JP4862109B2 - 原子間力顕微鏡装置 - Google Patents

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Description

本発明は、原子間力顕微鏡装置に関する。
原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope(AFM))は、探針を試料表面に沿って走査することで、表面凹凸によるカンチレバーの変位を測定し、これを表面の像として形成し、試料の表面をナノスケールで測定する装置である。一般に近接する二つの物体(この場合、探針先端と試料のこと)には必ず力が作用するため、表面凹凸による力の変化をカンチレバーの変位として測定するAFMは試料に対する制約が原理的には存在しない。このためSTM(走査型トンネル顕微鏡)では観察できない絶縁体表面の構造も観察することができる。
AFMによる得られる観察像の精度はフィードバック制御器の性能によるが、従来の制御方式であるPI制御などの古典制御では、機構の共振周波数によりその帯域が制限されるという問題がある。そこで現在ではその性能向上に向けて様々な取り組みがなされている。
例えば、AFMのzピエゾ素子の駆動を素早くするためのカウンターバランス法やアクティブダンピング法(非特許文献17、非特許文献18)、シフトモードもしくはライン毎の情報をフィードフォワード補償する方法(非特許文献13)、カンチレバーのQ値制御(非特許文献19)などがAFMの制御に導入されている。しかしながら、 それらのほとんどはPI制御などの古典的な制御が一般的であり、アナログ回路での実装が主流となっている(非特許文献20)。あるいはHループシェービング法(非特許文献21)や適応制御法(非特許文献15)などの現代制御も適用されているが、Bodeの積分定理などによりフィードバック制御系が受ける制約は免れない。
AFMの動作方式としては、コンタクトモード、ノンコンタクトモード、タッピングモードの3つの方式がある。コンタクトモードは、探針を試料表面に接触させて走査を行う接触方式、ノンコンタクトモードは探針を試料表面に接触させず、カンチレバーの振動周波数の変化から表面形状を測定する非接触方式、タッピングモードは探針を試料表面に周期的に接触させ、カンチレバーの振動振幅の変化から表面形状を測定する周期的接触方式である(非特許文献2、3を参照)。このうち、コンタクトモードによる表面形状の解析方法は、カンチレバーの変位を一定に保つようにピエゾのZ軸を制御し、その操作量u(t)を表面形状として記録する方法が一般的であるが、上述のように機構の共振周波数によりその帯域が制限されてしまう欠点があった。
そこで、非特許文献1では、外乱オブザーバによる試料の表面推定方法(STO)が提案されている。この制御法は、プラントのモデル化により、物体の表面形状は外乱オブザーバと同様の推定機構により推定できることを明らかにしている。このことから、STOは、閉ループによる帯域制限がないため、操作量u(t)が実際に表面形状に追従しなくても、従来法に対して優位であることが示されている。
なお、非特許文献10では、ハードウェアを工夫することによりAFMの高速化を行っているが、以下で説明する本発明に係る実施形態では、制御を工夫することによりAFMの高速走査における画像の劣化を防ぐ。
「原子間力顕微鏡のナノスケールサーボ装置の製作と制御に関する研究」, 電気学会産業計測制御研究会,IIC−06−132,p.1−6(2006) 「はじめてのナノプローブ技術」,工業調査会(2001) 「走査型プローブ顕微鏡」,丸善(2005) 「システム制御理論入門」,実教出版(2000) 「マルチレートフィードフォワード制御を用いた完全追従制御法」,計測自動制御学会論文集,36,p.766−772(2000) 「スイッチング制御とPTCに基づく磁気ディスク装置のRRO補償」,電気学会産業計測研究会,IIC−04−69,p.13−18(2004) 「Harmonic analysis based modeling of tapping mode AFM」,Proceedings of the American Control Conference,p.232−236(1999) 「MATLABによる制御のためのシステム同定」,東京電機大学出版局(1996) 「MATLABによる制御のための上級システム同定」,東京電機大学出版局(2004) 「高速ビデオレートAFM」,計測と制御、第45巻、第2号、p.99−104(2006) 「表面形状学習型PTCに基づく原子間力顕微鏡のナノスケールサーボの提案」, 電気学会産業計測制御研究会,IIC−07−52,p.7−12(2007) 「原子間力顕微鏡のナノスケールサーボ装置の製作と制御に関する研究」,電気学会産業計測制御研究会,IIC−06−132,p.1−6(2006) 「Robust Two−Degree−of−Freedom Control of an Atomic Force Microscope」,Asian Journal of Control,Vol.6,No.2,p.156−163(2004) 「Robust Control Approach to Atomic Force Microscopy」,Conf. Decision Contr.,p.3443−3444(2003) 「On Automating Atomic Force Microscopes: An Adaptive Control Approach」,Conf. Decision Contr.,p.1574−1579(2004) 「Digital control of repetitive errors in disk drive system」,IEEE Contr.Syst. Mag.,Vol.10,No.1,pp.16−20(1990) Rev.Sci.Instrum.,76,053708(2005) Proc.Natl.USA.Sci.USA,98,12468(2001) Phys.Rev.Lett.90,046808(2003) 「Proposal of Surface Topography Observer for Tapping Mode AFM」,IIC−07−119(2007) 「Robust Control Approach to Atomic Force Microscopy」,Conf.Decision Contr.,p.3443−3444(2003) 「Proposal of Surface Topography Learning Observer for Contact Mode AFM」,IIC−07−117,p.7−12(2007) 「Zero Phase Error Tracking Algorithm for Digital Control」,Trans.ASME,Journal of Dynamic Systems,Measurement,and Control,Vol.109,p.65−68(1987) 「Zeros of sampled system」,Automatica,20,1,p.31−38(1984) 「Perfect Tracking Control Method Based on Multirate Feedforward Control」,Trans.SICE,Vol.36,No.9,p.766−772(2000)
しかしながら、STOはプラントのモデル化誤差が大きいとき、正確な測定を不可能にする欠点がある。
上記課題を解決するために、本発明に係る原子間力顕微鏡装置は、試料表面の表面形状をコンタクトモードで画像化する原子間力顕微鏡装置であって、試料表面と原子間力を介して相互作用する探針を有し、原子間力によってたわみを生ずるカンチレバーと、カンチレバーに向けて第1のレーザ光を入射するレーザ光提供手段と、カンチレバーが第1のレーザ光を反射することにより発せられた第2のレーザ光を検出する光検出手段と、試料を載せたピエゾ素子と、試料表面と探針との間の距離をピエゾ素子に入力電圧を入力することにより制御し、第2のレーザ光の強度の相対変化からカンチレバーのたわみを出力電圧として検出し、行きの走査の間に表面形状を計測および記憶し、行きの走査と同一ラインの帰りの走査において、記憶された表面形状を用いて制御し、出力電圧から、試料表面の表面形状を推定するコントローラと、推定された表面形状を記録するデータ記憶手段とを備えたことを特徴とする。
本発明は、追従誤差をできるだけ零にすることにより、高速走査による画像の劣化を抑えることができる。
図1は本発明に係る原子間力顕微鏡装置(AFM)の概略を示す図である。 図2はコンタクトモードに基づくカンチレバーの先端と試料表面との間に働く相互作用力を示す図である。 図3は本発明に係るAFMにおける信号の流れを示すブロック図である。 図4はマルチレート制御を示す図である。 図5は制御の手順を示す図である。 図6は面走査経路を示す図である。 図7は面走査経路を示す図である。 図8はボーデ線図を示す図である。 図9は出力電圧の時間変化を示す図である。 図10は一巡伝達関数を示す図である。 図11は表面形状オブザーバ(STO)のブロック図である。 図12は表面形状学習型PTC(STL−PTC)のブロック図である。 図13はエラー信号に対するシグナルジェネレータを示す図である。 図14は補感度関数を示す図である。 図15は本発明に係るAFMにおいて、従来法を採用して、矩形波状の試料表面を走査したときの出力電圧をシミュレーションした結果を示す図である。 図16はSTOにおけるQ(s)の周波数応答を示す図である。 図17は本発明に係るAFMにおいて、STOを採用して、矩形波状の試料表面を走査したときの出力電圧をシミュレーションした結果を示す図である。 図18Aはグレーティング素子の形状を示す図である。 図18Bはグレーティング素子の形状を示す図である。 図19は本発明に係るAFMにより計測された試料の一画像中のエラー信号の重ね合わせを示す図である。 図20は本発明に係るAFMにより計測された試料の一画像中のエラー信号の重ね合わせを示す図である。 図21はエラー信号の標準偏差を示した図である。 図22は本発明に係るAFMにより計測された試料の一画像中のエラー信号の重ね合わせを示す図である。 図23は本発明に係るAFMにより計測された試料の一画像中のエラー信号の重ね合わせを示す図である。 図24はエラー信号の標準偏差を示した図である。 図25は本発明に係るAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図26は本発明に係るAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図27は本発明に係るAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図28は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の高さの頻度を示す図である。 図29は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の高さの頻度を示す図である。 図30は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の高さの頻度を示す図である。 