JP4918489B2 - タンパク質と他の分子との相互作用を検出するためのタンパク質プローブ - Google Patents
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Description
また、蛍光標識したタンパク質に他の物質が結合した際の蛍光偏光度の増加を測定することにより、タンパク質と他の物質との結合を測定する技術も存在する。しかし、この方法によって、測定できるのはタンパク質と他の物質との結合の有無であり、タンパク質と他の分子との相互作用によって生じるタンパク質の立体構造変化を捉えることはできなかった。
さらに、蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体とエネルギー受容体をタンパク質に結合させることで、タンパク質と他の分子との相互作用によって生じるタンパク質の立体構造変化を、蛍光共鳴エネルギー移動の変化として検出することが行なわれている(特許文献1および2を参照)。
エネルギー供与体とエネルギー受容体を結合させたタンパク質としては、化学修飾によりそれらを結合させたタンパク質、化学合成によりそれらを結合させたタンパク質、遺伝子融合により緑色蛍光タンパク質およびその改変体を結合させたタンパク質、などがある。
例えば、緑色蛍光を発する分子と赤色蛍光を発する分子をタンパク質に結合させることにより、タンパク質と他の分子との相互作用によって生じるタンパク質の立体構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動の変化として検出することができる。また、青緑色蛍光タンパク質と黄色蛍光タンパク質をタンパク質のN末端とC末端に結合させることでも、同様にタンパク質と他の分子との相互作用によって生じるタンパク質の立体構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動の変化として検出することができる。
しかしながら、タンパク質と他の分子との相互作用の検出を行なうためには、それに適した部位に受容体と供与体を結合させる必要がある。化学修飾ではエネルギー供与体とエネルギー受容体をそれぞれ狙った部位に特異的に結合させることは困難なため、それにより得られるタンパク質では、他の分子との相互作用を明確に検出することは困難である。一方、化学合成によりエネルギー供与体とエネルギー受容体を結合させたタンパク質は、化学合成できる分子量に限界があるため、分子量が約1万以下のものに限られる。また、遺伝子融合では緑色蛍光タンパク質およびその改変体の結合がタンパク質の活性を大きく低下させ、さらに結合部位はタンパク質のN末端とC末端に制限されるため、他の分子との相互作用を明確に検出することは困難である。
標識物質で標識された標識非天然アミノ酸をタンパク質に導入する方法として、4塩基コドンを用いた方法等が知られている(特許文献3参照)。該方法によれば、タンパク質の特定部位に標識アミノ酸を導入することが可能である。また、2種類の非天然アミノ酸の導入法も知られており(非特許文献1および2を参照)、これらの方法を組み合わせて用いることで、2種類の標識アミノ酸を特定部位に含むタンパク質を合成することが可能である。
本発明者は、蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体とエネルギー受容体をそれぞれ結合させた非天然アミノ酸を、タンパク質の他の分子との相互作用の検出に適した部位に導入したタンパク質が他の分子と相互作用したときに、タンパク質の立体構造が変化し、エネルギー供与体とエネルギー受容体の距離および配向が変化し、蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化することを見出し本発明を完成させた。
この際、本発明者は、4塩基コドン法や終止コドン法等の非天然アミノ酸をタンパク質の特定の位置に導入する方法により、蛍光共鳴エネルギー移動が起こる位置に蛍光標識アミノ酸を導入した。
すなわち、本発明は以下の態様:
1. 蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を含むタンパク質であって、該タンパク質と結合し得る分子と結合したときに立体構造が変化しエネルギー供与体蛍光物質とエネルギー受容体蛍光物質の距離および配向が変化するような位置に2種類の蛍光標識アミノ酸が存在し蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化し得るタンパク質、
2. 蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸の一方がタンパク質のN末端またはC末端に存在し、もう一方がN末端およびC末端以外の部位に存在する上記1記載のタンパク質、
3. 蛍光物質で標識したアミノ酸を4塩基コドン法または終止コドン法により導入した上記1または2に記載のタンパク質、
4. タンパク質と結合し得る分子が、タンパク質、核酸、糖および低分子量分子からなる群から選択される上記1〜3のいずれかに記載のタンパク質、
5. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質が、可視光域に励起波長および発光波長を有する蛍光物質である上記1〜4のいずれかに記載のタンパク質、
6. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質が、その化学構造に4,4−ジフルオロ−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセンを基本骨格として含む分子又はその塩もしくはその誘導体である上記5記載のタンパク質、
7. エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が4,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩である上記6のタンパク質、
8. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質がp−アミノフェニルアラニンのパラ位アミノ基に結合している上記1〜7のいずれかに記載のタンパク質、
9. タンパク質が、カルモジュリンまたはマルトース結合タンパク質である上記1〜8のいずれかに記載のタンパク質、
10. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識したアミノ酸が、カルモジュリンがカルモジュリン結合タンパク質およびカルシウムイオンと相互作用したときに、蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るカルモジュリン上の位置に存在する、上記9記載のカルモジュリン、
11. エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩であり、それらの蛍光物質で標識したアミノ酸が、カルモジュリンがカルモジュリン結合タンパク質およびカルシウムイオンと相互作用したときに蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るカルモジュリン上の位置に存在する、上記10記載のカルモジュリン、
