(同図(c))では、上面側の全面にp−電極40を形成する。次に、第4の工程(同図(d))で、n−GaAs基板24を裏面側から薄層化して全体の厚みを100μm程度にした後、p−電極24の裏面を鏡面仕上げし、更に、レーザ出射領域以外の部分にn−電極42を形成して、レーザ出射領域に反射防止膜44を形成することにより、この半導体レーザが完成する。
この面発光型半導体レーザにおいても、活性層34のバンド構造が図2と同様になり、且つ、図4及び図5を参照して説明した第1の実施の形態と同様の効果が得られる。このため、電子と正孔の閉じ込め効果が十分に得られ、更に、格子不整合が抑制されることで信頼性が向上する。
即ち、前記第1の組成条件に基づいてGa1-xInxNyAs1-y井戸層の組成を設定したことにより、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層の格子不整合が抑制される。この結果、GaAs基板24からの応力歪みを抑制することが可能となり、信頼性の向上を図ることができる。特に、光の閉じ込め効率の向上を図るための多重井戸構造を容易に実現することができる。
更に、第2の組成条件に基づいてGa1-iIniAs1-jPj障壁層の組成を設定したことにより、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層の価電子帯エネルギーEvbとGa1-xInxNyAs1-y井戸層の価電子帯エネルギーEvwとのエネルギー差ΔEv(=Evw−Evb)が、正孔を有効に量子井戸中に閉じ込めるための十分なエネルギー差となる。更に、第3の組成条件に基づいてGa1-iIniAs1-jPj障壁層の組成を設定したことにより、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層のGaAs基板24に対する格子不整合が抑制される。
また、図6には、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層とGa1-iIniAs1-jPj障壁層とを多重積層して多重井戸構造にした場合を示すが、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層の代わりに、GaAs1-jPj障壁層を適用してもよい。即ち、Ga1-xInxNyAs1-y井戸層とGaAs1-jPj障壁層によって多重井戸構造を形成すると、図3と同様のバンド構造が得られ、且つ、図4及び図5を参照して説明した第1の実施の形態と同様の効果が得られる。このため、電子と正孔の閉じ込め効果が十分に得られ、更に、格子不整合が抑制されて信頼性が向上する。
(第3の実施の形態)
本発明の好適な第3の実施の形態を図7を参照して説明する。尚、図7は、発振波長が1.3μm帯の端面発光型半導体レーザの構造を示す縦断面図である。
同図において、この半導体レーザは、有機金属気相成長法により、トリメチルインジウム、トリエチルガリウム、ジメチルヒドラジン、ターシャルブチルフォスフィン、ターシャルブチルアルシンを夫々In、Ga、N、P、Asの原料とし、成長温度を550℃に設定して、GaAs(001)基板46上にn−GaAsバッファ層48、n−GaInP下部クラッド層50、活性層52、p−GaInP上部クラッド層54を連続的に成長させた構造を有している。
活性層52は、GaNyAs1-y井戸層52bを、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層(但し、0≦j<1)52a,52cで挟むことにより、超格子構造を実現している。即ち、GaNyAs1-y井戸層52bを、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層(但し、0<j<1の場合)52a,52c、またはGa1-iIniAs障壁層(但し、j=0の場合)52a,52cで挟むことにより、超格子構造となっている。また、より具体的には、GaNyAs1-y井戸層52bの厚みを8nm、Ga1-iIniAs1-jPj(但し、0≦j<1)障壁層52a,52cの厚みを10nmにしている。
更に、上部クラッド層54の所定領域を選択エッチングすることにより、ボトムの幅が約1.5μmのリッジストライプ部66を形成し、上部クラッド層54のエッチング除去された部分にn−AlGaInP埋め込み層56を成長させることで、電流の狭窄と光の効果的な閉じ込めを実現している。更にまた、n−AlGaInP埋め込み層56とp−GaInPリッジストライプ部66上に、GaInAsP中間層58と低抵抗のp−GaAsコンタクト層60を連続的に成長させ、p−GaAsコンタクト層60上にp−電極62、GaAs基板46の裏面にn−電極64を形成後、劈開により共振器が形成された構造となっている。
かかる構造を有する半導体レーザでは、GaNyAs1-y井戸層52bは、N(窒素)に較べて原子半径が大きく異なるIn(インジウム)が含まれないため、良好な結晶性が得られる。Ga1-iIniAs1-jPj(0≦j<1)障壁層52a,52cも同様に、Inに較べて原子半径が大きく異なるNが含まれないため、良好な結晶性が得られる。
即ち、Nを含みInを含まないIII-V族化合物半導体GaNyAs1-yの井戸層52bと、Nを含まずInを含むIII-V族化合物半導体Ga1-iIniAs1-jPjの障壁層52a,52cとを積層することで、原子半径の大きく異なるNとInを分離して結晶の不混和度を低減した構造となっている。したがって、高品質な結晶性を有する超格子構造の活性層52を実現し、応力歪みが少なく信頼性の高い半導体レーザが得られる。
更に、GaNyAs1-y井戸層52bのNの組成比とGa1-iIniAs1-jPj障壁層52a,52cのInの組成比を独立に設定することができる。このため、井戸層52bと障壁層52a,52cとの伝導帯側のエネルギー差ΔEcと、井戸層52bと障壁層52a,52cとの価電子帯側のエネルギー差ΔEvを容易に調整することができ、電子と正孔の十分な閉じ込め効果を有し且つ優れた温度特性(T0)を有する半導体レーザを実現することができる。
(第4の実施の形態)
本発明の好適な第4の実施の形態を図8を参照して説明する。尚、図8(a)は、多重井戸(MQW)レーザの構造を示す縦断面図、図8(b)は、活性層の構造及び特性を示す説明図である。また、図8(a)(b)において図7と同一または相当する部分を同一符号で示している。
図8(a)において、前記第3の実施の形態の半導体レーザは単一量子井戸構造の活性層52を備えるのに対し、本実施の形態の半導体レーザでは、これに代えて、多重量子井戸構造の活性層68を備えている。
即ち、図8(b)に示すように、活性層68は、GaNyAs1-y井戸層68b,68d,68fをGa1-iIniAs1-jPj(但し、0≦j<1)障壁層68a,68c,68e,68gで交互に挟んだ多重量子井戸構造となっている。
かかる構造の半導体レーザによれば、活性層68を多重量子井戸構造にすることで、キャリアの捕獲効率が改善するため、温度特性(T0)の更なる向上が図られている。
更に、GaNyAs1-y井戸層68b,68d,68fの格子定数がGaAsの格子定数よりも小さいため、GaNyAs1-y井戸層68b,68d,68fに掛かる引っ張り応力と、Ga1-iIniAs1-jPj(但し、0≦j<1)障壁層68a,68c,68e,68gに掛かる圧縮応力が相殺され、活性層68の平均の格子定数がGaAsの格子定数とほぼ等しくなる。このため、活性層68全体とGaAs基板46との格子不整合が大幅に低減され、信頼性の高い半導体レーザが実現されている。
(第5の実施の形態)
本発明の好適な第5の実施の形態を図9、図10を参照して説明する。本実施の形態の半導体レーザは、図8に示した第4の実施の形態と同様に、n−GaInP下部クラッド層50とp−GaInP上部クラッド層54の間に多重量子井戸構造の活性層68を有する多重井戸(MQW)レーザに関するものである。
但し、本実施の形態の半導体レーザは、図9に示すように、活性層68を構成する複数のGa1-iIniAs1-jPj(但し、0≦j<1)障壁層68a,68c,68e,68g,68i…と複数のGaNyAs1-y井戸層68b,68d,68f,68h…の夫々の膜厚d1,d2が極めて薄く、ド・ブロイ波長以下、例えば約3nm以下で形成されている。より詳細には、膜厚d1,d2は、2原子層以上、10原子以下の範囲内に設定されている。
