JP4919457B2 - M期キナーゼ基質タンパク質及びその利用 - Google Patents
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Description
AIM-1は、動物細胞のM期進行過程での局在の解析から、M期パッセンジャータンパク質であることがわかっている。すなわちAIM-1はM期前期に染色体動原体部分に集まり、その後、赤道面に染色体が整列した時点で染色体動原体と共に赤道面に整列する。そして姉妹染色体分配後、姉妹染色体と共に両極に随伴するが、姉妹染色体が両極に引っ張られてしまう以前に染色体を降車し、再びM期細胞中央部分に集まり、細胞質の収縮のための構造体形成にかかわる(非特許文献4)。一方AIM-1は、M期進行過程におけるM期パッセンジャータンパク質の一つであり、M期アポトーシスを抑制することで知られるSurvivinや、動原体タンパク質として知られるInner Centromere Protein (INCEP)と複合体を形成して挙動を共にする(非特許文献5)。また、AIM-1は、姉妹染色体分離後、細胞質分離のための収縮開始の重要なシグナルとしても機能しており(非特許文献1〜3、6)、ミオシン、デスミンやビメンチンなどの中間径フィラメント、或いはMgcRacGAPなどをリン酸化することにより、細胞質分離と密接にかかわっている(非特許文献7〜10)。
一方、AIM-1は、他の2種類のオーロラキナーゼと共に癌細胞において高発現している。これらのキナーゼの高発現は、癌発症進展過程における染色体分配過程の異常生成機構と深い関係があると考えられる(非特許文献2、11〜13)。
尚、AIM-1に関する更なる情報については特開平11−164694号公報(特許文献1)を参照されたい。
まず本発明者らは、細胞内におけるH3ヒストンのリン酸化酵素を同定することを試みた。その結果、AIM-1がM期リン酸化酵素であることが判明した。一方でH3ヒストン以外にAIM-1によってリン酸化を受ける基質タンパク質の存在が確認された。本発明者らはこの基質タンパク質に注目し、その同定を試みた。その結果、当該タンパク質をコードするcDNA(配列番号1)のクローニングに成功した。そして、得られたcDNAのORF(open reading frame)には推定767残基のアミノ酸(配列番号2)からなるタンパク質がコードされていることが判明した。このタンパク質をSAKI(Substrate of an unknown mitotic kinase)と命名した。
さらに検討を進めた結果、キナーゼによるSAKIのリン酸化部位が明らかになるとともに、SAKIの発現分布及び細胞内局在に関する有益な知見が得られた。一方、SAKIの過剰発現によってrRNAへのメチル基の取り込みが増加する現象が観察され、SAKIが細胞内でrRNAをメチル化させる活性を有することが予測された。即ち、SAKIがrRNAの成熟過程に関わるメチル化酵素であると考えられた。また、SAKIが試験管内核酸メチル化アッセイによって、DNAを基質にはしないことから、SAKIがDNAメチル化酵素活性を持たず、RNAメチル化酵素であるという可能性を示唆する。さらに、キナーゼによるリン酸化を受けてSAKIは不活性型(リン酸化SAKI)となり、メチル化作用が抑制されるが判明した。ただ、AIM-1等を強制発現させた実験の実験結果は、AIM-1がSAKIリン酸化酵素ではないことを強く示唆している。
続いてSAKIの医療面での応用に関して検討を重ねた結果、各種大腸癌細胞株及び口腔扁平上皮癌細胞株の全例においてSAKIの高発現が観察された。また、SAKIの高発現が認められるHeLa細胞においてSAKI遺伝子の増幅が観察された。臨床解剖組織においてもSAKI遺伝子の増幅が認められた。一方、抗SAKI抗体を用いた免疫染色をヒト癌組織に対して実施したところ、従来からある抗体よりも明瞭な染色性が観察された。そこで、さらに種々の癌組織においてもSAKIの発現状態を検索した結果、検索対象全ての症例においてSAKIの高発現が観察された。これらの結果からSAKIがヒト癌診断における指標として有用であると判断された。加えて、SAKI抗体を利用した免疫ブロット法の結果から、癌細胞がサンプル中に100〜1000個に1個存在する状態でも検出できることが判明した。すなわち、SAKIの検出は癌細胞の同定に極めて有用であり、SAKIの過剰発現による活性亢進は癌形質の発現と密接に関連していることがわかった。そして、これらの知見を総合的に考慮した結果、SAKI過剰発現を抑制することや、また、活性化型である脱リン酸化SAKIをリン酸化状態に維持することによって、SAKIの活性は制御可能であり、そういったSAKI活性の抑制や阻害は、細胞の癌化及びその進行の抑止に有効であると考えられた。
本発明の一局面は、以下のa及びbからなる群より選択される、単離されたタンパク質に関する:a)配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質、及びb)配列番号2のアミノ酸配列と一部において相違するアミノ酸配列を有し、M期キナーゼの基質となり且つ核酸メチル化活性を有するタンパク質。
本発明の他の局面は以下のA及びBからなる群より選択される、単離された核酸に関する:A)上記a又はbのタンパク質をコードする核酸、及びB)A)の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸。
また、本発明の一態様は上記本発明の核酸を保持するベクターに関する。好ましくは発現ベクターの形態に構成される。
また、本発明の一態様は上記本発明の核酸が外来的に導入されている細胞に関する。典型的には、上記ベクターをその宿主細胞に導入することによって当該細胞が構築される。
本発明のさらに他の態様は、以下のa及びbのステップを含む、M期キナーゼの基質として機能するタンパク質の生産方法に関する:a)上記本発明の細胞を、前記核酸がコードするタンパク質が産生される条件下で培養するステップ、及びb)産生されたタンパク質を回収するステップ。
本発明はまた、本発明のタンパク質(配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質又はその相同タンパク質)に特異的に結合する抗体を提供する。
本発明の更に他の局面は、被験細胞の悪性度を判定する方法(悪性度判定法)に関する。本発明の悪性度判定法は、生体から分離された被験細胞内における、本発明のタンパク質の量を検出するステップを含む。ここでのタンパク質量の検出は好適には免疫学的染色法を利用して実施される。本発明はまた、前記ステップに代えて、生体から分離された被験細胞内における本発明の核酸の量を検出するステップを実施することで被験細胞の悪性度を判定する方法も提供する。
本発明はまた、上記方法の実施に使用可能な試薬を提供する。当該試薬は、本発明のタンパク質に特異的に結合する抗体、又は本発明の核酸の相補鎖とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸を含む。更に本発明は、当該試薬を含むキット(被験細胞の悪性度判定用キット)を提供する。当該キットは使用説明書を含む。