図31は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の断面波形を示す図である。 図32は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の断面波形を示す図である。 図33は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の断面波形を示す図である。 図34は本発明に係るAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図35は本発明に係るAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図36は本発明に係るAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図37は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の高さの頻度を示す図である。 図38は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の高さの頻度を示す図である。 図39は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の高さの頻度を示す図である。 図40は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の断面波形を示す図である。 図41は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の断面波形を示す図である。 図42は本発明に係るAFMにより計測された試料の表面凹凸の断面波形を示す図である。 図43はボーデ線図を示す図である。 図44はボーデ線図を示す図である。 図45は一巡伝達関数を示す図である。 図46は一巡伝達関数を示す図である。 図47は改良型表面形状学習型PTC(STL−PTC)のブロック図である。 図48はシグナルジェネレータを示す図である。 図49は表面形状学習型オブザーバ(STLO)のブロック図である。 図50はQフィルタの周波数応答を示す図である。 図51はQフィルタの周波数応答を示す図である。 図52はAFMによる矩形波状の試料表面の走査をシミュレーションした結果を示す図である。 図53はAFMによる矩形波状の試料表面の走査をシミュレーションした結果を示す図である。 図54はAFMによる矩形波状の試料表面の走査をシミュレーションした結果を示す図である。 図55はAFMによる矩形波状の試料表面の走査をシミュレーションした結果を示す図である。 図56はグレーティング素子の形状を示す図である。 図57は標準偏差を示す図である。 図58は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である。 図59は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である。 図60は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である。 図61は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である。 図62は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である。 図63は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である。 図64はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図65はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図66はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図67はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図68はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図69はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図70はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図71はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図72はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図73はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図74はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図75はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図76はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図77はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図78はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図79はAFMにより計測された試料の断面波形を示す図である。 図80は周波数特性を示す図である。 図81は周波数特性を示す図である。 図82は周波数特性を示す図である。 図83は周波数特性を示す図である。 図84は本実施形態に係る制御機構を示す図である。 図85はシミュレーションの結果を示す図である。 図86はシミュレーションの結果を示す図である。 図87はシミュレーションの結果を示す図である。 図88はシミュレーションの結果を示す図である。 図89は周波数特性を示す図である。 図90は周波数特性を示す図である。 図91は周波数特性を示す図である。 図92は周波数特性を示す図である。 図93はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図94はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図95はAFMにより計測された試料の画像を示す図である。 図96は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である 図97は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である 図98は誤差信号を重ね合わせた波形を示す図である 図99はシミュレーションの結果を示す図である。 図100はシミュレーションの結果を示す図である。 図101はシミュレーションの結果を示す図である。 図102はシミュレーションの結果を示す図である。 図103はシグナルジェネレータを示す図である。 図104はシミュレーションの結果を示す図である。 図105はシミュレーションの結果を示す図である。 図106はシミュレーションの結果を示す図である。 図107はシミュレーションの結果を示す図である。 図108はシミュレーションの結果を示す図である。 図109はシミュレーションの結果を示す図である。
<第1の実施形態>
図1に、一例として、本発明に係るAFM100の概略図を示す。図1において、AFM100は、カンチレバー101に取り付けられた探針102を試料表面103に沿って走査し、試料表面103と探針102との間に働く原子間力によるカンチレバー101のたわみと摩擦力によるゆがみを測定することで、試料表面103の構造をナノスケールで測定する。
図1に示したAFM100において、レーザ光104が、レーザ光提供手段110によってカンチレバー101の背面に斜めから入射される。そして、カンチレバー101のたわみとゆがみに起因する変位によるレーザ光104の反射角の変化が、四分割フォトダイオード105に入射するレーザ光106の強度の相対変化から検出される。最終的に、AFM100は、レーザ光106の強度の相対変化から、カンチレバー101のたわみとゆがみを検出し、試料表面103の構造を測定することができる。
なお、ここで示した態様は、あくまでも一例であって、レーザ光106の強度の相対変化を検出する装置は、四分割フォトダイオードに限らず、レーザ光の強度の相対変化を検出可能な光検出手段であればよい。また、レーザ光提供手段110として、例えば、可視光半導体レーザを用いることができる。
図1に示されているAFM100において、コントローラ108は、カンチレバー101の変位が一定になるようにピエゾ107を制御する。そして、コントローラ108の出力が変換されて、試料表面103の表面形状として、データ記憶手段109に記録される。
(1:AFMの光検出方式)
表面凹凸による「カンチレバーの変位」を測定するには、レーザ光の干渉を測定する方法(光干渉方式)と、カンチレバーの変位によるレーザ光の反射角の変化を測定する光テコ方式がある。本実施形態では、より一般的とされている光テコ方式を用いている。
光テコ方式は、図1に示されているように、1〜4までの各ダイオードに入射する光強度の相対変化を測定するもので、テコの先端(カンチレバー先端)のY方向のたわみとテコの先端のX方向へのねじれを見る。前者には光強度の(1+2)−(3+4)の相対変化を、後者には(1+4)−(2+3)の相対変化を検出する。後者は特に、摩擦力の測定となり、AFMと区別してFFM(Friction Force Microscope)と呼ばれる。本実施形態に係るAFMは、たわみのみを測定するので検出方法としては前者のAFMとなる。
(2:コンタクトモードによるモデル化)
AFMに外乱オブザーバを用いる場合やコントローラの設計のためには、制御対象のモデル化が必要となる。そこでAFMのモデルはカンチレバーと探針・試料間の相互作用から考え、図2のようなモデルを採用する(非特許文献1、7を参照)。測定モードとしては、今回はモデル化を簡単にするためコンタクトモードで測定を行った。
試料にコンタクトした瞬間のバネの長さは自然長であるため、バネ203のバネ係数をk、バネ203の自然長をL10、バネ201のバネ係数をk、バネ201の自然長をL20とする。また、bは、摩擦力発生源205のダンパ係数、現在の長さをそれぞれL、Lとおき、uをピエゾに対する操作量、dを試料の凹凸とする。このとき、試料とカンチレバーの相互作用は、図2のように表される。ただし、F(t)は、カンチレバーがバネ201から受ける力、すなわち試料からの原子間力を示している。
図2のモデルから質量mをもつカンチレバーの運動方程式をたてれば、
Figure 0004862109
とできる。このモデルから試料の凹凸が入力外乱とモデル化できることを、非特許文献1は示している。実際の実験では、カンチレバーの変位yをフォトダイオードとレーザ光を用いて測定しているため、プラントの伝達関数にある一定のゲインgを掛けた値となる。ゲインgと出力の関係については次章で説明する。なお、式(1)の詳細な導出方法は、例えば、非特許文献1に記載されている。