次に、かかる構造の活性層68を有する半導体レーザの動作を図10に基づいて説明する。尚、図10(a)は、GaAsの伝導帯エネルギーEc1及び価電子帯エネルギーEv1と、GaNyAs1-yのNの組成比に応じた伝導帯エネルギーEc2及び価電子帯エネルギーEv2と、Ga1-iIniAs1-jPj(但し、0≦j<1)のInの組成比に応じた伝導帯エネルギーEc3及び価電子帯エネルギーEv3と、夫々のエネルギーギャップEg1,Eg2,Eg3を示し、図10(b)は、活性層68のバンド構造を示している。
図10(a)において、GaNyAs1-yは、Nの組成比yが大きいほど伝導帯エネルギーEc2と価電子帯エネルギーEv2が下がり、Ga1-iIniAs1-jPj(但し、0≦j<1)は、Inの組成比iが大きいほど、伝導帯エネルギーEc3が下がり、価電子帯エネルギーEv3が上がるという特性がある。また、Ga1-iIniAs1-jPjは、Pを含まない場合(j=0)と、Pを含む場合(j>0)とでは、伝導帯エネルギーEc3と価電子帯エネルギーEv3が、図示の如く上下にずれるという傾向がある。
そこで、活性層68全体の平均の格子定数がGaAsの格子定数とほぼ等しくなるように、GaNyAs1-y井戸層68b,68d,68f,68h…のNの組成比yとGa1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e,68g,68i…のIn,Pの組成比i,jを調整する。これにより、良好な結晶性の活性層68を得ることができ、GaNyAs1-y井戸層68b,68d,68f,68h…に掛かる引っ張り応力とGa1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e,68g,68i…に掛かる圧縮応力が相殺されて、GaAs基板からの応力歪みが低減される。
図10(b)は、このようにGaNyAs1-y井戸層68b,68d,68f,68h…のNの組成比yとGa1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e,68g,68i…のIn,Pの組成比i,jを設定した場合のバンド構造を示している。図10(b)において、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…とGaNyAs1-y井戸層68b,68d…との伝導帯側のエネルギー差ΔEc(=Ec3−Ec2)により、キャリア(電子)がGaNyAs1-y井戸層68b,68d…に閉じ込められ、一方、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…とGaNyAs1-y井戸層68b,68d…との価電子帯側のエネルギー差ΔEv(=Ev2−Ev3)により、キャリア(正孔)がGa1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…に閉じ込められるエネルギーポテンシャルを形成することができる。
ここで、単に、このエネルギーポテンシャルを見た場合には、正孔がGaNyAs1-y井戸層68b,68d…に閉じ込められないため、光学遷移が起こらないこととなるが、本実施の形態では、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…の厚みd1とGaNyAs1-y井戸層68b,68d…の厚みd2を極めて薄くしているので、活性層68内のキャリア(電子,正孔)は量子力学的な波動として振る舞うこととなり、バルクではみられない量子サイズ効果が現れる。
この量子サイズ効果により、GaNyAs1-y井戸層68b,68d…に閉じ込められた電子の波動関数はψc、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…に閉じ込められた正孔の波動関数はψvのようになる。
更に、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…とGaNyAs1-y井戸層68b,68d…が極めて薄いため、波動関数ψcはGa1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…へ染み出し、波動関数ψvはGaNyAs1-y井戸層68b,68d…へ染み出す。そして、双方の波動関数ψcとψvの染み出しが大きくなり、双方の重なりが大きくなるため、光学遷移確率が増大し、発光効率が増加して発光hνの強度が大きくなる。即ち、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…とGaNyAs1-y井戸層68b,68d…の価電子帯側のエネルギーが、Ev2<Ev3の関係であっても、光遷移確率が増大するため、良好な温度特性(T0)が得られる。
尚、各井戸層と障壁層の厚みを量子サイズ効果が得られる程度の薄さにすることで、上記の光遷移確率の増大という目的が達成されるが、具体例として、前記障壁層68a,68c,68e…と井戸層68b,68d…の各厚みを、2原子層以上、40原子層以下の範囲にすることが望ましい。更に、光遷移確率の更なる増大化を図るために、2原子層以上、10原子層以下の範囲(この場合は、夫々の膜厚d1,d2を3nm以下にすることに相当する)にすることが望ましい。本実施の形態の半導体レーザでは、d1=d2=3nm以下に設定することで良好な結果が得られた。
更に、発光波長は、夫々の量子井戸の基底準位間のエネルギー差で決まるため、GaNyAs1-y井戸層68b,68d…とGa1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…の個別のバンドギャップEg2,Eg3よりも小さくなる。このため、GaNyAs1-y井戸層68b,68d…のN(窒素)や、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…のIn(インジウム)の組成を増加させることなく、換言すれば、結晶性の劣化に繋がる格子不整合や結晶欠陥を増加させることなく、発振波長の長波長化が可能となる。
更に、電子と正孔が空間的に分離されるため、半導体レーザの損失の一要因となっているオージェ(Auger)損失を無くすことができ、高効率の半導体レーザを実現することができる。
尚、Ga1-iIniAs1-jPj障壁層68a,68c,68e…は、Pを含まないGa1-iIniAs(j=0の場合)であっても、同様の効果が得られる。
また、端面発光型半導体レーザについて説明したが、この活性層68を垂直共振器を有する面発光型半導体レーザに適用することも可能である。
以下の実施の形態においては、遷移エネルギの温度依存性が低減された半導体発光素子に関する実施の形態を説明する。以下の記述は上記の実施の形態において説明した構造の発光素子に対しても適用できる。
(第6の実施の形態)
本実施の形態の発光素子は、特に、光ファイバを使用した光通信システムに好適に適用される。このような通信システムでは、1.3μm帯または1.55μm帯の光信号を半導体レーザを用いて発生させ、これを途中で増幅しつつ光ファイバを用いて長距離の伝送を行う。例えば、1.55μm帯では、光信号の信号増幅のための励起レーザとしては、0.98μm帯および1.48μm帯の2種類があり、励起バンド幅は、それぞれ0.98±0.005μmおよび1.48±0.015μmと狭い。このため、使用される半導体レーザには、高い波長安定性が必要とされる。また、この励起バンド内にレーザの発振波長が含まれていても、発振ゲインは平坦ではない。このため、温度等による波長変動によって利得変動が発生するので、特性として高い波長安定性が必要とされるのである。以下の実施の形態では、このような特性の半導体発光素子について説明する。
図12は、本発明の半導体発光素子が適用されたファブリペロー型(FP型という)半導体レーザを模式的に表した斜視図である。
