本発明の表示装置は、390nm以上700nm以下の波長範囲に発光ピークを有する光を発する光源を備える。さらに、本発明の表示装置は、光源から発せられた光を吸収して可視光を発する蛍光体として、150℃での輝度保持率が70%以上の蛍光体(以下適宜、「輝度保持蛍光体」という)を有する蛍光体部を備える。
[I.輝度保持蛍光体]
輝度保持蛍光体に制限は無く、150℃での輝度保持率、即ち、同じ強さの励起光で励起した場合における、常温(25℃)での発光輝度に対する、150℃での発光輝度の強さの割合が、通常70%以上、好ましくは75%以上、より好ましくは80%以上である蛍光体であれば、可視光を発する限り、任意の蛍光体を用いることができる。
なお、輝度保持蛍光体は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用しても良い。さらに、2種以上の輝度保持蛍光体を併用する場合には、各輝度保持蛍光体は同一の蛍光体部に含有されていてもよく、それぞれ別の蛍光体部に含有されていても良い。
このような輝度保持蛍光体としては、例えば、以下のような赤色蛍光体、緑色蛍光体等の蛍光体を用いることができる。
[I−1.赤色蛍光体]
赤色蛍光体としては、例えば、M2Si5N8:Eu、M3SiO5:Eu(ただし、Mは1種又は2種以上のアルカリ土類金属を表す。)、αサイアロン等が挙げられる。具体的には、(Sr,Ca,Ba)2Si5N8:Eu、(Sr,Ca)2Si5N8:Eu、Sr2Si5N8:Eu、Ca2Si5N8:Eu、Sr2BaSiO5:Eu、M' XSi12-(m+n)Al(m+n)OnN16-n:Eu(ただし、M'はCa、Sr及び/又はYを表し、0<x≦2、0<m≦6、0≦n≦3である。)等が挙げられる。これらの赤色蛍光体は、610nm以上680nm以下の波長範囲に発光ピークを有する光を発する。
また、輝度保持蛍光体として使用できる赤色蛍光体の他の例としては、下記一般式(1)で表される蛍光体が挙げられる。この蛍光体は、輝度が高く、赤色域での蛍光強度が高く、温度消光が小さいので好ましい。
MaAbDcEdXe ・・・式(1)
上記一般式(1)において、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であって、Aは、M元素以外の2価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を表わし、Dは、4価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を表わし、Eは、3価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素を表わし、Xは、O、N、Fからなる群からから選ばれる1種または2種以上の元素を表わす。
また、上記一般式(1)中、a、b、c、d、及びeはそれぞれ下記範囲の数である。
0.00001≦a≦0.1
a+b=1
0.5≦c≦4
0.5≦d≦8
0.8×(2/3+4/3×c+d)≦e
e≦1.2×(2/3+4/3×c+d)
上記一般式(1)において、Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であるが、中でも、Mn、Ce、Sm、Eu、Tb、Dy、Er、及びYbからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であることが好ましく、少なくともEu又はCeを含むものであることが更に好ましい。
また、上記一般式(1)において、Aは、M元素以外の2価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であるが、中でも、Mg、Ca、Sr、及びBaからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であることが好ましく、Caであることが更に好ましい。
さらに、上記一般式(1)において、Dは、4価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であるが、中でも、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、及びHfからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であることが好ましく、Siであることが更に好ましい。
また、上記一般式(1)において、Eは、3価の金属元素からなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であるが、中でも、B、Al、Ga、In、Sc、Y、La、Gd、及びLuからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であることが好ましく、Alであることが更に好ましい。
さらに、上記一般式(1)において、Xは、O、N、及びFからなる群から選ばれる1種または2種以上の元素であるが、中でも、N、またはNとOからなることが好ましい。XがNとOからなる場合、蛍光体中のOと(O+N)の比が0<{(Oの原子数)/(Oの原子数+Nの原子数)}≦0.5であることが好ましい。この値が、この範囲を超えて大きすぎると発光強度が低くなる可能性がある。発光強度の観点からは、この値は、0.3以下がより好ましく、0.1以下が発光波長640nm〜660nmに発光ピーク波長を持つ色純度の良い赤色蛍光体となるので、更に好ましい。また、この値を0.1〜0.3とすることにより発光ピーク波長を600nm〜640nmに調整することができ、人間の視感度が高い波長域に近づくために輝度の高い表示装置が得られるので、別の観点から好ましい。
また、上記一般式(1)において、aは発光中心となる元素Mの含有量を表し、蛍光体中のMと(M+A)の原子数の比a{ただし、a=(Mの原子数)/(Mの原子数+Aの原子数)}が0.00001以上0.1以下となるようにするのがよい。a値が0.00001より小さいと発光中心となるMの数が少ないため発光輝度が低下する可能性がある。a値が0.1より大きいとMイオン間の干渉により濃度消光を起こして輝度が低下する可能性がある。中でも、MがEuの場合には発光輝度が高くなる点で、a値が0.002以上0.03以下であることが好ましい。
さらに、上記一般式(1)において、cはSiなどのD元素の含有量であり、0.5≦c≦4で示される量である。好ましくは、0.5≦c≦1.8、さらに好ましくはc=1がよい。cが0.5より小さい場合および4より大きい場合は、発光輝度が低下する可能性がある。また、0.5≦c≦1.8の範囲は発光輝度が高く、中でもc=1が特に発光輝度が高い。
さらに、上記一般式(1)において、dはAlなどのE元素の含有量であり、0.5≦d≦8で示される量である。好ましくは、0.5≦d≦1.8、さらに好ましくはd=1がよい。d値が0.5より小さい場合および8より大きい場合は発光輝度が低下する可能性がある。また、0.5≦d≦1.8の範囲は発光輝度が高く、中でもd=1が特に発光輝度が高い。
さらに、上記一般式(1)において、eはNなどのX元素の含有量であり、0.8×(2/3+4/3×c+d)以上1.2×(2/3+4/3×c+d)以下で示される量である。さらに好ましくは、e=3がよい。eの値が上記範囲外となると、発光輝度が低下する可能性がある。
以上の組成の中で、発光輝度が高く好ましい組成は、少なくとも、M元素にEu又はCeを含み、A元素にCaを含み、D元素にSiを含み、E元素にAlを含み、X元素にNを含むものである。中でも、M元素がEuであり、A元素がCaであり、D元素がSiであり、E元素がAlであり、X元素がNまたはNとOとの混合物の無機化合物;M元素がEuであり、A元素がCa及びSrであり、D元素がSiであり、E元素がAlであり、X元素がNまたはNとOとの混合物の無機化合物が望ましい。具体的には、CaAlSiN3:Eu、(Sr,Ca)AlSiN3:Euが望ましい。また、M元素がCeであり、A元素がCaであり、D元素がSiであり、E元素がAlであり、X元素がNまたはNとOとの混合物の無機化合物;M元素がCeであり、A元素がCa及びSrであり、D元素がSiであり、E元素がAlであり、X元素がNまたはNとOとの混合物の無機化合物も望ましい。具体的には、CaAlSiN3:Ce、(Sr,Ca)AlSiN3:Ceが望ましい。
この蛍光体は、少なくとも580nm以下の光で励起され、特に400nm〜550nmで最も効率がよい。発光スペクトルは、580nm〜720nmにピークを有する。
また、赤色蛍光体としては最密充填構造に近い結晶であるものが、熱安定性が良いので好ましい。さらに赤色蛍光体に含まれる窒素原子として3配位の窒素原子を含むものが、熱安定性が良いので好ましい。赤色蛍光体に含まれる窒素原子のうち、3配位の窒素原子の含有量が20%以上、好ましくは40%以上、特に60%以上であることが好ましい。ここで、M2Si5N8:Eu(ただし、Mは1種又は2種以上のアルカリ土類金属を表す。)は3配位の窒素原子の含有量が50%であり、上記式(1)で表される蛍光体、例えば:(Ca,Sr)AlSiN3:Euは3配位の窒素原子の含有量が66%である。
なお、これらの蛍光体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
上記蛍光体の粒径は、通常150μm以下、好ましくは50μm以下、より好ましくは30μm以下とすることが望ましい。この範囲を上回ると、表示装置とした場合に発光色のばらつきが大きくなると共に、蛍光体とバインダ(封止剤)とを混合した場合には蛍光体を均一に分散させることが困難となる可能性がある。また、粒径の下限は、通常1μm以上、好ましくは5μm以上とすることが望ましい。この範囲を下回ると、発光効率が低下する可能性がある。また、蛍光体の粒度分布は比較的狭いものが好ましい。
[CaAlSiN3:Eu]
ここで、本発明の表示装置において輝度保持蛍光体として用いられるCaAlSiN3:Euについて、さらに説明する。
CaAlSiN3:Euは、赤色の蛍光を発する蛍光体(赤色蛍光体)の一例である。
CaAlSiN3:Euの励起に用いることができる励起光の波長範囲は、350nm以上500nm以下である。
また、CaAlSiN3:Euが発する蛍光の発光ピークの波長範囲は、550nm以上700nm以下である。
さらに、CaAlSiN
3:Euの内部量子効率は、室温(25℃)で通常50%以上である。ここで、内部量子効率とは次の式で表わされるものである。
また、CaAlSiN3:Euは、発光輝度の温度依存性が低い。詳しくは、温度条件が変化しても輝度が変化しにくく、また、温度変化にさらされた後に元の温度状態に戻った場合に温度変化にさらされる前と同様の輝度で光ることができる。例えば、常温から150℃に加熱した場合に発光輝度の変化量が小さく、さらに、加熱後に再度常温に冷やした場合でも、その発光輝度は加熱前に比べて低下しない。具体的な性質を挙げると、CaAlSiN3:Euは、輝度保持蛍光体が有するべき好ましい150℃での輝度保持率を備えている。したがって、CaAlSiN3:Euは、本発明の表示装置に用いて好適である。
[I−2.緑色蛍光体]
緑色蛍光体としては、例えば、MSi2N2O2:Eu、M2Si7O10N4:Eu(ただしMは1種又は2種以上のアルカリ土類金属を表す。)、βサイアロン、Y3(Al,Ga)5O12等が挙げられる。具体的には、SrSi2N2O2:Eu、(Sr,Ba)Si2N2O2:Eu、SrSi2N2O2:Eu、BaSi2N2O2:Eu、Ba2Si7O10N2:Eu、Si6-zAlzOzN8-z:Eu等を挙げることができる。これらの緑色蛍光体は、500nm以上550nm以下の波長範囲に蛍光ピークを有する光を発する。
また、輝度保持蛍光体として使用できる緑色蛍光体の他の例としては、下記一般式(2)又は(3)で表される母体結晶内に、発光中心イオンとして少なくともCeを含有する蛍光体を挙げることができる。
M1 aM2 bM3 cOd (2)
ここで、M1は2価の金属元素、M2は3価の金属元素、M3は4価の金属元素をそれぞれ示し、a、b、c、dはそれぞれ下記の範囲の数である。
2.7≦a≦3.3
1.8≦b≦2.2
2.7≦c≦3.3
11.0≦d≦13.0
M4 eM5 fOg (3)
ここで、M4は2価の金属元素、M5は3価の金属元素をそれぞれ示し、e、f、gはそれぞれ下記の範囲の数である。
0.9≦e≦1.1
1.8≦f≦2.2
3.6≦g≦4.4
以下、一般式(2)についてより詳しく説明する。
本発明で使用される好適な緑色蛍光体は、下記一般式(2)表される母体結晶内に発光中心イオンとして少なくともCeを含有するものであり、式中M1は2価の金属元素、M2は3価の金属元素、M3は4価の金属元素をそれぞれ示す。
M1 aM2 bM3 cOd (2)
前記一般式(2)におけるM1は2価の金属元素を表すが、発光効率等の面から、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd、及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Mg、Ca、及びZnからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、Caが特に好ましい。この場合、Caは単独系でもよく、Mgとの複合系でもよい。M1は、基本的には、ここに例示された好ましいとされる元素から選択されることが好ましいが、性能を損なわない範囲で、他の2価の金属元素を含んでいてもよい。
また、一般式(2)におけるM2は3価の金属元素であるが、上記と同様に発光効率等の面から、Al、Sc、Ga、Y、In、La、Gd、及びLuからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Al、Sc、Y、及びLuからなる群から選択される少なくとも1種であるのが更に好ましく、Scが特に好ましい。この場合、Scは単独系でもよく、YまたはLuとの複合系でもよい。M2は、基本的には、ここに例示された好ましいとされる元素から選択されることが好ましいが、性能を損なわない範囲で、他の3価の金属元素を含んでいてもよい。
一般式(2)におけるM3は4価の金属元素であるが、発光効率等の面から、少なくともSiを含むことが好ましく、通常、M3で表される4価の金属元素の50モル%以上がSiであり、好ましくは70モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、特に90モル%以上がSiであることが好ましい。M3のSi以外の4価の金属元素としては、Ti、Ge、Zr、Sn、及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Ti、Zr、Sn、及びHfからなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、Snであることが特に好ましい。特に、M3がSiであることが好ましい。M3は、基本的には、ここに例示された好ましいとされる元素からなることが好ましいが、性能を損なわない範囲で、他の4価の金属元素を含んでいてもよい。
なお、ここで、性能を損なわない範囲で含むとは、上記M1、M2及びM3それぞれの金属元素に対し、他元素を、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下で含むことをいう。
上記一般式(2)において、a、b、c、dはそれぞれ下記の範囲の数である。
2.7≦a≦3.3
1.8≦b≦2.2
2.7≦c≦3.3
11.0≦d≦13.0
本発明に好適に用いられる緑色蛍光体は、上記一般式(2)で表される母体結晶内に発光中心イオン元素として少なくともCeを含有し、発光中心イオン元素が、M1、M2、M3のいずれかの金属元素の結晶格子の位置に置換するか、或いは、結晶格子間の隙間に配置する等により、a〜dの値は上記範囲の中で変動するが、本蛍光体の結晶構造はガーネット結晶構造であり、a=3、b=2、c=3、d=12の体心立方格子の結晶構造をとるのが一般的である。
また、この結晶構造の化合物母体内に含有される発光中心イオン元素としては、少なくともCeを含有し、発光特性の微調整のためにCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選択された1種以上の2価〜4価の元素を含ませることも可能である。特に、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、及びYbからなる群から選択された1種以上の2価〜4価の元素を含ませることが可能であり、2価のMn、2価〜3価のEu、3価のTb、又は3価のPrを好適に含有させることができる。
発光中心イオン(付活剤)としてのCeの添加量は適切に調節することが望ましい。Ce添加量が小さすぎると発光するイオンが少なすぎて発光強度が低くなる可能性があり、大きすぎると濃度消光が大きくなって発光強度が下がる可能性がある。発光強度の観点から、Ceの濃度は、上記一般式(2)で表される母体結晶1モルに対してモル比で0.0001以上、0.3以下の範囲が好ましく、0.001以上、0.1以下の範囲がより好ましく、0.005以上、0.05以下の範囲が更に好ましい。
なお、一般式(2)で表される母体結晶内に発光中心イオンとして少なくともCeを含有する蛍光体は、通常420nm〜480nmの光で励起される。発光スペクトルは、500nm〜510nmにピークを持ち、450nm〜650nmの波長成分を有する。
一般式(2)で表される母体結晶内に発光中心イオンとして少なくともCeを含有する蛍光体の中では、特にCa3Sc2Si3O12:Ce、Mgを添加したCa3Sc2Si3O12:Ceが好ましい。
これらの中でも、Mgを添加したものが好ましく、特にMgの濃度が母体結晶1モルに対して0.001以上、好ましくは0.01上、また、0.5以下、好ましくは0.3以下であるものが好ましい。このような蛍光体としては、例えば、Ca2.97Ce0.03Sc1.97Mg0.03Si3O12、Ca2.97Ce0.03Sc1.94Mg0.06Si3O12、Ca2.94Ce0.03Sc1.94Mg0.06Si3O12、Ca2.94Ce0.06Sc1.97Mg0.03Si3O12、Ca2.94Ce0.06Sc1.94Mg0.06Si3O12、Ca2.94Ce0.06Sc1.9Mg0.1Si3O12、Ca2.9Ce0.1Sc1.97Mg0.03Si3O12、Ca2.9Ce0.1Sc1.94Mg0.06Si3O12が挙げられる。
