図1(a)〜(d)は、それぞれ、液晶マザー基板等の貼り合わせガラス基板を所望の裁断位置にて裁断する従来の手順の一例として、液晶マザー基板の第1の分断方法を、工程毎に説明する断面図である。なお、以下の説明では、便宜上、液晶マザー基板である一対のガラス基板を互いに対向して貼り合わせて形成される貼り合わせガラス基板の一方側のガラス基板をA面ガラス基板、他方側のガラス基板をB面ガラス基板とする。
(1)まず、図1(a)に示すように、貼り合わせガラス基板1のA面ガラス基板を上側にして、貼り合わせガラス基板1を第1のスクライブ装置上に載置し、A面ガラス基板に対して、ガラスカッターホィール2を用いてスクライブしてスクライブラインSaを形成する。
(2)次に、A面ガラス基板にスクライブラインSaを形成した貼り合わせガラス基板1の表裏を反転させて、第2のスクライブ装置に搬送する。そして、この第2のスクライブ装置にて、図1(b)に示すように、貼り合わせガラス基板1のB面ガラス基板に対して、ガラスカッターホィール2を用いてスクライブして、スクライブラインSbをスクライブラインSaに平行に形成する。なお、液晶マザー基板では、複数の液晶パネルが形成され、この各液晶パネルが形成される一方のガラス基板の側縁部上に端子を形成する必要があるために、B面ガラス基板に形成されるスクライブラインSbは、A面ガラス基板に形成されたスクライブラインSaと、水平方向にスクライブ位置が互いにずれるように形成されることが多い。
(3)次に、A面ガラス基板及びB面ガラス基板のそれぞれにスクライブラインSa及びSbが形成された貼り合わせガラス基板1を、A面ガラス基板及びB面ガラス基板の上下を反転させることなく、B面ガラス基板を上側にして、第1のブレイク装置に搬送する。この第1のブレイク装置では、図1(c)に示すように、貼り合わせガラス基板1は、マット4上に載置され、貼り合わせガラス基板1のB面ガラス基板に対して、ブレイクバー3をA面ガラス基板に形成されたスクライブラインSaに沿って押し付ける。これにより、下側のA面ガラス基板は、スクライブラインSaから上方に向かってクラックが伸長し、A面ガラス基板は、スクライブラインSaに沿ってブレイクされる。
(4)次に、A面ガラス基板がブレイクされた貼り合わせガラス基板1を、A面ガラス基板及びB面ガラス基板の上下を反転させて、A面ガラス基板を上側にして、第2のブレイク装置に搬送する。この第2のブレイク装置では、図1(d)に示すように、貼り合わせガラス基板1は、マット4上に載置され、貼り合わせガラス基板1のA面ガラスに対して、ブレイクバー3をB面ガラス基板に形成されたスクライブラインSbに沿って押し付ける。これにより、下側のA面ガラス基板は、スクライブラインSbに沿ってブレイクされる。
上記(1)〜(4)の各工程を実施することにより、貼り合わせガラス基板1は、所望の位置にて2つに分断される。
上記の工程(3)及び(4)で示されているように、上側に位置するガラス基板にブレイクバー3が押し付けられることによって、下側のガラス基板がブレイクされる。例えば、図1(c)に示すように、上側のB面ガラス基板に、ブレイクバー3を押し付けると、A面ガラス基板及びB面ガラス基板は、ブレイクバー3の押し付けられた部分が下方に撓んだ状態になり、A面ガラス基板に生じていたスクライブラインSaの垂直方向の亀裂(垂直クラック)を両側へ広げる向きに力が加わる。これにより、その垂直クラックが上方に伸長して、A面ガラス基板の上部に達することにより、A面ガラス基板が分断される。一方、上側のB面ガラス基板に形成されたスクライブラインSbには、下側のガラス基板の場合と反対に、亀裂(垂直クラック)を両側から抑え込む力が作用するため、上側のB面ガラス基板はブレイクされない。
工程(3)及び(4)にて実施されるブレイク工程において、例えば、図1(c)に示すように、下面側のA面ガラス基板のスクライブラインSaでの垂直クラックの深さが浅いと、A面ガラス基板をブレイクするために比較的大きな押し付け力を加えることが必要となる。しかしながら、ブレイクバー3による押し付け力が強過ぎる場合には、上側のB面ガラス基板が同時にブレイクされるおそれがある。この場合、下側のA面ガラス基板では、垂直クラックがほぼ垂直方向に延びてブレイクが進むため問題を生じないが、上側のB面ガラス基板では、ブレイクバー3により押し付ける力が加えられる位置と、B面ガラス基板に形成されたスクライブラインSbの位置とが異なっており、上側のB面ガラス基板をブレイクするような向きの力が作用しないため、斜め方向の分断面が形成されるおそれがある。また、亀裂の部分が互いに衝突して、その箇所に欠け(水平クラック)が生じるおそれもある。このような斜め方向の分断面、欠け等が発生した貼り合わせガラス基板は、液晶パネルとしての商品価値が消失する。
