JP4679847B2 - 細胞の解析方法 - Google Patents

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Description

本発明は、溶液中に浮遊する細胞を、流路内に固定されたように浮遊させることが可能な細胞観察用デバイスを備えた細胞解析システムに関する。また、本発明は、前述の細胞観察用デバイスの流路を、その両端においてそれぞれ2本以上に分岐させ、これにより、2つ以上の注入口と当該注入口に対応する同数の排出口とを有する構成とした、細胞解析システムに関する。更に、本発明は、このような分岐した流路を有する細胞観察用デバイスを備えた細胞解析システムを用いて、細胞の解析結果をもとに目的の細胞を分離する方法に関する。
近年、マイクロ加工技術を化学、バイオ分析技術に応用しようとする試みが盛んになってきており、DNAチップ、電気泳動チップ、プロテインチップなど色々な応用が試みられている。
一方、ゲノム、プロテオームなどの分子生物学から発する生命現象の解明は、より包括的な研究に広がりを見せ始めており、とくに最近では細胞内での生体物質の動的変化、さらには一群の細胞の協調的な動きなど、より個体レベルに近づいた研究も行われている。
特に細胞をベースにしたアッセイシステムは、創薬における薬剤探索の強力なツールとして注目を浴びるようになってきた。このような細胞ベースアッセイシステムにおいては各種薬剤、およびその濃度に対する細胞周期や形態変化を数値化、定量化して出力する。即ち、本システムは、画像データという非常に多くの情報を有するイメージデータから目的に合った情報だけを効率よく取り出すHCS(High Content Screening)といわれるシステムである。本システムでは一時的な培養容器としてマイクロタイタープレートを用い、そのまま測定に用いることで、一度に多数のサンプルの測定が可能となり、効率的にスクリーニングを行うことができる。
その他、培養した細胞を溶解してから、スライドガラスに滴下して封入して観察測定を行ったり、培養を行いながら、底面から観察可能な培養ディッシュを用いたり色々な方法や培養容器が考案されている。公表特許公報9−501324(特許文献1)“細胞保持用の溝を備えた貫流バイオリアクター”では、培養容器の底面に流れと垂直方向に溝を形成し、溝中に細胞を沈殿させることにより、貫流培養においても流れによる細胞の損失を軽減した培養容器が提案されている。
顕微鏡を用いた細胞観察においては接着細胞、もしくは浮遊細胞の場合は細胞を固定する必要がある。また、浮遊細胞を所定の位置に移動して観察する方法として例えば特開平5−296894(特許文献2)“顕微鏡用試料セルおよびその使用方法”では、複数の並行電極が形成された基材2枚をお互いに直行するように配置し、対向する電極間に電圧を印加し、さらに電圧印加を順次移動させることが提案されている。
また、近年フローサイトメータに画像取得用のCCDカメラを付加したシステム(Cytometry 21: 129-132(非特許文献1))の取り組みも行われており、本測定において画像は凝集した細胞の認識など比較的簡単な目的に使われている。
特表平9−501324号公報 特開平5−296894号公報 Cytometry 21: 129-132
イメージングを元にした細胞ベースアッセイにおいては、先にも述べたように固定された細胞を観察することが基本である。一方、フローサイトメータと呼ばれる細胞ベースアッセイでは、細胞を微細径のチューブに流しながら高速で染色された細胞の蛍光強度や蛍光色素の種類を識別しながら測定する方法がある。このフローサイトメータはその方式から細胞を浮遊させて測定する必要があり、さらに細胞のイメージは取得しない。しかしながら、この方式の方が歴史的にも古く、かつ需要も多い。
従って、イメージングを元にして、かつ浮遊細胞も測定できれば新たに多くの需要を獲得できることが期待される。特にフローサイトメータでは測定条件の調整などでも試料の消耗が大きく、多量のサンプル量を必要とするので、微量で浮遊細胞を測定できれば大きなメリットとなる。また、フローサイトメータにCCDカメラを付与したシステムでは簡単な画像認識のみを行っているが、より高度の解析、更には解析結果を元に目的細胞の分離、収集を行えることが望ましい。