12. 4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩ならびに,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の40番目とN末端、またはカルモジュリンのアミノ酸配列の99番目とN末端に含むカルモジュリン、
13. エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識したアミノ酸が、マルトース結合タンパク質がマルトースと相互作用したときに、蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るマルトース結合タンパク質上の位置に存在する、上記9記載のマルトース結合タンパク質。
14. エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩であり、それらの蛍光物質で標識したアミノ酸が、マルトース結合タンパク質がマルトースと相互作用したときに蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るマルトース結合タンパク質上の位置に存在する、上記13記載のマルトース結合タンパク質。
15. 4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩ならびに,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩をそれぞれマルトース結合タンパク質のアミノ酸配列の171番目とN末端、またはマルトース結合タンパク質のアミノ酸配列の283番目とN末端に含むマルトース結合タンパク質。
16. 上記1〜9のいずれかに記載のタンパク質の製造方法であって、
2種類の4塩基コドンが挿入されたタンパク質のmRNAを調製する工程であって、4塩基コドンを挿入する位置が前記タンパク質が他の分子と相互作用したときに蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するように距離および配向が変化し得るタンパク質上の位置に対応するmRNAの位置である工程、
蛍光共鳴エネルギー移動を起こし得る2種類の蛍光物質でそれぞれ標識した2種類のアミノ酸であって、前記4塩基コドンに対するアンチコドンを有するtRNAが結合した2種類のアミノ酸を調製する工程、ならびに
前記mRNAおよびアミノ酸結合tRNAを用いてタンパク質を合成する工程とを含む製造方法、
17. 2種類の4塩基コドンの一方を終止コドンに置き換えた上記16記載の方法。
18. 無細胞翻訳系でタンパク質を合成する上記16または17に記載の方法、
19. タンパク質がカルモジュリンまたはマルトース結合タンパク質である上記16〜18のいずれかに記載の方法、
20. 4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩ならびに,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の40番目とN末端、またはカルモジュリンのアミノ酸配列の99番目とN末端に含ませる上記19の方法、
21. 4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩ならびに,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸又はその塩をそれぞれマルトース結合タンパク質のアミノ酸配列の171番目とN末端、またはマルトース結合タンパク質のアミノ酸配列の283番目とN末端に含ませる上記19記載の方法。
22. 上記1〜9のいずれかに記載のタンパク質と被験分子を接触させ、該タンパク質と被験分子との相互作用による前記タンパク質の立体構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動を測定することにより検出し、前記タンパク質と前記被験分子の相互作用を検出する方法、
23. タンパク質がカルモジュリンまたはマルトース結合タンパク質である上記22記載の方法、
24. 上記1〜9のいずれかに記載のタンパク質と被験分子を接触させ、該タンパク質と被験分子との相互作用による前記タンパク質の立体構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動を測定することにより検出し、前記タンパク質と相互作用する分子をスクリーニングする方法、
25. タンパク質がカルモジュリンまたはマルトース結合タンパク質である上記24記載の方法、
26. 上記1〜9のいずれかに記載のタンパク質と該タンパク質と相互作用する少なくとも1つの分子および被験化合物を接触させ、該タンパク質と該分子との相互作用を前記タンパク質の立体構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動を測定することにより検出し、前記タンパク質と前記分子との相互作用を阻害または増強する化合物をスクリーニングする方法、
27. タンパク質がカルモジュリンであって、タンパク質と相互作用する分子がカルシウム結合タンパク質およびカルシウムイオンである上記26記載の方法、ならびに
28. タンパク質がマルトース結合タンパク質であって、タンパク質と相互作用する分子がマルトースである上記26記載の方法。
に関する。
本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願2005−230768号の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。
図2は、1分子のタンパク質への2種類の非天然アミノ酸の導入法の概要を示す図である。
図3は、1分子のタンパク質への2種類の蛍光標識アミノ酸のタンパク質への部位特異的導入法の概要を示す図である。
図4は、蛍光共鳴エネルギー移動を利用したタンパク質と他の分子との相互作用の検出法を示す図である。カルモジュリン結合タンパク質との相互作用に伴って、カルモジュリンの構造変化が起き、その結果蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体(緑色の分子)から受容体(赤色の分子)へエネルギー移動が起こる。この変化は蛍光スペクトルの変化として検出される。
図5Aは、2種類の蛍光標識アミノ酸を導入したタンパク質の合成法を示す図である。
図5Bは、2種類の蛍光標識アミノ酸を導入したタンパク質のSDS−PAGEの結果を示す写真である。
図6は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、40番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態の立体構造(A)およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の立体構造(B)を示す図である。
図7は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、40番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の蛍光スペクトルを示す図である。
