JP4656055B2 - 線形イオン加速器およびイオン加速システム - Google Patents
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Description
IH型線形加速器の電磁場発生モードはビーム加速方向に磁場が発生するTEモードであり、間接的にドリフトチューブ間に電場を発生させるが、TEモードで励起された加速電場は共振空胴端部でゼロ、共振空胴中央部でピークになる山形の電場分布になる。このような電場分布では、中央部でのピーク電場により放電限界が決められるため、発生電場を効率よく利用できない。したがって、発生電場を効率的に使用するためには、共振空胴内に均一な電場分布を形成する必要がある。
また、従来のIH型線形加速器では、TEモードで励起された加速電場分布を調節する機構としてリッジが用いられているが、このようなリッジを設けたIH型線形加速器は、磁場が共振空胴端部まで行き渡るため共振空胴中央部において均一の電場分布を発生させることが可能となる。しかしながら、共振空胴端部領域における電場は微量しか発生せず、その領域においてビームに与える加速力、収束力が弱くなる。そのため、重い粒子ビームを加速する場合や粒子ビームの電流量が小さい場合には大きな問題はないが、例えば陽子等の軽い粒子ビームを加速する場合や大電流ビームを加速する場合には、空間電荷効果によりビームを多く失う問題があった。特に、APF(Alternating Phase Focused)法のようなビーム収束機器を要しない収束法により加速を行うと、従来のIH型線形加速器ではビームを多く失う問題があった。
また、このような線形イオン加速器を用いて、イオンビームをより効率的に加速することが可能なイオン加速システムを得ることを目的としている。
図1は本発明の実施の形態1によるIH型線形イオン加速器を示す断面構成図である。共振空胴1内には、ビーム加速方向(Z方向)に沿って、加速電場を発生するための複数のドリフトチューブ2が設置されている。ドリフトチューブ2を支持するステム3は、加速方向に垂直な方向(Y方向)に配列し、共振空胴内壁に設置された一対のリッジ4に交互に接続されている。
電場分布調節機構であるリッジ4の端部は、均一電場分布を達成するように調節するエンドリッジチューナー5が設けられている。エンドリッジチューナー5は、リッジ4を切り欠くことにより構成されている。
低エネルギー側エンドドリフトチューブ6は、ステム3ではなく、ビーム入射側となる低エネルギー側共振空胴端板7により支持され、同様に高エネルギー側エンドドリフトチューブ8は、ビーム出射側となる高エネルギー側共振空胴端板9に支持される。
低エネルギー側エンドドリフトチューブ6と隣接するドリフトチューブ2との間には加速ギャップ10があり、以下、ドリフトチューブ2の個数に応じ、加速ギャップ数も増えていく。複数のドリフトチューブ間の加速ギャップを、低エネルギー側から順に加速ギャップ10a、加速ギャップ10b、加速ギャップ10c・・・と表記する。
同様に、高エネルギー側の共振空胴端部の空胴径も、共振空胴中央部の空胴径より大きく、かつこの径拡大部(以下、高エネルギー側拡大空胴と記す。)12は、高エネルギー側共振空胴端板9からリッジ4が設けられている個所に至る位置までの空胴長L2をもって存在する。また、リッジ4に掛かる拡大空胴部分には、リッジ4が延長して設けられている(リッジ42)。
最初に、低エネルギー側拡大空胴11の拡大空胴径および拡大空胴長L1について、3次元電磁場解析により得られる電場分布から、上記拡大空胴径および拡大空胴長L1を評価し、低エネルギー側拡大空胴11内で均一電場分布を達成するように、拡大空胴径および拡大空胴長L1の最適化を行う。また、高エネルギー側拡大空胴12についても低エネルギー側拡大空胴11と同様に行う(ステップ1)。
