JP4848270B2 - トロンビン誘導体、およびそれを含有する医薬組成物 - Google Patents

トロンビン誘導体、およびそれを含有する医薬組成物 Download PDF

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Description

本発明は、トロンビン誘導体、およびそれを含有する医薬組成物、特に抗血栓剤、抗炎症剤に関する。
トロンビンは、血小板凝集反応や炎症反応などを担う、トリプシンと非常に相同性の高いトリプシン様のセリンプロテアーゼである。例えば、非特許文献1には、トロンビンが、基質であるトロンビンレセプターを活性化することによって血小板凝集反応、血管内皮細胞活性化、炎症反応を起こすことが記載されている。
トロンビンの生理的作用に関しては以下の様な報告がなされている。非特許文献2(日本血栓止血学会誌 第10巻(1999) 2、3号)には、トロンビンの主だった血液凝固に関連する基質認識に、エクソサイトI領域が重要な働きをすることが記載されている。非特許文献3(Biochemical J.(2001)354.309-313)には、トロンビン基質蛋白質(以下「トロンビン基質」ということがある)結合能を有する不活性化トロンビンであるアンヒドロトロンビンが、野生型トロンビン同様にエクソサイトI結合能のトロンビン基質に高い結合能を持つことが記載されている。さらに非特許文献3には、ベンズアミジン等の活性中心へ立体障害となる物質の添加によりAHTの結合能が失われることが記載されている。非特許文献4(ヴォート生化学 上巻 1996年 p331−340 東京化学同人)には、トロンビンなどのセリンプロテアーゼは、活性中心にセリン、ヒスチジン、アスパラギン酸を有しており、この3つのアミノ酸のチャージリレーシステムによりプロテアーゼ活性が発現され、セリンプロテアーゼのミカエリス複合体から4面複合体への進展にはグリシン193(193はキモトリプシノゲンにおけるアミノ酸の位置、トロンビンではB鎖 203位のグリシンにあたる)が関与していることが記載されている。
これらをもとに、抗血栓剤等の開発のために、様々なトロンビンの修飾・改変が試みられている。特許文献1(国際公開第01/03740号パンフレット)には、セリンプロテアーゼと競争してセリンプロテアーゼの基質に結合することによって、該セリンプロテアーゼと該基質との反応を抑制する物質(以下「反応抑制物質」と言うことがある)を含有するセリンプロテアーゼ抑制剤が開示されている。さらに該文献には、このセリンプロテアーゼ抑制剤は、抗血栓剤(血栓形成抑制剤)として有効であることが記載されている。該文献には、該反応抑制物質の具体例として、セリンプロテアーゼであるトロンビンとフェニルメチルスルフォニルフルオリド(以下「PMSF」と言うことがある)などの阻害剤とを反応させ、活性部位に存在するセリンをデヒドロアラニンに転換すること(以下「アンヒドロ化」と言うことがある)により、セリンプロテアーゼ活性が著しく低下したトロンビン誘導体(アンヒドロトロンビン、以下、「AHT」ということがある)が開示されている。
また、特許文献2(国際公開第02/077031号パンフレット)には、アンヒドロトロンビン(AHT)のカルボキシル基とイミドとを反応させ、AHTを化学的に修飾したAHT誘導体(以下「M−AHT」と言うことがある)が開示されている。M−AHTは、血液中に大量に存在するフィブリノゲン(以下「Fbgn」ということがある)への結合能が選択的に低く、AHTに較べて活性化部分トロンボプラスチン時間(以下「APTT」ということがある)延長効果を増加させることができ、高い抗血栓効果を有する。
一方で、アミノ酸が置換されたトロンビン誘導体の研究も行われている。トロンビンの遺伝子組換えにより活性中心のアミノ酸が置換された組換え体について、従来下記のように幾つかの検討がなされてきた。例えば、非特許文献5(Experimental cell research 219, 650-656(1995))には、活性中心セリンをアラニンに置換したトロンビン誘導体が白血球に及ぼす影響について記載されている。さらに、非特許文献5には、このトロンビン誘導体は酵素活性が失われている旨記載されている。
非特許文献6(Biochimica et Biophyscia Acta 1451(1999) 173-186)には、トロンビンB鎖 203グリシンをアラニンに置換したトロンビン誘導体、活性中心セリンをアラニン又はスレオニンに置換したトロンビン誘導体、活性中心ヒスチジンをアスパラギンに置換したトロンビン誘導体、さらには、活性中心アスパラギン酸をアスパラギンに置換したトロンビン誘導体が記載されている。この非特許文献6には、これらのトロンビン誘導体の酵素活性について、活性中心セリンをスレオニンに置換したトロンビン誘導体、活性中心ヒスチジンをアスパラギンに置換したトロンビン誘導体、活性中心アスパラギン酸をアスパラギンに置換したトロンビン誘導体は、その酵素活性が野生型トロンビンに比較して数千から数万分の1に低下していること、トロンビンB鎖203グリシンをアラニンに置換したトロンビン誘導体及び活性中心セリンをアラニンに置換したトロンビン誘導体は、その酵素活性が完全に失われたことが記載されている。
しかしながら、非特許文献5および6に記載のトロンビン誘導体は、各文献に記載されている測定法では検出不能なレベルの酵素活性(トロンビン基質分解活性)が残存していること、トロンビン基質結合能が著しく低下していること、あるいは、血中に多量に存在するFbgnに高い結合能を有することなどにより、抗血栓、抗炎症剤としての十分な機能を有するとは言い難い。
特許文献3(特表平09−509045号公報)、非特許文献7(J.Biol.Chem Vol.275, 39827-39830)、非特許文献8(J.Biol.Chem Vol.279,26387-26394)、非特許文献9(J.Biol.Chem Vol.277,27581-27584)には、アミノ酸を置換することにより、酵素活性(トロンビン基質分解活性)と抗血液凝固効果とを有するトロンビン誘導体が記載されている。それらのトロンビン誘導体は、トロンボモデュリン(以下「TM」ということがある)への結合能が保持または増強され、且つFbgn分解能が著しく低下しており、TMに特異的に結合しプロテインCを活性化することにより抗血栓効果を示すトロンビン誘導体である。
特許文献4(特表平11−507542号公報)には、活性中心のアミノ酸が置換され、さらに抗血栓剤としてヒルジンC末端ペプチドを患者に投与して、出血等の問題が発生した際、そのヒルジンC末端ペプチドの抗凝固活性を中和することを目的としたプロトロンビン誘導体が開示されている。
特許文献5および6には、活性中心セリンがアラニンに置換されたトロンビン誘導体、及び活性中心セリンがアラニンに、かつ活性中心アスパラギン酸がアスパラギンに置換されたトロンビン誘導体が、洗浄血小板懸濁液中におけるトロンビンによるトロンビンレセプターへの刺激を抑制した事が記載されている。
しかしながら、これらのトロンビン誘導体は、血液中に多量に存在するFbgnと強い結合能を有する。これらのトロンビン誘導体を血中に投与した場合、その殆どがFbgnに結合することから、抗トロンビンレセプター効果を得るためには多量投与が不可避であることから、これらのトロンビン誘導体を血液中で抗トロンビンレセプター剤(抗血小板剤)として使用することは実質的には不可能であった(本明細書実験例3参照)。
国際公開第01/03740号パンフレット 国際公開第02/077031号パンフレット 国際公開第95/13385号パンフレット 国際公開第96/41868号パンフレット 国際公開第92/14750号パンフレット 米国特許第5,256,766号明細書 J. Biol.Chem. 261(1986)15928-15933 日本血栓止血学会誌 第10巻 2,3号(1999) Biochemical J.(2001)354.309-313 ヴォート生化学 上巻 1996年 p331−340 東京化学同人 Experimental cell research 219, 650-656(1995) Biochimica et Biophyscia Acta 1451(1999) 173-186 J.Biol.Chem Vol.275, 39827-39830 J.Biol.Chem Vol.279,26387-26394 J.Biol.Chem Vol.277,27581-27584
AHTやM−AHTのように化学的手法により得られたトロンビン誘導体は、抗血栓効果や抗炎症効果を有しているが、化学的手法を用いているため残存するセリンプロテアーゼ活性にばらつきがあった。また、AHTへ変換する際には、アルカリ処理、再生処理等の多工程が必要であり、回収率も50から60%であった。AHTおよびM−AHTにおいては、微量に存在する残存酵素活性(トロンビン基質分解活性)が、その抗凝固能を低下させる場合があった。特にAHTにおいてその傾向が強い。
また、前述のトロンビンの活性中心アミノ酸を置換したトロンビン誘導体は、抗血栓、抗炎症剤としての十分な機能を有しているとは言い難いものであった。理由として、これらのトロンビン誘導体は、抗血栓、抗炎症剤として用いる目的において、実質的なトロンビン基質分解活性を有するか、あるいは、アミノ酸の置換による影響で主にエクソサイトIの構造が変化することにより、トロンビン基質結合能が著しく低下していることなどが考えられる。
例えば非特許文献6(Biochimica et Biophyscia Acta 1451(1999) 173-186)において、トロンビンB鎖203グリシンをアラニンに置換したトロンビン誘導体は、トロンビン基質分解活性が完全に喪失したと報告されている。しかしながら、このトロンビン誘導体には、抗血栓、抗炎症剤として用いる目的において、実質的なトロンビン基質分解活性が残存していた。さらに、非特許文献6に記載の、トロンビンB鎖203グリシン、活性中心ヒスチジン、及びアスパラギン酸の置換は、トロンビン基質分解活性をより低下させるものの、その組み合わせによってはエクソサイトIの構造変化を招き、トロンビン基質結合能が損なわれる場合があった。
一方、実際の医療の実態に目を移すと、日本人の3大死因は1位癌(30%)、2位心疾患(15%)、3位脳血管障害(13%)であり、全体の約6割を占める。心疾患の大半は心筋梗塞、狭心症といった冠状動脈疾患であり、心臓及び脳を合算した血管障害は、現状で癌と同程度の死因であるが、今後一層の増加傾向にあり、効果的治療薬の開発は大きな社会的要請である。また、脳梗塞は死を免れた場合でも後遺症が残るケースが多く、多大な介護、医療費の負担が社会的問題となっている。
心筋梗塞、狭心症、脳梗塞等の血栓症は複数の要因が複合的に起因している。図48に示されるように実際の心筋梗塞における血栓においては白色血栓に続き血流に対し中流に混合血栓、下流に赤色血栓がそれぞれ観察される事が報告されている。
脳、心臓における血管障害の大部分は血栓症である。その主な原因は、血流の異常、凝固成分の異常、血管内皮の異常であるが、実際には、それらが複合的に起因して血栓症を誘発する。その全てに関与し、血栓形成に中心的役割を担うのが凝固酵素のトロンビンである。トロンビンは凝固カスケードの最終段階でフィブリン凝集塊を作ると同時に、XI、V、VIII因子を活性化して凝固カスケードを加速する。また、血小板及び血管内皮上のレセプターであるPAR1を介して、血小板凝集と内皮細胞活性化を引き起こす。内皮細胞の活性化は血管壁の凝固亢進を引き起こし、更に負の連鎖によって血栓形成が進むことが報告されている。実際の動脈血栓の病理解剖では、ほとんどのケースで白色、混合、赤色血栓が観察されることからも抗血栓治療には凝固、血小板の複合的な抑制が重要であることが分かる。それにも拘わらず、既存の抗血栓剤はすべて抗凝固剤または抗血小板剤に分類され、別々の薬剤による治療がなされている。
上記状況を考慮して、(i)凝固の活性化と促進、(ii)血小板の凝集と粘着、および(iii)血管内皮細胞の活性化機能を効果的に抑制する抗血栓剤、抗炎症剤として使用可能な抗血栓剤の開発が望まれている。
本発明者は以下のことを見出した。すなわち、
トロンビンB鎖の205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンから選ばれた1種以上のアミノ酸が置換されたトロンビン誘導体であって、実質的にトロンビン基質を分解しないレベルにトロンビン基質分解活性が低下しており、且つ活性中心アミノ酸の置換が、置換前のトロンビンが有するエクソサイトIおよびエクソサイトIIの構造を損なうものではないトロンビン誘導体は、AHT同様のAPTT延長を主効果とした抗血栓症効果が得られること、さらに、そのAPTT延長効果はトロンビン残存活性に起因したインキュベーションの影響を受けることなく確実にAPTTが延長されるものであることを見出した(実験例21参照)。さらに、該トロンビン誘導体が血栓形成に重要な作用をするトロンビン基質に対しより特異的な結合能を有しているものであれば、より確実にAHT以上の抗血栓効果、抗炎症効果が得られることを見出した。
さらに活性中心アミノ酸以外のアミノ酸を置換することにより、血中に多量に存在するFbgnとの結合能が、トロンビンレセプター又は血液凝固第8因子(以下、「FVIII」と呼ぶことがある)との結合能に比べ相対的に低下し、より少ない投与量によって良好な抗血栓効果を得ることができることを見出した。さらに、この活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換により、高いAPTT延長効果を持つが抗血小板効果は低いタイプのトロンビン誘導体や、高いAPTT延長効果と高い抗血小板効果(但しPAR1阻害効果のみ)を有するタイプのトロンビン誘導体など、効果の発現態様が異なるトロンビン誘導体が得られることを見出した。
この活性中心アミノ酸以外のさらなるアミノ酸の置換により、本発明のトロンビン誘導体が持つ抗血栓効果が損なわれることなく、該トロンビン誘導体のTMとの結合能が特異的に低下するものがあることを見出した。活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換された本発明のトロンビン誘導体は、生体に投与しても、TM上におけるトロンビンによるプロテインCの活性化を抑制しない。すなわち、活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換された本発明のトロンビン誘導体は、トロンビンの本来有する抗血栓能を阻害しない。
さらに、本発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基を、特許文献2(国際公開第02/077031号パンフレット)に記載の方法によりカルボキシル基を修飾すれば、単にAPTTを延長するのみならず、アミノ酸の置換に依存して抗血小板効果、特にPAR1活性化及びリストセチン惹起血小板凝集抑制効果をも付加、制御し得ることを見出した。具体的には、非常に高いAPTT延長効果と高い抗血小板効果とを有するトロンビン誘導体、中程度のAPTT延長効果と強い抗血小板効果とを有する誘導体など薬効のバランスを制御したトロンビン誘導体を得ることができる。すなわち、本発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基をカルボキシル基の修飾することにより、種々の血栓症に適応しうる抗血液凝固効果、抗血小板効果を持ったトロンビン誘導体を得ることが可能となる。
本発明者はこれらの知見に基づいて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
1.<活性中心アミノ酸の置換>
(1)A鎖とB鎖を含み、該B鎖はトロンビンB鎖のアミノ酸配列において205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンから選ばれた1種又はそれ以上の活性中心アミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する、トロンビン誘導体であって、
1)0.1MのNaClを含むpH7.4の50mMトリス塩酸中でトロンビン基質と37℃で3時間反応させたときに該トロンビン誘導体によって分解される該トロンビン基質の割合が10%以下であり、
2)エクソサイトIの構造を保持している、トロンビン誘導体。
(2)A鎖とB鎖を含み、該B鎖はトロンビンB鎖のアミノ酸配列において205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンから選ばれた1種又はそれ以上の活性中心アミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する、トロンビン誘導体であって、
1)0.1MのNaClを含むpH7.4の50mMトリス塩酸中でトロンビン基質と37℃で3時間反応させたときに該トロンビン誘導体によって分解される該トロンビン基質の割合が10%以下であり、
2)ヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルとの結合能を保持している、トロンビン誘導体。
(3)さらに、ヘパリン結合能を保持している、(2)のトロンビン誘導体。
(4)トロンビン基質が血液凝固第13因子である、(1)または(2)のトロンビン誘導体。
(5)トロンビン基質がフィブリノゲンである、(1)または(2)のトロンビン誘導体。
(6)活性中心アミノ酸の置換が、トロンビンB鎖の205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンから選ばれた2種又はそれ以上のアミノ酸の置換である、(1)〜(5)のいずれかのトロンビン誘導体。
(7)活性中心アミノ酸の置換が、205番目のセリンの置換を含む、(1)〜(6)のいずれかのトロンビン誘導体。
(8)活性中心アミノ酸の置換が、205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンの置換を含む、(1)〜(7)のいずれかのトロンビン誘導体。
(9)43番目のヒスチジンが、アラニンまたはセリンに置換された、(8)のトロンビン誘導体。
(10)205番目のセリンがアラニン、スレオニン、またはグリシンに置換された、(6)〜(9)の何れかのトロンビン誘導体。
(11)205番目のセリンがアラニンに置換された、(6)〜(9)の何れかのトロンビン誘導体。
(12)205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンがアラニンに置換された、(8)のトロンビン誘導体。
(13)血液凝固第8因子結合能がアンヒドロトロンビンの10%以上である(1)〜(12)の何れかのトロンビン誘導体。
(14)血液凝固第8因子結合能がアンヒドロトロンビンの80%以上である(1)〜(12)の何れかのトロンビン誘導体。
(15)該トロンビン誘導体の血液凝固第8因子結合能(VIIIA)とフィブリノゲン結合能(FA)との比VIIIA/FAが、アンヒドロトロンビンの血液凝固第8因子結合能(VIIIa)とフィブリノゲン結合能(Fa)との比VIIIa/Faの1.1倍以上である、(1)〜(14)の何れかのトロンビン誘導体。
(16)該トロンビン誘導体の血液凝固第8因子結合能(VIIIA)とフィブリノゲン結合能(FA)との比VIIIA/FAが、アンヒドロトロンビンの血液凝固第8因子結合能(VIIIa)とフィブリノゲン結合能(Fa)との比VIIIa/Faの1.2倍以上である、(1)〜(14)の何れかのトロンビン誘導体。
(17)該トロンビン誘導体の活性化部分トロンボプラスチン時間が、アンヒドロトロンビンの1.1倍以上である、(1)〜(12)の何れかのトロンビン誘導体。
(18)活性中心アミノ酸のアミノ酸の置換によって、フィブリノゲン結合能が10%以上低下し、活性化部分トロンボプラスチン時間が1.1倍以上に延長された(1)〜(12)のいずれかのトロンビン誘導体。
(19)A鎖とB鎖を含み、該B鎖はトロンビンB鎖のアミノ酸配列において205番目のセリン、並びに203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸及び43番目のヒスチジンから選ばれた1種又はそれ以上のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する、トロンビン誘導体。
(20)A鎖とB鎖を含み、該B鎖はトロンビンB鎖のアミノ酸配列において205番目のセリン及び43番目のヒスチジンが置換されたアミノ酸配列を有する、トロンビン誘導体。
2.<活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換>
(21)前記B鎖が、さらに前記活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を有する、(1)〜(20)のいずれかのトロンビン誘導体。
(22)活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が、トロンビンのエクソサイトI領域のアミノ酸である、(21)のトロンビン誘導体。
(23)トロンビンのエクソサイトI領域のアミノ酸が塩基性アミノ酸である(22)のトロンビン誘導体。
(24)トロンビンのエクソサイトI領域のアミノ酸が、トロンビンB鎖の24番目のグルタミン、65番目のリシン、および77番目のリシンから選ばれた1種またはそれ以上のアミノ酸である、(22)のトロンビン誘導体。
(25)該トロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIA)とフィブリノゲン結合能(FA)との比VIIIA/FAが、該活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIa)とフィブリノゲン結合能(Fa)との比VIIIa/Faの1.1倍以上である、(21)〜(24)の何れかのトロンビン誘導体。
(26)該トロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIA)とフィブリノゲン結合能(FA)との比VIIIA/FAが、該活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIa)とフィブリノゲン結合能(Fa)との比VIIIa/Faの1.5倍以上である、(21)〜(24)の何れかのトロンビン誘導体。
(27)APTT延長効果、トロンビンレセプター活性化抑制効果、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果のいずれかを有し、且つ該活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体に比べてトロンボモジュリン結合能が低下した、(21)〜(24)の何れかのトロンビン誘導体。
(28)APTT延長効果、トロンビンレセプター活性化抑制効果、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果のいずれかを有し、且つ該活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体に比べてトロンボモジュリン結合能が10%以上低下した、(21)〜(24)の何れかのトロンビン誘導体。
(29)該トロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIA)とトロンボモジュリン結合能(TMA)との比VIIIA/TMAが、該活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIa)とトロンボモジュリン結合能(TMa)との比VIIIa/TMaの1.1倍以上である、(21)〜(24)の何れかのトロンビン誘導体。
(30)該トロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIA)とトロンボモジュリン結合能(TMA)との比VIIIA/TMAが、該活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体の、血液凝固第8因子結合能(VIIIa)とトロンボモジュリン結合能(TMa)との比VIIIa/TMaの1.5倍以上である、(21)〜(24)の何れかのトロンビン誘導体。
(31)活性中心アミノ酸以外のアミノ酸がトロンビンのエクソサイトII領域のアミノ酸であり、抗血栓能を有しつつヘパリン結合能が低下した、(21)のトロンビン誘導体。
(32)トロンビンのエクソサイトII領域のアミノ酸が、トロンビンB鎖の98番目のアルギニン、245番目のアルギニン、248番目のリシン、および252番目のリシンから選ばれた1種またはそれ以上のアミノ酸である(31)のトロンビン誘導体。
(33)前記トロンビン誘導体のヘパリン結合能が、該活性中心以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビンの90%以下である、(31)または(32)のトロンビン誘導体。
(34)活性化部分トロンボプラスチン時間延長効果、修飾トロンビン惹起血小板凝集抑制効果、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果から選ばれる一種又はそれ以上の抗血栓効果が向上している、(21)〜(33)の何れかのトロンビン誘導体。
(35)前記トロンビン誘導体の活性化部分トロンボプラスチン時間がアンヒドロトロンビンの1.1倍以上である、(21)〜(33)の何れかのトロンビン誘導体。
(36)前記トロンビン誘導体の活性化部分トロンボプラスチン時間が、該活性中心以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビンの1.5倍以上であり、かつ、トロンボモジュリン結合能が、該活性中心以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビンの50%以下に低下した、(31)または(32)のトロンビン誘導体。
(37)トロンビンB鎖のアミノ酸配列がヒト野生型トロンビンのB鎖のアミノ酸配列である、(1)〜(36)のいずれかのトロンビン誘導体。
(38)ヒト野生型トロンビンB鎖のアミノ酸配列が配列番号2の50〜308位のアミノ酸配列である、(37)のトロンビン誘導体。
3.<トロンビン修飾体>
(39)カルボキシル基が修飾された(1)〜(38)の何れかのトロンビン誘導体。
(40)アミノ酸のエステルによってカルボキシル基が修飾された(39)のトロンビン誘導体。
(41)ポリエチレングリコールによってカルボキシル基が修飾された(39)のトロンビン誘導体。
(42)アミノ基を有するポリエチレングリコールによってカルボキシル基が修飾された(39)のトロンビン誘導体。
(43)前記ポリエチレングリコールが分子量1000以下のポリエチレングリコールである、(41)または(42)のトロンビン誘導体。
(44)カルボキシル基がカルボジイミドによって修飾された(39)のトロンビン誘導体。
(45)1分子当たり少なくとも3箇所以上のカルボキシル基が修飾された(39)のトロンビン誘導体。
(46)1分子当たり25箇所以下のカルボキシル基が修飾された(39)のトロンビン誘導体。
(47)少なくともB鎖25番目のグルタミン酸のカルボキシル基が修飾された(39)のトロンビン誘導体。
(48)PAR1活性化抑制効果および/またはリストセチン惹起血小板凝集抑制効果を有する、(1)〜(47)の何れかのトロンビン誘導体。
4.<DNA、用途>
(49)(1)〜(38)のいずれかのトロンビン誘導体をコードするDNA。
(50)(1)〜(48)のいずれかのトロンビン誘導体を含有する医薬組成物。
(51)抗血栓剤である(50)の医薬組成物。
(52)抗炎症剤である(50)の医薬組成物。
