まず、フォトニック結晶について簡単に説明する。
フォトニック結晶とは、屈折率が異なる2種類の透明媒質を、各透明媒質の平均波長の1/2程度の格子間隔で1〜3次元の周期構造としたものである。すなわち、直交座標軸のうちの少なくとも一つの座標軸方向に格子定数が周期的に変化している結晶である(格子変調型のフォトニック結晶)。
3次元のフォトニック結晶は、簡単に言えばナノスケールの3次元市松模様である。1次元、2次元、3次元のフォトニック結晶を模式的に示すと、図8(a)、(b)、(c)のようになる。
図8(a)は1次元のフォトニック結晶の模式図であり、図8(b)は2次元のフォトニック結晶の模式図であり、図8(c)は3次元のフォトニック結晶の模式図である。
図8(a)に示すフォトニック結晶800は、直交座標軸のうち一つの座標軸方向(図8(a)ではZ軸方向)にのみ屈折率の周期性を有している。すなわち、フォトニック結晶800は、高屈折率媒質層801及び低屈折率媒質層802がZ軸方向に交互に積層されたものである。
図8(b)に示すフォトニック結晶810は、二つの座標軸方向(この場合、X軸方向及びZ軸方向)に屈折率の周期性を有している。すなわち、フォトニック結晶810は、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層811及び低屈折率媒質層812がX軸方向及びZ軸方向に交互に積層されたものである。
図8(c)に示すフォトニック結晶820は、全座標軸方向(この場合、X軸方向、Y軸方向、Z軸方向)に屈折率の周期性を有する。すなわち、フォトニック結晶820は、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層821及び低屈折率媒質層822がX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向に交互に積層されたものである。
次に光通信の背景について説明する。
近年、インターネットや携帯型電話機等のデータ通信量の増大に伴い、光ファイバ伝送路の容量拡大が要求されている。そのためには、変調速度を上げる時分割多重方式(TDM:Time Division Multiplexing)と、1本の光ファイバに異なる波長の光信号をのせる波長多重方式(WDM:Wavelength Division Multiplexing)とがあり、容量拡大の要求に対応するため、TDMによる高速化と、WDMによる高密度波長多重化とが同時に進められている。
WDM方式における波長の合分波には多層膜フィルタを組み合わせた方法と、アレイ型波長合分波器(AWG:Arrayed Wavelength Grating)を用いた方法とがあり、AWGは40波長程度の波長数の光信号を1素子で合分波できる特長を有している。
以下では格子変調型フォトニック結晶波長フィルタを単にフォトニック結晶フィルタと略する。
次にAWGの従来技術について説明する。
上記AWGには製造誤差に起因するクロストークが存在し、そのクロストークは合分波する光信号の波長数が多くなればなるほど重畳される。そのため、クロストークの総和は光信号の波長数の増加に伴い増大する。そのクロストークの総和は、波長数が十数波長程度では許容されるが、波長数が数十波長、数百波長となった場合は無視できなくなる。フォトダイオードはクロストークの総和を受光するため、伝送しなければならない光信号強度とのS/N比が劣化する。
クロストークを抑圧する方法としてAWGとフォトニック結晶波長フィルタとを組み合わせる方法がある。その模式図を図9に示す。
図9は本発明の前提となった波長合分波器の模式図である(特願2002−051639号参照)。
この波長合分波器950は、格子変調型フォトニック結晶フィルタ909をAWG本体915の出力導波路907に接続された出力側光ファイバ908,910の途中分断部920に挿入したものである。
AWG本体915は、一端(図では左端)に波長多重信号光902が入力される合波側導波路(入力導波路)903と、この入力導波路903の他端に一端が接続された入力側スラブ導波路904と、この入力側スラブ導波路904の他端に一端が接続された複数のチャンネル導波路からなるアレイ導波路905と、このアレイ導波路905の各チャンネル導波路の他端に一端が接続された出力側スラブ導波路906と、この出力側スラブ導波路906の他端に一端が接続され分波された信号光がそれぞれ伝搬する複数の分波側導波路(出力導波路)907とで構成されている。
図示しない入力側光ファイバから入力導波路903に入射した広帯域のスペクトル(波長多重信号光)902は、入力導波路903、入力側スラブ導波路904、アレイ導波路905、出力側スラブ導波路906、出力導波路907を順に通過し、出力導波路907で分波された信号光919は、出力側光ファイバ908,910から出力され、フォトダイオード(PD)913に達する。
ここで、入力側スラブ導波路904および出力側スラブ導波路906はレンズとして作用し、アレイ導波路905はプリズムとして作用する。AWG本体915の出力導波路907から出射した光信号を受光するAWG側出力光ファイバ908をアレイ状にしたAWG側光ファイバアレイ917と、そのAWG側光ファイバアレイ917と光学的に接続されるPD側光ファイバ910をアレイ状にしたPD側光ファイバアレイ918とをV溝が形成されたV溝台911の上で接続する。V溝台911のV溝の本数は光ファイバ908,910の本数と同数とする。V溝台911上のAWG出力側光ファイバアレイ917とPD側光ファイバアレイ918との接続部に設けられた空間920にフォトニック結晶フィルタ909およびレンズ912a,912bを図示しないUV樹脂あるいは接着剤を用いて接続することによりアレイ型波長合分波器950が得られる。
ここで、出力側ファイバ908,910の途中分断部910の空間920へ挿入するフォトニック結晶フィルタ909について図14(a)、(b)、(c)を参照して説明する。
図14(a)は図9に示した波長合分波器950に用いられるフォトニック結晶フィルタの模式図であり、図14(b)は格子定数Lxの異なる領域を有するフォトニック結晶フィルタの構造図であり、図14(c)は図14(b)に示したフォトニック結晶フィルタの透過中心波長の波長透過率特性を示す図である。図14(c)において、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示す。