上記事情に鑑み、本発明は、浮遊細胞を対象とした、イメージングに基く細胞解析システムを用いて、細胞を解析する方法を提供することを目的とする。
上記課題を解決するため、本発明は以下の手段を提供する。
(1) 細胞含有溶液を流動させるための流路を内部に備え、前記流路内の細胞を観察するための透明な面を備えた細胞観察用デバイスであって、前記流路の断面が偏平な長方形で且つ流路の上面と下面が流路全体にわたって同一の間隔を有して平行であることにより、前記流路内に液体を流動させた際に流路上面と下面の中間に二次元的に低圧力抵抗部分が形成され、これにより複数の細胞が流路上面と下面の中間に二次元的に浮遊状態で分布する細胞観察用デバイスと、
前記流路内の細胞を観察するための顕微鏡と
を備えた細胞解析システムを用いて、細胞を解析する方法であって、
前記細胞観察用デバイスの流路内に細胞含有溶液を導入して、複数の細胞を流路上面と下面の中間に二次元的に浮遊状態で分布させる第一の工程と、
前記工程後の複数の細胞を流路内で放置して、前記浮遊状態の分布と同じ位置で維持する第二の工程と、
前記浮遊状態の複数の細胞を前記顕微鏡で観察し、解析する第三の工程と
を含む方法
(2) 前記細胞観察用デバイスの前記流路の上面と下面の間隔が10μm以上400μm以下であることを特徴とする(1)に記載の方法
(3) (1)または(2)に記載の方法であって、前記第一の工程が、前記細胞観察用デバイスの流路内に加圧により細胞含有溶液を導入する工程であり前記第三の工程が、流路に沿って細胞のイメージングを行うとともに、細胞の位置情報を含めて細胞の画像を記録する工程であることを特徴とする方法
(4) (1)〜(3)の何れか1に記載の方法であって、前記細胞観察用デバイスの流路が、下面を形成するベース基材と、上面および側面を形成する流路形成部材とから構成され、前記流路形成部材が、シリコン樹脂、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチックやガラスおよびセラミックなどの絶縁性無機材料であることを特徴とする方法
(5) (1)〜(4)の何れか1に記載の方法であって、前記細胞観察用デバイスの流路が、下面を形成するベース基材と、上面および側面を形成する流路形成部材とから構成され、前記ベース基材が、アクリル、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどの透明なプラスチックやスライドガラス、カバーガラス、有機ガラス薄膜などの透明基材であることを特徴とする方法
(6) (1)〜(5)の何れか1に記載の方法であって、前記細胞観察用デバイスの流路が、上下の深さ10〜100μm、幅100μm以上、長さ100μm以上であることを特徴とする方法
(7) (1)〜(6)の何れか1に記載の方法であって、前記第三の工程で得られた解析結果に基づいて、溶液中に存在する目的の細胞を分離する工程をさらに含む方法。
本発明によれば、先に述べたマイクロ加工技術を応用した浮遊細胞観察用デバイスを製作し、浮遊細胞の連続的観察を可能とする。即ち、顕微鏡で浮遊細胞を観察する際、観察対象となる上下の範囲は対物レンズの焦点深度以内が望ましい。この目的を達成するために、本発明では観察用デバイスに、上下の面が平行な流路を形成し、そこに試料を注入する。一般に流路内の流速分布はパラボリックな形状を示す。この効果を利用し、細胞を含む試料を流路に注入するとパラボリックな流速分布の頂点付近に細胞が集中する。従って、上下の面が平行な流路に試料を注入した場合、上下の平面の間隔が多少大きくても流路の中心付近に細胞が分布するため、はじめにフォーカスを合わせてしまえばあとはフォーカスを合わせることなく流路に沿ってイメージングを行うことが出来る。また、非常に狭い流路内では壁面の影響がでるため、流路内の溶液は粘性が上昇した現象が見られる。このことにより、流路内に導入された細胞は溶液中に浮遊しているにも拘らず、固定されたように同じ場所にとどまることが見出された。