(53)血小板凝集抑制剤である(50)の医薬組成物。
(54)血小板粘着抑制剤である(50)の医薬組成物。
(55)内因系血液凝固抑制剤である(50)の医薬組成物。
(56)トロンビンレセプター活性化抑制剤である(50)の医薬組成物。
(57)抗血液凝固作用と抗血小板作用の両方を有する(50)の医薬組成物。
5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾203A205Gトロンビン(37μg/ml)の抗血小板効果を示す図。009がコントロールを、010がカルボキシル基修飾203A205Gトロンビンを示す。縦軸が透過率(%)、横軸が時間(分)を示す(図2−12、15,21−22、25−35も同じ)。 1μg/mlM−トロンビン(カルボキシル基修飾トロンビン)で血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾203A205Gトロンビン(37μg/ml)の抗血小板効果を示す図。002がコントロールを、001がカルボキシル基修飾203A205Gトロンビンを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、205A43Aトロンビン(30μg/ml)の抗血小板効果を示す図。079がコントロールを、080が205A43Aトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、205A43Aトロンビン(30μg/ml)の抗血小板効果を示す図。083がコントロールを、084が205A43Aトロンビンを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン(30μg/ml)の抗血小板効果を示す図。056がコントロールを、055がカルボキシル基修飾205A43Aトロンビンを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン(15μg/ml)の抗血小板効果を示す図。042がコントロールを、041がカルボキシル基修飾205A43Aトロンビンを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン(7.5μg/ml)の抗血小板効果を示す図。058がコントロールを、057がカルボキシル基修飾205A43Aトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン(30μg/ml)の抗血小板効果を示す図。064がコントロールを、063がカルボキシル基修飾205A43Aトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン(15μg/ml)の抗血小板効果を示す図。067がコントロールを、066がカルボキシル基修飾205A43Aトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン(7.5μg/ml)の抗血小板効果を示す図。070がコントロールを、069がカルボキシル基修飾205A43Aトロンビンを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、203A205Gトロンビン(80μg/ml)の抗血小板効果を示す図。104がコントロールを、095が203A205Gトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、203A205Gトロンビン(80μg/ml)の抗血小板効果を示す図。097がコントロールを、098が203A205Gトロンビンを示す。 203A205GトロンビンのFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 AHTのFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、205A43Aトロンビン(007;3.26μM、008;0.81μM)の抗血小板効果を示す図。009がコントロールを示す。 205A43Aトロンビン誘導体のFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 205A43Sトロンビン誘導体のFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 24E205A43AトロンビンのFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 205A43Aトロンビン及び24E205A43AトロンビンのTM結合能を示す図。Dが205A43Aトロンビン、Eが24E205A43Aトロンビンを示す。 203Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を示す電気泳動の図(写真)。1は分子量マーカー、2,5は空のレーン、3はFXIIIのみ、4はFXIII+203Aトロンビンを示す。また、レーン6〜10はFXIIIに203Aトロンビンを加えてそれぞれ0,0.5,1,3,6時間反応させたものを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205Aトロンビン(100μg/ml)の抗血小板効果を示す図。016がコントロールを、015がカルボキシル基修飾205Aトロンビンを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾205Aトロンビン(100μg/ml)の抗血小板効果を示す図。003がコントロールを、004がカルボキシル基修飾205Aトロンビンを示す。 205Aトロンビン誘導体のFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 205A203Aトロンビン誘導体のFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾77E203A205Gトロンビン(50μg/ml)の抗血小板効果を示す図。001がコントロールを、002がカルボキシル基修飾77E203A205Gトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾77E203A205Gトロンビン(50μg/ml)の抗血小板効果を示す図。014がコントロールを、013がカルボキシル基修飾77E203A205Gトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、77E205A43Aトロンビン(100μg/ml)の抗血小板効果を示す図。019がコントロールを、020が77E205A43Aトロンビンを示す。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾77E205A43Aトロンビン(30μg/ml)の抗血小板効果を示す図。005がコントロールを、006がカルボキシル基修飾77E205A43Aトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、65A205A43Aトロンビン(100μg/ml)の抗血小板効果を示す図。020がコントロールを、019が65A205A43Aトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、65A205A43Aトロンビン(25または50μg/ml)の抗血小板効果を示す図。021が25μg/mlを、022が50μg/mlを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、65A205A43Aトロンビン(10μg/ml)の抗血小板効果を示す図。023がコントロールを、024が65A205A43Aを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾65A205A43Aトロンビン(36μg/ml)の抗血小板効果を示す図。038がコントロールを、033がカルボキシル基修飾65A205A43Aトロンビンを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾65A205A43Aトロンビン(9又は18μg/ml)の抗血小板効果を示す図。035が18μg/mlを、036が9μg/mlを示す。 1μg/mlM−トロンビンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾65A205A43Aトロンビン(4.5μg/ml)の抗血小板効果を示す図。 5mg/mlリストセチンで血小板凝集を惹起したPRPに対する、カルボキシル基修飾65A205A43Aトロンビン(36μg/ml)の抗血小板効果を示す図。041がコントロールを、042がカルボキシル基修飾65A205A43Aトロンビンを示す。 65A205A43Aトロンビン誘導体のFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 65A205A43AトロンビンのTM結合能を示す図。 205A43AトロンビンのヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製過程の電気泳動パターンを示す図(写真)。非還元でSDS-PAGEを行いCBB染色を行った。レーン1、2は標準トロンビン;レーン3はアプライ前のフラクション;レーン4は素通りフラクション;レーン5〜10は溶出フラクションを示す。 205AトロンビンのヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製過程の電気泳動パターンを示す図(写真)。非還元でSDS-PAGEを行いCBB染色を行った。レーン1〜3は標準トロンビン;レーン4はアプライ前のフラクション;レーン5は素通りフラクション;レーン6〜11は溶出フラクションを示す。 205Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を示す電気泳動図(写真)。レーン1はマーカー;レーン2,5はサンプルなし;レーン3はFXIIIのみ;レーン4はFXIII+トロンビン;レーン6〜10は205Aトロンビンでそれぞれ0,1,3,6,24時間反応させたFXIII。 203A205Gトロンビンのトロンビン基質分解活性を示す電気泳動図(写真)。レーン1はマーカー;レーン2はFXIIIのみ;レーン3はFXIII+トロンビン;レーン4〜8は203A205Gトロンビンでそれぞれ0,1,3,6,24時間反応させたFXIII。 各誘導体のトロンビン基質分解活性を示す電気泳動図(写真)。レーン1はマーカー;レーン3はFXIIIのみ;レーン2,4はFXIII+トロンビン;レーン5〜7は205Gトロンビンでそれぞれ0,1,3時間反応させたFXIII;レーン8,9は205A43Aトロンビンでそれぞれ0,3時間反応させたFXIII;レーン10,11は203A205Gトロンビンでそれぞれ0,3時間反応させたFXIII。 各誘導体のトロンビン基質分解活性を示す電気泳動図(写真)。レーン1はマーカー;レーン2はFXIIIのみ;レーン3はFXIII+トロンビン;レーン4〜8は203A205Aトロンビンでそれぞれ0,1,3,6,24時間反応させたFXIII;レーン9〜13は203A205A99Nトロンビンでそれぞれ0,1,3,6,24時間反応させたFXIII。 205VトロンビンのヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製過程の電気泳動パターンを示す図(写真)。SS結合を還元しSDS-PAGEを行い抗人トロンビンポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットにてバンドを確認した。レーン1はマーカー;レーン2,3は標準トロンビン;レーン4はアプライ前のフラクション;レーン5は素通りフラクション;レーン6は溶出フラクションを示す。 205DトロンビンのヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製過程の電気泳動パターンを示す図(写真)。SS結合を還元しSDS-PAGEを行い抗人トロンビンポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロットにてバンドを確認した。レーン1はマーカー;レーン2,3はそれぞれ標準トロンビン;レーン4はアプライ前のフラクション;レーン5は素通りフラクション;レーン6は溶出フラクションを示す。 1μg/mlM−トロンビンの血小板凝集効果に対する抗PAR1抗体の効果を示す図。002が1μg/mlM−トロンビンを、001が1μg/mlM−トロンビン+抗PAR1抗体を示す。 19A205A43Aトロンビン誘導体のFbgn及びFVIIIへの結合特異性を示す図。破線が1.0×10-7MのFbgn、実線が1.0×10-7MのFVIIIを示す。 動脈血栓の成長を示す模式図。
以下、本発明を詳細に説明する。
1.<トロンビン>
本発明に用いるトロンビン誘導体は、A鎖とB鎖を含み、該B鎖において特定のアミノ酸が置換されたトロンビン誘導体である。本発明に用いるトロンビン誘導体は、生体内において、A鎖及びB鎖がS-S結合によって架橋された立体構造をとることができるものであれば特に制限されない。A鎖及びB鎖はトロンビン前駆体タンパク質がプロセシングされて生じるため、本発明のトロンビン誘導体をプレトロンビンやプロトロンビンなどの前駆体タンパク質の形で生体に投与し、生体内でプロセシングされて前記立体構造をとるようにしてもよい。また、A鎖及びB鎖を遺伝子組換えや化学合成などで別々に製造し、それらをインビトロでS-S結合させてもよいし、それらを別々に投与し、生体内で前記のA鎖及びB鎖がS-S結合によって架橋された立体構造をとるようにしてもよい。
ここで、A鎖とは、野生型ヒトトロンビンでいえば、配列番号2のアミノ酸番号1〜49に相当する領域であり、B鎖とは、野生型ヒトトロンビンでいえば、配列番号2のアミノ酸番号50〜308に相当する領域である。
ヒトトロンビンにおいてはA鎖N末端の13アミノ酸残基は自己分解により切り離される。よってA鎖はN末端から13アミノ酸残基(例えば、配列番号2のアミノ酸番号1〜13の残基)が切り離された配列でも良い。さらに、生体内で前記の立体構造をとることのできるプロトロンビンやプレトロンビンなどのトロンビン前駆体蛋白質も本発明のトロンビン誘導体に含まれる。なお、野生型ヒトプロトロンビンのアミノ酸配列は、Swissprotのデータベースにアクセション番号P00734として開示されている。
本発明で得られるトロンビン誘導体はプロトロンビン体にて生体内に投与されることも可能である。その場合、血栓部位にて抗血栓効果を持ったトロンビンに活性化を受け、血栓形成箇所にて抗血栓効果を発揮し、生体内にてより部位特異的な抗血栓効果が得られる。
2.<トロンビン基質分解活性>
本発明のトロンビン誘導体は、0.1MのNaClを含むpH7.4の50mMトリス塩酸中で、血液凝固第13因子(FXIII)、フィブリノゲン(Fbgn)、S2238などの合成基質(シグマ社より入手可)、トロンビンレセプター、プロテインCなどのトロンビン基質と、本発明のトロンビン誘導体とを37℃で3時間反応させたときに分解されるトロンビン基質の割合が10%以下となるものである。トロンビン基質分解活性がこの範囲であれば、生体への投与後、本トロンビン誘導体が代謝されるまでの間の本トロンビン誘導体によるトロンビン基質の活性化は問題にならないものと考えられる。上記トロンビン基質のうちFXIIIは、熱に比較的安定であり、さらに電気泳動で確認しやすいことから、本発明において好ましく用いられる。トロンビン誘導体はFXIIIに対しモル比にて1:1またはそれ以上の濃度で分解を測定することが好ましい。
トロンビンでは基質FXIIIにおいては電気泳動で活性化されたバンドを、フィブリノゲンにおいては微量のフィブリン塊の有無を確認することで基質分解能の有無を確認できる
なお、このトロンビン基質分解活性活性測定方法によれば、非特許文献6(Biochimica et Biophyscia Acta 1451(1999) 173-186)において完全に活性を失っていると報告されているB鎖203番目グリシンをアラニンに置換した誘導体に、依然としてトロンビン基質分解活性が残存していることが判る。
本発明で得られるトロンビン誘導体は特許文献3(特表平09-509045)、非特許文献7(J.Biol.Chem Vol.275, 39827-39830)、非特許文献8(J.Biol.Chem Vol.279,26387-26394)、非特許文献9(J.Biol.Chem Vol.277,27581-27584)に開示されるトロンビン誘導体とは異なる抗血栓作用機構を有する。すなわち、これらの文献に開示されるトロンビン誘導体は、TM特異性が保持又は向上しており、優先的にプロテインCを活性化することで抗血栓効果を発揮する。これに対し、本発明のトロンビン誘導体はプロテインCを含むトロンビン基質活性化能がない。本発明のトロンビン誘導体は、より特異的に血栓形成に重要なトロンビン基質と、それを活性化すること無しに結合し、血液中に存在するトロンビンによるこれらトロンビン基質の活性化を抑制することによって抗血栓効果を発揮する。反対に本発明のトロンビン誘導体は生体内のトロンビンのTM結合を阻害しないことが望ましく、TM結合能は低下している事が望ましい。
3.<アミノ酸の置換およびカルボキシル基の修飾>
本願第1の発明は、トロンビンのB鎖の205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンから選ばれた1種以上のアミノ酸(活性中心アミノ酸)が置換されたトロンビン誘導体であって、(1)0.1MのNaClを含むpH7.4の50mMトリス塩酸中でトロンビン基質と37℃で3時間反応させたときに分解される該トロンビン基質の割合が10%以下であり、(2)エクソサイトIの構造が保持されているトロンビン誘導体である。この第1の発明は、この構成をとることにより、アンヒドロトロンビン(AHT)同等かそれ以上の活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)延長を主効果とした抗血栓症効果を発現する。そして、そのAPTT延長効果はインキュベーションの影響を受けることなく確実にAPTTが延長されるものである。
本願第2の発明は、さらに活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換されたトロンビン誘導体である。このトロンビン誘導体は、血中に多量に存在するFbgnとの結合能を低下させることで抗血栓能が向上した誘導体である。Fbgnとの結合能が低下することで、ターゲットとなる血液凝固を促進するトロンビン基質に効率的に結合しその活性化を阻害することが出来る。
血液凝固を促進するトロンビン基質としてFV、FVIII、FXI、トロンビンレセプター(PAR1)及びPAR4等が挙げられる。さらには、より効率的に抗血栓能を向上するためにトロンビンレセプターまたはFVIIIをより特異的に阻害することがより好ましい。
即ちより好ましい本発明のトロンビン誘導体はFbgnとの結合能がトロンビンレセプターまたはFVIIIとの結合能に比べ相対的に低く、より少ない投与量によって良好な抗血栓効果を得ることができるものである。さらに、この活性中心アミノ酸以外のさらなるアミノ酸の置換は、第1の発明のトロンビン誘導体が持つ抗血栓効果を喪失することなく、TMとの結合能を特異的に低下させる。
さらに、第2の発明によれば、高いAPTT延長効果を持つが抗血小板効果は低いタイプのトロンビン誘導体や、高いAPTT延長効果と高い抗血小効果(但しPAR1阻害効果のみ)を有するタイプのトロンビン誘導体など、効果の発現態様が異なるトロンビン誘導体が得られる。
このような活性中心アミノ酸以外のアミノ酸としては、B鎖の24番目のグルタミン、65番目のリシン、および77番目のリシンなどのエクソサイトI領域のアミノ酸、B鎖の98番目のアルギニン、245番目のアルギニン、248番目のリジン、および252番目のリシンなどのエクソサイトII領域のアミノ酸、B鎖197番目アルギニン及びB鎖19番目のフェニルアラニン等の両エクソサイトに属さない領域などが挙げられる。
本願第3の発明は、第1の発明または第2の発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基を、特許文献2(国際公開第02/077031号パンフレット)に記載の方法によりカルボキシル基の修飾したトロンビン誘導体である。このトロンビン誘導体は、単にAPTTを延長するのみならず、アミノ酸の置換に依存して抗血小板効果、特にPAR1活性化およびリストセチン惹起血小板凝集抑制効果をも付加、制御し得る。具体的には、非常に強いAPTT延長効果と強い抗血小板効果とを有するトロンビン誘導体、中程度のAPTT延長効果と強い抗血小板効果とを有する誘導体などを得ることができる。すなわち、第3の発明によれば、種々の血栓症に適応しうる抗血液凝固効果、抗血小板効果を持ったトロンビン誘導体を得ることが可能となる。
以下、アミノ酸の置換の影響、意味合いを理解しやすくする為、活性中心アミノ酸の置換(第1の発明)、活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換(第2の発明)、カルボキシル基の修飾(第3の発明)に分けて説明する。
なお、本発明のトロンビン誘導体は、発明の効果を損なわない範囲であれば、B鎖(配列番号2のアミノ酸番号50〜308)において、上記特定のアミノ酸に加えて、さらに、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加されたアミノ酸配列を有するトロンビン誘導体であってもよい。なお、ここで数個とは、2〜20個、好ましくは2〜10個、より好ましくは2〜5個を意味する。また、本発明のトロンビン誘導体は、A鎖(配列番号2のアミノ酸番号1〜49)においても、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加されたアミノ酸配列を有するトロンビン誘導体であってもよい。ここで数個とは、2〜10個、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜3個を意味する。
また、本発明のトロンビン誘導体は、0.1MのNaClを含むpH7.4の50mMトリス塩酸中でトロンビン基質と37℃で3時間反応させたときに分解される該トロンビン基質の割合が10%以下であり、エクソサイトIの構造が保持される限りにおいて、A鎖は配列番号2のアミノ酸番号1〜49の配列、B鎖は配列番号2のアミノ酸番号50〜308に対して、それぞれ一定以上の相同性を有する範囲で、上記アミノ酸以外の位置においてさらに、置換、欠失、挿入、付加等の改変がされたものであってもよい。ここで、一定以上の相同性とは、80%以上、好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上の相同性を意味する。
本発明のトロンビン誘導体は、部位特異的変異導入法により各誘導体をコードするDNAを作製し、該DNAをベクターなどに組み込んで哺乳動物細胞などで発現させることによって得られる。このようなDNAは前述のようにA鎖及びB鎖の両方をコードするものであってもよいし、各鎖をそれぞれ発現させてもよい。部位特異的変異導入法は特に限定されるものではないが、例えば、市販のQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社製)などを用いて行っても良い。また、化学合成によってトロンビン誘導体を得ることもできる。
3−1.<活性中心アミノ酸の置換;以下、第1の発明とも呼ぶ>
本発明のトロンビン誘導体は、トロンビンB鎖205番目のセリン(B鎖205;配列番号2の254番目のセリンに相当するセリン)、203番目のグリシン(B鎖203;配列番号2の252番目のグリシンに相当するグリシン)、43番目のヒスチジン(B鎖43;配列番号2の92番目のヒスチジンに相当するヒスチジン)、99番目のアスパラギン酸(B鎖99;配列番号2の148番目のアスパラギン酸に相当するアスパラギン酸)から選ばれた1種以上のアミノ酸(活性中心アミノ酸)が置換されたトロンビン誘導体である。
なお、本明細書中において、B鎖205、B鎖203等は、B鎖の1番目のアミノ酸(例えば、配列番号2のアミノ酸番号50のイソロイシン)から数えたアミノ酸番号を示している。なお、上記のような置換アミノ酸の位置はアミノ酸の欠失、挿入、付加などによって位置が前後することがある。例えば、N末端部に1つのアミノ酸残基が挿入されれば本来205番目のセリン残基は206番目となるが、そのような205番目のセリン残基に相当するセリン残基も、本発明において205番目のセリン残基と呼ぶこととする。
本発明のトロンビン誘導体が本発明の効果を発現するものであるためには、活性中心アミノ酸の置換後においても、置換前のトロンビンのエクソサイトIの構造が維持されている必要がある。
トロンビンのエクソサイトIは、多くの血栓形成作用、炎症作用を持ったトロンビン基質への結合に最も重要な役割を果たす必須の領域として報告されている(Journal of Biological Chemistry 1989Vol 264 8692-8698)。ヒルジンC末端ペプチドはこのエクソサイトIに対し特異的に結合することが知られている(Journal of Biological Chemistry 1991 Vol 266 23633-23636)。特に、血小板活性化を通じて血栓形成に重要な働きを持つトロンビンレセプターは、ヒルジンC末端領域に高い相同性を持ちエクソサイトIに強固に結合する事が報告されている。よってヒルジンC末端ペプチドに対する結合能を失っているものはエクソサイトIの構造が破壊されトロンビンレセプターをはじめとする多くのトロンビン基質への結合能を失っているものと考えられる。したがって、本発明においては、エクソサイトIの構造が維持されているか否かの第一段階のスクリーニングとしてヒルジンC末端ペプチド(例えば、配列番号3)に対する結合能が維持されているか否かによって判断する。
ヒルジンC末端ペプチドとの結合能が維持されているか否かは、後述の実施例に示したように、ヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルへのトロンビン誘導体の結合割合を測定することによって行うことができる。
本発明のトロンビン誘導体は、ヒルジンC末端ペプチドに対する結合能が保持されているものが好ましく、例えば、ヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルと反応させたときに、反応系に加えた本発明のトロンビン誘導体の全量のうちの10%以上、好ましくは50%以上がヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルに結合するものが好ましい。
なお、トロンビン誘導体のヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルへの結合割合の測定は、あくまでも活性中心アミノ酸の置換の前後においてエクソサイトIの構造が維持されているか否かの確認のために行うものである。したがって、第2の発明において、さらに活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換を行った場合には、エクソサイトIの構造が維持されている場合であっても、その更なるアミノ酸の置換により、FVIII結合能を保持し、かつヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルとの結合能が喪失、あるいは著しく低下している場合もあり得る。
