JP4901253B2 - 3次元金属微細構造体の製造方法 - Google Patents

3次元金属微細構造体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、3次元金属微細構造体の製造方法に関し、さらに詳細には、nmオーダーの分解能で3次元金属微細構造体、例えば、0.1〜数μm程度の大きさの微細な金属立体構造体を作成する際に用いて好適な3次元金属微細構造体の製造方法に関する。
一般に、3次元金属微細構造体を作製するにあたっては、主に集束イオンビーム装置が用いられる。
ここで、集束イオンビーム装置とは、金属イオン源から得られたイオンビームを電磁界レンズやアパーチャなどを用いてそのビーム径が数μm以下となるように絞ったイオンビームたる集束イオンビーム(Focused Ion Beam)を発生する装置である。
この集束イオンビームは、非常に高いエネルギーを持っており、金属表面に照射することにより金属を切削することができ、また、有機金属ガス雰囲気中で集束イオンビームを照射すると、ガスが分解されて物質表面に金属を成膜したり堆積したりすることができるものである。
従って、こうした集束イオンビームを発生する集束イオンビーム発生装置を用いると、約10nm程度の分解能で3次元金属微細構造体を作製することができるものであった(非特許文献1参照)。
しかしながら、上記した集束イオンビームを用いた3次元金属微細構造体の作製の手法においては、集束イオンビームの照射による金属の切削や物体表面における金属の成膜あるいは堆積などの処理は、真空中で集束イオンビームを照射することにより行う必要があるため装置の全体構成が大型化し、大きなスペースが必要になるとともにコストもかかることになるという問題点があった。
また、上記した集束イオンビームを用いた3次元金属微細構造体の作製の手法においては、多数の金属微細構造体を互いに接触しない状態で3次元空間に配列させる場合、各金属構造体が何らかの別の材料によって保持される必要があることから、このような金属微細構造体の作製が困難であることが指摘されていた。
さらに、この集束イオンビームを用いた3次元金属微細構造体の作製の手法においては、集束イオンビームにより切削されたり成膜あるいは堆積などが行われる領域が極めて微小な領域(例えば、直径10nm程度の領域である。)であるため生産効率に劣り、1つの3次元金属微細構造体を作製するには処理時間が長時間(例えば、数時間である。)に及ぶようになるので大量生産には不向きであり、産業上における利用が制限されるという問題点があった。

なお、3次元金属微細構造体を作製する他の手法としては、2光子吸収微細造形法も知られている(非特許文献2参照)。
この2光子吸収微細造形法とは、以下の原理によるものである。即ち、短パルスレーザー光を光硬化性樹脂に集光すると、光強度が高い集光点でのみ2光子吸収が起こる。従って、そこで局所的に光硬化性樹脂の硬化反応が進行し、ポリマーが得られることになる。このとき、2光子吸収が集光点の中でも特に光強度の強い中心部でのみ起こるため、その硬化スポットは光の回折限界を超えたサイズで作製することができる。そのため、光硬化性樹脂中で、3次元的に集光を走査することにより、任意形状の3次元ポリマー構造を作製することが可能である。
なお、上記した2光子吸収微細造形法によれば、例えば、波長800nmのフェトム秒チタンサファイアレーザーを用いて2光子吸収微細造形法を行った際に得られる最小スポットは約100nmであるため、こうした短パルスレーザーを用いることにより、約100nmの分解能で3次元微細構造を作製することができる。
ここで、図1(a)(b)(c)に示す体長8μmの牛の立体模型を作製する場合を例にして、2光子吸収微細造形法による処理手法を具体的に説明すると、まず、光硬化性樹脂に対して短パルスレーザー光を照射し、その集光点を3次元的に走査しながら、光硬化性樹脂中における硬化スポットを1点ずつ並べた体長8μmの牛の立体図を完成させる(図1(a)参照)。硬化スポットを1点ずつ並べた体長8μmの牛の立体図が完成したならば、エタノールなどにより未硬化の光硬化性樹脂を取り除くと(図1(b)参照)、体長8μmの牛の立体模型が得られることになる(図1(c)参照)。
なお、短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法を実施するためのシステムとしては、例えば、図2(a)(b)に示すような短パルスレーザー光としてフェムト秒レーザー光を照射するシステムが提案されている。この図2(a)(b)に示すような短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法を実施するためのシステムは、非特許文献2にも開示されているように既に周知のものであるため、その詳細な構成ならびに作用の説明は省略する。
しかしながら、上記した2光子吸収微細造形法においては、得られる3次元微細構造体がポリマー構造体に限定されるものであり、3次元金属微細構造を作製することができないという問題点があった。

なお、カルバゾールを用いた銀還元に関する公知文献としては、例えば、非特許文献3として提示するものがあり、また、プラスチックへのめっきに関する公知文献としては、例えば、非特許文献4として提示するものがある。
Y.Hirayama, Y.Suzuki, S.Tarucha and H.Okamoto, J.J.Appl.Phys.Part2−Letter 24, L516(1985) S.Kawata, H.−B.Sun, T.Tanaka and K.Takada, Nature 412,697(2001) H.Katagi, H.Kasai, S.Okada, H.Oikawa, H.Matsuda and H.Nakanishi, Polym.Adv.Technol.11,778(2000) G.O.Mallory, J.B.Hajdu, Electroless plating:Fundamentals and Applications, American Electroplaters and Surface Finishers Society, Orlando, FL 1990. V.P.Menon, C.R.Martin, Anal.Chem.67, 1920(1995)
本発明は、従来の技術の有する上記したような種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、真空中での処理を行うことを必要としない3次元金属微細構造体の製造方法を提供しようとするものである。
また、本発明の目的とするところは、生産効率ならびに加工自由度を向上させた3次元金属微細構造体の製造方法を提供しようとするものである。