この現象を利用すると細胞を含む試料をマイクロピペットなどで注入し、その状態で流路に沿って位置を移動しながら画像を取得しながら解析を行うことが出来る。また、細胞は長時間同じ位置に留まるので、細胞解析時に位置情報も同時に取得しておけば解析後に必要な細胞を一つずつピックアップすることが出来る。
本発明において、被解析物とは、画像解析可能なサイズを有する不溶性の生物学的材料を意味する。以下、本発明の解析システムについて、細胞を解析する解析システムを例に説明する。また、本発明の被解析物の分離方法については、細胞解析システムを用いた細胞の分離方法を例に説明する。しかし、以下の記載は、本発明を説明するためのものであって本発明を限定するためのものではない。
1.第1の実施の形態に係る細胞解析システム
(1)細胞解析システムの構成
図1に本発明の細胞解析システムの一例を示す。図1において、倒立顕微鏡本体11にX-Yステージ12、対物レンズ15が配置され、X-Yステージ12上に細胞観察用デバイス14が載っている。
図2に細胞観察用デバイス14の一例を詳細に示す。図2(a)は上面図、図2(b)は図2(a)のA−A’線の断面図を示す。図2において、細胞観察用デバイス14は、細胞含有溶液を流動させるための流路3を内部に備え、流路内の細胞を観察するための透明な面を提供する平板(ベース基材)5を備え、流路の上面と下面が平行である。ここで流路3は、下面を形成する平板(ベース基材)5と、上面および側面を形成する流路形成部材4とを組み合わせることにより構成される。流路形成部材4は、流路の上面および側面を形成するとともに、流路の両端に注入・排出口1を形成し、注入・排出口1のまわりに凸部2を形成する(図2(a)参照)。凸部2は、必要に応じて設けられ、他の部材と位置あわせを行うために機能する。たとえば、凸部2に勘合する分注ホルダを使って分注ノズルとの位置合わせを行い、試料の注入や液体の移動を行うシステムのインターフェースとして利用する。
本発明において観察用デバイスの流路断面は、流路内に液体を流動させた際に流路断面の中央部に低圧力抵抗部分が形成される形状を有している必要がある。細い流路内に細胞含有液体を圧力により導入し、圧力で流路内の細胞を押し出した場合、流路断面の中心部があたかも低粘性的に速い流れとなって細胞を引きずり込むので、細胞は流路の中央部分を移動する。この現象を利用するため、本発明では、上述のとおり、流路内に液体を流動させた際に流路断面の中央部に低粘性部分(すなわち低圧力抵抗部分)が形成されるような形状を有するように流路断面を設計する。「流路断面中央部に低圧力抵抗部分が形成されるような形状」とは、たとえば、正方形、長方形、上辺と下辺が平行である任意の形状、正円、楕円等とすることができ、好ましくは正方形、長方形、上辺と下辺が平行である任意の形状であり、より好ましくは偏平な長方形である。
流路断面の上辺と下辺とを平行にした、偏平な微細流路とすることにより、細胞を、流路上壁と下壁との中間に二次元的(平面的)に分布させることが可能となり、このような流路断面の構成は、複数の細胞を観察する際に適している。また、楕円は、正円より二次元的(平面的)に細胞を分布可能である点で優れている。流路内での細胞の平面分布を保つ条件は、流路の上壁と下壁との間の距離(図では深さ)、細胞の比重および大きさ、溶液の粘性の組み合わせである。本発明では、最初に圧力注入によって細胞を平面的に強制分布させる工程があって、その後放置する。強制分布によって細胞は平面的に分布し、その後放置されると同じ位置で安定して存在する(図4参照)。
流路の向きは、図では水平方向であるが、垂直方向であってもよい。流路の内壁面は、平滑であることが望ましいが、流路断面の中央部に低圧力抵抗部分を形成可能であれば、流路の内壁面に多少の凹凸を有していてもよい。また、流路の幅は、幅方向にほぼ均等な圧力で流体を導入できる範囲であれば任意の広さであり得、たとえば顕微鏡用スライドの幅程度まで広くてもよい。幅が広くて偏平な流路に液体を導入する参考技術は、公知のフリーフロー電気泳動における緩衝液のシース流形成技術として開示される。