さらに、本発明のトロンビン誘導体は、活性中心アミノ酸の置換によって、ヘパリン結合能を喪失しないものが好ましい。活性中心アミノ酸の置換前のトロンビンのヘパリン結合能に対し、80%以上のヘパリン結合能を保持しているものがより好ましい。トロンビンの立体構造において活性中心はへパリン結合部位(エクソサイトII)とは離れた領域に存在する。すなわち活性中心アミノ酸の置換によってへパリン結合能が喪失するということは、その活性中心アミノ酸の置換が、トロンビン分子全体の構造異常を引き起こし、それによって活性中心から離れた位置に存在するへパリン結合領域の構造が壊れたことを意味する。分子全体の構造異常はトロンビン基質への結合能の低下を意味する。
本発明において、活性中心アミノ酸の置換は、好ましくはトロンビンB鎖の205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンから選ばれた2種以上のアミノ酸の置換であり、より好ましくは少なくとも205番目のセリンが置換されたものであり、特に好ましくは少なくとも205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンが置換されたものである。
B鎖203番目のグリシンは、アラニン、セリン、スレオニンのいずれかに置換されていることが好ましい。99のアスパラギン酸は、アスパラギンに置換されていることが好ましい。43のヒスチジンは、アラニンまたはセリンまたはアスパラギンに置換されていることが好ましい。
B鎖205番目のセリンは、アラニン、スレオニン、またはグリシンに置換されることが好ましく、その中でもアラニンへの置換が特に好ましい。その場合には、エクソサイトIの構造が損なわれにくい。
活性中心アミノ酸の置換が、205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンの置換である場合、205番目のセリンがアラニン、グリシンまたはスレオニンに、43番目のヒスチジンがアラニン又はセリンに置換された誘導体であることが好ましく、205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンがいずれもアラニンに置換された誘導体が特に好ましい。
以下、第1の発明における活性中心アミノ酸の置換について、具体例をもって説明する。
活性中心アミノ酸の置換が、トロンビンB鎖の205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンから選ばれた2種以上のアミノ酸の置換である場合、置換を受ける2種以上のアミノ酸(置換部位)の組合せ、さらには、置換相手となるアミノ酸の種類により、トロンビン基質結合能や抗血栓効果に違いが出ることがある。一例として、下記トロンビン誘導体1〜7を挙げて説明する。
トロンビン誘導体1:置換部位がB鎖205番目のセリンと99番目のアスパラギン酸であり、セリンをアラニンに置換し、アスパラギン酸をアスパラギンに置換したトロンビン誘導体(配列番号22のアミノ酸番号44〜351の配列)。
トロンビン誘導体2:置換部位がB鎖205番目のセリンと43番目のヒスチジンであり、セリンをアラニンに置換し、ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン誘導体(配列番号26のアミノ酸番号44〜351の配列)。
トロンビン誘導体3:置換部位がB鎖205番目のセリンと203番目のグリシンであり、セリンをグリシンに置換し、グリシンをアラニンに置換したトロンビン誘導体(配列番号8のアミノ酸番号44〜351の配列)。
トロンビン誘導体4:置換部位がB鎖205番目のセリンと203番目のグリシンであり、セリンおよびグリシンをアラニンに置換したトロンビン誘導体(配列番号24のアミノ酸番号44〜351の配列)。
トロンビン誘導体5:置換部位がB鎖205番目のセリン、203番目のグリシン、および99番目のアスパラギン酸であり、セリンおよびグリシンをアラニンに置換し、アスパラギン酸をアスパラギンに置換したトロンビン誘導体(配列番号14のアミノ酸番号44〜351の配列)。
トロンビン誘導体6:置換部位がB鎖205番目のセリン、43番目のヒスチジンであり、セリンをグリシンに置換し、ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン誘導体(配列番号34のアミノ酸番号44〜351の配列)。
トロンビン誘導体7:置換部位がB鎖205番目のセリン、43番目のヒスチジンであり、セリンをアラニンに置換し、ヒスチジンをセリンに置換したトロンビン誘導体(配列番号36のアミノ酸番号44〜351の配列)。
トロンビン誘導体1〜7は何れも、ヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルへの結合能を保持していたが、トロンビン誘導体4および5は、ヒト野生型トロンビンに比べ、ヘパリンゲルへの結合能が低下していた。
トロンビン誘導体1〜7は何れもAPTT延長を主とした抗血栓効果を有するものであり、その効果の序列は下記の通りであった。
トロンビン誘導体2≧トロンビン誘導体6、7>トロンビン誘導体1、3>>トロンビン誘導体4、5
トロンビン誘導体2,6,7は、後述のカルボキシル基修飾の有無に関わらず非常に高い抗血栓効果がみられた。また、トロンビン誘導体2にみられる抗血栓効果は、凝固カスケードに対し特異的に作用するものであり、特にAPTTを良く延長した。さらに、トロンビン誘導体2のカルボキシル基を修飾したトロンビン誘導体は抗血小板能が付与あるいは増強され、凝固カスケード抑制、血小板凝集抑制、および血小板粘着抑制作用を有していた。
トロンビン誘導体2および4は、共に205番目のセリンをアラニンに置換したものであるが、前述のようにその抗血栓効果には大きな違いが見られた。トロンビン誘導体3および4も、共に203番目のグリシンをアラニンに置換したものであるが、やはりその抗血栓効果には前述のような違いが見られた。
トロンビン誘導体1、3はそのままではそれほど強い抗血栓効果は示さないものの、そのカルボキシル基を後述のように修飾することにより、その基質特異性を変化させるか、または活性中心アミノ酸以外のアミノ酸(例えばB鎖77番目のリシン)を置換し、Fbgnへの結合能を特異的に低下させ、相対的にFVIIIに対する特異性を向上させる事により、強いAPTT延長効果、血小板凝集抑制効果の一方または両方を示すようになる。具体的には、カルボキシル基の修飾の場合はAPTT延長と抗血小板効果(凝集と粘着)が得られ、B鎖77番目のアミノ酸置換の場合はAPTT延長効果のみ有するトロンビン誘導体が得られる。
一方、トロンビン誘導体4、5においては、カルボキシル基の修飾を行った場合でも、またB鎖77番目のアミノ酸を置換した場合であっても抗血栓効果は弱かった。トロンビン誘導体6、7はトロンビン誘導体2に近い抗血栓効果を示した。
本発明、公知技術を問わず、トロンビンB鎖205番目のセリン、203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸、および43番目のヒスチジンのいずれかを置換して得られるトロンビン誘導体は、以下のように分類される。
A.205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンを置換することによって得られるトロンビン誘導体のように、カルボキシル基の修飾および/またはFbgnへの結合能を低下させるための活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換を行わずとも、強いAPTT延長効果を主とした抗血栓効果を有するトロンビン誘導体。
B.203番目のグリシン、99番目のアスパラギン酸から選ばれた1種と、205番目のセリンを置換することによって得られるトロンビン誘導体のように、そのままではそれほど強い抗血栓効果を示さないが、カルボキシル基の修飾および/またはFbgnへの結合能を低下させるための活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換によって高い抗血栓効果を示すトロンビン誘導体。
C.トロンビン基質分解活性は喪失しているものの、カルボキシル基の修飾および/またはFbgn結合能を低下させるアミノ酸の置換によっても高い抗血栓効果を示さないトロンビン誘導体。
D.抗血栓効果を示すものの、残存活性を有しているため、抗血栓剤としては使用できないトロンビン誘導体。
Aのグループに関してFbgn、FVIIIに対する結合能を確認したところ、いずれもFVIII結合能が向上していることが分かった。よって高いAPTT延長効果は、活性中心アミノ酸の置換の組み合わせによってトロンビン基質分解活性が喪失されるとともに、FVIII結合能が相対的、特異的に向上(Fbgnが相対的に低下)したことに起因すると考えられる。それらのトロンビン誘導体は、カルボキシル基の修飾無しに、そのFbgn結合能の低下により弱い抗血小板効果も確認された。また、その効果はPAR1活性化抑制効果であり、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果を伴わないものであった。
活性中心アミノ酸の置換によるFVIII結合能の相対的、特異的な向上の程度は、前述のとおり具体的な置換の組合せにより決定されるものである。基本的に血液凝固反応を促進するトロンビン基質に対し結合能を保持しつつ、Fbgn結合能を低下させることにより本発明のトロンビン誘導体の抗血栓能は向上する。さらに得られるトロンビン誘導体のFVIII結合能(VIIIA)とFbgn結合能(FA)との比VIIIA/FAが、AHTのFVIII結合能(VIIIa)とAHTのFbgn結合能(Fa)との比VIIIa/Faの、1.1倍以上であれば、高い抗血栓効果が得られ、1.2倍以上であれば、非常に高い抗血栓効果が得られる。
上記活性中心アミノ酸が置換されたトロンビン誘導体は、FVIII結合能がアンヒドロトロンビンに対して10%以上保持されたもの好ましく、80%以上保持されたものがよりこのましい。
上記活性中心アミノ酸が置換されたトロンビン誘導体は、活性化部分トロンボプラスチン時間(APTT)がアンヒドロトロンビン(AHT)の1.1倍以上である誘導体が好ましい。
また、活性中心アミノ酸の置換の組み合わせにおいて、Fbgn結合能、FVIII結合能等の相対的、特異的な変化以外に、FVIIIに対する結合能そのものにも違いが起こる。前述のトロンビン誘導体2、6、7はAHT同等の高いFVIII結合能を示した。一方、その他のトロンビン誘導体においてはFVIII結合能そのものも低下していた。すなわちAのグループはFVIIIに対し高い結合能を有し、かつFbgnに対するFVIII結合能の比が高まった2重の効果により高い抗血栓効果を有する。
本発明のトロンビン誘導体は、活性中心アミノ酸のアミノ酸の置換によってFbgn結合能が10%以上低下し、それによりAPTT延長効果が1.1倍以上増加したものがさらに好ましい。
トロンビンの活性中心部位と、ヒルジンC末端ペプチド、へパリンの結合部位であるエクソサイトI、およびエクソサイトIIは、立体構造上距離が離れている。このようなトロンビンの立体構造を勘案すると、例示した活性中心アミノ酸の置換の組み合わせによりへパリン結合能が低下したトロンビン誘導体、および活性中心アミノ酸の置換によってヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルへの結合能が低下したトロンビン誘導体は、活性中心アミノ酸の無理な(構造上負荷のかかる)置換によって分子全体のフォールディング異常、構造に異常が起こり、ひいてはエクソサイトI構造やエクソサイトII構造にも異常が起こったと考えられる。そのため、トロンビン基質結合能の低下が起こり抗血栓効果の低下が起こったと推測される。
3−2.<活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換;以下、第2の発明とも呼ぶ>
第1の発明の抗血栓効果をさらに向上させる目的で、活性中心アミノ酸以外のアミノ酸、特にエクソサイトIおよび/またはエクソサイトII領域上のアミノ酸のさらなる置換を行ったトロンビン誘導体の説明を以下に行う。この活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換によってヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルやへパリンへの結合能が低下する場合もあるが、これはこれらの領域アミノ酸の直接的な置換の結果であり、活性中心のアミノ酸の置換での蛋白全体の構造異常に基づく結合能の低下とは異なるものである。
本願第2の発明のトロンビン誘導体は、血中に多量に存在するFbgnとの結合能を低下させることでさらに抗血栓能を向上させた誘導体である。
Fbgnとの結合能が低下することで、ターゲットとなる血液凝固を促進するトロンビン基質に効率的に結合しその活性化を阻害することが出来る。
血液凝固を促進するトロンビン基質としてFV、FVIII、FXI、トロンビンレセプター(PAR1)及びPAR4等が挙げられる。さらには、より効率的に抗血栓能を向上するためにトロンビンレセプターまたはFVIIIをより特異的に阻害することがより好ましい。
即ち本発明のトロンビン誘導体はFbgnとの結合性がトロンビンレセプターまたはFVIIIとの結合能に比べ相対的に低く、より少ない投与量によって良好な抗血栓効果を得ることができるものである。さらに、第2の発明であれば、第1の発明のトロンビン誘導体が持つ抗血栓効果を著しく損なうことなく、TMとの結合能を特異的に低下させることができる。このように本発明においては、TM結合能を選択的に低下させることで、本発明のトロンビン誘導体が生体内に投与された場合であっても、TMと結合しトロンビンのプロテインC活性化を抑制することはない。
TMは基質ではないためトロンビンの活性中心とは相互作用しない、この為、第1の発明によってTM結合能を特異的に低下させることは困難である。また 第1の発明によって高めた抗血栓能にさらに第2の発明を加えることにより、さらに抗血栓効果を高める、基質特異性を持たせる等の特徴づけすることが出来る。
第2の発明のトロンビン誘導体は、Fbgnとの結合能が低下しているものであることが好ましい。さらにはトロンビンレセプターやFVIIIとの結合能に比べ相対的に低いものであることがより好ましい。具体的には、FVIII結合能(VIIIA)とFbgn結合能(FA)との比VIIIA/FAが、活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体のFVIII結合能(VIIIa)とFbgn結合能(Fa)との比VIIIa/Faの1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがより好ましい。
さらに、第2の発明のトロンビン誘導体は、TMとの結合能が特異的に低下したものであることが好ましい。具体的には、FVIII結合能(VIIIA)とTM結合能(TMA)との比VIIIA/TMAが、活性中心アミノ酸以外のアミノ酸が置換される以前のトロンビン誘導体のFVIII結合能(VIIIa)とTM結合能(TMa)との比VIIIa/TMaの1.1倍以上であることが好ましく、1.5倍以上であることがさらに好ましい。
さらに、第2の発明によれば、高いAPTT延長効果を持つが抗血小板効果は低いタイプのトロンビン誘導体や、高いAPTT延長効果と高い抗血小効果(但しPAR1阻害効果のみ)を有するタイプのトロンビン誘導体など、効果の発現態様が異なるトロンビン誘導体が得られる。
活性中心以外のアミノ酸の置換は、前述の効果が得られるのであれば特に限定されるものではないが、具体的にはエクソサイトIやエクソサイトII領域上のアミノ酸の置換及びその他のトロンビン誘導体上におけるフィブリノゲン、TMとの相互作用領域をあげることができる。
トロンビンのエクソサイトI領域とは、ヒルジンのC末端領域と特異的に相互作用する塩基性に富むアミノ酸領域として知られ、Fbgn、トロンビンレセプター、TM等と相互作用する重要な領域として知られる(E. Di Cera Thrombin Interactions Chest, 2003; 124(90030): 11-17)。本発明においては、そのうちの塩基性アミノ酸から選ばれた1種以上が置換されていることが好ましく、より好ましくは、トロンビンB鎖の24番目のグルタミン(B鎖24;配列番号2の73番目のグルタミン)、65番目のリシン、および77番目のリシン(B鎖77;配列番号2の126番目のリシンに相当するリシン)から選ばれた1種以上が置換されることである。77番目のリシン、24番目のグルタミン、番目の65リシンを置換するアミノ酸は特に限定されるものではないが、アラニン、セリン、スレオニン、グルタミン酸またはグルタミンであることが好ましい。
エクソサイトII領域とは、主にへパリンと相互作用する塩基性に富むアミノ酸領域として知られる。(E. Di Cera Thrombin Interactions Chest, 2003; 124(90030): 11-17)本発明においては、そのうちの塩基性アミノ酸から選ばれた1種以上が置換されていることが好ましく、より好ましくは、トロンビンB鎖の98番目のアルギニン(配列番号2の147番目のアルギニンに相当するアルギニン)、245番目のアルギニン(配列番号2の294番目のアルギニンに相当するアルギニン)、248番目のリシン(配列番号2の297番目のリシンに相当するリシン)、および252番目のリシン(配列番号2の301番目のリシンに相当するリシン)から選ばれた1種以上が置換されることである。98番目のアルギニン、245番目のアルギニン、248番目のリシン、252番目のリシンを置換するアミノ酸はアラニン等が挙げられるが、目的の誘導体が得られる限り特に限定されるものではない。
へパリン結合能の低下に関して、そのへパリン結合能の低下がへパリン結合領域(エクソサイトII等)以外の領域、例えば活性中心アミノ酸の置換によって引き起こされる場合、その置換によってトロンビン誘導体全体の分子構造、ひいてはエクソサイトIIの立体構造に歪み等の悪影響が与えられ、へパリン結合能が低下したと推察される。
一方、実際に生体内に投与する場合、活性中心アミノ酸を本発明で開示されるような最適な組み合わせで置換した上で、目的に応じ、活性中心アミノ酸以外のアミノ酸として、積極的にエクソサイトIIに位置するアミノ酸、例えばB鎖98番目のアルギニン、B鎖245番目アルギニン、B鎖248番目リジンをアラニン等の他のアミノ酸に置換することによってヘパリン結合能を低下させたトロンビン誘導体を得ることも可能である。へパリン結合能を低下させた誘導体を用いることで血管内皮細胞上のへパラン硫酸等への結合能が低下し血中循環量の向上が期待される。
このような、活性中心アミノ酸に加えてエクソサイトII領域にアミノ酸置換が導入されたトロンビン誘導体は、ヘパリンゲルへの結合能が、エクソサイトII領域アミノ酸が置換される前のトロンビンの90%以下であることが好ましい。
このようなトロンビン誘導体としては、205番目のセリン、43番目のヒスチジン及び65番目のリシンをアラニンに置換し、さらに、245番目のアルギニンをアラニンに置換したトロンビン誘導体(配列番号54のアミノ酸番号44〜351の配列)、205番目のセリン、43番目のヒスチジン及び65番目のリシンをアラニンに置換し、さらに、248番目のリシンをアラニンに置換したトロンビン誘導体(配列番号56のアミノ酸番号44〜351の配列)などが挙げられる。これらの誘導体は、APTT延長効果を有し且つエクソサイトII上のアミノ酸の置換によってヘパリン親和性がヒト野生型トロンビンに比較し低下している。
また、WO2002/004008、WO2002/007748には、トロンビンがArg−Gly−Asp−Ala(トロンビンB鎖の197から200位:配列番号2の246〜249に相当する領域)の領域を通じ、PARへの水解非依存的に種々の細胞に対し増殖的なシグナルを入れる事、及びArg−Gly−Asp−Alaの全てがこのシグナル経路に必須であることが記載されている。本発明で得られる誘導体においては、細胞増殖シグナルは不必要であるため、その他のアミノ酸としてArg−Gly−Asp−Ala配列のいずれかのアミノ酸を置換してもよい。たとえば、実験例25記載のB鎖197アルギニン(配列番号2の246番目のアルギニンに相当するアルギニン)、205セリン及び43ヒスチジンをそれぞれアラニンに置換した誘導体(配列番号48のアミノ酸番号44〜351の配列)は、205セリン及び43ヒスチジンをそれぞれアラニンに置換した誘導体に比較し高いAPTT延長能を有していた。本誘導体はArg−Gly−Asp−Ala配列に起因した細胞シグナル能を欠失している事が予測される。
また、B鎖19番目のフェニルアラニン(配列番号2の68番目のフェニルアラニンに相当するフェニルアラニン)を置換してもよい。このようなトロンビン誘導体としては、205番目のセリン、43番目のヒスチジン及び19番目のフェニルアラニンをアラニンに置換したトロンビン誘導体(配列番号58のアミノ酸番号44〜351の配列)があげられる。
本件第2の発明のトロンビン誘導体は、活性中心以外のアミノ酸の置換により、活性化部分トロンボプラスチン時間が1.5倍以上に延長され、且つトロンボモジュリン結合能が50%以下に低下したものがさらに好ましい。
本件第2の発明のトロンビン誘導体は、APTT延長効果、修飾トロンビン惹起血小板凝集抑制効果、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果のうち少なくともいずれか一種以上の抗血栓効果が向上している誘導体がさらに好ましい。
以下、第2の発明における活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換について、具体例をもって説明する。
具体例1:第1の発明の具体的説明に際して例示したトロンビン誘導体3(203番目のグリシンをアラニンに、205番目のセリンをグリシンに置換したトロンビン誘導体)のAPTT延長効果は高いものではなかった。これに対し、トロンビン誘導体3で行われた活性中心アミノ酸の置換のほかに、77番目のリシンのグルタミン酸への置換を行ったトロンビン誘導体(配列番号28のアミノ酸番号44〜351の配列)は、Fbgn結合能が低下する、さらには、FVIII結合能がFbgn結合能に対し相対的に向上し、高いAPTT延長効果を示す。
具体例2:第1の発明の具体的説明に際して例示したトロンビン誘導体2(205番目のセリンをアラニンに、43番目のヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン誘導体)は、高いAPTT延長効果を示した。トロンビン誘導体2で行われた活性中心アミノ酸の置換のほかに、77番目のリシンのグルタミン酸、アラニン又はセリンへの置換を行ったトロンビン誘導体(配列番号38、44又は50のアミノ酸番号44〜351の配列)は、さらに強いAPTT延長抑制効果を示す。すなわち活性中心アミノ酸の置換によるトロンビン基質への結合特異性の変化と、さらに活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換によるトロンビン基質への結合特異性の変化とが相乗効果となって薬効の強さに影響したものと思われる。
具体例3:トロンビン誘導体2で行われた活性中心アミノ酸の置換のほかに、24番目のグルタミンをグルタミン酸に置換したトロンビン誘導体(配列番号40のアミノ酸番号44〜351の配列)は、APTT延長効果を有し、且つTM結合能が著しく低下した。
具体例4:トロンビン誘導体2で行われた活性中心アミノ酸の置換のほかに、65番目のリシンをアラニンに置換した誘導体(配列番号46のアミノ酸番号44〜351の配列)は、APTT延長効果が増幅し、更にTM結合能が低下するという二重の効果がみられた。エクソサイトI上の65番目リシンをアラニンに置換することで、ヒルジンゲルへの結合能の若干の低下が認められたが、FVIII結合能は保持され且つFbgnに対するFVIII特異性は向上した。
具体例5:トロンビン誘導体2で行われた活性中心アミノ酸の置換のほかに、65番目のリシン及び77番目のリシンをアラニンに置換した誘導体(配列番号52のアミノ酸番号44〜351の配列)は、2ヶ所のアミノ酸の置換による相乗効果が非常に高いAPTT延長効果がみられた。
具体例6:トロンビン誘導体2で行われた活性中心アミノ酸の置換のほかに、65番目のリシン及び245番目のアルギニンをアラニンに置換した誘導体(配列番号54のアミノ酸番号44〜351の配列)は抗血栓能を有しつつヘパリン結合能の低下が見られた。
このように活性中心アミノ酸の置換に加え、それ以外のアミノ酸、特に、エクソサイトI領域やエクソサイトII領域のアミノ酸を置換することで種々の特徴を有するトロンビン誘導体が得られる。
3−3.カルボキシル基の修飾 <第3の発明>
本件第1及び第2の発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基を、特許文献2(国際公開第02/077031号パンフレット)に記載の方法によりカルボキシル基を修飾すれば、Fbgnに対する結合能が低下し、トロンビンレセプターなどのトロンビン基質に対する選択性が増すことから、より少量で抗血栓効果を達成することができる。
また、単にAPTTを延長するのみならず、アミノ酸の置換に依存して抗血小板効果、特にPAR1活性化及びリストセチン惹起血小板凝集抑制効果(GPIbαとvWFの相互作用による)をも付加、制御し得る。具体的には、非常に強いAPTT延長効果と強い抗血小板効果とを有するトロンビン誘導体、中程度のAPTT延長効果と強い抗血小板効果とを有する誘導体などを得ることができる。すなわち、本発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基をカルボキシル基の修飾することにより、種々の血栓症に適応しうる抗血液凝固効果、抗血小板効果を持ったトロンビン誘導体を得ることが可能となる。
本発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基を、特許文献2(国際公開第02/077031号パンフレット)に記載の方法によりカルボキシル基の修飾する場合、カルボキシル基の修飾はカルボジイミドを用いて行うことが好ましい。
本発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基はアミノ基を有する化合物によって修飾することができる。アミノ基を有する化合物は特に制限されないが、アミノ酸のエステル、側鎖にアミノ基を有するポリエチレングリコールなどが好ましい。アミノ酸のエステルとしてはグリシンエチルエステルなどが挙げられる。アミノ基を有する化合物を用いる修飾も国際公開02/077031号パンフレットに記載の方法に基づいて行うことができる。一方、本発明のトロンビン誘導体をポリエチレングリコールと反応させることによって、そのカルボキシル基を修飾してもよい。なお、ポリエチレングリコールまたはアミノ基を有するポリエチレングリコールを用いる場合、ポリエチレングリコール部分の分子量は1000以下であることが好ましい。
なお、カルボキシル基の修飾を行う場合、その効果はその修飾個数によっても影響を受ける。 下記修飾体1から5に記載される効果を得るためには、3箇所以上のカルボキシル基が修飾される事が望ましい。修飾されるカルボキシル基の数が3以上であれば、カルボキシル基の修飾によって付加される効果が明確に得られる。また、修飾されるカルボキシル基は25箇所以下であることが望ましい。修飾されるカルボキシル基の数が25以下であれば、同様にカルボキシル基の修飾によって付加される効果が明確に得られると共に 修飾による回収率の低下が起き難い。但しトロンビン誘導体表面のアミノ酸置換によってカルボキシル基を導入、削除して得られるトロンビン誘導体に関しては、その置換によるカルボキシル基の増加、減少は含まれない。
