以下では、本発明の実施の形態について図を参照しつつ説明する。
本実施形態はまず、ある画像を構成する画素について、ベクトル値又はスカラー値た画素値を構成し、前記画素値及び該画素値とは別に構成された他の画素値間の適合度を定量化し、前記画素についての新たな画素値を、前記他の画素値を利用して構成するに際し、前記適合度が大きい場合には、当該他の画素の寄与を大きくし、前記適合度が小さい場合には、当該他の画素の寄与を小さくして、当該新たな画素値を構成することを特徴とする画像処理方法である。また、本発明は、前記「別に構成された他の画素値」が、前記画像を構成する他の画素に基づき構成されてよい。すなわちこの場合、画素値は、一の画素及び他の画素につき、それぞれ、ベクトル値又はスカラー値たる「一の画素値」及び「他の画素値」として構成されることになる。さらに、本発明は特に、前記適合度の関数である重み関数を、前記他の画素値のそれぞれについて求められた前記適合度に作用させて当該他の画素値のそれぞれの重みを決定し、次にこの重みを用いた当該他の画素値の重み付き平均を算出することによって、前記新たな画素値を構成するときには、前記適合度が大きい場合には前記重みを大きくすることで、前記他の画素値の前記重み付き平均における寄与を大きくし、前記適合度が小さい場合には前記重みを小さくすることで、前記他の画素値の前記重み付き平均における寄与を小さくして、当該新たな画素値を構成するものでもある。このような処理によれば、一の画素と「類似である」と判定される他の画素が重視されて、新たな画素値が構成されることになるから、従来のように、空間分解能を損なうようなことや、あるいは前記画像が動画像である場合には、時間分解能を損なうようなことがない。(重み関数及び重み)本発明では、前記重み関数を、前記適合度に関する非負の単調増加関数とすると好ましい。また、前記一の画素及び前記他の画素をそれぞれx及びy、前記一の画素値及び前記他の画素値をそれぞれv(x)=(v
1(x),v
2(x),…,v
K(x))及びv(y)=(v
1(y),v
2(y),…,v
K(y))とするとともに、構成すべき前記新たな画素値をv′(x)=(v′
1(x),v′
2(x),…,v′
K(x))とすれば、前記重み付け平均をとる処理が、
(ただし、N(x)は前記他の画素が含まれる範囲を表す。)
と表される形態とすると好ましい(以下では、新たな画素値v′(x)を求める上式右辺等のような形式を、「本実施形態に係るコヒーレント・フィルタ」と称す。)。
(本実施形態の適用可能な画像処理技術の例)
本発明は、上記したような処理、すなわち前記新たな画素値を、例えば前記画像の全面に関して構成することにより、前記画像のノイズを低減すること、あるいはまた、前記画像におけるパターン認識を実施すること等の各種応用が可能であり、後述するようにこれら画像処理技術の各要素において、本発明は優れた効果を発揮する。
(適合度)
本実施形態においては、前記適合度が、前記一の画素値及び前記他の画素値をそれぞれ構成するスカラー値に対し、統計的検定法を適用した結果求められる危険率に基づいて定量化し得るようにしてもよい。なお、ここにいう「統計的検定法」とは、後述するように例えば、「χ二乗検定法」等を考えることができる。また一般に、ここで導入された危険率と前記適合度との関係は、特に、一方が増えれば他方が減るという場合を含む。すなわち、前記新たな画素値を構成する際に、危険率が大きく(適合度が小さく)なれば、前記他の画素に対する重みが小さくなり(構成すべき新たな画素値に対する寄与が小さくなり)、危険率が小さく(適合度が大きく)なれば、前記他の画素に対する重みが大きくなる(構成すべき新たな画素値に対する寄与が大きくなる)、という場合である。
(「他の画素」の選択範囲)
また、本実施形態は、前記他の画素が、前記一の画素の周囲における所定の領域から選択され、特に、前記所定の領域が、前記一の画素を中心とした近傍であるようにしてもよい。このように構成すると、一の画素に類似であると判定される他の画素は、通常、当該一の画素の周囲に存在する可能性が高いことにより、上記のような領域の選択を行うと、新たな画素値を有効に求めるに際し、無駄な演算を省くことが可能となる。
(画素値の構成法)
本実施形態では、前記画素値(一の画素値及び他の画素値の双方を指す。)の構成法を種々選択することが可能であり、より具体的に第一には、前記画像が複数枚の画像である場合には、前記画素値は、前記複数枚の画像の各々を通じた同一点の画素が有するスカラー値を並べたベクトル値とすることが可能である。
このとき、前記複数枚の画像は、動画を構成する複数枚の静止画像であってもよく、そのような場合において本発明は、前記新たな画素値を求める際に、空間分解能を損なわないばかりでなく、時間分解能をも損なわない。なお、このような場合における好適な適用例は、例えば、前記動画が、医用画像診断装置により取得されたダイナミックCT像である場合等である。
また、画素値の構成法の第二には、前記画像が、同一被写体に関する複数種類の画像であって、上述と同様に、当該複数種類の画像の各々を通じた同一点の画素が有するスカラー値を並べたベクトル値とすることが可能である。なお、このような場合における好適な適用例は、例えば、前記画像がSPECT装置又はPET装置におけるマルチウインドウ撮影法により取得された画像であり、前記複数種類の画像とは、異なる放射性同位体からそれぞれ発せられたガンマ線に基づいた、それぞれ異なる画像である場合等である。また、別の好適な適用例は、例えば前記画像がカラー画像であり、前記複数種類の画像とは、光の三原色にそれぞれ分解して取得された、それぞれ異なる画像である場合等である。
さらに、画素値の構成法の第三には、前記画像は一枚の画像であり、当該画素値を、その一枚の画像から構成することも可能である。より具体的には例えば、当該画素値を、前記一枚の画像上のある画素が有するスカラー値と該画素の近傍に在る画素が有するスカラー値を並べたベクトル値として構成することが可能である。なお、このような画素値の構成法によれば、あらゆるデジタル画像に対し、本発明を適用することが可能である。
(本実施形態の画像処理を実現する好適な装置構成)
最後に、上記した画像処理方法を実現する装置構成としては、ある画像を構成する画素につき、ベクトル値又はスカラー値として構成された画素値及び別に構成された他の画素値との間の適合度を判定する適合度定量化手段と、前記画素についての新たな画素値を、前記他の画素値を利用して構成するに際し、前記適合度が大きい場合には、当該他の画素の寄与を大きくし、前記適合度が小さい場合には、当該他の画素の寄与を小さくして、当該新たな画素値を構成する画素値演算手段と、を有するものとすることが好ましい。
以下詳細に説明する。以下ではまず、本発明に係る「コヒーレント・フィルタ」の概要に関する、より一般的な説明(項目番号“I”。以下同様。)をし、その後、該コヒーレント・フィルタを各種画像処理に適用した例(項目番号“II”及び“III”〜“VIII”)について順次説明することとする。
また、そのような各種適用例の説明に続いてさらに、本実施形態におけるコヒーレント・フィルタの最も一般的な形態及びその応用例(項目番号“IX”)について説明し、最後に、本実施形態の補足事項(項目番号“X”)についてまとめて説明することとする。
( I 本発明に係るコヒーレント・フィルタの一般的説明 )
まず、本発明に係る「コヒーレント・フィルタ」を説明するための、準備的な説明を行う。
( I−1 画素値v(x) )
一般に、カメラ等の撮像手段を介して取得されたデジタル画像は、複数の画素(pixel)から構成されている(あるいは、当該画像をそのような画素の集合として考えることができる。)。以下の説明では、当該画素の位置をベクトルx(すなわち座標値のベクトル)として表し、画素xが有する値(例えば濃淡を表わす数値)をK次元ベクトルとして表す。2次元画像の場合、画素xとは画像上における位置を表す座標値(x、y)を示す2次元ベクトルである。ある画素xについて定義される「画素値v(x)」を、
と表記する。なお、この(3)式の右辺における、v1(x),v2(x),…,vK(x)それぞれを、以下では、画素xについての「スカラー値」と呼ぶことにする。
例えば、画像が「カラー画像」であるとき、各画素が、それぞれ三原色(赤,緑,青)の明るさ(スカラー値)を有することから、これら各画素の画素値v(x)は、その次元がK=3のベクトルであると考えることができる(上記(3)式の右辺各項で、その添え字が例えば「赤」,「緑」及び「青」である場合を想定されたい。後述の(3.1)式参照。)。また例えば、画像がK枚の静止画像から構成される動画像であって、第n番目の画像の各画素はスカラー値vn(x)を持つという場合には、K枚の静止画像上、共通の同一点(同一座標)の画素xの持つ画素値(スカラー値)を並べて構成される、K次元ベクトル値vn(x)=(v1(x),v2(x),…,vK(x))が以下で述べるベクトル値としての画素値である。
( I−2 適合度ないし危険率p(x,y)と重みw(p(x,y)) )
上記画素xに対して、適当な画素の集合N(x)を考える(この集合N(x)は画素xを含んでよい。)。次に、N(x)の要素であるそれぞれの画素yと、前記画素xとの間で、重みw(p(x,y))を考える。この重みw(p(x,y))は、次に記す性質を有する。
( I−2−1 適合度、ないし危険率p(x,y) )
まず、w(p(x,y))の値を左右する関数p(x,y)の意味について述べる。このp(x,y)は、本発明にいう「適合度」を定量化する手段であり、一般的にいえば、画素xと画素y∈N(x)とが、何らかの意味でどの程度類似しているか(例えば、両画素x及びyの上記画素値v(x)及びv(y)間に認められる統計的差異の程度)、を示す具体的数値を与える。
より具体的には例えば、p(x,y)が小さな値を与えるときには、画素xと画素yとが、その画素値v(x)及びv(y)間に「統計的に有意な差がなく(=適合度が大きく)」、類似である可能性が高いと判断され、p(x,y)が大きな値を与えるときには、「統計的に有意な差があり(=適合度が小さい)」、の如く判断されるということである。
ところで、画素値v(x)及びv(y)(ないしスカラー値v1(x),…,vK(x)及びv1(y),…,vK(y))には、必ずノイズが含まれていると考えなければならない。例えば、画像がCCD撮像素子により取得された場合を考えると、それを構成する各画素については、素子内の暗電流や外界から入射する光量の不規則変動に起因するノイズ等が存在する。
このようなノイズは、一般に、全画素についてまちまちな値をとるため、画素xと画素yとが、仮に(外界における)同一物体を反映したものである場合であっても、実際に観測される画像上では、同一の値を持たないことがある。このことを逆にいえば、いずれも同一物体を反映した画素xと画素yにおいて、それぞれのノイズを除去した状況を仮に想定すれば、これらは該同一物体を表象するものとして画像上に表示され(=そのように認識され)るし、また、両者は本来同一の(あるいはごく近い)画素値を有する。
そこで、上述したノイズの性質を踏まえ、上記のp(x,y)に関し、統計的検定法でよく知られている「帰無仮説」の概念を用いると、このp(x,y)については、具体的に次のように言うことができる。すなわち、帰無仮説H「画素xと画素yとはそれぞれのノイズを除去した場合に同一の画素値を有する」言いかえれば「v(x)=v(y)。ただし、両画素のノイズに起因する差異を除く」を立てる(つまり、このような命題が成立する場合、「両画素x及びyが類似である(=適合度が大きい)」と考える。)と、関数p(x,y)は、この仮説Hを棄却する場合の危険率(あるいは、有意水準)であるということができる(この場合、p(x,y)は、その値域が[0,1]であるような関数として定義される(p(x,y)∈[0,1])。)。
したがって、危険率p(x,y)が大きい場合、すなわち棄却が誤りである危険性が大きい場合には上記仮説Hを満たす可能性が高いといえ、逆に小さい場合、すなわち棄却が誤りである危険性が小さい場合には仮説Hを満たさない可能性が高いということができる(なお、統計的検定における周知事項ではあるが、仮説Hが「棄却」されないといっても、それが「真」であることを意味するわけではない。この場合、仮説Hが示す命題が、否定し得ないことを意味するに過ぎない。)。
( I−2−2 重みw(p(x,y)) )
さて、重みw(p(x,y))は、その表され方から明らかな通り、上記したような危険率p(x,y)の関数(より一般には、適合度の関数(適合度をρ(x,y)とすれば、w(ρ(x,y))となるように構成できる)であり、また、この重みw(p(x,y))を求めるため、x及びyの組み合わせそれぞれについて求められた危険率p(x,y)に作用させる重み関数wは、一般的にいうと、上記「棄却」を具現化する作用を有するものである。具体的には、危険率p(x,y)が大きい場合には重み関数wの値、すなわち重みw(p(x,y))が大きな正の値をとり、その逆の場合には小さな正の値(又は“0”)をとる、等というように調整されている(重み関数wの具体的形式については後述する。)。つまり、重みw(p(x,y))は、画素xと画素yとが、上記仮説Hに示される命題を満たすらしい場合には、大きい値をとり、その逆の場合には小さい値をとる。一例として特に、wのとりうる値が”0”かまたは”0”でない一定値の2通りしかないように構成してもよい。
なお、以上までに述べた仮説H、危険率p(x,y)、重みw(p(x,y))間の関係を、図1にまとめて示しておく。また、重み関数w(t)は、より一般に、「t∈[0,1]で定義される非負の単調増加関数」ということができ、また、該w(t)の満たすべき性質は、少なくともそのようであればよい。
( I−3 コヒーレント・フィルタ )
以上までの準備的説明により、本発明に係る「コヒーレント・フィルタ」は次のように導かれる。すなわちまず、画像を構成するある画素xに対し、集合N(x)の要素たる画素yのすべてについて上記した重みw(p(x,y))を計算する。次に、これら複数の重みw(p(x,y))を用いて、当該画素xを構成する新たなスカラー値v′
k(x)を、以下の式で計算する。すなわち、
ただし、k=1,2,…,Kである。そして、この式で求められたv′