図8は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、99番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態の立体構造(A)およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の立体構造(B)を示す図である。
図9は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、99番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の蛍光スペクトルを示す図である。
図10は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、113番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態の立体構造(A)およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の立体構造(B)を示す図である。
図11は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、113番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の蛍光スペクトルを示す図である。
図12は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、148番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態の立体構造(A)およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の立体構造(B)を示す図である。
図13は、カルモジュリンのアミノ酸配列中、148番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したカルモジュリンのカルシウムイオンと相互作用した状態およびカルシウムイオンとカルモジュリン結合タンパク質と相互作用した状態の蛍光スペクトルを示す図である。
図14は、マルトース結合タンパク質のアミノ酸配列中、171番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したマルトース結合タンパク質の他の分子と相互作用していない状態の立体構造(A)およびマルトースと相互作用した状態の立体構造(B)を示す図である。
図15は、マルトース結合タンパク質のアミノ酸配列中、171番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したマルトース結合タンパク質の他の分子と相互作用していない状態およびマルトースと相互作用した状態の蛍光スペクトルを示す図である。
図16は、マルトース結合タンパク質のアミノ酸配列中、176番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したマルトース結合タンパク質の他の分子と相互作用していない状態の立体構造(A)およびマルトースと相互作用した状態の立体構造(B)を示す図である。
図17は、マルトース結合タンパク質のアミノ酸配列中、176番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したマルトース結合タンパク質の他の分子と相互作用していない状態およびマルトースと相互作用した状態の蛍光スペクトルを示す図である。
図18は、マルトース結合タンパク質のアミノ酸配列中、283番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したマルトース結合タンパク質の他の分子と相互作用していない状態の立体構造(A)およびマルトースと相互作用した状態の立体構造(B)を示す図である。
図19は、マルトース結合タンパク質のアミノ酸配列中、283番目にBODIPY FL、N末端にBODIPY558/568で標識したアミノ酸を導入したマルトース結合タンパク質の他の分子と相互作用していない状態およびマルトースと相互作用した状態の蛍光スペクトルを示す図である。
本発明のタンパク質は、特定の他の分子と結合等の相互作用をすることができ、該分子と相互作用することにより、立体構造が変化する。この立体構造が変化することにより、上記エネルギー供与体とエネルギー受容体の立体的な位置が変動し、両者の距離および配向が変化し両者の間で起こる蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化する。
タンパク質は限定されず、分子と相互作用することにより立体構造が変化するいかなるタンパク質も含まれる。このようなタンパク質として、例えば、カルモジュリン、cGMP依存性蛋白質キナーゼ、ステロイドホルモン受容体、ステロイドホルモン受容体のリガンド結合ドメイン、タンパク質キナーゼC、イノシトール−1,4,5−トリホスフェート受容体、レコベリン、マルトース結合タンパク質、DNA結合タンパク質等が挙げられる。
タンパク質の立体構造の変化は、CD(円偏光二色性)スペクトル、紫外吸収および蛍光吸収スペクトル、NMR(核磁気共鳴)スペクトルの変化としてとらえることができ、またシンクロトロン放射線源を用いたX線小角散乱法等により立体構造の変化をとらえることができる。
本発明のタンパク質と相互作用する分子は、タンパク質ごとに決まっており、タンパク質、核酸、糖、イオン等のその他の有機または無機の低分子量分子が含まれる。例えば、タンパク質がカルモジュリンの場合、カルモジュリン結合タンパク質やカルシウムイオンが挙げられる。また、cGMP依存性蛋白質キナーゼにはcGMP、マルトース結合タンパク質にはマルトースが挙げられる。さらに、ステロイドホルモン受容体やDNA結合タンパク質には、それぞれのタンパク質に特異的なステロイドホルモンやDNAが挙げられる。
本発明に利用可能な蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体(ドナー)となる物質およびエネルギー移動のエネルギー受容体(アクセプター)となる物質としては、BODIPY 化合物、ローダミン、フルオレセイン(FITC)、テキサスレッド、アクリジンオレンジ、サイバーグリーン、Cy3、Cy5等、ならびにこれらの誘導体を含む公知のあらゆる蛍光物質が挙げられる。