さらに修飾個数によって多様な効果を持った誘導体が得られる。例えば後述の修飾体1の修飾箇所を8または5箇所に減らすことで、非常に高いAPTT延長効果と中から低度の抗血小板効果を持った誘導体が得られる。
本発明においては、カルボキシル基を修飾する場合、少なくともB鎖25番目のグルタミン酸のカルボキシル基が修飾されたものであることが好ましい。本発明のカルボキシル基が修飾されたトロンビン誘導体は、血小板のリストセチン凝集抑制能が向上したトロンビン誘導体及び/または血小板のGPIbα拮抗能を有するトロンビン誘導体であることが好ましい。
抗血栓効果を高めるために活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換を行った場合に得られる効果、および、カルボキシル基の修飾を行った場合に得られる効果は、置換するアミノ酸の組み合わせなどによって大きく異なる。疾患及び病態などに応じて、また目的に応じてアミノ酸置換のみを導入したトロンビン誘導体、およびそれにカルボキシル基の修飾を組み合わせたトロンビン誘導体を用いることができる。
即ち、深部静脈血栓症等の静脈における血栓症においては、血液凝固を抑制する薬が一般に用いられるため、各トロンビン誘導体及びそのカルボキシル基修飾体の中から高いAPTT延長効果を持つトロンビン誘導体を用いることが望ましい。
一方、心筋梗塞、不安定狭心症等の動脈系の血栓症においては血小板凝集を抑制する薬が一般に用いられるため、高い血小板凝集抑制効果を持ったトロンビン誘導体が望まれる。その中よりAPTT延長効果の異なるトロンビン誘導体は出血など副作用の状況等に応じて選択がなされるべきである。
また、粥状硬化部位におけるプラ−クの破錠にともなう、血栓症においては血小板と共に凝固系の抑制も重要であることが報告されており(血栓症、南江堂)血小板、凝固双方の抑制が効果的である。このような凝固、血小板両方に作用する薬剤は現在市販されておらず、本発明は全く新たな治療剤を提供しうる。
以下に、活性中心アミノ酸の置換および活性中心アミノ酸以外のアミノ酸の置換と、カルボキシル基修飾との関係について具体例を挙げて説明する。以下の具体例は水溶性カルボジイミドを縮合剤として用い、且つ修飾をグリシンエチルエステルによって行い約15個のカルボキシル基が修飾された誘導体である。
修飾体1:205番目のセリンをアラニンに、かつ43番目のヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン誘導体は、カルボキシル基の修飾を行わずとも、非常に高いAPTT延長効果を有している。このトロンビン誘導体にカルボキシル基修飾を行ったトロンビン誘導体は、カルボキシル基の修飾によりAPTT延長効果がある程度増幅するのみならず、血小板に対するリストセチン惹起血小板凝集抑制効果、M−トロンビン惹起血小板凝集抑制効果が高く、抗血液凝固、抗血小板能共に非常に高い効果を示す。
修飾体2:205番目のセリンをグリシンに、203番目のグリシンをアラニンに置換した誘導体は、カルボキシル基の修飾前には APTT延長効果、抗血小板効果は高くないものであるが、カルボキシル基の修飾を行うことで、APTT延長効果、抗血栓効果が高まり中程度のAPTT抑制効果と高い抗血小板効果を持ち合わせたトロンビン誘導体となる。
修飾体3:205番目のセリンをアラニンに、203番目のグリシンをアラニンに置換したトロンビン誘導体は、APTT延長効果は高くなかった。このトロンビン誘導体のカルボキシル基を修飾してもAPTT延長効果の増幅は顕著には見られなかった。
修飾体4:205番目のセリンをグリシンに、203番目のグリシンをアラニンに、77番目のリシンをグルタミン酸に置換したトロンビン誘導体は、APTT延長効果を持つが、抗血小板効果は非常に弱いものである。このトロンビン誘導体のカルボキシル基修飾を行った場合には、APTT延長効果のさらなる増加は殆ど見られないが、抗血小板効果は顕著に増幅された。ただし、カルボキシル基の修飾により、その回収率は50%以下と著しく低下した。
修飾体5:205番目のセリンをアラニンに置換した誘導体は、比較的弱いAPTT延長効果を持つが抗血小板効果は非常に弱いものであった。このトロンビン誘導体にカルボキシル基修飾を行った場合には、APTT延長効果の大幅な増幅は見られないが、抗血小板効果は(PAR1及びリストセチン両方の経路に対し)顕著に増幅された。
修飾体6:205番目のセリンをアラニンに、43番目のヒスチジンをアラニンに、65番目のリシンをアラニンに置換した誘導体は、強いAPTT延長効果と共に強いPAR1経路の血小板凝集抑制効果を有している。一方、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果は有していなかった。このトロンビン誘導体にカルボキシル基修飾を行った場合は、APTT延長効果が若干増強し、M-トロンビン惹起血小板凝集効果も若干増強し、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果が新たに付与された。また、修飾体4にみられた回収率の大きな低下はおきなかった。
なお、GPIbαのみ抑制する誘導体の場合は活性中心が閉塞する事によってトロンビン基質分解活性及びトロンビン基質結合能が低下したPPACK-トロンビン(Phe-Pro-Arg配列がクロロメチルケトン修飾されたもの)を修飾したトロンビン誘導体を用いることが出来る。但しその場合もTMに対し結合能を低下させる本明細書記載のアミノ酸の置換を施すことによりより有効な効果を発揮する。
本発明の各種トロンビン誘導体は、目的によって使い分ける事が可能である。例えば、前出のトロンビン誘導体2は、静脈内におけるフィブリン血栓(赤色血栓)に対し効果的であることが予測され、トロンビン誘導体2のカルボキシル基修飾体は、動脈内の血小板血栓(白色血栓)に対しても効果的である事が予想される。
あるいはカルボキシル基の修飾を行わない前述の205番目のセリンがアラニンに、43番目のヒスチジンがアラニンに、かつ77番目のリシンがグルタミン酸に置換されたトロンビン誘導体も静脈内血栓に対しては有効と考えられる。
又、動脈内での血小板血栓においてもその疾患において出血が問題になる場合には、トロンビン誘導体2のカルボキシル基修飾体よりも、APTT延長効果の低いトロンビン誘導体3のカルボキシル基修飾体の方が望ましい。これらは疾患の患者に対するリスクと出血のリスクを考慮して選択することができる。
4.本発明の用途、ほか
本発明はまた、上述のトロンビン誘導体をコードするDNAを提供する。このようなDNAとしては、例えば、配列番号7、13、21、23、25、27、33、35、37または39の塩基番号130〜1056の塩基配列を含むトロンビン誘導体前駆体をコードするDNAなどを例示することができる。これらのDNAはコードするアミノ酸配列が変化しないようにコドンを変化させたものでもよい。さらに、上述のような特定のアミノ酸が置換され、目的の活性を有するトロンビン誘導体をコードする限りにおいて、配列番号7、13、21、23、25、27、33、35、37または39の塩基番号130〜1056の塩基配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするものであってもよい。ここで、ストリンジェントな条件としては、例えば、通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である60℃、1×SSC, 0.1%SDS、好ましくは60℃、0.1×SSC, 0.1%SDS、特に好ましくは65℃、0.1×SSC, 0.1%SDSに相当する塩濃度で、1回より好ましくは2〜3回洗浄する条件が挙げられる。
なお、本発明のDNAはトロンビン誘導体前駆体をコードするものに限定されず、A鎖をコードするDNAとB鎖をコードするDNAを別々に用意したような場合でも本発明のDNAに含まれる。
本発明のトロンビン誘導体は抗血栓効果を有している。この作用は、例えば、実施例に示すような血漿のAPTT測定や全血凝固時間測定、血小板凝集能抑制効果によって確認することができる。なお、本発明では、抗血小板効果確認の中でM−トロンビン惹起血小板凝集抑制効果を用いて評価している。
M−トロンビンがPRP(多血小板血漿:platelet rich plasma)中において血小板凝集を惹起すること、及びその血小板凝集惹起は抗PAR1抗体(ATAP2 コスモバイオ社)によって完全に阻害されることから、M−トロンビンはトロンビンレセプター(PAR1)を介して血小板を活性化すると考えられる。したがって、本発明で得られる誘導体のM−トロンビン惹起血小板凝集を阻害する効果はトロンビンレセプター活性化阻害効果に基づくと考えられる。
本発明のトロンビン誘導体は、上記置換に加えて、さらに、ナトリウム結合部位が置換されたトロンビン誘導体であってもよい。ナトリウム結合部位とはBiochemistry 1992年,31巻,p11721-11730に開示された部位をいう。この中ではB鎖232又はB鎖234のアスパラギン酸(配列番号2の281又は283番目のアスパラギン酸に相当するアスパラギン酸)が好ましい。これらのアスパラギン酸は両方が置換されてもよい。また、これらのアスパラギン酸は、アラニンもしくはアスパラギンに置換されることが好ましい。
本発明のトロンビン誘導体を製剤学的に許容される製剤担体と組み合わせることにより、医薬組成物として使用することができる。ここで、医薬組成物として好ましくは、抗血栓治療薬、抗炎症剤、血小板凝集抑制剤、血小板粘着抑制剤、血小板GPIb拮抗剤、トロンビンレセプター活性化抑制剤などを挙げることができる。上記製剤担体は製剤学的に許容されるものであれば特に制限されないが、通常の薬剤に汎用される注射剤用溶剤、安定剤、希釈剤、界面活性剤等を使用できる。本発明の医薬組成物の投与単位形態は特に限定されず、治療目的に応じて適宜選択できる。例えば、注射剤等を例示できる。本発明の医薬組成物の投与量は、症状などに応じて適宜選択される。
以下実験例を用いて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、この実験例の範囲には限定されない。
<1>トロンビン基質分解活性の測定
方法A:合成基質S2238(シグマ社)を基質とし、50mMトリス塩酸(pH8)、37℃における405nmの吸光度の増加による測定を行った。
被験サンプル(ヒト野生型トロンビンまたはトロンビン誘導体)の50mM トリス塩酸 0.1M NaCl溶液(pH7.4)、ヒト野生型トロンビンの場合の濃度は1μg/ml、トロンビン誘導体の場合の濃度は200μg/ml)と、合成基質S2238の50mM トリス塩酸 0.1M NaCl溶液(pH7.4)を、200μlずつエッペンチューブに加え、37℃、12時間インキュベーションした。反応停止は50%酢酸 200μlを添加して行った。
なお、合成基質S2238の50mM トリス塩酸 0.1M NaCl溶液(pH7.4)と、50mM トリス塩酸 0.1M NaCl(pH7.4)を、200μlずつエッペンチューブに加え、37℃、12時間インキュベーションしたものをコントロールとした。
12時間インキュベーションした後のコントロールの吸光度は、インキュベーション前に比べて0.005増加した。被験サンプルの12時間インキュベーション終了後の吸光度の増加が、インキュベーション前の吸光度に比べて0.05以下の場合は測定限界以下であると判定した。
方法Aにおいて活性が認められないレベルに活性が低下したトロンビンに関しては、さらに以下の方法B又はC又はDいずれかの活性測定を行った。
方法B:FXIIIとしてフィブロガミンP(アベンティス ファーマ)を用いた。3mlのフィブロガミンP 250単位を50mM EDTA、0.1M NaCl(pH7.4)に透析した溶液50μlに対し、被験サンプル0.1mg/ml(トロンビン誘導体)のPBS溶液(pH7.4)100μlをエッペンチューブに加え、37℃、3時間インキュベーションした後、SDS-PAGEによってFXIIIの活性化の有無を確認した。目視で分解産物が確認される場合にSDSPAGEを−SH条件下で行いFXIIIのA鎖及び活性化A鎖のバンドの濃さをライトキャプチャー(アトー株式会社)を用い解析比較した。
方法C: 50mM トリス塩酸 0.1M NaCl(pH7.4)に溶解した4mg/ml Fbgn溶液200μlに、0.2mg/mlに調整された被験サンプル(トロンビン誘導体)を100μl添加し良く混和したのち、37℃、3時間のインキュベーションを行った。3時間後のクロット形成の有無を目視によって判断した。
方法D:50mM トリス塩酸 0.1M NaCl pH7.4に溶解した0.1mg/ml トロンビンレセプター細胞外ドメインペプチド(配列番号4)溶液200μlに、0.3mg/mlに調整された被験サンプル(トロンビン誘導体)を100μl添加し 良く混和したのち、37℃ 3時間のインキュベーションを行った。50%酢酸 200μlを添加して反応を停止した後、SDS-PAGEによってトロンビンレセプターの活性化の有無を確認した。目視で分解産物が確認される場合にSDSPAGEを−SH条件下で行いトロンビンレセプターの分解産物のバンドの濃さをライトキャプチャー(アトー株式会社)を用い解析比較した。
<2>基質結合能の測定法
方法E:ヒルジンC末端ペプチド(配列番号3)への結合能の確認
(1)ヒルジンC末端ペプチドゲルの作製
ヒルジンC末端ペプチド10mgを0.1M NaHCO3緩衝液に溶解し、同緩衝液に置換したNHS活性化セルロファイン(チッソ社)10mlを加え混和し30分間 25℃にて攪拌した。
ここに1Mトリス塩酸 pH8 25℃ 20mlを加え更に30分間 攪拌しヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルを得た。同ゲルを50mM トリス塩酸 0.15M NaCl(pH7.4)25℃で平衡化した後、0.1M NaHCO3緩衝液で透析した各トロンビン誘導体を添加し 30mlの0.1M NaHCO3緩衝液で洗浄した。
(2)ヒルジンC末端ペプチド(配列番号3)への結合能の確認 ヒト野生型トロンビンもしくはトロンビン誘導体を含有する分画の2mlを、50mMトリス塩酸 0.15M NaCl(pH8)4℃に平衡化したヒルジンC末端ペプチドカラム10mlに添加し、30mlの50mM トリス塩酸緩衝液で洗浄後、50mM トリス塩酸1M NaCl 3M 尿素(pH8)で溶出した。抗ヒトトロンビン抗体を用いたウェスタンブロッティングにより素通り分画、および溶出分画のトロンビンを確認した。なお、本発明では、ヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルへの結合割合が、カラムに添加した被験サンプルの50%以下であるトロンビン誘導体は、基質結合能を喪失していると判断した。
<3>ヘパリン結合能の確認法
方法F:ヒト野生型トロンビンもしくはトロンビン誘導体5mlを50mM NaHCO3 /50mM NaCl溶液で平衡化したHI−TRAP HEPARINカラム(アマシャム・ファルマシア社)に添加し15mlの50mM NaHCO3 /50mM NaCl溶液で洗浄した後バッファーA:50mM NaHCO3 /50mM NaClバッファーB:50mM NaHCO3 /1M NaCl を用い流速 0.5ml/min 100分間で B0% からB100% へのグラジエント溶出を行った。
ヒト野生型トロンビンはA50%(0.5M NaCl)が溶出のピークになった。本条件下 ヒト野生型トロンビンに比較し80% A40%以下の塩濃度で溶出されたトロンビン誘導体はヘパリン結合能が低下していると判断した。
方法F:バイオセンサー(IAsys日製産業)を用いたトロンビン誘導体のトロンビンレセプター結合能の測定
(1)トロンビン誘導体固定化キュベットの作製
被験サンプル(トロンビン誘導体) 10mM リン酸バッファー(pH7.7)を、NHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)10分間 25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、トロン
ビン誘導体固定化キュベットを得た。引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。
(2)1000、500、200、100、50、25、10nMに調整した トロンビンレセプター細胞外ドメインペプチド(配列番号4)の50mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl 溶液(pH7.4)0.1mlを、(1)で得られたトロンビン誘導体固定化キュベットに加え結合曲線を解析した。
解析はFAST fit(日製産業)を用い同社マニュアルに順じて行った。
<3>APTT測定方法
本実施例において方法に関し特に指定が無い限り、APTTの測定は下記の方法にて行った。
標準血漿(国際試薬社)とサンプルを混和し、総量の25%のAPTT試薬(国際試薬社)を加え37℃ 5分インキュベーションを行う。5分後 0.1M CaCl2を8μMになるように添加し、カルシウム添加から凝固までの時間を測定する。
<4>AHTの合成
本実施例中のAHTは下記の実験方法によって得たものを使用した。
4−1:AHTの合成
ヒト野生型トロンビン60mgを100μM PIPES pH6.5 50mlに溶解しAPMSF(WAKO社)10mgを加え10分攪拌した。つづいて溶解サンプルを氷水で冷却し、1N NaOH を6ml加え、10分間反応させた後(氷水中で反応)、5M NaCl 14mlとグリセロール 70mlを加え攪拌し、1M PIPES(pH6.5)にてpH8.0へ調整した。さらに、0.1M NaHCO3 - 0.5M NaCl 560ml 中へ、調整サンプルを滴下希釈し、0.1M NaHCO3 - 0.5M NaClにて透析を行った。引き続き透析サンプルを、8,000rpm 5min. 遠心沈殿除去後、サンプルを最終100mlへ濃縮した。
アンチトロンビン(Anti-Thrombin、AT) 50単位/ml 1ml にヘパリン10mgを加えたものを濃縮後のサンプルに加え、50mM NaHCO3 - 0.3M NaClに透析する。その後、8,000rpm 5min. 遠心沈殿除去した。
4−2:AHTの精製
50mM NaHCO3にて平衡化したベンズアミジン・セファロース(Benzamidine-Sepharose)50mlにAで得られたサンプル50mlを添加し(流速2ml/min)、50mM NaHCO3 - 0.1M NaClにて洗浄後、0.1Mベンズアミジン(Benzamidine )- 50mM NaHCO3 - 0.1M NaClにて溶出した。BCAにて蛋白の確認をし、AHT蛋白の含まれる画分を、50mM NaHCO3にて平衡化したヘパリン・セファロース(Heparine-Sepharose)に添加し(流速2ml/min)その後、1mM PIPES - 0.1M NaCl pH6.5にて洗浄し、ベンズアミジン(benzamidine)除去後、1mM PIPES1M NaCl pH6.5にてAHTを溶出させた。溶出画分に、APMSFを10mg添加し、1mM PIPES0.1M NaCl pH6.5に透析した。
4−3:2回目ベンズアミジン精製
つづいて再度カラム添加直前に、サンプルにAPMSFを1mg加え、1mM PIPES pH6.5にて平衡化したベンズアミジン・セファロース(Benzamidine-Sepharose)カラムに添加した。1mM PIPES - 0.1M NaCl pH6.5にて洗浄後、0.1Mベンズアミジン(Benzamidine) - 1mM PIPES0.1M NaCl pH 6.5にて溶出し、1mM PIPES pH6.5にて平衡化したヘパリン・セファロース(Heparine-Sepharose)にAHT画分を添加し、1mM PIPES - 0.1M NaCl pH6.5にて洗浄後、1mM PIPES - 1M NaCl pH6.5にて溶出させた。
4−4:3回目ベンズアミジン精製
得られたサンプルにAPMSFを10mg添加し、1mM PIPES - 0.1M NaCl pH6.5にて透析後、2回目ベンズアミジン精製同様の操作にてAHTを精製し、へパリン溶出AHTに再度1mgのAPMSFを添加した。約30mgのAHTが回収された。
4−5:APTTの測定方法
50μg/ml及び25μg/mlに調整したAHT及びトロンビン変異体PBS溶液(PBS;137mM NaCl, 2.68mM KCl, 8.1mM Na2HPO4, 1.47mM KH2PO4(pH7.4)100μlを標準血漿(国際試薬社)100μlと混合し、APTT試薬(国際試薬社)50μlを添加し37℃で5分インキュベーションを行った後0.1M CaCl2 を22μl加えカルシウム添加から凝固(フィブリン塊が析出する)までの時間をそれぞれ測定した。コントロールとしてPBSのみを同様に添加した標準血漿を用い同様の方法にてAPTTを測定した。
以下実験例においてもインキュベーション、APTT試薬、カルシウム溶液の添加、APTTの測定は同様の方法で行った。
なお、各種トロンビン誘導体におけるAPTT延長能は、50μg/ml及び25μg/mlの少なくともいずれか一方の濃度において比較対象(AHTなど)に対してAPTTが増加している場合をAPTT延長能の向上と判断した。例えば50μg/ml及び25μg/mlの少なくともいずれか片方の濃度において、APTTが比較対象に対して1.1倍以上に上昇している場合を、APTT延長効果が1.1倍以上に向上していると判断した。
4−6:AHTのAPTTの測定
50μg/ml及び25μg/mlのAhT(PBS;137mM NaCl, 2.68mM KCl, 8.1mM Na2HPO4, 1.47mM KH2PO4(pH7.4)100μlを標準血漿(国際試薬社)100μlと混合し、APTT試薬(国際試薬社)50μlを添加し37℃で5分インキュベーションを行った後0.1M CaCl2 を22μl加えカルシウム添加から凝固(フィブリン塊が析出する)までの時間をそれぞれ測定した。AhT溶液の代わりにPBSのみを同様に添加した標準血漿をコントロールとして測定した結果それぞれ
コントロール: 46.5秒
AHT 50μg/ml: 63.5秒(1.36倍)
25μg/ml: 58.5秒(1.25倍)
となった。
[実験例1]
(1)ヒト野生型トロンビンの発現
ヒト野生型トロンビンのA鎖及びB鎖を含むDNA(配列番号5)をベクターに挿入しCHO細胞にトランスフェクションし、プレトロンビン生産細胞を得た。
なお、配列番号6で示されるヒト野生型プレトロンビンの配列は、アミノ酸番号1〜43がシグナル配列、44〜92がA鎖であり、93〜351がB鎖である。
プレトロンビン生産細胞をCD-CHO培地2リットルで10日間培養した。得られたプレトロンビン生産細胞の培養液2リットルを20リットルの10mM PIPES緩衝液(pH7)4℃に6時間ずつ2回透析したのち、CMセルロファイン(チッソ社)500mlに添加し、10mM PIPES緩衝液(pH7)1リットルにて洗浄した。次に、10mM PIPES緩衝液(pH7)0〜1M,NaClの直線的濃度勾配にて溶出を行った。溶出液を各25mlずつの分画に分け、それぞれを抗ヒトトロンビンポリクローナル抗体(コスモバイオ社)を用いたウェスタンブロッティングによって確認したところ、ヒト野生型トロンビンは約0.4Mで溶出された。
(2)ヒト野生型トロンビンのエカリンによる活性化及び活性化ヒト野生型トロンビンのヒルジンC末端ペプチド結合能の確認
得られたヒト野生型トロンビンを5mg含む分画約100mlを2リットルの50mM トリス塩酸緩衝液、0.15M NaCl, 5mM、CaCl2(pH8)溶液に透析した後 エカリン(シグマ社)100unitsを加え 37℃ 24時間インキュベーションした。エカリン処理後の一部を用い方法E記載のヒルジンC末端ペプチド結合実験を行ったところ、素通り分画にはトロンビンは確認できず、溶出分画にトロンビンのバンドが確認された。
(3)ヒト野生型トロンビンの精製
次にヒルジンC末端ペプチド結合実験に使用した残りのエカリン活性化後のトロンビンを含む溶液98mlを、50mM トリス塩酸緩衝液、0.1M NaCl(pH8)で平衡化した硫酸化セルロファインカラム(チッソ社)200mlに添加し、同緩衝液200mlで同カラムを洗浄した後、50mM トリス塩酸緩衝液、1M NaCl(pH8)にて溶出した。さらに溶出液を50mM トリス塩酸緩衝液、0.1M NaCl(pH8)に透析し 同緩衝液で平衡化されたヒルジンC末端ペプチドカラム(ヒルジンC末端ペプチドを200mg、NHS活性化セルロファイン(チッソ社)を30mlとした以外は、前述の「方法E:ヒルジンC末端ペプチド(配列番号3)への結合能の確認」に記載の方法に準じて作製した)30mlに添加した。50mM トリス塩酸緩衝液150mlで該ヒルジンC末端ペプチドカラムを洗浄した後、50mM トリス塩酸緩衝液、1M NaCl 4M グアニジン塩酸(pH8)にて溶出し、SDS-PAGE上ほぼ純化されたヒルジン結合能のヒト野生型トロンビン 約5mgを得た。
(4)カルボキシル基修飾トロンビン(M-トロンビン)の合成
5mlの50mMリン酸緩衝液0.5M NaCl(pH6.5)に溶解した1mgヒト野生型トロンビンを0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後、これに1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide、和光純薬)をその濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、ヒト野生型トロンビンのカルボキシル基を修飾した。残存カルボジイミドは終濃度0.5Mになるようにグリシンを添加し反応を終了させた。質量分析の結果分子量約1400増加しており約15個のカルボキシル基が修飾されていた。
(5)PRPを用いた修飾トロンビンの血小板凝集惹起及び抗PAR1抗体(ATAP2 コスモバイオ社)の抑制効果の評価
採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。
PRP140μlに対し100μlのPBSを加え 1μg/mlの修飾トロンビン/PBS溶液を35μl添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図46の002に示す。
採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。
PRP140μlに対し50μg/mlのPAR1抗体/PBS溶液を100μl加え 1μg/mlの修飾トロンビンのPBS溶液を35μl添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図46の001に示す。
以上の結果より修飾トロンビンは血小板凝集を惹起し、且つ修飾トロンビンによる血小板凝集はPAR1抗体によって完全に抑制された。このことより修飾トロンビンはPAR1活性化によって血小板凝集を惹起していることが示された。
[実験例2]
(1)B鎖203グリシンをアラニンにB鎖205セリンをグリシンに置換したトロンビン誘導体(以下203A205Gトロンビン)の発現
203A205GトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。203A205Gトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号7に示す。
203A205Gトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じて硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS-PAGE上でほぼ純化された203A205Gトロンビンが約5mg得られた。
