JP4691610B2 - 電子顕微鏡 - Google Patents

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本発明は、放電を防止した荷電粒子加速装置に関する。
加速管は、多段の電極(加速電極)が積層された構造を有し、加速電極の間には数十kVの電圧が印加される。従って、塵埃,残留ガス,帯電等を原因として、積層された電極間に放電が発生する場合がある。放電が発生すると電圧が一時的に低下し、印加電圧が不安定となる。また、特に真空条件下では、低電位の電極から電子放出がされ、高電位の電極に電子が衝突することにより、電極の金属が真空中に蒸発し、電極間の絶縁性が悪くなり、大規模な放電にいたる場合がある。放電が発生すると、加速管に電圧を印加することが不可能となり、システム全体が停止する。特開平6−203996号公報(特許文献1)には、加速電極を磁石として電極の周囲に磁力線を発生させ、加速管全体の放電を防止することが開示されている。
特開平6−203996号公報
加速電極を磁石として電極の周囲に磁力線を発生させると、その磁場により加速粒子の軌道に影響がある。従って、本発明の目的は、加速粒子の軌道に影響を与えることなく、電極間の放電を防止し、荷電粒子加速装置を有するシステム全体の信頼性を向上させることにある。
本発明は上記の課題を解決するものであり、その手段を以下に記述する。本発明の特徴は、加速電極の一部または全部を、金属と比較して融点が高いセラミックスまたは合金よりなる放電抑制層で被覆した荷電粒子加速装置にある。セラミックスまたは合金の放電抑制層により、不純物の微粒子が電界により加速され、電極に衝突した際にも電極から金属蒸気が発生しにくく、電離プラズマとなりにくいため、電極間の放電を抑制することができる。
特に、真空中に保持され電圧を印加された複数の加速電極により電界を発生し荷電粒子を加速する荷電粒子加速装置であって、前記加速電極は金属または合金よりなる電極の外部を質量比80%以上のAl23を含んだセラミックスよりなる放電抑制層で一部または全部を包囲したことを特徴とする荷電粒子加速装置にある。電極の一部または全部を金属と比較して融点が高いセラミックスよりなる放電抑制層で包囲することにより、不純物の微粒子(クランプ)が電極に衝突した際に電極から蒸気が発生しにくく、放電を抑制することができる。
前記セラミックスには質量比1%以上20%以下のTiO2またはTiCを含むことが好ましい。電極を包囲するセラミックスにTiO2またはTiCを混入することによりセラミックスの抵抗率を下げることができるため、セラミックスの表面に付着したクランプの周囲の電界が下がる。その結果、放電のきっかけとなるクランプを加速する静電力が小さくなり、クランプの離脱を抑制することができる。
他の本発明の特徴は、真空中に保持され電圧を印加された複数の加速電極により電界を発生し荷電粒子を加速する荷電粒子加速装置であって、前記加速電極は、電極の一部または全部を質量比85%以上のTiを含んだ合金よりなる放電抑制層で包囲したことを特徴とする。電極の一部または全部を一般の金属と比較して融点が高いTiを含んだ合金で包囲することにより、クランプが電極に衝突した際に電極から蒸気が発生しにくく、放電を抑制することができる。なお、電極そのものとして質量比85%以上のTiを含んだ合金を使用し、放電抑制層と電極とを一体化することもできる。
放電抑制層の電気抵抗率は108Ω*cm以上1015Ω*cm以下であることが好ましい。
放電抑制層の電気抵抗率を108Ω*cm以上1015Ω*cm以下にすることにより、充分に放電抑制層の表面に付着したクランプの周囲の電界が下がる。その結果、放電のきっかけとなるクランプを加速する静電力が小さくなり、クランプの離脱を抑制することができる。
荷電粒子加速装置としては、加速管,サイクロトロン,シンクロトロン,ベータトロン等があり、本発明はいずれの装置にも有効である。これらの荷電粒子加速装置は、電子顕微鏡,核物理学実験用設備,ガン治療設備,放射光設備等に使用される。
本発明によれば放電が発生しにくく、高い信頼性を有する加速管を実現できる。
加速管の構造例を示す図。 荷電粒子加速装置例を示す図。 第一の実施例のセラミックスで被覆された加速電極を用いた加速管を示す図。 第四の実施例のTiを含む合金で加速電極を構成した加速管を示す図。
以下、本発明についてさらに詳細を説明する。
