JP4835624B2 - 透過反応壁および地下水の浄化方法 - Google Patents

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Description

本発明は、原位置での地下水浄化に用いられる、地中に設置された壁状の透過反応壁およびこれを用いた汚染地下水の浄化方法に関する。本発明は特に、粒状の金属製の還元剤を含んで構成された液透過性の反応層を複数、地下水の流れに沿って配置して構成される複層型の透過反応壁およびこれを用いた汚染地下水の浄化方法に関する。
廃棄物処理場や不法投棄廃棄物からの浸出液や工場廃液等が地下に浸透し、地下水を汚染する事例が発生している。このようにして汚染された地下水は、その流れにより汚染地域を広め、様々な環境汚染を引き起こす。そのため、このような汚染地下水による周辺地域の汚染を阻止するために様々な浄化技術が提案されている。
従来、汚染地下水を浄化する方法として、浄化反応を担う透水性の壁状構造体(「透過性反応壁」:PRB、Permeable Reactive Barrier)を地中に造成する透過反応壁工法による浄化方法が知られている。この方法では、反応壁に地下水を通して地下水に含まれる有機ハロゲン化合物のような汚染物質を原位置で分解する。
図3は、従来例に係る反応壁21が地中に埋設された状態を示す平面模式図である。図中、矢印は地下水の流れWを示しており、反応壁21は、地下水の流れWに対し、帯水層が汚染された領域(汚染領域)Gより下流に配置されている。反応壁21の両側には、この例に示すように必要に応じて一対の止水壁22が設けられ、汚染地水が止水壁22にぶつかることで反応壁21に向かって流れるように構成されている。
反応壁21は、粒状の金属還元剤を含み、砂等の粒状物と金属還元剤とを混合する等して全体として透水性を有するように構成されている。汚染地下水は、このような反応壁21を通過する際に金属還元剤と接触することで、金属還元剤により有機ハロゲン化合物のような汚染物質が分解され、地下水の浄化が行われる。
透過反応壁工法は、一度、反応壁を施工すればメンテナンスが殆ど不要である。よって、汚染地下水を地上に汲み上げて浄化する揚水処理等と比較して低コストであり、浄化中の土地を有効に利用できるという利点もある。
このような透過反応壁に用いる金属還元剤としては、還元力を有する鉄粉のような金属鉄が挙げられる。例えば特許文献1および特許文献2には、透過反応壁を構成する金属還元剤として微粉状、切片状または繊維状の鉄あるいはこれらの鉄と活性炭の複合物を使用することが開示されている。特許文献3および特許文献4は、金属鉄を金属還元剤として用いて有機ハロゲン化合物を分解する際の反応条件や反応促進法を開示している。
透過反応壁には、異なる性状の反応層を複数、並べて構成した、いわゆる複層型の透過反応壁もある。例えば、特許文献5には、2層の反応層を具備する複層型透過反応壁が開示されている。特許文献5に開示された透過反応壁は、鉄粉を含む部分(第1の反応層)と銅含有鉄粉を含む部分(第2の反応層)という2層を具備する。
特表平5−501520号公報 特表平6−506631号公報 特公平2−49158号公報 特公平2−49798号公報 特開2001−9475号公報
ところで、地下水には一般にカルシウムやマグネシウム等の硬度成分が含まれる。これらの硬度成分は地下水中で不溶性の化合物を生成することがある。また、反応壁を構成する際に金属還元剤として鉄粉を用いる場合、鉄粉の還元反応により二価鉄イオンが発生するが、硬度成分と同様、二価鉄イオンも地下水中で不溶性の化合物を生成することがある。このため、反応壁を長期間に渡って使用すると、硬度成分や二価鉄イオンにより生成された不溶性化合物によって透過反応壁の間隙が徐々に埋まり、将来的には透過反応壁の透水性が局部的または全体的に低下してしまう恐れがある。
図4は、図3の反応壁21の使用に伴う変化を示す模式図である。図4(a)は浄化開始時における反応壁21のZ−Z線に沿った断面模式図、(b)は(a)の反応壁21に対する水の流れを示す平面模式図である。図4(c)は使用を継続した結果、透過反応壁の透水性が局部的に低下した状態における反応壁21のZ−Z線に沿った断面模式図、(d)は(c)の反応壁21に対する水の流れを示す平面模式図である。