(3:システム同定)
(3−1:AFMの構築)
本発明に係るAFMを、例えば、日本電子株式会社製造のJSPM−5200に、必要な入力信号のインターフェースを接続し、Dspace1104等のコントローラボードを用いることにより制御系のアルゴリズムやハードウェアに改良を加えて構築しても良い。制御系のアルゴリズムの詳細に関しては、例えば、非特許文献8や非特許文献9を参照することができる。
図3は、本発明に係るAFMにおける信号の流れを示すブロック図である。図3において、試料を走査するとカンチレバー101の変位がPD(フォトダイオード)105によって出力され、この信号がAD305により変換されDSP(デジタルシグナルプロセッサ)内でy[i]として入力される。また、DSP内でDA301により変換された操作量u[i]は、アンプ302により増幅し駆動電圧としてPZT(ピエゾ)107に印加される。このアンプによるゲインはK=20、PZTの駆動電圧はKPZT=15.59[nm/V]である。また、DSP内でのAD/DAのゲインは1になるように調整されている。
PDの出力x[V]はカンチレバーの変位がフォースカーブにしたがって電圧として出力される。したがって、カンチレバーの変位x[V]をy[nm]として換算するためには、PZTの駆動電圧とPDからの出力の関係式をフォースカーブから求めKPD=3.61×10−2[V/nm]を得た。
なお、このKPDはJSPM−5200によるフォースカーブの測定データを1次近似したものから求めた結果である。フォースカーブについては、例えば、非特許文献1に示されている。
(3−2同定実験)
システム同定実験では、実験により得られた入出力データを元に最小2乗法を用いてモデルの推定を行う。同定条件としては同定入力(疑似外乱)にM系列信号を、モデルの推定にはARXモデルを用いた(非特許文献8を参照。)。最小2乗法を用いることにより、離散時間における伝達関数は分母2次、分子1次で表され、これを零次ホールドで連続時間に変換する。同定された伝達関数の遅い零次は無視できないため、(1)式からの伝達関数は(2)式で表すことができる。ここで注意されたいのは、M系列信号はカンチレバーに直接与えることはできないので、図3において、DA301を経由して、M系列信号をPZTに入力し、AD305の出力から推定を行う。
Figure 0004862109
図8には、ボーデ線図が示されており、式(2)による上記モデルのプラントの周波数特性とサーボアナライザにより同定された周波数特性が比較されている。同定したプラントは5610[Hz]に大きな共振を持ち、低域においてもゲインが高いことがわかる。
また、図9には、本発明に係るAFMにより観測された電圧の時間変化と上記モデルが与える電圧の時間変化との比較が示されている。図9より、モデル出力が測定出力(実際の出力)をある程度再現できていることを確認できる。
(4:コントローラの設計)
(4−1:従来法によるコントローラの設計)
今回提案法との比較に用いるコントローラは製品で使われているコントローラを使用し、これを従来法とした。コントローラの式は以下に示される。
Figure 0004862109
ただし、実験装置がマニュアル通り発振する直前までチューニングしたところ、比例ゲインk=64、ω=2πf(f=0.5[Hz])として設計を行った。図10は、プラントとコントローラに対する一巡伝達関数を示している。図10から従来法は、カットオフ周波数が252[Hz]であり、これは比例制御とローパスフィルタがこの帯域まで追従できることを示している。また、ゲイン余裕14.3[dB]、位相余裕89.5[度(deg)]という結果が得られる。
(4−2:表面形状オブザーバ(STO))
操作量uと測定出力yから、外乱となる試料表面の凹凸dをオブザーバを用いて推定する。その推定値
Figure 0004862109
はノミナルプラントの逆モデル
Figure 0004862109
を通した信号から操作量u(t)を差し引いたものを、カットオフ周波数ωのローパスフィルタQ(s)を通して得ることができる。図11は、STOの推定ブロック図を示している。図11において、推定ブロック1100の中の推定ブロック1102は、フィードバックループ1101とは独立に、開ループの外乱オブザーバとして、実現されているのが特徴的である。図11において、表面形状703を時刻tにおける入力端外乱d(t)とみなせる。そして、表面形状の推定値が出力1104から得られる。
非特許文献1では、この特別な外乱オブザーバを表面形状オブザーバ(STO)と呼ばれている。STOは、オープンループで構成されているため、閉ループの帯域に制限されず、ナイキスト周波数まではQ(s)の帯域を上げることができる。したがって、実際にu(t)が凹凸に追従しなくても、すなわち追従誤差eが零でなくてもノミナルプラントがモデル化誤差を待たなければω以下の周波数でも正確に試料の凹凸dを推定することができる。またオブザーバの周波数応答は
Figure 0004862109
であり、Q(s)は2次系のローパスフィルタから次式で表すことができる。
Figure 0004862109
(4−3:提案法によるコントローラの設計)
前節で示したSTOはオープンループで構成されているため、閉ループの帯域よりもQ(s)の帯域を上げられるのが良いとされてきた。しかしながらオブザーバはオープンループであるがゆえに、u(t)の追従性が大きく失われると、Lennard−Jonesポテンシャル(非特許文献1を参照)によってプラントのモデル化誤差が大きくなり、ロバスト安定性を大きく失ってしまうことになる。したがって、モデル化誤差の原因となる追従誤差eを零にすることでSTOによるデメリットを克服することを考える。そこで、本実施形態では、PTC法を適用することにより、学習した追従誤差eから生成した目標軌道(後述)に対して完全追従し、フィードフォワード的に追従誤差eを抑圧することで制御性能の向上を達成する。
PTC法は、図4に示されているような、目標軌道のサンプリング周期Tと制御周期Tが異なる2自由度制御系である。指令値の1サンプル周期Tの間に制御入力をTごとにn回切り替える制御法である。ただしnはプラントの次数である。通常、シングルレートでプラントの逆システムを構成しようとすると、線形連続時間系のプラントを短いサンプリング周期で離散化をしたときに生じる不安定零点の影響により、フィードフォワード制御器が不安定となる。したがって、マルチレート制御にすることによりフィードフォワード制御器はプラントの安定な逆システムを作ることができる(非特許文献5を参照)。
(4−3−1:制御対象の離散化)
図2でモデル化した2次の制御対象を離散化することを考える。状態変数をxとすると連続時間系の状態法定式は次式となる。
Figure 0004862109
Figure 0004862109
短い方のサンプリング周期Tで離散化した状態方程式は
Figure 0004862109
Figure 0004862109
と表せる。ただし、x[k]=x(kT)であり
Figure 0004862109
である。
(4−3−2:表面形状学習型PTC)
以下において、試料上でカンチレバーを往復走査させて試料の表面形状を計測するAFMにおいて、行きの走査の間に追従誤差を計測および記憶し、帰りの走査において記憶された追従誤差を用いて追従精度を上げる表面形状学習型PTCについて説明する。
まず、AFMの制御に、通常のPTC法を用いると、目標値はカンチレバーの平衡位置であるため零となる。したがって、このまま走査を行えばフィードバック制御のみとなり、従来の制御法にしかならない。非特許文献6によると、周期的な外乱をサンプル点ごとに抑圧する繰り返しPTC法を適用することができるが、AFMの測定に関して試料の表面形状が周期的なもののみを選ぶことはできない。
そこで、AFMのスキャン方法に注目し、行きと帰りの走査において試料の表面形状を学習・制御するのが、表面形状学習型PTC(Surface Topography Learning with PTC(STL−PTC))である。なお、今回は試料の観察にグレーティング素子を用いたが、制御は特にグレーティングでなくても適用可であることに注意されたい。
図12は、STL−PTCのブロック図を示している。図12に示されているSTL−PTCの推定ブロックにおいて、表面形状1201が入力され、データ記憶手段1202に、推定された表面形状が記憶される。また、符号1203は、シグナルジェネレータを指し、符号1204は、スイッチを指している。操作量uは表面形状データを表し、目標値を零とするので出力(電圧)yがエラー信号eとなる。エラー信号eがより小さくなれば、その時のuを画像化したときに、より正確な画像がとれることを意味する。すなわち、このエラー信号eが、表面形状学習型PTCで用いられる追従誤差となる。
図6は、本発明に係るAFMのプローブの面走査経路を示している。図6に示されているように、試料の画像測定では、本発明に係るAFMに搭載されたCPUにより記憶装置に格納されたSTL−PTCを実行するプログラムが読み出されて実行されることにより、X方向走査において開始位置から走査幅だけ右方向へスキャンが行われ、同じ経路を左方向へスキャンすることで走査開始位置へプローブが戻される。そして、同様にして、Y方向に繰り返し走査が行われることで、面走査が行われる。
このX方向における右方向への走査(行きの走査)をフォワードスキャン(FWS)、左方向への走査(帰りの走査)をバックワードスキャン(BWS)と呼び、双方のスキャンで画像を測定することができる。探針がFWSとBWSで全く同じ経路を走査しているとするならば、スキャン時に現れるエラー信号も理想的には全く同じになるはずである。
そこで、表面形状学習型PTCでは、FWS時に計測および記憶することにより学習したエラー信号から、BWS時に現れるエラー信号を打ち消すように制御した学習制御を行う。これにより、フィードバック制御のエラー信号e(追従誤差)を減少させて、追従性を向上させることができる。
図5は、本発明に係るAFMにおける制御の手順を示している。図5に示されているように、Xのスキャン波形は三角波形をしており、FWS501とBWS502で画像の測定を行っている。このFWS時に図13のスイッチ1(SW1)をT(=メモリの段数N×出力信号のサンプリング周期T)秒間オンとし、(スイッチのオンとオフは、符号503が指すグラフの高低で示されている。)図13に示されているスタックメモリ1301からなるシグナルジェネレータによりエラー信号を記憶する。BWS時にはスイッチ2(SW2)をオンにすることで、シグナルジェネレータが誤差を零にするための目標軌道を生成し、PTCにより誤差を零にする。したがって、N段のメモリ列はフィードフォワード補償器として働くことができ、エラー信号をサンプル点ごとに抑圧することが可能となる。ただし、FWS時はシグナルジェネレータによる出力はないものとする。
図5において、符号504、506、508は、学習過程を指し、符号505、507、509は、制御過程を指している。
ここで、制御対象は2次であるので状態変数xが
Figure 0004862109