そこで、本願出願人は、特開平6−48755号公報の「貼り合わせガラス基板の裁断方法」にて、このような問題を解決することのできる脆性基板の分断方法を提案した。
図2(a)〜(d)は、それぞれ、この公報に記載された脆性材料を分断する第2の分断方法について、工程毎に説明する断面図である。以下、図2(a)〜(d)に基づいて、この公報に記載された方法について説明する。なお、以下の説明では、上記図1(a)〜(d)と同様、便宜上、液晶マザー基板である一対のガラス基板を互いに対向して貼り合わせて形成される貼り合わせガラス基板の一方側のガラス基板をA面ガラス基板、他方側のガラス基板をB面ガラス基板とする。
(1)まず、図2(a)に示すように、貼り合わせガラス基板1のA面ガラス基板を上側にして、第1のスクライブ装置上に載置し、A面ガラス基板に対して、ガラスカッターホィール2を用いてスクライブラインSaを形成する。
(2)次に、A面ガラス基板にスクライブラインSaを形成した貼り合わせガラス基板1の表裏を反転させて、第1のブレイク装置に搬送する。この第1のブレイク装置では、図2(b)に示すように、貼り合わせガラス基板1は、マット4上に載置され、貼り合わせガラス基板1のB面ガラス基板に対して、ブレイクバー3をA面ガラス基板に形成されたスクライブラインSaに沿って押し付ける。これにより、下側のA面ガラス基板では、スクライブラインSaから上方に向かってクラックが伸長し、A面ガラス基板はスクライブラインSaに沿ってブレイクされる。
(3)次に、A面ガラス基板がブレイクされた貼り合わせガラス基板1を、A面ガラス基板及びB面ガラス基板の表裏を反転させることなく、第2のスクライブ装置に搬送する。そして、この第2のスクライブ装置にて、図2(c)に示すように、貼り合わせガラス基板1のB面ガラス基板に対して、ガラスカッターホィール2を用いてスクライブして、スクライブラインSbをスクライブラインSaに平行に形成する。なお、液晶マザー基板では、複数の液晶パネルが形成され、この各液晶パネルが形成される一方のガラス基板の側縁部上に端子を形成する必要があるために、B面ガラス基板に形成されるスクライブラインSbは、A面ガラス基板に形成されたスクライブラインSaと、水平方向にスクライブ位置が互いにずれるように形成されることが多い。
(4)次に、その貼り合わせガラス基板1の表裏を反転させて、A面ガラス基板を上側にして、第2のブレイク装置へ搬送する。この第2のブレイク装置では、図2(d)に示すように、貼り合わせガラス基板1は、マット4上に載置され、貼り合わせガラス基板1のA面ガラス基板に対して、B面ガラス基板に形成されたスクライブラインSbの対向する部分に、ブレイクバー3をスクライブラインSbに沿って押し付ける。これにより、下側のB面ガラス基板は、スクライブラインSbに沿ってブレイクされる。
上記(1)〜(4)の各工程を実施することにより、貼り合わせガラス基板1は、所望の位置にて分断される。
この脆性材料の第2の分断方法では、工程(2)及び(4)に示されるように、ブレイク工程時には、ブレイク対象となる下側のガラス基板にはスクライブラインが形成されているが、上側のガラス基板にはスクライブラインが存在しないため、下側のガラス基板と同時に、上側のガラス基板がブレイクされることはない。このため、前述の図1(a)〜(d)にて示す第1の分断方法で問題となっている斜め方向の分断面、欠け等が発生するおそれは解消される。
図3には、この第1及び第2の分断方法に使用されるガラスカッターホィール2の回転軸に直交する方向から見た側面図を示している。このガラスカッターホィール2は、ホィール径φ、ホイール厚Wのディスク状とされ、ホィールの周囲に鈍角の刃先角αの刃先が形成されている。
本願出願人は、特開平9−188534号公報の「ガラスカッターホイール」にて、上記図3に示されるガラスカッターホィール2を改良して、さらに、深い垂直クラックを形成することのできるガラスカッターホィールを開示している。
図4は、この公報に記載のガラスカッターホィールの回転軸に沿う方向から見た側面図を示している。
このガラスカッターホィール5は、ホィールの周囲に形成された刃先の稜線部に凹凸を形成している。即ち、刃先の稜線部5aに、U字状もしくはV字状の溝5bが形成されている。この溝5bは、平坦な稜線部5aから深さhに、ピッチP毎に切り欠くことにより形成されている。このような溝5bが形成されていることにより、高さhの突起jがピッチPの間隔毎に形成された形状を有している。
また、図4では、ガラスカッターホィールの稜線部に形成される溝を分かり易くするために、溝を大きくして描いているが、実際には、この溝は、肉眼で見ることができないミクロンオーダーのサイズである。