従来例に係る反応壁21については、反応壁21を構成する金属還元剤および砂のような透水性材料の粒径は地下水流れ方向(すなわち反応壁21の厚さ方向D)に沿って概ね一定である。このため、反応壁21による浄化開始時には、図4(a)に示すように、反応壁21の空隙は厚さD方向にほぼ一定で、地下水の透水性も厚さD方向でほぼ等しい。
しかし浄化反応が進むと、硬度成分や鉄イオンにより生成された不溶性化合物が反応壁21中に蓄積して反応壁21の間隙の大きさを小さくするため、地下水の透水性が低下する。透水性が低下すると、図4(d)に示すように汚染物質を含む地下水が反応壁21を透過せず迂回するようになる。この迂回量が多くなるに従い、有機ハロゲン化合物を効率的に処理することができなくなる。
本発明は上記課題に鑑みてなされ、閉塞が防止される透過反応壁の構造および透過反応壁を用いた汚染地下水の浄化方法を提供することを目的とする。
従来、金属還元剤として用いる鉄粉の粒径については、十分な検討はなされておらず、反応層が地下水の透水性を確保できる程度に大きく、かつ、高い反応効率を維持するために必要な表面積が確保される程度に小さいことが好ましいという程度の認識しかされていなかった。これに対し、上記課題を検討した結果、透過反応壁の透水性の低下は、透過反応壁の入口側、すなわち地下水流れに対して上流側から起こることを見出した。本発明は、かかる知見に基づき完成され、透過反応壁の入口側の空隙率を大きくし、析出物が生成されても反応壁の透水性の低下による処理不良を防止する。具体的には、本発明は以下を提供する。
(1) 地中に設けられた壁状の透過反応壁であって、
前記地中を流れる汚染された地下水の流れの上流側に設けられ粒状の金属還元剤を含む上流反応層と、
前記上流反応層に対して前記地下水の流れの下流側に設けられ粒状の金属還元剤を含む下流反応層と、を有し、
前記上流反応層の金属還元剤は前記下流反応層の金属還元剤より平均粒径が大きくされている透過反応壁。
(2) 前記上流反応層および前記下流反応層は、前記金属還元剤と粒状の透水性材料とを混合して構成され、
前記上流反応層の透水性材料は、前記下流反応層の透水性材料より平均粒径が大きくされている(1)に記載の透過反応壁。
(3) 前記金属還元剤は鉄粉であり、
前記上流反応層の金属還元剤および透水性材料は、平均粒径が0.5mm〜10.0mmである(1)または(2)に記載の透過反応壁。
(4) 前記上流反応層の厚みは、前記透過反応壁全体の厚みの10〜50%である(1)から(3)のいずれかに記載の透過反応壁。
(5) 請求項1から4のいずれかに記載の透過反応壁に、有機ハロゲン化合物を含む地下水を通過させて浄化する地下水の浄化方法。
本発明によれば、反応壁を地下水が通過する際に生成される析出物による反応壁の透水性の低下を防止できる。よって、本発明によれば、反応壁の透水性の低下による浄化不良を防ぎ、反応壁の寿命を長くできる。
以下、図面を参照して本発明について詳細に説明する。以下、同一部材には同一符号を付し、説明を省略または簡略化する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る複層型の透過反応壁1が地中に埋設された状態を示す平面模式図である。図2は、使用に伴う図1の反応壁1の変化を示す模式図である。図2(a)は浄化開始時における反応壁1のX−X線に沿った地中断面模式図、(b)は(a)の反応壁1に対する水の流れを示す平面模式図である。図2(c)は使用を継続した反応壁1のZ−Z線に沿った地中断面模式図、(d)は(c)の反応壁1に対する水の流れを示す平面模式図である。