次いで方法Fに従いヘパリンゲルへの結合能を測定したところ野生型ヒトトロンビンと同等の溶出位置(A50%)にて溶出された。
(2)203A205Gトロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた203A205Gトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Aに従って測定した結果、インキュベーション後の吸光度の有意な増加はみられなかった。
さらに、203A205Gトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した結果を図41に示す。3時間インキュベーション後のサンプル(レーン6)にFXIIIのA鎖活性化産物のバンドは確認されなかった。さらに、203A205Gトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Cに従って測定した結果、クロット形成は確認されなかった。
(3)203A205Gトロンビンのトロンビンレセプターへの結合能の確認
(1)で得られた203A205Gトロンビンのトロンビンレセプターへの結合能を、前述の方法Fに従って測定した。203A205Gトロンビンのトロンビンレセプターの解離定数は3.2μMであった。
(4)203A205GトロンビンのAPTTの測定
50μg/mlの203A205Gトロンビン(PBS;137mM NaCl, 2.68mM KCl, 8.1mM Na2HPO4, 1.47mM KH2PO4(pH7.4)100μlを標準血漿(国際試薬社)100μlと混合し、APTTを測定した。PBSのみを同様に添加した標準血漿をコントロールとして測定したところ、コントロールが44秒、203A205Gトロンビンでは48秒であり1.09倍に延長した。
(5)PRP(多血小板血漿:platelet rich plasma)を用いた203A205Gトロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2500rpmで10分遠心分離することによりPPP(乏血小板血漿:platelet poor plasma)を得た。100μl添加した場合に203A205Gトロンビンの終濃度が80μg/mlとなるように濃度が調整された、203A205Gトロンビンの5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液100μlをPRP130μlに添加し、血小板凝集惹起物質として5mg/mlリストセチン5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率(波長700nm)の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。結果を図11に示す。なお、縦軸の透過率は血小板凝集能と正の相関を示す値である。
評価2:血小板凝集惹起物質として1μg/mlM−トロンビン(ヒト野生型) 5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液を用いた以外は、評価(1)の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。結果を図12に示す。
図11、12より、80μg/mlの濃度の203A205Gトロンビンを添加しても血小板凝集の有意な抑制効果は得られない結果が得られた。
(6)IAsysを用いたトロンビン基質結合能比較実験
203A205Gトロンビン誘導体またはAHTの0.1mg/mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.4)溶液を、それぞれNHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、203A205GトロンビンまたはAHT固定化キュベットを得た。(各キュベットに203A205Gトロンビンは4100arc、 AHTは2400arcそれぞれ結合した。)引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。203A205GキュベットまたはAHTキュベットにそれぞれ100nMのFbgn及びFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図13と図14に示す。
図14よりAHTキュベットにはFbgnとFVIIIがほぼ同程度結合しているのに対し、図13より203A205GキュベットにはFVIIIの方がFbgnより少ない結合が確認された。構造変化を最小にするため単純に205番目のセリンをデヒドロアラニンに変換する事で得られたAHTに比較し、203A205Gトロンビンは低いFVIII結合能を有していることが分かった。また、AHTに対し203A205Gトロンビンは固相化量との比で換算にFVIII結合が約11%に低下していた。そのため203A205GトロンビンはAPTT延長効果が低いものと考えられた。
(7)カルボキシル基修飾203A205GトロンビンのAPTT及びプロトロンビン時間(PT)の測定
5mlの50mMリン酸緩衝液 0.5M NaCl(pH6.5)に溶解した1mgの203A205Gトロンビンを0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後、これに1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide、和光純薬)をその濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、203A205Gトロンビンのカルボキシル基を修飾した。残存カルボジイミドは終濃度0.5Mになるようにグリシンを添加し反応を終了させた。質量分析の結果分子量約1400増加しており約15個のカルボキシル基が修飾されていた。
評価1:APTT測定1
修飾された203A205Gトロンビン500μgを、5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)1mlに溶解したもの50μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:10の割合となるように添加し、APTTを測定した。5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)を、標準血漿(国際試薬社)に1:10(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは38秒であったのに対し、カルボキシル基修飾203A205GトロンビンのAPTTは65秒であった。
評価2:APTT測定2
修飾された203A205Gトロンビン50μgを、1mlのPBSに溶解したもの100μlを、標準血漿(国際試薬社)100μlに添加し、APTTを測定した。PBSを標準血漿(国際試薬社)に同様に添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは44秒であったのに対し、カルボキシル基修飾203A205GトロンビンのAPTTは85秒であった。
評価3:PTの測定
修飾された203A205Gトロンビン500μgを、5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:10の割合となるように添加し、PTを測定した。5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)を、標準血漿(国際試薬社)に1:10(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは20秒であったのに対しカルボキシル基修飾203A205GトロンビンのPTは21秒であった。
(8)PRP(多血小板血漿:platelet rich plasma)を用いたカルボキシル基修飾203A205Gトロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPP(乏血小板血漿:platelet poor plasma)を得た。100μl添加した場合にカルボキシル基修飾203A205Gトロンビンの終濃度が37μg/mlとなるように濃度が調整された、カルボキシル基修飾203A205Gトロンビンの5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液100μlをPRP130μlに添加し、血小板凝集惹起物質として5mg/mlリストセチン5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率(波長700nm)の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。結果を図1に示す。なお、縦軸の透過率は血小板凝集能と正の相関を示す値である。
評価2:血小板凝集惹起物質として1μg/mlM−トロンビン(ヒト野生型)5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液を用いた以外は、評価1の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4) 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。結果を図2に示す。
図1、図2より、カルボキシル基修飾203A205Gトロンビンを用いることによって血小板凝集が低下したことから、該トロンビン誘導体はリストセチン惹起血小板凝集及び修飾トロンビン惹起血小板凝集において抗血小板効果を示すことがわかった。
以上の結果から、203A205Gトロンビンは、活性が検出限界以下に低下しているが、基質への結合能は保持していることがわかった。また、APTTの結果および血小板凝集抑制実験の結果から、203A205Gトロンビンは80μg/mlにおいては十分な抗血栓効果、抗血小板効果を有していなかったが、約15個のカルボキシル基が修飾を受けたカルボキシル基修飾203A205Gトロンビンは低濃度においても十分な抗血栓効果、抗血小板効果を有していることがわかった。
また、IAsysを用いた基質結合能比較実験より203A205GトロンビンはFVIII結合能が低く、また結合力もAHTに比較し固定化蛋白対比では11%程に低下しているため高いAPTT延長効果が無いことが推測される。カルボキシル基の修飾を行った203A205Gトロンビンは実験例12記載の205A43Aトロンビン同等のAPTT延長効果であったが、血小板凝集抑制効果においては205A43Aトロンビンに比較し同等の効果を示した。カルボキシル基の修飾を行った205A43Aトロンビンと比較した場合、カルボキシル基の修飾を行った203A205G トロンビンはAPTT延長効果は弱いものも血小板凝集抑制効果は同等に強い性質を示した。
(9)203A205Gトロンビンのカルボキシル基修飾個数と抗血栓効果の関係の評価
(9)−1.修飾個数1から10個のカルボキシル基修飾203A205G誘導体の作製
5mlの50mMリン酸緩衝液 0.5M NaCl(pH6.5)に溶解した1mg 203A205Gトロンビンを0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後、これに1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide、和光純薬)を終濃度が2mg〜20mg/mlになるように加え、25℃にて60分〜120分インキュベーションを行い、203A205Gトロンビンの2個〜28個のカルボキシル基を修飾したカルボキシル基修飾トロンビン誘導体1〜5を得た。
(9)−2.PBSに透析したカルボキシル基修飾トロンビン誘導体1〜5のAPTT延長効果
修飾された203A205Gトロンビン50μgを、1mlのPBSに溶解したもの100μlを、標準血漿(国際試薬社)100μlに添加し、APTTを測定した。PBSを標準血漿(国際試薬社)に同様に添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。
結果を以下に示す。
203A205Gトロンビン 約0個修飾 APTT 47秒
カルボキシル基修飾トロンビン誘導体1 約1個修飾 APTT 48秒
カルボキシル基修飾トロンビン誘導体2 約3個修飾 APTT 56秒
カルボキシル基修飾トロンビン誘導体3 約5個修飾 APTT 61秒
カルボキシル基修飾トロンビン誘導体4 約10個修飾 APTT 77秒
カルボキシル基修飾トロンビン誘導体5 約26個修飾 APTT 60秒
以上よりEDCを用いた203A205Gトロンビンにおいて3個以上のカルボキシル基修飾によって顕著なAPTT延長効果が確認された。カルボキシル基修飾トロンビン誘導体1〜4における修飾前後における回収率は75%以上であった。26個修飾された誘導体においてはAPTT延長効果は見られるものの、凝集がおき、回収率が40%と低く過度なカルボキシル基修飾による回収率の低下が起こることが分かった。
[実験例3]
(1)B鎖205セリンをアラニンに置換したトロンビン(以下205Aトロンビン)の発現
205AトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号9に示す。
205Aトロンビンを実験例1の(1)の方法に準じて発現させた。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されなかった。溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上 ほぼ純化された205Aトロンビンが約6mg得られた。205AトロンビンのヒルジンC末端固定化ペプチドによる精製結果の電気泳動を図39に示す。レーン5の素通りには205Aトロンビンのバンドは確認されず溶出フラクションに純化された205Aトロンビンのバンドが確認される。
上記の結果より205AトロンビンがヒルジンC末端ペプチド固定化ゲル結合能を有していることが示された。
次いで方法Fに従いヘパリンゲルへの結合能を測定したところ野生型ヒトトロンビンと同等の溶出位置(A50%)にて溶出された。
(2)205Aトロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた205Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を前述の方法Bに従って測定した結果を図40に示す。レーン8に示されるように3時間後においても活性化されたFXIIIのA鎖は確認されなかった。
(3)205AトロンビンのAPTTの測定
205Aトロンビン500μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試
薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは55秒であったのに対し、205AトロンビンのAPTTは95秒であった。
205Aトロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは41秒であったのに対し、205AトロンビンのAPTTは62秒であった。
さらに、1mg/5mlの205Aトロンビン/50mMリン酸緩衝液 0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、205Aトロンビンのカルボキシル基を修飾した。約80%の修飾誘導体が可溶化状態で得られた。
カルボキシル基修飾205Aトロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは42秒であったのに対し、カルボキシル基修飾205AトロンビンのAPTTは79秒であった。
(4)プロトロンビン時間(PT)の測定
205Aトロンビン及びカルボキシル基修飾205Aトロンビン50μgを、PBS1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)にそれぞれ容量比で1:1の割合となるように添加し、PTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは21秒であったのに対し205Aトロンビンは21秒、カルボキシル基修飾205AトロンビンのPTは20秒でありいずれもPTの延長効果は示さなかった。
(5)PRP(多血小板血漿:platelet rich plasma)を用いた205Aトロンビンの抗血小板
機能の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPP(乏血小板血漿:platelet poor plasma)を得た。100μl添加した場合に205Aトロンビンの終濃度が70μg/mlとなるように濃度が調整された、205Aトロンビンの5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液100μlをPRP130μlに添加し、血小板凝集惹起物質として5mg/mlリストセチン5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率(波長700nm)の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。しかしながら本実験で70μg/mlにおいて血小板凝集抑制効果は確認されなかった。
評価2:血小板凝集惹起物質として1μg/mlM−トロンビン(ヒト野生型) 5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液を用いた以外は、評価(1)の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液0.15M NaCl(pH7.4)100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。しかしながら本実験で70μg/mlにおいては血小板凝集抑制効果は確認されなかった。
以上より、205Aトロンビンは弱いAPTT延長効果が確認された。しかしながら抗血小板効果は確認されなかった。特許文献4において示されるように血漿を含まない培地の環境下においては205Aトロンビンはトロンビンレセプター活性化抑制能を示すが、血漿中においては抗血小板剤として実質使用できるレベルのトロンビンレセプター活性化能は有さない事が示された。
(6)PRPを用いたカルボキシル基修飾205Aトロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合にカルボキシル基修飾205Aトロンビンの終濃度が、100μg/mlになるように濃度が調製された、カルボキシル基修飾205AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として(i)1μg/mlM−トロンビンPBS溶液、(ii)5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し血小板凝集抑制実験を行った。(i)(ii)の結果を図21,22に示す。
(7)205AトロンビンのFbgn及びFVIIIへの結合能の比較
205Aトロンビン約0.1mg/mlの濃度の10mM リン酸緩衝液(pH7.7)溶液を、それぞれNHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、205Aトロンビン固定化キュベットを得た。(約600arc固相化)引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。
205Aトロンビンキュベットに100nMのFbgn及びFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図23に示す。図23より205AトロンビンはFVIII特異性が増していたがFVIII結合シグナルそのものが相対的にAHT(図14)に比較し40%程度にまで低下した。この為、205Aトロンビンはそれほど強い抗血栓能を示さなかったと考えられる。また、205Aトロンビンはカルボキシル基を修飾することでAPTT延長効果を増し、且つM−トロンビン惹起血小板凝集、リストセチン惹起血小板凝集両方に対し抑制効果を示した。
[実験例4]
(1)B鎖205セリンをスレオニンに置換したトロンビン(以下205Tトロンビン)の発現
205TトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205Tトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号11に示す。
205Tトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現させた。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じて硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上 ほぼ純化された205Tトロンビンが約5mg得られた。
(2)205Tトロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた205Tトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Aに従って測定した結果、205Tトロンビンの基質分解活性は、ヒト野生型トロンビンに比較し約2.5x10-4の活性であった。
さらにトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した結果、ほぼ全てのFXIIIのA鎖は野生型トロンビン同様の活性化を受け、分解されたFXIIIのバンドが確認された。以上より、205Tトロンビンは活性が残存していることがわかった。
[実験例5]
(1)B鎖203グリシンをアラニンにB鎖205セリンをアラニンにB鎖99アスパラギン酸をアスパラギンに置換したトロンビン(203A205A99Nトロンビン)の発現
203A205A99NトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。203A205A99Nトロンビン塩基配列を配列番号13に示す。
203A205A99Nトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された203A205A99Nトロンビンが約5mg得られた。
次いで方法Fに従いヘパリンゲルへの結合能を測定したところA 40%にて溶出されヘパリンゲルへの親和性の低下が確認された。
(2)203A205A99Nトロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた203A205A99Nトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Aに従って測定した結果、インキュベーション後の吸光度の増加はみられなかった。
さらに、203A205A99Nトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した結果、FXIIIのA鎖活性化産物のバンドは確認されなかった。
(3)203A205A99Nトロンビン添加血液のAPTTの測定
203A205A99Nトロンビン100μgを5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)を、標準血漿(国際試薬社)に容量比1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは55秒であったのに対し、203A205A99NトロンビンのAPTTは60秒であった。以上より、203A205A99Nトロンビンはヒルジンゲルへの結合能を有し且つ、活性が十分に低下しているものも十分な抗血栓効果を有していないことがわかった。
[実験例6]
(1)B鎖205セリンをバリンに置換したトロンビン(以下205Vトロンビン)の発現
205VトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205Vトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号15に示す。
205Vトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認した。結果を図44(SS結合還元下におけるウェスタンブロットの図)に示す。素通り分画にほぼすべてのトロンビンのバンドが現われ、溶出ピークにはトロンビンのバンドが確認されなかった。これにより、205Vトロンビンは活性中心のアミノ酸の置換により基質結合能が低下していることがわかった。アプライ前サンプルで標準トロンビンの分子量より上に現れているバンドはエカリンによってA,B鎖に活性化(切断)されなかったトロンビンであり、エカリンに対する感受性も著しく低下していることも確認された。
[実験例7]
(1)B鎖205セリンをアスパラギン酸に置換したトロンビン(以下205Dトロンビン)の発現
205DトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205Dトロンビン塩基配列を配列番号17に示す。
205Dトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認した。結果を図45(SS結合還元下におけるウェスタンブロットの図)に示す。素通り分画にすべてのトロンビンのバンドが現われ、溶出ピークにはトロンビンのバンドが確認されなかった。これにより、205Dトロンビンは活性中心のアミノ酸の置換により基質結合能が低下していることがわかった。アプライ前サンプルで標準トロンビンの分子量より上に現れているバンドはエカリンによってA,B鎖に活性化(切断)されなかったトロンビンであり、エカリンに対する感受性も著しく低下していることも確認された。
[実験例8]
(1)B鎖205セリンをアスパラギンに置換したトロンビン(以下205Nトロンビン)の発現
205NトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205Nトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号19に示す。
205Nトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にほぼすべてのトロンビンのバンドが現われ、溶出ピークにはトロンビンのバンドが確認されなかった。これにより、205Nトロンビンは活性中心のアミノ酸の置換により基質結合能が低下していることがわかった。
[実験例9]
AHTのトロンビンレセプター結合能の測定を、方法Dにより測定したところ、該AHTとトロンビンレセプターの解離定数は1.2μMであった。
[実験例10]
(1)B鎖205セリンをアラニンにB鎖99アスパラギン酸をアスパラギンに置換したトロンビン(205A99Nトロンビン)の発現
205A99NトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。
205A99Nトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号21に示す。
205A99Nトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された205A99Nトロンビンが約5.5mg得られた。
