JP4876288B2 - 膨張化炭素繊維およびその製造方法並びに太陽電池 - Google Patents

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Description

本発明は、表面に酸性官能基を有する膨張化炭素繊維およびその製造方法、並びに当該膨張化炭素繊維を光電変換層に用いた太陽電池に関する。
近年、化石燃料の枯渇や石油価格の高騰に加え、二酸化炭素による地球温暖化が大きく問題にされており、火力発電などに代わるエネルギー供給手段の1つとして太陽電池に注目が集まっている。しかし、現在、この太陽電池は高価である上に、その光電変換層の材料としてのシリコンが不足しつつある。そこで、シリコンからなる光電変換層を薄膜化する技術が開発されているが、入射した太陽光が光電変換層を透過してしまうため、そのエネルギー変換効率は十分ではない(特許文献1)。
また、シリコンを使わない太陽電池として、色素を吸着させた二酸化チタンを光電変換層材料として用いる色素増感太陽電池が開発されている(特許文献2,3)。しかし、色素増感太陽電池はシリコンを用いないという利点を有するものの、利用できる波長が限定されることや、起電力が小さいといった問題を有している。これ以外にも変換効率を向上させ得るような構造の色素増感半導体多孔質層を有する色素増感太陽電池の電極基板も開発されているが(特許文献4)、多孔質層の組立が複雑,且つ困難で、製造には問題が多い、との指摘がなされている。
特開2004−319733号公報 特開2008−63390号公報 特開2006−302531号公報 特開2009−59687号公報
上述したように太陽電池に関する研究は進んでおり、既に実用化もされている。しかし、従来の太陽電池は可視光を十分に利用できるものではなく、そのエネルギー変換効率は満足できるものではなかった。
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、第1の目的は、可視光を有効に利用することができると共に優れた光誘起電荷分離効果を示し、太陽電池の光電変換層などに好適に用いることのできる膨張化炭素繊維、およびその製造方法を提供することにある。
本発明の第2の目的は、光電変換層として上記膨張化炭素繊維材料を用いることによりエネルギー変換効率の向上した太陽電池を提供することにある。
本発明に係る膨張化炭素繊維は、表面に酸性官能基を含むと共に、全酸性官能基に対する割合が55%以上83%以下のカルボキシル基を含み、光照射により光誘起電荷分離効果を示すものである。膨張化炭素繊維の大きさとしては、その直径が5nm〜1μm及び/又は長さが10nm〜2μmまでに微小化されていることが望ましい。
この膨張化炭素繊維では、表面に所定の割合以上のカルボキシル基を含むため、光照射により優れた光誘起電荷分離効果を示すと共に、黒色を呈するために実質的に全ての波長の光を吸収できる。よって、この膨張化炭素繊維を太陽電池の光電変換層などに用いることにより、エネルギー変換効率を著しく向上させることが可能になる。
本発明に係る膨張化炭素繊維の製造方法は、上記本発明の膨張化炭素繊維を製造するものであって、原料炭素繊維から層間化合物を調製する工程と、層間化合物を加熱処理することにより、膨張化炭素繊維を調製する工程と、膨張化炭素繊維の表面酸化処理を行うことにより、前記膨張化炭素繊維の表面の全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を増加させる工程と、を含むものである。
膨張化炭素繊維の表面にカルボキシル基を形成させるための試薬としては、酸、オゾンおよび過酸化物を挙げることができる。原料炭素繊維としては、膨張化炭素繊維が得られ易いことから、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維またはPAN系炭素繊維が好適である。膨張化炭素繊維への酸化処理は、具体的には、電気化学的酸化処理、化学的酸化処理またはオゾン酸化処理である。
本発明に係る太陽電池は、上記膨張化炭素繊維を光電変換層の材料として含むものである。
