JP4641117B2 - 無機質セメント複合板の製造方法 - Google Patents

無機質セメント複合板の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は建築材料として用いられる無機質セメント複合板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来から、軽量高曲げ強度を得るために補強効果を期待して繊維質を多く配合したセメント繊維板が知られている。また、更に軽量化を図るために、軽量細骨材や気泡を多く含んだ軽量なセメント板を芯(中間層)として、その両面に上述のセメント繊維板をフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂等の接着剤で接合した複層もしくは三層構造をとるセメント複合板が知られている。
また、本発明者らにおいては、特願2000−70677号において、セメント及び必要に応じて配合される無機質粉末に、有機高分子系炭酸化促進剤(例えば、エチレン−酢酸ビニル系エマルション)を含む硬化体を成形して、前養生を行なった後、所定の期間、炭酸ガス中で養生することによって、養生後に達した曲げ強さの最大値を、ほぼそのまま長期間に亘って維持することのできる高曲げ強度で耐久性に優れたセメント系硬化体を得る技術を記載している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記の複層もしくは三層構造を有するセメント系複合板は、層間での結合力が弱く、実際の使用状況下では荷重や水分等による層間剥離等により、複層構造のメリットが出ないとともに、有機系接着剤により接合しているため長期耐久性に劣る。そこで、本発明は、接合強度に優れた無機質セメント複合板の製造方法を提供することを目的とする。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、有機高分子の中に、炭酸化を促進するものがあること、及びセメントを含む表層ペーストまたはモルタルに促進炭酸化養生を施す前に、成形体の材料として該有機高分子系炭酸化促進剤を配合しておけば、促進炭酸化養生によって表層部と中層部との接着強度が向上して、高い接合強度を有する無機質セメント複合板が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0005】
すなわち、本発明の無機質セメント複合板の製造方法は、セメント及び軽量骨材と必要に応じて配合される繊維成分から成る軽量セメントパネルを中層部とし、その少なくとも片面にセメント、必要に応じて配合される繊維成分、必要に応じて配合される無機質粉末、必要に応じて配合される細骨材並びにセメント及び無機質粉末の合計量100重量部に対して2〜20重量部のエチレン−酢酸ビニル系エマルション若しくはスチレン-アクリル酸エステル系エマルションを含有するペーストまたはモルタル状の材料を載せて表層部を形成して複層板とし、この複層板を促進炭酸化養生して一体化することを特徴とする(請求項1)。上記促進炭酸化養生は、遅くとも表層部の水和材齢10日以内に開始されることを特徴とする(請求項2)。
【0006】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳しく説明する。先ず、促進炭酸化養生される複層板について説明すると、複層板は中間層とこの表層の片面もしくは両面の表層から構成される。
中間層は、軽量性を得るためにセメントを結合材とし、軽量骨材と必要に応じて配合される繊維成分を主体としたモルタルを、抄造や流し込み成形によって得られたグリーンシートを水中、気中、蒸気養生やオートクレーブ養生等の通常の養生を施したセメント系軽量板、またはセメント系軽量繊維板で構成される。この中間層の厚さは、必要とする無機質セメント複合板の用途によって適宜定められる。
【0007】
上記中間層に用いられる軽量細骨材としては、特に限定されることはなく、パーライト、シラスバルーン、バーミキュライトや、頁岩、粘土等を焼成・発泡させた人工軽量細骨材や製紙スラッジを焼却して得られるパルプスラッジ(PS)灰砂等の無機質軽量細骨材、また、スチレンビーズ、塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン等の合成樹脂発泡体及びそれらの廃材を利用することができる。
大きさ等についても特に限定されるものではないが、通常、粒子径範囲は0.1mm〜1.2mmであり、比重は0.3〜0.9程度のものが使用される。
【0008】
本発明に用いられるセメントは、水和に伴い水酸化カルシウム並びにケイ酸カルシウム水和生成物が生成するセメントであれば特に限定されず、例えば、低熱ポルトランドセメント(高ビーライト系セメント)、中庸熱ポルトランドセメント、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、各種低アルカリ形ポルトランドセメント等のポルトランドセメントや、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメント等の混合セメント、白色セメント等が挙げられる。
【0009】
