本発明の実施の形態を図面に基づき説明すると、図1は極高真空中に設けられてその真空圧を測定する極高真空用電離真空計に本発明を適用した実施例を示すもので、これに於いて符号1は円筒電極2を介して対向するイオン生成部3とイオン検出部4とで構成された真空測定部、5、5は該円筒電極2の両端に設けた円盤電極である。
該イオン生成部3は、例えばPtクラッドMo線で作成され、両端部が開放された直径約12mm、長さ約15mmの筒形グリッドの集電子電極6と、加熱用電源7からの直流電流で加熱される該集電子電極6の外部側方に設けたWフィラメントからなる熱陰極型の電子ビーム源8とで構成した。該円筒電極2はベッセルボックス(Bessel-Box)型のエネルギーフィルターと称されるもので、該集電子電極6の中心軸線に合致して設けられ、該円筒電極2の内部には、該イオン生成部3からイオンや電子の荷電粒子と共に放出される光や中性粒子、高速のイオン、軟X線を除去するために、円盤電極5に形成したイオン導入用の穴5aよりも直径がやや大きい円盤形の邪魔板9を設け、これに該円筒電極2と同電位を与えるようにした。
該イオン検出部4は、図示のようなチャンネルトロン、或いはセラトロン、マルチチャンネルプレート(MCP)などの二次電子増倍素子で構成され、図示の例ではラッパ状に拡がる二次電子増倍素子4の入口部分4bに直流高圧電源10により負の高電圧を印加し、二次電子増倍素子4の出口部4aからの出力をプリアンプ11を介してパルスカウンターの計測装置12に接続した。該二次電子増倍素子4は、内面が二次電子を放出しやすいベリリウム酸化物、マグネシウム酸化物、セラミック半導体などの物質で形成され、その内部に入射した電子、イオン、励起中性粒子、光は表面に衝突して2個以上の電子に変換され、更にその電子が表面と衝突を重ねる度に2個以上の電子に増倍される。各円盤電極5の前方又は後方に、アース電位のイオン引出電極13、13を設けるようにした。
該集電子電極6は、例えば10Vの第1直流電源14と例えば100Vの第2直流電源15を介してアースに接続し、該集電子電極6と電子ビーム源8との間に該第2直流電源15の電位差を与え、該電子ビーム源8が発生する熱電子を該集電子電極6内へ吸引するようにした。また、該円筒電源16を介してアースに接続し、該円筒電極2及び邪魔板9と円盤電極5との間にバイアス電源17により例えば225Vの電位差を与えるようにした。
以上の構成は、従来の二次電子増倍素子を備えた真空圧力計の構成と同様であり、該真空測定部1を真空中に設け、電子ビーム源8を加熱すると、これにより発生する熱電子が集電子電極6の円筒内に集まり、そこに存在する気体分子に衝突して気体イオンが生成され、そのイオンはイオン引出電極13により円筒電極2を介してイオン検出部4の二次電子増倍素子4の入口部分4bへと導かれる。該二次電子増倍素子4内でイオンの入射による電子が増幅され、パルスカウント法或いは直流法により計測装置12によりそのイオン強度(イオン電流)が計測され、これを圧力に換算することにより真空圧が測定される。
該二次電子増倍素子4は、前記したようにその表面が二次電子を放出しやすいベリリウム酸化物等の材料で作られており、そこに水、酸素、水素などが吸着したり、温度、湿度などの環境の変化や動作電圧が変化することなどが原因で、その検出効率や増幅率が大きく変化してしまい、正確な測定を行うにはその測定を停止して測定系の校正が必要になるが、本発明によれば、該二次電子増倍素子4を設置して使用開始する初期、即ちその表面が新鮮であるうちに、該イオン生成部3から放射される軟X線の光だけが該二次電子増倍素子4へ入射する条件のときの初期強度値Aを測定し、この値を真空圧の測定中に該光だけが該二次電子増倍素子4に入射する条件での強度値Bを該増倍素子4で測定してその比A/Bを求め、この値を補正係数として該素子4で測定した荷電粒子等の粒子の測定強度値に乗じることで、該素子4の検出効率や増幅率が変化しても正確な測定が行える。
これを更に説明すると、イオン生成部3では電子ビーム源8から加速放出される熱電子の衝撃により集電子電極6内の気体分子が電離し、測定目的物となる気体イオンが生成されるが、これと同時に該集電子電極6の表面が熱電子で衝撃されて軟X線の光が放出される。この光が直接或いは円筒電極2内で反射して二次電子増倍素子4に入射すると、光電効果により二次電子がその内部で放出され、これが測定目的のイオン以外の擬似的なイオン電流として計測される。この軟X線による擬似的なイオン電流強度は、真空容器内の真空圧力には依存せず、測定には雑音であって取り除かれるべきものであるが、図2に見られるように真空圧力計の感度すなわち二次電子増倍素子4の表面状態に直線的に比例するものであることが分かった。本発明は、この現象を利用して二次電子増倍素子4の表面状態等の変化で測定感度が変化する不都合を解消するもので、まず、真空圧力の測定可能な状態に或いは後記のような表面分析可能な状態に二次電子増倍素子4を設置した初期に、可変の直流電源16を調整して測定系の各電極3、9の電位を変え、該素子4にイオンが入射せず軟X線が入射するように制御すると、イオン生成部3で発生する光が該素子4に入射し、該光の強度が初期強度値Aとして測定できる。