JP4614533B2 - 歯付きベルト - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は動力伝達用の歯付きベルトに関するものであって、特に自動車の燃料ポンプの駆動用として適した歯付きベルトに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来一般に使用されている歯付きベルト1は、図1に示すように、ゴム製の本体部分2の片面に噛合歯3が形成されており、本体部分2にはその長さ方向に抗張体4が埋入されている。そして歯付きベルト1の噛合面には、歯形の表面に沿って帆布5が貼付けられている。
【0003】
歯付きベルト1を製造する際には、図2(a)に示すように、表面に噛合歯3の雌型6を刻設した円筒状の金型7の外周に、RFL等の接着処理を施した筒状の帆布5を嵌合し、その外側に抗張体4を巻回し、さらにその外側にゴム生地8を配置する。
【0004】
そしてゴム生地8を加熱加圧することにより、図2(b)に示すように、ゴム生地8は抗張体4の間隔を通して雌型6に押込まれて加硫され、噛合歯3を成型する。このとき帆布5は、ゴム生地8と共に雌型6に押込まれ、噛合歯3の表面に沿って貼着されて、歯付きベルト1の噛合面を形成する。
【0005】
帆布5は図1に示すように、歯付きベルト1の長さ方向に延びるたて糸9と、これに交差するよこ糸10とよりなるものである。そしてこの帆布5は、最初は歯付きベルト1の周長にほぼ一致する長さを有しているが、噛合歯3の成型時には歯付きベルト1の歯形に沿った長さを有するものとなる必要があり、そのためこの帆布5を構成するたて糸9は、歯付きベルト1の長さ方向に向かって容易に伸長するものであることが必要とされる。
【0006】
ところでこの種の歯付きベルトは、自動車の燃料ポンプの駆動用などに広く使用されるのであるが、近年自動車エンジンの高性能化に伴い、歯付きベルト1は高熱と高い負荷の下で稼働することとなり、これらに耐えて使用するためには、プーリーと直接接触して負荷を伝達する前記帆布5には、より高い耐久性が求められるようになっている。
【0007】
この帆布5としては、たて糸9にナイロン繊維などの捲縮加工糸が使用され、その捲縮加工糸の捲縮により伸縮性を持たせていたのであるが、これでは前述のような高い耐久性を確保することができない。そのためたて糸9に高強度高耐熱性の芳香族ポリアミド繊維を使用し、且つ製造上必要とされる伸縮性を確保するために、種々の提案がなされている。
【0008】
かかる提案の一つとして、特開平9−100880号公報に示されたものが知られている。これは前記帆布5のたて糸9として、ポリウレタン弾性糸の周囲にパラ系芳香族ポリアミド繊維の紡績糸を巻回し、さらにその上に合成繊維の捲縮糸を巻回した複合糸条を使用したものである。
【0009】
そしてたて糸9が伸長されて帆布5が歯付きベルト1の噛合面に貼着された状態においても、前記捲縮糸がパラ系芳香族ポリアミド繊維の紡績糸を完全に覆うようにすることにより、捲縮糸がゴムと一体化して耐摩耗性を確保し、且つ芳香族ポリアミド繊維糸はゴムに対して自由度を有し、屈曲疲労を受けにくく、耐久性に優れたものとなるとするものである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら近年になって、燃料の燃焼効率を高めて排ガスの減少を図るために、希薄な混合ガスでも燃焼可能な直噴式のポンプを搭載したエンジンが広く使用されるようになり、歯付きベルト1にはさらに過酷な使用条件が課せられるようになってきている。
【0011】
すなわちかかるエンジンでは、燃料ポンプの駆動トルクが二倍以上になり、歯付きベルト1の噛合歯3にかかる負荷が大きくなる。そのため噛合歯3とプーリーとが噛み合ったり離脱したりする際に、噛合歯3には大きな変形が生じ、特に噛合歯3の歯底における変形量が大きくなる。そしてその歯底における帆布5には高いテンションが作用した状態でプーリーとの接触及び解離が生じることとなり、極めて大きな摩耗が生じるのである。
【0012】
前述のようなパラ系芳香族ポリアミド繊維糸を使用した帆布5を貼着した歯付きベルト1は、従来のものに比べれば大きな耐久性を有するものの、上記のような直噴式燃料ポンプを搭載したエンジンについて使用し得るほどの高い耐久性を有するものというには、未だ不十分であった。