図14(a)に示したフォトニック結晶フィルタ1405は、サブミクロンオーダの凹凸1400が一方の主面(図では上側の面)に2次元周期的(平面的)に形成されたフィルタ用基板1401上に、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層1402と低屈折率媒質層1403とを交互に形成して一対のミラー部1410,1411で一つのキャビティ部1412を挟むようにフォトニック結晶1413を形成したものである。
このフォトニック結晶フィルタ1405の一方の主面に対し波長多重信号光(波長λ1,λ2,λ3(λ1<λ2<λ3)の信号光を含む)1420を垂直に入射すると、特定の波長を有する信号光1421がフォトニック結晶フィルタ1405の他方の主面から選択的に出射される。
図14(b)に示すように周期構造の周期を格子定数Lxとした場合、格子定数Lxの異なる領域1431,1432,1433がフィルタ用基板1401の一方の主面内にアレイ状に形成されている。このフィルタ用基板1401の一方の主面上に図14(a)に示すように高屈折率媒質層1402と低屈折率媒質層1403とを交互に形成して2つのミラー部1410,1411でキャビティ部1412を挟むようにフォトニック結晶1413が形成されている。
図14(b)に示すフォトニック結晶フィルタ1440の主な特長は、厚み方向の膜構造を同一構造として格子定数Lxを領域1431〜1433によって様々な値としながら増加(図では左から右に向かって増加)させていくことにより、フィルタ用基板1401に垂直方向に波長多重信号光(波長λ1,λ2,λ3(λ1<λ2<λ3)の信号光を含む)1422,1423,1424を入力させた時の各領域1431〜1433から出力する出射光の透過中心波長λ1〜λ3が格子定数Lxの増加する方向に向かって長波長側に変化するということである(例えば特許文献1参照)。その機能はいわば、単純な多層膜からなるバンドパスフィルタをアレイ状にして1枚のフィルタ用基板1401上に形成したものと考えても良い。
図10(a)、(b)は従来例を示す模式図である。
図10(a)は市販の一般的なバンドパスフィルタのミラー部およびキャビティ部の高屈折率層と低屈折率層の膜厚を変化させた場合の模式図であり、図10(b)は図10(a)に示した各バンドパスフィルタの波長−損失特性を示す図である。図10(b)において横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示す。
図10(a)に示すようにバンドパスフィルタ1000−1の構造は、フィルタ用基板1001上に、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層1002と低屈折率媒質層1003とを交互に形成して2つのミラー部1004,1005でキャビティ部1006を挟むようにフォトニック結晶1007を形成したものである。同図に示す他のバンドパスフィルタ1000−2,1000−3も同様の構造を有するが、高屈折率媒質層1002および低屈折率媒質層1003が図10(a)の左から右に向かって順次厚くなっている。
各バンドパスフィルタ1000−1〜1000−3に波長多重信号光(波長λ1,λ2,λ3(λ1<λ2<λ3)の信号光を含む)を入射すると、フォトニック結晶フィルタ1000−1からは波長λ1の信号光1011が出射し、フォトニック結晶フィルタ1000−2からは波長λ2の信号光1012が出射し、フォトニック結晶フィルタ1000−3からは波長λ3の信号光1013がそれぞれ出射する。
すなわち、図10(a)に示したバンドパスフィルタ1000−1〜1000−3はそれぞれの波長−損失特性が図10(b)に示すような特性を有する。
このように従来の技術では図10(a)に示すように、ミラー部1004,1005およびキャビティ部1006の多層膜、或いは単層膜を構成する高屈折率媒質層1002と低屈折率媒質層1003の膜厚を変化させないと出射光の透過中心波長を変化させることができなかった。その場合、透過中心波長に応じて各層1002,1003の膜厚が異なるために、各バンドパスフィルタ(フォトニック結晶フィルタ)1000−1〜1000−3をそれぞれ別バッチでその種類数と同じバッチ数分だけ作製する必要があった。例えば40チャンネルAWG本体915(図9参照)と組み合わせるバンドパスフィルタは、40種類作製する必要があった。
ここで、図11は図9に示した波長合分波器950、波長合分波器950に用いた波長合分波器本体915およびフォトニック結晶フィルタ909の波長−損失特性を示す図であり、横軸が波長を示し、縦軸が透過損失を示す。また、図11において曲線L1101はフォトニック結晶フィルタ909の波長透過特性を示し、曲線L1102は波長合分波器本体915の波長透過特性を示し、曲線L1103は波長合分波器950の波長透過特性を示す。
図9に示すようにAWG本体915と格子変調型フォトニック結晶フィルタ910とを組み合わせてAWG950を作製すると、AWG950の全損失はそれぞれの素子(AWG本体915、格子変調型フォトニック結晶フィルタ910)の損失を加算したものになるので、図11に示すようにクロストークによる損失は−70dB以下となる。また、該格子変調型フォトニック結晶フィルタ930を使用することで、出力導波路907の光軸に対して垂直に挿入することができるため、損失のバラツキ、偏波依存性は発生しない。
ここで、損失のバラツキ、偏波依存性が発生しない理由について説明する。
偏波依存性については後述するラインアンドスペースが一方向に形成されている基板(図示せず)を使用し、その基板上に後述する自己クローニング法により多層膜を形成した場合、偏波依存性が極めて大きくなり、それによってTE、TMの偏波の内、片方の偏波しか透過しないことになる。一方、ラインアンドスペースが縦横に形成された基板(図示せず)を使用し、その基板上に多層膜を形成した場合、ラインアンドスペースが一方向に形成されている基板を用いた場合に生じる偏波依存性が解消される。偏波依存性が解消されれば、それに伴って同時に損失バラツキが低減される。