のとき、エラー信号に対するシグナルジェネレータを、図13に示されているように設計できる(非特許文献6を参照)。ただし、r[i]と
Figure 0004862109
は次式となる。
Figure 0004862109
Figure 0004862109
また、STOはオープンループであるのでモデル化誤差によりロバスト性が失われるが、提案法はフィードバック制御で補償される。
(4−3−3:PTC(完全追従制御)法)
PTC法はフィードフォワード制御器とフィードバック制御器からなるマルチレート制御にすることにより、シングルレートでは達成できない完全追従を達成する(非特許文献5を参照)。
ここでフィードフォワード制御器の設計について述べる。プラントの次数n=2であることから2サンプル目について式(8)、(9)を考え、時刻t=iT=kTとすると次式が得られる。
Figure 0004862109
Figure 0004862109
Figure 0004862109
式(13)で表される制御対象の離散時間状態方程式から次式の安定な逆システムが得られる。
Figure 0004862109
(8)式の制御対象が可制御であれば、行列Bの正則性は保証され、(14)式は極がz平面の原点にあることから、安定な逆形であることがわかる。したがって参照値r[i]として制御対象に対する目標軌道の予見値r[i]=x[i+1]を与えれば、フィードフォワード制御出力が(15)式が与えられ、ノミナルプラントに対してサンプル点上での完全追従が達成される。外乱やプラントに変動があるときはフィードバック制御器C[z]により補償される。また、PTCが成立するときのノミナル出力は式(16)で表される。
Figure 0004862109
Figure 0004862109
(5:シミュレーションおよび実験)
(5−1:STOのシミュレーション)
矩形波状の試料に対するシミュレーションとして、従来法とオブザーバによる推定外乱を図14〜17に示した。
図14は、従来法により得られる補感度関数を示す。
図15は、本発明に係るAFMにおいて、従来法を採用して、矩形波状の試料表面を走査したときの出力電圧をシミュレーションした結果を示す図である。
図16は、STOにおけるQ(s)の周波数応答を示す図である。
図17は、本発明に係るAFMにおいて、STOを採用して、矩形波状の試料表面を走査したときの出力電圧をシミュレーションした結果を示す図である。
図14から、従来法では、閉ループの極はプラントの共振周波数に制限されてしまうが、図16から、STOのオブザーバはプラントの共振周波数に依存せず、ナイキスト周波数に制限されなければローパスフィルタの極に依存していることを確認できる。これにより、図15の操作量(u)と比較して図17の推定値(
Figure 0004862109
)は、より正確に試料の表面形状(d)を再現することができる。
以下では、実際に、本発明に係るAFMを用いた実験による検証を行い、その挙動を確認する。
(5−2:グレーティング素子の観察)
図18A、Bは、本発明に係るAFMが観察するグレーティング素子1801の形状と寸法を示している。このようなグレーティング素子として、例えば、株式会社島津製作所製の平面ブレーズドホログラフィックグレーティング標準品を使用しても良い。図18A、Bに示されているグレーティング素子の形状は鋸波状溝になっているのが特徴であり、ガラス基板上に樹脂にて回折格子溝が形成され、この溝にAl等の反射膜がコーティングされている。
(5−3:実験)
本発明に係るAFMのDSPのサンプリング周波数を、一例として、10[kHz]とし、以下に示すような結果が得られた。
図25は、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面を従来法により走査して得られた、グレーティング素子の表面の画像を示している。
図26は、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTOにより走査して得られた、グレーティング素子の表面の画像を示している。
図27は、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTL−PTCにより走査して、得られたグレーティング素子の表面の画像を示している。
ここで、図25〜27において、走査スピードは、32.2μm/sである。
図28は、図25の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面を従来法により走査して得られた、グレーティング素子の表面凹凸の高さの頻度のヒストグラムを示している。
図29は、図26の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTOにより走査して得られた、グレーティング素子の表面凹凸の高さの頻度のヒストグラムを示している。
図30は、図27の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTL−PTCにより走査して得られた、グレーティング素子の表面凹凸の高さの頻度のヒストグラムを示している。
図31は、図25の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面を従来法により走査して得られた、グレーティング素子の断面波形を示している。
図32は、図26の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTOにより走査して得られた、グレーティング素子の断面波形を示している。
図33は、図27の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTL−PTCにより走査して得られた、グレーティング素子の断面波形を示している。
図34は、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面を従来法により走査して得られた、グレーティング素子の表面の画像を示している。
図35は、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTOにより走査して得られた、グレーティング素子の表面の画像を示している。
図36は、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTL−PTCにより走査して得られた、グレーティング素子の表面の画像を示している。
ここで、図34〜36において、走査スピードは、161μm/sである。
図37は、図34の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面を従来法により走査して得られた、グレーティング素子の表面凹凸の高さの頻度のヒストグラムを示している。
図38は、図35の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTOにより走査して得られた、グレーティング素子の表面凹凸の高さの頻度のヒストグラムを示している。
図39は、図36の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTL−PTCにより走査して得られた、グレーティング素子の表面凹凸の高さの頻度のヒストグラムを示している。
図40は、図34の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面を従来法により走査して得られた、グレーティング素子の断面波形を示している。
図41は、図35の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTOにより走査して得られた、グレーティング素子の断面波形を示している。
図42は、図36の場合と同一の条件で、本発明に係るAFMにより、上述したグレーティング素子の表面をSTL−PTCにより走査して得られた、グレーティング素子の断面波形を示している。
ここで、図28、30、37、39に示されているヒストグラムは、操作量u(t)から求められる試料の高さに関するヒストグラムであり、図29、38に示されているヒストグラムは、推定値
Figure 0004862109
から求められる試料の高さに関するヒストグラムである。さらに図31〜図33、図40〜図42は、図25〜図27、図34〜図36における画像の断面を0.125μmおきに10列重ねた波形である。
また、図25〜42において、走査スピードは、図6に示されているx方向にスキャンする速度を表している。走査レンジは、走査スピードが、32.2μm/sと161μm/sの両方の場合に、5.5μm×5.5μmあり、スキャン全体にかかる時間はそれぞれ約3分、約40秒である。図25〜図27の各図に示されている画像は走査スピード32.2μm/sの時の拡大図、図34〜図36の各図に示されている画像は走査スピード161μm/sの時の拡大図である。なお、拡大後の画像のレンジは1.6μm×1.6μmである。
図34に示されているように、走査スピードを大きくすると従来法では、図25に示されている走査スピードが小さい場合と比較して、画像が大きく劣化する。一方、図35に示されているように、STOでは、図26示されている走査スピードが小さい場合と比較して、画像の劣化が減少しており、STOは、従来法より優れていることがわかる。
また、走査スピードを大きくした場合、図37に示されている従来法のヒストグラムでは、高さの示す割合が極端に少ないのに対し、STOは高さの示す割合は比較的大きいことがわかる。また、断面波形においても図32に示す従来法よりも、図41に示すSTOの方が凹凸の起伏が大きいことも確認できる。しかし、従来法において、u(t)が、試料の表面に対する追従性を大きく失うということは、STOによるモデル化誤差が大きくなり画像が劣化しやすいとも言える。このことは、図35に示されているSTOの画像が、図36に示されているSTL−PTCの画像よりも劣化の度合いが大きく、STL−PTCの方が、STOよりも優れていることからもわかる。
なお、図28〜30に示されているヒストグラムにおいて、凸領域の頻度が増加しているのは、凸部分が丸くなっており、この領域の走査量が増加していること意味する。また、従来法とSTL−PTCの比較として、エラー信号を±3σで評価したものが、図21、24に示されている。図21と図24において、学習制御なしは、従来法の結果を示しており、学習制御ありは、STL−PTCの結果を示している。図21は、走査スピードが32.2μm/sの場合を示しており、凹凸の高さ(60nm)に対して4.53%改善している。一方、図24は、走査スピードが161μm/sの場合を示しており、凹凸の高さ(60nm)に対して52.5%改善されていることがわかる。
また、図19、20、図22、23は、1画像中のエラー信号とデータ点(データ取得点)との関係を重ね合わせたものである。
(6:まとめ)