本発明の更に他の態様は、上記本発明のタンパク質の発現量の異常、又は本発明の核酸の存在量の異常によって特徴づけられる疾患に対して有効な化合物をスクリーニングする方法に関し、本発明のタンパク質とM期キナーゼとの結合を阻害する、被験化合物の能力の有無又はその程度を調べるステップを含んで構成される。他の態様では、上記ステップに代えて、本発明のタンパク質の核酸メチル化活性を阻害する、被験化合物の能力の有無又はその程度を調べるステップを含んでスクリーニング方法が構築される。
尚、本明細書において用語「〜を含む」又「〜含んでなる」は、「〜からなる」の意味をも含む表現として使用される。
以下、本発明の具体的構成を詳述する。
本発明のタンパク質等はそれが天然に由来する場合には細胞や組織或いは体液など、それが存在する天然材料から標準的な手法を用いて分離・調製することができる。また、本発明のタンパク質等を組換えDNA技術を用いて生産してもよい。さらには本発明のタンパク質等を化学合成によって生産してもよい。数多くのペプチド合成装置が市販されており、それらの中から適当なものを選択して用い、本発明のタンパク質等を得てもよい。
一方、本発明のタンパク質等が組換えDNA技術によって生産されたものである場合の用語「単離された」とは、使用された宿主細胞に由来する他の成分や培養液等を実質的に含まない状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離されたタンパク質等では夾雑成分の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。
また、本発明のタンパク質等が化学合成によって生産されたものである場合の用語「単離された」とは、前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない状態をいう。具体的には例えば、本発明の単離されたタンパク質等では前駆体の含有量は重量換算で全体の約20%未満、好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、より一層好ましくは約1%未満である。
尚、本明細書において用語「単離された」は「精製された」と交換可能に使用される。
生物学的活性部分は、本発明のタンパク質の部分分解や組換えDNA技術によって調製することができる。
好ましくは、保存的アミノ酸置換を非必須アミノ酸残基(M期キナーゼの基質タンパク質であること、及び核酸のメチル化活性を有することに関与しないアミノ酸残基)に生じさせることによって相同タンパク質を得る。ここでの「保存的アミノ酸置換」とは、あるアミノ酸残基を、同様の性質の側鎖を有するアミノ酸残基に置換することをいう。アミノ酸残基はその側鎖によって塩基性側鎖(例えばリシン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えばアスパルギン酸、グルタミン酸)、非荷電極性側鎖(例えばグリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン)、非極性側鎖(例えばアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン、トリプトファン)、β分岐側鎖(例えばスレオニン、バリン、イソロイシン)、芳香族側鎖(例えばチロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)のように、いくつかのファミリーに分類されている。保存的アミノ酸置換は好ましくは、同一のファミリー内のアミノ酸残基間の置換である。
二つの配列の比較及び同一性の決定は数学的アルゴリズムを用いて実現可能である。配列の比較に利用可能な数学的アルゴリズムの具体例としては、KarlinおよびAltschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-68に記載され、KarlinおよびAltschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-77において改変されたアルゴリズムがあるが、これに限定されることはない。このようなアルゴリズムは、Altschulら (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10に記載のNBLASTプログラムおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)に組み込まれている。本発明の核酸分子に相同的なヌクレオチド配列を得るには例えば、NBLASTプログラムでscore = 100、wordlength = 12としてBLASTヌクレオチド検索を行えばよい。本発明のポリペプチド分子に相同的なアミノ酸配列を得るには例えば、XBLASTプログラムでscore = 50、wordlength = 3としてBLASTポリペプチド検索を行えばよい。比較のためのギャップアライメントを得るためには、Altschulら (1997) Amino Acids Research 25(17):3389-3402に記載のGapped BLASTが利用可能である。BLASTおよびGapped BLASTを利用する場合は、対応するプログラム(例えばXBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用することができる。詳しくはhttp://www.ncbi.nlm.nih.govを参照されたい。配列の比較に利用可能な他の数学的アルゴリズムの例としては、MyersおよびMiller (1988) Comput Appl Biosci. 4:11-17に記載のアルゴリズムがある。このようなアルゴリズムは、例えばGENESTREAMネットワークサーバー(IGH Montpellier、フランス)またはISRECサーバーで利用可能なALIGNプログラムに組み込まれている。アミノ酸配列の比較にALIGNプログラムを利用する場合は例えば、PAM120残基質量表を使用し、ギャップ長ペナルティ=12、ギャップペナルティ=4とすることができる。
二つのアミノ酸配列の同一性を、GCGソフトウェアパッケージのGAPプログラムを用いて、Blossom 62マトリックスまたはPAM250マトリックスを使用し、ギャップ加重=12、10、8、6、又は4、ギャップ長加重=2、3、又は4として決定することができる。また、二つの核酸配列の相同度を、GCGソフトウェアパッケージ(http://www.gcg.comで利用可能)のGAPプログラムを用いて、ギャップ加重=50、ギャップ長加重=3として決定することができる。
上記融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術によって調製することができる。例えば、まず本発明のタンパク質等をコードするDNA断片と他の分子をコードするDNA断片とをそれぞれ調製した後、これらをインフレームで連結する。このようにして得られた融合タンパク質をコードするDNAを適当な細胞内で発現させ、その後、標準的な生化学的手法などを用いて分離・精製する。
