通信機器の通信感度をさらに増加させるためには、ループアンテナの無負荷Qを向上させるのはもちろんのこと、ループアンテナの大形化(体積の増加)が必要となる。
しかしながら、この種の近接非接触通信機器にあっては、携帯の利便性に対する要求からさらなる小形化が望まれており、このためループアンテナそのものの大形化による通信感度の増加を図ることは現実的でない。
そこで本発明は、アンテナの大形化によらず、通信感度の向上を容易に達成することができる近接非接触通信機器の提供を課題とする。
本発明は、回路基板に設置されたループ状のアンテナ(アンテナループ)を多重化することで上記の課題を解決する。すなわち本発明の近接非接触通信機器は、回路基板の板厚方向に離間したアンテナ面にそれぞれ配置されることで、回路基板の板厚方向に多重化された複数のアンテナループから構成されるアンテナを備える。
本発明の近接非接触通信機器によれば、そのアンテナが回路基板の板厚方向に多重化されたアンテナループから構成されているので、これらアンテナループはアンテナ全体の表面積を増加させ、アンテナを通過する磁束密度の増大に寄与する。
また回路基板にはアンテナ面に沿って磁性体が設けられているため、その磁束のヨーク効果によりアンテナループによるアンテナとしての感度を高めている。
アンテナループは、対応するアンテナ面内にて内外に複重(例えば2重,3重)をなす複数のアンテナトラックから形成することもできる。この場合、アンテナ全体の表面積をさらに増加させることができる。
上記の磁性体は、アンテナ面と平行なシートとして構成することができ、このようなシート状の磁性体は、回路基板の電気回路が形成される面とは反対側の面に配置することができる。
各アンテナ面は導体層から形成でき、この導体層はアンテナループを形成する導電パターンを有する。この場合、各アンテナループはスパイラル形状をなすことができ、このようなスパイラル形状は単位面積あたり、アンテナループの表面積を増加させる。
好ましくは、近接非接触通信機器は、各アンテナループにおける外周端同士及び内周端同士をそれぞれ互いに電気的に接続するスルーホールをさらに備える。このようなスルーホールは、個々のアンテナループの厚みが薄くても、アンテナ全体を立体的な導体と等価なものにし、アンテナを通過する磁束密度を増加させる。なお、ここでの導体の厚みは、回路基板の板厚方向でみて互いに最も離れたアンテナループ同士の間隔に相当する。
アンテナループのスパイラル形状は多角形状であってもよい。この場合、近接非接触通信機器は、各アンテナループ間にて対応する角部同士及び同一のアンテナ面内のアンテナトラック間にて対応する角部同士の少なくとも一方を互いに電気的に接続する接続部を有することができる。
上記の接続部は、多角形状のスパイラルを描くアンテナループの角部やアンテナトラックの角部にて発生するキャパシタ効果を低減する。
さらに、アンテナループの少なくとも一方は導電板及び導電箔の一方から形成することもでき、この場合、磁性体は各アンテナループ間に配置されている態様が好ましい。
本発明の近接非接触通信機器は、多重化されたアンテナループが回路基板の板厚方向に厚みを増加させた立体的なアンテナを構成するので、平面的な大形化を図ることなく全体としての表面積が増加し、この結果、アンテナループで構成されるアンテナ全体としての電磁波の放射性能が著しく向上し、その通信感度の向上を図ることができる。
また、各アンテナループが導電パターンから形成されていれば、近接非接触通信機器を簡単に製造することができる。しかも、アンテナループ自体もまた対応するアンテナ面内にて複重化されていれば、アンテナ全体の表面積をさらに増加させることができる。そして、ループアンテナ又はアンテナトラックが角部を有する場合、隣接する角部が互いに電気的に接続されていれば、アンテナ全体を通過する磁束密度をさらに高め、通信感度の向上にさらに寄与する。
〔第1実施形態〕 図1は、ICカードリーダ/ライタとして使用される第1実施形態の近接非接触通信機器を示している。