しかし、本発明では、流路の深さが深すぎたり、流路内の液体の粘性が低すぎると、流路断面の中央部に低粘性部分が形成されなくなり、細胞は、流路上壁と下壁との中間の一平面に揃わなくなる。細胞のサイズが軽すぎたり大きすぎても、同様に、細胞を一平面に揃って分布させることが難しくなる。従って、被解析物として細胞のように天然由来の生体構造物を解析する場合、生体構造物の比重と大きさに依存して、観察用デバイスを設計したり溶液を調製したりするのがよい。あるいは、被解析物として人為的に調製した人工構造物を解析する場合、使用する観察用デバイスの深さに合わせて構造物の調製を行うのがよい。
本発明において被解析物は、任意の細胞を使用してもよいし、あるいは、流路の上壁と下壁との中間に二次元的(平面的)に分布させることが可能な人工合成された粒子であってもよい。
本発明において観察用デバイスは、流路内の細胞を観察するために、(1)流路へ入射する光、流路から出射する光が透過する面は全て透明であることが必要であり、(2)流路へ入射する光、流路から出射する光が透過する面はほぼ均一の厚みを有する凹凸のほとんどない平板であることが必要であり、さらに(3)この平板は、対物レンズの焦点が流路内に合わせられる適切な厚みを有していることが必要である。
本例では、顕微鏡には倒立型顕微鏡IX81(オリンパス製)を用い、流路形成部材4には、シリコン樹脂をモールドで形成したものを用い、平板5にはスライドガラスを用いた。シリコン樹脂は材料自体に粘着性があるためスライドガラスに単に重ねるだけでスライドガラスと密着し、液漏れのない流路を形成することが出来る。なお、シリコン樹脂の流路部とスライドガラスからなる流路の断面は矩形で上面と下面が平行となるように形成されている。本実施の形態において流路のサイズは、0.5(幅)×39(長さ)×0.1(深さ)mmである。
本発明において、細胞観察用デバイスの流路の上面と下面の間隔(深さ)は、好ましくは10μm以上400μm以下であり、より好ましくは20μm以上200μm以下である。流路の深さは、試料となる浮遊細胞を、流路の深さ方向に対して中心付近に分布させるために、上記範囲に設定することが好ましい。流路の深さは、圧力損失や加圧の容易さ、細胞の大きさなどから、好ましくは0.01mm以上必要である。また、深さが大きすぎると細胞導入後の位置安定性が低下するので0.4mm以下が好適である。流路の長さや幅は特に限定されないが、加圧時の流路抵抗が大きくならないようにする必要がある。一般に、細胞観察用デバイスの流路は、深さ10〜400μm、幅100μm〜50mm、長さ100μm〜50mmである。
また、本発明において、流路の下面を形成する平板5(ベース基材)は、アクリル、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどの透明なプラスチックやスライドガラス、カバーガラス、シリカアルコキシドから形成した有機ガラス薄膜などの透明基材とすることができる。流路の上面および側面を形成する流路形成部材は、シリコン樹脂、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチックやガラスおよびセラミックなどの絶縁性無機材料とすることができる。なお、細胞観察用デバイスは、このような2つの部材から成る構成に限定されず、一つの部材から構成されていてもよい。
本発明において、顕微鏡とは、微小物体を観察用の壁面を通じて測定し画像化し得る任意の計測機器を含む。言い換えると、光、電磁、磁気、超音波等の任意の計測可能なエネルギーによって、微小な被解析物を解析可能な画像データに変換できるような分解能を有する計測機器も広く包含する。本発明では、特に、細胞のような不溶性の生物学的微小材料を、3次元的な重なりが無い2次元的配置に制御し得るデバイスを利用するので、2次元画像を顕微鏡を用いて容易に取得することができる。
本例では、細胞を観察するための顕微鏡として、倒立型顕微鏡を用いたが、正立顕微鏡を用い上方から細胞を観察することも可能である。本発明において「観察」とは、画像化したデータを解析し結果を得ることであり、表示した画像を観察してもよいし、表示せずにデータ解析のみを行ってもよい。
