JP4647871B2 - 蛋白質の構造座標及びnmr化学シフト並びにそれらの使用 - Google Patents

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Description

技術分野
本発明は、ヒト好中球NADPH酸化酵素(NADPH oxidase)のp47サブユニットに含まれるPXと呼ばれるドメイン(p47・PX)のNMR解析の手法により得られた3次元構造座標および化学シフトに関する。
又、本発明はPXドメインの変異体の同定、検索、評価又は設計に関する。
更に、本発明は、ヒト好中球NADPH酸化酵素のp47・PXの3次元構造座標を用いた、PXドメイン結合物質の結合を促進又は阻害する化合物の同定、検索、評価又は設計に関する。
背景技術
種々の疾患に活性酸素(通常の酸素Oより活性化されている酸素を含む分子の総称)が広く関与していることが最近の研究から明らかになってきている。たとえば、浮腫、動脈硬化、炎症、発ガン、ガン転移、老化、アルコール依存症、アルツハイマー、糖尿病等に関与している可能性がある(編集 近藤元治、最新医学からのアプローチ4 「フリーラジカル」、第48−54頁、グロビュー社、1992)。従って、活性酸素の生成を抑えたり、活性酸素の分解を促進する作用を持つ物質は前記の種々の疾患に対する有効な治療薬となる。
スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)はスーパーオキシド(O )の不均化を行う酵素であり、次式に示されるような反応を触媒する。
2O + 2H → H + O
生成したHも活性酸素の一種であるが、カタラーゼやペルオキシダーゼと呼ばれる酵素によって分解され無害化される。従って、SODの投与が活性酸素が関与するような疾患の治療法として考えられる。しかし、SODは蛋白質製剤であり、次のような欠点がある。即ち、蛋白質のために、投与法が問題になり、投与後も生体中で容易に分解される可能性がある。また、免疫反応を惹き起こす可能性もある。更に、生産、精製過程が複雑であり、製造コストが高くなる。
一方、ビタミンC類縁化合物、ビタミンE類縁化合物、カロテノイド類、尿酸、ポリフェノールなど、抗酸化剤と呼ばれる一群の低分子化合物がある。これらの摂取は活性酸素の生成を抑えて、老化の防止などに役立つ効果があると考えられている。
以上の方法は生じた活性酸素を減らす対処療法であるが、もっと積極的に不要な活性酸素の産生を抑制することは、前記のような各種の疾患に対する有効な予防法、又は治療法となる。
活性酸素は、種々の原因で生ずる。生理的には呼吸に伴ってミトコンドリア内部で作られる。また、好中球が細菌を貪食するときに発生する。非生理的には、光や紫外線などの照射によって生じる。また、喫煙などにより活性酸素またはその前駆体を摂取することもある。(編集 近藤元治、最新医学からのアプローチ4 「フリーラジカル」、第14−21頁、グロビュー社、1992)。
食細胞(好中球を含む)が放出するスーパーオキシド(O )が主要な活性酸素の発生源となっている場合がある。例えば、胃粘膜傷害や腎炎などのような炎症や炎症性疾患などにおいてみられる(編集:近藤元治、最新医学からのアプローチ4 「フリーラジカル」、第92−99頁、第108−111頁、グロビュー社、1992)。特に臨床的に重要なケースは、生体組織中で血流が止まってから再開通するときに生じる傷害であり、再灌流傷害という。これは再供給された酸素が活性化され、この活性酸素がリン脂質の過酸化反応を引き起こすことによる。これは脳や心筋などの梗塞時、あるいは臓器移植に関連する。(編集 近藤元治、最新医学からのアプローチ4 「フリーラジカル」、第76−83頁、グロビュー社、1992)。従って、好中球によるスーパーオキシドの産生を抑えることは、以上の傷害を抑えることに極めて有効であると考えられる。
NADPH酸化酵素は好中球のスーパーオキシド生成に関与する蛋白質複合体である。NADPH酸化酵素の遺伝的な欠損は慢性肉芽腫症(chronic granulomatous disease;CGD)の原因となる。この遺伝性疾患は活性酸素を生成できないために、好中球の殺菌力が弱く、幼少時より感染を繰り返して死に至る(Segal,A.W.,J.Clin.Invest.,83:1785−1793(1989))。これは生体感染防御におけるNADPH酸化酵素の重要性を示している。
NADPH酸化酵素は、膜蛋白質成分と可溶性蛋白質成分からなる。膜蛋白質成分はフラボシトクロムb558と呼ばれ、ヘムを含むp22サブユニットとFADを含むgp91からなる。フラボシトクロムb558はスーパーオキシド産生を触媒する酵素本体である。一方、可溶性蛋白質成分はp67、p47、p40、Racからなり、フラボシトクロムb558の酵素活性を調節する働きをしている。p67、p47、p40は、PXドメイン、SH3ドメインなどを含むマルチドメインタンパク質である。RacはスモールGTP結合タンパク質の1種である。細胞内で生成したこれらの可溶性蛋白質成分は生体膜近傍に移行し、膜蛋白質成分に結合し、NADPH酸化酵素は活性化するものと考えられている(Sumimoto,H.,Ito,T.,Hata,K.,Mizuki,K.,Nakamura,R.,Kage,Y.,Sakai,Y.,Nakamura,M.,Takeshige,K.International symposium“Membrane proteins:structure,function and expression control”(1997)235−245)。
従って、このNADPH酸化酵素の機能を調節することができれば、好中球におけるスーパーオキシドの発生を抑えることが可能となる。
PXドメインは、ヒトNADPHオキシダーゼのp47可溶性サブユニット中に同定された蛋白質ドメインである(配列番号1)(Ponting,C.P.,Protein Sci.,5:2353−2357,(1996))。このドメインはp47およびp40サブユニットのアミノ酸配列の一部を用いて、データベース検索を行うことで得られた、約130残基程度のアミノ酸残基からなる保存配列である。最新のPXドメインを持つとされる蛋白質のリストとそのPXドメインを特徴づけるコンセンサス配列は、インターネット上でSMART(Simple Modular Architecture ResearchTool)データベースとして公開されている(http://smart.embl−heidelberg.de/)。
PXドメインと思われるアミノ酸配列は多数の蛋白質に同定されており、NADPH酸化酵素のp47サブユニットとp40サブユニット以外に、ソーティングネキシン、タイプIIのフォスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)、フォスフォリパーゼD(PLD)、酵母のBem蛋白質など、これまでに100種類以上の蛋白質中に見い出されている。現在まで、PXドメインは真核生物由来の蛋白質のみに存在し、細菌など原核生物由来の蛋白質には同定されていない。
PXドメインはSH3ドメインが結合すると予想されるプロリンリッチ配列を含んでいる。SH3ドメインは、Srcと呼ばれる発ガンタンパク質のファミリーに共通した配列から同定されたタンパク質ドメインであり、約60残基程度のアミノ酸配列である(配列番号2)。プロリンを多く含む疎水的な10残基程度の長さのアミノ酸配列に結合する機能を持つ。
PXドメインを含む蛋白質には、その分子内にSH3ドメインを同時に持つものがある。例えば、本発明の実施例で用いたヒト好中球のNADPH酸化酵素のp47サブユニット、同じNADPH酸化酵素のp40サブユニット、酵母のBem1pなどがある(図1)。同一分子内にPXドメインとSH3ドメインが存在すると、これら2つのドメインが別々の分子にある場合に比べて、ドメイン間の結合が強められる可能性がある。また、PXドメインとSH3ドメインの結合により、同一タンパク質内の他のドメインの機能を間接的に調節することが可能となると考えられる。
真核生物由来の蛋白質中に広く見出されているPXドメインの構造・機能を明らかにすることは、PXドメインをもつ蛋白質の構造・機能解析に役立つ。特に、NADPH酸化酵素のPXドメインの構造解析は、NADPH酸化酵素の機能の解明に直接役立つと考えられ、ひいては、NADPH酸化酵素によるスーパーオキシド生成機構の解明、スーパーオキシド生成を制御することによる各種疾患に対する治療法の提供などにも役立ち得る。
しかしながら、SH3とPXのプロリンリッチ配列を介して相互作用する可能性以外にはPXドメインの機能は明らかにされていない。p47中のPXドメインについても、NADPH酸化酵素の酵素活性調節に対して重要な役割を果たしていると推定されるが、他の蛋白質のPXドメインと同様に実際の機能は分かっていない。
また、PXドメインを持つ蛋白質は多数あるが、それらの蛋白質の働きからPXドメインの機能を推定することは困難であった。
更に、これまでに3次元構造が明らかとなったPXドメインはなく、構造からPXドメインの機能を推定することも不可能であった。
NADPH酸化酵素自身の3次元構造についてもこれまでに明らかにされておらず、NADPH酸化酵素の活性を調節できるような化合物を理論的に設計することは不可能であった。
発明の開示
本発明者らは、上記のような問題点を解決するために、ヒト好中球NADPH酸化酵素のp47サブユニットに含まれるPXドメイン(p47・PX)の3次元構造座標をNMRを用いて初めて明らかにした。
また、p47・PX中に見出されるSH3が結合すると推定されるプロリンリッチ配列に、同じp47サブユニットに含まれる2つのSH3ドメインの内のC端側のSH3ドメイン(以下、p47・SH3(C)と呼ぶ)が結合することを見出した。この結合は特異的である。なぜなら、p47サブユニットに含まれるもう一方のN端側のSH3ドメイン(以下、p47・SH3(N)と呼ぶ)は、p47・PXとは相互作用しないからである。
更に、p47・PXにリン脂質が結合すること及びその結合部位をも見出した。このことは次の意味を有する。例えば、NADPH酸化酵素の場合、上述のように、細胞膜に存在する酵素本体であるフラボシトクロムb558に、細胞内に存在する調節成分であるp47等が細胞膜近傍に移行して結合することによってNADPH酸化酵素が活性化することが知られていた。リン脂質が細胞膜の成分であることを考慮すると調節成分の細胞膜への移行、従ってNADPH酸化酵素の活性化はp47・PXの細胞膜のリン脂質への結合によると考えられる。
更に、p47・PXに結合するリン脂質の結合を促進する化合物の同定または検索する方法を見出した。例えば、NADPH酸化酵素の場合、リン脂質の結合の促進はNADPH酸化酵素の活性を増加させることになる。
更に、p47・PXに結合するリン脂質の結合を阻害する化合物の同定または検索する方法を見出した。例えば、NADPH酸化酵素の場合、リン脂質の結合の阻害はNADPH酸化酵素の活性を減少させることになる。
更に、p47・PXにp47・SH3(C)が結合することで、PXドメインの立体構造が変化することも見出した。p47・PXにp47・SH3(C)が結合すると、p47・PXとリン脂質の結合が弱められることを見出した。PXドメインにおいて、p47・SH3(C)が結合する領域とリン脂質が結合する領域とは3次元構造的に見て近接していることも見出した。