近接非接触通信機器は合成樹脂製の回路基板2を備える。この回路基板2の表面にはスパイラル形状をなしたアンテナ4が配置されている。第1実施形態の場合、アンテナ4のスパイラル形状は多角形(四角形)を基本としたものであり、その内端及び外端に接続ランド6,8が形成されている。アンテナ4は、接続ランド6,8を介して電気回路(図示しない)に電気的に接続される。この電気回路は回路基板2の表面に配置され、アンテナ4の給電機能をも有する。
図2は、アンテナ4の接続ランド8の近傍部分を拡大して示している。また図3は、図2中のIII−III線に沿う近接非接触通信機器の断面を示している。図3に示されるように、アンテナ4は回路基板2の板厚方向に多重化(ここでは二重化)されている。アンテナ4は、回路基板2の表面に露出した表面アンテナループ10と、回路基板2内に埋設された埋設アンテナループ12とを有する。これら表面及び埋設アンテナループ10,12はともに前述したスパイラル形状をなし、回路基板2の板厚方向でみて互いに重なり合っている。なお、接続ランド6,8は表面アンテナループ10の内端及び外端に連なっている(埋設アンテナループ12に接続ランドはない。)。
回路基板2は多層(積層)構造を有している。具体的には、回路基板2には埋設アンテナループ12を担持する下側基板層14aと、表面アンテナループ10を担持する上側基板層14bとが含まれる。これら下側基板層14a及び上側基板層14bは、いずれも回路基板2の表面に平行なアンテナ面を形成する。表面及び埋設アンテナループ10,12は、対応する基板層14a,14bのアンテナ面に形成された導電層、つまり導電パターンからなる。このような構成によれば、アンテナ4を簡単かつ容易に形成することができる。
図2及び図3に示されるように表面アンテナループ10の内端及び外端は埋設アンテナループ12の内端及び外端にそれぞれスルーホール16を介して電気的に接続されており、これらスルーホール16は、表面及び埋設アンテナループ10,12からなるアンテナ4をその全体として立体的な導体と等価なものにする。ここでのアンテナ4の厚みは、表面及び埋設アンテナループ10,12間の間隔に相当する。なお、図2及び図3には表面及び埋設アンテナループ10,12の内端同士を接続するスルーホール16のみが示されている。
さらに、図3に示されているように回路基板2の裏面には磁性体としての磁性シート18が張り付けられている。この磁性シート18はフェライトからなり、アンテナ4の領域をカバーする大きさを有するとともに、アンテナ4に対する磁束ヨークとして機能する。
図4は、近接非接触通信機器を用いた通信時の作用をモデル化して示している。図4に示されるように、第1実施形態の近接非接触通信機器に対して、例えばICカードCがそのアンテナAと非接触に
して近接された場合を想定する。この場合、アンテナ4が生成する磁束Bにより、近接非接触通信機器のアンテナ4とICカードCのアンテナAとが互いに電磁結合されることで、両者間での無線通信が行われる。
さらに、近接非接触通信機器は磁性シート18を備えているので、磁性シート18はアンテナ4ための磁束ヨークとして機能し、アンテナ4を通過する磁束Bの密度を増加させる効果をもたらす。
しかも、磁性シート18の存在に加えて、アンテナ4は多重化された表面及び埋設アンテナループ10,12から構成されているので、アンテナ4の表面的な大形化を招くことなく、全体としてアンテナ4の表面積を増加させることができる。さらに、アンテナ4は立体形状の導体と等価であるから、アンテナ4を通過する磁束Bの密度をさらに増大させることができる。この結果、近接非接触通信機器の通信感度は著しく向上する。
次に、第2〜第5実施形態の近接非接触通信機器について説明する。なお、第2〜第5実施形態を説明するにあたり、第1実施形態で挙げた部材及び部位、又は既に説明した部材及び部位と同様な機能を発揮する部材及び部位には同一参照符号を付し、それらの説明は省略する。