k(x)を用いて、当該画素xの変換後の画素値(新たな画素値)v′(x)を、
として構成する。
ここに、上記(4)式で表される、画素値v(y)=(v1(y),v2(y),…,vK(y))(y=xである場合を含む。)を、v′(x)=(v′1(x),v′2(x),…,v′K(x))に変換するフィルタが、本発明に係る「コヒーレント・フィルタ」の、本実施形態における形式である。これはその表式から明らかな通り、画素値を構成するスカラー値vk(y)の重み付け平均値を表している。
このような処理は、以下のような結果をもたらす。すなわち、画素値v′(x)は、画素xとノイズを除いて同一の画素値をとることが確からしい(=上記仮説Hの命題を満たす可能性が高い)画素yを重視した重み付け平均値v′k(x)から構成されたベクトルを表すこととなる。また、このような画素yが十分な数存在するならば、画素値v′(x)は、画素xが本来有すべきその真値から外れることなく、上記したような平均化の作用によりノイズのみを抑制した値を有することとなる。
なお、危険率p(x,y)が小さく、したがって、帰無仮説Hが「棄却」され、重みw(p(x,y))が小さくなるような場合であっても、上記記述又は(3)式の表式からもわかる通り、必ずしもこれを完全に「棄却」するとは限らない。このようなことは、後述する重み関数wの具体的形式に依存するところであるが、危険率p(x,y)が“0”(=0%)に近いような場合でも、w(p(x,y))≠0(ただし、p(x,y)が“1”に近い場合に比べて、より小さな正の値ではある。)としてよい(なお、p(x,y)=1である場合とは、後述するように、v(x)=v(y)のときである。)。すなわち、完全な棄却ということではなく、小さな寄与は認めてよいということである(なおこのような場合に、w(p(x,y))=0とするのであれば、完全な棄却を行うのと同義である。後述の(14)式参照)。
このような処理は、一般的に次のように言える。すなわち、ある画像を構成する(複数の)画素xが存在するとき、この画素xとある任意の画素y(上記ではy∈N(x)とされた。)との適合度を定量化し(上記では、p(x,y)に基づいていた。)、該適合度が大きい場合には、画素値v(y)を利用した重み付き平均化処理において、当該画素yについて大きな寄与を認め、適合度が小さい場合には小さな寄与しか認めないようにすることで、当該画素xのノイズを有効に抑制する画像処理方法である、といえる。いわば、画素xと画素yとが「似たもの同士」のときには、該画素yを前記平均化処理に、より貢献させ、「似ていないもの同士」のときには、該画素yを殆ど又は全く無視する、と言い換えてもよい。
このような処理を画像全体に施すことにより、画像のぼけを殆ど生じることなく極めて高いノイズ抑制効果を発揮することができる。また、ノイズ抑制という用途に限定せず、例えばパターン認識の分野においても、重み関数、あるいはコヒーレント・フィルタを好適な具体的形式にすることによって、優れた効果を発揮することができる。なお、これらの効果が具体的にどのようなものであるかについては、以下各種画像処理に関する説明中において述べる。
( II 様々な適用例;画素値v(x)の構成法の差異による分類 )
さて、本発明は、上記したコヒーレント・フィルタの一般的形態に基づき、様々な分野への適用が可能である。そして、これは例えば、図2に示すようにまとめることができる。なお、図2では、様々な分野における各種適用例を、画素値v(x)の構成法の差異に応じて分類したものを示している。すなわちこの図2によれば、上記したベクトル値たる画素値v(x)が、「複数の画像から」、(例えば一度の撮影等により得られる)「複数種類の画像から」、又は「1枚の画像から」の、それぞれの方式により構成することが可能であることがわかり、本実施形態に関する各種適用例が、これらそれぞれに分類されることがわかる。
以下では、この図2に示す分類表に沿って、上記のような一般的形態となるコヒーレント・フィルタを、より具体的な場面で適用した各種適用例について、また、当該図2に示す3種の画素値v(x)構成法が、具体的にどのように実現されるかについて、順次説明していく(ただし、図2に示す順とは異なる)。
( III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する))
まず、上記コヒーレント・フィルタを、X線CT装置における、いわゆる「ダイナミックCT(dynamic CT)」撮影に適用した場合について説明する。ここに、X線CT装置100とは、図3に示すように、X線管101及びX線検出器102、データ収集部103(DAS;Data Aquisition System)、前処理部104、メモリ部105、再構成部106及び画像表示部107、並びにこれら各部を制御する制御部108及びX線照射条件、撮影モード等その他各種の設定・入力が可能な入力部109等からなる。
このX線CT装置100によれば、X線管101及びX線検出器102を被検体P周囲で回転させながらX線を被検体Pに曝射することにより、当該被検体Pの内部の様子を例えば断層像等その他のCT画像として観察することができる。
この際、上記各構成要素は概略次のように作用する。すなわち、高電圧装置101aの電圧印加によってX線管101より発せられ被検体Pを透過したX線は、X線検出器102によりアナログ電気信号に変換され、以下、データ収集部103によるデジタル変換処理、前処理部104による各種補正処理等を受け、投影データとしてメモリ部105に蓄えられる。そして、前記X線管101及びX線検出器102が、被検体P周囲を例えば1周(=360°)した結果得られる投影データに基づいて、前記再構成部106による断層像等その他のCT画像の再構成を行い、画像表示部107は当該CT画像を表示する。なお、再構成されたCT画像は、記憶装置10Mに記憶させることも可能である。
ここで上記した「ダイナミックCT」撮影とは、上記X線管101及びX線検出器102が被検体Pの同一部位を反復撮影(反復スキャン。連続回転型CT装置では、連続回転による反復撮影がしばしば行われる。)して次々に投影データを取得するとともに、該投影データに基づいて次々に再構成処理を行って時系列的な一連の画像を得る撮影方式のことをいう(この場合、画像表示部107における画像表示は、例えば図示しないカウンタ等によって、その画像の元となった投影データ収集に係るスキャン開始点又は終点から一定時間後に行われるように制御される。)。
したがって、このように取得・表示される画像は、映画等と同様に時系列的な複数枚の静止画像からなる、いわゆる動画像となる。なお、このような撮影方式は、典型的には、被検体Pに対し造影剤を注入し、その経時変化を観察・解析して、例えば血管における狭窄や閉塞等その他病変部の病態を分析するために用いられる。また、造影剤投与の前後2回だけに限り同一部位のCT撮影を行う方式も、広義のダイナミックCT撮影と考えることができる。
さて、従来においては、上記のような「ダイナミックCT」撮影時、例えばK回の撮影を実施する間に被検体Pに何らかの変化(例えば、造影剤の濃度変化や呼吸動等が一般的に考えられる。)があった場合、空間解像度を損なわず画像ノイズを抑制するためには、時間方向の平滑化を行うほかなかった。その結果、時間分解能が損なわれるという弊害は避け得なかった。
ところが、ダイナミックCT撮影により取得される画像は、上述したように、動画像であって時間的変化を仔細に観察する目的で行うものであるから、その時間分解能が損なわれるというのは、本来、好ましい状況とは言えない。
本発明に係るコヒーレント・フィルタを利用すれば、時間分解能を損ねず、K枚の静止画像のすべて(複数枚の画像)につきそのノイズを抑制することが可能な、次のような処理(以後「ダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理」と呼ぶ。)を実施することができる。
まず、上記のようにして得られた動画像たるK枚の静止画像につき定義される画素xについては、既に述べたように、画素値v(x)として、
を構成することができる。ここで右辺各項における添え字1,2,…,Kは、K枚の各静止画像の各々を通して振られた番号である(上述(3)式に関する説明参照)。
次に、この場合における重み関数w1の具体的形式を、例えば次の式により与える。
ただし、y∈N(x)であって、かつ、この集合N(x)は、画素xにつき任意に設定してよい(=どのような基準によって設定してもよい。)。しかし実際上は、画素xと該画素xから遠く離れた位置にある画素yとが仮説「v(x)=v(y)。ただし、両画素のノイズに起因する差異を除く」を満たす可能性は一般に低いといえるから、集合N(x)をxに近接している画素の集合という基準で限定することは、演算速度向上等の実用的な意義がある。
したがってここでは、その一例として、集合N(x)を、当該画素xを中心としたその周囲の矩形状エリアに含まれる画素の集合、とする。より具体的に、集合N(x)としては、例えば、いま注目している静止画像一枚を構成する全画素が128×128画素であるような場合に、前記画素xを中心とした3×3画素分のエリアとしたり、また、512×512画素であるような場合に、当該画素xを中心とした13×13画素分のエリア等としてもよい。
また、上記(6)式におけるσkは、k枚目の静止画像の各画素が、そのどれにも共通な一定の程度で有するものと仮定して推定されたノイズの標準偏差であり、一方Cは、重みw1(p(x,y))が、上記(4)式に代入された場合における作用の程度を決定調節可能なするパラメータである。
以下、これらσk及びCについての説明を順に行う。
まず、(6)式におけるσkについて説明する(以下では、分散σk 2として説明する。)。このσk 2は、上述したように、k枚目の静止画像上の各画素のスカラー値が有するノイズ成分の分散である。そしてまた、上記(6)式における分散σk 2は、k枚目の画像の各画素のスカラー値について一定値たる分散σk 2を持つノイズを含んでいるものと仮定して推定したものである。一般に、このような仮定は、次に記すようなことを背景として、十分な正当性を持つ。
まず、被検体Pの大きさ、X線管101及びX線検出器102、再構成部106等の構造が一定で、かつ、照射X線のエネルギを一定にした状態では、CT画像のノイズは、照射X線量、すなわちこれと比例関係にあるX線管101における管電流と照射時間との積(いわゆる管電流時間積(mA・s))によって決定される。一方、CT画像のノイズは加法的であり、概ねガウス分布に従うことも知られている。すなわち、ある画素xの画素値v(x)を構成する任意のスカラー値vn(x)(n=1,2,…,K)について、その真値(ノイズの寄与分を除去した値)をvn 0(x)とすると、これらの差の値vn(x)−vn 0(x)は、概ね平均0、分散σk 2のガウス分布に従う(なお、照射X線量ないし管電流時間積m・Asとノイズの分散σk 2とは、概ね反比例関係にある。)。
また、この分散σk 2は、画素xの位置そのもの(上で述べたように、例えば各座標値x=(x,y))にも依存するが、通常のX線CT装置100においては、X線管101及びX線検出器102の間に、X線照射量を調節する物理的なX線フィルタ(例えば銅箔や金属塊等により構成された、いわゆる「ウェッジ」あるいは「X線フィルタ」と呼称されるもの。)(図示せず)を備えているため、これを無視することができる。なぜならばウェッジは、被検体Pが水とほぼ同じ密度を持つ物質から構成されていることを利用して、どのX線検出器102においても同程度のX線量が検出されるよう、照射されるX線量の一部又は全部を調節(吸収ないし遮蔽)する作用を有するものであり、従ってこのようなウェッジによれば、結果的に、ノイズの分散σk 2を画素xの位置に殆ど依らない一定値にする効果を生じるからである(ちなみに、このウェッジは、一般に、X線検出器102のダイナミックレンジを有効に利用することを本来の目的として設置されるものである。)。
以上のことから、ダイナミックCT撮影により取得されたK枚の静止画像上においては、k枚目の静止画像上におけるすべての画素について、一定値たる分散σk 2を推定することは妥当である。むろん、画素ごとに分散が異なる場合について本実施例を拡張することも容易に推考することが可能であろう(詳しくは後述するX−3項で説明する)。
さて次に、上記(5)式を具体的に演算するためには、その分散σk 2として、どのような数値をあてるか、が問題となる。このようなことが問題となるのは、通常、ノイズの分布の形は想定できても(上記ではガウス分布)、分散σk 2の具体値は不明であることが多いからである。
更に、一般的に、毎回の撮影毎に照射線量(X線管電流×照射時間(mAs))を変更して撮影を行ってもよい。
さて、k枚目の画像(k=1,2,…,K)に於いて各画素のスカラー値が持つノイズの分散をσ
k 2とし、k枚目の画像の撮影に用いた照射線量をR
kとするとき、σ
k 2はR
kに比例する。従って少なくともひとつのk=k
0についてσk
0 2が指定できれば、他のkに関しても
によってσk 2を正確に推定することができる。
本実施形態(このような事情が当てはまる)に於いては少なくともひとつのkについて、以下のような方法でσk 2の具体的数値の推定を行うことができる。
K回の撮影のうち、被検体Pに殆ど変化がなかったと仮定することのできるN回(1<N≦K)の画像を用いて、実測により、分散σ
k 2に対する期待値E[σ
k 2]を求める方法が有効である。以下説明を簡単にするために、これらN枚の画像における照射線量は同じであり、従ってk=1,2,…Nに関してσ
k 2は一定(σ
2と書く)と仮定する。これらN枚の画像における、ある画素x
fの画素値v(x
f)を構成する各スカラー値v
1(x
f),v
2(x
f),…,v
K(x
f)が含むノイズは、上述したように平均0、分散σ
2のガウス分布に従うと予想されるから、これらの平均値
を用いると、真の分散σ
2に対する期待値E[σ
2]を、
として求めることができる。そして、この分散の期待値E[σ2]は、上述した通り、K枚すべての静止画像上の全画素xにつき妥当するものと考えることができ、真の分散σ2の代用として用いるのに、一定程度以上確からしさが保証された値である。したがって、上記(6)式の実際の演算においては、このE[σ2]を(6)式のσ2に代入すればよい。
