JP4879867B2 - 遺伝子治療用初代培養脂肪細胞 - Google Patents
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Description
豊岡ら、Folia Pharmacol. Jpn. 116:158-162, 2000 谷ら、最新医学, 56:258-267, 2001 Raper SE et al., Cell Transplant 2(5):381-400, 1993
(1) 脂肪細胞から分泌される液性因子が複数報告され、脂肪細胞がホルモン産生・分泌臓器としての機能を有している (Bradley RD, et al., Recent Prog Horm Res, 2001; 56,329-358)。
(2) 皮下にも存在するために採取が容易であり、更に形成外科・美容整形分野等で摘出に関する技術が発達しつつある。また、容易に移植可能である皮下に移植した場合でも、本来そこに存在する細胞であるため異所にならない。
(3) 単離した初代培養脂肪細胞はインビトロでも活発に増殖するため、遺伝子導入などの操作に適している。
(4) 移植後に局所に生着すると予想されるため、移植後に移植細胞を取り出したい場合(すなわち、遺伝子発現を消去したい場合)でも対応可能である。
(5) 脂肪細胞自身が血管新生因子を産生する(Mick GJ, et al., Endocrinology 2002;143(3):948-53)ので、移植後の高い生着が期待できる。
(6) 成体において大きく重量を変動させる臓器であり、摘出/移植による人体への影響が少ない。
(7) 脂肪細胞は余分なもの・邪魔なものという認識が強く、採取の同意を得やすいと予想される。
〔1〕細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞、
〔2〕該遺伝子がレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより該細胞に導入された、〔1〕に記載の脂肪細胞、
〔3〕体内で少なくとも20日以上にわたって該蛋白質を有意に発現する能力を有する、〔1〕に記載の脂肪細胞、
〔4〕該蛋白質を血中に放出させるために用いる、〔1〕に記載の脂肪細胞、
〔5〕該蛋白質がインスリンまたはGLP−1 (Glucagon-Like Peptide 1) である、〔1〕に記載の方法、
〔6〕以下の工程、
(i) 脂肪細胞を初代培養する工程、
(ii) 細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入し、安定に保持させる工程、
を含んでなる遺伝子治療用脂肪細胞を製造する方法、
〔7〕該外来遺伝子をレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより導入する、〔6〕に記載の方法、
〔8〕〔6〕または〔7〕に記載の方法により製造された遺伝子治療用脂肪細胞、
〔9〕細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞、および薬学的に許容される担体を含む、遺伝子治療用の移植組成物、
〔10〕さらに細胞外基質成分を含む、〔9〕に記載の移植用組成物、
〔11〕さらに血管新生因子を含む、〔9〕に記載の移植用組成物、
〔12〕細胞外に分泌される所望の治療蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む、遺伝子治療方法、
〔13〕蛋白質を血中に放出させる方法であって、細胞外に分泌される蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む方法、
〔14〕該蛋白質を血中20日以上にわたって血中に放出させる方法である、〔13〕に記載の方法、
〔15〕血糖を低下させる方法であって、インスリンまたはGLP−1 (Glucagon-Like Peptide 1) をコードする遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞を体内に投与する工程を含む方法、
〔16〕細胞外に分泌される蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する初代培養の脂肪細胞が体内に移植された動物、に関する。
本発明は、まず、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を安定に保持する、初代培養の遺伝子治療用脂肪細胞を提供する。
補充療法には、ホルモンまたはサイトカインの不足・機能低下により発症・増悪する疾患に対する補充、先天性の遺伝子欠損による疾患に対する補充、病態改善因子の補充、などが含まれる。
腫瘍壊死因子-α(TNF-α)可溶化受容体/慢性関節リュウマチ、可溶化IgE受容体/アレルギー、可溶化IgA受容体/食物アレルギー、可溶化細胞障害性Tリンパ球抗原-4(CTLA4)/自己免疫疾患、可溶化CD40リガンド/免疫疾患、ドミナントネガティブ型血液凝固第VIIa因子/血栓症、繊維芽細胞増殖因子(FGF)可溶化受容体/血管内膜肥厚、など
(1) 脂肪細胞を初代培養する工程、
(2) 細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入、好ましくはレトロウイルスベクターまたはアデノ随伴ウイルスベクターにより導入し、安定に保持させる工程、
を含んでなる遺伝子治療用脂肪細胞を作製する方法、および、この方法により作製された遺伝子治療用脂肪細胞、に関する。安定に保持させるとは、外来遺伝子が細胞分裂に伴って娘細胞に受け継がれるように遺伝子を導入することを言い、より具体的には外来遺伝子を細胞の染色体に組み込むことである。外来遺伝子が染色体に組み込まれ安定発現を獲得したことを分子生物学的に証明するためには、サザンブロット法やゲノムDNAを用いたPCR法などを行うことが出来る。また、安定導入細胞をより濃縮するためには、例えば細胞に目的遺伝子と共に発現させたGFPなどを認識させて濃縮するFluorescence Activated Cell Sorter(FACS)などの方法を用いることが出来る。
