しかしながら、このような毒性の防汚塗料を用いた場合でも、付着動物の付着を必ずしも防ぎきれなかった。例えば、図4に示されるように、特に船底A及びビルジキールの裏面Bに多数の付着動物(フジツボ)が一様に付着してしまっていた。そのため、毒性の防汚塗料によって塗装された船体であっても、船体の防汚対策が十分なされているとはいい難かった。
そこで、本発明は、船体への付着動物の付着を抑制することが可能な船体の防汚設備及び船体の防汚方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討したところ、付着動物の代表であるフジツボが、幼生のときには沖で生活するが、その後成体となるために沖から岸壁にやってくるという性質を有していることに着目して、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明に係る船舶の防汚設備は、岸壁に係留された船舶の船体の汚濁を防止するための船体の防汚設備であって、複数の浮体及び当該複数の浮体を順次連結する連結具を有する囲繞部材によって船体を岸壁と共に取り囲み、付着動物を誘引するための誘引部材が吊り下げ具に取り付けられた吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設することで、誘引部材を船体の周囲の海中に配置することを特徴とする。
本発明に係る船舶の防汚設備では、付着動物を誘引するための誘引部材が吊り下げ具と連結された吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設している。そのため、付着動物が成体となるために沖から岸壁にやってきたとしても、その多くは船体に至る前に誘引部材に付着することとなる。その結果、船体への付着動物の付着を抑制することが可能となる。
また、本発明に係る船舶の防汚設備は、岸壁に係留された船舶の船体の汚濁を防止するための船体の防汚設備であって、複数の浮体及び当該複数の浮体を順次連結する連結具を有する囲繞部材によって船体を岸壁と共に取り囲み、付着動物を誘引するための複数の誘引部材が吊り下げ具によって順次連結された吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設することで、誘引部材を船体の周囲の海中に配置することを特徴とする。
本発明に係る船舶の防汚設備では、付着動物を誘引するための複数の誘引部材が吊り下げ具によって順次連結された吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設している。そのため、付着動物が成体となるために沖から岸壁にやってきたとしても、その多くは船体に至る前に誘引部材に付着することとなる。その結果、船体への付着動物の付着を抑制することが可能となる。
好ましくは、船体には、ビルジキールが設けられており、吊り下げ誘引体の複数の誘引部材のうち少なくとも一つは、ビルジキールに対応する深度から船体の船底の下1mに対応する深度の範囲内に位置している。付着動物の代表であるフジツボは、光を忌避する性質も有しているので、一般的に、光の当たりにくいビルジキールの裏面や船底に付着しやすいが、このようにすることで、ビルジキールの裏面や船底への付着動物の付着をより抑制することが可能となる。
好ましくは、船体には、付着動物が忌避する毒性を有する防汚塗料が塗布されており、誘引部材は、防汚塗料よりも低い毒性を有する。このようにすると、付着動物は、毒性の高い船体を忌避し、誘引部材に一層誘引されることとなる。そのため、船体への付着動物の付着をより抑制することが可能となる。なお、誘引部材が防汚塗料よりも低い毒性を有するとは、誘引部材が毒性を有していない場合も含まれるものとする。
好ましくは、囲繞部材は、オイルフェンスである。オイルフェンスを利用することで、船体の囲繞や撤去を容易に行えるようになる。
好ましくは、囲繞部材は、船体と0.5m〜1m離間している。0.5m未満であると、囲繞部材に吊設された吊り下げ誘引体が船体に当たりやすくなり、船体を傷付ける虞が高まる。1mを超えると、付着動物が船体に付着しやすくなる。