さらに、本発明の目的とするところは、多数の金属微細構造体を互いに接触しない状態で3次元空間に配列させることを可能にした3次元金属微細構造体の製造方法を提供しようとするものである。
上記目的を達成するために、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法は、2光子吸収微細造形法と無電解めっきとを組み合わせるようにしたものである。
こうした本発明による3次元金属微細構造体の製造方法は、イオンビームを用いるものではないため真空中での処理を行うことを必要とせずに3次元金属微細構造を作製することができるものであり、しかも生産効率および加工自由度を著しく向上することができるものである。
即ち、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法においては、3次元金属微細構造を作製するために2光子吸収微細造形法と無電解めっきとを用いたものであるが、この2光子吸収微細造形法は、上記した「背景技術」の項で説明したとおり、短パルスレーザー光を光硬化性樹脂中に集光して2光子吸収を起こし、その部分でのみ硬化ポリマーが得られることを利用した3次元微細構造体の作製法である。
この2光子吸収微細造形法により得られた構造体はポリマー構造体に限定されるものであるが、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法においては、2光子吸収微細造形法により得られるポリマー構造体に対して無電解めっきにより銀などの金属コーティングを施し、これにより3次元金属微細構造を作製するものである。無電解めっきを用いると、3次元構造体のサイズに関わりなく、3次元構造体を均一に金属膜でコーティングすることができる。
つまり、上記した集束イオンビームを用いた従来の3次元微細構造体の作製の手法においては、イオンビームを用いて造形を行っていたため真空中で当該造形を行う必要があったが、本発明による3次元金属微細構造体の作製方法においては、2光子吸収微細造形法を実施する際にレーザーを用いるために真空中での処理を必要としないものである。
また、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法においては、2光子吸収微細造形法によりポリマー構造体を作製する際に、レーザー干渉やマイクロレンズアレイを用いることにより、同時に複数の微細構造体を形成することが容易である。
さらに、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法においては、無電解めっきにより金属膜を形成するポリマー構造がいくら多くても、無電解めっきプロセスは溶液中に浸るだけであるので、同時に複数かつ大面積にわたる金属コーティングを行うことが可能である。
従って、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法の生産効率は、全プロセスを通しても従来の集束イオンビーム装置として比較して格段に向上する。
また、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法は、光を照射することにより電子を放出する電子供与体を光硬化性樹脂に添加した改質樹脂を用いて、2光子吸収微細造形法によってポリマー構造体を作製し、当該ポリマー構造体表面に無電解めっきにより金属をコーティングするようにしたものである。
さらに、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法は、光硬化性樹脂と改質樹脂との2種類の樹脂を用いて、2光子吸収微細造形法によってポリマー構造体を作製し、当該ポリマー構造体表面に無電解めっきを施すことにより、改質樹脂よりなるポリマー構造体部分に対して選択的に金属コーティングを行うようにしたものである。
なお、光を照射することにより電子を放出する電子供与体としては、例えば、分子構造内に少なくとも1個のカルバゾール基を有する物質や、R−CHOを分子構造内に有する物質や、Si、Ga、GeあるいはGaAsなどの半導体がある。
ここで、例えば、カルバゾールは、光照射されることにより励起され、カルバゾール分子自身が導電性または電子供与体となる。この励起分子の周りに電子を欲する陽イオンが存在すると、陽イオンは電子を受け取り、安定な金属へと還元されることになる。
即ち、本発明によれば、電子供与体として分子構造内に少なくとも1個のカルバゾール基を有する物質を用いた場合には、光硬化性樹脂に電子供与体を添加した改質樹脂より作製されたポリマー構造体部分において、光照射されている状態で無電解めっきを行うことにより、還元剤がポリマー構造体内に存在することになり、当該ポリマー構造体の表面で還元反応が進行して金属が析出されるようになる。
こうした本発明の手法により、光硬化性樹脂と改質樹脂とを用いることによって、無電解めっきにより1つの3次元微細構造に選択的に金属をコーティングすることが可能とり、多数の金属微細構造を互いに接触しない状態で3次元空間に配列させることができるようになる。
こうした本発明のうち請求項1に記載の発明は、任意の立体形状を備えた3次元金属微細構造体の製造方法において、光を照射することにより電子を放出する電子供与体を光硬化性樹脂に添加した改質樹脂に対して、短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法により3次元微細構造を備えたポリマー構造体を形成する第1の工程と、上記第1の工程により形成された上記ポリマー構造体の表面に、無電解めっきにより金属膜を形成する金属の陽イオンが存在する状態で、上記電子供与体に電子を放出させる上記光を該ポリマー構造体に照射する、光を照射する工程と、当該光を照射する工程の後に、該ポリマー構造体の表面に金属の陽イオンが存在する状態で無電解めっきを施すことにより、上記ポリマー構造体の表面に金属膜を形成する第2の工程とを有するようにしたものである。
また、本発明のうち請求項2に記載の発明は、任意の立体形状を備えた3次元金属微細構造体の製造方法において、光硬化性樹脂に対して短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法により3次元微細構造を備えた第1のポリマー構造体を形成する処理と、光を照射することにより電子を放出する電子供与体を光硬化性樹脂に添加した改質樹脂に対して短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法により3次元微細構造を備えた第2のポリマー構造体を形成する処理とを行い、上記第1のポリマー構造体と上記第2のポリマー構造体とよりなる第3のポリマー構造体を形成する第1の工程と、上記第1の工程により形成された上記第3のポリマー構造体の表面に、無電解めっきにより金属膜を形成する金属の陽イオンが存在する状態で、上記電子供与体に電子を放出させる上記光を該第3のポリマー構造体に照射する、光を照射する工程と、当該光を照射する工程の後に、該第3のポリマー構造体の表面に金属の陽イオンが存在する状態で無電解めっきを施すことにより、選択的に上記第2のポリマー構造体の表面に金属膜を形成する第2の工程とを有するようにしたものである。