下記の表1には、ホィール径φ、ホィール厚W等の具体的な数値を示しており、一例として、タイプ1とタイプ2の2種類を示している。
このような稜線部に凹凸が形成されたガラスカッターホィール5は、スクライブ性能、即ち、垂直クラックを形成する能力を飛躍的に向上させることができ、このガラスカッターホィール5を用いてスクライブを行えば、スクライブ時にガラス下面付近にまで到達するような深い垂直クラックを得ることができる。
特開平6−48755号公報
特開平9−188534号公報
図5は、本実施の形態1のガラスカッターホィール6を示す側面図である。
このガラスカッターホィール6は、図5に示すように、刃先稜線部を溝が形成された領域Aと溝が形成されていない領域Bとを有するものとしている。
このような溝が形成された領域Aの稜線部の全周(A領域+B領域)に対する比率(以下、全周に対する領域Aの比率と称する)は、ガラスカッターホィール6の稜線に溝を形成する加工性を考慮すると、3/4以下であることが好ましい。このような比率であれば、溝を形成するための加工に長時間を要することがなく、加工性に優れたものとすることができる。
また、全周に対する領域Aの比率3/4以下であって、1/4より大きい範囲であると、後述の図7に示すような、周期的に深さが変化する垂直クラックが得られる。ただし、全周に対する領域Aの比率がこのような範囲である場合には、上記の周期的なクラックを得るためには、限られた条件にすることが必要になる。
これに対して、全周に対する領域Aの比率が1/4以下の範囲にすると、広い条件で安定して周期的に深さが変化する垂直クラックが得られる。全周に対する領域Aの比率が、この範囲に設定されていると、スクライブラインを形成した脆性基板を搬送する場合に、搬送途中で分断して落下等の問題が生じることを防ぐために適している。
稜線部のA領域に形成される溝6bは、ミクロンオーダーで意図的に周期的に加工されたものであり、刃先稜線を形成する研削加工の際に、必然的に形成されるサブミクロンオーダーの研磨条痕とは区別される。
図6は、実施の形態1のガラスカッターホィールの他の例を示しており、(a)は、刃先全周を6領域に区分して、領域Aと領域Bとが交互に形成されるように設定したものである。(b)は、刃先全周を8領域に区分して、領域Aと領域Bとを交互に形成されるように設定したものである。
図6(b)では、溝が形成された領域AがA1〜A4の複数の領域にわたって形成され、溝が形成されていない領域BがB1〜B4の複数の領域にわたって形成されている。各領域A1〜A4及びB1〜B4の長さは、例えば、
A1=A2=A3=A4 A1+A2+A3+A4=A
B1=B2=B3=B4 B1+B2+B3+B4=B
A/B=1
となるように設定される。この場合、各領域A1〜A4が全て等しく、また、B1〜B4が全て等しくなっている。また、A/B=1となっているので、領域Aの全周に対する比率は、2/4となっている。
また、別の例では、
A1=A2≠A3≠A4 A1+A2+A3+A4=A
B1=B2≠B3≠B4 B1+B2+B3+B4-=B
A/B=1
となるように設定される。この場合、各領域A1〜A4及びB1〜B4で、A3及びA4が、A1及びA2と異なっており、また、B3及びB4が、B1及びB2と異なっている。また、全体として、A/B=1となっているので、領域Aの全周に対する比率は、2/4となっている。
さらに他の例では、
A1=A2≠A3≠A4 A1+A2+A3+A4=A
B1=B2≠B3≠B4 B1+B2+B3+B4=B
A/B=3/1
となるように設定される。この場合、各領域A1〜A4及びB1〜B4で、A3及びA4が、A1及びA2と異なっており、また、B3及びB4が、B1及びB2と異なっている。また、全体として、A/B=3/1となっているので、領域Aの全周に対する比率は、3/4となっている。
このガラスカッターホィール6は、このホィール6に挿通される軸と一体的に形成されてもよい。一体的に形成する方法としては素材よりホィールと軸とを一体に研削加工する方法、刃先と軸とを接着および/またはロー付けする方法等が用いられる。
図7は、上記のガラスカッターホィール6を用いてガラス基板にスクライブラインを形成した場合にガラス基板に発生する垂直クラックを概略的に示す模式図である。
ガラスカッターホィール6を用いたスクライブにより生じるスクライブラインは、ガラスカッターホィールの稜線部において、溝が形成されたA領域により形成されたスクライブラインSAと、溝が形成されていないB領域により形成されたスクライブラインSBとで、垂直クラックの深さが異なっており濃淡が確認された。即ち、クライブラインSAでは、稜線部に形成された凹凸により深い垂直クラックDAが形成され、スクライブラインSBでは、稜線部に凹凸が形成されていないため、浅い垂直クラックDBが形成されることが確認された。
