JP4827393B2 - 眼鏡レンズの製造方法及び眼鏡レンズ - Google Patents

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Description

本発明は、眼鏡レンズの製造方法及び眼鏡レンズに係り、特に、刻印を施して眼鏡レンズを製造する眼鏡レンズの製造方法、及びその製造方法により製造された眼鏡レンズに関する。
累進多焦点屈折力レンズは、フレームに装着するためのアライメント基準マーク、加入屈折力特定情報マーク、及び商品特定情報マーク等を有している。このアライメント基準マーク、加入屈折力特定情報マーク、及び商品特定情報マーク等は目視で容易には識別しにくい方法で刻印され、カクシマークと呼ばれている。
眼鏡レンズのアライメント基準マーク等のカクシマークは、使用頻度の高いレンズ中央部では装用者に違和感等を与えるため、単焦点屈折力レンズの光学中心、累進多焦点屈折力レンズの遠距離を見るためのレンズ視野部分である遠用部、近距離を見るためのレンズ視野部である近用部、及び前記遠用部と近用部の中間部である累進帯部を避けて配置される。
更に、このカクシマークの刻印位置は、一般的なフレーム枠と眼鏡レンズ装用状態を想定して配置される。通常カクシマークは、単焦点屈折力レンズであれば光学中心、累進屈折力レンズでればプリズム測定点と一致する設計中心より17mm程度外周に配置する。
このカクシマークの刻印方法は、眼鏡レンズの光学面を創成する成形型の光学面転写面に刻印をし、その刻印を転写することで、眼鏡レンズの光学面上に凸形状の刻印を得る(特許文献1)。また、成形型を用いず、レンズ基材に直接マーキングする方法も行われている。カクシマークをレンズ基材に直接描いてマーキングする方法としてはダイヤペン式方法、レーザーマーキングがある(特許文献2)。更に、レンズ基材に直接描く以外に、コーティング膜上からレンズ基材に刻印する方法も開示されている(特許文献3)。
特開平5-8534号公報 特開2000-258732号公報 特許第3081395号公報
従来、レーザーによってレンズ基材面上に直接刻印する場合、この刻印は、一般的に凹形状をしている。このような刻印は、大きなエネルギーによって刻印部の物質を昇華させて凹形状を形成する。ところが、昇華した残留物質が刻印凹部に残留し、この残留物質の一部が、以後の工程であるハードコーティングやフォトクロミックコーティングの際にコーティング調剤に剥離し混入することがわかってきた。コーティング調剤中に剥離し混入した残留物質は異物としてコーティング液に混入して、眼鏡レンズの光学性能を低下させ、製造歩留まりの低下を招く要因となる。
本発明の目的は、上述の事情を考慮してなされたものであり、刻印が起因のコーティング不良を防止して眼鏡レンズの光学性能を確保し、製造歩留まりを向上させることができる眼鏡レンズの製造方法を提供することにある。
本発明の他の目的は、刻印が起因のコーティング不良が防止されて光学性能を確保でき、製造歩留まりを向上させることができる眼鏡レンズを提供することにある。
請求項1に記載の発明に係る眼鏡レンズの製造方法は、プラスチック材料からなるレンズ基材に、発注にかかる眼鏡レンズの光学仕様を満たす曲面形状及び表面性状の光学面を形成し、この光学面の研磨加工後コーティング前に、当該光学面にレーザーの照射によって刻印を形成する眼鏡レンズの製造方法であって、上記レーザーの照射領域の物質を昇華させることなく上記刻印を凸形状に形成し、この刻印形成後、上記光学面上に大気圧を遮断可能でかつフォトクロミック皮膜を含むコート層を形成して、当該コート層により上記刻印を封止することを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明に係る眼鏡レンズの製造方法は、請求項1記載の発明において、上記刻印を、赤外光波長のレーザーを照射するレーザー刻印装置によって形成することを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明に係る眼鏡レンズの製造方法は、請求項1または2に記載の発明において、上記レーザーがCOレーザーであることを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明に係る眼鏡レンズの製造方法は、請求項1乃至3のいずれかに記載の発明において、上記刻印は、同一箇所を少なくとも2回以上重複して刻印加工することを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明に係る眼鏡レンズの製造方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載の発明において、上記眼鏡レンズへの刻印を非連続的に実施し、最初の刻印加工から最後の刻印加工までの過程で、少なくとも1回以上の刻印加工を実施しない所定時間を有することを特徴とするものである。
請求項6に記載の発明に係る眼鏡レンズの製造方法は、請求項1乃至5のいずれかに記載の発明において、ブロッキング工程から刻印工程完了まで同一のレンズ保持部材を使用して、眼鏡レンズの保持を持続させることを特徴とするものである。
請求項7に記載の発明に係る眼鏡レンズの製造方法は、請求項1乃至6のいずれかに記載の発明において、上記刻印は、目視で容易には識別しにくいカクシマークであることを特徴とするものである。
請求項8に記載の発明に係る眼鏡レンズは、請求項1乃至7のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法により、凸形状に形成された刻印が、大気圧を遮断可能でかつフォトクロミック皮膜を含むコート層により封止された状態で、製造されたことを特徴とするものである。
請求項1、2、3または7に記載の発明によれば、刻印が凸形状に形成されていることから、レーザー照射による刻印形成時に、刻印形成時の残留物質がコーティング液に溶出せず、コーティング液への異物混入がなくなるので、眼鏡レンズの光学性能を確保でき、製造歩留まりを向上させることができる。
また、眼鏡レンズの光学面に凸形状の刻印が形成された後に、この光学面に大気圧を遮断可能なコート層を形成するので、眼鏡レンズを加熱したときにも刻印部の変形を維持でき、刻印の消滅を防止できる。
請求項4に記載の発明によれば、刻印は、同一箇所を少なくとも2回以上重複して刻印加工することから、低いエネルギー準位のレーザーを用いることによって、眼鏡レンズの刻印箇所以外の箇所に対する熱影響を低減でき、この結果、高精度で安定した刻印加工を実施できる。
請求項5に記載の発明によれば、刻印を非連続的に実施し、刻印を開始してから完了するまでの過程で、刻印加工を実施しない所定時間を有することから、この所定時間の間にレーザー刻印による熱を放散できるので、眼鏡レンズに対する熱影響を更に低減できる。