蛋白質ドメインは、切り出して単離しても、元の立体構造や機能を保持していることが知られているので、単離したPXドメインとSH3ドメインとの相互作用や、単離したPXドメインとリン脂質の相互作用は、p47全長におけるPXドメインとSH3ドメインやリン脂質との相互作用と実質的に同一であると見なすことができる。
即ち、本発明によって、PXドメインの詳細な機能を知ることができ、その3次元構造座標を元にして、PXドメインのアミノ酸残基を変化させることで、PXドメインを持つ蛋白質の機能を改変することが可能となった。
また、PXドメインの化学シフトを元にしてPXドメインに結合する物質、PXドメインに結合する物質の結合を促進する化合物、PXドメインに結合する物質の結合を阻害する化合物の同定、検索、評価又は設計などを可能にした。
また、その3次元構造座標を元にしてPXドメインに結合する物質の結合を促進する化合物、又はPXドメインに結合する物質の結合を阻害する化合物の同定、検索、評価又は設計などを可能にした。
また、その化学シフトと3次元構造の両者を組み合わせてPXドメインに結合する物質、PXドメインに結合する物質の結合を促進する化合物、PXドメインに結合する物質の結合を阻害する化合物の同定、検索、評価又は設計などを可能にした。
即ち、本発明は、PXドメインを持つ蛋白質の機能を改変するためのPXドメインの変異体、PXドメインに結合する物質の結合を促進する化合物、又はPXドメインに結合する物質の結合を阻害する化合物を同定、検索、評価又は設計するために用いる、PXドメインの3次元構造座標を要旨とする。本明細書で用いる「PXドメインに結合する物質」にはリン脂質及びSH3ドメインを含む。
更に、本発明は、PXドメインの変異体、PXドメインに結合する物質の結合を促進又は阻害する化合物を同定、検索、評価又は設計するために用いる、上記の3次元構造座標の全部又はその一部を格納しているコンピューター用記憶媒体をも要旨とする。
更に、本発明は、PXドメインの変異体、PXドメインに結合する物質の結合を促進又は阻害する化合物を同定、検索、評価又は設計するための、上記の3次元構造座標の全部若しくはその一部、又は上記のコンピューター用記憶媒体の使用をも要旨とする。
更に、本発明は、上記の3次元構造座標の全部若しくはその一部、又は上記のコンピューター用記憶媒体を使用することを特徴とする、PXドメインを持つ蛋白質の機能を改変するためにPXドメイン中に1個又は複数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入、又は化学的に修飾されたPXドメインの変異体を同定、検索、評価又は設計する方法をも要旨とする。
更に、本発明は、上記の3次元構造座標の全部若しくはその一部、又は上記のコンピューター用記憶媒体を使用することを特徴とする、PXドメインに結合する物質の結合を促進する化合物を同定、検索、評価又は設計する方法をも要旨とする。
更に、本発明は、上記の3次元構造座標の全部若しくはその一部、又は上記のコンピューター用記憶媒体を使用することを特徴とする、PXドメインに結合する物質の結合を阻害する化合物を同定、検索、評価又は設計する方法をも要旨とする。
本明細書において、アミノ酸、ペプチド、蛋白質は下記に示すIUPAC−IUB生化学命名委員会(CBN)で採用された略号を用いて表される。また、特に明示しない限りペプチド及び蛋白質のアミノ酸残基の配列は、左端から右端にかけてN末端からC末端となるように、又N末端が1番になるように表される。
A又はAla:アラニン残基、 D又はAsp:アスパラギン酸残基、
E又はGlu:グルタミン酸残基、 F又はPhe:フェニルアラニン残基、
G又はGly:グリシン残基、 H又はHis:ヒスチジン残基、
I又はIle:イソロイシン残基、 K又はLys:リジン残基、
L又はLeu:ロイシン残基、 M又はMet:メチオニン残基、
N又はAsn:アスパラギン残基、 P又はPro:プロリン残基、
Q又はGln:グルタミン残基、 R又はArg:アルギニン残基、
S又はSer:セリン残基、 T又はThr:スレオニン残基、
V又はVal:バリン残基、 W又はTrp:トリプトファン残基、
Y又はTyr:チロシン残基、 C又はCys:システイン残基。
発明の実施するための最良の形態
1.PXドメイン
本発明に用いるPXドメインは好ましくは真核生物由来であり、更に好ましくは哺乳動物由来、更に好ましくはヒト由来、更に好ましくはNADPH酸化酵素、特に好ましくはヒト好中球由来NADPH酸化酵素p47サブユニット由来のものである。
しかしながら、後述するように、本発明の構造座標と実質的に同一の構造を持つドメインであれば、本発明に含まれる。
PXドメインとは、ヒト好中球由来NADPH酸化酵素p47サブユニット由来の場合、そのアミノ酸配列(SWISS−PROTデータベース、NCF1_HUMAN)における第1番目のメチオニンから第128番目のプロリンまでの領域、他の蛋白質由来の場合、これに対応する領域をいう。
PXドメインの開始部位及び終了部位は本発明においては必ずしも厳密ではなく、その機能が保持されることを条件として、N末端及び/又はC末端に数アミノ酸残基いずれかの方向にずれたもの、あるいは、N末端及び/又はC末端に数残基のアミノ酸が付加したものも包含される。通常、このような一次構造上の僅かな差異は該PXドメイン全体の立体構造に大きな影響を与えず、機能は保たれると考えられる。
後述の実施例では、ヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニット由来のPXドメインの場合、上記アミノ酸配列のN末端側にグリシン、及びセリンの2アミノ酸残基が付加されたものを用いている。ただし、残基番号は本来のPXドメインのN末端のメチオニンを1番とし、付加されたグリシンは第マイナス2番目、セリンは第マイナス1番目とした。
2.NMRによる構造解析
蛋白質の3次元構造を明らかにする手法としてはX線結晶構造解析、NMR解析、電子顕微鏡解析などがあげられる。最も一般的に行われているのは、X線結晶構造解析の手法であるが、結晶化したタンパク質しか解析できない。特に、分子中にフレキシブルな部分があると結晶化できない可能性が高い。
一方、NMRを用いた解析方法は、蛋白質を結晶化することなく、溶液状態で測定できる利点がある。又、運動性に関する情報が得られる。
更に、他の分子を徐々に加えて化学シフトの変化を測定することで、他の分子との相互作用を迅速に調べることができる(荒田洋治、「タンパク質のNMR」共立出版、1996年;米国特許第5698401号、同第5804390号、同第5891643号、同第5989827号)。
通常、NMRの一回の測定には濃度0.5mM以上の蛋白質溶液を200〜400マイクロリットル必要とする。試料溶液のpHは酸性から弱アルカリ性(<pH8)が好ましい。更に、必要に応じて、緩衝剤(リン酸塩、酢酸塩など)、塩(NaClなど)、還元剤(ジチオスレイトールなど)、界面活性剤などを添加してもよい。
A.NMR化学シフト
このようにして調製した測定試料を用いて、NMRによる構造解析の手法により、本発明である、p47・PXのNMRの化学シフト(各原子のNMR測定における共鳴周波数を標準物質の共鳴周波数に対して相対的に示した値)が初めて得られる。得られた化学シフトを、当業者において一般的に用いられている蛋白質のNMRの化学シフトの表記方法に従って示したものを表1に示す。
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表1において、各原子のNMRの化学シフトを記述している。1列目は各原子の化学シフトの項目番号を、2列目は配列番号に対応したアミノ酸の番号を、3列目はアミノ酸残基等を、4列目はアミノ酸残基等における原子の区別を、5列目はアミノ酸残基等における原子の種類を、6列目はその原子の化学シフト(ppm単位)を示している。8列目はその原子の化学シフトが、本表中において固有の記述であるか、化学シフトの多義性のため複数行にわたって記述されているかの分類である。化学シフトが固有の場合は1、多義的な場合には2が使用されている。なお、本表は当業者にとって一般的に用いられている表記法である米国ウィスコンシン大学のBMRBデータベースの形式NMR−STARファイル形式に従って記述してある。本表は、該形式ファイルから、化学シフトを記述した行のみを抜粋したものである。7列目はデータベースの形式に合わせるための記号であり、本発明においては特に意味のある記号ではなく、7列目はすべて「.」を使用した。
なお本発明が提供する化学シフトの表は、95% HO−5% O中でpH 5.5、25度で、5mM MES緩衝液中、5mM DTT存在化でp47・PXの濃度が0.6mMで測定した時の値である。上述の測定条件は、必ずしも本発明の化学シフトにとって厳密に規定されたものでなく、測定装置、測定法、試料溶解に使用する溶媒、溶媒に含まれる塩や界面活性剤、測定温度等の条件をかえることにより測定して得た化学シフトでも、PXドメインの化学シフトに実質的に一致するものについては、本発明に包含される。実質的に一致とは、対応する原子の化学シフトの差が、水素原子でおよそ0.1ppm以下、13−炭素でおよそ0.5ppm以下、15−窒素でおよそ0.5ppm以下の範囲内である化学シフトを指す。
更に、PXドメインの変異体のNMR化学シフトでも、本発明による化学シフトと実質的に一致するものは本発明の範囲である。
又、PXドメイン配列の開始部位及び終了部位も必ずしも本発明にとって厳密に規定されたものでなく、N末端及び/又はC末端部分に別の蛋白質が結合しているもの、N末端及び/又はC末端に1個又は複数個のアミノ酸残基が付加したものなど、PXドメインのNMRの化学シフトについて実質的な変化をもたらさないものについては本発明に包含される。
なお表1において6列目に記述されている化学シフトは、それぞれ、5列目に記述されている原子の種類により、当業者にとって一般的に用いられる、それぞれの原子のNMR化学シフトの校正法に従って定めた値を示している。即ち、6列目がHの場合には、3−トリメチルシリルプロパン酸のメチル基の水素原子を0.00ppmとした時の値を記した。また、6列目がCの場合には、13−炭素の相対周波数(Ξ)と水素原子の相対周波数(Ξ)の比を3−トリメチルシリルプロパン酸のメチル基の水素原子の共鳴周波数に乗じた周波数を0.00ppmとした時の値を記した。また、6列目がNの場合には、15−窒素の相対周波数(Ξ)と水素原子の相対周波数(Ξ)の比を3−トリメチルシリルプロパン酸のメチル基の水素原子の共鳴周波数に乗じた周波数を0.00ppmとした時の値を記した。当業者にとって一般的に用いられる相対周波数の値は、水素原子について100.000000MHz、13−炭素について25.1449530MHz、15−窒素について10.1329118MHzである(Markley,J.L.ら(1998). Journal of Biomolecular NMR,12巻,第1−23頁,Kluwer Academic Publishers.Belgium.)