次に、一般式(3)についてより詳しく説明する。
本発明の好適な緑色蛍光体は、下記一般式(3)表される母体結晶内に発光中心イオンとして少なくともCeを含有するものであり、ここで、M4は2価の金属元素、M5は3価の金属元素をそれぞれ示す。
M4 eM5 fOg (3)
また、前記一般式(3)におけるM4は2価の金属元素であるが、発光効率等の面から、Mg、Ca、Zn、Sr、Cd、及びBaからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Mg、Sr、Ca、及びZnからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、Sr又はCaがより好ましく、Caが特に好ましい。この場合、Caは単独系でもよく、Mgとの複合系でもよい。M4は、基本的にはここに例示された好ましいとされる元素から選択されるのが好ましいが、性能を損なわない範囲で、他の2価の金属元素を含んでいてもよい。
また、一般式(3)におけるM5は3価の金属元素であるが、発光効率等の面から、Al、Sc、Ga、Y、In、La、Gd、及びLuからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、Al、Sc、Y、及びLuからなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましく、Scが特に好ましい。この場合、Scは単独系でもよく、YまたはLuとの複合系でもよい。M5は基本的には、ここに例示された好ましいとされる元素から選択されるのが好ましいが、性能を損なわない範囲で、他の3価の金属元素を含んでいてもよい。
なお、ここで、性能を損なわない範囲で含むとは、上記M4、M5それぞれの金属元素に対し、他元素を、通常10モル%以下、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下で含むことを言う。
上記一般式(3)において、e、f、gで表される元素比は、それぞれ下記の範囲の数であることが、発光特性の面で好ましい。
0.9≦e≦1.1
1.8≦f≦2.2
3.6≦g≦4.4
本発明に好適に用いられる緑色蛍光体は、前記一般式(3)で表される母体結晶内に発光中心イオン元素として少なくともCeを含有し、発光中心イオン元素が、M4、M5のいずれかの金属元素の結晶格子の位置に置換するか、或いは、結晶格子間の隙間に配置する等により、e〜gの値は前記範囲の中で変動するが、e=1、f=2、g=4であることが好ましい。
また、この結晶構造の化合物母体内に含有される発光中心イオン元素としては、少なくともCeを含有し、発光特性の微調整のためにCr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、及びYbからなる群から選択された1種以上の2価〜4価の元素を含ませることも可能であり、特に、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr、Sm、Eu、Tb、Dy、及びYbからなる群から選択された1種以上の2価〜4価の元素を含ませることが可能であり、2価のMn、2価〜3価のEu、3価のTb、又は3価のPrを好適に添加できる。
発光中心イオン(付活剤)としてのCeの添加量は適切に調節することが望ましい。Ce添加量が小さすぎると発光するイオンが少なすぎて発光強度が低くなる可能性があり、大きすぎると濃度消光が大きくなって発光強度が下がる可能性がある。発光強度の観点から、Ceの濃度は、上記一般式(3)で表される母体結晶1モルに対してモル比で0.0001以上、0.3以下の範囲が好ましく、0.001以上、0.1以下の範囲がより好ましく、0.005以上、0.05以下の範囲が更に好ましい。
また、一般式(3)で表される母体結晶内に発光中心イオンとして少なくともCeを含有する蛍光体の中では、特にCe0.01Ca0.99Sc2O4、Ce0.007Ca0.993Sc2O4、Ce0.013Ca0.987Sc2O4が好ましい。Caの一部をSrで置換したCe0.01Ca0.94Sr0.05Sc2O4、Ce0.01Ca0.89Sr0.1Sc2O4、Ce0.01Ca0.84Sr0.15Sc2O4も好ましい蛍光体の例である。また、Srを増加させることにより緑色の色純度を向上させることができるので表示装置として使用する場合に好ましい。
これらの蛍光体は、発光ピーク波長が比較的長波長であり、また輝度が高いため好ましい。
なお、これらの蛍光体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
[Ca3Sc2Si3O12:Ce]
ここで、本発明の表示装置において輝度保持蛍光体として用いられるCa3Sc2Si3O12:Ceについて、さらに説明する。
Ca3Sc2Si3O12:Ceは、緑色の蛍光を発する蛍光体(緑色蛍光体)である。
Ca3Sc2Si3O12:Ceの励起に用いることができる励起光の波長範囲は、350nm以上500nm以下である。
また、Ca3Sc2Si3O12:Ceが発する蛍光の発光ピークの波長範囲は、470nm以上550nm以下である。
さらに、Ca3Sc2Si3O12:Ceの内部量子効率は、室温(25℃)で通常60%以上である。
このCa3Sc2Si3O12:Ceは発光輝度の温度依存性が低い。詳しくは、温度条件が変化しても輝度が変化しにくく、また、温度変化にさらされた後に元の温度状態に戻った場合に温度変化にさらされる前と同様の輝度で光ることができる。例えば、CaAlSiN3:Euと同様、常温から150℃に加熱した場合に発光輝度の変化量が小さく、さらに、加熱後に再度常温に冷やした場合でも、その発光輝度は加熱前に比べて低下しない。具体的な性質を挙げると、Ca3Sc2Si3O12:Ceは、輝度保持蛍光体が有するべき好ましい150℃での輝度保持率を備えている。したがって、Ca3Sc2Si3O12:Ceも、本発明の表示装置に用いて好適である。
[II.実施形態]
以下、本発明について実施形態を示して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変形して実施することができる。
[第1実施形態]
図1は、本発明の第1実施形態としての表示装置の要部を模式的に示す分解断面図である。なお、図1に示す表示装置においては、観察者は図中右側から表示装置が表示する画像を見るようになっているものとする。
図1に示すように、本実施形態の表示装置1は、光源2と、光源2から発せられた光を吸収して可視光を発する蛍光体を含有する蛍光体部(第1蛍光体部)3R及び蛍光体部(第2蛍光体部)3Gと、光源2が発した光を前方に透過させる光透過部3Bと備える。
以下、各部材について説明を行なう。
[1.フレーム]
フレーム4は、表示装置1を構成する光源2等の部材を保持する基部であり、その形状は任意である。
また、フレーム4の材質も任意であり、例えば、金属、合金、ガラス、カーボン等の無機材料、合成樹脂等の有機材料など、用途に応じて適当なものを用いることができる。
ただし、光源2から発せられた光を有効に活用し、表示装置1の発光効率を改善する観点からは、光源2から発せられた光が当たるフレーム4の面は、当たった光の反射率を高められていることが好ましい。したがって、少なくとも光が当たる面は、反射率が高い素材により形成されていることが好ましい。具体例としては、ガラス繊維、アルミナ粉、チタニア粉等の高い反射率を有する物質を含んだ素材(射出整形用樹脂など)でフレーム4の全体又はフレーム4の表面を形成することが挙げられる。
また、フレーム4の表面の反射率を高める具体的な方法は任意であり、上記のようにフレーム4自体の材料を選択するほか、例えば、銀、白金、アルミニウム等の高反射率を有する金属や合金でメッキ、或いは蒸着処理することにより、光の反射率を高めることもできる。
なお、反射率を高める部分は、フレーム4の全体であっても一部であってもよいが、通常は、光源2から発せられる光が当たる部分の全表面の反射率が高められていることが望ましい。
さらに、通常は、フレーム4には光源2に対して電力を供給するための電極や端子等が設けられる。この際、電極や端子と光源2とを接続する手段は任意であり、例えば、光源2と電極や端子とをワイヤボンディングにより結線して電力供給することができる。用いるワイヤに制限はなく、素材や寸法などは任意である。例えば、ワイヤの素材としては金、アルミニウム等の金属を用いることができ、また、その太さは通常20μm〜40μmとすることができるが、ワイヤはこれに限定されるものではない。
また、光源2に電力を供給する他の方法の例としては、バンプを用いたフリップチップ実装により光源2に電力を供給する方法が挙げられる。
さらに、光源2に電力を供給する場合には、ハンダを用いるようにしてもよい。ハンダは優れた放熱性を発揮するため、放熱性が重要となる大電流タイプの発光ダイオード(以下適宜、「LED」という)やレーザーダイオード(以下適宜、「LD」という)などを光源2として用いた場合に、表示装置1の放熱性を向上させることができるためである。ハンダの種類は任意であるが、例えば、AuSn、AgSn等を用いることができる。
また、電極や端子に接続して電力の供給経路に用いる他、ハンダは、単にフレーム4に光源2を設置するために用いるようにしても良い。
さらに、ハンダ以外の手段によって光源2をフレーム4に取り付ける場合には、例えば、エポキシ樹脂、イミド樹脂、アクリル樹脂等の接着剤を用いてもよい。この場合、接着剤に銀粒子、炭素粒子等の導電性フィラーを混合させてペースト状にしたものを用いることにより、ハンダを用いる場合のように、接着剤を通電して光源2に電力供給できるようにすることも可能である。さらに、これらの導電性フィラーを混合させると、放熱性も向上するため、好ましい。
本実施形態においては、表面の反射率を高めた平板状のフレーム4を用い、その表面には、光源2に電力を供給するための端子(図示省略)が設けられているものとする。
また、その端子には、電源(図示省略)から電力が供給されるようになっているものとする。
[2.光源]
光源2は、蛍光体部3R,3Gに含有される蛍光体を励起する励起光を発するものである。さらに、本実施形態においては、光源2が発する光は、光透過部3Bを介して表示装置1の外部に発せられ、表示装置1の観察者が見るようにもなっている。即ち、光源2から発せられた光は画素が発する光自体ともなる。
光源2が発する光は、蛍光体を励起できる可視領域に発光波長を有するものであればよい。例えば、後述する実施形態のように、蛍光体としてCaAlSiN3:Eu、及び、Ca3Sc2Si3O12:Ceを用いる場合は、これらのCaAlSiN3:Eu及びCa3Sc2Si3O12:Ceを励起できる可視領域に発光波長を有するものであればよい。
具体的には、光源2が発する光は、通常390nm以上、好ましくは440nm以上、また、通常700nm以下、好ましくは500nm以下の波長範囲に発光ピークを有するものである。この範囲の下限を下回ると、表示装置1として、液晶光シャッターを用いた場合に、光源2が発する光(この場合は紫外線)により液晶物質自体が破壊される可能性があるからである。一方、上記の範囲の上限を超えると、蛍光体の発光効率が低くなり画素の輝度の低下が起こったり色再現範囲が狭くなったりする可能性があるため、好ましくない。
なお、光源2が発光のピークを2以上有する場合、上記の範囲内に少なくとも1つのピークを有していれば良い。即ち、本実施形態の場合は、上記の波長の範囲において、CaAlSiN3:Eu及びCa3Sc2Si3O12:Ceの少なくともいずれか一方の蛍光体を励起しうるピークを有していれば良いのである。
光源2は、電気エネルギーによって、蛍光体部3R,3Gに含まれる蛍光体を光励起するための上記の波長範囲の光を発する素子であれば任意のものを用いることができる。光源2の例としては、例えば、ハロゲンランプ、水銀ランプ、水素放電管、ネオンランプ、キセノンランプ、低圧ナトリウムランプ、蛍光ランプ(冷陰極管や熱陰極管等)等のランプ;無機半導体LED等のLEDや有機EL素子などのエレクトロルミネッセント光源;などが挙げられる。中でも、通常はLEDや蛍光ランプが好ましい。
特に、水銀の低圧放電から発生する紫外光によって蛍光体を発光させる蛍光ランプは、蛍光体を選ぶことにより様々な波長スペクトルが得られることから自由度が大きく、比較的電力消費が少なく、かつ小型であることから特に好ましい。また、蛍光ランプは、従来使用されている冷陰極管、熱陰極管を使用することができるが、白色光を使用すると青、緑、赤色の発光領域に他の色が混入してくるため、フィルタ等を使用して白色光の中の青色領域のみを取り出すことが望ましい。中でも特に好ましくは、青色蛍光体のみを塗布した蛍光ランプを使用すれば消費電力低減に効果的である。
一方、LEDとしては、最近は高輝度の青色や白色の無機半導体LEDも入手できることから、これらの光源を使用することも可能である。特に青色発光無機半導体LEDは、選択的に本発明に好ましい波長領域での光を放出できることから好適に用いることができる。
また、LEDや蛍光ランプ等の光源2は、アレイ状に配置することが好ましい。即ち、光源2は、それぞれ、その上に画像を形成することができる領域を個別に指定できるように、全体的に行および列状に配列されていることが好ましい。これにより、蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bをアレイ状に配置することが可能となり、表示装置1に適切にフルカラー画像を形成させることが可能となる。
さらに、光源2から蛍光体部3R,3Gや光透過部3Bに光を照射する場合、光を直接に蛍光体部3R,3Gや光透過部3Bに入射させるようにしてもよく、また、反射板を設置して一度反射させてから蛍光体部3R,3Gや光透過部3Bに入射させるようにしてもよい。なお、フレーム4として高い反射率を有するものを用いたように、光源2の背面(観察者とは反対側)に反射板を設けるようにすれば、光源2から発せられる光の利用効率を高めることができる。
また、光源2の寸法に制限は無い。
さらに、光源2をフレーム4に設置する際、その設置手段に制限は無く、公知の任意の手段を用いることができる。したがって、上述したように、例えば、光源2をハンダ等を用いてフレーム4に設置することができる。
本実施形態では、光源2として青色の光を発光するLED(発光素子)を各蛍光体部3R,3G及び光透過部3B毎に設けていて、この光源2からの光によって、蛍光体部3R,3G内に含まれるCaAlSiN3:EuやCa3Sc2Si3O12:Ceなどの蛍光体を励起するようになっている。また、光源2が発した光の一部は、光透過部3Bを透過し、青色の画素の光として観察者に観られるようにもなっている。さらに、光源2への電力供給は、相互接続回路やワイヤ等を用いて、フレーム4上の端子と光源2の電極とを電気的に接続することにより行なわれている。ただし、各光源2に供給される電力の大きさは、図示しない制御部により、表示しようとする画像に応じて各光源2毎に制御されているものとする。
[3.蛍光体部並びに光透過部]
蛍光体部3R,3Gは、光源2が発した励起光を吸収し、表示装置1が表示する画像を形成するための可視光を発する蛍光体を含有する部分である。本発明においては、蛍光体部3R,3Gの少なくとも一方が、蛍光体として輝度保持蛍光体(例えばCaAlSiN3:EuやCa3Sc2Si3O12:Ce)のうちの少なくともいずれか1種を含有するようにする。また、蛍光体部3R,3Gは画素に対応して通常1つずつ設けられ、表示装置1の画素が発することになる光を生じるようになっている。
さらに、光透過部3Bは、蛍光体部3R,3Gと同様に画素毎に設けられたもので、光源2の光を画素の光の一部として用いるために前方へ透過させる部分である。通常、光透過部3Bは、蛍光体を含有しない他は蛍光体部3R,3Gと同様に設けられる。
したがって、本実施形態では、観察者は、この蛍光体部3R,3Gが発する蛍光、及び、光透過部3Bを介して放出される光源2が発する光を見て画像を認識するようになっている。
(i.蛍光体部)
本実施形態においては、蛍光体部3Rは、赤色の画素に対応して赤色の蛍光を発するように形成されたもので、輝度保持蛍光体としてCaAlSiN3:Euを含有している。
一方、蛍光体部3Gは、緑色の画素に対応して緑色の蛍光を発するように形成されたもので、輝度保持蛍光体としてCa3Sc2Si3O12:Ceを含有している。
これらの発光輝度の温度依存性が低い蛍光体であるCaAlSiN3:Eu及び/又はCa3Sc2Si3O12:Ceを含有させることにより、表示装置1自体の温度依存性を抑制し、温度条件によって表示する画像の発色が意図した色からずれることを防止することも可能である。
さらに、上記のCaAlSiN3:EuやCa3Sc2Si3O12:Ce等の輝度保持蛍光体以外の蛍光体を併用し、蛍光体部3R,3Gにそれらの併用する蛍光体(以下適宜、「併用蛍光体」という)を適宜含有させても良い。
併用蛍光体に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。併用蛍光体の発光色は、その用途によって適切な色があるので特に限定されないが、例えばフルカラーディスプレイを作製する場合には、色純度の高い青、緑、赤色発光体が好ましく用いられる。その適切な色の表現方法については幾つかの方法があるが、簡便には発光の発光ピーク波長やCIE色度座標などが使用される。また、光波長変換機構がモノクロ表示やマルチカラー表示であるときは、紫、青紫、黄緑、黄色、オレンジ色に発色する蛍光体を含むことが好ましい。なお、併用蛍光体を併用し、蛍光体を2つ以上混合して蛍光体部3R,3Gに用いるようにすれば、色純度の高い発光を行なったり中間色や白色の発光を行なったりすることが可能となる。
併用蛍光体の発光の発光ピーク波長に関して言えば、例えば、赤色の蛍光を発する併用蛍光体が発する蛍光の具体的な波長の範囲を例示すると、発光ピーク波長が、通常370nm以上、好ましくは380nm以上、また、通常500nm以下、好ましくは480nm以下が望ましい。
