JP4646926B2 - 球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法 - Google Patents

球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法 Download PDF

Info

Publication number
JP4646926B2
JP4646926B2 JP2007008657A JP2007008657A JP4646926B2 JP 4646926 B2 JP4646926 B2 JP 4646926B2 JP 2007008657 A JP2007008657 A JP 2007008657A JP 2007008657 A JP2007008657 A JP 2007008657A JP 4646926 B2 JP4646926 B2 JP 4646926B2
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cast iron
iron material
hardness
weight
vanadium carbide
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Active
Application number
JP2007008657A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2008174788A (ja
Inventor
忠 橘堂
守 武村
光昭 松室
敬 出水
明 岡本
泰宏 道山
秀人 松元
市蔵 櫻井
尚男 堀江
功一 西垣
達也 広瀬
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
OSAKAPREFECTURAL GOVERNMENT
Original Assignee
OSAKAPREFECTURAL GOVERNMENT
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by OSAKAPREFECTURAL GOVERNMENT filed Critical OSAKAPREFECTURAL GOVERNMENT
Priority to JP2007008657A priority Critical patent/JP4646926B2/ja
Publication of JP2008174788A publication Critical patent/JP2008174788A/ja
Application granted granted Critical
Publication of JP4646926B2 publication Critical patent/JP4646926B2/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Landscapes

  • Heat Treatment Of Articles (AREA)