初代培養の脂肪細胞は杉原らの報告(Sugihara H. et al., Differentiation, 31:42-49, 1986)に記載の方法により採取できる。具体的には脂肪組織、好ましくは移植レシピエント自身の皮下脂肪組織、あるいは副睾丸周囲または腸間膜などの内臓脂肪組織より脂肪組織を無菌的に摘出し、例えばPBSで洗浄した後、ハサミあるいは手術用ナイフを用いて細切する。この細切組織を適量の、好ましくは1〜3 mg/mlのコラゲナーゼを含む培地で37℃、適当な時間、好ましくは20〜60分間震盪消化した後、遠心により沈査と浮遊層に分離する。
浮遊層を、好ましくは更に1〜2回の遠心により洗浄した後、培地を充満した培養フラスコに加える。泡を除き、通常の培養面が天上になるようにCO2インキュベータ内に静置して培養する(天井培養)。適当な期間、好ましくは10〜14日間培養後、トリプシン処理によって天井面に接着した細胞を回収し、以降、通常通りの培養系で継代培養する。
初代培養脂肪細胞は遺伝子導入前または後に凍結保存してもよい。これにより、脂肪細胞を一回採取するだけで頻回使用が可能である。
遺伝子導入は、遺伝子導入試薬(Fugene 6:Roche社製、Lipofectamin:Invitrogen社製、Cellphect transfection kit (リン酸-カルシウム法):Amersham社製など)、電気的穿孔法(エレクトロポレーション法、Chen H. et al., J Biol. Chem. 1997:272(12), 8026-31)、ウイルスベクター(Kay MA., et al., Nat Med 2001, 7, 33-40)により行うことが出来る。好ましくはウイルスベクターによる導入であり、更に好ましくはレトロウイルスベクター(Arai T. et al., J. Virol., 1998: 72, pp1115-21など)による導入である。
遺伝子導入した脂肪細胞は、適当な細胞濃度、好ましくは 0.2 x 107〜2 x 107/ml、レトロウイルスベクターで導入した場合は 0.2 x 106〜5 x 106/mlに調整し、単体のまま、ないしは効果的な媒体、好ましくはコラーゲンなどの細胞外基質を含む溶液などと混合し、皮下組織や脂肪組織、好ましくは皮下組織内に注入する。脂肪組織への注入は切開して脂肪組織を露出させて行っても良い。成熟脂肪細胞に最終分化させた細胞は、移植後に増殖することなく外来遺伝子を長期間一定のレベルで発現する。移植した体内における外来遺伝子の発現レベルは、移植細胞数に比例することから、移植にあたっては、あらかじめインビトロで測定した外来遺伝子の発現レベルに従って移植する脂肪細胞量を調節すれば、移植した体内で望みの発現量を長期間維持することが可能である。
[方法]
3週齢のICR系雄性マウスあるいは4-5週齢のC57BL/6雄性マウス(いずれもチャールズリバー)をジエチルエーテルで麻酔し、心臓からの全採血により脱血死させた。ついで、鼠蹊部皮下脂肪、あるいは副睾丸周囲脂肪、腸管膜脂肪組織をそれぞれ無菌的に摘出した。摘出した組織をPBSで洗浄した後、ハサミあるいは手術用ナイフを用いて細切し、この細切組織を1mg/mlのコラゲナーゼ(S1 fruction/新田ゼラチン)を含む通常培地(DMEM- high glucose/SIGMA, 10% FCS)で37℃、20-60分間震盪消化した後、遠心(300g, 5min.)により沈査と浮遊層に分離した。
浮遊層はさらに1〜2回の遠心によりコラゲナーゼを希釈除去後、培地を充満したT-25フラスコ (IWAKI) に加えた。泡を除き、通常の培養面が天上になるようにCO2インキュベータで37℃、5% CO2で培養した(天井培養)。10〜14日間培養後、トリプシン処理により天井面に接着した細胞を回収し、通常通りの培養系に移した。以後、1:3〜1:10のratioで継代培養をおこなった。
分化誘導は、6wellプレートでコンフルエントに培養した細胞を誘導培地(0.5 mM IBMX, 0.25μM dexamethasone, 10μg/ml Insulinを添加した通常培地)に交換し48時間刺激した。ついで、成熟培地(10μg/ml Insulinを添加した通常培地)で培養することにより分化を誘導した。成熟培地は3日置きに交換した。
Oil red O染色液は、0.3 gのOil red Oを100 mlのイソプロパノール(99%)に混和した保存溶液と蒸留水を3:2の割合で使用時に混和した。細胞はPBSで洗浄した後に10%中性ホルマリン液(WAKO)で固定した。PBSで再度洗浄後、Oil red O染色液により室温で10分間染色した。PBSにて再度洗浄後に検鏡した。
3週齢のICRマウス皮下脂肪より単離した初代培養脂肪細胞の顕微鏡写真を図1に示す。天井培養14日後の天井側培養面に脂肪滴を有する脂肪細胞の接着を認めた(A)。これを通常培養系に移すと(B)のように繊維芽細胞様に増殖するが、IBMX、デキサメサゾン、インスリンにより分化を誘導すると再び脂肪滴を有する成熟脂肪細胞に分化した(C)。貯留された脂肪はOilred O染色によって赤色に染色された(D)。本手段により単離される細胞が、分化能を有する初代培養脂肪細胞であることを示した。
遺伝子発現のモデル系として、AP遺伝子、すなわちSEAP遺伝子(Clontech)またはPLAP遺伝子(Goto M. et al. Mol.Pharmacol. vol.49 860-873 (1996))を初代培養脂肪細胞に導入しAP活性の推移を検討した。(両AP遺伝子産物は耐熱型で、熱処理後することにより、内在性アルカリフォスファターゼと容易に区別することができる。)