(2)205A99Nトロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた205A99Nトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Aに従って測定した結果、インキュベーション後の吸光度の増加はみられなかった。
さらに、205A99Nトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した結果、FXIIIのA鎖活性化産物のバンドは確認されなかった。
(3)205A99NトロンビンのAPTTの測定 205A99Nトロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解し、その100μlを、標準血漿(国際試薬社)に100μlと混和し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは55秒であったのに対し、205A99NトロンビンのAPTTは58秒であった。
[実験例11]
(1)B鎖203グリシンをアラニンにB鎖205セリンをアラニンに置換したトロンビン(203A205Aトロンビン)の発現
203A205AトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。203A205Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号23に示す。
203A205Aトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された203A205Aトロンビンが約4mg得られた。
次いで方法Fに従いヘパリンゲルへの結合能を測定したところA40%にて溶出されヒト野生型トロンビンに比較し40%への親和性の低下が確認された。
(2)203A205Aトロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた203A205Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Aに従って測定した結果、インキュベーション後の吸光度の増加はみられなかった。
さらに、203A205Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した。結果を図43に示す。レーン6のインキュベーション3時間後においてもFXIIIのA鎖活性化産物のバンドは確認されなかった。203A205AトロンビンはヒルジンC末端ペプチド結合能を有し且つ十分に活性を失っていることが分かった。203A205Aトロンビン100μgを、5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。5mM PIPES緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)を、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは55秒であったのに対し、203A205AトロンビンのAPTTは59秒であった。
(3)カルボキシル基修飾体のAPTT試験
さらに、1mg/5mlの203A205Aトロンビン 0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、203A205Aトロンビンのカルボキシル基を修飾した。可溶化状態で約80%のカルボキシル基修飾体が回収された。
カルボキシル基修飾203A205Aトロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは45秒であったのに対し、カルボキシル基修飾203A205Aトロンビンはそれぞれ46秒であった。
(4)プロトロンビン時間(PT)の測定
203A205Aトロンビン及びカルボキシル基修飾203A205Aトロンビン50μgを、PBS1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)にそれぞれ容量比で1:1の割合となるように添加し、PTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは20秒であったのに対し203A205Aトロンビンは21秒、カルボキシル基修飾203A205AトロンビンのPTは20秒でありいずれもPTの延長効果は示さなかった。
(5)PRPを用いた203A205Aトロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合に203A205Aトロンビンの終濃度が、100μg/mlになるように濃度が調製された、203A205AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として(i)1μg/mlM−トロンビンPBS溶液、(ii)5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し血小板凝集抑制実験を行ったが(i)(ii)いずれの惹起物質に対してもコントロールと203A205Aトロンビンに違いは無かった。
(6)203A205AトロンビンのFbgn及びFVIIIへの結合特異性の比較
203A205Aトロンビン約0.1mg/mlの濃度の10mM リン酸緩衝液(pH7.7)溶液を、それぞれNHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、203A205Aトロンビン固定化キュベットを得た。(約600arc固相化)引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。203A205Aトロンビンキュベットに100nMのFbgn及びFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図24に示す。図24より203A205AトロンビンはFVIIIに、AHTと比較すると固定化蛋白量との対比による値で約5%のシグナルしか示さなかった。本配列の誘導体の基質結合能そのものが低下しそれによって抗凝固能を有さなかった推測される。
[実験例12]
(1)B鎖205セリンをアラニンに、B鎖43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(205A43Aトロンビン)の発現
205A43AトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205A43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号25に示す。
205A43Aトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されなかった。溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認されたことより95%以上の205A43Aトロンビンの結合が認められた。
引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された205A43Aトロンビンが約3mg得られた。
ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を図38に示す。ヒルジンC末端ペプチド精製工程においても素通り(レーン4)にはトロンビンの溶出は認められず、溶出フラクションに純化された205A43Aトロンビンの回収が確認される。
次いで方法Fに従いヘパリンゲルへの結合能を測定したところA50%にて溶出された。
(2)205A43Aトロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた205A43Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Aに従って測定した結果、インキュベーション後の吸光度の増加はみられなかった。
205A43Aトロンビン50μgを、PBS1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは46秒であったのに対し、205A43AトロンビンのAPTTは78秒であり、1.7倍にAPTTを延長した。この延長効果は同条件下のアンヒドロトロンビンに比較し1.25倍のAPTT延長効果であった。
(3)PTの測定:205A43Aトロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、PTを測定した。またPBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは24秒であったのに対し、205A43AトロンビンのPTは25秒であった。
(4)カルボキシル基修飾205A43AトロンビンのAPTTの測定
1mg/5mlの205A43Aトロンビン/50mMリン酸緩衝液/0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル/0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、205A43Aトロンビンのカルボキシル基を修飾した。修飾体の質量分析の結果、約16個のカルボキシル基が修飾された。
修飾された205A43Aトロンビン50μgをPBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは46秒であったのに対し、カルボキシル基修飾205A43AトロンビンのAPTTは190秒であった。
(5)プロトロンビン時間(PT)の測定
カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン50μgを、PBS1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、PTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは22秒であったのに対しカルボキシル基修飾205A43AトロンビンのPTは23秒であり修飾体においても205A43AトロンビンはPTの延長効果は示さなかった。
(6)PRPを用いた205A43Aトロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合に205A43Aトロンビンの終濃度が、30μg/mlになるように濃度が調製された、205A43AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。
結果を図3に示す。
評価2:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用いた以外は、評価1の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図4に示す。
評価3:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用い100μl添加した場合に205A43Aトロンビンの終濃度が、それぞれ120μg/ml,30μg/mlになるように濃度が調製された、205A43AトロンビンのPBS溶液を加え、評価1の方法に準じて実験を行った。結果を図15に示す。
評価4:205A43Aトロンビンの終濃度が、150μg/mlになるように濃度が調製された、205A43AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS 溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。205A43Aトロンビンは高濃度においてもリストセチン惹起血小板凝集抑制効果は確認されなかった。
(7)PRPを用いたカルボキシル基修飾205A43Aトロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2500rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビンの終濃度が、それぞれ30μg/ml、15μg/ml、7.5μg/mlになるように濃度が調整された、カルボキシル基修飾205A43Aトロンビンの5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液3種類を、それぞれ100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。結果を図5〜7に示す。
評価2:惹起物質として1μg/mlM−トロンビン5mM リン酸緩衝液
0.15M NaCl(pH7.4)溶液を用いた以外は、評価(1)の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl(pH7.4)100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。なお、透過率の測定はEASY TRACER ET-800 (東京光電株式会社)を用いて行った。結果を図8〜10に示す。
(8)IAsysを用いたトロンビン基質結合能比較実験
205A43Aトロンビン誘導体及びAHTの0.1mg/mlの濃度の10mM リン酸緩衝液(pH7.7)溶液を、それぞれNHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、205A43Aトロンビン及びAHT固定化キュベットを得た。1307arcの205A43Aトロンビンがキュベットに固定化された。引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。205A43Aキュベット及びAHTキュベットに100nMのFbgn及びFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図16および図14に示す。図14よりAHTキュベットにはFbgnとFVIIIがほぼ同程度結合しているのに対し、図16から205A43AキュベットにはFVIIIの方がFbgnより多い結合が確認された。
205A43Aトロンビン誘導体のFVIIIとFbgn結合能の比はAHTに比較し約1.4倍向上している事が確認された。
また、AHTに対し固定化蛋白との対比で同等のFVIII結合能を有していると考えられた。
(9)205A43Aトロンビンの修飾個数とAPTT延長効果の実験
1mg/5mlの205A43Aトロンビン/50mMリン酸緩衝液 0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて10分、60分、120分反応させカルボキシル基を修飾した。各反応時間に残存カルボジイミドを終濃度0.5Mになるようにグリシンを添加し反応を終了させた。
未反応205A43Aトロンビンに比較し、10分反応サンプルでは分子量が約480Da増加(5.6個修飾に相当)、60分反応サンプルでは分子量が1240Da増加(14.6個修飾に相当)、120分反応サンプルでは分子量が1900Da増加(22.4個修飾に相当)するカルボキシル基修飾反応が確認された。
各トロンビン誘導体のAPTT延長効果
各修飾体をそれぞれ50、25、12.5μg/mlに調整しPBSに透析した。各サンプルと標準血漿を1:1に混合しAPTTを測定した。測定結果を下記表2に示す。なお、APTTは各サンプルとも2回測定し、その平均値を求めた。
以上の結果より 205A43Aトロンビンにおいては5.6個の修飾においても未修飾よりもAPTTの延長効果の増強が確認された。14.6、22.4個と修飾数が増えるにつれAPTT延長効果は増加したが 22.4個修飾においては回収率は約50%にまで低下した。回収率とAPTT延長効果の観点から5個以上の修飾が修飾によるAPTT延長効果には効率的であるが22個以上の修飾は回収率の低下があることが確認された。
構造変化を最小にするため単純に活性中心セリンをデヒドロアラニンに変換することで得られたAHTに比較し、205A43Aトロンビンは高いFVIII特異性を有している事が分かった。
以上の結果から、205A43Aトロンビン誘導体はカルボキシル基修飾の有無に関わらず強いAPTT延長効果を有した。またカルボキシル基の修飾によってさらにAPTT延長効果は増加した。M-トロンビン惹起血小板凝集抑制(PAR1活性化阻害)に依存した血小板凝集抑制効果はカルボキシル基の修飾の有無にかかわらず有したが、カルボキシル基の修飾後の方が非常に強いものであった。したがって、205A43AトロンビンはAPTTを中心とした血液凝固に主に強く作用し且つおだやかな血小板凝集抑制効果を有するのに対し、カルボキシル基修飾205A43AトロンビンはAPTTと共に強い抗血小板能を有する事が分かった。修飾された205A43AトロンビンはM-トロンビン惹起血小板凝集抑制(PAR1活性化阻害)に加えリストセチン惹起血小板凝集抑制効果も有していたが、修飾をしていない205A43Aトロンビンは高濃度においてもリストセチン惹起血小板凝集を有してはいなかった。よって下記に示される特徴を有した抗血栓効果を有するトロンビン誘導体が得られた。
カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン:
APTT延長効果(大)、PAR1阻害(大)、リストセチン惹起血小板凝集(大) 205A43Aトロンビン:
APTT延長効果(大)、PAR1阻害(小)、リストセチン惹起血小板凝集(無し)
また、IAsysを用いたトロンビン基質結合能比較実験において205A43Aトロンビンが非常に高いAPTT延長効果を有していた理由として、205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンを同時に変異させた本トロンビン誘導体がその変異によって、完全に基質分解活性を失うとともに、AHTに比較し高いFVIII結合能(Fbgnとの結合能が相対的に低下)を有していたためと推測された。後述の実験例16および17記載のように他のアミノ酸の置換の組み合わせにおいても205番目のセリンおよび43番目のヒスチジンを同時に変異させたトロンビン誘導体はAPTT延長を主効果とした高い抗血栓効果を有することがわかった。
[実験例13]
(1)B鎖203グリシンをアラニンにB鎖205セリンをグリシンにB鎖77リシンをグルタミン酸に置換したトロンビン(77E203A205Gトロンビン)の発現
77E203A205GトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。77E203A205Gトロンビン塩基配列を配列番号27に示す。
77E203A205Gトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された77E203A205Gトロンビンが約3mg得られた。
(2)77E203A205Gトロンビン添加血液のAPTTの測定
77E203A205Gトロンビン50μgをPBSに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。同様にPBSを、標準血漿(国際試薬社)に容量比1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは44秒であったのに対し、77E203A205GトロンビンのAPTTは74秒であり1.68倍にAPTTを延長した。
実験例2において203A205Gトロンビンは同条件下APTTの延長が1.09倍であったので77番目リシンをグルタミン酸に置換することで1.5倍にAPTT延長効果が増加している。
(3)PRPを用いた77E203A205G トロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合に77E203A205G トロンビンの終濃度が、70μg/mlになるように濃度が調製された、77E203A205GトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し透過率の経時変化を記録したが リストセチン惹起血小板凝集抑制作用は確認されなかった。
評価2:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用いた以外は、評価1の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録したが、M−トロンビン惹起血小板凝集抑制作用を示さなかった。
以上より、203A205Gトロンビンは十分な抗血栓能を有していなかったが77E203A205Gトロンビンは77リシンの置換によりFbgn結合能を低下させることにより大幅なAPTT延長効果の増加が起こった。また、77E203A205G トロンビンはM−トロンビン及びリストセチン惹起血小板凝集に対し抑制効果を示さなかった。
(4)カルボキシル基修飾体のAPTT試験
さらに、1mg/5mlの77E203A205Gトロンビン 0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、77E203A205Gトロンビンのカルボキシル基を修飾した。可溶化状態で約35%の修飾体が回収された。
カルボキシル基修飾77E203A205G トロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは45秒であったのに対し、カルボキシル基修飾77E203A205GトロンビンのAPTTはそれぞれ77.5秒であった。
(5)プロトロンビン時間(PT)の測定
77E203A205Gトロンビン及びカルボキシル基修飾77E203A205Gトロンビン50μgを、PBS1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)にそれぞれ容量比で1:1の割合となるように添加し、PTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは20秒であったのに対し77E203A205Gトロンビンは22秒、カルボキシル基修飾77E203A205GトロンビンのPTは23秒でありいずれもPTの延長効果は示さなかった。
(6)PRPを用いたカルボキシル基修飾77E203A205G トロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合に修飾77E203A205G トロンビンの終濃度が、50μg/mlになるように濃度が調製された、修飾77E203A205GトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図25に示す。
評価2:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用いた以外は、評価1の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図26に示す。
以上の結果よりカルボキシル基修飾77E203A205Gトロンビンはカルボキシル基の修飾前に比較しAPTT延長効果の増強は確認されなかったが、M−トロンビン惹起血小板凝集、リストセチン惹起血小板凝集抑制効果を示した。また、77のグルタミン酸への置換により置換前に比較し回収率の顕著な低下が確認された。
(7)77E203A205GトロンビンのFbgn及びTMへの結合特異性の確認
203A205Gトロンビンの0.1mg/ml 10mM リン酸バッファー(pH7.7)溶液、および77E203A205Gトロンビンの0.1mg/ml 10mM リン酸バッファー(pH7.7)溶液を、それぞれNHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、203A205Gトロンビン固定化キュベットおよび77E203A205Gトロンビン固定化キュベットを得た。203A205Gキュベットには約4100arcの蛋白質が77E203A205Gキュベットには約2000arcの蛋白質が固相化された。引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。
さらに両キュベットを50mM リン酸緩衝液、2M NaCl、30mM ベンズアミジン(pH7.4)で洗浄、再生後、両キュベットに500nMのFbgn溶液(50mM リン酸緩衝液、0.15M NaCl(pH7.4)に溶解)を100μl加えたところ、3分後203A205Gトロンビン固相化キュベットには約300arc secのFbgnが吸着され、77E203A205Gトロンビン固相化キュベットには約80arc secのFbgnが吸着された。
さらに両キュベットを同様に洗浄、再生後、両キュベットに500nMのFVIII溶液(50mM Tris塩酸 0.15M NaCl 10mM CaCl2(pH7.4)に溶解)を100μl加えたところ3分後203A205Gトロンビン固相化キュベットには約300arc secのFVIIIが吸着され、77E203A205Gトロンビン固相化キュベットには約300arc secのFVIIIが吸着された。
さらに両キュベットを50mM リン酸緩衝液、2M NaCl、30mM ベンズアミジン(pH7.4)で洗浄、再生後、203A205Gトロンビン固定化キュベットおよび77E203A205Gトロンビン固定化キュベットそれぞれに、50nMの可溶性TM溶液(コスモバイオ)(50mM リン酸緩衝液、0.15M NaCl(pH7.4)に溶解)を100μl加えたところ、3分後 203A205Gトロンビン固相化キュベットには約100arc secのTMが吸着され、77E203A205Gトロンビン固相化キュベットには約20arc secのTMが吸着された。
以上の結果より203A205Gトロンビン誘導体に新たにB鎖77リシンのグルタミン酸への置換を加えることでキュベット上で血液凝固第8因子吸着に対してFbgn吸着量は約3分の1に TM吸着は約2分の1に低下している事がわかった。
またIAsys FAST FIT PROGRAM(日製産業)による解析の結果203A205G に対するFbgn結合定数は10.8nM、FVIII結合能は5.07nM、77E203A205Gに対するFbgn結合能は190nM、FVIII結合能は22.5nMであった。
このB鎖77リシンの置換によりFbgnに対するFVIII特異性の向上に起因し実験例13に記載の77E203A205Gトロンビンは203A205Gトロンビンに比較し高いAPTT延長能を有していることが予測された。
[実験例14]
(1)B鎖203グリシンをアラニンにB鎖205セリンをアラニンにB鎖99アスパラギン酸をアスパラギンにB鎖77リシンをグルタミン酸に置換したトロンビン(77E203A205A99Nトロンビン)の発現
77E203A205A99NトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。77E203A205A99Nトロンビン塩基配列を配列番号29に示す。
77E203A205A99Nトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された77E203A205A99Nトロンビンが約3mg得られた。
(2)77E203A205A99Nトロンビン添加血液のAPTTの測定
77E203A205A99Nトロンビン50μgをPBSに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。同様にPBSを、標準血漿(国際試薬社)に容量比1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは41秒であったのに対し、77E203A205A99NトロンビンのAPTTは39秒であった。以上より、77E203A205A99Nトロンビンはヒルジンゲルへの結合能を有し且つ、活性が十分に低下し且つFbgn結合能を低下させる変異を加えてはているものも十分な抗APTT効果を有していないことがわかった。