本発明に使用するのに特に好ましい蛍光物質として、その化学構造に4,4−ジフルオロ−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセンを基本骨格として含む化合物又はその塩もしくはその誘導体を挙げることができる(本明細書中では、該化合物又はその塩もしくはその誘導体を総称してBODIPY化合物とも呼ぶ)。その例としては、BODIPY(登録商標)FL(4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸)(励起波長/蛍光波長:505nm/513nm)、BODIPY(登録商標)TR(励起波長/蛍光波長:588nm/616nm)、BODIPY(登録商標)R6G(励起波長/蛍光波長:528nm/550nm)、BODIPY(登録商標)493/503(励起波長/蛍光波長:495/503)、BODIPY(登録商標)558/568(励起波長/蛍光波長:559nm/569nm)、BODIPY(登録商標)TMR−X(励起波長/蛍光波長:542/574)、BODIPY(登録商標)580/605(励起波長/蛍光波長:580/605)、BODIPY(登録商標)TR−X(励起波長/蛍光波長:589nm/617nm)、BODIPY(登録商標)564/570(励起波長/蛍光波長:565/571)、BODIPY(登録商標)564/574(励起波長/蛍光波長:564/570)、BODIPY(登録商標)581/591(励起波長/蛍光波長:582/592)をはじめ、蛍光特性を異にする多種多様なものが、Molecular Probes社(オレゴン州、米国)等から市販されているが、現在市販品として入手可能なものに限定はされない。
また、用いる蛍光物質は、可視光域内(400〜700nm付近)に励起波長を有し、さらに可視光域内に発光波長を有するものが好ましく、水溶液中での発光強度が強いものが特に好ましい。BODIPY化合物には、可視光域内に励起波長および発光波長を有するものが種々あり、例えば、BODIPY FLは、488nmの光で励起され、可視光領域で強い発光を有するため、アルゴンレーザー光によって励起可能であり、既存の汎用機器で高感度かつ容易に検出できるという点で大きな利点を有する。
蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体(ドナー)となる蛍光物質およびエネルギー移動のエネルギー受容体(アクセプター)となる蛍光物質は、エネルギー受容体となる物質の励起スペクトルがエネルギー供与体となる物質の放射スペクトルと重複するように選択すればよい。それぞれの蛍光物質の励起波長および蛍光波長は公知であり、また容易に測定することができる。この蛍光物質に固有の励起波長および蛍光波長に基づいて蛍光物質の組合わせを適宜選択することができる。
例えば、エネルギー供与体としてBODIPY(登録商標)FL、エネルギー受容体としてBODIPY(登録商標)558/568を選択すればよい。あるいは、エネルギー供与体とエネルギー受容体の組み合わせとして、BODIPY FLとBODIPY 576/586、BODIPY FLとTAMRA、BODIPY FLとCy3、FluoresceinとBODIPY 558/568、Alexa488とBODIPY 558/568、BODIPY 558/568とCy5、などでもよい。
本発明のタンパク質において、立体構造に変化が生じたときにエネルギー供与体とエネルギー受容体が蛍光共鳴エネルギー移動を起こすのに適切な配向を保つ相対的位置に存在するようにタンパク質中に含ませる必要がある。
このためには、タンパク質中の特定の部位に蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を導入すればよい。蛍光標識アミノ酸を導入する位置は、蛍光標識アミノ酸を導入するタンパク質によって異なるが、天然タンパク質のアミノ酸配列に基づいて立体構造を解析し、立体構造上近接する位置にあるアミノ酸部位に蛍光標識アミノ酸を導入すればよい。タンパク質の立体構造は、例えば市販のタンパク質立体構造解析ソフトウェアを用いることにより予測することができる。あるいは、エネルギー供与体とエネルギー受容体のどちらか一方をタンパク質のN末端あるいはC末端に導入しておき、もう一方をタンパク質の内部の数〜数十ヶ所に導入して、その中から本発明に適した導入位置を特定すればよい。
例えば、タンパク質がカルモジュリンである場合、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸(BODIPY FL)で標識したアミノ酸および,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸(BODIPY 558/568)で標識したアミノ酸をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の40番目とN末端、またはカルモジュリンのアミノ酸配列の99番目とN末端に導入すればよい。一方、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸で標識したアミノ酸および,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸で標識したアミノ酸をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の113番目とN末端、または148番目とN末端に導入した場合は、タンパク質が他の分子と相互作用しても充分な蛍光共鳴エネルギー移動の効率の変化が起こらない。カルモジュリンのアミノ酸配列は配列番号2に示す。
また、マルトース結合タンパク質においては、BODIPY FLで標識したアミノ酸およびBODIPY558/568で標識したアミノ酸をそれぞれマルトース結合タンパク質の171番目とN末端、または283番目とN末端に導入すればよい。一方、BODIPY FLで標識したアミノ酸およびBODIPY558/568で標識したアミノ酸をそれぞれマルトース結合タンパク質の176番目とN末端に導入した場合は、タンパク質が他の分子と相互作用しても充分な蛍光共鳴エネルギー移動の効率の変化が起こらない。マルトース結合タンパク質のアミノ酸配列は配列番号5に示す。
本発明の蛍光標識アミノ酸は、アミノ酸部の側鎖に芳香環を有し、該芳香環に、スペーサーを介してまたはスペーサーを介さずに、蛍光物質が結合しているものが好ましい。
「芳香環」とは、一般的に、あらゆる不飽和環状化合物を指す。したがって、5もしくは6員の複素芳香環、または2個以上、好ましくは2〜5個、さらに好ましくは2〜3個の環構造を含む多環性化合物も含む。特に、芳香環はベンゼン環であることが好ましい。天然型アミノ酸のうち、フェニルアラニン、トリプトファンおよびチロシンはその側鎖に芳香環を含有する天然型芳香族アミノ酸であり、該芳香環に蛍光物質が(スペーサーを介してまたはスペーサーを介さずに)結合したものは、本発明の蛍光標識アミノ酸の好ましい例として挙げることができる。
芳香環を有するアミノ酸と蛍光物質の結合およびスペーサーを介した芳香環を有するアミノ酸と蛍光物質との結合は、適当な官能基どうしの結合を利用すればよい。タンパク質合成の際にペプチド伸長反応に関与しない、天然型あるいは非天然型アミノ酸の、アミノ基、チオール基、カルボキシル基、水酸基、アルデヒド基、アリル基、ハロゲン化アルキル基など種々の官能基のいずれかに蛍光物質を、スペーサーを介して、または介さずに結合する。アミノ基標識用プローブとしてスクシンイミドエステル、イソチオシアネート、スルホニルクロライド、NBD−ハライド、ジクロロトリアジンなどの化合物が、チオール基標識用プローブとしてアルキルハライド、マレイミド、アジリジンなどの化合物が、カルボキシル基標識用プローブとしてジアゾメタン化合物、脂肪族臭化物、カルボジイミドなどが利用できる。例えば、蛍光物質にスペーサーを介して、または介さずに、スクシンイミドエステルを導入し、かつアミノ酸の芳香環にアミノ基を導入しアミド結合により両者を結合させることができる。芳香環にアミノ基を導入したアミノ酸として、例えばアミノフェニルアラニンが挙げられる。この際に用いる官能基は、適宜選択導入できるし、結合方法も適宜選択できる。この際、アミド結合形成反応をpH5程度で行なうことで、他にアミノ基が存在していても、アミノフェニルアラニンの側鎖のアミノ基に選択的に反応させることができる。あるいは、他のアミノ基をBoc化等により保護し、反応後脱Boc化すればよい。この方法は、例えば、「新生化学実験講座1 蛋白質VI 構造機能相関」(社団法人 日本生化学会編 東京化学同人発行、1991年3月20日発行)の記載等を参照すればよい。