以上説明した本発明に係る実施形態により、従来法とSTOの違いが示され、従来法に対するSTOの優位性を確認することができた。しかし、STOはプラントのモデル化誤差に対してロバストでない問題があるため、試料の凹凸の急激な変化のある地点を観測するときに、モデル化誤差が大きくなり、走査スピードが大きくなると、STL−PTCから得られる画像の方が、STOから得られる画像よりも劣化の度合いが少なくなる。これは、STL−PTCは、追従誤差をPTCにより抑圧でき、モデル化誤差に対してはフィードバックで補償されるため、急激な凹凸の変化に対するSTOの欠点を克服することができるからである。
<第2の実施形態>
第2の実施形態においても、図2に示されているような試料表面103とカンチレバーの先端102との相互作用に関するコンタクトモードに基づくモデルを用いて、質量mをもつカンチレバーの先端についての運動方程式をたてると、式(1)のようになる。
このモデルから、非特許文献2に示されている方法により、試料表面103の凹凸を入力外乱とするモデル化できる。本実施形態におけるプラントの伝達関数は、非特許文献9に示されているシステム同定の方法により、以下のように同定される。
Figure 0004862109
図43、44には、式(17)によるプラントの周波数特性とサーボアナライザ(株式会社小野測器製)により同定した周波数特性とが比較して示されている。式(17)のように同定されたプラントは、5590[Hz]に大きな共振を持ち、低域においてもゲインが高いことがわかる。
(実験装置の内部構成)
本実施形態で用いるAFMは、日本電子株式会社製のJSPM−5200の特別仕様であるが、これは一例であり、本実施形態を組み込むことが可能なAFMであればどのようなものでも良い。また、dSPACE1104を用いて、AFMの制御機構を、本実施形態を実施できるように改造しても良い。
図3は、本実施形態に係るAFMの内部における信号の流れをブロック図で示している。
図3の符号310で指し示されているように、試料表面103を走査するとカンチレバーの先端102の変位がPD(四分割フォトダイオード)105によって検出され信号として出力される。そして、この信号がAD(ADコンバータ)305によりAD変換されDSP(デジタルシグナルプロセッサ)内でy[i]として入力される。
まず、PD(四分割フォトダイオード)105の出力x[V]は、フォースカーブ(カンチレバー先端に働く力とカンチレバー先端と試料間の距離との関係式)にしたがって出力される。そして、本実施形態では、PDの出力x[V]を、y[nm]×KPD[V/nm]=x[V]という変換式を用いてカンチレバーの変位y[nm]に換算することができる。なお、本実施形態では、フォースカーブから、KPD=2.24×10-2[V/nm]としている。
なお、KPDは、本実施形態では、一例として、JSPM−5200によるフォースカーブ(非特許文献2)の測定データを1次近似したものから求めている。
また、図3の符号320で指し示されているように、DSP内でDA(DAコンバータ)301によりDA変換された操作量u[i]は、アンプ302により増幅され駆動電圧としてPZT(ピエゾ)107に印加される。アンプ302によるゲインは、Kg=20、PZTの駆動電圧に対するPZTの伸びの比率は、KPZT=15.59[nm/V]である。すなわち、u[V]×KPZT[nm/V]という演算によりu[V]がピエゾの変位に変換される。
また、DSP内でのAD/DAのゲインは、1になるよう調整されている。
(従来法によるコントローラの設計)
本発明に係る実施形態との比較に用いる従来法によるコントローラは、製品に用いられている位相遅れ補償器である。従来法によるコントローラの伝達関数は、式(3)のようなものである。
ここで、従来法によるコントローラでは、ゲイン余裕18.8[dB]、位相余裕81[deg]、比例ゲインkp=64、ωc=2πfc(fc=0.5[Hz])にチューニングされている。
図45、46は、プラントとコントローラに対する一巡伝達関数を示している。図46から従来法によるコントローラのカットオフ周波数は、177[Hz]であることがわかる
(改良型表面形状学習型PTCによる改良)
従来法や非特許文献12のSTOによる欠点を克服するために、非特許文献11では表面形状学習型PTC(STL−PTC)が提案されている。本実施形態では、非特許文献11で提案されている表面形状学習型PTCをさらに改良した改良型STL−PTCを用いる。この改良型STL−PTCの学習アルゴリズムにより、学習した追従誤差eに対して完全追従することにより、高精度でAFMにより観測する表面画像を推定することができる。
改良型STL−PTCにおいても、ここでは、図2に示されているようにモデル化した2次の制御対象を、式(6)〜(16)を用いて離散化する。
図47は、改良型STL−PTCのブロック図を示している。
図47に示されている改良型STL−PTCの推定ブロックにおいて、表面形状4701が入力され、データ記憶手段4702に推定された表面形状が記憶される。
改良型STL−PTCは、FWS時の出力信号(誤差)をBWS時の指令値として使用して、走査するため、FWS時の最後に得られるデータをBWS時に用いる最初のデータとして保存するスタックメモリを含むシグナルジェネレータ4703を必要とする。図47に示されているブロック図の特徴は、演算4704に、離散化されたノミナルプラントPn[z]を含んでいる点にある。このような外乱推定機構を設置することにより、FWS時とBWS時の出力信号のダイナミクスを一致させることができる。
図48は、シグナルジェネレータ4703の詳細を示している図である。
図48に示されているように、FWS時のスイッチ1(SW1)をT(=メモリの段数Nd×サンプリング周期Ty秒間オンとし、図47に示されている外乱推定機構による外乱推定値の出力端換算値
Figure 0004862109
は、スタックメモリ4801を通過し、スタックメモリ1301に記憶される。スタックメモリに記憶された
Figure 0004862109
は、感度関数4802
Figure 0004862109
を通過することにより、BWSの出力信号に変換される。BWS時にはスイッチ2(SW2)をオンにすることで、シグナルジェネレータが誤差を零にするための目標軌道を生成し、PTCによりフィードフォワード的に誤差を抑圧する。
図5は、本発明に係るAFMにおける制御の工程を示している。スイッチの切り替えは、図5に示されているように、Xのスキャン波形を観測することにより制御される。図5に示されているように、Xのスキャン波形は三角波形をしており、FWS1101とBWS1102で画像の測定を行っている。このFWS時に図48のスイッチ1(SW1)をT(=メモリの段数Nd×出力信号のサンプリング周期Ty)秒間オンとし、(スイッチのオンとオフは、符号1103が指すグラフの高低で示されている。)図48に示されているスタックメモリ4801を含むシグナルジェネレータ4703によりエラー信号を記憶する。BWS時にはスイッチ2(SW2)をオンにすることで、シグナルジェネレータが誤差を零にするための目標軌道を生成し、PTCにより誤差を零にする。したがって、Nd段のメモリ列はフィードフォワード補償器として働くことができ、エラー信号をサンプル点ごとに抑圧することが可能となる。ただし、FWS時はシグナルジェネレータによる出力はないものとする。
図5において、符号1104、1106、1108は、学習過程を指し、符号1105、1107、1109は、制御過程を指し示している。
ここで、制御対象は、2次であるので状態変数xが
Figure 0004862109
のとき、エラー信号に対するシグナルジェネレータ4703は、図48に示されているように設計できる。ここで、速度指令値
Figure 0004862109
は、式(12)のようになる。
(表面形状学習型オブザーバ(STLO))
本実施形態におけるSTL−PTCは、指令値のサンプル周期Tr(=nTu)ごとに追従誤差を零にすることで等価的に操作量u(t)の追従性能を向上させることができる。しかしながら、制御機構が複雑であるということと、プラントPn[z]のダイナミクスを含むため、学習信号とBWS時のエラー信号が完全一致しないという問題がある。
そこで、本実施形態では、表面形状学習型オブザーバ(Surface Topography Learning Observer(STLO)も用いる。STLOは、離散化プラントの逆システムを適用することにより推定された外乱を、系の安定性に影響することなくフィードフォワード的に外乱を抑圧して、高精度でAFMにより観測する表面画像を推定することができる。
また、STLOは、STL−PTCと同様に、FWS時においてはリアルタイムで外乱を推定する必要はない。したがって、1サンプル遅れたプラントの逆システムを作ることにより、制御周期Tu(0.1msec(ミリ秒))ごとに外乱dを抑圧することができる。ただし、外乱は、0次外乱オブザーバで推定されるので、任意波形に関しては理論的に1サンプル遅れた外乱を推定できるとは限らないということに注意する必要がある。
図49は、STLOの制御ブロック図を示している。
図49に示されているSTLOの推定ブロックにおいて、表面形状4901が入力され、データ記憶手段4902に推定された表面形状が記憶される。図49に示されているブロック図の特徴の1つは、演算4904に、離散化されたノミナルプラントPn[z]の逆数P-1 n[z]を含んでいる点にある。
STLOでは、離散化プラントの逆システムにより1サンプル遅れて推定された
Figure 0004862109
は、FWS時でSW1をT秒間オンとし、スタックメモリ4903がこれを保存する。BWS時においてはスタックメモリが推定外乱を1サンプル遅く出力させることで、BWS時における外乱
Figure 0004862109
をサンプル点ごとに抑圧することができる。STLOでは、補償後における誤差やモデル化誤差、FWS時には存在しなかった外乱がBWS時に入ってきた場合には、フィードバックコントローラC[z]で補償される。
ここで、1サンプル遅れて推定された外乱
Figure 0004862109
は、モデル化誤差が小さければ、
Figure 0004862109
となる。ここで、Δは、モデル化誤差である。
0次ホールドで1サンプル遅れて離散化されたノミナルプラントの逆システムは離散時間モデルから導出する。式(8)、(9)、(10)からz変換を用いるとパルス伝達関数は
Figure 0004862109
となる。式(19)から式(17)を離散化し、1/zを掛ければ
Figure 0004862109
と計算される。ただし、サンプリング時間は、0.1msec(ミリ秒)である。
本実施形態では、ノイズカットのために、位相遅れのないローパスフィルタQ[z]を導入している。これはQフィルタ(非特許文献16)と呼ばれ、
Figure 0004862109
の入力をr[k]、Qフィルタの出力rf[k]とすると、以下の式(21)で表される関係式が成り立つ。
Figure 0004862109
また、Qフィルタの周波数応答は、図50、51に示されている。
(シミュレーション)
図52、53に矩形波状の試料表面を走査したときのシミュレーションの結果が示されている。図52、53において、0.02sec(秒)より以前が従来法のシミュレーションの結果を示し、0.02secより以降が改良型STL−PTCのシミュレーションの結果を示している。
ここで、図52は、ピエゾの操作量u(t)の時間変化を示しており、図53は、出力信号y(t)の時間変化を示している。