本発明の膨張化炭素繊維によれば、表面に酸性官能基を含むと共に、全酸性官能基に対してカルボキシル基を55%以上83%以下の割合で含むようにしたので、光照射により優れた光誘起電荷分離効果を示すと共に、黒色を呈するために実質的に全ての波長の光を吸収できる。
よって、この膨張化炭素繊維を光電変換層に用いた本発明の太陽電池では、従来の太陽電池に比して高いエネルギー変換効率を得ることが可能になる。


また、本発明の膨張化炭素繊維の製造方法によれば、膨張化炭素繊維を調製した後、更に、表面酸化処理を行うようにしたので、膨張化炭素繊維の表面の全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を増加させることができ、本発明の膨張化炭素繊維を容易に製造することができる。
本発明の一実施の形態に係る層間化合物の透過電子顕微鏡写真である。 表面酸化処理前と処理後における炭素繊維のIRスペクトルである。 膨張化炭素繊維の表面における酸性官能基の、表面酸化処理による経時的変化を表す特性図である。 オゾン処理による表面官能基の導入結果を表す特性図である。 膨張化炭素繊維を含む色素溶液の可視光照射前後の写真である。 熱処理、オゾン処理、化学的処理(酸性溶液処理)および電気化学的処理試料による光誘起電荷分離に伴う吸光特性の変化を表す図である。
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の一実施の形態に係る膨張化炭素繊維は、その表面に酸性官能基を含むと共に、全酸性官能基に対して所定の割合以上のカルボキシル基(―COOH)を含むものである。カルボキシル基は表面官能基の中でも最も活性が強い。これによりこの膨張化炭素繊維は、光照射により優れた光誘起電荷分離効果を示すと共に、黒色を呈するために実質的に全ての波長の光を吸収できる。よって、この膨張化炭素繊維を後述のように太陽電池の光電変換層に用いることにより、従来の太陽電池に比して高いエネルギー変換効率を得ることが可能になる。
光誘起電荷分離効果を発揮するには、カルボキシル基の全酸性官能基に対する割合を、好ましくは6%以上、より好ましくは6%以上83%以下、更に好ましくは30%以上83%以下、更に好ましくは55%以上83%以下の範囲とする。活性の強いカルボキシル基が6%未満であると光誘起電荷分離は十分ではなく、また、カルボキシル基が83%以上では光誘起電荷分離効果はほぼ飽和状態に達する。
この膨張化炭素繊維は、例えば以下の(A)〜(C)の工程によって製造することができ、そのカルボキシル基の割合を増加させて光誘起電荷分離効果をより効果的に発揮させることができるものである。
(A)原料炭素繊維から層間化合物を調製する工程
(B)層間化合物を加熱処理することにより、膨張化炭素繊維を調製する工程
(C)膨張化炭素繊維の表面酸化処理を行うことにより、膨張化炭素繊維の表面の全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を増加させる工程
以下、各工程について具体的に説明する。
(A)層間化合物の調製工程
(原料炭素繊維)
炭素繊維には、ピッチ系炭素繊維、PAN系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、気相成長炭素繊維などがあるが、本工程で用いる原料炭素繊維としては、いずれも特に制限無く用いることができる。但し、膨張化炭素繊維が得られ易いことから、ピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維およびPAN系炭素繊維が好適である。また、ピッチ系炭素繊維の中でも、特に黒鉛化され易く、膨張化炭素繊維が得られ易いことから、光学的異方性相を含むピッチ系炭素繊維、即ちメソフェーズピッチ系炭素繊維が好適に用いられる。
炭素繊維は、各前駆体を繊維状に成形した後に800℃を超える温度で焼成することにより得られる。本方法で用いる原料炭素繊維としては、例えば2900〜3200℃程度の熱処理のなされた、いわゆる黒鉛化繊維が好適である。