このように、本実施形態1のガラスカッターホィール6を用いたスクライブでは、垂直クラックの深さが周期的に変化していることから、本実施の形態1では、そのスクライブ性能は、図2の従来のガラスカッターホィール2におけるスクライブ性能と図4のガラスカッターホィール5におけるスクライブ性能との中間になることがわかる。さらに、ガラスカッターホィールの全周に対して、溝が形成された領域Aと溝が形成されていない領域Bとの比率を適宜変更することにより、所望のスクライブ特性を得ること、すなわち、ガラス基板を分断するための所望の垂直クラックのライン(スクライブライン)が得られる。
以下、本実施の形態1のガラスカッターホィールの具体例を示す実施例1〜5について説明する。
(実施例1)
図10に実施例1のガラスカッターホィールの形態を示し、下記の表2には、本実施例1のガラスカッターホィールのホィール径等の寸法を示している。
本実施例1のガラスカッターホィ−ル6は、稜線部の全周長さの1/10(8分割/80分割)の部分に一箇所、同じ深さの溝(7μm)が連続して形成されるように設定している。
このガラスカッターホィール6を用いて、厚み0.7mmの無アルカリガラスに対して、刃先荷重0.16〜0.40MPa、スクライブ速度400mm/sとして、スクライブを行った。この実施例1のガラスカッターホィール6を用いたスクライブでは、図7に示すように、垂直クラックの深さが周期的に変化するスクライブラインが形成され、0.18MPaの荷重を用いた場合、図7の深い垂直クラックDAは、約400μm、浅い垂直クラックDBは、約100μmとなった。
(実施例2)
図11に実施例2のガラスカッターホィール6の形態を示し、下記の表3には、図3のガラスカッターホィールのホィール径等の寸法を示している。
本実施例2のガラスカッターホィ−ル6は、稜線部の全周長さの1/10(8分割/80分割)の長さに、二箇所にわたって、同じ深さの溝(7μm)が連続して形成された領域A1及びA2を設けている。各溝が形成された領域はA1及びA2は、ガラスカッターホィール6の中心軸を挟んで反対側になるように設定されている。
このガラスカッターホィール6を用いて、厚み0.7mmの無アルカリガラスに対して、刃先荷重0.16〜0.40MPa、スクライブ速度400mm/sとして、スクライブを行った。この実施例2のガラスカッターホィール6を用いたスクライブでは、図7に示すように、垂直クラックの深さが周期的に変化するスクライブラインが形成され、0.20MPaの荷重を用いた場合、図7の深い垂直クラックDAは、約400μm、浅い垂直クラックDBは、約100μmとなった。
(実施例3)
図12に実施例3のガラスカッターホィール6の形態を示し、下記の表4には、本実施例3のガラスカッターホィール6のホィール径等の寸法を示している。
本実施例3のガラスカッターホィ−ル6は、稜線部の全周長さの1/10(8分割/80分割)の長さに、三箇所にわたって、同じ深さの溝(7μm)が連続して形成された領域A1及びA2及びA3を設けている。領域A1及びA2及びA3は、それぞれ、均等な間隔となるように設定されている。
このガラスカッターホィール6を用いて、厚み0.7mmの無アルカリガラスに対して、刃先荷重0.16〜0.40MPa、スクライブ速度400mm/sとして、スクライブを行った。この実施例3のガラスカッターホィール6を用いたスクライブでは、図7に示すように、垂直クラックの深さが周期的に変化するスクライブラインが形成され、0.20MPaの荷重を用いた場合、図7の深い垂直クラックDAは、約400μm、浅い垂直クラックDBは、約100μmとなった。
(実施例4)
図13に実施例4のガラスカッターホィール6の形態を示し、下記の表5には、本実施例4のガラスカッターホィール6のホィール径等の寸法を示している。
本実施例4のガラスカッターホィ−ル6は、稜線部の全周長さの1/10(8分割/80分割)の長さに、一箇所にわたって、連続して溝が形成された領域A1を設けている。この領域Aには、7つの溝が形成されており、各溝の深さはそれぞれ異なっており、順に、3、5、7、7、7、5、3μmになるように設定されている。
このガラスカッターホィール6を用いて、厚み0.7mmの無アルカリガラスに対して、刃先荷重0.16〜0.40MPa、スクライブ速度400mm/sとして、スクライブを行った。この実施例4のガラスカッターホィール6を用いたスクライブでは、図7に示すように、垂直クラックの深さが周期的に変化するスクライブラインが形成され、0.22MPaの荷重を用いた場合、図7の深い垂直クラックDAは、約400μm、浅い垂直クラックDBは、約100μmとなった。