反応壁1は、地中に起立する壁体であり、上流反応層としての第1反応層11と、下流反応層としての第2反応層12という2層の反応層を含む。第1反応層11と第2反応層12とは厚さ方向Dに並べられ、第1反応層11は、地下水の流れWに対して第2反応層12より上流側に配置されている。反応壁1は壁面が汚染地下水の流れに対して略直交するように配置され、最深部に位置する端縁(下端)は、地下水が流れる帯水層72の下部の不透水層73に達している。反応壁1の上端(下端と向かい合う端縁)は、地下水位から0〜100cm程度、地上側にあって、この例では表層土で構成される飽和層71に位置している。また、この例では下端と上端とを接続する一対の端縁(側縁)に接して一対の止水壁2が配置されている。
止水壁2は、遮水性の板、例えば矢板で構成され、反応壁1と同様に壁面が地下水の流れを遮るように、地中に壁面が垂直に起立するように設置されている。一対の止水壁2は地下水の上流側から下流側に向かって間隔が狭くなるように配置され、下流側の端縁同士の間に反応壁1が挟まれた状態で配置され、地下水は止水壁2により集水され反応壁1を通過する。
反応層11、12は、どちらも金属還元剤としての鉄粉を粒状の透水性材料と混合して構成されている。透水性材料としては、砂や砕石等が用いられる。金属還元剤としては、鉄粉以外に粒状のアルミニウムや亜鉛等を用いることもできるが、コスト面から鉄粉が好適に使用でき、銑鉄(鋳鉄)屑等のような鉄の廃棄物を使用してもよい。鉄粉は、還元鉄が好ましい。
鉄粉および透水性材料はどちらも略粒状であり、鉄粉と透水性材料との混合物が充填されて構成される反応層11、12には、粒体と粒体との間に生じる多数の空隙が形成される。本発明では、第2反応層12に比して空隙を大きくした第1反応層11を、第2反応層12に対して地下水流れWの上流側に配置する。
反応層11、12の空隙の大きさを調整するために、粒状の金属還元剤(鉄粉)および/または透水性材料の粒径を調整する。反応層を構成する材料の中で金属還元剤が占める割合は、質量比で10〜100%、好ましくは20〜100%である。金属還元剤と透水性材料とを混合して反応層を構成する場合(つまり、反応層を構成する材料の中で金属還元剤が占める割合が100%未満の場合)、両者の混合割合を考慮しながら金属還元剤および透水性材料の一方または両方について、第1反応層11の金属還元剤(および/または透水性材料)の平均粒径を、第2反応層12の金属還元剤(および/または透水性材料)の平均粒径より大きくする。
具体的には、第1反応層11の金属還元剤は平均粒径が0.5mm以上であるようにされていることが好ましい。本明細書では、第1反応層11に含まれる金属還元剤の50質量%以上が上記値以上の粒径であれば、第1反応層11の金属還元剤の平均粒径が前記値以上であるとして扱う。また、反応層11、12は、その構成材料の中に金属還元剤が50質量%以上含まれている場合、金属還元剤による浄化作用を奏する反応層として扱う。
金属還元剤については、平均粒径が大きすぎると反応性が不足する恐れがあるため、その上限は10.0mmとすることが好ましい。一方、第1反応層11の透水性材料については、透水性を確保するため平均粒径が0.5mm以上であることが好ましい。しかし、第1反応層11の透水性材料の平均粒径が大きすぎると透水性材料の間に形成されるべき隙間に金属還元剤が入り込み、空隙が塞がれ、かえって反応壁全体の透水性が低下する恐れがある。このため、透水性材料の平均粒径は10mm以下であることが好ましい。
反応層11、12を構成する金属還元剤および透水性材料は、反応層ごとに平均粒径が異なっていてもよいが、同一の反応層については粒径が揃っていることが好ましい。具体的には、全体の50質量%以上が平均粒径(重量平均)に対して±20%程度の粒径の粒状体であるよう、所定の大きさの目開きのふるい等を用いて分級されていることが好ましい。また、同一の反応層では、金属還元剤と透水性材料の粒径も近似していることが好ましく、特に空隙を大きくすべき第1反応層11については、透水性材料と金属還元剤とは平均粒径の比が1:0.8〜1:1.2程度となるようにするとよい。
第2反応層12の金属還元剤については、平均粒径は0.25mm以上であればよく、0.25mm〜2.5mm程度であればよい。第2反応層12の透水性材料については、平均粒径が0.25mm以上であればよく0.25mm〜2.5mm程度であればよい。第2反応層12については、金属還元剤および透水性材料は粒径が揃えられている必要性は低く、金属還元剤と透水性材料との平均粒径の比も任意でよい。