(1) SEAP遺伝子を一過性に導入した初代培養脂肪細胞の作製
APを発現するplasmid(pcDNA3.1-SEAPmh)は、pSEAP2-basic vector(Clontech)を制限酵素Hind III-Xba Iで二重消化して得られるSEAP配列を、哺乳類細胞発現用ベクターであるpcDNA3.1Myc-HisA(Invitrogen)のHind III-Xba I部位に挿入して構築した。
10cm dishへの遺伝子導入あたり500μlのFCS-free DMEM培地と15μlのFugene 6試薬(Roche社製)を混合し、ついで5μgのpcDNA3.1-SEAPmhを加え、室温にて15分間静置した。この混合液を、10cm dish で70〜80% confluentに培養した初代培養細胞(ICR皮下脂肪由来)に加え、CO2インキュベーター内で24時間培養した。
遺伝子導入した細胞をトリプシン処理により回収し、PBSで2回遠心洗浄後 1 x 107 cells/mlになるようにPBSに懸濁した。動物(ICR系ヌードマウス、術時5週齡)は、ペントバルビタールナトリウム(ネンブタール・大日本製薬)50 mg/kgの腹腔内投与により麻酔した。術部付近を希釈ヒビテン液(住友製薬)にて消毒後、右後肢付け根付近の皮膚を3〜5 mm程度切開し、鼠蹊部皮下脂肪を露出させた。調製した細胞懸濁液0.55 ml(5.5 x 106 cells/head)を1 mlシリンジにて準備し、22G注射針を用いて皮下脂肪内に注入した。対照として、コントロールにはPBSを同部位に注入した。また、蛋白補充法と比較するため、精製AP(Roche)1μgをPBSに無菌的に溶解し、同様に注入した。切開した皮膚を縫合し、術部を手術用イソジン(明治製菓)で消毒した。
移植前(0日)、及び移植後経日的にヘパリンコートのキャピラリー(Dramond)を用いて眼底静脈叢より採血した。全血から2000 g、15分間の遠心により plasmaを得た。この plasma 中のAP活性を、測定キット(SEAP reporter gene assay kit, Roche社製)を用い、添付のマニュアルに従って測定した。
アルカリホスファターゼ (AP) 発現プラスミドpcDNA3.1-SEAPmhを一過性に導入した初代培養細胞をマウスに移植して得られた血漿中AP活性を図2に示す。比較対照として投与した1μgの精製AP蛋白(Roche)の注入では、血中AP活性は投与後7日の時点で対照レベルまで低下した。一方、一過性遺伝子導入細胞移植マウスでは、移植後4日目をピークとした血中AP活性が確認され、発現期間は14日間であった。一過性に遺伝子導入された細胞移植によるインビボでの発現は、蛋白の注入よりもやや持続するものの期間が短く、血中濃度の変動も大きいことを明らかにした。
[方法]
(1)AP、および対照であるGFP発現ベクターの構築
PLAP遺伝子は文献 (Goto M. et al. Mol.Pharmacol. vol.49 860-873 (1996)) に記載のpTK-PLAPからHind III, Bgl IIを用いて切り出した。SEAP遺伝子はpcDNA3.1-SEAPmhをHind III/Pme Iで二重消化して得た。GFP遺伝子はpEGFP-N2からNot I-Nco Iにより切り出した。
ウィルスベクター作製に用いるプラスミドpBabeCLXI2Gは、pBabePuro (Morgenstern, J.P. et al. Nucleic Acids Res. vol.18 3587-3596 (1990)) を基として、そこからSV40プロモーターとネオマイシン耐性遺伝子をSal I-Cla Iにより切り出した後 Klenow fragment により平滑化し、そこへ pIRES2-EGFP より Hinc II-Hinc IIにより切り出した脳心筋炎ウイルス(encephalomyocarditis virus (EMCV))のIRES(internal ribosome re-rentry site)とGFP(green fluorescent protein)に置換するとともに、さらにそのLTR(long terminal repeat)から外来遺伝子挿入部分(マルチクローニングサイト)までの部分(Ssp I-Bam HI)をpCLXSN(IMGENEX)の相当する配列(Ssp I-Bam HI)と置換することにより作成したものである。また pBabeCLXI2G の IRES-GFP の部分をIRES-ピューロマイシン耐性遺伝子に置換したpBabeCLXIPも用いた。
上述したPLAP、SEAP、GFPそれぞれのDNA断片をKlenow gragmentによる平滑処理後、Hpa Iにより切断したpBabeCLXIPベクターないしはpBabeCLXI2Gに挿入し、それぞれpBabeCL(PLAP)IP、pBabeCL(SEAPmh)I2G、pBabeCL(GFP)IPを得た。
10cm dishへの遺伝子導入あたり以下のように行った。500μlのFCS-freeのDMEM培地にplasmid導入試薬TransIT(Mirus)30μlを混合し室温にて5分間放置した(DMEM/TransIT混合液)。また別のtubeにVSV-Gをコードするベクター(pCALG、 Arai T. et al., J. Virol., 1998: 72, pp1115-21より改変)3.3μg、Gag・Polをコードするベクター(pCLAmpho/ RetroMax system(IMGENEX))3.3μg、及びパッケージシグナルと導入遺伝子を含むベクター(pBabeCL(PLAP)IP、あるいはpBabeCL(SEAPmh)I2G 、あるいはpBabeCL(GFP)IP) 3.3μgの合計9.9μgを混合した(plasmid液)。DMEM/TransIT混合液にplasmid液を加えよく混合した後に、さらに室温にて15分放置した後、前日に2x106cells / 10cm dishで用意し一晩培養した293-EBNA細胞(Invitrogen)に添加した。