また、本発明のうち請求項3に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、上記電子供与体は、分子構造内に少なくとも1個のカルバゾール基を有するようにしたものである。
また、本発明のうち請求項4に記載の発明は、本発明のうち請求項3に記載の発明において、上記電子供与体は、1,6−ジ(N−カルバゾール)−2,4−ヘキサジインの重合体であるようにしたものである。
また、本発明のうち請求項5に記載の発明は、本発明のうち請求項3に記載の発明において、上記電子供与体は、9H−カルバゾール−9−エチルメタクリレートの重合体であるであるようにしたものである。
また、本発明のうち請求項6に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、上記電子供与体は、R−CHOを分子構造内に有するようにしたものである。
また、本発明のうち請求項7に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、上記電子供与体は、半導体であるようにしたものである。さらに、本発明のうち請求項8に記載の発明は、本発明のうち請求項1または2のいずれか1項に記載の発明において、上記第2の工程が、上記表面に上記金属の陽イオンとともに還元剤が存在する状態で上記無電解めっきを施す工程であるようにしたものである。加えて、本発明のうち請求項9に記載の発明は、本発明のうち請求項1、2または8のいずれか1項に記載の発明において、上記金属の陽イオンが銀イオンであることを特徴とするものである。
本発明は、以上説明したように構成されているので、真空中での処理を行うことなしに3次元金属微細構造を作製することができるという優れた効果を奏する。
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、3次元金属微細構造を作製する際の生産効率ならびに加工自由度を著しく向上することができるという優れた効果を奏する。
さらに、本発明は、以上説明したように構成されているので、多数の金属微細構造体を互いに接触しない状態で3次元空間に配列させることができるようになるという優れた効果を奏する。
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法の実施の形態の一例を詳細に説明する。

図3には本発明による3次元金属微細構造体の製造方法の実施の形態の一例の処理工程を示すフローチャートがあらわされており、この本発明による3次元金属微細構造体の製造方法は、光硬化性樹脂に光を照射することにより電子を放出する電子供与体を添加した物質(本明細書においては、「改質樹脂」と適宜に称する。)を用いて2光子吸収微細造形法により微細なポリマー構造体を作製する第1の工程たる2光子吸収微細造形プロセス(ステップS1)と、ステップ1で作製されたポリマー構造体表面に無電解めっきにより金属コーティングを行う第2の工程たる無電解めっきプロセス(ステップS2)とを行うものであり、
このステップS1ならびにステップS2との2つのプロセスを行うことにより、3次元金属微細構造体を形成することができる。
以下、本願発明者が行った実験結果を参照しながら詳細に説明する。
1)ガルバゾール基を有するポリジアセチレンへの無電解めっきについて
まず、光を照射することにより電子を放出する電子供与体について、本発明者が行った実験結果について詳細に説明する。
ここで、光を照射することにより電子を放出する物質として、例えば、カルバゾールが知られている。
このカルバゾールは、光を照射されることにより励起され、カルバゾール分子自身が導電性を帯びるとともに電子を放出する電子供与体となる。
従って、光を照射されることにより励起されたカルバゾール分子(カルバゾール励起分子)の周りに電子を欲する陽イオンが存在すると、その陽イオンは電子を受け取って安定な金属へと還元される。つまり、光が照射されている状態では、カルバゾールは還元剤として働くことになる。
そこで、本願発明者は、図4に示す1,6−di(N−carbazol)−2,4−Hexadiyneのようなカルバゾール基を有するポリジアセチレン(以下、「PDA」と適宜に称する。)より形成されたポリマーが、触媒などのセンシタイザー無しで無電解めっき可能であるか否かを検討するために、PDAナノ結晶に対して無電解銀めっきを行う実験を実施した。
この実験においては、まず、図4に示すPDAナノ結晶を再沈法により作製し、この再沈法により作製されたPDAナノ結晶(直径150nm)を、硝酸銀水溶液にアンモニア水溶液を混合したアンモニア性硝酸銀水溶液に浸し、40℃に保温した状態で可視光を照射した。
その結果、当該アンモニア性硝酸銀水溶液中の銀カチオンがPDAナノ結晶上で還元され、PDAナノ結晶(直径150nm)の表面上に粒径5〜15nmの銀粒子の析出が確認された。即ち、PDAより形成されたポリマーに対して、直接的に無電解めっきを行うことが可能であった。
次に、PDAをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、100mMに調整した100mMPDA N,N−ジメチルアセトアミド溶液(以下、「PDA溶液」と適宜に称する。)を用いて硬化後のポリマー表面に無電解銀めっきを行う実験を実施した。
この実験においては、まず、PDA溶液をガラス基板上に30μl滴下し、45℃に保温しながら硬化させた。
それから、硬化したPDA上に、0.25Mの硝酸銀水溶液にアンモニア水溶液(5.5%)を体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液を滴下し、45℃で保温した状態で紫外線を1時間照射して銀メッキを施した。
その結果、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)およびエネルギー分析型X線分光装置(EDS:Energy Dispersion X−ray Spectrometry)によりPDA表面の観察を行ったところ、銀の析出が確認できた。
以上の実験結果より、PDA自体は触媒や還元剤無しでも無電解めっきを行うことができることが確認された。
ここで、図5に示すように、PDA溶液は、2光子吸収微細光造形法に用いるフェトム秒チタンサファイアレーザーの波長域である近赤外領域(波長800nm付近)に吸収がない。