しかしながら、図14に示した従来技術では、フォトニック結晶フィルタのフォトニック結晶1413の格子定数Lxを変化させたときの透過中心波長の変化量が最大5〜10nmであった。その透過中心波長の変化の様子を図12(b)を参照して説明する。
図12(a)は従来の格子変調型のフォトニック結晶波長フィルタの模式図であり、図12(b)は図12(a)に示したフォトニック結晶波長フィルタの波長−損失特性を示す図である。図12(b)において、横軸は波長を示し、縦軸は透過損失を示している。また、図12(b)において曲線L1201は格子定数Lxが0.4μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L1202は格子定数Lxが0.5μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L1203は格子定数Lxが0.6μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L1204は格子定数Lxが0.8μmの場合の波長−損失特性をそれぞれ示す。
図12においては、格子定数Lxを0.4〜0.8nmまで変化させた場合の透過中心波長の変化が5nmであった。しかしながら、追試作では透過中心波長が10nm変化するフォトニック結晶波長フィルタも得られている。
ここで、AWG本体915(図9参照)として24ch100GHzのAWG本体を使用した場合、格子定数Lxを最小値から最大値(通常0.2〜1.0nm)まで変化させた場合の透過中心波長の変化量は、各チャネルの帯域幅が0.8μmの場合には24×0.8=19.2nm必要であるが、図12(a)に示したフォトニック結晶フィルタ1200を用いると、帯域20nmをカバーするために2種類必要であった。また、AWG本体915として40ch100GHzのAWG本体を使用した場合には、格子定数Lxを最小値から最大値まで変化させた場合の透過中心波長の変化量が、各チャネルの帯域幅が0.8μmの場合、40×0.8=32.0nmであるので、作製しなければならないフォトニック結晶フィルタ909の種類は短波長側から10nmずつ帯域を区切ると4種類となる。よって、バッチ数としては4バッチの成膜が必要となり、実装する際は4種類のフォトニック結晶フィルタをそれぞれ実装しなければならなかったという問題があった。
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、簡単な構成で透過中心波長の変化量が大きい格子変調型フォトニック結晶波長フィルタ及びこれを用いたアレイ型波長合分波器並びにこれらの製造方法を提供することにある。
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、透明なフィルタ用基板の一方の主面に屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層および低屈折率媒質層が交互に積層されて3次元的に周期構造を有するフォトニック結晶が用いられ、その主面に対し垂直もしくは斜めに入力した波長多重光信号を波長選択して透過中心波長の光信号を出力する格子変調型フォトニック結晶波長フィルタにおいて、フォトニック結晶の格子定数と透過中心波長との関係を示す分散曲線群における透過中心波長の分散曲線が分散曲線群のうちの最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップ内の周波数換算の中点からなる分散曲線以外に位置するように、かつ上記最長波長側の分散曲線(1次)、或いは上記最短波長側の分散曲線(2次)の近傍に位置するようにキャビティとなる層の膜厚をd=λ/2n(d:膜厚,λ:波長,n:屈折率)から1.5%変化させたものである。
請求項1に記載の構成によれば、フォトニック結晶の周期構造の周期を変化させることによりフォトニック結晶の透過中心波長の分散曲線が分散曲線群のうちのキャビティ層の膜厚で決まる分散曲線上に位置する。また、最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップは格子定数の増加に伴い中心の分散曲線に接近するように狭くなっている。このため、バンドギャップ内でバンドギャップの周波数換算の中点をたどる分散曲線上の位置からそれ以外の分散曲線上、好ましくはバンド端近傍(最長波長側の分散曲線(1次)、或いは最短波長側の分散曲線(2次)の近傍)の位置にシフトするようにフォトニック結晶のキャビティ層の膜厚を制御しながら格子定数の異なる領域を形成することで各領域の透過スペクトルの透過中心波長の最大の差(シフト量)が広くなる。すなわち、同構成によれば、透過中心波長はフォトニック結晶の格子定数を変化させたときに、従来のシフト量である10nmから約30nmへと3倍以上シフト量を増加させることができる、透過中心波長の変化量の大きな格子変調型フォトニック結晶波長フィルタが得られる。
請求項2の発明は、請求項1に記載の構成に加え、フォトニック結晶は誘電体多層膜からなるのが好ましい。
請求項2に記載の構成によれば、石英系光ファイバと同種の材料とすることができ、波長合分波器本体の出力端あるいは光ファイバとの接続損失を低くすることができる。
請求項3の発明は、アレイ型波長合分波器本体と、透明なフィルタ用基板の一方の主面に屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層および低屈折率媒質層が交互に積層されて3次元的に周期構造を有するフォトニック結晶が用いられ、その主面に対し垂直もしくは斜めに入力した波長多重光信号を波長選択して透過中心波長の光信号を出力する格子変調型フォトニック結晶波長フィルタとを組み合わせたアレイ型波長合分波器において、フォトニック結晶の格子定数と透過中心波長との関係を示す分散曲線群における透過中心波長の分散曲線が分散曲線群のうちの最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップ内の周波数換算の中点からなる分散曲線以外に位置するように、かつ上記最長波長側の分散曲線(1次)、或いは上記最短波長側の分散曲線(2次)の近傍に位置するようにキャビティとなる層の膜厚をd=λ/2n(d:膜厚,λ:波長,n:屈折率)から1.5%変化させたものである。