B.構造座標
上に述べたようにして調製した測定試料を用いて、NMRによる構造解析の手法により、本発明である、p47・PXの3次元構造座標(各原子の空間的な位置関係を示す値)が初めて得られる。得られた構造座標を、当業者において一般的に用いられている蛋白質の3次元の構造座標の表記方法に従って示したものを表2に示す。
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表2において、最終行を除いて、各原子の3次元座標を記述している。1列目のATOMはこの行が原子座標の行であることを示し、2列目は、その原子の順番を、3列目はアミノ酸残基等における原子の区別を、4列目はアミノ酸残基等を、5列目は配列番号に対応したアミノ酸の番号を、6、7、8列目はその原子の座標(Å単位)を示している。最終行は、この表の終わりの行であることを示している。なお、本表は当業者にとって一般的に用いられている表記法であるプロテイン・データ・バンクの形式に従って記述している。9、10列目はデータベースの形式に合わせるための数字であり、本発明においては特に意味のある数字ではなく、9列目はすべて1.00を、10列目はすべて0.00を使用した。
得られたp47・PXの3次元構造座標を元に、蛋白質の構造を理解するのに当業者において一般的に用いられている表記方法であるリボン図を作成した(図2)。
図2から理解されるように、全体的な構造の特徴として、N端側の半分は3本鎖の逆平行βシート構造、C端側の半分は4本のαヘリックス構造からなり、βシート構造とαヘリックス構造に挟まれた分子中央の部分に疎水性コアがある。
SH3ドメインが相互作用すると考えられるプロリンリッチ配列(第73番目のプロリンから第78番目のプロリンまでの領域)は、両端が2本のαヘリックスに支えられて溶液中に突き出した形になっており、SH3ドメインと相互作用するのに好都合な配置にあると考えられる。
PXドメインファミリーに共通して保存されているアミノ酸残基のほとんどは分子中央の疎水性コアに関与している。本発明におけるp47・PXにおける疎水性コアに関与しているアミノ酸残基は、Ile6、Ile9、Val25、Tyr26、Phe28、Val30、Val40、Ile47、Phe50、His51、Leu54、Ile72、Leu94、Tyr97、Cys98、Leu101、Met102、Leu114、Phe117、Phe118である。
しかし、保存されたアミノ酸残基の内、Phe14、Tyr24、Phe44、Ala87、Arg90は分子表面にある深いクレフト構造の内部に突き出している。
ここで、野生型、変異体の別にかかわらずPXドメインの3次元構造のうち、本発明による3次元構造と実質的に一致するものは本発明の範囲である。実質的に一致とは、該構造の主要部分、具体的にはαヘリックスやβシート構造といった2次構造を形成している部分や、NMR情報を等しく満たしている複数の座標において、局所的な重ね合わせが他の部分に比べ低い値となっている部分において、対応する部分の主鎖又はCα炭素の部分の平均2乗偏差がおよそ2Å以下である構造を指す。又、各配列の開始部位及び終了部位も必ずしも本発明にとって厳密に規定されたものでなく、N末端及び/又はC末端部分に別の蛋白質が結合しているもの、N末端及び/又はC末端に1個又は複数個のアミノ酸残基が付加したものなど、PXドメインの構造について実質的な変化をもたらさないものについては本発明に包含される。
更に、本発明におけるヒト好中球由来のNADPH酸化酵素p47・PXの3次元構造座標を用いて、アミノ酸配列が相同である他のNADPH酸化酵素由来のPXドメイン、及び他の蛋白質由来のPXドメインの3次元構造座標をホモロジーモデリング(中村春木、中井謙太、バイオテクノロジーのためのコンピューター入門、第186−204頁、コロナ社、1995)により導き出すことができる。アミノ酸配列の相同性がより高いほど、容易に目的の3次元構造座標を導き出すことができるが、アミノ酸配列の相同性が20%未満になると導き出された3次元構造座標の信頼性は低下する。
なお、表2に示した構造座標は、ある任意の位置を3次元空間における原点として表記している。本発明の構造座標又は本発明の構造座標からホモロジーモデリングによって導き出した他の蛋白質由来のPXドメインの構造座標をコンピューターによる計算に用いる場合などにおいて、各原子の相対的な配置を変化させずに、3次元空間内で並進、回転などの数学的な移動操作を施した結果として得られる新たな構造座標も本発明の範囲である。
3.PXドメインとSHドメインの相互作用
前述したように、p47・PX中にはSH3ドメインが相互作用すると考えられているプロリンリッチ配列が存在し(第73番目のプロリンから第78番目のプロリンまでの領域)、本発明で明らかになったようにSH3ドメインと相互作用しやすい構造となっている。
更に、実施例6で示したように、実際にこのプロリンリッチ配列部分にp47サブユニットに含まれる2つのSH3ドメインの内、C端側のSH3ドメインが結合する。
既に、多数の蛋白質由来のSH3について、その立体構造が明らかになっている(編集 西村善文・京極好正・稲垣冬彦・森川耿右「構造生物学のフロンティア」 蛋白質・核酸・酵素、第355−367頁、共立出版、1999)。
本実施例中で用いたp47・SH3(C)の立体構造は決定されていないが、ホモロジーモデリングの手法で容易に推定する事ができる。
なお、もう一つのp47サブユニット中のSH3ドメインであるN端側のSH3(N)ドメインはp47のPXドメインには結合しない。
本発明によって明らかになったPXドメインとSH3ドメインについても、PXドメインと相互作用する物質及び/又はSH3ドメインと相互作用する物質を通じて、PXドメインとSH3ドメインの相互作用を制御することで、PXドメインを有する蛋白質及び/又はSH3ドメインが関与している各種疾患を治療することが可能となる。
また、PXドメインのSH3ドメイン結合部位に特異的に結合する化合物は、PXドメインへのSH3ドメインの結合を阻害することで、そのPXドメインを持つ蛋白質の機能を調節することができる。
例えば、NADPH酸化酵素の場合、p47・PXに結合する低分子化合物を用いることで、NADPH酸化酵素の機能を調節し、好中球におけるスーパーオキシドの発生を抑えることが可能となる。即ち、PXドメインに特異的に結合する低分子化合物は、スーパーオキシドが関与すると考えられる各種疾患の治療用化合物となりうる。
4.PXドメインとリン脂質との相互作用
PXドメインを持つ蛋白質は多数あるが、その中で、機能が判明しているのはPLDとPI3Kである。PLD、PI3Kはリン脂質の分解や合成に関与する酵素であり、PXドメインはこれらの酵素のリン酸、リン脂質の認識、結合に深く関与しているものと考えられている。
本発明者は、p47・PXのNMR測定条件の検討においてリン酸緩衝液を使用すると、ある特定のアミノ酸残基(Ile9、Lys16、Phe44、Thr45、Ala77、Lys79、Phe81、Asp82、Ala86、Arg90、Thr93)の化学シフトが変化することを見い出した。特に、Thr45のシフトが顕著であった。これらのアミノ酸残基の多くは前記PXドメイン立体構造のクレフトの中に位置し、保存されたアルギニン残基(Arg90)の近くに存在している。
細胞内にあって、リン酸基をもつ低分子化合物の候補はいくつかあげられるが、p47は、NADPH酸化酵素の活性化に伴い生体膜近傍に移行することが知られているので、p47・PXに結合する化合物はリン脂質である可能性が高いと考えられた。
そこで次にリン酸残基を有するリン脂質とp47・PXとの結合を以下のような方法で調べた。PXドメイン、またはPXドメインを含む蛋白質の水溶液を、リン脂質リポソームと混合した後、リン脂質リポソームと溶液を分離する。リン脂質リポソームは遠心、超遠心、又はろ過などの操作で溶液と分離することができる。分離したリン脂質リポソームを含む分画、または溶液の分画、またはその両者に含まれる蛋白質の量を測定する事により、リン脂質リポソームとPXドメイン、またはPXドメインを含む蛋白質の親和性を調べる。蛋白質の量の測定は、一般的には分光光度計による吸光度の測定、発色試薬による定量、HPLC、SDS−PAGEによる分析などにより行うことができる。
その結果、リン脂質がp47・PXに結合することを見出した。本発明におけるリン脂質には、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルセリン(PS)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルイノシトール(PI)、ホスファチジルイノシトールリン酸(PIP)、これらはリン酸基の数と結合する位置による異性体が存在する)、ホスファチジン酸(PA)を含むが、これらに限定されるものではない。
さらにリン脂質を添加した場合のp47・PXの化学シフトの変化を測定することにより、リン脂質の結合部位はp47・PXの立体構造におけるクレフト部分であることを見出した。
p47・PXのリン脂質への親和性は、リン脂質の種類によって異なる。ホスファチジルコリンやホスファチジルエタノールアミンに対しては結合しないが、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジン酸に対しては中程度の親和性がある。ホスファチジルイノシトールリン酸に対して特に親和性が高い。
生体膜において、ホスファチジルイノシトールリン酸は、ホスファチジルイノシトールのリン酸化とその脱リン酸化によってその量や種類が動的に調節されている。従って、p47・PXのリン脂質に対するこのような特異性が、PXドメインの生体膜への結合を環境の変化に即応して変化させることを可能にすると考えられる。
これまでに、リン脂質に結合するドメインとして、PHドメイン、PTBドメイン、C2ドメイン、FYVEドメインが知られている。これらは全て、X線結晶構造解析やNMR構造解析によって既にその3次元構造が決定されており、リン脂質結合部位も同定されている(編集 西村善文・京極好正。稲垣冬彦・森川耿右「構造生物学のフロンティア」 蛋白質核酸酵素、共立出版、1999、及び、「イノシトールリン脂質群によるシグナリングの制御」、企画 竹縄忠臣、実験医学、17、第1206−1218頁、羊土社、1999)。
PHドメインは約100アミノ酸残基からなるホスファチジルイノシトールリン酸に結合するドメインである。ホスファチジルイノシトール(4,5)二リン酸に特異性が高いとされているが、実際はかなり特異性が低い。PTBドメインは本来はリン酸化チロシンを含むペプチドに結合するドメインであるが、PTBのアミノ酸配列はPHのそれと似ていないにもかかわらず、立体構造は類似していることが明らかとなっている。実際、PTBドメインの一部は、ホスファチジルイノシトール(4,5)二リン酸やホスファチジルイノシトール4リン酸に結合することが報告されている。C2ドメインは約130アミノ酸残基からなるカルシウムイオン依存的にリン脂質への結合を制御するドメインである。FYVEドメインは亜鉛を結合し約60アミノ酸残基からなるドメインでホスファチジルイノシトール3リン酸に特異的に結合する。
いずれのドメインもそれを含む蛋白質が膜へ移行する際に、膜との相互作用部位の役割を果たしていると考えられている。
ある一つの蛋白質が複数のリン脂質結合ドメインを含むことがある。例えば、PLD蛋白質はPHドメインとPXドメインを含む。タイプIIのPI3K蛋白質はC2とPXドメインを含む。このような蛋白質が2つ以上のリン脂質結合ドメインを持つ理由は明らかとなっていないが、(1)1つのドメインだけでの脂質2重膜との親和性が十分ではなく、2つ以上のドメインの協力によって、その蛋白質の生体膜への移行が可能となる、(2)個々のリン脂質結合ドメインに対して異なる調節機構が存在することで、膜移行に関して多様な調節が行える、などの可能性が考えられる。
本発明により、PXドメインもこれらのドメインと同様にリン脂質と結合することが明らかとなったが、このことから、PXドメインが細胞膜中のリン脂質と結合することで、PXドメインを含む蛋白質を生体膜近傍へ移行させる機能を持つことが推定される。NADPH酸化酵素の場合、細胞膜に存在する酵素本体であるフラボシトクロムb558に、細胞内に存在する調節成分であるp47等が細胞膜近傍に移行して結合することによってNADPH酸化酵素の活性化が行なわれることが知られている。リン脂質が細胞膜の成分であることを考慮すると調節成分の細胞膜への移行、従ってNADPH酸化酵素の活性化はp47・PXの細胞膜のリン脂質への結合によると推定される。