なお、このようなE[σ2]は、より具体的には、K枚の静止画像中、例えば1枚目と2枚目の静止画像に基づく実測値により求めてもよい(上記(7)及び(8)式で言えば、N=2とすることに該当する。)。また、上記(7)及び(8)式の実際の演算に供される画素xfについては、例えば、空気や骨が撮像されている部分を除いた適当な画素xfのみを選定する(複数選定した場合は得られるE[σ2]すべての平均をとる)等といった工夫を施してもよい。さらに、その他一般的には、被検体Pの動きによる影響を抑える工夫等を施すと尚よい(なお、(6)式におけるノイズの分散σ2の評価については、最後に述べる[本実施形態の補足事項」においても再び触れる。)。
これらN枚の画像の撮影において照射線量が一定でない場合においても、σk 2がRkに比例することを利用して正しくσk 2を推定することは容易に推考できるであろう。
さて次に、上記(6)式におけるパラメータCについての説明を行う。まず、(6)式においては、上記一般的形態で述べた危険率p(x,y)の考え方が、以下のようにして含まれている。すなわち、(6)式の右辺分子における根号内の表式は、いわゆるχ二乗分布に従うとされる当該χ
2値に一致するものであり、これを(2σ)
2で除し、括弧の全体をeの肩に置いた値は、危険率p1(x,y)そのものである。つまり、
たものである。
結局、(6)式においては、上記したような一般的形態で述べた危険率p(x,y)が陽には表示されてはいないが、重みw1(p(x,y))の実態は、上述したように、まさしく危険率(=p1(x,y))の関数であると見ることができ((10)式)、すなわち「適合度の関数」である(ただし、危険率と適合度とは、上述したように、一方が増えれば他方も増加する関係にある。)。
そして、上記(10)式からわかるように、パラメータCは、重みw1(p(x,y))が、危険率p1(x,y)にどの程度敏感に反応するかを決める効果がある。つまり、Cを大きくすると、p1(x,y)がわずかに小さくなるだけで、w1(p(x,y))は0に近づく。また、Cを小さくするとそのような過敏な反応を抑制することができる。なお、Cとして、具体的には1乃至10程度とすればよく、好適にはC=3とするとよい。
この実施形態においては、両画素x及びyに関する類似判定、言い換えると、両画素x及びyに関する上述した帰無仮説Hの棄却の判定は、上述したことから明らかなように、上記危険率p1(x,y)に基づいて、いわゆるχ二乗検定法(統計的検定法)によって決定されている。
また、上記(6)式の表式からわかるように、本発明においては、危険率p(x,y)をx,yの組み合わせそれぞれについて計算した後、重みw(p(x,y))を求めるといった手順を踏む必要は必ずしもなく、危険率p(x,y)を具体的に求めずに、合成関数としての(wop)を、直接計算する構成としてもよい。
以上述べたように、分散σ2の推定をし(例えば、(8)式のE[σ2])、かつ、パラメータCを適当に決める(例えば、C=3)ことにより、(6)式を用いて、ある画素xにつき定義される集合N(x)(上述したように、例えば画素xを中心とした3×3画素分のエリア等)に含まれるすべての画素yについて、具体的な重みw1(p(x,y))を求めることができる。後は、上記(4)式におけるw(p(x,y))に代えて、このw1(p(x,y))を用いることにより、コヒーレント・フィルタの具体的な数値演算を実施することが可能となる。そしてその結果、時間分解能は勿論のこと、空間分解能をも損なわずに、ノイズを強く抑制した画素値v′(x)=(v′1(x),v′2(x),…,v′K(x))(=(5)式)、すなわちそのようなK枚の静止画像ないし動画像を、得ることができる。
このような画像処理を、概念的に把握しやすいよう図示したものが、図4である。すなわちまず、図4(a)においては、1,2,…,K枚ある静止画像において、ある画素xにつき、該画素xを中心とした3×3画素分の矩形状エリアN3×3(x)が想定されている。この矩形状エリアN3×3(x)の左角隅における画素を、y1とすれば、この画素y1は、図4に併せて示すように、画素値v(y1)を有している。
そして、この画素値v(y1)を構成するスカラー値v1(y1),v2(y1),…,vK(y1)と画素値v(x)におけるスカラー値v1(x),v2(x),…,vK(x)とのそれぞれにより、上記(6)式によって重みw1(p(x,y1))が計算される(図4(b))。また、矩形状エリアN3×3(x)の残る画素y2.…,y8についても同様で、結局図4(b)に示すように、w1(p(x,y1)),…,w1(p(x,y8))及び、w1(p(x,x))が得られる。(この場合、(9)式より危険率p(x,x)は、“1”であり、したがって重みw1(p(x,x))も、(10)式より“1”である(=最大の重み付けがされている))。
次に、このようにして得られた、重みw1(p(x,y1)),…,w1(p(x,y8)),w1(p(x,x))を、対応する画素の、k枚目の画像におけるスカラー値vk(y1),vk(y2),…,vk(y8),vk(x)にそれぞれ乗算して総和を取り(上記(4)式における分子に該当する。)、これを矩形状エリアN3×3(x)に関する重みw1の総和(同じく(4)式の分母に該当する。)により除せば、当該k枚目の画像における画素xについての、ノイズが抑制されたスカラー値v′k(x)を求めることができる(図4(c))。また、k=1,2,…,Kのすべての画像につき、同じ重みw1(p(x,y1)),…,w1(p(x,y8)),w1(p(x,x))を用いて、ノイズが抑制されたスカラー値v′k(x)を求めることによって、画素xにおけるノイズが抑制された画素値v′k(x)=(v′1(x),v′2(x),…,v′K(x))が得られる。すべての画素xにつき、上記演算を繰り返せば、ノイズを抑制したK枚の画像が得られる。
このようにして算出された画素値v′(x)で構成される画像は、例えば、図5に示すようになる。図5(a)は、全部でK=23枚の静止画像のうち、コヒーレント・フィルタを適用する前のオリジナルの画像(k=11)を示し、(b)及び(c)は、k=11及び23について、コヒーレント・フィルタをかけた場合の画像を、それぞれ示している。図5(a)のオリジナル画像で見られるランダムなノイズは、図5(b)及び(c)においては、十分に抑制されていることがわかる。
なお、以上までに述べた各処理は、例えば図6に示すようなフローチャートに則ってこれを行えばよく、また、当該各処理に係る演算・画像表示等を実際のX線CT装置100上で実現するためには、例えば、図3に示すように、分散値推定部111、重み演算部112及び画素値演算部113により構成される画像処理部110を設けて、これを実施すればよい。
このうち重み演算部112は、上述した手順通り、画素値v(x)及びv(y)から直接重みw1(p(x,y))を求める構成となっている。したがって当該演算部112は、危険率p1(x,y)の値を具体的に求めることなく(すなわち、「危険率演算部(本発明にいう「適合度定量化部」を内蔵し)、重みを直接に求める装置である。なお、上記したような構成ではなく、具体的に危険率p1(x,y)の値を求める「危険率演算部(適合度定量化部)」と、その出力に基づいて重みw1(p(x,y))を求める「重み演算部」という、二段の手順を踏む構成としてもよい。いずれにせよ、重み演算部112は、分散値推定部111により推定された分散σ2と、v(x)及びv(y)を用いて重みw1(p(x,y))を算出する。
また、画素値演算部113は、画素値v(x)及びv(y)、並びに重み演算部112により数値演算された重みw1(p(x,y))を使って、画素値v′(x)を演算する。すなわち当該演算部113は、元となる画像のノイズを抑制する処理、すなわちコヒーレント・フィルタの適用を実際に行う(以下、これを「コヒーレント・フィルタをかける」と表現する。)。
上記のようなダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理においてK枚の静止画像から構成される動画像に、コヒーレント・フィルタをかける場合には、上記画像処理部110における処理は、一旦すべての静止画像を再構成した後、これらを上記記憶装置10Mに蓄え、後処理として後にこれらに対してコヒーレント・フィルタをかけるようにしてもよいが、本発明はこのような形態に限定されるものではなく、上述した連続スキャン、連続投影データ収集、連続再構成及び連続表示という流れの中で、コヒーレント・フィルタをかける処理をリアルタイムに実施する(以下、これを「リアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理」と呼ぶ。)のでもよい。
リアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理の好ましい実施例においては、新しい画像が撮影され再構成されるたびに、以下のような処理を行う。最初に得られた画像(画像番号1)から最新の画像(画像番号M)までのうち、画像番号M,M−1,…,M−K+1を持つK枚の静止画像上、共通の同一点(同一座標)の画素xの持つ画素値(スカラー値)を並べてK次元ベクトル値v(x)=(vM(x),vM−1(x),…,vM−K+1(x))を構成する。こうして、上記の「ダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理」と全く同様にコヒーレント・フィルタをかけることができる。ただし、画素値演算部113は実際には画素値v′(x)の全ての要素を計算するのではなく、最新の画像(画像番号M)に対応するスカラー値vM′(x)だけを計算する。この結果、計算速度が向上するので、リアルタイムでノイズが抑制された最新の画像を表示できる。
この「リアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理」の別の好ましい実施例として、最初のK枚の画像が得られた時点で、上記と全く同様にコヒーレント・フィルタをかけてv1′(x),…,vK′(x)を求めておき、以後は、K次元ベクトル値を画像番号M,M−1,…,M−K+1を持つK枚の静止画像を用いてv(x)=(vM(x),vM−1′(x),…,vM−K+1′(x))によって構成し、これに対して上記のリアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理を適用するように構成してもよい。なお、これらのリアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理の際に画素値ベクトルv(x)の次元Kを、マニュアル設定、あるいは自動設定によって、随時変更できるように構成しておくと便利である。
( IV X線CT撮影に本発明を適用する場合2;(ノイズを低減した1枚の画像を得る))
さて次に、上記ダイナミックCTとは異なり、ノイズを低減した1枚の画像を得る具体例について説明する。従来、一般に、ノイズの少ない1枚のCT画像を得たいという場合、それを達成するためには、通常のX線管電流を使ってK回繰り返して撮影したK枚のCT画像に対して時間方向の単純平均(例えば、本実施形態における画素値v(x)の概念を利用すれば、当該単純平均とは{v1(x)+…+vK(x)}/Kである。)をした結果1枚の画像を得る方式と、通常のK倍のX線管電流を使った一度の撮影により1枚の画像を得る方式との二通りが考えられる。いずれの方式にしても、ノイズの分散は通常のX線管電流を使って1回撮影して得られる1枚の画像の1/K倍になることに変わりはない(前者の方式ではノイズの平均化により、後者の方式では上述したように照射X線量とノイズの分散が反比例関係にあることにより)。したがって従来においては、操作の効率性から、X線管の性能が許す範囲では後者の一度に撮影する方式により、また、X線管の性能が大量のX線管電流に耐えられない場合は、前者のK回繰り返して撮影する方式により、1枚のCT画像を得ることが一般的に行われていた。
しかしながら、これらの方式では、ノイズを抑制しようとすればする程、照射X線量が増大する。つまり被検体Pの被曝量が増大することになる。
ここで、本発明に係るコヒーレント・フィルタを利用すれば、このような1枚のCT画像に含まれるノイズを、被検体Pに対する被曝量を増大させずに抑制することが可能である。
まず、本実施形態では、被検体Pについて何らの変化もないと仮定できる時間中に、K枚のCT画像を、通常より低いX線照射量で撮影する。したがって、この場合、上記ダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理と同様に、K枚のCT画像につき定義される画素xについて、
というように、画素値v(x)を構成することができる。なお、この場合においては、X線照射量が少ないので、一枚一枚のCT画像に含まれるノイズの分散σ2は比較的大きいことになる。
次に、この場合における重み関数として、上記(6)式と同様な具体的形式を与える。
ただし、この場合においては、最終的に得たい画像は、1枚のCT画像であるから、次のような方式をとることが考えられる。
例えば、上記ダイナミックCT撮影と同様にして、K枚の画像すべてにコヒーレント・フィルタをかけ、その結果として得られるK枚の画像を重み付平均あるいは単純平均して、目的とする1枚のCT画像を構成する方式や、また、上記K枚の画像の中から任意に選択された1枚に対してだけコヒーレント・フィルタをかける方式(=図4(c)の演算は、選択された当該1枚の画像についてのみ行われる。)、等とすればよい。
ちなみに、前者の方式によれば、K枚の画像すべてにコヒーレント・フィルタをかけた結果であるK枚の画像から、これらを平均した1枚の画像を得るための計算は、具体的には例えば、
である。ここに、(11)式の左辺にあるv
*′(x)は、単純平均の結果得られる1枚の画像の、画素xにおける画素値(スカラー)である。このとき、v
*′(x)が含むノイズの分散(σ
2)
*は、概ね、
となり、またここで、w(p(x,y))≧0であるから、(12)式の右辺において、総和されている項は、常に1よりも小さい。したがって、本実施形態によるノイズ抑制効果は、従来の方式により達成されたノイズ抑制効果(σ2/K)よりも優れている。逆に言えば、もし本実施形態を用いて従来と同等のノイズ抑制効果を得ようとするならば、従来の方式よりも、必要なX線照射量が少なくて済み、従って、被検体Pの被曝量を低減させることができる。