そこで、図2(a)(b)に示すようなシステムを使用して、レーザーパワー294mWのフェムト秒チタンサファイアレーザー光(波長796nm、パルス幅140fs)を対物レンズにより集光してPDA溶液に対して連続照射し、2光子吸収微細造形法による光造形を行う実験を実施した。
その結果、PDA溶液では十分に重合が起きず、連続で照射し続けると、図6に示すようにPDA結晶が析出して光造形ができなかった。これは、PDAに重合開始剤や重合停止剤が入っていないため重合が起こりにくかったためである。
従って、重合開始剤や重合停止剤を添加したPDA溶液を用いて2光子吸収微細造形法による光造形を行って微細なポリマー構造体を作製し(図3のステップS1)、当該作製した微細なポリマー構造体に対して無電解めっきを施すことにより(図3のステップS21)、3次元金属微細構造体を作製することができる。
2)改質樹脂を用いた3次元金属微細構造体の製造方法について
(2−1)改質樹脂への金属析出
上記において説明したように、PDA溶液を硬化させて得られたポリマー表面には無電解めっきにより銀めっきすることができたが、PDA溶液を用いての2光子吸収微細造形法による光造形を行うことはできなかった。
これは、上記したようにPDAには重合開始剤や重合停止剤が入っていないためであるので、重合開始剤や重合停止剤の入っている市販の光硬化性樹脂を用いて、当該光硬化性樹脂にPDA溶液を添加した改質樹脂へ無電解めっきを行う実験を実施した。
まず、市販の光硬化性樹脂としてJSR株式会社製の3種類のアクリル系光硬化性樹脂KC1102、KZならびにZ7012Cを用いて、これら各光硬化性樹脂にPDA溶液を10重量%の濃度(Z7012Cについては12重量%の濃度)で添加し、3種類の改質樹脂を準備した。
そして、これら3種類の改質樹脂たるPDA溶液が添加された3種類の光硬化性樹脂をガラス基板上に1滴滴下し、当該滴下により形成された液滴に紫外線を照射して硬化させた。
硬化後、ポリマー表面をアセトンにより洗浄し、洗浄後の硬化したポリマーに0.2M硝酸銀水溶液を滴下し、45℃で保温した状態で紫外線を1時間照射した。
その後に、水およびアセトンで十分に洗浄してから乾燥させ、乾燥後に45℃で保温した状態のままで、0.2M硝酸銀水溶液と5.5%アンモニア水溶液を体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液と、還元剤として用いる1.9Mグルコース溶液とを体積比1:1で混合した溶液を滴下し、無電解めっきにより銀メッキを施した。
この実験結果によれば、3種類の改質樹脂の全てについて、銀めっきが形成されたことが確認された。
さらに、銀めっきを施されたZ7012Cの抵抗値は、銀めっきの幅1mmで7.5Ωとなり通電が確認された。
また、上記した3種類の光硬化性樹脂における2光子吸収微細造形法による光造形に関しては、KZでは粘性が高いため精度の高い光造形を行うことは困難であった。一方、KC1102ならびにZ7012Cについては精度の高い光造形を行うことが可能であることが確認された。
次に、光造形可能なPDA溶液の濃度に関する実験について説明すると、光硬化性樹脂としてはZ7012Cを用いた。
そして、PDA溶液をZ7012Cに16重量%、30重量%、54重量%添加した改質樹脂について、2光子吸収微細造形法により光造形できるか否かを確認する実験を行った。
短パルスレーザー光としては、フェムト秒チタンサファイアレーザー光を用い、このフェムト秒チタンサファイアレーザー光を対物レンズにより集光することにより、2光子で改質樹脂を硬化させ光造形を行った。
その結果、PDA溶液を54重量%添加した改質樹脂は、PDA結晶が析出してしまい重合が起こらなかった。また、PDA溶液を30重量%添加した改質樹脂は、3次元造形することができなかった。
上記した高濃度でPDA溶液を添加した改質樹脂に対し、PDA溶液を16重量%添加した改質樹脂は、3次元造形が可能であることが確認された(図7参照)。
ここで、上記において説明したように、PDA中のカルバゾール基は無電解めっき中で紫外線を照射されることにより電子を放出し、近くの金属イオンを還元することにより金属膜を形成する。
つまり、本発明においては、還元剤がPDA溶液を添加した光硬化性樹脂中に存在することになる。このことから、無電解めっき時に還元剤を用いない場合について実験を行った。
まず、PDA溶液をZ7012Cに16重量%添加した改質樹脂を用いて、無電解めっき時に還元剤を添加しない場合の金属析出の状態を確認する実験を行った。
即ち、PDA溶液をZ7012Cに16重量%添加した改質樹脂をガラス基板上に滴下して、当該滴下により形成された液滴に紫外線を照射して硬化させたものに対し、0.25M硝酸銀水溶液を滴下し45℃で保温した状態で紫外線を照射した。
その後に、水およびアセトンで洗浄し乾燥させ、乾燥後に再び0.25M硝酸銀水溶液を滴下し24時間放置して銀めっきを行った。
こうした銀めっき終了後に、水およびアセトンで十分に洗浄し乾燥させ、SEMおよびEDSにより銀の析出状態と表面状態の観察を行った。
その結果、図8(a)に示すSEMによるSEM像、図8(b)に示す反射型偏光顕微鏡による反射電子線像ならびに図8(c)に示すEDSによる銀マッピングイメージ(図8(c))より、硬化した改質樹脂の表面に銀が析出していることが確認できた。なお、改質樹脂の表面における銀の析出が粗いことから、還元剤を用いた銀めっきを行うと導電性に優れた銀めっきが形成できると考えられる。
以上の実験結果より、PDA溶液を市販のアクリル系光硬化性樹脂であるZ7012Cに添加した改質樹脂を用いると、無電解めっきにより金属めっきできるものであることが確認された。また、無電解めっき時には、還元剤を用いることが好ましいものといえる。
そこで、市販の光硬化性樹脂にPDA溶液を添加した改質樹脂を用いて、実際に2光子吸収微細造形法により光造形を行い、2光子吸収微細造形法により作製された微細なポリマー構造体に無電解銀めっき処理を施す実験を行った。
まず、PDA溶液をZ7012Cに15重量%添加した改質樹脂に対して、レーザーパワー350mWのフェムト秒チタンサファイアレーザー光(波長796nm、パルス幅140fs)を対物レンズで集光して照射することにより、改質樹脂を2光子で硬化させて立方体を形成するようにした。
そして、レーザー照射終了後に未硬化樹脂をアセトンで洗浄し、立方体(以下、「ポリマーキューブ」と適宜に称する。)を作製した。
こうして作製したポリマーキューブに対し、0.25M硝酸銀水溶液と5.5%アンモニア水溶液を体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液を滴下し、45℃で保温した状態で紫外線を30分間照射した。