図12を参照すると、PF型半導体レーザは、半導体基板76の一主面上に、バッファ層78、第1のクラッド層70、第1のガイド層71、活性層72、第2のガイド層73、第2のクラッド層74、リッジストライプ部86、中間層88、コンタクト層80、および第1導電側電極82を備え、また基板76の一主面と対向する面、つまり裏面には第2導電側電極84を備える。
リッジストライプ部86は、放射されるレーザ光の光軸方向(z軸)に沿って延びる。リッジストライプ部86の対向する2側面は、第2のクラッド層74および中間層88(中間層がない場合には、コンタクト層80)に接して設けられて、これらの層74、88に挟まれている。このため、この部分86は、第1導電側電極82からのキャリアをコンタクト層80および中間層88を通して、第2のクラッド層74に導く。また、リッジストライプ部86の上記2側面に隣接する側面は、レーザ光の光軸と直交する方向の両側から埋め込み層90によって挟まれている。つまり、埋め込み層90は、上記光軸に沿って、且つリッジストライプ部86に接して延びる。このため、キャリアの狭窄と、この結果として効果的な光の閉じ込めを実現している。
活性層72は、再結合することによって発光に寄与する電子および正孔を閉じ込める。このため、活性層72は第1のガイド層71および第2のガイド層73に挟まれ、また対向する2面においてこれらのガイド層71、73に接している。活性層72とこれを両側から挟むガイド層71、73とは活性層領域を構成する。活性層においては再結合によって光が発生して、この光は活性層領域に閉じ込められ、また半導体レーザ共振器(両反射端面)によって光が増幅されレーザ発振がする。活性層領域は、第1のクラッド層70および第2のクラッド層74によってガイド層71、73の外側から挟まれる。ガイド層71、73の各々は、活性層72に接する面と対向する面において、それぞれ第1のクラッド層70および第2のクラッド層74と接している。活性層領域71、72、73は、クラッド層70、74よりの高い屈折率を有している。この屈折率の違いによって、活性層で発生したレーザ光は、効率的に活性層領域に閉じ込められる。
活性層におけるレーザ発振は、第1導電側電極82および第2導電側電極84の一方から電流を注入することによって起こる。電流注入のため、クラッド層70、74、バッファ層78、および基板76は、導電性を有する。基板76、バッファ層78、第1のクラッド層70は、共に第1の導電型の半導体層で構成され、また第2のクラッド層74、リッジストライプ部86、中間層88、およびコンタクト層80は、共に第2の導電型の半導体層で構成される。また、第1の導電型と第2の導電型とは、異なる導電型である。
このような構成のPF型半導体レーザにおいて、活性層72としては、遷移エネルギの1次の温度係数が−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下であり、且つ2以上のV族元素の一元素として窒素を含むIII−V族混晶半導体を使用できる。
このように、III−V族混晶半導体が窒素を含む2以上のV族元素を有するようにしたので、遷移エネルギの1次の温度係数を零に近づけることができる。また、窒素組成を所定値にして、遷移エネルギの1次の温度係数を零点を含む−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下にするので、半導体発光素子の発光波長の温度依存性が低減される。遷移エネルギの1次の温度係数が−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下であれば、既存のGaAs結晶を使用した半導体レーザの温度特性と比較して、温度特性が格段に改善され、また、上記の範囲内において選択的に温度特性を変更できる。
このような温度係数の範囲が好適なのは以下の理由による。従来のInP系材料で構成されるFP型の光通信用半導体レーザの発振波長の温度依存性は、約0.4nm/K、すなわちエネルギに換算して0.3meV/Kである。この値はほぼ材料の物性によって決まり、これより小さい温度依存性を持つためには、上記のような材料を適用した本発明の半導体発光素子、例えばFP型半導体レーザが極めて効果的である。これによって従来型FP型半導体レーザでは実現できなかった応用分野が開ける。
このような活性層72は、組成が1%以上9%以下の窒素を含む少なくとも1層以上のGaNyAs1-y混晶半導体であってもよい。このように、GaNyAs1-y混晶半導体を採用し窒素組成が1%以上9%以下にすれば、遷移エネルギの1次の温度係数の値が小さくなるので、発光波長の温度依存性が低減された半導体発光素子が得られる。なお、窒素組成とは、窒素NがV族元素なので、(N原子数)/(V族元素全体の原子数)の比を百分率で表したものである。以下、他の元素に対しても同様の定義を使用する。
また、活性層72は、組成が3%以上9%以下の窒素、組成が0%より大きく30%以下のIn、を含む少なくとも1層以上のGa1-xInxNyAs1-y混晶半導体であってもよい。このように、Ga1-xInxNyAs1-y混晶半導体を採用し窒素組成が3%以上9%以下にすれば、遷移エネルギの1次の温度係数の値が小さいので、発光波長の温度依存性が低減された半導体発光素子が得られる。また、In組成を0%より大きく30%以下にすれば、下地半導体層、例えばGaAs半導体層と格子整合させることができる。
GaNyAs1-y混晶半導体を採用するときには、窒素組成が3.7%以上5.3%以下であってもよい。また、Ga1-xInxNyAs1-y混晶半導体を採用するときには、窒素組成が5%以上7%以下、In組成が0%より大きく30%以下であってもよい。このような範囲であれば、従来のDFB型半導体レーザの発振波長の温度依存性である約0.07meV/Kよりも優れた発振波長の温度依存性を有するFP型半導体レーザを実現できる。つまり、FP型半導体レーザであっても、DFB型半導体レーザと同等以上の温度特性を達成できる。
更に、活性層72は、遷移エネルギの1次の温度係数−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下である少なくとも1層以上のGaNyAs1-y混晶半導体層であってもよい。加えて、活性層72は、In組成xが0%より大きく30%以下であり、遷移エネルギの1次の温度係数が−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下である少なくとも1層以上のGa1-xInxNyAs1-y混晶半導体層であってもよい。このように、GaNyAs1-y混晶半導体またはInxGa1-xNyAs1-y混晶半導体を採用し遷移エネルギの1次の温度係数−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下にすれば、遷移エネルギの1次の温度係数が零近傍の値になるので、発光波長の温度依存性が低減された半導体発光素子が得られる。なお、このような温度係数の範囲が好適なのは既に上述したので、ここでは省略する。
上記の温度係数の範囲は、半導体発光素子、例えば半導体レーザの使用環境を考慮すると、−40℃以上+85℃以下において達成されていることが好ましい。また、−50℃以上+100℃以下において達成されていれば、使用環境において十分な動作マージンを有するので、高信頼度の動作か可能となる。
活性層72は、図13(a)および図13(b)に示すような構成でも良い。図13(a)および図13(b)は、図12におけるA部の拡大図である。図13(a)を参照すると、井戸層72aが両側から障壁層72b、72cによって挟まれている。このように、井戸層72aよりもバンド障壁が高い半導体層で井戸層72aを両側から挟むようにしてもよい。また、図13(b)に示すように複数の井戸層72d、72e、72fとこれらの井戸層を挟む複数の障壁層72g、72h、72i、72jによって活性層72を構成しても良い。このように多層構成にすると、発光素子の温度安定性や光出力を向上できる。
このような多層構造においては、V族元素として窒素を含み遷移エネルギの1次の温度係数が−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下である2種類のIII−V族混晶半導体を備え、一方の半導体層は、他方の半導体層の第1の面とこの第1の面に対向する第2の面に接してこの半導体層を挟むよにしてもよい。また、上記他方の半導体層の数は1以上であるようにしてもよい。このように、上記のような温度特性のN含有のIII−V族混晶半導体の複数の半導体層によって、超格子構造の半導体発光素子を作製してもよい。