実験例15
B鎖203グリシンをアラニンに置換したトロンビン(203Aトロンビン)の発現
203AトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。203Aトロンビン塩基配列を配列番号31に示す。
203Aトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された203Aトロンビンが約2mg得られた。
203Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した。結果を図20に示す。FXIIIのA鎖は30分後においてすでに分解物が確認され3時間後には半量以上が分解を受けた。
さらに、203Aトロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Cに従って測定した結果、3時間後クロットが形成された。
以上の結果より 203Aトロンビンは 非特許文献5において完全に活性を失った誘導体と報告されているものも、本発明におけるトロンビン基質を用いた活性測定法においては、抗血栓剤として使用する目的においては明らかなトロンビン基質分解活性が確認され抗血栓剤として使用することが困難であることが分かった。
実験例16
(1)205セリンをグリシンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(205G43Aトロンビン)の発現
205G43AトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205G43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号33に示す。
205G43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された205G43A トロンビンが約0.5mg得られた。
(2)205G43A トロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた205G43A トロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Aに従って測定した結果、インキュベーション後の吸光度の増加はみられなかった。
さらに、205G43A トロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した結果、FXIIIのA鎖活性化産物のバンドは確認されなかった。205G43A トロンビンはヒルジンC末端ペプチド結合能を有し且つ十分に活性を失っていることが分かった。205G43Aトロンビン24μg及び12μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは43秒であったのに対し、205G43AトロンビンのAPTTはそれぞれ62秒、55秒でありそれぞれ1.44倍、1.28倍にAPTTを延長した。
25μg/mlのAhT添加のAPTT延長効果が1.25倍であり 24μg/mlの205G43A トロンビンが1.44倍にAPTTを延長していることより、205G43A トロンビンはAhTに比べ1.15倍以上高いAPTT延長効果を示した。
以上の結果より、活性中心のセリン、ヒスチジンを同時に置換した205G43A トロンビンは低濃度においてもカルボキシル基の修飾を行わずに高いAPTT延長効果を示すことがわかった。
実験例17
(1)205セリンをアラニンに43ヒスチジンをセリンに置換したトロンビン(205A43Sトロンビン)の発現
205A43SトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205A43Sトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号35に示す。
205A43S トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された205A43S トロンビンが約3mg得られた。
(2)205A43S トロンビンの基質分解活性測定
(1)で得られた205A43S トロンビンの基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した結果、FXIIIのA鎖活性化産物のバンドは確認されなかった。205A43S トロンビンはヒルジンC末端ペプチド結合能を有し且つ十分に活性を失っていることが分かった。次に205A43S トロンビン40μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは42秒であったのに対し、205A43SトロンビンのAPTTは72秒であり1.71倍にAPTTを延長した。50μg/mlのAhTが1.36倍にAPTTを延長効果であったことより205A43S トロンビンはAhTに比べ少なくとも1.26倍以上の延長効果を持つ事が示された。以上の結果より、活性中心のセリン、ヒスチジンを同時に置換した205A43S トロンビンはカルボキシル基の修飾を行わずに高いAPTT延長効果を示すことがわかった。
(3)205A43SトロンビンのFbgn及びFVIIIへの結合特異性の比較
205A43Sトロンビン誘導体またはAHTの 約0.1mg/mlの10mM リン酸緩衝液(pH7.4)溶液を、NHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、205A43SトロンビンまたはAHT固定化キュベットを得た。約1200arcの205A43Sトロンビンがキュベットに固定化された。引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。205A43SキュベットまたはAHTキュベットに100nMのFbgnまたはFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図17に示す。図14よりAHTキュベットにはFbgnとFVIIIがほぼ同程度結合しているのに対し、図17より205A43SトロンビンキュベットにはFVIIIの方がFbgnより多い結合が確認された。
さらに結合シグナルの比よりFVIIIとFbgnの結合比はAhTに比較し約1.2倍に向上している事が確認された。
また固定化蛋白との対比を考えると少なくとも205A43SトロンビンはAHT同等のFVIII結合能を有することが示された。構造変化を最小にするため単純に活性中心セリンをデヒドロアラニンに変換する事で得られたAHTに比較し、205A43Sトロンビンは高いFVIII特異性を有している事が分かった。
実験例18
(1)B鎖77リシンをグルタミン酸に205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(77E205A43Aトロンビン)の発現
77E205A43A トロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。77E205A43A トロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号37に示す。
77E205A43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された77E205A43A トロンビンが約3mg得られた。
(2)77E205A43A トロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは45秒であったのに対し、77E205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ92秒(50μg)、85秒(25μg)であり、それぞれ2.04倍、1.89倍の延長であった。実施例12にて50μg/mlの205A43Aトロンビンが1.7倍のAPTT延長効果であったのB鎖77リシンのグルタミン酸への置換で置換前に比較しAPTT延長効果が1.2倍に向上した。
(3)PRPを用いた77E205A43A トロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合に77E205A43A トロンビンの終濃度が、100μg/mlになるように濃度が調製された、77E205A43AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し透過率の経時変化を記録したが、コントロールと同様の活性化曲線を示し、抑制作用は示さなかった。
評価2:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用いた以外は、評価1の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図27に示す。
以上の結果より77E205A43A トロンビンは、77リシンをグルタミン酸に変化させることでFbgn結合能が特異的に低下し、もともと205番目のセリン及び43番目のヒスチジンの同時変異によりFVIII結合能が高まり強いAPTT抑制効果を持っていた205A43Aトロンビンよりも、さらに強いAPTT抑制効果を示すことがわかった。また、77E205A43A トロンビンはリストセチン惹起血小板凝集抑制能は示さなかったが、M−トロンビン惹起血小板凝集抑制効果は示した。
(4)カルボキシル基修飾体のAPTT試験
さらに、1mg/5mlの77E205A43Aトロンビン 0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、77E205A43A トロンビンのカルボキシル基を修飾した。可溶化状態で約40%の修飾体が回収された。
カルボキシル基修飾77E205A43A トロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは45秒であったのに対し、カルボキシル基修飾77E205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ119秒(50μg)、89秒(25μg)であった。
(5)PRPを用いたカルボキシル基修飾77E205A43A トロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合に修飾77E205A43A トロンビンの終濃度が、30μg/mlになるように濃度が調製された、カルボキシル基修飾77E205A43AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図28に示す。
評価2:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用いた以外は、評価1の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。カルボキシル基修飾77E205A43Aトロンビンは結果を終濃度30μg/mlにてM−トロンビン惹起血小板凝集を完全に抑制した。
以上の結果より77E205A43Aトロンビンは修飾によりAPTT延長能が増加した。又、M−トロンビン惹起血小板凝集及びリストセチン惹起血小板凝集抑制効果も示した。しかしながら77E203A205Gトロンビンのカルボキシル基修飾体同様に77E205A43Aトロンビンは修飾語の回収率はB鎖77のグルタミン酸への置換によって205A43Aトロンビンの修飾体に比較し大きく低下した。
実験例19
(1)B鎖24グルタミンをグルタミン酸に205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(24E205A43Aトロンビン)の発現
24E205A43A トロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。24E205A43A トロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号39に示す。
24E205A43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画に若干のバンドが確認された。また、溶出ピークに大部分のトロンビンのバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った後、組み換えトロンビンを含有した溶出溶液を50mM NaHCO3 pH8に対して透析し、50mM NaHCO3 pH8 で平衡化したHI TRAP ベンズアミジンカラム5ml(ファルマシア社) にアプライした。50mM NaHCO3 0.3M NaCl pH8にて充分洗浄した後 50mM NaHCO3 0.3M NaCl 0.1M ベンズアミジン pH8にて溶出した。SDS−PAGE上ほぼ純化された24E205A43A トロンビンが約1mg得られた。
24E205A43A トロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは42秒であったのに対し、24E205A43AトロンビンのAPTTは62秒であった。
(2)24E205A43Aトロンビン及びAHTのFbgn及びFVIIIへの結合特異性の比較
24E205A43Aトロンビン及びAHTを0.1mg/ml 10mM リン酸緩衝液(pH7.4)溶液を、それぞれNHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、24E205A43Aトロンビン及びAHT固定化キュベットを得た。(それぞれ1380arc, 2400arc固相化)引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。
24E205A43Aトロンビンキュベット及びAHTキュベットにそれぞれ100nMのFbgn及びFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図18および図14に示す。
図18より24E205A43AトロンビンキュベットにはFVIIIの方がFbgnより多くの結合が確認された。24E205A43Aは高いFVIII特異性を有している事が確認された。
(3)205A43Aトロンビン及び24E205A43AトロンビンのTM結合能の比較
205A43Aトロンビン及び24E205A43Aトロンビン固定化キュベットに対し16.7nM ついで50nMのTMを加えた。
結合曲線を図19に示す。尚 205A43Aトロンビンは約980arc, 24E205A43Aトロンビンは約1380arcのトロンビン誘導体が固定化されている。
以上の結果より24E205A43AトロンビンはFbgnに対しFVIII特異性が高い誘導体でありAPTT延長効果も有していた。さらにはTM結合能も大きく低下していることより生態に投与した際、本トロンビン変異体が生体内でのトロンビンによるプロテインCの活性化を抑制(阻害)することは無いと考えられる。
実験例20
205セリンをアラニンに99アスパラギン酸をアラニンに置換したトロンビン(205A99Aトロンビン)の発現
205A99AトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。205A99Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号41に示す。
205A99A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法にエカリンによる活性化を行ったところ、エカリンによるA,B鎖への切断が起こらなかった。
この結果より205A99Aトロンビンをプレトロンビンの形でCHO細胞にて発現した本実験においては2本鎖に活性化された205A99Aトロンビンを得ることはできなかった。
[実験例21]
カルボキシル基修飾AHT及びカルボキシル基修飾203A205Gトロンビン、および205A43AトロンビンのAPTTの比較
PBSに溶解した50μg/mlのカルボキシル基修飾AHT、カルボキシル基修飾203A205Gトロンビン、205A43Aトロンビンを以下の2方法でAPTTを測定した。コントロールとしてPBSのみを添加して下記方法a,bにてAPTTを測定した。尚 カルボキシル基修飾AHTは残存活性の影響を極力防ぐために合成後、再度APMSF試薬(シグマ社)を2mg/ml添加し不活性化を行い、さらにその後PBSにて十分透析を行い残存APMSF試薬の除去を行った。
方法a:標準血漿100μlにAPTT試薬50μlを加え37℃で5分インキュベーションを行ったものにPBSに溶解した各サンプル100μlを加えさらにすばやく0.1M CaCl2 を12μl加えカルシウム添加から凝固までの時間を測定した。
方法b:標準血漿100μlに、PBSに溶解した各サンプル100μl及びAPTT試薬50μlを加え37℃で5分インキュベーションを行った後0.1M CaCl2 を22μl加えカルシウム添加から凝固までの時間を測定した。
結果を以下に示す。
コントロール 方法a 43秒; 方法b 45秒
カルボキシル基修飾AHT 方法a 105秒;方法b 66秒
カルボキシル基修飾203A205Gトロンビン 方法a 75秒; 方法b 80秒
205A43Aトロンビン 方法a 67秒; 方法b 77秒
カルボキシル基修飾205A43Aトロンビン 方法a 145秒; 方法b 170秒
以上より、カルボキシル基修飾AHTにおいては方法aにて良くAPTTを延長したのに対しカルボキシル基修飾203A205Gトロンビン、205A43Aトロンビンにおいては方法bにて良くAPTTが延長された。またカルボキシル基修飾203A205Gトロンビンは205A43Aトロンビンよりも同一条件においてAPTT延長効果は高かった。
方法aは標準血漿と各トロンビン誘導体混合物のインキュベーション時間が無いのに対し方法bは標準血漿と各トロンビン誘導体混合物が37℃で5分インキュベーションされる。カルボキシル基修飾AHTにおいて方法bでAPTT延長効果が少なくなった理由としてトロンビンから化学的に合成されるAHTにおいて極微量に残存するトロンビンの存在を完全に否定できず極わずかなトロンビンが標準血漿と37℃インキュベーションすることで微量の血液凝固因子(特にFVIII)活性化が起き、APTT延長効果を抑制したものと考えられた。一方、カルボキシル基修飾203A205Gトロンビン、205A43Aトロンビンにおいては遺伝子組み換え技術によって完全に活性を失っているトロンビン誘導体であり、標準血漿とインキュベーションした場合においても血液凝固因子の活性化は起きず、むしろインキュベーションを行った場合の方が平衡化され基質特異性が良く反映され顕著にAPTTを延長した。
以上の考察より、極微量のトロンビンの混入が考えられるAHTを用いるよりも、抗血栓剤としてトロンビン誘導体及びそのカルボキシル基修飾トロンビン誘導体は、遺伝子工学的に完全に不活性化されかつ均一な機能を有する。したがって、本発明のトロンビン誘導体及びそのカルボキシル基修飾トロンビン誘導体は、安定かつ高い薬効を示すことが予想される。
実験例22
(1)B鎖77リシンをアラニンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(77A205A43Aトロンビン)の発現
77A205A43A トロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。77A205A43A トロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号43に示す。
77A205A43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された77A205A43A トロンビンが約3mg得られた。
次いで方法Fに従いヘパリンゲルへの結合能を測定したところ野生型ヒトトロンビンと同等の溶出位置(A50%)にて溶出された。活性中心及びエクソサイトI上のアミノ酸の置換を行ったがヘパリン結合能は保持されていた事が確認された。
(2)77A205A43A トロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは45秒であったのに対し、77A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ90.5秒、85秒でありそれぞれ2.01倍、1.89倍の延長効果を示した。実施例12にて50μg/mlの205A43Aトロンビンが1.7倍のAPTT延長効果であったので、B鎖77リシンのアラニンへの置換でAPTT延長効果が1.2倍に増強された。
(3)カルボキシル基修飾体のAPTT試験
さらに、1mg/5mlの77A205A43Aトロンビン 0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、77A205A43A トロンビンのカルボキシル基を修飾した。可溶化状態で約85%の修飾体が回収された。
カルボキシル基修飾77A205A43A トロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは45秒であったのに対し、カルボキシル基修飾77A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ144、109秒であった。
(4)プロトロンビン時間(PT)の測定
77A205A43Aトロンビン及びカルボキシル基修飾77A205A43Aトロンビン50μgを、PBS1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)にそれぞれ容量比で1:1の割合となるように添加し、PTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは23秒であったのに対し77A205A43Aトロンビンは24秒、カルボキシル基修飾77A205A43AトロンビンのPTは25秒でありいずれもPTの延長効果は示さなかった。以上の結果よりB鎖77リシンをアラニンに置換することで置換前に比較しAPTT延長効果が高まった。又、修飾体においても77リジンをアラニンに置換することでAPTT延長効果が増強された。又、B鎖77をグルタミン酸に置換した場合に比べ修飾した場合の回収率の大きな低下は認められなかったことよりB鎖77における修飾の適性はアラニンの方が高い事が示された。
実験例23
(1)B鎖65リシンをアラニンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(65A205A43Aトロンビン)の発現
65A205A43A トロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。65A205A43A トロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号45に示す。
65A205A43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された65A205A43A トロンビンが約3mg得られた。
(2)65A205A43A トロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは42秒であったのに対し、65A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ93秒、86秒でそれぞれ2.21倍、2.05倍の延長効果であった。実施例12にて50μg/mlの205A43Aトロンビンが1.7倍のAPTT延長効果であったの65リシンのアラニンへの置換でAPTT延長効果が1.3倍に増強された。
(3)カルボキシル基修飾体のAPTT試験
さらに、1mg/5mlの65A205A43Aトロンビン 0.5M NaCl(pH6.5)を0.25M グリシンエチルエステル 0.5M NaCl(pH6.5)に4℃で3時間透析した後 1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(1-Ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)-carbodiimide(和光純薬))を、その濃度が20mg/mlになるように添加し、25℃にて1時間インキュベーションし、65A205A43A トロンビンのカルボキシル基を修飾した。
カルボキシル基修飾65A205A43A トロンビン50μg、25μgを、PBS 1mlに溶解した溶液100μlを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1で添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは41秒であったのに対し、カルボキシル基修飾65A205A43A トロンビンのAPTTはそれぞれ118秒、88秒であった。
(4)プロトロンビン時間(PT)の測定
65A205A43Aトロンビン及びカルボキシル基修飾65A205A43Aトロンビン50μgを、PBS1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)にそれぞれ容量比で1:1の割合となるように添加し、PTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1(容量比)となるように添加したものをコントロールとし、PTを測定した。なお、PT試薬にはSIGMA社のTHROMBOPLASTIN WITH CALSIUMを使用した。その結果、コントロールのPTは23秒であったのに対し65A205A43Aトロンビンは22秒、カルボキシル基修飾65A205A43AトロンビンのPTは25秒でありいずれもPTの延長効果は殆ど示さなかった。
(5)PRPを用いた65A205A43Aトロンビンの抗血小板効果の評価
評価1:採血直後のクエン酸添加全血10mlを、800rpmで15分遠心し、上澄みよりPRP2mlを得た。さらに2800rpmで10分遠心分離することによりPPPを得た。100μl添加した場合に65A205A43Aトロンビンの終濃度が、100μg/mlになるように濃度が調製された、65A205A43AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、5mM リン酸緩衝液 0.15M NaCl、pH7.4 100μlを添加し血小板凝集抑制実験を行ったがコントロールと65A205A43Aトロンビンに違いは無かった。
評価2:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用い65A205A43Aトロンビンの終濃度が、100,50,25,10μg/mlになるように添加した以外は、評価1の方法に準じて実験を行った。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図29、30、31に示す。
評価3:惹起物質として1μg/mlM−トロンビンPBS溶液を用い100μl添加した場合に修飾65A205A43Aトロンビンの終濃度が、それぞれ36,18,9,4.5μg/mlになるように濃度が調製された、修飾65A205A43AトロンビンのPBS溶液を加え、評価1の方法に準じて実験を行った。結果を図32、33、34に示す。
評価4:修飾65A205A43Aトロンビンの終濃度が、36μg/mlになるように濃度が調製された、修飾65A205A43AトロンビンのPBS溶液を、100μlずつPRP130μlに添加し、惹起物質として5mg/mlリストセチン PBS 溶液35μlを添加した。コントロールとして、PRP130μlに、PBS 100μlを添加し透過率の経時変化を記録した。結果を図35に示す.