流路に導入される細胞含有溶液は、アッセイにおいて細胞を変形させない溶液中に細胞が懸濁されているものが望ましい。従って、細胞を懸濁させる溶液としては、細胞培養液、もしくはイオン濃度やグルコースなどの糖を添加し浸透圧を調整した溶液を用いる必要がある。細胞含有溶液の細胞含有濃度は、一般に、流路内での細胞の観察が可能な濃度であり、たとえば10,000個/mLとすることができる。
(2)細胞解析システムを用いた実施例
本発明の細胞解析システムを用いて、以下のとおり細胞の画像を記録することができる。まず、細胞観察用デバイスの流路内に加圧により細胞含有溶液を導入する。流路内への細胞含有液の導入は、分注装置、ピペット、シリンジを用いて行ってもよいし、あるいはチューブと溶液タンクを流路に連結して重力またはポンプにより行ってもよい。流路内に導入された細胞は、流路の深さ方向に対しては中心付近にのみ局在して分布するため、流路に沿って細胞のイメージングを行う。その後、細胞の位置情報を含めて細胞の画像を記録する。
細胞の位置情報は、以下のように得ることができる。本システムを用いた細胞解析においては、細胞はたとえば核の部分を蛍光染色し、閾値を設定することにより、一定の蛍光強度以上の部分(ここでは核)の輪郭を取ることができる。従って画像内には、複数の細胞の複数の輪郭が存在することになる。これらの輪郭にID番号を付与し、さらに各々のID毎に、X-Yステージの位置情報または画面内の位置情報を算出する。
実際に、細胞観察用デバイスにピペットで細胞を含む溶液を5μl注入し、このシステムを用いて細胞を観察したところ、図3に示すように流路の深さ方向に対して中心付近に細胞が観察された。なお細胞はHeLaを用い、核をRnase処理後Propidium iodide (PI)、細胞骨格を3,3'-dihexyloxacarbocyanine iodide(DiOC6(3))で染色した。10倍の対物レンズを使った場合と20倍の対物レンズを使い、はじめに合わせたフォーカスを動かさずに画像を取得した。これから分かるように、導入された細胞が流路の深さ方向に対して中心付近のほぼ同一平面に並んでいるため、同一倍率では各画像ともフォーカスが合っている。
更に流路に導入した細胞の時間に対する位置安定性の確認実験を行った。図4にその結果を示す。図4(a)、(b)、(c)、(d)は、倒立型顕微鏡IX81で取得した画像であり、それぞれ、導入直後、2時間後、4時間後、および導入直後と4時間後の差を取った画像である。また、図4(e)、(f)はそれぞれ共焦点顕微鏡FLUOVIEW(対物60倍)で導入直後、2時間後に取得した画像である。これらの結果から、微細な流路に導入された細胞は浮遊状態であるにも拘らず、流路壁面の影響を受けほぼ細胞が固定されたのと同様に同一の場所に位置していることが分かる。ちなみにこれらの画像は10分おきに取得し、頻繁に観察した結果である。
この結果を元に流路に細胞を導入し、流路に沿って約17 mmの長さに渡って画像を取得し細胞周期の測定を行った。測定装置はiCys(製造:CompuCyte社、販売:オリンパス)を用いた。測定結果を図5に示す。図5(a)は流路に沿った画像取得範囲を示し、図5(b)は細胞周期を示すヒストグラム(X軸はPIの蛍光量、すなわちDNA量を表す)で典型的な細胞周期が描けた。なお、はじめにフォーカスを合わせた後はフォーカス調整せずに17mmの長さに渡って、画像取得を行っている。このことから、微細流路に細胞をピペットなどで注入すると細胞がほぼ同一平面に分散し、かつ長時間安定に位置を保つことができ、浮遊させた状態で細胞の解析が行えることを確認した。
この方式ではフローサイトと異なり、装置の条件設定などで細胞を消費することがなく、また微細流路を用いるのでサンプル量も非常に少なくて済む。従って、臨床サンプルなどの微量サンプルなどへの応用も容易に展開できる。実験に用いた細胞解析装置ICysは解析後に目的細胞を特定して再観察も出来るようになっている。本提案の細胞観察デバイスを用いれば、細胞は長時間浮遊した状態で安定するので、そのような浮遊細胞でも再観察が可能となる。
また、本発明の解析システムを用いた解析において、被解析物と試薬との混合液を流路内に導入することにより、被解析物と試薬との反応をモニタリングすることも可能である。あるいは、被解析物(細胞)に蛍光等の標識物質を導入して、標識物質の動態を解析することも可能である。
