特許文献1に記載の操舵装置は、操舵角に基づいて電動アクチュエータの電流制限を行う領域を決定しているために、操舵角センサなどの操舵角検出手段が故障した場合であっても、故障した操舵角検出手段により検出された操舵角に基づき電流制限を行う。したがって、操舵ハンドルの回動位置が中立位置に近い場合であっても操舵角検出手段の故障による誤検出によってストロークエンドに近いと判断されることも有り得る。このように判断されて電動アクチュエータの駆動電流が制限される場合は、中立位置付近における小さい電流値を制限電流値としてしまうため、電動アクチュエータからの操舵補助力が小さいものとなる。このため、中立位置付近から操舵限界位置までの広い操舵角領域内で操舵ハンドルを操舵操作するときの回動抵抗が大きくなって、軽快な操舵感が損なわれるおそれがある。特に据え切り時にこのようなことが起こると、据え切りすることができる範囲が狭くなってしまうことも起こり得る。また、電動パワーステアリング装置自体が故障しているものと勘違いするおそれがある。
また上記の状況とは逆に、操舵角が実際には最大操舵角に近いのにも関わらず、誤検出によって未だ操舵角が最大操舵角よりもかなり小さい値として検出された場合には、電動アクチュエータの駆動電流が制限されないままストロークエンドにて転舵機構が機械的ストッパに衝突する事態を引き起こし、実質的に電流制限が行われていないことになる場合もある。
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、操舵角検出手段が故障している場合においても操舵ハンドルの操舵操作に適度な操舵補助力を付与することができる車両の操舵装置を提供することを技術的課題とする。
上記課題を達成するために、本発明の特徴は、操舵ハンドルの操舵操作を補助するための操舵補助力を発生するアクチュエータ(15)と、前記アクチュエータの駆動を制御する制御手段(25)とを備える車両の操舵装置において、運転者が前記操舵ハンドルを操舵操作することにより入力される入力トルクを操舵トルクとして検出する操舵トルクセンサ(21)と、車速を検出する車速センサ(23)と、を備え、前記制御手段は、前記操舵トルクセンサにより検出された操舵トルクおよび前記車速センサにより検出された車速に基づいて、前記アクチュエータが所定の操舵補助力を発生するように前記アクチュエータの目標制御量(I as *)を決定する目標制御量決定手段(S102)と、前記操舵ハンドルの操舵角が最大操舵角に近い操舵角として予め定められる基準操舵角(θ a )以上であって且つ、前記目標制御量決定手段により決定した目標制御量(I as *)が、前記アクチュエータの制御量を制限するための閾値として予め設定される基準制御量(I end )よりも大きい場合に、前記アクチュエータの制御量を前記基準制御量(I end )に制限する制御量制限手段(S106)と、備えるようにしたことにある。
上記発明によれば、操舵角が所定の基準操舵角以上となったときに、目標制御量決定手段により決定されたアクチュエータの目標制御量を基準制御量と比較して、目標制御量が基準制御量よりも大きい場合に制御量を基準制御量に制限する。よって、基準制御量を比較的大きな値(例えば制御量を電動モータの電流値とした場合、操舵ハンドルの中立位置にて電動モータに流れる電流値よりも十分大きな電流値)に設定しておき、目標制御量が基準制御量よりも小さい場合には目標制御量決定手段により決定された目標制御量をそのままアクチュエータの制御量として用いることにより、制御量が小さい値で制限されるのを防ぐことができる。また、目標制御量が基準制御量よりも大きい場合には、アクチュエータの制御量は十分大きく設定された基準制御量に制限される。このように本発明は、操舵角の大小のみならず、アクチュエータの制御量の大小をも、操舵補助力を制限するか否かの判断の対象としているため、操舵角検出手段等が故障している場合においても操舵ハンドルの操舵操作に適度な操舵補助力を付与することができ、制限された制御量が小さすぎることによって軽快な操舵感が損なわれるなどの、操舵操作に関する悪影響を防止することができる。