添加8時間後に培地を交換し、さらに2日間培養後に培養上清を回収した。回収した培養上清は、夾雑物を除去するため遠心(300 g、5 min)ないしは0.45μmシリンジフィルター(ミリポア社製)により濾過し、この上清をウィルス液として使用した(それぞれ、MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP、MLV(VSV)/ pBabeCL(SEAPmh)I2G 、MLV(VSV)/pBabeCL(GFP)IP)。一部のウィルス液は超遠心(19,500rpm、100分)により濃縮して使用した。
遺伝子導入に用いる脂肪細胞(ICRマウス皮下脂肪由来、同副睾丸周囲脂肪由来、同腸間膜脂肪由来、C57BL/6マウス皮下脂肪由来)は、導入前日に50-80%コンフルエントになるよう6wellまたは96wellのプレートに準備した。培地をすて、4μg/ml Polybrene(SIGMA)液とウィルス液を等量ずつ細胞に添加することによりウィルスベクターを導入した。導入8時間後に通常培地に交換しさらに培養および継代培養を行った。一部の細胞については、導入4日目の時点で24時間の培養上清を回収しAP活性を測定した(図3)。
継代培養は10cm dishスケールで実施例1に記載した方法に準じて行い、4〜7日間培養してコンフルエントに達したら培地を替え、17時間後の培養上清中のAP活性を測定した。この細胞を継代し続け、適宜同様の操作を行って発現の持続を検討した(図5、6)。なおすべての継代日にAP活性を測定したわけではない。
分化誘導は6wellプレートで実施例1に記載した方法に準じて行った。ただし、誘導培地で3日間処理し、以後成熟培地を3日ごとに交換した。培養上清中のAP活性は各3日間ごとの培養上清を用いて測定し、図の横軸は上清を回収した日で表した。GFP導入細胞については適宜GFP光下での顕微鏡写真を撮影した(図4、6)。なお、非分化誘導条件とは、誘導培地・成熟培地のかわりに通常培地で培養しつづけた条件を意味する。
図3は、レトロウィルスベクターを用いた場合の、組織由来細胞ごとの遺伝子導入効率の比較を示す図である。ICRマウスの鼠蹊部皮下、副睾丸周囲、腸間膜に存在する各脂肪組織からそれぞれ単離した初代培養脂肪細胞に遺伝子導入を行ったところ、いずれの細胞においても培養上清中にAP活性を認めた。該レトロウィルスベクターによる遺伝子導入は、由来部位に依存せず可能であることを明らかにした。
図4は、GFP発現レトロウィルスベクターを導入した細胞の分化誘導像を示す顕微鏡像である。遺伝子導入13日後に分化誘導を開始し、3週間経過後に写真を撮影した。脂肪滴を含む細胞にGFPの蛍光が観察され、該ウィルスベクターが分化能を有する前脂肪細胞に遺伝子導入可能であること、かつ該ベクターによる遺伝子導入が分化能に影響をおよぼさないことを明らかにした。
図5は、AP発現ウィルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞の継代培養における発現の持続性を示す図である。10 cm dishでコンフルエントに達した細胞の、17時間後の培養上清中のAP活性を測定した。C57BL/6マウス皮下脂肪由来の初代培養脂肪細胞(A)では検討した87日間にわたって、ICRマウス皮下脂肪由来の初代培養脂肪細胞(B)では検討した63日間にわたって、持続的なAP産生を認めた。これらの結果から、該ウィルスベクターの初代培養脂肪細胞への導入により、分裂後の娘細胞にも外来遺伝子が保持される安定発現細胞の作製が可能であることを明らかにした。
図6は、分化誘導した遺伝子導入脂肪細胞における発現の変化を示す写真および図である。ICR皮下脂肪由来のGFP発現脂肪細胞は、通常培養下(A)および分化誘導下(B)のどちらでも強いGFP発現が観察された。また、ICR皮下脂肪由来のAP発現脂肪細胞は、非分化誘導下(非分化)および分化誘導下(分化)のいずれにおいても、持続的なAPの発現が検出された(C)。 該ウィルスベクターにより遺伝子導入された初代培養脂肪細胞は、図5に明示した増殖下のみならず、非分化誘導下すなわち非増殖状態や成熟下といったいずれのフェーズにおいても安定に遺伝子発現を示すことを明らかにした。
遺伝子の導入法は、プラスミドベクターを用いた方法も許容される。
[方法]
(1)ヒトインスリン遺伝子の単離と修飾
ヒト膵臓由来cDNAライブラリー(Stratagene)に対し、表1に示したプライマー(Insulin Fw および Rv)を用いてPCR反応を行い、ヒトインスリン遺伝子断片を得た。得られた354 bpの断片について塩基配列を同定し、nativeインスリンとして、pCR2.1TOPOベクター(Invitrogen)にサブクローニングした。
500μlのFCS-free DMEM培地と15μlのFugene 6試薬(Roche)を混合し、ついで導入プラスミド5μgを加え、室温にて15分間静置した。この混合液を、10 cm dish で70〜80% confluentに培養した初代培養細胞(C57BL/6マウス副睾丸周囲脂肪組織由来)に加え、CO2インキュベーター内で24時間培養した。遺伝子導入4日後に細胞をT225フラスコに継代し、一晩培養した後に0.2 mgU/mlのG418(SIGMA)を含む培地に交換し3週間培養して遺伝子導入細胞を選択した。得られたG418耐性細胞を10 cm dishにまき、培養上清中のインスリンを超高感度インスリンEIAキット(森永)により測定した。なお、本EIAキットは、プロセシングされる前のプロインスリンと成熟インスリンをともに検出する。