共振周波数を決定する大きな要因はドリフトチューブ間に発生する電気容量と磁場が流れる共振空胴断面積である。低/高エネルギー側拡大空胴11、12を搭載すると、共振空胴端部における磁場が流れる領域が増大するため、共振周波数は拡大空胴11、12を搭載する前に比べ減少する。したがって、減少した共振周波数を増加させるためには、ドリフトチューブ間で発生する電気容量は拡大空胴11、12を搭載しても変わらないため、磁場が流れる共振空胴断面積を縮小することで達成できる。そのため、ステップ1で得られた低/高エネルギー側拡大空胴11、12の空胴径、および共振空胴中央部の空胴径を同じ割合で縮小し、3次元電磁場解析により、共振空胴1の共振周波数が、設計値の加速器運転周波数になるように、上記それぞれの空胴径を最適化する(ステップ2)。
なお、上記各ステップにおいて、拡大空胴の空胴径と共振空胴中央部の空胴径との大小関係が変ることはない。
図2は、低エネルギー側拡大空胴11を搭載前の低エネルギー側共振空胴における電場分布を示しており、リッジ4により電場分布を均一化した後の低エネルギー側端部領域の電場分布を示す。なお、図2はドリフトチューブの数が図1に示すものより多い構成の線形加速器に対する電場分布である。横軸は加速軸であり、加速方向の位置を示す。縦軸は加速軸上に発生する電場強度(右側縦軸)であり、空胴中央部での均一電場分布の電場強度により規格化した電場(左側縦軸)を併記する。また、曲線A0は電場分布そのものを示し、曲線Aは各加速ギャップ10a、10b、10c・・・での電場強度のピークをつなげたものである。
さらに、リッジ4を用いた従来のIH型線形加速器では、図2に示すように、加速ギャップ10aで発生する電場強度が一番弱く、共振空胴中央部の均一な電場強度の30%程度の電場しかない。そのため、加速ギャップ10aでの加速ゲインが小さいので、大電流ビームを加速する場合は空間電荷効果により失うビームが多くなってしまう。これを改善するためにも、特に低エネルギー側共振空胴端部領域での電場の立ち上りを改善し、より均一化する必要がある。
さらに、IH型線形イオン加速器にAPF法による自己収束法を用いる場合、加速電場を収束にも用いるために、加速電場が弱いと収束力も弱くなり、大電流ビームを加速する場合、空間電荷効果により失うビームはさらに多くなるという問題がある。
図3に示すように、低エネルギー側共振空胴径を共振空胴中央部の空胴径の2倍、4倍と拡大すると、それに伴い、磁場の流れる領域が拡大するため、低エネルギー側共振空胴端部領域の電場強度は全体に増加するが、共振空胴端に一番近い加速ギャップ10aでの電場強度は、空胴径を2倍、4倍に拡大してもあまり増加しない(図3のP1、P2)。
これはリッジ4により端部まで導かれる磁場はリッジ付近において密であるため、リッジ手前の空胴径をいくら拡大してもその効果は小さいためと考えられる。
したがって、加速ギャップ10aにおける電場強度を増加させるためには、リッジ4も含めた領域まで拡大空胴11の空胴長L1を拡大する必要がある。
図4は低エネルギー側共振空胴端部の空胴径を拡大したときの電場分布であり、低エネルギー側拡大空胴11をリッジ4を含んだ領域まで拡大し、空胴長さL1が、共振空胴端よりリッジ4が設けられている個所に至る位置までとした場合の電場分布を示す。横軸は加速軸を示し、縦軸は共振空胴中央部での均一電場強度で規格化した電場分布を示す。
曲線Aはリッジ4により電場分布を調節後(共振空胴拡大前)の低エネルギー側共振空胴端部領域の電場分布(各加速ギャップでの電場強度のピークをつなげた曲線)、曲線C1は加速ギャップ10bの入射側端部(図1のb1)まで拡大空胴長L1をとった場合の電場分布(各加速ギャップでの電場強度のピークをつなげた曲線)、曲線C2は加速ギャップ10bの出射側端部(図1のb2)まで拡大空胴長L1をとった場合の電場分布(各加速ギャップでの電場強度のピークをつなげた曲線)である。