上記表層について説明すると、セメントを結合材とし、細骨材と繊維成分を主成分とする粉粒体を水で混練したペーストやモルタル状の混練物である。有機高分子系炭酸化促進剤は、この粉粒体と水の混合物に混合して使用される。これらのペーストやモルタルを刷毛等により塗布、吹付け、型枠を設置し流し込みにより、上記の中間層の少なくとも片面に所定の厚さとなるように成形される。
【0010】
表層においても、前述の中間層に用いられるセメントが使用できる。
また、セメントと共に必要に応じて無機質粉末を用いることができる。これらの無機質粉末としては、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、石灰石粉、硅石粉、シリカフューム、ビーライトを多量に含む天然物や人工物などから選ばれる一種以上からなるものが用いられる。また、コンクリート微粉やセメント系製品等のケイ酸カルシウム系廃材を粉砕した微紛を用いることもできる。
【0011】
本発明で用いる有機高分子系炭酸化促進剤としては、炭酸化を促進する有機高分子であって、具体的には、エチレン−酢酸ビニル系エマルション、スチレン-アクリル酸エステル系エマルションが挙げられる。
【0012】
有機高分子系炭酸化促進剤の添加量は、固形分に換算して、セメント並びに必要に応じて配合される無機質粉末の合計量100重量部に対して、2〜20重量部で効果がみられ、好ましくは3〜15重量部である。該添加量が2重量部未満であると、長期間に亘って強度を保持するのが難しくなり、20重量部を超えると高コストとなるとともに硬化体の弾性率が低くなり、目的の強度性状を得ることができなくなる。
【0013】
セメント、細骨材や繊維等と共に配合可能な他の材料としては、各種混和剤等が挙げられる。
細骨材は、例えば、川砂、海砂、山砂、砕砂またはこれらの混合物が挙げられる。細骨材の配合量は、セメント及び必要に応じて配合される無機質粉末の合計量100重量部に対して、通常、30〜400重量部程度であるが、必要とする無機質セメント複合板の比重によって適宜定めればよい。
【0014】
繊維としては、Eガラス等のガラス繊維、スラグ繊維、炭素繊維、ビニロン、ポリプロピレン、アクリル、パルプ等の繊維、シリコーンカーバイト繊維、石綿などの各種天然繊維及び合成繊維を挙げることができる。混和剤としては、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、水和促進剤、水和遅延剤、乾燥収縮低減剤、増粘剤等が挙げられる。混和剤の種類及び配合量は、混和剤以外の材料の種類及び配合量や、無機質セメント複合板の用途を考慮して、適宜定めればよい。
【0015】
表層部のペーストやモルタルの混練水量は特に限定されるものではないが、好ましくは水セメント比で0.30〜0.60である。水セメント比が0.30未満であると、炭酸化が進行しづらくなることで促進炭酸化による接合強度の増進効果が得られなくなるおそれがあり、0.60を超えると、強度の低下や耐久性を損うおそれがあるからである。なお、本明細書中では、「水セメント比」とは、「水」の質量(W)を「セメント及び必要に応じて配合される無機質粉末」の質量(C)で割った比率(W/C)をいう。
【0016】
各種材料の混練に用いるミキサとしては、特に限定されるものではないが、パンタイプミキサ、二軸ミキサ、オムニミキサ、ホバートミキサ等の慣用のミキサを用いれば良い。
混練方法としては、全ての材料を一括してミキサに投入し混練しても良いし、水、有機高分子系炭酸化促進剤、混和剤以外の材料をミキサに投入して空練りした後に、水等を投入して混練しても良い。
混練後、混練物を所定の型枠に投入する。型枠に投入された混練物に対して、外部振動を加えたり、加圧装置等を用いて加圧成形しても良い。
【0017】
表層部を成形した後、通常1〜2日程度で脱型して成形体とし、その後、本発明の養生を行なう。
促進炭酸化養生は、好ましくは、遅くとも成形体の水和材齢10日以内、より好ましくは7日以内に開始する。
【0018】
炭酸化養生は、通常、気中養生として行なわれるが、必要に応じて、湿空あるいは蒸気養生を組み合わせて行なってもよい。
気中養生の場合、成形体は、炭酸ガス(CO2)濃度が1〜100%、好ましくは3〜100%の条件下で促進炭酸化がなされる。促進炭酸化養生時の温度は、特に限定されないが、通常、10〜80℃程度である。促進炭酸化養生時の湿度(R.H.)は、特に限定されないが、通常、40〜90%程度である。
【0019】
気中あるいは湿空で促進炭酸化養生を行なう場合の養生時間は、炭酸ガス濃度等の諸条件を考慮して定められる。例えば、炭酸ガス濃度10%、温度20℃、湿度(R.H.)60%の場合で、4〜10日程度である。
前述のように、促進炭酸化養生を開始する時期は、遅くとも成形体の水和材齢10日以内であることが好ましい。これを過ぎると、炭酸化養生の効果が得られ難くなり強度の発現性が遅くなるおそれがある。
【0020】
本発明では、促進炭酸化養生の前に、水中養生または湿空養生の工程を加えるのが好ましい。水中養生または湿空養生は、通常、脱型直後または成形直後から1〜10日程度行なわれる。水中養生や湿空養生等の前養生を行なうことにより、促進炭酸化養生による無機質セメント複合板の接合強度をより一層向上させることができる。なお、湿空養生は、通常、湿度(R.H.)90%以上、温度10〜60℃程度の雰囲気下で行なわれる。