必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で採血し、遠心処理などによって血清を得る。得られた抗血清をアフィニティー精製する。このようにしてポリクローナル抗体を得ることができる。一方、モノクローナル抗体については次の手順で調製することができる。まず上記と同様の手順で免疫操作を実施する。必要に応じて免疫を繰り返し、十分に抗体価が上昇した時点で免疫動物から抗体産生細胞を摘出する。次に、得られた抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合してハイブリドーマを得る。続いて、このハイブリドーマをモノクローナル化した後、目的タンパク質に対して高い特異性を有する抗体を産生するクローンを選択する。選択されたクローンの培養液を精製することによって目的の抗体が得られる。一方、ハイブリドーマを所望数以上に増殖させた後、これを動物(例えばマウス)の腹腔内に移植し、腹水内で増殖させて腹水を精製することにより目的の抗体を取得することもできる。上記培養液の精製又は腹水の精製には、プロテインG、プロテインA等を用いたアフィニティークロマトグラフィーが好適に用いられる。また、抗原を固相化したアフィニティークロマトグラフィーを用いることもできる。更には、イオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過クロマトグラフィー、硫安分画、及び遠心分離等の方法を用いることもできる。これらの方法は単独ないし任意に組み合わされて用いられる。尚、抗体の作製方法に関してKohler and Milstein (1975) Nature 256:495-497;Brown et al. (1981) J. Immunol. 127:539-46; Brown et al. (1980) J. Biol. Chem. 255:4980-83; Yeh et al. (1976) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 76:2927-31; Yeh et al. (1982) Int. J. Cancer 29:269-75; Kozbor et al. (1983) Immunol. Today 4:72; Kenneth, R.H. in Monoclonal Antibodies: A New Dimension In Biological Analyses, Plenum Publishing Corp., New York, New York (1980); Lerner, E.A. (1981) Yale J. Biol. Med. 54:387402; Gefter, M.L. et al. (1977) Somatic Cell Genet. 3:23136等を参照することができる。
本明細書における用語「核酸」は、DNA(cDNA及びゲノムDNAを含む)、RNA(mRNAを含む)、DNA類似体、及びRNA類似体を含む。本発明の核酸の形態は限定されず、即ち1本鎖及び2本鎖のいずれであってもよい。好ましくは2本鎖DNAである。またコドンの縮重も考慮される。即ちタンパク質をコードする核酸の場合にはその発現産物として当該タンパク質が得られる限り任意の塩基配列を有していてよい。
例えばcDNA分子など遺伝子組換技術によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」は好ましくは、細胞成分や培養液などを実質的に含まない状態の核酸をいう。同様に、化学合成によって生産される核酸の場合の「単離された核酸」は好ましくは、dDNTPなどの前駆体(原材料)や合成過程で使用される化学物質等を実質的に含まない状態の核酸をいう。
尚、特に言及しない限り、本明細書において単に「核酸」と記載した場合には単離された状態の核酸を意味する。
例えば、配列番号1の塩基配列を有する本発明の核酸は当該塩基配列又はその相補配列の全体又は一部をプローブとしたハイブリダイゼーション法を利用して単離することができる。また、当該塩基配列の一部に特異的にハイブリダイズするようにデザインされた合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いた核酸増幅反応(例えばPCR)を利用して増幅及び単離することができる。尚、オリゴヌクレオチドプライマーは一般に、市販の自動化DNA合成装置などを用いて容易に合成することができる。
本発明の他の態様は、配列番号1の塩基配列からその5'非翻訳領域又はその一部、及び3'非翻訳領域又はその一部のいずれか一つ以上を欠失したDNA分子(例えばコード領域(配列番号4)のみからなるDNA)を提供する。尚、コード領域の翻訳に悪影響を与えないことを条件として、本来の非翻訳領域とは異なる非翻訳領域をコード領域に組み合わせたDNAも本発明に含まれる。
相同核酸の他の例として、SNPに代表される多型に起因して上記のごとき塩基の相違が認められる核酸を挙げることができる。
プローブとして利用される場合には核酸断片を標識化することができる。標識化には例えば、蛍光物質、酵素、放射性同位元素を用いることができる。
使用目的(クローニング、タンパク質の発現)に応じて、また宿主細胞の種類を考慮して適当なベクターが選択される。例えば大腸菌を宿主とするベクター(M13ファージ又はその改変体、λファージ又はその改変体、pBR322又はその改変体(pB325、pAT153、pUC8など)など)、酵母を宿主とするベクター(pYepSec1、pMFa、pYES2等、昆虫細胞を宿主とするベクター(pAc、pVLなど)、哺乳類細胞を宿主とするベクター(pCDM8、pMT2PCなど)を用いることができる。
本発明の核酸のベクターへの挿入、選択マーカー遺伝子の挿入(必要な場合)、プロモーターの挿入(必要な場合)等は標準的な組換えDNA技術(例えば、Molecular Cloning, Third Edition, 1.84, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New Yorkを参照することができる、制限酵素及びDNAリガーゼを用いた周知の方法)を用いて行うことができる。
本発明のSAKI等を生産する目的ではなく、例えば特定の細胞内においてSAKI等を発現させた場合の挙動を調べる目的や、特定の細胞内でSAKI等を発現させることによって当該細胞の状態を変化させる目的(例えば治療目的)で形質転換体を得ることもできる。また、トランスジェニック動物(ヒトを含まない)を作製する目的で形質転換体を得ることもできる。即ち、本発明の形質転換体を非ヒトトランスジェニック動物の作製に利用することも可能である。例えば、形質転換体として本発明のSAKI等をコードする核酸を導入した受精卵母細胞又は胚性幹細胞を作製し、これからトランスジェニック動物を発生させることができる。本発明の非トランスジェニック動物はSAKIの生体内での機能の研究に有用である。トランスジェニック動物は、受精卵の前核に直接DNAの注入を行うマイクロインジェクション法、レトロウイルスベクターを利用する方法、ES細胞を利用する方法などを用いて作製することができる。以下、トランスジェニック動物の作製方法の一例としてマイクロインジェクション法を利用した方法を説明する。