Description

本発明は、耐摩耗性に優れた高硬度材でありながら、靱性にも優れた合金鋳鉄材料と、そのような合金鋳鉄材料を有利に製造する方法に関するものである。
従来より、ダイス鋼やハイスとして知られている高速度鋼は、高硬度耐摩耗材として、知られている。これらのダイス鋼や高速度鋼は、一般に、非常に硬い組織であるマルテンサイト基地を有し、また、その組織中に炭化物が存在することによって、高い硬度と優れた耐摩耗性が発現され得ているのである。しかしながら、そのような組織中に存在する炭化物は、その形状が板状や針状であり、しかも、方向性を有して存在しているところから、高硬度となる程、衝撃荷重に対して弱く(脆く)なり、靱性に劣ってしまうといった問題を内在している。
特に、高速度鋼では、高い硬度を発現させるために、焼入れ工程において、約1250℃(約1523K)を超える温度まで加熱する必要があり、このため、製品に大きな熱歪が生じて、製品の形状や寸法が狂い、寸法精度にも劣るといった問題を有しているのである。また、そのような高温度で熱処理をしなければならないために、酸化防止のための設備が必要となり、設備面においても、大きな投資が必要とされているのである。加えて、より高い硬度を得るために、焼戻しを2回以上繰り返す2次硬化なる操作を行うところから、製造工程が複雑となると共に、高コストにならざるを得ないのである。
ところで、本願出願人は、先に、特許文献1(請求項2)において、高硬度、耐摩耗性及び靱性に優れた鋳鉄材料を得るべく、C:2.0〜4.0重量%、Si:0.5〜3.0重量%、Mn:0.06〜1.5重量%、V:6.0〜16.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%、Ni:1.0〜5.0重量%、Mo:0.01〜0.8重量%、及び残部がFeと不可避的な成分からなり、且つ、Mgの溶湯添加処理によって、下部ベイナイトまたはマルテンサイトの母相に、球状化したバナジウム炭化物が晶出せしめられた球状炭化物含有合金鋳鉄材料を提案し、かかる合金鋳鉄材料が、Mgの溶湯添加処理を施さない無処理の同一成分の材料と比較して、1.4倍以上の衝撃値を備えていることを明らかにしている。
しかしながら、提案した合金鋳鉄材料は、硬質の球状炭化物(マイクロビッカース硬度:約2600)が金属組織中に晶出せしめられているものの、焼入れ等の熱処理が何等施されていない鋳放し状態のものであったために、Cスケールを用いたロックウェル硬さ(HRC)が51〜55程度と低く、高い硬度が要請される産業機械用の耐摩耗性部材や金型の材料等としては、そのまま使用することができなかったのである。例えば、工具材料として使用する場合には、実用上、ダイス鋼(SKD)や高速度鋼(SKH)に要請されている硬度(SKD:HRC62〜65、SKH:HRC66程度)と同程度かそれ以上の硬度が、必要とされているのである。
特開2002−275573号公報
ここにおいて、本発明は、かかる事情を背景にして為されたものであって、その解決すべき課題とするところは、優れた靱性を有しつつ、硬度がより一層高く、耐摩耗性に優れた合金鋳鉄材料及びその製造方法を提供することにある。
そして、本発明者等が、かかる課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、Mgの溶湯添加によって球状のバナジウム炭化物を晶出・分散させた合金鋳鉄材料に、Co成分を必須成分のうちの一つとして含有せしめ、このCo成分と他のC,V,Mo等の各必須成分の含有割合を特定の割合となるように調整すると共に、鋳放し後、熱処理を施すことにより、非常に硬い組織であるマルテンサイト基地中に、球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられ、これにより、所望とする高い硬度が得られることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明は、熱処理が施されてなる合金鋳鉄材料であって、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、且つ、組織中に球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられていることを特徴とする球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料を、その要旨とするものである。
なお、かかる本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の好ましい態様の一つによれば、前記熱処理として、焼入れとサブゼロ処理とが組み合わされて、施されるのである。
また、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料における別の好ましい態様の一つによれば、前記熱処理として、焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しが組み合わされて、施される。
そして、本発明においては、合金原料を1773〜2073Kで溶解した後、Mg又はMg合金を添加して、鋳込むことにより、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、且つ、組織中に球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられた合金鋳鉄材料を鋳造した後、かかる合金鋳鉄材料に対し、1153〜1343Kの加熱温度からの焼入れを施し、更にその後、サブゼロ処理を実施することを特徴とする球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の製造方法をも、その要旨とするものである。
さらに、本発明は、合金原料を1773〜2073Kで溶解した後、Mg又はMg合金を添加して、鋳込むことにより、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、且つ、組織中に球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられた合金鋳鉄材料を鋳造した後、かかる合金鋳鉄材料に対し、1153〜1343Kの加熱温度からの焼入れを施し、更にその後、サブゼロ処理及び焼戻しを順次に施すことを特徴とする球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の製造方法をも、その要旨とするものである。
このように、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料にあっては、熱処理が施されていると共に、Co成分が必須成分の一つとして含有せしめられ、且つC,V,Mo,Co等の各成分が特定の含有割合となるように調整されているところから、マルテンサイト変態が極めて効果的に進行して、金属組織が、非常に硬い組織であるマルテンサイト基地となるのである。しかも、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料にあっては、かかるマルテンサイト基地中に、硬質な炭化物粒子であるバナジウム炭化物が晶出・分散されているところから、マルテンサイト基地による高硬度化と球状バナジウム炭化物による高硬度化とが相俟って、極めて高い硬度が得られるのである。また、そのような高い硬度に起因して、耐摩耗性も有利に高められているのである。
また、本発明に従う合金鋳鉄材料にあっては、組織中に分散せしめられたバナジウム炭化物の形状が板状や針状ではなく、球状とされて方向性が無くなっていると共に、かかる球状炭化物が均一に分散せしめられているところから、応力集中の発生等が有利に緩和されて、衝撃荷重に対して強くなり、優れた靭性も確保されているのである。
このように、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料は、優れた耐摩耗性を有する高硬度材料でありながら、靭性をも兼ね備えているところから、産業機械用の耐摩耗性部材のみならず、転造用金型やプレス加工等の塑性加工金型、セラミック成型用金型等の金型材料としても、広く利用され得るようになっているのである。