【0013】
そこで出願人等は、、歯付きベルトの噛合面の表面に弾性率1000g/d以上の高弾性繊維を、700d/mm以上の密度でベルトの長さ方向に配置し、当該高弾性繊維をゴムと一体化せしめてなる歯付きベルトを提案し、かかる高弾性繊維としては、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が適当である旨を明らかにして、先に特願平11−153220号を出願した。
【0014】
本発明はかかる事情に鑑みなされたものであって、前記特願平11−153220号に示された極めて弾性率の高い高弾性繊維を使用すると共に、その高弾性繊維とゴムとの接着性をさらに向上させ、長期間に亙って高度な耐久性を有する歯付きベルトを提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明は、噛合面に帆布を貼着した歯付きベルトにおいて、前記帆布における歯付きベルトの長さ方向に延びるたて糸が、弾性糸よりなる芯糸の周囲に中間糸を巻回し、さらにその周囲に通常の合成繊維糸よりなる被覆糸を巻回し、前記中間糸を前記被覆糸の間から露出せしめてなる複合糸条であって、前記中間糸は、弾性率900g/dtex以上の高弾性繊維よりなる第1糸と化学繊維よりなる第2糸とを混繊させてなることを特徴とするものである。
【0016】
また本発明において、前記中間糸は、弾性率900g/dtex以上の高弾性繊維よりなる第1糸と化学繊維よりなる第2糸とをエア交絡加工によって混繊させ、前記第2糸のエア交絡加工におけるオーバーフィード率を、前記第1糸よりも大きくしたものが好ましい。
【0017】
本発明に使用する高弾性繊維としては、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維が適当である。ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維は、通称PBO繊維と称され、引っ張り強度が36g/dtex以上であり、弾性率が1170〜1800g/dtexであり、また分解温度も約650℃であって、一般に高弾性耐熱性繊維として知られる芳香族ポリアミド繊維に比べても、極端に高強度高弾性率であり、耐熱性も高い繊維である。
【0018】
図3は本発明において、たて糸9として使用する複合糸条11を示すものである。この複合糸条11において、12は芯糸であって、ポリウレタン弾性糸などの弾性糸よりなっている。
【0019】
13は前記芯糸12の周囲に巻回された中間糸であって、その中間糸13の外側にはさらに、ナイロン繊維又はポリエステル繊維などの通常の合成繊維よりなる被覆糸16が巻回されている。
【0020】
前記中間糸13は、図4に示すように、弾性率900g/dtex以上の高弾性繊維よりなる第1糸14と化学繊維よりなる第2糸15とをエア交絡加工によって混繊させてなっている。混繊の方法としては、種々の方法が採用できるが、エアによって交絡やループを付与するエア交絡加工、あるいはフィラメント糸を引きちぎって短繊維化し、これらを抱合して糸条とする牽切−抱合加工が好ましい。
【0021】
前記第2糸15としては、ゴムとの接着性の良いナイロン繊維等、あるいは、耐熱性に優れたパラ系芳香族ポリアミド繊維やメタ系芳香族ポリアミド繊維、レーヨン、キュプラ、トリアセテート等が適当である。
【0022】
図6はエア交絡加工の原理図である。第1糸14及び第2糸15はそれぞれフィードローラ17、18によって一定の送り量でエア交絡加工装置19へ送られる。そしてエア供給口20より供給されるエアによって第1糸及び第2糸は混繊させられる。このエア交絡加工において、フィードローラ17,18の送り量を調整することにより、第2糸15のオーバーフィード率を第1糸14より大きくすることが好ましく、第2糸のみにループを付与させることができる。
【0023】
本発明においては、中間糸13が被覆糸16の間から表面に露出していることが必要である。すなわち中間糸13はその外側に巻回された被覆糸16により保護されつつ、その被覆糸16の間から露出してゴム生地8に対して直接接着して一体化することが必要である。