2.第2の実施の形態に係る細胞解析システム
上述の微細な流路においては、液体の混合が極端に抑制される。たとえば流路の2方向から2種類の流体を合流させても、これらは混合せず接触した状態になる。この現象と、上述の第1の実施の形態に係る細胞解析システムから、以下の第2の実施の形態に係る細胞解析システムを発案するに至った。
第2の実施の形態に係る細胞解析システムでは、図6に示すような分岐した流路を有する細胞観察用デバイスを用いる。すなわち、第2の実施の形態において使用される細胞観察用デバイスは、細胞含有溶液を流動させるための流路を内部に備え、流路内の細胞を観察するための透明な面を備え、流路内に液体を流動させた際に流路断面の中央部に低圧力抵抗部分が形成される流路断面形状を有し、かつ流路がその両端において、それぞれ2本以上に分岐することにより、2つ以上の注入口と前記注入口に対応する同数の排出口とを有している。このような細胞観察用デバイスは、流路の両端で、一般に2〜20本に分岐させることができるが、実用上3〜5本の分岐が使いやすい。「流路断面の中央部に低圧力抵抗部分が形成される流路断面形状」とは、第1の実施の形態で説明したとおりであり、好ましくは、流路の上面と下面が平行である任意の形状であり、より好ましくは偏平な長方形である。
このように、第2の実施の形態で用いる細胞観察用デバイスは、流路がその両端において、複数に分岐し、複数の注入口と排出口を有している点以外は、第1の実施の形態で説明した細胞観察用デバイスと同様である。また、第2の実施の形態に係る細胞解析システムは、顕微鏡として倒立型顕微鏡、正立顕微鏡のどちらを使うことも可能であり、以下で説明しない点については、適宜、第1の実施の形態の説明も参照されたい。
図6(a)に、第2の実施の形態において使用される細胞観察用デバイスの流路の一例を示す。図6(a)において、流路は、その両端に複数の液体の注入・排出口31、32、33、34、35、36を有する。具体的には、注入・排出口31に対応して注入・排出口34を有し、注入・排出口31から注入された溶液は、注入・排出口34に排出される。同様に、注入・排出口32に対応して注入・排出口36を有し、注入・排出口33に対応して注入・排出口35を有する。
例えば、注入・排出口33から「細胞を含む試料溶液」を注入し、注入・排出口31および32のそれぞれから「シース液」を注入する。ここで「シース液」とは、「細胞を含む試料溶液」から目的の細胞を分離した際に、分離後の細胞を懸濁する場を提供する溶液であり、具体的には、細胞培養液、もしくはイオン濃度やグルコースなどの糖を添加し浸透圧を調整した溶液を用いることができる。「細胞を含む試料溶液」および「シース液」を各注入・排出口に注入すると、深さが浅い流路ではμ−fluidics効果により液体間の混合が抑制され、図6(b)に示すように、3箇所の注入・排出口から注入された各液体は、合流した流路内でもそのまま分割された状態、すなわち細胞を含む試料溶液がシース液の流れ(シース流)に挟まれた状態になる。すなわち、流路内で、試料溶液とシース液とは混じりあわない。注入を停止すると、導入された細胞は先に述べたように長時間同一の位置に留まる。
したがって、流路内で長時間同一の位置に留まる細胞は、細胞解析終了後に目的の細胞だけを取りだすことが出来る。例えば、図6(c)では、細胞解析時に個々の細胞の位置情報も記録しておき、種々のパラメータ(染色の総量、強度のMAX、大きさ、周囲長など)によるグラフ化やゲーティング(グラフの一部を切り出したり、さらに切り出した部分に対して解析を行う)後、位置情報を基にレーザピンセットのフォーカス位置を移動させることにより目的の細胞だけをシース流側に移動させる。本実施の形態ではシース流は2箇所であるので、2種類の細胞をシース流側に移動することが出来る(図6(d))。最後に注入・排出口31、32、33から同時に液を注入し、それぞれ注入・排出口34、36、35から液を排出させることにより、目的の細胞を分取することが出来る。なお、流路内の試料溶液とシース液の分割は、注入・排出口31、32、33からの注入量の比で決まる。従って、分岐部の構造は注入する液量比とそれにともなう分割割合で決められる。