請求項6に記載の発明によれば、ブロッキング工程から光学面の創成及び研磨工程を経て刻印工程完了までの過程で、同一のレンズ保持部材を使用して眼鏡レンズの保持を持続させることから、光学面の創成及び研磨加工と刻印加工とで同一のレンズ保持部材の基準面を加工基準とするので、刻印加工の精度を光学面の創成及び研磨加工と同程度とすることができる。
請求項8に記載の発明によれば、眼鏡レンズが請求項1乃至7のいずれかに記載の眼鏡レンズの製造方法により製造されたので、製造歩留まりを向上させることができ、更に、高精度な刻印を備えることができる。
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面に基づき説明する。
図1は、本発明に係る眼鏡レンズの一実施形態において、各種関連情報が刻印された累進屈折力レンズを示す全体図である。図2は、本発明に係る眼鏡レンズの製造方法の一実施の形態を実施する眼鏡レンズの製造システムを示す全体図である。
この眼鏡レンズ製造システムは、まず、眼鏡店35の発注端末30とメインフレーム39とが通信回線31を介して接続されている。発注端末30は、発注元としての眼鏡店35に配置されている。メインフレーム39は、眼鏡の製造メーカ側としての工場38に配置されている。そして、この工場38側において、メインフレーム39に、LAN32を介して工場サーバー40が接続され、この工場サーバー40にレーザー刻印装置41の計算機端末44が接続されている。
眼鏡店35の発注端末30は、眼鏡レンズを発注する際に必要となる各種のデータの入力を支援し表示する。この発注端末30の入力部は、被検眼の処方値データ36等を入力可能とする。また、発注端末30の入力部には眼鏡フレームの枠形状を測定するフレーム測定装置等が接続され、フレーム形状データ37が発注端末30に入力される。発注端末30に入力された処方値データ36及びフレーム形状データ37等は、公衆回線31を通じて工場38のメインフレーム39へ送信される。送信されたフレーム形状データ37及び処方値データ36等は、受注データとしてメインフレーム39に保存される。
メインフレーム39は、発注端末30から処方値データ36等を取得して、当該処方値に適合するように眼鏡レンズの設計を行う。このメインフレーム39には、眼鏡レンズ設計プログラムや加工データ生成プログラム等が格納されている。
設計プログラムは、取得した処方値データ36に基づいて各眼鏡レンズの設計データを作成する機能を有する。加工データ生成プログラムは、設計プログラムによって作成された設計データに基づいて、レンズ加工装置が実際のレンズ加工を行う際に必要となる加工データを生成する機能を実現する。この加工データには、眼鏡レンズの表面設計データ、フレーム形状データ37、処方値データ36等が含まれている。
メインフレーム39は、上記眼鏡レンズ設計プログラム及び加工データ生成プログラムを実行することにより、レンズ加工装置の制御情報としての加工データを生成すると共に、生成した加工データを工場サーバー40に送信する。 工場サーバー40は、受注データの受注番号と共に上記加工データを保存する。保存される各加工データは、識別のため受注データ毎に製造工場内でのみ使用される製造番号が与えられ、各加工データとの関連づけを行う。
レーザー刻印装置41は、LAN回線32を介して工場サーバー40から加工データを取得し、この加工データに基づいて眼鏡レンズに後述の各種関連情報を刻印する。図1は眼鏡レンズである累進屈折力レンズ20を示す全体図である。この累進屈折力レンズ20には、眼鏡レンズ関連情報、眼鏡フレーム枠関連情報、処方値及びレイアウト関連情報、並びに製造関連情報が刻印されている。
眼鏡レンズ関連情報としては、例えば累進屈折力レンズ20の供給メーカー及び商品名を特定する商品特定情報11、素材屈折率特定情報17等である。眼鏡フレーム枠関連情報としては、例えば眼鏡フレームにおけるフレーム枠の玉型形状が内接する矩形(四角形の一形態)であるボクシングエリアマーク8等である。処方値及びレイアウト関連情報としては、例えば累進屈折力レンズ20を眼鏡フレームに枠入れするときの基準位置となるアライメント基準マーク9及び10、累進帯長特定情報16、加入屈折力特定情報18、この加入屈折力の測定方法を定義する測定定義方法特定情報19等である。
製造関連情報としては、受注又は製造の固有番号である製造番号と左右の区分を示す製造番号情報12、累進屈折力レンズ20にのみ適用される特殊な製造指示内容を表示する個別製造指示情報13が刻印されている。
尚、図1において、符号14は累進屈折力レンズ20の水平基準線を示し、符号15は該累進屈折力レンズ20の設計中心を通る垂直方向の子午線を示し、符号7は該累進屈折力レンズ20が枠入れされるフレーム枠の玉型形状を表す。但し、これら水平基準線14、設計中心通る子午線15、フレーム枠の玉型形状7は説明のために便宜的に図示したものであり、実際に累進屈折力レンズ20上に刻印される訳ではない。
また、図1に示した累進屈折力レンズ20は、同図中、左側を耳側とし、右側を鼻側とする右眼用レンズであり、フレーム枠の玉型形状7およびボクシングエリアマーク8は、水平基準線14に沿って鼻側へ内寄せされている。尚、左眼用レンズは、上記右眼用レンズの各構成要素を、設計中心を通る垂直線(子午線)15に対して左右対称としたレイアウトになるため図示を省略する。
図1に示す2点の前記アライメント基準マーク9,10は、この累進屈折力レンズ20の水平基準線14上に、設計中心を通る垂直線(子午線)15を対称に付されている。つまり2点のアライメント基準マーク9,10は、水平基準線14上で、かつ累進屈折力レンズ20の設計中心を通る垂直線(子午線)15から等距離を隔てた位置に刻印される。これらアライメント基準マーク9,10は、この累進屈折力レンズ20が眼鏡フレームに枠入れされた後にもこの累進屈折力レンズ20の表面上に残る位置に刻印される。具体的には、累進屈折力レンズ20の設計中心を通る垂直線(子午線)15からアライメント基準マーク9,10までの距離は例えば17mmとされている。
このアライメント基準マーク9,10の近傍に、前記商品特定情報11、累進帯の長さを表す前記累進帯長特定情報16、累進屈折力レンズ20の素材屈折率である前記素材屈折率特定情報17、該レンズ20の近用加入屈折力である前記加入屈折力特定情報18、及びその前記測定定義方法特定情報19が刻印されている。詳細には、商品特定情報11、累進帯長特定情報16、及び素材屈折率特定情報17は耳側のアライメント基準マーク10に近接する下方に刻印され、加入度特定情報18及び定義方法特定情報19は、鼻側のアライメント基準マーク9に近接する下方に刻印される。上記刻印9,10,11,16,17,18及び19はすべてカクシマークである。このカクシマークは、目視では容易に識別しにくい方法で刻印されたものであり、フレーム枠の玉型形状7を考慮して、この玉型形状7によって囲まれる領域内に刻印される。従って、フレーム玉摺り加工後も、これらのカクシマークは累進屈折力レンズ20の光学面上にあり、識別可能となる。