また、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の好ましい態様の一つに従って、熱処理として、焼入れとサブゼロ処理とを組み合わせて行えば、残留オーステナイトの減少と、マルテンサイト変態の進行が更に有利に進められて、合金鋳鉄材料の硬度がより一層効果的に高められるようになるのである。
さらに、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料における別の好ましい態様の一つに従って、熱処理として、焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しを組み合わせて行えば、残留オーステナイトの減少と、マルテンサイト変態の進行が更に有利に進められて、合金鋳鉄材料の硬度が効果的に高められるようになると共に、焼戻し処理により、組織の安定化を図ることができ、合金鋳鉄材料の靱性がより一層改善され得ると共に、焼入れやサブゼロ処理によって生じた内部応力(残留応力)も効果的に除去され得るようになるのである。
また、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の製造方法によれば、C,V等を含む合金原料の溶解温度として、Mgのガス気泡を発生させることが可能な温度である1773〜2070Kが採用され、そのような温度に加熱された溶湯中に、Mg又はMg合金が添加されるようになっているところから、溶湯中に、Mg気泡の微細な球状空間が積極的に形成・分散せしめられ、そして、その球状空間にバナジウム炭化物が晶出することにより、鋳造後、合金鋳鉄材料の金属組織中に、微細な球状のバナジウム炭化物が有利に分散されるようになっているのである。
加えて、合金鋳鉄材料の組成が、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物とされているところから、鋳放し後の合金鋳鉄材料に熱処理((1)1153〜1343Kの加熱温度からの焼入れとサブゼロ処理、又は(2)1153〜1343Kの加熱温度からの焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻し)を施すことによって、マルテンサイト変態が極めて効果的に進行して、金属組織が、非常に硬い組織であるマルテンサイト基地となるのである。
従って、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の製造方法によれば、マルテンサイト基地による高硬度化と球状バナジウム炭化物による高硬度化とが相俟って、硬度が極めて高く、耐摩耗性に優れた合金鋳鉄材料が製造されることとなるのである。しかも、本発明によれば、バナジウム炭化物が球状の形態で晶出・分散せしめられるところから、高硬度でありながらも、応力集中の発生等が有利に緩和されて、衝撃荷重に対して強く、優れた靱性を確保し得る合金鋳鉄材料が得られるのである。
なお、熱処理として、焼戻しを行った場合には、組織の安定化を図ることができ、合金鋳鉄材料の靱性がより一層改善され得ると共に、焼入れやサブゼロ処理によって生じた内部応力(残留応力)も効果的に除去され得るようになる。
ところで、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料は、鉄を主成分とするものであって、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有しているのである。
ここで、炭素(C)及びバナジウム(V)は、金属組織中にバナジウム炭化物を晶出・分散させるために含有されたものである。そして、炭素(C)は、3.3〜4.0重量%、好ましくは3.3〜3.8重量%、更に好ましくは3.4〜3.8重量%の範囲で含有されることが望ましい。かかる含有量が、上記範囲より少ない場合には、後述するCo添加による効果が実現され得ず、所望とする硬度が得られなくなるからであり、一方、上記範囲を超える場合には、一部のCが、Fe−C系板状炭化物(セメンタイト)となり、靱性を低下させてしまうからである。
また、バナジウム(V)は、6.0〜15重量%、好ましくは8.0〜14重量%、更に好ましくは9.0〜13.5重量%の範囲で含有されることが望ましい。かかる含有量が、上記範囲より少ない場合には、高硬度のバナジウム炭化物を組織中に球状で晶出・分散させることができなくなるからであり、一方、上記範囲を超えて含有させても、それ以上の効果は期待できず、却って偏析を起こしやすくなる等、悪影響が生じるようになるからである。
さらに、上記の炭素(C)とバナジウム(V)の含有割合としては、炭素(C)とバナジウム(V)とが、原子数比で約1:1、つまり、重量比で約1:4.25の割合で結合して、バナジウム炭化物(VC)が生成されるところから、Vの含有量がCの含有量の3〜6重量倍、好ましくは3.5〜5.5重量倍、更に好ましくは約4重量倍となる比率が好適に採用され得るのである。
また、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料において、ケイ素(Si)は、溶解時の酸化防止と脱酸、また鋳造時の湯流れを良好にして鋳造性を確保するために含有されるものである。その含有量としては、0.5〜2.0重量%、好ましくは、0.6〜1.8重量%、更に好ましくは0.6〜1.6重量%の範囲が採用される。なお、かかるSiの含有量が上記範囲に満たない場合には、Siを含有させることによる効果が得られなくなって、鋳造性が悪化する一方、上記範囲を超える場合には、靱性が低下するおそれがある。
さらに、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料において、マンガン(Mn)は、溶解時の脱酸調整作用、脱硫作用に有効であり、また、耐食性や耐熱性、靱性を向上させるところから、必須成分の一つとして含有されている。その含有量としては、0.03〜0.8重量%、好ましくは0.06〜0.8重量%、より好ましくは0.06〜0.6重量%の範囲が採用される。この理由は、かかるMnの含有量が上記範囲に満たない場合には、Mnを含有させることによる効果が得られなくなるからであり、逆に、上記範囲を超える場合には、偏析を起こしやすくなるからである。
加えて、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料には、ニッケル(Ni)が、耐食性、耐熱性、靱性及び熱処理時の焼入れ性を向上させるために、含有せしめられている。かかるNiの含有量としては、0.5〜5.0重量%、好ましくは0.5〜4.5重量%、更に好ましくは0.8〜4.5重量%の範囲が採用されるのである。なぜなら、Niの含有量が上記範囲に満たない場合には、Niを含有させることによる効果が何等得られないからであり、また逆に、上記範囲を超える場合には、偏析を助長するおそれがあるからである。
また、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料には、必須成分として、モリブデン(Mo)が、キッシュ黒鉛の析出防止及び基地の安定化のために有効であるところから、含有せしめられている。かかるMoの含有量としては、0.5〜5.0重量%、好ましくは0.5〜4.0重量%、更に好ましくは0.5〜3.0重量%の範囲が採用される。なぜなら、上記範囲に満たない場合には、Moを含有させることによる効果が得られないからであり、逆に、上記範囲を超える場合には、球状でないバナジウム炭化物の割合が増加し、靱性が低下するおそれがあるからである。
更にまた、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料には、コバルト(Co)が、必須成分として含有されている。そして、本発明においては、このCoが含有された鋳鉄材料に、所定の熱処理が施されることによって、熱処理後の金属組織において、残留オーステナイトの減少、即ち、マルテンサイト変態の進行が進み、目的とする高い硬度が得られるようになっているのである。また、この高硬度化に伴って、耐摩耗性も効果的に向上するのである。
なお、かかるCoの含有量としては、0.1〜5.0重量%、好ましくは0.5〜5.0重量%、更に好ましくは1.0〜5.0重量%の範囲が採用されるのである。これは、Coの含有量が上記範囲に満たない場合には、Coによる上記効果が発揮され得ないからである。また、上記範囲を超える場合には、焼入れ性が低下して、材料の肉厚によっては、目的とする硬度を得ることが困難となるからであり、特に、オーステナイト域に加熱して熱処理を行う際の加熱温度が低い程、充分な硬度が得られなくなってしまうようになるからである。