ここでは従来のセルソーティング方式と異なり、細胞の解析後に目的の細胞を分割、採取する。従って、詳細な解析後に目的の細胞を取り出すことが出来るので、従来に比べ非常に精密な細胞の分割、採取が期待できる。また、微細流路を用いるので微量の試料を取り扱うことができる。
なお、第2の実施の形態では3分割注入口としたが、さらに複数の注入口とすることも可能である。その際の流路内の液体の分割は同様に注入される液体の量比で決まる。
このように、目的とする細胞を細胞含有溶液からシース液へと移動させるために、細胞解析システムの顕微鏡に、レーザピンセット機能が付加されていることが好ましい。レーザピンセット機能とは、細胞を捕捉し移動させるためのレーザー光源と、当該レーザー光源からの光ビームを観察用デバイスの流路内に集光する光学系を具備する。レーザーピンセット機能は、レーザー光により流路内の細胞を捕捉し、レーザー光の位置を移動させることにより、細胞を目的の位置に移動させることができる。ここでレーザー光源から出射されるレーザーは、捕捉したい細胞のサイズに応じて、その種類および照射波長について適宜選択することができる。本発明において使用されるレーザーは、レーザーピンセットで慣用的に使用されるものであり、一般に1064nm(YAGレーザー)〜690nm(半導体レーザー)のレーザーを使用することができる。例えば、20μmサイズの細胞を捕捉するためには、波長1064nmの出力10〜100mWのYAGレーザーを使用することができる。このレーザー光を観察用デバイスの流路内に集光する光学系は、種々のレンズ、ミラー等から構成される。流路内での細胞の捕捉位置は、流路の深さ方向に関しては、対物レンズ、ステージの上下方向への移動により調整することができ、流路の長さ方向に関しては、光学系のミラーの角度を変えることにより制御することができる。このように調整・制御をして、流路内の所定の位置にレーザを照射し、目的とする細胞を捕捉し、移動させることができる。
3.第2の実施の形態に係る細胞解析システムを用いた細胞の分離方法
本発明の細胞の分離方法は、上述したとおり、
上述の分岐した流路を有する細胞観察用デバイスの2つ以上の注入口の1つに、細胞を含む試料溶液を注入し、その他の注入口にシース液を注入して、前記流路内において、細胞を含む試料溶液とシース液との混合が抑制された状態にある工程と、
流路内に導入された細胞の解析を行う工程と、
解析の結果をもとに、試料溶液中に存在する目的の細胞をレーザピンセットにより特定のシース液へと移動させる工程と、
2つ以上の注入口のすべてを同時に加圧することにより、特定のシース液へと移動した細胞を、特定のシース液が排出される排出口で取り出す工程とを含む。
たとえば、図6に示す観察用デバイスを用いて、注入・排出口33に細胞含有溶液を注入し、その他の注入・排出口31、32にそれぞれシース液を注入する。すると、図6(b)に示すとおり、細胞を含む試料溶液とシース液との混合が抑制された状態、すなわち細胞含有溶液と各シース液とが実質的に混合しない状態で流路内に導入される。その後、流路内の細胞について、たとえばセルサイクルの解析を行う。その解析結果に基づいて、目的の細胞(たとえばM期(分裂期)の細胞)を、上記レーザピンセット機能を用いて捕捉し、特定のシース液(たとえば、注入・排出口31から導入されたシース液)へと移動させる。その後、注入・排出口31〜33を同時に加圧することにより、特定のシース液へと移動した目的の細胞を、特定のシース液が排出される注入・排出口34で取り出す。
また、本発明の細胞の分離方法は、好ましい態様において、レーザピンセットによる目的の細胞のシース液への移動が、前記流路内に存在する細胞の位置情報を確認して、目的の細胞以外の他の細胞との接触を避けて行われる。この好ましい態様において、流路内に存在する細胞の位置情報の確認は、流路内のすべての細胞に対して行ってもよいし、あるいは分離したい目的の細胞とその周辺に存在する細胞に対してのみ行ってもよい。