また、累進屈折力レンズ20には、上記カクシマークに加えて目視で容易に識別可能な高濃度マークが刻印される。高濃度マークは2つの機能を有している。1つ目の機能は、玉摺加工によって削り取られる領域の表示である。そして2つ目は製造関連情報の表示である。
図1に示すように、玉摺り加工により喪失する領域を識別するボクシングエリアマーク8は、眼鏡フレームにおけるフレーム枠の玉型形状が内接する矩形の1mm外側に高濃度マーク刻印される。
また、この累進屈折力レンズ20に、左右の区分及び受注又は製造の固有番号である、製造関連情報としての前記製造番号情報12が、ボクシングエリア8の下方に高濃度マークで刻印される。また、累進屈折力レンズ20にのみ適用される特殊な製造指示内容を表示する、製造関連情報としての前記個別製造指示情報13が、製造番号情報12の下方に配置して高濃度マークで刻印される。
また図1に示す累進屈折力レンズ20は玉摺加工前のいわゆる丸レンズであるが、高濃度マーキングの全ての情報8,12及び13は、眼鏡フレームにおけるフレーム枠の玉型形状の外側の領域にある。従って、これらの高濃度マークは、フレーム玉摺加工後において累進屈折力レンズ20のレンズ面上に残らず、このため、眼鏡レンズ装用者の視野の妨げになることはない。
次に、上述したボクシングエリアマーク8、アライメント基準マーク9及び10、商品特定情報11、製造番号情報12、個別製造指示情報13、累進帯長特定情報16、素材屈折率特定情報17、加入屈折力特定情報18、測定定義方法特定情報19をそれぞれ刻印するレーザー刻印装置41について説明する。このレーザー刻印装置41は、図2に示すように、計算機端末44、レーザー発振部45及び載置台位置制御部46を有して構成される。
計算機端末44が実行する工場サーバー40への製造工程における情報のリクエストはすべて製造番号情報を介して行われる。レーザー刻印装置41の計算機端末44は、未加工レンズに付されている製造指図書の製造番号情報、又は製造番号情報を含むバーコードがスキャナ等の入力装置によって入力されると、製造番号情報に対応する刻印位置関連情報(即ち、眼鏡レンズ関連情報、眼鏡フレーム枠関連情報、処方値及びレイアウト関連情報並びに製造関連情報)を作成するための加工データを工場サーバー40に要求する。要求に従い工場サーバー40は、加工データを送信する。送信される加工データには、眼鏡レンズの表面設計データ、フレーム形状データ、処方値データが含まれる。また、この加工データは、後述の如く刻印種別と3次元の座標値(x、y、z)が組み合わされたものである。
工場サーバー40より送信された加工データは、レーザー刻印装置41における計算機端末44の通信制御部42にLAN回線32を介して送られる。この計算機端末44では、演算処理部43が、受信した加工データから刻印のためのデータの詳細を演算する。演算結果の内容は、刻印8,9,10,11,12,13,16,17,18,19についての各刻印位置、レーザー出力値、刻印速度値、重ね刻印回数値であり、刻印毎に指定する。
レーザー発振部45は、図2及び図8に示すように、刻印のためのレーザーを発振するものであり、その構成要素のレーザー発振器50は、焦点距離が145.00mm、発振レーザーがCO2レーザークラス4、レーザー発振出力が発振出力最大30[W]、平均12[W]、発行ピーク波長10.6[μm]、の赤外光波長のレーザーであるCO2レーザーを発振する。そして、レーザー光の制御は印字方式がガルバノスキャニング方式であり、印字範囲が90mm×90mm、文字サイズは0.2mm〜90mm、スキャンスピードは3000mm/sで行われる。
このレーザー発振器50から出射された発散レーザーまたは平行レーザー51は、ビームエキスパンダ52によってそのスポットが拡径され、一対の反射板53,54にて方向を変えられ、集光レンズ(例:fθレンズ)55で累進屈折力レンズ20の表面の所定の刻印位置に収束するように集光され、レーザー発振口56を経て上記累進屈折力レンズ20の上記刻印位置に収束して照射される。従って、上記刻印は、照射されたレーザー51のエネルギーによってレンズ基材の表面又は表面近傍を溶融または変質等で破壊、もしくは膨張により変形させることで実施される。すなわち、溶融または変質等をした部分の屈折率や透過率等が他の部分と異なるものとなって外部から識別可能となり、マークとして機能する。
レーザー発振部45において、一対の反射板53、54のうち、一方はX方向用であり、他方はY方向用である。これら反射板53、54の姿勢を制御することによって、レーザーのスポット位置を累進屈折力レンズ20の面上で任意に走査させることができる。このようにしてレーザーのスポットを、累進屈折力レンズ20の面上において文字や図形等に沿ってトレースすることにより、上記各情報8,9,10,11,12,13,16,17,18,19としての記号を当該累進屈折力レンズ20に刻印する。
載置台位置制御部46は、刻印の対象となる累進屈折力レンズ20を載置台57に保持し、この載置台57を移動させるものである。この載置台57の移動により、固定状態のレーザー発振部45のレーザー発振口56と累進屈折力レンズ20の刻印位置との距離が、レーザー発振口56から照射されるレーザーが収束するための距離(例えば145mm)に設定され、これにより、レーザー発振口56からのレーザーが載置台57上の累進屈折力レンズ20の刻印位置に集光して、所望の記号などが刻印される。
載置台位置制御部46は、載置台57を図8の符号99に示すように水平方向である互いに直交するX方向及びY方向、並びに鉛直方向であるZ方向に移動させる場合と、水平方向であるX方向及び鉛直方向であるZ方向に移動させ、Y方向には移動させない場合とがある。図3〜図9に示す本実施の形態では、後者の例を示す。本実施の形態では、累進屈折力レンズ20のY方向の刻印位置は、レーザー発振部45における反射鏡53によるX方向の微小移動と同様に、反射鏡54によるY方向の微小移動によって実現される。
図4〜図6に示すように、載置台位置制御部46では、基台58に基台プレート59を介してX方向レール60が水平方向(X方向)に延在して敷設され、このX方向レール60にスライダ80を介してX方向移動テーブル81が摺動自在に配設される。このX方向移動テーブル81のナット部85に駆動ねじ軸82が螺合される。この駆動ねじ軸82は、基台プレート59に設置されたステッピングモータ83によりカップリング84を介して回転駆動される。