マイクロインジェクション法ではまず、交尾が確認された雌マウスの卵管より受精卵を採取し、そして培養した後にその前核にDNAコンストラクト(本発明のタンパク質等をコードしたDNA)の注入を行う。使用するDNAコンストラクトには導入遺伝子の効率的な発現を可能とするプロモーター配列が含まれていることが好ましい。このようなプロモーターとしては例えばチキンβ−アクチンプロモータ、プリオンタンパク質プロモーター、ヒトARプロモーター、ニューロフィラメントL鎖プロモーター、L7プロモーター、サイトメガロウイルスプロモーターなどを用いることができる。注入操作を終了した受精卵を偽妊娠マウスの卵管に移植し、移植後のマウスを所定期間飼育して仔マウス(F0)を得る。仔マウスの染色体に導入遺伝子が適切に組込まれていることを確認するため、仔マウスの尾などからDNAを抽出し、導入遺伝子に特異的なプライマーを用いたPCR法や導入遺伝子に特異的なプローブを用いたドットハイブリダイゼーション法等を行う。
本明細書における「トランスジェニック動物」の種は特に限定されないが、好ましくは哺乳類であって、より好ましくはマウス、ラットなどの齧歯類である。
ここで本明細書において「細胞の悪性度」とは、細胞の癌化の程度をいう。即ち、悪性度が高い細胞を癌細胞と呼ぶことができ、これとは逆に悪性度が極めて低い細胞を正常細胞と呼ぶことができる。また、「被験細胞」とは、本発明の方法において悪性度を判定する対象の細胞である。被験細胞は生体より分離される。即ち、生体より分離された状態の被験細胞に対して本発明が適用される。「生体より分離された」とは、被験細胞が存在する生体組織の一部を摘出することによって、被験細胞がその由来の生体と完全に隔離されている状態をいう。被験細胞は通常、生体で存在していた状態、即ち周囲の細胞と結合した状態で調製され、本発明の方法に使用される。尚、被験細胞を周囲の細胞から分離(単離)した後に本発明の方法に使用してもよい。
被験細胞は例えば被疑癌組織から採取することができる。具体的には、被疑癌組織の一部をバイオプシーで採取し、被験細胞を含む試料としてそれを本発明の方法に供することができる。
一方、「SAKI等の量を検出する」とは、SAKI等の存在量を絶対量として又は相対量として把握することをいう。ここでの相対量の基準は例えば、癌化の程度に応じて用意した標準試料のSAKI等の量とすることができる。尚、「SAKI等の量を検出する」は、SAKI等が存在するか否かを調べることも含む。通常は、SAKI等の存否と、存在する場合にはその量が調べられることになる。厳密にSAKI等を定量することは必須でない。例えば、悪性度の指標となる対照のSAKI等の量と比較することによって被験細胞の悪性度を判定することが可能な程度にSAKI等の量を測定できればよい。尚、用語「SAKI等をコードする核酸の量を検出する」についても、上記と同様に解釈するものとする。
免疫学的染色法では抗SAKI抗体が使用され、当該抗体の結合性(結合量)を指標としてSAKI等の量が検出される。具体的には、被験細胞に抗SAKI抗体を接触させるステップを実施した後、抗SAKI抗体の結合量を測定する。そして測定結果から被験細胞内のSAKI等の検出量を算出する。具体的には、以下に示す免疫学的染色法に従って本発明の方法を実施することができる。
(1)固定・パラフィン包埋
外科的に生体より採取した組織をホルマリンやパラフォルムアルデヒド、無水エチルアルコール等によって固定する。その後パラフィン包埋する。一般にアルコールで脱水した後キシレンで処理し、最後にパラフィンで包埋する。パラフィンで包埋された標本を所望の厚さ(例えば3〜5μm厚)に薄切し、スライドガラス上に伸展させる。尚、パラフィン包埋標本に代えてアルコール固定標本、乾燥封入した標本、凍結標本などを用いる場合もある。
(2)脱パラフィン
一般にキシレン、アルコール、及び精製水で順に処理する。
(3)前処理(抗原賦活)
必要に応じて抗原賦活のために加熱処理及び/又は加圧処理等を行う。
(4)内因性ペルオキシダーゼ除去
染色の際の標識物質としてペルオキシダーゼを使用する場合、過酸化水素水で処理して内因性ペルオキシダーゼ活性を除去しておく。
(5)非特異的反応阻害
切片をウシ血清アルブミン溶液(例えば1%溶液)で数分から数十分程度処理して非特異的反応を阻害する。尚、ウシ血清アルブミンを含有させた抗体溶液を使用して次の一次抗体反応を行うこととし、この工程を省略してもよい。
(5)一次抗体反応
適当な濃度に希釈した抗体をスライドガラス上の切片に滴下し、その後数十分〜数時間反応させる。反応終了後、リン酸緩衝液など適当な緩衝液で洗浄する。
(6)標識試薬の添加
標識物質としてペルオキシダーゼが頻用される。ペルオキシダーゼを結合させた2次抗体をスライドガラス上の切片に滴下し、その後数十分〜数時間反応させる。反応終了後、リン酸緩衝液など適当な緩衝液で洗浄する。
(7)発色反応
トリス緩衝液にDAB(3,3'-diaminobenzidine)を溶解する。続いて過酸化水素水を添加する。このようにして調製した発色用溶液を数分間(例えば5分間)切片に浸透させ、発色させる。発色後、切片を水道水で十分に洗浄し、DABを除去する。
(8)核染色
マイヤーのヘマトキシリンを数秒〜数十秒反応させて核染色を行う。流水で洗浄し色出しする(通常、数分間)。
(9)脱水、透徹、封入
アルコールで脱水した後、キシレンで透徹処理し、最後に合成樹脂やグリセリン、ゴムシロップなどで封入する。
本発明の悪性度判定法に使用するプローブ、プライマーには、検出方法に応じて適宜DNA断片又はRNA断片が用いられる。プローブ、プライマーの塩基長はそれぞれの機能が発揮される長さであればよく、選択性や検出感度及び再現性を考慮すればプライマーの塩基長としては例えば10bp以上、好ましくは15bp以上、具体的には10〜30bp程度、好ましくは15〜25bp程度である。尚、プライマーの場合には増幅対象に特異的にハイブリダイズし、目的の核酸フラグメントを増幅することができる限り鋳型となる配列と多少のミスマッチがあってもよい。ミスマッチの程度としては例えば1〜数個、好ましくは1〜5個、更に好ましくは1〜3個である。プローブの場合も同様に、検出に影響のない範囲で検出対象の配列に対して多少のミスマッチがあってもよい。
他方、SAKI等をコードする核酸を検出対象とする方法(即ち核酸を検出する方法)の場合には当該核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸(プローブ及び/又はプライマー)が用いられる。この場合にはハイブリダイゼーションの実施に必要な一以上の試薬(例えば緩衝液、pH調製用試薬など)や器具などを更に含めてもよい。
尚、通常、本発明のキットには取り扱い説明書が添付される。
例えば、上記ステップを以下の手順で実施することができる。まず、被験化合物の存在下、SAKI等とそのリン酸化酵素であるM期キナーゼとを接触させる(ステップ1)。その後、SAKI等とM期キナーゼの結合量を、被験化合物の非存在下で上記と同様にSAKI等とM期キナーゼとを接触させた場合の結合量と比較する(ステップ2)。その結果、後者の結合量の方が多いようであれば、SAKI等とM期キナーゼとの結合を阻害する能力を被験化合物が有すると判定することができる。