本発明者はリン脂質との結合に関与すると考えられるPXドメインの特定のアミノ酸残基を他のアミノ酸で置換し、リン脂質との結合を減少させたPXドメイン変異体を調製した(実施例11)。さらに、同じ置換を完全長のp47に導入し、好中球のNADPH酸化酵素の活性を、野生型のものと比較した(実施例12)。その結果、変異体p47を有するNADPH酸化酵素の活性は、野生型のものと比べ相当減少することを確認した。これらのことはPXドメインが細胞膜中のリン脂質と結合することで、PXドメインを含む蛋白質を生体膜近傍へ移行させる機能を持つという推定が正しいことを示すものである。
従って、PXドメインとリン脂質の結合を促進し、あるいは阻害する化合物は、PXドメインを含む蛋白質の機能、例えば酵素活性を調節することができる。実施例9に示したように、イノシトール1,4,5三リン酸は、p47・PXのクレフト部分に結合することで、p47・PXのリン脂質リポソームに対する結合を阻害することがわかった。図3は、PXドメインの化学シフトを元に、イノシトール1、4、5三リン酸の結合により化学シフトが変化したアミノ酸残基を、その変化した量に応じて、表2で示した3次元構造座標を元にして作成した表面構造上に表示したものである。
例えば、NADPH酸化酵素の場合、PXドメインとリン脂質の結合を阻害する化合物を用いることで、NADPH酸化酵素の機能を調節し、好中球におけるスーパーオキシドの発生を抑えることが可能となる。
最近、リン脂質、特にイノシトールリン脂質による細胞機能の調節や、病気との関連が注目されている(「脂質研究の新展開」、実験医学増刊、14,羊土社、1996、及び「イノシトールリン脂質群によるシグナリングの制御」、実験医学、17、第1186−1218頁、羊土社、1999、および「脂質の分子生物学と病態生化学」、蛋白質核酸酵素増刊、44、共立出版、1999)。
リン脂質分子のヘッドグループ(リン脂質においてジアシルグリセロールを除いた部分を言う)が結合するp47・PXのアミノ酸残基は、立体構造上、p47・SH3(C)が結合する部位の近くにある。また、実施例10で示したようにp47・SH3(C)はp47・PXのリン脂質リポソームに対する結合を阻害する。したがって、p47・SH3(C)のp47・PXドメインへの結合は、p47・PXドメインのリン脂質に対する親和性の低下を引き起こして、生体膜に対する結合を調節すると考えられる。p47・PXに対するSH3ドメインの効果は特異的であり、例えばp47・SH3(N)はp47・PXに結合せず、実施例6と同様の実験を行っても、p47・PXのリン脂質に対する親和性は変化しない。
5.PXドメインの変異体を作製するためのPXドメインの構造座標の使用
本発明によりPXドメインの3次元構造座標が明らかになり、PXドメインとリン脂質との結合部位、及びPXドメインとSH3ドメインとの結合部位も明かになった。
PXドメインはそのPXドメインを持つ蛋白質の機能を制御していると考えられるので、これらのPXドメインの変異体を設計、作製することで、そのPXドメインを持つ蛋白質の機能を改変した変異体を理論的に設計することが可能となる。また、PXドメインに結合するリン脂質の種類が変化したようなPXドメインの変異体を理論的に設計することも可能になる。更に、PXドメインとの結合能が変化したSH3ドメインの変異体に対して、正常な結合活性を持つようなPXドメインの変異体を理論的に設計することも可能となる。
本発明によるPXドメインの構造座標を、分子の3次元構造座標を表現するコンピューター・プログラムが動作するコンピューター又はそのコンピューターの記憶媒体に入力することで、PXドメインとSH3ドメイン、PXドメインとリン脂質の3次元的な化学的相互作用の様式を詳細に表現することが可能になる。
コンピューターの記憶媒体としては、PXドメインの構造座標をコンピューターの該プログラム上に導くことができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、メモリと呼ばれる電気的な一時記憶媒体でも、フロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープなどの半永久的な記憶媒体でもよい。
また、本発明によるPXドメインの構造座標を、分子の3次元構造座標を表現するコンピューター・プログラムが動作するコンピューター又はその記憶媒体に入力して、視覚的検討及び/又はエネルギー計算をすることで、元のPXドメインに対してよりSH3ドメイン及び/若しくはリン脂質に対する結合活性が強い、又はSH3ドメイン及び/若しくはリン脂質に対する結合活性が弱いPXドメインの変異体を得るための、3次元空間における論理的設計が初めて可能になる。
蛋白質分子の3次元構造座標を表現するコンピューター・プログラムは多数市販されているが、これらプログラムは、一般に、分子の3次元構造座標の入力手段、該座標のコンピューター画面への視覚的表現、表現された分子内における各原子間の距離や結合角などを測定する手段、該座標の追加修正を行う手段などを提供する。
更に、分子の座標を元に分子の構造エネルギーを計算する手段、水分子などの溶媒分子を考慮して自由エネルギーを計算する手段を提供することができるように作成されたプログラムを用いることも可能である。モレキュラーシミュレーション社から市販されているコンピューター・プログラムであるInsight IIやQUANTAは、該目的に好適なプログラムの例であるが、本発明はこれらのプログラムに限定されるものではない。
また、該プログラムは、通常シリコングラフィクス社やサンマイクロシステムズ社などから供給されているワークステーションと呼ばれるコンピューターに導入されて使用されるが、これらに限定されるものではない。
当業者は、該目的に適当なプログラムが作動するように調整されているコンピューターを用いて、本発明であるPXドメインの構造座標を、該コンピューター又はその記憶媒体に導入することによって、初めてPXドメインとSH3ドメイン、又はPXドメインとリン脂質との結合様式を3次元空間での各原子の配置まで表現された状態で理解することができ、これによって、前述のようなSH3ドメイン及び/又はリン脂質に対する結合能が変化したようなPXドメインの変異体、又はSH3の変異体に対する結合活性の変化したPXドメインの変異体を得るために、3次元的で論理的にPXドメインの変異体を設計することが初めて可能になるのである。
代表的なPXドメインの変異体の設計方法の一つは、コンピューター又はその記憶媒体に本発明によるPXドメインの3次元構造座標を入力し、適当なプログラムを用いてコンピューター画面上に蛋白質の3次元構造を表示させ、視覚的な検討によって行う方法である。
まずPXドメイン及びSH3ドメイン若しくはリン脂質の構造をコンピューターの画面上に表示させる。そして、PXドメインのアミノ酸残基において、1個又は複数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入などの変異、又は化学的な修飾をコンピューター上で行い、その結果生じる相互作用の変化をコンピューターの画面上で観察する。この際、コンピューターの画面上に蛋白質の3次元構造を表記する場合において、シリコングラフィクス社から供給されているクリスタル・アイ(Crystal Eyes)眼鏡を用いた3次元の表記を用いたり、当業者において頻繁に用いられる立体視(Stereo view)と呼ばれる右目と左目の視野に相当する2種の画面を同時に表記する方法を用いることで、3次元空間の理解が得られるやすくなるが、必ずしも3次元空間の表記を用いなくても視覚的な検討は可能である。また、アミノ酸残基の置換、欠失、挿入などの変異、又は化学的な修飾によって変化する局部的な構造座標は、化学結合の正当性を保つように各原子の空間的な位置を決定することで得られる。この際、コンピューターに適当なコンフォメーションの候補群を表示させ、これらから選択してもよいし、エネルギー状態が低くなるような構造をコンピューターに計算させてもよい。そして、その中からSH3ドメイン又はリン脂質との間に、より好ましい結合が生じるようなPXドメインの変異又は化学修飾を見いだしていく。
即ち、前述のようなSH3ドメイン及び/又はリン脂質に対する結合能が変化したようなPXドメインの変異体、又はSH3の変異体に対する結合活性の変化したPXドメインの変異体を設計するには、リン脂質の場合は、実施例9に示したリン脂質と相互作用するアミノ酸残基、即ち、Phe14、Tyr24、Arg43、Phe44、Ala87、Arg90、及びこれらのアミノ酸残基の近傍領域、又SH3ドメインの場合は実施例6に示したSH3ドメインと相互作用するアミノ酸残基、即ちArg70、Ile71、Ile72、Pro73、His74、Leu75、Pro76、及びこれらのアミノ酸残基の近傍領域において、相互作用上において対応しているリン脂質又はSH3ドメイン側の領域中にある原子との相互作用を大きく又は小さくするように変異を導入する。
ここに「その近傍領域」とは、該アミノ酸残基に対して、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合などに関与する領域、具体的にはおよそ5Å以内にある領域をいう。本明細書の他の部分においても同様である。
更に、これ以外の部位に変異を導入するなどで、前述のようなSH3ドメイン及び/又はリン脂質に対する結合能が変化したようなPXドメインの変異体、又はSH3の変異体に対する結合活性の変化したPXドメインの変異体を設計する場合においても、本発明における構造座標を使用する限り本発明の範囲である。
この際、考慮されるべき非共有結合の相互作用は、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合などがあり、これらを総合的に考慮して最終的な変異体の設計を行うことができる。
SH3ドメイン又はリン脂質との相互作用をより大きくするPXドメイン変異体につき先ず説明する。例えば、SH3ドメイン側のグルタミン酸、アスパラギン酸といった側鎖部分に負の電荷を持つアミノ酸残基の側鎖近傍には、近接する。PXドメインのアミノ酸残基においてリジン、アルギニン、ヒスチジンといった正の電荷を持つアミノ酸残基の側鎖が配置されるように、又、その逆にSH3ドメイン側にリジン、アルギニン、ヒスチジンといった側鎖部分に正の電荷を持つアミノ酸残基の側鎖近傍には、近接するPXドメインのアミノ酸残基においてグルタミン酸、アスパラギン酸といった負の電荷を持つアミノ酸残基の側鎖が配置されるように変異させる。
また、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンといった側鎖部分が疎水性の高いアミノ酸残基が主に集まって相互作用している部分においては、PXドメインにおいてセリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミンといった親水性のアミノ酸残基やアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった荷電しているアミノ酸残基が存在している箇所を見つけだし、該アミノ酸残基を疎水性のアミノ酸残基で置き換え、疎水性相互作用が強まるようにする。
また、水素結合をする主鎖部分やセリン、チロシンなどのアミノ酸残基の側鎖部分には、新たな水素結合ができるように、対応するアミノ酸残基を変異させる。以上の変異においては、アミノ酸残基の側鎖や主鎖部分において、ファンデルワールス相互作用ができるだけ大きく、しかも各原子間で立体的な障害が生じないように注意する必要がある。更には、変異により新たな空隙部分ができないように、又既に空隙部分が存在する領域においては、その空隙部分をできるだけ充填するような変異を考慮することも必要である。このように、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合などやその他の因子を、コンピューター画面上で視覚的に総合的に考慮して、最終的な変異体の設計を行うことができる。