図7は、初代培養脂肪細胞へのプラスミド導入による(プロ)インスリン産生を示す図である。C57BL/6マウス副睾丸周囲脂肪組織由来の脂肪細胞に、nativeヒトインスリン遺伝子 (native)、あるいはsite1/site2/B10改変型(s1s2B10)をそれぞれ組み込んだpcDNA3.1Myc-Hisベクターまたは空ベクター(mock)をトランスフェクションした。G418選択して得られた耐性細胞の培養上清中にヒト(プロ)インスリンが検出された。初代培養脂肪細胞に対する安定遺伝子導入は、プラスミドベクターによっても可能であることを示した。
遺伝子の導入法は、アデノ随伴ウィルス(AAV)を用いた方法も許容される。
[方法]
AAV Helper-Free System (Stratagene)を用いて検討した。実施例2に記載したPLAP断片(HindIII, BglIIを用いて切り出した断片)をpAAV-MCSベクターの同制限酵素サイトに挿入しpAAV-PLAPを得た。
AAVベクターの作製は以下のように行った。OPTI-MEM (Invitrogen) 1.75ml と plasmid導入試薬Fugene 220μlを混合し、ついでpAAV-PLAP、pAAV-RC、pHelperをそれぞれ25μgずつ混合して、室温にて15分放置した (Fugene/plasmid液)。一方293-EBNA細胞を、15cm dishで60-70%コンフルエント状態になるよう用意した。培養液をFCS-freeのDMEMに置換し、そこにFugene/plasmid液を均等に滴下して2-3時間培養した。ついで終濃度10%となるようFCSを添加し、さらに2日間培養した。細胞をトリプシン処理にて回収し遠沈させた後、最終用量が3mlになるよう50 mM Tris-HCL, 150 mM NaCl溶液に懸濁した。この懸濁液に対しドライアイス-エタノール/37℃の凍結/融解を3サイクル行うことで細胞を破砕した。さらにBenzonase (SIGMA) により宿主ゲノムDNAを分解した後に9,000 rpm、30分の遠心を行い、上清をフィルターろ過してウィルス液とした。
初代培養脂肪細胞(C57BL/6マウス皮下脂肪由来)は、遺伝子導入前日に1x104 cells/wellで12 well plateにまき、一晩培養後、40mMのHydroxyureaおよび1mMのButylic acid(いずれもSIGMA)を含む培地で6時間処理した。この培地を除いた後、FCS-freeのDMEMで1/100に希釈したウィルス液を0.5 ml/wellで添加した。1時間培養後、終濃度10%となるようFCS含有培地を添加し、一晩培養した。以後、通常の培地交換を行い、24日目に継代した。
導入1、7、25日目に培地を交換し、それぞれ2日後の培養上清をAP測定に用いた。65℃で20分間加温し、必要に応じて希釈した培養上清10μlに、50μlのアッセイバッファー(16mM NaHCO3, 12mM Na2CO3, 0.8mM MgSO4)と、50μlのルミステイン試薬(CDP-Star Ready to Use with SapphierII, TROPIX)を混和し遮光下で30分間反応させ、ルミノメーターで測定した。
図8は、AP発現AAVを導入した初代培養脂肪細胞(C57BL/6マウス皮下脂肪由来)における、APの安定発現を示す図である。培養上清中のAP活性は、全試験期間を通して持続的に検出された。初代培養脂肪細胞に対する安定遺伝子導入は、AAVベクターによっても得られることを示した。
[方法]
実施例4で構築したヒト改変型インスリン遺伝子(s1s2B10Ins)を、実施例3の方法に準じて pBabeCLXI2Gベクターに挿入した(pBabeCL(s1s2B10Ins)I2G)。このプラスミドを、VSV-Gをコードするベクター(pVPack-VSV-G/Stratagene)、Gag・Polをコードするベクター(pVPack-gp/Stratageneより改変)とともに、293-EBNA細胞に実施例3の方法に準じて導入し、改変型インスリン発現レトロウィルスベクターを作製した(MLV(VSV)/pBabeCL(s1s2B10Ins)I2G)。10 cm dish 22枚の293-EBNA細胞の培養上清(約200 ml)を回収し、遠心/フィルター処理により不溶物を除いた後に超遠心(19,500 rpm、100分)により濃縮ウィルス液を得た。これを、前日に6wellプレートにまいた初代培養脂肪細胞(C57BL/6皮下脂肪由来)に導入した。
遺伝子導入細胞を6wellプレートにまきなおし、実施例1の方法に準じて分化を誘導した。誘導前3日から誘導開始日の3日間(誘導前)、および誘導14日目から17日目の3日間(誘導後)の培養上清をそれぞれ回収して、実施例4と同じ方法でインスリン量を測定した。また、目的の部位でプロセシングが起こり成熟インスリンが生成されていることを確認するために、成熟インスリンのみを認識するインスリンEIAキット(IBL)の測定も行った。対照は、同時に分化誘導した非遺伝子導入細胞の培養上清を用いた。
図9は、s1s2B10インスリン発現レトロウィルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞における、分化誘導時のインスリン発現を示す図である。(A)森永製EIAによる結果、(B)IBL製EIAによる結果、をそれぞれ示す。インスリンは、分化誘導前または分化誘導後のいずれにおいても安定に分泌されること、変異型インスリン遺伝子導入によって脂肪細胞から成熟インスリンを産生し得ること、を明らかにした。