図1に加速管の構造例を示す。加速管はリング状の内側電極1と外側電極2から構成される加速電極と絶縁管3を複数段積み重ねた構造である。内側電極1と外側電極2は、導体で接続されており、両電極は同電位に保持されている。最上段の加速電極には、陰極から電子を引き出す引き出し電源8と、加速電源5とが接続され、直流高電圧が印加される。加速電極間は分割抵抗4を介して接続され、最終段の加速電極は接地電位である。このように加速電極を配置することにより、リング状の加速管の中央部には加速電極と垂直の方向(加速電極の積層される方向)に電界が発生する。
加速管の最上段には電子銃が設置される。図1には熱電子放出型電子銃を示すが、他の型の電子銃でもかまわない。電子銃は陰極9と陽極10から構成され、陰極9には加熱電源6が接続され、加熱電源6の電流により陰極9が加熱される。陰極9が加熱された状態で引出電圧発生電源7により陰極9と陽極10の間に電圧が印加されると陰極9から電子線が放射される。
加速電極の最上段と最下段の間では、例えば200kVの電圧が印加され、加速電極間には数十kVの電圧が分担されることになる。上記のような構成により、電子銃から放射された電子線は加速される。
外側電極2はSF6等の絶縁ガスで周囲を充填することにより絶縁耐圧を確保することができるのに対し、内側電極1は真空中に保持されるため、内側電極1の間では外側電極2と比較して真空放電が発生しやすい。
真空中での放電のメカニズムは諸説あり、そのひとつとしてクランプ説がある。電極表面に付着しているクランプ(不純物の微粒子)は静電力により電極から離脱することがある。この際、クランプは電極間電圧により加速され、その後対向電極に衝突すると、運動エネルギーが熱エネルギーに変換され、対向電極またはクランプは金属蒸気を放出する。この金属蒸気は電子衝撃により電離プラズマ化して電極間の放電を発生させる。クランプ説の説明としては「放電ハンドブック」(電気学会編)が詳しい。本発明のように、電極に放電抑制層を設けたり、Ti合金を電極として使用することにより、このようなクランプによる放電を防止できる。
図2に、荷電粒子加速装置(ここでは加速管とする)を有する透過型電子顕微鏡の概略構造例を示す。電子銃101は、陰極から放出された電子を陽極で加速して電子線を放出する。電子銃には熱電子放出型電子銃,ショットキー型電子銃,冷陰極電界放出型電子銃,熱陰極電界放出型電子銃等がある。加速管102は電子銃から出た電子線を必要なエネルギーにまで順次加速する。例えば200kVの電子顕微鏡では加速電極を6段〜7段積み重ねて加速する。収束レンズ103では、磁界を発生させ、電子ビーム100を絞って試料に照射する。電子ビーム100は試料104を透過すると回折を起こす。回折した電子は対物レンズ105で結像される。中間レンズ106は励磁電流を調整して中間レンズの焦点距離を変えて、対物レンズによって作られる回折図形に焦点を合わせる。さらに、それらを拡大し投影レンズ107の物面にそれらの像を作る。投影レンズ107は結像レンズ系の最終レンズであり、中間レンズ106で拡大された像をさらに拡大し、蛍光板108上に結像する。この像は観察窓109から観察することができる。また、カメラ室110に設置されたカメラで像を撮影することができる。
第一の実施例では、図3を用い、アルミナを含むセラミックスで電極を被覆した加速管の例について説明する。本実施例では、内側電極1の周囲全部を80重量%以上のAl23を含んだセラミックス12で覆う構造を有する。電極としては、鉄,ステンレス,銅,アルミ等の金属が例示される。このように、電極の一部または全部を金属と比較して融点が高いセラミックス12で包囲することにより、クランプが電極に衝突した際に電極から蒸気が発生しにくく、放電を抑制することができる。また、本実施例では、内側電極1の周囲全部をアルミナを含むセラミックス層で覆う構成としたが、一部を覆う構成としてもよい。その場合、少なくとも隣接する電極と対向する面を覆うようにセラミックス層を形成することが望ましい。
第二の実施例では、セラミックス層としてチタニア(TiO2)を含むアルミナを用い、実施例1と同様に電極を被覆した加速管の例について説明する。本実施例の加速管の構成は図3とほぼ同様であり、セラミックス12の層として、1重量%以上20重量%以下のTiO2を含むアルミナを使用した。