加えて、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料には、マグネシウム(Mg)が含有されているのであるが、このMgは、バナジウム炭化物を球状化するために必須の成分であって、かかるMg乃至はMgを含む合金を、溶湯(溶融鋳鉄)に添加することによって、球状のバナジウム炭化物が、金属組織中に晶出・分散せしめられるのである。かかるMgの含有量としては、0.01〜0.1重量%、好ましくは0.02〜0.08重量%、更に好ましくは0.03〜0.08重量%の範囲が採用されることとなる。なぜなら、上記範囲に満たない場合には、バナジウム炭化物の球状化が不完全となるからであり、逆に、上記範囲を超える場合には、マグネシウムの酸化物が多く散在することとなって、それが材質上、悪影響を及ぼすおそれがあるからである。なお、Mgは、上述せる如き必須成分の中でも沸点(1373K)が比較的に低く、鋳造時に、溶湯中に配合されたMgの一部が気化して、その含有量が変化するのであるが、上記含有量は、凝固した状態の合金鋳鉄材料を分析して得られる値であることが、理解されるべきである。
以上のように、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料は、主成分である鉄(Fe)に、炭素(C)、ケイ素(Si)、マンガン(Mn)、バナジウム(V)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、コバルト(Co)、及びマグネシウム(Mg)が、合金元素として含有されたものであるが、これらの合金元素以外にもリン(P)や硫黄(S)、不可避的不純物が含まれていても何等構わない。
ここで、リン(P)は、0.02〜0.1重量%、好ましくは0.02〜0.08重量%、更に好ましくは0.02〜0.06重量%の割合で、含有されることが望ましい。なぜなら、0.01重量%未満にすることは、現在用いる材料上、困難であるからであり、また、0.1重量%を超えると、偏析を起こし、脆性を有することとなるからである。
また、硫黄(S)は、0.006〜0.08重量%、好ましくは0.015〜0.05重量%の割合で、含有されることが望ましい。なぜなら、0.006重量%未満にすることは、現在用いる材料上、困難であるからであり、また、0.08重量%を超えると、硫化マンガン(MnS)が晶出されやすくなって、耐摩耗性が低下するおそれがあるからである。
そして、上記した合金元素を含む原料を用いて、本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料を製造するには、先ず、Mg又はMg合金を除く合金原料を溶解した後、この得られた溶湯(溶融鋳鉄)中に、Mg又はMg合金を添加して、鋳造を行うのである。このとき、合金原料の溶解温度としては、比較的に低い沸点のMgのガス気泡を発生させる気泡化反応温度が採用される。この理由は、溶湯中に、積極的にMg気泡の微細な球状空間を分散させることによって、この気泡の球状空間に共有結合性のバナジウム炭化物が優先的に晶出し、これにより球状のバナジウム炭化物が、マトリックス中に、均一に分散せしめられることとなるからである。
なお、上記気泡化反応温度としては、Mgの沸点(1373K)よりも高い温度が採用され得るのであり、具体的には、1773〜2073K、好ましくは1773〜1950K、更に好ましくは1873〜1950Kの温度が採用され得る。これは、溶解温度が上記温度範囲よりも低い場合には、溶湯中にマグネシウム気泡が微細に分散され得なくなって、球状バナジウム炭化物が晶出されることなく、非球状のバナジウム炭化物が晶出してしまうおそれがあると共に、溶湯の流動性が悪化し、鋳造が困難となるからである。一方、上記範囲を超える場合には、球状化されるものの、マグネシウム気泡の歩留まりが悪化するおそれがあるからである。
また、溶湯に添加するMg又はMg合金としては、例えば、純マグネシウム、Mgの塩化物、Mgのフッ化物等のMg塩、Mg−Ni、Mg−Fe、Mg−Si−Fe等を使用することができ、それらの形態としては、塊状やブリケット等を挙げることができる。
かくして、上述せる如きMg又はMg合金を添加して得られた溶湯は、常法に従って、鋳型内に流し込まれるのである。このようにして鋳造された合金鋳鉄材料は、上述せる如き組成を有し、また、その金属組織中には、直径:2〜10μm程度の微細な球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられるのである。
そして、このようにして得られた合金鋳鉄材料に対し、本発明においては、熱処理が施されるのであり、これによって、オーステナイト状態からマルテンサイトへの変態が進み、目的とする高い硬度が得られると共に、耐摩耗性も有利に高められることとなるのである。
ここで、上記熱処理としては、合金鋳鉄材料をオーステナイト化温度領域で加熱した後、急速に冷却する焼入れ処理;合金鋳鉄材料をオーステナイト化温度領域で加熱した後、空中放冷する焼準処理;焼入れ乃至は焼準後に、合金鋳鉄材料を0℃(273K)より低い温度に急激に冷却するサブゼロ処理;焼入れ乃至は焼準後に、合金鋳鉄材料をオーステナイト化温度よりも低い温度領域で再加熱して冷却する焼戻し処理等の、従来から公知各種の熱処理を例示することができ、これらの熱処理のうちの1種が単独で、或いは2種以上が組み合わされて、採用されるのである。中でも、更なる高硬度化を実現するためには、熱処理として、(1)焼入れとサブゼロ処理の組み合わせや、この組み合わせに焼戻し処理を加えた、(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しの組み合わせが、より一層好適に採用され得るのである。
そして、熱処理として、(1)焼入れとサブゼロ処理の組み合わせ、又は(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しの組み合わせを採用する場合には、具体的には、以下のような手順で、合金鋳鉄材料に対して各熱処理が施されるのである。
具体的には、熱処理として、上記(1)の組み合わせを採用する場合には、先ず、鋳放し後の合金鋳鉄材料に対して、焼入れ処理が施されるのである。すなわち、鋳放し後の合金鋳鉄材料が、先ず、オーステナイト化温度領域で加熱されるのである。このとき、加熱温度(オーステナイト化温度)としては、1153〜1343K、好ましくは1173〜1323K、更に好ましくは1213〜1293Kの温度が採用され得る。この理由は、上記温度範囲よりも低くなると、目的とする硬度が得られなくなるおそれがあるからであり、一方、上記温度範囲よりも高くなると、熱処理による歪が大きくなるからである。また、かかる加熱温度で合金鋳鉄材料を保持する時間は、特に限定されるものではなく、合金鋳鉄材料の厚みや大きさ等に応じて適宜に設定され得るものの、材料内部まで充分に加熱され得るように、好ましくは、1インチ(2.54cm)の厚さにつき、1時間程度の時間が採用される。
そして、オーステナイト化温度で加熱保持された合金鋳鉄材料は、常温まで冷却されて、最初の熱処理である焼入れ処理が終了する。この焼入れ処理によって、オーステナイトからマルテンサイトへの変態が進み、合金鋳鉄材料が高硬度化すると共に、合金鋳鉄材料の機械的性質が効果的に高められるのである。
ここで、上記焼入れ処理における冷却方法としては、従来から公知の手法が採用され得るのであり、例えば、水や塩水、油、塩、空気等の媒体で冷却する方法を挙げることができる。また、Coを所定の割合で含有する本発明に従う合金鋳鉄材料にあっては、冷却速度が遅過ぎると、パーライト変態やベイナイト変態が生じやすくなったり、オーステナイトからマルテンサイトへの変態が進みにくくなるところから、上記焼入れ処理における1073K〜523K間の冷却速度は、2K/秒以上(1秒につき、2K以上冷却される)、好ましくは3K/秒以上とされることが望ましい。このように、本発明における「焼入れ」は、オーステナイト化温度領域への加熱処理と、マルテンサイト変態を生じる冷却処理とを含む意味として用いられている。