また、図54、55に矩形波状の試料表面を走査したときのシミュレーションの結果が示されている。図54、55において、0.02secより以前が従来法のシミュレーションの結果を示し、0.02secより以降がSTLOのシミュレーションの結果を示している。
ここで、図54は、ピエゾの操作量u(t)の時間変化を示しており、図55は、出力信号y(t)の時間変化を示している。
改良型STL−PTCにおいて、指令値(スタックメモリにより学習した信号)のサンプリング時間Trが0.2msec(ミリ秒(10-3秒))であることから、出力信号のサンプリング時間Ty(0.1msec)に対してサンプル点間で補償されない。このため、図53において、0.02secより以降に、誤差が生まれる。さらに外乱がステップとなるので、プラントの影響により、FWS時で学習した信号
Figure 0004862109
がBWS時の信号を不必要に改悪させてしまうことになる。ただし、目標軌道には6段のQフィルタを設置することにより、この影響を低減させている。
これに対して、STLOでは、出力信号と同じTy時間で外乱
Figure 0004862109
を打ち消すように制御するので、サンプル点間で誤差が生まれない。したがって、図55のような結果が得られる。
(グレーティング素子の観察)
本実施形態に係るAFMによる試料観察では、試料として、一例として、株式会社島津製作所製の平面ブレーズドホログラフィックグレーティング標準品を使用する。このグレーティング素子の形状は矩形波状になっており、ガラス基板上に樹脂にて回折格子溝が形成され、この溝にAl等の反射膜がコーティングされている。図56は、本実施形態に係るAFMで観察するグレーティング素子5601の形状および寸法を示している。
図64は、AFMにおいて従来法を用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図65は、AFMにおいてSTOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図66は、AFMにおいて改良型STL−PTCを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図67は、AFMにおいてSTLOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図68は、AFMにおいて従来法を用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図69は、AFMにおいてSTOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図70は、AFMにおいて改良型STL−PTCを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図71は、AFMにおいてSTLOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図65、69において、STOのローパスフィルタの極は、2000Hzである。また、図64〜67において、AFMの走査レンジは、5.5μm×5.5μm(図64〜67では、3μm×3μmの走査領域を拡大して示している。)である。そして、図64〜71において、AFMの走査スピードは、32.2μm/秒である。
図72は、AFMにおいて従来法を用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図73は、AFMにおいてSTOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図74は、AFMにおいて改良型STL−PTCを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図75は、AFMにおいてSTLOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた画像を示している。
図76は、AFMにおいて従来法を用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図77は、AFMにおいてSTOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図78は、AFMにおいて改良型STL−PTCを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図79は、AFMにおいてSTLOを用いて、グレーティング素子5601の表面を走査して得られた断面波形を示している。
図73、77において、STOのローパスフィルタの極は、2000Hzである。また、図72〜75において、AFMの走査レンジは、5.5μm×5.5μm(図72〜75では、3μm×3μmの走査領域を拡大して示している。)である。そして、図72〜79において、AFMの走査スピードは、322μm/秒である。
図64(図68)と図72(図76)とを比較することにより、AFMの走査スピードを上げると従来法では画像が大きく劣化することがわかる。また、図72(図76)と図73(図77)とを比較することにより、従来法と比較して、AFMの走査スピードを上げても、STOでは画像の劣化が減少していることがわかる。しかしながら、AFMの走査スピードを上げて、高速走査をすると、STOでも、高速走査によるu(t)の追従性が大きく失われ、モデル化誤差が大きくなり、矩形波の形状を正確に画像化することができなくなることが図73からわかる。
これに対し、改良型STL−PTCにより画像化された表面形状は、STOにより画像化されたものよりも矩形に近いことが図74(図78)からわかる。これは、フィードフォワード補償が誤差信号を抑圧することにより、u(t)の追従性能を向上したからだと考えられる。しかしながら、モデル化誤差とサンプル点間応答の影響により、改良型STL−PTCでも、所望のピッチを持つ形状よりも大きく画像化されてしまっている。
一方、STLOは、推定された外乱からフィードフォワード的に外乱を打ち消すため、モデル化誤差に対してはフィードバックで補償され、改良型STL−PTCよりもu(t)の追従性能が向上している。このため、STLOは、矩形波の形状を正確に画像化していることが図75(図79)からわかる。
この誤差信号の抑圧を定量的に評価するため、図57には、従来法、改良型STL−PTC、STLOの±3σが示されている。標準偏差は、約100走査分の誤差信号における評価を示している。
上記の誤差信号を重ね合わせた波形が、図58〜63に示されている。
図58〜60は、AFMの走査スピードが32.2μm/秒の場合の誤差信号である。図58は、AFMにおいて従来法を用いたときの誤差信号である。図59は、AFMにおいて改良型STL−PTCを用いたときの誤差信号である。図60は、AFMにおいて、STLOを用いたときの誤差信号である。
図61〜63は、AFMの走査スピードが322μm/秒の場合の誤差信号である。図61は、AFMにおいて従来法を用いたときの誤差信号である。図62は、AFMにおいて改良型STL−PTCを用いたときの誤差信号である。図63は、AFMにおいて、STLOを用いたときの誤差信号である。
図57に示されているように、AFMの走査スピードが32.2μm/秒の場合において、改良型STL−PTCでは、従来法に対して54.6%、±3σが改善され、STLOでは、従来法に対して68.1%、±3σが改善されている。また、AFMの走査スピードが322μm/秒の場合において、改良型STL−PTCでは、従来法に対して69.8%、±3σが改善され、STLOでは、81.0%、±3σが改善されている。
<第3の実施形態>
本実施形態は、以下で説明するように、STLOにおいて、低次モデルを用いて容易にプラントの周波数特性を同定できる簡易同定法、および零位相差逆モデル(ZPEI)を用いて改良したSTLOを含む。
(AFMの内部構成)
本実施形態で用いるAFMは、日本電子株式会社製のJSPM−5200の特別仕様であるが、これは一例であり、本実施形態を組み込むことが可能なAFMであればどのようなものでも良い。また、dSPACE1104を用いて、AFMの制御機構を、本実施形態を実施できるように改造しても良い。
図3は、本実施形態に係るAFMの内部における信号の流れをブロック図で示している。
図3の符号310で指し示されているように、試料表面103を走査するとカンチレバーの先端102の変位がPD(四分割フォトダイオード)105によって検出され信号として出力される。そして、この信号がAD(ADコンバータ)305によりAD変換されDSP(デジタルシグナルプロセッサ)内でy[i]として入力される。
まず、PD(四分割フォトダイオード)105の出力x[V]は、フォースカーブ(カンチレバー先端に働く力とカンチレバー先端と試料間の距離との関係式)にしたがって出力される。そして、本実施形態では、PDの出力x[V]を、y[nm]×KPD[V/nm]=x[V]という変換式を用いてカンチレバーの変位y[nm]に換算することができる。なお、本実施形態では、フォースカーブから、KPD=4.2804×10-2[V/nm]としている。
なお、KPDは、本実施形態では、一例として、JSPM−5200によるフォースカーブ(非特許文献2)の測定データを1次近似したものから求めている。
また、図3の符号320で指し示されているように、DSP内でDA(DAコンバータ)301によりDA変換された操作量u[i]は、アンプ302により増幅され駆動電圧としてPZT(ピエゾ)107に印加される。アンプ302によるゲインは、Kg=20、PZTの駆動電圧に対するPZTの伸びの比率は、KPZT=15.59[nm/V]である。すなわち、u[V]×KPZT[nm/V]という演算によりu[V]がピエゾの変位に変換される。
また、DSP内でのAD/DAのゲインは、1になるよう調整されている。
本実施形態においても、図2に示されているような試料表面103とカンチレバーの先端102との相互作用に関するコンタクトモードに基づくモデルを用いて、質量mをもつカンチレバーの先端についての運動方程式をたてると、式(1)のようになる。
このモデルから、非特許文献2に示されている方法により、試料表面103の凹凸を入力外乱とするモデル化できる。本実施形態では、カンチレバーの変位yをフォトダイオードとレーザ光を用いて測定しているため、プラントの伝達関数にはある一定のゲインgを掛けた値となる。式(1)は、本実施形態では、以下に示すようにして、同定される。
(簡易同定法)
本実施形態に係る簡易同定法は、同定入力をswept sineとしたときの周波数特性から、標準2次系の周波数応答に基づいてフィッティングを行う方法である。以下、簡易同定法の同定アルゴリズムについて述べる。
(同定アルゴリズム)
標準2次系の伝達関数は、
Figure 0004862109
である。式(22)の振幅値を取り、ゲインが最大値を取る時のピーク角周波数
Figure 0004862109
にて、以下の式(23)に示すゲインのピーク幅Mを得ることができる。
Figure 0004862109
またMは、M=g−g[dB](式(24))から測定される。ここで、gはピークゲインであり、gは、直流ゲインである。