請求項3に記載の構成によれば、フォトニック結晶の周期構造の周期を変化させることによりフォトニック結晶の透過中心波長が分散曲線群のうちのキャビティ層の膜厚で決まる分散曲線上に位置する。また、最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップは格子定数の増加に伴い中心の分散曲線に接近するように狭くなっている。
ここで、分散曲線の間隔(バンドギャップ)が格子定数の増加に伴って減少する理由について簡単に説明する。
格子定数の増加は、異なる格子定数の領域間における高屈折率膜と低屈折率膜との境界が曖昧となった領域の数(面積)が増加することによって両膜の屈折率差が実質的に小さくなった状態と同じことになり、この結果、バンドギャップが小さくなる。フォトニック結晶のバンドギャップは、両膜の屈折率差の増大により大きくなり、両膜の屈折率差の減少により小さくなることは既知の事実である。
このため、バンドギャップ内でバンドギャップの周波数換算の中点をたどる分散曲線上の位置からそれ以外の分散曲線上、好ましくはバンド端近傍(最長波長側の分散曲線(1次)、或いは最短波長側の分散曲線(2次)の近傍)の位置にシフトするようにフォトニック結晶のキャビティ層の膜厚を制御しながら格子定数の異なる領域を形成することで各領域の透過スペクトルの透過中心波長の最大の差(シフト量)が広くなる。すなわち、同構成によれば、透過スペクトルの透過中心波長はフォトニック結晶の格子定数を変化させたときに、従来のシフト量である10nmから約30nmへと3倍以上シフト量を増加させることができる、透過中心波長の変化量の大きなアレイ型波長合分波器が得られる。また、同構成によれば、アレイ型波長合分波器のクロストークによる損失を−70dB以下とすることができる。
請求項4の発明は、透明なフィルタ用基板の一方の主面に対し垂直もしくは斜めに入力した波長多重光信号を波長選択して透過中心波長の光信号を出力するように主面に屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層および低屈折率媒質層を交互に積層して3次元的に周期構造を有するフォトニック結晶を形成する格子変調型フォトニック結晶波長フィルタの製造方法において、フォトニック結晶の格子定数と透過中心波長との関係を示す分散曲線群における透過中心波長の分散曲線が分散曲線群のうちの最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップ内の周波数換算の中点からなる分散曲線以外に位置するように、かつ上記最長波長側の分散曲線(1次)、或いは上記最短波長側の分散曲線(2次)の近傍に位置するようにキャビティとなる層の膜厚をd=λ/2n(d:膜厚,λ:波長,n:屈折率)から1.5%変化させるものである。
請求項4に記載の方法によれば、フォトニック結晶の周期構造の周期を変化させることによりフォトニック結晶の透過中心波長の分散曲線が分散曲線群のうちのキャビティ層の膜厚で決まる分散曲線上に位置する。また、最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップは格子定数の増加に伴い中心の分散曲線に接近するように狭くなっている。このため、バンドギャップ内でバンドギャップの周波数換算の中点をたどる分散曲線上の位置からそれ以外の分散曲線上、好ましくはバンド端近傍(最長波長側の分散曲線(1次)、或いは最短波長側の分散曲線(2次)の近傍)の位置にシフトするようにフォトニック結晶のキャビティ層の膜厚を制御して格子定数の異なる領域を形成することで各領域の透過スペクトルの透過中心波長の最大の差(シフト量)が広くなる。すなわち、同構成によれば、透過中心波長はフォトニック結晶の格子定数を変化させたときに、従来のシフト量である10nmから約30nmへと3倍以上シフト量を増加させることができる、透過中心変化量の大きな格子変調型フォトニック結晶波長フィルタが得られる。
請求項5の発明は、請求項4に記載の方法に加え、デポジッション速度とエッチング速度との比率を適正化する自己クローニング法によりフォトニック結晶を作製するものである。
請求項5に記載の方法によれば、工業的に量産が容易な格子変調型フォトニック結晶波長フィルタを作製することができる。
請求項6の発明は、アレイ型波長合分波器本体を準備し、透明なフィルタ用基板の一方の主面に対し垂直もしくは斜めに入力した波長多重光信号を波長選択して透過中心波長の光信号を出力するように一方の主面に屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層および低屈折率媒質層を交互に積層して3次元的に周期構造を有する格子変調型フォトニック結晶波長フィルタを得、アレイ型波長合分波器本体と格子変調型フォトニック結晶波長フィルタとを組み合わせるアレイ型波長合分波器の製造方法において、フォトニック結晶の格子定数と透過中心波長との関係を示す分散曲線群における透過中心波長の分散曲線が分散曲線群のうちの最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップ内の周波数換算の中点からなる分散曲線以外に位置するように、かつ上記最長波長側の分散曲線(1次)、或いは上記最短波長側の分散曲線(2次)の近傍に位置するようにキャビティとなる層の膜厚をd=λ/2n(d:膜厚,λ:波長,n:屈折率)から1.5%変化させるものである。