一方、本発明に係る船舶の防汚方法は、岸壁に係留された船舶の船体の汚濁を防止するための船体の防汚方法であって、複数の浮体及び当該複数の浮体を順次連結する連結具を有する囲繞部材によって船体を岸壁と共に取り囲む工程と、付着動物を誘引するための誘引部材が吊り下げ具に取り付けられた吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設することで、誘引部材を船体の周囲の海中に配置する工程とを備えることを特徴とする。
本発明に係る船舶の防汚方法では、付着動物を誘引するための誘引部材が吊り下げ具と連結された吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設している。そのため、付着動物が成体となるために沖から岸壁にやってきたとしても、その多くは船体に至る前に誘引部材に付着することとなる。その結果、船体への付着動物の付着を抑制することが可能となる。
また、本発明に係る船舶の防汚方法は、岸壁に係留された船舶の船体の汚濁を防止するための船体の防汚方法であって、複数の浮体及び当該複数の浮体を順次連結する連結具を有する囲繞部材によって船体を岸壁と共に取り囲む工程と、付着動物を誘引するための複数の誘引部材が吊り下げ具によって順次連結された吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設することで、誘引部材を船体の周囲の海中に配置する工程とを備えることを特徴とする。
本発明に係る船舶の防汚方法では、付着動物を誘引するための複数の誘引部材が吊り下げ具によって順次連結された吊り下げ誘引体を囲繞部材に複数吊設している。そのため、付着動物が成体となるために沖から岸壁にやってきたとしても、その多くは船体に至る前に誘引部材に付着することとなる。その結果、船体への付着動物の付着を抑制することが可能となる。
本発明によれば、船体への付着動物の付着を抑制することが可能な船体の防汚設備及び船体の防汚方法を提供することができる。
本発明の好適な実施形態について、図面を参照して説明する。なお、説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
まず、図1〜図3を参照して、本実施形態に係る防汚設備1によって汚濁が防止される船舶10の全体構造について説明する。船舶10は、図1に示されるように、船体12、推進器14、推進方向を制御する舵16等を備えている。本実施形態において、船舶10は岸壁Qに係留されている。
船体12は、船底部12a及び船側部12bを有している。船体12における船底部12aと船側部12bとの間の湾曲部分には、船首近傍から船尾近傍にかけて、ビルジキール18が設けられている。ビルジキール18は、船体の動揺を抑制するための板状部材であり、減揺装置として機能する。
船体12における船体12が海中にある領域(船体12の喫水領域)Rには、防汚塗料が塗布されている。この防汚塗料は、付着動物が忌避する毒性を有している(以下、領域Rを毒性領域Rという。)。毒性領域Rに用いることができる防汚塗料としては、例えばアクリル樹脂系防汚塗料等がある。
続いて、図1〜図3を参照して、防汚設備1について説明する。防汚設備1は、囲繞部材20と、複数の吊り下げ誘引体22とを備える。
囲繞部材20は、複数の浮体24と、連結具26とを有している。複数の浮体24は、一列となるように、連結具26によって順次連結されている。なお、浮体24としては、例えば、発泡スチロール等の発泡材料や、空気等の気体が封入された袋体を用いることができる。また、連結具26は、浮体24同士を連結できればよく、特に材質等を限定されない。
囲繞部材20は、特に図2に示されるように、岸壁Qに係留された船舶10の船体12を、岸壁Qと共に取り囲んでいる。囲繞部材20は、船体12と0.5m〜1m離間している(囲繞部材20と船体12との直線距離W(図2及び図3参照)が0.5m〜1mである)と好ましい。0.5m未満であると、囲繞部材20に吊設された吊り下げ誘引体22(後述する)が船体12に当たりやすくなり、船体12を傷付ける虞が高まる。1mを超えると、付着動物が船体12に付着しやすくなる。
