以下に本発明の実施の形態について説明する。以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施の形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施をすることができる。
なお、本明細書において引用した文献、および公開公報、特許公報その他の特許文献は、参照として本明細書に組み込むものとする。
<マーカーポリヌクレオチドプローブ>
本発明のドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞マーカーポリヌクレオチドプローブは、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を選択及び/または検出するためのマーカーおよび/または試薬として使用されるものである。該プローブとして使用されるポリヌクレオチドは、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞において検出される、配列番号:1または2の塩基配列に相補的な塩基配列を含むものである。配列番号:1はマウスLrp4 cDNAの塩基配列、そして配列番号:2はヒトLrp4 cDNAの塩基配列であり、それぞれGenBankに登録された配列である(マウス:Accession No. NM_016869;ヒト:Accession No. XM_035037)。
ここで、「マーカーポリヌクレオチドプローブ」とは、Lrp4の発現、特に転写されたmRNAを検出することができればよく、複数のデオキシリボ核酸(DNA)またはリボ核酸(RNA)等の塩基または塩基対からなる重合体を指す。二本鎖cDNAも組織in situハイブリダイゼーションでプローブとして利用可能であることが知られており、本発明のマーカーにはそのような二本鎖cDNAも含まれる。組織中のRNAの検出において特に好ましいプローブとなるマーカーポリヌクレオチドプローブとしては、RNAプローブ(リボプローブ)を挙げることができる。また、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、天然以外の塩基、例えば、4-アセチルシチジン、5-(カルボキシヒドロキシメチル)ウリジン、2'-O-メチルシチジン、5-カルボキシメチルアミノメチル-2-チオウリジン、5-カルボキシメチルアミノメチルウリジン、ジヒドロウリジン、2'-O-メチルプソイドウリジン、β-D-ガラクトシルキュェオシン、2'-O-メチルグアノシン、イノシン、N6-イソペンテニルアデノシン、1-メチルアデノシン、1-メチルプソイドウリジン、1-メチルグアノシン、1-メチルイノシン、2,2-ジメチルグアノシン、2-メチルアデノシン、2-メチルグアノシン、3-メチルシチジン、5-メチルシチジン、N6-メチルアデノシン、7-メチルグアノシン、5-メチルアミノメチルウリジン、5-メトキシアミノメチル-2-チオウリジン、β-D-マンノシルキュェオシン、5-メトキシカルボニルメチル-2-チオウリジン、5-メトキシカルボニルメチルウリジン、5-メトキシウリジン、2-メチルチオ-N6-イソペンテニルアデノシン、N-((9-β-D-リボフラノシル-2-メチルリオプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)N-メチルカルバモイル)トレオニン、ウリジン-5-オキシ酢酸-メチルエステル、ウリジン-5オキシ酢酸、ワイブトキソシン、プソイドウリジン、キュェオシン、2-チオシチジン、5-メチル-2-チオウリジン、2-チオウリジン、4-チオウリジン、5-メチルウリジン、N-((9-β-D-リボフラノシルプリン-6-イル)カルバモイル)トレオニン、2'-O-メチル-5-メチルウリジン、2'-O-メチルウリジン、ワイブトシン、3-(3-アミノ-3-カルボキシプロピル)ウリジン等を必要に応じて含んでいてもよい。
さらに、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、配列番号:3または4記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列を含む。配列番号:3または4記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列は、配列番号:1または2に記載された塩基配列に加えて、遺伝子暗号の縮重により配列番号:1または2記載の配列とは異なる塩基配列を含むものである。本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブはまた、配列番号:3または4記載のアミノ酸配列において、膜貫通領域を欠く配列をコードする塩基配列に対して相補的な配列を含むものを包含する。配列番号:3または4記載のアミノ酸配列中、シグナル配列は存在せず、マウスLrp4(配列番号:3)では113-135 アミノ酸残基、ヒトLrp4(配列番号:4)では46-68アミノ酸残基の部分が膜貫通領域を形成している。なお、配列番号:3及び4に記載の配列も各々GenBankに登録されている(ヒト:XP_035037、マウス:NP_058565)。
ここで、或る「塩基配列に対して相補的」とは、塩基配列が鋳型に対して完全に対になっている場合のみならず、そのうちの少なくとも70%、好ましくは80%、より好ましくは90%、さらに好ましくは95%以上(例えば、97%または99%)が対になっているものも含む。対になっているとは、鋳型となるポリヌクレオチドの塩基配列中のAに対しT(RNAの場合はU)、TまたはUに対しA、Cに対しG、そしてGに対しCが対応して鎖が形成されていることを意味する。そして或るポリヌクレオチド同士の塩基配列レベルでの相同性は、BLASTアルゴリズム(Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいた塩基配列についてのプログラムとして、BLASTN(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-10)が開発されており、マーカーポリヌクレオチドプローブ配列の相同性の決定に使用することができる。具体的な解析方法については、例えば、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.等を参照することができる。
さらに、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブには、配列番号:1または2の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含むポリヌクレオチドが包含される。Lrp4については配列番号:1または2で示される塩基配列を有するものが公知であるが、そのアルタナティブアイソフォーム、及びアレリック変異体が存在する可能性があり、そのようなアイソフォームやアレリック変異体に相補的な配列を有するものも本発明のマーカーポリヌクレオチドとして利用することができる。このようなアイソフォーム及びアレリック変異体は、配列番号:1または2の塩基配列を含むポリヌクレオチドをプローブとして、コロニーハイブリダイゼーション、プラークハイブリダイゼーション、サザンブロット等の公知のハイブリダイゼーション法により、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の動物のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから得ることができる。cDNAライブラリーの作成方法については、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989))を参照することができる。また、市販のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーを利用してもよい。
より具体的に、cDNAライブラリーの作製においては、まず、Lrp4を発現する細胞、臓器、組織等からグアニジン超遠心法(Chirwin et al. (1979) Biochemistry 18: 5294-9)、AGPC法(Chomczynski and Sacchi (1987) Anal. Biochem. 162: 156-9)等の公知の手法により全RNAを調製し、mRNA Purification Kit(Pharmacia)等を用いてmRNAを精製する。QuickPrep mRNA Purification Kit (Pharmacia)のような、直接mRNAを調製するためのキットを利用してもよい。次に得られたmRNAから逆転写酵素を用いてcDNAを合成する。AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業)のようなcDNA合成のためのキットも市販されている。その他の方法として、cDNAはPCRを利用した5'-RACE法(Frohman et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 8998-9002; Belyavsky et al. (1989) Nucleic Acids Res. 17: 2919-32)により合成、及び増幅させてもよい。また、全長率の高いcDNAライブラリーを作製するために、オリゴキャップ法(Maruyama and Sugano (1994) Gene 138: 171-4; Suzuki (1997) Gene 200: 149-56)等の公知の手法を採用することもできる。上述のようにして得られたcDNAは、適当なベクター中に組み込むことができる。
本発明におけるハイブリダイゼーション条件としては、例えば「2×SSC、0.1%SDS、50℃」、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、「2×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」、「0.2×SSC、0.1%SDS、65℃」等の条件を挙げることができる。より詳細には、Rapid-hyb buffer(Amersham Life Science)を用いた方法として、68℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行った後、プローブを添加して1時間以上68℃に保ってハイブリッド形成させ、その後、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を3回、最後に、1×SSC、0.1%SDS中、50℃で20分の洗浄を2回行うことも考えられる。その他、例えばExpresshyb Hybridization Solution (CLONTECH)中、55℃で30分以上プレハイブリダイゼーションを行い、標識プローブを添加し、37〜55℃で1時間以上インキュベートし、2×SSC、0.1%SDS中、室温で20分の洗浄を3回、1×SSC、0.1%SDS中、37℃で20分の洗浄を1回行うこともできる。ここで、例えば、プレハイブリダイゼーション、ハイブリダイゼーションや2度目の洗浄の際の温度を上げることもできる。例えば、プレハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーションの温度を60℃、又は68℃とすることができる。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、Lrp4のアイソフォーム、アレリック変異体、及び対応する他種生物由来の遺伝子を得るための条件を設定することができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989);特にSection9.47-9.58) 、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987-1997);特にSection6.3-6.4)、『DNA Cloning 1: Core Techniques, A Practical Approach 2nd ed.』(Oxford University (1995);条件については特にSection2.10)等を参照することができる。ハイブリダイズするポリヌクレオチドとしては、配列番号:1または2の塩基を含む塩基配列に対して少なくとも50%以上、好ましくは70%、さらに好ましくは80%、より一層好ましくは90%(例えば、95%以上、さらには99%)の同一性を有する塩基配列を含むポリヌクレオチドが挙げられる。このような同一性は、上述の相同性の決定と同様にBLASTアルゴリズム(Altschul (1990) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-8; Karlin and Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-7)によって決定することができる。上述の塩基配列についてのプログラムBLASTNの他に、このアルゴリズムに基づいたアミノ酸配列についての同一性を決定するプログラムとしてBLASTX(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215: 403-10)等が開発されており、利用可能である。具体的な解析方法については先に挙げたように、http://www.ncbi.nlm.nih.gov.等を参照することができる。
その他、遺伝子増幅技術(PCR)(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987) Section 6.1-6.4)により、Lrp4のアイソフォームやアレリック変異体等、Lrp4と類似した構造及び機能を有する遺伝子を、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、ニワトリ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の動物のcDNAライブラリー及びゲノムライブラリーから、配列番号:1または2に記載の塩基配列を基に設計したプライマーを利用して得ることができる。
ポリヌクレオチドの塩基配列は、慣用の方法により配列決定して確認することができる。例えば、ジデオキシヌクレオチドチェーンターミネーション法(Sanger et al. (1977) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 74: 5463)等による確認が可能である。また、適当なDNAシークエンサーを利用して配列を解析することも可能である。
また、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブには、上記(1) 配列番号:1または2の塩基配列に相補的な配列、(2)配列番号:3または4記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な配列、(3)配列番号:3または4記載のアミノ酸配列において膜貫通領域部分を欠く配列をコードする塩基配列に相補的な配列、及び(4)配列番号:1または2の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列の各塩基配列中の少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドが含まれる。このような少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドは、Lrp4 mRNAの発現を検出するためのプローブ、増幅して検出を行うためのプライマーとして利用することができる。通常、プローブとして使用する場合には15〜100、好ましくは15〜35個の塩基より構成されていることが望ましく、プライマーとして使用する場合には、少なくとも15、好ましくは30個の塩基より構成されていることが望ましい。プライマーの場合には、3'末端側の領域を標的とする配列に対して相補的な配列に、5'末端側には制限酵素認識配列、タグ等を付加した形態に設計することができる。このような少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドは、Lrp4ポリヌクレオチドに対してハイブリダイズすることができる。
さらに、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブには、 (1) 配列番号:1または2に記載の塩基配列、(2)配列番号:3または4に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、(3)配列番号:3または4記載のアミノ酸配列において膜貫通領域部分を欠く配列からなるポリペプチドをコードするポリヌクレオチドからなる塩基配列、及び(4)配列番号:1または2に記載の塩基配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドからなる塩基配列、のいずれかに記載の塩基配列からなる第一のポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする第二のポリヌクレオチドが含まれる。第二のポリヌクレオチドは、好ましくは少なくとも連続した15塩基を含む塩基配列からなるポリヌクレオチドがあげられる。