その後、焼入れ処理が施された合金鋳鉄材料には、0℃(273K)より低い温度に急激に冷却する、サブゼロ処理が施されるのである。
ここにおいて、上記サブゼロ処理における冷却方法としては、被冷却物を、液体窒素中に浸漬する方法や、エタノール等のアルコールやエーテル等にドライアイスを加えた冷媒に浸漬する方法、冷凍庫内に配置する方法等、従来から公知の手法が採用され得る。また、サブゼロ処理における冷却温度としても、特に限定されるものではなく、一般的な温度(223〜77K)が採用され得る。また、その冷却温度における保持時間にあっても、特に限定されるものではなく、合金鋳鉄材料の内部まで充分に冷却され得るように、合金鋳鉄材料の厚みや大きさ等に応じて適宜に設定され、好ましくは、1インチ(2.54cm)の厚さにつき、0.5〜2時間程度、より好ましくは1時間程度の時間が採用される。
そして、このようなサブゼロ処理によって、金属組織中に残留するオーステナイトがマルテンサイト化され、換言すれば、残留オーステナイトが効果的に低減されて、合金鋳鉄材料の硬度がより一層高められるようになっているのである。
かくして、上記(1)の焼入れとサブゼロ処理の各熱処理が施された合金鋳鉄材料にあっては、金属組織が非常に硬いマルテンサイト基地となっていると共に、かかるマルテンサイト基地中に、硬質な炭化物粒子であるバナジウム炭化物が略均一に晶出・分散せしめられているところから、マルテンサイト基地による高硬度化と球状バナジウム炭化物による高硬度化とが相俟って、極めて高い硬度が得られるようになる。また、この高硬度化に付随して、耐摩耗性も有利に向上するのである。しかも、本発明の合金鋳鉄材料にあっては、組織中に分散せしめられたバナジウム炭化物が、板状や針状ではなく、球状の形で存在しているところから、応力集中の発生等が有利に緩和されて、優れた靱性も実現され得るようになるのである。
一方、熱処理として、上記(2)の焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しの組み合わせを採用する場合には、上記(1)と同様に、先ず、焼入れとサブゼロ処理が施されるのである。この際、焼入れ・サブゼロ処理条件としては、上記(1)と同様な条件が採用されるのであるが、オーステナイト化温度としては、より好ましくは1213〜1293Kの温度が採用されることが望ましく、これによって、焼戻し後における硬度が、より一層高度に維持されることとなるのである。
そして、焼入れとサブゼロ処理の各熱処理の後に、更に、合金鋳鉄材料に対して、焼戻し処理が施されるのである。具体的には、サブゼロ処理が施された合金鋳鉄材料が、オーステナイト化温度よりも遙かに低い所定の温度で一定時間再加熱された後、冷却されるのである。この焼戻しにより、組織の安定化を図ることができ、合金鋳鉄材料の靱性がより一層改善されると共に、焼入れやサブゼロ処理によって生じた内部応力(残留応力)が効果的に除去され得るようになるのである。
この際、加熱温度(焼戻し温度)としては、373〜523K程度、好ましくは433〜473K程度、更にこの好ましくは433K〜453Kの温度が採用される。この理由は、上記温度範囲よりも低くなると、焼戻しによる効果が得られないからであり、一方、上記温度範囲よりも高くなると、硬度が大きく低下して目的とする硬度が得られなくなると共に、耐摩耗性も低下してしまうおそれがあるからである。一般に、焼戻し温度が高くなるに連れて、硬度が大きく低下することが知られているのであるが、本発明に従う合金鋳鉄材料にあっては、Coが所定の割合で含有せしめられているところから、Coが含有されていない材料に比べて、焼戻し温度の上昇に伴う硬度の低下率が低く、より広い加熱温度範囲で、焼戻し処理を実施することが可能となっているのである。
また、かかる加熱温度で合金鋳鉄材料を保持する時間としては、特に限定されるものではなく、合金鋳鉄材料の厚みや大きさ等に応じて適宜に設定され得るものの、材料内部まで充分に加熱され得るように、好ましくは、1インチ(2.54cm)の厚さにつき、0.5〜2時間程度、より好ましくは1時間程度の時間が採用される。更に、加熱後、常温まで冷却する冷却速度としても、特に制限されるものではなく、一般的な冷却速度が採用され得る。
このようにして、上記(2)の焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しの各熱処理が施された合金鋳鉄材料は、上記(1)の熱処理が施された合金鋳鉄材料と同様に、優れた耐摩耗性を有する高硬度材料であり、更に、焼戻し処理によって、より一層優れた靭性をも兼ね備えているのである。
以上のように、上記(1)や(2)等の熱処理が施された本発明に従う球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料は、高い硬度、優れた耐摩耗性を有しつつ、靭性をも兼ね備えているのである。従って、産業機械用の耐摩耗性部材のみならず、転造用金型やプレス加工等の塑性加工金型、セラミック成型用金型等の金型材料としても、広く利用され得るのである。
また、上述のように、マルテンサイト基地に、硬質の球状粒子が多量に分散しているところから、従来のダイス鋼や高速度鋼よりも耐摩耗性に優れており、鋳造後における鍛造や圧延を必要としない鋳造材となっているのである。
しかも、本発明に従う合金鋳鉄材料においては、オーステナイト化温度(熱処理温度)として、高速度鋼の熱処理温度よりも約200K以上も低い温度が採用されるところから、高速度鋼と比べて、熱処理による歪みも小さく、寸法安定性にも優れると共に、熱処理コストを低く抑えることができるのである。従って、本発明によれば、高硬度、耐摩耗性、靱性に優れた材料を、従来のダイス鋼や高速度鋼と比べて、低コストで製造することができるといった利点も享受し得るのである。
以下に、本発明の実施例を幾つか示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等が加え得るものであることが、理解されるべきである。
−溶製条件と供試材−
先ず、下記表1に示される組成となるように、Mg−Ni合金を除く各合金元素を、5kg高周波誘導炉(マグネシア坩堝)を用いて溶解した。そして、1923Kに昇温した後、Mg−Ni合金を添加、混合し、1873Kで、砂型に鋳込むことにより、実施例1〜16及び比較例1〜4に係る合金鋳鉄材料(供試材:60×10×70mm)を得た。そして、得られた実施例1〜16及び比較例1〜4に係る合金鋳鉄材料(供試材)の組成を分析したところ、下記表1に示される組成であることを、確認した。
このようにして得られた供試材に対して、以下のように、(1)焼入れとサブゼロ処理、又は(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しを施した。
−焼入れ−
まず、鋳放し後の供試材を、3つのオーステナイト化温度(1173K、1253K又は1323K)のうちの何れかの温度で、それぞれ1時間、加熱・保持した後、1073K〜523Kの間の冷却速度が2K/秒以上となるように、空気中で常温まで冷却することにより、焼入れ(焼準)を行った。
−サブゼロ処理−
その後、焼入れ処理が施された供試材を、77K程度の液体窒素の中に、1時間浸漬した後、取り出すことによって、サブゼロ処理を施した。
−焼戻し−
また、上記サブゼロ処理が施された供試材を、473Kで1時間、加熱・保持した後、空冷により常温まで冷却することによって、焼戻しを行った。
そして、(1)焼入れとサブゼロ処理、又は(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しが施された実施例1〜16及び比較例1〜4の供試材を用いて、以下の光学顕微鏡観察と硬さ試験を行った。なお、ミクロ組織観察用試験片(10×20×5mm)、硬度測定用試験片(10×20×5mm)は、それぞれ、供試材を切断することによって準備した。
−光学顕微鏡観察−