(実施例5)
図14に実施例5のガラスカッターホィール6の形態を示し、下記の表6には、本実施例5のガラスカッターホィール6のホィール径等の寸法を示している。
本実施例5のガラスカッターホィ−ル6は、稜線部の全周を106分割して、全周にわたって、3、5、7、7、7、5、3μmの深さの溝が、この順に、繰り返して形成されるように設定されている。
このガラスカッターホィール6を用いて、厚み0.7mmの無アルカリガラスに対して、刃先荷重0.16〜0.40MPa、スクライブ速度400mm/sとして、スクライブを行った。この実施例5のガラスカッターホィール6を用いたスクライブでは、図7に示すように、垂直クラックの深さが周期的に変化するスクライブラインが形成され、0.29MPaの荷重を用いた場合、図7の深い垂直クラックDAは、約400μm、浅い垂直クラックDBは、約100μmとなった。
さらに、上記実施例1〜5の結果により、複数個にわたって形成されている各溝のピッチは、1〜20mmのホィール径に応じて20〜200μmであることが好ましく、また、複数個の溝の深さは、1〜20mmのホイール径に応じて、2〜200μmであることが好ましいことが明らかになっている。
上記した本発明のカッターホィールの説明に用いた図においては、カッターホィールの稜線に形成される溝を分かり易くするために、溝を大きく描いているが、実際には、この溝は、肉眼で見ることができないミクロンオーダのサイズである。
次に、本実施の形態1のガラスカッターホィール6を備えた分断装置を用いて貼り合わせガラス基板1を分断する方法について説明する。なお、以下の説明にて使用されるスクライブ装置は、ガラス板が載置されるテーブルがθ回転し、かつカッターヘッドに対して相対的にX方向及び/またはY方向に移動する機構を備えるスクライブ装置を用いている。
図19及び図20に一例として、テーブルがθ回転し、かつ、Y方向に移動し、カッターヘッドがX方向に移動するスクライブ装置を示しており、図19は、その正面図、図20は、その側面図である。
図19及び図20に示すように、このスクライブ装置は、ガラス板を載置するテーブル41を有している。このテーブル41は、回転テーブル42により、水平方向に回転可能に支持されていると共に、ボールネジ44を回転させることにより、Y方向(図19中、左右方向)に移動可能になっている。また、上記の本発明のガラスカッターホィール11を回転自在に軸着したカッターヘッド46が、レール47に沿って、X方向(図20中、左右方向)に移動可能に支持されている。
このスクライブ装置を用いてスクライブを行う際には、テーブル41を所定ピッチでY方向に移動させる毎に、カッターヘッド46をX方向に移動させることにより、テーブル41に載置されたガラス板は、X方向にスクライブされる。この後、回転テーブル42によりテーブル41を90°回転させて、同じようにスクライブを行えば、ガラス板は、先に形成されたスクライブに直交するスクライブを形成することができる。
なお、上記のスクライブ装置において、43は、テーブル41をY方向に移動させるためのテーブル送りモータ、45は、回転テーブル42をY方向移動可能に支持するためのレール、48は、回転可能に支持されたガラスカッターホィール11を回転させるためのカッター軸モータ、49及び50は、テーブル41上でスクライブされるガラス基板をモニタするためのCCDカメラ、51は、そのCCDカメラ49及び50を支持するカメラ支持金具を、それぞれ示している。
図8(a)〜(c)は、それぞれ、本実施の形態1のガラスカッターホィール6を備えた分断装置を用いて貼り合わせガラス基板1を分断する方法を、工程毎に説明する断面図である。なお、以下の説明では、便宜上、液晶マザー基板である一対のガラス基板を互いに対向して貼り合わせて形成される貼り合わせガラス基板の一方側のガラス基板をA面ガラス基板、他方側のガラス基板をB面ガラス基板とする。
(1)まず、図8(a)に示すように、貼り合わせガラス基板1のA面ガラス基板を上側にして、貼り合わせガラス基板1を第1のスクライブ装置上に載置し、A面ガラス基板に対して、ガラスカッターホィール5を用いてスクライブしてスクライブラインSaを形成する。この第1のスクライブ装置は、図4に示した全周に溝を有するガラスカッターホィール5を使用しており、このガラスカッターホィール5を用いて形成されるスクライブラインSaは、図中Vaで示すように、A面ガラスの下面付近にまで到達するような深い垂直クラックが形成されている。