本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、Lrp4を発現する細胞より上述のハイブリダイゼーション法、PCR法等により調製することができる。また、Lrp4の公知の配列情報に基づいて、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、化学合成により製造することもできる。特に組織中のRNAの検出に好ましいとされるリボプローブは、例えば、プラスミドベクターpSP64にクローニングしたLrp4遺伝子またはその一部を逆方向に挿入し、挿入した配列部分をランオフ転写することにより得ることができる。pSP64はSP6プロモーターを含むものであるが、その他、ファージT3、T7プロモーター及びRNAポリメラーゼを組合せてリボプローブを作成する方法も公知である。本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を識別するための試薬として用いてもよく、上記の試薬においては、有効成分であるポリヌクレオチド以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、安定剤、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
<抗体>
本発明により、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を脳組織、または培養細胞より選択するために利用することができる、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカー抗体(以下、「本発明の抗体」と称する場合がある)が提供される。Lrp4 mRNAと異なり、Lrp4ポリペプチドは、分裂停止前のドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞のみならず、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞にも発現していることから、該ポリペプチドに対する本発明の抗体を用いることにより、分裂停止前後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択および/または取得するために利用することができる。本発明の抗体にはポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、キメラ抗体、一本鎖抗体(scFV)(Huston et la. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 5879-83; The Pharmacology of Monoclonal Antibody, vol.113, Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag (1994) pp.269-315)、ヒト化抗体、多特異性抗体(LeDoussal et al. (1992) Int. J. Cancer Suppl. 7: 58-62; Paulus (1985) Behring Inst. Mitt. 78: 118-32; Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9; Zimmermann (1986) Rev. Physiol. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; Van Dijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)、並びに、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv等の抗体断片が含まれる。さらに、本発明の抗体は、必要に応じ、PEG等により修飾されていてもよい。その他、本発明の抗体は、β-ガラクトシダーゼ、マルトース結合蛋白質、GST、緑色蛍光蛋白質(GFP)等との融合蛋白質として製造することにより二次抗体を用いずに検出できるようにしてもよい。また、本発明の抗体は、ビオチン等により抗体を標識することによりアビジン、ストレプトアビジン等を用いて抗体の回収を行い得るように改変してもよい。
本発明の抗体は、(1)配列番号:1または2の塩基配列によりコードされるポリペプチド、(2)配列番号:3または4記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、(3)配列番号:3または4記載のアミノ酸配列において膜貫通領域を欠くアミノ酸配列からなるポリペプチド、(4)配列番号:3または4記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなるポリペプチド、(5) 配列番号:1または2の塩基配列に相補的な配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列によりコードされるポリペプチド、並びに(6)前記(1)〜(5)のポリペプチドの断片であり、少なくとも8アミノ酸残基を有するポリペプチドのいずれかに対して特異的な抗体である。
また、本発明の抗体は、次の(1)〜(4)のいずれかに記載のアミノ酸配列またはその一部配列からなるポリペプチドと結合する抗体であってもよい。(1)配列番号:3または4に記載のアミノ酸配列、(2)配列番号:3または4に記載のアミノ酸配列において膜貫通領域を欠くアミノ酸配列、(3)配列番号:3または4に記載のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加され、またはそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列、及び(4)配列番号:1または2に記載の塩基配列に相補的な配列からなるポリヌクレオチドに対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチドからなるアミノ酸配列。上記の一部配列からなるポリペプチドは、好ましくは少なくとも連続した6アミノ酸残基(例えば、8、10、12、または15アミノ酸残基以上)を有するポリペプチドがあげられる。
配列番号:3で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加され、またはそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列としては、例えば、(i) 配列番号:3で表されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii) 配列番号:3で表されるアミノ酸配列に1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii) 配列番号:3で表されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、(iv) 上記(i)〜(iii)の組合せにより変異されたアミノ酸配列があげられる。
配列番号:4で表されるアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、置換もしくは付加され、またはそれらの組合せにより変異されたアミノ酸配列としては、例えば、(i) 配列番号:4で表されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii) 配列番号:4で表されるアミノ酸配列に1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii) 配列番号:4で表されるアミノ酸配列中の1〜9個(例えば、1〜5個、好ましくは1〜3個、さらに好ましくは1〜2個、より好ましくは1個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、(iv) 上記(i)〜(iii)の組合せにより変異されたアミノ酸配列があげられる。
ここで、アミノ酸の欠失とは、配列中のアミノ酸残基の一つ以上が欠失した変異を意味し、欠失には、アミノ酸配列の端からアミノ酸残基が欠失したもの及びアミノ酸配列の途中のアミノ酸残基が欠失したものが含まれる。
ここで、アミノ酸の付加とは、配列中にアミノ酸残基の一つ以上が付加された変異を意味し、付加には、アミノ酸配列の端にアミノ酸残基が付加されたもの及びアミノ酸配列の途中にアミノ酸残基を付加されたものが含まれる。
ここで、アミノ酸の置換とは、配列中のアミノ酸残基の一つ以上が、異なる種類のアミノ酸残基に変えられた変異を意味する。このような置換によりアミノ酸配列を改変する場合、保存的な置換を行うことが好ましい。保存的な置換とは、置換前のアミノ酸と似た性質のアミノ酸をコードするように配列を変化させることである。アミノ酸の性質は、例えば、非極性アミノ酸(Ala, Ile, Leu, Met, Phe, Pro, Trp, Val)、非荷電性アミノ酸(Asn, Cys, Gln, Gly, Ser, Thr, Tyr)、酸性アミノ酸(Asp, Glu)、塩基性アミノ酸(Arg, His, Lys)、中性アミノ酸(Ala, Asn, Cys, Gln, Gly, Ile, Leu, Met, Phe, Pro, Ser, Thr, Trp, Tyr, Val)、脂肪族アミノ酸(Ala, Gly)、分枝アミノ酸(Ile, Leu, Val)、ヒドロキシアミノ酸(Ser, Thr)、アミド型アミノ酸(Gln, Asn)、含硫アミノ酸(Cys, Met)、芳香族アミノ酸(His, Phe, Trp, Tyr)、複素環式アミノ酸(His, Trp)、イミノ酸(Pro, 4Hyp)等に分類することができる。
従って、非極性アミノ酸同士、あるいは非荷電性アミノ酸同士で置換させることが好ましい。中でも、Ala、Val、Leu及びIleの間、Ser及びThrの間、Asp及びGluの間、Asn及びGlnの間、Lys及びArgの間、Phe及びTyrの間の置換は、タンパク質の性質を保持する置換として好ましい。変異されるアミノ酸の数及び部位は特に制限ない。
特に好ましい本発明の抗体として、実施例4において使用された2種の抗Lrp4抗体及びその断片を含む改変体を挙げることができる。該2種の抗体は、下記の各受託番号で国際寄託されている。
(1)寄託機関の名称・あて名
名称:独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センター
あて名:日本国茨城県つくば市東1丁目1番地1 中央第6(郵便番号305-8566)
(2)受託日:2004年7月14日
(3)受託番号:FERM BP-10315及びFERM BP-10316
(日本国において国内寄託されたFERM P-20120及びFERM P-20121より移管)
本発明の抗体は、Lrp4ポリペプチド若しくはその断片、またはそれらを発現する細胞を感作抗原として利用することにより製造することができる。また、Lrp4ポリペプチドの短い断片は、ウシ血清アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン、卵白アルブミン等のキャリアに結合した形で免疫原として用いてもよい。また、Lrp4のポリペプチドまたはその断片と共に、アルミニウムアジュバント、完全(または不完全)フロイントアジュバント、百日咳菌アジュバント等の公知のアジュバントを抗原に対する免疫応答を強化するために用いてもよい。
本発明における「Lrp4ポリペプチド」は、ペプチド重合体であり、配列番号:3または4記載のアミノ酸配列を有する蛋白質を好ましい例として挙げることができる。Lrp4ポリペプチドを構成するアミノ酸残基は天然に存在するものでも、また修飾されたものであっても良い。さらに、Lrp4ポリペプチドには膜貫通領域部分を欠く蛋白質、及びその他のペプチド配列により修飾された融合蛋白質が含まれる。
本発明において、Lrp4ポリペプチドは、Lrp4ポリペプチドの抗原性を有すればよく、配列番号:3または4のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を有するポリペプチドを包含する。1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列からなる変異ポリペプチドで、元のポリペプチドと同じ生物学的活性が維持されることは公知である(Mark et al. (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81: 5662-6; Zoller and Smith (1982) Nucleic Acids Res. 10: 6487-500; Wang et al. (1984) Science 224: 1431-3; Dalbadie-McFarland et al. (1982) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79: 6409-13)。そして、このような配列番号:3または4のアミノ酸配列において1若しくは複数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換または付加されたアミノ酸配列を有するLrp4の抗原性を維持したポリペプチドは、該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを公知の『Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.』(Cold Spring Harbor Press (1989))、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987-1997);特にSection8.1-8.5)、Hashimoto-Goto et al. (1995) Gene 152: 271-5、Kunkel (1985) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82: 488-92、Kramer and Fritz (1987) Method. Enzymol. 154: 350-67、Kunkel (1988) Method. Enzymol. 85: 2763-6等に記載の部位特異的変異誘発法等の方法に従って調製し、適宜発現させることにより得ることができる。また、上記の部位特異的変異誘発の他にも、遺伝子を変異源で処理する方法及び遺伝子を選択的に開裂し、次に選択されたヌクレオチドを除去、付加または置換し、次いで連結することもできる。
Lrp4ポリペプチド断片は、上記Lrp4ポリペプチドの一部と同一であり、好ましくは少なくとも連続した6アミノ酸残基以上(例えば、8、10、12、または15アミノ酸残基以上)からなるポリペプチド断片である。特に好ましい断片としては、アミノ末端、カルボキシル末端、膜貫通ドメインを欠失したポリペプチド断片を挙げることができる。αヘリックス及びαヘリックス形成領域、α両親媒性領域、βシート及びβシート形成領域、β両親媒性領域、基質結合領域、高抗原指数領域、コイル及びコイル形成領域、親水性領域、疎水性領域、ターン及びターン形成領域、並びに表面形成領域を含む断片がLrp4のポリペプチド断片に含まれる。本発明におけるLrp4のポリペプチド断片は、Lrp4ポリペプチドの抗原性さえ有すればどのような断片であってもよい。ポリペプチドの抗原決定部位は、蛋白質のアミノ酸配列上の疎水性/親水性を解析する方法(Kyte-Doolittle (1982) J. Mol. Biol. 157: 105-22)、二次構造を解析する方法(Chou-Fasman (1978) Ann. Rev. Biochem47: 251-76)により推定し、さらにコンピュータープログラム(Anal. Biochem. 151: 540-6 (1985))、または短いペプチドを合成しその抗原性を確認するPEPSCAN法(特表昭60-500684号公報)等により確認することができる。
Lrp4ポリペプチド、及びポリペプチド断片は、Lrp4を発現する細胞・組織等を原料として、その物理的性質等に基づいて単離することができる。また、公知の遺伝子組換え技術により、また化学的な合成法により製造することもできる。例えば、Lrp4ポリペプチドをin vitroで製造する場合、in vitroトランスレーション(Dasso and Jackson (1989) Nucleic Acids Res. 17: 3129-44)等の方法に従って、細胞を含まない試験管内の系でポリペプチドを製造することができる。それに対して、細胞を用いてポリペプチドを製造する場合、まず所望のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを適当なベクターに組み込み、適当な宿主細胞を選択し該ベクターによる形質転換を行い、形質転換された細胞を培養することにより所望のポリペプチドを得ることができる。
適当なベクターとして、プラスミド、コスミド、ウイルス、バクテリオファージ、クローニング用ベクター、発現ベクター等の種々のベクターを挙げることができる(Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989); Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987))。ベクターは、導入された宿主細胞内で所望のポリヌクレオチドが発現されるように制御配列を有し、ポリヌクレオチドは該制御配列下に結合される。ここで「制御配列」とは、宿主細胞が原核生物であればプロモーター、リボソーム結合部位、及びターミネーターを含み、真核生物の場合は、プロモーター及びターミネーターであり、場合によってトランスアクチベーター、転写因子、転写物を安定化するポリAシグナル、スプライシング及びポリアデニル化シグナル等が含まれる。このような制御配列は、それに連結されたポリヌクレオチドの発現に必要とされるすべての構成成分を含むものである。ベクターは、選択可能なマーカーを含んでいてもよい。さらに、細胞内で発現されたポリペプチドを小胞体内腔、グラム陰性菌を宿主とする場合ペリプラズム内、または細胞外へと移行させるために必要とされるシグナルペプチドを目的のポリペプチドに付加するようにして発現ベクターへ組み込むこともできる。このようなシグナルペプチドとして、異種蛋白質由来のシグナルペプチドを利用することができる。さらに、必要に応じリンカーの付加、開始コドン(ATG)、終止コドン(TAA、TAGまたはTGA)の挿入を行ってもよい。