また、例えば、緑色の蛍光を発する併用蛍光体が発する蛍光の具体的な波長の範囲を例示すると、発光ピーク波長が、通常490nm以上、好ましくは500nm以上、また、通常570nm以下、好ましくは550nm以下が望ましい。
さらに、例えば、青色の蛍光を発する併用蛍光体が発する蛍光の具体的な波長の範囲を例示すると、発光ピーク波長が、通常420nm以上、好ましくは440nm以上、また、通常480nm以下、好ましくは470nm以下が望ましい。
また、併用蛍光体の組成には特に制限はないが、結晶母体であるY2O3、Zn2SiO4等に代表される金属酸化物、Ca5(PO4)3Cl等に代表されるリン酸塩及びZnS、SrS、CaS等に代表される硫化物に、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb等の希土類金属のイオンやAg、Al、Mn、Sb等の金属のイオンを賦活剤または共賦活剤として組み合わせたものが好ましい。
結晶母体の好ましい例としては、例えば、ZnS、Y2O2S、(Y,Gd)3Al5O12、YAlO3、BaAl2Si2O8、Y3Al5O12、Y2SiO5、Zn2SiO4、Y2O3、BaMgAl10O17、BaAl12O19、(Ba,Sr,Mg)O・αAl2O3、(Y,Gd)BO3、Y2O3、(Zn,Cd)S、SrGa2S4、SrS、SnO2、Ca10(PO4)6(F,Cl)2、(Ba,Sr)(Mg,Mn)Al10O17、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO4)6Cl2、(La,Ce)PO4、CeMgAl11O19、GdMgB5O10、Sr2P2O7、Sr4Al14O25、(Ba,Sr,Ca)(Mg,Zn,Mn)Al10O17などを挙げることができる。
ただし、上記の結晶母体及び賦活剤または共賦活剤は、元素組成には特に制限はなく、同族の元素と一部置き換えることもでき、得られた蛍光体は光源2からの光を吸収して可視光を発するものが好ましい。以下、使用できる併用蛍光体の例を挙げる。ただし、本実施形態の表示装置1に使用される蛍光体は以下に例示したものに限定されるものではない。
・赤色の併用蛍光体:
本実施形態において使用できる赤色発光が可能な併用赤色蛍光体としては、例えば、赤色破断面を有する破断粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)2Si5N8:Euで表わされるユウロピウム賦活アルカリ土類シリコンナイトライド系蛍光体、規則的な結晶成長形状としてほぼ球形状を有する成長粒子から構成され、赤色領域の発光を行なう(Y,La,Gd,Lu)2O2S:Euで表わされるユウロピウム賦活希土類オキシカルコゲナイト系蛍光体等が挙げられる。
さらに、特開2004−300247号公報に記載された、Ti、Zr、Hf、Nb、Ta、W、及びMoよりなる群から選ばれる少なくも1種の元素を含有する酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体であって、Al元素の一部又は全てがGa元素で置換されたアルファサイアロン構造をもつ酸窒化物を含有する蛍光体も、本実施形態において併用蛍光体として用いることができる。なお、これらは酸窒化物及び/又は酸硫化物を含有する蛍光体である。
また、そのほか、赤色の併用蛍光体としては、例えば、Y2O2S:Eu3+、(BaMg)2SiO4:Eu3+、(BaCaMg)5(PO4)3Cl:Eu3+、YVO4:Eu3+、CaS:Eu3+、YAlO3:Eu3+、Ca2Y8(SiO4)6O2:Eu3+、LiY9(SiO4)6 O2:Eu3+、(Y,Gd)3Al5O12:Ce3+、(Ca,Sr)2Si5N8:Eu、CaSiN2:Eu、(Sr,Ca,Ba,Mg)10(PO4)6Cl2:Eu,Mn、(Ba3Mg)Si2O8:Eu,Mnなどを用いることも可能である。
・緑色の併用蛍光体:
本実施形態において使用できる緑色発光が可能な併用蛍光体として、例えば、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Mg,Ca,Sr,Ba)Si2O2N2:Euで表わされるユウロピウム賦活アルカリ土類シリコンオキシナイトライド系蛍光体、破断面を有する破断粒子から構成され、緑色領域の発光を行なう(Ba,Ca,Sr)2SiO4:Euで表わされるユウロピウム賦活アルカリ土類マグネシウムシリケート系蛍光体等が挙げられる。
また、そのほか、緑色の併用蛍光体としては、例えば、BaMgAl10O17:Eu2+,Mn2+、Sr4Al14O25:Eu2+、(SrBa)Al2Si2O8:Eu2+、(BaMg)2SiO4:Eu2+、Y2SiO5:Ce3+,Tb3+、Sr2P2O7−Sr2B2O5:Eu2+、(BaCaMg)10(PO4)6Cl:Eu2+、Sr2Si3O8−2SrCl2:Eu2+、Zr2SiO4,MgAl11O19:Ce3+,Tb3+、Ba2SiO4:Eu2+、Ca2Y8(SiO4)6 O2:Tb3+、Y3Al5O12:Tb3+、La3Ga5SiO14:Tb3+、SrGa2S4:Eu2+,Tb3+,Sm2+、Y3(Al,Ga)5O12:Ce、SrSi2O2N2:Eu、BaMgAl10O17:Eu,Mn、SrAl2O4:Euなどを用いることも可能である。
なお、上記の併用蛍光体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
ただし、本発明の効果を確実に得る観点では、併用蛍光体を用いる場合であっても蛍光体全体の使用量に対する輝度保持蛍光体の割合は大きいほど好ましく、全ての蛍光体を輝度保持蛍光体とすることがより好ましい。
さらに、蛍光体部3R,3Gには、外部環境からの外力や水分などから蛍光体を保護するため、通常、バインダーを用いる。具体的には、バインダー中に蛍光体を分散させた成形体により、蛍光体部3R,3Gを構成する。
本実施形態において使用するバインダーに制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない範囲で任意のものを用いることができるが、通常は、蛍光や励起光を適切に透過させるべく、無色透明の材料を用いることが好ましい。
また、バインダーは1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
ただし、通常は、非芳香族エポキシ樹脂又はシリコーン系材料を用いることが好ましい。非芳香族エポキシ樹脂又はシリコーン系材料は、高耐光性及び透明性に優れているためである。なかでも、非芳香族エポキシ樹脂としては、無機塩素含有量を1ppm以下、有機塩素含有量を5ppm以下とすることができる非芳香族エポキシ樹脂が好ましい。特に、蒸留生成され塩素成分を全く含有しないものがより好ましい。なお、本実施形態においては、ppmは重量に基づく割合を示す。また、シリコーン系材料は、高耐熱性にも優れるのでより好ましい。
好ましい非芳香族エポキシ樹脂の具体例を挙げると、3,4エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′エポキシシクロヘキシルカルボキシレートに代表される脂環式エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂を主体にヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、水素化ビスフェノールAジグリシジルエーテルなどのシクロヘキサン誘導体とエピクロルヒドリンよりなるエポキシ樹脂;ビスフェノールAジグリシジエーテルよりなる液状又は固形のエポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート等の含窒素エポキシ樹脂などが挙げられる。
また、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用いる場合、下記の硬化剤、助触媒、硬化促進剤を適宜混合させることができる。
硬化剤は、非芳香族エポキシ樹脂を硬化させるものである。硬化剤としては、例えば、酸無水物が好ましいものとして挙げられる。酸無水物の中でも、バインダー中の物質には耐光性が要求されるため、非芳香族かつ炭素二重結合を化学的に有しない多塩基酸カルボン酸無水物が好ましい。具体的には、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、トリアルキルテトラヒドロ無水フタル酸、水素化メチルナジック酸無水物などが挙げられる。中でも、硬化反応性と耐湿性とのバランスの良いため、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸が好ましい。
なお、硬化剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、硬化剤の使用量に制限は無いが、非芳香族エポキシ樹脂100重量部に対し、通常50重量部以上、好ましくは80重量部以上、また、通常150重量部以下、好ましくは130重量部以下用いるようにすることが望ましい。
さらに、助触媒は、非芳香族エポキシ樹脂の硬化物(蛍光体部3R,3Gや光透過部3Bを含む。以下同様)に可撓性を付与し、剥離接着力を向上させるものである。助触媒の中でも、アルコール・ポリオール類は、硬化促進剤の相溶化剤としても機能することができ、好ましい。アルコール・ポリオール類の中でも、バインダー中の物質には耐光性が要求されるため、非芳香族かつ炭素二重結合を化学構造的に有しない炭素数2〜12の直鎖型、分岐型、脂環型、エーテル基含有型のいずれかからなるアルコール・ポリオール類が好適に用いられる。具体的には、プロパノール、イソプロパノール、メチルシクロヘキサノール、エチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、エチレングリコールモノメチルエーテルなどが挙げられる。中でも、エチレングリコール等の低分子量ジオールが好ましい。
なお、助触媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
また、アルコール・ポリオール類は、上記のように硬化促進剤の相溶化剤としても機能するため、硬化促進剤の化学構造と配合量に影響を受ける。
さらに、助触媒の使用量に制限は無いが、非芳香族エポキシ樹脂100重量部に対し、通常1重量部以上、好ましくは5重量部以上、また、通常30重量部以下、好ましくは15重量部以下が望ましい。
また、硬化促進剤は、非芳香族エポキシ樹脂の硬化を促進するものである。硬化促進材としては、例えば、
〔1〕第三級アミン類若しくはイミダゾール類及び/又はそれらの有機カルボン酸塩、
〔2〕ホスフィン類及び/又はそれらの第四級塩、
〔3〕有機カルボン酸金属塩、
〔4〕金属−有機キレート化合物、
〔5〕芳香族スルホニウム塩
などが挙げられる。
なお、硬化促進剤は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
以下、硬化促進剤として例示したものについて、それぞれ説明する。
〔1〕第三級アミン類若しくはイミダゾール類及び/又はそれらの有機カルボン酸塩:
第三級アミン類若しくはイミダゾール類及び/又はそれらの有機カルボン酸塩としては、例えば、2,4,6−トリス(ジアミノメチル)フェノール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビスシクロ(5,4,0)ウンデセン−7(以下適宜、「DBU」という)とそのオクチル酸塩などが挙げられる。中でも、非芳香族エポキシ樹脂の硬化物の透光性を高めることができるため、DBUオクチル酸塩が好ましい。
なお、硬化促進剤として第三級アミン類若しくはイミダゾール類及び/又はそれらの有機カルボン酸塩を用いる場合、硬化促進剤の使用量に制限は無いが、表示装置1の耐湿特性の観点から、非芳香族エポキシ樹脂100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、また、通常1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下とすることが望ましい。
〔2〕ホスフィン類及び/又はそれらの第四級塩:
ホスフィン類とその第四級塩としては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、ベンジルトリフェニルホスホニウム臭素塩、ベンジルトリブチルホスホニウム臭素塩などが挙げられる。中でも、非芳香族エポキシ樹脂の硬化物の透光性を高めることができるため、ベンジルトリフェニルホスホニウム臭素塩が好ましい。
なお、硬化促進剤としてホスフィン類及び/又はそれらの第四級塩を用いる場合、硬化促進剤の使用量に制限は無いが、表示装置1の耐湿特性の観点から、非芳香族エポキシ樹脂100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.1重量部以上、また、通常1重量部以下、好ましくは0.5重量部以下とすることが望ましい。
〔3〕有機カルボン酸金属塩:
有機カルボン酸金属塩としては、例えば、耐光性に劣る炭素二重結合を有さないオクチル酸亜鉛、ラウリン酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛、オクチル酸錫などが挙げられる。また、有機カルボン酸金属塩は、有機カルボン酸成分の炭素数増加と比例して、非芳香族エポキシ樹脂への溶解性が低下する。しかし、オクチル酸亜鉛は、配合量に最も幅を有しており、更に、液状であるため、分散溶解に時間を要さない。したがって、硬化性の観点から、有機カルボン酸金属塩の中でも、オクチル酸亜鉛が特に好ましい。
なお、硬化促進剤として有機カルボン酸金属塩を用いる場合、硬化促進剤の使用量に制限は無いが、非芳香族エポキシ樹脂の硬化物の透光性を高める観点からは、非芳香族エポキシ樹脂100重量部に対して、通常1重量部以上、また、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下とすることが望ましい。
〔4〕金属−有機キレート化合物:
金属−有機キレート化合物としては、透明性に影響のない亜鉛とβ−ジケトンとよりなるアセチルアセトン亜鉛キレート、ベンゾイルアセトン亜鉛キレート、ジベンゾイルメタン亜鉛キレート、アセト酢酸エチル亜鉛キレートなどが挙げられる。中でも、亜鉛キレート化合物を用いた場合には、優れた耐光性・耐熱性を非芳香族エポキシ樹脂に付与することができる。また、亜鉛キレート化合物は、非芳香族エポキシ樹脂への選択的かつ穏やかな硬化促進作用を有するため、脂環式エポキシ樹脂のような低分子量モノマーを主体としても低応力接着が可能となる。
さらに、亜鉛キレート化合物の中でも、扱い易さなどから、アセチルアセトンをキレート成分としたビス(アセチルアセトナト)アクア亜鉛(2)[Zn(C5H7O2)2(H2O)]が好ましい。
なお、硬化促進剤として金属−有機キレート化合物を用いる場合、硬化促進剤の使用量に制限は無いが、非芳香族エポキシ樹脂への溶解性の観点からは、非芳香族エポキシ樹脂100重量部に対して、通常1重量部以上、また、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下とすることが望ましい。
〔5〕芳香族スルホニウム塩:
芳香族スルホニウム塩は、通常、非芳香族エポキシ樹脂中に硬化剤である酸無水物を含まない非芳香族エポキシ樹脂単独組成で使用される。
また、芳香族スルホニウム塩を用いた場合には、熱及び/又は360nm以下の紫外光により分解し、カチオンを発生して、非芳香族エポキシ樹脂カチオン重合硬化物を得ることができる。この得られた硬化物はエーテル架橋されており、硬化剤で硬化したものよりも物理的、化学的により安定である。
芳香族スルホニウム塩としては、例えば、トリフェニルスルホニウム六フッ化アンチモン塩、トリフェニルスルホニウム六フッ化りん塩などが挙げられる。中でも、トリフェニルスルホニウム六フッ化アンチモン塩は硬化速度が速く少量配合でも十分硬化することから好ましい。
なお、硬化促進剤として芳香族スルホニウム塩を用いる場合、硬化促進剤の使用量に制限は無いが、連鎖重合発熱による非芳香族エポキシ樹脂の硬化物の変色を防止する観点からは、非芳香族エポキシ樹脂100重量部に対して、通常0.01重量部以上、好ましくは0.05重量部以上、また、通常0.5重量部以下、好ましくは0.3重量部以下とすることが望ましい。
一方、本発明におけるシリコーン系材料としては、シリコーン樹脂等を用いることができる。中でも、透明性、耐光性、耐熱性に優れることから、以下の特徴(1)〜(3)を有するシリコーン系材料(以下適宜、「本発明のシリコーン材料」という)が好ましい。
(1)固体Si−NMRスペクトルにおいて、
(i)ピークトップの位置がケミカルシフト−40ppm以上0ppm以下の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上、3.0ppm以下であるピーク、及び、
(ii)ピークトップの位置がケミカルシフト−80ppm以上−40ppm未満の領域にあり、ピークの半値幅が0.3ppm以上5.0ppm以下であるピーク
からなる群より選ばれるピークを、少なくとも1つ有する。
(2)ケイ素含有率が20重量%以上である。
(3)シラノール含有率が、0.1重量%以上10重量%以下である。
以下、これらの特徴(1)〜(3)について説明する。
〔固体Si−NMRスペクトル〕
ケイ素を主成分とする化合物は、SiO2・nH2Oの示性式で表されるが、構造的には、ケイ素原子Siの四面体の各頂点に酸素原子Oが結合され、これらの酸素原子Oに更にケイ素原子Siが結合してネット状に広がった構造を有する。そして、以下に示す模式図は、上記の四面体構造を無視し、Si−Oのネット構造を表わしたものであるが、Si−O−Si−O−の繰り返し単位において、酸素原子Oの一部が他の成員(例えば−H、−CH3など)で置換されているものもあり、一つのケイ素原子Siに注目した場合、模式図の(A)に示す様に4個の−OSiを有するケイ素原子Si(Q4)、模式図の(B)に示す様に3個の−OSiを有するケイ素原子Si(Q3)等が存在する。そして、固体Si−NMR測定において、上記の各ケイ素原子Siに基づくピークは、順次に、Q4ピーク、Q3ピーク、・・・と呼ばれる。