また、多層構造は、組成が1%以上9%以下の窒素を含むGaNyAs1-y混晶半導体、並びに、組成が3%以上9%以下の窒素および組成が0%より大きく30%以下のInを含むGa1-xInxNyAs1-y混晶半導体、の少なくともいずれかを備えるようにしてもよい。このように、組成の異なる複数の半導体層で発光素子を構成すれば、格子整合の調整が好適に行うことが可能になり、また様々な波長で発光し、且つ温度特性が優れた発光素子が作製可能になる。また、異なる遷移エネルギの半導体層を交互に積層すれば、超格子構造が構成される。
なお、このような構造は、単一の層から成る活性層をガイド層で両側から挟んで形成しても良く、またガイド層と組み合わせて多層構造にしても良い。このような場合には、それぞれの層の遷移エネルギの温度変化を小さくできるので、バンドアライメントが一定に保たれる。このため、発光波長等の発光特性において安定した性能が実現できる。このような多層構造において、井戸層および障壁層(またはガイド層)の各々の厚さを一般には30nm以下まで薄くすると、井戸層と障壁層またはガイド層とによって量子井戸構造が形成される。発光素子の発光波長は、量子井戸内の量子準位によって決定される。この量子準位は、量子井戸のバンド構造を規定する井戸層および障壁層(またはガイド層)の遷移エネルギに依存するため、井戸層等の遷移エネルギの温度依存性を小さくすることによって、この量子準位の温度依存性も小さくなるので、発光素子から出射される光波長の温度変化を小さくできる。
図12に示した構造の発光半導体素子の製造条件について、n型GaAs基板上に順に、n型GaAsバッファ層、n型GaInPクラッド層、GaInNAs活性層、p型GaInPクラッド層、p型GaAsコンタクト層を有する半導体レーザの場合を簡単に説明する。
半導体層の成長には、石英製の横型反応炉を用い、基板としてキャリア濃度2×1018cm−3のn型GaAs(001)基板を使用した。III族のGa原料としてトリエチルガリウム(TEG)、In原料としてトリメチルインジウム(TMI)を用い、V族元素のN原料としてジメチルヒドラジン(DMHy)、As原料としてターシャリブチルアルシン(TBAs)、P原料としてターシャルブチルフォスフィン(TBP)を使用した。これらの原材料は水素ガスをキャリアガスとしてバブリング法によって反応炉内に導入し、成長炉の圧力は76Torrに設定した。成長時の基板の回転速度は毎分10回転とした。
活性層のGaInNAs結晶の成長方法は、成長温度530℃で[TBAs]/([TEG]+[TMI])(モル供給比)および[DMHy]/([DMHy]+[TBAs])(モル供給比)を調整して行うと、所定の条件の下で、GaAs(001)基板上に格子整合して成長する。それぞれの場合、窒素組成は[DMHy]/([DMHy]+[TBAs])を変化させて調整する。なお、GaInNAs結晶の成長速度は、1時間当たり1μmである。
本実施の形態におけるGaAs層を成長する場合、上記のV族ガスとIII族ガスの比は10である。GaInPを成長する場合、V族ガスとIII族ガスの比は50である。基板を550℃に保ち、ガス総量を毎分20リットルとした。n型伝導特性を得るために、ドーパントとしてテトラエチルシラン(TESi)、p型伝導特性を得るために、ドーパントしてジエチル亜鉛(DEZn)を用いる。なお、GaAs層、およびGaInP層の成長速度は、1時間当たり1μmである。
各層のキャリア濃度および厚さは、基板側から順に、
n型バッファ層 :7×1017cm−3、 0.3μm
n型クラッド層 :1×1018cm−3、 1.5μm
アンドープ・ガイド層:、 0.01μm
アンドープ・活性層: 、 0.1μm
アンドープ・ガイド層:、 0.01μm
p型クラッド層 :8×1017cm−3、 1.5μm
p型コンタクト層:1.2×1019cm−3、0.3μm
である。なお、p、n導電型は逆転させても良い。
以上詳細に説明したように、本実施の形態のFP型半導体レーザの構造が簡単であるため、他の構造の半導体レーザに比べて安価である。しかし、従来のFP型半導体レーザでは、光通信に応用する上では、使用される環境の温度と共に発振波長が変動するため、適用範囲が限られていた。ところが、FP型半導体レーザに本発明を適用すれば、遷移エネルギの温度変化が低減されるため、FP型半導体レーザが適用できる範囲を広げることが可能となる。また、FP型半導体レーザは分布帰還型(DFB型)半導体レーザや分布反射型(DBR型)半導体レーザに比べて構造が簡単なので、製造も容易である。したがって、光通信技術に与える効果は大きい。温度変動のため従来では適用できなかった応用領域にも、本発明を適用すればPF型半導体レーザを使用していくことが可能になった。
FP型構造の高出力励起用半導体レーザでは、高い注入電流によって半導体レーザ自体の発熱が大きくなる。この発熱に伴って半導体発光素子の温度が上昇するので、発振波長は長波長側に変移する。特に、励起用レーザは、励起バンドが規定されているため発振波長の変動や飛びは、大きな問題となる。この対策として、光ファイバにグレーティングを設けて、または回折格子を用いて、特定の波長を選択する方法等が採用されている。このため、装置が高価になっている。しかし、本発明のような小さい温度依存性の遷移エネルギを有する半導体材料を高出力励起用半導体レーザに適用すれば、高い電流注入によって発熱しても、発振波長の変動を抑制することができるので、グレーティングまたは回折格子を使用することなく、安定なレーザ発振を達成できる。
(第7の実施の形態)
図14(a)は、本発明の半導体発光素子の一実施の形態として、分布帰還型(DFB型という)半導体レーザを模式的に表した斜視図であり、放射されるレーザ光の光軸方向に沿った断面を示している。図14(b)は、図14(a)のB部の拡大された断面図である。
図14(a)および図14(b)を参照すると、DFB型半導体レーザは、半導体基板96の主面上において一端面からこの端面に対向する端面まで矩形の領域上に基板側から順に、バッファ層98、第1のクラッド層100、第1のガイド層101、活性層102、第2のガイド層103を有する埋め込み部106と、埋め込み部106上には、第2のクラッド層104、コンタクト層110、および第1導電側のストライプ電極112を備え、また基板96の一主面と対向する面、つまり裏面全面には第2導電側の裏面電極114を備える。
埋め込み部106は、放射されるレーザ光の光軸方向(z軸)に沿って延びる。この方向はDFB型半導体レーザのストライプ電極が延びる方向と一致する。埋め込み部106は、その2側面において、基板96上の形成された第1のブロック層118と、このブロック層118上に形成された第2のブロック層120とによって挟まれている。これらのブロック層はn−InP基板を使用する場合には、ブロック層118はp−InP層、ブロック層120はn−InP層で形成される。このため、基板96と第2のクラッド層104は、pn接合によって電気的に分離される。なお、図14(a)に示した例では、ブロック層118、120は、第1導電側から基板96に達し、埋め込み層106の両側にあってこれに沿って延びるトレンチによって分離されている。
ストライプ電極112は、コンタクト層110上に形成された絶縁膜116に設けられた開口部においてコンタクト層110と電気的に接続される。絶縁膜116に設けられた開口部の形状は、埋め込み層106をその内側に含む矩形形状である。つまり、埋め込み層が延びる方向に直交する方向の幅が、埋め込み部106の幅より大きい。このため、埋め込み部106に効率よくキャリアを供給できる。また、キャリアの狭窄と、この結果として効果的な光の閉じ込めを実現している。
埋め込み部106においては、基板96上に埋め込み領域に、バッファ層98、第1のクラッド層100、第1のガイド層101、活性層102、第2のガイド層103から構成されるメサ形状部が形成され、メサ形状部の対向する2側面はブロック層118、120に接している。このため、埋め込み部106はブロック層118、120によって両側から挟まれて基板96上に形成されている。埋め込み部106の各層は第1の及び第2の面を有しz軸方向に延び所定幅を備え、それぞれの面を相互に接触させて埋め込み領域上に積層されている。このため、電極112からのキャリアはコンタクト層110を通して、クラッド層104に導かれる。活性層領域101、102、103へ注入される。