【0021】
本発明で用いられる炭酸ガスとしては、市販の二酸化炭素、ドライアイスの他、セメント工場、火力発電所やゴミ焼却場等の燃焼ガスや廃棄ガス等が使用できる。
【0022】
(実施例1〜10、比較例1〜5に用いる中間層の作製)
普通ポルトランドセメント50重量部、硅石粉末32重量部、パルプ8重量部及びパーライト10重量部を水とミキサにより混練し、濃度20%のスラリーを調整した。次に、このスラリーの所定量を計量しフィルタープレス成形により成形を行なった後、蒸気養生、オートクレーブ養生を施し16×16×1cmの軽量繊維セメント板を作製し、中間層とした。
なお、接合強度は、JIS A6203に準拠し、養生後の無機質セメント複合板の表層部から中間層まで達する縦4cm、横4cmの正方形状に切り込みを入れた後、この切り込みを入れた表層部の表面に鋼製ジグを接着剤で接着し、引張り試験を行なったときの破断時の強度を面積で除した。また、破断位置を目視により観察し、破断位置の割合の大きい破断モードを測定した。
【0023】
[実施例1〜10、比較例1〜5]
表層のモルタルの作製方法は、JIS R5201に準拠した。中間層の表面に内のり16×16×1cmの樹脂製型枠を設置し、この型枠内に表層用モルタルを流し込み成形または盛り込み成形を行なった。
無機質セメント複合板の養生条件は、型枠内に混練物を投入後、脱型するまでの1日間を、湿空養生(20℃、湿度(R.H.)90%以上)とした。その後、本養生としては、標準養生(60℃蒸気×10時間→オートクレーブ186℃×6時間→室温まで徐冷)及び促進炭酸化養生(20℃、湿度(R.H.)60%、炭酸ガス濃度10%)を行なった。
【0024】
(1)表層用材料
無機質セメント複合板の表層を作製するために、以下の材料を用いた。
▲1▼セメント
(N)普通ポルトランドセメント
(L)低熱ポルトランドセメント(ビーライト含有率51%)
▲2▼細骨材:JIS R5201標準砂
▲3▼繊維:パルプ
▲4▼有機高分子系炭酸化促進剤(ポリマーエマルション)
(A)エチレン−酢酸ビニル(EVA)系エマルション
(電気化学工業社製、商品名:「83PLD」)
(B)スチレン−アクリル酸エステル系エマルション
(日本エヌエスシー社製、商品名:「GF1T」)
▲5▼混練水:水道水を使用
【0025】
(2)配合割合及び養生条件
各材料の配合割合(重量部)及び養生条件は、表1の通りである。なお、表1中の「養生条件」は、型枠内で1日間湿空養生を施した後、脱型し、その後に行なった養生方法及び期間を記載したものである。
【0026】
【表1】
Figure 0004641117
【0027】
(3)実験結果
▲1▼実施例1〜4、比較例1〜2
実施例1〜4及び比較例1〜2の作製した無機質セメント複合板について、接合強度を測定した結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
Figure 0004641117
【0029】
表2から、促進炭酸化養生を行なった無機質セメント複合板においては、標準養生によって得られた無機質セメント複合板に比べて、養生後の接合強度が大きく、促進炭酸化養生を行なうことで高い接合強度を得ることができることがわかる。また、標準養生を行なった無機質セメント複合板(比較例1)においての破断位置は、表層−中間層の界面破断となっており、接合強度が弱くなっていることがわかる。
【0030】
▲2▼実施例5〜10、比較例3〜5
実施例5〜10及び比較例3〜5の表層配合を用いた無機質セメント複合板を作製し、各種養生を施した後の接合強さを測定した結果を表2に示す。
【0031】
表2から、繊維を配合した表層材を用いた無機質セメント複合板においては、促進炭酸化養生を行なうことで、大きな接合強度が得られることがわかる。また、標準養生を行なった無機質セメント複合板(比較例3〜5)においての破断位置は、表層−中間層の界面破断となっており、接合強度が弱くなっていることがわかる。
【0032】
【発明の効果】
本発明の製造方法により得られる無機質セメント複合板は、高い接合強度を有し、その後、長期間に亘ってその強度が低下することなく維持できるので、軽量高強度で耐久性の優れた無機質セメント複合板として有望である。

Claims (2)

  1. セメント及び軽量骨材と必要に応じて配合される繊維成分から成る軽量セメントパネルを中層部とし、その少なくとも片面にセメント、必要に応じて配合される繊維成分、必要に応じて配合される無機質粉末、必要に応じて配合される細骨材並びにセメント及び無機質粉末の合計量100重量部に対して2〜20重量部のエチレン−酢酸ビニル系エマルション若しくはスチレン-アクリル酸エステル系エマルションを含有するペーストまたはモルタル状の材料を載せて表層部を形成して複層板とし、この複層板を促進炭酸化養生して一体化することを特徴とする無機質セメント複合板の製造方法。
  2. 上記促進炭酸化養生は、遅くとも表層部の水和材齢10日以内に開始されることを特徴とする請求項1に記載の無機質セメント複合板の製造方法。
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