原料炭素繊維の径や長さは特に制限されないが、最終的に表面積が大きく、光吸収性や反応性の高い膨張化炭素繊維を得たいことから、径や長さは小さい方がよい。しかし、径や長さが小さ過ぎると、取扱性が悪化したり工業的な大量生産が難しくなるおそれがある。よって、通常は、直径が2μm以上10μm以下、長さが50μm以上20cm以下の炭素繊維を用いることが好ましい。より好ましくは、直径が5μm以上15μm以下、長さが1cm以上15cm以下の炭素繊維を用いる。
(層間化合物)
炭素繊維は、複数のグラファイト構造が長さ方向に重なり絡み合った構造を有し、グラファイト構造の結晶性は高く非常に堅固である一方で、層同士はファンデルワールス力で結合されているに過ぎない。よって層間には様々な低分子化合物、金属化合物、イオンなどが容易にインターカレートする。その結果得られる化合物が層間化合物である。
原料炭素繊維から層間化合物を得る手段としては、主に化学的処理と電気化学的処理とがある。
化学的処理は、硫酸などの酸中で、硝酸や過マンガン酸カリウムなどの強力な酸化剤を炭素繊維に作用させた後、過剰の水で処理する方法である。電気化学的処理は、酸電解質中で原料炭素繊維を陽極に固定し、定電流または定電圧で電気分解を行うものであり、層間に化合物やイオンを導入するために実施する。電解質である酸としては、硫酸、濃硫酸、硝酸、濃硝酸、リン酸などの無機酸や、蟻酸、酢酸などの有機酸を用いることができる。使用する酸電解質の濃度、電圧、電流、処理時間などは適宜調整すればよく、具体的にはXRD(X-ray Diffraction),あるいは重量増加などで層間化合物の形成割合を確認しつつ予備実験などで決定すればよい。通常は0.1〜5A程度の定電流(電流密度では数A〜数十A)を通電し、炭素繊維への付与電荷量が1000〜10000Cまで処理を継続すればよい。
化学的処理としては、例えば、ハマース―オフマン(Hummers-Offman)法が挙げられる。この場合には、まず、例えば、炭素繊維を懸濁させた硝酸ナトリウム溶液中に、氷冷下、濃硫酸を加えて攪拌した後、少量ずつ過マンガン酸カリウム(KMnO4)を添加する。溶液中にKMnO4 を少量ずつ添加するのは、添加することにより強力な酸化反応が起こるため、時間をかけて反応させることが好ましいからである。KMnO4 を添加後、一昼夜放置することにより反応させたのち、反応液を70℃〜80℃の水によって希釈し、15分程度放置する。次いで、混合溶液中に過酸化水素を、混合溶液が発泡しなくなるまで滴下して未反応のKMnO4を還元した後、その混合溶液が暖かいうちに吸引濾過する。これにより層間化合物として酸化黒鉛が得られる。得られた層間化合物は、例えば、400℃から1000℃の温度範囲で5秒から120秒程度の熱処理をして微小化させる。さらに、超音波破砕などの微細化処理を施すようにしてもよい。
層間化合物は、化合物等のインターカレーションの程度により、黒鉛の層間毎に低分子化合物、金属化合物、イオンなどがインターカレートしたもの(ステージ1)から、一層おきにインターカレートしたもの(ステージ2)、更には、高次数ステージの層間化合物のように種々のステージに分類される。本発明で用いる層間化合物としては、低次数ステージの層間化合物、例えばステージ1またはステージ2の層間化合物が好ましく、ステージ1の層間化合物がより好ましい。これは以降の工程で、微細な膨張化炭素繊維が得られ易いからである。
上記処理後においては、層間化合物に付着している過剰の酸などを洗浄で除去し、さらに乾燥する。洗浄は、水などを用いて行えばよい。原料炭素繊維の層間距離d(002)面は、通常、0.3nm〜0.4nmである。それに対して、層間化合物の層間距離はインターカレートする化合物等によっても異なるが、大凡0.65nm〜1.2nmにまで広がる。よって、層間化合物の生成は、X線回折で層間距離を測定することにより確認することができる。
(B)膨張化炭素繊維の調製工程
層間化合物は、加熱処理を施すことにより膨張化炭素繊維となる。加熱温度は適宜調整すればよいが、通常は200℃以上、2000℃以下とし、より好ましくは500℃以上、1500℃以下。加熱時間は比較的短くてもよく、通常は5秒間以上、5分間以下程度とすればよい。加熱装置は通常用いられるものでよく、例えば電気炉や管状炉などを用いることができる。