in vitroにおけるポリペプチドの発現を可能にするベクターとしては、pBEST(Promega)を例示することができる。また、原核細胞宿主における発現に適した種々のベクターが公知であり(『微生物学基礎講座8 遺伝子工学』(共立出版)等参照)、原核細胞を宿主として選択した場合、当業者であれば選択した宿主に適したベクター、ベクターの宿主への導入方法を適宜選ぶことができる。その他、酵母等の真菌類、高等植物、昆虫、魚類、両生類、爬虫類、鳥類、哺乳類、種々の培養系細胞(COS、Hela、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowesメラノーマ細胞)、ミエローマ、Vero、Namalwa、Namalwa KJM-1、HBT5637(特開昭63-299号公報)等)もLrp4ポリペプチド及びその抗原性断片を発現させる宿主として利用することができ、各細胞に適したベクター系、ベクターの宿主細胞への導入手法も公知である。さらに、動物の生体内 (Susumu (1985) Nature 315: 592-4; Lubon (1998) Biotechnol. Annu. Rev. 4: 1-54等参照)、及び植物体において外来蛋白質を発現させる方法も公知でありLrp4ポリヌクレオチドを発現させるために利用することができる。
ベクターへのDNAの挿入は、制限酵素サイトを利用したリガーゼ反応により行うことができる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987) Section 11.4-11.11; Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed., Cold Spring Harbor Press (1989) Section 5.61-5.63)。また必要に応じ、使用する宿主のコドン使用頻度を考慮して、発現効率の高い塩基配列を選択し、Lrp4ポリペプチドコード発現ベクターを設計することができる(Grantham et al. (1981) Nucleic Acids Res. 9: r43-74)。Lrp4ポリペプチドを産生する宿主は、Lrp4ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを細胞内に含むものであるが、該ポリヌクレオチドは、宿主細胞のゲノム上の天然に存在する位置になければよく、該ポリヌクレオチド自身のプロモーター支配下にあっても、ゲノム中に組み込まれていても、染色体外の構造として保持されていても良い。
ベクターの宿主細胞への導入形質(転換(形質移入))は従来公知の方法を用いて行うことができる。
例えば、細菌(E.coli,Bacillus subtilis等)の場合は、例えばCohenらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69,2110(1972))、プロトプラスト法(Mol.Gen.Genet.,168,111(1979))やコンピテント法(J.Mol.Biol.,56,209(1971))によって、Saccharomyces cerevisiaeの場合は、例えばHinnenらの方法(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1927(1978))やリチウム法(J.Bacteriol.,153,163(1983))によって、植物細胞の場合は、例えばリーフディスク法(Science,227, 129 (1985))、エレクトロポレーション法(Nature, 319, 791 (1986))、アグロバクテリウム法(Horsch et al., Science, 227, 129(1985)、Hiei et al., Plant J., 6, 271-282(1994))によって、動物細胞の場合は、例えばGrahamの方法(Virology,52,456(1973))、昆虫細胞の場合は、例えばSummersらの方法(Mol.Cell.Biol.,3,2156-2165(1983))によってそれぞれ形質転換することができる。
宿主細胞の培養は、選択した細胞に適した公知の方法により行う。例えば、動物細胞を選択した場合には、DMEM(Virology 8: 396 (1959)、MEM(Science 122: 501 (1952))、RPMI1640(J. Am. Med. Assoc. 199: 519 (1967))、199(Proc. Soc. Biol. Med. 73: 1 (1950))、IMDM等の培地を用い、必要に応じウシ胎児血清(FCS)等の血清を添加し、pH約6〜8、30〜40℃において15〜200時間前後の培養を行うことができる。その他、必要に応じ途中で培地の交換を行ったり、通気及び攪拌を行ったりすることができる。
通常、遺伝子組換え技術により製造されたLrp4ポリペプチドは、まず、ポリペプチドが細胞外に分泌される場合には培地を、特にトランスジェニック生物の場合には体液等を、細胞内に産生される場合には細胞を溶解して溶解物の回収を行うことができる。そして、蛋白質の精製方法として公知の塩析、蒸留、各種クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、ゲル濾過、限外濾過、再結晶、酸抽出、透析、免疫沈降、溶媒沈澱、溶媒抽出、硫安またはエタノール沈澱等を適宜組合せることにより所望のポリペプチドを精製することができる。クロマトグラフィーとしては、アニオンまたはカチオン交換等のイオン交換、アフィニティー、逆相、吸着、ゲル濾過、疎水性、ヒドロキシアパタイト、ホスホセルロース、レクチンクロマトグラフィー等が公知である(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual, Marshak et al. ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press (1996))。HPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。また、例えば、GSTとの融合蛋白質とした場合にはグルタチオンカラムを、ヒスチジンタグを付加した融合蛋白質とした場合にはニッケルカラムを用いた精製法も利用できる。Lrp4ポリペプチドを融合蛋白質として製造した場合には、必要に応じて精製後にトロンビンまたはファクターXa等を使用して不要な部分を切断することもできる。
また、天然由来のポリペプチドを精製して取得してもよい。例えば、Lrp4ポリペプチドに対する抗体を利用して、アフィニティークロマトグラフィーにより精製することもできる(Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley & Sons (1987) Section 16.1-16.19)。さらに、精製したポリペプチドを必要に応じキモトリプシン、グルコシダーゼ、トリプシン、プロテインキナーゼ、リシルエンドペプチダーゼ等の酵素を用いて修飾することも可能である。一方、Lrp4のポリペプチド断片は、上述のLrp4ポリペプチドと同じような合成及び遺伝子工学的な手法に加えて、ペプチダーゼのような適当な酵素を用いてLrp4ポリペプチドを切断して製造することもできる。
ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択するためのポリクローナル抗体は、例えば、上述のようにして精製されたLrp4のポリペプチドまたはその断片を所望によりアジュバントと共に哺乳動物に免疫し、免疫した動物より血清を得ることができる。ここで用いる哺乳動物は、特に限定されないが、ゲッ歯目、ウサギ目、霊長目の動物が一般的である。マウス、ラット、ハムスター等のゲッ歯目、ウサギ等のウサギ目、カニクイザル、アカゲザル、マントヒヒ、チンパンジー等のサル等の霊長目の動物が挙げられる。動物の免疫化は、感作抗原をPhosphate-Buffered Saline(PBS)または生理食塩水等で適宜希釈、懸濁し、必要に応じアジュバントを混合して乳化した後、動物の腹腔内または皮下に注射して行われる。その後、好ましくは、フロイント不完全アジュバントに混合した感作抗原を4〜21日毎に数回投与する。抗体の産生は、血清中の所望の抗体レベルを慣用の方法により測定することにより確認することができる。最終的に、血清そのものをポリクローナル抗体として用いても良いし、さらに精製して用いてもよい。具体的な方法として、例えば、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987) Section 11.12-11.13)を参照することができる。
また、モノクローナル抗体を産生するためには、まず、上述のようにして免疫化した動物より脾臓を摘出し、該脾臓より免疫細胞を分離し、適当なミエローマ細胞とポリエチレングリコール(PEG)等を用いて融合してハイブリドーマを作成することができる。細胞の融合は、Milsteinの方法(Galfre and Milstein (1981) Methods Enzymol. 73: 3-46)に準じて行うことができる。ここで、適当なミエローマ細胞として特に、融合細胞を薬剤により選択することを可能にする細胞を挙げられる。このようなミエローマを用いた場合、融合されたハイブリドーマは、融合された細胞以外は死滅するヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含む培養液(HAT培養液)で培養して選択することができる。次に、作成されたハイブリドーマの中から、本発明のポリペプチドまたはその断片に対して結合する抗体を産生するクローンを選択することができる。その後、選択したクローンをマウス等の腹腔内に移植し、腹水を回収してモノクローナル抗体を得ることができる。また、具体的な方法として、『Current Protocols in Molecular Biology』(John Wiley & Sons (1987) Section 11.4-11.11)を参照することもできる。本発明のハイブリドーマとしては、好ましくはFERM BP-10315またはFERM BP-10316を挙げることができる。
ハイブリドーマは、その他、最初にEBウイルスに感染させたヒトリンパ球をin vitroで免疫原を用いて感作し、感作リンパ球をヒト由来のミエローマ細胞(U266等)と融合し、ヒト抗体を産生するハイブリドーマを得る方法(特開昭63-17688号公報)によっても得ることができる。また、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物を感作して製造した抗体産生細胞を用いても、ヒト抗体を得ることができる(WO92/03918; WO93-02227; WO94/02602; WO94/25585; WO96/33735; WO96/34096; Mendez et al. (1997) Nat. Genet. 15: 146-56等)。ハイブリドーマを用いない例としては、抗体を産生するリンパ球等の免疫細胞に癌遺伝子を導入して不死化する方法が挙げられる。
また、本発明の抗体は、遺伝子組換え技術により製造することもできる(Borrebaeck and Larrick (1990) Therapeutic Monoclonal Antibodies, MacMillan Publishers LTD., UK参照)。そのためには、まず、抗体をコードする遺伝子をハイブリドーマまたは抗体産生細胞(感作リンパ球等)からクローニングする。得られた遺伝子を適当なベクターに組み込み、宿主に該ベクターを導入し、宿主を培養することにより抗体を産生させることができる。このような組換え型の抗体も本発明の抗体に含まれる。代表的な組換え型の抗体として、非ヒト抗体由来可変領域及びヒト抗体由来定常領域とからなるキメラ抗体、並びに非ヒト抗体由来相補性決定領域(CDR)、及び、ヒト抗体由来フレームワーク領域(FR)及び定常領域とからなるヒト化抗体が挙げられる(Jones et al. (1986) Nature 321: 522-5; Reichmann et al. (1988) Nature 332: 323-9; Presta (1992) Curr. Op. Struct. Biol. 2: 593-6; Methods Enzymol. 203: 99-121 (1991))。
抗体断片は、上述のポリクローナルまたはモノクローナル抗体をパパイン、ペプシン等の酵素で処理することにより製造することができる。または、抗体断片をコードする遺伝子を用いて遺伝子工学的に製造することも可能である(Co et al., (1994) J. Immunol. 152: 2968-76; Better and Horwitz (1989) Methods Enzymol. 178: 476-96; Pluckthun and Skerra (1989) Methods Enzymol. 178: 497-515; Lamoyi (1986) Methods Enzymol. 121: 652-63; Rousseaux et al. (1986) 121: 663-9; Bird and Walker (1991) Trends Biotechnol. 9: 132-7参照)。
多特異性抗体には、二特異性抗体(BsAb)、ダイアボディ(Db)等が含まれる。多特異性抗体は、(1)異なる特異性の抗体を異種二機能性リンカーにより化学的にカップリングする方法(Paulus (1985) Behring Inst. Mill. 78: 118-32)、(2)異なるモノクローナル抗体を分泌するハイブリドーマを融合する方法(Millstein and Cuello (1983) Nature 305: 537-9)、(3)異なるモノクローナル抗体の軽鎖及び重鎖遺伝子(4種のDNA)によりマウス骨髄腫細胞等の真核細胞発現系をトランスフェクションした後、二特異性の一価部分を単離する方法(Zimmermann (1986) Rev. Physio. Biochem. Pharmacol. 105: 176-260; Van Dijk et al. (1989) Int. J. Cancer 43: 944-9)等により作製することができる。一方、Dbは遺伝子融合により構築され得る二価の2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーの抗体断片であり、公知の手法により作製することができる(Holliger et al. (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 6444-8; EP404097; WO93/11161参照)。
抗体及び抗体断片の回収及び精製は、プロテインA及びGを用いて行うほか、抗体以外のポリペプチドの製造の場合と同様に上記した蛋白質精製技術によっても行うことができる(Antibodies: A Laboratory Manual, Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988))。例えば、本発明の抗体の精製にプロテインAを利用する場合、Hyper D、POROS、Sepharose F.F.(Pharmacia)等のプロテインAカラムを使用することができる。得られた抗体の濃度は、その吸光度を測定することにより、または酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)等により決定することができる。
抗体の抗原結合活性は、吸光度測定、蛍光抗体法、酵素免疫測定法(EIA)、放射免疫測定法(RIA)、ELISA等により測定することができる。例えば、ELISA法により測定する場合、本発明の抗体をプレート等の担体に固相化し、次いでLrp4ポリペプチドを添加した後、目的とする抗体を含む試料を添加する。ここで、抗体を含む試料としては、抗体産生細胞の培養上清、精製抗体等が考えられる。続いて、本発明の抗体を認識する二次抗体を添加し、プレートのインキュベーションを行う。その後、プレートを洗浄し、二次抗体に付加された標識を検出する。即ち、二次抗体がアルカリホスファターゼで標識されている場合には、p-ニトロフェニルリン酸等の酵素基質を添加して吸光度を測定することで、抗原結合活性を測定することができる。また、抗体の活性評価に、BIAcore(Pharmacia)等の市販の系を使用することもできる。
本発明は、抗Lrp4抗体を有効成分とする、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を識別するための試薬に関する。上記の試薬においては、有効成分である本発明の抗体以外に、例えば、滅菌水、生理食塩水、植物油、界面活性剤、脂質、溶解補助剤、緩衝剤、タンパク質安定剤(BSAやゼラチンなど)、保存剤等が必要に応じて混合されていてもよい。
<ドーパミン産生ニューロン前駆細胞の選択方法等>