第1反応層11と第2反応層12とを合わせた反応壁1全体の厚さDは10cm〜5m程度であり、第1反応層11の厚さは反応壁1全体に対して10〜50%となるように設定することが好ましい。
次に、反応壁1を造成する方法について説明する。反応壁1を造成するに先立ち、汚染された地下水が流れる帯水層72に対し、地下水の流れWの方向をあらかじめ把握し、汚染された地下水が反応壁1に向かって流れるよう、反応壁1の設置場所を決定する。反応壁1は、壁面が地下水の流れWを遮るように、壁面の延伸方向と地下水流れW方向とがほぼ直角になるように設置する。
地中に反応壁1を埋設する方法は限定されるものではないが、反応壁1の設置予定地盤を掘削して不透水層73に達する溝(トレンチ)を形成し、トレンチ内を金属還元剤と透水性材料との混合物で埋め戻す方法が挙げられる。トレンチ内は、地下水流れWに対して上流側に第1反応層11が形成され、下流側に第2反応層12が形成されるよう、少なくとも2以上に区分し、それぞれの区画に上述したように異なる粒径の金属還元剤または/および透水性材料の混合物を埋設すればよい。具体的には、トレンチ内の第1反応層11と第2反応層12との境界部分に矢板のような壁を設置し、それぞれの区画に各反応層を構成する混合物を充填した後、区画を隔てる壁を引き抜けばよい。
次に、上記反応壁1を用いた汚染地下水の処理方法について説明する。本発明では、汚染物質として有機ハロゲン化合物を含む地下水を処理対象とする。有機ハロゲン化合物とは、例えばテトラクロロエチレン、トリクロロエチレン、ジクロロエチレン、トリクロロエタン、四塩化炭素、およびジクロロメタン等が挙げられる。本発明では浄化に鉄粉のような金属還元剤を用いるため、ダイオキシンやPCBといった難分解性の有機ハロゲン化合物は処理対象外となる。
本発明では、上述した第1反応層および第2反応層を含む反応壁を汚染地下水が流れる地中に埋設し、汚染地下水がこの反応壁を通過するようにする。汚染地下水は、反応壁を通過する際に、反応壁に含まれる金属還元剤と接触することで有機ハロゲン化合物が金属鉄に還元され脱塩素され、浄化される。金属還元剤として鉄粉を用いて有機ハロゲン化合物を分解するときの作用を以下に例示する。
有機ハロゲン化合物が金属鉄に還元され、脱塩素される際、反応壁に含まれた鉄はゼロ価の金属鉄からニ価の鉄イオンとなり、地下水中に溶出する。例えば、有機ハロゲン化合物がトリクロロエチレン(TCE)の場合、その反応は化学式1に示す反応となる。
(化学式1)
CClCCHCl+3Fe+3HO→CHCH+3Fe2++3OH+3Cl
また、地下水が反応壁を通過する際、化学式1の有機ハロゲン化合物の還元反応とは別に金属鉄が水に酸化される下記化学式2や化学式3の反応も起こる。
(化学式2)
Fe+2HO→Fe2++H2aq+2OH
(化学式3)
4Fe+3O2aq+6HO→4Fe3++12OH
化学式1および化学式2の反応で生成された二価の鉄イオンや化学式3の反応で生成された三価の鉄イオンは地下水中に溶出する。また、化学式1〜化学式3に示す反応で生成された水酸化物イオン(OH)により、反応壁を通過する水のpHが上昇する。二価鉄イオンはpHが上昇すると不溶性の水酸化鉄(Fe(OH))を形成する。この結果、反応壁中に水酸化鉄が析出し、反応壁の空隙を小さくして透水性が悪くなる。
本発明者の知見によれば、このような反応壁の空隙の縮小は、反応壁の最上流側の部分でより顕著に起こる。これは、反応壁の最上流側の部分では、有機ハロゲン化合物が還元脱塩素される化学式1の反応がより活発に起こることに起因すると考えられる。一方、地下水が反応壁中を透過するに伴って地下水中の有機ハロゲン化合物は分解されてその濃度は減少するため、反応壁の下流側に向かうに従って化学式1の反応は起こりにくくなる。よって、下流側では鉄イオンの溶出も水酸化物イオンの生成によるpHの上昇も起こりにくくなり、鉄イオンの不溶化による析出物が生成されにくい環境となると考えられる。
このように、不溶性の鉄化合物の析出による反応壁の空隙の縮小は、その最上流部付近で最も生じやすい。反応壁の最上流付近の透水性が減少すると、下流への流れが阻害され、反応壁全体の透水性が悪くなって透過反応壁の浄化性能は悪化する。