そして、イオン生成部3からイオンを該素子4へ導き、該素子4内で増幅される二次電子をパルスカウント法などにより計測し、圧力に換算して通常の真空圧力測定や表面分析などの測定を行う。測定環境や時間の経過で該素子4の検出効率や二次電子増幅率が変化するため、感度が変化して測定の正確さが失われてくるが、その測定中の適当な時期に該直流電源16を調整して該素子4にイオンが入射せず軟X線が入射するように制御すると、この時点に於ける軟X線の強度を測定することができる。その強度値Bと初期強度値Aの比A/Bは感度の比であり、これを補正係数としてそれ以後にイオンを入射させて真空圧力を測定したときの測定強度値に乗ずれば、感度の変化を補正した正確な真空圧力を求めることができる。この強度値Bは、電源16の電圧を一時的に変化させるだけで測定でき、補正係数を測定強度値に乗ずる演算は演算装置18を計測装置12に付設して行えるから、従来のように感度が変化した二次電子増倍素子を取り外して感度の再校正をする必要がなく、時間と費用が節約できる。尚、強度値Bは真空圧の測定に支障をもたらさない適当な時間をおいて頻繁に行うことが望ましい。
二次電子増倍素子はオージェ電子分光型、X線光電分光型、紫外光電子分光型、電子損失分光型、電子損失分光型などの表面分析法にも使用され、この場合も二次電子増倍素子の感度が変化すると正確な分析を行えなくなる不都合がある。表面分析の方法は、図3に示すように、真空中に置かれた試料19の表面にイオン生成部20から加速したイオン、電子、中性粒子、励起中性粒子、軟X線を衝突させ、該表面からその衝撃で放出されるイオン、電子、中性粒子、励起中性粒子、軟X線などの光を二次電子増倍素子21で捕捉して分析する方法で、この方法に於いて、該素子21の表面が新鮮な設置初期に、イオン生成部20から放射された或いは別個に設けた粒子源から軟X線を該表面に向けて放射し、初期強度値Aを計測しておく。このあと本来の表面分析、即ちイオン生成部20から該表面へイオン、電子、中性粒子、励起中性粒子、軟X線などの光を衝突させ、該表面から放射されるイオン、電子、中性粒子、励起中性粒子、軟X線を該素子21に入射させて表面分析する。そして、この表面分析中に、イオン生成部20を軟X線を該表面に向けて照射するように一時的に調整するか、或いは別個に設けた光源から軟X線を該表面に向けて照射し、該素子21でその時点に於いて検出できる測定強度Bを計測し、前記と同様にA/Bの補正係数を求め、その後に行われる表面分析の測定強度値にその補正係数を乗じることにより正確な表面分析が行える。尚、異なる種類の試料19を表面分析する場合、試料19を設置後、改めて表面分析を行う直前に、上記と同様の方法で初期強度値Aを測定しておき、表面分析中に同様の方法で補正係数を求めればよい。
本発明の方法は、図4に示した4極子型質量分析計の真空圧力計に適用することも可能であり、この場合は、イオンと共に軟X線を発生するイオン生成部22からイオン引出電極23によりイオンを引き出し、ロッド状の4極子24間を通過させることにより所定のイオンのみを二次電子増倍素子25へ入射させ、真空圧を測定するが、引出電極23と4極子24の電位を調整することにより、該素子25にイオン生成部22からイオンを除いて軟X線のみを入射させることができるので、前記と同様に該素子25を設置した初期と測定使用中に夫々軟X線のみを入射させて初期強度値Aと強度値Bを測定し、その比をイオンの測定強度値に補正係数として乗じることにより該素子25の感度の変化を補正して正確な真空圧を測定できる。
スパッタリング装置、真空蒸着装置、エッチング装置、アッシング装置、CVD装置、イオン注入装置、酸化拡散装置、分子線エピタキシャル装置などの真空処理装置には、製品の品質維持や品質向上のために真空圧力計や表面分析装置が組み込まれており、図1に示した構成の真空圧力計、或いは図3とこれに関連した説明に基づく表面分析装置をこのような真空処理装置に組み込むことにより、二次電子増倍素子の感度が変化しても正確な測定を行え、該真空処理装置の運転を停止することなく真空処理を続けることが可能になり、品質及び生産性を向上させることができる。図5は、ターゲット26をRF電極27に取り付け、基板28と対向して設けたスパッタリング装置に図1の構成の真空圧力計29を組み込んだ実施例であり、図6は、ヒータ30で加熱された基板31に各種元素のセルを備えた蒸発源32からの蒸発物質を蒸着する分子線エピタキシャル装置に図4の構成の4極子型質量分析計の真空圧力計33と図3及びこれに関連した説明の構成を有するオージェ電子分光表面分析装置34を組み込んだ実施例である。
2 円筒電極、3・20 イオン生成部、4・21 イオン検出部(二次電子倍増素子)、5 円盤電極、6 集電子電極、8 電子ビーム源、9 邪魔板、12 計測装置、13 イオン引出電極、16 可変の直流電源、19 試料、29・33 真空圧力計、31 基板、32 蒸発源、34 オージェ電子分光表面分析装置、