ここでのステップ1は例えば以下の手順で実施される。まず、リン酸化SAKIを生成させる(リン酸化反応:ステップ1−1)。次に、被験化合物、メチル基供給源、リン酸化SAKI、及び基質核酸を混合し反応させる(メチル化反応:ステップ1−2)。この態様ではSAKIのリン酸化とリン酸化SAKIによるメチル化反応とを互いに独立した工程として実施する。尚、メチル化反応は例えば以下の条件で行うことができる。
温度:約37℃、pH:約7.8、反応時間:約30分
基質核酸としては、メチル化活性の検出を容易に且つ高感度で行うため、シトシンを豊富に含有するものが好適に用いられる。具体的には例えばPoly-dI:dCを好適に用いることができる。このような核酸試薬は市販されており(例えばロッシュ社)、容易に入手可能である。
以下、実施例(実験例を含む)を用いて本発明をより詳細に説明する。
1−1.AIM-1によるリン酸化セリン部位を認識する抗体の作製と分子量約100 kDaタンパク質の発見
酵母および線虫のIpl1がH3ヒストンのM期リン酸化酵素であるという報告をC.D. Allisたちの研究グループは2000年に発表した(Hsu, J.Y. et al.: Mitotic phosphorylation of histone H3 is governed by Ipl1/aurora kinase and Glc7/PP1 phosphatase in budding yeast and nematodes. Cell102: 279-291, 2000.)。本発明者らは、AIM-1発見当初の1996年の時点において、ほぼ同時期に岐阜大学の岡野らによって発見されていた類縁キナーゼであるAik(現在、Aurora-Aと呼称)との構造上の比較や、酵母への移入実験結果、抗体を用いた細胞内のタンパク質局在性の比較などから、AIM-1が、酵母で1種類しかない存在しないIpl1の動物細胞における機能的な類縁キナーゼであることを確信し、C.D. Allisたちの報告を受けて間も無く、M期H3ヒストンの動物細胞におけるキナーゼはAIM-1であることを証明した。AIM-1の存在は、酵母で1種類しか存在しないCdc2が動物細胞には複数個あり、その中でG2期HuCdc2がCdk1として認識されるという状況に似ていると考えられた。しかしながら、E.A. Niggの総説には、全く異なる解釈がなされていた(Nigg, E. A.: Mitotic kinases as regulators of cell division and its checkpoints. Nat. Rev. Mol. Cell Biol. 2: 21-32, 2001.)。
約100 kDaの分子量を有し、AIM-1によるリン酸化セリン部位を認識する抗体によって検出されるタンパク質の同定を行なうために、このリン酸化セリン部位を認識する抗体を用いた免疫沈降を試みた。まず、HeLa細胞をダブル・チミジン処理法によって同調し、目的とする約100 kDaタンパク質のリン酸化と、H3ヒストンのリン酸化の細胞周期依存的な動態を調べた(図3)。その結果から、同調細胞の培養開始後、10時間目の細胞をリン酸化タンパク質の回収時期とし、また、6時間目をリン酸化されていない時期とした。それぞれの時間での細胞からタンパク質を回収して、AIM-1によるリン酸化セリン部位を認識する抗体での免疫沈降実験を行なった。その結果、同調培養開始後10時間目のサンプルに存在する約100 kDa のタンパク質が免疫沈降されてくることが確認された(図4左欄)。このタンパク質は、BPB染色により肉眼で確認できた(図4右欄)。そこで、HeLa細胞(10cmシャーレ100枚分)を出発材料とし、同調リリース後10時間目の細胞を、リン酸化セリン部位を認識する抗体で免疫沈降し、免疫沈降されてきた約100 kDaタンパク質をゲルから切り出し、エドマン分解法にて部分アミノ酸配列を分析した。
免疫沈降されてきた約100 kDaタンパク質から4つのペプチド断片の部分アミノ酸配列を決定した(lep56: LFEHYYQELK(配列番号6), lep77-1: VPQPLSWYPE(配列番号7), lep77-2: LIEMLHADM(配列番号8), lep60: LESPSFTGTG(配列番号9))。BLASTによる相同性検索の結果、BC001041のcDNA配列をコードするアミノ酸とlep60の部分のみ完全一致したが、その他3断片と一致するコーディング配列が見当たらなかった。そこで、lep56およびlep77-1に対応するmRNA配列をdbESTより探し出し、それぞれのアミノ酸配列に対応する部分を持つ5'-RACEのためのプライマー(lep56に対応するアンチセンス配列5'-CTGGTAGTAGTGCTCGAACAG-3'(配列番号10)、lep77-1に対応するアンチセンス配列5'-ATACCAACTCAGTGGCTGTGGAAC-3'(配列番号11))を作製後、HeLa細胞のmRNAを用いて5'-RACEを行なった。その後、得られた5'-RACEの産物cDNA断片の配列を決定すると共に、この断片を用いてHeLa完全長cDNAライブラリーよりコロニー・ハイブリダイゼーション法で全長cDNAをクローニングした。得られた約3380-bpのcDNA(配列番号1)のオープンリーディングフレーム(配列番号4))には、推定767残基のアミノ酸(配列番号2)がコードされていた(図5−1〜図5−4)。このコーディング配列から予想されるタンパク質をSAKI(Substrate of an unknown mitotic kinase)と命名した。
抗H3ヒストンSer10リン酸化部位抗体(AIM-1によるリン酸化セリン部位を認識する抗体)のエピトープ部分(セリン10番付近)のアミノ酸配列(RKS)がSAKIの想定アミノ酸配列中に存在した(SAKIの137-139アミノ酸残基部分)。また、予備実験により、N末1-157アミノ酸残基を欠いたSAKI遺伝子産物(Δ1-157-SAKI)、ならびに、C末541-767アミノ酸残基を欠いたSAKI遺伝子産物(Δ541-767-SAKI)をHeLa強制発現後、ノコダゾール処理をしてM期回収した細胞の免疫ブロット実験から、リン酸化部位がN末1-157アミノ酸残基内に存在することが判明した。そこで、SAKIの139番目セリン残基をアラニンに置換した変異体遺伝子(SAKI-SA)を作製してHeLa細胞で発現させ、ノコダゾール処理してM期リン酸化状態をAIM-1によるリン酸化セリン部位を認識する抗体の免疫ブロットで調べたところ、SAKI-SA発現細胞におけるSAKIリン酸化は抑制された(図6)。このことより、AIM-1によるSAKIのリン酸化サイトは139番目セリン残基であると考えられた。
推定アミノ酸配列の全長から、SAKIはNOL1/NOP2/sunファミリーに属する核小体タンパク質と構造的な類似性のあることがわかった。しかしながら、ヒトですでに知られているHuman NOL1 120-kDaタンパク質とは異なる新規なタンパク質であった。最新のデータベース・サーチでは、ゲノムから予想される理論的なコーディングタンパク質として、2003年12月23日にデータベース(Entrez Protein、NCBI提供、http://www.ncbi.nlm.nih.gov)に登録されていることがわかった(hypothetical protein FLJ20303, Accession: NP_060225)。
2−1.抗SAKI抗体の作製
(1)C末合成ペプチドによる抗体(抗C末SAKI抗体)の作製