それから水およびアセトンで洗浄した後に乾燥させ、その乾燥後に、上記したアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤として用いる1.9Mグルコース溶液を体積比1:1で混合した溶液を滴下し、45℃で保温した状態で1分間放置して無電解めっきにより銀めっきを行った。
図9(a)(b)には、上記のようにして無電解めっきされたポリマーキューブのSEM像が示されており、ポリマーキューブの表面が銀めっきされていることが確認された。なお、図9(a)(b)に示すSEM像では、ガラス基板上も銀めっきされている。
このように、光を照射することにより電子を放出する電子供与体を市販の光硬化性樹脂に添加することにより、2光子吸収微細構造法により3次元微細構造体を作製し、作製した3次元微細構造体に無電解めっきによる金属コーティングを施すことが可能となり、3次元金属微細構造体を作製することができるようになる。
以上において、カルバゾール基を有する電子供与体を添加された光硬化性樹脂を用いて、3次元金属微細構造体を作製する手法について説明したが、次に、3次元金属微細構造体を3次元微細構造体の一部に選択的に作製する手法について説明する。

(2−2)2種類の光硬化性樹脂からなる3次元微細構造体の作製について
3次元金属微細構造体を3次元微細構造体の一部に選択的に作製するには、まず、PDA溶液を添加していない光硬化性樹脂とPDA溶液を添加した光硬化性樹脂(改質樹脂)との2種類の光硬化性樹脂を用いて、3次元微細構造体を作製することになる。
本願発明者の実験においては、市販の光硬化性樹脂と当該光硬化性樹脂にPDA溶液を添加した改質樹脂の2種類の樹脂を用いて、2光子吸収微細造形法による光造形により3次元微細構造体を作製した。
具体的には、KC1102とPDA溶液を添加されたZ7012Cとの2種類の光硬化性樹脂を用いて、2光子吸収微細造形法により光造形を行った。
まず、ガラス基板上にKC1102を滴下し、当該滴下により形成された液滴に対して、フェムト秒チタンサファイアレーザー光(波長796nm、パルス幅140fs、レーザーエネルギー20nJ)を対物レンズ(倍率60倍、NA=1.4)で集光して照射することにより、立方体を形成するように2光子で液滴を硬化させた。なお、照射時間は、1スポット当たり200ミリ秒とした。
こうしたレーザー照射終了後に、未硬化のKC1102をアセトンで洗浄し、立方体(以下、「ポリマーキューブ」と適宜に称する。)を作製した。
その後に、Z7012CにPDA溶液を10重量%添加した改質樹脂を、上記により作製したポリマーキューブの上から滴下し、当該滴下により形成された液滴に対して、フェムト秒チタンサファイアレーザー光(波長796nm、パルス幅140fs、レーザーエネルギー20nJ)を対物レンズ(倍率60倍、NA=1.4)で集光して照射することにより、直径1μmのリングを形成するように2光子で液滴を硬化させた。なお、照射時間は、1スポット当たり200ミリ秒とした。
こうしたレーザー照射終了後に、未硬化の改質樹脂をアセトンで洗浄し、ポリマーキューブ上に直径1μmのリングを作製した。
このように、2光子吸収微細造形法を用いると、PDA溶液を添加していない光硬化性樹脂によりポリマーキューブを形成し、当該ポリマーキューブ上に改質樹脂によりリングを形成するというように、3次元微細構造体を2種類の樹脂より作製することができるものであり、2光子により光硬化性樹脂を硬化させて必要とされるポリマー構造体を意図した部分へ局在化させることができる。

(2−3)サイト選択銀コーティングについて
次に、上記(2−2)により作製された2種類の光硬化性樹脂(KC1102とPDA溶液を添加されたZ7012Cとの2種類の光硬化性樹脂)よりなる3次元微細構造体、即ち、ポリマーキューブと当該ポリマーキューブ上に形成された直径1μmのリングとよりなるポリマー構造体に、0.25M硝酸銀水溶液と5.5%アンモニア水溶液とを体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液を滴下し、45℃で保温した状態で紫外線を30分間照射した。
その後に、水およびアセトンで洗浄してから乾燥させ、乾燥後に、上記のアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤として用いる1.9Mグルコース溶液とを体積比1:1で混合した溶液を当該ポリマー構造体に滴下し、45℃で保温した状態で1分間放置し、無電解めっきにより銀めっきを行った。
図10(a)(b)には、上記のようにして無電解めっきされたポリマー構造体のSEM像が示されている。図10(a)に示されているように、KC1102で形成されたポリマーキューブ表面には銀粒子がほとんど存在していない。それに対し、図10(b)に示すように、改質樹脂(PDA溶液を添加したZ7012C)で形成されたリング表面には、銀粒子が密に存在している。
このように、PDA溶液を添加していない光硬化性樹脂とPDA溶液を添加した光硬化性樹脂(改質樹脂)との2種類の光硬化性樹脂を用いて3次元微細構造体を作製し、当該作成した3次元微細構造体に対して無電解めっきを施すことにより、3次元金属微細構造体を3次元微細構造体の一部に選択的に作製することができる。
さらに、次に説明するように、多数の金属微細構造体を互いに接触しない状態で3次元空間に配列させることができる。

(2−4)3次元空間に配列された金属微細構造の作製について
以上において説明したように、本発明の手法により、約100nmの分解能で、ポリマー構造体の特定部分のみに対して金属をコーティングすることができる。
従って、本発明の手法によれば、例えば、図11に示すような構造体、即ち、ガラス基板16上に光硬化性樹脂による円筒状のポリマー構造体12を形成し、ポリマー構造体12の外周と当接して3段のリング状の金属微細構造体14(金属微細構造体14は、改質樹脂により作成され、無電解めっきによる金属コーティングを施したものである。)が互いに接することなく形成されているような3次元空間配列金属微細構造体を作製することが可能となるなど、多数の金属微細構造体を互いに接触しない状態で3次元空間に配列させることができる。
このような構造の作製は従来の手法では作製困難であり、本発明の手法の一つの応用例である。

(3)無電解めっき時において金属の析出に寄与している物質について
上記において説明したように、上記した実施の形態においては、無電解めっき時において金属の析出に寄与している物質はカルバゾール基であるが、以下、この点について詳細に説明する。
まず、本願発明者は、
a.無電解めっき時において金属の析出に寄与している物質が本当にカルバゾール基であるのか、
b.カルバゾール基を有する電子供与体はポリジアセチレンである必要があるのか、
c.紫外線を照射して45℃で保温した状態で無電解めっきを行っていたが、45℃に加温せずに紫外線の照射のみでめっきができるか、