本実施形態を用いて得られる効果は、たとえば図7に示すようなものである。図7(a)は、従来方式、すなわちK回繰り返して撮影した画像を単純に時間方向に平均化して得られる画像を示し、(b)は、本実施形態に従って、K枚の画像すべてにコヒーレント・フィルタをかけ、その結果として得られるK枚の画像を単純平均して構成した画像を示している。図7(a)に見られるランダムなノイズは、図7(b)においては、十分に抑制されていることがわかる。(なお、図7は、0.5秒スキャンの撮影を3回行った(K=3)場合で、かつ、上記集合N(x)として13×13画素分の矩形状エリアを用い、C=3とした条件下の画像である。)
また、図7(c)は、図7(b)におけるノイズ抑制効果があまりに優れているため、従来の画像に比べて見慣れない画像となる点に配慮して構成されたものであり、具体的には、図7(a)と図7(b)との平均をとった画像である。すなわち、図7(c)の画像は、その画素値をv
**′(x)、図7(a)における画素値をv(x)(={v
1(x)+…+v
K(x)}/K)としたとき、
において、u=1/2としたものである。なお、本発明では、本実施形態そのもの(図7(b)が得られる)に限らず、例えば上記(13)式におけるuの値(ただし、0≦u≦1)を、診断者の好みに応じて調整できるようにした構成も、好ましい。
(V X線CT撮影に本発明を適用する場合3;マルチエネルギ撮影(複数種類の画像のノイズを低減する) )
さて次に、本発明を、いわゆる「マルチエネルギ撮影」に適用した場合について説明する。ここに、マルチエネルギ撮影とは、X線管101に印加する電圧を変更したり、X線管101と被検体Pとの間に、薄い金属板等で構成されたX線フィルタを挿入すること等によって、照射するX線のエネルギ分布を種々に変え、このようにして得られた複数のエネルギ分布により、同一の被検体Pを撮影する方式をいう。この場合には、被検体Pは変化していないにもかかわらず、X線のエネルギ分布に依存して画像が変化し、その結果複数種類の画像が得られる。
ここで、エネルギ分布を変更しながらK回の撮影を行ったとすると、当該K回の撮影で得られたK種類の画像の画素xにおけるスカラー値を並べれば、画素値v(x)=(v1(x),v2(x),…,vK(x))を構成することができる。したがって、この画素値v(x)に対して、(III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する))におけるダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理と同様の手段を適用して、コヒーレント・フィルタをかけることができ、その結果、ランダムなノイズを抑制したK種類の画像を得ることができる。
( VI X線CT装置以外の医用画像診断装置に本発明を適用する場合 )
以下では、本発明に係るコヒーレント・フィルタを、X線CT装置以外の医用画像診断装置、例えば、核磁気共鳴イメージング装置(いわゆる「MRI装置」)、核医学診断装置(「シンチレーションカメラ、SPECT装置、あるいはPET装置」)、X線透視装置等に適用する実施例について説明する。
( VI−I MRI装置に本発明を適用する場合)
第一に、MRI装置に関する本発明の適用例について説明する。本発明は、このMRI装置に関し、従来「アベレージング(averaging)」、「高速撮影」、「三次元的撮影」と呼ばれている撮影方式に対して、また「複数のパルス・シーケンスを用いる撮影方式」等に対して、適用することが可能である。
まず、アベレージングとは、その名の通り平均化(averaging)によって画像ノイズを抑制することを目的として、被検体Pに変化が生じない間に撮影を繰り返し行い、得られた複数枚(K枚)の画像を単純平均して1枚の画像を得る撮影方式である。当該K枚の画像の画素xにおけるスカラー値を並べれば、画素値v(x)=(v1(x),v2(x),…,vK(x))を構成することができる。また、重み関数wについても、例えば上記(5)式を用いてもよい。従って、この画素値v(x)に対して、(III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する))におけるダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理と全く同様の手段を適用して、コヒーレント・フィルタをかけることができ、その結果、アベレージングによるものより優れたノイズを抑制した複数枚の画像が得られる。あるいは、( IV X線CT撮影に本発明を適用する場合2;(ノイズを低減した1枚の画像を得る))と全く同様の処理を適用して、ノイズを抑制した1枚の画像を得ることもできる。
また、高速撮影とは、被検体Pに変化が生じている場合に、それを反復して撮影することによって経時変化を表わす動画を得る方式であり、ダイナミックMRIとも呼ばれる。この場合にも、複数枚(K枚)の静止画像が得られることに変わりはないから、上記アベレージングの場合と同様に(III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する)におけるダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理と全く同様に)して、コヒーレント・フィルタを適用し、ノイズを抑制できる。さらに、高速撮影においては、(III.X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する))におけるリアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理と全く同様の処理を適用してもよい。
三次元的撮影とは、一度に三次元的画像を得る撮影法である。この撮影法においても、アベレージング(すなわち、ノイズを抑制することを目的として、反復して撮影を行い、単純平均をとる処理)を行ったり、高速撮影(被検体Pに変化が生じている場合に、反復して撮影すること)を行う場合があり、これらの場合には、画素xが、x=(x,y,z)なる三次元ベクトルとして表現されるという点を除けば、上述したアベレージングや、高速撮影におけるコヒーレント・フィルタの適用方法と全く同様である。さらに、三次元的撮影が一度だけ行われる場合にコヒーレント・フィルタを適用するためには、後述する(VIII 1枚の画像から画素値v(x)を構成する)において説明する方式を適用することができる。
一方、MRI装置においては、パルス・シーケンスを変更することによって、異なる物理パラメータを画像にすることができる。パルス・シーケンスとは、RFパルス及び傾斜磁場の印加順序、印加する強度と時間、休止時間の組み合わせのことで、これを変化させることによって非常に多様な画像が得られる。典型的に使用されるパルス・シーケンスのごく少数の例を挙げれば、画像のコントラストに最も寄与する物理パラメータの名前を冠して、T2*−weighted image、T1−weighted image、proton−density image等と呼ばれるものが知られている。いずれにせよ、パルス・シーケンスに依存して、被検体は変化していないにもかかわらず、異なる画像が得られ、その結果、実質的に複数種類の画像が得られることになる。従って( V X線CT撮影に本発明を適用する場合3;複数種類の画像のノイズを低減する)と全く同様にしてコヒーレント・フィルタをかけることができる。
より具体的には、パルス・シーケンスを変えながらK回の撮影を行ったとすると、当該K回の撮影で得られた画像の画素xにおけるスカラー値を並べれば、ベクトルv(x)=(v1(x),v2(x),…,vK(x))を構成することができる。したがって、この場合においても、上記アベレージングの場合と同様に、ダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理と全く同様の手段を適用して、コヒーレント・フィルタを適用し、ノイズを抑制できる。
( VI−2 シンチレーションカメラ、SPECT装置又はPET装置に本発明を適用する場合)
第二に、シンチレーションカメラ、SPECT装置又はPET装置に関する本発明の適用例について説明する。これらの装置は、被検体内に放射性同位元素(以下「RI」という。)を含む薬剤(放射性薬剤)を投与し、RIの自然崩壊によって生じるガンマ線を検出することにより、被検体内における放射性薬剤の分布を画像化するものであり、特に生体を被検体とした場合には、その生化学代謝・血液循環の程度を表す、いわゆるファンクショナル・マップを得ることを目的として用いられる。シンチレーションカメラは、放射性薬剤の分布を、あたかも被検体を透視したかのような2次元画像として撮影する。また、SPECT装置およびPET装置は、コンピュータ断層撮影技術を用いて、放射性薬剤の3次元分布を表す3次元画像を撮影する。
シンチレーションカメラ、SPECT装置又はPET装置では、通常、検出されるガンマ線量が極めて小さいから、RIの量子力学的性質によって生じる光子数のばらつきに起因する、いわゆる「フォトンノイズ」が画像に現れる。
従来、画像の解像度を低下させることなくフォトンノイズを抑制するためには、検出されるガンマ線量を増やす以外の方法がなく、具体的には投与するRIの量を増やす方法と、撮影時間を長くする方法があった。
投与しうるRIの量が増加できる場合(例えば、医学研究用の実験動物に対してなら投与量増大は許される。)には、それによってフォトンノイズを低減できるが、このような方法は作業者の放射線被曝線量の増加を伴う。また、人体を診断する(=人体が被検体である)場合には、そもそも上記したようなRI量の増加が自由には許されていない(法的に規制されている)。さらに、自然物に天然に含まれるRIの出す放射線を用いた撮影を行う場合には、その量を増やすことは不可能である。
また、撮影時間を長くする方法を用いようとする場合、有効なノイズ低減効果を得るためには非常に長時間(たとえば数時間)に渡って被検体が動かないことが必要である。この条件は、生体(特に人体)を被検体とする場合には実現困難であり、また撮影時間が長いことによって、撮影装置の処理能力(あるいはコスト・パフォーマンス)が低下するという問題があった。従って現実的には、許容可能な時間(たとえば1時間以内)を限度とする、適当な撮影時間を設定するしかなく、画像に強いノイズが現れることは避けられない。そこで、このノイズを抑制するには画像の平滑化によって行うしかなく、従って、平滑化に伴う弊害として画像の解像度が損なわれるのはやむをえないと考えられていた。
このような場合において、本発明によれば、次のような処理を行うことができる。すなわち、前記の適当な撮影時間と同等の時間の間に、より短時間の撮影を複数回行い、ノイズの比較的多い複数の画像を得る。そして、( IV X線CT撮影に本発明を適用する場合2;(ノイズを低減した1枚の画像を得る))と全く同様の処理を適用して、空間解像度を損なうことなく、ノイズがより抑制された画像を得ることができ、しかも、RIの量を増やすことなく実現できる。
さらに、シンチレーションカメラ、SPECT装置又はPET装置においても、X線CTなどと同様に、同一の被検体を繰り返し撮影して、被検体内の放射性薬剤の分布の経時変化を追跡する撮影方式、すなわち「ダイナミックシンチグラム」、「ダイナミックSPECT」又は「ダイナミックPET」と称される撮影方式がある。この場合にも、(III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する))における、ダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理もしくはリアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理と全く同様の処理を適用することができ、画像のノイズを効果的に抑制することができる。
さらに、PET装置やSPECT装置では、RIがその種類に固有のエネルギーのガンマ線を放出することを利用して、複数の種類のRIを同時に被検体に投与することで、一度に複数の種類のRIについて、それぞれの分布画像を得る、いわゆる「マルチウインドウ撮影法」が使用されることがある。これは、検出したガンマ線の持つエネルギを計測し、その値が人為的に設定した数値範囲(エネルギウインドウ)に該当するかどうかによって、該複数の種類のRIのうちのどれによって放射されたガンマ線であるかを判別する技術に基づいている。
より具体的には、適当な数のエネルギウインドウ(例えば、ウインドウW1及びW2)を設定することにより、そのうちの一のウインドウ(例えば、ウインドウW1)に該当するガンマ線に基づく画像、他のウインドウ(例えば、ウインドウW2)に該当するガンマ線に基づく画像、というように別個に画像を形成することにより、一度の撮影によって、上記した複数のRI分布画像を得る。
すなわち、イメージング装置を用いて同じ対象物を撮影して異なる処理条件で複数種の画像を得る。より一般的に言えば、「K種類のRIを用いて、一度の撮影により、相異なるK種類の画像を得る撮影方式である」ということができる。従って( V X線CT撮影に本発明を適用する場合3;複数種類の画像のノイズを低減する)と全く同様にしてコヒーレント・フィルタをかけることができる。
すなわち、この場合においても、このようなK種類の画像上の画素xにつき、その画素値v(x)=(v1(x),v2(x),…,vK(x))を構成することができる。また、各画素値v(x)が含むノイズの分散は、画素xの位置、及び、どの種類の画像であるかによって異なるが、画像の種類ごとに、それぞれ検出されたガンマ線の総量にほぼ比例するものと考えてよく、この性質から、各画素xについてのノイズの分散を推定することができる。以上のようにして、「マルチウインドウ撮影」に対しても本発明を適用してコヒーレント・フィルタをかけることができ、その結果、ランダムなノイズを抑制したK種類の画像を得ることができる。