(2)次に、A面ガラス基板にスクライブラインSaを形成した貼り合わせガラス基板の表裏を反転させて、第2のスクライブ装置に搬送する。そして、この第2のスクライブ装置にて、図8(b)に示すように、貼り合わせガラス基板1のB面ガラスに対して、ガラスカッターホィール6を用いてスクライブして、スクライブラインSaに平行に、スクライブラインSbを形成する。この第2のスクライブ装置は、実施例1〜5のいずれかに記載されたガラスカッターホィール6を使用しており、このガラスカッターホィール6を用いて形成されるスクライブラインSbは、浅く形成された部分と深く形成された部分が交互に周期的に変化する垂直クラックVbが形成される。なお、液晶マザー基板では、複数の液晶パネルが形成され、この各液晶パネルが形成される一方のガラス基板の側縁部上に端子を形成する必要があるために、B面ガラス基板に形成されるスクライブラインSbは、A面ガラス基板に形成されたスクライブラインSaと、水平方向にスクライブ位置が互いにずれるように形成されることが多い。
(3)次に、A面ガラス基板及びB面ガラス基板のそれぞれにスクライブラインSa及びSbが形成された貼り合わせガラス基板1を、A面ガラス基板及びB面ガラス基板の上下を反転させて、A面ガラス基板を上側にして、ブレイク装置に搬送する。このブレイク装置では、図8(c)に示すように、貼り合わせガラス基板1は、マット4上に載置され、貼り合わせガラス基板1のA面ガラス基板に対して、ブレイクバー3をB面ガラス基板に形成されたスクライブラインSbに沿って押し付ける。これにより、下側のB面ガラス基板は、スクライブラインSbから上方に向かってクラックが伸長し、B面ガラス基板は、スクライブラインSbに沿ってブレイクされる。
上記(1)〜(3)の工程を順次行うことにより、貼り合わせガラス基板1は、分断される。
既述したように本発明のガラスカッターホィール6によるスクライブでは、浅く形成された部分と深く形成された部分が交互に周期的に変化する垂直クラックVbが形成され、垂直クラックVbがガラス基板の厚み方向に完全に貫通した状態とはならない。このため、上記の工程(2)において、第2のスクライブ装置からブレイク装置に、貼り合わせガラス基板1を搬送する途中で、A面ガラス基板が完全に分断された状態になっていても、A面ガラス基板が、B面ガラス基板に貼り合わされた状態になっているため、貼り合わせガラス基板1が分離するおそれはない。
図9(a)〜(d)は、それぞれ、本実施の形態1のガラスカッターホィール6を備えた分断装置を用いて貼り合わせガラス基板1を分断する第2の方法を、工程毎に説明する断面図である。なお、以下の説明では、便宜上、液晶マザー基板である一対のガラス基板を互いに対向して貼り合わせて形成される貼り合わせガラス基板の一方側のガラス基板をA面ガラス基板、他方側のガラス基板をB面ガラス基板とする。
(1)まず、図9(a)に示すように、貼り合わせガラス基板1のA面ガラス基板を上側にして、貼り合わせガラス基板1を第1のスクライブ装置上に載置し、A面ガラス基板に対して、ガラスカッターホィール2を用いてスクライブしてスクライブラインSaを形成する。このガラスカッターホィールを用いて形成される垂直クラックVaは、ガラス基板の下面近傍に達するような深い垂直クラックとはならない。
(2)次に、A面ガラス基板にスクライブラインSaを形成した貼り合わせガラス基板1の表裏を反転させて、第1のブレイク装置に搬送する。この第1のブレイク装置では、図9(b)に示すように、貼り合わせガラス基板1は、マット4上に載置され、貼り合わせガラス基板1のB面ガラス基板に対して、ブレイクバー3をA面ガラス基板に形成されたスクライブラインSaに沿って押し付ける。これにより、下側のA面ガラス基板は、スクライブラインSaから上方に向かってクラックが伸長し、A面ガラス基板は、スクライブラインSaに沿ってに沿ってブレイクされる。
(3)次に、A面ガラス基板が分断された貼り合わせガラス基板1を、A面ガラス基板及びB面ガラス基板の表裏を反転させることなく、第2のスクライブ装置に搬送する。そして、この第2のスクライブ装置にて、図9(c)に示すように、貼り合わせガラス基板のB面ガラス基板に対して、ガラスカッターホィール6を用いてスクライブして、スクライブラインSbをスクライブラインSaに平行に形成する。なお、液晶マザー基板では、複数の液晶パネルが形成され、この各液晶パネルが形成される一方のガラス基板の側縁部上に端子を形成する必要があるために、B面ガラス基板に形成されるスクライブラインSbは、A面ガラス基板に形成されたスクライブラインSaと、水平方向にスクライブ位置が互いにずれるように形成されることが多い。