d.カルバゾールの金属還元メカニズムはどのようなものであるのか、
について確認するための実験を行った。
まず、図12に示すジアセチレンの側鎖にカルボキシル基とアルキル鎖の付いた10,12−ノナコサジイン酸(以下、「NSA」と適宜に称する。)を用いて、カルバゾール基が銀の析出に寄与しているかについて確認する実験を行った。
即ち、NSAをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、100mMに調整した100mMNSA N,N−ジメチルアセトアミド溶液(以下、「NSA溶液」と適宜に称する。)を作製した。そして、Z7012CにNSA溶液を10重量%添加した改質樹脂を、ガラス基板上に滴下し、当該滴下により形成された液滴に紫外線を照射して硬化させた。
次に、0.25M硝酸銀水溶液と5.5%アンモニア水溶液とを体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液を硬化した改質樹脂に滴下し、45℃で保温した状態で紫外線を30分間照射した。
その後に水およびアセトンで十分に洗浄してから乾燥させ、乾燥後に上記したアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤として用いる1.9Mグルコース溶液とを体積比1:1で混合した溶液を硬化した改質樹脂に滴下し、45℃で保温した状態で1分間放置して無電解めっきにより銀めっきを施した。
こうした実験の結果は、硬化した改質樹脂表面にはほとんど銀が析出されることはなかった。
このことから、カルバゾール基が無電解めっきにおいて金属の析出に寄与していることが確認することができた。
ここで、ポリジアセチレンは、3次非線形光学材料として期待されているπ共役系高分子であり、単結晶であることからも明らかなように、分子構造は100%規則的であり、また、それら分子の集合状態も常に単一である。
近年の導電性高分子研究における導電率の高揚は、ポリジアセチレンの構造規則性改善の賜物であり、物性研究にとって重要な意味を持っているといわれている。
しかし、本実験で光硬化性樹脂にポリジアセチレンを添加した場合は、ポリジアセチレンの構造規則性は失われていしまい、ポリジアセチレンが有する優れた特性が発揮されなくなり、ポリジアセチレンを使用するメリットがなくってしまう。
そこで、図13に示すZ7012Cと同じアクリル系のモノマーにカルバゾールを含む9H−Carbazol−9−ethylmethacrylate(以下、「CEM」と適宜に称する。)を用いて、本発明において樹脂表面に無電解めっきによる金属析出を可能にしているカルバゾールを含む物質は、ジアセチレンを基本骨格とする必要があるのかを確認する実験を行った。
即ち、CEMをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解し、100mMに調整した100mMCEM N,N−ジメチルアセトアミド溶液(以下、「CEM溶液」と適宜に称する。)を作製した。
そして、Z7012CにCEM溶液を10重量%添加した改質樹脂を、ガラス基板上に滴下し、当該滴下により形成された液滴に紫外線を照射して硬化させた。
次に、0.25M硝酸銀水溶液と5.5%アンモニア水溶液とを体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液を硬化した改質樹脂に滴下し、45℃で保温した状態で紫外線を30分間照射した。
その後に水およびアセトンで十分に洗浄してから乾燥させ、乾燥後に上記したアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤として用いる1.9Mグルコース溶液とを体積比1:1で混合した溶液を硬化した改質樹脂に滴下し、45℃で保温した状態で2分間放置して無電解めっきにより銀めっきを施した。
こうした実験の結果は、図14に示すように、市販のアクリル系光硬化性樹脂Z7012CにCEM溶液を添加することによっても無電解めっきにより銀めっきされることが確認することができた。
このことより、カルバゾールを有する電子供与体は、ジアセチレンを基本骨格とする必要はないことを確認することができた。
次に、上記した複数の実験では無電解めっきをする際に、45℃に加温して紫外線を30分〜1時間照射していたが、45℃に加温することなく紫外線の照射のみで無電解めっきが行われるかについて確認する実験を行った。
即ち、KC1102にCEM溶液10重量%添加した改質樹脂1と、Z7012CにCEM溶液10重量%添加した改質樹脂2とを準備し、これら改質樹脂1と改質樹脂2とをガラス基板上に滴下し、当該滴下により形成された液滴に紫外線を照射して硬化させた。
そして、0.25M硝酸銀水溶液と5.5%アンモニア水溶液とを体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液をそれぞれの硬化した改質樹脂1と改質樹脂2とにそれぞれ滴下し、室温(23℃)で紫外線を30分間照射した。
その後に水およびアセトンで十分に洗浄してから乾燥させ、乾燥後に上記したアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤として用いる1.9Mグルコース溶液とを体積比1:1で混合した溶液を硬化した改質樹脂1と改質樹脂2とにそれぞれ滴下し、45℃で保温した状態で1分間放置して無電解めっきにより銀めっきを施した。
その結果が図15(a)(b)に示されており、改質樹脂1ならびに改質樹脂2のいずれにおいても銀めっきが施されたことが確認された。
また、KC1102にCEM溶液を10重量%添加した改質樹脂1に形成された銀めっきの1mmあたりの抵抗値は9Ωであり、Z7012CにCEM溶液10重量%添加した改質樹脂2に形成された銀めっきの1mmあたりの抵抗値は1Ωであった。
このことより、光硬化性樹脂にカルバゾールを含んでいる物質を添加することによって、紫外線を照射することにより室温でも銀めっきを形成することができることが確認された。
次に、カルバゾールの金属還元メカニズムについて検討するが、カルバゾールは図16に示すような構造を備えた物質であり、五員環の窒素の部分は非常に電子を放出しやすいものでありドナー部となる。
そのため、ベンゼン環の窒素から対角線上の方向位置に電子を引っ張りやすい基(アクセプター部)を導入すると、容易にドナー部からアクセプター部に電子が移動し、その移動した電子は分子内を自由に動くことができる。
また、ポリビニルカルバゾール(PVK)と側鎖にカルバゾール基を有する置換ポリアセチレン(CzPA)のイオン化ポテンシャルは、それぞれ5.9eV、5.6eVとなっている。つまり、近紫外領域の光(波長約210〜220nm)を照射することによって、カルバゾール基を含む分子は電子を放出することになる。