本発明により、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を選択的に均一な集団として選択する方法が提供された。ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞は、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブを用いることにより選択することができる。また、本発明により、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択的に均一な集団として選択される方法が提供された。ドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、本発明の抗体を用いて好適に選択することができる。このように本発明のポリヌクレオチドプローブまたは抗体を用いることにより、最終的にドーパミンを産生するニューロンへと分化するドーパミン産生ニューロン系列の細胞が特異的に選択される。
ここで、「選択」という用語は、或る試料中のマーカーを発現する細胞の存在を検出すること、及び、存在を検出しさらに分離または単離することの両方を含むものである。本発明は、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブとドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を含む細胞試料とを接触させる工程を含むドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を選択する方法を提供するものである。該方法においては、マーカーポリヌクレオチドプローブを好ましくは放射性同位体または非放射性化合物で標識しておく。例えば、標識するための放射性同位体としては、35S、3H等を挙げることができる。放射標識したマーカーポリヌクレオチドプローブを用いた場合、エマルションオートラジオグラフィーにより銀粒子を検出することによりマーカーと結合するRNAを検出することができる。また、マーカーポリヌクレオチドプローブ標識のための非放射性同位体としては、ビオチン、ジゴキシゲニン等が例示される。ビオチン標識マーカーの検出は、例えば、蛍光、または、アルカリ性ホスファターゼ若しくは西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を標識したアビジンを用いて行うことができる。一方、ジゴキシゲニン標識マーカーの検出には、例えば、蛍光、または、アルカリ性ホスファターゼ若しくは西洋ワサビペルオキシダーゼ等の酵素を標識した抗ジゴキシゲニン抗体を使用することができる。酵素標識を使用する場合には、酵素の基質と共にインキュベートし、安定な色素をマーカー位置に沈着させることで検出を行うことができる。特に蛍光を利用した、in situハイブリッド形成法(FISH)が簡便であり、特に好ましいものである。
また、本発明により、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択するための抗体およびドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞試料とを接触させる工程を含む、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択する方法が提供される。即ち、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含むことが予測される細胞試料と本発明の抗体とを接触させ、抗体に結合する細胞を選択することでドーパミン産生ニューロン前駆細胞を取得できる(図13参照)。細胞試料との接触前に、本発明の抗体を適当な担体に固定化して用いることも可能である。また、細胞試料と本発明の抗体とを接触させ、結合させた後、抗体のアフィニティーによる精製を行うことで、該抗体と結合した細胞を選択的に回収することもできる。例えば、本発明の抗体がビオチンと結合されている場合には、アビジンやストレプトアビジンを結合したプレートやカラムに対して添加することにより精製を行うことができる。その他、例えば、磁性粒子を抗体に結合し、該抗体及び抗体に結合したLrp4を細胞表面上に発現している細胞を、磁石を利用して回収することもできる。また、セルソーター、及び蛍光等により標識した抗Lrp4抗体を使用して、フローサイトメトリーによりLrp4を発現するドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択することもできる。
このようにして得られたドーパミン産生ニューロン前駆細胞集団は、例えば、40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは60%以上、特に好ましくは70%以上のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含有する細胞集団である。
本発明により、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を使用して選択されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を培養することにより、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択および/または製造する方法が提供される。また、本発明により、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体とドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞試料とを接触させ、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択し、前記選択された細胞を培養することにより、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択および/または製造する方法が提供される。
さらに、本発明により、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を使用して選択されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を培養し、さらに分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカーを用いて選択および/またはスクリーニングすることにより、腫瘍化する危険性の低い移植治療に特に適した分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を得ることもできる。分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカーとしては、例えば、65B13、Nurr1、TH等を挙げることができる(WO2004/038018; Kawasaki et al. (2000) Neuron 28: 31-40; Wallen et al. (1999) Exp. Cell Res. 253: 737-46)。例えば、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体とドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞試料とを接触させ、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択し、さらに必要に応じて培養したドーパミン産生ニューロン前駆細胞と65B13ポリペプチドに対する抗体とを接触させて65B13ポリペプチドを発現している細胞を選択することにより、分裂停止直後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択および/または製造することができる。
本発明により、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を使用して選択されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を培養することにより、ドーパミン産生ニューロンを選択および/または製造する方法が提供される。また、本発明により、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体とドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞試料とを接触させ、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択し、前記選択された細胞を培養することにより、ドーパミン産生ニューロンを選択および/または製造する方法が提供される。
また、本発明により、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を使用して選択されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を培養し、さらにドーパミン産生ニューロンマーカーを用いて選択および/またはスクリーニングすることにより、腫瘍化する危険性の低い移植治療に特に適したドーパミン産生ニューロンを得ることもできる。ドーパミン産生ニューロンマーカーとしては、例えば、DAT等を挙げることができる(Development. 2004. 131(5):1145-55.)。例えば、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体とドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞試料とを接触させ、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択し、さらに培養したドーパミン産生ニューロン前駆細胞と、DATに対する抗体とを接触させて、DATを発現している細胞を選択することにより、ドーパミン産生ニューロンを選択および/または製造することができる。
本発明により、本発明の抗体を使用して選択されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を培養し若しくは培養無しで、さらに分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を除去することにより、培養増殖可能なドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を選択および/または製造する方法が提供される。また、本発明により、本発明の抗体とドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞試料とを接触させ、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択し、前記選択された細胞を培養し若しくは培養無しで、さらに分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を除去することにより、培養増殖可能なドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を選択および/または製造する方法が提供される。
分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞の除去は、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカーを用いて選択および/または除去することにより、培養増殖可能なドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を得ることもできる。分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカーとしては、例えば65B13、Nurr1、TH等を挙げることができる(WO2004/038018; Kawasaki et al. (2000) Neuron 28: 31-40; Wallen et al. (1999) Exp. Cell Res. 253: 737-46)。例えば、本発明の抗体とドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞試料とを接触させ、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を選択し、さらに必要に応じて培養したドーパミン産生ニューロン前駆細胞と65B13ポリペプチドに対する抗体とを接触させて65B13ポリペプチドを発現していない細胞を選択することにより、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を選択および/または製造することができる。
Lrp4発現ドーパミン産生ニューロン前駆細胞の選択及び/またはスクリーニングは、Lrp4に対するプロモーターを利用して行うこともできる(例えば、特開2002-51775号公報参照)。例えば、後述するLrp4の発現制御領域解析により得られるプロモーター部分に対し、GFP等の検出可能なマーカーをコードする遺伝子を連結した構築物を含むベクターを細胞に対してトランスフェクションすることができる。その他、Lrp4遺伝子座へマーカーをコードする遺伝子をノックインすることができる。どちらの場合にも、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞特異的にマーカー遺伝子の発現が検出されることとなり、特異的な細胞の選択が可能となる。
ここで、使用する細胞試料は、好ましくは中脳腹側領域の細胞、またはin vitroで分化誘導されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む培養細胞である。in vitroにおけるドーパミン産生ニューロンの分化誘導は、公知のES細胞、骨髄間質細胞、神経由来の不死化セルライン(特表平8-509215号公報;特表平11-506930号公報;特表2002-522070号公報)、ニューロン始原細胞(特表平11-509729号公報)等の細胞を出発材料として、公知の方法により行うことができる。通常、ドーパミン産生ニューロンは、脳のドーパミン産生ニューロン領域から得た組織を神経組織由来の支持細胞層と共培養することにより分化させることができる。さらに、線条体及び皮質等の通常非ドーパミン産生神経組織からドーパミン産生ニューロンを誘導する方法も知られている(特表平10-509319号公報)。また、低酸素条件下での培養により、より多くドーパミン産生ニューロンを含む細胞が得られるとの報告もある(特表2002-530068号公報)。また、5-stage法(Lee et. al. (2000) Nat.Biotech. 18: 675-679、mouse dopaminergic neuron differentiation kit (R&D Systems))によりES細胞(CCE)よりドーパミン産生ニューロンへの分化誘導を行ってもよい。本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞の選択に用いる細胞試料は、これらを含む如何なる方法により分離または培養された細胞群であってもよい。
また、本発明の抗体を固定する担体は、細胞に対して無害なものであることが好ましい。担体は、例えば、合成または天然の有機高分子化合物、ガラスビーズ、シリカゲル、アルミナ、活性炭等の無機材料、及びこれらの表面に多糖類、合成高分子等をコーティングしたものがあげられる。担体の形状は、特に制限はなく、膜状、繊維状、顆粒状、中空糸状、不織布状、多孔形状、ハニカム形状等が挙げられ、その厚さ、表面積、太さ、長さ、形状、大きさを種々変えることにより接触面積を制御することができる。
<ドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む神経変性疾患を治療するためのキットおよびドーパミン産生ニューロン前駆細胞を用いた神経変性疾患の治療方法>
ポリヌクレオチドプローブを用いLrp4 mRNAの発現を指標として獲得された細胞は、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞であり、抗体を用いLrp4ポリペプチドの発現を指標として獲得された細胞は、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞であり、mRNAまたはポリペプチドのどちらを指標とした場合であっても、ドーパミン産生ニューロン系列の細胞集団が得られる。本発明の方法により取得された前駆細胞は、従来の雑多な細胞集団または外来遺伝子を導入したドーパミン産生ニューロンと比べて、安全性、生存率、ネットワーク形成能の面で姿勢反射、運動、及び報酬関連行動(reward-associated behaviors)に関わる疾患、特に、パーキンソン病等の神経変性疾患、精神分裂病、及び薬物嗜癖(Hynes et al. (1995) Cell 80: 95-101)の移植治療に好ましいものである。Lrp4の発現を指標として獲得された細胞は、そのまま、またはin vitroで増殖させた後に移植に使用することができる(図13)。このような細胞は、脳内の最適な場所で分化成熟していく可能性があることから治療効果が期待される。すなわち、本発明は、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を使用して選択ならびに/または製造されたドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞および/もしくはドーパミン産生ニューロンを含む、神経変性疾患を治療するためのキット(以下、「本発明のキット」と称する場合がある)ならびに、該細胞を患者の脳内に移植することを特徴とする、神経変性疾患の治療方法をも提供する。さらに、神経変性疾患を治療するためのキットを製造するための本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブまたは抗体を使用して選択ならびに/または製造されたドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞および/もしくはドーパミン産生ニューロンの使用も提供する。本発明において神経変性疾患は、好ましくはパーキンソン病が挙げられる。本発明のキットは、細胞以外に薬学的に許容される担体を含んでいてもよい。担体としては、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液、培養液、血清、生体液、カルボキシメチルセルロース液、細胞の足場となる固体(例えば、cytodex3 (Amersham Bioscience, 17-0485-01)等)、細胞外基質成分(例えば、コラーゲン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、ヘパラン硫酸、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン、エラスチンまたはこれら2種以上の組み合わせ等)またはゲル状の支持体などがあげられる。また、本発明のキットは、pH調製剤、緩衝剤、安定化剤、保存剤等を添加することができる。本発明のキットは、一回接種用でも複数回接種用でも良い。また、投与量は、接種されるヒトまたは動物の体重、年齢、投与方法などにより適宜選択することが可能である。