この加熱処理により、層間にインターカレートした化合物等が分解されて層間から排出されるが、その際に層間が押し広げられると共に層間結合の一部が破壊されて、層間化合物から膨張化炭素繊維が得られる。この膨張化炭素繊維は、原料炭素繊維に比べて層間距離が広がっており、膨張している。例えばその径は原料炭素繊維の2〜20倍となり、その嵩密度は0.001〜0.01g/cm3と極めて大きくなる。膨張化炭素繊維の生成は、顕微鏡観察や嵩密度測定などにより確認することができる。
上記加熱処理によって、層間化合物における層間距離が大きくなる他、クラックのある部分での断裂が起こり、その長さは原料炭素繊維よりも短くなる。膨張化炭素繊維の直径や長さは実測することができる。例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)により数十〜数百倍に拡大し、任意の視野内に存在する膨張化炭素繊維の直径や長さを測定すればよい。
(C)表面酸化処理工程
以上のとおり原料炭素繊維が酸性溶液中で電気分解され且つ空気中で熱処理されていることから、膨張化炭素繊維には、その表面にカルボキシル基を含めて酸性官能基が導入されている。しかし、膨張化炭素繊維の活性は必ずしも十分でなく、全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を増加させることが望ましい。このようなことから本実施の形態では、更に、表面酸化処理を実施することにより、膨張化炭素繊維の表面の酸性官能基を増加させると共に、全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を増加させるものである。この表面酸化処理により、本実施の形態では、カルボキシル基の全酸性官能基に対する割合を、例えば55%以上とすることができる。そのためには、以下のように、まず膨張化炭素繊維を粉末化することが望ましい。
(粉末化)
好適には膨張化炭素繊維を粉砕する。膨張化炭素繊維の表面積を大きくし、表面に形成されるカルボキシル基の量をより一層増大せしめるためである。
粉砕手段は特に制限されるものではなく、常法を用いることができる。例えば、膨張化炭素繊維を超音波処理することにより粉砕すればよい。超音波処理は、膨張化の程度に応じてその強度と処理時間を調整することにより、得られる膨張化炭素繊維の粒子サイズを容易に制御できることから好適な粉砕手段といえる。一方、ボールミルなどの機械的な粉砕手段は用いないことが好ましい。膨張化炭素繊維の表面には、炭素六角網面の積層端面、いわゆるエッジ面が多く露出している。このエッジ面は非常に反応性に富んでおり、また、特にこのエッジ面に酸性官能基が形成されている場合が多い。よって、膨張化炭素繊維を粉砕するに当たっては、このエッジ面を保存することが重要であるが、ボールミルなどで粉砕するとエッジ面が損なわれるおそれがある。
粉砕の程度は適宜調整すればよいが、直径で数nm〜数十nm、最大長さで10nm以上、2μm以下にすることが好ましい。最大長さが1μm以下であれば、表面積が大きく、表面に存在するカルボキシル基の量も多くなることから、反応性の高い膨張化炭素繊維が得られる。粉砕された膨張化炭素繊維の大きさは、走査型電子顕微鏡写真により実測したり、或いはゼータ電位計などにより測定することができる。
(表面酸化処理)
表面酸化処理することにより膨張化炭素繊維にカルボキシル基を形成する手段は、特に制限されないが、例えば、酸、オゾンまたは過酸化物を用いる手段を適用することができる。このとき、原料炭素繊維から層間化合物または膨張化炭素繊維を得る際に、熱処理過程を経ていることから、表面には様々な酸性官能基が形成されており、表面酸化処理により容易にカルボキシル基を増加させることができる。また、上述したとおり膨張化炭素繊維の表面にはエッジ面が存在し、その部分の活性は高くなっている。そのため、表面酸化処理により酸性官能基が形成され易く、延いてはカルボキシル基が形成され易い。
ここに、酸性官能基とは、酸素元素を含む官能基をいい、例えば水酸基(―OH)、アルデヒド基(―CHO)、ケト基(―C(=O)―)、エーテル基(―O―)、カルボキシル基を挙げることができる。