〔第2実施形態〕 図5及び図6は、第2実施形態の近接非接触通信機器を示している。第2実施形態の場合、表面及び埋設ループアンテナ10,12は、それぞれ対応する基板層14(アンテナ面)上にて複重化(ここでは2重化)されている。具体的には、内外の2条のアンテナトラック20a,20bから各1つのアンテナループ10,12が構成されている。これら2条のアンテナトラック20a,20b同士の間隔はアンテナ4のスパイラル形状に沿って一定となっている。
第2実施形態の近接非接触通信機器におけるアンテナ4についても、第1実施形態の場合と同様に通信時における磁束密度を増大することができる。また、回路基板2はこれを多層(積層)構造にすることで、アンテナ4を容易かつ簡単に形成することができる。また第2実施形態では、第1実施形態の場合に比較して、アンテナ4の表面積の増大をさらに図り、通信感度をさらに高めることができる。
〔第3,第4実施形態〕 図7は第3実施形態の近接非接触通信機器を示している。第3実施形態の場合、アンテナ4は、回路基板2の板厚方向に隣接する表面及び埋設アンテナループ10,12の角部同士を互いに電気的に接続するスルーホール等の接続部22をさらに有する。
次に図8は、第4実施形態の近接非接触通信機器を示している。第4実施形態の場合、同じアンテナ面内でアンテナトラック20a,20bの対応する角部同士を互いに電気的に接続する接続部24が追加されている。
図7に示される接続部22(第3実施形態)及び図8に示される接続部24(第4実施形態)は、アンテナ4の角部に生じるキャパシタ作用(浮遊容量)を解消し、アンテナ4を通過する磁束Bの密度低下を阻止する働きをする。なお、アンテナ4は接続部22,24のいずれか一方又は両方を備えることができる。
また第3,第4実施形態の近接非接触通信機器についても、第1実施形態と同様に通信時の磁束密度を増大し、通信感度を高めることができる。
〔第5実施形態〕 図9は第5実施形態の近接非接触通信機器の構造例を示す断面図である。第5実施形態の場合、アンテナ4は、回路基板2の表面及び裏面に配置されたアンテナループ26,28から構成される。これらアンテナループ26,28の少なくとも一方は導電板又は導電箔からなる。すなわち、第5実施形態の場合にも、回路基板2は上下の基板層14a,14bからなり、これら基板層14a,14b間に磁性シート18が挟み込まれている。
第5実施形態の近接非接触通信機器もまた第1実施形態と同様な利点を発揮する。なお、第5実施形態におけるアンテナ4にあっても、第1〜第4実施形態が有する手段を単独又は組み合わせて含むことができることは言うまでもない。
本発明の発明者等は、上述した第1〜第5実施形態の近接非接触通信機器を本発明に共通の実施例とし、これを従来の近接非接触通信機器と比較したデータを採取した。
図10は、アンテナ4を通過する磁束Bの通過特性に関して、共通実施例の近接非接触通信機器と従来の近接非接触通信機器とを磁性シートの厚みを変えて比較したグラフを示す。なお、図中に「従来」とあるのは、回路基板の表面のみにアンテナループが設けられた近接非接触通信機器に関する特性を示す。また非磁性体とあるのは、磁性シートを備えていない場合の近接非接触通信機器の特性を示している。
図10を用いた実施例と従来との比較から明らかなように、磁性体の厚さに依存して通過特性は変わるものの、磁性体の厚さが同一であれば、実施例の通過特性の方が従来に比較して常に高いことが認められる。
本発明は上述した各実施形態に制約されることなく、種々に変形や置換を伴って実施することができる。例えば、第1〜第5実施形態では何れも2重化されたアンテナループを備えているが、アンテナループは3重化以上に多重化されていてもよい。また、複重のアンテナトラックを備える場合についても、3重化以上に複重化されていてもよい。
2 回路基板 4 アンテナ 10 表面アンテナループ 12 埋設アンテナループ 14a 下側基板層 14b 上側基板層 16 スルーホール 18 磁性シート(磁性体) 20a アンテナトラック 20b アンテナトラック 22 接続部 24 接続部 26 アンテナループ 28 アンテナループ