この場合、アクチュエータとして電動モータを用い、制御量を、電動モータに流れる電流値とすることができる。また、上記基準操舵角は、操舵ハンドルの一方の最大操舵角から他方の最大操舵角(lock to lock)までの操舵角領域で任意に設定することができるが、できるだけ最大操舵角に近い操舵角とするのがよい。たとえば、最大操舵角の9割程度の操舵角(最大操舵角が600°の場合には、基準操舵角は540°)とすることができる。また、操舵角が所定の基準操舵角以上となっているか否かを検出する手段としては、操舵角センサなどの操舵角検出手段が挙げられるが、角度そのものを判断するものでなく、操舵角が上記基準操舵角以上であるか否かを検出するもの(例えば検出スイッチなど)であればよい。
前記制御手段(25)は、前記操舵ハンドルの操舵角が前記基準操舵角(θ a )となったときまたは前記操舵ハンドルの操舵角が前記基準操舵角(θ a )以上となったときの前記アクチュエータの実制御量(I)が、前記操舵ハンドルの操舵角が前記基準操舵角であるときに発生すべき制御量として予め定められる制限制御量(I limit_low )以下である場合に、前記制限制御量(I limit_low )を前記基準制御量(I end )に設定する基準制御量設定手段(S200)を備えるものであるとよい。操舵ハンドルの操舵角が基準操舵角と同じかまたはそれを越える程度に大きくなってもアクチュエータの実制御量が小さい場合は、操舵角が誤検出されている可能性がある。本発明ではこのような場合に基準制御量をそのときに検出した実制御量ではなく所定の制限制御量とする。したがって、制限制御量を基準制御量に設定した後は、操舵角がさらに大きくなっても目標制御量が上記制限制御量に達しない限りは制御量の制限がされず、目標制御量が上記制限制御量に達して初めてアクチュエータの制御量が制限制御量に制限される。よって、基準制御量として設定される制限制御量を適切な値に設定しておくことにより、小さい制御量でアクチュエータの駆動が制限されることを効果的に防止することができる。
上記制限制御量は、アクチュエータの電流を制限するときの制限値となり得るため、上述した従来の不具合を解消することができる程度に適切な値に設定されるのが好ましい。例えば、経験上、上記基準操舵角において必要な通常の操舵補助力を発生するための制御量を制限制御量とすることもできるし、また、予め実験などによって基準操舵角における必要な制御量を取得して、この取得した制御量を制限制御量とすることもできる。
この場合、前記基準制御量設定手段(S200)は、前記操舵ハンドルの操舵角が前記基準操舵角(θ a )となったときまたは前記操舵ハンドルの操舵角が前記基準操舵角(θ a )以上となったときの前記アクチュエータの実制御量(I)が、前記制限制御量(I limit_low )よりも大きい場合に、前記実制御量(I)を前記基準制御量(I end )に設定するものであるとよい。操舵ハンドルの操舵角が基準操舵角と同じかまたはそれよりも大きくなったときにアクチュエータの実制御量が制限制御量を越えるほど大きくなっていれば、操舵角は正常に検出されたものと考えられる。本発明ではこのような場合に実制御量を基準制御量に設定する。したがって、この実制御量を基準制御量に設定した後さらに操舵角が大きくなって目標制御量が基準制御量より大きくなった場合に、アクチュエータの制御量が基準制御量に制限される。これにより、ストロークエンドの手前でアクチュエータの制御量を制限し、ストロークエンドにおける転舵機構と機械的ストッパとの衝突の際の衝撃力を緩和することができる。なお、基準制御量に設定する実制御量は、操舵ハンドルの操舵角が基準操舵角となったときのアクチュエータの実制御量、あるいは、操舵ハンドルの操舵角が基準操舵角以下である状態から基準操舵角以上である状態になったときのアクチュエータの実制御量とするのがよい。
(第一実施形態)