本発明の第1の実施の形態に係る細胞解析システムを示す図。 本発明の第1の実施の形態に係る細胞解析システムに用いられる細胞観察用デバイスを示す(a)上面図、および(b)図2(a)のA−A’線の断面図。 本発明の第1の実施の形態に係る細胞解析システムを用いて、細胞を観察した結果を示す顕微鏡写真。 本発明の第1の実施の形態に係る細胞解析システムを用いて、細胞の時間に対する位置安定性の確認実験を行った結果を示す顕微鏡写真。a)細胞観察用デバイスに細胞を導入した直後の倒立顕微鏡画像、b)2時間後の画像、c)4時間後の画像、d)導入直後と4時間後の差を取った画像、e)細胞観察用デバイスに細胞を導入した直後の共焦点顕微鏡画像、およびf)2時間後の画像。 観察用デバイスの流路に沿って画像を取得し細胞周期の測定を行った結果を示すグラフ図。(a)は、流路に沿った画像取得範囲を示す図、(b)は細胞周期を示すヒストグラム。 本発明の第2の実施の形態に係る細胞解析システムに用いられる細胞観察用デバイスの流路のみを示す図。
符号の説明
1…注入・排出口、2…凸部、3…流路、4…流路形成部材、5平板、
11…倒立顕微鏡、12…X-Yステージ、14…細胞観察用デバイス、15…対物レンズ
31〜36…注入・排出口、37…細胞

Claims (7)

  1. 細胞含有溶液を流動させるための流路を内部に備え、前記流路内の細胞を観察するための透明な面を備えた細胞観察用デバイスであって、前記流路の断面が偏平な長方形で且つ流路の上面と下面が流路全体にわたって同一の間隔を有して平行であることにより、前記流路内に溶液を流動させた際に流路上面と下面の中間に二次元的に低圧力抵抗部分が形成され、これにより複数の細胞が流路上面と下面の中間に二次元的に浮遊状態で分布する細胞観察用デバイスと、
    前記流路内の細胞を観察するための顕微鏡と
    を備えた細胞解析システムを用いて、細胞を解析する方法であって、
    前記細胞観察用デバイスの流路内に細胞含有溶液を導入して、複数の細胞を流路上面と下面の中間に二次元的に浮遊状態で分布させる第一の工程と、
    前記工程後の複数の細胞を流路内で放置して、前記浮遊状態の分布と同じ位置で維持する第二の工程と、
    前記浮遊状態の複数の細胞を前記顕微鏡で観察し、解析する第三の工程と
    を含む方法。
  2. 前記細胞観察用デバイスの前記流路の上面と下面の間隔が10μm以上400μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の方法
  3. 請求項1または2に記載の方法であって、前記第一の工程が、前記細胞観察用デバイスの流路内に加圧により細胞含有溶液を導入する工程であり前記第三の工程が、流路に沿って細胞のイメージングを行うとともに、細胞の位置情報を含めて細胞の画像を記録する工程であることを特徴とする方法
  4. 請求項1〜3の何れか1項に記載の方法であって、前記細胞観察用デバイスの流路が、下面を形成するベース基材と、上面および側面を形成する流路形成部材とから構成され、前記流路形成部材が、シリコン樹脂、アクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチックやガラスおよびセラミックなどの絶縁性無機材料であることを特徴とする方法
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の方法であって、前記細胞観察用デバイスの流路が、下面を形成するベース基材と、上面および側面を形成する流路形成部材とから構成され、前記ベース基材が、アクリル、ポリカーボネート、ポリプロピレンなどの透明なプラスチックやスライドガラス、カバーガラス、有機ガラス薄膜などの透明基材であることを特徴とする方法
  6. 請求項1〜5の何れか1項に記載の方法であって、前記細胞観察用デバイスの流路が、上下の深さ10〜100μm、幅100μm以上、長さ100μm以上であることを特徴とする方法
  7. 請求項1〜6の何れか1項に記載の方法であって、
    前記第三の工程で得られた解析結果に基づいて、溶液中に存在する目的の細胞を分離する工程をさらに含む方法。
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