回折格子は、クラッド層100とガイド層101の界面、および、クラッド層104とガイド層103の界面、の少なくともいずれか一方に形成されている。回折格子は、レーザ光の光軸が延びる方向に沿って形成され、例えば上記界面に形成された周期的な凹部または凸部であってもよく、これらは局面を有していても良い。活性層に発生した光はこの回折格子と結合して、所定の波長が選択される。
活性層102は、再結合することによって発光に寄与する電子および正孔を閉じ込める。このため、活性層102は第1のガイド層101および第2のガイド層103に挟まれ、また対向する2面においてこれらのガイド層101、103に接している。活性層102とこれを両側から挟むガイド層101、103は活性層領域を構成する。活性層領域は、第1のクラッド層100および第2のクラッド層104によってガイド層101、103の外側から挟まれる。ガイド層101、103の各々は、活性層102と接する面と対向する面において、それぞれ第1のクラッド層100および第2のクラッド層104と接している。活性層領域101、102、103は、クラッド層100、104よりの高い屈折率を有している。この屈折率の違いによって、活性層で発生したレーザ光は、効率的に活性層領域に閉じ込められる。
活性層におけるレーザ発振は、第1導電側ストライプ電極112および第2導電側の裏面電極114の一方から電流を注入することによって起こる。電流注入のため、クラッド層100、104、バッファ層98、および基板96は、導電性を有する。基板96、バッファ層98、第1のクラッド層100は共に第1の導電型の半導体層で構成され、また第2のクラッド層104、およびコンタクト層110は共に第2の導電型の半導体層で構成される。また、第1の導電型と第2の導電型とは、異なる導電型である。
このような構成のDFB型半導体レーザにおいては、FP型半導体レーザと同様に、活性層102が、遷移エネルギの1次の温度係数が−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下であり、且つ窒素を含む2以上のV族元素を有するIII−V族混晶半導体を使用できる。
このような活性層102は、FP型半導体レーザと同様に、組成が1%以上9%以下の窒素を含む少なくとも1層以上のGaNyAs1-y混晶半導体であってもよい。
また、活性層102は、FP型半導体レーザと同様に、組成が3%以上9%以下の窒素、組成が0%より大きく30%以下のIn、を含む少なくとも1層以上のGa1-xInxNyAs1-y混晶半導体であってもいよい。
更に、活性層102は、FP型半導体レーザと同様に、遷移エネルギの1次の温度係数−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下を達成するための組成yである少なくとも1層以上のGaNyAs1-y混晶半導体であってもよい。
加えて、活性層102は、FP型半導体レーザと同様に、In組成xが0%より大きく30%以下であり、遷移エネルギの1次の温度係数が−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下を達成するための組成yである少なくとも1層以上のGa1-xInxNyAs1-y混晶半導体であってもよい。
以上説明したような半導体層を適用すると、遷移エネルギの1次の温度係数が零近傍の値になるので、発光波長の温度依存性が低減されたDFB型半導体レーザが得られる。
なお、GaNyAs1-y混晶半導体を採用するときには、窒素組成が3.7%以上5.3%以下であってもよい。また、Ga1-xInxNyAs1-y混晶半導体を採用するときには、窒素組成が5%以上7%以下、In組成が0%より大きく30%以下であってもよい。このような範囲であれば、従来のDFB型半導体レーザの発振波長の温度依存性である約0.07meV/Kよりも優れた発振波長の温度依存性を達成したDFB型半導体レーザが得られる。
活性層102は、図15(a)および図15(b)に示すような構成でも良い。図15(a)および図15(b)は、図14(b)におけるC部の拡大図である。図15(a)を参照すると、井戸層102aの対向する両面において障壁層102b、102cと接している。このように、井戸層102aよりもバンド障壁が高い半導体層で井戸層102aを両側から接して挟むようにしてもよい。また、図15(b)に示すように複数の井戸層102d、102e、102fとこれを挟む複数の障壁層102g、102h、102i、102jによって活性層102を構成しても良い。このように多層構造にすると、発光素子の温度安定性や光出力が向上する。
このような多層構造においては、V族元素として窒素を含み2以上のV族元素を有し、遷移エネルギの1次の温度係数が−0.3meV/K以上+0.3meV/K以下である2種類のIII−V族混晶半導体を備え、一方の半導体層は、他方の半導体層の第1の面とこの第1の面に対向する第2の面に接してこの半導体層を挟むようにしてもよい。また、上記他方の半導体層の数は1以上であるようにしてもよい。このように、複数の半導体層によって、超格子構造の半導体発光素子を構成できる。
また、多層構造は、組成が1%以上9%以下の窒素を含むGaNyAs1-y混晶半導体、および、組成が3%以上9%以下の窒素、組成が0%より大きく30%以下のIn、を含むGa1-xInxNyAs1-y混晶半導体、の少なくともいずれかを備えるようにしてもよい。このように、組成の異なる複数の半導体層で活性層を構成すれば、格子整合性の調整が好適に行うことが可能になり、また様々な波長で発光し、且つ温度特性が優れた発光素子が作製可能になる。また、異なる遷移エネルギの半導体層を交互に積層すれば、超格子構造が構成される。
なお、このような構造は、単一の層から成る活性層をガイド層で両側から挟んで形成しても良く、またガイド層と組み合わせて多層構造にしても良い。このような場合には、それぞれの層の遷移エネルギの温度変化を小さくできるので、バンドアライメントが一定に保たれる。このため、発光波長等の発光特性において安定した性能が実現できる。このような多層構造において、井戸層および障壁層(またはガイド層)の各々の厚さを一般には30nm以下まで薄くすると、井戸層と障壁層またはガイド層とによって量子井戸構造が形成される。発光素子の発光波長は、量子井戸内の量子準位によって決定される。この量子準位は、量子井戸のバンド構造を規定する井戸層および障壁層(またはガイド層)の遷移エネルギに依存するため、これら井戸層等の遷移エネルギの温度依存性を小さくすることによって、量子準位のエネルギの温度依存性も小さくなる。このため、発光素子から出射される光の波長の温度変化を小さくできる。
本実施の形態で説明したように、本発明をDFB型半導体レーザに適用すれば、窒素組成を変更することによって遷移エネルギの温度依存性を変化できる。これは、DFB型半導体レーザにとって好適な特性である。なぜなら、DFB型半導体レーザでは、一般に、発振波長は回折格子のピッチと導波路の等価的な屈折率で決定される。一方、光が発生する活性層の光学利得は、活性層を構成する半導体材料で決定されるので、波長依存性を有する。このため、DFB型レーザを広範囲の温度で動作させるためには、発振波長の温度特性と利得ピーク波長の温度特性とが大きく異ならないことが望ましい。つまり、利得ピーク波長あるいは活性層を構成する半導体材料の遷移エネルギの温度依存性は、発振波長と同程度に小さいことが望ましいからである。このような特性のDFB型レーザは、温度調整機能を備えることなしに、広い温度範囲で使用できる。