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。図1は、本発明の実施形態に係り、運転者による操舵操作に対してアシスト機能を有する装置である電動パワーステアリング装置を備えた車両の操舵装置の全体概略図である。
この車両の操舵装置は、操舵ハンドル11に上端を一体回転するように接続したステアリングシャフト12を備え、同シャフト12の下端にはピニオンギヤ13が一体回転するように接続されている。ピニオンギヤ13は、ラックバー14に形成されたラック歯と噛み合ってラックアンドピニオン機構を構成する。ラックバー14の両端には左右前輪FW1,FW2が操舵可能に接続されており、左右前輪FW1,FW2は、ステアリングシャフト12の軸線回りの回転に伴うラックバー14の軸線方向の変位に応じて左右に操舵される。ラックバー14には、操舵アシスト用の電動モータ15が組み付けられている。電動モータ15は、操舵ハンドル11の操舵操作を補助するためのアシストトルクTas(操舵補助力)を発生する。このアシストトルクTasは、減速器を構成するボールねじ機構16によって減速(高出力化)されるとともに直線駆動力に変換される。そして、変換された直線駆動力がラックバー14に付与される。
電動モータ15は、電気制御装置20によってその作動が制御される。電気制御装置20は、操舵トルクセンサ21、操舵角センサ22、車速センサ23および電流センサ24を備えている。操舵トルクセンサ21は、ステアリングシャフト12に組み付けられていて、運転者が操舵ハンドル11を操舵操作することにより入力される入力トルクを操舵トルクTとして検出する。なお、操舵トルクTは、操舵ハンドルが右方向に回動されているときに検出される操舵トルクを正の値で表し、左方向に回動されているときに検出される操舵トルクを負の値で表す。
操舵角センサ22もステアリングシャフト12に組み付けられていて、操舵ハンドル11の操舵操作によって生じるステアリングシャフト12の回転角度に基づいて操舵ハンドル11の操舵角θを検出する。なお、操舵角θは、中立位置を「0」とし、右方向の回転角を正の値で表すとともに、左方向の回転角を負の値でそれぞれ表す。車速センサ23は、車速Vを検出して出力する。電流センサ24は、電動モータ15に流れている実電流値Iを検出して出力する。なお、実電流値Iは、電動モータ15が操舵ハンドル11を右方向に回転させるように操舵補助力を発生しているときに電動モータ15に流れる電流値を正の値で表すとともに、電動モータ15が操舵ハンドル11を左方向に回転させるように操舵補助力を発生しているときに電動モータ15に流れる電流値を負の値で表す。
また、電気制御装置20は、操舵トルクセンサ21、操舵角センサ22、車速センサ23および電流センサ24に接続された電子制御ユニット25を備えている。電子制御ユニット25は、CPU,ROM、RAMなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品とし、図2のアシスト制御プログラムを実行することにより、駆動回路26を介して電動モータ15を駆動制御する。駆動回路26は、電子制御ユニット25によって指定されるアシスト電流(駆動電流)Iasを電動モータ15に流す。
次に、上記のように構成した本実施形態の動作について説明する。電子制御ユニット25は、イグニッションスイッチの投入により、アシスト制御プログラムを所定の短時間ごとに繰り返し実行し始める。アシスト制御プログラムの実行は図2のステップS100にて開始し、ステップS101にて操舵トルクセンサ21から操舵トルクTを、操舵角センサ22から操舵角θを、車速センサ23から車速Vを入力する。次いで、電子制御ユニット25は、ステップS102にてアシスト電流テーブルを参照して、前記入力した操舵トルクTおよび車速Vに応じた基本アシスト電流値(目標制御量)Ias*を決定する。