式(24)から得られたMを用いれば、式(23)からダンピング係数は一意に決まる。
このように、直流ゲインとピークゲイン、ピーク周波数を実験により得られた周波数応答から自動的に取得するようにプログラムを組むことで、標準2次系の概形が得られる。
以上の手順で、以下の式(25)のような2次モデルの伝達関数が得られる。
Figure 0004862109
なお、サーボアナライザから取得した周波数特性から、Matlab(登録商標)(Signal Processing Toolbox)に用意されたinvfreqsコマンドにより同定した以下の高次(4次)モデルを比較のために用いる。
Figure 0004862109
ここで、b=9.46×10、b=1.149×1012、b=2.809×1018、a=8414、a=1.648×10、a=6.378×1012、a=4.387×1017である。
図80、81は、簡易同定法により得られた低次(2次)モデルの周波数特性(点線)とサーボアナライザから得られた周波数特性(実線)を示している。また、図82、83は、invfreqsコマンドにより得られた高次(4次)モデルの周波数特性(点線)とサーボアナライザから得られた周波数特性(実線)を示している。図80(81)と図82(83)との比較より、簡易同定法により得られた低次モデルは、invfreqsコマンドにより得られた高次モデルを高精度で近似することができることがわかる。
(コントローラの設計)
本実施形態との比較に用いる従来法によるコントローラは、製品に用いられている位相遅れ補償器である。従来法によるコントローラの伝達関数は、式(3)のようなものである。
ここで、従来法によるコントローラでは、ゲイン余裕12.2[dB]、位相余裕83.7[deg]、比例ゲインkp=64、ωc=2πfc(fc=0.5[Hz])、開ループのカットオフ周波数=206[Hz]にチューニングされている。
(零位相差逆モデル(ZPEI)(非特許文献23)を用いたSTLO)
ZPEIを用いたSTLOとは、以下で説明する単方向型表面形状学習オブザーバ(Single Direction−Surface Topography Learning Observer:SD−STLO)の欠点を補うものである。
単方向型表面形状学習オブザーバ(SD−STLO)は、図7に示されている走査経路において、行きの走査(FWS)において得られた表面形状データを、帰りの走査(BWS)におけるフィードフォワード信号として与え、表面形状に対する追従精度を向上させるものである。SD−STLOの制御機構は、図84に示されるSWをすべてSW1にした構造となる。つまり、図49と同じである。ただし、離散化プラントは最小位相であると仮定し、これの逆システムを作れば、FWS時の推定外乱は
Figure 0004862109
となるので、スタックメモリから出力された学習外乱dstack[k]は、
Figure 0004862109
がBWS開始時に時間軸方向に反転されたデータ構造となり、dstack[k]=zd[k]となる。したがって、BWS時には位相進み分を修正した学習外乱uff[k]=z−1stack[k]とすれば、実外乱と完全一致する。ただし、d[k]は、実外乱を0次ホールドしたものと近似している。
SD―STLOにより、非周期的な外乱に対しても適応可能である(非特許文献22)が、離散時間における逆システムを用いているため、離散時間非最小位相プラントに対しては適用できない。相対次数が3次以上の連続時間モデルは、0次ホールドを用いて離散化すると必ず不安定零点が生じるため(非特許文献24)、高次モデルに対してはSD−STLOを設計できない。
例えば、invfreqsにより同定したものをT=0.05[ms]で離散化すると、以下の式(28)
Figure 0004862109
Figure 0004862109
となり、不安定零点z=−1.2375±0.1560iをもってしまう。
そこで、本実施形態では、高次モデルに対しても安定な逆モデルを設計できるようにするために、零位相差逆モデル(ZPEI)を用いて、高次モデルにおいてもSTLOを適用できるようにする。
零位相差逆モデル(ZPEI)は、以下のようにして導出される。
いま0次ホールドを用いて離散化した制御対象を次式とする。
Figure 0004862109
ここで、z−1は、遅れ演算子である。式(29)の分子および分母の多項式において、
Figure 0004862109

Figure 0004862109
、d=n−mである。ここで、A[z−1]は安定であると仮定している。不安定零点を扱うために、制御対象の分子を安定零点と不安定零点の2つの部分に分ける。
Figure 0004862109
ここで、B[z−1]は、不安定零点および安定限界零点を根とするs次モニック多項式であり、B[z−1]は、安定零点を根とする(m−s)次多項式である。このときのプラントの零位相差逆モデル(ZPEI)は次式で表される。
Figure 0004862109
ただし、B[z]=B[z−1]zである。
式(31)を追従制御系に適用する場合、制御対象の前に置き、[s+d]ステップ分だけ進めた目標値の未来値r[k+s+d]を与えれば、目標値rから出力yまでの伝達関数がすべての周波数において位相遅れが生じない零位相特性が達成される(非特許文献23)。SD−STLOにZPEIを適用する場合、未来値を与える必要はない。なぜなら[s+d]ステップ分だけ遅れたFWS時の学習信号は、BWS時において修正できるからである。このときのSTLOの制御機構は図84に示されるスイッチをすべてSW2とした構造となる。ZPEIを用いたSD―STLOの制御アルゴリズムは次にように説明できる。
まず、式(28)における安定零点および不安定零点を求めると、外乱d[k]から推定外乱
Figure 0004862109
までの出力方程式は、
Figure 0004862109
となる。s+dステップ分遅れて推定された
Figure 0004862109
は、FWS時で、図84のSFWをTFW秒間オンとし、スタックメモリがこれを記憶する。BWS時においてはスタックメモリが
Figure 0004862109
なる信号を出力するので、式(33)をuff[k]=z−(s+d)stack[k]とすれば、低周波領域のみ実外乱d[k]と一致させることができる。したがって、BWS時における実外乱は低周波領域のみ制御周期のサンプル点で抑圧される。高周波領域においては、図87,88に示されているように、ゲインが低下するため実外乱と一致させることはできない。なお、スイッチングのタイミングは、図5に示されているように、Xスキャン波形を観測することによって制御されている。
(2次モデルと4次モデルに対するSD−STLOの比較)
以下で、2次モデルの実外乱dと学習外乱uffとの比、uff/dの周波数特性と4次モデルの実外乱dと学習外乱uffとの比、uff/dの周波数特性とを比較する。
(シミュレーションによる比較)
図85〜88は、uff/dのシミュレーション結果を示す。
図85、86は、本実施形態に係る簡易同定法により同定された2次モデルをSD−STLOを用いたときの、BWS時のuff/dの周波数応答のシミュレーション結果を示している。図85、86より、本実施形態に係る簡易同定法により同定された2次モデルをSD−STLOで用いたときに、ノミナルプラントに対して、ゲインは低下することなくかつ位相遅れなく推定できていることがわかる。
図87、88は、4次モデルとZPEIをSD−STLOで用いたときの、BWS時のuff/dの周波数応答のシミュレーション結果を示している。図87、88より、位相遅れはないが高周波領域でゲインが低下しており、零位相差逆モデル(ZPEI)の特性が現れていることがわかる。
(実験による比較)
図89〜92は、実際のAFMにおけるuff/dを示す。
図89、90は、本実施形態に係る簡易同定法により同定された2次モデルをSD−STLOを用いたときに、実際のAFMから得られたBWS時のuff/dの周波数応答の結果を示している。図89、90のゲイン特性において、約4[kHz]〜7[kHz]にかけてゲインが増加しているが、これは図80、81に示される2次モデルP(s)と実際の制御対象のモデル化誤差の影響が出ていると考えられる。位相特性に関してもやはりモデル化誤差が影響し、高周波の遅れが目立っていることがわかる。
図91、92は、4次モデルとZPEIをSD−STLOを用いたときに、実際のAFMから得られたBWS時のuff/dの周波数応答の結果を示している。
図91、92では、4次でモデル化されていることから、モデル化誤差による影響が小さく、シミュレーションに近い結果が得られていることがわかる。
以上により、低次モデルに対する離散時間最小位相プラントでは、高周波領域においてゲインが低下するという問題はないが、モデル化誤差により推定外乱
Figure 0004862109
が変動しuff/dの周波数特性が大きく変動してしまうことがわかる。高次モデルでは、モデル化誤差による影響は少ないが、高周波領域においてゲインが低下するため、推定外乱
Figure 0004862109
が劣化する。
(試料の計測)
以下では、本実施形態に係るAFMにより、島津製作所株式会社の平面ブレーズドホログラフィックグレーティング標準品(グレーティング素子)を試料として計測した結果について述べる。本実施形態に係るAFMの計測対象である、図18A、Bに示されているグレーティング素子1801は、ノコギリ波状になっており、ガラス基板上に樹脂にて回折格子溝が形成され、この溝にアルミ等の反射膜がコーティングされている。
図93は、従来法を本実施形態に係るAFMで用いて、グレーティング素子1801の表面を走査したときに得られる試料表面の三次元画像を示す。
図94は、AFMにおいて、SD−STLOで2次モデルを用いて、グレーティング素子1801の表面を走査したときに得られる試料表面の三次元画像を示す。
図95は、AFMにおいて、SD−STLOで4次モデルとZPEIを用いて、グレーティング素子1801の表面を走査したときに得られる試料表面の三次元画像を示す。
図93〜95に示されている計測において、走査レンジは、3μm×3μmであり、図93〜95は、試料の5.5μm×5.5μmの中央拡大図である。また、図93〜95に示されている計測において、走査スピードは、322μm/sで、走査全体にかかる時間は約20秒である。
図93〜95に示されているように、2次モデルと4次モデルを用いたSD−STLOをAFMで用いると、従来法に比べて試料表面の三次元画像の劣化を少なくすることができる。
図96は、従来法を本実施形態に係るAFMで用いて、グレーティング素子1801の表面を走査したときに得られる誤差信号(エラー)を重ね合わせたものを示す。
図97は、AFMにおいて、SD−STLOで2次モデルを用いて、グレーティング素子1801の表面を走査したときに得られる誤差信号(エラー)を重ね合わせたものを示す。
図98は、AFMにおいて、SD−STLOで4次モデルとZPEIを用いて、グレーティング素子1801の表面を走査したときに得られる誤差信号(エラー)を重ね合わせたものを示す。