また、近年急速に発展している波長多重通信(WDM)では、狭い波長範囲内にある多くの異なった信号波長を使用して伝送を行うため、1波長当たり波長変動の許容範囲が0.8nmと非常に小さい。DFB型半導体レーザに上記の材料等を使用すれば、屈折率の温度依存性の4次係数が遷移エネルギに依存するので、屈折率の温度依存性を更に小さくすることができる。このため、屈折率と回折格子のピッチとで決定される発振波長の温度依存性を極めて小さくできる。したがって、温度調整装置なしでWDM伝送へも適用できる。また、温度調整装置を備えないDFB型半導体レーザでは、価格の低減、装置の小型化、および省電力化を達成できるので、利用可能な分野が広がる。加えて、本発明のDFB型半導体レーザに温度調節装置を備えれば、さらに温度特性が改善される。したがって、いずれの場合でもDFB型半導体レーザの使用範囲を温度に関して拡張することができる。
なお、更に実施例を掲げて説明することはしないが、このような温度特性の問題は、誘電体多層膜または半導体多層膜で高反射率の分布ブラック反射(DBR)層を構成した垂直共振器型半導体レーザ(VCSEL)においても、同様に生じる。詳述すれば、VCSELの発振波長は、高反射DBR層の構成に基づいて決定される。一方、利得ピーク波長は、活性層を構成する半導体材料で決定される。このため、発振波長と利得ピーク波長との温度特性のズレが大きいと、DFB型レーザと同様に、素子特性の劣化、あるいはレーザ発振の停止等の問題を発生させる。このため、これらの構造の発光素子についても、DFB型半導体レーザと同様の効果がある。
以上、半導体レーザに関して説明したが、本発明は発光ダイオード等の発光素子についても適用できることは言うまでもない。この場合は、温度依存性が改善されたIII−V族混晶半導体をp型半導体層またはn型半導体層とするために、適宜に不純物元素を導入する。
(第8の実施の形態)
本発明は、半導体基板としては、GaAs基板、Si基板、InP基板、GaP基板等を好適に適用できる。
図16および図17は、第6の実施の形態および第7の実施の形態の半導体レーザを含む半導体発光素子において、半導体基板として好適に使用できるGaAs基板、Si基板、InP基板、GaP基板等を使用した場合に、特に好適な半導体層の組み合わせを示す。なお、図16および図17に示した例の組成では、活性層は基板に格子不整1%以内で整合している。
GaAs基板を使用する場合、格子不整合の比率が0.1%以下のもとで、GaInNAs、AlInNAs、InGaAlAsN、GaInNP、AlInNP、AlGaInPN、AlGaAsPN、InGaAlAsPN等が0.1μm以上の厚みで使用できる。上記材料を0.1μm以下の厚みで用いる場合、格子不整の比率は2%以下で使用可能である。この条件では、レーザの活性層に用いる歪量子井戸構造に使用できる。なお、AlNAs、AlNP、GaNAs、GaNP、AlGaNP、AlGaAsN等についても上記同様に歪量子井戸構造に適用できる。
GaAs基板はIII−V族化合物半導体の中でも最も多く使用されているため、他の化合物基板例えばInP基板に比べて安価であり、高速の回路素子を集積したGaAsICとの集積化が可能である。また、GaAs基板では、InP基板に比べて活性層の遷移エネルギとクラッドの遷移エネルギとの差が大きくとれるので、高温の動作に関して有利である。特に、垂直共振器型半導体レーザ(VCSEL)の場合では、GaAs基板上にGaAs/AlAsから成る高反射率のブラッグ・リフレクタを製作できる。
図12に示したFP型半導体レーザの各半導体層に対して特に好適な組み合わせとしては、図16を参照すると、n−GaAs基板76、n−GaAsバッファ層78、n−GaInPクラッド層70、アンドープGaInAsPガイド層71、アンドープGaInNAs活性層72(In組成:15%、N組成:5%)、アンドープGaInAsPガイド層73、p−GaInPクラッド層74、p−GaInAsP中間層88、p−GaAsコンタクト層80とがある。このような組み合わせを構成すれば、遷移エネルギとして0.95eV程度が得られるので、発振波長の温度依存性が小さい1.3μm帯半導体レーザが得られ、更に、ガイド層71、73を活性層72の両側に備えているので、基本モードを保ちながら比較的高出力を得ることができる。なお、ガイド層71、73および中間層88は設けなくてもよい。このようにすれば、構造が簡素になる。クラッド層70、74は、GaInPに代えて、AlGaAsまたはAlGaInPを使用してもよい。これらの材料は、活性層の材料よりも低い屈折率を有し、且つAlGaInPはGaInPに比べてより大きいバンドギャップを有するため、キャリアの高い閉じ込め効果がある。
活性層72として、アンドープGaInNAs(In組成:25%、N組成:9%)を使用すれば、遷移エネルギとして0.8eV程度となるので、発振波長の温度依存性が小さい1.55μm帯半導体レーザが得られる。また、活性層72として、アンドープGaNAsを使用して、窒素組成を変化させれば発振波長に変化をもたせることができる。なお、これらの半導体レーザの発振波長の温度依存性は、図18に示した遷移エネルギの温度特性に支配されている。
図17を参照すると、多層構造の活性層72にするためには、アンドープGaInNAs井戸層(In組成:15%、N組成:5%)とアンドープGaInNP障壁層(In組成:53%、N組成:1%)若しくはGaInNPAs障壁層と、またはアンドープGaInNAs井戸層(In組成:25%、N組成:1%)とアンドープGaInNP障壁層(In組成:53%、N組成:1%)またはGaInNPAs障壁層と、を組み合わせることが好ましい。また、薄層化された多層構造にすれば、量子井戸構造を形成できる。この材料を用いると、GaInP、GaInAsPを用いる場合よりも井戸層および障壁層の遷移エネルギの温度依存性を小さくできる。このため、井戸層および障壁層のいずれか一方に上記材料を使用する場合に比べて、量子井戸構造に基づく量子準位の温度依存性を小さくできる。したがって、より安定したレーザ動作が可能となる。
Si基板を使用する場合、格子不整合の比率が0.1%のもとで、GaInNP、AlInNP、AlGaInNP、AlAsNP、GaAsNP、AlGaAsNP、GaNAs、GaNP、AlNAs、GaInNAs、GaInNAs、AlInNAs、AlInNAsP、AlGaInNAs、AlGaInNAsP等が0.1%以上の厚みで使用できる。上記の材料を0.1μm以下の厚みで用いる場合、格子不整の比率が2%以下で使用可能である。この条件では、レーザの活性層に用いる歪量子井戸構造に適用できる。なお、AlNP、AlGaNP等についても上記同様に歪量子井戸構造に適用できる。
このようにSi基板を用いると、半導体基板の中で最も安価であり、且つ大口径の基板が入手可能である。また、シリコン基板上に形成される半導体素子と集積化が容易である。更に、熱伝導率がIII−V族半導体基板よりも大きいので、放熱性に優れる。
図12に示したFP型半導体レーザの各半導体層に対して、特に好適な組み合わせとしては、図16を参照すると、n−Si基板76、n−GaNPバッファ層(N組成:3%)78、n−AlNPクラッド層(N組成:4%)70、アンドープAlGaNPガイド層(Al組成:50%、N組成:3.5%)71、アンドープGaNP活性層72(N組成:3%)、アンドープAlGaNPガイド層(Al組成:50%、N組成:3.5%)73、p−AlGaNPクラッド層(N組成:4%)74、p−GaNAsコンタクト層(N組成:19%)80となる。このような組み合わせを構成すれば、発振波長の温度依存性が小さい1.55μm帯半導体レーザが得られる。また、ガイド層71、73を活性層72の両側に備えているので、基本モードを保ちながら比較的高出力を得ることができる。
図17を参照すると、多層構造の活性層72にするためには、アンドープGaNP井戸層(N組成:3%)とアンドープAlInNP障壁層(In組成:10%、N組成:4%)を組み合わせることが好ましい。また、薄層化された多層構造にすれば、量子井戸構造を形成できる。この材料を用いると、井戸層および障壁層の遷移エネルギの温度依存性を小さくできる。このため、井戸層および障壁層のいずれか一方に上記材料を使用する場合に比べて、量子井戸構造に基づく量子準位の温度依存性を小さくできる。したがって、より安定したレーザ動作が可能となる。
InP基板を使用する場合、格子不整合の比率が0.1%のもとで、AlInNAs、GaInNAs、AlGaInNAs、AlInNP、GaInNP、AlGaInNP等が0.1μm以上の厚みで使用できる。上記の材料を0.1μm以下の厚みで用いる場合、格子不整の比率が2%以下で使用が可能である。この条件では、レーザの活性層に用いる歪量子井戸構造に適用できる。