これら酸素原子が4つ結合したケイ素原子は、一般にQサイトと総称される。本発明においてはQサイトに由来するQ0〜Q4の各ピークをQnピーク群と呼ぶこととする。有機置換基を含まないシリカ膜のQnピーク群は、通常ケミカルシフト−80〜−130ppmの領域に連続した多峰性のピークとして観測される。
これに対し、酸素原子が3つ結合し、それ以外の原子(通常は炭素である。)が1つ結合しているケイ素原子は、一般にTサイトと総称される。Tサイトに由来するピークはQサイトの場合と同様に、T0〜T3の各ピークとして観測される。本発明においてはTサイトに由来する各ピークをTnピーク群と呼ぶこととする。Tnピーク群は一般にQnピーク群より高磁場側(通常ケミカルシフト−80〜−40ppm)の領域に連続した多峰性のピークとして観測される。
更に、酸素原子が2つ結合するとともに、それ以外の原子(通常は炭素である)が2つ結合しているケイ素原子は、一般にDサイトと総称される。Dサイトに由来するピークも、QサイトやTサイトに由来するピーク群と同様に、D0〜Dnの各ピーク(Dnピーク群)として観測され、QnやTnのピーク群より更に、高磁場側の領域(通常ケミカルシフト0〜−40ppmの領域)に、多峰性のピークとして観測される。これらのDn、Tn、Qnの各ピーク群の面積の比は、各ピーク群に対応する環境におかれたケイ素原子のモル比と夫々等しいので、全ピークの面積を全ケイ素原子のモル量とすれば、Dnピーク群及びTnピーク群の合計面積は通常これに対する炭素原子と直接結合した全ケイ素のモル量と対応することになる。
本発明のシリコーン系材料の固体Si−NMRスペクトルを測定すると、有機基の炭素原子が直接結合したケイ素原子に由来するDnピーク群及びTnピーク群と、有機基の炭素原子と結合していないケイ素原子に由来するQnピーク群とが、各々異なる領域に出現する。これらのピークのうち−80ppm未満のピークは前述の通りQnピークに該当し、−80ppm以上のピークはDn、Tnピークに該当する。本発明のシリコーン系材料においてはQnピークは必須ではないが、Dn、Tnピーク領域に少なくとも1本、好ましくは複数本のピークが観測される(特徴(1))。
なお、シリコーン系材料のケミカルシフトの値は、例えば以下の方法を用いて固体Si−NMR測定を行ない、その結果に基づいて算出することができる。また、測定データの解析(半値幅やシラノール量解析)は、例えばガウス関数やローレンツ関数を使用した波形分離解析等により、各ピークを分割して抽出する方法で行なう。
〔固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出〕
シリコーン系材料について固体Si−NMRスペクトルを行なう場合、以下の条件で固体Si−NMRスペクトル測定及び波形分離解析を行なう。また、得られた波形データより、シリコーン系材料について、各々のピークの半値幅を求める。また、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することによりシラノール含有率を求める。
<装置条件>
装置:Chemagnetics社 Infinity CMX−400 核磁気共鳴分光装置
29Si共鳴周波数:79.436MHz
プローブ:7.5mmφCP/MAS用プローブ
測定温度:室温
試料回転数:4kHz
測定法:シングルパルス法
1Hデカップリング周波数:50kHz
29Siフリップ角:90゜
29Si90゜パルス幅:5.0μs
くり返し時間:600s
積算回数:128回
観測幅:30kHz
ブロードニングファクター:20Hz
<データ処理法>
シリコーン系材料については、512ポイントを測定データとして取り込み、8192ポイントにゼロフィリングしてフーリエ変換する。
<波形分離解析法>
フーリエ変換後のスペクトルの各ピークについてローレンツ波形及びガウス波形或いは両者の混合により作成したピーク形状の中心位置、高さ、半値幅を可変パラメータとして、非線形最小二乗法により最適化計算を行なう。
なお、ピークの同定は、AIChE Journal,44(5),p.1141,1998年等を参考にする。
〔ケイ素含有率〕
本発明のシリコーン系材料は、ケイ素含有率が20重量%以上である(特徴(2))。従来のシリコーン系材料の基本骨格は炭素−炭素及び炭素−酸素結合を基本骨格としたエポキシ樹脂等の有機樹脂であるが、これに対し本発明のシリコーン系材料の基本骨格はガラス(ケイ酸塩ガラス)などと同じ無機質のシロキサン結合である。このシロキサン結合は、下記表1の化学結合の比較表からも明らかなように、シリコーン系材料として優れた以下の特徴がある。
(I)結合エネルギーが大きく、熱分解・光分解しにくいため、耐光性が良好である。
(II)電気的に若干分極している。
(III)鎖状構造の自由度は大きく、フレキシブル性に富む構造が可能であり、シロキサン鎖中心に自由回転可能である。
(IV)酸化度が大きく、これ以上酸化されない。
(V)電気絶縁性に富む。
これらの特徴から、シロキサン結合が3次元的に、しかも高架橋度で結合した骨格で形成されるシリコーン系材料は、ガラス或いは岩石などの無機質に近く、耐熱性・耐光性に富む保護皮膜となることが理解できる。特にメチル基を置換基とするシリコーン系材料は、紫外領域に吸収を持たないため光分解が起こりにくく、耐光性に優れる。
本発明のシリコーン系材料のケイ素含有率は、上述の様に20重量%以上であるが、中でも25重量%以上が好ましく、30重量%以上がより好ましい。一方、上限としては、SiO2のみからなるガラスのケイ素含有率が47重量%であるという理由から、通常47重量%以下の範囲である。
なお、シリコーン系材料のケイ素含有率は、例えば以下の方法を用いて誘導結合高周波プラズマ分光(inductively coupled plasma spectrometry:以下適宜「ICP」と略する。)分析を行ない、その結果に基づいて算出することができる。
〔ケイ素含有率の測定〕
シリコーン系材料の単独硬化物を100μm程度に粉砕し、白金るつぼ中にて大気中、450℃で1時間、ついで750℃で1時間、950℃で1.5時間保持して焼成し、炭素成分を除去した後、得られた残渣少量に10倍量以上の炭酸ナトリウムを加えてバーナー加熱し溶融させ、これを冷却して脱塩水を加え、更に塩酸にてpHを中性程度に調整しつつケイ素として数ppm程度になるよう定容し、ICP分析を行なう。
〔シラノール含有率〕
本発明のシリコーン系材料は、シラノール含有率が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、また、通常10重量%以下、好ましくは8重量%以下、更に好ましくは5重量%以下の範囲である(特徴(3))。
通常、アルコキシシランを原料としてゾルゲル法により得られるガラス体は、150℃、3時間程度の温和な硬化条件では完全に重合して酸化物になることは無く、一定量のシラノールが残存する。テトラアルコキシシランのみより得られるガラス体は高硬度・高耐光性であるが、架橋度が高いため分子鎖の自由度が小さく、完全な縮合が起こらないため残存シラノールの量が多い。また、加水分解・縮合液を乾燥硬化する際には、架橋点が多いため増粘が早く、乾燥と硬化が同時に進むため大きな歪みを持ったバルク体となる。このような部材は、長期使用時には残存シラノールの縮合による新たな内部応力が発生し、クラックや剥離などの不具合を生じやすい。また、部材の破断面にはシラノールがより多く、透湿性は少ないものの表面吸湿性が高く水分の浸入を招きやすい。
一方、本発明のシリコーン系材料は、シラノール含有率が低いため経時変化が少なく、長期の性能安定性に優れ、吸湿・透湿性何れも低い優れた性能を有する。但し、シラノールが全く含まれない部材は密着性に劣るため、シラノール含有率に上記のごとく最適な範囲が存在する。
なお、シリコーン系材料のシラノール含有率は、例えば〔固体Si−NMRスペクトル〕の〔固体Si−NMRスペクトル測定及びシラノール含有率の算出〕において説明した方法を用いて固体Si−NMRスペクトル測定を行ない、全ピーク面積に対するシラノール由来のピーク面積の比率より、全ケイ素原子中のシラノールとなっているケイ素原子の比率(%)を求め、別に分析したケイ素含有率と比較することにより算出することができる。
〔本発明のシリコーン系材料が優れている理由〕
本発明のシリコーン系材料は、上述の(1)〜(3)の特徴を備えることにより、厚膜部分でもクラックを生じず緻密に硬化し、ケースとの密着性・チップの封止特性に優れ、硬化後の光・熱に対する耐久性に優れる硬化物を得ることができる。この理由は定かではないが、次のように推測される。
無機ガラスからなるシリコーン系材料を得る方法としては、低融点ガラスを溶融して封止する溶融法と、比較的低温にてアルコキシシランなどを加水分解・重縮合した液を塗布し、乾燥硬化させるゾルゲル法がある。このうち溶融法から得られる部材は主としてQnピークのみが観測されるが、溶融に少なくとも350℃以上の高温を要するため現実的な方法ではない。
一方、ゾルゲル法において4官能のシラン化合物から得られる加水分解・重縮合生成物は、完全無機のガラスとなり耐熱・耐候性に極めて優れたものであるが、硬化反応はシラノールの縮合(脱水・脱アルコール)反応により架橋が進行するので、脱水が起こる分重量減少、体積収縮を伴うことがある。そのため、Qnピークを持つ4官能のシランのみで原料を構成すると、硬化収縮の程度が大きくなりすぎ、被膜にクラックが発生しやすくなり、厚膜化することができなくなることがある。このような系では、骨材として無機粒子を添加したり、重ね塗りにより膜厚増が試みられているが、通常は10μm程度が限界膜厚となる。シリコーン系材料としてゾルゲルガラスを用いる場合、複雑な形状の配線部分上にモールドすることが望まれるため、500〜1000μmの膜厚を確保したいという課題があった。また、前記したように、残留シラノールを十分に減少させ、完全無機のガラスを得るためには400℃以上の高温での加熱を要するため現実的でなかった。
これに対し、本発明のシリコーン系材料では、架橋密度を調整し、膜に可撓性を持たせるために、Tnピークを持つ3官能シラン及び/又はDnピークを持つ2官能シランを導入し、同時に加水分解・重縮合を行なうことにより、脱水縮合による体積減少量、及び架橋密度を機能に支障無い範囲で適度に減じ、かつ加水分解・縮合工程並びに乾燥工程を制御することにより、膜厚1000μmにも達する透明ガラス膜状又は透明エラストマー状の部材を得ることが可能となる。従って、本発明のシリコーン系材料においては−80ppm以上に観測されるTnピーク及び/又はDnピークの存在が必須となる。
このように2官能、或いは3官能の原料を主成分として厚膜化する方法としては、例えばメガネ等のハードコート膜の技術が知られているが、その膜厚は数μm以下である。これらハードコート膜では膜厚が薄いために溶媒の揮発が容易で均一な硬化が可能であり、基材との密着性及び線膨張係数の違いがクラックの主原因とされていた。これに対して本発明のシリコーン系材料では、膜厚が塗料並みに大きいために、膜自身にある程度の強度があり、多少の線膨張係数の違いは吸収可能となるが、溶媒乾燥による体積減のために薄膜の場合とは異なる内部応力発生が新たな課題となる。すなわち、開口面積の狭い深型容器にモールドを行なう場合、膜深部での乾燥が不十分な状態で加熱硬化を行なうと、架橋後に溶媒揮発が起こり体積減となるため大きなクラックや発泡を生じることがある。このような膜には大きな内部応力がかかっており、この膜の固体Si−NMRを測定すると、検出されるDn、Tn、Qnピーク群は内部応力が小さい場合よりもシロキサン結合角に分布を生じ、各々、よりブロードなピークとなる。この事実は、Siに対して2個の−OSiで表される結合角にひずみが大きいことを意味する。すなわち同じ原料からなる膜でも、これらのピークの半値幅が狭いほどクラックが起きにくく高品質の膜となる。
なお、ひずみに応じて半値幅が大きくなる現象は、Si原子の分子運動の拘束の度合いが大きいほどより鋭敏に観測され、その現れやすさはDn<Tn<Qnとなる。
本発明のシリコーン系材料において、−80ppm以上の領域に観測されるピークの半値幅は、これまでにゾルゲル法にて知られているシリコーン系材料の半値幅範囲より小さい(狭い)ことを特徴とする。
ケミカルシフトごとに整理すると、本発明のシリコーン系材料において、ピークトップの位置が−80ppm以上−40ppm未満に観測されるTnピーク群の半値幅は、通常5.0ppm以下、好ましくは4.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上、好ましくは0.4ppm以上の範囲である。
同様に、ピークトップの位置が−40ppm以上0ppm以下に観測されるDnピーク群の半値幅は、分子運動の拘束が小さいために全般にTnピーク群の場合より小さく、通常3.0ppm以下、好ましくは2.0ppm以下、また、通常0.3ppm以上の範囲である。
上記のケミカルシフト領域において観測されるピークの半値幅が上記の範囲より大きいと、分子運動の拘束が大きくひずみの大きな状態となり、クラックが発生しやすく、耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる可能性がある。例えば、四官能シランを多用した場合や、乾燥工程において急速な乾燥を行ない大きな内部応力を蓄えた状態などにおいて、半値幅範囲が上記の範囲より大きくなる。
また、ピークの半値幅が上記の範囲より小さい場合、その環境にあるSi原子はシロキサン架橋に関わらないことになり、三官能シランが未架橋状態で残留する例など、シロキサン結合主体で形成される物質より耐熱・耐候耐久性に劣る部材となる可能性がある。
さらに、上述したように、本発明のシリコーン系材料の固体Si−核磁気共鳴スペクトルにおいては、Dn、Tnピーク領域に少なくとも1本、好ましくは複数本のピークが観測される。したがって、本発明のシリコーン系材料の固体Si−核磁気共鳴スペクトルは、上述した範囲の半値幅を有するDnピーク群及びTnピーク群からなる群より選ばれるピークを、少なくとも1本、好ましくは2本以上有することが望ましい。
なお、本発明のシリコーン系材料の組成は、系内の架橋が主としてシリカを始めとする無機成分により形成される場合に限定される。すなわち、大量の有機成分中に少量のSi成分が含まれるシリコーン系材料において−80ppm以上に上述の半値幅範囲のピークが認められても、良好な耐熱・耐光性及び塗布性能は得ることができない。
また、本発明のシリコーン系材料は、適当量のシラノールを含有しているため、デバイス表面に存在する極性部分にシラノールが水素結合し、密着性が発現する。極性部分としては、例えば、水酸基やメタロキサン結合の酸素等が挙げられる。
また、本発明のシリコーン系材料は、適当な触媒の存在下で加熱することにより、デバイス表面の水酸基との間に脱水縮合による共有結合を形成し、さらに強固な密着性を発現することができる。
一方、シラノールが多すぎると、系内が増粘して塗布が困難になったり、活性が高くなり加熱により軽沸分が揮発する前に固化したりすることによって、発泡や内部応力の増大が生じ、クラックなどを誘起する可能性がある。
〔硬度測定値〕
本発明のシリコーン系材料は、好ましくは、エラストマー状を呈する部材である。具体的には、デュロメータタイプAによる硬度測定値(ショアA)が、通常5以上、好ましくは7以上、より好ましくは10以上、また、通常90以下、好ましくは80以下、より好ましくは70以下である(特徴(4))。上記範囲の硬度測定値を有することにより、本発明のシリコーン系材料は、クラックが発生しにくく、耐リフロー性及び耐温度サイクル性に優れるという利点を得ることができる。
なお、上記の硬度測定値(ショアA)は、JIS K6253に記載の方法により測定することができる。具体的には、古里精機製作所製のA型ゴム硬度計を用いて測定を行なうことができる。
前記のように、本発明のシリコーン系材料は、好ましくは、所定の硬度測定値(ショアA)を有している。即ち、本発明のシリコーン系材料は、好ましくは、架橋密度が調整されたエラストマー状を呈している。表示装置には熱膨張係数の異なる部材を複数使用することになるが、上記のようにエラストマー状を呈することにより、本発明のシリコーン系材料が上記の各部剤の伸縮による応力を緩和することができる。即ち、本発明のシリコーン系材料は内部応力が少ない。したがって、使用中に剥離、クラックなどを起こしにくい。
〔ピーク面積比〕
本発明のシリコーン系材料は、次の条件(4’)を満たすことが好ましい。即ち、本発明のシリコーン系材料は、(4’)固体Si−核磁気共鳴スペクトルにおいて、(ケミカルシフト−40ppm以上0ppm以下のピークの総面積)/(ケミカルシフト−40ppm未満のピークの総面積)の比(以下適宜、本発明のシリコーン系材料の説明において「本発明にかかるピーク面積比」という)が、通常3以上、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、また、通常200以下、好ましくは100以下、より好ましくは50以下であることが好ましい。
かかるピーク面積比が上記の範囲にあることは、本発明のシリコーン系材料が、2官能シラン(Dサイト)を、3官能シラン(Tサイト)や4官能シラン(Qサイト)などの2官能以上のシランよりも多く有することを表わす。このように、2官能シランを多く有することにより、本発明のシリコーン系材料は条件(4)を満たすこと(エラストマー状を呈すること)が可能となり、応力を緩和することが可能となる。
ただし、本発明のシリコーン系材料は、条件(4’)を満たさなくともエラストマー状を呈する場合がある。例えば、ケイ素以外の金属のアルコキシド等のカップリング剤を架橋剤として用いて本発明のシリコーン系材料を製造した場合などが、この場合に該当する。本発明のシリコーン系材料に条件(4)を満足させるための手法は任意であり、この条件(4’)に限定されるものではない。
〔UV透過率〕