GLP-1は摂食時に小腸L細胞から産生され、膵β細胞に作用してインスリン分泌を刺激する作用を有するペプチドである。その他にも、膵β細胞の再生作用や食欲抑制作用、胃排泄抑制作用など、抗糖尿病・抗肥満の多様な作用を有することが明らかにされている(Meier JJ et al. Eur J Pharmacol. 2002, 12;440(2-3):269-79、Drucker DJ.Gastroenterology. 2002;122(2):531-544)。このペプチドはプレプログルカゴン遺伝子から産生されるポリペプチドから組織特異的プロセシングにより生じる、GLP-1のアミノ酸配列として7番から37番(ないし36番のアミド体)のペプチドが主な薬理活性を有することが知られている(Drucker DJ et al. Proc Natl Acad Sci U S A. 1987 May;84(10):3434-3438、Kreymann B et al. Lancet. 1987, 5;2(8571):1300-1304、Mojsov S et al. J Clin Invest. 1987 Feb;79(2):616-619)。この因子を脂肪細胞から産生させるべく以下のような検討を行った。
実施例3で用いたPLAP遺伝子のシグナルペプチド(17アミノ酸)にヒトGLP-1(7-37)とストップコドンをつないだ配列(コード配列を配列番号:10に示す)を含む計156base pairの塩基の配列を設計し、中央に22merのオーバーラップを持つようにヌクレオチドを合成した(表1中 sPL-GLP-1FwおよびsPL-GLP-1Rv)。これをアニーリングさせPfu polymerase(Stratagene)により二重鎖にさせた後、5'端、3'端のプライマー(表1のGLP-5'およびGLP-3')を用いたPCRにより目的断片を増幅した。この断片をpCR2.1ベクターにサブクローニングした後に制限酵素で切り出し、実施例3と同様にpBabeCLXI2Gベクターに挿入した(pBabeCL(sPL-GLP1)I2G)。これを実施例6と同様の方法で293-EBNA細胞に導入して、GLP-1発現レトロウィルスベクターを作製した(MLV(VSV)/pBabeCL(sPL-GLP-1)I2G)。10cm dish9枚の293-EBNA細胞の培養上清(約90ml)を回収し、遠心/フィルター処理により不溶物を除いた後に超遠心(19,500rpm、100分)により濃縮ウィルス液を得た。これを、前日に6wellプレートにまいた初代培養脂肪細胞(C57BL/6皮下脂肪由来)に導入した。導入した脂肪細胞を12wellプレートにまきなおし、実施例1の方法に準じて分化誘導した。非誘導とは、誘導培地・成熟培地のかわりに通常培地で培養しつづけた条件を意味する。7日後に、1mMのValine-pyrrolidine(GLP-1分解酵素阻害剤、エーザイ(株)にて合成)を含むFCS-free DMEM培地に交換した。18時間後に培養上清を回収し、活性型GLP-1(7-37)量をELISA法(LINCO)により測定した。
図10は、GLP-1(7-37)発現レトロウイルスベクターを導入した初代培養脂肪細胞における発現を示す図である。非分化誘導および分化誘導後の脂肪細胞の培養上清に、active formであるGLP-1(7-37)の発現が認められた。プレプロタイプで産生されプロセシングによって切り出されるような因子であっても、本法によって、その因子のみを脂肪細胞から産生させ得ることを明らかにした。
[方法]
実施例3の方法で作製したAP発現脂肪細胞(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP導入、C57BL/6皮下脂肪由来)をコンフルエントに培養した後、トリプシン処理により回収しPBSで洗浄した後に、5x107 cells/mlになるように氷温下のマトリゲル (Becton Dickinson) に懸濁した。これをC57BL/6マウス(術時8週齢、チャールズリバー)の背部皮下 (Sc) にマウス一匹あたり0.2 mlの用量(1x106 cells/head)を注入することにより移植した(分化誘導なし)。一方、同細胞をコンフルエントに培養した後、実施例1に示す誘導培地で3日間培養後、同様の処理を行い移植した(分化誘導あり)。実施例2に示す方法で経日的に採血を行い、血漿中のAP活性を測定した。
図11は、AP発現初代培養脂肪細胞を移植したマウスにおける、血漿中AP活性の推移を示す図である。いずれの移植法によっても約50日間の全試験期間にわたって発現の持続を認めたが、移植前に3日間の分化誘導刺激を与えてから移植した個体(分化誘導あり)の方が、誘導なしで移植した個体に比べ、少ない変動幅で持続した。分化誘導刺激を与えることによって、移植後の生存率を改善し得る可能性を示した。
[方法]
(1)移植
実施例3で作製したAP発現脂肪細胞(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP導入、ICR皮下脂肪由来)をコンフルエントに培養した後、トリプシン処理により回収しPBSで洗浄した後に、5x107 cells/mlになるように1μg/mlのbFGF(Genzyme Techne)を添加した氷温下のマトリゲル (Becton Dickinson) に懸濁した。これをICR系ヌードマウス(術時6週齢、チャールズリバー)の背部皮下 (Sc)、鼠蹊部皮下脂肪内 (fat)、腹腔内 (ip)の各部位にマウス一匹あたり0.2mlの用量(1x106 cells/head)を注入することにより移植した。対照として、GFP発現脂肪細胞を同様に処理し皮下に移植した。
またAP発現細胞の一部は、実施例1に示す誘導培地で3日間培養した後に、同様に回収し移植した(Dif)。また一部は誘導培地の後さらに成熟培地で4日間培養し、同様に回収して移植した(Mat)。