C末部分のアミノ酸配列に相当する合成ペプチド(GCDPAGVHPPR:配列番号12)を作製し、これを抗原としてウサギに免疫を行ない、ポリクローナル抗体を得た。
(2)全長SAKIの抗原とした抗体の作製
C末認識抗体とは別に、pRSETにより大腸菌にてHisタグN末標識したSAKI全長タンパク質をHis精製し、これをウサギに免疫し、SAKIの全長に対する抗体も作製した(抗全長SAKI抗体)。
SAKI発現の細胞周期依存性に関して以下の知見が得られた。即ち、C末SAKI抗体を用いた免疫ブロットにより、同調したHeLa細胞(図3参照)のSAKI発現パターンを調べた結果、SAKIはHeLa細胞において、細胞周期の全期を通じて発現レベルが変化しないことがわかった(図7)。また、リリース後6時間目(間期)と10時間目(M期)の同調HeLa細胞の免疫沈降実験を行ない、SAKI抗体での免疫沈降物100-kDaタンパク質がM期特異的にリン酸化されていることを確認した(図8)。
SAKIの細胞内局在を調べるために免疫染色を行った。その結果、SAKIの染色性は間期細胞において、位相差細胞像の核小体部分及び核小体タンパク質C23の染色性と一致しており、SAKIは核小体に局在することが明らかとなった(図9)。M期細胞ではSAKIは染色体外に多く観察された(データ示さず)。核小体の構造はM期に入ると消失するが、それに伴いSAKIタンパク質も核外に移行すると考えられた。尚、図9では正常ヒト線維芽細胞(以下、NHDF)の染色試験の結果を示したが、HeLa細胞においても核小体部分におけるSAKIの染色が確認されている。但し、HeLa細胞ではNHDF細胞のような明瞭な局在性は観察されなかった。これは、HeLa細胞ではSAKIが高発現しているためであると考えられる。
3−1.SAKIタンパク質のrRNA成熟活性化活性(SAKIはRNA代謝の律速酵素である)
構造上の類似性、及び細胞内での核小体への局在性から、SAKIはrRNAの成熟過程にかかわるメチル化酵素であることが予想された。そこでHeLa細胞にSAKI遺伝子発現ベクターをトランスフェクション後、L-[mehyl-14C]methionineをメチル基供給源として加えた培地で18時間培養し、全RNAを回収してRNAゲルで泳動後、RNAブロットを行ない、14C標識メチル基の取り込みをオートラジオグラフィーで調べた。その結果、SAKIの過剰発現は、rRNAへの14C標識メチル基の取り込みを増加させることがわかった(図10)。即ち、SAKIが細胞内でrRNAをメチル化させる活性を持つことが予測された。
SAKIは、間期核小体において核小体タンパク質B23やC23と共局在し(図9)、免疫沈降によりこれらのタンパク質と共沈されてくることから、複合体を形成していると考えられる。一方、M期に入る時に、SAKIはリン酸化を受けている。この時期、B23やC23もリン酸化されることが知られている。G2/M移行の過程で核膜消失と同時に核小体構造も消失するが、核小体構造が崩壊したM期において、リン酸化C23とリン酸化B23の挙動が異なることが知られている。ノコダゾール処理した細胞のSAKI、C23、B23のタンパク質発現量は間期の発現量と変化は無い。しかし、間期とは異なりB23もC23もSAKIタンパク質と免疫沈降されにくくなっている。また、M期でのこれらの細胞内局在を観察すると、それぞれ異なった局在性を持つ。SAKIタンパク質の局在性は一部においてC23とオーバーラップする部分があり、同様に免疫沈降実験においてもSAKIはC23とM期で部分的に相互作用しているようである。尚、M期では、SAKIはC23と同様、染色体外に局在している。
一方、大腸菌で産生させた活性型AIM-1を酵素として用いて、試験管内でのDNAメチル化活性を調べた。その結果、λDNAを用いたホモ・メチル化活性はSAKIには検出できなかった(通常、真核生物にはこの活性は存在しない)(図11)。更に、polydI:dCを基質に用いたヘミ・メチル化活性を調べた結果、大腸菌で産生させたAIM-1-WTタンパクでヒトDnmt1と同程度のヘミ・メチル化活性を認めたが、SAKIタンパクを添加してもヘミ・メチル化活性の増加は認められず(図12)、SAKIタンパク単独でのヘミ・メチル化活性も認めなかった(データは示していない)。すなわち、SAKIには、DNAメチル化酵素活性は認められなかった。
一方、SAKIのリン酸化の意義を調べるために、HeLa細胞にSAKI-WT、SAKI-SA(139番目セリンをアラニンに置換)、SAKI-SE(139番目セリンをグルタミン酸に置換)の発現ベクターを移入して後、細胞を1 μCi/mlのL-[methyl-14C]methionineで18時間ラベルした。ラベルの期間中に対数増殖にあった群(exp)と200ng/mlのノコダゾール処理群(noc)について、rRNAを分離してRNAゲルに泳動後、BAS2000によってRI検出を行なった。その結果を図13に示す。なお、図の上段はBAS2000の結果、下段はメチル化された量の定量値である。また、レーンEはempty vector(ベクターのみ)、レーンWTはSAKI-WT、レーンSAはSAKI-SA、レーンSEはSAKI-SEをそれぞれ意味している。
その結果、図10で示した結果と同様に、対数増殖期細胞(exp)では、野生型(WT)、及び非リン酸化型(SAKI-SA)ではrRNAメチル化酵素活性の増加が認められた。しかし、恒常的リン酸化型(SAKI-SE)ではrRNAメチル化酵素活性の抑制が観察された。
一方、M期(noc)の細胞では、空のベクターのみ(E)と、恒常的リン酸化型(SAKI-SE)とのrRNAメチル化酵素活性はほとんど同じであった。また、野生型(WT)ではrRNAメチル化酵素活性の増加が少し認められた。これらに対して、SAKI-SAでは、対数増殖期レベルと同様、rRNAメチル化酵素活性が増加していた。
以上の結果から、SAKIはDNAメチル化酵素活性を備えていないが、rRNAメチル化能を有し、そのrRNAメチル化酵素活性は、リン酸化制御によりM期で抑制されることが分った。
4−1.実験結果からの考察
さて、SAKI はH3 ヒストンの10 番目セリンをリン酸化させた配列を認識するポリクローナル抗体を用いて同定した蛋白であり、H3 ヒストンと同様、SAKI も細胞周期のM期でリン酸化される。H3 ヒストンの10番目セリンをM期でリン酸化する酵素は、発明者らが動物細胞から初めて単離同定したAIM-1/Aurora-B である。そのため、SAKI はAIM-1 によってリン酸化されるものと考えていた。
また、図2と図6に示す実験データから、「AIM-1/Aurora-B ではそのキナーゼ欠失型であるK/R 型遺伝子を発現させると、H3ヒストンのリン酸化と共にSAKI のリン酸化も抑制される。」という結果が得られており、この結果からも「SAKI もH3 ヒストンと同様にAIM-1/Aurora-B によってM期でリン酸化される基質である。」ことを示していると考えていた。
しかし、以下の理由から、M期にSAKIをリン酸化するのはAIM-1/Aurora-Bではない可能性があると考えられた。