InP基板を使用すれば、通信用半導体レーザの多くがInP基板上に形成されているので、従来のデバイスの置き換えが容易となる。
図12に示したFP型半導体レーザの各半導体層に対して、特に好適な組み合わせとしては、図16を参照すると、n−InP基板76、n−InPバッファ層78、n−InPクラッド層70、アンドープInGaAsPガイド層71、アンドープInNAsP活性層72(N組成:3.4%、As組成:17)、アンドープInGaAsPガイド層73、p−AlNPクラッド層74、p−GaNAsコンタクト層80となる。このような組み合わせを構成すれば、発振波長の温度依存性が小さい1.55μm帯半導体レーザが得られ、更に、ガイド層71、73を活性層72の両側に備えているので、基本モードを保ちながら比較的高出力を得ることができる。なお、このような活性層72の厚さとしては100nm程度が好ましい。
活性層72として、アンドープInNAsP(N組成:4%、As組成:18%)を使用すれば、発振波長の温度依存性が小さい1.55μm帯半導体レーザが得られる。なお、このような半導体層の厚さを8nm程度にすれば、量子井戸を構成できる。
図17を参照すると、多層構造の活性層72にするためには、アンドープInNAsP井戸層(N組成:0.5%、As組成:45%)とアンドープInGaNAsP障壁層とを組み合わせることが好ましい。また、薄層化された多層構造にすれば、量子井戸構造を形成できる。この材料を用いると、井戸層および障壁層の遷移エネルギの温度依存性を小さくできる。このため、井戸層および障壁層のいずれか一方に上記材料を使用する場合に比べて、量子井戸構造に基づく量子準位の温度依存性を小さくできる。したがって、より安定したレーザ動作が可能となる。
GaP基板を使用する場合、格子不整合の比率が0.1%以下のもとで、GaNAs、AlGaNAs、InGaNAs、InNAs、InAlNAs、InNP、InGaNP、AlInNP、InGaAlNAs等が0.1μm以上の厚みで使用できる。上記材料を0.1μm以下の厚みで用いる場合、格子不整の比率が2%以下で使用可能である。この条件では、レーザの活性層に用いる歪量子井戸構造に適用できる。
GaP基板を使用すれば、発振波長を規定すればGaAs基板に比べて活性層の遷移エネルギとクラッド層の遷移エネルギとの差を大きくとれるので、高温での動作において有利である。
図12に示したFP型半導体レーザの各半導体層に対して、特に好適な組み合わせは、図16を参照すると、n−GaP基板76、n−GaPバッファ層78、n−AlPクラッド層70、アンドープGaPガイド層71、アンドープGaNP活性層72(N組成:7%)、アンドープGaPガイド層73、p−AlPクラッド層74、p−GaPコンタクト層80となる。このような組み合わせを構成すれば、ガイド層71、73を活性層72の両側に備えているので、基本モードを保ちながら比較的高出力を得ることができる。
図17を参照すると、多層構造の活性層72にするためには、アンドープGaNP井戸層(N組成:7%)とアンドープAlInNP障壁層(In組成:10%、N組成:4%)を組み合わせることが好ましい。また、薄層化された多層構造にすれば、量子井戸構造を形成できる。この材料を用いると、井戸層および障壁層の遷移エネルギの温度依存性を小さくできる。このため、井戸層および障壁層のいずれか一方に上記材料を使用する場合に比べて、量子井戸構造に基づく量子準位の温度依存性を小さくできる。したがって、より安定したレーザ動作が可能となる。
以上、図12に示したFP型半導体レーザに関して好適な半導体層の組み合わせについて説明したが、上記の1.55μm帯半導体レーザに関しての組み合わせは、図14に示したDFB型半導体レーザについても同様に好適な組み合わせとなる。この場合に、図14の半導体層との関係は、基板96、バッファ層98、クラッド層100、ガイド層101、活性層102、ガイド層103、クラッド層104、コンタクト層110、となる。
これらの半導体層は、例えば、有機金属気相成長法(MOVPE法)、分子線エピタキシ(MBE)、化学線エピタキシ(CBE)等によって成長することができる。
なお、上記デバイスにおいて、活性層とガイド層にAsを含まないものでは、レーザ端面の劣化を促進するAs酸化物の形成がないため、特に高出力レーザにおいて、高出力におけるレーザ端面の破壊を防止できるので、高い信頼性が得られる。
(第9の実施の形態)
図18は、GaNyAs1-y、Ga1-xInxNyAs1-y(x=0.10、x=0.15)の遷移エネルギの温度依存性を示した特性図である。横軸には、他のV族元素に対する窒素の組成を百分率で示し、縦軸には、それぞれの物質の遷移エネルギの温度特性をeV/K単位で示している。
遷移エネルギEtは、発光素子の発光に寄与するエネルギ準位間のエネルギ差をいう。これは、発光波長から求めることができる。例えば、蛍光法(フォトルミネッセンス法)を用いる場合には、アルゴンレーザで発生された波長514nmの光を対象結晶に照射して、この結晶から放出される蛍光の波長を分光器によって測定し波長を求めると、遷移エネルギを決定できる。遷移エネルギの温度依存性は、5K〜300Kの範囲では、この範囲で連続的に温度を変化できるクライオスタット(冷却器)を使用し、また300K〜400Kの範囲では、この範囲で連続的の温度を変化できる加熱装置を使用して行った。
窒素の組成は、X線回折法、二次イオン質量分析法(SIMS法)、EPMA法等によって求めることができる。図18においては、X線回折法、SIMS法を用いて組成決定を行い、この両方法によって求めた値は、よく一致することを確認した。X線回折法では、格子定数は組成に比例するという法則に基づいて、半導体基板とこの上にエピタキシャル成長された半導体層からの回折角の差から、例えばGaNyAs1-yの場合ではGaAsとGaNの既知の格子定数から算出する。更に、詳述すれば、X線回折法によりGaAs(004)ピークとGaNAs(004)ピークのずれから窒素組成を決定した。
図19は、このような組成の半導体層のX線回折スペクトルの一例を示し、横軸は回折角度、縦軸は任意単位で示されたX線強度である。図19によれば、GaAs(004)との格子不整合は0.3%と小さく、半値幅は△2θ表記で50秒と小さい。したがって、組成分布、および欠陥の少ない、非常に結晶性の良好なGaInNAs結晶が得られたことが分かる。
再び図18を参照すると、GaNyAs1-yにおいて窒素の組成を変化させた場合の温度係数が示されている。遷移エネルギの1次の温度係数は、温度T=T2からT=T1の範囲(T1>T2)において、
△Et/△T=
[Et(T=T1)−Et(T=T2)]/[T1−T2]
で表される。この割合は、窒素の組成を独立変数とすると、傾きが正の一次関数で表される関係となる。図18に示したデータは実験データを解析した一例であって、温度T=77Kから300Kの範囲での結果である。実験データを外挿して窒素の組成が零の場合(いわゆる、y切片)を求めると、−0.383meVとなる。この値はGaAsにおけるバンドギャップの値の温度係数−0.380meVに非常に近い。本実験の解析から得られた値−0.383meVと、GaAsの文献値−0.380meVが非常に近いことは、本実施の形態に使用した窒素濃度が高い結晶が高品質であることを示していると、発明者は考えている。なお、遷移エネルギの変化の割合、つまり1次の温度係数は、窒素の組成を増加させていくと、負の値から零に近づき、正の値を至ることを示している。
また、図18では、Ga1-xInxNyAs1-y(x=0.10、x=0.15)においては、窒素の組成を0.1%〜9%まで変化させた。これは、窒素の組成が大きい場合、温度77Kから300Kまでの遷移エネルギの変化の割合△Et/△TをGaNyAs1-yの場合と同様に求めた解析例である。この結果、窒素の組成に対して、傾きが正の一次関数で表される関係にある。本物質の場合には、Inの組成によって遷移エネルギの温度依存性が変化する。図18の例では、Inの組成が高くなるのつれて、温度依存性△Et/△Tが小さくなるが、In組成の依存性に比べて窒素の組成に対する依存性の方が大きいことに注目すべきことである。
