JP4842649B2 - クラゲから肥料を製造する方法 - Google Patents
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Description
これに対して発電所では、取水口の前面でクラゲを回収し、廃棄処分している。
クラゲ回収量は、季節や場所によって異なるが、ある発電所では1日約200トン回収され、別の発電所では一年間で約3000トン回収されたという報告がある。推計によれば現在瀬戸内海に生息するクラゲは、約10万トンとも言われている。
このように大量に発生し、回収されたクラゲを単に廃棄処分するのでなく、肥料、飼料等に有効に利用する方法が種々提案されているが、単に肥料として利用できることを示しているだけのものが殆どであった。
一般に、肥料中の窒素はアンモニウムイオン(NH4 +)や硝酸イオン(NO3 −)などとして、リンはリン酸イオン(PO4 3−)として植物体に吸収されるため、本願発明者は、クラゲが比較的短時間で懸濁液状になることがわかっていたので、クラゲを肥料化するにあたり、クラゲ中の窒素、リンが時間とともに上記イオン性成分に変化する状況を調べ、表1及び図1〜図5の結果を得た。
具体的には、採取後冷凍保存しておいたミズクラゲ約4リットル(以下単に4lと記述する。)、およびアカクラゲ約4lを常温で一晩放置して解凍し、懸濁液状になったものをガラス瓶に移し、室内に放置した(25 ℃)。
ついで、定期的に20mlずつ採取し、5000rpmで10分間遠心分離し、さらに上澄み液を吸引濾過し(0.45μmのメンブランフィルター)、濾液中のアンモニウムイオン、リン酸イオンをJIS工場排水試験方法(JIS K0102)により定量し、亜硝酸イオン(NO2 −)および硝酸イオンをキャピラリーゾーン電気泳動法により定量した。
一方、遠心分離後の沈殿物を乾燥し(105℃で2時間)、その重量を測定し懸濁物量とした。 60日間にわたりこれらの変化を調べた。窒素の濃度はNとしての濃度で示し、リンの濃度はPとしての濃度で示した。
前述のクラゲ懸濁液の入ったガラス瓶は、特に遮光せずに室内に放置した。ミズクラゲの場合、約14日後にはかなり透明感が出てきたが、約28日後よりガラス瓶の壁面および底の沈殿物がピンク色になり始め、その後ピンク色が濃くなっていった。これは、植物プランクトンが発生したためであると思われる。遮光保存して同様の実験を行った場合には、このような現象は見られなかった。
なお、採取後すぐにクラゲをガラス瓶に移し、室内に放置した(25 ℃)場合の経時変化についても、同様の結果が得られた。
具体的には、60日放置後のクラゲ上澄み液中とクラゲ混合液中の全窒素濃度、全リン濃度を示す。ここで、クラゲ混合液は、クラゲ上澄み液と沈殿物を良く振り混ぜて混合した懸濁液を表す。
表1から、窒素については、ミズクラゲの場合には約97%、アカクラゲの場合には約93%が上澄み液中に含まれることがわかった。また、リンについては、ミズクラゲの場合には約93%、アカクラゲの場合にはほとんどすべて(約102%)が上澄み液中に含まれることがわかった。
図1から次のことがわかった。
ミズクラゲ中のアンモニウムイオン濃度は、解凍後10日頃まで増大したが、その後約220mg/lでほぼ一定となった。上澄み液中の全窒素濃度は280mg/lであり、約79%がアンモニウムイオンに変化していた。
また、アカクラゲ中のアンモニウムイオン濃度は、解凍後20日頃まで増大したが、その後約520mg/lでほぼ一定となった。上澄み液中の全窒素濃度は640mg/lであり、約81%がアンモニウムイオンに変化していた。
図2から次のことがわかった。
ミズクラゲ中のリン酸イオン濃度は、解凍後10日頃まで増大したが、その後約15mg/lでほぼ一定となり、その後わずかに減少する傾向があった。さらに、上澄み液中の全リン濃度は25mg/lであり、約60%がリン酸イオンに変化していた。