(1)AIM-1(Aurora-B) はノコダゾールなどのスピンドル崩壊因子によるM期停止(スピンドル・チェックポイントと言う)の根幹的な制御因子である。そのため、AIM-1がキナーゼ活性を欠失(キナーゼ欠失型であるK/R 型遺伝子を発現)すると、ノコダゾールによるM期停止は起こらなくなり、その結果、K/R 型遺伝子の発現細胞はM期を脱出する。そして、M期を脱出してしまえば、前記発現細胞中でH3 ヒストンのリン酸化低下と同時にSAKI リン酸化の低下が観察されるのは当然である。したがって、図2と図6に示す実験データは、SAKIがM期にリン酸化されることは示しているものの、そのリン酸化酵素がAIM-1/Aurora-Bであることを確定するものではない。
(2)図9に示す実験結果から、SAKIは、核小体タンパク質として知られるC23と同様、間期においては、核小体に局在しているとの知見が得られた。一方、H3 ヒストンとAIM-1/Aurora-Bとはその細胞内での局在の仕方が同一であり、間期においては核小体に局在していないことが確認されている。すなわち、SAKIとAIM-1/Aurora-Bとはその細胞内での局在の仕方が異なっている。
そのため、以下に示すようにして、AIM-1/Aurora-B が、SAKIのリン酸化酵素であるか否かを、(1)SAKIの細胞内局在性を調べること、及び(2)細胞中でAIM-1/Aurora-Bを強制発現させることによって確認した。
4−2.AIM-1/Aurora-B が、SAKIのリン酸化酵素であるか否かの確認
(1)SAKIの細胞内局在性
HeLa細胞の対数増殖期(Exp.)とノコダゾール処理(200 ng/ml、18時間)してM期に停止させた細胞から、界面活性剤(ActiveMotif社製のNuclear ExtractionKit)を用いて、各細胞のタンパク質を抽出し、細胞質画分、核画分、不溶性画分の3つに分画した。分画したタンパク質は、チュブリン(α-tubulin)、H3ヒストン、Aik /Aurora-A、AIM-1/Aurora-B、H3ヒストンのリン酸化された10番目のセリン、をそれぞれ認識する抗体を用いた免疫ブロットにより検出した。その結果を図14(a)に示す。
この図からも明らかなように、リン酸化SAKI(SAKI-P)はM期細胞の細胞質(Cyt)と核画分(Nuc)に存在しているのに対し、リン酸化H3ヒストン(H3 histone-P)は不溶性画分(Ins)に存在した。また、AIM-1/Aurora-Bも不溶性画分にその多くが存在した。
このように、細胞タンパク質を分画すると、AIM-1/Aurora-B とH3 ヒストンとが不溶性画分(Ins)に分画されるのに対して、SAKI タンパク質は可溶性画分にも分画され、且つ、リン酸化SAKIは不溶性画分には分画されないことが分った。すなわち、AIM-1/Aurora-BとSAKI タンパク質とは、タンパク分画法によるタンパク分布が大きく異なっている。
(2)AIM-1/Aurora-Bの強制発現
まず、pcDNA3ベクター(Invitrogen)にFLAGエピトープ・タグ(DYKDDDDK)を付加したAIM-1/Aurora-B 遺伝子を挿入した組換ベクター(以下、FLAG -Aurora-B)と、FLAGエピトープ・タグを付加したAik/Aurora-A遺伝子を挿入した組換ベクター(以下、FLAG -Aurora-A)とを作製し、これらのベクターをHeLa細胞に移入し発現実験を行なった。ここで、細胞の移入及び発現実験については、図1、図2、図6の実験と基本的に同じように行ったが、トランスフェショション試薬により効率の高いLipofectamine2000(Invitrogen)を用いた。そのため、FLAG-AIM-1の発現量は高かった。つぎに、強制発現させた形質転換細胞からタンパク質を抽出し、抗H3-P抗体、抗FLAG抗体を用いた免疫ブロットを行なった。その結果を図14(b)に示す。なお、抗FLAG抗体を用いた免疫ブロットの結果から、外から発現させたFLAG-Aurora-AあるいはFLAG-Aurora-Bは、予定したように強制発現していることを示している。
この図からも明らかなように、AIM-1/Aurora-Bを強制発現することにより、H3 ヒストンのリン酸化量は増加したが、SAKI のリン酸化量は増加していなかった。また、Aik(Aurora-A )を強制発現しても、H3ヒストン及びSAKI 双方のリン酸化状態は増加しなかった。このことから、M期でSAKI をリン酸化する酵素はAIM-1 とは異なると考えられる。
以上の結果から、SAKI リン酸化酵素は未同定であり、このリン酸化酵素はM期で活性を持つセリン/スレオニン・キナーゼであり、G2期で核小体に局在性を示す可能性があり、リン酸化部位はH3ヒストンと共通のエピトープ(RKS-P)を持つと考えられる。
5−1.抗SAKI抗体を用いた免疫ブロットによる癌細胞と正常細胞における発現の比較
(1)ヒト正常臓器組織での発現
各臓器のタンパク質抽出サンプルを作製し、ヒトの各臓器でのSAKIの発現を免疫ブロット法で調べた。その結果、性巣、甲状腺、唾液腺、気管、肺、十二指腸、歯肉上皮、舌上皮に発現が認められ、腎臓、小腸、脾臓、膀胱、副腎、舌筋肉に痕跡程度の発現が見られたが、動脈、肝臓、大腸、胃、食道、心臓での発現は検出限界以下であった(図15)。
(2)細胞株における発現パターン
NHDFに比べてHeLa細胞ではSAKIの高発現が観察された(図16)。また、各種大腸癌細胞株ならびに口腔扁平上皮癌細胞株の全例においてSAKIの高発現が観察された(データ示さず)。
SAKI遺伝子はヒト染色体5p15.32にマッピングされることがヒト・ゲノム情報の検索からわかった。5p15.3付近は遺伝子増幅が広くヒト癌で観察されている領域である。SAKIタンパク質の高発現が癌細胞株で認められたので、ゲノム・サザンでSAKI遺伝子のコピー数を調べた。その結果、SAKIの高発現が認められるHeLaで遺伝子増幅が観察された(図17)。また、ヒトの口腔癌臨床剖検組織を調べた結果、遺伝子増幅している症例を観察した(図17)。癌に関連するSAKIの高発現は遺伝子増幅を伴う場合のあることが明らかとなった。
抗C末SAKI抗体を用いた免疫組織染色により、ヒト癌患者の癌組織部分の病理標本を観察した。免疫組織染色(高感度法(CSA法))は以下の手順で行った。
(1)固定、パラフィン包埋、薄切
外科的に切除された組織を10%中性緩衝ホルマリン溶液中で、1昼夜から数日固定し、脱水後、パラフィン包埋する。約5μm厚に薄切し、シランコートスライドガラス上に伸展させる。
(2)脱パラフィン
キシレンと下降系列のエタノールでパラフィンを除去する。
(3)内因性ペルオキシダーゼのブロッキング
0.3%H2O2/100%メチルアルコール中に30分浸漬し、内因性パーオキシダーゼの活性を阻害する。
(4)抗原賦活化
クエン酸緩衝液pH6.0中に浸漬し、マイクロウエーブ照射(5分×3回)を行い、切片内の抗原を賦活化する。
(5)非特異的反応のブロッキング
切片を水洗、PBSに浸漬後、カゼイン含有非特異的反応ブロッキング試薬を切片上に滴下する(室温、10分)。
(6)一次抗体反応
抗SAKI C末ポリクローナル抗体をPBSで400〜1,600倍に希釈したものを切片上に滴下し、反応させる(4℃、overnight)。その後、Tween20含有トリス塩酸緩衝液(TBST)で洗浄する。
(7)ビオチン標識二次抗体の反応