Lrp4の発現を指標として選択されるドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、in vivoにおいてさらに増殖する可能性があることから、より長期的な治療効果が期待される。さらに、Lrp4の発現を指標とて選択されるドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、in vitroにおいて培地等の条件を選択することにより適当な段階まで分化させることも可能であり、種々の神経移植治療の材料としても好ましいものである。例えば、前述したように、Lrp4の発現を指標として選択されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞について、さらに細胞分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカー(例えば、65B13、Nurr1、TH等)を指標とした選択を行うことにより、より移植の上では安全性の高い細胞を得ることもできる。本発明は、上記の前駆細胞をin vitroで培養し、分化増殖させる方法に関する。培養を行うドーパミン産生ニューロン前駆細胞は分裂停止後の前駆細胞であってもよい。
本発明の方法により得られたドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、例えば、1×102〜1×108個の細胞、好ましくは1×103〜1×106個の細胞、より好ましくは5〜6×104個の細胞を移植することができる。第1の方法としては、細胞の懸濁液を脳に移植する定位脳固定術(stereotaxic surgery)が挙げられる。また、ミクロ手術(microsurgery) により細胞を移植しても良い。ニューロン組織の移植方法については、Backlund等(Backlund et al. (1985) J. Neurosurg. 62: 169-73)、Lindvall等(Lindvall et al. (1987) Ann. Neurol. 22: 457-68)、Madrazo等(Madrazo et al. (1987) New Engl. J. Med. 316: 831-4)の方法を参照することができる。
さらに、本発明の細胞は、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞特異的遺伝子及び増殖前駆細胞からドーパミン産生ニューロンへの各成熟段階に特異的な遺伝子の単離、パーキンソン病治療のターゲット探索、ドーパミン産生ニューロンの成熟過程の解明、並びに成熟を指標としたスクリーニング等にも利用することができる。
<遺伝子発現レベルの比較>
本発明のポリヌクレオチドプローブまたは抗体を用いて得られるドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、該細胞において特異的に発現している遺伝子を単離する材料として使用することができる。さらに、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を分化、誘導、または増殖させた細胞に特異的に発現している遺伝子を調べ、単離することもできる。また、分化/誘導/増殖させた細胞と元の該前駆細胞とにおいて発現レベルに差違のある遺伝子を調べることによりドーパミン産生ニューロンの生体内における分化に必要とされる遺伝子を調べることもできる。このような遺伝子はドーパミン産生ニューロンにおける何等かの欠陥が病因となっている疾病の治療対象候補となり得るので、当該遺伝子を決定し、単離することは非常に有用である。
本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞と該前駆細胞から分化/誘導/増殖された細胞若しくはその他の細胞、または該分化/誘導/増殖された細胞とその他の細胞との間での遺伝子の発現レベルの比較は、慣用の細胞in situハイブリダイゼーション、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、RNAドットブロットハイブリダイゼーション、逆転写PCR、RNase保護アッセイ、DNAマイクロアレイハイブリダイゼーション、遺伝子発現の連続解析(SAGE;serial analysis of gene expression)(Velculescu et al. (1995) Science 270: 484-7)、差し引きハイブリダイゼーション(subtractive hybridization)、代表差違分析(representation difference analysis; RDA)(Lisitsyn (1995) Trends Genet. 11: 303-7)等により行うことができる。
細胞in situハイブリダイゼーションでは、特定のRNA配列に特異的な標識プローブを用い細胞から調製した総RNAまたはpolyA+RNAに対してハイブリダイゼーションを行うことにより、個々の細胞におけるRNAのプロセッシング、輸送、細胞質への局在化が起こる場所等を調べることができる。また、RNAの大きさをゲル電気泳動等によりサイズ分画して決定することもできる。また、定量的な蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)及びデジタル画像顕微鏡を用いれば、RNA転写産物をin situで視覚的に捉えることも可能であり(Femino et al. (1998) Science 280: 585-90)、本発明において利用することができる。
遺伝子発現の解析で逆転写PCRを用いた場合、特定遺伝子の発現を大まかに定量することができる。本方法では、1つのRNA転写産物の種々のアイソフォームを検出及び解析することも可能である。逆転写PCRにおいてはまず、エキソン特異性プライマーを用いた逆転写PCRを行い、予想された産物以外の増幅産物が検出された場合、それらを解析することにより選択的スプライシングにより生じるmRNAアイソフォームを同定することが可能である。例えば、Pykett et al. (1994) Hum. Mol. Genet. 3: 559-64等に記載の方法を参照することができる。特に大まかな発現パターンを迅速に解析することが求められる場合、本発明のPCRを利用した本方法は、その速さ、感度の高さ、簡便さの点からも望ましいものである。
DNAチップを使用することにより、遺伝子発現スクリーニングの能率を向上させることができる。ここで、DNAチップとは、ガラス等の担体表面上にオリゴヌクレオチドまたはDNAクローン等を高密度に固定した小型のアレイである。例えば、多重発現スクリーニングを行うためには、各目的遺伝子に対するcDNAクローンまたは該遺伝子特異的なオリゴヌクレオチドをチップに対して固定化し、マイクロアレイを作製する。次に本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞、または該前駆細胞より分化/誘導/増殖された細胞よりRNAを調製し、逆転写酵素処理を行い、cDNAを得る。次に、得られたcDNA試料を蛍光タグ等のタグにより標識し、マイクロアレイに対するハイブリダイゼーションを行う。その結果、総標識cDNA中、細胞内で活発に発現している遺伝子の割合が高くなり、あまり発現されていない遺伝子の割合は低くなる。即ち、標識cDNAとチップ上のcDNAクローンまたはオリゴヌクレオチドとのハイブリッド形成を表す蛍光シグナルの強度は、標識cDNA内での各配列の発現の度合いを示すことなり、遺伝子発現の定量を可能成らしめる。
また、縮重PCRプライマーを用いた逆転写PCRを行うmRNAディファレンシャルディスプレイにより、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞、または該前駆細胞から分化/誘導/増殖された細胞について多数の遺伝子の発現を同時に解析することもできる。まず、特定のmRNAのpolyA尾部に3'末端の1または2つの塩基を変更した修飾オリゴdTプライマーを準備し、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞または該前駆細胞から分化/増殖された細胞、及び、発現を比較する対照細胞から単離した総RNAに対して逆転写酵素反応を行う(Liang et al. (1993) Nucleic Acids Res. 21: 3269-75)。変更した塩基が「G」であれば、polyA尾部の直前にCを持つmRNAを選択的に増幅することができ、また「CA」であれば、TGを直前に持つmRNAを増幅することができる。次に、第2のプライマーとして、10塩基程度の長さの任意の配列を有するものを用意し、修飾オリゴdTプライマー及び第2のプライマーを使用してPCR増幅反応を行う。増幅産物を泳動距離の長いポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、サイズ分画する。このような方法により、本発明の細胞と対照細胞とで各細胞に特異的に発現しているmRNA由来のcDNAは、一方の試料を泳動した場合にのみ検出されるバンドとして検出することができる。この方法では、同定されていない遺伝子の発現についても解析することができる。
SAGE分析は、多数の転写産物の発現を同時に検出することができ、また検出に特殊な装置を必要としない点で好ましい分析方法の一つである。まず、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞または該前駆細胞から分化/誘導/増殖された細胞よりpolyA+RNAを慣用の方法により抽出する。次に、ビオチン化オリゴdTプライマーを用い、前記RNAをcDNAに変換し、4塩基認識制限酵素(アンカー用酵素;AE)で処理する。これにより、AE処理断片はその3'末端にビオチン基を含んだ形となる。次に、AE処理断片をストレプトアビジンに結合させる、結合されたcDNAを2画分に分け、それぞれの画分を別々の2本鎖オリゴヌクレオチドアダプター(リンカー)A及びBに連結する。このリンカーは、(1)アンカー用酵素の作用で生じる突出部の配列と相補的な配列を有する1本鎖突出部、(2)タグ用酵素(tagging enzyme;TE)となるIIS型制限酵素(認識部位より20bp以下の離れた定位置の切断を行う)の5'塩基認識配列、及び(3)PCR用特異的プライマーを構成するのに十分な追加配列より構成される。ここで、リンカーを連結したcDNAをタグ用酵素で切断することにより、リンカー結合型の状態でcDNA配列部分のみが短鎖配列タグとなる。次に、リンカーの異なる2種類のプールを互いに連結し、リンカーA及びBに特異的プライマーを使用してPCR増幅する。その結果、増幅産物はリンカーA及びBに結合した2つの隣接配列タグ(ダイタグ;ditag)を含む多様な配列の混在物として得られる。そこで、増幅産物をアンカー用酵素により処理し、遊離したダイタグ部分を通常の連結反応により鎖状に連結し、クローニングを行う。クローニングにより得られたクローンの塩基配列を決定することにより、一定長の連続ダイタグの読み出しを得ることができる。このようにしてクローンの塩基配列を決定し、配列タグの情報が得られれば、それぞれのタグに該当するmRNAの存在を同定することができる。
差し引きハイブリダイゼーションは、種々の組織または細胞間で発現の差違のある遺伝子のクローニングによく用いられる方法であるが、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞、または該前駆細胞から分化/誘導/増殖された細胞において特異的に発現している遺伝子をクローニングするのにも使用することができる。まず、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞のうち試験する細胞のDNA試料を調製する(以下、テストDNAと呼ぶ)。次に、比較する細胞のDNA(以下、ドライバーDNAと呼ぶ)を調製する。テストDNAとドライバーDNAとを逆に用いることもできる。いずれにせよ、テストDNAに存在し、ドライバーDNAに存在しない遺伝子の存在が検出される。次に、調製したテストDNA及び大過剰量のドライバーDNAを混合し、変性させ一本鎖DNAとした後にアニーリングさせる。アニーリング条件を調節することにより、ドライバーDNA中には存在しない特異的な配列をテストDNA由来のDNAのみからなる二本鎖DNAとして単離することができる。より詳細な方法については、Swaroop et al. (1991) Nucleic Acids Res. 19: 1954及び Yasunaga et al. (1999) Nature Genet. 21: 363-9等を参照することができる。
RDA法は、PCRを利用した、ドライバーDNAに存在しないテストDNA中の配列を選択的に増幅することを可能とする方法であり、上述のその他の方法と同様に本発明において用いることができる。より詳細な手順については、Lisitsyn (1995) Trends Genet. 11: 303-7及びSchutte et al. (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 92: 5950-4を参照することができる。
以上のようにして検出、単離されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞、または該前駆細胞を分化、誘導、または増殖させた細胞に特異的な遺伝子を上述の各種公知の方法によりベクター等に挿入し、配列決定、発現解析を行うこともできる。
<ドーパミン産生ニューロン前駆細胞の成熟を指標としたスクリーニング>
本発明により、本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞に対し、被験物質を接触させる工程、及び接触による該前駆細胞の分化または増殖を検出する工程を含む、スクリーニング方法が提供される。本方法によりスクリーニングされる化合物は、ドーパミン産生ニューロンの分化、増殖等を調節する機能を示すことから、ドーパミン産生ニューロンにおける何等かの欠陥が病因となっている疾病の治療対象候補となり、有用と考えられる。本発明のドーパミン産生ニューロン前駆細胞としては、本発明のポリヌクレオチドプローブまたは抗体を用いて選択される細胞、及び、これらの細胞を増殖および/または分化誘導して得られる細胞が挙げられる。
ここで、「被験物質」とはどのような化合物であってもよいが、例えば、遺伝子ライブラリーの発現産物、合成低分子化合物ライブラリー、合成ペプチドライブラリー、抗体、細菌放出物質、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)抽出液、細胞(微生物、植物細胞、動物細胞)培養上清、精製または部分精製ポリペプチド、海洋生物、植物または動物等由来の抽出物、土壌、ランダムファージペプチドディスプレイライブラリーが挙げられる。
細胞の分化や増殖は、被験物質と接触させない場合における細胞の状態と比較することにより検出することができる。細胞の分化や増殖は、顕微鏡下において形態学的な観察を行うことができ、また、細胞で産生されるドーパミン等の物質を検出、定量して検出して行うことができる。
<Lrp4の発現制御領域解析>
Lrp4の発現制御領域は、Lrp4の遺伝子配列を利用してゲノムDNAから公知の方法によってクローニングすることができる。例えば、S1マッピング法のような転写開始点の特定方法(細胞工学 別冊8 新細胞工学実験プロトコール, 東京大学医科学研究所制癌研究部編, 秀潤社 (1993) pp.362-374)が公知であり、利用できる。一般に、遺伝子の発現制御領域は、遺伝子の5'末端の15〜100bp、好ましくは30〜50bpをプローブDNAとして利用して、ゲノムDNAライブラリーをスクリーニングすることによりクローニングすることができる(本発明においては、配列番号:1または2の塩基全部またはその1部)。このようにして得られるクローンは、10kbp以上の5'非翻訳領域を含むものであるので、次にエキソヌクレアーゼ等により処理し短縮化または断片化する。最後に、短縮された発現制御領域の候補を含む配列部分をレポーター遺伝子を利用して、その発現の有無、強さ、制御等について評価し、Lrp4の発現制御領域の活性維持のための最小必要単位を決定することができる。