また、アカクラゲ中のリン酸イオン濃度は、解凍後20日頃まで増大したが、その後約45 mg/lでほぼ一定となった。さらに、上澄み液中の全リン濃度は61mg/lであり、約74%がリン酸イオンに変化していた。
図3から、ミズクラゲ中の亜硝酸イオン濃度は、解凍8日後を除けば、全期間を通し0.2mg/l以下であることがわかった。
また、アカクラゲ中の亜硝酸イオン濃度は、解凍60日後を除けば、全期間を通してほとんど0mg/lであることがわかった。
なお、60日後の試料は、濾過後一晩冷蔵庫に保存した後測定したものである。
図4から、ミズクラゲおよびアカクラゲ中の硝酸イオン濃度は、全期間を通して0.5mg/l以下であることがわかった。
図5から、ミズクラゲ、アカクラゲとも1日後にかなり減少し、その後あまり大きな変化は見られないことがわかった。
また、10日以降は2.5mg以下で全懸濁液量に対する割合は0.01% (w/w)以下であることがわかった。
(1)ミズクラゲ懸濁液を容器(家庭で使うプラスティック製ゴミ箱のようなもの)中で室温保存した場合、約7ヶ月後に全窒素のうち約79%がアンモニウムイオンになっており、見た目は全く透明であった。また、約8月後には全リンのうち約63%がリン酸イオンに変化していた。
(2)エチゼンクラゲの場合、約8ヶ月後には全窒素のうち約87%がアンモニウムイオンになっており、約3年放置するとすべてアンモニウムイオンに変化していた。さらに、約3年半後には見た目は全く透明になっており、約4年5ヶ月後には全リンのほとんどすべてがリン酸イオンに変化していた。
(3)臭いはまったく気にならない程度であった。
表2は、収穫後のチンゲンサイの重さを示し、この表から、収穫後の重さが、化成肥料>エチゼンクラゲ>ミズクラゲの順に重いことがわかった。元肥中のナトリウム量は、ミズクラゲ:33g、エチゼンクラゲ:20g、化成肥料:0.041gであった。したがって、元肥中の全窒素量がほぼ等しいにもかかわらず生長速度に差が生じた原因は、ナトリウム量の違いによるのではないかと考えられる。
また、各チンゲンサイを生及びゆでて食べたところ、ミズクラゲ、エチゼンクラゲで栽培したチンゲンサイは、化学肥料で栽培したチンゲンサイと比較して甘みが強かった。チンゲンサイ中のナトリウム濃度を調べたところ、ミズクラゲ、エチゼンクラゲで栽培したチンゲンサイ中のナトリウム濃度は、化学肥料で栽培したチンゲンサイ中のナトリウム濃度のそれぞれの約5倍、約4倍であった。このナトリウム濃度の差が味に影響していることが推察された。なお、チンゲンサイ中のナトリウム濃度の差は、ミズクラゲ、エチゼンクラゲ中のナトリウム濃度が化学肥料中のナトリウム濃度の約4倍であったことに由来するものと思われる。
表3は収穫後のチンゲンサイの重さを示し、表3から、収穫後のホウレンソウの重さが化成肥料>エチゼンクラゲ≒ミズクラゲの順であることがわかった。
なお、元肥中のナトリウム量は、ミズクラゲ:29g、エチゼンクラゲ:15g、化成肥料:0.026gであった。エチゼンクラゲとミズクラゲの場合、生長速度および収穫後の重さにほとんど差がなかった原因として、土壌中のナトリウム量が減少したことが考えられる。
また、各ホウレンソウを生及びゆでて食べたところ、ミズクラゲ、エチゼンクラゲで栽培したホウレンソウは、化学肥料で栽培したホウレンソウと比較して甘みが強かった。ホウレンソウ中のナトリウム濃度を調べたところ、ミズクラゲ、エチゼンクラゲで栽培したホウレンソウ中のナトリウム濃度は、化学肥料で栽培したホウレンソウ中のナトリウム濃度のそれぞれの約4倍、約3倍であった。このナトリウム濃度の差が味に影響していることが推察された。しかし、チンゲンサイの場合ほど味の差は明確でなかった。この原因として、ホウレンソウ中のナトリウム濃度はチンゲンサイ中のナトリウム濃度の約1/3と低かったためではないかと考えられる。なお、ホウレンソウ中のナトリウム濃度の差は、ミズクラゲ、エチゼンクラゲ中のナトリウム濃度が化学肥料中のナトリウム濃度の約4倍であったことに由来するものと思われる。