酸を用いて膨張化炭素繊維を表面酸化処理する場合には、酸または酸水溶液に膨張化炭素繊維を浸漬した上で加熱すればよい。使用できる酸としては、硝酸、硫酸などの無機酸や、蟻酸などの有機酸を挙げることができる。加熱温度は適宜調整すればよいが、例えば60℃以上、200℃以下とする。処理時間も適宜調整すればよく、具体的にはFT−IRを用いて表面の酸性官能基の特定やその定量を行ったり、膨張化炭素繊維上の酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を測定し、カルボキシル基が十分量形成される時間とすればよい。通常は2時間以上、24時間以下程度とする。
オゾンを用いる場合には、オゾンガスに膨張化炭素繊維を曝せばよい。使用するオゾンガスにおけるオゾンの濃度は、例えば5容量%以上、100容量%以下とする。処理時間は適宜調整すればよく、具体的には予備実験などにより決定すればよいが、通常は数分以上、5時間以下とする。
過酸化物を用いる場合には、過酸化物を溶媒に溶解し、当該溶液に膨張化炭素繊維を浸漬すればよい。更に、当該浸漬液を加熱してもよい。過酸化物としては、過酸化水素や発煙硝酸を挙げることができる。溶媒としては、水などを用いることができる。加熱温度は適宜調整すればよいが、例えば20℃以上、50℃以下とする。処理時間も適宜設定することにより、表面官能基の量を変えることができる。表面官能基の存在は具体的にはFT−IRを用いて確認する。その内のカルボキシル基の量を測定し、膨張化炭素繊維または全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を測定し、カルボキシル基が十分量形成される時間とすればよいが、通常は30分間以上、5時間以下とする。酸または過酸化物を用いて表面酸化処理を行う場合には、処理後に膨張化炭素繊維を洗浄することが好ましい。例えば、処理後に十分量の水で繰り返し洗浄した後に、乾燥すればよい。
膨張化炭素繊維の表面への官能基の導入は、上記の方法以外でも可能であり、例えば酸性電解質中での電気化学的処理によっても行うことができる。膨張化炭素繊維を白金板と白金メッシュ中に挟み込み、それを陽極として酸性電解質中、例えば、無機酸であれば、硝酸,硫酸,酢酸,リン酸、有機酸であれば、蟻酸等に固定し、定電流あるいは定電圧条件下、電流密度0.1A/g〜30A/gの範囲で電気分解を行うことによって膨張化炭素繊維の表面に酸性官能基を導入することができる。
(表面酸化処理された膨張化炭素繊維)
上述した表面酸化処理によって、膨張化炭素繊維の表面、特にエッジ面には、新たに酸性官能基が形成され、また、カルボキシル基以外の酸性官能基が酸化されてカルボキシル基が生成する。
膨張化炭素繊維が優れた光誘起電荷分離効果を発揮するには、表面に存在するカルボキシル基の量が非常に重要である。特に、全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合が多い、例えば30%以上、好ましくは55%以上である膨張化炭素繊維は、非常に優れた光誘起電荷分離効果を示す。
なお、カルボキシル基以外の酸性官能基が活性に関与している可能性もあるが、後述の実施例に示したように、少なくとも活性とカルボキシル基との関係は確認されており、且つ表面酸化処理された膨張化炭素繊維の表面に存在する全酸性官能基に占めるカルボキシル基の割合が多いので、本発明では全酸性官能基におけるカルボキシル基の割合を基準とする。
(光誘起電荷分離)
色素増感型酸化チタン(TiO2)太陽電池では,担持されている増感材(色素)による可視光の吸収に引き続いてTiO2の伝導帯へ電子が移動する。その電子を電極へと引き渡し、色素に残ったホール(正孔)は、電解質溶液内のイオンを酸化し、電極から対極に回った電子は、ホール(正孔)にて酸化されたイオンを再び還元して両電極間を電子がサイクルすることによって電池となる。
これに対して、本実施の形態のカルボキシル基を含む膨張化炭素繊維では、光が照射されると、炭素自身から電子を放出する(光誘起電荷分離)。すなわちこの膨張化炭素繊維では色素無しで光誘起電荷分離効果を発揮するものであり、太陽電池の光電変換層として好適に用いることができる。