アシスト電流テーブルは、電子制御ユニット25のROM内に記憶されていて、図4に示すように、複数の代表的な車速値ごとに、操舵トルクTに依存して複数の基本アシスト電流値Ias*が記憶されている。図からわかるように、基本アシスト電流値Ias*は、操舵トルクTが正方向に増加するに従って非線形的に増加し、所定の操舵トルクTに達すると一定の値となる。また、操舵トルクTが負方向に増加するに従って非線形的に減少(負方向に増加)し、所定の操舵トルクTに達すると一定の値となる。基本アシスト電流値Ias*は、同一の操舵トルクTに対して、車速Vが低いほど大きい。なお、このアシスト電流テーブルを利用するのに代えて、操舵トルクTおよび車速Vに応じて変化する基本アシスト電流値Ias*を関数により予め定義しておき、同関数を利用して基本アシスト電流値Ias*を計算するようにしてもよい。
電子制御ユニット25は、ステップS102にて基本アシスト電流値Ias*を決定した後、ステップS103にて操舵角θの絶対値|θ|が基準操舵角θaの絶対値|θa|未満であるかを判定する。基準操舵角θaは、電動モータ15に流れる電流値を所定値に制限することを考慮する必要があるかを判断するための閾値となる角度である。この基準操舵角θaは、操舵ハンドルの操舵可能な操舵角領域内で任意に決定することができるが、最大操舵角(ストロークエンドにおける操舵角)θmaxに近い操舵角に設定するのがよい。例えば、θmaxが600°である場合、θaを500°前後に設定することができる。このステップS103において、|θ|が|θa|未満と判定した場合はステップS104に進み、|θ|が|θa|以上と判定した場合はステップS105に進む。
ステップS104に進んだ場合は、|θ|が|θa|未満であり、操舵角θが最大操舵角θmaxから離れた操舵角であることが想定される。したがって、この場合には、転舵機構が機械的ストッパに衝突するときの衝撃力を緩和することを考慮する必要がなく、そのため電動モータ15の電流制限を行う必要もない。よって、ステップS104では、アシスト電流テーブルから求めた基本アシスト電流値Ias*をそのままアシスト電流Iasに設定する。続いて電子制御ユニット25は、ステップS107にて、電動モータ15にアシスト電流Iasが流れるように駆動回路26に指示する。これにより駆動回路26は電動モータ15にアシスト電流Iasを供給する。電動モータ15は与えられたアシスト電流Iasに応じた駆動力を出力し、この駆動力が操舵補助力として作用する。そして、ステップS108に進んでこのプログラムの実行を終了する。
一方、ステップS103の判定において|θ|が|θa|以上であると判定してステップS105に進んだ場合は、操舵角θが最大操舵角θmaxに近づいていることが予想される。このとき、操舵角センサ22が正常であって、検出された操舵角θが正しいのであれば、真に操舵角θが最大操舵角θmaxに近づいているので、電動モータ15の電流制限を行って転舵機構と機械的ストッパとが当接するときの衝撃力を緩和する必要がある。しかし、操舵角センサ22が故障していて、検出された操舵角θが間違っている場合は、本当は操舵角θが最大操舵角θmaxとはほど遠いのに、操舵角θを最大操舵角θmaxに近い操舵角と誤って検出しているに過ぎない。このような場合に電動モータ15の電流制限をすると、中立位置に近い操舵角であるにも関わらず電動モータ15の電流制限が行われる事態が生じる。
従来(上記特許文献1)においては、操舵角θが基準操舵角θaとなったときに電動モータに流れている実電流を制限電流値とし、基準操舵角θaよりも大きい操舵角領域ではこの制限電流値により電動モータの駆動を制御している。このような制御を上記の事態において適用すると、操舵角が中立位置に近いときに電動モータ15に流れている小さい電流値が制限電流とされてしまうので、電動モータ15から与えられる操舵補助力も小さいものとなる。さらに、中立位置に近い操舵角から最大操舵角までの広い操舵角領域において電動モータ15の電流制限が行われてしまう。したがって、幅広い操舵角領域において小さな操舵補助力しか得ることができないため、アシスト不足になってドライバーの回動操作に負担をかけ、快適な操舵感を損なう場合がある。特に、据え切り動作においては多大な操舵補助力が必要であるのに、上記のような場合には電動モータ15から僅かな操舵補助力しか得ることができないので、実質的に据え切りの範囲が狭くなることも起こり得る。