なお、GaAs、GaxIn1-xAsのバンドギャップの温度依存性については、文献(Property of lattice-matched and strained Indium Gallium Arsenide, Ed P.Bhattacharya, INSPEC 1993, p73-75)を参照した。
このように、GaNyAs1-y、Ga1-xInxNyAs1-y(x=0.10、x=0.15)では、遷移エネルギの温度依存性を極めて小さくすることが可能な窒素の組成の範囲がある。上記のような物質においては、他のV族に対して窒素の組成を最大で9%程度にすると、従来使用されていたGaAs半導体に比べて発光素子の光波長の温度依存性を極めて小さくすることができる。したがって、例えば温度特性が改善された半導体発光素子、例えば半導体レーザを提供できる。
加えて、これらの材料では、遷移エネルギをGaAsより遷移エネルギ値を小さくできる。また、Inの組成および窒素組成を連続的に変化させることによって、遷移エネルギを連続的に変化させることができる。したがって、これらの材料を既存の半導体材料と組み合わせて多層構造を構成すれば、GaAsより長波長の半導体発光素子(各種構造の半導体レーザ、発光ダイオード)を作成できる。例えば、所定の窒素組成のGaNyAs1-y、Ga1-xInxNyAs1-yを活性層に使用すれば、光ファイバ通信に使用される1.3μm帯および1.55μm帯で使用可能な、発振波長の温度特性が安定している発光ダイオードおよび半導体レーザを作成できる。
このような特性は、窒素の原子半径が他の元素と比較して小さいことが1つの理由であると、発明者は考えている。原子半径は、
III族元素
Al: 0.230オングストローム
Ga: 1.225オングストローム
In: 1.406オングストローム
V族元素
N : 0.719オングストローム
P : 1.126オングストローム
As: 1.225オングストローム
という値である。
また、窒素の電気陰性度が他の元素に比べて大きく異なってこともその理由であると発明者は考えている。ポーリングの電気陰性度は、化学便覧、基礎編II-631、丸善(株)によれば、
III族元素
Al: 1.5kcal/mol
Ga: 1.6kcal/mol
In: 1.7kcal/mol
V族元素
N : 3.0kcal/mol
P : 2.1kcal/mol
As: 2.0kcal/mol
という値である。
さらに発明者は以下のような考察を行った。例えば、青色発光素子として実用化されているInGaNは、InNとGaNから成る3元系混晶である。遷移エネルギの温度係数は、InNでは−0.18meV/K、GaNでは−0.60meVである。InxGa1ーxNは、文献(Property of Group III Nitrides, INSPEC publication, ed. James H. Edgar)によれば、−[0.27+0.09×X]meVの温度変化を示し、本実施の形態において使用したGaNyAs1-y、Ga1-xInxNyAs1-y(x=0.10、x=0.15)のように温度係数が零になるような特性は示さない。同様に、AlNおよびこれを中心にした混晶系についても、かかる特性を有さない。このことから、発明者は、窒素と物性が異なるV族元素を一緒に含むIII−V族混晶系においては、温度特性のかかる改善が可能になると考えている。
この考察に基づけば、窒素と組み合わせる元素として、As、P、およびSbが考えられる。これらのV族を含む2元III−V族系は、AlP、GaP、InP、AlAs、GaAs、InAs、AlSb、GaSb、およびInSb等がある。3元III−V族系は、これらの2元系の組み合わせが考えられる。更に、4元以上の多元系も、これらの組み合わせによって表される。
図18に基づけば、GaNyAs1-y(0<y≦0.09)の材料にあっては、GaAs半導体の繊維エネルギの1次の温度係数0.38meV/Kよりも小さいので、従来の素子に比べて発光波長の温度依存性が小さい発光素子を実現できる。
また、図18に基づけば、Ga1-xInxNyAs1-y(0<x≦0.3、0<y≦0.09)の材料にあっては、Ga1ーxInxAs半導体の繊維エネルギの1次の温度係数よりも小さいので、従来の比べて発光波長の温度依存性が小さい発光素子を実現できる。
更に、遷移エネルギの1次の温度係数の好適な範囲は、窒素組成に関しては、組成が1%以上9%以下の窒素を含む少なくとも1層以上のGaNyAs1-y混晶半導体を備える半導体発光素子に適用することが好ましい。また、組成xが0%より大きく30%以下のInを含み、組成yが3%以上9%以下の窒素を含む少なくとも1層以上のGa1ーxInxNyAs1-y混晶半導体を備える半導体発光素子に適用することが好ましい。
更に、2.3eV以下の遷移エネルギを有し、且つ、V族元素に関する窒素組成が40%以下であるIII−V族混晶系であることが好ましい。このような範囲にすれば、発光素子として好適な波長範囲を達成できる遷移エネルギを有する半導体層が形成される。つまり、GaP半導体の遷移エネルギ2.26eV(波長、548nm)程度以下の遷移エネルギを実現できる。なお、GaNPにおいては、窒素組成40%において遷移エネルギが0eVとなる。
図18に示した特性を有する半導体層は、例えばMOCVD法のよって以下のように形成した。
面方位が(001)の半絶縁性GaAs基板上に、0.5μm厚のGaNyAs1-y混晶半導体単層膜を成長した。このときの諸条件は、MOCVD成長炉内で、成長温度570℃として、[TBAs]/[TEG](モル供給比)=5と固定して、[DMHy]/([DMHy]+[TBAs])(モル供給比)=O.256〜0.9の範囲で所望の窒素組成に合わせて変化させた。なお、[TBAs]はtーブチルアルシンであり、[TEG]はトリエチルガリウムであり、[DMHy]はジメチルヒドラジンである。
また、面方位が(001)の半絶縁性GaAs基板上に、0.5μm厚のGa1-xInxNyAs1-y混晶半導体単層膜を成長した。このときの諸条件は、MOCVD成長炉内で、成長温度530℃とした。Ga0.9In0.1N0.035As0.965混晶半導体では、[TBAs]/([TEG]+[TMI])(モル供給比)=1.8、[DMHy]/([DMHy]+[TBAs])(モル供給比)=0.98である。Ga0.85In0.15N0.053As0.947混晶半導体では、[TBAs]/([TEG]+[TMI])(モル供給比)=2、[DMHy]/([DMHy]+[TBAs])(モル供給比)=0.965である。これによって、GaAs(001)基板上に格子整合して成長する。それぞれの場合、窒素組成は[DMHy]/([DMHy]+[TBAs])を変化させて調整した。なお、[TMI]はトリメチルインジウムである。
以上、第6の実施の形態から第9の実施の形態において説明したように、本発明の半導体発光素子では、発光に寄与する遷移エネルギの温度依存性が小さい半導体材料を採用したので、発光波長の温度依存性が安定する。このため、動作の信頼性が向上するとともに、温度調整機構が不要になる。したがって、安価、小型、且つ低消費電力の半導体発光素子が提供される。
2,24,46…GaAs基板、4,26,46…バッファ層、6,30,50…下部クラッド層、8,32,52,68…活性層、8a,8c,52a,52c,68a,68c,68e,68g…障壁層、8b,52b,68b,68d,68f…井戸層、10,34,54…上部クラッド層、14,66…リッジストライプ部、16,56…埋め込み層、18,60…コンタクト層。70…第1のクラッド層、71…第1のガイド層、72…活性層、73…第2のガイド層、74…第2のクラッド層、76…半導体基板、78…バッファ層、80…コンタクト層、82…第1導電側電極、84…第2導電側電極、86…リッジストライプ部、88…中間層。96…半導体基板96、98…バッファ層、100…第1のクラッド層、101…第1のガイド層、102…活性層、103…第2のガイド層、106…埋め込み部106、104…第2のクラッド層、110…コンタクト層、112…第1導電側のストライプ電極、114…第2導電側の裏面電極、118…第1のブロック層、120…第2のブロック層。