なお、核医学診断装置においては、解像度向上に効果のある再構成法(ファンビーム用MU−EN再構成法及びファンビーム、パラレルホールコリメータ用超解像再構成法等)があるが、これらと本発明に係るコヒーレント・フィルタを組み合わせることには何の原理的制約もなく、その結果、高解像度かつランダムなノイズが十分抑制された画像を作成することも可能である。
( VI−3 X線透視装置に本発明を適用する場合 )
第三に、X線透視装置に関する本発明の適用例について説明する。まず、ここにいう「X線透視装置」とは、低線量のX線を被検体に連続して曝射しながら、一定時間(例えば1/24秒)ごとに繰り返し撮影を行う装置であって、1回の撮影を「フレーム」と呼び、フレームごとに得られるX線画像を次々と連続的に表示することによって、いわゆる透視像(動画像)として観察することができる装置を想定している。したがって、一般的には、いわゆる「Cアーム」ないし「Ωアーム」と呼ばれる構成を備えた装置が該当することを始め、上記したX線CT装置100においても、いま述べたような機能を搭載するものであれば、以下に述べる形態は当然に適用可能である。
さて、このようなX線透視装置においては、上記したように低線量であるがゆえに、前記透視像はフォトン・ノイズに起因するランダムなノイズを多く含む。このような問題を解決するためにX線照射量を十分に増大させると、連続したX線照射を行うのであるから、被検体に対する被曝量が甚だしく増大するのみならず、検査者に対する被曝も著しく増加してしまう。
本発明に係るコヒーレント・フィルタを適用すれば、これらの問題点を解決して、ノイズを十分に抑制した透視像を提供することが可能となる。
具体的には、以下の説明のために、1フレームごとに得られた画像に順次画像番号1,2,…,Mを付けることにすると、最も新しいK枚、すなわち画像番号M,M−1,…,M−K+1の画像をメモリに蓄え、これらK枚の画像に対して、(III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する))における、ダイナミック・コヒーレントフィルタ処理もしくはリアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理と全く同様の処理を適用することができる。
なお、医用画像診断装置を離れるが、「X線透視装置」として、いわゆる非破壊検査に用いられる当該装置にも、上記の方法が適用できる。
また、本発明は、超音波診断装置により得られる断層像についても、同様に適用することが可能である。この場合も、被写体を連続的に撮影しながら次々と、画像を生成することに変わりはなく、従ってX線透視装置におけるのと同様の構成によってコヒーレント・フィルタをかけ、ノイズを抑制することができる。
( VII より一般的に本発明を適用する場合;カラー画像等 )
本発明は、上記した医用画像診断装置以外の、画像を扱う「装置一般」、あるいは「画像一般」に対しても適用することが可能である。以下では、そのような一般的な装置、あるいは画像に対する本発明の適用例について述べる。なお、ここでは、特に重要な分野である一般の「カラー画像」を対象とした場合に関する説明を、主に行うこととする。
カラー画像においては、既に述べたように、当該画像を構成する各画素xについて、光の三原色の明るさを要素とした3次元ベクトルを構成することができる。すなわち、
(ここでVR,VG,VBは、光の三原色、R(赤),G(緑),B(青)の光を意味する)である。これは、図2に示すとおり、「複数種類の画像から画素値v(x)を構成」する場合に該当することがわかる。
また、例えば当該カラー画像を、CCD撮像素子、CMOS撮像素子等により構成されたデジタルカメラで撮影する場合には、各画素の画素値が含むノイズの分散は、当該画素xに入射した光量によって決まる。具体的には、スカラー値vR(x),vG(x),vB(x)と、これらに含まれるノイズの分散σ2 R(x),σ2 G(x),σ2 B(x)とは、それぞれほぼ比例する関係にある。この性質を利用して、ノイズの分散の推定値を求めることができる。したがって、上記(6)式と同様な重み関数wの具体的形式を与え、これにより、上記(4)式のコヒーレント・フィルタを構成することにより、ノイズを抑制した画素値v′(x)=(v′R(x),v′G(x),v′B(x))を得ることができる。
「カラー」ということを最広義にとらえ、上記にいう赤、緑及び青以外にも、例えば赤外線及び紫外線等を含め、上記(3.1)式を、より高次のベクトルとして、あるいはRGBにこだわらないベクトルとして、構成することもできる。たとえば、カラー画像をベクトル値の画素値を用いて表現する方法が、必ずしも三原色だけに限らないことは公知であり、そのような三原色を用いないベクトル表示を用いた場合に対して、本発明を適用してもよい。また、紫外光VUを含めた4原色,紫色VPを分離した5原色(ちなみにこれは蝶類の視覚に相当する)等の場合も、たとえば5原色の場合ならば画素xがV(x)=(VR(x),VG(x),VB(x),VU(x),VP(x)という5次元ベクトル値を持つものとして取り扱い、上記の構成と同様にしてコヒーレント・フィルタをかけることができる。
さらに、例えば被写体の光反射スペクトルを計測しようとする場合等において、被写体を照明する照明光の波長を段階的あるいは連続的に切り替え、照明の波長ごとに繰り返しモノクロカメラによって撮影を行い、あるいはカラーフィルタを段階的に切り替えて繰り返し撮影を行うことによって多波長の撮影を行う撮影装置において、これらの多数枚の(各々単波長もしくは単色の)画像をもとに画素値v(x)を構成することができる。すなわち、( V X線CT撮影に本発明を適用する場合3;(複数種類の画像のノイズを低減する))と全く同様の方法を適用して、コヒーレント・フィルタをかけることができ、その結果、ランダムなノイズを低減した複数種類の画像が得られる。
さらにまた、これらの撮像装置の多くは、一つの画像を得るために、通常1回の撮影を行う。しかしながら、本発明を用いれば、上記「X線CT撮影」に関し( IV X線CT撮影に本発明を適用する場合2;(ノイズを低減した1枚の画像を得る))において述べたように、むしろ同じ撮影時間の間に、短時間の撮影を繰り返し行って、複数枚(K枚)の画像を得た方が良い。なぜならば、(短時間撮影で光量が少なくなるために、これらK枚の画像はランダムなノイズを多く含むにもかかわらず、)これらK枚の画像に対してコヒーレント・フィルタをかけて、ランダムなノイズをより強く抑制した1枚の画像を構成することができるからである。さらに、これらK枚の画像がそれぞれ例えばカラー画像である場合に、これを「光の三原色によって得られる複数種類(3種類)の画像が複数組(K組)ある」ものとして扱っても良い。すなわち、それぞれの画像を構成する各画素xについて、光の三原色の明るさを要素とした3次元ベクトルを構成でき、従ってK枚の画像全体では3K次元ベクトルの画素値v(x)を構成できる。この3K次元ベクトルの画素値を対象にして、コヒーレント・フィルタをかけてもよい。
また、ビデオカメラのように、動画像を撮影する撮像装置においては、( III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(ノイズを低減した複数枚の画像を得る))で述べたダイナミック・コヒーレント・フィルタ処理あるいはリアルタイム・コヒーレント・フィルタ処理を適用することができる。さらに、上記と同様に「光の三原色によって得られる複数種類(3種類)の画像が複数組(K組)ある」ものとして扱って、コヒーレント・フィルタをかけることもできる。
なお、上記したデジタルカメラの他、ビデオカメラ、暗視カメラ、高速度撮影カメラ等(以下、一般に「撮像装置」という。)により撮影された画像においても、上記と同様にして、本発明を適用することが可能である。特に、暗視カメラ及び高速度撮影カメラについては、本来、1フレームあたりの光量が少ない状況で使用されるカメラであり、画像に含まれるランダムなノイズが多いが、空間解像度はもちろんのこと、ことに高速度撮影カメラにおいては時間分解能を損なうのは好ましくない。従って、本発明を適用するのに最も好適な装置の一つである。
したがって、上記撮像装置においても、このような撮影方法により、よりノイズを抑制した画像を得ることができる。
一方、「撮像」するのではなく、何らかの記録媒体に記録され又は送信される信号に基づく画像の再生が可能な装置、例えばビデオテープレコーダやDVDプレーヤ等において、再生される画像に対して本発明に係るコヒーレント・フィルタを適用すれば、ランダムなノイズを抑制した再生画像を得ることができる。
さらに、これらの装置において、静止画像(いわゆる「ポーズ画像」、あるいは印刷用の画像)を生成・表示する場合にも、コヒーレント・フィルタを適用することによって、ランダムなノイズを抑制した静止画像が得られ、印刷等にも適している。このためには( III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(複数枚の画像からノイズを除去する))で述べた方法、( V X線CT撮影に本発明を適用する場合3;(複数種類の画像のノイズを低減する))で述べた方法、後述する( VIII 1枚の画像から画素値v(x)を構成する )に示す方法、あるいはこれらを組み合わせて用いることができる。
( VIII 1枚の画像から画素値v(x)を構成する )
以上までの適用例は、図2に示す分類のうち、画素値v(x)を、「複数の画像から」及び「複数種類の画像から」、それぞれ構成するものに該当するものであった。本発明では、これら二つの画素値v(x)の構成法の他、図2に併せて示すように、「1枚の画像から画素値v(x)を構成」することも考えられ、これは以下に記すように行うことができる。
単一の2次元画像、例えば上記X線CT装置100やMRI装置等により取得される単一のCT画像、あるいは上記撮像装置等によるモノクロの撮影による単一の画像においては、画素xの値はただ一つのスカラー値により構成される。言い換えれば、ベクトル値たる画素値v(x)は、1次元ベクトルとなる。
このような場合において本発明に係るコヒーレント・フィルタを適用するための一つの方法は、画素値v(x)を、上記「1次元ベクトル」そのものとして考える。すなわち、上記(3)式において、K=1とし、
とする。後は、上述した手順により、同様にしてコヒーレント・フィルタの構成、ないし画像ノイズの抑制を実行することができる。本発明は、このように「ベクトル値」としての「画素値」v(x)が、1次元ベクトル、すなわちスカラー値である場合も含む。
また、この場合における重みw3については、例えば、次式を用いることができる。
ここで、Dは、(6)式におけるパラメータCと同様な性質を有する。すなわち、Dが小さければ、重みw3(p(x,y))はより小さく、Dが大きければより大きくなる。
このような重みw3(p(x,y))及び上記(4)式により求められる画素値v′(x)に基づく画像は、例えば図8に示すようになる。図8(a)(b)(c)(d)は、血管の3D抽出例を示す造影された画像であり、図8(e)は他の抽出例として脳の灰白質を抽出した画像である。図8(a)は、コヒーレント・フィルタによる処理の対象となるCT画像(元の画像)を示す。図8(b)(d)は、(6)式の中で用いられる上記集合N(x)として3×3画素分の矩形状エリアを用いてコヒーレント・フィルタをかけた結果を示し、図8(b)では上記の式(14)においてD=9とした場合の結果、図8(d)では(c)のコヒーレント・フィルタをかけた画像に対して更に閾値処理を施した結果を示している。また図8(c)では、(a)の元の画像に対して閾値処理を施した画像を示している。
図8(a)と図8(b)の画像を比較してみると、図8(b)の画像は、コヒーレント・フィルタをかけたことにより、図8(a)の画像に比べてノイズが適度に抑制され、診断として十分な品位が保証されていることが分かる。
図8(c)と図8(d)の画像を比較してみると、元の画像に対して閾値処理しか施されていない図8(c)の画像は、閾値による血管抽出が困難であるのに対し、コヒーレント・フィルタをかけて閾値処理した図8(d)の画像は、閾値による血管抽出ができ、細い血管も失われていないことが分かる。
また図8(e)によれば、灰白質の領域抽出が出来ていることが分かる。
ところで、このような方式によると、確かに上記図8に示すような効果が得られるものの、画素xと画素yの適合度を計測するのに1次元ベクトル値v(x)=v(x)を用いているため、適合度の判別性能が比較的低く、言い換えれば、統計的に不確かな危険率p(x,y)しか得られない。このため、解像度を損なわずに行えるランダムなノイズの抑制の効果は、さほど高いとは言えない。したがって、このような場合においてより好ましくは、次のような別の方式を採るとよい。すなわち、画素xの近傍のいくつかの画素からなる集合Z(x)を用いて、多次元のベクトルを構成し、これを画素xの画素値v(x)として用いるという方式が有効である。例えばその一例として、図9に示すように、画素x=(x,y)自身のスカラー値、すなわちv(x)=v(x,y)に加え、該画素xに上下左右で隣接する4個の画素(x+1,y),(x−1,y),(x,y+1),(x,y−1)からなる集合Z(x)を用いて(以下、これら画素x周囲の集合Z(x)の要素となる画素を「z
1(x),z
2(x),z
3(x),z
4(x)」と表す。)、これら4個の画素が持つスカラー値を付け加えた5次元ベクトルを考える。すなわち、
である。このようなベクトルは、図9に示す画像Gを構成するすべての画素について、同様に構成することができる(なお、図9は、全体の画像の一部のみを拡大して示している。)。
このようにして、1枚の画像から構成された多次元ベクトルの画素値v(x)を用いて、本発明に係るコヒーレント・フィルタを構成することによって、1次元ベクトルの画素値を用いる場合に比べて、高精度で適合度を判定できるようになる。その結果、画像の解像度を損なうことなく、ランダムなノイズをより強く抑制できる。
なお、このようにして画素値を構成した場合に、画素の適合度を定量化するために用いる上記した帰無仮説H「画素xと画素yとは、それぞれのノイズを除去した場合に同一の画素値を有する」とは、帰無仮説H′「画素x及びその周囲の画素z1(x)〜z4(x)の合計5個の画素と、画素y及びその周囲の画素z1(y)〜z4(y)の合計5個の画素とが、それぞれ、ノイズを除いて対応する画素と同一の画素値を有する」という意味に他ならない。