ミクロ組織の観察のために、(1)焼入れとサブゼロ処理、又は(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しが施された実施例1〜16及び比較例1〜4に係る各供試材(ミクロ組織観察用試験片)を、その長さ方向の一端部から12mmの部位で切断した後、かかる切断面を研磨し、その研磨面を光学顕微鏡で観察したところ、実施例1〜16に係る供試材は何れも、マルテンサイト基地を有し、そのマルテンサイト基地中に、球状の炭化物が晶出していることが認められた。そして、得られた顕微鏡写真のうち、焼入れ(オーステナイト化温度:1253K)、サブゼロ処理及び焼戻しが施された実施例1〜16及び比較例1の顕微鏡写真を、図1〜17に示したが、かかる顕微鏡写真からも明らかなように、Coが含有されていない比較例1に係る供試材(図17)にあっては、白色・笹の葉状の残留オーステナイトが多く観察されている。
−硬さ試験−
(1)焼入れとサブゼロ処理、又は(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しが施された実施例1〜16及び比較例1〜4の供試材(硬度測定用試験片)を用い、JIS−Z−2245の「ロックウェル硬さ試験」に準じて、Cスケールを用いたロックウェル硬度(HRC)をそれぞれ測定した。そして、得られた結果を、上記(1)焼入れとサブゼロ処理を施したものについては、下記表2に、上記(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しを施したものについては、下記表3に、それぞれ示した。
かかる表2及び表3の結果から明らかなように、熱処理の施された実施例1〜16に係る供試材は、何れも、ロックウェル硬度(HRC)が63を超えており、高い硬度を具備していることがわかる。また、実施例1,2を、Coを含有しないこと以外は同様の組成である比較例1と比較すると、Coを含有する実施例1,2の方が、高い硬度であることがわかる。同様に、実施例3と比較例2を比較し、また実施例4〜6と比較例3を比較し、更に実施例7〜10と比較例4を比較すると、Coを含有する実施例3〜10の方が、比較例よりも硬度が高いことがわかる。
さらに、実施例1〜16の中でも、Ni:1.0重量%、Mo:2.0重量%の割合で含有せしめられた実施例7〜10にあっては、(1)焼入れとサブゼロ処理の組み合わせ(表2)では、HRC:69以上、(2)焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しの組み合わせ(表3)では、HRC:67.5以上と、極めて高い硬度が得られており、鉄系溶製材として限界に近い硬さを有していることがわかる。
また、以下のように、X線回折試験、耐摩耗性試験及び破壊じん性試験を行った。
−X線回折試験−
焼入れ(オーステナイト化温度:1323K)、サブゼロ処理及び焼戻し(473K)が施された上記実施例2(Co:3重量%)と、焼入れ(オーステナイト化温度:1323K)、サブゼロ処理及び焼戻し(473K)が施された比較例1(Co:0重量%)の供試材を用い、下記の測定条件で、X線回折法にて残留オーステナイトを定量したところ、実施例2では、残留オーステナイトが4%であったのに対し、比較例1では、残留オーステナイトが9%であった。この結果から、Coの添加により、熱処理後、残留オーステナイトが効果的に減少することがわかる。
<測定条件>
使用装置:微小部X線応力測定装置PSPC/RSFシステム(理学電気株式会社)、
検出器:PSPC(位置敏感型比例計数管)
管球:Cr、特性X線:CrKα
管電圧:30kV,10mA
解析用回折ピーク:α−Fe(211), γ−Fe(220)
コリメーター径:φ4mm
−耐摩耗性試験−
上記実施例8の組成(C:3.55重量%、V:12.8重量%、Si:1.00重量%、Ni:1.00重量%、Mo:2.0重量%、Co:2.0重量%、Mn:0.06重量%、Mg:0.05重量%、Fe+不純物:残部)の合金鋳鉄材料に、焼入れ(オーステナイト化温度:1253K)、サブゼロ処理及び焼戻し(473K)を施して、転造金型を作製した。そして、この転造金型を用いて、ハイテンションボルト(HRC:42)を転造し、その命数(寿命)を調べ、得られた結果を、下記表4に示した。
また、比較のために、SKD11(C:1.50重量%、Si:0.30重量%、Mn:0.70重量%、Cr:12.5重量%、Mo:1.1重量%、Ni:0.40重量%、V:0.40重量%、Fe+不純物:残部)、及びSKH51(C:0.85重量%、Si:0.35重量%、Mn:0.30重量%、Cr:4.0重量%、Mo:5.1重量%、W:6.2重量%、V:2.0重量%、Fe+不純物:残部)からなる転造金型をそれぞれ準備し、これらを用いて、ハイテンションボルト(HRC:42)を転造し、その命数を調べ、得られた結果を下記表4に示した。
かかる表4から明らかなように、実施例8の合金鋳鉄材料からなる転造金型の転造本数が最も多く、ダイス鋼(SKD11)や高速度鋼(SKH51)と比べて、耐摩耗性に優れていることがわかる。
−破壊じん性試験−
ASTM−E399に準拠して、KIC試験片として、複数のCT(コンパクト型)試験片を準備し、かかる試験片を用いて、破壊じん性試験を行って、平面ひずみ破壊じん性値:KICを求め、得られた結果を下記表5に示した。なお、試験片の材料としては、上記実施例8の組成(C:3.55重量%、V:12.8重量%、Si:1.00重量%、Ni:1.00重量%、Mo:2.0重量%、Co:2.0重量%、Mn:0.06重量%、Mg:0.05重量%、Fe+不純物:残部)の合金鋳鉄材料に、焼入れ(オーステナイト化温度:1253K)、サブゼロ処理及び焼戻し(473K)を施したものと鋳放し状態のまま熱処理を何等施していないもの、及び、SKH51を用いた。
かかる表5からも明らかなように、熱処理を施した本発明に従う合金鋳鉄材料にあっては、熱処理を施していないものに比べて、靱性が低くなっているものの、硬度が65である高速度鋼(SKH51)よりも高靱性であることがわかる。一般に、靱性は、硬さの上昇に伴って低下する傾向があることが知られているが、本発明に従う合金鋳鉄材料にあっては、高速度鋼と比べて、高硬度にも拘わらず、靱性にも優れていることがわかる。
また、熱処理が施されていない合金鋳鉄材料にあっては、KIC値が大きくばらついており、試験片により残留オーステナイト相の分布にばらつきがあると考えられるが、熱処理を施した合金材料にあっては、KIC値のばらつきは小さく、これにより、熱処理によって残留オーステナイト相が均一にマルテンサイト化されていると考えられる。
実施例1で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例2で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例3で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例4で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例5で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例6で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例7で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例8で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例9で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例10で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例11で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例12で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例13で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例14で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例15で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 実施例16で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。 比較例1で得られた供試材の金属組織の顕微鏡写真である。