このように電極を包囲するセラミックス12にTiO2を混入することによりセラミックス12の抵抗率を下げることができる。アルミナにチタニアを混合することにより、最大で1/100程度に抵抗率を低下させることができる。セラミックス12の抵抗率が下がると、セラミックスの表面にクランプが付着した場合、その周囲の電界を下げることができる。その結果、放電のきっかけとなるクランプを加速する静電力が小さくなり、クランプの離脱による放電を抑制することができる。特に、セラミックス12の電気抵抗率を108Ω*cm以上1015Ω*cm以下とすることが好ましい。本実施例以外のセラミックスであっても、電気抵抗率を108Ω*cm以上1015Ω*cm以下とすることで、アルミナにチタニアを混合したセラミックス同様の高い効果が期待できる。
セラミックス12を設ける部位は電極の一部でもよく、特に隣接する電極と対向する部分に設けることが有効である。
第三の実施例では、セラミックス層としてTiCを含むアルミナを用い、実施例1と同様に電極を被覆した加速管の例について説明する。本実施例の加速管の構成は図3とほぼ同様であり、セラミックス12の層として、1重量%以上20重量%以下のTiCを含むアルミナを使用した。
このように電極を包囲するセラミックス12にTiCを混入することによりセラミックス12の抵抗率を下げることができる。セラミックス12の抵抗率が下がると、セラミックスの表面にクランプが付着した場合、その周囲の電界を下げることができる。その結果、放電のきっかけとなるクランプを加速する静電力が小さくなり、クランプの離脱による放電を抑制することができる。特に、セラミックス12の電気抵抗率を108Ω*cm以上1015Ω*cm以下とすることが好ましい。本実施例以外のセラミックスであっても、電気抵抗率を108Ω*cm以上1015Ω*cm以下とすることで、アルミナにチタニアを混合したセラミックス同様の高い効果が期待できる。
セラミックス12を設ける部位は電極の一部でもよく、特に隣接する電極と対向する部分に設けることが有効である。
実施例4では、図4を用いて、内側電極にTiを含む合金を用いた加速管の例を説明する。装置構成は、図1とほぼ同様であり、内側電極1にTiを含む合金を用いたことを特徴とする。Tiを含んだ合金は一般の金属よりなる電極(鉄,銅,アルミ,ステンレス等よりなる電極)よりも融点が高いため、このような電極を用いたことにより、クランプが電極に衝突した際に電極から蒸気が発生しにくく、放電を抑制することができる。チタン合金としては、例えばアルミ6%,バナジウム4%,チタニウム90%の合金(通称6−4チタン)が挙げられる。
また、電極の一部または全部の表面をTiを含んだ合金で覆うことによっても同様の効果が得られる。
1 内側電極
2 外側電極
3 絶縁管
4 分割抵抗
5 加速電源
6 加熱電源
7 引出電圧発生電源
8 引き出し電源
9 陰極
10 陽極
11 電子軌跡
12 セラミックス
100 電子ビーム
101 電子銃
102 加速管
103 収束レンズ
104 試料
105 対物レンズ
106 中間レンズ
107 投影レンズ
108 蛍光板
109 観察窓
110 カメラ室

Claims (4)

  1. 電子線を放射する電子銃と、
    当該電子銃から放射された電子線を所定のエネルギーまで加速する加速管と、
    当該加速管を通過した電子線を収束して試料に照射するレンズ手段とを備え、
    更に、前記加速管は、
    前記電子線の軌道を囲うように設けられた絶縁管と、
    前記電子線を加速する電界を発生させる複数の電極とを備え、
    前記複数の電極の少なくとも一部が、1重量%以上20重量%以下のTiO2またはTiCを含有するAl23により構成されるセラミックスで被覆されていることを特徴とする電子顕微鏡。
  2. 請求項1に記載の電子顕微鏡において、
    前記加速管は、
    前記絶縁管の内壁側に設けられた内側電極と該絶縁管の外側に設けられた外側電極との組が複数段積み重ねられた構造を有し、
    当該複数段積み重ねられた内側電極および外側電極のうち、該内側電極の隣接する電極と対向する面が前記セラミックスにより被覆されたことを特徴とする電子顕微鏡。
  3. 請求項2に記載の電子顕微鏡において、
    前記内側電極が全て前記セラミックスにより被覆されたことを特徴とする電子顕微鏡。
  4. 請求項1から3のいずれか1項に記載の電子顕微鏡において、
    前記セラミックスの電気抵抗率は、108Ω*cm以上1015Ω*cm以下であることを特徴とする電子顕微鏡。
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