(太陽電池)
表面酸化処理された膨張化炭素繊維から太陽電池の光電変換層を形成する方法としては、常法を用いることができる。例えば、表面酸化処理された膨張化炭素繊維を2枚の透明電極で挟み、これら透明電極間に電解質溶液を流し込み、電解質溶液が漏出しないように封止すればよい。
透明電極は、95%酸化インジウムと5%酸化スズからなる化合物(ITO)をガラス板に薄く蒸着することにより作製できる。その他、導電性PETフィルムを用いることも可能である。
電解質溶液中の支持電解質としては、一般的に、リチウムイオンなどの陽イオンや塩化物イオンなどの陰イオンなど、種々の電解質を用いることができる。電解質溶液中には酸化還元対を添加する。酸化還元対としては、ヨウ素−ヨウ素化合物や臭素−臭素化合物などを用いることができる。電解質溶液の溶媒としては、例えばアセトニトリル(20容量%)とエチレンカーボネート(80容量%)との混合溶液が挙げることができる。
以上、本実施の形態の膨張化炭素繊維は、黒色であることから実質的に全ての太陽光を吸収することができると共に、所定の割合のカルボキシル基を含むことから、光照射により優れた光誘起電荷分離を起こす。よって、従来の太陽電池では光の利用効率や発電効率が十分でないことが課題であったが、この膨張化炭素繊維を光電変換層の材料として含む太陽電池では、光の利用効率および発電効率を著しく向上させることが可能になる。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
[実施例]
(1)層間化合物の導入
300mL容のビーカーに、電極として白金板(長さ50mm×幅10mm×厚さ0.2mm)を備え付け、陽極側の白金板の下端に、5cmの長さに切り揃えたピッチ系炭素繊維(日本グラファイトファイバー社製,製品名「YS−95」,繊維径:5μm)をテフロン(登録商標)テープで固定した。参照電極として、陽極の横に銀/塩化銀電極を取り付けた。炭素繊維が十分に浸漬されるように、電解質として13mol/dm3硝酸(100mL)を加え、炭素繊維への付与電荷量が3600Cになるまで0.5Aの定電流を通電した。当該炭素繊維を十分量の水で繰り返し水洗した後、24時間風乾した。得られた炭素繊維につきX線回折測定したところ、電気化学的処理前における層間距離が0.35nmであるのに対して、電気化学的処理後の層間距離が0.8nmであることから、層間化合物が得られていることを確認することができた。
また、得られた層間化合物を透過電子顕微鏡(TEM)を使って撮影した。図1はその写真を表したものである。図1のとおり、層間化合物はグラファイトの積層体からなり、各層の間が拡大していることが分かる。
(2)膨張化炭素繊維の調製
次に、上記炭素繊維を電気炉内に挿入し、空気中において、1000℃で5秒間の加熱処理を施すことにより、膨張化炭素繊維を得た。得られた膨張化炭素繊維を走査電子顕微鏡(SEM)により観察したところ、熱処理前の炭素繊維に比べて、層間が約10倍、繊維径が約60倍以上に膨張していた(以上、実施例1)。
(3)表面官能基の導入
(粉末化)
超音波粉砕機により上記膨張化炭素繊維を粉砕した。粉砕した膨張化炭素繊維をSEMにより観察したところ、その径は数10〜800nm程度、長さは50nm〜5μm程度であった。
(化学的酸化処理)
上記のように酸性溶液中で電気分解され、かつ空気中で熱処理されていることから,膨張化された炭素繊維上には表面官能基が付与されているが、更に、この表面官能基を増加させるために、粉砕した膨張化炭素繊維(0.5g)を13mol/dm3硝酸(150mL)に添加し分散させた。次いで、当該混合物を80℃の温度で12時間攪拌することにより、膨張化炭素繊維の表面を酸化処理した。表面酸化処理した膨張化炭素繊維を濾別した後、洗浄液のpHが7になるまで超純水で十分に洗浄した。洗浄後、当該膨張化炭素繊維を120℃で5時間乾燥させた(実施例2)。
また、上記処理前と、酸化処理開始から3,6および12時間後に試料を取り出し、十分に洗浄および乾燥してからFT−IRで分析することにより表面に存在する酸性官能基の割合を測定した。