図96〜98に示されているように、2次モデルと4次モデルを用いたSD−STLOをAFMで用いると、従来法に比べて、誤差信号(エラー)を小さくすることができる。 すなわち、2次モデルと4次モデルを用いたSD−STLOをAFMで用いると、誤差信号(外乱による影響)を小さくし、表面形状に対する制御入力の追従性能を向上させることができる。
また、誤差信号を定量的に評価すると、走査速度が32.2μm/sのときに、従来法の場合の±3σは62.4[nm]となり、STLOの場合の±3σは、38.6[nm]となり、ZPEIを用いたSTLOの場合±3σは、40.3[nm]となる。このように、STLO、およびZPEIを用いたSTLOの±3σは、いずれも従来法よりも小さく、STLO、およびZPEIを用いたSTLOにより試料の形状を従来法よりも高精度で計測することができる。
上述のように、ZPEIを用いたSTLOは、離散時間非最小位相プラントに対しても安定な逆モデルを設計することができるので、高次モデルでも低次モデルと同様な制御アルゴリズムを構成できる。これにより、AFMにおいて、ZPEIを用いたSTLOを用いることにより、試料の形状を、従来法よりも高精度で計測することができる。
<第4の実施形態>
本実施形態は、以下で説明するように、PLS−STLPTCを含む。
(前列走査型表面形状学習PTC(PLS−STLPTC))
本実施形態に係る前列走査型表面形状学習PTC(Pre−Line Scanning Surface Topography Learning with PTC(PLS−STLPTC))は、以下で説明する単方向型表面形状学習PTC(SD−STLPTC)(非特許文献11)の欠点を補うものである。
SD−STLPTCでは、実信号と学習信号にできるだけ差異が生じないように、外乱推定機構(図47)を設置する必要があった。図48に示されているように、FWS時のスイッチ1(SW1)をT(=メモリの段数N×サンプリング周期T)秒間オンとし、外乱推定機構により推定された出力端外乱
Figure 0004862109
はスタックメモリ4801に記憶される。記憶された
Figure 0004862109
は感度関数4802
Figure 0004862109
を通過することにより、BWSの出力信号に変換される。BWS時にはスイッチ2(SW2)をオンにすることで、シグナルジェネレータが誤差を零にするための目標軌道を生成し、PTCによりフィードフォワード的に誤差を抑圧する。
ここで、制御対象は2次であるので状態変数xが
Figure 0004862109
のとき、エラー信号に対するシグナルジェネレータは図48のように設計できる。ただし、速度指令値
Figure 0004862109
は、式(12)となる。
上記のSD−STLPTCによる制御を用いて、実際の出力信号(実信号)と学習信号および外乱と制御入力のシミュレーションの結果を図99〜102に示す。図99、100は、矩形波サンプルの計測のシミュレーションの結果を示したものであり、図101、102は、三角波サンプルの計測のシミュレーションの結果を示したものである。矩形波サンプルと三角波サンプルのいずれの計測のシミュレーションの結果において、学習信号は実信号に対して厳密に折り返された形ではないことがわかる。これは、FWS時とBWS時の外乱形状が異なることから、実信号と学習信号のダイナミクスに差異が生じるためである。つまり、ダイナミクスに差異を生じさせないためには、BWS時の出力信号はBWS時の外乱から生成しなければならない。SD−STLOに適用されている方法で外乱を推定することはできるが、プラントの条件や高周波領域における学習信号の劣化が問題となるので、入力端外乱を出力端外乱に換算しなければならない。この時FWS時の出力信号にはプラントPn[z]のダイナミクスが影響することになる。したがって、学習信号はBWS時の出力信号と厳密には完全一致させることはできない。
そこで、PLS−STLPTCでは、FWS時とBWS時の出力信号のダイナミクスが完全一致するので、上記のような問題点を解決することができる。
PLS−STLPTCは、FWS時とBWS時を含む前走査列(1ライン前)から得られた情報を、次走査列(次のライン)に逐次適用する。つまり、PLS−STLPTCは、前列と次列の表面形状が同一であれば両走査列の出力信号のダイナミクスは完全一致する。したがって、PLS−STLPTCは、次走査列の出力信号をサンプル点(T)ごとに完全抑圧でき、制御入力の性能を向上させることができる。
PLS−STLPTCの制御機構は図12と同様である。ただし、本実施形態における制御アルゴリズムは単方向型でなく前走査列型学習である。また、図103は、シグナルジェネレータの詳細な図を示している。
以下で、図103のシグナルジェネレータで実行される制御アルゴリズムについて説明する。図103において、TFWは、FWS時の走査時間を示し、BWS時の走査時間をTBWとする。また、この時のメモリはFIFO型となる。スイッチ1(SW1)をTFW+TBW(=メモリの段数N×サンプリング周期T)秒間オンとし、この区間において出力信号を学習すれば、学習した出力信号は次列目の同一区間においてPTCの目標値として出力され、完全追従がなされる。ただし、PLS−STLPTCにおいても、速度指令値
Figure 0004862109
は、式(12)となる。
上記のPLS−STLPTCによる制御を用いて、外乱と制御入力および出力信号のシミュレーションの結果を図104〜107に示す。図104、105は、矩形波サンプルの計測のシミュレーションの結果を示したものであり、図106、107は、三角波サンプルの計測のシミュレーションの結果を示したものである。
図104〜107のシミュレーションにおいて、0.02[秒]より前では、学習期間でありPLS−STLPTCは実行されていない。つまり、0.02[秒]より前では、従来法によりシミュレーションが実行されている。
図104〜107のシミュレーションにおいて、0.02[秒]より後に、PLS−STLPTCによるフィードフォワード制御が開始される。図105、107に示されているように、PLS−STLPTCによるフィードフォワード制御により、出力信号はサンプル点ごとに完全抑圧される。ただし、これ以降の走査においても、学習と制御が同時に実行され、外乱の完全抑圧が達成される。
また、図108は、図105を拡大したものを示し、図109は、図107を拡大したものを示している。図108と図109の結果から、PLS−STLPTCを用いると、前走査列と次走査列の形状が同一であれば、どのような形状であっても完全追従が達成されることがわかる。

Claims (5)

  1. 試料表面の表面形状をコンタクトモードで画像化する原子間力顕微鏡装置であって、
    前記試料表面と原子間力を介して相互作用する探針を有し、前記原子間力によってたわみを生ずるカンチレバーと、
    前記カンチレバーに向けて第1のレーザ光を入射するレーザ光提供手段と、
    前記カンチレバーが前記第1のレーザ光を反射することにより発せられた第2のレーザ光を検出する光検出手段と、
    前記試料を載せたピエゾ素子と、
    前記試料表面と前記探針との間の距離を前記ピエゾ素子に入力電圧を入力することにより制御し、前記第2のレーザ光によりフォトダイオードが受ける縦方向の光強度の相対変化から前記カンチレバーの前記たわみを出力電圧として検出し、行きの走査の間に表面形状を計測および記憶し、前記行きの走査と同一ラインの帰りの走査において、記憶された前記表面形状を用いて帰りの走査の追従誤差を生成し、前記追従誤差から、前記試料表面の表面形状を計測するコントローラと、
    計測された前記追従誤差を記録するデータ記憶手段とを備え
    前記コントローラは、前記追従誤差から生成される目標軌道のサンプリング周期と制御周期が異なり、マルチレート制御を用いる完全追従制御法により追従誤差を抑圧して、前記試料表面の表面形状を計測することを特徴とする原子間力顕微鏡装置。
  2. 試料表面の表面形状をコンタクトモードで画像化する原子間力顕微鏡装置であって、
    前記試料表面と原子間力を介して相互作用する探針を有し、前記原子間力によってたわみを生ずるカンチレバーと、
    前記カンチレバーに向けて第1のレーザ光を入射するレーザ光提供手段と、
    前記カンチレバーが前記第1のレーザ光を反射することにより発せられた第2のレーザ光を検出する光検出手段と、
    前記試料を載せたピエゾ素子と、
    前記試料表面と前記探針との間の距離を前記ピエゾ素子に入力電圧を入力することにより制御し、前記第2のレーザ光によりフォトダイオードが受ける縦方向の光強度の相対変化から前記カンチレバーの前記たわみを出力電圧として検出し、行きの走査の間に表面形状を計測および記憶し、前記行きの走査と同一ラインの帰りの走査において、記憶された前記表面形状を用いて制御し、前記試料表面の表面形状を推定するコントローラと、
    前記表面形状を記録するデータ記憶手段とを備え
    前記コントローラは、前記コントローラの制御対象を前記追従誤差から生成される目標軌道のサンプリング周期で離散化した状態方程式から導出される離散化プラントの逆システムを用いて、前記試料表面の表面形状を推定することを特徴とする原子間力顕微鏡装置。
  3. 前記コントローラは、前記試料表面の表面形状を推定するときに、不安定零点と安定限界零点とを根とする多項式と、安定零点を根とする多項式とを含む零位相差逆モデルを用いることを特徴とする請求項に記載の原子間力顕微鏡装置。
  4. 試料表面の表面形状をコンタクトモードで画像化する原子間力顕微鏡装置であって、
    前記試料表面と原子間力を介して相互作用する探針を有し、前記原子間力によってたわみを生ずるカンチレバーと、
    前記カンチレバーに向けて第1のレーザ光を入射するレーザ光提供手段と、
    前記カンチレバーが前記第1のレーザ光を反射することにより発せられた第2のレーザ光を検出する光検出手段と、
    前記試料を載せたピエゾ素子と、
    前記試料表面と前記探針との間の距離を前記ピエゾ素子に入力電圧を入力することにより制御し、前記第2のレーザ光によりフォトダイオードが受ける縦方向の光強度の相対変化から前記カンチレバーの前記たわみを出力電圧として検出し、1ライン前の行きの走査と帰りの走査の間に追従誤差を計測および記憶し、前記行きの走査と帰りの走査の次のラインの行きの走査と帰りの走査において、記憶された前記追従誤差を用いて制御し、前記追従誤差から、前記試料表面の表面形状を計測するコントローラと、
    計測された前記追従誤差を記録するデータ記憶手段とを備え
    前記コントローラは、前記追従誤差から生成される目標軌道のサンプリング周期と制御周期が異なり、マルチレート制御を用いる完全追従制御法により追従誤差を抑圧して、前記試料表面の表面形状を推定することを特徴とする原子間力顕微鏡装置。
  5. 前記ピエゾ素子の入力電圧と前記出力電圧までの伝達関数の周波数特性を取得するサーボアナライザをさらに備え、
    前記伝達関数は、前記サーボアナライザが取得した前記周波数特性に含まれる、ピークゲインと、直流ゲインと、ピーク周波数とから、標準2次系で自動的に同定されることを特徴とする請求項1に記載の原子間力顕微鏡装置。
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