請求項6に記載の方法によれば、フォトニック結晶の周期構造の周期を変化させることによりフォトニック結晶の透過中心波長の分散曲線が分散曲線群のうちのキャビティ層の膜厚で決まる分散曲線上に位置する。また、最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップは格子定数の増加に伴い中心の分散曲線に接近するように狭くなっている。このため、バンドギャップ内でバンドギャップの周波数換算の中点をたどる分散曲線上の位置からそれ以外の分散曲線上、好ましくはバンド端近傍(最長波長側の分散曲線(1次)、或いは最短波長側の分散曲線(2次)の近傍)の位置にシフトするようにフォトニック結晶のキャビティ層の膜厚を制御して格子定数の異なる領域を形成することで各領域の透過スペクトルの透過中心波長の最大の差(シフト量)が広くなる。すなわち、同構成によれば、透過中心波長はフォトニック結晶の格子定数を変化させたときに、従来のシフト量である10nmから約30nmへと3倍以上シフト量を増加させることができる、透過中心波長の変化量の大きなアレイ型波長合分波器が得られる。また、同方法によれば、アレイ型波長合分波器のクロストークによる損失を−70dB以下とすることができる。
請求項7の発明は、請求項6に記載の方法に加え、デポジッション速度とエッチング速度との比率を適正化する自己クローニング法によりフォトニック結晶を作製するのが好ましい。
請求項7に記載の方法によれば、工業的に量産が容易なアレイ型波長合分波器を作製することができる。
ここで、上記従来技術の課題を解決するための解決手段について解説する。
すなわち、次のような解決手段を提案するものである。
従来技術では格子変調型フォトニック結晶フィルタの透過中心波長が、フォトニック結晶フィルタに用いられるフォトニック結晶の格子定数と透過中心波長との関係を示す分散曲線群のうちの最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップの周波数換算の中点をたどる分散曲線に位置するように、フォトニック結晶のキャビティ層の膜厚を制御していた。
しかし、本発明では分散曲線群中のバンドギャップの透過中心波長の分散曲線の内で周波数換算の中点をたどる分散曲線以外の分散曲線上、好ましくはバンド端近傍(最長波長側の分散曲線(1次)或いは最短波長側の分散曲線(2次))の分散曲線近傍上に透過中心波長が位置するようにフォトニック結晶のキャビティ層の膜厚を制御するものである。
図13は本発明の格子変調型フォトニック結晶波長フィルタに用いられるフォトニック結晶の分散曲線を示す図であり、横軸が格子定数を示し、縦軸が波長を示す。同図において、黒丸はP.B.(フォトニック結晶のバンドギャップ)の周波数換算の中点をたどる分散曲線を示し、黒三角はP.B.の下端を示し、黒菱型はP.B.の上端を示す。また、曲線L1301は高周波側近傍(2次)分散曲線を示し、曲線L1302は高周波側近傍の透過波長を示し、曲線L1303はバンドギャップの周波数換算の中点をたどる分散曲線を示し、曲線L1304は低周波側(1次)分散曲線近傍の透過波長を示し、曲線L1305は低周波側(1次)分散曲線を示す。これらの分散曲線からなる分散曲線群は、上記ミラー部におけるフォトニック結晶の格子間隔(格子定数)毎に、波長(周波数)と波数との関係をFDTD法によりコンピュータを用いて計算して、各格子定数におけるバンドギャップを求め、それを波長(周波数)と格子定数との関係にしてプロットしたものである。
よって、図13の分散曲線群は上述の格子定数の増加によってフォトニック結晶のバンドギャップは減少すること、すなわち、分散曲線群は格子定数依存性を有し、格子定数の変化に伴って透過中心波長がシフトすることを表している。
従来技術ではフォトニック結晶の透過中心波長を周波数換算でバンドギャップの中心の分散曲線上に位置するように設定していたが、本発明ではフォトニック結晶の透過中心波長の周波数換算値をバンドギャップの中心ではなく、バンド端近傍にシフトさせたことを特徴とし、その透過中心波長の周波数換算値をシフトさせるために、キャビティ層の膜厚を変化させることを特徴とする。例えば、図13中、下側に描いた点線(曲線L1302)で示したように高周波側のバンドギャップ端付近の分散曲線上に透過中心波長の周波数換算値をシフトさせれば、ほぼその分散曲線に沿って透過スペクトルの透過波長が変化(シフト)する。
よって、透過スペクトルの周波数の波長換算である透過波長は、フォトニック結晶の格子定数を変化させたときに、従来のシフト量である10nmから約120nmと12倍以上シフトさせることができる。
上記に加えて、上記とは逆のアプローチで、低周波側のバンドギャップ端付近の分散曲線上に透過中心波長の周波数換算値をシフトさせれば、ほぼその低周波側の分散曲線に沿って透過スペクトルの透過波長が変化する。その様子を図13中の上側に描いた二点鎖線(曲線L1304)で示した。その場合は透過中心波長の周波数換算値をバンドギャップの中心に位置するようにした場合とは異なる透過中心波長のシフト量、すなわち負のシフト量を得ることができる。
上記に加えて、格子変調型フォトニック結晶フィルタを誘電体多層膜型フォトニック結晶とすることにより、石英系光ファイバと同程度の屈折率とすることができ、それによってAWG出力端あるいは光ファイバとの接続損失を低くすることができる。
上記に加えて、誘電体多層膜型フォトニック結晶が自己クローニング法を用いて作製されることにより、工業的に量産が容易な導波路を作製することができる。
さらに、アレイ型波長合分波器本体とフォトニック結晶フィルタとを組み合わせることにより、クロストークを−70dB以上に大きく低減したアレイ型波長合分波器を作製することができる。
本発明によれば、簡単な構成で透過中心波長の変化量が特に大きい格子変調型フォトニック結晶波長フィルタ及びこれを用いたアレイ型波長合分波器並びにこれらの製造方法の提供を実現することができる。
(実施例1)
図1(a)、(b)、(c)、図2(a)、(b)、(c)を参照して本発明の一実施例について述べる。
図1(a)は本発明の格子変調型フォトニック結晶波長フィルタの模式図であり、図1(b)は格子定数の異なる領域を有するフォトニック結晶フィルタの構造図であり、図1(c)は図1(b)に示したフォトニック結晶フィルタの透過中心波長の波長透過率特性を示す図である。図1(c)において、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示す。