共振空胴内に発生させる均一電場強度の設定値は、放電限界電場強度よりも余裕を持たせて設計するのが通例である。したがって、最大でも均一電場分布の1.2倍程度までなら許容範囲である。したがって、低エネルギー側共振空胴端部での電場強度を増加させる場合、入射側電場強度の上限は放電に対する安全係数によりある程度決定されるが、下限、とくに加速ギャップ10aでの電場強度の下限は大電流ビーム、たとえば陽子ビームを加速する場合は重要になってくる。
大電流ビームによる空間電荷効果はβ2γ3(β:v/c vは粒子速度、cは光速、γ:1/√(1−β2))に反比例するため、低エネルギーからの加速の場合、とくに陽子などの質量の軽いビームを加速する場合、空間電荷効果が顕著になる。したがって、入射エネルギーが下がれば下がるほど加速ギャップ10aでの電場強度を増加させ、早期に加速してエネルギーを大きくする必要があることがわかる。
一般的に、陽子加速用前段加速器としてはRFQ型線形加速器が使われ、このRFQ型線形加速器からの出射エネルギーとしては1MeV程度が使われている。RFQ型線形加速器は出射エネルギーが高いほど大型になるため、ここでは更なる加速器の小型化を念頭に、RFQ型線形加速器より低エネルギービームを入射して、早期に効率よく加速することとし、そのための指標として必要電場強度(共振空胴中央部での均一電場強度で規格化した時の加速ギャップ10aでの必要電場強度。)0.8を設定し、低エネルギー側端部電場分布が±20%の範囲内になるよう空胴端部電場強度を均一化させるとよい。
さらに、RFI型線形加速器では、ステム間に磁場が回りこむ影響が大きいために、ステム自身に流れる電流量が増加することで消費電力量が高くなり冷却機構が必要になるが、特にAPF法のような別途収束用機器を必要としない収束法を適用した場合にはドリフトチューブ長が短くなるため、冷却機構を搭載するための十分なステム径を設置することができないという問題がある。本実施の形態ではリッジを設けたIH型線形加速器を用いているので、RFI型線形加速器におけるような問題は生じない。
図6は本発明の実施の形態2によるIH型線形イオン加速器の主要部を示す断面構成図であり、拡大空胴を二段式拡大空胴としたものである。
図6において、低エネルギー側拡大空胴は、低エネルギー側拡大空胴端板7と、拡大空胴A20と、拡大空胴B21とにより構成され、拡大空胴A20は、共振空胴中央部の空胴径より大きな空胴径R1、空胴長さL3により構成され、拡大空胴B21は、共振空胴中央部の空胴径より大きな空胴径R2(R1>R2)、空胴長さL4により構成される。
また、高エネルギー側拡大空胴も、同様に二段式拡大空胴で構成されている(図示を省略)。
このような場合は、低エネルギー側拡大空胴11を段違い式にすることが有効である。ここでは二段式拡大空胴による例を示すが、段の数は二段に限らない。
図7において、曲線D1は、一段式入射側拡大空胴11による電場分布(各加速ギャップでの電場強度のピークをつなげた曲線)、曲線D2は単純に二段式空胴を設けたときの電場分布(各加速ギャップでの電場強度のピークをつなげた曲線)、曲線D3は二段式拡大空胴の各空胴径および空胴長さを3次元電磁場解析により最適化した後の電場分布(各加速ギャップでの電場強度のピークをつなげた曲線)を示す。
拡大空胴B21の空胴径R2は、増加しすぎた加速ギャップ10bでの電場強度を弱める目的があるため、まず、拡大空胴11が一段(段違いになっていない拡大空胴)の場合について、実施の形態1と同様に、3次元電磁場解析を用いて電場分布を解析し、加速ギャップ10a、加速ギャップ10bにて発生する電場強度がともに増加し、とくに加速ギャップ10bの電場強度が共振空胴中央部での均一電場強度を越える状態となる場合、加速ギャップ10aでの電場強度が、共振空胴中央部における均一電場強度に近い空胴径R1、空胴長L3+L4を選択する(ステップ1)。