以上の結果より65A205A43Aは205A43Aに比較して高いAPTT延長効果を有し且つより低濃度で強いM−トロンビン惹起血小板凝集抑制効果を示した。また修飾65A205A43Aトロンビンはリストセチン惹起血小板凝集抑制効果を示すと共に、他の誘導体に比較しさらに高いレベルのトロンビンレセプター活性化抑制効果を示した。
(6)65A205A43Aトロンビン及び205A43AトロンビンのFbgn及びFVIIIへの結合特異性の比較
65A205A43Aトロンビン誘導体及び205A43Aトロンビンの約0.1mg/mlの濃度の10mM リン酸緩衝液(pH7.7)溶液を、それぞれNHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、65A205A43Aトロンビン固定化キュベットを得た。(約1800arc結合)引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。65A205A43Aキュベットに100nMのFbgn及びFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図36に示す。図36より205A43Aトロンビンに比較し65A205A43AキュベットではFbgn結合能が低下しそれによりFVIIIの特異性が高くなっている事が確認された。
FVIII、Fbgn結合能の比はB鎖65リシンの置換前に比較し2.8倍に向上していることが確認された。
(7)205A43Aトロンビン及び65A205A43AトロンビンのTM結合能の比較
65A205A43Aトロンビン固定化キュベットに対し16.7nM、ついで50nMのTMを加えた。
結合曲線を図37に示す。尚、65A205A43Aトロンビンは約1800arc固定化されている。
以上の結果より図19記載の205A43AトロンビンのTM結合能と比較した場合、固定化蛋白量の相対的な比率で換算すると65A205A43AはB鎖65リシンの置換前に比較し約30%にTM結合能が低下していた。TM結合能が低下していることより生態に投与した際、65A205A43Aトロンビン変異体が生体内でのトロンビンによるプロテインC 活性化の抑制(阻害)が低下していると考えられる。
実験例24
(1)B鎖205セリンをグリシンに置換したトロンビン(以下205Gトロンビン)の発現
205GトロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。
205Gトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現させた。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じて硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上 ほぼ純化された205Gトロンビンが約5mg得られた。
(2)205Gトロンビンの基質分解活性測定
トロンビンのトロンビン基質分解活性を、前述の方法Bに従って測定した結果を図42に示す。レーン7に3時間インキュベーション後のサンプルが示されている。約50%の分解されたFXIIIのバンドが確認された。以上より、205Gトロンビンは抗血栓剤として使用する上で問題となる活性が残存していることがわかった。
実験例25
(1)B鎖197アルギニンをアラニンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(197A205A43Aトロンビン)の発現
197A205A43A トロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。197A205A43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号47に示す。
197A205A43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された197A205A43Aトロンビンが3mg得られた。
(2)197A205A43A トロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは43.5秒であったのに対し、197A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ77.5秒、65秒であった。
以上の結果より197A205A43Aは197アルギニンの置換前に比較し若干強いAPTT延長効果を示した。また、197アルギニンの置換によりRGDA配列に起因した細胞増殖活性は喪失していると考えられる。
実験例26
(1)B鎖77リシンをセリンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(77S205A43Aトロンビン)の発現
77S205A43A トロンビンのDNAに相当する変異導入プライマーを用いたPCR法にて合成した。77S205A43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号49に示す。
77S205A43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された77S205A43A トロンビンが2.5mg得られた。
(2)77S205A43A トロンビン50μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは48秒であったのに対し、77S205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ86秒であった。
実験例27
(1)B鎖65リシンをアラニンにB鎖77リシンをアラニンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(65A77A205A43Aトロンビン)の発現
65A77A205A43Aトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。65A77A205A43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号51に示す。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された65A77A205A43Aトロンビンが3mg得られた。
(2)65A77A205A43Aトロンビン50μg及び25μg及び12.5μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは49秒であったのに対し、65A77A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ145.5秒、112.5秒、86.5秒で2.3倍、1.77倍であった。。実施例12にて50μg/mlの205A43Aトロンビンが1.7倍のAPTT延長効果であったの65リシンのアラニン、B鎖77リシンのアラニンへの置換でAPTT延長効果が1.35倍に増強された。
B鎖65及び77番目のアミノ酸の置換の相乗効果によって65A77A205A43Aトロンビンが非常に高いAPTT延長効果を有する事が確認された。
実験例28
(1)B鎖65リシンをアラニンにB鎖245アルギニンをアラニンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(65A245A205A43Aトロンビン)の発現
65A245A205A43Aトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。65A245A205A43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号53に示す。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された65A245A205A43Aトロンビンが2mg得られた。
引き続き方法Fに従ってヘパリン結合能の確認を行ったところA35%にて溶出された。
ヒト野生型トロンビンの35%にヘパリン親和性が低下した。このヘパリン親和性の低下はヘパリン結合領域であるエクソサイトII上のアミノ酸 245アルギニンの置換に起因すると考えられる。
(2)65A245A205A43Aトロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは41秒であったのに対し、65A245A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ65秒、60秒であった。
以上の結果より65A245A205A43AトロンビンはAPTT延長効果を有し且つエクソサイトII上のアミノ酸の置換によってヘパリン親和性がヒト野生型トロンビンに比較し低下していることが示された。
実験例29
(1)B鎖65リシンをアラニンにB鎖248リシンをアラニンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(65A248A205A43Aトロンビン)の発現
65A248A205A43Aトロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。65A248A205A43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号55に示す。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された65A248A205A43Aトロンビンが2mg得られた。
引き続き方法Fに従ってヘパリン結合能の確認を行ったところ A35%にて溶出された。
ヒト野生型トロンビンの35%にヘパリン親和性が低下した。このヘパリン親和性の低下はヘパリン結合領域であるエクソサイトII上のアミノ酸 248リシンの置換に起因すると考えられる。
(2)65A248A205A43Aトロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは45秒であったのに対し、65A248A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ83秒、71秒であった。
以上の結果より65A248A205A43Aトロンビンにおいても65A245A205A43Aトロンビン同様にAPTT延長効果を有し且つエクソサイトII上のアミノ酸の置換によってヘパリン親和性がヒト野生型トロンビンに比較し低下していることが示された。
実験例30
採血直後のクエン酸添加全血200μlをガラスチューブに入れ、PBSに溶解した205A43Aトロンビン,M-205A43AトロンビンM-65A205A43Aトロンビン溶液(100μg/ml) 及び PBSをそれぞれ20μlを添加した。各トロンビン誘導体添加血液に0.1M CaCl2 を30μlを添加した。
カルシウム添加後、30秒毎に流動性を確認し 流動性を失った時間(凝固時間を)測定した結果
PBS 4分30秒
205A43Aトロンビン 7分
M-205A43Aトロンビン 8分30秒
M-65A205A43Aトロンビン溶液 8分30秒
となった。全血においても205A43Aトロンビン,M-205A43AトロンビンM-65A205A43Aトロンビンは高い抗凝固能を示した。
実験例31
(1)B鎖19フェニルアラニンをアラニンに205セリンをアラニンに43ヒスチジンをアラニンに置換したトロンビン(19A205A43Aトロンビン)の発現
19A205A43A トロンビンを実験例1の(1)の方法で発現した。19A205A43Aトロンビンをコードする遺伝子の塩基配列を配列番号57に示す。実験例1の(2)の方法に準じてヒルジンC末端ペプチド結合能を確認したところ、素通り分画にはバンドは確認されず、溶出ピークにトロンビン同様のバンドが確認された。引き続き実験例1の(3)の方法に準じ、硫酸化セルロファイン、ヒルジンC末端ペプチドカラムによる精製を行った。SDS−PAGE上ほぼ純化された19A205A43A トロンビンが約3mg得られた。
(2)19A205A43A トロンビン50μg及び25μgを、PBS 1mlに溶解したものを、標準血漿(国際試薬社)に容量比で1:1の割合となるように添加し、APTTを測定した。PBSを、標準血漿(国際試薬社)に1:1の割合となるように添加したものをコントロールとし、APTTを測定した。なお、APTT試薬には国際試薬社のものを使用した。その結果、コントロールのAPTTは46.5秒であったのに対し、19A205A43AトロンビンのAPTTはそれぞれ83.5秒、79秒であった。
19フェニルアラニンのアラニンへの置換により置換前に比較しAPTT延長効果が若干向上していることが示された。
(3)19A205A43AトロンビンのFbgn及びFVIIIへの結合特異性の比較
19A205A43Aトロンビン誘導体の約0.1mg/mlの濃度の10mM リン酸緩衝液(pH7.7)溶液を、NHS活性化CMデキストランキュベット(日製産業社)に添加し、10分間、25℃で撹拌することにより、被験サンプル(トロンビン誘導体)をNHS活性化CMデキストランキュベットに固定し、19A205A43Aトロンビン固定化キュベットを得た。(約1000arc結合)引き続き1M エタノールアミン(pH8)を0.2ml加えブロッキング処理を行った。19A205A43Aキュベットに100nMのFbgn及びFVIIIを添加しそれぞれの結合曲線をモニターした。結果を図47に示す。205A43Aトロンビンに比較し19A205A43AキュベットではFbgn結合能が低下し且つ、FVIIIの特異性が高くなっている事がが確認された。
産業上の利用の可能性
本発明のトロンビン誘導体は、従来のトロンビン誘導体に比べて、より少ない使用量で安定な抗血栓効果を得ることができる。この効果は、例えば、実施例に示すような血漿のAPTT測定や全血凝固時間測定、血小板凝集能抑制効果によって確認することができる。本発明において、抗血栓効果とは、抗血小板、抗血液凝固の1次止血、2次止血を合わせた全体での抗血栓作用を意味する。本発明の抗血小板効果、および抗血液凝固効果を有するトロンビン誘導体は、例えば、1次止血においては主にGPIbα(血小板受容体糖タンパク質Ibα)およびPAR1をはじめとするトロンビンレセプターに作用することで血小板へのカルボキシル基修飾トロンビン(以下「M−トロンビン」と言うことがある)、リストセチンおよびずり応力等の刺激を抑制して血小板凝集および粘着を抑制し、2次止血においては主にFVIIIの活性化を抑制してAPTTを特異的に延長する。
また、活性中心アミノ酸及びその他のアミノ酸の置換を行うことにより、高いAPTT延長効果を持つが抗血小板効果は低いタイプのトロンビン誘導体や、高いAPTT延長効果と高い抗血小効果(但しPAR1阻害効果のみ)を有するタイプのトロンビン誘導体など、効果の発現態様が異なるトロンビン誘導体が得られる。この活性中心アミノ酸およびそれ以外のアミノ酸が置換された本発明のトロンビン誘導体は、生体内で起こるTM上におけるトロンビンによるプロテインCの活性化を抑制する。
さらに、本発明のトロンビン誘導体のカルボキシル基を修飾すれば、単にAPTTを延長するのみならず、アミノ酸の置換に依存して抗血小板効果、特にPAR1活性化及びリストセチン惹起血小板凝集抑制効果をも付加、制御することができ、種々の血栓症に適応しうる抗血液凝固効果、抗血小板効果を持ったトロンビン誘導体を得ることが可能となる。

Claims (17)

  1. A鎖とB鎖を含み、該B鎖はヒトトロンビンB鎖のアミノ酸配列において205番目のセリンがアラニンまたはグリシンに置換され、かつ43番目のヒスチジンがアラニンまたはセリンに置換されたアミノ酸配列を含む、ヒトトロンビン誘導体であって、
    205番目のセリンがアラニンまたはグリシンに置換され、かつ43番目のヒスチジンがアラニンまたはセリンに置換される前の配列が、配列番号2のアミノ酸番号50〜308、または配列番号2のアミノ酸番号50〜308において1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加されたアミノ酸配列であり、
    .1MのNaClを含むpH7.4の50mMトリス塩酸中でトロンビン基質と37℃で3時間反応させたときに該ヒトトロンビン誘導体によって分解される該トロンビン基質の割合が検出限界以下であ、ヒトトロンビン誘導体。
  2. A鎖とB鎖を含み、該B鎖はヒトトロンビンB鎖のアミノ酸配列において205番目のセリンがアラニンまたはグリシンに置換され、かつ43番目のヒスチジンがアラニンまたはセリンに置換されたアミノ酸配列を含む、ヒトトロンビン誘導体であって、
    205番目のセリンがアラニンまたはグリシンに置換され、かつ43番目のヒスチジンがアラニンまたはセリンに置換される前の配列が、配列番号2のアミノ酸番号50〜308、または配列番号2のアミノ酸番号50〜308において1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、付加されたアミノ酸配列であり、
    (1)0.1MのNaClを含むpH7.4の50mMトリス塩酸中でトロンビン基質と37℃で3時間反応させたときに該ヒトトロンビン誘導体によって分解される該トロンビン基質の割合が検出限界以下であり、
    (2)ヒルジンC末端ペプチド固定化ゲルとの結合能を保持している、ヒトトロンビン誘導体。
  3. さらに、ヘパリン結合能を保持している、請求項2記載のヒトトロンビン誘導体。
  4. トロンビン基質が血液凝固第13因子である、請求項1〜3のいずれか1項記載のヒトト
    ロンビン誘導体。
  5. トロンビン基質がフィブリノゲンである、請求項1〜3のいずれか1項記載のヒトトロンビン誘導体。
  6. トロンビン基質がS2238である、請求項1〜3のいずれか1項記載のヒトトロンビン誘導体。
  7. 前記B鎖が、さらにヒトトロンビンB鎖の24番目のグルタミン、65番目のリシン、および77番目のリシンから選ばれた1種またはそれ以上のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を含む、請求項1〜のいずれか一項記載のヒトトロンビン誘導体。
  8. 前記B鎖が、さらにヒトトロンビンB鎖の98番目のアルギニン、245番目のアルギニン、248番目のリシン、および252番目のリシンから選ばれた1種またはそれ以上のアミノ酸が置換されたアミノ酸配列を含む、請求項1〜のいずれか一項記載のヒトトロンビン誘導体。
  9. 活性化部分トロンボプラスチン時間延長効果、修飾トロンビン惹起血小板凝集抑制効果、およびリストセチン惹起血小板凝集抑制効果が向上している、請求項7または8記載のヒトトロンビン誘導体。
  10. カルボキシル基が修飾された請求項1〜の何れか1項記載のヒトトロンビン誘導体。
  11. アミノ酸のエステル、ポリエチレングリコール、アミノ基を有するポリエチレングリコールおよび/またはカルボジイミドによってカルボキシル基が修飾された請求項10記載のヒトトロンビン誘導体。
  12. 少なくともB鎖25番目のグルタミン酸のカルボキシル基が修飾された請求項10記載のヒトトロンビン誘導体。
  13. PAR1活性化抑制効果およびリストセチン惹起血小板凝集抑制効果を有する、請求項記載のヒトトロンビン誘導体。
  14. 請求項1〜のいずれか1項記載のヒトトロンビン誘導体をコードするDNA。
  15. 請求項1〜13のいずれか1項記載のヒトトロンビン誘導体を含有する医薬組成物。
  16. 抗血栓剤、血小板凝集抑制剤、血小板粘着抑制剤または内因系血液凝固抑制剤である請求項15記載の医薬組成物。
  17. トロンビンレセプター活性化抑制剤である請求項15記載の医薬組成物。
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