「スペーサー」は、蛍光標識アミノ酸分子におけるアミノ酸部と蛍光物質とを連結している部分を指す。即ち、蛍光標識アミノ酸分子内のアミノ酸側鎖と蛍光物質が直接結合しているのではなく、アミノ酸側鎖と蛍光物質との間に1つ以上の原子が存在する場合、該蛍光標識アミノ酸のアミノ酸部と蛍光物質はスペーサーを介して連結しているという。スペーサーは、その主鎖部分にC、O、NおよびSのうちの少なくとも1種を少なくとも1つ以上含んでいればよい。またスペーサーの主鎖構造は、上記原子が2〜10個、好ましくは3〜8個、さらに好ましくは5、6または7個が直鎖状に結合したものが好ましく、直鎖構造内には、二重結合が1つ以上含まれていてもよい。さらに、スペーサーは、ベンゼン環および/またはシクロヘキシル環などの環状構造を1〜数個、好ましくは1〜5個、さらに好ましくは1〜3個、有していてもよい。また、ベンゼン環やシクロヘキシル環などの環状構造、もしくは環状構造と上記直鎖構造とが組み合わされた構造のものでもよい。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプテン、ポリスチレン、ポリビニル、ポリ塩化ビニルなどのポリオレフィン、ポリオキシエチレン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリエーテル、ポリアミド、ポリエステル、ポリイミド、ポリウレタン、ポリカーボネートなどが挙げられる。
蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を、後述のタンパク質合成に用いて本発明のタンパク質を作製するためには、アミノ酸にtRNAと結合させるために必要な特定の基を結合させておく必要がある。例えば、アミノ酸のカルボキシル基にジヌクレオチド(pdCpA)を結合させておけば、3’末端のCAジヌクレオチドを欠落させたtRNA(tRNA(−CA))と結合させ、人工アミノアシルtRNAを作製することができる。
アミノ酸骨格を形成する原子に芳香環が直接結合していても、C、O、NおよびSのうちの少なくとも1種の1、2または3個の原子を介して間接的に結合していてもよい。芳香環はベンゼン環である場合、ベンゼン環上にスペーサーまたは蛍光物質が結合する位置は、アミノ酸骨格の位置に対して、パラ位またはメタ位であることが、リボゾームへの取り込み効率がより高くなり、より好ましく、特にパラ位であることが好ましい。
前述のように、芳香環の官能基にスペーサーを介してまたは介さずに蛍光物質を結合させる。アミノフェニルアラニンの場合、パラアミノフェニルアラニン、メタアミノフェニルアラニンが好ましい。
例として、4,4−ジフルオロ−5,7−ジメチル−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸(4,4−Difluoro−5,7−Dimethyl−4−Bora−3a,4a−Diaza−s−Indacene−3−Propionic Acid;BODIPY(登録商標)−FL)をアミノフェニルアラニンの側鎖の芳香環に結合させたBODIPY FL標識アミノフェニルアラニン誘導体(BODIPY FL−AF)およびBODIPY(登録商標)558/568をアミノフェニルアラニンの側鎖の芳香環に結合させたBODIPY 558/568標識アミノフェニルアラニン誘導体(BODIPY 558/568−AF)の構造をそれぞれ式Iおよび式IIに示す。
例えば、アミノフェニルアラニンにpdCpAを結合させたAF−pdCpAをアミノ酸として用いる場合、BODIPY FLと結合させると、標識アミノ酸−pdCpA(BODIPY FL−AF−pdCpA)が得られる。該標識アミノ酸をタンパク質合成系にてタンパク質へ導入することが可能である。
蛍光物質によるアミノ酸の標識法の詳細は、WO2004/009709に記載されており、該記載に従って実施することができる。
本発明のタンパク質をタンパク質生合成系で合成するには、蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸と、該蛍光標識アミノ酸を特異的にコードするように設計したコドンに対するアンチコドンとが結合されているアミノアシルtRNAを作製することが必要である。かかるアミノアシルtRNAを合成するには、例えば、アミノ酸のアミノ基をBoc化等により保護し、ジヌクレオチド(pdCpA)に結合させた後に脱Boc化などの脱保護化の処理をし、得られたアミノ酸−pdCpAと蛍光物質を反応させることによって、芳香環に導入された官能基を介して蛍光物質を結合させ、得られたpdCpAと蛍光標識アミノ酸との結合物を液体クロマトグラフィーにより精製し、一方で、3’末端のCAジヌクレオチドが欠落したtRNA(tRNA(−CA))を作製し、これに蛍光標識アミノ酸−pdCpAをリガーゼで結合させることにより得られる。このような、アミノ酸をまずpdCpAと結合させた後に蛍光物質と反応させて蛍光標識アミノ酸−pdCpA結合体を得てもよい。
上記の方法により作製された蛍光物質で標識された蛍光標識アミノアシルtRNAは、無細胞翻訳系または生細胞によるタンパク質合成系を利用して実施することができる。無細胞翻訳系としては、4塩基コドン法、人工塩基コドン法または終止コドン法を使用することが好ましい。
発現させようとする本発明のタンパク質をコードする遺伝子の特定の部位に4塩基コドンまたはアンバーコドン(終止コドン)を導入し、該遺伝子からRNAポリメラーゼを用いて、本発明のタンパク質のmRNAを合成することができる。該mRNAを用いて本発明のタンパク質を作製することが可能である。
無細胞翻訳系による合成は、発現させようとする遺伝子を含む発現ベクターを宿主細胞に導入することなく、in vitroで必要な試薬と混合し遺伝子を発現させることにより行うことができる(Spirin,A.S.et al,(1988)“A continuous cell−free translation system capable of production polypeptides in highyield”Science 242,1162;Kim,D.M.,et al.,(1996)“A highly efficient cell−free protein synthesis system from E.coli”Eur.J.Biochem.239,881−886)。市販の無細胞発現キットを用いてタンパク質を発現させることができる。このようなキットとして例えば、Rapid Translation System(RTS)(Roche)やExpressway In Vitro Protein Synthesis System(Invitrogen)等がある。この際、用いる発現ベクターは限定されないが、それぞれの無細胞翻訳系に適したベクターがあるのでそれを使用すればよい。前者のキット用発現ベクターとして、pIVEX2.2bNdeが挙げられ、後者のキット用発現ベクターとして、pEXP1やpEXP2が挙げられる。