上記X方向移動テーブル81には鉛直支持部材86が立設され、この鉛直支持部材86にZ方向レール87が鉛直方向に延在して敷設され、このZ方向レール87にスライダ88を介してZ方向移動テーブル93が摺動自在に配設される。このZ方向移動テーブル93に載置台57が取り付けられ、当該Z方向移動テーブル93のナット部89に駆動ねじ軸90が螺合される。この駆動ねじ軸90は、鉛直支持部材86に設置されたステッピングモータ91によりカップリング92を介して回転駆動される。
従って、ステッピングモータ83の駆動により、駆動ねじ軸82及びX方向移動テーブル81を介して載置台57が水平方向(X方向)に移動され、ステッピングモータ91の駆動により、駆動ねじ軸90及びZ方向移動テーブル93を介して載置台57が鉛直方向(Z方向)に移動される。尚、図4及び図5の符号94は軸受である。また、符号95は、載置台57及びZ方向移動テーブル93を鉛直支持部材86に持ち上げて支持するためのばね部材95である。
載置台57には、図7に示すように、累進屈折力レンズ20を保持するための鉛直基準面96、水平基準面97及び回転基準軸98が設けられている。また、この載置台57に載置される累進屈折力レンズ20には、後述の凹面ブロッキング装置100(図10)を用いて、図9に示すレンズ保持部材としてのヤトイ70が、接合剤74により接合されている。接合剤74としては、ワックスや低融点合金が好ましい。このヤトイ70は、円筒面形状の垂直基準面72Aと、平面形状の水平基準面72Bと、底面において直径方向に延びる回転基準面73とを有する。
載置台57にヤトイ70を介して累進屈折力レンズ20が載置された状態では、このヤトイ70の垂直基準面72A、水平基準面72Bが載置台57の垂直基準面96、水平基準面97にそれぞれ当接し、ヤトイ70の回転基準面73が載置台57の回転基準軸98に嵌合して当接する。従って、累進屈折力レンズ20への刻印加工において、加工基準位置は、ヤトイ70の垂直基準面72A、水平基準面72B及び回転基準面73となる。
レーザー刻印装置41の刻印精度に関する補正は、当該レーザー刻印装置41の組み立て時に、実際の累進屈折力レンズ20への刻印位置と、レーザー発振部45から照射されるレーザーの中心位置を一致させるように調整するが、機械的に調整不可能な微調整については、刻印加工基準位置の座標値をソフトウエアにて補正する。
図13は、本発明に係る眼鏡レンズの製造方法における一実施形態の刻印(マーク)を含む眼鏡レンズの製造方法である。
その概要は、まず、眼鏡レンズのレンズ基材であるレンズブランクス71(図9)に、発注元である眼鏡店35(図2)からの受注データに適合する光学仕様の光学面を形成すべく、凸側光学面創成のための研削加工及び研磨加工を実施する。次に、上記光学仕様を満たす曲面形状及び表面性状の光学面に、上記研磨加工直後(即ち上記研磨加工後コーティング前)に、レーザー刻印装置41を用いてレーザーによる刻印(7,8,9,10,11,12,13,16,17,18,19の各情報)を形成する。この刻印が目視で容易には識別しにくいカクシマーク(9,10,11,16,17,18,19の情報)である場合には、当該刻印は、後に詳説するように凸形状に形成される。上記刻印(7,8,9,10,11,12,13,16,17,18,19の各情報)の形成後、当該刻印が形成されたレンズブランクス71の光学面上に、大気圧を遮断可能なコート層を形成し、このコート層により上記刻印を封止する。
本実施形態では、上記レンズ基材であるレンズブランクス71は合成樹脂基材であり、例えば、メチルメタクリレートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ジエチレングリコールビスアリルカーボネートと一種以上の他のモノマーとの共重合体、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリチオウレタン、エンーチオール反応を利用したスフィルド樹脂、硫黄を含むビニル重合体等が上げられるが、これらに限定されるものではない。更に、このレンズ基材としてはプラスチックレンズ基材であることが好ましく、眼鏡用プラスチックレンズ基材であるとさらに好ましい。
眼鏡レンズである累進屈折力レンズ20の製造に際し、図3に示すように、まず、凸面加工のための凹面側ブロッキングを実施する(S1)。
つまり、レンズ基材であるレンズブランクス71(図9)の切削加工や研磨工程において、レンズブランクス71の非加工面を、レンズ保治部材としてのヤトイ70に接合剤74を用いて固定し、ヤトイ70を介して切削加工機や研磨機に累進屈折力レンズ20を取り付ける。ここでは、ヤトイ70にレンズブランクス71を、接合剤74を介して固定することをブロッキングまたはブロックと呼ぶ。
図10は、レンズブランクス71の凹面側をブロックするための凹面ブロッキング装置100である。凹面側ブロックは、まず、レンズブランクス71が設置される押上げ部材101の周囲にセンタリング機構102を設け、レンズブランクス71の幾何学中心を押上げ部材101の中心と一致させる。このセンタリング機構102は、押上げ部材101の周囲に回動ベースリング103、固定ベースリング104を順次配置し、この固定ベースリング104に3本のクランプ106を固定ピン105を用いて枢支し、各クランプ106の長孔107に、回動ベースリング103に固定された可動ピン108を挿通させたものである。
図示しないエアシリンダの駆動によって回転ベースリング103を回動させると、この回転ベースリング103の可動ピン108がクランプ106の長孔107を介してクランプ106を押圧し、3本のクランプ106が固定ピン105を中心として内側に回動する。これにより、各クランプ106に立設されたクランプピン109がレンズブランクス71のコバ面を押圧して当該レンズブランクス71をセンタリングする。次に、押上げ部材101を上昇させてレンズブランクス71を押し上げた状態で、レンズブランクス71の凹面上に接合剤としてのワックスを所定量滴下する。その後、ヤトイ70を下降させてワックスを押圧し拡げる。ワックスが固化すると、レンズブランクス71はヤトイ70にブロックされる。図9はブロック後のレンズブランクス71とヤトイ70を示す。ブロック後の加工基準位置は、凸面研削工程及び凸面研磨加工を経て刻印工程完了まで、この同一のヤトイ70の基準面72A、72B及び73である。
次に、図3に示す凸面切削加工を実施する(S2)。
累進屈折力レンズ20の光学面を構成する曲面(凸面)の創成加工はカーブジェネレータを用いる。本実施の形態のカーブジェネレータは、創成目的の曲面形状に沿って切削刃位置をコンピュータ制御することにより、加工目的の曲面形状を創成するNC制御切削加工装置である。累進屈折力レンズ20のレンズブランクス71は、ヤトイ70を介して加工装置に固定される。このときの加工基準位置は、ステップS1でブロックされたヤトイ70の基準面72A、72B及び73(図9)である。