また、操舵角センサ22が正常であるときでも、例えば切込み操舵中に一旦操舵を止め、そこから再度切り込み方向に操舵を行う場合には、操舵角θが基準操舵角θaに達したときにも操舵トルクが十分大きくならず、連続的に切込み操舵を行った場合と比較して、電動モータに流れる実電流が小さくなる場合がある。この場合は、この小さい電流値を制限電流値に設定してしまい、その後の切り込み操舵が困難になってしまう場合もある。
上記不具合を解消するために、本実施形態では、ステップS103にて|θ|が|θa|以上であると判定してもすぐに電動モータ15の電流制限を行うのではなく、ステップS105にて、操舵トルクTおよび車速Vに基づいて決定される基本アシスト電流値Ias*が、所定のエンド電流制限値Iend以下であるかを判定し、この判定結果に基づいて電流制限を行うか否かを決定している。このエンド電流制限値Iendの決定方法については後述するが、ステップS103の比較により操舵角センサ22が故障しているか否かを判断することができる程度の大きさであるか、あるいはそのエンド電流値で電動モータ15を駆動しているときに転舵機構が機械的ストッパに衝突しても、衝撃力がさほど大きくならない程度の大きさに設定することができる。例えば、予め操舵角θが基準操舵角θaとなるときに電動モータ15に流れる標準的な電流値を調査しておき、この電流値をエンド電流制限値Iendとすることができる。
ステップS105にて基本アシスト電流値Ias*がエンド電流制限値Iend以下であると判定した場合は、判定の対象とされた基本アシスト電流値Ias*が、操舵角θが基準操舵角θa以上である場合に決定される基本アシスト電流値Ias*としては小さい値であると判断できる。このような場合は、操舵角センサ22が故障していて、操舵角θが誤検出されている可能性がある。また、誤検出していないにしても、この程度の電流値で電動モータ15を駆動しているときに転舵機構が機械的ストッパに衝突したとしても、衝撃力はさほど大きくないと考えられる。したがって、この場合には電動モータ15の電流制限は行わず、ステップS104に進んで電動モータのアシスト電流Iasを基本アシスト電流値Ias*に設定する。その後、ステップS107に進んで、電動モータ15にアシスト電流Iasが流れるように駆動回路26に指示する。これにより駆動回路26は電動モータ15にアシスト電流Iasを供給する。電動モータ15は与えられたアシスト電流Iasに応じた駆動力を出力し、この駆動力が操舵補助力として作用する。そして、ステップS108に進んでこのプログラムの実行を終了する。
一方、ステップS105にて基本アシスト電流値Ias*がエンド電流制限値Iend以上であると判定した場合には、この操舵角センサ22が正常に働いて正確な操舵角θを検出しており、決定された基本アシスト電流値Ias*で電動モータ15を駆動しているときに転舵機構が機械的ストッパに衝突したときには衝撃力が大きくなるものと考えられる。したがって、この場合にはステップS106に進んで電動モータ15のアシスト電流Iasをエンド電流制限値Iendに設定する。その後、ステップS107に進んで、電動モータ15にアシスト電流Ias(=エンド電流制限値Iend)が流れるように駆動回路26に指示する。これにより駆動回路26は電動モータ15にアシスト電流Iasを供給する。電動モータ15は与えられたアシスト電流Iasに応じた駆動力を出力し、この駆動力が操舵補助力として作用する。このように、ステップS105からステップS106に進む場合には、電動モータ15のアシスト電流Iasがエンド電流制限値Iendに制限された状態で電動モータ15が駆動する。そして、ステップS108に進んでこのプログラムの実行を終了する。