リン脂質の負の電荷を持つリン酸基の近傍には、近接するPXドメインのアミノ酸残基においてリジン、アルギニン、ヒスチジンといった正の電荷を持つアミノ酸残基の側鎖が配置されるように変異させる。また、リン脂質のイノシトール骨格のアキシャル水素が集まっている部分は疎水性が高く、この部分の近傍においては、PXドメインにおいてセリン、スレオニン、チロシン、アスパラギン、グルタミンといった親水性のアミノ酸残基やアスパラギン酸、グルタミン酸、リジン、アルギニン、ヒスチジンといった荷電しているアミノ酸残基が存在している箇所を見つけだし、該アミノ酸残基を疎水性のアミノ酸残基で置き換え、疎水性相互作用が強まるようにする。また、イノシトール骨格やリン酸基の近傍では、新たな水素結合ができるように、PXのアミノ酸残基を変異させる。以上の変異においては、アミノ酸残基の側鎖や主鎖部分において、ファンデルワールス相互作用ができるだけ大きく、しかも各原子間で立体的な障害が生じないように注意する必要がある。更には、変異により新たな空隙部分ができないように、又既に空隙部分が存在する領域においては、その空隙部分をできるだけ充填するような変異を考慮することも必要である。
これとは逆にSH3ドメイン又はリン脂質との相互作用をより小さくするPXドメイン変異体については、以上の考察に準じて静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合相互作用などを小さくするようにPXドメインに変異を導入すればよい。このように、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合などやその他の因子を、コンピューター画面上で視覚的に総合的に考慮して、最終的な変異体の設計を行うことができる。
設計の第二の方法は、SH3ドメイン又はリン脂質との結合を、コンピューターによってエネルギー計算を行うことにより評価して、上記の変異体の設計を行うものである。エネルギー計算は、当業者において一般的に行われる分子力場計算を行うコンピューター・プログラムを用いることによって達成できる。該目的に適したプログラムは、例えば蛋白質に最適化されたInsight IIのDISCOVERモジュールにあるAMBERの力場、CVFFなどがあるが、これらに限定されるものではない。
更には、設計の第一の手法と第二の手法は厳密に区別されるものではなく、それぞれの手法を組み合わせて用いてもよい。即ち、視覚的検討により、より望ましい変異体であると予想されるものについて、第二の手法を用いて実際にエネルギーの計算を行い、その妥当性を評価していき、それを繰り返し行うことで更に優れた変異体を設計していくというものである。
以上のように、今まで3次元構造上の理論的な支持がない状態で試行錯誤で行われていた変異体の作製を、本発明の構造座標の使用により、3次元空間内の理論的な解析に基づいて行うことが可能になる。
第一及び第二の設計手法に用いるPXドメインのアミノ酸残基の構造座標は、本発明の明細書中に示した表2のヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニット由来のPXドメインの構造座標でも、又、これを元にしてアミノ酸配列の相同性の高い他の蛋白質由来のPXドメインのアミノ酸配列からコンピューターを用いた計算などにより新たに作成した構造座標でもよいし、更にはこれらの座標より、一部を抜き出したものでもよい。人に用いる医薬品として設計する場合においては、ヒト由来の蛋白質のPXドメインの構造座標を用いる方がより望ましい。また、用いられるPXドメインの構造座標は、全ての座標を用いる必要はない。変異体の設計においてはPXドメインとSH3ドメイン、及び/又はPXドメインとリン脂質とが相互作用する部分に相当する領域が重要であり、これらの相互作用に関わるアミノ酸残基、又は必要に応じてその近傍のアミノ酸残基の座標を表2から選び出して用いることも可能である。また、該設計においてPXドメインの構造座標は、通常、3次元空間内に固定されて使用されるが、必ずしも固定される必要はなく、3次元空間の中での計算において、並進、回転や移動に伴い変化した構造座標は本発明の範囲である。
本発明により設計された変異体は、多くの方法によって調製され得る。例えば本発明を元にして、変異させることでより生物活性が上がると同定された部位において、対応するアミノ酸残基をコードしている該オリゴヌクレオチドの部位を、変異体に相当するオリゴヌクレオチドを化学的に合成して、配列に特異的なオリゴヌクレオチド切断酵素(制限酵素)を用いて天然型のオリゴヌクレオチドの部分と入れ替えることで、本発明を元にして設計された該変異体をコードするDNAを得ることができる。得られた変異体DNAを適当な発現ベクターに組み込み、適当な宿主に導入し、組換え蛋白質として生産させることで前述のような変異体を得ることができる。このような調製方法は当業者においては一般的に行われている。(例えば、西郷薫、佐野弓子共訳、CURRENT PROTOCOLSコンパクト版、分子生物学実験プロトコール、I、II、III、丸善株式会社 :原著、Ausubel,F.M.等, Short Protocols in Molecular Biology, Third Edition, John Wiley & Sons, Inc., New York)。
また、蛋白質のアミノ酸残基を化学的に修飾することも当業者においては一般的に行われている(例えば、Hirs,C.H.W.及びTimasheff,S,N.,eds,(1977). Methods in Enzymology,47巻,第407−498頁,Academic Press, New York.)。
PXドメイン部分に変異を導入したNADPHオキシダーゼp47サブユニットのタンパク質もしくはそれを発現する遺伝子は例えば次の様に利用できる。PXドメインの変異体を導入した細胞を用い、そのNADPHオキシダーゼ活性を指標とすることで、NADPHオキシダーゼ活性を促進、或いは阻害する新規の薬物を効果的にスクリーニングすることができる。ただしPXドメインの変異体の利用は、必ずしもここであげた例に限るものではない。
6.PXドメイン結合物質の結合を促進若しくは阻害する化合物作製のためのPXドメインの構造座標の使用
本発明が提供するPXドメインの構造座標の全て又は一部を、分子の3次元構造座標を表現するコンピューター・プログラムが動作するコンピューター又はそのコンピューターの記憶媒体に入力することで、PXドメインと結合し、PXドメインとSH3ドメイン、及び/又はPXドメインとリン脂質の結合を促進若しくは阻害する化合物を同定、検索、評価又は設計することが可能になる。化合物は、天然物化合物、合成化合物のいずれでもよく、高分子化合物、低分子化合物のいずれでもよい。
促進物質は、PXドメインに対するSH3ドメインの結合を促進する場合、PXドメインに結合して、PXドメインの構造変化をもたらすことにより、PXドメインとSH3ドメインの結合を促進してもよいし、PXドメインとSH3ドメインの両方に結合することによりPXドメインとSH3ドメインの結合を促進してもよい。
PXドメインに対するリン脂質の結合を促進する場合、PXドメインに結合して、PXドメインの構造変化をもたらすことにより、PXドメインとリン脂質の結合を促進してもよいし、PXドメインとリン脂質の両方に結合することによりPXドメインとリン脂質の結合を促進してもよい。
阻害物質はPXドメインにおけるSH3ドメインの結合する部分、若しくはその近傍に結合することによってSH3ドメインのPXドメインへの結合を阻害してもよいし、PXドメインにおけるリン脂質の結合する部分、若しくはその近傍に結合することによってリン脂質のPXドメインへの結合を阻害してもよい。また、それらの両方の結合を同時に阻害してもよい。
また、上述のように、PXドメインにおけるSH3ドメインの結合領域とリン脂質の結合領域は近接しており、PXドメインとリン脂質の結合と、PXドメインとSH3ドメインの結合は、おたがいに拮抗している。
従って、促進物質はPXドメインにおけるリン脂質の結合する部分、若しくはその近傍に結合することによってリン脂質のPXドメインへの結合を阻害することによって、SH3ドメインのPXドメインへの結合を促進してもよい。
また、PXドメインにおけるSH3ドメインの結合する部分、若しくはその近傍に結合することによってSH3ドメインのPXドメインへの結合を阻害することで、リン脂質のPXドメインへの結合を促進してもよい。
同様に、阻害物質はPXドメインにおけるSH3ドメインの結合する部分、若しくはその近傍に結合することによってPXドメインの構造変化をもたらすことにより、リン脂質のPXドメインへの結合を阻害してもよい。
また、PXドメインにおけるリン脂質の結合する部分、若しくはその近傍に結合することによってPXドメインの構造変化をもたらすことにより、SH3ドメインのPXドメインへの結合を阻害してもよい。
促進物質又は阻害物質の設計を行う際に用いられるコンピューターは、例えばシリコングラフィックス社によって供給されているワークステーションIndigo2などが好適であるが、これに限定されるものではなく、適当なプログラムが動作するように調整されているコンピューターであればよい。
また、コンピューターの記憶媒体にも特に制限はない。設計に用いるプログラムは、例えばモレキュラーシミュレーション社から市販されているコンピューター・プログラムInsight IIを用いることで達成できる。特に、該目的のために特別に作成されたLudiやDOCKといったプログラムを単独又は組み合わせて用いることで、より容易に同定、検索、評価又は設計することができる。更には、特開平6−309385や特開平7−133233に示されているような手法によっても、本発明によるPXドメインの構造座標を用いることで、初めて促進物質又は阻害物質の設計が行える。ただし、本発明はこれらのプログラムや手法に限定されるものではない。
促進物質又は阻害物質の設計には、概念的に2つの段階がある。最初の段階は、当業者においてリード化合物と称される薬物設計の出発点となる化合物を見つけだす段階である。次の段階は、そのリード化合物から出発してより活性が優れる、体内動態が優れる、毒性や副作用の少ないなど、医薬品としてより優れた性質を持つ化合物を見いだすリード化合物の最適化の過程である。
本発明が提供するPXドメインの構造座標を用いてリード化合物を見つけだす段階は、例えば複数の化合物の構造が入力してあるコンピューター中のデータベースを利用して、データベース中の化合物とPXドメインの3次元構造上の相互作用を逐次、視覚的方法によって選別する方法、又はコンピューターにより結合のエネルギーの大きさを逐次計算し、安定にPXドメインと結合する化合物をデータベースの中から探し出す方法などによって達成される。化合物の構造のデータベースは3次元構造座標が決定され入力されていることが望ましいが、低分子化合物の場合には、そのコンフォメーションは比較的自由に変化されうるし、各コンフォメーションの3次元構造座標を計算で導くことも比較的短時間で可能であるので、3次元構造座標のデータベースでなくてもよい。この場合は、低分子化合物の化学的な共有結合情報をデータベースに入力する。
具体的には、視覚的方法では、まずコンピューターの画面上にPXドメイン分子を、本発明である構造座標に従って表示する。この際、コンピューターの画面上に前述のようなクリスタル・アイを用いるなどの3次元表記をしてもよいが、必ずしも3次元表記を用いなくても視覚的な検討は可能である。次に、コンピューター上で化学的相互作用を考慮しながら、データベース中にある化合物とPXドメイン分子との結合を試み、該化合物がPXドメインとSH3ドメインの結合、及び/又はPXドメインとリン脂質の結合を促進又は阻害するように働くことが可能かどうか、逐次評価していく。
促進物質を評価する場合には、該化合物はPXドメインに結合してPXドメインの構造変化をもたらし、その結果PXドメインのSH3ドメイン及び/又はリン脂質に対する結合能が強化されるような化合物を選択することが好ましい。
阻害物質を評価する場合には、該化合物のPXドメインへ結合する部位は、SH3ドメイン又はリン脂質のPXドメインへの結合するアミノ酸残基又はその近傍のアミノ酸残基に少なくとも1ヶ所は一致していることが望ましいが、結合が阻害されるのであれば、必ずしも一致している必要はない。即ち、阻害薬のPXドメインへの結合によってPXドメインとSHドメインとの結合及び/又はPXドメインとリン脂質との結合が立体的に阻害されるような化合物を選択することが好ましい。