4塩基コドン法においては、mRNAの非天然型アミノ酸を導入したい部位に4塩基コドンを組み込み、tRNAのアンチコドン部位を対応する4塩基に置換し、さらに非天然型アミノ酸を結合させておく。これらを用いてタンパク質合成を行うと、4塩基コドンに置換した部分ではリボソームの中で4塩基のコドン・アンチコドンペアが形成され、tRNAに結合させた非天然型アミノ酸は伸長中のペプチド鎖に組み込まれる。一方、その他の部分は通常通り3塩基ずつ翻訳されるので、最終的に得られるタンパク質には4塩基コドンで指定した部分にのみ非天然型アミノ酸が導入されていることになる。4塩基コドン法は、Hohsaka T.,et al.,J.Am.Chem.Soc.,118,9778−9779,1996およびHohsaka T.,et al.,J.Am.Chem.Soc.,121,34−40,1999の記載に従って実施することができる。また、終止コドン法は、Science,244,p.182.1989およびJ.Am.Chem.Soc.,111,p.8013,1989、人工塩基コドン法は、Hirao,I.,et al.,Nature Biotech.,20,177−182,2002の記載に従って行うことができる。また、生細胞によるタンパク質合成系により非天然型アミノ酸を導入したタンパク質を得るには、アミノアシルtRNA及びmRNAを細胞内へマイクロインジェクションにより注入する方法が知られており(Science,268,p.439,1995)、この手法により生細胞に本発明のタンパク質を発現させることができる。
得られたタンパク質はあらかじめHisタグを導入しておくことにより、His−tagアフィニティービーズ等を用いて精製することができる。
所定のタンパク質分子の任意の位置に2種類の蛍光標識アミノ酸を導入できるという点で、4塩基コドン法、または4塩基コドン法と終止コドン法を組合せた方法を利用するのが望ましい。
このようにして得られた、本発明のタンパク質を用いてタンパク質と該タンパク質と他の分子の相互作用を検出することができる。本発明のタンパク質に他の分子を相互作用させることにより、本発明のタンパク質の立体構造が変化し、エネルギー受容体とエネルギー供与体の距離および配向が変化する。該状態のタンパク質にエネルギー供与体の励起光を照射すると、エネルギー供与体とエネルギー受容体の間で蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)が起こるが、エネルギー受容体とエネルギー供与体の距離および配向が変化することにより、FRETの効率も変化する。これを測定することによりタンパク質の構造変化を検出することができる。
本発明は、本発明のタンパク質と被験分子を接触させ、蛍光共鳴エネルギー移動を測定することにより、タンパク質と被験分子の相互作用を検出する方法も包含する。また、特定のタンパク質と相互作用する分子をスクリーニングする方法も包含する。さらに、本発明のタンパク質を、該タンパク質と被験分子との相互作用を阻害または増強する化合物のスクリーニングに用いることもできる。このような化合物は、前記タンパク質が関与する疾患、障害等の治療薬剤として用いることができる。
励起光の光源としては、ブロードな紫外光や可視光をフィルターや分光器を用いて所望の波長範囲とした光源を用いてもよいし、レーザー等の単色光を用いてもよい。レーザー光源を使う場合は、ヘリウムカドミウムレーザー(442nm)が一般的であるが、ブルーダイオードレーザー(405nm)、アルゴンイオンレーザー(457nm)、LD励起固体レーザー(diode−pumped solid−state laser)(430nm)等を用いてもよい。二光子励起法であれば800nm付近のパルスレーザーを用いてもよい。
本発明において、エネルギー供与体である蛍光物質またはエネルギー受容体である蛍光物質の両方またはいずれかの物質からの蛍光を測定すればよい。蛍光共鳴エネルギー移動が起こると、エネルギー受容体からの蛍光強度が増加し、エネルギー供与体からの蛍光強度は減少する。反対に、蛍光共鳴エネルギー移動が起こらない場合、あるいは蛍光共鳴エネルギー移動効率が低い場合、エネルギー受容体からの蛍光強度が減少し、エネルギー供与体からの蛍光強度が増加する。所定の波長を単波長で測定してもよいし、一定の範囲の波長について蛍光スペクトルを測定してもよい。エネルギー受容体またはエネルギー供与体からの蛍光の増加と減少の程度を測定することにより、タンパク質の立体構造の変化、すなわち他の分子との相互作用を検出することができる。この際、エネルギー供与体からの蛍光強度とエネルギー受容体からの蛍光強度の比を測定し、比から蛍光共鳴エネルギー移動が起きたかどうかを判断することもできる。蛍光の測定は、定常光励起発光を測定する方法で行うこともできるし、時間分解蛍光測定法により行うこともできる。蛍光測定は、通常用いられている蛍光分光光度計により行うことができる。また、市販の蛍光共鳴エネルギー移動解析装置を用いてもよい。
本発明は、本発明のタンパク質を含む、タンパク質の相互作用研究用試薬もしくはキット、ならびにタンパク質と相互作用する分子のスクリーニング試薬もしくはキットをも包含する。
例えば、具体的には、以下のようにして本発明のタンパク質を合成し、該タンパク質を用いて他の分子との相互作用を検出することができる。
(i) タンパク質をコードする遺伝子の特定部位に4塩基コドンGGGTおよびCGGGを挿入する。
(ii) T7 RNAポリメラーゼを用いてカルモジュリンのmRNAを合成する。
(iii) BODIPY FL−アミノフェニルアラニン(エネルギー供与体を含む非天然アミノ酸)を結合させたtRNA(アンチコドンにCCCGを有するもの)と、BODIPY558/568−アミノフェニルアラニン(エネルギー受容体を含む非天然アミノ酸)を結合させたtRNA(アンチコドンにACCCを有するもの)を合成する。
(iv) 上記mRNAとtRNAを大腸菌無細胞翻訳系へ加える。
(v) 合成された二重蛍光標識カルモジュリンをSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析する。
(vi) 二重蛍光標識カルモジュリンをHis−tagアフィニティビーズにより精製する。
(vii) カルシウムイオンおよびカルモジュリン結合タンパク質を混合して蛍光スペクトルを測定する。
また、以下のようにして本発明のタンパク質を合成し、該タンパク質を用いて他の分子との相互作用を検出することができる。
(i) タンパク質をコードする遺伝子の特定部位に4塩基コドンCGGGおよびアンバーコドンUAGを挿入する。
(ii) T7 RNAポリメラーゼを用いてマルトース結合タンパク質のmRNAを合成する。
(iii) BODIPY FL−アミノフェニルアラニン(エネルギー供与体を含む非天然アミノ酸)を結合させたtRNA(アンチコドンにCCCGを有するもの)と、BODIPY558/568−アミノフェニルアラニン(エネルギー受容体を含む非天然アミノ酸)を結合させたtRNA(アンチコドンにCTAを有するもの)を合成する。
(iv) 上記mRNAとtRNAを大腸菌無細胞翻訳系へ加える。