遺伝子の発現制御領域は、Neural Network等のプログラム(http://www.fruitfly.org./seq_tools/promoter.html; Reese et al., Biocomputing: Proceedings of the 1996 Pacific Symposium, Hunter and Klein ed., World Scientific Publishing Co., Singapore, (1996))を用いて予測することもできる。さらに、発現制御領域の活性最小単位を予測するプログラム(http://biosci.cbs.umn.edu./software/proscan/promoterscan.htm; Prestridge (1995) J. Mol. Biol. 249: 923-32)も公知であり、用いることができる。
このようにして単離された、Lrp4遺伝子の発現制御領域は、in vivoでドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞特異的に所望の蛋白質を産生するのに利用することもできる。
<Lrp4に対するリガンド>
Lrp4ポリペプチドは、膜貫通ドメインを有することから、天然において細胞膜中に埋め込まれた状態で存在すると考えられる。Lrp4は、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞で発現されていることから、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞の増殖制御やニューロンの分化、成熟に関与していることが考えられる。従って、Lrp4に対するアゴニストやアンタゴニスト等の機能を示す可能性があるリガンドは、ドーパミン産生ニューロンのin vivo、ex vivo及びin vitroにおける分化を制御するのに利用できる可能性がある。Lrp4ポリペプチドに対するリガンドの同定においては、まず、Lrp4ポリペプチドと候補化合物とを接触させ、結合の有無を検定する。この際、Lrp4ポリペプチドを担体に固定したり、細胞膜に埋めこまれた状態に発現させたりして用いることもできる。候補化合物としては特に制限はなく、遺伝子ライブラリーの発現産物、海洋生物由来の天然成分、各種細胞の抽出物、公知化合物及びペプチド、植物由来の天然成分、生体組織抽出物、微生物の培養上清、並びにファージディスプレイ法等によりランダムに製造されたペプチド群(J. Mol. Biol. 222: 301-10 (1991))等が含まれる。また、結合の検出を容易にするために、候補化合物は標識しても良い。
<Lrp4の発現抑制>
本発明により、Lrp4 mRNAがドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞で一過性に発現されることが明らかにされたことから、Lrp4が前駆細胞の増殖制御やニューロンの分化、成熟に関与していることが考えられた。従って、Lrp4遺伝子の発現を阻害するものは、ドーパミン産生ニューロンのin vivo、ex vivo及びin vitroにおける分化を制御するのに利用できる可能性がある。遺伝子の発現を阻害し得るものとして、例えば、アンチセンス、リボザイム及び2本鎖RNA(small interfering RNA; siRNA)が挙げられる。従って、本発明はこのようなアンチセンス、リボザイム及び2本鎖RNAを提供するものである。
アンチセンスが標的遺伝子の発現を抑制する機構としては、(1)3重鎖形成による転写開始阻害、(2)RNAポリメラーゼにより形成される局所的開状ループ構造部位とのハイブリッド形成による転写抑制、(3)合成中のRNAとのハイブリッド形成による転写阻害、(4)イントロン-エキソン接合点におけるハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(5)スプライソソーム形成部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(6)mRNAとのハイブリッド形成による、mRNAの細胞質への移行抑制、(7)キャッピング部位またはポリA付加部位とのハイブリッド形成によるスプライシング抑制、(8)翻訳開始因子結合部位とのハイブリッド形成による翻訳開始抑制、(9)リボソーム結合部位とのハイブリッド形成による翻訳抑制、(10)mRNA翻訳領域またはポリソーム結合部位とのハイブリッド形成によるペプペプチド鎖の伸長抑制、並びに(11)核酸と蛋白質の相互作用部位とのハイブリッド形成による遺伝子発現抑制が挙げられる(平島及び井上『新生化学実験講座2 核酸IV 遺伝子の複製と発現』日本生化学会編、東京化学同人、pp.319-347 (1993))。
本発明のLrp4アンチセンス核酸は、上述の(1)〜(11)のどの機構により遺伝子発現を抑制する核酸であってもよく、即ち、発現を阻害する目的の遺伝子の翻訳領域のみならず、非翻訳領域の配列に対するアンチセンス配列を含むものであってもよい。アンチセンス核酸をコードするDNAは、その発現を可能とする適当な制御配列下に連結して使用することができる。アンチセンス核酸は、標的とする遺伝子の翻訳領域または非翻訳領域に対して完全に相補的である必要はなく、効果的に該遺伝子の発現を阻害するものであればよい。このようなアンチセンス核酸は、少なくとも15bp以上、好ましくは100bp以上、さらに好ましくは500bp以上であり通常3000bp以内、好ましくは2000bp以内、より好ましくは1000bp以内の鎖長を有し、標的遺伝子の転写産物の相補鎖に対して好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上同一である。このようなアンチセンス核酸は、Lrp4ポリヌクレオチドを基に、ホスホロチオネート法(Stein (1988) Nucleic Acids Res. 16: 3209-21)等により調製することができる。
リボザイムとは、RNAを構成成分とする触媒の総称であり、大きくラージリボザイム(large ribozyme)及びスモールリボザイム(small liboyme)に分類される。ラージリボザイムは、核酸のリン酸エステル結合を切断し、反応後に5'-リン酸と3'-ヒドロキシル基を反応部位に残す酵素である。ラージリボザイムは、さらに(1)グアノシンによる5'-スプライス部位でのトランスエステル化反応を行うグループIイントロンRNA、(2)自己スプライシングをラリアット構造を経る二段階反応で行うグループIIイントロンRNA、及び(3)加水分解反応によるtRNA前駆体を5'側で切断するリボヌクレアーゼPのRNA成分に分類される。それに対して、スモールリボザイムは、比較的小さな構造単位(40bp程度)であり、RNAを切断して、5'-ヒドロキシル基と2'-3'環状リン酸を生じさせる。スモールリボザイムには、ハンマーヘッド型(Koizumi et al. (1988) FEBS Lett. 228: 225)、ヘアピン型(Buzayan (1986) Nature 323: 349; Kikuchi and Sasaki (1992) Nucleic Acids Res. 19: 6751; 菊地洋(1992)化学と生物 30: 112)等のリボザイムが含まれる。リボザイムは、改変及び合成が容易になため多様な改良方法が公知であり、例えば、リボザイムの基質結合部を標的部位の近くのRNA配列と相補的となるように設計することにより、標的RNA中の塩基配列UC、UUまたはUAを認識して切断するハンマーヘッド型リボザイムを作ることができる(Koizumi et al. (1988) FEBS Lett. 228: 225; 小泉誠及び大塚栄子(1990)蛋白質核酸酵素35: 2191; Koizumi et al. (1989) Nucleic Acids Res. 17: 7059)。ヘアピン型のリボザイムについても、公知の方法に従って設計、製造が可能である(Kikuchi and Sasaki (1992) Nucleic Acids Res. 19: 6751; 菊地洋(1992)化学と生物 30: 112)。
本発明のアンチセンス核酸及びリボザイムは、細胞内における遺伝子の発現を制御するために、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス等のウイルス由来のベクター、リポソーム等を利用した非ウイルスベクター、またはnaked DNAとしてex vivo法またはin vivo法により遺伝子治療に用いることもできる。
RNA干渉とは、二本鎖の人工RNAを細胞に導入することにより、同じ塩基配列を有するRNAが分解される現象である(Fire et al. (1998) Nature 391: 806-11)。本発明のsiRNAは、Lrp4のmRNAの転写を阻害する限り、特に限定されない。通常、siRNAは、標的mRNAの配列に対するセンス鎖及びアンチセンス鎖の組合せであり、少なくとも10個から標的mRNAと同じ個数までのヌクレオチド長を有する。好ましくは、15〜75個、より好ましくは18〜50個、さらに好ましくは20〜25個のヌクレオチド長である。
Lrp4発現を抑制するために、siRNAは公知の方法により細胞に導入することができる。例えば、siRNAを構成する二本のRNA鎖を、一本鎖上にコードするDNAを設計し、該DNAを発現ベクターに組み込み、細胞を該発現ベクターで形質転換し、siRNAをヘアピン構造を有する二本鎖RNAとして細胞内で発現させることができる。トランスフェクションにより持続的にsiRNAを産生するプラスミド発現ベクターも設計されている(例えば、RNAi-Ready pSIREN Vector、RNAi-Ready pSIREN-RetroQ Vector (BD Biosciences Clontech))。
siRNAの塩基配列は、例えば、Ambion website(http://www.ambion.com/techlib/misc/siRNA_finder.html)のコンピュータープログラムを用いて設計することができる。機能的siRNAをスクリーニングするためのキット(例えば、BD Knockout RNAi System(BD Biosciences Clontech))等も市販されており利用可能である。
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、これらの実施例は本発明をいかなる意味でも限定するものではない。
[実施例1] ドーパミン産生ニューロン前駆細胞特異的遺伝子の単離及び配列解析
ドーパミン産生ニューロン前駆細胞特異的な遺伝子を単離するために、E12.5マウス中脳腹側領域を背腹方向にさらに二つの領域に切り分けて、ドーパミン産生ニューロンを含む最も腹側の領域に特異的に発現する遺伝子をサブトラクション(N-RDA)法により同定した。単離した断片の一つはLrp4/CorinをコードするcDNA断片であった。Lrp4はII型膜貫通蛋白質をコードしている(図1)。
(1)N-RDA法
(1)-1. アダプターの調製
下記のオリゴヌクレオチドをアニーリングさせ、100μMに調製した。
(ad2: ad2S+ad2A、ad3: ad3S+ad3A、ad4: ad4S+ad4A、ad5: ad5S+ad5A、ad13: ad13S+ad13A)
ad2S: cagctccacaacctacatcattccgt(配列番号:5)
ad2A: acggaatgatgt(配列番号:6)
ad3S: gtccatcttctctctgagactctggt(配列番号:7)
ad3A: accagagtctca(配列番号:8)
ad4S: ctgatgggtgtcttctgtgagtgtgt(配列番号:9)
ad4A: acacactcacag(配列番号:10)
ad5S: ccagcatcgagaatcagtgtgacagt(配列番号:11)
ad5A: actgtcacactg(配列番号:12)
ad13S: gtcgatgaacttcgactgtcgatcgt(配列番号:13)
ad13A: acgatcgacagt(配列番号:14)
(1)-2. cDNA合成
日本SLCより入手したマウス12.5日胚より中脳腹側を切り出し、さらに背腹方向に2つの領域に切り分けた。RNeasy mini kit (Qiagen)を用いて全RNAを調製し、cDNA synthesis kit (TAKARA)を用いて二本鎖cDNAを合成した。制限酵素RsaIで消化したのち、ad2を付加し、ad2Sをプライマーとして、15サイクルのPCRでcDNAを増幅した。増幅条件は72℃で5分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を15サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。N-RDAのPCRはすべて以下の反応液組成で行った。
10×ExTaq 5μl
2.5mM dNTP 4μl
ExTaq 0.25μl
100μM primer 0.5μl
cDNA 2μl
蒸留水 38.25μl
(1)-3. Driverの作製
ad2Sで増幅したcDNAをさらに5サイクルのPCRで増幅した。増幅条件は94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を5サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。Qiaquick PCR purification kit (Qiagen)を用いてcDNAを精製し、RsaI消化した。1回のサブトラクションに3μgずつ使用した。
(1)-4. Testerの作製
ad2Sで増幅したcDNAをさらに5サイクルのPCRで増幅した。増幅条件は94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を5サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。Qiaquick PCR purification kit (Qiagen)を用いてcDNAを精製し、RsaI消化した。60ngのRsaI消化cDNAにad3を付加した。
(1)-5. サブトラクション1回目
上記3及び4で作製したTesterおよびDriverを混合し、エタノール沈殿した後に、1xPCR buffer 1μlに溶解した。98℃5分の後、1xPCR buffer+1M NaCl 1μlを加えた。さらに98℃5分の後、68℃で16時間ハイブリダイズさせた。
ハイブリダイズさせたcDNAをad3Sをプライマーとして10サイクルのPCRで増幅した後(72℃で5分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を10サイクル行った)、Mung Bean Nuclease (TAKARA)で消化し、Qiaquick PCR purification kitで精製した。さらに13サイクルのPCRで増幅した。増幅条件は94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を13サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。
(1)-6. 均一化
サブトラクション1回目で増幅したcDNA 8ngに2xPCR buffer 1μlを加えた。98℃5分の後、1xPCR buffer+1M NaCl 2μlを加えた。さらに98℃5分の後、68℃で16時間ハイブリダイズさせた。
ハイブリダイズさせたcDNAをRsaIで消化し、Qiaquick PCR purification kitで精製した。これをad3Sをプライマーとして11サイクルのPCRで増幅した後(94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を11サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした)RsaIで消化し、ad4を付加した。
(1)-7. サブトラクション2回目
上記6でad4を付加したcDNA 20ngをTesterとして、上記3のDriverと混合し、さらに、上記5と同様の方法でサブトラクションを行った。最終的にRsaI消化したcDNAにad5を付加した。
(1)-8. サブトラクション3回目
上記7でad5を付加したcDNA 2ngをTesterとして、上記3のDriverと混合し、さらに、上記5と同様の方法でサブトラクションを行った。最終的にRsaI消化したcDNAにad13を付加した。
(1)-9. サブトラクション4回目
上記8でad13を付加したcDNA 2ngをTesterとして、上記3のDriverと混合し、以下、上記5と同様の方法でサブトラクションを行った。増幅したcDNAをpCRII (Invitrogen)にクローニングし、ABI3100シーケンスアナライザーを用いて塩基配列を解析した。
[実施例2] Lrp4遺伝子の発現解析
次に、Lrp4遺伝子を用いて以下のプロトコールによりin situハイブリダイゼーションによる発現解析を行った。
まず、マウス12.5日胚をOCTで包埋し、厚さ16μmの新鮮凍結切片を作製した。スライドガラス上で乾燥させた後に4%PFAで室温30分間固定した。PBSで洗浄した後、ハイブリダイゼーション(1μg/mlDIG化RNAプローブ、50%ホルムアミド、5xSSC, 1%SDS, 50μg/ml yeast RNA, 50μg/ml Heparin)を65度で40時間行った。その後、洗浄(50%ホルムアミド、5xSSC, 1%SDS)を65度で行い、RNase処理(5μg/ml RNase)を室温5分間行った。0.2xSSCで65度の洗浄、1xTBSTで室温の洗浄ののち、ブロッキング(Blocking reagent: Roche)を行った。アルカリホスファターゼ標識抗DIG抗体(DAKO)を反応させ、洗浄(1xTBST、2mM Levamisole)の後、NBT/BCIP (DAKO)を基質として発色させた。