その状態で、拡大空胴11を二段とし、加速ギャップ10bでの電場強度を弱め、低エネルギー側共振空胴端部領域の電場分布がより均一となる拡大空胴B21の空胴径R2、空胴長L4を3次元電磁場解析により求め、均一電場分布を得る形状を最適化する(ステップ2)。
高エネルギー側拡大空胴の設計指針も同様である。
その後、共振空胴全体の電場分布および共振周波数を調節する方法は実施の形態1に準ずる。
図8は本発明の実施の形態3によるIH型線形イオン加速器の主要部を示す断面構成図であり、拡大空胴をコーン状拡大空胴としたものである。
図8において、低エネルギー側拡大空胴は、低エネルギー側拡大空胴端板7と、空胴径が、加速方向に沿ってコーン状に徐々に変化しているコーン状拡大空胴22とにより構成されており、コーン状拡大空胴22の空胴径は、R1よりR2(R1,R2は共振空胴中央部の空胴径より大、R1>R2)まで徐々に変化し、かつ空胴長さはL5となるように構成される。
また、高エネルギー側拡大空胴も、同様にコーン状拡大空胴で構成されている(図示を省略)。
その状態で、拡大空胴11をコーン状とし、加速ギャップ10bでの電場強度を弱め、低エネルギー側共振空胴端部領域の電場分布がより均一となる拡大空胴22の空胴径R2を3次元電磁場解析により求め、均一電場分布を得る形状を最適化する(ステップ2)。
高エネルギー側拡大空胴の設計指針も同様である。
その後、共振空胴全体の電場分布および共振周波数を調節する方法は実施の形態1に準ずる。
図9は本発明の実施の形態4によるイオン加速システムを示すブロック図であり、シンクロトロン等の円形加速器に入射するためのイオンビームを生成し、予備加速するイオン加速システムである。
図9において、PIGイオン源、ECRイオン源等のイオン源23から発生した陽子ビームまたは重粒子ビームを、低エネルギービーム輸送路24を経由して、RFQ型線形加速器等の前段加速器25に入射し、前段加速器25により前段加速する。前段加速したビームは、実施の形態1〜3のいずれかの構成のIH型線形加速器(後段加速器)26に入射する。IH型線形加速器26から出射するビームは中エネルギービーム輸送路27より輸送され、シンクロトロン等の円形加速器に入射する。
Claims (5)
- イオンビームの加速方向に沿って共振空胴内に設置された複数のドリフトチューブ、上記共振空胴内壁に設置された一対のリッジ、および上記複数のドリフトチューブを上記一対のリッジに交互に接続して支持するステムを備え、上記共振空胴内に上記加速方向に沿って発生させた磁場により上記複数のドリフトチューブ間に加速電場を発生させて、上記共振空胴内に入射する上記イオンビームを加速する線形イオン加速器において、上記イオンビーム入射側の上記共振空胴端部の空胴径は、上記共振空胴中央部の空胴径より大きく、かつこの上記共振空胴の径拡大部は、上記イオンビーム入射側の上記共振空胴端より上記一対のリッジが設けられている個所に至る位置まで設けられていることを特徴とする線形イオン加速器。
- 径拡大部は、イオンビーム入射側の共振空胴端より、上記加速方向に沿って上記共振空胴内に発生する加速電場の立ち上り領域を含む位置まで設けられていることを特徴とする請求項1記載の線形イオン加速器。
- 径拡大部の空胴径は、加速方向に沿って段階的に変化していることを特徴とする請求項1または2記載の線形イオン加速器。
- 径拡大部の空胴径は、加速方向に沿ってコーン状に徐々に変化していることを特徴とする請求項1または2記載の線形イオン加速器。
- イオン源、該イオン源から出射するイオンビームを加速する前段加速器、および該前段加速器から出射するイオンビームを加速する後段加速器を備えたイオン加速システムにおいて、上記後段加速器として、請求項1〜4のいずれかに記載の線形イオン加速器を用いたことを特徴とするイオン加速システム。
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