【0024】
すなわちプーリーから噛合歯3に加わる力が先ず中間糸13に対するテンションとして作用し、当該テンションを中間糸13が支えつつ、そのテンションの負担を確実に本体部分2のゴムに伝達し、さらに当該ゴムを介して抗張体4に伝達されるのである。
【0025】
この複合糸条11を、歯付きベルト1の長さ方向に延びるたて糸9とし、任意の糸をよこ糸10として、帆布5を織成する。このよこ糸10の材質としては、ナイロン繊維、ポリエステル繊維など適宜の繊維を使用することができ、芳香族ポリアミド繊維などの高強度高耐熱性繊維を使用することもできる。
【0026】
尚、この明細書においては、帆布5における歯付きベルト1の長さ方向に延びる糸を「たて糸」と称し、これに交差する糸を「よこ糸」と称するが、この「たて糸」と「よこ糸」との関係は、織物構造学における「経糸」および「緯糸」とは必ずしも一致するものではなく、帆布5を織成する際の緯糸がたて糸9となり、経糸がよこ糸10となることもあり得る。
【0027】
また本発明の歯付きベルト1は、図面に示したような片面にのみ歯形を有するものに限らず、両面に歯形を有する両歯ベルトについても、その両面の歯型表面に帆布5を貼着することにより本発明を適用することもできる。
【0028】
【作用】
本発明においては、中間糸13が芯糸12の周囲に螺旋状に巻回されているので、芯糸12は引っ張りにより弾性的に伸長することができ、また中間糸13自体は伸縮性を有しないにも拘わらず、その螺旋が伸びることにより伸長可能である。したがって、複合糸条11よりなるたて糸9は大きな伸縮性を有し、帆布5は歯付きベルト1の長さ方向に向かって大きな伸長性を有し、容易に歯付きベルト1を成型することができる。
【0029】
そして芯糸12を構成する弾性糸の伸縮性によって、伸長された複合糸条11に収縮力が作用して伸縮性を有する。そして収縮した状態においては複合糸条11における中間糸13は芯糸12に巻回した状態であるが、それを伸張したときには、中間糸13はその螺旋状が解けることにより螺旋のピッチが大きくなり、最終的には中間糸13は直線状に延びてその周囲に芯糸12が巻回された状態となり、中間糸13の中で高弾性繊維からなる第1糸14が複合糸条11の強度を主として負担する。
【0030】
芯糸12および中間糸13の周囲に被覆糸16が巻回されており、当該被覆糸16の間から中間糸13が露出している。さらに中間糸13を構成する高弾性繊維からなる第1糸14と、化学繊維からなる第2糸15とが混繊されて一体となっている。そのため、第1糸14は第2糸15を介してゴム生地8と一体となる。特に、エア交絡加工における第2糸15のオーバーフィード率を第1糸14より大きくすることにより、第2糸15のみにループを付与させることができ、その場合、第2糸15のループのアンカー効果によってゴムとの接着性に優れている。そのため、第1糸14は混繊糸としてゴムとの接着性が向上し、ゴム生地8と強固に一体となる。
【0031】
【発明の効果】
従って本発明によれば、芯糸12が弾性糸よりなるので複合糸条11が伸縮性を有しており、それに伴って当該複合糸条11をたて糸9として使用した帆布5は、歯付きベルト1の長さ方向の伸縮性を有し、歯付きベルト1の成型時にその噛合面に沿って貼着されることができる。
【0032】
またその帆布5が引き伸ばされて歯付きベルト1の噛合面に貼着された状態において、中間糸13が被覆糸16の間から露出しているため、中間糸13を構成する第1糸14が第2糸15を介してゴム生地8と一体化している。そのため、歯付きベルト1の噛合面が高い耐摩耗性を有し、耐久性に優れたものとなる。
【0033】
【実施例】
以下の各実施例および比較例の構成で、帆布5を織製した。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
[歯付きベルトの製作]
上記各実施例及び比較例の帆布5を使用して、当該帆布5を歯型の噛合面に貼着した歯付きベルトを成型した。当該歯付きベルトは、ベルト幅16.0mm、歯数92、歯ピッチ9.525mmである。
【0039】
[帆布物性]
上記各実施例及び比較例より得られた歯付きベルトにおける、帆布5の強度を測定した。その値は表1に示す通りであった。
【0040】