in situハイブリダイゼーションによる発現解析の結果、ドーパミン産生ニューロンの発生する時期であるE12.5で、Lrp4 mRNAは中脳から後脳、脊髄にかけての腹側中心部に特異的発現していることが示された。後脳から脊髄にかけては、Shh mRNAと同様の発現パターンを示し、オーガナイザー領域である底板(floor plate)に特異的であることが明らかになった(図2及び5)。中脳ではShh mRNA発現領域の中でもより中心部にのみ発現が見られた(図3及び5)。
ニューロンの成熟マーカーであるNCAM mRNAと比較した結果、Lrp4 mRNA発現細胞はNCAM mRNA陰性の脳室領域(Ventricular Zone (VZ))内の増殖前駆細胞であった。さらにドーパミン産生ニューロンのマーカーであるTH mRNAの発現と比較すると、TH mRNAは外套層(mantle layer(ML))にのみ発現しているので、同一の細胞で両者の発現が認められることはないものの、背-腹軸方向での発現領域は完全に一致していた(図3及び5)。一般に神経管(neural tube)内の神経細胞は、まずVZ内で増殖し、分化開始とともに分裂を停止し、その後すぐ外側のMLに移動したのちに成熟することが知られている。従って、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞は、TH発現領域のすぐ内側のVZ内で増殖し、分裂停止後に外側に移動してからTH mRNAを発現すると考えられる。即ち、Lrp4 mRNAは、中脳ではドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞に特異的に発現すると考えられる(図4及び6)。
[実施例3] ES細胞より分化誘導したドーパミン産生ニューロンにおけるLrp4の発現
次にES細胞をin vitroでドーパミン産生ニューロンに分化誘導させた場合にLrp4が発現するかどうか検討した。
まず、SDIA法(Kawasaki et. al. (2000) Neuron 28(1): 31-40)によりES細胞よりドーパミン産生ニューロンへの分化誘導を行った(図7上参照)。誘導後4、6、8、10、12日後にそれぞれ細胞を回収し、RNeasy mini kit(Qiagen)を用いてtotal RNAを回収し、RT-PCRを行った。RT-PCRにおいては、最初に1μgのtotal RNAに対して、RNA PCR kit(TaKaRa)を用いてcDNA合成を行った。このうち10ng、1ng、0.1ng相当分のcDNAを鋳型に用いて以下の反応系でPCRを行った。
10×ExTaq 2μl
2.5mM dNTP 1.6μl
ExTaq 0.1μl
100μM プライマー 各0.2μl
cDNA 1μl
蒸留水 14.9μl
94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を35サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。
以下の配列のプライマーを使用した。
Lrp4: TAGTCTACCACTGCTCGACTGTAACG(配列番号:15)/CAGAGTGAACCCAGTGGACATATCTG(配列番号:16)
TH: GTTCCCAAGGAAAGTGTCAGAGTTGG(配列番号:17)/GAAGCTGGAAAGCCTCCAGGTGTTCC(配列番号:18)
DAT: CTCCGAGCAGACACCATGACCTTAGC(配列番号:19)/AGGAGTAGGGCTTGTCTCCCAACCTG(配列番号:20)
そして、RT-PCRによる発現解析の結果、Lrp4は、ES細胞(CCE)およびストローマ細胞(PA6)には発現していないが、分化誘導の結果、THと同様に4日目から発現が誘導されることが明らかになった(図8)。従って、本発明のマーカーポリヌクレオチドプローブは、胎児中脳由来のドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞だけでなく、in vitroでES細胞より分化誘導したドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞を分離する際にもマーカーとして有用である。
[実施例4]Lrp4タンパク質の発現解析
次に、Lrp4遺伝子のうち、細胞外領域をコードする遺伝子配列を用いて、以下のプロトコールにより抗Lrp4抗体を作製し、免疫組織染色による発現解析を行った。
まず、Lrp4遺伝子のうち、細胞外領域(161-502アミノ酸)をコードする遺伝子配列を293E細胞に遺伝子導入して、Lrp4タンパク質の細胞外領域を発現させて回収した。回収したタンパク質をハムスターに免疫したのち、リンパ球細胞を取り出してミエローマ細胞とフュージョンさせた。フュージョンさせた細胞を培養し、その培養上清を得た。次にマウス12.5日胚を4%PFA/PBS(-)で4℃、2時間固定したのち、20%ショ糖/PBS(-)で4℃、一晩置換し、OCTで包埋した。厚さ12umの切片を作製し、スライドガラスに貼り付けた後、室温で30分乾燥させ、PBS(-)で再び湿潤させた。その後、ブロッキング(10% normal donkey serum、10% normal goat serum/ブロックエース)を室温、20分間行い、作製した抗Lrp4モノクローナル抗体(FERM BP-10315、およびFERM BP-10316を混合して用いた(培養上清1/4希釈ずつ、10% normal donkey serum、10% normal goat serum、2.5%ブロックエース/PBS))および抗TH抗体(Chemicon、0.7μg/ml、10% normal donkey serum、10% normal goat serum、2.5%ブロックエース/PBS)を室温、1時間反応させた後、さらに4℃、一晩反応させた。0.1%Triton X-100/PBS(-)で、室温、10分間の洗浄を4回行った。Cy3標識抗ハムスターIgG抗体、FITC標識抗マウスIgG抗体、(Jackson、10μg/ml、10% normal donkey serum、10% normal goat serum、2.5%ブロックエース/PBS)を室温、1時間反応させ、同様に洗浄を行った後、PBS(-)によって室温、10分間洗浄し、封入した。
そして、作製した抗Lrp4モノクローナル抗体を用いた免疫組織染色による発現解析の結果、in situハイブリダイゼーションによる発現解析の結果と同様に、ドーパミン産生ニューロンの発生する時期であるE12.5で、中脳腹側に発現が認められた(図8)。ドーパミン産生ニューロンのマーカーであるTHタンパク質の発現と比較すると、Lrp4タンパク質は、THタンパク質が発現する中脳最腹側のVZ側に発現していることから、Lrp4タンパク質は、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞に発現していると考えられた。
次に、抗Lrp4モノクローナル抗体を用いて、フローサイトメトリーによるLrp4発現細胞の検出を行った。
まず、SDIA法によりin vitroにおいてES細胞より分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群を、細胞分散バッファー(Invitrogen)を用いて分散させた後、固定・透過処理せずに、抗Lrp4モノクローナル抗体(FERM BP-10315、およびFERM BP-10316を混合して用いた(培養上清1/4 希釈ずつ、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/SDIA分化培地))で4℃、20分間染色した。その後、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/ SDIA分化培地で4℃、3分間の洗浄を3回行い、ビオチン標識抗ハムスターIgG抗体(Jackson、10μg/ml、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/ SDIA分化培地)で4℃、20分間染色し、同様に洗浄したのち、PE標識ストレプトアビジン(Pharmingen、20μg/ml、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/ SDIA分化培地)で4℃、20分間染色し、同様に洗浄した。染色後、フローサイトメーターにてLrp4発現細胞を検出した。
そして、作製した抗Lrp4モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーによるLrp4発現細胞の検出の結果、Lrp4タンパク質を発現する集団を検出した(図9)。固定・透過処理することなく、Lrp4タンパク質発現細胞を検出できることから、セルソーターを付属したフローサイトメーターを用いることにより、Lrp4タンパク質発現細胞を生細胞の状態で分離することが可能であると考えられた。Lrp4タンパク質は、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞に発現していると考えられることから、抗Lrp4抗体は、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞の分離に有用であると考えられた。
[実施例5]抗体によるLrp4発現細胞の分離
次に抗Lrp4抗体を用いて分離したLrp4タンパク質陽性細胞の性状を解析した。
まず、E12.5マウス胎児中脳腹側領域、およびSDIA法によりin vitroにおいてES細胞より分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群を、実施例4と同様の方法で抗Lrp4抗体で染色し、セルソーターによりLrp4陽性細胞および陰性細胞を分離した。分離直後の細胞からRNeasy mini kit(Qiagen)を用いてtotal RNAを回収、cDNAを合成し、実施例1と同様の方法でcDNAを増幅して、RT-PCRの鋳型に用いた。増幅cDNA 4ng、0.4ng、0.04ng相当分のcDNAを鋳型に用いて以下の反応系でPCRを行った。
10×ExTaq 1μl
2.5mM dNTP 0.8μl
ExTaq 0.05μl
100μM プライマー 各0.1μl
cDNA 1μl
蒸留水 6.95μl
94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を26サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。
以下の配列のプライマーを使用した。
Lrp4: TAGTCTACCACTGCTCGACTGTAACG(配列番号:15)/CAGAGTGAACCCAGTGGACATATCTG(配列番号:16)
TH: GTTCCCAAGGAAAGTGTCAGAGTTGG(配列番号:17)/ GAAGCTGGAAAGCCTCCAGGTGTTCC(配列番号:18)
Nurr1: CACTCCTGTGTCTAGCTGCCAGATGC(配列番号:21)/AGTGCGAACACCGTAGTGCTGACAGG(配列番:22)
Nestin: GATGAAGAAGAAGGAGCAGAGTCAGG(配列番号:23)/ATTCACTTGCTCTGACTCCAGGTTGG(配列番号:24)
MAP2: CCATGATCTTTCCCCTCTGGCTTCTG(配列番号:25)/TTTGGCTGGAAAGGGTGACTCTGAGG(配列番号:26)
そして、RT-PCRによる発現解析の結果、予想通り、増殖前駆細胞マーカーであるNestinの発現が認められたが、Lrp4タンパク質陽性細胞集団中に、分裂停止後のマーカーであるMAP2を発現する細胞も含まれることが明らかになった(図10)。したがって、Lrp4タンパク質の発現は、mRNAの発現停止後にも維持されており、Lrp4タンパク質は、ドーパミン産生ニューロン増殖前駆細胞だけでなく、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞を分離するためのマーカーとしても有用であることが明らかになった(図11)。さらに、分裂停止後のドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカーであるNurr1やTHが、Lrp4陰性集団に比べて高レベルに発現していたことから、確かにLrp4陽性細胞がドーパミン産生ニューロン系列の前駆細胞であることも確認された(図10)。
次に、Lrp4抗体で分離したLrp4タンパク質陽性細胞集団中にどの程度の割合で増殖前駆細胞と分裂停止後前駆細胞が含まれるのかを検討した。
分離した細胞をpoly-L-ornithine(Sigma、0.002% in PBS)、laminin(Invitrogen、5μg/ml in PBS)、fibronectin(Sigma、5μg/ml in PBS)コートしたスライドガラス上に播き、40分間、37℃、N2(Invitrogen、1x)、B27(Invitrogen、1x)、アスコルビン酸(Sigma、200uM)BDNF(Invitrogen、20ng/ml)/ SDIA分化培地培地中でインキュベートして付着させた。付着した細胞を4%PFA/PBSで4℃、20分間固定し、PBSで4℃、10分間の洗浄を2回行った。その後、0.3% Triton X-100/PBSで室温、15分間の透過処理を行い、10% normal donkey serum/ブロックエースで室温、20分間のブロッキングを行った。続いて、抗nestin抗体(Chemicon、2μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)、抗βIII-tubulin抗体(BABCO、1/2000、0.5μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で、室温、1時間反応させ、引き続き、4℃、一晩反応させた。翌日、0.1% Triton X-100/PBSで、室温、5分間の洗浄を3回行った後、FITC標識した抗マウスIgG抗体、Cy5標識した抗ラビットIgG抗体(いずれもJackson、10μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で室温、30分間反応させた。その後、同様に洗浄し、PBSで室温、5分間洗浄し、封入して観察した。
また、分離した細胞を同様にスライドガラス上に播き、上記の培地にBrdU(Roche、5-Bromo-2'-deoxy-uridine Labeling and Detection Kit II、1x)を添加した培地中で、37℃、18時間培養した後、同様にブロッキングまで行い、2N HClで37℃、20分間反応させた後、PBSで3回洗浄し、抗BrdU抗体、DNase(Roche、5-Bromo-2'-deoxy-uridine Labeling and Detection Kit II、1 x conc. in incubation buffer)で37℃、30分間反応させた。さらに、抗BrdU抗体(Sigma、44μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で室温、1時間反応させ、引き続き、4℃、一晩反応させた。翌日、0.1% Triton X-100/PBSで、室温、5分間の洗浄を3回行った後、FITC標識した抗マウスIgG抗体、(Jackson、10μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で室温、30分間反応させた。その後、同様に洗浄し、封入して観察した。
そして、マーカー染色の結果、Lrp4陽性細胞の多くは、Nestin陽性の増殖前駆細胞であり、一部が分裂停止後マーカーβIII-tubulin陽性であることが明らかになった(図12)。また、分離した細胞は、高頻度にBrdUを取り込み、実際にin vitroで増殖することが確認された(図13)。
次に、分離したLrp4陽性細胞がドーパミン産生ニューロンに分化することを確認した。
分離した細胞をpoly-L-ornithine(Sigma、0.002% in PBS)、laminin(Invitrogen、5μg/ml in PBS)、fibronectin(Sigma、5μg/ml in PBS)コートしたスライドガラス上に播き、N2(Invitrogen、1x)、B27(Invitrogen、1x)、アスコルビン酸(Sigma、200uM)BDNF(Invitrogen、20ng/ml)、bFGF(R&D、10ng/ml)/ SDIA分化培地中で、37℃、24時間インキュベートした。その後、上記の培地よりbFGFを除いた培地でさらに6日間培養した。培養した細胞を4%PFA/PBSで4℃、20分間固定し、PBSで4℃、10分間の洗浄を2回行った。その後、0.3% Triton X-100/PBSで室温、15分間の透過処理を行い、10% normal donkey serum/ブロックエースで室温、20分間のブロッキングを行った。続いて、抗TH抗体(Chemicon、0.3μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)、抗βIII-tubulin抗体(BABCO、1/2000、0.5μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で、室温、1時間反応させ、引き続き、4℃、一晩反応させた。翌日、0.1% Triton X-100/PBSで、室温、5分間の洗浄を3回行った後、FITC標識した抗マウスIgG抗体、Cy5標識した抗ラビットIgG抗体(いずれもJackson、10μg/ml、10% normal donkey serum、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で室温、30分間反応させた。その後、同様に洗浄し、PBSで室温、5分間洗浄し、封入して観察した。