次に、表面酸化処理の他の例として、気相中での処理、加熱処理および電気化学的処理を行った。
(気相中での処理)
オゾンによる表面酸化処理においては、オゾン発生器を用いて3〜5L/分程度の流量にて、膨張化炭素繊維をそれぞれ2.3分および26分間曝露した(実施例3,4)。
(加熱処理)
加熱処理としては、膨張化炭素繊維を電気炉に挿入し、空気中において、それぞれ800℃で20秒間、600℃で25秒間の加熱処理をした(実施例5,6)。
(電気化学的処理)
電気化学的処理としては、膨張化炭素繊維を白金板と白金メッシュ中に挟み込み、これを陽極として13molの硝酸水溶液中、1または5A/gの定電流条件下で電気分解を行った(実施例7)。
表1は、処理前の膨張化炭素繊維(実施例1)、上記各処理後の膨張化炭素繊維(実施例2〜7)における全酸性官能基量、カルボキシル基量、および全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合(カルボキシル基/全酸性官能基)をそれぞれ表したものである。その結果、処理前の膨張化炭素繊維(実施例1)においてもカルボキシル基は存在しているものの、オゾン処理、熱処理酸化、化学的処理および電気化学的処理により、表面の全酸性官能基量およびカルボキシル基量が増加していることが認められた。加えて、全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合は、表面酸化処理により著しく増加していることが明らかとなった。いずれの処理によっても、酸性官能基、特にカルボキシル基が増加しているが、中でもオゾン処理(実施例3,4)および化学的処理(実施例2)の効果が顕著であることが明らかとなった。
Figure 0004876288
図2は処理前(実施例1)および反応開始から12時間後(実施例2)におけるIRスペクトル、図3は各表面官能基の経時的変化をそれぞれ表したものである。図2において横軸は波数、縦軸は吸光度をそれぞれ示し、実線は反応開始から12時間後(実施例2)におけるIRスペクトルA、破線は処理前(実施例1)のスペクトルBを表している。
図2および図3に示した結果から、表面酸化処理時間の経過に従って、膨張化炭素繊維の表面に存在するカルボキシル基の割合が増加することが明らかになった。
図4は、上記オゾン処理を施した膨張化炭素繊維上の表面官能基を、FT−IRを用いて分析した結果を表したものである。ここに、実線はオゾン処理を2.3分行った場合(実施例3)のIRスペクトルA1および26分行った場合(実施例4)のIRスペクトルA2,破線はオゾン処理がなされていない場合(実施例1)のIRスペクトルBを表している。
オゾン処理時間を2.3分から26分と長くすることにより、ケト基(―C(=O)―)、カルボキシル基(―COOH)、水酸基(―OH)に由来するピークが確認された。これによりオゾン処理によってカルボキシル基を含む酸性官能基が十分に付与されたことが明らかとなった。
次に、上記実施例についての光誘起電荷分離の確認のために以下の試験を行った。
[試験例](光誘起電荷分離の確認)
3.5mL容のガラス栓付き石英ガラスセル(10mm×10mm×45mm)の内部を窒素ガスで置換した後、上記実施例1,2,4〜7で調製した膨張化炭素繊維(0.5mg)を加えた。別途、アクセプター色素であるメチルビオロゲンとドナーである1−ベンジル−1,4−ジヒドロニコチンアミドを蒸留水に溶解して、各濃度が0.5×10-3mol/dm3および3.0×10-3mol/dm3である水溶液を調製した。当該水溶液へ窒素ガスを30分間吹き込んで、空気を除去した。窒素で置換したグローブパッグ内で当該水溶液を上記石英ガラスセルに入れ、ガラス栓をしてからパラフィルムでシールし、蛍光退色試験機に移した。
また、実施例3については、上記水溶液の調整条件を用いて実施例3の水溶液を調整し、以下の実験を行った。この水溶液を攪拌しつつ、波長400〜470nmの範囲の光強度が170μW/cm2である美術・博物館用蛍光ランプを光源として用い、UVカットフィルムで紫外光をカットした上で上記水溶液に可視光を照射した。図5(A)〜(E)は、この水溶液の可視光照射前、可視光照射開始から4分後、同7分後、同11分後および可視光照射停止直後のそれぞれの写真を表したものである。