さらに、地下水にはカルシウムやマグネシウムのような硬度成分(Ca2+、Mg2+)も含まれており、これら硬度成分が反応壁の構成材表面に析出して反応壁を閉塞させその透水性を低下させる原因となる可能性がある。この傾向も、入口付近ほど強くなる。
このような問題に対し、本発明では反応壁を複層型とし、地下水流れに対して反応壁の最上流側に該当する部分を、空隙を大きくして透水性を高めた第1の反応層(上流反応層)とする。これにより、不溶性化合物が生成され反応壁中で析出しても反応壁際上流部の透水性が確保されるので、図2(d)に示すように地下水は反応壁1を迂回せずに流れ、全体の透水性を損なう問題を回避できる。
反応壁は上述したとおり、砂のような粒状の透水性材料と鉄粉のような粒状の浄化材で構成でき、その透水性はこれら粒体の粒径を大きくすることで調整できる。ここで、Creagerの式によれば透水係数は、10%粒径の2乗に比例するとされ、粒径が大きいほど透水性を高くできる。一方で、反応壁は大きな粒径の粒状体で構成するほど、比表面積が減少するため還元反応が進まなくなる。よって、反応壁全体について、これを構成する金属還元剤の粒径を大きくすると、有機ハロゲン化合物を分解する能力が低下する。これに対し、本発明では、反応壁を複層型として下流側には粒径の小さな金属還元剤を使用する。これにより、透過反応壁全体の分解能を損なわずに透過反応壁の透水性の低下を防ぐことができる。
本発明に係る反応壁は、上記第1実施態様に係る反応壁1以外に種々の変形が可能である。例えば、第1反応層(上流反応層)と第2反応層(下流反応層)以外の層を設けてもよい。具体的には、地下水流れに対し、第1反応層よりさらに上流側に硬度成分除去剤を充填した層を配置すること(特開2004−255314号参照)、および、第1反応層より下流側の任意の位置にフッ素を吸着する吸着層を配置すること(特開2007−260525号参照)等が挙げられる。前者は、地下水の硬度が高い場合、後者は地下水が有機ハロゲン化合物以外にフッ素を含む場合に適している。なお、金属鉄の腐食によって金属鉄自身は消費されることになるので、その分、空隙率は高くなる。しかし、金属鉄の真比重は8g/cmであるのに対し、Fe(OH)の真比重は3.4g/cmであり、モル体積で比較すると、金属鉄7cm/molに対し、Fe(OH)は26cm/molであり、同じモル濃度で比較した場合、金属鉄は水酸化鉄と比べて3倍以上の体積となる。したがって、金属鉄の腐食の際には金属鉄消費による空隙増加分よりも、水酸化鉄生成による空隙減少分の方が大きいと考えられる。また、本発明の反応壁は、図1に示すような止水壁を使用するタイプに限定されず、例えば反応壁だけで構成されてもよい。
[比較例1]
塩化ビニル樹脂製の円筒カラム(内径10cmφ×高さ1m)に平均粒径1mmの球状鉄粉を充填し、上端および下端に目皿を配置して実験用カラムC1とし、通水装置を取り付けた実験装置を作成した。このカラムC1にはタンクTからポンプPを介して流速0.2mL/minで通水をした。カラムC1内の鉄粉の腐食を促進させるため、NaClを5g/Lで溶解させた水道水を調整して加速試験用の調整液とし、カラムC1に上向流通水した。
また、カラムC1内に形成した反応層の透水係数の経日的な変化を追うために、カラムC1を通水装置から取り外し、カラムC1の上端および下端それぞれに水槽を配置した図5(b)に示す装置を用いて透水係数を測定した。10日間に1回のペースで透水係数を測定した。透水係数は数式1で示されるダルシーの法則を変形した数式2で計算される。なお、数式1において、qは水の体積フラックス(cm/s)、ΔHは水頭差(cmHO)、Δxは流れに沿った方向の距離(cm)、kは飽和透水係数(cm/s)を示す。また、数式2のカラム勾配はΔH/Δxで求められる
(数式1)
q=−k(ΔH/Δx)
(数式2)
カラム全体の透水係数=流量×カラム断面積/カラム勾配