以上の説明からわかるように、本実施形態においては、操舵角θが基準操舵角θa以上(S103:No)であって且つアシスト電流テーブルにより決定した基本アシスト電流値Ias*がエンド電流制限値Iendよりも大きい(S105:No)場合に、電動モータ15のアシスト電流Iasをエンド電流制限値Iendに制限し(S106)、操舵角θが基準操舵角θa以上(S103:No)であって且つ基本アシスト電流値Ias*がエンド電流制限値Iend以下(S105:Yes)である場合に、電動モータ15に電流制限は行わずに基本アシスト電流値Ias*をアシスト電流Iasに設定している(S104)。このため、操舵角θが基準操舵角θaよりも大きい操舵角領域であっても、アシスト電流が小さいときには電動モータ15の電流制限を行わないようにして、アシスト不足となることを防ぐことができる。
アシスト制御プログラムにおいて、ステップS105およびステップS106にて用いるエンド電流制限値Iendは予め実験などにより決定する固定値でもよいが、本実施形態においては、状況に応じて適切なエンド電流制限値Iendを設定できるよう、図3のエンド電流決定プログラムにより決定される。このエンド電流決定プログラムは、電子制御ユニット25が所定の短時間ごとに繰り返し実行しており、図3のステップS200にて開始され、ステップ201にて操舵角センサ22からの操舵角θおよび電流センサ24からの実電流Iがそれぞれ入力される。次いで、電子制御ユニット25は、ステップS202にて操舵角θの絶対値|θ|が基準操舵角θaの絶対値|θa|よりも大きいかを判定する。|θ|が|θa|よりも大きいと判定した場合はステップS203に進む。|θ|が|θa|以下であると判定した場合はステップS208に進む。
ステップS202にて|θ|が|θa|以下であると判定してステップS208に進む場合は、現在の操舵角θがストロークエンドにおける最大操舵角θmaxから離れていて、電動モータ15のアシスト電流を所定の電流値に制限する必要のない領域と考えられる。したがって、ステップS208にてエンドフラグEFLGを0に設定する。ここで、エンドフラフEFLGは、エンド電流制限値Iendを電動モータ15に流し得る最大の電流値Imax未満の所定の電流値に設定する必要があることを示すフラグである。続いて、ステップS209にてエンド電流制限値Iendを最大電流値Imaxに設定する。そして、ステップS210にてこのエンド電流決定プログラムの実行を終了する。なお、エンド電流制限値Iendを最大電流値Imaxに設定するということは、実質的に電動モータ15の電流制限がないことと同じことである。
一方、ステップS202にて|θ|が|θa|よりも大きいと判定してステップS203に進む場合は、現在の操舵角θがストロークエンドにおける最大操舵角θmaxに近づいていて、エンド電流制限値IendをImax未満の所定の値に設定する必要がある場合である。この場合は、まずステップS203にてエンドフラグEFLGが0であるかを判定する。エンドフラグEFLGが0である場合は、次のステップS204にてエンドフラグEFLGを1に設定する。
次に、電子制御ユニットは、ステップS205にて、電流センサ24が検出した電動モータ15の現在の実電流Iの絶対値|I|が、制限電流下限値Ilimit_lowの絶対値|Ilimit_low|よりも大きいかを判定する。ここで、制限電流下限値Ilimit_lowは、電動モータ15が制限される場合であっても最低限電動モータ15に流す電流値である。よって、電動モータ15の電流制限によって軽快な操舵感が損なわれることのないような大きさに設定される。例えば、本実施形態においては、Ilimit_lowは図6に示す操舵角と駆動電流との関係を示すグラフから決定される。
図6は、本実施形態に係る電動パワーステアリング装置が搭載された車両について、操舵ハンドルを中立位置から右切り側の最大操舵角θmaxまで回し、さらに左切り側の最大操舵角−θmaxまで回し、再び中立位置まで戻したときの、操舵角θと電動モータ15に流れる実電流Iとの関係(操舵角−実電流特性線)を示したもので、図の曲線Aは最大積載時の操舵角−実電流特性曲線、図の曲線Bは最小積載時の操舵角−実電流特性曲線である。ここで、最大操舵角θmaxは600°(−θmax=−600°)とし、電流制限を行う基準となる基準操舵角θaは500°(−θa=−500°)とする。