本発明のシリコーン系材料は、膜厚0.5mmでの、通常300nm以上、好ましくは350nm以上、また、通常900nm以下、好ましくは500nm以下の範囲の波長の光の透過率が、通常80%以上、中でも85%以上、更には90%以上であることが好ましい。
なお、シリコーン系材料の光透過率は、例えば以下の手法により、膜厚0.5mmに成形した平滑な表面の単独硬化物膜のサンプルを用いて、紫外分光光度計により測定することができる。
〔透過度の測定〕
シリコーン系材料の、傷や凹凸による散乱の無い厚さ約0.5mmの平滑な表面の単独硬化物膜を用いて、紫外分光光度計(島津製作所製 UV−3100)を使用し、波長380nm〜700nmにおいて透過度測定を行なう。
〔シリコーン系材料の製造方法〕
本発明のシリコーン系材料を製造する方法は特に制限されないが、例えば、後述の一般式(4)や一般式(5)で表わされる化合物及び/又はそれらのオリゴマーを加水分解・重縮合し、重縮合物(加水分解・重縮合物)を乾燥させることにより得ることができる。ただし、本発明のシリコーン系材料において、高い耐久性のエラストマー状シリコーン系材料を得ようとする場合には、シロキサン結合を主体とし、且つ、架橋密度を低減することが好ましい。したがって、一般式(4)で表わされる化合物又はオリゴマーを原料の主体とし、且つ、2官能単位を主体とする組成のものを原料の主体とすることが望ましい。また、このように2官能単位を原料の主体とした場合には、系が安定となり、ゲル化が起こりにくくなる。したがって、この場合、加水分解・重縮合物が溶媒を含有している場合には、乾燥させる前に事前に溶媒を留去するようにしてもよい。
以下、この製造方法について詳しく説明する。
〔原料〕
原料としては、下記一般式(4)で表わされる化合物(以下適宜、本発明のシリコーン系材料の説明において「化合物(4)」という。)及び/又はそのオリゴマーを用いる。
一般式(4)中、Mは、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウム、及びチタンからなる群より選択される少なくとも1種の元素である。中でも、ケイ素が好ましい。
一般式(4)中、mは、Mの価数を表わし、1以上、4以下の整数である。また、「m+」とは、それが正の価数であることを表わす。
nは、X基の数を表わし、1以上、4以下の整数である。但し、m≧nである。
一般式(4)中、Xは、溶液中の水や空気中の水分などにより加水分解されて、反応性に富む水酸基を生成する加水分解性基であり、従来公知のものを任意に使用することができる。例えば、C1〜C5の低級アルコキシ基、アセトキシ基、ブタノキシム基、クロル基等が挙げられる。なお、ここでCi(iは自然数)という表記は、炭素数がi個であることを表わす。また、これらの加水分解性基は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
中でも、反応後に遊離する成分が中性であることから、C1〜C5の低級アルコキシ基が好ましい。特に、反応性に富み、遊離する溶媒が軽沸であることから、メトキシ基又はエトキシ基が好ましい。
さらに、一般式(4)中でXがアセトキシ基やクロル基である場合には、加水分解反応後に酢酸や塩酸を遊離するため、絶縁性が必要とされるシリコーン系材料として使用する場合には、酸成分を除去する工程を付加することが好ましい。
一般式(4)中、Y1は、いわゆるシランカップリング剤の1価の有機基として公知のものを、いずれも任意に選択して使用することができる。中でも、本発明のシリコーン系材料の製造方法において一般式(4)におけるY1として特に有用な有機基とは、以下のY0に表される群(有用有機基群)から選ばれるものである。さらに、半導体発光デバイスを構成する他の材料との親和性向上、密着性向上、シリコーン系材料の屈折率調整などのために、適宜、他の有機基を選択するようにしてもよい。
<有用有機基群Y0>
Y0:脂肪族化合物、脂環式化合物、芳香族化合物、脂肪芳香族化合物より誘導される1価以上の有機基である。
また、群Y0に属する有機基の炭素数は、通常1以上、また、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは100以下、さらに好ましくは50以下である。
さらに、群Y0に属する有機基が有する水素原子のうち少なくとも一部は、下記に例示する原子及び/又は有機官能基等の置換基で置換されていても良い。この際、群Y0に属する有機基が有する水素原子のうちの複数が下記置換基で置換されていても良く、この場合、下記に示す置換基の中から選択した1種又は2種以上の組み合わせにより置換されていても良い。
群Y0に属する有機基の水素原子と置換可能な置換基の例としては、F、Cl、Br、I等の原子;ビニル基、メタクリロキシ基、アクリロキシ基、スチリル基、メルカプト基、エポキシ基、エポキシシクロヘキシル基、グリシドキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、スルホン酸基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、アシル基、アルコキシ基、イミノ基、フェニル基等の有機官能基などが挙げられる。
なお、上記全ての場合において、群Y0に属する有機基の有する水素原子と置換可能な置換基のうち、有機官能基については、その有機官能基の有する水素原子のうち少なくとも一部がF、Cl、Br、I等のハロゲン原子などで置換されていても良い。
ただし、群Y0に属する有機基の水素と置換可能な置換基として例示したもののなかでも、有機官能基は、導入しやすいものの一例であり、使用目的に応じてこの他各種の物理化学的機能性を持つ有機官能基を導入しても良い。
また、群Y0に属する有機基は、その中に連結基としてO、N、又はS等の各種の原子または原子団を有するものであっても良い。
一般式(4)中、Y1は、上記の有用有機基群Y0に属する有機基などから、その目的により様々な基を選択できるが、耐紫外線性、耐熱性に優れる点から、メチル基を主体とすることが好ましい。
上述の化合物(4)の具体例を挙げると、Mがケイ素である化合物としては、例えば、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリアセトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、β−シアノエチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルクロロシラン、メチルトリクロロシラン、γ−アシノプロピルトリエトキシシラン、4−アシノブチルトリエトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルアミノメチルフェネチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、N−(6−アミノヘキシル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリクロロシラン、(p−クロロメチル)フェニルトリメトキシシラン、4−クロロフェニルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、スチリルエチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、トリフルオロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
また、化合物(4)のうち、Mがアルミニウムである化合物としては、例えば、アルミニウムトリイソプロポキシド、アルミニウムトリn−ブトキシド、アルミニウムトリt−ブトシキド、アルミニウムトリエトキシドなどが挙げられる。
また、化合物(4)のうち、Mがジルコニウムである化合物としては、例えば、ジルコニウムテトラメトキシド、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトラn−プロポキシド、ジルコニウムテトラi−プロポキシド、ジルコニウムテトラn−ブトキシド、ジルコニウムテトラi−ブトキシド、ジルコニウムテトラt−ブトキシド、ジルコニウムジメタクリレートジブトキシドなどが挙げられる。
また、化合物(4)のうち、Mがチタンである化合物としては、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn−ブトキシド、チタンテトラi−ブトキシド、チタンメタクリレートトリイソプロポキシド、チタンテトラメトキシプロポキシド、チタンテトラn−プロポキシド、チタンテトラエトキシドなどが挙げられる。
ただし、これらに具体的に例示した化合物は、入手容易な市販のカップリング剤の一部であり、更に詳しくは、例えば、科学技術総合研究所発行の「カップリング剤最適利用技術」9章のカップリング剤及び関連製品一覧表により示すことが出来る。また、当然のことながら、本発明のシリコーン系材料の製造方法に使用できるカップリング剤は、これらの例示により制限されるものではない。
また、下記一般式(5)で表される化合物(以下適宜、本発明のシリコーン系材料の説明において「化合物(5)」という。)及び/又はそのオリゴマーも、上記化合物(4)及び/又はそのオリゴマーと同様に使用することが出来る。
一般式(5)において、M、X及びY1は、それぞれ独立に、一般式(4)と同様のものを表わす。特にY1としては、一般式(4)の場合と同様、上記の有用有機基群Y0に属する有機基などから、その目的により様々な基を選択できるが、耐紫外線性、耐熱性に優れる点から、メチル基を主体とすることが好ましい。
また、一般式(5)において、sは、Mの価数を表わし、2以上、4以下の整数である。また、「s+」は、それが正の整数であることを表わす。
さらに、一般式(5)において、Y2は、u価の有機基を表わす。ただし、uは2以上の整数を表わす。したがって、一般式(5)中、Y2は、いわゆるシランカップリング剤の有機基として公知のもののうち2価以上のものを、任意に選択して使用することができる。
また、一般式(5)において、tは、1以上、s−1以下の整数を表わす。但し、t≦sである。
上記化合物(5)の例としては、各種有機ポリマーやオリゴマーに側鎖として加水分解性シリル基が複数結合しているものや、分子の複数の末端に加水分解性シリル基が結合しているものなどが挙げられる。
上記化合物(5)の具体例及びその製品名を以下に挙げる。
・ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド
(信越化学製、KBE−846)
・2−ジエトキシメチルエチルシリルジメチル−2−フラニルシラン
(信越化学製、LS−7740)
・N,N’−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン
(チッソ製、サイラエースXS1003)
・N−グリシジル−N,N−ビス[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]アミン
(東芝シリコーン製、TSL8227)
・N−グリシジル−N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン
(東芝シリコーン製、TSL8228)
・N,N−ビス[(メチルジメトキシシリル)プロピル]アミン
(東芝シリコーン製、TSL8206)
・N,N−ビス[3−(メチルジメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン
(東芝シリコーン製、TSL8212)
・N,N−ビス[(メチルジメトキシシリル)プロピル]メタクリルアミド
(東芝シリコーン製、TSL8213)
・N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]アミン
(東芝シリコーン製、TSL8208)
・N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]エチレンジアミン
(東芝シリコーン製、TSL8214)
・N,N−ビス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]メタクリルアミド
(東芝シリコーン製、TSL8215)
・N,N’,N”−トリス[3−(トリメトキシシリル)プロピル]イソシアヌレート
(ヒドラス化学製、12267−1)
・1,4−ビスヒドロキシジメチルシリルベンゼン
(信越化学製、LS−7325)
原料としては化合物(4)、化合物(5)、及び/又はそれらのオリゴマーを使用することができる。即ち、本発明のシリコーン系材料の製造方法では、原料として、化合物(4)、化合物(4)のオリゴマー、化合物(5)、化合物(5)のオリゴマー、及び化合物(4)と化合物(5)とのオリゴマーのいずれを用いてもよい。なお、原料として化合物(4)のオリゴマー又は化合物(5)のオリゴマーを用いる場合、そのオリゴマーの分子量は、本発明のシリコーン系材料を得ることができる限り任意であるが、通常400以上である。
ここで化合物(5)及び/又はそのオリゴマーを主原料として用いると系内の主鎖構造が有機結合主体となり耐久性に劣るものとなる可能性がある。このため、化合物(5)は主として密着性付与や屈折率調整、反応性制御、無機粒子分散性付与などの機能性付与のため最小限の使用量用いることが望ましい。化合物(4)及び/又はそのオリゴマー(化合物(4)由来成分)と、化合物(5)及び/又はそのオリゴマー(化合物(5)由来成分)を同時に使用する場合には原料の総重量における化合物(5)由来成分の使用量割合が通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下であることが望ましい。
また、本発明のシリコーン系材料の製造方法において、原料として化合物(4)又は化合物(5)のオリゴマーを用いる場合には、オリゴマーを予め用意してするようにしてもよいが、製造工程の中でオリゴマーを調製するようにしてもよい。即ち、化合物(4)又は化合物(5)のようなモノマーを原料とし、これを製造工程中で一旦オリゴマーとして、このオリゴマーから後の反応を進行させるようにしてもよい。
さらに、原料としては、これらの化合物(4)、化合物(5)、及びそのオリゴマーのうち1種類だけを用いてよいが、二種類以上を任意の組み合わせ及び組成で混合してもかまわない。さらに、予め加水分解された(即ち、一般式(4),(5)において−XがOH基である)化合物(4)、化合物(5)及びそのオリゴマーを用いるようにしてもよい。
但し、本発明のシリコーン系材料の製造方法においては、原料として、Mとしてケイ素を含有し、且つ、有機基Y1又は有機基Y2を少なくとも1つ有する化合物(4)、化合物(5)及びそのオリゴマー(加水分解されたものを含む)を、少なくとも1種以上用いる必要がある。また、系内の架橋が主としてシロキサン結合を始めとする無機成分により形成されることが好ましいことから、化合物(4)及び化合物(5)をともに使用する場合には、化合物(4)が主体となることが好ましい。
また、シロキサン結合を主体とするシリコーン系材料を得るためには、化合物(4)及び/又はそのオリゴマーを原料の主体として用いることが好ましい。さらに、これらの化合物(4)のオリゴマー及び/又は化合物(5)のオリゴマーは、2官能を主体とした組成で構成されていることが、より好ましい。特に、この化合物(4)のオリゴマー及び/又は化合物(5)のオリゴマーの2官能単位は、2官能オリゴマーとして用いられることが好ましい。
さらに、化合物(4)のオリゴマー及び/又は化合物(5)のオリゴマーのうち、2官能のもの(以下適宜、本発明のシリコーン系材料の説明において「2官能成分オリゴマー」という)を主体として用いる場合、これら2官能成分オリゴマーの使用量は、原料の総重量(即ち、化合物(4)、化合物(5)、及びそのオリゴマーの重量の和)に対して、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上である。なお、上記割合の上限は通常97重量%以下である。2官能成分オリゴマーを原料の主体として使用することが、本発明のシリコーン系材料の製造方法によって、本発明のシリコーン系材料を容易に製造することができる要因のうちのひとつとなっているためである。
以下、2官能成分オリゴマーを原料の主体として用いたことによる利点について詳しく説明する。
例えば従来のゾルゲル法により製造されていたシリコーン系材料では、その原料を加水分解及び重縮合させた加水分解・重縮合物(塗布液(加水分解液)に含有されたもの等を含む)は、高い反応活性を有していた。したがって、その加水分解・重縮合物をアルコール等の溶媒で希釈しないと系内の重合が進み、すぐに硬化するため、成形や取り扱いが困難であった。例えば、従来は溶媒で希釈しない場合には、温度が40℃〜50℃程度であっても硬化することがあった。したがって、加水分解後に得られた加水分解・重縮合物の取り扱い性を確保するためには、加水分解・重縮合物に溶媒を共存させることが必須であった。
また、加水分解・重縮合物に溶媒を共存させたまま加水分解・重縮合物の乾燥・硬化を行なわせると、硬化時に脱水縮合による収縮に加え、脱溶媒による収縮(脱溶媒収縮)が加味される。これにより、従来の半導体発光デバイスでは、硬化物の内部応力が大きくなりがちであり、この内部応力に起因するクラック、剥離などが生じやすかった。
さらに、上記の内部応力を緩和するためにシリコーン系材料を柔軟化する目的で原料として2官能成分モノマーを多用すると、重縮合体中の低沸環状体が多くなる可能性があった。低沸環状体は硬化時に揮発してしまうため、低沸環状体が多くなると重量歩留まりが低下することになる。また、低沸環状体は硬化物からも揮発し、応力発生の原因となることがある。さらに、低沸環状体を多く含むシリコーン系材料は耐熱性が低くなることがある。これらの理由により、従来は、シリコーン系材料を、性能の良いエラストマー状硬化体として得ることは困難であった。
これに対して、本発明のシリコーン系材料の製造方法では、原料として、別系で(即ち、加水分解・重縮合工程に関与しない系で)2官能成分をあらかじめオリゴマー化し、反応性末端を持たない低沸不純物を留去したものを原料として使用するようにしている。したがって、2官能成分(即ち、上記の2官能成分オリゴマー)を多用しても、それらの低沸不純物が揮発することはなく、硬化物重量歩留まりの向上を実現することができるとともに、性能の良いエラストマー状硬化物を得ることができる。