(4)次に、その貼り合わせガラス基板1の表裏を反転させて、A面ガラス基板を上側にして、第2のブレイク装置に搬送する。この第2のブレイク装置では、図9(d)に示すように、貼り合わせガラス基板は、マット4上に載置され、貼り合わせガラス基板1のA面ガラス基板に対して、ブレイクバー3をB面ガラス基板に形成されたスクライブラインSbに沿って押し付ける。これにより、下側のB面ガラス基板は、スクライブラインSbから上方に向かってクラックが伸長し、B面ガラス基板は、スクライブラインSbに沿ってに沿ってブレイクされる。工程(3)でのB面ガラス基板へのスクライブラインSbの形成による垂直クラックを、図9(d)において、Vbで示している。
上述のように、本発明のガラスカッターホィール6によるスクライブでは、浅く形成された部分と深く形成された部分が交互に周期的に変化する垂直クラックVbが形成され、垂直クラックVbがガラス基板の厚み方向に完全に貫通した状態とはならない。このため、上記の工程(4)において、第2のスクライブ装置から第2のブレイク装置に、貼り合わせガラス基板1を搬送する途中で、A面ガラス基板が完全に分断された状態になっていても、B面ガラス基板が分断された状態にはならず、貼り合わせガラス基板1が分断するおそれはない。
上記においては、貼り合わせガラス基板のスクライブ方法について説明したが、特別な場合として、他の脆性材料を本願発明のスクライブ方法を用いてスクライブしてもよく、この場合においても、他の脆性材料に浅い形成された部分と深く形成された部分とが周期的に変化するように垂直クラックを形成することができる。そして、このような周期的に深さが異なる垂直クラックを形成することで、脆性材料を搬送途中に完全分断が生じることなく、次工程に送ることが可能になる。
次に、図5に示すような刃先稜線部に凹凸が形成されたガラスカッターホィール6を製造するためのガラスカッターホィール製造装置について説明する。
図15は、本実施の形態2のガラスカッターホィール製造装置の概略構成を示す平面図である。
このガラスカッターホィール製造装置10は、稜線部に刃先が形成されたガラスカッターホィールに対して、刃先の稜線部を研削することにより、刃先に凹凸を形成するための構成を備えている。
このガラスカッターホィール製造装置10は、スピンドルモータ11によって回転自在に支持されて固定されている砥石12が配置されたハウジング13を有し、このハウジング13の前面には、研削対象となるガラスカッターホィールを搬出入するために開放可能になっている扉部14が設けられている。この扉部14は、安全扉になっており、ガラスカッターホィールの研削中に、開放された場合には、研削工程が中断するような安全制御装置(図示しない)が設けられている。
このハウジング13の内部には、砥石12に対して、接近または離間することができるように、研削機構15が設けられている。研削機構15の砥石12に対する接近及び離間は、送り用モータ18によって操作される。この送り用モータ18は、図示しないボールネジを回転させることによって、研削機構15を所定の位置に送り及び戻しを調整することができるようになっている。
研削機構15は、研削時にガラスカッターホィールを支持するホィール支持部19を有している。このホィール支持部19の後部には、ガラスカッターホィールを予め設定された角度回転させる刃先回転用モータ20が設けられている。また、研削機構15には、水平方向アライメント用ハンドル21及び垂直方向アライメント用ハンドル22が設けられており、これらによって、水平方向及び垂直方向のアライメントが手動または図示しない制御機構にて自動で調整される。
ハウジング13の外部には、研削機構15の位置及び動作を制御するための制御装置25が設けられている。また、この制御装置25には、研削機構15によるガラスカッターホィールの研削条件を指定するための操作部26が設けられる。
この操作部26には、例えば、図16に示すようなタッチパネル30が形成される。図16に一例として示すタッチパネル30では、装置全体の各種運転モード、設定条件、警報等の指定条件等が表示されるタッチパネル操作部31が設けられており、下部には、制御電源の投入及び停止を操作する電源スイッチ32、運転準備に入ることを指定する照光式押しボタンスイッチ33、警報情報を発するための警報ブザー34、非常時に運転を停止指示するための非常停止押しボタンスイッチ35が設けられている。
また、ハウジング13の上部には、異常発生中であること、自動運転中であること、扉開閉しても問題がないこと等のハウジング内の状態を示す表示灯であるシグナルタワー40が設けられている。図17には、このシグナルタワー40の一例を示しており、この例では、ハウジング13内が異常発生中であることを表示する「赤色」表示灯41、ハウジング13内が自動運転中であることを表示する「緑色」表示灯42、扉を開閉しても問題がない状態であることを表示する「黄色」表示灯43が設けられている。
次に、上記構成のガラスカッターホィール製造装置10の動作について説明する。