図6及び表2から、クラゲを野菜の肥料として使用する場合、クラゲ中のナトリウムが野菜の生長を抑制する可能性があることが示唆されているので、クラゲ中の肥料としての有効成分をできるだけ減らさず、ナトリウムを減らす方法を検討した。
ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等の塩の溶解度差を利用すれば、ナトリウム塩を多の塩類より優先的に沈殿させることができることを考慮して、クラゲ上澄み液を真空加熱する実験を行った。
具体的には、クラゲ中主要成分濃度は海水中の主要成分濃度とほぼ等しいので、クラゲ試料の代わりに人工海水を用い、真空圧力を70hPaに固定し、恒温槽温度を35、40、50、60℃と変化させて真空加熱時の温度を検討し、表4の結果が得られた。
なお、表4中の成分減少率は、カリウムイオン(K+)がほとんど沈殿しないという仮定のもと、数式1で求めた。数式1における濃縮率は、数式2で求めた。
具体的には、クラゲ試料の代わりに人工海水を用い、恒温槽温度を40℃に固定し、真空圧力を70、80、90hPaと変化させて真空加熱時の真空圧力を検討し、表5の結果が得られた。
なお、90hPaの場合、18時間濃縮しても、溶液量は最初の1/3程度にしかならなかったため、途中で実験を中止した.
また、肥料として有効な窒素及びリンを含むとともに、肥料として好ましくないナトリウム塩を減少させたバランスのよい濃縮液体肥料を、簡単な工程でクラゲから製造する方法を提供することを目的とするものである。
また、この液体肥料は、表1及び図1〜図4から明らかなように、クラゲ中の全窒素及び全リンの約93%以上を含み、その79%以上がアンモニウムイオン、60%以上がリン酸イオンであり、植物体に吸収され易いイオンとして存在しているので、肥料として望ましい。
しかも、この液体肥料は、図5から明らかなように、含まれる懸濁物量が全体の約0.01%(w/w)以下であるので、液体肥料散布用ノズルの目詰まりの原因にならず、使い勝手がよい。
すなわち、肥料として有効な窒素及びリンを含むとともに、肥料として好ましくないナトリウム塩を減少させたバランスのよい濃縮液体肥料を、簡単な工程で得ることができる。
しかも、濃縮されているので、輸送コストを削減することができるとともに、保存時の設置面積を少なくすることができる。
しかも、放置期間が長くなる程、クラゲ上澄み液(液体肥料)の透明度が増すとともに臭いが気にならなくなるので、液肥として使用する場合に散布用ノズルの目詰まりが起こりにくくなるとともに、臭いが気にならず使い勝手がよくなる。
(1)発電所等で回収したミズクラゲをタンクに遮光保存し、室温(25°C)で10日間放置する。
すると、ミズクラゲがクラゲ上澄み液とクラゲ固形分に分離し、このクラゲ上澄み液には、図1〜図4の結果と同様に、ミズクラゲの全窒素及び全リンの約93%以上が含まれ、そのうちの79%以上がアンモニウムイオン、60%以上がリン酸イオンであった。
また、このクラゲ上澄み液中の懸濁物量は、図5の結果と同様に、全体の約0.01%(w/w)以下であった。
このため、クラゲ上澄み液は窒素及びリンをイオンとして多量に含む液体肥料(元肥及び追肥用)として使用することができ、液体肥料散布用ノズルの目詰まりの原因になることがない。
また、遮光放置なので植物プランクトンの発生も抑制できる。
すると、表4及び表5の結果と同様に、肥料として有効なカリウム、マグネシウム、リン、窒素をできるだけ減少させず、肥料として好ましくないナトリウム塩を減少させたバランスの良い濃縮液体肥料(クラゲ濃縮液)を効率よく得ることができた。
現場で使用する際には、この濃縮液体肥料を希釈して使用する。また、この濃縮液体肥料を取り出した後の沈殿物中には高濃度の塩化ナトリウムが含まれているので、この沈殿物を塩化ナトリウムの製造原料として利用することができる。