このようなカルバゾールの特性を元に、本実験におけるカルバゾール基を有するCEMやPDAを添加した改質樹脂に銀が析出するメカニズムとしては、
a.銀イオンが紫外線(イオン化ポテンシャルに相当する。)照射時にカルバゾールから出てきた電子によって還元され析出される、
b.銀イオンはカルバゾールの近くに存在もしくは結合していなくてはならない(なぜならば、カルバゾールから電子が放出されても、めっき液中の水分子などに電子を奪われてしまうからである。)、
などが考えられる。
つまり、銀イオンが改質樹脂中のカルバゾール基の近くに存在して、紫外線照射時にカルバゾール基から放出された電子によって銀イオンが還元され、改質樹脂表面に銀めっきがされるものであると認められる。
そこで、紫外線を照射しない条件で銀めっきを行うようにした実験を行ったものであり、まず、Z7012CとZ7012CにPDA溶液を12重量%添加した改質樹脂3とZ7012CにCEM溶液を10重量%添加した改質樹脂4とを、一枚のガラス基板上にそれぞれ滴下し、当該滴下により形成された液滴に紫外線を照射して硬化させた。
そして、0.25M硝酸銀水溶液と5.5%アンモニア水とを体積比10:6で混合したアンモニア性硝酸銀水溶液をそれぞれの硬化した3種類の樹脂に滴下し、遮光した状態で24時間放置した。
その後に水およびアセトンで十分に洗浄し乾燥させ、乾燥の後に上記したアンモニア性硝酸銀水溶液と還元剤として用いる1.9Mグルコース溶液とを体積比1:1で混合した溶液をそれぞれの硬化した樹脂に滴下し、45℃で保温した状態で無電解めっきにより銀めっきを施した。
上記のアンモニア性硝酸銀水溶液を滴下した後に遮光した状態で24時間放置した3種類の樹脂の表面を観察すると、CEM溶液を添加した改質樹脂の表面が白く濁っていた。その後、還元剤を用いた銀めっきを施すと、銀が析出した。
ここで、改質樹脂の表面が白く濁っていたことは、アンモニア性硝酸銀水溶液により樹脂表面に何らかの物質が付着したためと考えられる。
また、還元剤を用いた銀めっき処理により銀が析出していることから、この樹脂表面に付着した物質は何らかの状態で存在する銀イオンではないかと考えられる。
従って、通常の紫外線照射を行う銀めっきの場合は、樹脂表面に存在する銀イオンがカルバゾール基から放出された電子によって、銀が析出するものであると考えることができる。

以上において説明した本願発明者の実験結果から、光硬化性樹脂にカルバゾール基を有する電子供与体を添加した改質樹脂を用いて、2光子吸収微細造形法により約100nmの分解能で、ポリマー全体に無電解めっきによる金属コーティングを行うことにより、所望の形状の3次元金属微細構造体が得られる。
さらに、光硬化性樹脂と当該光硬化性樹脂にカルバゾール基を有する電子供与体を添加した改質樹脂の2種類を用いて、2光子吸収微細造形法により必要とされるポリマー構造体を意図した部分へ局在化させることができる。
そして、改質樹脂により作製されたポリマー構造体部分に、無電解めっき処理で金属コーティングすることによって、3次元微細構造体中に選択的に金属微細構造を有する3次元金属微細構造体を作製することができる。

なお、上記した実施の形態は、以下の(1)〜(4)に示すように変形することができるものである。
(1)本発明に用いる光硬化性樹脂は、上記において説明したものに限られるものではなく、例えば、図17に示すような各種の光硬化性樹脂を用いることができる。
(2)本発明に用いる電子供与体は、上記において説明したものに限られるものではなく、電子を吐き出すことができるものであればよく、例えば、図18に示すようなアルデヒド系(R−CHOを分子内に持つもの全て)ならびにカルバゾール系(カルバゾール基を分子内に持つもの全て)のものを用いることができる。そして、アクリル系光硬化性樹脂のQ値と近いQ値を有するラジカル重合で高分子量のポリマーが得られるビニル化合物をコネクタとして用いて、このコネクタに図18に示すような電子供与体をくっつけてアクリル系光硬化性樹脂に混入すると、アクリル系光硬化性樹脂に電子供与体をうまく組み込むことができる。
ここで、図19には、ラジカル重合で高分子量のポリマーが得られる代表的なビニル化合物の名称と構造とが示されおり、また、図20には、光硬化性樹脂と当該光硬化性樹脂に添加するビニル化合物(添加ビニル化合物)との反応性を示す指標となるビニル化合物のQ値が示されている。
この図20を参照すると、図19に示すビニル化合物の中では、図21において×印を付されていないスチレン、アクリロニトリル、メタクリル酸メチルならびにアクリル酸メチルをコネクタとして用いて、このコネクタに図18に示すような電子供与体をくっつけてアクリル系光硬化性樹脂に混入することが好ましいものである。
さらに、本発明に用いる電子供与体としては、Si、Ga、GeあるいはGaAsなどのような半導体を用いるようにしてもよい。
(3)上記した実施の形態においては、市販の光硬化性樹脂により作製されたポリマー構造体上に、当該光硬化性樹脂にカルバゾール基を有する電子供与体を添加した改質樹脂を用いてポリマー構造体を作製するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。即ち、光硬化性樹脂にカルバゾール基を有する電子供与体を添加した改質樹脂により作製されたポリマー構造体上に、電子供与体を添加されていない光硬化性樹脂により作製されたポリマー構造体を作製するようにしてもよい。つまり、電子供与体を添加されていない光硬化性樹脂によりポリマー構造体の作製と改質樹脂によるポリマー構造体の作製とは、どのような順番でおこなってもよい。
(4)上記した実施の形態ならびに上記した(1)〜(3)に示す変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよい。
本発明は、微細構造電子デバイスや微細構造光学デバイスの製造などに利用することができる。