またAP発現細胞の一部は、移植と同条件(1x106/0.2 mlマトリゲル-bFGF添加)で8well-Labteckチャンバー(Nunc)にまき、37℃で加温することによって固形化した。この固形化ゲルをマウスの皮下に挿入することで移植した。このとき、固形化後に通常培地で培養したものをpre-fixed (pf)/gr、分化誘導培地で培養したものをpf/difとし、7日間培養後に移植を行った。
移植前(0日)、及び移植後経日的に実施例2の方法に準じてplasma中のAP活性を測定した。
(2)摘出
分化誘導後に移植した群(Dif/Sc)のうち、個体Aについては移植5週後に、個体Bについては移植43週目に、それぞれ移植細胞塊をマトリゲルごと摘出した。対照群の一例についても、移植5週目に摘出した。それぞれ、50 mg/kgのネンブタールを腹腔内投与して麻酔した後に皮膚を切開して、肉眼的に確認しえた移植マトリゲル片を切除した。手術部位は縫合しイソジン(明治)にて消毒し、以後同様に飼育し経日的に採血を行った。
図12(A)は、AP発現初代培養脂肪細胞を、分化刺激有り・かつbasic FGF添加マトリゲルを用いて移植した際(Dif/Sc群)の、血漿中AP活性の推移を50日間検討した結果である。血中AP活性は約5倍の範囲で49日間にわたって安定に推移した。移植時のbFGF添加により、移植後の生着率をより改善し得ることを示した。また(B)は、同期間内において、移植マトリゲルの摘出による血漿中AP活性の消失(個体A)を示す図である。PLAP導入群の平均値に比べ、摘出個体では著明なAP活性の低下が認められ、血中APは移植細胞由来であること、また移植片の摘出により遺伝子発現は速やかに消去可能であること、を明らかにした。このとき、対照であるGFP導入細胞移植群からも一部摘出を行ったところ、摘出マトリゲル中にGFP陽性細胞を認め、かつその多くは図6(B)のように空胞像を呈した(C)。該方法により移植した初代培養脂肪細胞が、成熟脂肪としてインビボで生着する可能性を示した。
図13は、図12(A)における移植マウス、およびその他さまざまな方法で移植したマウスの血中AP活性をより長期にわたって検討した結果である。PLAP導入細胞の移植群では、いずれの移植部位・移植法によっても明確な血中AP活性の上昇を認めた。血中AP活性は長期にわたって持続し、特ににDif/Sc群(図12(A)に例示した群)は試験期間の1年にわたって安定なAP発現が認められた。その他の移植法においても、いずれも試験期間内(ip群では316日、fat群では54日、Sc群では225日、Mat/Sc群では317日、pre-fixの2群では314日)において持続的にAP産生が認められた。移植後1週以内に認められる活性のピークはip群が最も高く、以下、Sc>fat> Dif/Sc≒pf-dif >pf-gr≒Mat/Scの順で高値であった。また、移植後の変動幅については全群比較可能な13週経過時とピークとの比で見ると、pre-fixの2群で約3倍ともっとも変動が少なく、ip群やDif/Sc、Mat/Sc群で約5倍、Sc群やfat群では約10倍であった。各移植法では移植直後のピーク値や移植後の変動幅が異なっており、これらは用いる遺伝子産物や病態の特徴、手技の簡便性などに応じて使い分けることが可能である。体外で遺伝子を安定導入した初代培養脂肪細胞の移植は、多様な方法で移植可能であること、また移植後は長期に安定なインビボ遺伝子発現が可能であることを明らかにした。
図14は、図12(B)に例示したのと同様の摘出試験を、移植後期に行った結果を示す図である。移植初期に摘出した個体(個体A)のみならず、移植後期に摘出した個体(個体B)においても、摘出後速やかな血中AP活性の消失を認めた。本法により移植された脂肪細胞は移植後長期間にわたって移植部位に局在し、時期によらず必要に応じて摘出することにより遺伝子発現を消去できることを明らかにした。
移植細胞数の用量依存性を確認するために、次の検討を行った。
[方法]
実施例3で作製したAP発現脂肪細胞(MLV(VSV)/pBabeCL(PLAP)IP導入、ICR皮下脂肪由来)をコンフルエントに培養した後、実施例1に示す誘導培地で3日間培養した後に、トリプシン処理により回収した。PBSで洗浄した後に、5x107 cells/mlになるようにマトリゲルに懸濁した。AP細胞懸濁液についてはマトリゲルにより5倍ずつの段階希釈を行い、それぞれ1x107 cells/ml、2x106 cells/ml 溶液を調製した。これらに終濃度1μg/mlになるようbFGFを添加し、ICR系ヌードマウスの背部皮下にマウス一匹あたり0.2 mlの用量で移植した(それぞれ高用量:1x106 cells/head、中用量: 2 x 105 cells/head、低用量: 4x104 cells/head)。コントロールとして、GFP発現脂肪細胞を同様に処理し高用量と同条件(1x106 cells/head)で皮下に移植した。
図15は、AP発現脂肪細胞の移植における、移植細胞数依存的な血中AP活性を示す図である。移植細胞数を変えることにより、持続期間に影響せずに用量依存的な血中AP活性が認められた。特に、中・低用量群では高用量群に見られていた移植早期のピークを示さず、より少ない変動幅で推移した。インビボの発現量が、移植細胞数によって容易に調整し得ること、至適細胞数を整えることで移植後の血中濃度(発現量)をより安定させ得ることを明らかにした。
[方法]
糖尿病マウスは、8週齢の雄性C57BL/6マウスに対し170mg/kgのストレプトゾトシン(STZ、SIGMA)を10 ml/kgで静脈内投与することにより作製した。STZ投与1、2週後にそれぞれ空腹時血糖値(FBG)を測定し、ともに300 mg/dl以上のFBGを呈した個体を糖尿病とした。なお血糖値は全血を採取直後に過塩素酸処理してグルコーステスト-II(WAKO)を用いて測定した。