次に、図3に示す凸面研磨を実施する(S3)。
前記カーブジェネレータによってレンズブランクス71の凸面を所定の形状に切削した後、同一のヤトイ70を介してレンズブランクス71を研磨装置に取付け、切削された面を研磨する。その際、レンズブランクス71とヤトイ70は接合したまま凸面側の研磨を行う。このときの加工基準位置は、研削時と同一のヤトイ70の基準面72A、72B及び73(図9)である。
上記凸面研磨完了後、レーザー刻印装置41を用いて、当該累進屈折力レンズ20に刻印加工を実施する(S4)。 刻印加工のための加工データは、工場サーバー40(図2)に保存され、この加工データをレーザー刻印装置41の計算機端末44が取り込む。加工データには例えば眼鏡レンズの表面設計データ、フレーム形状データ、処方値データ等が含まれる。実際の累進屈折力レンズ20等の眼鏡レンズは平面ではなく曲面を有しているので、眼鏡レンズの表面設計データ及びフレーム形状データは3次元の空間座標値で表される。尚、図1は平面図であるが、説明のためレンズの空間座標をXYZの直交座標系で表し、レンズの水平基準線14をX軸、レンズの設計中心を通る子午線15をY軸、紙面裏面より表面に向かい紙面に垂直な方向をZ軸とする。レーザー刻印装置41の計算機端末44の演算処理部43は、前述の眼鏡レンズ表面設計データの3次元曲面データ(x、y、z)と図1の2次元刻印配置位置(x’,y’)とから、すべての刻印マークの眼鏡レンズ(累進屈折力レンズ20)上における3次元空間座標(x’、y’、z’)を算出し、これを刻印位置とする。図1は各刻印の基本的な2次元配置を示す。
計算機端末44の演算処理部43により算出された刻印位置に対してレーザー発振部45がレーザーを照射する。この刻印加工におけるレンズ面上の座標の加工基準位置は、水平方向(X,Y)及び垂直方向(Z)が、累進屈折力レンズ20に装着されたヤトイ70の基準面72A及び72B(図9)であり、累進屈折力レンズ20の幾何中心を中心とする回転方向が上記ヤトイ70の基準面73である。従って、レーザー刻印装置41は基準面72A、72B及び73に基づいて、累進屈折力レンズ20上において前述の如く算出された3次元の位置座標で表される刻印位置に正確なレーザー照射を行う。つまり、刻印加工においても加工基準位置は、研削加工及び研磨加工と同一のヤトイ70の基準面72A、72B及び73である。
レーザーの照射によって累進屈折力レンズ20の凸面に刻印する刻印マークのうち、ボクシングエリアマーク8は、図1(A)に示すように、玉摺り加工により喪失する領域を識別するものであり、眼鏡フレームにおけるフレーム枠の玉型形状に内接する矩形である。この矩形状のボクシングエリアマーク8は、矩形を構成する辺としての直線を備える。
ここで、本実施の形態において、上記情報8,9,10,11,12,13, 16,17,18,19を刻印するときの好適な条件を次に述べる。ボクシングエリアマーク8、製造番号情報12及び個別製造指示情報13の刻印加工条件は、刻印出力が最大値30Wの35%、刻印速度が450mm/s、同一箇所重複刻印回数が1回とした。
また、カクシマークであるアライメント基準マーク9及び10、商品特定情報11、加入屈折力特定情報18及び累進帯特定情報17の刻印加工条件は、刻印対象のレンズ基材がHOYA株式会社製屈折率1.6のアイアス基材へのカクシマーク刻印加工において、レーザー出力が最大出力30Wの5.225%、刻印速度が600mm/s、同一箇所刻印回数が6回で好適である。また、HOYA株式会社製屈折率1.7のアイリー基材へのカクシマーク刻印加工ではレーザー出力が最大出力30Wの5.4%、刻印速度が530mm/s、同一箇所刻印回数が6回で同じく好適である。この同一箇所の重複刻印中に少なくと1回以上、刻印を実施しない時間間隔を設定して刻印するとなお好適である。具体的には、上述の例において6回の重複刻印をする際に、まず3回の重複刻印を連続して行い、0.1秒〜3秒程度の時間間隔を設定し、その後残り3回の重複刻印を行う。この時間間隔の設定によって、刻印形成時の熱によりレンズ基材が変形する事態を最小限に抑えることができる。
尚、刻印直後の刻印高さは0.5〜0.8ミクロン、線幅が180ミクロン〜280ミクロンとなる。図11の刻印測定データ110では、0.552ミクロン程度である。
上記レーザー刻印装置41はカクシマーク(9,10,11,16,17,18,19の各情報)の刻印を、凸形状に盛り上がった刻印として形成する。このメカニズムの詳細は明らかではないが、次のように推測される。
十分に弱いエネルギーのレーザー光線が、レンズ基材であるレンズブランクス71の光学面及びこの光学面内部近傍に照射されると、照射エネルギーが小さいため、レンズブランクス71(レンズ基材)は、ポリマーの結合が切断されないまま部分的に加熱される。加熱されたレンズブランクス71の一部は熱膨張を起こし、光学面上方へ盛り上がる。この加熱されて膨張したレンズブランクス71の一部は外気に接し、膨張部表面が冷却される。膨張部表面の冷却後、レンズブランクス71の内部が冷却され室温に近づき安定する。しかし、盛り上がった形状部分は内部に比較して先に冷却されるため、刻印表面である膨張部表面は盛り上がった形状のままとなり、刻印表面の曲率が刻印周辺の曲率と大きく異なるため、カクシマークとして視認することが可能となる。
ここで重要な要素はレーザーの波長と総出力である。一般に、分子または原子間の結合は、エネルギーバンドと呼ばれる各結合手によってなされる。このエネルギーバンドは、高エネルギー光量子が照射されると不安定になり結合が破綻されやすい。ここで高エネルギーとは、紫外線などのように個々の光量子が持つエネルギー準位が高い場合であり、照射されるレーザーの総出力が小さくても結合が破綻されやすく、照射された物質が昇華しやすい。一方、赤外線などのように個々の光量子が持つエネルギー準位が低い場合には、レーザーの出力が小さいと分子間または原子間の結合が破壊されにくく、レーザーの照射される総エネルギーが十分に大きくなければ昇華は発生しにくい。従って、本実施形態の凸形状の刻印は、弱い出力でのレーザー照射が好適であるが、赤外光領域の波長を有するCO2レーザーを小さな出力で照射するとより好適である。
従来のレーザー刻印はレーザーが照射される部分を加熱し、照射領域の物質を昇華させて物質を除去した凹形状を形成する。刻印領域の物質を除去して凹形状にする場合、昇華する際の物質が凹形状刻印、及びその周囲に残留する。本実施形態のカクシマーク(9,10,11,16,17,18,19の情報)の刻印では、照射領域の物質を昇華させることなく凸形状として、残留物質の飛散を防止している。従って、レーザー光照射領域の物質が昇華することなく凸形状刻印の内部に封入される。