さらに、2官能成分オリゴマーを主原料とすることにより、加水分解・重縮合物の反応活性を抑制することができる。これは、加水分解・重縮合物の立体障害及び電子効果、並びに、2官能成分オリゴマーを使用したことに伴いシラノール末端量が低減したことによるものと推察される。反応活性を抑制したことにより、溶媒を共存させなくても加水分解・重縮合物は硬化することはなく、したがって、加水分解・重縮合物を一液型、かつ、無溶媒系とすることができる。
また、加水分解・重縮合物の反応活性が低下したことにより、硬化開始温度を従来よりも高くすることが可能となった。したがって、加水分解・重縮合物の硬化開始温度以下の溶媒を加水分解・重縮合物に共存させた場合には、加水分解・重縮合物の乾燥時に、加水分解・重縮合物の硬化が開始されるよりも以前に溶媒が揮発することになる。これにより、溶媒を使用した場合であっても脱溶媒収縮に起因する内部応力の発生を抑制することが可能となる。
〔加水分解・重縮合工程〕
本発明のシリコーン系材料の製造方法ではまず、上述の化合物(4)、化合物(5)、及び/又はそれらのオリゴマーを加水分解・重縮合反応させる(加水分解・重縮合工程)。この加水分解・重縮合反応は、公知の方法によって行なうことができる。なお、以下適宜、本発明のシリコーン系材料の説明において化合物(4)、化合物(5)、及びそのオリゴマーを区別せずに指す場合、「原料化合物」という。
原料化合物の加水分解・重縮合反応を行なうために使用する水の理論量は、下記式(6)に示す反応式に基づき、系内の加水分解性基の総量の1/2モル比である。
なお、上記式(6)は、一般式(4),(5)のMがケイ素である場合を例として表わしている。また、「≡Si」及び「Si≡」は、ケイ素原子の有する4つの結合手のうち3つを省略して表わしたものである。
本発明のシリコーン系材料の製造方法の説明では、この加水分解時に必要な水の理論量、即ち、加水分解性基の総量の1/2モル比に相当する水の量を基準(加水分解率100%)とし、加水分解時に使用する水の量をこの基準量に対する百分率、即ち「加水分解率」で表わす。
本発明のシリコーン系材料の製造方法において、加水分解・重縮合反応を行なうために使用する水の量は、上述の加水分解率で表わした場合に、通常80%以上、中でも100%以上の範囲が好ましい。加水分解率がこの範囲より少ない場合、加水分解・重合が不十分なため、硬化時に原料が揮発したり、硬化物の強度が不十分となったりする可能性がある。一方、加水分解率が200%を超える場合、硬化途中の系内には常に遊離の水が残存し、チップや蛍光体に水分による劣化をもたらしたり、カップ部が吸水し、硬化時の発泡、クラック、剥離の原因となったりする場合がある。但し、加水分解反応において重要なのは100%近傍以上(例えば80%以上)の水で加水分解・重縮合を行なうということであり、塗布前に遊離の水を除く工程を付加すれば、200%を超える加水分解率を適用することは可能である。この場合、あまり大量の水を使用すると、除去すべき水の量や相溶剤として使用する溶媒の量が増え、濃縮工程が煩雑になったり、重縮合が進みすぎて部材の塗布性能が低下したりすることがあるので、加水分解率の上限は通常500%以下、中でも300%以下、好ましくは200%以下の範囲とすることが好ましい。
原料化合物を加水分解・縮重合する際には、既知の触媒などを共存させて、加水分解・縮重合を促進しても良い。この場合、使用する触媒としては、酢酸、プロピオン酸、酪酸などの有機酸や、硝酸、塩酸、リン酸、硫酸などの無機酸、有機金属化合物触媒を用いることができる。このうち、半導体発光デバイスと直接接する部分に使用する部材とする場合には、絶縁特性に影響の少ない有機金属化合物触媒が好ましい。
上記の原料化合物の加水分解・重縮合物(重縮合物)は、好ましくは液状である。しかし、固体状の加水分解・重縮合物でも、溶媒を用いることにより液状となるものであれば、使用することができる。
加水分解・重縮合反応時に系内が分液し不均一となる場合には、溶媒を使用しても良い。溶媒としては、例えば、炭素数1〜3の低級アルコール類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルエチルケトン、その他の水と均一に混合できる溶媒を任意に用いることができるが、中でも強い酸性や塩基性を示さないものが加水分解・重縮合に悪影響を与えない理由から好ましい。溶媒は1種を単独で使用しても良いが、複数種を併用することもできる。溶媒使用量は自由に選択できるが、半導体発光デバイスに塗布する際には溶媒を除去することが多いため、必要最低限の量とすることが好ましい。また、溶媒除去を容易にするため、沸点が100℃以下、より好ましくは80℃以下の溶媒を選択することが好ましい。なお、外部より溶媒を添加しなくても加水分解反応によりアルコール等の溶媒が生成するため、反応当初は不均一でも反応中に均一になる場合もある。
上記原料化合物の加水分解・重縮合反応は、常圧で実施する場合、通常室温以上、好ましくは40℃以上、また、通常140℃以下、好ましくは130℃以下の範囲で行なう。加圧下で液相を維持することでより高い温度で行なうことも可能であるが、150℃を越えないことが好ましい。
加水分解・重縮合反応時間は反応温度により異なるが、通常0.1時間以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは3時間以上、また、通常100時間以下、好ましくは20時間以下、更に好ましくは15時間以下の範囲で実施される。
以上の加水分解・重縮合条件において、時間が短くなったり温度が低すぎたりすると、加水分解・重合が不十分なため硬化時に原料が揮発したり、硬化物の強度が不十分となる可能性がある。また、時間が長くなったり温度が高すぎたりすると、重合物の分子量が高くなり、系内のシラノール量が減少し、塗布時に密着性不良が生じたり硬化が早すぎて硬化物の構造が不均一となり、クラックを生じやすくなる。以上の傾向を踏まえて、所望の物性値に応じて条件を適宜選択することが望ましい。
上記加水分解・重縮合反応が終了した後、得られた加水分解・重縮合物はその使用時まで室温以下で保管されるが、この期間にもゆっくりと重縮合が進行するため、特に厚膜状の部材として使用する場合には前記加温による加水分解・重縮合反応が終了した時点より室温保管にて通常60日以内、好ましくは30日以内、更に好ましくは15日以内に使用に供することが好ましい。必要に応じ凍らない範囲にて低温保管することにより、この期間を延長することができる。
〔溶媒留去〕
上記の加水分解・重縮合工程において溶媒を用いた場合には、通常、乾燥の前に加水分解・重縮合物から溶媒を留去することが好ましい(溶媒留去工程)。これにより、溶媒を含まない液状の加水分解・重縮合物を得ることができる。上述したように、従来は溶媒を留去すると加水分解・重縮合物が硬化してしまうために加水分解・重縮合物の取り扱いが困難となっていた。しかし、本発明のシリコーン系材料の製造方法では、2官能成分オリゴマーを使用すると加水分解・重縮合物の反応性が抑制されるため、乾燥の前に溶媒を留去しても加水分解・重縮合物は硬化しなくなり、溶媒の留去が可能である。溶媒を乾燥前に留去しておくことにより、脱溶媒収縮によるクラック、剥離などを防止することができる。
なお、通常は、溶媒の留去の際に、加水分解に用いた水の留去も行なわれる。また、留去される溶媒には、上記の一般式(4)、(5)で表わされる原料化合物の加水分解・重縮合反応により生成される、XH等で表わされる溶媒も含まれる。
溶媒を留去する方法は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。ただし、加水分解・重縮合物の硬化開始温度以上の温度で溶媒の留去を行なうことは避けるようにする。
溶媒の留去を行なう際の温度条件の具体的な範囲を挙げると、通常60℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、また、通常150℃以下、好ましくは130℃以下、より好ましくは120℃以下である。この範囲の下限を下回ると溶媒の留去が不十分となる可能性があり、上限を上回ると加水分解・重縮合物がゲル化する可能性がある。
また、溶媒の留去を行なう際の圧力条件は、通常は常圧である。さらに、必要に応じて溶媒留去時の反応液沸点が硬化開始温度(通常は120℃以上)に達しないように減圧する。また、圧力の下限は、加水分解・重縮合物の主成分が留出しない程度である。
ただし、溶媒の留去を行なうことは、必須の操作ではない。特に、加水分解・重縮合物の硬化温度以下の沸点を有する溶媒を用いている場合には、加水分解・重縮合物の乾燥時に、加水分解・重縮合物の硬化が開始される前に溶媒が揮発してしまうため、特に溶媒留去工程を行なわなくても脱溶媒収縮によるクラック等の生成は防止することができる。しかし、溶媒の揮発により加水分解・重縮合物の体積が変化することもありえるため、シリコーン系材料の寸法や形状を精密に制御する観点からは、溶媒留去を行なうことが好ましい。
〔乾燥〕
上述の加水分解・重縮合反応により得られた加水分解・重縮合物を乾燥させる(乾燥工程。または、硬化工程)ことにより、本発明のシリコーン系材料を得ることができる。この加水分解・重縮合物は上述のように通常は液状であるが、これを目的とする形状の型に入れた状態で乾燥を行なうことにより、目的とする形状を有する本発明のシリコーン系材料を形成することが可能となる。また、この加水分解・重縮合物を目的とする部位に塗布した状態で乾燥を行なうことにより、目的とする部位に直接、本発明のシリコーン系材料を形成することが可能となる。なお、この液状の加水分解・重縮合物を、本発明のシリコーン系材料の製造方法の説明では適宜「加水分解・重縮合液」又は「シリコーン系材料形成液」というものとする。また、乾燥工程では必ずしも溶媒が気化するわけではないが、ここでは、流動性を有する加水分解・重縮合物が流動性を失って硬化する現象を含めて、乾燥工程と呼ぶものとする。したがって、溶媒の気化を伴わない場合には、上記「乾燥」は「硬化」と読み替えて認識してもよい。
乾燥工程では、加水分解・重縮合物をさらに重合させることにより、メタロキサン結合を形成させて、重合物を乾燥・硬化させ、本発明のシリコーン系材料を得る。
乾燥の際には、加水分解・重縮合物を所定の硬化温度まで加熱して硬化させるようにする。具体的な温度範囲は加水分解・重縮合物の乾燥が可能である限り任意であるが、メタロキサン結合は通常100℃以上で効率良く形成されるため、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上で実施される。但し、半導体発光デバイスと共に加熱される場合は、通常はデバイス構成要素の耐熱温度以下の温度、好ましくは200℃以下で乾燥を実施することが好ましい。
また、加水分解・重縮合物を乾燥させるために硬化温度に保持する時間(硬化時間)は触媒濃度や部材の厚みなどにより一概には決まらないが、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上、また、通常10時間以下、好ましくは5時間以下、更に好ましくは3時間以下の範囲で実施される。
なお、乾燥工程における昇温条件は特に制限されない。即ち、乾燥工程の間、一定の温度で保持しても良く、連続的又は断続的に温度を変化させても良い。また、乾燥工程を更に複数回に分けて行なってもよい。さらに、乾燥工程において、温度を段階的に変化させるようにしてもよい。温度を段階的に変化させることにより、残留溶媒や溶存水蒸気による発泡を防ぐことができるという利点を得ることができる。
ただし、上述の加水分解・重縮合反応を溶媒の存在下にて行なったときに、溶媒留去工程を行なわなかった場合や、溶媒留去工程を行なっても加水分解・重縮合物中に溶媒が残留している場合には、この乾燥工程を、溶媒の沸点以下の温度にて溶媒を実質的に除去する第1の乾燥工程と、該溶媒の沸点以上の温度にて乾燥する第2の乾燥工程とに分けて行なうことが好ましい。なお、ここで言う「溶媒」には、上述の原料化合物の加水分解・重縮合反応により生成される、XH等で表わされる溶媒も含まれる。また、本発明のシリコーン系材料の製造方法の説明における「乾燥」とは、上述の原料化合物の加水分解・重縮合物が溶媒を失い、更に重合・硬化してメタロキサン結合を形成する工程を指す。
第1の乾燥工程は、原料化合物の加水分解・重縮合物の更なる重合を積極的に進めることなく、含有される溶媒を該溶媒の沸点以下の温度にて実質的に除去するものである。即ち、この工程にて得られる生成物は、乾燥前の加水分解・重縮合物が濃縮され、水素結合により粘稠な液或いは柔らかい膜状になったものか、溶媒が除去されて加水分解・重縮合物が液状で存在しているものである。
ただし、通常は、溶媒の沸点未満の温度で第1の乾燥工程を行なうことが好ましい。該溶媒の沸点以上の温度で第1の乾燥を行なうと、得られる膜に溶媒の蒸気による発泡が生じ、欠陥の無い均質な膜が得にくくなる。この第1の乾燥工程は、薄膜状の部材とした場合など溶媒の蒸発の効率がよい場合は単独のステップで行なっても良いが、カップ上にモールドした場合など蒸発効率の悪い場合においては複数のステップに分けて昇温しても良い。また、極端に蒸発効率が悪い形状の場合は、予め別の効率良い容器にて乾燥濃縮を行なった上で、流動性が残る状態で塗布し、更に乾燥を実施してもよい。蒸発効率の悪い場合には、大風量の通風乾燥など部材の表面のみ濃縮が進む手段をとらず、部材全体が均一に乾燥するよう工夫することが好ましい。
第2の乾燥工程は、上述の加水分解・重縮合物の溶媒が第1の乾燥工程により実質的に無くなった状態において、この加水分解・重縮合物を溶媒の沸点以上の温度で加熱し、メタロキサン結合を形成することにより、安定な硬化物とするものである。この工程において溶媒が多く残留していると、架橋反応が進行しつつ溶媒蒸発による体積減が生じるため、大きな内部応力が生じ、収縮による剥離やクラックの原因となる。メタロキサン結合は通常100℃以上で効率良く形成されるため、第2の乾燥工程は好ましくは100℃以上、更に好ましくは120℃以上で実施される。但し、半導体発光デバイスと共に加熱される場合は、通常はデバイス構成要素の耐熱温度以下の温度、好ましくは200℃以下で乾燥を実施することが好ましい。第2の乾燥工程における硬化時間は触媒濃度や部材の厚みなどにより一概には決まらないが、通常0.1時間以上、好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上、また、通常10時間以下、好ましくは5時間以下、更に好ましくは3時間以下の範囲で実施される。
このように溶媒除去の工程(第1の乾燥工程)と硬化の工程(第2の乾燥工程)とを明確に分けることにより、溶媒留去工程を行なわない場合であっても、本発明のシリコーン系材料の物性を持つ耐光性、耐熱性に優れるシリコーン系材料をクラック・剥離することなく得ることが可能となる。
ただし、第1の乾燥工程中でも硬化が進行する場合はありえるし、第2の乾燥工程中にも溶媒除去が進行する場合はありえる。しかし、第1の乾燥工程中の硬化や第2の乾燥工程中の溶媒除去は、通常は本発明の効果に影響を及ぼさない程度に小さいものである。
なお、実質的に上述の第1の乾燥工程及び第2の乾燥工程が実現される限り、各工程における昇温条件は特に制限されない。即ち、各乾燥工程の間、一定の温度で保持しても良く、連続的又は断続的に温度を変化させても良い。また、各乾燥工程を更に複数回に分けて行なってもよい。更には、第1の乾燥工程の間に一時的に溶媒の沸点以上の温度となったり、第2の乾燥工程の間に溶媒の沸点未満の温度となる期間が介在したりする場合でも、実質的に上述したような溶媒除去の工程(第1の乾燥工程)と硬化の工程(第2の乾燥工程)とが独立して達成される限り、本発明の範囲に含まれるものとする。
さらに、溶媒として加水分解・重縮合物の硬化温度以下、好ましくは硬化温度未満の沸点を有するものを用いている場合には、加水分解・重縮合物に共存している溶媒は、特に温度を調整せずに加水分解・重縮合物を硬化温度まで加熱した場合であっても、乾燥工程の途中において、温度が沸点に到達した時点で加水分解・重縮合物から留去されることになる。つまり、この場合、乾燥工程において加水分解・重縮合物を硬化温度まで昇温する過程において、加水分解・重縮合物が硬化する前に、溶媒の沸点以下の温度にて溶媒を実質的に除去する工程(第1の乾燥工程)が実施される。これにより、加水分解・重縮合物は、溶媒を含有しない液状の加水分解・重縮合物となる。そして、その後、溶媒の沸点以上の温度(即ち、硬化温度)にて乾燥し、加水分解・重縮合物を硬化させる工程(第2の乾燥工程)が進行することになる。したがって、溶媒として上記の硬化温度以下の沸点を有するものを用いると、上記の第1の乾燥工程と第2の乾燥工程とは、たとえその実施を意図しなくても行なわれることになる。このため、溶媒として加水分解・重縮合物の硬化温度以下、好ましくは上記硬化温度未満の沸点を有するものを用いることは、乾燥工程を実施する際には加水分解・重縮合物が溶媒を含んでいたとしてもシリコーン系材料の品質に大きな影響を与えることがないため、好ましいといえる。
〔硬いシリコーン系材料を製造する場合〕
ところで、本発明のシリコーン系材料をエラストマー状にしない場合、即ち、いわば硬いシリコーン系材料を製造する場合には、一般式(4)や一般式(5)で表わされる化合物及び/又はそれらのオリゴマーを加水分解・重縮合し、重縮合物(加水分解・重縮合物)を乾燥させるという点では上述した方法と同様であるが、適宜、原料や操作などについて上述した方法とは異なる部分がある。以下、このような、いわば硬いシリコーン系材料を製造する場合について説明する。
〔原料〕
硬いシリコーン系材料を製造する場合も、エラストマー状のシリコーン系材料を製造する場合と同様の原料を使用することができる。ただし、原料として化合物(4)を用いる場合、製造されるシリコーン系材料の硬度を硬くしようとするのであれば、原料として2官能の化合物(4)に対する3官能以上の化合物(4)(即ち、3官能又は4官能の化合物(4))の比率を大きくすることが好ましい。3官能以上の化合物は架橋成分となりうることから、3官能以上の化合物の比率を大きくすることにより、シリコーン系材料の架橋を促進することが出来るためである。