そして、本実施形態においては、2つの操舵角−実電流特性曲線のうち、最小積載時の特性曲線Bにおける基準操舵角θaのときの実電流と、基準操舵角−θaのときの実電流との絶対値が大きい方の電流値を制限電流下限値Ilimit_lowとする。この例では、特性曲線Bにおいて、基準操舵角θaのときの実電流は43Aであり、基準操舵角−θaのときの実電流は−50Aであるので、±Ilimit_lowは±50Aに設定される。なお、このような設定の仕方はあくまで一例であり、その他の方法、例えば最大積載時における基準操舵角θaのときの実電流をIlimit_lowとしてもよいし、基準操舵角θaの前後の操舵角のときの実電流の値をIlimit_lowとしてもよい。あるいは経験上導かれる値をIlimit_lowとしてもよい。
図3のステップS205においては、上記のようにして設定されたIlimit_lowの絶対値|Ilimit_low|と実電流値Iの絶対値|I|とを比較する。このステップにて|I|が|Ilimit_low|よりも大きいと判定した場合はステップS206に進み、|I|が|Ilimit_low|以下と判定した場合はステップS207に進む。
制限電流下限値Ilimit_lowは、本実施形態では上記したように基準操舵角θaのときの実電流に基づいて定められている。したがって、基準操舵角θaよりも大きい操舵角領域では、そのときの電動モータ15の実電流IはIlimit_lowよりも大きいはずである。したがって、ステップS205にて|I|が|Ilimit_low|よりも大きいと判定する場合は、操舵角センサ22が正常に働いていて、検出された操舵角θは正しいものと想定される。この場合は、ステップS206にてそのときに実測された実電流値Iをエンド電流制限値Iendに設定する。そして、ステップS210にてこのエンド制限電流決定プログラムの実行を終了する。
一方、ステップS205にて|I|が|Ilimit_low|以下と判定した場合は、電動モータ15に流れる実電流Iが本来流れているべきである電流よりも小さいので、操舵角センサ22が故障などして正確な操舵角が検出されていない場合(特に操舵角が実際の角度よりも大きく検出される場合)であると想定される。あるいは、操舵角センサ22は正常に働いているけれども、運転者が操舵操作の途中で一旦操舵を停止し(この段階で操舵トルクが0になるためアシスト電流も低くなる)、その後に再び操舵を開始するような操舵操作をしたために、基準操舵角θaにおける電動モータ15のアシスト電流が上がりきらずに低くなっている場合が想定される。いずれの場合にも、そのときの実電流で電流を制限すると、その後の操舵ハンドルの回動操作をする上で運転者に大きな負担をかけることになる。そこで、この場合には、ステップS207にて制限電流下限値Ilimit_lowをエンド電流制限値Iendに設定する。そして、ステップS210にてこのエンド制限決定プログラムの実行を終了する。なお、ステップS203にてエンドフラグEFLGが0ではない、すなわち1であると判定した場合は、既にIendが上述のようにして所定の値に決定されている状態と判断できるので、この場合は新たにIendを決定することなく、ステップS210に進んでこのプログラムを終了する。
このようなエンド電流決定プログラムを実行することにより、図2のステップS105における判定で基本アシスト電流値Ias*と比較されるエンド電流制限値Iendが決定される。具体的には、操舵角θが基準操舵角θaより大きくなったとき(ステップS202:Yes)の電動モータ15に流れている実電流Iの絶対値が制限電流下限値Ilimit_lowの絶対値よりも小さいとき(ステップS205:No)にはエンド電流制限値Iendは実電流Iよりも大きい制限電流下限値Ilimit_lowとされる(ステップS207)。