ビオチン標識抗ウサギ免疫グロブリンを切片上に滴下し、反応させる(室温、15分)。その後、TBSTで洗浄する。
(8)ストレプトアビジン・ビオチン複合体の反応
ストレプトアビジン・ビオチン複合体を切片上に滴下し、反応させる(室温、15分)。その後、TBSTで洗浄する。
(9)増幅試薬の反応
増幅試薬(ビオチン標識タイラマイド)を切片上に滴下し、反応させる(室温、15分)。その後、TBSTで洗浄する。
(10)パーオキシダーゼ標識ストレプトアビジンの反応
パーオキシダーゼ標識ストレプトアビジンを切片上に滴下し、反応させる(室温、15分)。その後、TBSTで洗浄する。
(11)発色
DABで発色(5〜20分)後、水洗する。
(12)対比染色
ヘマトキシリンで核を染色(1分)後、水洗する。
(13)封入
切片を上昇系列のエタノールで脱水、キシレンで透徹後、封入する。
その結果、癌組織において明瞭なSAKI染色が観察(図18)され、診断に応用可能であると判断された。
抗C末SAKI抗体を用いた免疫組織染色によってSAKIの発現を種々の癌症例で検討した結果、口腔癌、食道癌、肝臓癌、膵臓癌、腎臓癌、膀胱癌、尿管癌、子宮頚部癌、皮膚癌、乳腺癌のいずれの症例においても、癌組織においてSAKIの高発現が観察された。このことから、SAKIはヒト癌診断における病理学的な検索のマーカーとして有用であると判断された(図19、図20)。
(1)口腔癌(27 例)
図21に示すように、(a)口腔扁平上皮癌組織では100.0%(27/27)の症例で強い陽性反応が観察された。一方、(b)正常組織は全例陰性であった。
(2)大腸癌(19 例)
大腸では結合組織に弱陽性、平滑筋組織では極軽度のSAKI 反応しか観察されなかったのに対して、大腸腺癌においては84.2%(16/19)に、強いSAKI 陽性反応が見られた。
(3)肝臓癌(25 例)
胆管上皮、偽胆管などの正常肝臓組織では極軽度の反応がみられただけであるのに対して、肝細胞癌組織では72.0%(18/25)に陽性反応が認められた。
(4)肺癌 (扁平上皮癌 8 例,腺癌13 例)
図22に示すように、(a)癌組織では腺癌、扁平上皮癌を問わず、1例をのぞいて95.2%(20/21)に明らかな陽性反応がみられたが、(b)周囲の肺胞や気管支は陰性であった。
(5)前立腺(腺癌、18 例)
平滑筋、骨格筋、神経節組織などの正常組織において極軽度のSAKI 陽性反応が観察されたのみであったのに対し、癌組織では、すべての症例で腺癌細胞の核に中等度〜高度のSAKI 陽性反応が認められた。
これらの結果から、抗C末SAKI抗体を用いた免疫組織染色法は、癌細胞を高い確率で染色するとともに、正常細胞はほとんど染色しなかった。これは、抗C末SAKI抗体が優れた癌診断マーカーであることを示している。
周辺に正常組織を含む癌組織剖検病理切片を免疫組織染色して、SAKI の発現状況と、病理診断学的な増殖マーカーとして一般的に用いられているKi-67 の発現状況とを比較検討した。その結果,Ki-67 は増殖期にある細胞のみに散在性の発現を示した(図23(a))のに対して、SAKIはほとんどの癌細胞に発現した(図23(b))。この結果から、SAKI は癌化(悪性化)の指標として使える可能性があること、及びKi-67 やPCNA などの従来から増殖活性の指数として応用されてきた癌マーカーとは異なる応用が可能であることが示めされた。
免疫染色では、SAKI は良好な癌マーカーになる可能性があることが分った。そこで、SAKI 検出が実際の癌診断に応用可能であるかどうかを検討するために、ウエスタン・ブロット法(免疫ブロット法)によるSAKIの検出を試みた。
なお、免疫ブロット法はELISA 法(酵素免疫法)と比較して検出感度は数十分の1〜数百分の1と低く、MASS スペクトロメトリー解析の数千分の1〜数万分の1と検出感度が低い。しかし、免疫ブロット法は、実験室レベルで簡便に行なうことができ、ELISA 法のようにシステムを組み立てなくても、免疫反応したタンパク質の分子量を確認しながら、その検出を行うことができる。
(1)免疫ブロット法による検出感度の検討
免疫ブロットによる検出感度について検討するため、ヒト子宮頸部癌細胞株であるHeLa 細胞とマウスBALB/c 3T3A31-1-1 細胞を種々の細胞数ずつ混合して、抗C末SAKI抗体を用いた免疫ブロットを行なった。その結果を図24に示す。なお、SAKIC末領域のアミノ酸配列は動物種間で異なるため、A31-1-1 細胞のSAKI は理論的にクロスすることはない。
図24から、105 個細胞中に103〜102 個以上の癌細胞が混入していれば、すなわち、癌細胞がサンプル細胞中に100〜1000 個に1個存在していれば、当該癌細胞の混入を検出できることが分った。
(2)患者サンプルによる検出の検討
子宮癌患者の膣内スワッブ(患者サンプル)を取った綿棒からタンパク質を抽出し、このタンパク質中のSAKIを、抗C末SAKI抗体を用いる免疫ブロット法により検出した。その結果を図25に示す。なお、患者サンプルは、日本母性保護産婦人科医会の分類による子宮癌分類のグレード2(異常細胞を認めるが良性)8例、グレード5(異型細胞を認め、周辺組織に移行性の可能性のある悪性)1例を用いた。また、免疫ブロット法を行った際のタンパク質量は、1レーン当り10μg相当であった。
その結果、グレード5の1例のみにおいて、SAKI を検出することができた。このことは、抗C末SAKI抗体が重篤な癌細胞を少ないタンパク質量で検出できることを示している。
本明細書の中で明示した論文、公開特許公報、及び特許公報などの内容は、その全ての内容を援用によって引用することとする。
Claims (7)
- 以下の(a)及び(b)からなる群より選択され、癌化した腫瘍細胞に発現する、単離されたタンパク質からなる前記癌化した腫瘍細胞の癌化判定用マーカー。
(a)配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列を有し、M期キナーゼによりリン酸化されたタンパク質 - 生体から分離された被検腫瘍細胞において以下の(a)及び(b)からなる群より選択されるタンパク質を検出し、前記被検腫瘍細胞が癌化しているか否かを判定することを特徴とする、被検腫瘍細胞の悪性化判定法。
(a)配列番号2のアミノ酸配列を有するタンパク質
(b)配列番号2のアミノ酸配列を有し、M期キナーゼによりリン酸化されたタンパク質 - 癌化していると判定された腫瘍細胞が、異型細胞であり、周辺組織に移行性の可能性のある細胞であることを特徴とする、請求項2記載の被検腫瘍細胞の悪性化判定法。
- タンパク質の検出が免疫学的染色法を利用して実施される、請求項2又は3に記載の被検腫瘍細胞の悪性化判定法。
- 免疫学的方法が、配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体を用いて行われることを特徴とする、請求項4記載の被検腫瘍細胞の悪性化判定方法。
- 配列番号12のアミノ酸配列からなるペプチドに対する抗体を含んでなり、被検腫瘍細胞が癌化しているか否かの判定用である、被検細胞の悪性化判定用試薬。
- 請求項6に記載の試薬と、使用説明書とを含んでなる、被検細胞の悪性化判定用キット。
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