(1)発電所等で回収したアカクラゲをタンクに遮光保存し、室温(25°C)で20日間放置する。
すると、アカクラゲがクラゲ上澄み液とクラゲ固形分に分離し、このクラゲ上澄み液には、第1実施例の場合と同様にアンモニウムイオン、リン酸イオンが含まれ、クラゲ上澄み液中の懸濁物量も第1実施例と同様に少ないので、このクラゲ上澄み液を第1実施例と同様に液体肥料として使用することができ、液体肥料散布用ノズルの目詰まりの原因にもならない。
また、遮光放置なので、第1実施例と同様に植物プランクトンの発生も抑制できる。
(1)発電所等で回収したミズクラゲとエチゼンクラゲのそれぞれを個別にタンクに遮光保存し、ミズクラゲについては約7ヶ月間放置し、エチゼンクラゲについては約4年間放置する。
すると、クラゲがクラゲ上澄み液とクラゲ固形分に分離し、このクラゲ上澄み液には、第1実施例の場合と同様にアンモニウムイオン、リン酸イオンが含まれ、クラゲ上澄み液中の懸濁物量も第1実施例と同様に少ないので、このクラゲ上澄み液を第1実施例と同様に液体肥料として使用することができ、液体肥料散布用ノズルの目詰まりの原因にもならない。
また、遮光放置なので、第1実施例と同様に植物プランクトンの発生も抑制できる。
さらに、段落番号「0013」で記述した結果と同様に、臭いが全く気にならないとともに、植物体に吸収され易いアンモニウムイオンやリン酸イオンを多量に含んでいる。すなわち、ミズクラゲについては全窒素の約79%がアンモニウムイオンになり、全リンの約63%がリン酸イオンに変化し、エチゼンクラゲについては全窒素のうち約87%がアンモニウムイオンになり、全リンの大部分がリン酸イオンに変化している。
ミズクラゲ,エチゼンクラゲともカリウムイオン、マグネシウムイオン(Mg2+)をほとんど減少させずにナトリウムイオンを約80%減少させることができた。
しかし、カルシウムイオン(Ca2+)は約80%〜90%減少した。また、アンモニウムイオンについては、ミズクラゲで約28%、エチゼンクラゲで約4%減少し、リン酸イオンについては、ミズクラゲで約64%、エチゼンクラゲで約36%減少した。
重さについては約20分の1に減少し、クラゲ濃縮液を消費地まで輸送する場合のコストを下げることができると考えられる。
表8に約20倍に希釈した場合の各種成分濃度を示す。
また、クラゲ上澄み液を真空加熱することにより得られた沈殿物中にはナトリウムやカルシウムが含まれているので、この沈殿物からナトリウムとカルシウムを分離し、ナトリウムは食塩として利用することができ、カルシウムは肥料として利用することができる。
Claims (5)
- クラゲを容器内に入れて少なくとも10日間放置することにより前記クラゲをクラゲ上澄み液とクラゲ固形分に分離させ、前記クラゲ上澄み液を液体肥料としたことを特徴とするクラゲから肥料を製造する方法。
- クラゲを容器内に入れて少なくとも10日間放置することにより前記クラゲをクラゲ上澄み液とクラゲ固形分に分離させ、前記クラゲ上澄み液を真空加熱することによりナトリウム塩を沈殿させるとともに、前記クラゲ上澄み液を濃縮させ、このクラゲ濃縮液を濃縮液体肥料としたことを特徴とするクラゲから肥料を製造する方法。
- 真空加熱によるクラゲ上澄み液の濃縮が、70hPaの真空圧力下、40℃の加熱
による約20倍の濃縮であることを特徴とする請求項2記載のクラゲから肥料を製造する方法。 - 容器内にクラゲを入れて放置する期間を少なくとも7ヶ月間としたことを特徴とする請求項1、2又は3記載のクラゲから肥料を製造する方法。
- 容器内にクラゲを入れる放置が遮光放置であることを特徴とする請求項1、2、3又は4記載のクラゲから肥料を製造する方法。
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