ところで、凸形状に形成された上記カクシマークの刻印部は、例えば90℃以上の温度で再加熱されると、刻印を構成する表面が不安定となり、刻印の凸形状部の盛り上がった表面が熱膨張する前の状態に押し戻される。凸形状刻印がなくなると刻印部は安定する。これは刻印前の状態と同等であり、結果として視認可能な刻印が消失する。
そこで、後述の如く、刻印が形成されたレンズ基材の光学面をコーティングして、刻印を封止する。すると、このコーティングにより封止された刻印は以後加熱処理(例えば120℃程度までの温度での加熱処理)されても、コーティング皮膜自体が大気圧の一部を遮断して、刻印部の変形を維持する。従って、加熱処理後も刻印形状をある程度維持することができ、その量は本実施形態では刻印の高さで約40%程度である。また、一度コーティングされたコーティング皮膜を除去し、再加熱処理すると、前述の理由により刻印マークは消滅する。
上述の凸面の光学面への刻印加工の後、ヤトイ70を除去する保持部材除去作業を実施する。凸面に刻印をしたレンズブランクス71は凹面側の接合剤74を剥がしてレンズブランクス71とヤトイ70とを分離する。
次に、図13に示すように、刻印されたレンズ基材であるレンズブランクス71の光学面にフォトクロミック被膜を塗布して硬化させる(S5)。すなわち、刻印(7,8,9,10,11,12,13,16,17,18,19の情報)を含む光学面をフォトクロミック被膜で封止する。封止された刻印は以降の工程でハードコーティング処理、反射防止膜コーティング処理により更に封止される(S6)。反射防止膜コーティング処理後のカクシマークの刻印(9,10,11,16,17,18,19の情報)は、高さが約40%減少し、高さが0.2〜0.6ミクロン(好ましくは0.2〜0.35ミクロン)、線幅が100〜300ミクロン(好ましくは180ミクロン〜280ミクロン)となる。図12に示すカクシマーク刻印の測定データ111では、線幅が230ミクロン、高さが0.26ミクロンである。
上記フォトクロミック皮膜の膜厚は約30ミクロンである。更に、フォトクロミック皮膜上にコーティングされるハードコーティング皮膜は膜厚が約3ミクロンであり、このハードコーティング皮膜にコーティングされる反射防止皮膜は膜厚が数百ナノメートルである。これらのフォトクロミック皮膜、ハードコーティング皮膜及び反射防止皮膜により、大気圧の一部を遮断可能なコート層が構成される。
尚、一般に、フォトクロミックレンズは、太陽光などの紫外線を含む光に反応して速やかに色が変わり、紫外線がない状態下になると元の色(無色状態)に戻る可逆作用を有する調光機能を備えたレンズであり、プラスチック眼鏡レンズにおいて利用されている。このフォトクロミックレンズは、フォトクロミック調剤のレンズ基材材料への含浸または含有、フォトクロミック調剤のレンズ基材表面へのコーティング等の方法により製造される。本実施の形態では、フォトクロミック調剤をレンズ基材の表面にコーティングして調光機能を得る方法を用いる。
上記フォトクロミック皮膜の材料は、ラジカル重合性単量体にフォトクロミック化合物を溶解させて得られる。さらにラジカル重合性単量体は、シラノール基、エポキシ基を有する有機ケイ素化合物、アミン化合物、光重合開始剤の成分を含むと好適である。
フォトクロミックコーティング液(フォトクロミック調剤)の調整は、次のようにしてなされる。
プラスチック製容器に、トリメチールプロパンポリメタアクリルレート重合部、BPEオリゴマー(2,2-ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン)重量部、BE6E(ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート)重量部、平均分子量532のポリエチレングリコールジアクリレート重量部、グリシジルメタクリレート重量部からなるラジカル重合性単量体重量部に、フォトクロミック色素としてクロメンを3重量部、酸化防止剤LS765(ビス1,2,2,6,6-ペンタメチル−4−ピペジル)セバケート、メチル(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケートを5重量部、紫外線重合開始剤としてCGI-184(1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン)を0.4重量部、及びCGI403(ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル-2,4,4トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド))を0.1重量部添加して十分に攪拌混合を行った組成物に、エポキシ基を含有する有機ケイ素化合物としてγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製KBM403)6.4重量部を攪拌しながら滴下した。十分に攪拌した後、N-メチルジエタノールアミン1.4重合部を秤量滴下し、さらに十分に攪拌混合を行った。その後さらに、シリコーン系レベリング剤Y-7006(ポリオキシアルキレン・ジメチルポリシロキサンコポリマー:日本ユニカー(株)製)を0.1重量部添加混合した後、自転公転方式攪拌脱泡装置((株)シンキ− AR-250)にて2分間脱泡することで、フォトクロミック性を有する硬化性組成物を得た。
上記フォトクロミックコーティング液を用いて、フォトクロミック被膜を次のように形成する。
プラスチックレンズ基材としてポリチオウレタン(HOYA(株)製 商品名EYES 中心肉厚2.0mm厚)を60℃、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純粋洗浄、乾燥を行った後、前記調整された硬化性組成物を用いてスピンコート法で基材凸面側のコーティングを行った。この処理レンズを窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)にてフージョン製UVランプ(Dバルブ)波長405nmの紫外線積算光量で1800mJ/cm2(100mW/cm2、3分)照射し、さらに110℃、60分間硬化を行い、フォトクロミック皮膜層を有するプラスチックレンズを得た。
前記ハードコート皮膜の材料としては特に限定されず、公知の有機ケイ素化合物、及び金属酸化物コロイド粒子より成るコーティング組成物を用いることができる。上記有機ケイ素化合物としては、例えば有機ケイ素化合物またはその加水分解物が挙げられ、グリシドシ基、エポキシ基、ビニル基、メタアクリルオキシ基、アクリルオキシ基、メルカプト基、アミノ基、フェニル基等を有する有機基、炭素数1〜6のアルキル基または炭素数6〜10のアリール基の成分を含むと好適である。