可視光照射前(図5(A))には炭素繊維に由来する黒色が認められるが、可視光照射後には光照射に伴って明らかな色の変化が表れている(図5(A)〜(D))。これは、表面酸化処理された膨張化炭素繊維への光照射により光誘起電荷分離が生じ、アクセプター色素であるメチルビオロゲンが還元されて水に対する溶解度が減ぜられて炭素繊維に吸着すると共に、当該色素自体の色も変化したことによるものと考えられる。光の照射を停止すると、溶液の色は元に戻る(図5(E))。
その他のサンプルについても同様の傾向がみられた。
図6は、上記実施例1,2,4〜7での各膨張化炭素繊維の、光誘起電荷分離に伴う吸光特性の変化を表したものである。
実施例1では1000℃で5秒間の膨張熱処理により、1gあたり0.3mmolの酸性官能基が付与され、実施例6では600℃25秒の熱処理では、1gあたり1.0mmolの酸性官能基が付与された。実施例4では膨張化炭素繊維を26分間のオゾン雰囲気に曝すことにより1gあたり1.24mmolの酸性官能基が付与された。このとき、代表的な酸性官能基の量は、オゾン処理で1gあたりそれぞれ0.9mmol、600℃の熱処理で0.7mmolのカルボキシル基が付与された。図からも明らかなよう、酸性官能基の量が多くなるに従って吸収が大きくなり、特に26分間オゾン処理された実施例4では、最大の吸収特性を示した。この結果からも膨張化炭素繊維の光誘起電荷分離には、離酸性官能基,特に、カルボキシル基が寄与していることが明らかとなった。
以上、表面酸化処理によりカルボキシル基の割合を増加させることによって、膨張化炭素繊維への光照射による光誘起電荷分離がより多く発生することが実証された。この光誘起電荷分離により生じた電子を取り出せば、電源としての利用が可能となる。すなわち本実施例の膨張化炭素繊維は、太陽電池の光電変換層材料として有用であることが明らかにされた。
なお、上記実施の形態で説明したカルボキシル基の全酸性官能基に対する割合は、以上の実施例の結果から導き出された適正範囲を示したものであるが、本発明はその割合が上記範囲外となる可能性を完全に否定するものではない。すなわち、上記範囲はあくまで本発明の効果を得る上で好ましい範囲であり、本発明の効果、すなわち光誘起電荷分離効果が得られるのであれば、カルボキシル基の全酸性官能基に対する割合が上記範囲から多少外れてもよい。

Claims (8)

  1. 表面に、酸性官能基を含む共に、全酸性官能基に対する割合が55%以上83%以下のカルボキシル基を含み、光照射により光誘起電荷分離効果を示すことを特徴とする膨張化炭素繊維。
  2. 直径が5nm〜1μm及び/又は長さが10nm〜2μmである、請求項1に記載の膨張化炭素繊維。
  3. 原料炭素繊維から層間化合物を調製する工程と、
    前記層間化合物を加熱処理することにより、膨張化炭素繊維を調製する工程と、
    前記膨張化炭素繊維の表面酸化処理を行うことにより、前記膨張化炭素繊維の表面の全酸性官能基に対するカルボキシル基の割合を増加させる工程とを含むことを特徴とする膨張化炭素繊維の製造方法。
  4. 前記カルボキシル基の全酸性官能基に対する割合が55%以上83%以下の範囲である請求項3に記載の膨張化炭素繊維の製造方法。
  5. 前記原料炭素繊維としてピッチ系炭素繊維、気相成長炭素繊維およびPAN系炭素繊維の少なくとも1種を用いる、請求項3に記載の膨張化炭素繊維の製造方法。
  6. 膨張化炭素繊維の表面にカルボキシル基を形成させるための試薬として、酸、オゾンおよび過酸化物のうちの少なくとも1種を用いる、請求項3に記載の膨張化炭素繊維の製造方法。
  7. 前記膨張化炭素繊維への酸化処理として、電気化学的酸化処理、化学的酸化処理およびオゾン酸化処理のうちの少なくとも1つの処理を行う、請求項3に記載の膨張化炭素繊維の製造方法。
  8. 光電変換層を有し、前記光電変換層の材料として請求項1から請求項2のうちいずれか1つに記載の膨張化炭素繊維を含むことを特徴とする太陽電池。
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