また、該化合物がPXドメインとSH3ドメイン、又はPXドメインとリン脂質の双方に同時に結合することによって、PXドメインとSH3ドメイン、又はPXドメインとリン脂質の結合を促進する場合、該化合物がPXドメインとSH3ドメイン、又はPXドメインとリン脂質の結合を安定化するよう化合物を選択することが好ましい。
また、該化合物がPXドメインの構造変化をもたらして、PXドメインとSH3ドメイン、又はPXドメインとリン脂質の結合を阻害する場合、該化合物はPXドメインに結合してPXドメインの構造変化をもたらし、その結果PXドメインのSH3ドメイン及び/又はリン脂質に対する結合能が低下するような化合物を選択することが好ましい。
更に、該化合物がPXドメインに結合し、PXドメインとリン脂質との結合を阻害してPXドメインとSH3ドメインの結合を促進する場合は、該化合物がPXドメインに結合する際、リン脂質の結合は阻害するが、SH3ドメインの結合は阻害しないような化合物を選択すべきである。また、PXドメインとSH3ドメインとの結合を阻害してPXドメインとリン脂質の結合を促進する場合は、該化合物がPXドメインに結合する際、SH3ドメインの結合は阻害するが、リン脂質の結合は阻害しないような化合物を選択すべきである。
上述のように、該化合物が、PXドメインとSH3ドメイン及び/又はリン脂質の結合能を促進又は阻害するかどうかを評価するには、リン脂質の場合は、実施例9に示したリン脂質と相互作用するアミノ酸残基、即ち、Phe14、Tyr24、Arg43、Phe44、Ala87、Arg90、及びこれらのアミノ酸残基のその近傍領域において、又SH3ドメインの場合は実施例6に示したSH3ドメインと相互作用するアミノ酸残基、即ちArg70、Ile71、Ile72、Pro73、His74、Leu75、Pro76、及びこれらのアミノ酸残基のその近傍領域において、PXドメインと該化合物の間の化学的相互作用を、視覚的又はコンピューターによるエネルギー評価による検討を行うことで、より正確な予測が可能である。
更に、PXドメインの立体構造の変化をもたらすことで、最終的にPXドメインとSH3ドメイン又はリン脂質との結合を促進若しくは阻害する化合物を選択することを目的に、該化合物が、これ以外の部位でPXドメインに相互作用することを予測又は評価する場合においても、本発明における構造座標を使用する限り本発明の範囲である。
考慮すべき化学的相互作用は静電相互作用、疎水性相互作用、水素結合、ファンデルワールス相互作用などである。即ち、該化合物の3次元空間での構造が、その官能基群においてカルボキシル基、ニトロ基、ハロゲン基などの陰性電荷を帯びやすい基が、PXドメインのリジン、アルギニン、ヒスチジンといった正電荷を持つアミノ酸残基に相互作用するように、アミノ基、イミノ基、グアニジル基などの陽性電荷を帯びやすい基が、PXドメインのグルタミン酸、アスパラギン酸といった負電荷を持つアミノ酸残基に相互作用するように、脂肪族基や芳香族基といった疎水性の官能基が、アラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファン及びメチオニンといった疎水性のアミノ酸残基と相互作用するように、水酸基、アミド基などの水素結合に関与する基が、PXドメインの主鎖や側鎖部分と水素結合ができるように、更には、該化合物とPXドメインの結合において立体的な障害が生じないように、又、更には、空隙部分がなるべくできないように空隙部分が充填され、ファンデルワールス相互作用が大きくなるようになど、相互作用に好ましい構造になっているかを総合的に考慮することである。これらは、該化合物とSH3ドメイン及び/又はリン脂質との結合においても同様である。
このように、静電相互作用、疎水性相互作用、ファンデルワールス相互作用、水素結合などやその他の因子を、コンピューター画面上で視覚的に総合的に考慮して、最終的に該化合物がリード化合物として適当であるか否かの判断を行う。コンピューターによるエネルギー評価による方法では、分子力場計算を用いて化合物と、PXドメインとの結合のエネルギーを求める。その計算をデータベースの中の各化合物に適用し、安定に結合できるリード化合物となりうる化合物を、このデータベースの中から求める。また、PXドメインとSH3ドメイン、又はPXドメインとリン脂質の複合体と該化合物が結合する場合は、これらの複合体と該化合物の結合エネルギーを求める。
分子力場計算に用いる力場は、プログラムInsight IIのDISCOVERモジュールにある、蛋白質に最適化されたAMBERの力場、CVFFなどを利用できる。また、Insight IIのLudiなどコンピューター・プログラムによっては、蛋白質分子において相互作用するアミノ酸残基の3次元構造座標を与えると、自動的にリード化合物の候補を出力するものもあり、PXドメインに適用することも可能である。
また、視覚的検討と、エネルギーを考慮した検討は厳密に区別されるものではなく、それぞれの手法を適宜に組み合わせて用いることも有用である。
次の段階である、本発明が提供するPXドメインの構造座標を用いてリード化合物の最適化を行う手法は、あらかじめPXドメインと結合するリード化合物が上記の方法で、又は別途に実験的に見いだされている場合に、そのリード化合物を更に優れた分子、例えば促進物質又は阻害物質として更に生物活性の高い化合物や、医薬品として経口投与を考えた場合に有利な構造を有する分子などへ最適化する目的で用いられる。リード化合物を実験的に見いだす手法としては、例えば当業者においてコンビナトリアル・ライブラリーとして知られている一連の化合物の中から選別されてもよいし、微生物などの培養液中から選別されてもよい。要するに、リード化合物とPXドメインの化学的結合の実態を明らかにすることによって初めて、リード化合物とPXドメインの相互作用において最適ではない相互作用部位を直接見いだし、その部位に最適な官能基を有する化合物を新たに設計することが可能となり、より最適化された化合物が設計できる。
初期の段階で、正確にリード化合物とPXドメインの結合様式の理解を得るためには、リード化合物とPXドメインの複合体の3次元構造をNMRを用いて解析するか、該リード化合物とPXドメインの共結晶を作製し、X線結晶構造解析するなど、実験的にリード化合物とPXドメインの化学的相互作用の実態の詳細を明らかにする方法を利用することがより望ましいが、コンピューターによる視覚的検討やエネルギー計算によってリード化合物とPXドメインの化学的相互作用を理解してもよい。
コンピューターによる視覚的検討の場合は、まず、リード化合物の3次元構造座標と本発明が提供するPXドメインの構造座標を、分子の3次元構造座標を表現するコンピューター・プログラムが動作するコンピューター又はそのコンピューターの記憶媒体に入力して、コンピューター画面上でリード化合物とPXドメインの複合体モデルを表示する。この際、コンピューターの画面上に前述のようなクリスタル・アイを用いるなどの3次元表記をしてもよいが、必ずしも3次元表記を用いなくても視覚的な検討は可能である。そして、リード化合物がPXドメインと更に好ましく相互作用できるように、若しくは相互作用を保持させたまま、より体内動態の優れた化合物へと改変することが、論理的な化合物の設計である。
考慮すべき化学的相互作用はリード化合物を見つけだす場合と同様であり、最終的にリード化合物から、促進物質又は阻害物質としてより好ましい性質を持つ化合物を新たに設計する。
コンピューターによるエネルギー評価による方法では、分子力場計算を用いて、リード化合物から設計された新たな化合物とPXドメイン、又は該化合物とPXドメインとSH3ドメインの複合体、又は該化合物とリン脂質の複合体との結合のエネルギーを求め、該設計の妥当性を判断する。更には、溶媒分子などもモデルに加え、分子動力学法を用いて自由エネルギーを求め、安定に結合できる化合物へ誘導する方法もある。分子力場計算に用いる力場は、プログラムInsight IIのDISCOVERモジュールにある、蛋白質に最適化されたAMBERの力場、CVFFなどを利用できる。
また、視覚的検討と、エネルギー評価による方法を適宜に組み合わせて用いてもよい。
以上の手法において用いられるPXドメインのアミノ酸残基の構造座標は、本発明の明細書中に示した表2のヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニット由来のPXドメインの構造座標でも、これを元にして計算により作成した他の蛋白質由来のPXドメインの構造座標でもよい。人に用いる医薬品として設計する場合においては、ヒト由来の蛋白質のPXドメインの構造座標を用いる方がより望ましい。
以上の手法において設計された促進物質又は阻害物質については、その化合物に応じて、一般的に用いられている化学合成の手法を用いることで得ることができる。
7.PXドメインの変異体を評価するためのPXドメインのNMR化学シフトの使用
本発明が提供するPXドメインのNMR化学シフトの全て又は一部を、PXドメインの変異体のNMR化学シフトと比較することで、PXドメインの変異体のNMR信号を帰属し、化学シフトを決定することが可能となる。ここでいうNMR信号の帰属とは、当業者により一般的に用いられる、2次元及び/又は3次元及び/又は4次元NMR法によって観測された信号が、PXドメインの変異体の、どの残基に属する原子または原子団から由来の信号であるかを、決定することである。
具体的には、本発明が提供する化学シフトの値を、一般的なNMRスペクトルを表示し解析することのできるコンピューター・プログラムが動作するコンピューター又はそのコンピューターの記憶媒体に入力することで、PXドメインについて当業者が一般的に用いるNMRの測定を行ったときに、NMRスペクトルのどの位置に信号が観測されうるかを、事前に予測することが可能になる。
コンピューターの記憶媒体としては、PXドメインの化学シフトをコンピューターの該プログラム上に導くことができるものであれば特に限定されるものではない。例えば、メモリと呼ばれる電気的な一時記憶媒体でも、フロッピーディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、磁気テープなどの半永久的な記憶媒体でもよい。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)より提供されるコンピューター・プログラムNMRDRAWは、該目的に好適なプログラムの例であるが、本発明はこれらのプログラムに限定されるものではない。
このようにして予測されたNMRスペクトル上の信号の位置と、PXドメインの変異体のNMRのスペクトルを比較することで、NMRスペクトル上の信号を容易に帰属することが可能となる。PXドメインの変異体のNMRのスペクトルでは、通常、変異を導入したアミノ酸残基以外の残基の各原子の化学シフトは、変異を導入する前のPXドメインの対応するアミノ酸残基の各原子の化学シフトとほとんど差がない。したがって、まず変異を導入していない残基由来のNMR信号を帰属し、その後消去法により、帰属されないで残った残基のNMR信号が変異を導入したアミノ酸残基由来のNMR信号であることが、論理的に帰属できる。
更に、PXドメインの変異体が、著しく立体構造を変化させたり、活性を損ないアグリゲーションを形成している場合は、変異を導入していないPXドメインの化学シフトと、分子の全体に拡がった非常に大きな化学シフト変化が観測される。したがって、本発明の提供するPXドメインの化学シフトを使用して、化学シフト変化を指標に、PXドメインの変異体を選別・評価し、PXドメインの変異体の設計の正否を判断することに有効である。
ただし、本発明が提供するPXドメインの化学シフトの使用は、これらの手法に限定されるものではない。
8.PXドメインに結合する化合物を同定、検索または評価するためのPXドメインのNMR化学シフトの使用
本発明が提供するPXドメインのNMR化学シフトの全て又は一部を、任意の化合物を添加した状態で測定したPXドメインのNMR化学シフトと比較することで、PXドメインと結合し、PXドメインとリン脂質、及び/又はPXドメインとSH3ドメインの結合を促進する化合物を同定、検索、又は評価することが可能になる。ある化合物の添加によりPXドメインのNMR化学シフトが変化することは、その化合物とPXドメインとの相互作用の結果に外ならないからである。