この囲繞部材20には、吊り下げ誘引体22が所定間隔で吊設されている。具体的には、図2に示されるように、浮体24、隣り合う浮体24の間に位置する連結具26、及び、岸壁Qに最も近い浮体24と岸壁Qとの間に位置する連結具26に、吊り下げ誘引体22がそれぞれ吊設されている。
吊り下げ誘引体22は、特に図1及び図3に示されるように、複数の板状部材(誘引部材)28と、吊り下げ具30と、重り32とを有している。
板状部材28は、例えば鋼材や硬質プラスチックによって構成することができる。板状部材28の大きさは、例えば0.3m×0.6m程度とすることができる。
板状部材28の表面には、船体12の毒性領域Rよりも低い毒性を有する防汚塗料が塗布されている。板状部材28の表面に用いることができる防汚塗料としては、例えばエポキシ樹脂系防蝕塗料等がある。そのため、フジツボ等の付着動物は、船体12の毒性領域Rよりも板状部材28に誘引されやすくなっている。なお、板状部材28の表面には、防汚塗料が塗布されていなくてもよい。
ここで、一の吊り下げ誘引体22が有する複数の板状部材28のうち少なくとも一つは、ビルジキール18に対応する深度から船底部12aの下1mに対応する深度の範囲D(図3参照)内に位置している。そのため、各吊り下げ誘引体22の板状部材28は、船体12の周囲、特に、船底部12a及びビルジキール18の周囲の海中に配置されることとなる。
複数の板状部材28及び重り32は、一列となるように、吊り下げ具30によって順次連結されている。吊り下げ具30は、板状部材28及び重り32を連結できればよく、特に材質等を限定されない。重り32は、鋼製の球体であり、吊り下げ具30の下端に接続されている。
以上のような本実施形態に係る防汚設備1において、岸壁Qに係留された船舶10の船体12の汚濁を防止するためには、まず、複数の吊り下げ誘引体22が吊設された囲繞部材20を用意する。続いて、この囲繞部材20によって、船体12を岸壁Qと共に取り囲む。これにより、板状部材28が船体12の周囲の海中に配置されることとなる。
以上のような本実施形態においては、付着動物を誘引するための複数の板状部材28が吊り下げ具28によって順次連結された吊り下げ誘引体22を囲繞部材20に複数吊設している。そのため、付着動物が成体となるために沖から岸壁にやってきたとしても、その多くは船体12に至る前に板状部材28に付着することとなる。その結果、船体12への付着動物の付着を抑制することが可能となる。
また、本実施形態においては、一の吊り下げ誘引体22が有する複数の板状部材28のうち少なくとも一つが、ビルジキール18に対応する深度から船底部12aの下1mに対応する深度の範囲D(図3参照)内に位置している。付着動物の代表であるフジツボは、光を忌避する性質も有しているので、光の当たりにくいビルジキール18の裏面(ビルジキール18の海底Tに向かう側)や船底部12aに付着しやすいが、これにより、ビルジキール18の裏面や船底部12aへの付着動物の付着をより抑制することが可能となっている。
また、本実施形態においては、船体12が、付着動物が忌避する毒性を有する防汚塗料が塗布された毒性領域Rを有しており、板状部材28の表面に、船体12の毒性領域Rよりも低い毒性を有する防汚塗料が塗布されている。そのため、付着動物は、毒性の高い船体を忌避し、板状部材28に一層誘引されることとなる。その結果、船体12への付着動物の付着をより抑制することが可能となる。
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記した実施形態に限定されるものではない。例えば、囲繞部材20としてオイルフェンスを利用するようにしてもよい。オイルフェンスを利用することで、船体12の囲繞や囲繞部材20の撤去を容易に行えるようになる。
また、本実施形態では吊り下げ誘引体22が複数の板状部材28を有していたが、吊り下げ誘引体22が有する板状部材28は1枚であってもよい。
また、本実施形態では板状部材28に付着動物を誘引するようにしたが、付着動物を誘引できるものであれば板状に限られず種々の形状とすることができる。
1…防汚設備、10…船舶、12…船体、18…ビルジキール、20…囲繞部材、22…吊り下げ誘引体、24…浮体、26…連結具、28…板状部材(誘引部材)、30…吊り下げ具、Q…岸壁。