図1(a)に示したフォトニック結晶フィルタ105の構造は、サブミクロンオーダの凹凸100が一方の主面(図では上側の面)に2次元周期的(平面的かつ周期的)に形成されたフィルタ用基板101上に、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層102と低屈折率媒質層103とを交互に形成して2つのミラー部110,111でキャビティ部112を挟むようにフォトニック結晶113を形成したものであって、フォトニック結晶113の格子定数Lx(図1(b)参照)と透過中心波長との関係を示す分散曲線群(図13参照)における透過中心波長の周波数換算値が分散曲線群のうちの最長波長側の分散曲線(1次)と最短波長側の分散曲線(2次)との間のバンドギャップ内で中心となる分散曲線以外の分散曲線上に位置するようにキャビティ部112の膜厚が制御されたものである。
このフォトニック結晶フィルタ105のフィルタ用基板101の一方の主面に対し波長多重信号光(波長λ1,λ2,λ3(λ1<λ2<λ3)の信号光を含む)120を垂直に入射すると、特定の波長を有する信号光121がフィルタ用基板101の他方の主面から選択的に出射される。
図1(b)に示すように凹凸100の周期を格子定数Lxとした場合、格子定数Lxの異なる領域131,132,133がフィルタ用基板101の一方の主面内にアレイ状に形成されている。このフィルタ用基板101の一方の主面上に図1(a)に示すように高屈折率媒質層102と低屈折率媒質層103とを交互に形成して2つのミラー部110,111でキャビティ部112を挟むようにフォトニック結晶140が形成されている。これらフィルタ用基板101とフォトニック結晶140とでフォトニック結晶フィルタ128が構成されている。
図1(b)に示すフォトニック結晶フィルタ128の主な特長は、厚み方向の膜構造を同一構造として格子定数Lxを領域131〜133によって様々な値としながら増加(図では左から右に向かって増加)させていくことにより、フィルタ用基板141に垂直方向に波長多重信号光(波長λ1,λ2,λ3(λ1<λ2<λ3)の信号光を含む)122,123,124を入力させた時の各領域131〜133から出力する出射光の透過中心波長λ1〜λ3が格子定数Lxの増加する方向に向かって長波長側に変化するということである(例えば特許文献1参照)。その機能はいわば、単純な多層膜からなる多種類のバンドパスフィルタをアレイ状にして1枚のフィルタ用基板141上に形成したものと考えても良い。
図2(a)は図1(b)に示したフォトニック結晶フィルタ128のフィルタ用基板141の表面の網目模様を示した模式図であり、図2(b)は図2(a)の2B−2B線断面図であり、図2(c)は図2(b)の2C−2C線断面図である。
フィルタ用基板基板201(141)はSiまたはSiO2(石英)を用いることができる。本実施例ではフィルタ用基板201(141)として通信波長帯1.3〜1.7μmで透明な石英基板を用いた。入射光はフィルタ用基板201(141)の一方の主面としての基板面の上部から下部へ基板面に対して垂直に伝搬する。フォトニック結晶フィルタ128(図1(b)参照)における格子定数Lxが異なる各領域131〜133の面積は図には示されないAWG出力導波路の代表的なコア径約6μm×6μm(Δ0.75%)以上とし、各領域131〜133の間隔は250μmとした。
石英基板201表面の構造は電子ビーム露光によるフォトリソグラフィーおよびドライエッチングにより、x,y方向でラインアンドスペース(Line&Space)パターン状に、言い換えれば網目模様のパターン202−1〜202−n(nは自然数)に加工される。その網目模様は、x方向およびy方向の両方向にラインとスペースとが交互に形成されている構造である。x方向のピッチ間隔Lx(格子定数)は、ラインアンドスペースパターンの一つのライン幅と一つのスペース幅とを加えた値であり、x方向のライン幅およびスペース幅をLine−x,Space−xとすれば、Lxは下記の式(1)で表される。
Lx=(Line−x)+(Space−x) ・・・(1)
y方向のピッチ間隔Ly(格子定数)は、ラインアンドスペースパターンの一つのライン幅と一つのスペース幅とを加えた値であり、y方向のライン幅およびスペース幅をLine−y,Space−yとすれば、Lyは下記の式(2)で表される。
Ly=(Line−y)+(Space−y) ・・・(2)
本実施例ではLx=Ly=0.2〜0.8μmとした。
表面加工(ピッチ化)されたフィルタ用基板201上にバイアススパッタリング法により、Ta2O5膜およびSiO2膜が交互に積層される。バイアススパッタリング法を簡単に説明すると、図示しないターゲットに高周波(R.F.)電力を印加させるだけではなく、基板にも高周波電力を印加しながらスパッタリングデポジッションと基板のスパッタエッチングとを可能とする方法である。膜厚は目的とするデバイス(格子変調型フォトニック結晶波長フィルタあるいはアレイ型波長合分波器)の仕様により決められる。それぞれの膜を堆積させる際、後述する自己クローニング法によりある一定の断面形状を保ちながら膜が堆積される。
自己クローニング法を簡単に述べると、デポジッション速度とエッチング速度との比率を適正化することで、ある一定の断面形状を維持しながら膜を堆積していくということである。詳しくは、「川上彰二郎、花泉 修、佐藤 尚、大寺 康夫、川嶋 貴之、信学論(C),vol.J80−C−I,pp.296−297,1997、特開平10−335758号公報(「3次元周期構造体及びその作製方法並びに膜の製造方法」川上彰二郎、榊 裕之、白石 和男)」を参照されたい。
次に、自己クローニング法を用いてフォトニック結晶波長フィルタのフィルタ用基板201上にスパッタリング成膜する方法を具体的に述べる。用いるバイアススパッタリング装置を図3に模式的に示す。
図3は自己クローニング法を用いて作製する際に用いたバイアススパッタリング装置の模式図である。
同図に示すバイアススパッタリング装置300は、主に真空排気されたチャンバ301内に、2種類のターゲット302−1,302−2、それぞれのターゲット302−1,302−2を覆うシャッター303−1,303−2、内部にフィルタ用基板305(201)が設置された基板ホルダー304、およびガス導入部306が配置された構成である。