より具体的にみれば、図9に示すように、ある画素xと集合Z(x)(これは、上述したように例えば画素x周囲のエリアである。)内に存在するある画素yとが共に、例えば、図に示されるような画像G上に現された何らかの物体E1の領域E1の内側に存在する場合には、例えば(9)式等によって計算される危険率p(x,y)の値は小さく、例えば(6)式等によって計算される重みw(p(x,y))の値は大きくなる。なぜならこの場合、画素z2(x)及びz4(x)並びに画素z2(y)及びz4(y)とは、当該物体の像E1の領域にあり、画素z1(x)及びz3(x)並びに画素z1(y)及びz3(y)とは、物体E2の像内にあるから(3.3)式で表わされるベクトル値V(x),V(y)は類似しているためである。
さて、上記の実施例においては、特に物体の像E1の縁にある画素xに注目すると、帰無仮説H′を棄却する場合の危険率p(x,y)が小さいような画素yは、一般に、あまり多くは見つからないだろうことが推測される(例えば図9において、いずれも物体E1の像の縁E1Eの内側に存在する画素xと画素ypでも、帰無仮説H′を棄却する場合の危険率p(x,y)は、同図に示す画素x及びyの場合に対して比較的大きくなる)。
より一般的に言えば、ある物体の像の縁に存在する画素xに関し、ほとんどのy∈N(x)について、例えば(9)式等によって計算される危険率p(x,y)の値は高く、例えば(6)式等によって計算される重みw(p(x,y))は小さくなる。すると、重み付け平均をしても平滑化効果が弱いために、例えば(4)式によって計算されるコヒーレント・フィルタによるノイズ抑制効果は乏しい。
そこで、上記方式を更に改良した別の方式を以下説明する。すなわち、本方式では、画素値v(x)を、
と構成するのである。ただし、この(3.4)式におけるv1〜v4は、上記(3.3)式におけるv(x+1,y),v(x−1,y),v(x,y+1)及びv(x,y−1)を一定の規則に従って(例えば値の大きい順に)並べ直したものである。
このようにすると、上記帰無仮説H′は、帰無仮説H′′「画素x及びその周囲の画素z1(x)〜z4(x)の合計5個の画素と、対応する画素y及びその周囲の画素z1(y)〜z4(y)の合計5個の画素とが、それぞれ、〔画素z1(x)〜z4(x)内及びz1(y)〜z4(y)内でその順番を入れ替えることを許しつつ、〕ノイズを除いて同一の値を持つ」という、より緩やかなものとなる(〔〕内が付加された。)。
そして、この場合、例えば図10に示す物体の像E2の縁E2Eの内側に存在する画素xと画素yとの関係においても、上記帰無仮説H′′を棄却する場合の危険率p(x,y)は小さくなる(なぜなら画素z2(x)、z3(x)及びz4(x)並びに画素z1(y)、z2(y)及びz4(y)が上記(3.4)式におけるv1乃至v3として一致し、画素z1(x)及び画素z3(y)が同じくv4として一致する)から、結果、上記(3.3)式による画素値v(x)の構成によるよりも、ノイズ抑制効果が大きくなり、しかも空間解像度は損なわれない。
以上述べたように、本発明においては、1枚の画像からベクトル値である画素値v(x)を構成することができ、従って、コヒーレント・フィルタを用いて空間解像度を損なうことなくノイズを抑制できる。このような方式は、1枚の画像のみあればよいから、基本的にどのような画像に対しても一般的に適用可能である。すなわち、上記した各種適用例(X線CT装置、医用画像診断装置、あるいはカラー画像等)は勿論のこと、あらゆる画像に対して、本方式を適用することができる。また、画像が動画像である場合にも(上で何度か述べたように、それは多数枚の静止画像とみることができるから)、その静止画像の一枚一枚につき、本方式(「1枚の画像から画素値v(x)を構成する」)を適用してよいことも勿論である。さらに、本方式を3次元あるいは多次元の画像に用いる場合Z(x)は例えばχ1に接する6個のピクセルとχ1自身から構成することができるなど、拡張する方法もごく容易に推考できるので説明するまでもない。
なお、本発明においては、図2に示した「複数の画像から」、「複数種類の画像から」又は「1枚の画像から」の、それぞれ単独の方式により構成された画素値v(x)で、(既に述べたように)コヒーレント・フィルタを構成してよいことは勿論であるが、さらに、これら各方式を適宜組み合わせて、より高い次元のベクトル値として表される画素値v(x)を構成し、これに基づいてコヒーレント・フィルタを構成することも可能である。
既にVIIで述べたように、例えば、同一の被写体に関する2枚のカラー画像があるとすれば、ある画素xに対して、上記(2.2)式右辺に示されるスカラー値v
R(x),v
G(x)及びv
B(x)が、二枚の画像それぞれから、画素xの画素値v(x)として、
という6次元のベクトルを得ることができる。このように、より次元が高いベクトルで表される画素値v(x)を用いれば、例えば(9)式及び(6)式等によって計算されるような危険率p(x,y)として、より確実な値を算出できる。その結果、画像の解像度を損なわずに、ランダムなノイズを一層強く抑制することが可能になる。
( IX 本実施形態におけるコヒーレント・フィルタの最も一般的な形態 )
さて以下では、上記図2に沿った説明から離れ、上記(4)式のように導入されたコヒーレント・フィルタに関する、より一般的な形態について説明する。
上記コヒーレント・フィルタの一般的形態((4)式)、あるいは各種適用例においては、その最初に述べた帰無仮説H「画素xと画素yとはそれぞれのノイズを除去した場合に同一の値を有する」ないし「v(x)=v(y)。ただし、両画素のノイズに起因する差異を除く」が用いられているが、これは、次に記すような、より一般的な表現とすることができる。
すなわち、M次元の未知のパラメータa=(a1,a2,…,aM)(ただし、M<K)を含むモデル関数f(a,v(y))を導入することにより、画素の位置を表すある二つのベクトルx及びyにおいて、帰無仮説H0「v(x)=f(a,v(y))+ξ(ただし、ξは(既知の)確率分布に従う。)」を立てる。このとき、パラメータaの推定値a〜を、v(x)及びv(y)から適当な当てはめ(fitting)法(例えば、最小二乗法等、後述)を用いて決定することによって、上記帰無仮説を、それと等価な命題であるH0「v(x)=f(a〜,v(y))+ξ、(ただしξは(既知の)確率分布に従う。)」に言い換えることができる。ここで、上記f(a〜,v(y))とは、すなわち、画素yの画素値v(y)に対して、関数fの記述するモデルが許す自由度(すなわちパラメータa)を最適に調節して、画素xの画素値v(x)と最も高い適合度を持つように変換したものである。そして、そのような最適なパラメータがa〜である。
その結果、(もし帰無仮説が正しいならばξが従うと想定されるところの)既知の確率分布を用いて、危険率p(x,y)が具体的に計算可能となり、したがって重みw(p(x,y))が計算できるから、重み付け平均v′
k(x)を
によって計算することができる。これが、本実施形態における最も一般的なコヒーレント・フィルタの形式である。なお、上記(4)式とこの(15)式とを比較すれば、前者は後者において、実際に
( IX−1 上記(15)式に基づく応用例;ダイナミック像に基づく時間濃度曲線の構成 )
コヒーレント・フィルタの(15)式に示した形式を用いた、本発明の別の適用例について述べる。ここでは、当該適用例として、上記医用画像診断装置により得られたダイナミックCT像を対象とする時間濃度曲線(time−density curve)の定量測定を行う際に、本発明を適用することによって、ランダムなノイズを十分に抑制した前記時間濃度曲線を得ることを目的とする実施例について説明する。
まず、ここにいう「ダイナミック像」とは、同一の被写体を反復して撮影した結果得られる、一連の画像(画像番号1,2,・・・,K)と、それぞれの撮影時刻(t1,t2,・・・,tK)の組であり、例えば、上記医用画像診断装置、すなわち上記X線CT装置100により得られたダイナミックCT画像、あるいはX線透視装置、シンチレーション・カメラ、MRI装置、SPECT装置又はPET装置、超音波診断装置等を用いて撮影される。また、ダイナミック像は、上記一般の撮影装置、すなわちデジタルカメラ、ビデオカメラ、暗視カメラ、高速度撮影カメラ等によって繰り返し撮影を行った結果得られる、一連の画像を用いて構成したものでも良い。
また、ここにいう「時間濃度曲線」とは、上記ダイナミック像中の特定の部位における像の濃度値の経時的変化を表す曲線である。ことに、上記医用画像診断装置においては、人体組織等における血流動態や代謝機能等の詳細を調べる事を目的として、人体の特定組織内の造影剤濃度等の経時的変化を時間濃度曲線として計測することが行われている。また、天体観測等においては、特定の天体の光度変化等を解析する目的で、時間濃度曲線が用いられる。より形式的に明示すると、すなわち、時間濃度曲線とは、時刻tkにおけるある部位の濃度値をdkとするとき、対の列{<tk,dk>(k=1,2,・・・,K)}として表現される。また、時間濃度曲線の多くの用途においては、必ずしもdkの絶対的な値が必要なのではなく、むしろ最初の画像1を基準とする増分(dk−d1)だけが得られれば十分である。さらにそのような用途のうちの多くでは、単に(dk−d1)に比例するデータA(dk−d1)(ここにAは未知の比例係数)だけが得られれば十分である。この場合には、従って、対の列{<tk,A(dk−d1)>(k=1,2,・・・,K)}が、求める時間濃度曲線である。
このような時間濃度曲線を求めるためには、原理的は、上記ダイナミック像を構成する各画像k(k=1,2,・・・,K)における、該時間濃度曲線を測定しようとする部位に含まれる画素xのスカラー値vk(x)を用いて、対の列{<tk,vk,(x)>}あるいは、{<tk,A(vk(x)−v1(x))>}を構成すればよい。
しかし、実用においては、上記医用画像診断装置等によって撮影されたダイナミック像にランダムなノイズが含まれているために、本来測定しようとする時間濃度曲線を正確に求められないという問題がある。
さらに、実用においては、これらのダイナミック像においては、いわゆる「パーシャル・ボリウム効果」が生じる。パーシャル・ボリウム効果とは、すなわち、被検体内の微小な物体の像は、画像上では少数個の画素によって表現されるが、これら少数個の画素には、被検体内の隣接する物体の像も影響を与えるため、これら少数個の画素の画素値は(本来計測しようとする濃度値の変動に比例するものの)比較的小さな変動しか示さない、という現象である。言い換えれば、これら少数個の画素の画素値は僅かな信号しか含まない。従って、パーシャル・ボリウム効果が生じている場合には、どの画素xを取っても対の列{<tk,vk(x)>(k=1,2,・・・,K)}は非常に信号レベルが低く、本来計測しようとしているのではない組織における濃度値の変化の影響を受け、さらにランダムなノイズが存在するために、本来測定しようとする時間濃度曲線{<tk,dk>}を正確に求められないという問題がある。
そこで、従来は、ランダムなノイズを抑制するために、まず計測しようとする部位に含まれる画素xに関する、対の列{<t
k,v
k(x)>(k=1,2,・・・,K)}を構成し、次に時間平均値v
k#(x)を例えば
によって計算し、またこれに対応する時刻の時間平均値を
によって計算して(ここにm<nは適当な整数、Gjは適当な重み係数)、時間濃度曲線{<tk#,vk#(x>(k=1,2,・・・,K)}を構成し、これを時間濃度曲線として用いる、という時間平均による方法が用いられている。
あるいは、従来は、ランダムなノイズを抑制するために、計測しようとする部位に概ね相当する画素の集合R(すなわち、画像上の関心領域(ROI;Region of Interest))を設定し、画像番号kにおいて、この集合に含まれる全画素x∈Rのスカラー値v
k(x)の空間平均値v
k(R)を下式(19)によって求めて、対の列{<t
k,v
k(R)>(k=1,2,・・・,K)}を構成し、これを時間濃度曲線として用いる、という空間平均による方法が用いられている。
制する方式も用いられている。
しかし、これら従来の方式によると、時間平均を行うと時間分解能が損なわれてしまい、また、空間平均を行うと、本来の該測定しようとする部位以外の部位の濃度の経時変化が計測値に混入するという問題点があった。
このような問題点を解決し、より正確な時間濃度曲線を得るために、本発明に係るコヒーレント・フィルタを、上記( IX 本実施形態におけるコヒーレント・フィルタの最も一般的な形態 )にもとづいて適用することができる。
まず、本実施形態のコヒーレント・フィルタにおいて用いるべき、帰無仮説について説明する。計測しようとする部位における真の時間濃度曲線を{<t
k,d
k>(k=1,2,・・・,K)}であると仮定するとき、その一次変換である{<t
k,A(d
k−d
1)>(k=1,2,・・・,K)}(だたしAは未知の係数)を計測することを目的とする場合において、計測しようとする部位に概ね相当する画素の集合Rを設定する。この集合Rの要素である任意の画素x∈Rについて、条件Q:「もし、この画素xが上記真の時間濃度曲線を良く反映し、しかも他の部位の経時的濃度変化の影響をほとんど受けていない」のであれば、(ベクトル値としての)画素値v(x)=(v
1(x),v
2(x),...,v
k(x))について、パーシャル・ボリウム効果およびランダム・ノイズの影響を考慮することによって、
が成り立つと仮定することができる。ここに、p(x)およびq(x)は、画素xごとに異なるが画像番号k(すなわち撮影時刻tk)によっては変化しない未知の係数であり、パーシャル・ボリウム効果をモデル化したものである。またγk(x)はランダムなノイズをモデル化したものであって、画素xごとに、しかも画像番号kごとに値が異なるが、その期待値は0であり、またその統計分布は画素xにも画像番号kにも依存しない(なお以下では、説明のため、該統計分布が平均0、分散σ2の正規分布である場合の例を用いることにするが、この統計分布が任意の既知の分布によって概ね近似されるのであれば良く、その場合には、以下の実施形態を適合するように改変する方法は自明である。)。