(v) 合成された二重蛍光標識マルトース結合タンパク質をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析する。
(vi) 二重蛍光標識マルトース結合タンパク質をHis−tagアフィニティビーズにより精製する。
(vii) マルトースおよびマルトース結合タンパク質を混合して蛍光スペクトルを測定する。
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
4塩基コドンGGGTおよびCGGGを含むカルモジュリン遺伝子の作製
カルモジュリン遺伝子(配列番号1)を鋳型として、4塩基コドンCGGG導入用のオリゴヌクレオチド(例:40番目に導入する場合の配列は5’−TGTTGGGTTCTGCCCGCAGTGACCTCAT−3’;配列番号3)を用いてPCRを行ない、変異導入を行なった。これをT7プロモーター、T7tag配列、4塩基コドンGGGTを含む発現ベクターに組み込んだ。T7プロモーターの上流と下流のプライマーを用いてPCRを行ない、カルモジュリン遺伝子断片を増幅させた。100μLのPCR反応から50μLのカルモジュリン遺伝子DNAを得た。
mRNAの合成
40mM Tris−HCl(pH8.0),20mM MgCl2,5mM DTT,4mM NTP,2mM spermidine,10μg/mL BSA,ribonuclease inhibitor 40units,inorganic pyrophosphatase 1unit,T7 RNA polymarase 100units、カルモジュリン遺伝子DNA 5μLを含む100μLの反応液を37℃で6時間反応させた。合成されたmRNAは酢酸アンモニウム沈殿の後、フェノールクロロホルム抽出、エタノール沈殿によって精製した。8μg/μLとなるように水に溶解させた。
BODIPY標識アミノ酸−tRNAの合成
5xLigation Buffer(275mM Hepes−Na pH7.5,75mM MgCl2,16.5mM DTT,5mM ATP)4μL、200μM tRNA(−CA)2.5μL、BODIPY FL−aminophenylalanine−pdCpAのDMSO溶液 2μL、0.1% BSA 0.4μL、T4 RNA Ligase(25units/μL)1.2μL、水9.9μLを混合し、4℃で2時間反応させた。3M AcOK pH4.5を10μL、水70μLを加え、等量のフェノール/クロロホルム=1/1(0.3M AcOK pH4.5で飽和させたもの)を加え撹拌し、遠心した。上層を回収し、等量のクロロホルムを加え、撹拌、遠心した。上層を回収し、エタノール300μLを加え、軽く混合し、−20℃で1時間置いた。15000rpm 30min 4℃で遠心した後、上清を除き、−20℃で保存してある70%EtOH 200μLを加え、15000rpm4℃で5秒遠心した。上清を除き、減圧乾燥した。1mM 酢酸カリウムpH4.52μLに溶解させた。BODIPY558/568−aminophenyalalanineについても同様に合成した。
二重蛍光標識カルモジュリンの無細胞翻訳系による合成
反応液(10μL)に、55mM Hepes−KOH(pH7.5),210mM グルタミン酸カリウム,6.9mM 酢酸アンモニウム,1.7mM ジチオスレイトール,1.2mM ATP,0.28mM GTP,26mM ホスホエノールピルビン酸,1mM スペルミジン,1.9% ポリエチレングリコール−8000,35μg/mL 葉酸,12mM 酢酸マグネシウム,0.1mM 20種類のアミノ酸、カルモジュリン mRNA(4塩基コドンGGGTとCGGGが導入されたもの)8μg/μLを1μL、大腸菌抽出液(Promega社製)を2μL、蛍光標識アミノ酸−tRNA溶液を1μL混合した。37℃で1時間翻訳反応を行なった。
SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動分析
翻訳反応液1μLに、水9μLと2×サンプルバッファー10μLを加え、95℃5分間加熱した。このうちの5μLを15% SDS−PAGEに流し、この電気泳動ゲルを蛍光スキャナー(日立ソフトウェアエンジニアリング社製 FMBIO−III)で観察した。488nm励起/520nm検出、および、532nm励起/605nm検出により、2つの蛍光標識アミノ酸が導入されていることを確認した。
HisTag アフィニティー精製
無細胞翻訳系の反応液50μLを30mM Tris−HCl(pH7.2)、100mM KCl、1mM CaCl2、7.5M ureaに希釈して200μLとし、Ni−NTA磁気ビーズ(Promega社製)20μLと混合して30分間振とうした。磁石によりビーズを集めて上清を捨て、洗浄バッファー(30mM Tris−HCl(pH7.2)、100mM KCl、1mM CaCl2)1mLにより4回洗浄した。溶出バッファー(30mM Tris−HCl(pH7.2)、100mM KCl、1mM CaCl2、500mM Imidazole)50μLを加え、1時間振とうした後、磁石によりビーズを集めて上清を回収した。30mM Tris−HCl(pH7.2)、100mM KCl、1mM CaCl2、0.05% Tween20により平衡化したゲルろ過スピンカラム(アマシャムバイオサイエンス社製)により脱塩を行なった。
蛍光スペクトル測定
精製した二重蛍光標識カルモジュリン溶液10μLを測定バッファー(10mM Tris−HCl pH7.4、50mM KCl、1mM CaCl2、0.005% Tween20、0.1mg/ml BSA、0.1% PEG8000)190μLと混合して、石英セルに移した。蛍光分光器を使用して、励起波長490nm/検出波長505nm〜650nmにより蛍光スペクトルを測定した。カルモジュリン結合ペプチド M13(KRRWKKNFIAVSAANRFKKISSSGAL;配列番号4)とマルトース結合タンパク質の融合タンパク質(MBP−M13)を添加しながら、蛍光スペクトル測定を行なった。結果を図7、図9、図11、図13に示す。
マルトース結合タンパク質(配列番号5)を鋳型として、部位特異的変異導入法により1番目のリジンに対応するコドンをアンバーコドンTAGに置換して、T7プロモーターとT7tag配列を含む発現ベクターに組み込んだ。さらに再度部位特異的変異導入法により171番目、176番目、あるいは283番目のアミノ酸に対応するコドンを4塩基コドンCGGGに置換した。T7プロモーターの上流とT7ターミネーターの下流のプライマーを用いてPCRを行ない、マルトース結合タンパク質遺伝子断片を増幅させた。100μLのPCR反応から50μLのマルトース結合タンパク質遺伝子DNAを得た。
mRNAの合成
カルモジュリン遺伝子の場合と同様の操作により、マルトース結合タンパク質のmRNAを合成した。
BODIPY558/568−aminophenylalanineを付加したアンバーサプレッサーtRNAの合成
カルモジュリンの場合と同様の操作により、BODIPY FL−aminophenylalanine−tRNAを合成した。BODIPY558/568−aminophenylalanine−tRNAは、マイコプラズマカプリコラムのTrp1 tRNAの改変体(配列番号6)を用いて合成した。
二重蛍光標識マルトース結合タンパク質の無細胞翻訳系による合成