更に同様の方法により、PXドメインと結合し、PXドメインとリン脂質、及び/又はPXドメインとSH3ドメインの結合を阻害する化合物を同定、検索、又は評価することが可能になる。
化合物は、天然物化合物、合成化合物のいずれでもよく、高分子化合物、低分子化合物のいずれでもよい。
上述のように、蛋白質のNMRの化学シフトの変化から、他の分子との相互作用の有無を、迅速に知ることができる(荒田洋治、「タンパク質のNMR」共立出版、1996年;米国特許第5698401号、同第5804390号、同第5891643号、同第5989827号)。更に、本発明が提供するPXドメインのNMR化学シフトの全て又は一部を比較の対象として用いることで、化合物とPXドメインの相互作用がPXドメインのどのアミノ酸残基に特異的に起こっているのかを、より詳細に記述することが初めて可能となる。
PXドメインに結合する化合物がPXドメインのどの部位に結合しているかどうかの評価は、化学シフトの変化を、上述したPXドメインの3次元構造座標と組み合わせて、コンピューターによる視覚的検討を行うことで、より詳細に行うことができる。
例えば、実施例9と図2で示したように、ある化合物がp47・PXのTyr26、Phe46、Phe81、Gly83、Ala87、Arg90、Gln91、Gly92、Leu94のアミノ酸残基のいずれかの残基のアミド窒素及び/又はアミドプロトンの化学シフト変化を起こしたならば、該化合物がイノシトール1,4,5三リン酸と同様に、p47・PXのクレフト部分に結合しているということが、判別できる。
しかし、コンピューターによる視覚的検討の方法を用いなくとも、複数の化合物の化学シフト変化の生じたアミノ酸残基を比較検討することで、該化合物の分類・評価を行うことができる。
また、本発明が提供するPXドメインの構造座標を使用してコンピューター・プログラムにより合理的にPXドメインに結合する化合物を設計した場合、該化合物を添加した状態でPXドメインのNMR化学シフトの変化を分析することで、設計どおりに該化合物がPXドメインに結合しているかどうかがわかるため、化合物の設計の正否を判断することができる。
この方法は、該化合物がPXドメインとPXドメイン結合物質の結合を促進する物質と、阻害する物質の、両者について同様に有効である。また、当業者におけるリード化合物の発見の段階とリード化合物の最適化の段階の、いずれの段階でも同様に有効である。
ただし、本発明が提供するPXドメインの化学シフトの使用は、これらの手法に限定されるものではない。
実施例
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、何らこれに限定されるものではない。
実施例1
p47・PXドメインの製造
p47・PXドメイン(ヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニットの第1番目のメチオニンから第128残基目のプロリンまでの128アミノ酸残基:配列番号1)をGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)との融合蛋白質として発現させるためのベクターを作製した。
即ち、配列番号3及び配列番号4に示したプライマーを用いて、配列番号5に示したDNA断片をヒト好中球mRNAよりRT−PCR法により増幅した。次にこのDNA断片をGSTとの融合蛋白質として発現させるためにベクターpGEX−2T(アマシャム ファルマシア バイオテク社製)のEcoRI/BamHI切断部位に挿入し、発現プラスミドpGEX−p47PXを作製した。
このようにして作製したp47・PXの発現ベクターpGEX−p47PXを大腸菌BL21(DE3)に導入した。[15N]塩化アンモニウム、又は[13C]グルコースを唯一の窒素源、又は炭素源とする培地を用いることで、安定同位体でラベルされた蛋白質を調製した。
次に、発現させたp47・PXとGSTとの融合蛋白質をグルタチオンカラムを用いて精製した。必要に応じて、トロンビン処理によってGST蛋白質を切り離した。得られたp47・PX蛋白質は強陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(S−Sepharose FastFlow、アマシャム ファルマシア バイオテク社製)を用いて精製した。
実施例2
SH3(C)ドメインの製造
p47・SH3(C)ドメイン(ヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニットの第223番目のグルタミン酸から第286残基目のアスパラギン酸までの64アミノ酸残基:配列番号2)をGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)との融合蛋白質として発現させるためのベクターを作製した。
即ち、配列番号6及び配列番号7に示したプライマーを用いて、配列番号8に示したDNA断片をヒト好中球mRNAよりRT−PCRにより増幅した。次にp47・PXドメインの場合と同様にしてpGEX−2TのEcoRI/BamHI切断部位に挿入し、発現プラスミドpGEX−p47SH3(C)を作製した。
このようにして作製したp47・SH3(C)の発現ベクターpGEX−p47SH3(C)を大腸菌BL21(DE3)に導入した。[15N]塩化アンモニウム、又は[13C]グルコースを唯一の窒素源、又は炭素源とする培地を用いることで、安定同位体でラベルされた蛋白質を調製した。
次に、発現させたp47・SH3(C)とGSTとの融合蛋白質をグルタチオンカラムを用いて精製した。必要に応じて、トロンビン処理によってGST蛋白質を切り離した。得られたp47・SH3(C)蛋白質は強陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(Q−Sepharose FastFlow、アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いて精製した。
実施例3
p47・PXドメイン変異体の製造
p47・PXドメイン(ヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニットの第1番目のメチオニンから第128残基目のプロリンまでの128アミノ酸残基)の第90番目のアミノ酸であるアルギニン残基をリジン残基に置換した変異体(配列番号9。以下「p47・PXR90K」と呼ぶ)をGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)との融合蛋白質として発現させるためのベクターを作製した。
即ち、配列番号3、配列番号4,配列番号10及び配列番号11に示したプライマーを用いて、発現プラスミドpGEX−p47PXに部位特異的変異を導入して、PXドメインの変異体蛋白質の発現プラスミドpGEX−p47PXR90Kを作製した。
このようにして作製したp47・PXR90Kの発現ベクターpGEX−p47PXR90Kを大腸菌BL21(DE3)に導入した。[15N]塩化アンモニウム、又は[13C]グルコースを唯一の窒素源、又は炭素源とする培地を用いることで、安定同位体でラベルされた蛋白質を調製した。
次に、発現させたp47・PXR90KとGSTとの融合蛋白質をグルタチオンカラムを用いて精製した。必要に応じて、トロンビン処理によってGST蛋白質を切り離した。得られたp47・PXR90K蛋白質は強陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(S−Sepharose FastFlow、アマシャムファルマシア バイオテク社製)を用いて精製した。
実施例4
p47・SH3(C)ドメイン変異体の製造
p47・SH3(C)ドメイン(ヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニットの第223残基目のグルタミン酸から第286残基目のアスパラギン酸までの64残基)の第41番目のアミノ酸であるトリプトファン残基(ヒト好中球NADPH酸化酵素p47サブユニットの第263残基目)をアルギニン残基に置換した変異体(配列番号12。以下「p47・SH3(C)W263R」と呼ぶ)をGST(グルタチオンSトランスフェラーゼ)との融合蛋白質として発現させるためのベクターを作製した。
即ち、配列番号6、配列番号7,配列番号13及び配列番号14に示したプライマーを用いて、発現プラスミドpGEX−p47SH3(C)に部位特異的変異を導入して、SH3ドメインの変異体蛋白質の発現プラスミドpGEX−p47SH3(C)W263Rを作製した。
このようにして作製したp47・SH3(C)W263Rの発現ベクターpGEX−p47SH3(C)W263Rを大腸菌BL21(DE3)に導入した。[15N]塩化アンモニウム、又は[13C]グルコースを唯一の窒素源、又は炭素源とする培地を用いることで、安定同位体でラベルされた蛋白質を調製した。
次に、発現させたp47・SH3(C)W263RとGSTとの融合蛋白質をグルタチオンカラムを用いて精製した。必要に応じて、トロンビン処理によってGST蛋白質を切り離した。p47・SH3(C)W263R変異体蛋白質は強陰イオン交換カラムクロマトグラフィー(Q−Sepharose FastFlow、アマシャムファルマシアバイオテク社製)を用いて精製した。
実施例5
NMRによるp47・PXの化学シフトと構造座標の測定
N末端にベクター由来の2アミノ酸残基(グリシン−セリン)が余分についた130アミノ酸残基のp47・PXをNMR解析に用いた。該蛋白質の計算分子量は15,302である。
実施例1において発現・精製したp47・PXは測定用緩衝液{5mM MES緩衝液(pH5.5)、5mM DTT、5% DO又は、100% DO}に約0.6mMの濃度になるように溶解した。
測定は、ブルカー社製のDMX600を用い、25℃で測定した。NMRシグナルの帰属には、通常のトリプル共鳴の3次元NMRスペクトル(HNCA、HN(CO)CA、HNCACB、CBCA(CO)NH、HCCH−COSY、HCCH−TOCSY等)を用いた。立体構造決定のためのNOE情報は、15Nあるいは13C編集のNOESY−HSQCスペクトル(混合時間100ミリ秒)を測定して解析した。立体構造決定のためのカップリング情報は2次元HMQC−J法を測定して解析した。得られた化学シフトは当業者にとって一般的に用いられる表記法であるBMRBデータベースの形式に従って表1に示した。
NOEおよび水素結合の情報から得られる1438個の距離制限情報とカップリング定数から得られる60個の2面角制限情報を満たすような立体構造をNMR用立体構造決定プログラムDYANA(チューリヒ工科大学(ETH)、K.Wuthrich研究室作製)を用いて200個計算し、そのうち上記の制限情報を最も満たしているもの上位20個を選択した。この20個の構造をさらに、分子動力学シミュレーションプログラムEMBOSS(蛋白工学研究所・中村春木研究室作製)を用いて制限付きのエネルギー最小化を行った。
得られた20個の構造は、DYANAの計算で、標的関数の値が4.45〜5.17の範囲であった。EMBOSSで得られた20個の最終構造のなかに、距離制限情報から0.5オングストローム以上の相違は存在しなかった。また、2面角制限情報から2度以上の相違も存在しない。
20個の最終構造において、第4番目のスレオニンから第124残基目のアスパラギン酸までの121残基で、主鎖のRMSDの値は0.55オングストロームであり、同じ領域の水素以外の全原子を含めると、1.21オングストロームであった。
得られた構造座標は当業者にとって一般的に用いられている表記法であるプロテイン・データ・バンクの形式に従って表2に示した。
実施例6
PXドメインのSH3ドメインとの相互作用部位の解析
N末端にベクター由来の2アミノ酸残基(グリシン−セリン)が余分についた66アミノ酸残基のp47・SH3(C)を相互作用部位の解析の実験に用いた。該蛋白質の計算分子量は7,332である。