比較例1のカラム内の反応層の透水係数の経日変化の測定結果を図6に示す。ここで、濃度5g/Lの濃度のNaCl水溶液と接する金属鉄の腐食速度は、水に対する腐食速度の100倍とされている。このことから推算すると、NaClを含む調整液を通水した場合の透水係数は試験開始から60日後に約50%低下しているから、自然環境中の水を通水する場合、この100倍つまり6000日(約16年)経過後に透水係数が約50%低下するものと考えられる。
[実施例1]
実施例1として、比較例1で用いたカラムC1について、カラムC1の入り口側10cmまでの部分に平均粒径4mmの球状鉄粉を充填し、残りの90cmの部分には平均粒径1mmの球状鉄粉を充填した。このようにカラムC1内部の反応層の構成を変更した以外は比較例と同様の実験を行った。結果を図7に示す。
図7に示すように、60日経過後のNaCl調整液を通水した場合の透水係数は約5%低下しているから、比較例1と同様にして推算すると、自然環境中の水を通水する場合はこの100倍つまり6000日(約16年)経過後、透水係数は約5%低下するものと考えられる。
このように、カラムの入口側10cmの部分を残りの90cmの部分よりも大きな粒径の鉄粉で構成することで、空隙の縮小による透水係数の低下を遅らせることができることが示された。
さらに、本発明により空隙の縮小が防止されることを裏付けるため、比較例1および実施例1のカラムを開封し、入口側から10cmごとに鉄粉を取り出し、それぞれの位置における空隙率を測定した。また、比較例1と実施例1において通水前の空隙率を再現するために、新たに図5(b)の装置に平均粒径1mmの球状鉄粉を充填したカラムを用いて同様の方法で測定した値をブランクとした。結果を図8および図9に示す。
図8に示すように、比較例1では60日間の通水によってカラム入口付近での空隙率が減少していることがわかる。これに対し、図9によると実施例1では、60日間の通水によってカラム入口付近で空隙率の減少傾向が若干見られるが、もともと空隙率が高かったために、カラム全体の空隙率と同等レベルの高い状態に維持されていることがわかる。
このような結果から、予めカラム入口付近の部分の空隙率を高くしておくことで、入口付近で鉄粉が腐食して水酸化鉄となってカラム内で析出し付着したとしても、カラム全体の透水係数が低下しないようにすることができることが示された。
本発明は、汚染地下水の原位置浄化用等の構造体の建造工事に用いることができる。
本発明の第1実施態様に係る透過反応壁の平面図。 前記透過反応壁の使用に伴う変化を示す模式図。 従来例に係る透過反応壁の平面図。 前記透過反応壁の使用に伴う変化を示す模式図。 試験に用いた装置を示す模式図。 比較例1の結果を示すグラフ図。 実施例1の結果を示すグラフ図。 比較例1の結果を示すグラフ図。 実施例1の結果を示すグラフ図。
符号の説明
1 透過反応壁
2 止水壁
11 第1反応層(上流反応層)
12 第2反応層(下流反応層)
G 汚染領域
W 地下水の流れ

Claims (5)

  1. 地中に設けられた壁状の透過反応壁であって、
    前記地中を流れる汚染された地下水の流れの上流側に設けられ粒状の金属還元剤を含む上流反応層と、
    前記上流反応層に対して前記地下水の流れの下流側に設けられ粒状の金属還元剤を含む下流反応層と、を有し、
    前記上流反応層の金属還元剤は前記下流反応層の金属還元剤より平均粒径が大きくされている透過反応壁。
  2. 前記上流反応層および前記下流反応層は、前記金属還元剤と粒状の透水性材料とを混合して構成され、
    前記上流反応層の透水性材料は、前記下流反応層の透水性材料より平均粒径が大きくされている請求項1に記載の透過反応壁。
  3. 前記金属還元剤は鉄粉であり、
    前記上流反応層の金属還元剤および透水性材料は、平均粒径が0.5mm〜10.0mmである請求項1または2に記載の透過反応壁。
  4. 前記上流反応層の厚みは、前記透過反応壁全体の厚みの10〜50%である請求項1から3のいずれかに記載の透過反応壁。
  5. 請求項1から4のいずれかに記載の透過反応壁に、有機ハロゲン化合物を含む地下水を通過させて浄化する地下水の浄化方法。
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