Claims (5)

  1. 熱処理が施されてなる合金鋳鉄材料であって、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、且つ、組織中に球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられていることを特徴とする球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料。
  2. 前記熱処理として、焼入れとサブゼロ処理とが組み合わされて、施されている請求項1記載の球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料。
  3. 前記熱処理として、焼入れ、サブゼロ処理及び焼戻しが組み合わされて、施されている請求項1記載の球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料。
  4. 合金原料を1773〜2073Kで溶解した後、Mg又はMg合金を添加して、鋳込むことにより、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、且つ、組織中に球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられた合金鋳鉄材料を鋳造した後、かかる合金鋳鉄材料に対し、1153〜1343Kの加熱温度からの焼入れを施し、更にその後、サブゼロ処理を実施することを特徴とする球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の製造方法。
  5. 合金原料を1773〜2073Kで溶解した後、Mg又はMg合金を添加して、鋳込むことにより、C:3.3〜4.0重量%、Si:0.5〜2.0重量%、Mn:0.03〜0.8重量%、V:6.0〜15重量%、Ni:0.5〜5.0重量%、Mo:0.5〜5.0重量%、Co:0.1〜5.0重量%、Mg:0.01〜0.1重量%を含み、残部がFe及び不可避的不純物からなる組成を有し、且つ、組織中に球状のバナジウム炭化物が晶出・分散せしめられた合金鋳鉄材料を鋳造した後、かかる合金鋳鉄材料に対し、1153〜1343Kの加熱温度からの焼入れを施し、更にその後、サブゼロ処理及び焼戻しを順次に施すことを特徴とする球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料の製造方法。
JP2007008657A 2007-01-18 2007-01-18 球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法 Active JP4646926B2 (ja)