図1(a)(b)(c)は、体長8μmの牛の立体模型を作製する場合における2光子吸収微細造形法の処理手順を示す説明図である。 図2(a)(b)は、短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法を実施するためのシステムの説明図であって、図2(a)は、全体構成図であり、図2(b)は、図2(a)における点線部の側面図である。 図3は、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法の実施の形態の一例の処理工程を示すフローチャートである。 図4は、本願発明者による実験において光硬化性樹脂に混入したポリジアセチレンの構造式である。 図5は、ポリジアセチレン溶液の吸収スペクトルを示すグラフである。 図6は、結晶化したポリジアセチレン溶液のCCDイメージである。 図7は、ポリジアセチレン溶液を16重量%添加した改質樹脂を用いて2光子吸収微細造形プロセスにより作製した3次元ポリマー構造体のSEM像である。 図8(a)(b)(c)は、還元剤を用いない無電解めっきプロセスにおけるポリジアセチレンを16重量%添加した改質樹脂表面を示すものであり、図8(a)は走査型電子顕微鏡によるSEM像であり、図8(b)は反射型偏光顕微鏡による反射電子線像であり、図8(c)はエネルギー分散型X線分析装置による銀マッピングイメージである。 図9(a)(b)は、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法により、ポリジアセチレンを添加した改質樹脂を用いてポリマー構造体に銀をコーティングした状態を示すSEM像であり、図9(a)はポリマー構造体の直上から観察した状態を示すSEM像であり、図9(b)は図9(a)から40°傾けた位置から観察した状態を示すSEM像である。 図10(a)(b)は、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法により、2種類の光硬化性樹脂を用いて同一のポリマー構造体内で選択的に銀をコーティングした状態を示すSEM像であり、図10(a)はポリマー構造体全体のSEM像であり、図10(b)はポリマー構造体の銀をコーティングされた直径1μmのリングのSEM像である。 図11は、本発明による3次元金属微細構造体の製造方法により、多数の金属微細構造体を互いに接触しない状態で3次元空間に配列させる一例を示したものである。 図12は、光硬化性樹脂に添加する側鎖にカルバゾール基を含まないポリジアセチレンの構造式である。 図13は、光硬化性樹脂に添加するカルバゾール基を含み、ジアセチレンを基本骨格としないカルバゾールエチルメタクリレートの構造式である。 図14は、図13に示す物質を添加された改質樹脂に無電解めっきプロセルにより銀コーティングを行った結果を示す写真である。 図15は、図13に示す物質を添加された2種類の改質樹脂に無電解めっきプロセスにおいて加温時間を短くしためっきプロセスにより銀コーティングを行った結果を示す写真である。 図16は、カルバゾールの構造式である。 図17は、光硬化性樹脂の種類を示す図表である。 図18は、電子供与体の種類を示す図表である。 図19は、ラジカル重合で高分子量のポリマーが得られる代表的なビニル化合物の名称と構造とを示す図表である。 図20は、光硬化性樹脂と当該光硬化性樹脂に添加するビニル化合物(添加ビニル化合物)との反応性を示す指標となるビニル化合物のQ値を示す図表である。 図21は、適切なコネクタ構造を示す図表である。
符号の説明
12 ポリマー構造体
14 金属微細構造体
16 ガラス基盤

Claims (9)

  1. 任意の立体形状を備えた3次元金属微細構造体の製造方法において、
    光を照射することにより電子を放出する電子供与体を光硬化性樹脂に添加した改質樹脂に対して、短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法により3次元微細構造を備えたポリマー構造体を形成する第1の工程と、
    前記第1の工程により形成された前記ポリマー構造体の表面に、無電解めっきにより金属膜を形成する金属の陽イオンが存在する状態で、前記電子供与体に電子を放出させる前記光を該ポリマー構造体に照射する、光を照射する工程と、
    当該光を照射する工程の後に、該ポリマー構造体の表面に金属の陽イオンが存在する状態で無電解めっきを施すことにより、前記ポリマー構造体の表面に金属膜を形成する第2の工程と
    を有する
    3次元金属微細構造体の製造方法。
  2. 任意の立体形状を備えた3次元金属微細構造体の製造方法において、
    光硬化性樹脂に対して短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法により3次元微細構造を備えた第1のポリマー構造体を形成する処理と、光を照射することにより電子を放出する電子供与体を光硬化性樹脂に添加した改質樹脂に対して短パルスレーザー光を照射して2光子吸収微細造形法により3次元微細構造を備えた第2のポリマー構造体を形成する処理とを行い、前記第1のポリマー構造体と前記第2のポリマー構造体とよりなる第3のポリマー構造体を形成する第1の工程と、
    前記第1の工程により形成された前記第3のポリマー構造体の表面に、無電解めっきにより金属膜を形成する金属の陽イオンが存在する状態で、前記電子供与体に電子を放出させる前記光を該第3のポリマー構造体に照射する、光を照射する工程と、
    当該光を照射する工程の後に、該第3のポリマー構造体の表面に金属の陽イオンが存在する状態で無電解めっきを施すことにより、選択的に前記第2のポリマー構造体の表面に金属膜を形成する第2の工程と
    を有する
    3次元金属微細構造体の製造方法。
  3. 請求項1または2のいずれか1項に記載の3次元金属微細構造体の製造方法において、
    前記電子供与体は、分子構造内に少なくとも1個のカルバゾール基を有する
    ことを特徴とする3次元金属微細構造体の製造方法。
  4. 請求項3に記載の3次元金属微細構造体の製造方法において、
    前記電子供与体は、1,6−ジ(N−カルバゾール)−2,4−ヘキサジインの重合体である
    ことを特徴とする3次元金属微細構造体の製造方法。
  5. 請求項3に記載の3次元金属微細構造体の製造方法において、
    前記電子供与体は、9H−カルバゾール−9−エチルメタクリレートの重合体である
    ことを特徴とする3次元金属微細構造体の製造方法。
  6. 請求項1または2のいずれか1項に記載の3次元金属微細構造体の製造方法において、
    前記電子供与体は、R−CHOを分子構造内に有する
    ことを特徴とする3次元金属微細構造体の製造方法。
  7. 請求項1または2のいずれか1項に記載の3次元金属微細構造体の製造方法において、
    前記電子供与体は、半導体である
    ことを特徴とする3次元金属微細構造体の製造方法。
  8. 請求項1または2のいずれか1項に記載の3次元金属微細構造体の製造方法において、
    前記第2の工程が、前記表面に前記金属の陽イオンとともに還元剤が存在する状態で前記無電解めっきを施す工程である
    ことを特徴とする3次元金属微細構造体の製造方法。
  9. 請求項1、2または8のいずれか1項に記載の3次元金属微細構造体の製造方法において、
    前記金属の陽イオンが銀イオンである
    ことを特徴とする3次元金属微細構造体の製造方法。
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