まず、実施例2で作製した15N又は13Cでラベルされたp47・PXドメインを測定用緩衝液{5mM MES緩衝液(pH5.5)、5mM ジチオスレイトール、5% DO}に約0.2mMの濃度になるように溶解し、p47・PXドメインのNMRシグナル(化学シフト)を測定した(表1)。これに同じ緩衝液で透析したp47・SH3(C)を終濃度約0.4mM(2等量)となるまで滴定し、p47・PXドメインのNMRシグナルの変化をDMX600を用いて測定した。
また、15Nラベルしたp47・SH3(C)を測定用緩衝液{20mM リン酸緩衝液(pH5.5)、5mM ジチオスレイトール、5% DO}に約0.2mMの濃度になるように溶解した。次にp47・PXを終濃度約0.4mM(2等量)となるまで滴定し、p47・SH3(C)ドメインのNMRシグナルの変化をDMX600を用いて測定した。
その結果、SH3ドメインの添加により、PXドメインのプロリンリッチ配列部分に顕著な化学シフトの変化が観察され(第70番目アルギニンから第76番目のプロリン:配列番号1)、p47・SH3(C)がp47・PXのプロリンリッチ配列に結合することが示された。
また、{H}−15N NOESY測定から、プロリンリッチ配列及びその近傍の運動性が高いことがわかった。
実施例7
p47・PXとリン脂質の結合
得られたp47・PXの立体構造には、正に荷電した直径約10オングストロームのクレフトが存在する。このポケット内部には44番目のフェニルアラニン残基、90番目のアルギニン残基が露出している。この二つの残基は他の蛋白質のPXドメインの配列間でよく保存されている。このことから我々は、このポケットにリン脂質が結合するという仮説を立て、以下の実験を行った。
p47・PXとリン脂質の結合はPHドメインでの実験例(Harlan,J.E.,等,Nature,371:168−171,(1994))に基づいて、リポソームと蛋白質最終濃度、緩衝液条件、遠心条件などを適宜改良して行った。
(1)リポソーム懸濁液の調製
ホスファチジルエタノールアミン単体、またはホスファチジルエタノールアミンに各種リン脂質(ホスファチジルコリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトール3リン酸、ホスファチジルイノシトール4リン酸、ホスファチジルイノシトール4,5二リン酸)を最終濃度5%となるように混合したものを、減圧乾固し、緩衝液{20mM HEPES(pH7.2)、0.1M NaCl}中で超音波処理をしてリポソーム懸濁液を調製した。
(2)結合実験
調製したリポソーム懸濁液を緩衝液{20mM HEPES(pH7.2)、0.1M NaCl}で最終濃度(5.0mg/mL)に希釈して、p47・PXを最終濃度5μM(75μg/mL)となるように加えて、室温で15分間振盪した後、100,000g、45分間の超遠心によってリポソームを沈殿させた。上清に残った蛋白質量をSDS−PAGEとHPLC(逆相カラム)で分析した。リン脂質と結合したタンパク質(p47・PX)はリポソームとして超遠心によって沈殿する。測定は3回独立に行い平均値をとった。標準偏差と共に表3に示す。
その結果p47・PXはホスファチジルエタノールアミン(PE)、ホスファチジルコリン(PC)、ホスファチジルグリセロール(PG)、ホスファチジルセリン(PS)にはほとんど結合しない。ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトール3リン酸(PI(3)P)には、弱く結合した。ホスファチジルイノシトール4リン酸(PI(4)P)およびホスファチジン酸(PA)には中程度に結合し、ホスファチジルイノシトール4,5二リン酸(PI(4,5)P)には最も強く結合した。これらの定量結果を表3に示した。
Figure 0004647871
実施例8
イノシトールまたはリン酸を含む可溶性低分子化合物によるp47・PXとリン脂質の結合阻害(p47・PXとリン酸との相互作用の解析)
p47・PXとホスファチジルイノシトール4,5二リン酸を含むリポソームの結合に対する可溶性低分子化合物の阻害活性を、実施例5の実験をもとに行った。
すなわち、実施例7の方法で調製したホスファチジルイノシトール4,5二リン酸を5%含むホスファチジルエタノールアミンのリポソーム懸濁液(最終濃度5.0mg/mL)に、p47・PXドメインを最終濃度5μM(75μg/mL)と下記の表4に記した濃度の可溶性低分子化合物を加えて、室温で15分間振盪した後、100,000g、45分間の超遠心によってリポソームを沈殿させた。上清に残った蛋白質量をHPLC(逆相カラム)で分析・定量し、それぞれの化合物の阻害活性を求めた。
その結果、イノシトール1,4,5三リン酸にp47・PXのリン脂質への結合に対する阻害活性が認められた。イノシトール、イノシトール1リン酸や、グリセロホスフォイノシトールには阻害活性は認められなかった。リン酸は、大過剰(10mM)加えることで、弱い阻害活性を示した(表4)。このことから、p47・PXへの結合に関し、リン脂質はイノシトール1,4,5三リン酸と拮抗することがわかる。
Figure 0004647871
実施例9
p47・PXとイノシトール1,4,5三リン酸との相互作用の解析
p47・PXと実施例8で阻害活性の見られたイノシトール1,4,5三リン酸との相互作用部位をNMRにより調べた。
まず、15Nラベルしたp47・PX溶液{蛋白質濃度約0.2mM、5mMMES緩衝液(pH5.5)、5mM ジチオスレイトール、5% DO}に溶解し、p47・PXのNMRシグナルを測定した(表1)。次にこれにイノシトール1,4,5三リン酸を最終濃度が1.5mMになるまで順次添加し、p47・PXのNMRシグナルの変化を測定した。
その結果、イノシトール1,4,5三リン酸の添加により、PXドメインのクレフト部分(図2を参照)を構成するアミノ酸とその周辺のアミノ酸(Tyr26,Phe44,Phe81,Gly83,Ala87,Arg90,Gln91,Gly92,Leu94)に化学シフトの変化が観察され、このクレフト部分がイノシトール1,4,5三リン酸結合部位であることが示された。
リン酸、あるいはフィチン酸(イノシトール六リン酸)でも、その親和性は低いものの、同様な結果が得られた。
実施例8で示したように、p47・PXへの結合に関し、リン脂質はイノシトール1,4,5三リン酸と拮抗し、イノシトール1,4,5三リン酸はリン脂質のヘッドグループに相当するので、リン脂質もそのヘッドグループがp47・PXのクレフト部分に結合すると考えられる。
実施例10
p47・SH3(C)によるp47・PXとリン脂質の結合阻害
p47・PXとホスファチジルイノシトール4,5二リン酸を含むリポソームの結合に対するp47・SH3(C)の阻害活性を、上記実施例8と同様に行った。
即ち、実施例7で調製したホスファチジルイノシトール4,5二リン酸(PI(4,5)P2)を5%含むホスファチジルエタノールアミンのリポソーム懸濁液(最終濃度5.0mg/mL)に、p47・PXを最終濃度5μM(75μg/mL)とp47・SH3(C)又はp47・SH3(C)W263Rを5μM、10μM、15μM、20μM、25μMの最終濃度となるように加えて、室温で15分間振盪した後、100,000g、45分間の超遠心によってリポソームを沈殿させた。上清に残ったp47・PXの量をHPLC(逆相カラム)で分析・定量し、野生型および変異体p47・SH3(C)の阻害活性を求めた。
その結果、p47・SH3(C)にp47・PXドメインのリン脂質結合に対する阻害活性が認められた。一方、p47・SH3(C)W263Rには阻害活性は認められなかった(図4)。
実施例11
p47・PXの3次元構造座標に基づいた変異体のデザイン(リン脂質結合能を失ったアミノ酸置換体)
実施例9で示されたように、p47・PXに存在するクレフトは、リン脂質のヘッドグループの結合部位である。このクレフトには多数のPXドメインの間で保存されているアルギニン残基(p47・PXでは90番目)が存在する。したがって、このアルギニン残基を他のアミノ酸に置換すれば、リン脂質に対する結合能が変化したPXドメインが得られると期待される。
アルギニン残基の正電荷がリン脂質のヘッドグループの負電荷の認識に重要であると考え、正電荷を無くしかつ長い側鎖を持つアミノ酸としてグルタミンを選び変異体を調製したが、溶解度が低く精製困難であった。そこで、リジン変異体を調製した。リジンはアルギニンと同様に正電荷を持つため、溶解度の問題は生じなかった。しかし、リジンはグアニジウム基の代わりにアミノ基を持つこと、側鎖の長さがメチレン基一つ分短い点が異なる。
実施例3で調製したp47・PXR90Kとホスファチジルイノシトール4,5二リン酸を含むリポソームの結合実験を、実施例5と同様に行った。
即ち、実施例7で調製したホスファチジルイノシトール4,5二リン酸を5%含むホスファチジルエタノールアミンのリポソーム懸濁液(最終濃度5.0mg/mL)に、p47・PX、またはp47・PXR90Kを最終濃度5μM(75μg/mL)となるように加えて、室温で15分間振盪した後、100,000g、45分間の超遠心によってリポソームを沈殿させた。上清、および沈澱に含まれるp47・PX、またはp47・PXR90Kの量をSDS−PAGEで定量した。
その結果、p47・PXR90Kのホスファチジルイノシトール4,5二リン酸に対する結合能は有意に低下していた。このことは、PXドメインとリン脂質との結合にPXドメインの90位のアルギニンが重要な役割を果たしていることを示す。
実施例12
NADPH酸化酵素の活性に及ぼすp47変異の影響
さらに、R90Kのアミノ酸置換を完全鎖長のp47に導入し、セルフリー活性化系、及びホールセル活性化系を用いて、好中球のNADPH酸化酵素活性化におけるp47のR90K変異のアミノ酸置換の影響を調べた。
即ち、ヒト好中球膜、p67、Rac、及びp47(野生型あるいはR90Kのアミノ酸置換体)をNADPH存在下に、アラキドン酸で刺激しスーパーオキシド(O )の生成をシトクロムc還元法にて測定した(セルフリー活性化系)(Akasaki,Tら、(1999)、The Journal of Biological Chemistry、第274巻、第18055−18059頁、The American Society for Biochemistry and Molecular Biology)。また、p47欠損K562培養細胞に、野生型p47あるいはR90Kのアミノ酸置換をもつ変異体p47を遺伝子導入してステイブルトランスフォーマントを作製し、フォルボールミリステートアセテート(PMA)刺激時のO 産生をシトクロムc還元法にて測定した(ホールセル活性化系)(Ago,Tら、(1999)、The Journal of Biological Chemistry、第274巻、第33644−33653頁、The American Society for Biochemistry and Molecular Biology)。
その結果、R90Kのアミノ酸置換を導入したp47は、NADPH酸化酵素によるスーパーオキシド(O )産生を野生型p47ほど誘導できないことがわかった。セルフリー活性化系では野生型の60%、ホールセル活性化系では野生型の10%であった。
【配列表】
Figure 0004647871
Figure 0004647871
Figure 0004647871
Figure 0004647871
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Figure 0004647871
Figure 0004647871

【図面の簡単な説明】
図1はPXドメインを含むタンパク質の例を示す。
図2はNADPH酸化酵素のp47サブユニットのPXドメインの立体構造を示す。
図3はIP3(イノシトール1、4、5三リン酸)の結合により、化学シフトが変化するアミノ酸残基をp47・PXドメインの表面構造上に表示した図である。
図4はp47・PXへのホスファジルノイシトール4,5二リン酸(PI(4、5)P2)の結合をp47・SH3(C)が阻害することを示すグラフである。

Claims (1)

  1. 配列番号1に示すヒト好中球由来のNADPH酸化酵素p47サブユニットのPXドメインにおいて、Arg90がLys90で置換されているNADPH酸化酵素変異体。
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