ハードコーティング液の調整は、次のようにしてなされる。
マグネティックスターラーを備えたガラス製の容器に、水分散コロイダルシリカ(固形分40重量%、平均粒子径15ミリミクロン)141重量部を加え、攪拌しながら、酢酸30重量部を添加し、充分に混合攪拌を行った。その後、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製)74重量部を滴下し、5℃で24時間攪拌を行った。次にプロピレングリコールモノメチルエーテル100重量部、イソプロピルアルコール150重量部、さらにシリコーン系海面活性剤0.2重量部、硬化剤としてアルミニウムアセチルアセトネート7.5重量部を加え、充分に攪拌した後濾過を行ってハードコーティング液を調整した。
上記ハードコーティング液を用いて、ハードコート皮膜を次のように形成する。
硬化性組成物であるハードコーティング液を塗布する方法としては、例えばディピング法、スピン法、スプレー法、バブルジェット(登録商標)法、インクジェット法等が通常適用されるが、組成物の粘性、面精度の面からスピンコート法が好ましい。ハードコート皮膜の形成は、フォトクロミック皮膜を有するプラスチックレンズを60℃、10重量%の水酸化ナトリウウム水溶液にて5分間浸漬処理して十分に純粋洗浄し、乾燥を施した後、調製されたハードコーティング組成物を、ディピング法(引き上げ速度20cm/分)を用いてレンズブランクス71の光学面におけるフォトクロミック皮膜上にコーティングし、110℃、60分加熱硬化することで、ハードコート皮膜を形成した。
得られたハードコート皮膜を有するレンズブランクス71の光学面上に、以下に示す反射防止皮膜を形成する。ハードコート皮膜を有するレンズブランクス71を蒸着機に入れ、排気しながら85℃に加熱し、2.67×10-3Paまで排気した後、電子ビーム加熱法にて原料を蒸着させて、SiO2及びZrO2の積層構造(λ/4、λ/2、λ/4;λは波長)からなる反射防止皮膜を形成する。
これらのコート層(フォトクロミック皮膜、ハードコーティング被膜、反射防止被膜)の形成後、図13に示すように、光学、表面検査を実施する(S7)。完成された累進屈折力レンズ20に対し目視による外観検査、レンズメータによる度数検査、ジルコンランプの透過光によるレンズ内面の投影検査、及びレンズ全面の非点収差の光学性能検査を実施する。
この検査に合格した累進屈折力レンズ20を、眼鏡フレームのフレーム枠形状に合わせて玉摺り加工し(S8)、フレーム枠に枠入れして眼鏡レンズを完成し(S9)、出荷する。
以上のように構成されたことから、上記実施の形態によれば、次の効果(1)〜(10)を奏する。
(1)従来のレーザー刻印は、刻印箇所の物質を昇華させた凹形状をしている。しかしながら研磨後にレーザー刻印を行うと、レンズ基材の昇華物質が残留物質として刻印凹部に残る。研磨及び刻印後はハードコーティング、フォトクロミックコーティング、反射防止膜コーティングを行う。このコーティング工程では、コーティング液をレンズ基材表面に塗布する。ところが、塗布されたコーティング液に刻印の残留物質が剥離し混入し、この残留物質がコート層において異物となり、製造歩留まりの低下を招くことが近年判明してきた。特に、後述のフォトクロミックコーティング液は異物を剥離し混入する性質が高く、異物混入は大きな問題である。なお、残留物質は従来の洗浄によっては十分に除去することが困難である。
これに対し、本実施形態では凸形状の刻印を形成し、レーザー照射領域の物質を拡散しないように凸形状刻印の内部に封じ込めることで、コーティング液への異物混入を防ぐことができ、眼鏡レンズの光学性能を良好に確保して、製造歩留まりを向上させることができる。
(2)上記凸形状のレーザー刻印は加熱処理(約90℃以上の温度での加熱処理)に対して耐性が低く、ハードコートコーティングや反射防止膜コーティングの加工工程での高温処理で消滅してしまう性質がある。そこで、上記凸形状の刻印後に、その刻印を含むレンズ基材の光学面をコーティング皮膜で被覆して大気圧の一部を遮断し、当該刻印部の変形を維持することによって、レンズ基材を刻印後に加熱処理(約120℃以下の温度での加熱処理)しても刻印の凸形状を維持することができ、この刻印の消滅を防止できる。
(3)累進屈折力レンズ20等の眼鏡レンズへの刻印は、同一箇所を少なくとも2回以上重複して刻印加工することから、低いエネルギー準位のレーザーを用いることによって、眼鏡レンズの刻印箇所以外に対する熱影響を低減できる。この結果、高精度で安定した刻印加工を実施できる。
(4)累進屈折力レンズ20等の眼鏡レンズへの刻印を非連続的に実施し、刻印を開始してから完了するまでの過程で刻印加工を実施しない所定時間を有することから、この所定時間の間にレーザー刻印による熱を放散できるので、眼鏡レンズに対する熱影響を更に低減できる。
(5)レンズブランクス71のブロッキング、眼鏡レンズの光学面創成、研磨加工及び刻印加工において同一のヤトイ70を外すことなく使用し、光学面創成工程、研磨工程、刻印工程の各製造工程で同一のヤトイ70の基準面72A,72B及び73を使用して加工基準としている。このため、刻印の精度は、切削装置及び研磨装置における加工制御精度と同程度となり、本実施の形態での制御精度は1マイクロメータを有する。
一方、従来の方法において、ハードコートコーティング、反射防止膜コーティング後に刻印する製造方法では、光学測定点(累進屈折力レンズでは近用屈折力測定点及び遠用屈折力測定点)やレンズ幾何中心を用い、基準位置の特定はレンズメータやレンズ外径によって行われるので、刻印位置の精度は0.4mm程度であり、高精度な刻印が不可能である。
刻印は枠入れの際の基準位置であり、精度のよい刻印位置によって枠入れの精度を向上させることができる。特に両面に累進面を持たない両面非球面累進屈折力レンズ、累進帯の極端に短い累進屈折力レンズ等は光学設計が複雑化している。さらに眼鏡レンズの加工精度の向上と相まって枠入れ精度の向上が望まれている。従って、刻印位置精度の向上に対する要請は近年特に高まっており、刻印位置精度向上は枠入れ精度向上に直接影響し効果的である。
(6)玉摺り加工により喪失する領域を識別する矩形状のボクシングエリアマーク8が、累進屈折力レンズ20等の眼鏡レンズに刻印されることから、この喪失する領域以外の領域(矩形状のボクシングエリアマーク8内の領域)を品質保証のために検査すれば足り、当該喪失する領域の上記検査を省略できるので、検査効率が上昇して、累進屈折力レンズ20の生産能率を向上させることができる。しかも、玉摺り加工により喪失する領域の品質を保証する必要がないので、当該喪失する領域に欠陥が存在していても不良とする必要がなく、この結果、累進屈折力レンズ20の製造歩留まりを向上させることができる。