[駆動試験]
前記各実施例及び比較例の歯付きベルトを、図5に示す試験機21にかけて、駆動試験を行った。
【0041】
この試験機21は、原動プーリー22(歯数20)と従動プーリー23(歯数40)とに歯付きベルト1を掛渡し、アイドルプーリー24,25でベルトのテンションを調節し、これを加熱ボックス26内に収容するものであって、加熱ボックス26内を所定の温度条件に設定した状態で、原動プーリー22で歯付きベルト1を回転駆動し、その耐久性を測定するものである。
【0042】
試験条件としては、加熱ボックス26内の温度を100℃とし、原動プーリー22の駆動回転数を3500rpmに設定し、歯付きベルト1が損耗するまでの時間を測定した。駆動試験の結果は次の表1の通りであった。
【0043】
【表1】
【0044】
表1から理解できるように、本発明の実施例による歯付きベルト1は、駆動試験においてアラミド繊維を使用した比較例1に比べると、一桁以上高い値を示している。また最終的に破壊された状態においても、比較例1においては歯底が摩耗して歯欠けが生じていたのに対し、実施例においては、歯元部がせん断により破壊されるまで、歯付きベルト1が破壊されることはなかった。
【0045】
また中間糸13としてPBO繊維のフィラメントを使用した比較例2に比べて、PBO繊維と化学繊維とを混繊させた実施例1及び2においては、帆布5の強度は若干下回るものの、歯付きベルト1としての駆動試験においては大幅に高い値を示しており、本発明の構成が極めて優れたものであることが理解できる。
【0046】
本発明において、中間糸13の第1糸として使用する高弾性繊維の糸密度は、少なくとも600dtex/mm以上、より好ましくは780dtex/mm以上とするのが良い。
【0047】
本発明において、中間糸13の第1糸14と第2糸15とをエア交絡加工によって混繊させる場合、第1糸14のオーバーフィード率を2〜10%とするのが好ましい。それより小さくすると第2糸と絡みにくくなり、逆に大きくすると高弾性繊維からなる第1糸の強度利用率が低下してしまう。また、第2糸のオーバーフィード率は、単に混繊させる場合にはオーバーフィード率を2〜10%とするのが好ましく、ループを付与させる場合には15〜30%とするのが好ましい。30%より大きくすると帆布の厚さが大きくなり、歯付きベルトに貼着させる帆布として好ましくない。
【0048】
尚、第1糸14として高弾性繊維に限らず、例えばアラミド繊維等のゴムとの接着性の悪い繊維を選択しても、実施例1及び2の如くエア交絡加工することにより、ゴムと強固に一体化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】歯付きベルトの一部の斜視図
【図2】歯付きベルトを成型する状態を示す主要部の断面図
【図3】本発明の歯付きベルトにおけるたて糸となる複合糸条の正面図
【図4】複合糸条の中間糸の正面図
【図5】駆動試験用の試験機の斜視図
【図6】エア交絡加工の原理図
【符号の説明】
1歯付きベルト
5帆布
9たて糸
10よこ糸
11複合糸条
12芯糸
13中間糸
14第1糸
15第2糸
16被覆糸
Claims (3)
- 噛合面に帆布を貼着した歯付きベルトにおいて、前記帆布における歯付きベルトの長さ方向に延びるたて糸が、弾性糸よりなる芯糸の周囲に中間糸を巻回し、さらにその周囲に通常の合成繊維糸よりなる被覆糸を巻回し、前記中間糸を前記被覆糸の間から露出せしめてなる複合糸条であって、前記中間糸は、弾性率900g/dtex以上の高弾性繊維よりなる第1糸と化学繊維よりなる第2糸とを混繊させてなることを特徴とする歯付きベルト
- 前記中間糸は、弾性率900g/dtex以上の高弾性繊維よりなる第1糸と化学繊維よりなる第2糸とをエア交絡加工によって混繊させてなり、前記第2糸のエア交絡加工におけるオーバーフィード率を、前記第1糸よりも大きくしたことを特徴とする請求項1に記載の歯付きベルト
- 前記高弾性繊維が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維であることを特徴とする請求項1または2に記載の歯付きベルト
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