詳しくは、チャンバ301と、チャンバ301内の上部に鉛直に配置され矢印313方向に回転する回転軸309の下端に接続された回転板314と、回転板314の下面に設けられ露出面が下向きになるようにフィルタ用基板305(201)を保持する基板ホルダ304と、チャンバ301内の下部に配置され、異なる2種類のターゲット302−1,302−2をそれぞれ保持するターゲット保持台314−1,314−2と、各ターゲット302−1,302−2をそれぞれ独立に覆うか露出させるシャッター303−1,303−2と、回転板314に回転軸309および整合器307−3を介して13.56MHzの高周波電力を供給する高周波電源308−3と、各ターゲット302−1,302−2に整合器307−1,307−2を介して13.56MHzの高周波電力をそれぞれ供給する高周波電源308−1,308−2と、チャンバ301内での反射波がほぼゼロとなるようにマッチングを制御する整合器307−1〜307−3とでバイアススパッタリング装置300が構成されている。
真空チャンバ301には必要なガスを矢印310方向に導入するガス導入部306と、余分なガスを矢印312方向に排気するガス排気部311とが設けられている。ガス導入部306およびガス排気部311は図示しないポンプやタンク等にそれぞれ接続されている。
まず、チップ化したフィルタ用基板305(201)を上記バイアススパッタリング装置300内に入れ真空引きを行う。ベース圧力(Base pressure)は1×10-5Torr(1.33×10-3Pa)以下とする。
第1の膜は高屈折率媒質層としてのTa2O5膜で膜厚186nmである。成膜条件は高周波電力:300W、基板側高周波電力:90W、成膜ガス:Ar(9.0sccm(standard cubic centimeters per minute:立方センチメートル毎分))+O2 (1.0sccm)、成膜圧力:1.0×10-3Torrとする。成膜速度が168オングストローム(nm)/分であるので成膜時間を11分04秒とする。
第2の膜は低屈折率媒質層としてのSiO2膜で膜厚220nmである。成膜条件は高周波電力:300W、基板側高周波電力:90W、成膜ガス:Ar(72.0sccm)+O2 (4.0sccm)、成膜圧力:6.0×10-3Torr(7.98×10-1Pa)とする。成膜速度が61オングストローム(nm)/分であるので成膜時間を36分04秒とする。
第1膜のTa2O5膜を「H」と表記し、第2膜のSiO2膜を「L」と表記し、ミラー部を「(LH)7」と表記し、キャビティ部を高屈折率媒質の「2H」と表記して2キャビティの多層膜構造を試作した。すなわち、膜構成を4/3H−L−(HL)7−2H−(LH)7−L−4/3H−L−(HL)7−(2H)−(LH)7−L−4/3Hとした。
従来はキャビティ部を高屈折率媒質とし、その膜厚を186×2=372nmとしていた。一方、本実施例ではそれより1.5%減少させ、366.4nmとした。
上記のようにキャビティ部の膜厚を従来より1.5%減少させたキャビティのフォトニック結晶フィルタの光学特性を、従来のフォトニック結晶フィルタと比較して図4(a)、(b)および図5(a)、(b)を参照しながら説明する。
図4(a)は従来の格子変調型フォトニック結晶波長フィルタの模式図である。
図4(a)に示す格子変調型フォトニック結晶波長フィルタ400は、サブミクロンオーダの凹凸401が一方の主面(図では上側の面)に2次元周期的(平面的)に形成されたフィルタ用基板402上に、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層403と低屈折率媒質層404とを交互に形成して一対のミラー部405,406で一つのキャビティ部407を挟むようにフォトニック結晶408を形成したバンドパスフィルタであり、かつ、高屈折率媒質層403と低屈折率媒質層404との膜厚をそれぞれλ/(4・nH)、λ/(4・nL)(nH:高屈折率媒質層の屈折率、nL:低屈折率媒質層の屈折率、λ:透過中心波長の設計値(ここでは1560nm))とした。
図4(a)に示したフォトニック結晶フィルタ400には、入射光(波長多重信号光)をフィルタ用基板402に垂直に入射させている。
図4(b)は図4(a)に示した格子変調型フォトニック結晶波長フィルタの波長−損失特性を示す図である。図4(b)において横軸は波長を示し、縦軸は透過損失を示す。また、図4(b)において曲線L41は格子定数Lxが0.4μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L42は格子定数Lxが0.5μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L43は格子定数Lxが0.6μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L44は格子定数Lxが0.8μmの場合の波長−損失特性を示す。
図4(b)に示すように格子定数Lxを0.4〜0.8μmに変化させることによる波長−損失特性曲線の最小値の位置の最大の変化量(シフト量)は5nmであった。
図5(a)は本発明の格子変調型フォトニック結晶波長フィルタの模式図である。
図5(a)に示す格子変調型フォトニック結晶波長フィルタ500は、サブミクロンオーダの凹凸501が一方の主面(図では上側の面)に2次元周期的(平面的)に形成されたフィルタ用基板502上に、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層503と低屈折率媒質層504とを交互に形成して4つのミラー部505,506−1,506−2,507で2つのキャビティ部508,509を挟むようにフォトニック結晶511を形成したバンドパスフィルタであり、かつ、キャビティ部508,509は高屈折率媒質とし、その膜厚を従来より1.5%減少させ366.4nmとし、構造を2キャビティとしたものである。
図5(a)に示したフォトニック結晶フィルタ500には、入射光(波長多重信号光)をフィルタ用基板502に垂直に入射させている。