まず、操作部26を操作して、研削対象となるガラスカッターホィールの研削条件についての初期設定を行う。
この初期設定としては、例えば、次の条件が入力される。
・第1番目の領域の回転角度数割合F1;溝の深さ、D11、…、D1n
・第2番目の領域の回転角度数割合F2;溝の深さ、D21、…、D2n
……………………………………………………………………………………
・第m番目の領域の回転角度数割合Fm;溝の深さ、Dm1、…、Dmn
・ループ回数:L
・1領域当たりの分割数N
・溝の深さ:D1、D2、…、Dn
・領域数R
初期設定の入力が終了すると、ガラスカッターホィールの研削工程が開始される。図18は、このガラスカッターホィールの研削工程を説明するためのフローチャートである。以下、このフローチャートに基づいてガラスカッターホィールの研削工程について説明する。
まず、ステップ1によって、分割数n=0を設定し、続いて、ステップ2によって、領域数r=1を設定する。
次に、ステップ3によって、研削対象となるガラスカッターホィールをホィール支持部19に取り付ける。
次に、操作部26を操作して、研削機構15の自動運転を開始させる。
次に、砥石12の先端がガラスカッターホィールの刃先に接触する位置を検出する。この接触位置の検出には、光学的手段、機械的手段、電気的手段が用いられる。このガラスカッターホィールの刃先の砥石12に対する接触の検出は、刃先が砥石に接触する毎に検出される。
砥石12の先端が刃先に接触する位置が検出されると、ステップ6において、送り用モータ18によって、研削機構15を待機位置に戻す。
次に、ステップ7によって、刃先回転用モータ20を回転させて、ホィール支持部19に保持されたガラスカッターホィールを所定の角度回転させる。
次に、ステップ8にて、分割数nに1を加えて(n+1)に更新する。
次に、ステップ9にて、研削機構15〜17を刃先が砥石12に接触するように砥石12の方向に移動させて、第n番目の溝を深さDmnの深さに加工する。
このステップ9では、第m番目の領域Rにおける第n番面の溝の深さについて、予め、上記初期設定にて設定された入力値の溝の深さDmnになるように、各溝が形成される。また、同様に、第m番目の領域Rの回転角度数についても、上記初期設定にて設定された入力値の回転角度数割合Fmによって、予め、設定されて形成される。
次に、ステップ10にて、研削機構15〜17を待機位置に移動させる。
次に、ステップ11にて、分割数nと分割数Nとを比較して、n<Nであるか否かを判定する。n<Nである場合には、ステップ12に進み、n<Nでない場合にはステップ13に進む。
n<Nであると判定されてステップ12に進むと、ステップ12にて、刃先回転用モータ20を微小角度だけ回転させる。続いて、ステップ7に戻り、微小角度回転させた刃先の位置にて、研削加工を行う。
ステップ11にて、n<Nでないと判断された場合には、分割数nが予め設定されている分割数Nに達していることを意味しており、ステップ13に進み、このステップ13にて、r<Rであるか否かを判定する。
ステップ13にて、r<Rであると判定された場合には、ステップ14に進み、このステップ14にて、刃先回転用モータ20によって設定角度だけ刃先が回転される。
続いて、ステップ15に進み、このステップ15にて、設定された領域数rに1を加えて、領域数(r+1)に更新する。ステップ15による領域数の更新後、ステップ7に戻り、研削加工を引き続いて行う。
ステップ13にて、r<Rでないことが判定されると、領域数rが初期設定された領域数Rに達していることを示しており、ステップ16に進み、研削機構15〜17を原点位置に戻す。
次に、ステップ17により、刃先が研削されたガラスカッターを取り出し、研削加工が終了する。
以上に説明した本実施の形態2のガラスカッターホィール製造装置10を用いれば、刃先全周の所望の位置に、所望の深さの溝を、良好な精度に形成することが可能である。
なお、図15に示すカッターホィール製造装置では、砥石12に対して、一つの研削機構15を設けているが、ハウジングの中央付近に砥石を配置して、その砥石の周辺を取り囲むように複数の研削機構を設ける構成にしてもよい。このようにすれば、設置される研削機構の数に比例して、カッターホィールの加工効率を大幅に向上することができる。
さらに、複数の砥石を縦に積み重ねて設置し、それぞれの砥石に加工対象となる複数のカッターホィールの刃先が各砥石に対向して配置するようにしてもよい。また、研削機構における一つのカッターホィール支持部に、複数のカッターホィールを取り付け可能として、一回の研削工程で、複数個のカッターホィ−ルを同時に研削できる構成にしてもよい。このようにすれば、さらに、カッターホィールの加工効率を向上することができる。