以上の仮定によれば、該集合Rの要素である任意の2個の画素x,yに関して、もし「画素x,yが共に(上記の)条件Qを満たす。」という命題が成り立つのであれば、次式の関係が成り立つことが証明できる。
ここに、a1およびa2は、画素の組x,yごとに異なるが画像番号k(すなわち撮影時刻tk)によっては変化しない未知の係数である。またξkはランダムなノイズであって、画素の組x,yごとに、しかも画像番号kごとに値が異なるが、その期待値は0である。
(21)式は以下のようにして導かれる。すなわち、(19)式においてxにyを代入して得られる式
とおくことによって、(21)式が導かれる。ここで、(24)式のa1とa2は、パーシャル・ボリウム効果を現すパラメータであり、また(24)式のξkは、ランダムなノイズを表す。
以上から、「画素x,yが共に条件Qを満たす。」という命題は、帰無仮説H0′「vk(x)=a1vk(y)+a2+ξk (k=1,…,K)である。」と等価であることが示された。
次に帰無仮説H
0′「v
k(x)=a
1v
k(y)+a
2+ξ
k (k=1,…,K)である。」を、実質的に等価であり、かつ実際に検定できる形式の命題に変換する方法について述べる。この帰無仮説を改めて数学的に厳密な表現で述べると、帰無仮説H
0′「ある定数a
1およびa
2が存在して、ξ
k=v
k(x)−a
1v
k,(y)−a
2(k=1,…,K)は平均0、分散(σ
2h(a
1))の正規分布に従う。」となる。ここに係数h(a
1)は、
である。((25)式はa1とξkの定義である(24)式、および、ランダム変数に関する分散の持つ一般的な性質から直ちに導かれる。)また、上記の分散σ2の値は、前述の( III X線CT撮影に本発明を適用する場合1;ダイナミックCT撮影(ノイズを低減した複数枚の画像を得る))等において述べた方法で、簡便かつ実用上十分正確に推定できる。
以上から、もし、上記の定数a1およびa2を決定することができれば、上記の帰無仮説H0′を検定することが可能である。そして実際上は、これらの定数の最適な推定値a1 〜およびa2 〜が得られれば十分である。
このような、定数a
1およびa
2の最適な推定値の算出には、公知の当てはめ法(fitting)がそのまま利用できる。そこで、以下では、そのような当てはめ法の典型的な具体例として、線形最小二乗法を用いる場合における概要を説明する。線形最小二乗法を本実施例に適用するには、単に、上記の帰無仮説のξ
kの二乗和をS(a)として、すなわち
を定義する。S(a)の値は定数ベクトルa=(a1,a2)、すなわち上記の定数a1およびa2、の値に依存する。このS(a)が最小の値を取るような定数ベクトルaを算出すれば、定数a1およびa2に関する、不偏推定の意味での最適な推定値a1 〜およびa2 〜が得られる。なお、線形最小二乗法の具体的な計算方法としては、様々な公知の方法を利用することができ、しかも、これら公知の計算方法はいずれも非常に簡単であり、必要な計算時間はごく僅かである。
このようにして、上記の定数a
1,a
2の最適な推定値a
1 〜,a
2 〜を算出した結果、次式で定義される残差
を具体的に計算することができる。従って、この残差rk 〜を用いて、上記の帰無仮説H0′を、実質的に等価な帰無仮説H0”「rk 〜(x,y)(k=1,…,K)は平均0、分散(1+(a1 〜)2)σ2の正規分布に従う。」と言い換えることができる。これは、実際に検定の計算を実行可能な具体的命題である。
(ただし、ベクトルa及びξは画素の組x,yに依存する。)を導入し、また、次式
を言い換えると、帰無仮説H0”は「v(x)=f(a〜,v(y))+ξ、(ただし、ξは平均0、分散(1+(a1 〜)2)σ2の正規分布に従う。)」となり、これは( IX 本実施形態におけるコヒーレント・フィルタの最も一般的な形態 )において述べた帰無仮説H0と全く同じ形式である。すなわち、本実施形態は本発明に係るコヒーレント・フィルタの一変形例であることは明らかである。なお、ここで、上記f(a〜,v(y))とは、すなわち、画素yの画素値v(y)に対して、パーシャル・ボリウム効果を現すパラメータaを最適に調節して、画素xの画素値v(x)と最も高い適合度を持つように変換したものを意味する。
次に、本実施形態において、上記の帰無仮説H
0”を用いて、コヒーレント・フィルタによって時間濃度曲線を求める方法について説明する。計測しようとする部位に概ね相当する画素の集合Rについて、この集合Rに含まれるあるひとつの画素x∈Rについて、集合Rの要素である全ての画素y∈Rに対して、以下の計算を行う。すなわち、上記の方法を用いて実際に残差r
k 〜(x,y)(k=1,…,K)を算出し、次に、上記の帰無仮説H
0”「r
k 〜(x,y)(k=1,…,K)は平均0、分散(1+(a
1 〜)
2)σ
2の正規分布に従う。」を棄却する場合の危険率p(x,y)ないし重みw(p(x,y))を(6)式により具体的に計算する。そして、重み付き平均
v′
k(x)を下式(15’)によって計算し、画素xにおける時間濃度曲線{<t
k,v′
k(x)−v′
1(x)>(k=1,2,・・・,K)}を構成する。
こうして得られた時間濃度曲線は、画素xにおける真の時間濃度曲線{<tk,dk>}の一次変換である{<tk,A(dk−d1)>}(だたしAは未知の係数)を近似している計測値であり、しかも、(15)式による重み付き平均の効果によって、ランダムなノイズが抑制されている。また、(15)式による計算に用いる他の画素yの画素値ベクトルに対しては、式から明らかなように、パーシャルボリウム効果の影響を補正したものが用いられている。さらに、本実施形態はコヒーレント・フィルタの共通の特徴である、「時間平均を全く使用せず、また空間平均を画素xとの適合度に基づく重みを使って計算する」という性質を有する。従って、本実施形態によって、時間分解能を損なわず、パーシャル・ボリウム効果の影響を抑制し、しかもランダムなノイズが抑制された時間濃度曲線を得ることができる。なお、このようにして時間濃度曲線を求める方式を、特に「コヒーレント・レグレッション法」と称す。
次に、具体的に、医療用のX線CTにおけるダイナミックCT撮影等で得られたダイナミック像における、時間濃度曲線の臨床的利用の一例を説明する。この応用例では、造影剤を血管に急速に注入しながら、ダイナミックCT等の撮影を行い、人体組織中に存在する動脈の像の濃度変化を時間濃度曲線として計測することによって、当該組織における血流動態を診断しようとするものである。
この応用例において、多くの場合、人体組織中の動脈は一般に非常に細いために、CTによる断層画像上に現れる動脈の像は、パーシャル・ボリウム効果を生じる。さらに、像にはランダムなノイズが含まれていることは言うまでもない。このため、従来の方法では、動脈に関する十分に正確な時間濃度曲線を得ることは困難であり、強いて計測を行えば、動脈に関する真の時間濃度曲線<tk,Dk>の一次変換である<tk,A(Dk−D1)>(ここにDkは動脈の像に相当する一群の画素の、時刻tkにおける(スカラー値である)画素値を表す。また、k=1,2,・・・,K)をある程度近似する測定値<tk,(vk(x)−v1(x))>しか得られなかった。この測定値はランダムなノイズを含む。また、パーシャル・ボリウム効果の影響のために、係数Aは未知のままである。
そこで、本発明に係る上記の方式を適用すれば、<tk,A(Dk−D1)>を十分に近似する測定値<tk,(v′k−3(x)−v′1(x))>(k=1,2,・・・,K)を得ることができる。一方、同じ断層画像上で観察できる静脈の中には、相当に太いものが存在し、従ってそれらの静脈に関しては、従来の方法で、時間濃度曲線の十分に良い近似値<tk,(Jk−J1)>(k=1,2,・・・,K)を得ることができる。ここにJkは静脈の像に相当する一群の画素の、時刻tkにおける画素値を表す。
ところで、血液循環に関する時間濃度曲線においては、命題S:「もし、時刻t1における血中の造影剤濃度が0であるならば、どの血管dに関する時間濃度曲線<tk,(dk−d1)>も、その曲線下面積(AUC:Area Under Curve)が一致する」という性質が成り立つことが知られている。ここで言う曲線下面積とは、時間濃度曲線<tk,(dk−d1)>の時間tに関する積分を意味する。
従って、ある血管dに関する時間濃度曲線<t
k,(d
k−d
1)>の曲線下面積AUC(d)は、例えば次式によって近似的に計算することができる。
従って、静脈に関して従来の方法で得られた時間濃度曲線{<t
k,(J
k−J
1)>}に関する曲線下面積AUC(J)を(30)式を用いて計算することができる。(dにJを代入すればよい。)また、動脈に関して、仮に、時間濃度曲線{<t
k,(D
k−D
1)>}が知られていれば、曲線下面積AUC(D)を(26)式を用いて同様に計算することができ、しかも上記命題Sに従って
であるため、AUC(D)は計算できない。
一方、本発明に係る方式で得られた時間濃度曲線<t
k,(v′
k(x)−v′
1(x))>は、<t
k,A(D
k−D
1)>を近似するものであり、後者は未知の係数Aを含んでいる。このため、{<t
k,(v′
k(x)−v′
1(x))>}から(30)式を用いて具体的に計算できる曲線下面積AUC(v′)は、AUC(D)のちょうどA倍でなくてはならない。すなわち、
未知であった係数Aの値が具体的に決定できる。そこで、この係数Aの値を用いて時間濃度曲線<tk,(v′k(x)−v′1(x))/A>を構成すれば、これは、動脈の時間濃度曲線<tk,(Dk−D1)>を近似するものに他ならない。このように、曲線下面積を用いて、未知であった比例係数Aの値を決定した時間濃度曲線を構成する方法を「AUC法」と呼ぶ。
以上から、ダイナミックCT撮影等で得られたダイナミック像における、時間濃度曲線の臨床的利用において、上記コヒーレント・レグレッション法に、さらに上記AUC法を組み合わせることによって、従来の方法では計測が困難あるいは不可能であった、細い動脈の時間濃度曲線に関しても、パーシャル・ボリウム効果およびランダムなノイズの影響を排除し、しかも、未知の比例係数Aを含まない測定値が得られる。
なお、もちろんAUC法は、単独で従来の方法で計測された動脈に関する時間濃度曲線<tk,(v′k(x)−v′1(x))>に対しても適用でき、(ランダムなノイズやパーシャル・ボリウム効果の影響は排除できないものの、)未知であった比例係数Aの値を決定した時間濃度曲線を構成できる。
上記コヒーレント・レグレッション法に、さらに上記AUC法を組み合わせて得られた時間濃度曲線は、例えばある画素xについて、図11において記号(A)で示すようなものとなる。なお、この図では、従来の方法で構成した時間濃度曲線に上記AUC法を単独で適用したもの(B)も併せて示している。(B)ではランダムなノイズの影響が明らかに見られるのに対し、(A)ではノイズが十分に抑制されており、しかも時間分解能が全く損なわれていないことが分かる。
なお、時間濃度曲線の濃度値として、上記の説明ではスカラー値dkを用いたが、本実施形態はこの場合に限定されるものではなく、たとえばダイナミック像を構成する個々の画像が、カラー画像であったり、より一般には多種類の画像の組であって、時間濃度曲線の濃度値がベクトル値として表現される場合においても、容易に拡張して適用できることは、言うまでもない。
( X 本実施形態の補足事項 )
以下では、上記までに述べた実施形態の補足事項につき説明する。
( X−1 一般的補足事項 )
まず、上記実施形態においては、本発明にいう「適合度」を定量化する手段として、帰無仮説Hを棄却した場合の「危険率」p(x,y)が想定されているが、本発明は、このような形態に限定されるものではない。最初に述べたように、「適合度」とは、画素x及びyが何らかの意味で類似であるか否かを表す数値的な『指標』であればよい。
また、これに関連して、上記では、上記各種の帰無仮説を棄却した場合の危険率を求めるのに、χ二乗検定法が用いられているが((6)式、(9)式参照)、本発明はこれにも限定されない。換言すれば、本発明は、「統計的検定法」、あるいはその具体的形態の一種たる「χ二乗検定法」を利用する形態のみに限定されることはない。
さらに、上記実施形態では、重みw(p(x,y))の具体的形式として、都合二種の重み関数w1((6)式、ないしは(9)式が代入された(10)式)及びw3((14)式)が挙げられているが、本発明は、これにも限定されるものではない。既に述べたように、危険率p(x,y)∈[0,1]の関数としての重み関数wが満たすべき性質は、w(t)が、定義域t∈[0,1]で定義される非負の単調増加関数である、ということだけである。そして、最も一般的にいえば、重み関数wは、「適合度に関する非負の単調増加関数」、であればよい。
( X−2 適合度に関するより一般的な形態)
本発明にいう「適合度」は、上記したような、帰無仮説を棄却する場合の危険率p(x,y)によって数値化を行う方式に限定されるものではない。従って「重み」も、前記危険率p(x,y)に重み関数wを作用させて算出する方式に限定されるものではない。以下では、このような適合度等に関するより一般的な形態に関し、具体的な例に沿った説明を行うこととする。
まず、一般的に要約すると、本発明では、画像処理の目的に応じて適切に設定された、或る命題に関し、その命題が処理対象である画像において成り立つということの確からしさを、目的に応じた適切な方式で数値化し、その数値を該画像処理に適用するという構成をとる。例えば、一対の画素x及びyの適合度を数値化するために、本発明では、より緩やかな尺度を構成してもよい。そのような具体例として、曖昧論理(fuzzy logic)等における特性関数(membership function)を利用して、上記適合度を数値化する、等の構成が考えられる。
( X−2−1 パターン認識に本発明を適用する例)
ここでは、適合度等に関するより一般的な形態の具体例として、画像上の特徴的なパターンを識別し抽出する、いわゆる「パターン認識」に、本発明を適用する場合の一つの例について説明する。