ここで、架橋剤として4官能以上の化合物を用いる場合は、3官能の化合物を用いる場合に比較して2官能の使用比率を高くして系内全体の架橋度を調整することが好ましい。化合物(4)のオリゴマーを使用する場合には、2官能のみのオリゴマー、3官能のみのオリゴマー、4官能のみのオリゴマー、或いは、これら複数の単位を有するオリゴマー等がある。この際、最終的なシリコーン系材料全体において、2官能モノマー単位に対する3官能以上のモノマー単位の比率が大きくなると、上記と同様に硬いシリコーン系材料を得ることが出来る。
また、化合物(5)を用いる場合にも基本的な考え方は上記の化合物(4)を用いる場合と同じである。ただし、化合物(5)の有機基部分の分子量が大きい場合には、分子量が小さい場合と比較して、実質的に架橋点間距離が大きくなるので、柔軟性が増す傾向にある。
このように、固体Si−NMRのピーク半値幅が本発明の範囲であるシリコーン系材料は、2官能のモノマー単位と3官能以上のモノマー単位との比率を制御することにより架橋度が調整され、応力歪が少なく、シリコーン系材料として有用な適度の可とう性を得ることができるようになっている。
〔操作〕
硬いシリコーン系材料を製造する場合も、エラストマー状のシリコーン系材料を製造する場合と同様に、加水分解・重縮合工程を行なう。ただし、硬いシリコーン系材料を製造する場合は、加水分解・重縮合反応は、溶媒の存在下にて行なうことが好ましい。
また、硬いシリコーン系材料を製造する場合にも、乾燥工程を行なう。ただし、硬いシリコーン系材料を製造する場合は、乾燥工程を、溶媒の沸点以下の温度にて溶媒を実質的に除去する第1の乾燥工程と、溶媒の沸点以上の温度にて乾燥する第2の乾燥工程とに分けて行なうことが好ましい。第1の乾燥工程の詳細は、第1の乾燥工程にて得られる生成物が、通常は水素結合により粘稠な液或いは柔らかい膜状になったものであり、溶媒が除去されて加水分解・重縮合物が液状で存在しているものとならない他は、エラストマー状のシリコーン系材料を製造する場合と同様である。また、第2の乾燥工程の詳細は、エラストマー状のシリコーン系材料を製造する場合と同様である。
なお、硬いシリコーン系材料を製造する場合は、エラストマー状のシリコーン系材料を製造する場合に行なっていた溶媒留去工程は、通常は行なわない。
このように溶媒除去の工程(第1の乾燥工程)と硬化の工程(第2の乾燥工程)とを明確に分けることにより、硬いシリコーン系材料を製造する場合であっても、本発明のシリコーン系材料の物性を持つ耐光性、耐熱性に優れるシリコーン系材料をクラック・剥離することなく得ることが可能となる。
さらに、上記の非芳香族エポキシ樹脂、シリコーン系材料以外のバインダーを用いることも可能である。バインダーとしては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリレート、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ヒドロキシエチルセルロース、カルポキシメチルセルロースポリスチレン、スチレン・無水マレイン酸共重合体、スチレン・アクリロニトリル共重合体、ポリビニルクロライド、セルロースアセテートブチレート、セルロースプロピオネート、ポリα−ナフチルメタクリレート、ポリビニルナフタレン、ポリn−ブチルメタクリレート、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリシクロヘキシルメタクリレート、ポリ(4−メチルペンテン)、エポキシ、ポリスルホン、ポリエーテルケトン、ポリアリレート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、環状オレフィン重合体、ポリシロキサン、ベンゾシクロブタン重合体、水ガラス、シリカ、酸化チタン、エポキシ樹脂などを成分とするものが挙げられる。
また、蛍光体部3R,3Gにおいて、蛍光体部3R,3G内に占めるバインダーの割合は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常95重量%以下、好ましくは90重量%以下である。
さらに、これに関連し、蛍光体部3R,3Gにおいて、蛍光体(即ち、CaAlSiN3:Eu、Ca3Sc2Si3O12:Ce、併用蛍光体等)とバインダーとの割合も本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、蛍光体とバインダーとの合計重量に対するバインダーの割合が、通常5重量%以上、好ましくは10重量%以上、また、通常95重量%以下、好ましくは90重量%以下である。この範囲の下限を下回ると輝度が低下する可能性があり、上限を上回ると蛍光体部3R,3Gが脆弱となり、機械的強度が保てなくなる可能性がある。なお、蛍光体を1つの蛍光体部において2種以上用いる場合には、用いる蛍光体の合計が上記の範囲に収まるようにすることが望ましい。
また、蛍光体部3R,3Gには、バインダーや蛍光体以外の添加剤を含有させても良い。添加剤としては、上記の硬化剤、助触媒、硬化促進剤の他、例えば、視野角をさらに増やすために拡散剤を含有させても良い。具体的な拡散剤としては、チタン酸バリウム、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素などが挙げられる。また、添加材としては、例えば、所望外の波長をカットする目的で有機や無機の着色染料や着色顔料を含有させることもできる。なお、これらの添加剤は、それぞれ1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
さらに、蛍光体部3R,3Gは、公知の任意の方法で作製することができる。例えば、蛍光体部3R,3Gは、バインダーと蛍光体と溶剤とからなる混合物(塗布液)を、スクリーン印刷法によって、画素に対応する間隔でモザイク状、アレイ状、あるいはストライプ状に、透明基板31上に形成することができる。
また、各蛍光体部3R,3Gの間に、外光の吸収のためにブロックマトリックス層32を形成してもよい。ブラックマトリックス層32は、ガラスなどの透明基板31上に、感光性の樹脂の感光原理を利用してカーボンブラックからなる光吸収膜を製造する工程により形成してもよいし、樹脂とカーボンブラックと溶剤とからなる混合物をスクリーン印刷法で積層して形成しても良い。
また、蛍光体部3R,3Gの形状は任意である。例えば、表示装置1をマルチカラー表示とする場合、蛍光体部3R,3Gなどの発光領域には、ピクセル(画素)形状に合わせて、定められた色に発光する蛍光体を配置することになるが、その蛍光体部3R,3Gの形状としては、情報表示に必要なセグメント形状、マトリックス形状が挙げられ、マトリックス形状の中では、ストライプ構造、デルタ構造などが好ましい形態として挙げることができる。さらに、モノクロ表示の場合は、上記の形状の他、均一に蛍光体を塗布したものでも可能である。
さらに、蛍光体部3R,3Gの寸法も任意である。例えば、その厚みは本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常、1cm以下とすると好適に用いることができる。さらに、薄型、軽量化が求められるフラットパネルディスプレイにおいては、2mm以下の厚みにすることがより好ましい。発光光線の出射率とのバランスを考慮すると、通常1μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、また、通常1000μm以下、好ましくは500μm以下、より好ましくは200μm以下である。
(ii.光透過部)
本実施形態において、光透過部3Bは、青色の画素に対応して光源2からの光を前方に透過させうる部材である。これにより、表示装置1の光源2からは青色光の可視光が発せられるようになっているため、この光源2から発せられる可視光は、画素が発する光として用いられるようになっているのである。
光透過部3Bの構成に制限は無く任意であるが、通常は、蛍光体を含有しない他は、蛍光体部3R,3Gと同様に構成される。したがって、光透過部3Bには、当該可視光に対応した光と同じ色の蛍光を発する蛍光体は必須ではない。
即ち、光源2から発せられた可視光が表示装置1の外部に発せられるようにすれば、必ずしもすべての画素において蛍光体を用いなくとも良いのである。ただし、光源2が発する可視光を効率よく外部に放出させたり、散乱させたり、所望外の波長の光をカットしたりするために、光源2が発した可視光には、バインダーに添加剤を含有させた光透過部3Bを透過させるようにすることが望ましい。
さらに、光透過部3Bには色調整用の染顔料を含有させても良い。
本実施形態においては、赤色蛍光部3Rは、赤色蛍光体として、輝度保持蛍光体であるCaAlSiN3:Euを用い、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用い、この赤色蛍光体をバインダーに分散させたものとして透明基板31に形成されている。また、蛍光体部3Rは、赤色の画素に対応して複数設けてあるものとする。
また、本実施形態において、緑色蛍光部3Gは、緑色蛍光体として、輝度保持蛍光体であるCa3Sc2Si3O12:Ceを用い、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用い、この緑色蛍光体をバインダーに分散させたものとして透明基板31に形成されていて、この蛍光体部3Gは、緑色の画素に対応して複数設けてあるものとする。
さらに、本実施形態において、光透過部3Bは、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用い、拡散剤をバインダーに分散させたものとして形成されていて、この光透過部3Bは、青色の画素に対応して透明基板31に複数設けてあるものとする。
また、この蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bを設けた透明基板31は、光源2に対向した位置に設けられている。これにより、蛍光体部3Rは光源2からの光を受けて赤色光を発し、蛍光体部3Gは光源2からの光を受けて緑色光を発し、光透過部3Bは光源2が発した青色光を拡散剤で拡散させながら前方に透過させるようになっている。また、各蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bの間は、それぞれブラックマトリックス層32により仕切られているものとする。
[4.作用]
本実施形態の表示装置1は上記のように構成されているので、使用時には、光源2を所定の強度で発光させる。この際、図示しない制御部の制御に従い、各光源2からは、表示装置1が表示しようとする画像に応じて、各画素(即ち、蛍光体部3R,3G及び光透過部3B)毎に強度を調節された光が発せられる。この光源2から発せられた光は、それぞれ、対応する蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bに入射する。
蛍光体部3Rでは、蛍光体部3R内に分散した赤色蛍光体(CaAlSiN3:Eu)が入射光を吸収し、赤色の蛍光を発する。また、蛍光体部3Gでは、蛍光体部3G内に分散した緑色蛍光体(Ca3Sc2Si3O12:Ce)が入射光を吸収し、緑色の蛍光を発する。さらに、光透過部3Bでは、光透過部3B内に分散した拡散剤が入射光を散乱させ、蛍光体部3R、3Gから発せられる蛍光との配光特性をあわせながら、入射した青色の光を前方に透過させる。
この際、入射光の光量が、形成しようとする画像に応じて制御部によって画素毎に調節されているので、各蛍光体部3R,3Gが発する蛍光(可視光)の光量も画素毎に調節され、所望の画像が形成される。
こうして生じた赤色及び緑色の蛍光、並びに、光透過部3Bを透過して出射された光源2からの青色の光は、透明基板31を介して表示装置1の外部(図中右側)に発せられる。観察者は、この透明基板31の表面から発せられる光を見て、画像を認識する。
この際、蛍光体部3R,3Gの蛍光体として、それぞれ輝度保持蛍光体である、CaAlSiN3:Eu及びCa3Sc2Si3O12:Ceを用いたため、表示装置1自体の発光輝度の温度依存性を抑制することができ、これにより、温度条件によって表示する画像の発色が意図した色からずれることを防止することが可能であり、実用上非常に有用である。
[第2実施形態]
図2は、本発明の第2実施形態としての表示装置の要部を模式的に示す分解断面図である。なお、図2に示す表示装置においては、観察者は図中右側から表示装置が表示する画像を見るようになっているものとする。また、図2において、図1と同様の符号を用いて示す部位は、図1と同様のものを表わす。
図2に示すように、本実施形態の表示装置1′は、光シャッター6によって光源2が発した光の強さを調節するようになっている点以外は、第1実施形態の表示装置1と同様に構成されている。即ち、光源2と、光源2から発せられた光を吸収して可視光を発する蛍光体を含有する蛍光体部(第1蛍光体部)3R及び蛍光体部(第2蛍光体部)3Gと、光源2が発した光を前方に透過させる光透過部3Bと備える。また、表示装置1′は、フレーム4、偏光子5、光シャッター6、検光子7を備えている。
以下、各部材について説明を行なう。
[1.フレーム]
フレーム4は、第1実施形態で説明したものと同様である。
[2.光源]
光源2としては、第1実施形態で説明したものと同様のものを用いることができる。
さらに、第1実施形態で説明した構成のものに加え、本実施形態のような光シャッター6を用いた表示装置においては、表示装置1′をフラットパネルディスプレイとして構成する場合、光源2としては、均一な面状光を発するものが有用である。この場合、光源2は、光源2を形成する素子そのものが1つ以上の面状発光素子で形成されているもののみならず、1つ以上の任意の形状の素子から取り出された光を、導光や拡散、反射などの適当な手法を用いて面状光に変換する擬似面状発光素子も含まれる。また、これらの手法を組み合わせた素子を光源2として使用することもできる。
面状発光できる光源2の例のうち、それ自体が面状に発光しうる面状発光素子の例としては、無機真性EL素子、有機EL素子、小型平面蛍光ランプ、無機半導体を利用した面発光LEDなどが挙げられる。
一方、擬似面状発光素子の例を挙げると、例えば、何らかの発光素子と、その発光素子から取り出された光を面状光へ変換する変換機構とを組み合わせたものが挙げられる。この際、発光素子としては、光源2の例として先に挙げた任意の光源を用いることができる。また、変換機構としては、例えば、石英板、ガラス板、アクリル板などの導光板と、Alシート、各種金属蒸着膜など反射機構と、TiO2系化合物を用いたパターン、光拡散シート、光拡散プリズムなどの光拡散機構とが、単独、好ましくは複数組み合わせられたものを用いることができる。特に、導光板、反射板、拡散板などを用いて光源2を面発光体化して光を面状光に変換する変換機構は、本実施形態において好適に用いられる。また、例えば、液晶表示装置用途などで使用されている変換機構も好適に使用することができる。
また、第1実施形態と同様、光源2の寸法に制限は無いが、光源2として面発光素子や擬似面発光素子を用いる場合には、フラットパネルディスプレイの実用的見地から、通常5cm以下、好ましくは5mm以下の厚みに形成することが望ましい。
本実施形態では、光源2として青色の光を面状発光する面発光素子を用いていて、この光源2からの光によって、蛍光体部3R,3G内に含まれるCaAlSiN3:EuやCa3Sc2Si3O12:Ceなどの蛍光体を励起するようになっている。また、光源2が発した光の一部は、光透過部3Bを透過し、青色の画素の光として観察者に観られるようにもなっている。さらに、光源2への電力供給は、相互接続回路やワイヤ等を用いて、フレーム4上の端子と光源2の電極とを電気的に接続することにより行なわれているものとする。
[3.偏光子]
光源2の前方(図中右側)、詳しくは光源2と光シャッター6との間には、偏光子5を設けることが好ましい。偏光子5は、光源2から発せられた光のうち所定の偏光面を有する光のみを選択して透過させるものである。本実施形態においても、偏光子5を光源2と光シャッター6との間に設置しているものとする。
[4.光シャッター]
本実施形態において、光シャッター6は、照射された光を、光量を調節して透過させるものである。詳しくは、背面に照射された光を、表示する画像に対応して、画素毎に、光量を調節して前方に透過させる部材である。本実施形態の場合、光シャッター6は、光源2から蛍光体部3R,3Gや光透過部3Bへ発せられる光の光量を、各画素毎に調節して前方に透過させるようになっている。
詳しく説明すると、表示装置1′をマルチカラーもしくはフルカラーディスプレイとして構成する場合は、上記の蛍光体を、2種類以上、独立に光波長変換機構として定められた領域(即ち、蛍光体部3R,3G)に配置する。本実施形態においては、これらの蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bに照射する光の光量をそれぞれ光シャッター6により調節して蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bから放出される光の光量を調節し、表示装置1′に所望の画像を多色発光にて表示させることができるようになっている。
また、光シャッター6の種類によっては、特定の波長領域の光についてのみ、光量の調節が可能なものがある。したがって、光シャッター6としては、光源2が発する光の波長領域において、光の光量を調節して光のスイッチングが可能なものを用いるようにする。なお、表示装置1′の構成によっては、光源2からの光ではなく蛍光体部3R,3Gから発せられる蛍光を光シャッター6に光量調節させることもあるが、その場合には、蛍光体部3R,3Gから発せられる蛍光の光波長領域においても、光の光量を調節して光のスイッチングが可能なものを用いるようにする。通常、光源2が発する光や蛍光体部3R,3G中の蛍光体が発する蛍光の発光ピーク波長は、通常380nm以上、好ましくは420nm以上、また、通常780nm以下、好ましくは500nm以下であるので、光シャッター6は、この波長域の光の光量を調節できるものが望ましい。