(7)従来のように、フレーム枠の玉型形状と同一またはわずかに大きい相似形の玉型形状を眼鏡レンズ上に刻印した場合、その刻印が乱視軸や累進帯長の方向に対し回転方向の誤差を生じ、玉摺り加工後の眼鏡レンズ上に不必要なマーキングが残留して不良となることが想定される。
これに対し、本実施の形態では、ボクシングエリアマーク8として、眼鏡レンズのフレーム枠の形状ではなく、フレーム枠の玉型形状に内接する矩形を累進屈折力レンズ20等の眼鏡レンズ上に刻印する。このため、乱視軸や累進帯長の方向に対し矩形状のボクシングエリアマーク8が回転方向の誤差を生じていても、そのボクシングエリアマーク8の辺の直線形状から上記回転方向の誤差を容易に認識できる。
また、矩形状のボクシングエリアマーク8が上記回転方向の誤差を生じていても、この矩形状のボクシングエリアマーク8は、眼鏡フレームの実際のフレーム枠における玉型形状に対し余裕があるので、回転誤差に対する許容範囲が広く、眼鏡レンズを玉型加工した後に、矩形状のボクシングエリアマーク8の一部が眼鏡レンズに残って、眼鏡レンズが不良となる事態を抑制できる。
(8)従来の如く、フレーム枠の玉型形状を眼鏡レンズ上に刻印すると、形状を表現する為に多くのデータが必要となり、かつ受注毎に形状が異なるため情報量が飛躍的に増大し問題であった。これに対し、本実施形態では、ボクシングエリアマーク8を単純な矩形としたため最低4点の座標位置によって配置を定義することができ、送受信するデータ量を削減することができる。
(9)眼鏡フレームの形状は受注毎に異なり種類が多く、眼鏡フレームのフレーム枠における玉型形状の相似形を眼鏡レンズに刻印した場合、検査員が目視で検査するときに、フレーム枠の玉型形状を認識するための負担が大きく問題であった。これに対し、本実施形態では、フレーム枠の玉型形状に比較して単純な矩形状のボクシングエリアマーク8(図1)を眼鏡レンズ上に刻印するため、一目で玉摺り加工により喪失する領域以外の領域を判別することができ目視検査の負担を軽減することができる。
(10)一般に、レンズ光学面上の刻印は、固定位置から発振されるレーザー光の収束点で精度よく刻印することが困難であった。本実施の形態では、累進屈折力レンズ20等の眼鏡レンズの表面形状から眼鏡レンズ上の刻印位置を3次元座標値で正確に算出し、眼鏡レンズの刻印位置を制御するため、常にレーザーの収束点で刻印することができる。従って、刻印する眼鏡レンズ面が累進または自由曲面等の複雑な形状でも、刻印位置を正確に実施でき、更に精緻な刻印をレンズ光学面のすべて位置で実施できる。このため、精度の高い凹面加工及び玉摺加工、枠入れを実施でき、高い枠入れ精度が要求される累進屈折力レンズに好適であり、両面研磨による累進屈折力レンズではさらに好適である。
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
例えば、刻印のためにレーザー刻印装置41のレーザー発振部45から照射されるレーザとしてはCO2レーザーが用いられたが、エキシマレーザーまたはYAGレーザー等を用いることもできる。また、刻印加工を実施する累進屈折力レンズ20等の眼鏡レンズは、両面が所望の光学面を有する完成品、または凸面研磨後の半製品(セミフィニッシュレンズ)であってもよい。また、ボクシングエリアマーク8は長方形の矩形に限らず、正方形、菱形または平行四辺形等の四角形であってもよく、または五角形や六角形等の多角形であってもよい。
また、本実施形態では、レンズ基材であるレンズブランクス71の光学面にフォトクロミック皮膜をコーティングして、上記光学面に形成された凸形状のカクシマーク刻印(9,10,11,16,17,18,19の情報)を封止するものを述べたが、フォトクロミック皮膜を除いて、レンズブランクス71の上記光学面にハードコーティング被膜を直接コーティングし、このハードコーティング被膜により上記カクシマーク刻印を封止してもよい。この場合、ハードコーティング被膜上に反射防止被膜を積層すると上記封止がより好適となる。
本発明に係る眼鏡レンズの一実施形態において、各種関連情報が刻印された累進屈折力レンズを示す全体図である。 本発明に係る眼鏡レンズの製造方法の一実施の形態を実施する眼鏡レンズの製造システムを示す全体図である。 図2のレーザー刻印装置を示す側面図である。 図3の載置台位置制御部を示し、図5のIV‐IV線に沿う側断面図である。 図4のV‐V線に沿う断面図である。 図3のレーザー刻印装置の一部を示す斜視図である。 図6の載置台を示す平面図である。 図2のレーザー発振部を主に示す構成図である。 眼鏡レンズの凹面をブロッキングしたヤトイを示す側面図である。 眼鏡レンズの凹面をブロッキングするブロッキング装置とヤトイ等を示す斜視図である。 カクシマーク刻印を形成した直後の当該刻印の高さを示すグラフである。 カクシマーク刻印が形成された光学面にコーティング処理(フォトクロミック皮膜、ハードコーティング被膜、反射防止被膜)をした後の上記刻印の高さを示すグラフである。 本発明に係る眼鏡レンズの製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
符号の説明
8 ボクシングエリアマーク
9、10 アライメント基準マーク(カクシマーク)
11 商品特定情報(カクシマーク)
12 製造番号情報
13 個別製造指示情報
16 累進帯長特定情報(カクシマーク)
17 素材屈折率特定情報(カクシマーク)
18 加入屈折力特定情報(カクシマーク)
19 測定定義方法特定情報(カクシマーク)
20 累進屈折力レンズ(眼鏡レンズ)
30 発注端末
35 眼鏡店(発注側)
38 工場(製造側)
41 レーザー刻印装置
44 計算機端末
45 レーザー発振部
46 載置台位置制御部
57 載置台
70 ヤトイ(レンズ保持部材)
72A 垂直基準面
72B 水平基準面
73 回転基準面

Claims (1)

  1. プラスチック材料からなるレンズ基材に、発注にかかる眼鏡レンズの光学仕様を満たす曲面形状及び表面性状の光学面を形成し、この光学面の研磨加工後コーティング前に、当該光学面にレーザーの照射によって刻印を形成する眼鏡レンズの製造方法であって、
    上記レーザーの照射領域の物質を昇華させることなく上記刻印を凸形状に形成し、
    この刻印形成後、上記光学面上に大気圧を遮断可能でかつフォトクロミック皮膜を含むコート層を形成して、当該コート層により上記刻印を封止することを特徴とする眼鏡レンズの製造方法。
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