カルモジュリンの場合と同様の操作により、二重蛍光標識マルトース結合タンパク質を合成した。
蛍光スペクトル測定
カルモジュリンの場合と同様の操作によりHisTag アフィニティー精製した二重蛍光標識マルトース結合タンパク質溶液10μLを、測定バッファー(25mM HEPES(pH7.4)、100mM KCl、5mM MgCl2、0.1% PEG、0.005% Brig35)と混合して、石英セルに移した。蛍光分光器を使用して、励起波長490nm/検出波長505nm〜650nmにより、マルトースの非存在下および0.1mMマルトース存在下で蛍光スペクトルを測定した。結果を図15、図17および図19に示す。
本発明のタンパク質は、タンパク質の種類に応じて、蛍光共鳴エネルギーが充分起こり得る位置に蛍光標識アミノ酸が導入されているので、効率よくタンパク質と他の分子との相互作用を検出することができる。
本発明のタンパク質を用いることにより、タンパク質と他の分子との相互作用を検出し、解析することができ、タンパク質と相互作用する分子のスクリーニングを行うことができる。また、タンパク質と他の分子との相互作用を増強または阻害する化合物のスクリーニングを行うこともでき、該化合物は前記タンパク質が関与する疾患の治療等に用いる薬剤として利用することができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書にとり入れるものとする。
[配列表]
Claims (17)
- 蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸を含むタンパク質であって、該タンパク質と結合し得る分子と結合したときに立体構造が変化しエネルギー供与体蛍光物質とエネルギー受容体蛍光物質の距離および配向が変化するような位置に2種類の蛍光標識アミノ酸が存在し蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化し得るタンパク質を被験分子と接触させ、該タンパク質と被験分子との相互作用による前記タンパク質の立体構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動を測定することにより検出し、前記タンパク質と前記被験分子の相互作用を検出する方法。
- 蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識した蛍光標識アミノ酸の一方がタンパク質のN末端またはC末端に存在し、もう一方がN末端およびC末端以外の部位に存在する請求項1記載の方法。
- 蛍光物質で標識したアミノ酸を4塩基コドン法または終止コドン法により導入した請求項1または2に記載の方法。
- タンパク質と結合し得る分子が、タンパク質、核酸、糖および低分子量分子からなる群から選択される請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
- エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質が、可視光域に励起波長および発光波長を有する蛍光物質である請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
- エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質が、その化学構造に4,4-ジフルオロ-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセンを基本骨格として含む分子又はその塩もしくはその誘導体である請求項5記載の方法。
- エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が、4,4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩である請求項6記載の方法。
- エネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質がp-アミノフェニルアラニンのパラ位アミノ基に結合している請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
- タンパク質が、カルモジュリンまたはマルトース結合タンパク質である請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法に用いる、2種類の蛍光標識アミノ酸を含むカルモジュリンであって、蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識したアミノ酸をそれぞれカルモジュリンのアミノ酸配列の40番目とN末端、またはカルモジュリンのアミノ酸配列の99番目とN末端に含み、カルモジュリンがカルモジュリン結合タンパク質およびカルシウムイオンと相互作用したときに、蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するカルモジュリン。
- エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が、4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩である、請求項10記載のカルモジュリン。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法に用いる、2種類の蛍光標識アミノ酸を含むマルトース結合タンパク質であって、蛍光共鳴エネルギー移動のエネルギー供与体となる蛍光物質およびエネルギー受容体となる蛍光物質で標識したアミノ酸が、マルトース結合タンパク質をそれぞれマルトース結合タンパク質のアミノ酸配列の171番目とN末端、またはマルトース結合タンパク質のアミノ酸配列の283番目とN末端に含み、マルトースと相互作用したときに、蛍光共鳴エネルギー移動の効率が変化するマルトース結合タンパク質。
- エネルギー供与体となる蛍光物質が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩であり、エネルギー受容体となる蛍光物質が、4-ジフルオロ-5-(2-チエニル)-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸又はその塩である、請求項12記載のマルトース結合タンパク質。
- 請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法によりタンパク質と被験分子との相互作用による前記タンパク質の立体構造変化を蛍光共鳴エネルギー移動を測定することにより検出し、前記タンパク質と相互作用する分子をスクリーニングする方法。
- タンパク質がカルモジュリンまたはマルトース結合タンパク質である請求項14記載の方法。
- タンパク質がカルモジュリンであって、タンパク質と相互作用する分子がカルシウム結合タンパク質およびカルシウムイオンである請求項15記載の方法。
- タンパク質がマルトース結合タンパク質であって、タンパク質と相互作用する分子がマルトースである請求項15記載の方法。
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