また、光シャッター6の機構は、通常、複数の画素(ピクセル)の集合体からなる。ただし、画面サイズ、表示方式、用途などにより、画素の数量及びサイズ並びに配列方式は変化し、特に一定の値に制限されるものではない。したがって、光シャッター6の画素の寸法に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
例えば、通常のディスプレイ用途では、一画素のサイズは500μm角以下が好ましい。さらに、好適な画素サイズとして、現在実用化されている液晶ディスプレイの値として、画素数が640×3×480、単色一画素サイズが100×300μm程度とすることがより好ましい。
さらに、光シャッター6自体の数量や寸法にも制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、光シャッター6の厚さは、通常5cm以下のものが有用であり、薄型化及び軽量化を考慮すれば1cm以下であることが好ましい。
また、表示装置1′を平面型表示装置とする場合においては、階調表示を可能とするために、電気的制御により画素の光透過率を任意の値に変化せしめる光シャッター6を好適に用いることができる。光透過率の絶対値や、その変化のコントラスト及び速度応答性は、高いほど好ましい。
これらの要件を満足する光シャッター6の例としては、TFT(Thin Film Transistor)、STN(Super Twisted Nematic liquid crystal)、強誘電、反強誘電、2色性色素を用いたゲストホスト、ポリマー分散型であるPDN(Polymer Dispersed Network)方式などの透過型液晶光シャッター;酸化タングステン、酸化イリジウム、プルシアンブルー、ビオローゲン誘導体、テトラチアフルバレン(TTF)−ポリスチレン、希土類金属−ジフタロシアニン錯体、ポリチオフェン、ポリアニリンなどに代表されるエレクトクロミック、ケミカルクロミックなどが挙げられる。中でも液晶光シャッターは、薄型、軽量、低消費電力を特徴とし、実用的な耐久性があってセグメントの高密度化も可能であることから好適に用いられる。この中で特に望ましいものは、TFTアクティブマトリックス駆動やPDN方式を用いた液晶光シャッターである。その理由は、ねじれネマチック液晶を使用したアクティブマトリックスでは、動画に対応した高速応答性やクロストークが起きないこと、PDN方式では偏光子5や検光子7が必要ないので、光源2や蛍光体部3R,3Gが発する光の減衰が少なく高輝度な発光が可能になるからである。
また、表示装置1′には、通常、表示装置1′に表示させる画像に応じて画素毎に光量の調節を行なうように光シャッター6を制御する制御部(図示省略)を設ける。光シャッター6は、この制御部の制御に応じて各画素から発せられる可視光の光量を調節し、これにより、所望の画像が表示装置1′によって表示されるようになっている。
光シャッター6によって画素の輝度を調整するようにすることで、表示装置1′は、制御部の制御回路をより簡単にすることができる。例えば、第1実施形態のように、光源2としてLEDを用い、そのLEDの発光強度等を制御することによって画素の輝度調整を行なう場合には、LEDの電流−輝度特性が経時変化するため、表示する像を制御する制御回路が複雑になる可能性がある。これに対し、本実施形態のように光源2から発せられた光の光量を調節する光シャッター6部分を設け、光シャッター6によって画素の輝度を調整するようにすれば、液晶光シャッター等の光シャッターの多くは電圧制御であるため、簡単な制御回路で輝度を調整することができる。
本実施形態においては、背面電極61、液晶層62、及び前面電極63が上記の順に重ねられた液晶光シャッターを光シャッター6として用いていて、光シャッター6は、偏光子5の前方(図中右方)に設けられているものとする。なお、背面電極61及び前面電極63は表示装置1′に用いる光を吸収しない透明電極にて構成されているものとする。そして、この液晶光シャッターでは、背面電極61及び前面電極63に印加する電圧によって液晶層62内の液晶の分子配列を制御され、この分子配列によって背面側に照射される光それぞれの光量を、各画素毎(即ち、蛍光体部3R,3G及び光透過部3B毎)に調節されるようになっている。
[5.検光子]
光シャッター6の前方には、適宜、光シャッター6を透過して光量を調節された光を受け付ける検光子7が設けられる。検光子7は、光シャッター6を通過した特定の偏光面を有する光のみを透過させて、発光強度を調整するものである。
本実施形態においても、光シャッター6の前方、詳しくは、光シャッター6と蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bとの間には検光子7が設けられているものとする。
[6.蛍光体部並びに光透過部]
蛍光体部3R,3Gは、第1実施形態と同様に、光源2が発した励起光を吸収し、表示装置1′が表示する画像を形成するための可視光を発する蛍光体を含有する部分である。本実施形態においても、蛍光体部3R,3Gの少なくとも一方が、蛍光体として、輝度保持蛍光体のうちの少なくともいずれか1種を含有するようにする。また、蛍光体部3R,3Gは光シャッター6の画素に対応して通常1つずつ設けられ、表示装置1′の画素が発することになる光を生じるようになっている。
さらに、光透過部3Bは、第1実施形態同様、蛍光体部3R,3Gと同様に光シャッター6の画素毎に設けられたもので、光源2の光を画素の光の一部として用いるために前方へ透過させる部分である。通常、光透過部3Bは、蛍光体を含有しない他は蛍光体部3R,3Gと同様に設けられる。
したがって、本実施形態では、観察者は、この蛍光体部3R,3Gが発する蛍光、及び、光透過部3Bを介して放出される光源2が発する光を見て画像を認識するようになっている。
ただし、本実施形態のように光シャッター6を用いた表示装置1′の場合、第1実施形態の構成の他に、例えば、蛍光体部3R,3Gは、バインダーと蛍光体と溶剤とからなる混合物(塗布液)を、スクリーン印刷法によって、光シャッター6の画素に対応する間隔でモザイク状、アレイ状、あるいはストライプ状に、透明基板31上に形成することもできる。
また、本実施形態のように光シャッター6を用いた表示装置1′の場合、例えば、表示装置1′をマルチカラー表示とする際には、蛍光体部3R,3Gなどの発光領域には、光シャッター機構のピクセル形状に合わせて、定められた色に発光する蛍光体を配置することになる。
さらに、本実施形態においても、赤色蛍光部3Rは、赤色蛍光体として、輝度保持蛍光体であるCaAlSiN3:Euを用い、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用い、この赤色蛍光体をバインダーに分散させたものとして透明基板31に形成されている。また、蛍光体部3Rは、赤色の画素に対応して複数設けてあるものとする。
また、本実施形態においも、緑色蛍光部3Gは、緑色蛍光体として、輝度保持蛍光体であるCa3Sc2Si3O12:Ceを用い、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用い、この緑色蛍光体をバインダーに分散させたものとして透明基板31に形成されていて、この蛍光体部3Gは、緑色の画素に対応して複数設けてあるものとする。
さらに、本実施形態において、光透過部3Bは、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用い、拡散剤をバインダーに分散させたものとして形成されていて、この光透過部3Bは、青色の画素に対応して透明基板31に複数設けてあるものとする。
また、この蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bを設けた透明基板31は検光子7の前方(図中右方)に、光シャッター6に対向した位置に設けられている。これにより、蛍光体部3Rは光シャッター6により光量を調節された光源2からの光を受けて赤色光を発し、蛍光体部3Gは光シャッター6により光量を調節された光源2からの光を受けて緑色光を発し、光透過部3Bは光源2が発し光シャッター6により光量を調節された青色光を拡散剤で拡散させながら前方に透過させるようになっている。また、各蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bの間は、それぞれブラックマトリックス層32により仕切られているものとする。
[7.作用]
本実施形態の表示装置1′は上記のように構成されているので、使用時には、光源2を所定の強度で発光させる。光源2から発せられた光は、偏光子5で偏光面を揃えられた後、光シャッター6に入射する。
光シャッター6は、制御部(図示省略)の制御にしたがって、表示しようとする画像に応じて背面側から入射した光の光量を画素毎に調節し、前方に透過させる。具体的には、透明電圧61,63に印加する電圧を制御することにより、各画素に対応する部位の液晶の配向性を調整し、これにより、画素毎にどれだけの強さの光を透過させるか調節しながら、背面に受光した光を前方に透過させる。
光シャッター6を通った光は、検光子7を介して、それぞれ、対応する蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bに入射する。
蛍光体部3Rでは、蛍光体部3R内に分散した赤色蛍光体(CaAlSiN3:Eu)が入射光を吸収し、赤色の蛍光を発する。また、蛍光体部3Gでは、蛍光体部3G内に分散した緑色蛍光体(Ca3Sc2Si3O12:Ce)が入射光を吸収し、緑色の蛍光を発する。さらに、光透過部3Bでは、光透過部3B内に分散した拡散剤が入射光を散乱させ、蛍光体部3R、3Gから発せられる蛍光との配光特性をあわせながら、入射した青色の光を前方に透過させる。
この際、入射光の光量が、形成しようとする画像に応じて光シャッター6により画素毎に調節されているので、各蛍光体部3R,3Gが発する蛍光(可視光)の光量も画素毎に調節され、所望の画像が形成される。
こうして生じた赤色及び緑色の蛍光、並びに、光透過部3Bを透過して出射された光源2からの青色の光は、透明基板31を介して表示装置1′の外部(図中右側)に発せられる。観察者は、この透明基板31の表面から発せられる光を見て、画像を認識する。
この際、蛍光体部3R,3Gの蛍光体として、それぞれ輝度保持蛍光体である、CaAlSiN3:Eu及びCa3Sc2Si3O12:Ceを用いたため、表示装置1′自体の発光輝度の温度依存性を抑制することができ、これにより、温度条件によって表示する画像の発色が意図した色からずれることを防止することが可能となり、実用上非常に有用である。
また、本実施形態の表示装置1′によれば、従来の液晶光シャッターを用いた表示装置とは異なり、視野角によって画素の輝度が低下したり色が変化したりすることを防止することができる。
[第3実施形態]
[1.構成]
図3は、本発明の第3実施形態としての表示装置の要部を模式的に示す分解断面図である。なお、図3に示す表示装置においては、観察者は図中右側から表示装置が表示する画像を見るようになっているものとする。また、図3において、図1,2と同様の符号を用いて示す部位は、図1,2と同様のものを表わす。
図3に示すように、本実施形態の表示装置1″は、構成部材の配置順が、背面側から、基板4、光源2、蛍光体部3R,3G及び光透過部3B、偏光子5、光シャッター6、検光子7という順になっていて、光シャッター6の画素間にブラックマトリックス(図示省略)が設けられている他は、第2実施形態で説明した表示装置1′と同様の構成となっている。
光シャッター6の画素の間には、コントラストを高めるためにブラックマトリックスという黒色領域が存在することが好ましい。ブラックマトリックスは画素間のすきまを黒くし、画像を見やすくする作用を有する。ブラックマトリックスの材質としては、例えば、クロム、炭素、または炭素またはその他黒色物質を分散した樹脂が用いられるが、これに限定されるものではない。本実施形態においては、光シャッター6を透過した光を観察者が見ることになるため、光シャッターに、このブラックマトリックス(図示省略)を設けてある。
また、本実施形態の表示装置1″においては、上記のように構成部材の配置順を変更したため、光シャッター6は、蛍光体部3R,3Gから発せられる光並びに光透過部3Bを透過した光の光量を、各画素毎に調節して前方に透過させるようになっている。即ち、赤色及び緑色の画素においては、光源2から発せられた光を蛍光体部3R,3Gに入射させ、蛍光体部3R,3G内の蛍光体が発した光の光量を、画素毎に光シャッター6が調節し、前方に透過させるようになっている。また、青色の画素においては、光源2から発せられた光が光透過部3B内の拡散剤で散乱されながら光透過部3Bを透過し、光透過部3Bを透過した光の光量を、画素毎に光シャッター6が調節し、前方に透過させるようになっている。そして、光シャッター6によって光量を調節された赤色、緑色及び青色の光によって、表示装置1に所望の画像を多色発光にて表示させることができるようになっている。
したがって、第2実施形態においては、光シャッター6として、光源2が発する光の波長領域において光の光量を調節しうるものを用いるようにしたが、本実施形態においては、蛍光体部3R,3Gが発する光の波長領域においても光の光量を調節しうるものを用いるようにする。詳しくは、本実施形態の光シャッター6では、背面電極61及び前面電極63に印加する電圧によって液晶層62内の液晶の分子配列を制御され、この分子配列によって背面側に照射される光それぞれの光量を、各画素毎に調節されるようになっている。
さらに、本実施形態においても、第2実施形態と同様に、蛍光体部3Rは赤色蛍光体としてCaAlSiN3:Euを用い、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用いていて、また、緑色蛍光部3Gは、緑色蛍光体としてCa3Sc2Si3O12:Ceを用い、バインダーとして非芳香族エポキシ樹脂を用いている。
[2.作用]
本実施形態の表示装置1″は上記のように構成されているので、使用時には、光源2を所定の強度で発光させる。光源2から発せられた光は、それぞれ、対応する蛍光体部3R,3G及び光透過部3Bに入射する。
蛍光体部3Rでは、蛍光体部3R内に分散した赤色蛍光体(CaAlSiN3:Eu)が入射光を吸収し、赤色の蛍光を発する。また、蛍光体部3Gでは、蛍光体部3G内に分散した緑色蛍光体(Ca3Sc2Si3O12:Ce)が入射光を吸収し、緑色の蛍光を発する。さらに、光透過部3Bでは、光透過部3B内に分散した拡散剤が入射光を散乱させ、蛍光体部3R、3Gから発せられる蛍光との配光特性をあわせながら、入射した青色の光を前方に透過させる。
こうして発せられた赤色及び緑色の蛍光、並びに青色の光は、偏光子5で偏光性を揃えられた後、光シャッター6に入射する。
光シャッター6は、制御部(図示省略)の制御にしたがって、表示しようとする画像に応じて背面側から入射した赤色光、緑色光及び青色光の光量を画素毎に調節し、前方に透過させる。具体的には、透明電圧61,63に印加する電圧を制御することにより、各画素に対応する部位の液晶の配向性を調整し、これにより、画素毎にどれだけの強さの光を透過させるか調節しながら、背面に受光した光を前方に透過させる。
光シャッター6を通った光は、検光子7に照射される。この際、蛍光体部3R,3Gが発した蛍光や光透過部3Bを透過した光の光量は、光シャッター6により画素毎に調節されているので、検光子7に照射された光は所望の画像を形成することになる。そして、観察者は、この検光子7の表面から発せられる光を見て、画像を認識する。
この際、蛍光体部3R,3Gの蛍光体として、それぞれ輝度保持蛍光体であるCaAlSiN3:Eu及びCa3Sc2Si3O12:Ceを用いたため、表示装置1自体の発光輝度の温度依存性を抑制することができ、これにより、温度条件によって表示する画像の発色が意図した色からずれることを防止することが可能であり、実用上非常に有用である。
さらに、本実施形態の表示装置1″によれば、従来の液晶光シャッターを用いた表示装置とは異なり、蛍光体部3R,3G内の蛍光体の残光特性による影響を排除することができる。蛍光体は、光の照射を止めた後も所定の時間だけ蛍光を発することがあり、この光照射停止後に蛍光が発せられる時間を残光特性という。残光特性は蛍光体により異なることから、従来、表示装置に表示される画像においてはある特定の色が強調される傾向があり、コスト高や制御の複雑化の一因となっていた。しかし、本実施形態の表示装置1″によれば上記の残光特性の影響を排除し、画像の特定の色が強調されることを防止することができる。
さらに、第2実施形態と同様、制御部の制御回路をより簡単にすることも可能である。
[その他]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。
例えば、上記の実施形態では赤色、緑色及び青色の3種の光を用いて画像を表示する場合を説明したが、上記の赤色、緑色及び青色以外の光を用いて画像表示を行なうようにしても良く、さらに、2種、又は、4種以上の光を用いて画像表示を行なうようにしても良い。
また、例えば、一部の画素においては、光源2が発する光を直接に、画素の光として用いるようにしてもよい。
さらに、蛍光体部3R,3Gを透過する以外にも、光源2から発せられた光が蛍光体部3R,3Gで反射するような反射型の構成を適用しても良い。具体的には、例えば、第1実施形態の構成において、光源2を蛍光体部3R,3Gよりも前方に設置して表示装置1を構成することも可能である。
また、蛍光体部として、CaAlSiN3:EuやCa3Sc2Si3O12:Ceなどの輝度保持蛍光体をいずれも有さない蛍光体部を併用するようにしても良い。
さらに、輝度保持蛍光体としては、CaAlSiN3:EuやCa3Sc2Si3O12:Ce以外のものを用いるようにしてもよい。
また、上述した光源2、蛍光体部3R,3G、フレーム4、偏光子5、光シャッター6、検光子7などの部材は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に組み合わせて用いることができる。
さらに、表示装置1,1′,1″には更に別の構成部材を組み合わせて用いても良い。