また、操舵角θが基準操舵角θaより大きくなったとき(ステップS202:Yes)の電動モータ15に流れている実電流Iの絶対値が制限電流下限値Ilimit_lowの絶対値以上であるとき(ステップS205:Yes)にはエンド電流制限値Iendは制限電流下限値Ilimit_low以上の電流値である実電流Iとされる(ステップS206)。つまり、制限電流下限値Ilimit_lowは、電動モータ15が電流制限されているときであっても最低限流れる電流であり、この値以下の電流値で電動モータ15の電流が制限されることはない。よって、小さな電流値で電動モータが電流制限されて、軽快な操舵感が損なわれたり、運転者に余分な負担をかけることはない。なお、ステップS202の判定は、操舵角θが基準操舵角θaとなったとき、または、操舵角θが基準操舵角θa以上になったときを判断基準にしてもよい。同様に、ステップS205の判定は、|I|が|Ilimit_low|となったとき、または、|I|が|Ilimit_low|以上となったときを判断基準にしてもよい。
図5は、上述のように電動モータ15の電流値を制御した場合における、操舵角θと電動モータ15に流れる実電流Iとの関係を示すグラフである。図からわかるように操舵角センサ22が正常である場合(「正常時」のグラフ)には、基準操舵角θaにおける電動モータ15に流れる実電流値Iは制限電流下限値Ilimit_lowよりも大きくなっている。このため、基準操舵角θaよりも大きな操舵角領域では、そのときの実電流(Im)がエンド電流制限値Iendとされ、この電流値により電動モータ15に流れる電流が制限される。
一方、操舵角センサ22が故障している場合、特に操舵角センサ22が実際の操舵角よりも小さい値を検出する場合(「異常時」のグラフ)には、基準操舵角θaにおける電動モータ15に流れる実電流値Iは制限電流下限値Ilimit_lowよりも小さくなる。このような場合はエンド電流制限値Iendが制限電流下限値Ilimit_lowに設定される。したがって、操舵角センサ22により検出される操舵角θが基準操舵角θaよりも大きい操舵領域においても(例えば図における操舵角θ1)、基本アシストマップに基づいて決定される基本アシスト電流値Ias*が制限電流下限値Ilimit_low(=Iend)になるまで電流制限は行われない。そして、基本アシスト電流値Ias*が制限電流下限値Ilimit_lowに達して初めて電流制限が行われる。
このように、本実施形態の車両の操舵装置において、電動モータ15が電流制限されているときは、少なくとも制限電流下限値Ilimit_lowだけの電流は流れるようにされている。よって、電動モータ15の制限電流が低すぎることによって生じる不具合を防止することができる。また、操舵角θが基準操舵角θaに達したときに電動モータ15に流れる実電流値に応じてエンド制限電流値Iendを決定しているため、状況に応じて適切なエンド制限電流値を設定することができる。
また、本実施形態においては、制限電流下限値Ilimit_lowは、図6に示すように操舵角θの絶対値|θ|が基準操舵角θaの絶対値|θa|となったときに電動モータ15に流れる実電流に基づいて決定されている。このように制限電流下限値Ilimit_lowを決定することにより、幅広い領域において(特に最小積載時においては図6に示すように操舵角θが−500°〜約570°操舵角領域において)、小さい電流値で電動モータが電流制限されるのを効果的に防止することができる。また、最小積載時のみならず、最大積載時においても操舵角θが約−440度〜約390°の広い範囲で電流制限されるのを防止することができる。このように、車両の運転状態が変化しても電動モータが電流制限されない領域を幅広く確保することができる。
11…操舵ハンドル、15…電動モータ(アクチュエータ)、20…電気制御装置、21…操舵トルクセンサ、22…操舵角センサ、23…車速センサ、24…電流センサ、25…電子制御ユニット(制御手段)、26…駆動回路、Ias*…基本アシスト電流値(目標制御量)、Ias…駆動電流、Iend…エンド電流制限値(基準制御量)、Ilimit_low…制限電流下限値(制限制御量)、I…実電流値、Imax…最大電流値、θa…基準操舵角、θmax…最大操舵角