実施例6で作製したMLV(VSV)/pBabeCL(s1s2B10Ins)I2G導入脂肪細胞を、実施例10と同様の方法で分化誘導刺激後、5x107/mlになるように1μg/mlのbFGFを添加したマトリゲルに懸濁した。この懸濁液を、一箇所あたり0.2 mlずつ、糖尿病マウスの背部皮下に計4箇所(4x106/head)個移植した。対照群には、非遺伝子導入の脂肪細胞を同様の方法により移植した。移植はSTZ処置19日後に行い、以後経時的にFBGを測定した。統計解析は対照群との比較(unpaired t test)により行った。
図16はSTZ誘発糖尿病マウスに対する、s1s2B10インスリン発現脂肪細胞の移植による効果を示した図である。対照には非遺伝子導入細胞を移植した。インスリン発現細胞移植群の血糖値は移植7日目から低下傾向を示し、移植13、21日目には有意な血糖低下作用を示した(A)。また、移植20日後の体重はインスリン発現細胞移植群が対照群に比べて有意に高く、糖尿病による体重減少を回復させた(B)。APを用いた検討結果より、この血糖低下作用は長期に持続することが推測される。このように、移植した初代培養脂肪細胞から産生された外来遺伝子産物が、レシピエントの病態修飾に寄与しうることを明らかにしたと同時に、本法による糖尿病治療の可能性が示された。
Claims (16)
- 細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子であって、レトロウイルスベクターにより導入された外来遺伝子を染色体中に安定に保持し、移植細胞数を調節することにより該蛋白質の発現量の調節が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定に発現する能力を有する、初代培養のエクスビボ遺伝子治療用前脂肪細胞。
- 請求項1記載の遺伝子治療用前脂肪細胞を脂肪細胞に分化させた、初代培養のエクスビボ遺伝子治療用脂肪細胞。
- 細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子であって、レトロウイルスベクターにより導入された外来遺伝子を染色体中に安定に保持し、移植部位から切除することにより該蛋白質の発現の消去が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定に発現する能力を有する、初代培養のエクスビボ遺伝子治療用前脂肪細胞。
- 請求項3記載の遺伝子治療用前脂肪細胞を脂肪細胞に分化させた、初代培養のエクスビボ遺伝子治療用脂肪細胞。
- 脂肪組織から分離培養した前脂肪細胞に、レトロウイルスベクターを用いて細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入した前脂肪細胞であって、移植細胞数を調節することにより該蛋白質の発現量の調節が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定して発現する能力を有する遺伝子治療用前脂肪細胞。
- 請求項5記載の遺伝子治療用前脂肪細胞を脂肪細胞に分化させた、遺伝子治療用脂肪細胞。
- 脂肪組織から分離培養した前脂肪細胞に、レトロウイルスベクターを用いて細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入した前脂肪細胞であって、移植部位から切除することにより該蛋白質の発現の消去が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定して発現する能力を有する遺伝子治療用前脂肪細胞。
- 請求項7記載の遺伝子治療用前脂肪細胞を脂肪細胞に分化させた、遺伝子治療用脂肪細胞。
- 分泌する蛋白質が、インスリンまたはGLP-1(Glucagon-Like Peptide 1)である、請求項1〜8のいずれか一項に記載の遺伝子治療用前脂肪細胞または遺伝子治療用脂肪細胞。
- 請求項1〜9のいずれか一項に記載の遺伝子治療用前脂肪細胞または遺伝子治療用脂肪細胞、および薬学的に許容される担体を含む、遺伝子治療用の移植組成物。
- さらに細胞外基質成分を含む、請求項10に記載の移植用組成物。
- さらに血管新生因子を含む、請求項10に記載の移植用組成物。
- 以下の工程を含んでなる、移植細胞数を調節することにより該蛋白質の発現量の調節が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定して発現する能力を有する遺伝子治療用前脂肪細胞を製造する方法。
(1)脂肪組織から前脂肪細胞を分離培養する工程、
(2)前脂肪細胞に、レトロウイルスベクターを用いて、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入する工程。 - 請求項13記載の工程に加え、更に、前脂肪細胞を脂肪細胞に分化させる工程を含む、移植細胞数を調節することにより該蛋白質の発現量の調節が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定して発現する能力を有する遺伝子治療用脂肪細胞を製造する方法。
- 以下の工程を含んでなる、移植部位から切除することにより該蛋白質の発現の消去が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定して発現する能力を有する遺伝子治療用前脂肪細胞を製造する方法。
(1)脂肪組織から前脂肪細胞を分離培養する工程、
(2)前脂肪細胞に、レトロウイルスベクターを用いて、細胞外に分泌する蛋白質をコードする外来遺伝子を導入する工程。 - 請求項15記載の工程に加え、更に、前脂肪細胞を脂肪細胞に分化させる工程を含む、移植部位から切除することにより該蛋白質の発現の消去が可能であり、体内に移植後少なくとも2ヶ月以上に亘って該蛋白質を安定して発現する能力を有する遺伝子治療用脂肪細胞を製造する方法。
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