そして、分離した細胞をin vitroで培養した結果、対照である分離していない細胞に比べて明らかに多くのTHタンパク質陽性ドーパミン産生ニューロンが誘導された。したがって、Lrp4陽性細胞は、確かにドーパミン産生ニューロン系列の前駆細胞であり、in vitroで成熟可能であることが明らかになった(図14)。
[実施例6]分離したLrp4タンパク質陽性細胞のパーキンソン病モデルマウス線状体への移植
抗Lrp4モノクローナル抗体を用いて、フローサイトメトリーによりLrp4発現細胞の分離を行い、当該細胞をパーキンソン病モデルマウス線状体へ移植した。
まず、SDIA法によりin vitroにおいてES細胞より分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群を、細胞分散バッファー(Invitrogen)を用いて分散させた後、固定・透過処理せずに、実施例4で作製した抗Lrp4モノクローナル抗体(FERM BP-10315、およびFERM BP-10316を混合して用いた(培養上清 1/4 希釈ずつ、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/SDIA分化培地))で4℃、20分間染色した。その後、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/ SDIA分化培地で4℃、3分間の洗浄を3回行い、ビオチン標識抗ハムスターIgG抗体(Jackson、10μg/ml、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/ SDIA分化培地)で4℃、20分間染色し、同様に洗浄したのち、PE標識ストレプトアビジン(Pharmingen、20μg/ml、1%ウシ胎児血清、1mM EDTA/ SDIA分化培地)で4℃、20分間染色し、同様に洗浄した。染色後、フローサイトメーターにてLrp4発現細胞を分離した。
次に、分離したLrp4タンパク質陽性細胞をパーキンソン病モデルマウス線状体へ移植し、脳内でのLrp4タンパク質陽性細胞の性状を解析した。
まず、12週齢のマウス(slc)の片側のmedial forebrain bundleに6-OHDA(sigma、2μg/μl)を1.25μl注入して、中脳から線状体へ投射するドーパミン産生ニューロンを死滅させることにより、パーキンソン病モデルマウスを作製した。モデルマウス作製後2週間目に、6-OHDAを注入した側の線状体にLrp4タンパク質陽性細胞を1匹あたり3x104個移植した。移植したLrp4タンパク質陽性細胞は、CAGプロモーター(Niwa et al. (1991) Gene. 108: 193-200)制御下でEGFP遺伝子を発現するように遺伝子導入したES細胞をSDIA法によりin vitroにおいて分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群を、実施例4と同様の方法で抗Lrp4抗体を用いて染色し、セルソーターにより分離して得た。
移植後3週間目に10 % Urethan in saline、500μlを腹腔内投与して麻酔をかけ、麻酔が効いた後、開胸して、左心室より生理食塩水(大塚)30 mlを注入して潅流した後、4% PFA/PBS(-)30 mlで潅流固定した。固定後、脳を取り出して、更に8時間、4 % PFA/PBS(-)中で浸漬固定を行った。その後、2 mm厚にスライスし、20-40 % ショ糖/PBS(-)中で一晩置換し、OCT中に包埋した。厚さ10-12μmの切片を作製し、スライドガラスに貼り付けた後、室温で30分乾燥させ、PBS(-)で再び湿潤させた。その後、ブロッキング(10 % normal donkey serum/ブロックエース)を室温、20分間行い、抗GFP抗体(Molecular probes、20μg/ml、10% normal donkey serum、10 % ブロックエース/PBS)、抗MAP2抗体(Sigma、マウス腹水、100倍希釈、10 % normal donkey serum、10 % ブロックエース/PBS)または抗TH抗体(Chemicon、1μg/ml、10 % normal donkey serum、10 % ブロックエース/PBS)を室温、1時間反応させた後、さらに4℃、一晩反応させた。その後、0.1 % Triton X-100/PBS(-)で、室温、10分間の洗浄を4回行った。次に、Alexa Fluor488標識抗ウサギIgG抗体(Molecular probes、4μg/ml、10 % normal donkey serum、10 % ブロックエース/PBS)、Cy3標識抗マウスIgG抗体、(Jackson、10μg/ml、10% normal donkey serum、10%ブロックエース/PBS)またはCy5標識抗ヒツジIgG抗体、(Jackson、10μg/ml、10% normal donkey serum、10%ブロックエース/PBS)を室温、1時間反応させた後、同様に洗浄を行い、PBS(-)によって室温、10分間洗浄し、封入した。
そして、免疫組織染色による各種マーカー発現解析を行った。
その結果、まず、移植したマウスの線状体内にEGFP陽性細胞が認められた(表1)。このことから、移植したLrp4タンパク質陽性細胞は、パーキンソン病モデルマウスの線状体において、生着しているものと考えられる。
また、生着したほとんどの細胞は、成熟したニューロンのマーカーであるMAP2陽性であり、EGFP陽性の軸索が線状体内に長く伸展している様子も認められた(表1および図16)。
(表1は、移植したLrp4陽性細胞のTH陽性細胞へのin vivoにおける分化を示す。
#6 マウスおよび#7 マウスは、 6-OHDAによるドーパミン産生ニューロンの破壊後 2週間後にLrp4タンパク質陽性細胞を移植され、移植後3週間目に灌流された。)
このことから、移植したLrp4タンパク質陽性細胞が神経前駆細胞であったのに対し、生着したほとんどの細胞が成熟した神経細胞へと分化および成熟したことが示された。また、これら生着した細胞の約20%は、TH陽性であったことから、移植したLrp4タンパク質陽性細胞の少なくとも一部は、ドーパミン産生ニューロンへと分化したことが強く示唆された。
したがって、本発明により分離されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、脳内に移植することによって、ドーパミン産生ニューロンへの分化が可能であり、本発明により分離されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞は、治療に有効であると考えられる。
[実施例7] 5-stage 法を用いてES細胞を分化誘導したドーパミン産生ニューロンにおけるLrp4の発現
5-stage 法を用いてin vitroにおいてES細胞をドーパミン産生ニューロンに分化誘導させた場合にLrp4が発現するかどうか検討した。
まず、5-stage法(Lee et. al. (2000) Nat.Biotech. 18: 675-679、mouse dopaminergic neuron differentiation kit (R&D Systems))によりES細胞(CCE)よりドーパミン産生ニューロンへの分化誘導を行った。Stage1の2日目、stage2の4日目、stage3の6日目、stage4の4、6日目、stage5の4、7日目にそれぞれ細胞を回収し、RNeasy mini kit(Qiagen)を用いてtotal RNAを回収し、RT-PCRを行った。RT-PCRにおいては、最初に1μgのtotal RNAに対して、RNA PCR kit(TaKaRa)を用いてcDNA合成を行った。このうち10 ng、1 ng、0.1 ng相当分のcDNAを鋳型に用いて以下の反応系でPCRを行った。
10×ExTaq 2μl
2.5mM dNTP 1.6μl
ExTaq 0.1μl
100μM プライマー 各0.2μl
cDNA 1μl
蒸留水 14.9μl
94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を32サイクル行い、最後に72℃で2分インキュベートした。
以下の配列のプライマーを使用した。
Lrp4: TAGTCTACCACTGCTCGACTGTAACG(配列番号:15)/CAGAGTGAACCCAGTGGACATATCTG(配列番号:16)
TH: GTTCCCAAGGAAAGTGTCAGAGTTGG(配列番号:17)/GAAGCTGGAAAGCCTCCAGGTGTTCC(配列番号:18)
そして、RT-PCRによる発現解析の結果、Lrp4は、未分化なES細胞の状態であるstage1においては発現していないが、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞が発生するstage4において、発現が誘導されることが明らかになった(図17A)。
次に、5-stage 法により、in vitroにおいてES細胞をドーパミン産生ニューロンに分化誘導させた場合における、抗Lrp4モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーによるLrp4発現細胞の検出を行った。
まず、5-stage法によりin vitroにおいてES細胞より分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群(stage4、7日目)を、細胞分散溶液Accumax(Innovative Cell Technologies, Inc.)を用いて分散させた後、固定・透過処理せずに、抗Lrp4モノクローナル抗体(FERM BP-10315、およびFERM BP-10316を混合して用いた(培養上清 1/2 希釈ずつ)で4℃、20分間染色した。その後、1%ウシ胎児血清、1 mM EGTA、4.5 mg/ml グルコース、40 ng/ml DNase I/Hanks'Balanced Salt Solution Ca・Mg不含(HBSS-)で4℃、3分間の洗浄を3回行い、PE標識抗ハムスターIgG抗体(8μg/ml (BD Bioscience)、1%ウシ胎児血清、1 mM EGTA、4.5 mg/ml グルコース、40 ng/ml DNase I/Hanks'Balanced Salt Solution Ca・Mg不含(HBSS-))で4℃、30分間染色し、同様に洗浄した。染色後、フローサイトメーターにてLrp4発現細胞を検出した。
そして、抗Lrp4モノクローナル抗体を用いたフローサイトメトリーによるLrp4発現細胞の検出の結果、5-stage法によりin vitroにおいてES細胞より分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群中にLrp4タンパク質を発現する集団を検出した(図17B)。したがって、SDIA法だけでなく、5-stage法によってES細胞より分化誘導したドーパミン産生ニューロン前駆細胞でもLrp4が発現し、細胞分離のマーカーとして有用であると考えられた。
[実施例8]抗体により分離したLrp4発現細胞のin vitroにおける分化成熟
抗Lrp4抗体を用いて分離したLrp4タンパク質陽性細胞がin vitroにおいてドーパミン産生ニューロンに分化するか否かを検討した。
5-stage法によりin vitroにおいてES細胞より分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群を、実施例4と同様の方法で抗Lrp4抗体を用いて染色し、セルソーターによりLrp4陽性細胞を分離した。分離した細胞をpoly-L-ornithine(Sigma、0.002% in PBS)、fibronectin(Sigma、5μg/ml in PBS)でコートしたスライドガラス上に播き、N2(Invitrogen、1x)、アスコルビン酸(Sigma、200uM)BDNF(R&D Systems、20ng/ml)/DMEM/F12中で、37℃、7日間インキュベートした。その後、培養した細胞を2% PFA、0.15%ピクリン酸/PBSで4℃、20分間固定し、PBSで4℃、10分間の洗浄を2回行った。その後、0.3% Triton X-100/PBSで室温、30分間の透過処理を行い、10% normal donkey serum、10% normal goat serum/ブロックエースで室温、20分間のブロッキングを行った。続いて、抗TH抗体(Chemicon、0.4μg/ml、10% normal donkey serum、10% normal goat serum 、2.5% ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)、抗MAP2抗体(Sigma、腹水1/200、10% normal donkey serum、10% normal goat serum 、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で、室温、1時間反応させ、引き続き、4℃、一晩反応させた。翌日、0.1% Triton X-100/PBSで、室温、10分間の洗浄を4回行った後、FITC標識した抗マウスIgG抗体、Cy3標識した抗ラビットIgG抗体(いずれもJackson、10μg/ml、10% normal donkey serum、10% normal goat serum 、2.5%ブロックエース、0.1% Triton X-100/PBS)で室温、30分間反応させた。その後、同様に洗浄し、PBSで室温、5分間洗浄し、封入して観察した。
そして、分離したLrp4陽性細胞をin vitroで培養した結果、THタンパク質陽性の多くのドーパミン産生ニューロンが誘導された(図17C)。したがって、5-stage法によって誘導されたLrp4陽性細胞は、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞であり、in vitroで成熟可能であることが明らかになった。Lrp4は、2つの異なる分化方法(SDIA法、5-stage法)により誘導されたドーパミン産生ニューロン前駆細胞のいずれにおいても発現しており、抗Lrp4抗体を用いていずれのドーパミン産生ニューロン前駆細胞も分離できた。これらのことから、Lrp4は、細胞の由来を問わず、ドーパミン産生ニューロン前駆細胞マーカーとして有用であると考えられた。また、5-stage法は、動物由来細胞および成分との接触を行わずにドーパミン産生ニューロン前駆細胞を分化誘導できる方法であり、臨床応用が期待されている。Lrp4は、当該方法において細胞分離マーカーとして有用であることから、パーキンソン病を含む神経変性疾患に対する移植治療に応用できる可能性が高いと考えられる。
[実施例9]抗Lrp4抗体を用いたドーパミン産生ニューロン前駆細胞分離による未分化ES細胞の除去
ES細胞に由来する移植細胞を調製する際に、安全性の上で最も重要なことは奇形腫の原因となる未分化なES細胞を除去することである。Lrp4は、未分化なES細胞には発現していないことから(実施例3)、Lrp4をマーカーに用いて分離することで、未分化ES細胞を除去できることが期待される。これを確認するために、SDIA法を用いてin vitroでES細胞より分化誘導した細胞からLrp4抗体を用いて分離した細胞中に未分化なES細胞が含まれるかどうかを、RT-PCRにより、ES細胞特異的な遺伝子であるERas(Nature. 2003 423(6939):541-5.)およびNanog(Cell. 2003 113(5):631-42.)の発現を調べることで検討した。
まず、実施例5と同様の方法で、SDIA法によりin vitroにおいてES細胞より分化誘導させたドーパミン産生ニューロン前駆細胞を含む細胞群からセルソーターによりLrp4陽性細胞および陰性細胞を分離した。分離直後の細胞から全RNAを回収し、増幅cDNAを作製した。このうち4 ng、0.4 ng、0.04 ng相当分のcDNAを鋳型に用いて以下の反応系でPCRを行った。
10×ExTaq 1μl
2.5mM dNTP 0.8μl
ExTaq 0.05μl
100μM プライマー 各0.1μl
cDNA 1μl
蒸留水 6.95μl
94℃で2分インキュベートした後、94℃で30秒、65℃で30秒、及び72℃で2分の反応を26サイクル(Lrp4, Nestin)または30サイクル(Eras, Nanog)行い、最後に72℃で2分インキュベートした。
以下の配列のプライマーを使用した(Lrp4とNestinは実施例5に記載)。
ERas: TGCTCTCACCATCCAGATGACTCACC (配列番号:27)/ TGGACCATATCTGCTGCAACTGGTCC (配列番号:28)
Nanog: TCCAGCAGATGCAAGAACTCTCCTCC (配列番号:29)/ TTATGGAGCGGAGCAGCATTCCAAGG (配列番号:30)
その結果、Lrp4陽性細胞集団では、ES細胞に特異的に発現するERasおよびNanogの発現は認められず、一方、Lrp4陰性集団では、ERasおよびNanogの発現が検出された(図18)。このことから、Lrp4を用いた細胞分離により、SDIA法で分化誘導した細胞中に含まれる未分化なES細胞を除去できることが明らかになった。