図5(b)は図5(a)に示した格子変調型フォトニック結晶波長フィルタの波長−損失特性を示す図である。図5(b)において横軸は波長を示し、縦軸は透過損失を示す。また、図5(b)において曲線L51は格子定数Lxが0.4μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L52は格子定数Lxが0.5μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L53は格子定数Lxが0.6μmの場合の波長−損失特性を示し、曲線L54は格子定数Lxが0.8μmの場合の波長−損失特性を示す。
図5(b)に示すように格子定数Lxを0.4〜0.8μmに変化させることによる波長−損失特性曲線の最小値の位置の最大の変化量(シフト量)は、図4(a)に示した従来のフォトニック結晶フィルタの透過中心波長の変化量が5nmであったのに対し(図4(b)参照)、キャビティ部の膜厚508,509を1.5%減少させて透過中心波長を図示しない短波長側(2次側)の分散曲線に近い分散曲線上に位置させることによって透過中心波長の変化量が29nmに増加した。
なお、本実施例では示さなかったが、透過率の特性改善のために高屈折率媒質層503、低屈折率媒質層504およびフィルタ用基板502からなる多層膜の最下部および最上部にAR(anti reflection)コートをすることが好ましい。
(実施例2)
本発明は上記実施例1に限定されるものではない。クロストークを抑圧することを目的としてAWG本体と本発明のフォトニック結晶フィルタとを組み合わせて波長合分波器を構成することができる。その模式図を図6に示す。
図6は本発明のアレイ型波長合分波器の模式図である。
尚、図9に示したアレイ型波長合分波器と同様の部材には共通の符号を用いた。
図6に示したアレイ型波長合分波器616と図9に示したアレイ型波長合分波器950との相違点は、フォトニック結晶フィルタ909の代わりにフォトニック結晶フィルタ609を用いた点である。
フォトニック結晶フィルタ609は、屈折率が相対的に異なる高屈折率媒質層および低屈折率媒質層を交互に積層して少なくとも一つのキャビティ部を少なくとも複数のミラー部で挟むと共に、キャビティ部の膜厚を実施例1に比べて3倍の6Hとしたものであり、厚さHは実施例1と同じく従来例よりも1.5%減少させている。
図6に示したアレイ型波長合分波器616において、図示しない入力側光ファイバから入射した広帯域のスペクトルを有する波長多重信号光902は入力導波路903、入力側スラブ導波路904、アレイ導波路905、出力側スラブ導波路906、出力導波路907を順次通過して出力側光ファイバ908,910から出力され、フォトダイオード913に達する。その出力側光ファイバ908,910の途中分断部920にフォトニック結晶フィルタ609、レンズ912a,912bを挿入する。
ここで、入力側スラブ導波路904および出力側スラブ導波路906はレンズとして作用し、アレイ導波路905はプリズムとして作用する。
AWG本体915の出力導波路907から出射した光を受けるAWG側出力光ファイバ908をアレイ状にしたAWG側出力光ファイバアレイ917と、そのAWG側出力光ファイバアレイ917と光学的に接続されるPD側光ファイバ910をアレイ状としたPD側光ファイバアレイ918を約500μm離して、V溝が形成されたV溝台911の上で光学的に接続する。V溝の本数は光ファイバ908,910の本数と同数とする。AWG本体915のAWG側光ファイバアレイ917とPD側光ファイバアレイ918の接続部に設けられた空間920にフォトニック結晶フィルタ609を図示しないUV樹脂あるいは接着剤を用いて接続することによりアレイ型波長合分波器616が得られる。
上記のようにAWG本体915と格子変調型フォトニック結晶フィルタ614とを組み合わせたアレイ型波長合分波器616の光学特性については、全損失は2つの素子(AWG本体915、格子変調型フォトニック結晶フィルタ614)の損失を加算したものになる。
次に、アレイ型波長合分波器616に用いたフォトニック結晶フィルタ609は高屈折率媒質層としての第1膜のTa2O5膜を「H」と表記し、低屈折率媒質層としての第2膜のSiO2膜を「L」と表記し、ミラー部を「(LH)7」或いは「(HL)7」と表記し、キャビティ部を高屈折率媒質の「6H」と表記して3キャビティの多層膜構造とした。すなわち、フォトニック結晶フィルタ609の膜の構成をH−L−(HL)7−6H−(LH)7−L−H−L−(HL)7−6H−(LH)7−L−H−L−(HL)7−6H−(LH)7−L−Hとした。このような3キャビティのフォトニック結晶フィルタ909を有するアレイ型波長合分波器の光学スペクトルについて述べる。
図7はアレイ型波長合分波器本体と本発明に係る格子変調型フォトニック結晶波長フィルタとを組み合わせたアレイ型波長合分波器の光学スペクトルを示す図である。同図において、横軸は波長を示し、縦軸は透過率を示す。また、同図において、曲線L71はフォトニック結晶フィルタの光学スペクトルを示し、曲線L72はアレイ型波長合分波器本体の光学スペクトルを示し、曲線L73はアレイ型波長合分波器とフォトニック結晶を接続させた合分波器の光学スペクトルを示す。
3キャビティの多層膜構造を有するフォトニック結晶フィルタ609(図6参照)をAWG本体915に接続することにより、図7のようにクロストークによる損失はAWG本体915単体の場合より30dB以上減少し、トータル(AWG本体915+フォトニック結晶フィルタ609)で−70dB以下とすることができる。また、該フォトニック結晶フィルタ609を使用することで、出力導波路907の光軸に対して垂直に挿入することができるため、前述したように損失のバラツキ、偏波依存性は発生しない。
以上において本発明によれば、
(1)透過波長の変化量が大きな変化量を持つ格子変調型フォトニック結晶フィルタを得ることができる。
(2)透過波長の変化量が約30nmの大きな変化量を持つ格子変調型フォトニック結晶フィルタを得ることができる。
(3)従来のd=λ/2nの膜厚を有するキャビティ部の膜厚を減少或いは増加させることにより、従来とは異なる透過中心波長変化量を持つ格子変調型フォトニック結晶フィルタを得ることができる。
(4)石英系光ファイバとの接続損失を低減することができる。
(5)工業的に量産が容易なフォトニック結晶を作製することができる。
(6)フォトニック結晶フィルタが接続されたAWG本体の合計のクロストークを−70dB以下とすることができる。