この場合には、あらかじめ、識別しようとするパターンの特徴をもとに、「画素xは当該パターンを構成する画素である」という命題の確からしさを表す関数m(x)を定義しておく。ただし、m(x)∈[0,1]とする。m(x)は、より詳細には、画素xの画素値であるベクトル値v(x)および、画素xの近傍にある画素の集合N(x)に含まれる各画素yの持つ画素値v(y)、並びに、画素の位置を表すベクトルxそのもの、などから、上記命題の確からしさを表す数値を算出するような関数である。従って、m(x)は抽出しようとするパターンと、抽出すべきでないパターンとの差異に応じて、適切に設計される必要がある。また、重み関数を
で定義する。そして、このm(x)が、ある「閾値」以上であるような画素の集合Xを構成すれば、パターンに該当する画素xの領域が得られる。
さて、処理すべき画像Pが与えられると、画像の全ての画素xについて、具体的な閾値Tと前記m(x)を上記重み関数に代入したw(T,m(x))を計算する(これによって、w(T,m(x))を特性関数とする集合X(すなわちw(T,m(x))=1であるような画素xの集合)が定義されたことになり、このXが画像P上で該パターンの占める領域に他ならない。)。さらに、新しい画像P’を以下のようにして生成する。すなわち、P’の画素xは、w(T,m(x))=1のときにはv(x)を画素値とし、さもなければ0(ゼロベクトル)を画素値とする。こうして作られた画像P’は、画像Pから該識別しようとするパターンに該当する以外の画素の画素値を0によって消去したものになっている。
もちろん、m(x)の計算、w(T,m(x))の計算、P’の構成の各処理をそれぞれ逐次行っても良いし、あるいは、これらの処理を一体化したソフトウエアによって計算を行うことも可能である。
この例においては、関数m(x)は、パターンの特徴と、画素xの画素値であるベクトル値v(x)およびxそのものの値とを照合して、パターンと画素xの「適合度」を数値化する。そして(34)式で定義される重み関数によって、重みw(T,m(x))が算出され、この重みと画像Pを使って、処理結果である新しい画像P’が構成される。
これに関する更に具体的な例として、航空写真や金属表面の顕微鏡写真等に写る細い線を抽出するための画像処理の構成を説明する。
初めに、「画素xは細い線を構成する画素である」という命題の確からしさを数値的に表す指標を構成する方法を説明する。
あらかじめ、画素xの近傍にある画素の集合N(x)を定義する。典型的には、N(x)は画素xを中心とする矩形エリアとして定義すればよい。そして、N(x)の各画素における画素値(スカラー値あるいはベクトル値)を並べた多次元ベクトル値v(x)を定義する。このベクトルの次元をKとする。典型的にはKは25〜169程度とするのが好適である。
次に、後の計算に補助的に用いるK次元ベクトル関数である、正規化関数nrmを次のように定義する。すなわち、v≠0である任意のK次元ベクトルvに対して正規化関数nrmは、
ただし、k=1,2,…,Kである。この正規化関数によって、任意のK次元ベクトルvについて(vがゼロベクトルでない限り)、
となることが保証される。
次に、任意にひとつの画素xを決め、背景が0である画像であって、画素xを通る1本の細い直線の像だけがあるような画像の典型例を適当な個数Jだけ集め、それらに画像番号1,2,...,Jを付ける。画像番号jの画像におけるv(x)の値を計算して、ベクトルr(j)を、次式
によって具体的に構成する。この計算をj=1,2,...,Jについて行う。(こうして構成されるJ個のベクトルr(j)を以下「パターンベクトル」と呼ぶことにする。なお、このパターンベクトルは、本発明にいう「別に構成された画素値」に該当する。)
また、関数m(x)を次式で定義する。
値を取り出す関数である。このように構成した関数m(x)は、画素xがパターンベクトルr(j)(j=1,2,...,J)のいずれかに一致もしくは類似する場合に、大きい値をとり、さもなければ小さい値を取るので、「画素xは細い線を構成する画素である」という命題の確からしさを数値的に表す指標、すなわち「適合度」を表す関数となっている。さらに、重み関数を
で定義する。ここにTは閾値となる定数であって、適当な値を設定する。
さて、処理すべき画像Pが与えられると、画像の全ての画素xについて、具体的な閾値Tと前記m(x)を上記重み関数に代入したw(T,m(x))を計算する。(これによって、w(T,m(x))を特性関数とする集合X(すなわちw(T,m(x))=1であるような画素xの集合)が定義されたことになり、このXが画像P上で該パターンの占める領域に他ならない。)
さらに、新しい画像P’を以下のようにして生成する。すなわち、P’の画素xは、w(T,m(x))=1のときにはv(x)を画素値とし、さもなければ0(ゼロベクトル)を画素値とする。こうして作られた画像P’は、画像Pから該識別しようとするパターンに該当する以外の画素の画素値を0によって消去したものになっている。
(ここにCは正の定数)
のように構成して、P’の画素xはw(T,m(x)V(x)を画素値とするように構成してもよい。これは、曖昧な論理によって「細い線」にあまり該当しないと判断される画素のコントラストを低下させることによって「細い線」の部分が浮き立つように画像P’を構成する効果を生じる。
( X−3 分散σ2の推定法に関する補足事項 )
次に、上記(6)式、あるいは(14)式に用いられる分散σ2(ないし標準偏差σ)の推定方法に関する補足説明を行う。
上記「X線CT撮影に適用した場合」においては、上記(6)及び(7)式により得られた分散の期待値E[σ2]が、K枚すべての画像上の全画素xについて妥当するという背景から、当該全画素xにつき一律に、当該E[σ2]を使用する形態となっていた。しかしながら、このような前提が満たされない場合、すなわち各画素x(ここでは、x1,…,xFとする。)につき、(分布の形が同一(例えばガウス分布)であるとしても)固有な分散σ2(x1),…,σ2(xF)が一般に想定される場合もある。
このようなときは、上記(6)及び(7)式により、当該各画素xにつき、個別に、分散の期待値E[σ2(x1)],…,E[σ2(xF)]を求めるようにすればよい。後は、このように個別に求められた期待値E[σ2(x1)],…,E[σ2(xF)]を、それぞれの場合に応じて(=着目している画素x1,…,xFに応じて)、(3)式に代入し、それぞれ、v′(x)=(v′1(x),v′2(x),…,v′K(x))を求めればよい。
また、全画素の画素値に含まれるノイズが共通の分散σ
2を持つと想定する場合には、分散σ
2の推定を行うために次のような方式を採ることも可能である。まず、すべての画素xの集合Ω(={x
1,…,x
F})について、上記(7)及び(8)式により求められた分散の期待値E[σ
2(x)]の平均(σ
2)
+を求め、これを(6)式におけるσ
2の推定値の第一近似とする。すなわち、
である。ただし、上式において、|Ω|は、集合Ωの要素の数(ここではすなわち、|Ω|=Fである。)を表している。次に、E[σ
2(x)]が上記平均値(σ
2)
+の、例えば数倍以内であるような画素xの集合をMとする。Mの要素であるような画素xだけを対象にして改めて平均をとったものを(σ
2)
++とすると、
となる。そしてこれは、よりもっともらしいσの推定値として利用することができる。
これは例えば、具体的に次に記すような場合、すなわち図12(a)に示すように、動画像を構成する二つの静止画像G1及びG2が存在しているが、図12(b)に示すように、これらの画像G1及びG2の差をとると、像Z1及びZ2が互いに若干ずれている(つまり、像Z1が、像Z2のように動いた)場合等に有効である。
上記(35)式の分散(σ2)+は、この図において、図12(b)に示されるような画像G3を構成するすべての画素x(=Ω)に基づき求められた分散に該当する。しかしながら、この場合においては、図12(c)に示すように、当該画像G3に関する確率分布図において、像G1及びG2とが互いに重ならない部分ζ1及びζ2とに起因する、例えば二つの山ζ1′及びζ2′を生じさせることになるから、当該分散(σ2)+は過大に見積もられていることになり、従ってこのまま全静止画像につき使用するのは不適切である。一方、図12(b)に示す部分ζMについては、図12(c)における中央の山ζM′が該当していると考えられるから、当該山ζM′を残し上記二つの山ζ1′及びg2′を取り除いた状態の確立分布図に関する分散を求める方が好ましい。そして、そのような分散こそが、上記(32)式における分散(σ2)++に該当する。
つまり、上記で「E[σ2(x)]が(σ2)+の、数倍以内であるような画素xの」集合Mのみを対象として平均をとったのは、図12(c)における山ζM′のみを抽出して平均をとる処理に他ならず、その結果、(σ2)++は図12(c)において、山ζ1′及びζ2′を取り除いた状態の確立分布図に関する分散を求めていることになる。
したがって、この場合においては、この(σ2)++を、上記(5)式等に代入することにより、各画素x1,…,xFについての、変換後の画素値v′(x)=(v′1(x),v′2(x),…,v′K(x))を、よりもっともらしい値を得ることができる。
なおまた、ノイズの推定に関し、一般的には、画像の隅に写る位置などに一様の明るさの被写体を置き、この部分に該当する画素の集合の値の分布を計測することによって、ノイズの分布を推定するという方法も有効である。
本発明において、ノイズの分布ないし分散の推定法は、基本的に如何なる方式によるものでもよく、ここに述べたいくつかの方式に限定されるものではない。実際的には、それぞれ各種の実施例において利用可能な先験情報、撮像過程理論、及び計測値ないし実測値等を用いて適宜、最も好適に求められる方式を採用すべきである。なお、この際、当該推定法は、それぞれの実施例において必要とされる実用的精度に合わせて、可能な限り簡易に構成することが、装置の構成を簡易化し、かつ、処理速度を向上する上で好ましい。
( X−4 本発明の更なる別の実施例)
最後に、上記で触れなかった、本発明の更なる別の実施例について補足説明する。
( X−4−1 データ圧縮の前処理としての実施例 )
一般に、ある画像Qにランダムなノイズを加えた画像Q′を作ると、画像Q′は画像Qに比べて遙かに大きい情報量を持つ(例外は、元の画像Qが非常に大きいノイズを含んでいる場合である。)。したがって、もしこのような画像Q′を通信や記録媒体に記録しようとすれば、実質的な意味を持たないノイズを記述するための情報量が、その通信や記録におけるビット数を浪費することになる。逆に言えば、画像Q′からノイズを抑制した画像Q′′を作り、これを通信や記録の対象とすれば、小さな情報量で、同じ意味を持つ画像(しかもそれは鮮明である。)を表現できるようになる。
一般に画像を通信や記録の対象とする場合、当該画像は、いわゆる「圧縮処理」を受けることが多い。これは、可能な限り伝送又は記録すべき情報量を小さくして、高速通信又は(一つの記録媒体に対する)大量記録を可能とすることを目的としている。実用上、特に情報量を小さくしたいのは「動画像」の場合である。これらは非可逆画像圧縮技術において広く知られている事実である。
これらの事項を踏まえれば、ノイズを含んだ画像Q′を圧縮するよりも、当該ノイズを抑制した画像Q′′を圧縮した方が、通信や記録に必要なビット数(すなわち情報量)を小さくすることができる。
そこで、通信又は記録しようとする画像Q′に対し、本発明に係るコヒーレント・フィルタをかけてそのノイズを抑制する前処理(具体的には、「前処理装置」をハードウェアで構成するか、あるいはソフトウェアで構成する。以下同じ。)を実施すれば、時間分解能・空間解像度を損なわずにノイズを抑制した画像Q′′が得られる上、当該画像Q′′を高圧縮率で圧縮することが可能であり、通信・記録に必要な時間・メモリが大幅に節約できる。
( X−4−2 2次元又は3次元領域抽出処理の前処理としての実施例 )
航空写真などの2次元画像や、上記MRI装置等による3次元分布画像から、特定の領域を抽出する処理がしばしば行われる。例えば、前者の航空写真では道路のみの領域を抽出したり、後者のMRI装置等による人体頭部の3次元分布画像では血管のみの領域を抽出し、これをレンダリングしてコンピュータグラフィックスとして表示するような処理である。特に、後者の血管に関する影像では、これを回転させたり、様々な方向から観察すること等が可能となり、脳血管障害の診断等において重要な技術として認識されている。
このような領域抽出を行う場合、最も簡単かつ基本的に行われている処理は、いわゆる「閾値処理」である。すなわち、閾値処理とは、上記2次元画像や3次元分布画像等を構成する各画素xのスカラー値が、ある一定の閾値以上であるかどうかによって、各画素xを分類する処理のことをいう。そして、特定の分類に入る画素xのみからなる画素の集合をレンダリングすれば、上記領域抽出を経た画像、すなわち例えば「血管のみの立体形状像」を表すことができる(ただし、従来技術としても、「閾値処理」以外にも、様々な方式が使われている。)。
ところで、このような領域抽出処理においては、元となる画像(上記にいう2次元画像や3次元分布画像等)にノイズが少ないことが望ましい。なぜなら、画像にノイズがある場合、例えば、本来血管ではない場所にある画素が、あたかも血管であるかのような画素の値を持ち、逆に、本来血管である場所に存在する画素が、血管ではないかのうような画素の値を持つ、という状態が生じるからである。従ってこの場合には、複雑な後処理によって、そのような誤って分類された画素を取り除く工程が必要になる。また、現状においては、上記元となる画像上のノイズを除くために、従来の技術の項で述べたような「平滑化処理」を行うことが一般的に行われているが、この場合、空間解像度が損なわれ、抽出したい領域の細かい構造(例えば、細い血管など)が失われてしまうという問題がある。
そこで、上記元となる画像、すなわち2次減画像や3次元分布画像に対し、本発明に係るコヒーレント・フィルタをかけてそのノイズを抑制する前処理を実施すれば、空間解像度を損なわずに画像のノイズを抑制することができるから、結果、正確な領域抽出処理を実施することができる。
なお、これに類似する実施例については、既に、上記「1枚の画像から画素値v(x)を構成する」場合において述べた(図8(c)を参照)。
101…X線管、102…X線検出器、103…データ収集部、104…前処理部、105…メモリ部、106…再構成部、107…画像表示部、108…制御部、109…入力部。