Priority Applications (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2007008657A JP4646926B2 (ja) 2007-01-18 2007-01-18 球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2007008657A JP4646926B2 (ja) 2007-01-18 2007-01-18 球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP2008174788A JP2008174788A (ja) 2008-07-31
JP4646926B2 true JP4646926B2 (ja) 2011-03-09

Family

ID=39702013

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2007008657A Active JP4646926B2 (ja) 2007-01-18 2007-01-18 球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法

Country Status (1)

Country Link
JP (1) JP4646926B2 (ja)

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN107641754A (zh) * 2017-08-16 2018-01-30 宝钢特钢有限公司 一种高强硬合金灰铁模具材料及其制备方法

Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS54137423A (en) * 1978-04-17 1979-10-25 Hitachi Zosen Corp Heat treatment of high strength nodular cast iron
JP2002275573A (ja) * 2001-03-15 2002-09-25 Kurimoto Ltd 球状炭化物合金白鋳鉄
JP2005206894A (ja) * 2004-01-23 2005-08-04 Tsuneo Takada 刃物用白鋳鉄およびその製造方法
JP2006206993A (ja) * 2005-01-31 2006-08-10 Osaka Prefecture 耐摩耗性に優れた球状バナジウム炭化物含有低熱膨張材料及びこの製造方法

Patent Citations (4)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPS54137423A (en) * 1978-04-17 1979-10-25 Hitachi Zosen Corp Heat treatment of high strength nodular cast iron
JP2002275573A (ja) * 2001-03-15 2002-09-25 Kurimoto Ltd 球状炭化物合金白鋳鉄
JP2005206894A (ja) * 2004-01-23 2005-08-04 Tsuneo Takada 刃物用白鋳鉄およびその製造方法
JP2006206993A (ja) * 2005-01-31 2006-08-10 Osaka Prefecture 耐摩耗性に優れた球状バナジウム炭化物含有低熱膨張材料及びこの製造方法

Cited By (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN107641754A (zh) * 2017-08-16 2018-01-30 宝钢特钢有限公司 一种高强硬合金灰铁模具材料及其制备方法

Also Published As

Publication number Publication date
JP2008174788A (ja) 2008-07-31

Similar Documents

Publication Publication Date Title
KR101488120B1 (ko) 침탄용 강, 침탄강 부품 및 그 제조 방법
KR101482473B1 (ko) 침탄용 강, 침탄강 부품 및 그 제조 방법
KR101616656B1 (ko) 베어링 강과 그 제조 방법
JP5927868B2 (ja) 冷間鍛造性に優れた浸炭用鋼およびその製造方法
JP5293596B2 (ja) 被削性に優れた析出硬化型マルテンサイト系ステンレス鋳鋼及びその製造方法
WO2013100148A1 (ja) 強度及び靭性に優れた球状黒鉛鋳鉄及びその製造方法
JPH07238350A (ja) 高温用表面浸炭ステンレス鋼合金及びそれから作られる製品及びその製造方法
JP2011508073A (ja) 軸受用鋼線材、軸受用鋼線材の製造方法、軸受の熱処理方法、軸受及び軸受用鋳片の均熱拡散処理方法
JP6468366B2 (ja) 鋼、浸炭鋼部品、及び浸炭鋼部品の製造方法
WO2010074017A1 (ja) 鋼の焼入方法
JP4530268B2 (ja) 衝撃特性に優れた高炭素鋼部材及びその製造方法
KR101723174B1 (ko) 우수한 내마멸성, 내산화성 및 강도를 가지는 고크롬계 백주철합금 및 이의 제조방법
JP5391711B2 (ja) 高炭素パーライト系レールの熱処理方法
JP3737803B2 (ja) 球状バナジウム炭化物含有高マンガン鋳鉄材料及びその製造方法
KR20140015445A (ko) 열간 가공 공구강 및 열간 가공 공구강 제조를 위한 방법
JP4646926B2 (ja) 球状バナジウム炭化物含有高硬度合金鋳鉄材料及びその製造方法
WO2014145421A2 (en) Development of nanostructure austempered ductile iron with dual phase microstructure
JP6328968B2 (ja) 球状黒鉛鋳鉄、及び球状黒鉛鋳鉄の製造方法
WO2016013273A1 (ja) 熱間工具材料、熱間工具の製造方法および熱間工具
Inthidech et al. Effect of sub-critical heat treat parameters on hardness and retained austenite in Mo-containing high chromium cast irons
JP6683074B2 (ja) 浸炭用鋼、浸炭鋼部品及び浸炭鋼部品の製造方法
JPWO2008016158A1 (ja) 快削ステンレス鋼及びその製造方法
JP6328967B2 (ja) 球状黒鉛鋳鉄管、及び球状黒鉛鋳鉄管の製造方法
JP4278060B2 (ja) 耐摩耗性に優れた球状バナジウム炭化物含有低熱膨張材料及びこの製造方法
RU2524465C1 (ru) Жаропрочная сталь мартенситного класса

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20080828

A977 Report on retrieval

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971007

Effective date: 20101129

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20101207

A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20101207

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131217

Year of fee payment: 3

R150 Certificate of patent or registration of utility model

Ref document number: 4646926

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R150

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131217

Year of fee payment: 3

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313115

FPAY Renewal fee payment (event date is renewal date of database)

Free format text: PAYMENT UNTIL: 20131217

Year of fee payment: 3

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

S531 Written request for registration of change of domicile

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313531

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313115

R360 Written notification for declining of transfer of rights

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R360

R360 Written notification for declining of transfer of rights

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R360

R371 Transfer withdrawn

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R371

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313115

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R350 Written notification of registration of transfer

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R350

R360 Written notification for declining of transfer of rights

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R360

R371 Transfer withdrawn

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R371

S111 Request for change of ownership or part of ownership

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R313115

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250

R250 Receipt of annual fees

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R250